特許第6096780号(P6096780)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6096780H2O2合成のための触媒およびその触媒の調製方法
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  • 特許6096780-H2O2合成のための触媒およびその触媒の調製方法 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6096780
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】H2O2合成のための触媒およびその触媒の調製方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 31/06 20060101AFI20170306BHJP
   B01J 31/04 20060101ALI20170306BHJP
   B01J 37/18 20060101ALI20170306BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20170306BHJP
   C01B 15/029 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   B01J31/06 M
   B01J31/04 M
   B01J37/18
   B01J37/02 101E
   C01B15/029
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-530156(P2014-530156)
(86)(22)【出願日】2012年9月6日
(65)【公表番号】特表2014-526378(P2014-526378A)
(43)【公表日】2014年10月6日
(86)【国際出願番号】EP2012067429
(87)【国際公開番号】WO2013037697
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年8月6日
(31)【優先権主張番号】11181707.8
(32)【優先日】2011年9月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】ドゥシュメット, フレデリーク
(72)【発明者】
【氏名】ヴラッセラール, イーヴ
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−11378(JP,A)
【文献】 特表2010−526659(JP,A)
【文献】 特表2008−535663(JP,A)
【文献】 Kohsuke MORI et al.,In Situ Generation of Active Pd Nanoparticles within a Macroreticular Acidic Resin: Efficient Catalyst for the Direct Synethesis of Hydrogen Peroxide,THE JOURNAL OF PHYSICAL CHEMISTRY LETTERS,2010年,VOL.1,p.1675-1678
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C01B 15/029
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素の直接合成のための触媒を調製する方法であって、OH基以外の酸基によりグラフト化されたSiOである担体材料を、パラジウム塩の溶液と接触させた後、堆積させるパラジウムの総量を基準として、前記担体に堆積した触媒的パラジウムの1重量%〜70重量%を還元する、方法。
【請求項2】
在するパラジウムの総量を基準として、10重量%〜40重量%のパラジウムが、還元形態で存在する請求項1に記載の方法
【請求項3】
前記パラジウムの量が、還元形態のパラジウムとして、前記担体材料の総重量を基準として計算すると、0.001重量%〜10重量%である請求項1又は2に記載の方法
【請求項4】
前記酸基が、スルホン、ホスホン、カルボキシル基およびこれらの混合物から選択される請求項1〜のいずれか一項に記載の方法
【請求項5】
記担体材料がパラトルエンスルホン基でグラフトされたシリカである請求項に記載の方法
【請求項6】
