(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記上限値設定部は、前記車両の発進制御中に、前記クラッチ温度推定部により推定されたクラッチ推定温度が前記第1の設定温度以上となった時点で、前記検出部により検出される前記クラッチトルクの値が前記目標上限値算出部により算出される目標上限値以下である場合には、前記時点から前記目標上限値を前記上限値に設定する請求項1記載の車両の制御装置。
前記制御部は、前記車両の発進制御中に、前記クラッチ温度推定部により推定されたクラッチ推定温度が第1の設定温度以上となった後、前記クラッチ推定温度が前記第1の設定温度より低い第2の設定温度以下となったときに、前記上限値設定部による上限値の設定を解除する請求項1または2に記載の車両の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では警報により運転者に注意を促すことができるが、警報が無視されたり、運転者に認識されなかったりした場合には、クラッチ装置の高温状態が続いてクラッチ板が損傷し、整備に入る前に故障等が生じるおそれもある。
【0006】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、クラッチ装置の温度が上昇したときにエンジン又はクラッチ装置の動作を適切に制限することでクラッチ装置の温度上昇を抑制し、クラッチ板への損傷を抑制することのできる車両の制御装置及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現することができる。
【0008】
(1)本適用例に係る車両の制御装置は、車両の走行用動力源であるエンジンと、前記エンジンから変速機への駆動力の断接を行うクラッチ部と、前記クラッチ部の温度を推定するクラッチ温度推定部と、前記クラッチ部の温度に影響を与える
所定のパラメータとして、前記クラッチ部で発生するクラッチトルクを検出する検出部と、前記クラッチ温度推定部により推定されたクラッチ推定温度に基づき、前記
クラッチトルクの目標上限値を算出する目標上限値算出部と、前記目標上限値算出部により算出された目標上限値に基づいて前記
クラッチトルクの上限値を設定する上限値設定部と、前記車両の発進制御中に、前記クラッチ温度推定部により推定されたクラッチ推定温度が第1の設定温度以上となった場合に、前記
クラッチトルクが前記上限値設定部により設定された上限値を超えないよう
前記クラッチ部を制御する制御部とを備え
、前記上限値設定部は、前記車両の発進制御中に、前記クラッチ温度推定部により推定されたクラッチ推定温度が前記第1の設定温度以上となった時点で、前記検出部により検出される前記クラッチトルクの値が前記目標上限値算出部により算出される目標上限値より大である場合には、前記時点のクラッチトルクの値を起点として徐々に前記目標上限値に近づけるように前記上限値を設定する。
【0010】
(
2)本適用例に係る車両の制御装置において、前記上限値設定部は、前記車両の発進制御中に、前記クラッチ温度推定部により推定されたクラッチ推定温度が前記第1の設定温度以上となった時点で、前記検出部により検出される前記
クラッチトルクの値が前記目標上限値算出部により算出される目標上限値以下である場合には、前記時点から前記目標上限値を前記上限値に設定してもよい。
【0014】
(
3)本適用例に係る車両の制御装置において、前記制御部は、前記車両の発進制御中に、前記クラッチ温度推定部により推定されたクラッチ推定温度が第1の設定温度以上となった後、前記クラッチ推定温度が前記第1の設定温度より低い第2の設定温度以下となったときに、前記上限値設定部による上限値の設定を解除してもよい。
【0015】
(
4)本適用例に係る車両の制御装置において、さらに、前記車両の運転者に警告を発する警告部を備え、前記制御部は、前記車両の発進制御中に、前記クラッチ温度推定部により推定されたクラッチ推定温度が第1の設定温度より低い第3の設定温度以上となった場合に、前記警告部により警告を発してもよい。
【0016】
(
5)本適用例に係る車両の制御方法は、走行用動力源であるエンジンと、前記エンジンから変速機への駆動力の断接を行うクラッチ部とを備えた車両の制御方法であって、前記クラッチ部の温度を推定するクラッチ温度推定ステップと、前記クラッチ部の温度に影響を与える
