(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6096783
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】大気圧プラズマ法によるコーティング作製方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/455 20060101AFI20170306BHJP
C23C 16/50 20060101ALI20170306BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20170306BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20170306BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
C23C16/455
C23C16/50
C23C16/40
C23C16/42
B32B9/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-533979(P2014-533979)
(86)(22)【出願日】2012年9月26日
(65)【公表番号】特表2014-534336(P2014-534336A)
(43)【公表日】2014年12月18日
(86)【国際出願番号】GB2012052378
(87)【国際公開番号】WO2013050741
(87)【国際公開日】20130411
【審査請求日】2015年9月25日
(31)【優先権主張番号】1117242.6
(32)【優先日】2011年10月6日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】505232782
【氏名又は名称】フジフィルム マニュファクチャリング ユーロプ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100085279
【弁理士】
【氏名又は名称】西元 勝一
(72)【発明者】
【氏名】デ ブリース ヒンドリック
(72)【発明者】
【氏名】スタロスティン セルゲイ
【審査官】
吉野 涼
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2010/0132762(US,A1)
【文献】
特表2011−512459(JP,A)
【文献】
特表2010−523362(JP,A)
【文献】
特表2011−511403(JP,A)
【文献】
特表2009−540128(JP,A)
【文献】
特開2011−241421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
B32B 9/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブル基板上にバリア層を製造する方法であって、
化学気相成長(CVD)法及び大気圧プラズマを利用して前記フレキシブル基板上に無機酸化物層を堆積させる第1のステップと、
前記無機酸化物層上に1〜70層の原子層(ALD)を連続的に堆積させることを含む第2のステップと、
を含み、
前記第2のステップで堆積されたALD層は、0.5〜5nmの厚さを有するAl2O3である、
方法。
【請求項2】
前記第1のステップは、大気圧グロー放電(APGD)プラズマ装置を利用して実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1のステップは、前記無機酸化物層を10〜100nmの厚さに堆積させることを含む、請求項1〜2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のステップは,0.3〜10%の気孔率を有する前記無機酸化物層を堆積させることを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2のステップは、プラズマアシスト原子層堆積(ALD)法を利用して実行される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第2のステップは、熱原子層堆積(ALD)法のステップを利用して実行される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記無機酸化物層は、シリコン酸化物層である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1のステップは、前記無機酸化物層が10〜100nmの厚さであるとともに気孔率が0.3〜3%であるように、20〜200nm/sの堆積率で、化学気相成長(CVD)法及び大気圧プラズマを利用して前記フレキシブル基板上に堆積させることを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフレキシブル基板上にバリア層を作製する方法に関する。本発明は更に、そのようなバリア層を作製するための装置に関する。更に本発明は、非常に薄いバリア層から成る基板に関する。
