(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6096763
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】ホールスラスタ
(51)【国際特許分類】
F03H 1/00 20060101AFI20170306BHJP
H05H 1/54 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
F03H1/00 A
H05H1/54
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-513230(P2014-513230)
(86)(22)【出願日】2012年5月23日
(65)【公表番号】特表2014-519573(P2014-519573A)
(43)【公表日】2014年8月14日
(86)【国際出願番号】FR2012051155
(87)【国際公開番号】WO2012164203
(87)【国際公開日】20121206
【審査請求日】2015年3月30日
(31)【優先権主張番号】1154713
(32)【優先日】2011年5月30日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516227272
【氏名又は名称】サフラン・エアクラフト・エンジンズ
(74)【代理人】
【識別番号】100104949
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100074354
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康弘
(72)【発明者】
【氏名】ジュルバック,ステファン ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】マルシャンディーズ,フレデリック
(72)【発明者】
【氏名】オーベルグ,ミカエル
【審査官】
志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2002/0116915(US,A1)
【文献】
特開2006−136057(JP,A)
【文献】
特開平11−236871(JP,A)
【文献】
Olivier Duchemin,外4名,“Multi-Channel Hall-Effect Thrusters: Mission Applications and Architecture Trade-Offs”,IEPC-2007-227,イタリア,National Space Grant Foundation,2007年 9月,p.1-15,The 30th International Electric Propulsion Conference, Florence, Italy September 17-20, 2007,URL,http://erps.spacegrant.org/index.php?page=2007-file-directory
【文献】
大川泰志,外1名,“パルス型プラズマスラスタの二段放電動作”,日本航空宇宙学会論文集,2003年 3月,第51巻, 第590号,p.114-118
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03H 1/00
H05H 1/00 − 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧気体のための少なくとも一のタンクと、
圧力調整器と、
気体流量制御装置と、
イオン化経路と、
前記イオン化経路からの出力口の近傍に配置される少なくとも一の陰極と、
前記イオン化経路と連通する陽極と、
電力供給部と、
電気的フィルタと、
前記イオン化経路の周囲に磁界を生成するためのコイルと
を備えるホールスラスタであって、さらに
前記陽極と前記少なくとも一の陰極との間にパルス電圧を印加するための第二電力供給部を備えており、
前記第二電力供給部が、第一低減放電電圧を5μs〜15μsの範囲にある第一時間の間、前記第一低減放電電圧よりも高い第二放電電圧を5μs〜15μsの範囲にある第二時間の間、周期的に交互に生成してなることを特徴とするホールスラスタ。
【請求項2】
請求項1に記載のホールスラスタにおいて、
前記第二電力供給部が、150V〜250Vの範囲にある第一低減放電電圧と、300V〜1200Vの範囲にある第二放電電圧とを交互に生成してなることを特徴とするホールスラスタ。
【請求項3】
請求項1に記載のホールスラスタにおいて、
前記第一時間は5μs〜10μsの範囲にあり、前記第二時間は5μs〜10μsの範囲にあることを特徴とするホールスラスタ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一に記載のホールスラスタにおいて、