所定のパラメータを、前記クラッチ部で発生するクラッチトルクとし、当該クラッチトルクの目標上限値を、前記クラッチ温度推定ステップで推定したクラッチ推定温度に基づき算出する目標上限値算出ステップと、前記算出された目標上限値に基づき前記
クラッチトルクの上限値を設定する上限値設定ステップと、前記車両の発進制御中に、前記推定したクラッチ推定温度が第1の設定温度以上となった場合に、前記
クラッチトルクが前記上限値設定ステップで設定された上限値を超えないよう
前記クラッチ部を制御する制御ステップとを含
み、前記上限値設定ステップでは、前記車両の発進制御中に、前記クラッチ温度推定ステップにて推定されたクラッチ推定温度が前記第1の設定温度以上となった時点で、前記クラッチトルクが前記目標上限値算出ステップにて算出される目標上限値より大である場合には、前記時点のクラッチトルクの値を起点として徐々に前記目標上限値に近づけるように前記上限値を設定する。
【0018】
(
6)本適用例に係る車両の制御方法において、前記上限値設定ステップでは、前記車両の発進制御中に、前記クラッチ温度推定ステップにて推定されたクラッチ推定温度が前記第1の設定温度以上となった時点で、前記
クラッチトルクが前記目標上限値算出ステップにて算出される目標上限値以下である場合には、前記時点から前記目標上限値を前記上限値に設定してもよい。
【発明の効果】
【0021】
上記手段を用いる本発明によれば、クラッチ装置の温度が上昇したときにエンジン又はクラッチ装置の動作を適切に制限することでクラッチ装置の温度上昇を抑制し、クラッチ板への損傷を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を具体化した車両の制御装置の一実施形態を説明する。
【0024】
図1は本実施形態の制御装置を備えた車両の駆動系を示す概略構成図であり、以下同図に基づき本実施形態の構成について説明する。
【0025】
本実施形態における車両はトラックであり、走行用動力源としてディーゼルエンジン(以下、エンジンという)1が搭載されている。エンジン1の出力軸にはクラッチ装置2(クラッチ部)を介して自動変速機(以下、単に変速機という)3の入力軸が接続され、クラッチ装置2の接続時にエンジン1の回転が変速機3に伝達されるようになっている。当該変速機3は、例えば前進6段及び後進1段を備えた手動式変速機をベースとした自動変速機あり、以下に述べるように、その変速操作及び変速に伴うクラッチ装置2の断接操作を自動化した、いわゆるAMT(Automated Manual Transmission)である。
【0026】
クラッチ装置2は、摩擦式クラッチであり、詳しくはエンジン1の出力軸側のクラッチ板と、変速機3の入力軸側のクラッチ板とが軸方向に交互に並び、作動油の油圧に応じて断接が行われる湿式多板クラッチである。つまり、当該クラッチ装置2は、油圧が供給されることでクラッチ板同士が圧接して接続状態となり、油圧が抜けると各クラッチ板が離間して切断状態となる。さらに詳しくは、当該クラッチ装置2は第1のクラッチ及び第2のクラッチの2系統のクラッチを備え、当該2つのクラッチに対応して変速機3も2系統の変速機構を有するいわゆるデュアルクラッチ変速機である。
【0027】
クラッチ装置2に油圧を供給する作動油は、いわゆるATF(オートマチックトランスミッションフルード)であり、エンジン1の回転に伴い駆動する図示しない油圧ポンプから供給される。当該油圧ポンプからクラッチ板までの油圧経路には図示しない電磁弁が設けられており、当該電磁弁の開閉により油圧の供給及び停止が制御される。
【0028】
変速機3には変速段を切り替えるためのギヤシフトユニット4が設けられている。ギヤシフトユニット4は、図示しないが変速機3内の各変速段に対応するシフトフォークを作動させる複数の油圧シリンダ、及び各油圧シリンダを作動させる複数の電磁弁を内蔵している。ギヤシフトユニット4は各電磁弁の開閉に応じて作動油が対応する油圧シリンダに供給され、その油圧シリンダが作動して対応するシフトフォークを切替操作すると、切替操作に応じて変速機3の変速段のギヤ入れが行われる。このようにギヤシフトユニット4の電磁弁の開閉に応じて油圧シリンダが作動して、変速機3を自動的に変速操作可能になっている。