【背景技術】
【0002】
原子層堆積(ALD)法は、当技術分野においては基板表面上に材料の層を提供するために使用される。化学気相成長(CVD)法や物理蒸着(PVD)法と異なり、原子層堆積(ALD)法は飽和表面反応に基づいている。ALDプロセスに固有の表面制御機構は、基板の反応部位と前駆体分子との間で順次行われる個々の表面反応の飽和に基づいている。この飽和機構のために、薄膜の成長速度は、CVDやPVDなどにおける反応物濃度や成長時間ではなく、反応サイクル数に正比例することになる。
【0003】
ALDは自己制限的な反応プロセスである。つまり、堆積する前駆体分子の量は、基板表面上の反応表面部位の数によってのみ決まり、飽和後の前駆体への曝露には無関係である。ALDのサイクルは数ステップから成る。一般的に、このサイクルは単一の処理空間内で実行される。最初に、基板表面に反応部位が提供される。次のステップとして、前駆体を反応部位と反応させ、余剰の材料と反応生成物が処理空間から排出される。理想的には、反応表面部位を介して基板表面に付着した単分子層の前駆体が残る。次のステップとして反応剤が処理空間内に導入されて、付着している前駆体と反応する。そうして再び反応部位を有する所望材料の単分子層が形成される。その後、未反応材料及び副生成物が排出される。任意選択によりサイクルを繰り返して、単分子層を追加して堆積する。基本的には、1サイクルで1原子層が堆積される。このことによって、膜厚及び膜質を非常に正確に制御することが可能となる。
【0004】
従来技術において、このALDプロセスの反応ステップを促進させるためにいくつかの方法が開発されてきた。例えば熱ALDやプラズマアシストALDである。これまでのALD法に使用されたプラズマは、例えば低圧RF駆動プラズマ、誘導結合プラズマ(ICP)または容量結合プラズマ(CCP)であり、Al
2O
3、HfO
2、Ta
2O
5やその他の多くの材料の堆積に利用可能である。
【0005】
国際公開第WO01/15220号には、集積回路のバリア層の堆積プロセスが記載されており、そこでALDが使用されている。ALDのステップでは、高温(最大500℃)での熱反応ステップとの組合せで、低圧(約10Torr(1330Pa)が利用されている。また、反応環境を生成するためにプラズマを利用することも提案されている。開示された実施形態はすべて非常に低い圧力環境となっており、使用する装置に特別の手段が必要となる。
【0006】
米国特許出願第2004/0219784号においては、熱反応ステップまたはプラズマアシスト反応ステップを用いた、数原子層及び薄膜の形成方法が記載されており、そこでは、ラジカルが別の場所で形成されてから基板まで輸送される。ここでも、これらのプロセスは比較的高温(100〜350℃)及び低圧(ほぼ真空状態で、典型的には0.3〜30Torr(40〜4000Pa)の条件で実行されている。
【0007】
米国特許出願第2003/0049375号には、低圧でのプラズマアシストCVDプロセスを利用した、基板上への薄膜堆積CVDプロセスが開示されている。複数原子層を形成することが請求されている。上述のように既知のALD法は主として低圧力条件の下で実行され、従って真空設備を必要とする。更には、熱反応ステップ(室温より十分に高温の、例えば300〜900℃における)を利用する上記のALD法は、ポリマー基板などのような温度に敏感な基板上への材料の堆積には適さない。
【0008】
参照により本明細書に援用する、本出願人による国際公開第WO2007145513号では、プラズマアシスト原子層堆積(ALD)法を利用して、良好な膜成長制御と表面の不規則性を被覆する高い整合性とにより、僅か10〜20nmの膜厚で、4*10
−3g/m
2*日の水蒸気バリア特性が得られることが開示されている。ただし、例えばALDによるAl
2O
3の最大成長速度は典型的に0.07−0.11nm/サイクルであるので、この特性を達成するためには通常100サイクルを超えるALDサイクルを必要とする。ALDでの1サイクル当たりの膜厚成長が小さいことが、特にバリア膜などの大量被覆に対するALDの生産性に限界を与えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第WO01/15220号
【特許文献2】米国特許出願第2004/0219784号
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0049375号