酸化水素の直接合成を触媒するための請求項1〜のいずれか一項に記載の方法により得られる触媒の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2011年9月16日出願の欧州特許出願第11181707.8号明細書の優先権を主張するものであり、実質的にその全ての内容が参考文献として援用される。
【0002】
本発明は、7族〜11族の元素から選択される少なくとも1つの触媒活性金属であって、OH基以外の酸基によりグラフト化された担体材料に担持されており、担体材料の金属とは異なる触媒活性金属を含む触媒に関する。本発明は、さらに、この触媒を調製する方法および反応を触媒するこの触媒の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
過酸化水素は、ほぼ全ての工業分野において、特に、化学工業および環境保護において広く用いられている。その使用の唯一の分解生成物は水であるため、化学工業において、環境に優しい方法で大きな役割を担ってきた。過酸化水素は、アントラキノン酸化プロセスにより工業規模で生成される。しかしながら、このプロセスはグリーン法とは考えにくい。従って、様々な触媒を用いた、酸素と水素からの過酸化水素の直接合成は重要性がますます増している。
【0004】
過酸化水素の直接合成では、概して、40℃〜50℃の温度で標準希釈溶液を触媒で水素化する。水素化の程度は、二次水素化反応を最小にするために、慎重に制御し、概して、60%より低く保たなければならない。例えば、ニッケルおよび担持パラジウム触媒が水素化工程で用いられてきた。
【0005】
反応媒体中の無機酸の必要な濃度を減じるために、酸性担体が用いられることが多い。固定酸としては、通常、ジルコニア基材担持酸化タングステン、ジルコニア担持酸化モリブデン等の酸性担体、ジルコニア担持酸化バナジウム、担持硫酸触媒およびフッ素化アルミナからなる超酸が挙げられる。しかしながら、これらの方法により得られる過酸化水素の収量は僅かに過ぎない。
【0006】
中性溶液とスルホン酸基を有する官能化炭素またはスルホン酸官能基ポリスチレン樹脂からなる不均一性触媒で収量が良くなることが報告されている。PdIIイオンを、スルホン酸官能化ポリスチレンイオン交換樹脂に固定することにより調製された触媒は、溶媒としてメタノールを用いた40℃での過酸化水素の直接合成に極めて有効であることが報告されている。
【0007】
これに関して、米国特許出願公開第2008/0299034A1号明細書には、少なくとも1つの貴金属または半貴金属を含み、酸基で官能化された無機材料、例えば、スルホン基で官能化されたシリカに担持された触媒が開示されている。これらの触媒は、容易に調製され、再現性があり、高い機械抵抗と広い比表面積を有していると言われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、米国特許出願公開第2008/0299034A1号明細書から公知の触媒の選択性は、反応媒体中の過酸化水素濃度が増えるにつれて、徐々に減少することが観察されている。このように、公知の触媒をさらに改善する必要性がある。
【0009】
Lunsfordとその共働者は、Catal.Lett.(2009)132,342−348で、水素と酸素からの過酸化水素の直接形成におけるPd/SiO、PdO/SiOおよび部分還元PdO/SiOの触媒挙動について述べている。
【0010】
Strukulとその共働者は、SO2−、Cl、FおよびBrドープジルコニアに担持されたパラジウム触媒の試験について報告している(Journal of Catalysis 239(2006)422−430)。表面酸化Pd触媒は、高い触媒活性と最高の選択性を示すと言われている。
【0011】
Yamashitaとその共働者は、J.Phys.Chem.Lett.(2010),1,1675−1678において、その網状構造内にSOH官能基を含む酸性樹脂は、水素と酸素からの過酸化水素の直接合成に使われる活性Pdナノ粒子のイン・サイチュでの形成のための担体として作用することを示唆している。
【0012】
Fierroとその共働者によれば、過酸化水素直接合成のための活性種は、SOH基と相互作用するPd(+2)である(Chem.Comm.(2004)1184−1185)。PdOは、活性でないと言われており、PdO種から形成されたPd(0)クラスターは、水への過酸化水素分解を触媒すると言われている。
【0013】
