(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、発明の実施の形態を説明する。なお、
図1はすべり軸受1の正面図であり、図面の上下を上下方向、図面の手前方向及び奥方向を軸方向(前後方向)とする。
【0017】
まず、第一の実施形態に係るすべり軸受1を構成する半割部材2について
図1及び
図2を用いて説明する。
すべり軸受1は円筒状の部材であり、
図1に示すように、エンジンのクランクシャフト11のすべり軸受構造に適用される。すべり軸受1は、二つの半割部材2・2で構成されている。二つの半割部材2・2は、円筒を軸方向と平行に二分割した形状であり、断面が半円状となるように形成されている。本実施形態においては、半割部材2・2は上下に配置されており、左右に合わせ面が配置されている。クランクシャフト11をすべり軸受1で軸支する場合、所定の隙間が形成され、この隙間に対し図示せぬ油路から潤滑油が供給される。
【0018】
図2(a)においては、上側および下側の半割部材2を示している。なお、本実施形態においては、クランクシャフト11の回転方向を
図1の矢印に示すように正面視時計回り方向とする。また、軸受角度ωは、
図2(b)における右端の位置を0度とし、
図2(b)において、反時計回り方向を正とする。すなわち、
図2(b)において、左端の位置の軸受角度ωが180度となり、下端の位置の軸受角度ωが270度となるように定義する。
【0019】
上側の半割部材2の内周には円周方向に溝が設けられており、中心に円形の孔が設けられている。また、上側の半割部材2の左右に合わせ面が配置されている。
下側の半割部材2の内周の当接面において、その軸方向の端部に細溝3が形成されている。
細溝3は下側の半割部材2に設けられる。本実施形態においては、細溝3は軸方向に並列して二本設けられている。詳細には、細溝3は、クランクシャフト11の回転方向下流側合わせ面(軸受角度ωが180度)から軸受角度ωが正となる方向(反時計回り方向)に向けて円周方向に設けられる。すなわち、下側の半割部材2においては、
図2(b)の右側の合わせ面が回転方向上流側合わせ面、
図2(b)の左側の合わせ面が回転方向下流側合わせ面となる。
細溝3の幅は、
図2(c)に示すように、wとなるように形成されている。
また、細溝3の深さdは、半割部材2の外周面から当接面までの高さDよりも短くなるように形成されている。
また、細溝3の軸方向外側面を形成する周縁部2aは、半割部材2の外周面からの高さhが、半割部材2の外周面から当接面までの高さDよりも低くなるように形成されている。すなわち、軸方向外側の周縁部2aが周囲のクランクシャフト11との当接面よりも一段低くなるように形成されている。
【0020】
周縁部2aが周囲のクランクシャフト11との当接面よりも一段低くなるように形成されていることにより、クランクシャフト11が傾いて軸方向片側端部にのみ接触する状態(片当りする状態)となったときに、周縁部2aとクランクシャフト11との接触機会を減らすことができるため、周縁部2aの損傷を防止することができる。
【0021】
また、周縁部2aが周囲の当接面よりも一段低くなるように形成されていることにより、すべり軸受1の軸方向端部における隙間が広がり、吸い戻し油量が増えてトータルの流出油量が低減される。
【0022】
図3(a)は、エンジン回転数と摩擦平均有効圧(FMEP)軽減量との関係を示すグラフである。ここで、三角(△)は、本実施形態に係る細溝3を設けた場合の摩擦平均有効圧(FMEP)軽減量である。また、四角(□)は、比較例として
図4(a)に示す細溝13を設けた場合の摩擦平均有効圧(FMEP)軽減量である。ここで、
図4(a)に示す細溝13の軸方向外側の周縁部12aは、半割部材2の外周面からの高さhが、半割部材2の外周面から当接面までの高さDと同じ高さであるように形成されている。また、丸(○)は、比較例として
図4(b)に示す細溝23を設けた場合の摩擦平均有効圧(FMEP)軽減量である。ここで、
図4(b)に示す細溝23の軸方向外側の周縁部22aは、半割部材2の外周面からの高さhが、細溝23の底面と同じ高さであるように形成されている。