【特許文献4】国際公開第WO2007/145513号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、基板、特にフレキシブル基板上に改良されたバリアを生成するためのより高速かつ効率的な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、無機酸化物層を表面に持つフレキシブル基板上に、大気圧放電プラズマを利用してかなり効率的かつ高速モードで優れた水蒸気バリア層を作製できることが判明した。本発明の一実施形態によれば、フレキシブル基板上にバリア層を製造する方法が提供される。この方法は、大気圧プラズマを利用してフレキシブル基板上に無機酸化物層を堆積させる第1のステップと、その無機酸化物層上に1〜70層の原子層を連続的に堆積させる第2のステップとを含む。
【0012】
驚くべきことに、フレキシブル基板上に大気圧プラズマを用いて第1のステップで無機物層を超高速堆積させるステップ(これにはバリアの改良効果は皆無かごく僅かしかない)を行った後には、本発明の第1のステップを行なわずにALDのみで処理した基板上に作製したサンプルに比べるとはるかに少ないALDサイクルで、優れた水蒸気特性が得られることが判明した。
【0013】
本発明の一実施形態では、第1のステップは大気圧グロー放電(APGD)プラズマ装置によって実行される。これにより非常に効率的かつ均一な無機酸化物層の堆積ができる。
【0014】
一実施形態では、第1のステップで、厚さ10〜100nmの無機酸化物層の堆積が行われる。例示的実施形態において、無機酸化物層は厚さが10〜100nmの間のシリコン酸化物層である。プロセスの速度が問題となる場合には、膜厚は可能な限り小さくて、例えば、20、25、30、35、40、50、60、65、70、75、80または90nmである。
【0015】
更なる実施形態においては、第2のステップで堆積されるALD層は、Al
2O
3層で、その厚さは0.5〜10nmの間、好ましくは1〜10nmの間である。ここでもプロセス速度が問題となる場合には、膜厚は可能な限り小さくて、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、または9nmである。
【0016】
例えば、大気圧グロー放電プラズマを利用して堆積した70nm厚のS
iO
2層を利用すると、7サイクルのALDの後には、水蒸気透過率が4.8*10
−3g/m
2*日(40℃/相対湿度100%)のバリアが観測された。本発明により作製された基板は、この特定の場合ではALD層の厚さが僅か1nmである。
【0017】
本発明の第1のステップにAPGDを利用することで、無機酸化物層は20〜200nm/sの間の高堆積速度で堆積可能である。そしてこれは、堆積前の何もないフレキシブル基板に比べて湿度バリアの改良が全くないか、または僅かしかない層となる。本発明の実施形態の第1のステップの後に生じる無機層は、好ましくは、0.3〜10%、より好ましくは0.3〜3%の間の気孔率を有する層である。
【0018】
典型的には、処理された基板は、第1ステップの堆積後には良好な水蒸気バリア特性を持たない。そして一般に、何も処理されていないポリマー基板のバリア特性より良好であることはない。
【0019】
本発明において、大気圧グロー放電プラズマを利用してフレキシブル基板上に第1のステップとして無機酸化物層を形成するための好適な前駆体としては、本出願人による国際公開第2009104957号に開示されているような、例えばTEOS、HMDSO、TPOT、TEOT、TMA、TEAなどがある。参照により上記を本明細書に援用する。
【0020】
フレキシブル基板は、任意の種類のポリマーフィルムであってよい。例示的実施形態においては、厚さ50〜200μmのPETまたはPENフィルムが使用される。
【0021】
使用し得る基板の他の例としては、エチレンビニルアセテート(EVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)すなわちテトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルのコポリマー、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン コポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル−ヘキサフルオロ−プロピレン コポリマー(EPE)、テトラフルオロエチレン−エチレンまたはプロピレン コポリマー(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン コポリマー(ECTFE)、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)、及びフッ化ポリビニル(PVF)の透明シート、またはポリエステルと、EVA、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリウレタン、液晶ポリマー、アクラー、アルミニウム、酸化アルミニウムスパッタ膜付きポリエステル、酸化シリコンまたは窒化シリコンスパッタ膜付きポリエステル、酸化アルミニウムスパッタ膜付きポリカーボネート、及び酸化シリコンまたは窒化シリコンスパッタ膜付きポリカーボネートとの共押出シート、などがある。
【0022】