Corainとその共働者は、酸イオン交換樹脂担持Pd(0)およびPd(0)−Au(0)ナノクラスターでの過酸化水素の直接合成について広範に調べている(Applied Catalysis A:General 358(2009)224−231およびAdv.Synth.Catal.(2006)348,255−259)。その分析は、Fierroとその共働者に反している。それによれば、触媒の活性は、主に、Pd(0)ナノクラスターによる。Corainとその共働者によれば、Pd(2+)は、メタノールを存在させた反応中に還元される。
【0014】
上述した先行技術は相反するが、本発明者らは、Pd(2+)が、実際、過酸化水素の直接合成のための活性種であることを見出した。しかしながら、Corainとその共働者により示唆されるメタノールの還元反応中、触媒の選択性が安定でないため悪影響があることも意外にも見出した。
【課題を解決するための手段】
【0015】
従って、本発明は、さらなる触媒、特に、過酸化水素の直接合成による工業的製造に好適な触媒をさらに提供する問題に対処する、すなわち、上記の欠点を示さない、特に、過酸化水素の濃度が増えて選択性が一定のままのものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明による触媒の選択性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
上述した問題は、触媒の初回の使用の前に酸基でグラフトした担持材料に付加した触媒活性金属を部分的に還元することにより、解決できることを意外にも見出した。かかる予備処理済み触媒の選択性は、過酸化水素の直接合成でのさらなる使用中も安定なままであり、この有益な影響は、触媒の初回の使用前に、金属を還元した場合に生じ、過酸化水素の直接合成での使用中にイン・サイチュで触媒活性金属を還元する触媒では生じない。本発明者らの実験により、過酸化水素直接合成中、触媒活性金属は、メタノールの作用により部分的に還元できるという上述の先行技術の教示は確認されたが、触媒活性金属を、触媒の使用中にイン・サイチュで還元するかかる触媒だと、安定した選択性とはならないことを意外にも見出した。過酸化水素の直接合成における初回の使用前の触媒での活性金属の還元だけが、触媒選択性の安定性に所望の有益な影響を示す。
【0018】
出願人は、何らかの理論に拘束されることは望むところではないが、水素、酸素およびメタノールの存在下での過酸化水素直接合成中の触媒活性金属の還元に比べて、触媒の初回の使用前に、水素雰囲気中で、触媒活性金属を還元すると、例えば、ナノ粒子のサイズや表面構造に関して異なる金属種が得られるものと考えられる。
【0019】
担体においてPd(金属および/または水素化物)対PdIIがある割合内であると、触媒の選択性の安定について相乗効果があることもさらに見出した。担体における還元Pdの濃度が低すぎると、触媒の選択性に対する有益な影響が生じず、触媒における還元Pdの濃度が高すぎると、触媒の選択性が減じることを見出した。
【0020】
このように、本発明は、7族〜11族の元素から選択される少なくとも1つの触媒活性金属であって、OH基以外の酸基によりグラフト化された担体材料に担持されており、担体材料の金属とは異なる触媒活性金属を含む触媒であって、フレッシュ触媒において、存在する触媒活性金属の総量を基準として、1%〜70%の触媒活性金属が、XPSにより判断した際に還元形態で存在することを特徴とする、触媒に関する。
【0021】
本発明による触媒において、担体材料は、酸基によりグラフト化されている。本明細書において、「グラフト化」とは、共通結合により、酸基が担体材料に付加していることを意味する。
【0022】
担体材料がグラフト化する酸基は、OH基以外の基である。OH基は、無機酸化物等の担体材料の中には、酸性ヒドロキシル基を有するものがあるため排除される。しかしながら、担体材料が、自然に生ずるヒドロキシル基に加え、それらの基とは異なる酸基を有することは本発明の範囲に含まれる。担体材料は、有機酸基によりグラフト化されているのが好ましい。
【0023】
さらに、担体材料に担持されている触媒活性金属と、担体材料を形成する無機酸化物中の金属等の担体材料の一部を構成する金属とは区別されるべきである。このように、担体材料に担持されている触媒活性材料は、担体材料の金属とは異なる。本明細書において、「担体材料の金属」とは、シリカにおけるケイ素やチタニアにおけるチタニウム等の担体材料のバルク中の材料を指す。担体材料中に存在し得る不純物は、「担体材料の金属」とは考えない。