【0029】
車両内には、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAMなど)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタなどを備えたECU(制御ユニット)10が設置されており、エンジン1、クラッチ装置2、変速機3の総合的な制御を行う。
【0030】
ECU10の入力側には、ATF温度Tatfを検出するATF温度センサ11、エンジン1の回転速度からエンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ12、クラッチ装置2のクラッチストロークを検出するクラッチストロークセンサ13、変速機3の入力軸の回転速度からクラッチ回転数Ncを検出するクラッチ回転数センサ14、運転席に設けられたチェンジレバー15の切替位置を検出するレバー位置センサ16、などのセンサ類が接続されている。
【0031】
また、ECU10の出力側には、上記したクラッチ装置2の電磁弁、ギヤシフトユニット4の各電磁弁などが接続されると共に、図示はしないが、エンジン1の燃料噴射弁などが接続されている。なお、このように単一のECU10で総合的に制御することなく、例えばECU10とは別にエンジン制御専用のECUを備えるようにしてもよい。
【0032】
そして、例えばECU10は、エンジン回転数センサ12により検出されたエンジン回転数Ne及びアクセル開度に基づき、図示しないマップからエンジン1の各気筒への燃料噴射量を算出すると共に、エンジン回転数Ne及び燃料噴射量に基づき図示しないマップから燃料噴射時期を算出する。そして、これらの算出値に基づき各気筒の燃料噴射弁を駆動制御しながらエンジン1を運転する。
【0033】
また、ECU20は、レバー位置センサ16によりチェンジレバー15のD(ドライブ)レンジへの切替が検出されているときには自動変速モードを実行し、アクセル開度及び車速に基づき、図示しないシフトマップから目標変速段を算出する。そして、クラッチ装置2を断接操作させながら、ギヤシフトユニット4の所定の電磁弁を開閉して油圧シリンダにより対応するシフトフォークを切替操作して目標変速段にギヤ入れし、これにより常に適切な変速段をもって車両を走行させる。
【0034】
なお、チェンジレバー15が選択可能なシフト位置としては、駐車時に選択するP(パーキング)レンジ、変速機3のギヤをニュートラルとするN(ニュートラル)レンジ、前進走行時に選択するD(ドライブ)レンジ、後進時に選択するR(リバース)レンジ、手動で変速段をシフトアップ又はシフトダウン可能なM(マニュアル)レンジ等がある。
【0035】
また、ECU10は、例えば車両の停止状態から車速が所定車速に達するまでは、発進中に応じたエンジン制御及び変速制御を行う。このように発進中にECU10が行う制御を以下発進制御という。
【0036】
さらにECU10は、この発進制御中には、クラッチ装置2の温度(クラッチ推定温度Tc)を推定し、このクラッチ推定温度Tcに応じてクラッチトルクTqの上限値Tqlimitを設定して、クラッチ装置2が高温状態となったときにはクラッチトルクTqが上限値Tqlimitを超えないようエンジン1やクラッチ装置2を制御するクラッチ保護制御を行う(制御部)。
【0037】
ECU10は、このクラッチ保護制御を行うために、クラッチ温度を推定するクラッチ温度推定部20、クラッチトルクTqを検出するクラッチトルク検出部21、クラッチ推定温度Tcに応じてクラッチトルクTqの目標上限値Tqtargetを算出する目標上限値算出部22、この目標上限値Tqtargetに基づいてクラッチトルクTqの上限値Tqlimitを設定する上限値設定部23を含んでいる。
【0038】
また、本実施形態の車両には運転者にクラッチ温度が高温状態にあることを警告する警報器17(警告部)が搭載されている。当該警報器もECU10と電気的に接続されており、当該警報器はECU10の指令に応じて警報を発する。
【0039】
ここで、