前記第一低減放電電圧が180V〜220Vの範囲にあり、前記第二放電電圧が400V〜1000Vの範囲にあることを特徴とするホールスラスタ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一に記載のホールスラスタにおいて、
前記第二電力供給部は少なくとも一のコンデンサを有してなることを特徴とするホールスラスタ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一に記載のホールスラスタにおいて、
前記第二電力供給部が、第一低減放電電圧及び第二放電電圧を、それぞれ同じ時間である第一時間及び第二時間の間、周期的に交互に生成してなることを特徴とするホールスラスタ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一に記載のホールスラスタにおいて、
磁界を生成するための前記コイルには、前記電力供給部及び前記電気的フィルタから電力が供給されると共に、前記陽極には前記第二電力供給部及び前記電気的フィルタから電力が供給されてなることを特徴とするホールスラスタ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一に記載のホールスラスタにおいて、
前記イオン化経路は、セラミック材料から構成される壁部によって形成されてなることを特徴とするホールスラスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定常プラズマ推進機とも呼ばれるホールスラスタに関する。
【背景技術】
【0002】
ホールスラスタは、基本的に、陽極と連通するイオン化・放電経路と、イオン化・放電経路からの出力口の近傍に配置される陰極とを備える。イオン化・放電経路は、セラミック等の絶縁材料で形成されている。また磁気回路及び電磁石コイルが、イオン化・放電経路の周囲に配置されている。さらにキセノン等の不活性ガスが、放電経路の後部及び陰極に噴射される。不活性ガスは、陰極によって放出された電子との衝突により、イオン化・放電経路においてイオン化される。生成されたイオンは、陽極と陰極との間で生成される軸方向の電界によって加速され、排出される。経路内では、磁気回路及び電磁石コイルは、基本的に放射状の磁界を生成する。
【0003】
図2は、閉じ込め型電子ドリフト型ホールスラスタの一例を示す概略的な軸方向断面である。
【0004】
図2に示すように、環状経路21は、誘電体セラミック等の絶縁材料で形成された部品22と、外部環状極部材24a及び内部環状極部材24bを有する磁気回路24と、推進機の上流側端部に配置された磁気ヨーク24dと、環状極部材24a,24b及び磁気ヨーク24dを一体に連結する中央芯材24cとによって形成される。コイル31,32は、環状経路21に磁界を生成するよう機能する。中空陰極40がキセノン供給装置に連結されることで、経路21の下流側出力口の前方に雲状のプラズマを形成する。陽極25は環状経路21内に配置されると共に、イオン化可能なガス(キセノン)が通る環状マニホルド27と連通している。またハウジング20は、推進機全体を保護する。
【0005】
図2においては、磁界線B、電界E、原子a、イオンi、及び噴射されたイオン化可能なガスから生成された電子eを、すべて記号で示している。
【0006】
図2に示す種類のホールスラスタにおいては、キセノン等の推進剤の原子は、チャンネル21に閉じ込めた放電によってイオン化される。その結果生じるイオンiは、陽極25によって生成される電界Eにおいて加速され、環状経路21の開口下流側出力口26を通じて排出され、これにより推進効果が得られる。
【0007】
主に軸方向である電界Eを、主に放射状である磁界Bと組み合わせた結果、数十アンペアの円周方向電子流がチャンネル21の内部で生成される。
【0008】
このようなホールスラスタの例は、以下の文献に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】フランス特許出願公開第2693770A1号明細書
【特許文献2】フランス特許出願公開第2743191A1号明細書
【特許文献3】フランス特許出願公開第2782884A1号明細書
【特許文献4】フランス特許出願公開第2788084A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このようなホールスラスタは、動作の点から二つの大きな制約がある。
【0011】
第一の制約は、放電経路のセラミックが腐食することにより寿命が制限されることにある。エンジンによって生成されたイオンの一部は、放電経路においてエンジンの壁部に向かって加速される。イオンの一部は、そのエネルギーによって、放電経路のセラミックを腐食し、その結果、推進機の寿命が制限される。
【0012】