【0024】
本発明による触媒において、触媒活性金属の1%〜70%が還元形態で存在する。上述したとおり、触媒活性金属の還元が、過酸化水素直接合成における触媒の初回の使用前に生じることが重要である。従って、触媒には、フレッシュ触媒において、触媒活性金属の1%〜70%が還元形態で存在するという特徴がある。本明細書において、「フレッシュ触媒」とは、触媒が、過酸化水素直接合成またはその他触媒反応にまだ用いられていないことを意味する。
【0025】
先行技術の触媒において、触媒活性材料は、例えば、PdII等の酸化形態で存在する。本発明は、この金属が、触媒の初回の使用前に部分的に還元されると、触媒の選択性は、反応中、特に、反応媒体中の過酸化水素濃度が増大しても、一定のままであるという知見に基づく。このように、本発明において、還元形態中の金属とは、酸化レベル0以下の金属原子、例えば、PdまたはPd水素化物を意味する。
【0026】
本発明の触媒で用いられる触媒活性金属は、触媒の目的とする用途における当業者が選択することができる。例えば、金属は、パラジウム、白金、銀、金、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムおよびこれらの組み合わせから選択することができる。より好ましい実施形態において、触媒は、触媒活性金属としてパラジウムまたはパラジウムと他の金属(例えば、金)の組み合わせを含む。
【0027】
担体材料に担持された酸化金属の還元金属の比率は、全体の選択性を減じることなく、反応時間にわたって触媒の選択性を一定に保つのに有効な範囲であることが重要である。存在する金属の総量を基準として、触媒活性金属の1%〜70%が還元形態で存在する場合、この影響が得られることが知見されている。存在する金属の総量を基準として、触媒活性金属の10%〜40%が還元形態で存在するのが好ましい。例えば、存在するパラジウムの総量を基準として、パラジウムの20%〜30%、例えば、25%〜30%が還元形態で存在するとパラジウムについて良好な結果が得られる。
【0028】
本明細書の文脈において、還元金属および酸化金属の量は、XPS分析により測定される。測定の前に、触媒を粉砕し、得られた粉末を、タブレットへと圧縮して、触媒の外側とより内側部分における酸化および還元金属の濃度を平均する。さらに、この試料調製により、粒子サイズと粒子分布の影響が減少する。それでも、再現性のある値が得られるまで、より小さな粒子サイズへと試料を粉砕して、XPS測定を繰り返す必要がある。
【0029】
他の放射線、例えば、非単色Mg放射線は、測定中に金属酸化物の部分還元を引き起こすことが知られているため、単色Al放射線を用いることがさらに重要である。
【0030】
XPS分析手順の詳細を後述する。
【0031】
担体材料に担持される触媒活性金属の量は、特に限定されず、要件に従って、当業者であれば選ぶことができる。例えば、金属の量は、担体材料の総重量を基準として、還元形態の金属として計算すると、0.001重量%〜10重量%、好ましくは、0.1重量%〜5重量%、より好ましくは、0.1重量%〜2重量%とすることができる。
【0032】
任意の好適な担体材料を、本発明による触媒に用いることができる。例えば、担体材料は、無機または有機材料とすることができる。無機材料としては、無機酸化物を用いることができる。例えば、無機酸化物は、2族〜14族の元素、例えば、SiO、Al、ゼオライト、B、GeO、Ga、ZrO、TiO、MgOおよびこれらの混合物から選択することができる。好ましい無機酸化物は、SiOである。無機キャリアからの金属は、過酸化水素直接合成の触媒活性金属とは異なる。
【0033】
一実施形態において、本発明で用いる担体材料は、広い比表面積を有し、BET法により計算すると20m/gを超え、好ましくは、100m/gを超える。担体材料の細孔容積は、例えば、0.1〜3ml/gの範囲とすることができる。
【0034】
用いる担体材料は、実質的に、シリカゲル等のアモルファスとすることができ、例えば、MCM−41、MCM−48、SBA−15をはじめとする種類のメソ細孔の規則的な構造またはゼオライトのような結晶構造で構成することができる。
【0035】
あるいは、担体材料は、例えば、有機樹脂や活性炭素等の有機材料とすることができる。有機樹脂としては、公知のイオン交換樹脂を例示することができる。好適な樹脂は、例えば、ポリスチレン樹脂とすることができる。活性炭素としては、例えば、カーボンナノチューブを用いることができる。