図2を参照すると、ECU10が実行するクラッチ保護制御ルーチンがフローチャートで示されており、以下同フローチャートに沿って本実施形態のクラッチ保護制御について詳しく説明する。
【0040】
まず、ステップS1では、ECU10のクラッチ温度推定部20がクラッチ装置2の温度を推定する(クラッチ温度推定ステップ)。詳しくは、クラッチ温度推定部20は、車両のキーON時のクラッチ装置2の初期温度Tc0を記憶しており、現時点までのクラッチ装置2の吸収エネルギーに基づく加熱温度と解放エネルギーに基づく冷却温度との差分を時間積分した値を初期温度Tc0に加算することでクラッチ推定温度Tcを算出する。具体的には、下記式1に示すように、まずエンジン回転数Neとクラッチ回転数Ncとの差分にクラッチトルクTq及び加熱係数Chを乗算することで加熱温度を算出し、前回算出したクラッチ推定温度TcとATF温度Tatfとの差分に冷却係数Ccを乗算することで冷却温度を算出する。そして、この加熱温度と冷却温度の差分の時間積を初期温度Tcに加算することでクラッチ推定温度Tcを算出する。
(式1)Tc={[(Ne−Nc)×Tq×Ch]−[(Tc−Taft)×Cc]の時間積}+Tc0
【0041】
なお、クラッチトルクTqについては、クラッチストローク又はクラッチストロークを制御するためのクラッチ指示電流に応じてクラッチトルクTqが算出されるマップ又はテーブルがクラッチトルク検出部21に記憶されており、クラッチトルク検出部21が当該マップ又はテーブルに基づいてクラッチトルクTqを算出する。
【0042】
次に、ステップS2では、ECU10が、上述した発進制御中であるか否かを判別する。本実施形態でのクラッチ保護制御は、発進制御中に行うものであることから、当該判別結果が偽(No)である場合は当該ルーチンをリターンする。一方、当該判別結果が真(Yes)である場合は、次のステップS3に進む。
【0043】
ステップS3において、ECU10は、上記ステップS1で算出したクラッチ推定温度Tcが予め定めた第1の設定温度Tc1以上であるか否かを判別する。第1の設定温度Tc1は、クラッチ保護制御を開始する閾値である。従って、クラッチ推定温度Tcが第1の設定温度Tc1未満の比較的低温状態にあるときは当該判別結果が偽(No)となり、当該ルーチンをリターンする。一方、クラッチ推定温度Tcが第1の設定温度Tc1以上の高温状態である場合には、当該判別結果は真(Yes)となり、次のステップS4に進む。
【0044】
ステップS4では、ECU10の目標上限値算出部22がクラッチ推定温度TcからクラッチトルクTqの目標上限値Tqtargetを算出する(目標上限値算出ステップ)。当該目標上限値Tqtargetの算出は、目標上限値算出部22に予め記憶されているマップ又はテーブルに基づき算出する。例えば本実施形態では
図3に示すように、クラッチ推定温度Tcが高くなるほど目標上限値Tqtargetが低くなる傾向にあるマップを使用する。
【0045】
続くステップS5において、ECU10は、クラッチトルク検出部21により検出される現時点でのクラッチトルクTqが、上記ステップS4で算出した目標上限値Tqtarget以下であるか否かを判別する。現時点でのクラッチトルクTqが比較的小さく、この時点で目標上限値Tqtargetを下回っているような場合は、当該判別結果が真(Yes)となり、ステップS6に進む。
【0046】
ステップS6では、ECU10の上限値設定部23が、クラッチトルクTqがさらに上昇した場合に、速やかにその上昇を抑えるべく、クラッチトルクの上限値Tqlimitを上記ステップS4で算出した目標上限値Tqtargetに設定する(上限値設定ステップ)。
【0047】
一方、上記ステップS5の判別結果が偽(No)である場合、即ち現時点のクラッチトルクTqが目標上限値Tqtargetより大である場合は、ステップS7に進む。
【0048】
ステップS7において、ECU10はクラッチトルクTqの上限値Tqlimitを、現時点のクラッチトルクTqを起点にして目標上限値Tqtargetまでランプフィルタを用いて徐々に移行させる(上限値設定ステップ)。
【0049】
ステップS6又はS7の後、ステップS8に進む。ステップS8では、クラッチ温度推定部20が再度クラッチ推定温度Tcを算出する(クラッチ温度推定ステップ)。クラッチ推定温度Tcの算出方法はステップS1と同じである。