【0023】
本実施形態に係る細溝3を設けたことにより、
図3(a)に示すように、比較例1に係る細溝13及び比較例2に係る細溝23を設けた場合と比較して、FMEP軽減量が増加する。特に、エンジン回転数が低い領域において、FMEP軽減量が増加する。ここで、FMEPとは、フリクションの傾向を見るための値であり、FMEP軽減量が増加するとフリクションが低減する。
【0024】
また、
図3(b)は、エンジン回転数と毎分油量軽減量との関係を示すグラフである。ここで、三角(△)は、本実施形態に係る細溝3を設けた場合の毎分油量軽減量である。また、四角(□)は、比較例として
図4(a)に示す細溝13を設けた場合の毎分油量軽減量である。ここで、
図4(a)に示す細溝13の軸方向外側の周縁部12aは、半割部材2の外周面からの高さhが、半割部材2の外周面から当接面までの高さDと同じ高さであるように形成されている。また、丸(○)は、比較例として
図4(b)に示す細溝23を設けた場合の毎分油量軽減量である。ここで、
図4(b)に示す細溝23の軸方向外側の周縁部22aは、半割部材2の外周面からの高さhが、細溝23の底面と同じ高さであるように形成されている。
【0025】
本実施形態に係る細溝3を設けたことにより、
図3(b)に示すように、比較例1に係る細溝13及び比較例2に係る細溝23を設けた場合と比較して、毎分油量軽減量が増加する。特に、エンジン回転数が高い領域において、毎分油量軽減量が増加する。
【0026】
次に、第二の実施形態に係る油溝35Aを有する細溝33について説明する。
細溝33の構成については、第一の実施形態に係る細溝3と同様の構成であるので、説明を省略する。
細溝33の軸方向外側面を形成する周縁部32aは、
図5(b)に示すように、半割部材2の外周面からの高さhが、半割部材2の外周面から当接面までの高さDと同じ長さとなるように形成されている。
なお、本実施形態においては、周縁部32aの高さhを、当接面までの高さDと同じ長さとなるように形成されているが、これに限定するものではなく、例えば、周縁部の高さが、当接面までの高さよりも低くなるように形成されてもよい。
【0027】
細溝33の底面には、
図5に示すように、細溝33よりも細い複数の油溝35Aを形成している。油溝35Aは、クランクシャフト11の回転方向と平行な方向に形成しており、細溝33の底面全面に設けられている。
また、周縁部32aのクランクシャフト11と対向する面である当接面にも、複数の油溝36Aを形成している。油溝36Aは、クランクシャフト11の回転方向と平行な方向に形成しており、周縁部32aのクランクシャフト11との当接面であって、細溝33の長手方向の長さと同じ長さで設けられている。
【0028】
細溝33の底面及び周縁部32aのすべり軸受1のクランクシャフト11との当接面に細溝33よりも細い複数の油溝35A及び36Aを形成したことにより、油の流れが回転方向(円周方向)へと誘導される。ここで、油は、回転方向下流側から上流側へと流れる。これにより、下流部での流出油量が減ってトータルの流出油量が低減される。
細い複数の油溝35A及び36Aは、
図5(b)に示すように、断面視波形状に形成されている。
【0029】
次に、第三の実施形態に係る油溝35Bを有する細溝33について説明する。
図6に示すように、細溝33の底面には、細溝33よりも細い複数の油溝35Bを形成することもできる。油溝35Bは、クランクシャフト11の回転方向と直交する方向に形成しており、細溝33の底面全面に設けられている。
また、周縁部32aのクランクシャフト11と対向する面である当接面にも、複数の油溝36Bを形成している。油溝36Bは、クランクシャフト11の回転方向と直交する方向に形成しており、周縁部32aのクランクシャフト11との当接面であって、細溝33の短手方向の長さと同じ長さで設けられている。また、油溝36Bは長手方向に等間隔に配置されており、最も回転方向上流側の油溝36Bは、細溝33の上流側端部と同じ軸受角度ω1に設けられている。
【0030】