第二の制約は、高レベルの比推力(Isp)では、エンジンの効率が低下し、エンジンが劣化し易くなることにある。定常プラズマ推進機の比推力は基本的に、放電電圧Udを増加させることにより増加する。これにより、生成されるプラズマがより熱くなり、放電経路の壁部と強く相互に作用することとなる。このような環境下では、電子のエネルギーは相当高くなり、エンジンにおける経路のセラミックに適さないレベルにも達する。さらにイオンの速度が大きくなるにつれて、エンジンのセラミックの腐食も早まる。
【0013】
このような理由のため、これまではホールスラスタの比推力を制限して用いなければならなかった。制限される比推力は、典型的には約1000秒(s)〜2500sである。
【0014】
ホール効果エンジンの寿命を延ばすために、並進移動可能な放電経路を形成することが既に提案されている。放電室が腐食すると、放電経路のセラミックをエンジンの軸に沿って前進させる。しかしながら、これによって、高電圧における動作に対する制約の問題を克服することはできない。
【0015】
一方でイオンを加速するためのグリッドを有し、4000s以上の比推力のレベルで動作可能な衝撃型イオン推進機も知られている。しかしながら、グリッドの使用にも欠点がある。
【0016】
本発明の目的は、従来技術のプラズマ推進機の欠点を解決することにある。特にホールスラスタまたは閉じ込め型電子ドリフトプラズマ推進機を改良して、技術特性を改善すること、特に比推力を改善し、かつ放電経路の腐食を大きく低減して寿命を延ばすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的は、高圧気体のための少なくとも一のタンクと、圧力調整器と、気体流量制御装置と、イオン化経路と、イオン化経路からの出力口の近傍に配置される少なくとも一の陰極と、イオン化経路と連通する陽極と、電力供給部と、電気的フィルタと、イオン化経路の周囲に磁界を生成するためのコイルと、さらに陽極と少なくとも一の陰極との間にパルス電圧を印加するための第二電力供給部を備え、第二電力供給部が、第一
低減放電電圧(Ud
min)を5μs〜15μsの範囲にある第一時間(t
tot −t
j/A)の間、第二放電電圧(Ud
max)を5μs〜15μsの範囲にある第二時間(t
j/A)の間、交互に生成するホールスラスタによって達成できる。
【0018】
好適には、第二電力供給部が、150ボルト(V)〜250Vの範囲にある第一
低減放電電圧(Ud
min)と、300V〜1200Vの範囲にある第二放電電圧(Ud
max)と、を交互に生成する。
【0019】
好ましくは、第一時間(t
tot −t
j/A)は5μs〜10μsの範囲にあり、第二時間(t
j/A)は5μs〜10μsの範囲にある。
【0020】
好ましい特徴によれば、第一
低減放電電圧(Ud
min)が180V〜220Vの範囲にあり、第二放電電圧(Ud
max)が400V〜1000Vの範囲にある。
【0021】
また第二電力供給部は、少なくとも一のコンデンサを有する。
【0022】
特に、第二電力供給部が、第一
低減放電電圧(Ud
min)及び第二放電電圧(Ud
max)をそれぞれ実質的に同じ時間である第一時間(t
tot −t
j/A)及び第二時間(t
j/A)の間、交互に生成することができる。
【0023】
本発明の他の側面によれば、磁界を生成するためのコイルには電力供給部及び電気的フィルタから電力が供給され、陽極には独立して第二電力供給部及び電気的フィルタから電力が供給される。
【0024】
本発明の他の特徴及び利点は、添付図面を参照しながら、限定するものでない例として説明する以下の具体的な実施形態から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、電力供給部と接続された、本発明に係るホールスラスタのブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明を適用可能なホールスラスタの例を示す概略的軸方向断面図である。
【
図3】
図3は、本発明を適用可能なホールスラスタの低周波変動の態様における、時間の関数としての放電電流Iの変化と気体Nの平均密度の変化とを表す曲線を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本発明に係る、放電電圧Udがどのように変化するのかを表す例として、高電圧Ud
maxと低電圧Ud
minとの間で電圧Udが交互に変化する、時間の関数を表す曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に関する一般的な構造のホールスラスタを、
図2を参照して、説明する。
【0027】
従来のホールスラスタの動作は、「定常プラズマ推進機」と呼ばれることが多いが、定常ではない。いくつかの周波数範囲が、20キロヘルツ(kHz)から数ギガヘルツの範囲で考えられる。
【0028】
低周波数においては、従来のホールスラスタには基本的に以下の段階がある。