【0050】
次にステップS9では、ECU10はクラッチ推定温度Tcが第2の設定温度Tc2以下であるか、又は発進制御中ではないか否かを判別する。第2の設定温度Tc2は第1の設定温度Tc1より低く、クラッチ装置2の温度が十分低下しクラッチ保護制御を行う必要がないと判断できる閾値である。当該判別結果が偽(No)である場合、即ち未だ発進制御中であってクラッチ推定温度Tcが第2の設定温度Tc2より大である場合は、ステップS10に進む。
【0051】
ステップS10では、目標上限値算出部22がステップS4と同様に、マップに基づきクラッチ推定温度TcからクラッチトルクTqの目標上限値Tqtargetを算出する(目標上限値算出ステップ)。
【0052】
続くステップS11では、上限値設定部23が、クラッチトルクTqの上限値Tqlimitを、現在の上限値Tqlimitを起点として目標上限値Tqtargetまでランプフィルタを使用して徐々に移行させる(上限値設定ステップ)。そしてステップS8に戻り、再度クラッチ温度推定部20においてクラッチ推定温度Tcを検出し、ステップS9の判別を行う。
【0053】
クラッチ推定温度Tcが第2の設定温度Tc2以下まで低下した場合、又は発進制御が終了した場合には、ステップS9の判別結果が偽(No)となり、ステップS12に進む。
【0054】
ステップS12において、ECU10はクラッチトルクTqの上限値Tqlimitの設定を解除し、当該ルーチンをリターンする。
【0055】
ECU10は、上記ステップS6、S7、S11で設定される上限値Tqlimitに基づき、クラッチトルクTqが当該上限値Tqlimitを超えないようにクラッチトルクTqを制限する(制御ステップ)。クラッチトルクTqを制限する方法としては、例えば、エンジントルクを制限したり、クラッチ装置2を切断側に移行させたり等、エンジン1及びクラッチ装置2のうち少なくともいずれか一方を制御することで行う。
【0056】
また、
図2のフローチャートには記載していないが、ECU10は発進制御中であって、クラッチ推定温度Tcが第3の設定温度Tc3以上となったときには、警報器17により運転者にクラッチ装置2が高温状態にある旨を警告する(警告ステップ)。なお、第3の設定温度Tcは第1の設定温度Tc1より低く、第2の設定温度Tc2より高く設定されている。
【0057】
次に
図4を参照すると、上記クラッチ保護制御を実行した場合のクラッチ推定温度及びクラッチトルクの変化の一例を表したタイムチャートが示されている。以下、同図に基づき本実施形態に係る車両の制御装置及び制御方法の作用及び効果について説明する。
【0058】
図4では発進制御中におけるクラッチ推定温度Tc及びクラッチトルクTqを示しており、始めはクラッチトルクTqも低く、クラッチ推定温度Tcも低温状態にある。そこから、車両の発進に伴いクラッチ装置2を徐々に接続させていくにつれ、クラッチ推定温度Tcも上昇する。
【0059】
クラッチ推定温度Tcはt1時点にて第3の設定温度Tc3以上となり、ECU10はこの時点から警報器17による警報を発する。
【0060】
続いてt2時点にて、クラッチ推定温度Tcが第1の設定温度Tc1以上となると(ステップS3がYes)、目標上限値算出部22が、この時点のクラッチ推定温度TcからクラッチトルクTqの目標上限値Tqtargetを算出する(ステップS4)。この時点でのクラッチトルクTqは目標上限値Tqtargetより大であり(ステップS5がNo)、上限値設定部23はクラッチトルクTqの上限値Tqlimitを、この時点のクラッチトルクTqを起点とし、ランプフィルタを使用して徐々に目標上限値Tqtargetに移行(減算)させる(ステップS7)。
【0061】
t3時点まで上限値Tqlimitは減算され、t3時点にて上限値Tqlimitと目標上限値Tqtargetとが一致する。上限値Tqlimitの減算に応じてクラッチトルクTqは抑えられ、それに伴いクラッチ推定温度Tcの上昇も抑えられる。
【0062】
t4時点になるとクラッチトルクTqが上限値Tqlimitよりも低下し始め、クラッチ推定温度Tcも第1の設定温度Tc1未満にまで低下する。クラッチ推定温度Tcが低下することで目標上限値Tqtargetも上昇し、それに伴い上限値Tqlimitも上昇する。