細溝33の底面及び周縁部32aのすべり軸受1のクランクシャフト11との当接面に細溝33よりも細い複数の油溝35B及び36Bを形成したことにより、油の流れがクランクシャフト11の軸方向へと誘導される。これにより、上流部での吸い戻し油量が増えてトータルの流出油量が低減される。
細い複数の油溝35B及び36Bは、
図6(b)に示すように、断面視波形状に形成されている。
【0031】
次に、第四の実施形態に係る油溝35Cを有する細溝33について説明する。
図7に示すように、細溝33の底面には、細溝33よりも細い複数の油溝35Cを形成することもできる。油溝35Cは、クランクシャフト11の回転方向と交差する方向に形成し、複数の油溝35Cは、回転方向から所定の角度θを傾斜させており、細溝33の底面全面に設けられている。ここでθは、0°<θ<90°となるように構成されている。
また、周縁部32aのクランクシャフト11と対向する面である当接面にも、複数の油溝36Cを形成している。油溝36Cは、クランクシャフト11の回転方向と交差する方向に形成し、複数の油溝35Cは、回転方向から所定の角度θを傾斜させており、周縁部32aのクランクシャフト11との当接面に設けられている。また、油溝36Cは長手方向に等間隔に配置されており、最も回転方向上流側の油溝36Cは、細溝33の上流側端部と同じ軸受角度ω1に設けられている。
【0032】
細溝33の底面及び周縁部32aのすべり軸受1のクランクシャフト11との当接面に細溝33よりも細い複数の油溝35C及び36Cを形成したことにより、油の流れが油溝35C及び36Cの方向へと誘導される。これにより、吸い戻し油量が増えて流出油量が減ることでトータルの流出油量が低減される。
【0033】
なお、本実施形態に係る油溝35A・35B・35C・36A・36B・36Cはそれぞれの間隔が等間隔になるように設けているが、これに限定するものではなく、例えば、それぞれの間隔を変化させることも可能である。
【0034】
また、本実施形に係る油溝35A・・35B・35C・36A・36B・36Cは断面が波形状となるように形成しているがこれに限定するものではなく、例えば、断面視矩形波状や、三角波状に形成することも可能である。
【0035】
また、本実施形態に係る油溝35C及び油溝36Cの角度θは同じとなるように形成しているが、これに限定するものではなく、例えば、油溝35Cの角度θが油溝36Cの角度θよりも大きくなるように構成してもよい。
【0036】
以上のように、円筒を軸方向と平行に二分割した半割部材2・2を上下に配置したすべり軸受1であって、下側の半割部材2の軸方向端部に、回転方向下流側合わせ面から所定の軸受角度ω1まで円周方向に細溝33を設け、細溝33の軸方向外側に周縁部32aを形成したものである。
このように構成することにより、吸い戻し油量が増えて流出油量が減ることでトータルの流出油量が低減される。
【0037】
また、細溝33の底面及び周縁部32aのすべり軸受1のクランクシャフト11と対向する面に細溝33よりも細い複数の油溝35A・36Aを形成したものである。
このように構成することにより、油が油溝35A・36Aに沿って流れるため、吸い戻し油量が増えて流出油量が減ることでトータルの流出油量が低減される。
【0038】
また、複数の油溝35A・36Aは、前記回転方向と平行な方向に形成したものである。
このように構成することにより、油の流れが回転方向(円周方向)へと誘導されることにより、下流部での流出油量が減ってトータルの流出油量が低減される。
【0039】
また、前記複数の油溝35B・36Bは、前記回転方向と直交する方向に形成したものである。
このように構成することにより、油の流れがクランクシャフト11の軸方向へと誘導されることにより、上流部での吸い戻し油量が増えてトータルの流出油量が低減される。
【0040】
また、前記複数の油溝は、前記回転方向と交差する方向に形成し、前記複数の油溝は、回転方向から所定の角度を傾斜させたものである。
このように構成することにより、油の流れが油溝35C及び36Cの方向へと誘導されるため、吸い戻し油量が増えて流出油量が減ることでトータルの流出油量が低減される。