【0036】
本発明による触媒に用いられる担体材料は、酸基によりグラフト化(共有結合)されている。好ましくは、酸基は、担体材料にグラフト化、すなわち、その表面に結合している。有機酸基であるのが好ましい酸基は、スルホン、ホスホンおよびカルボキシル基で構成される化合物から選択してよい。酸基は、より好ましくは、スルホン、例えば、パラ−トルエンスルホン基、プロピルスルホン基およびポリ(スチレンスルホン基)である。
【0037】
担体材料の合成中または合成後の酸基の組み込みは当業者に知られており、工業規模で実施することができる。
【0038】
本発明の特に好ましい実施形態において、触微は、金属としてパラジウムを含み、担体材料は、パラトルエンスルホン基によりグラフト化されたシリカである。この実施形態において、存在するパラジウムの総量を基準として、好ましくは、10%〜40%、より好ましくは、20%〜30%、最も好ましくは、25%〜30%のパラジウムが還元形態で存在する。
【0039】
本発明はさらに、上述した触媒を調製する方法に関する。本方法において、OH基以外の酸基によりグラフト化された担体材料を、7族〜11族の元素から選択され、担体材料の金属とは異なる金属塩の溶液と接触させた後、堆積させる金属の総量を基準として、担体に堆積した1%から70%の金属を還元する。担体材料の金属塩溶液との接触は、例えば、担体材料を金属塩溶液に浸漬する等、通常のやり方で行うことができる。あるいは、担体材料に溶液をスプレーする、または担体材料をその他溶液に含浸してもよい。
【0040】
選択した溶媒に可溶なあらゆる種類の塩を用いることができる。例えば、酢酸塩、窒化物、ハロゲン化物、シュウ酸塩等が好適である。担体材料は、酢酸パラジウムの溶液と接触させるのが好ましい。
【0041】
金属を担体材料に堆積させた後、例えば、濾過により生成物を回収し、洗浄および乾燥する。この後、例えば、高温で水素を用いることにより、担体に堆積した金属の1%〜70%を還元する。この水素化工程は、例えば、100℃〜140℃の温度で、1〜6時間行うことができる。水素化工程の温度および期間は、所望量の金属が還元されるように選択される。
【0042】
本発明による触媒は、例えば、水素化または環化反応をはじめとする様々な反応を触媒するのに好適である。好ましくは、過酸化水素の合成を触媒する、特に、過酸化水素の直接合成を触媒するのに用いられる。
【0043】
本明細書に参考文献として援用される全ての特許、特許出願および文献の開示が、用語を不明瞭にする恐れのある範囲まで、本出願の記載に反する場合には、本出願の記載が優先されるものとする。
【0044】
本発明を、限定されるものとは解釈されない以下の実施例により詳細に例証する。
【実施例】
【0045】
触媒の調製(一般処方)
20.14gのSilicycleトシル酸(R60530B)を、1Lのガラス反応器に入れた。300mlの高純度アセトンを固体に加えた。懸濁液を室温で約250rpmで機械的に攪拌した。
【0046】
0.247gの酢酸パラジウムを、100mlの高純度アセトンに室温で溶解した。
【0047】
Pd溶液を、懸濁液に徐々に加えた(約1ml/5秒)。
【0048】
懸濁液を、4時間室温での機械的攪拌下に維持した。
【0049】
懸濁液を、真空で濾過し、100mlの高級アセトンで洗った。
【0050】
固体を、24時間60℃で乾燥した。
【0051】
固体を、120℃で3時間水素化した(水素は窒素で希釈した)。
【0052】
XPS分析手順
試料調製:モルタル中で粉砕(グラインド)しておいた粉末の圧縮タブレットとして調製した試料。試料は測定まで密閉バイアルに保管しておく。
分光計:Phi VersaProbe5000
チャンバ真空:1.10−9トル
X−線源:単色Al Kalpha(E=1486.6eV)
X−線電力:50W
ビーム電圧:15000V
分析領域:直径200μm
電荷中和:アルゴンイオン源(2.4eV、20mA)
通過エネルギー:調査については117.4eV、高解像度スキャンについては23.5eV
走査時間:X−線ラインに応じて14分〜250分、Pd3dについては、235分〜250分
【0053】
データ処理
結合エネルギー参照:炭素(285eV)
バックグラウンド除去:Shirley
Pd3dフィッティング:混合ガウスローレンツライン、ガウス割合は70%〜100%の範囲
Pd3d(5/2)ピークを335.9eVと337.8eV付近に位置する2つの成分によりフィッティングし、金属(または水素化)Pdおよび酸化パラジウムをそれぞれ割り当てた。