【0063】
t5時点でクラッチ推定温度Tcが第2の設定温度Tc2を下回ると(ステップS9がYes)、ECU10はクラッチ保護制御を終了し、上限値Tqlimitの設定を解除する(ステップS12)。
【0064】
以上のように、ECU10はクラッチ推定温度Tcが高くなるとクラッチトルクTqの上限値Tqlimitを設定して、クラッチトルクTqを制限することで、クラッチ装置2の温度が過度に高温状態となることを防いでいる。
【0065】
上限値Tqlimitは、クラッチ推定温度Tcに応じた目標上限値Tqtargetに基づき設定されることから適切なタイミングで適切な量のクラッチトルクTqを制限することができ、余計な駆動力の低下を防ぐことができる。特に上限値Tqlimitを初めに設定する際に、目標上限値Tqtargetが現時点でのクラッチトルクTqより大である場合は、現時点でのクラッチトルクTqを起点として上限値Tqlimitを目標上限値に移行させることで、トルクショックを抑えつつ、クラッチトルクTqを制限することができる。一方、目標上限値Tqtargetが現時点でのクラッチトルクTq以下である場合は、上限値Tqlimitを目標上限値Tqtargetに一致させることで、クラッチ温度Tcがさらに上昇した場合に、速やかにクラッチ装置2の温度上昇を抑えるとともに、余計な駆動力の低下を防止することができる。
【0066】
また、上限値Tqlimitと目標上限値Tqtargetとが離れている場合には、ランプフィルタを使用して徐々に移行させることでトルクショックを抑え、運転者のフィーリングの悪化を防ぐことができる。
【0067】
さらに、クラッチ推定温度Tcが第1の設定温度Tc1より低い第3の設定温度Tc3以上となった時点で警報を発し始めることで、運転者にクラッチ装置2が高温であることを認識させてからクラッチトルクTqの制限を行うことができ、クラッチトルクTqの低下を運転者が故障と誤認識するようなことを回避することができる。
【0068】
これらのことから本実施形態に係る車両の制御装置及び制御方法によれば、クラッチ装置2の温度が上昇したときにエンジン1又はクラッチ装置2の動作を適切に制限することでクラッチ装置2の温度上昇を抑制し、クラッチ板への損傷を防ぐことができる。
【0069】
以上で本発明に係る車両の制御装置及び制御方法の実施形態についての説明を終えるが、実施形態は上記実施形態に限られるものではない。
【0070】
上記実施形態では、クラッチ装置2の温度に影響を与えるパラメータの一つとしてクラッチトルクTqを検出し、当該クラッチトルクTqの目標上限値Tqtarget及び上限値Tqlimitを用いて制限を行っているが、クラッチ装置2の温度に影響を与えるパラメータはこれに限られるものではない。本発明は、クラッチの温度に影響を与える前記エンジン及び前記クラッチのうち少なくともいずれか一方に関わる所定のパラメータを用いて制限を行うものであり、例えばクラッチトルクに代えてエンジン回転数を用いてもよい。この場合は、上記実施形態のECU10のクラッチトルク検出部21をエンジン回転数検出部とし、
図2に示すフローチャートのクラッチトルクに関するステップをエンジン回転数のステップに代えればよい。なお、クラッチ推定温度からエンジン回転数の目標上限値を算出するマップは、
図3と同様にクラッチ推定温度が高くなるほどエンジン回転数の目標上限値が低くなる傾向をもつものとする。さらには、このエンジン回転数による制限と、上記実施形態のクラッチトルクに基づく制限の両方を並行に実行してもよい。
【0071】
また、上記実施形態のクラッチ装置2は湿式多板クラッチとしているが、摩擦式クラッチであればよく、例えば乾式クラッチでもよい。乾式クラッチの場合はクラッチケース内の温度を検出する温度センサ等を用いたり、計算によりクラッチ装置2の温度を推定すればよい。
【0072】
また、上記実施形態では車両をトラックとしているが、本発明を適用することのできる車両はこれに限られるものではなく、AMTを有する乗用車等にも適用することができる。
【0073】
また、上記実施形態では、エンジン1はディーゼルエンジンであるが、エンジンはこれに限られず、例えばガソリンエンジンでもよい。