a)放電経路をキセノン等の推進剤の不活性原子で充填し、
b)推進機の下流側半分において高エネルギーの電子で不活性原子をイオン化し、
c)推進機の放電電圧Udに比例する電界Eを用いて、生成されたイオンを加速し排出する。
【0029】
この三つの段階が、周期的に同じように繰り返される。
【0030】
図3は、ホールスラスタにおける変動の簡略的なモデルを示す。
【0031】
この
図3は、放電電流Iを時間の関数(曲線1)として、平均気体密度Nを時間の関数(曲線2)として、それぞれ示している。
【0032】
イオン化/加速面の変動は、不活性ガス密度の空間における変動の結果から明らかに判る。
【0033】
このように、ホールスラスタでは、イオン化された不活性ガスを放出するイオン化/加速面と、推進機の放電室を充填するイオン化されていない不活性ガスの面とが交互に現れる。
【0034】
従来のホールスラスタにおいては、推進機の放電電圧Udは、高電界におけるイオンのイオン化及び加速に好適な熱い電子を、生成可能とするのに十分に高い所定レベルに設定される。
【0035】
従来のホールスラスタの放電電圧Udは、動作の際に基本的に一定に維持される。上述の通り、この放電電圧Udの値は、放電経路のセラミックの腐食速度を制限できるレベル、典型的にはおよそ300V〜350Vの値に選択されるが、これにより、得られる比推力も制限される。
【0036】
一方で本発明のホールスラスタは、放電経路のセラミックの腐食を早めることなく、しかも推進機の機械的構造を変更する必要もなく、高い比推力を得ることができる。
【0037】
これを達成するために、本発明のホールスラスタは動作する際、推進機内の不活性原子消費の空間的変動の振幅を低減することにより、推進機のイオン化/加速面の伝播を制御するように、推進機の放電電圧Udをパルス状とする。
【0038】
これにより、周期的に放電電圧を低減して、推進機の経路のあまりに上流に近い側でイオンが形成され、加速されることを回避し、その結果として経路の腐食を大きく低減することができる。
【0039】
図4は、放電電圧Udが時間と共にUd
minとしての低放電電圧と、Ud
maxとしての高放電電圧の間で変動する(矩形波3)推進機の動作を示す。
【0040】
はじめに、放電電圧UdはUd
minとして低い値に設定される。推進機の経路に不活性原子が充填されたとき、放電電圧UdはUd
maxとしての高い値に、時間t
j/Aの間、設定される。時間t
j/Aは、例えば5μs〜15μsの範囲、より好ましくは5μs〜10μsの範囲とできる。10μsに近い値のとき、良好な結果が得られる。
【0041】
高電圧値Ud
maxと低電圧値Ud
minとを合わせた一サイクルの全時間t
totは、不活性原子を推進機の経路に充填する速度によって決定される。例えば10μs〜30μsの範囲、より好ましくは10μs〜20μsの範囲の値とできる。20μsに近い値のとき、良好な結果が得られる。
【0042】
電圧Ud
minは、例えば150V〜250Vの範囲の値とでき、より好ましくは180V〜220Vの範囲の値とできる。
【0043】
電圧Ud
maxは、例えば300V〜1200Vの範囲の値とでき、より好ましくは400V〜1000Vの範囲の値とできる。
【0044】
図4は、限定するものではないが、放電電圧のUd
max及びUd
minにそれぞれ対応する時間t
j/A及びt
tot−t
j/Aが実質的に等しいパルス動作の例を示す。
【0045】
値Udが最小値Ud
minと最大値Ud
maxとの間で変動する周波数は、決定された電圧Ud
maxのレベルに応じて決定され、これにより、推進機の比推力の値が決定される。
【0046】
図1は、気体供給と電力供給と共に本発明のホールスラスタの概略的構成を示すブロック図である。
【0047】
キセノン等のイオン化ガスのタンク101は、パイプ102を通じて圧力調整器103に接続される。圧力調整器は、パイプ104を通じて気体流量制御装置105に接続される。これにより、ホース106,107,108をそれぞれ介して、放電経路を有するハウジング20内の気体マニホルドと、陰極40A,40Bと、に気体を送出する。安全上の理由で耐故障性のために、陰極を一つではなく二つの陰極40A,40Bを用いているが、これに限定されない。
【0048】
主電力供給部110は接続線121を介して電気的フィルタ120に接続される。これにより、電気的フィルタは、接続線123を介してコイルに電力を供給するよう機能し、イオン化・放電経路の周囲に磁界を生成する。コイルはハウジング20内に配置されている。主電力供給部110と気体流量制御装置105との間の直接的接続線122により、制御装置を制御する。
【0049】
主電力供給部110には、接続線111,112,113を通じて太陽電池パネル等の外部電源によって生成された電気エネルギーが供給される。主電力供給部は、典型的には例えば50Vの電圧で供給されるこの電気エネルギーを、およそ数百ボルトの高電圧の電気エネルギーに変換する。