【0054】
触媒調製の例
触媒A
触媒Aを上述した一般処方に記載したとおりにして調製した。
触媒担持Pd量は0.59%重量であった。
XPS分析を行った。
結果は相対%である。
【0055】
【表1】
【0056】
触媒B
触媒Bを触媒Aと同様の条件で調製した。違いは以下のことだけである。
・Silicycleと酢酸Pd溶液の接触時間:4時間でなく一晩
・乾燥温度:60℃でなく75℃
触媒担持Pd量は0.49%重量であった。
【0057】
触媒C
触媒Cを触媒Aと同様の条件で調製した。違いは、触媒の水素化条件だけであった:触媒Cは200℃で24時間水素化した。
触媒担持Pd量は0.51%重量であった。
XPS分析を行った。
結果は相対%である。
【0058】
【表2】
【0059】
触媒D
触媒Dを上述した一般処方に記載したとおりにして調製した。
乾燥温度が85℃であったのが唯一の違いであった。
触媒担持Pd量は0.67%重量であった。
【0060】
触媒E
触媒Eを、触媒Aと同様の条件で調製した。違いは、水素化条件だけであった:触媒Eは120℃で3時間、高水素流で水素化した。
触媒担持Pd量は0.49%重量であった。
XPS分析を行った。
結果は相対%である。
【0061】
【表3】
【0062】
触媒F
触媒Fを、触媒Aと同様の条件で調製した。違いは、触媒の水素化を行わなかっただけであった。
触媒担持Pd量は0.73%重量であった。
【0063】
触媒Ga、GbおよびGc
触媒G、を触媒Aと同様の条件で調製した。150℃で水素化したが、異なる比率のPd/PdIIを得るために違う時間とした。
触媒担持Pd量は0.50%重量であった。
XPS分析を行った。
結果は相対%である。
【0064】
【表4】
【0065】
過酸化水素の直接合成
380ccのHastelloyB22反応器に、メタノール(220g)、臭化水素(25ppm)および触媒(5.97g)を入れた。
【0066】
反応器を5℃まで冷やした。使用圧力は50バールであった。
【0067】
水素(3.03%モル)/酸素(54.86%モル)/窒素(42.11%モル)のガス混合物により反応の間中、反応器を洗い流す。
【0068】
ガスの段階的減少が安定したら(GCオンライン)、機械的攪拌を1500rpmで開始した。
【0069】
GCオンラインは、10分毎にガスの段階的減少を分析する。
【0070】
液体試料を取り出し、過酸化水素および水濃度を測定した。
【0071】
過酸化水素は、硫酸セリウムによる酸化還元滴定により測定した。
【0072】
水はカール・フィッシャーにより測定した。
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
【0075】
最良の結果は、低減少Pd含量の触媒(Ga)で得られる。選択性は高く、過酸化水素の最終濃度は1%高く、最終水含量は低い。選択性が最も低いのは、高Pd0含量の触媒Gcである。
【0076】
【表7】
【0077】
【表8】
【0078】
【表9】
【0079】
上記のデータによれば、本発明による触媒AおよびBについて、変換率および生産性が良好で、同時に、触媒の選択性が優れていることが示されている。本発明によらない触媒CおよびE(比較例1)については、選択性は低い。
【0080】
触媒AおよびD(比較例2)の上記の比較によれば、本発明による触媒Aにより、過酸化水素の直接合成を、わずか8℃という同程度の低い温度で、良好な変換率、高生産性および高選択性で実施することができることが分かる。
【0081】
最後に、本発明による触媒Aを、本発明によらない触媒F(比較例3)と比較する。触媒Fは、米国特許出願公開第2008/0299034号明細書の開示に従って調製された。PdIIは含有するが、還元パラジウムは含有していない。本発明の触媒の選択性および生産性は、先行技術の触媒に比べて高い。
【0082】
本発明による触媒の有益な技術的影響はまた、添付の図1によっても示されており、同図には、40℃の温度で酸化パラジウムのみを含有する先行技術の触媒の選択性(「Sel PdII」)に比べた、反応温度8℃での本発明による触媒の選択性(「Sel Pd還元」)が示されている。図1から、本発明の触媒の選択性は、240分後に得られる、過酸化水素の濃度が6重量%より高くても、さらには8重量%まで、安定であることが明らかである。これに比べ、240分に観察された先行技術の触媒の最終の選択性は50%未満であり、過酸化水素濃度の増加と共にさらに減少する。
図1