【0050】
特に、主電力供給部110は、接続線122を通じて気体流量制御装置105に印加されるアナログ制御信号を生成するための回路を有する。
【0051】
主電力供給部110は、気体タンク101から気体流量制御装置105に送出される気体の圧力を調整するよう調整器103と接続された制御回路115からデータを、接続線114を通じて、受信する。
【0052】
制御回路115は、センサからの情報を受信して、接続線118,119を通じて気体圧力制御装置103におけるバルブの状態を制御すると共に、接続線116,117を通じて外部データを受信する。制御回路115から主電力供給部110に接続線114を介して送信されたデータは、接続線122を通じて気体流量制御装置105に印加されるアナログ制御信号を生成させるよう機能する。
【0053】
電力供給部110に接続される第二電力供給部125は、接続線126,126A及び電気的フィルタ120を介して、ハウジング20に組み込まれた陽極への電力を供給するよう機能する。
【0054】
陰極40A,40B及び陽極25と共に電界を生成するよう機能する第二電力供給部125は、陽極25と陰極40A,40Bのそれぞれとの間にパルス状電圧を印加するよう電気的フィルタ120と共に機能し、同時に、ハウジング20に備えられる電磁コイルに電力供給部110及び電気的フィルタ120から電力が供給される。
【0055】
第二電力供給部125は、二つの異なる電圧レベル、つまり、例えば約200Vの低レベル電圧と、およそ数百ボルトあるいは約1200ボルトまでも可能である高レベル電圧と、を生成するよう機能する。
【0056】
参考までに、電流は、200Vの低電圧では2アンペア(A)となり、400Vの高電圧では7Aとなる。
【0057】
第二電力供給部125に蓄積されたエネルギーを、非常に正確に短い時間で放出する必要がある。一例として、放電には100kHzに近い周波数が用いられ、全一サイクルは20μsの時間とできる。
【0058】
例えば、時間10μs間の7Aに対応する電荷で、つまり70マイクロアンペア秒(μAs)の電荷で、20μsのサイクル(50kHz)の間に充放電を可能とするために、第二電力供給部125は数マイクロファラドあるいは数十マイクロファラドの静電容量を有するコンデンサを有することができる。
【0059】
第二電力供給部125のコンデンサの充放電は、第二電力供給部125に接続された制御回路によって、又は電力供給部110に組み込まれた制御回路によって、第二電力供給部125が二つの異なる電力レベルを出力可能となるよう、制御し管理できる。
【0060】
第一電力レベルは低電力に対応する。これにより、放電経路に不活性原子を充填できる。一方、第二電力レベルは高電力に対応する。この高電力では、例えば5μs〜10μsの時間の間、400V〜1キロボルト(kV)の範囲にある電圧で、7A〜10Aの範囲にある電流を印加する。この場合、限定するものではないが、好ましい値の範囲と考えられる、典型的には14ミリジュール(mJ)(7A,400V,5μs)〜100mJ(10A,1kV,10μs)の範囲にあるエネルギーに、各高出力パルスが対応する。
【0061】
高電力レベルは、エンジンの放電経路におけるイオン化/加速工程に対応する。すなわち高電力レベルをパルス化することにより、エンジンの寿命を短くすることなく、高いレベルの比推力を得るよう比較的高い値を選択できるようになる。
【0062】
概して、主電力供給部110及び第二電力供給部125は、まず低電力を気体流量制御装置105に供給し、次に高電力をハウジング20備えられた電磁コイルと、陽極25と共に機能する陰極40A,40Bとの両方に供給するよう機能する電気回路から構成される。主電力供給部110及び第二電力供給部125は、推進機の所望の動作に必要な二つの電力レベル間で切り替え可能となるよう、直列且つ/又は平行に接続された少なくとも二つの異なる電源器を構成する。
【0063】
また電気的フィルタ120を、推進機から生じる電磁場適合性(EMC)の効果から保護するために、電力供給部110,125を構成する電源器に備えられる電気的フィルタ要素で構成することもできる。
【符号の説明】
【0064】
20…ハウジング
21…環状経路
22…絶縁材料部品
24…磁気回路
24a…外部環状極部材
24b…内部環状極部材
24c…中央芯材
24d…磁気ヨーク
25…陽極
26…開口下流側出力口
27…環状マニホルド
31,32…コイル
40…中空陰極
40A,40B…陰極
101…タンク
102…パイプ
103…圧力調整器
104…パイプ
105…気体流量制御装置
106,107,108…ホース
110…主電力供給部
111,112,113,114…接続線
115…制御回路
116,117…接続線
118,119…接続線
120…電気的フィルタ
121,122,123…接続線
125…第二電力供給部
126,126A…接続線