本発明の実施形態において、第2のステップにおけるALDプロセスの厳密な種類はあまり関係ない。一実施形態においては、第2のステップはプラズマアシスト原子層堆積(ALD)法で実行され、更なる実施形態においては、第2のステップは熱原子層堆積(ALD)法を用いて実行される。そのような技術を利用するALD設備の変形である、低圧誘導結合プラズマ(ICP)または容量結合プラズマ(CCP)またはRF駆動プラズマまたは熱ALDなどもまた使用可能である。
【0023】
更なる態様においては、本発明は基板上にバリア層を製造する装置にも関係する。この装置は、2つの電極の間の処理空間内に大気圧グロー放電プラズマを生成するために配置された少なくとも2つの電極を備える、大気圧グロー放電(APGD)プラズマ装置と、原子層堆積(ALD)装置と、を備え、この装置は、大気圧グロー放電(APGD)プラズマ装置を用いて基板上に無機物層を提供し、かつ無機酸化物層の上にALD装置を用いて1〜70層の原子層の連続堆積を行うように構成されている。
【0024】
更なる実施形態において、ALD装置は、処理空間と、その処理空間に様々な混合ガスを供給するためのガス供給装置とを備え、ガス供給装置は、前駆体材料を含む混合ガスを処理空間へ提供して、第1処理空間内で反応性表面部位が前駆体材料分子と反応して、反応性部位を介して基板の表面に付着した単分子層の前駆体分子によって被覆された表面が得られるようにし、かつ、付着した前駆体分子を活性前駆体部位へ変換させることができる反応剤を含む混合ガスを提供するように構成されている。様々なステップと、それらの間の排出ステップは、単一処理空間で実行されてもよい。
【0025】
また更なる実施形態において、大気圧グロー放電(APGD)プラズマ装置は、少なくとも2つの対向電極と、その少なくとも2つの対向電極の間の処理空間とを備え、その少なくとも2つの対向電極の間の処理空間には誘電体バリアが提供されて、運転時には基板を構成し、その少なくとも2つの対向電極は、処理空間内にAPGDプラズマを発生させるためのプラズマ制御ユニットに接続されている。
【0026】
更なる実施形態において、ALD装置は、少なくとも2つの分離された処理空間を備え、その少なくとも2つの処理空間へ様々な混合ガスを提供するための第1と第2のガス供給装置を有する。第1のガス供給装置は、前駆体材料を含む混合ガスを処理空間に提供して、基板表面上の反応性表面部位が前駆体材料分子と反応して基板表面が第1の処理空間内で反応性部位を介して基板表面へ付着された単層の前駆体分子で被覆されるように運転され、第2のガス供給は、付着した前駆体分子を活性前駆体部位に変換可能である反応剤を含む混合ガスを提供するように運転され、この方法は更に、基板を第1と第2の処理空間の間を移動させて反応剤を含む混合ガス内で大気圧プラズマを発生させることを更に含む。
【0027】
更なる実施形態において、原子層堆積(ALD)装置は、環状または直線状に相前後して連続配列された複数の第1と第2の処理空間を備えている。
【0028】
異なる処理空間が存在する場合、処理空間から処理空間へ基板を輸送することが可能な輸送装置を介してそれらの空間は接続されていてもよい。
【0029】
更なる実施形態において、少なくとも2つの対向電極はロール電極であり、かつフレキシブル基板は処理空間を連続的に通過する。
【0030】
本発明の更なる態様は、水の飽和蒸気条件に曝された後に改良されたバリア特性と堅牢性を有する、非常に薄いバリア層を持つ基板に関する。一実施形態においてフレキシブルバリア基板は、気孔率が0.3〜10%で、厚さ10〜100nmの無機物酸化層と、0.5〜10nmのALD層(例えば、気孔率が0.3〜3%で厚さ1〜10nmのALD層)から成る。更なる実施形態においてフレキシブル基板は、気孔率が0.3〜10%で、厚さ10〜100nmの無機物酸化層と、0.5〜5nmのALD層(例えば、気孔率が0.3〜3%で1〜5nmのALD層)から成る。更なる実施形態においてフレキシブル基板は、気孔率が0.3〜10%で、厚さ10〜100nmのS
iO
2層と、0.5〜5nmのAl
2O
3のALD層(例えば、気孔率が0.3〜3%で1〜5nmのAl
2O
3のALD層)から成る。全ての実施形態は、本発明の方法及び/または装置の実施形態を用いて作製される。このようにして得られるフレキシブル基板は、高速かつ効率的に製造され、かつすぐれた水蒸気バリア特性を持っている。これは2つのステップが分離されて単独で堆積される(すなわち第2のステップなしの第1のステップや、第1のステップなしの第2のステップ)場合には、達成することが不可能である。
【0031】
添付の図面を参照して、いくつかの例示的実施形態を用いて本発明の詳細を次に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1a】本発明の方法の第1のステップの一実施形態の模式図である。
【
図1b】本発明の方法の第1のステップの一実施形態の模式図である。
【
図3】APGDアシストの空間ALDを用いる第2のステップの例示的な図である。
【
図4】無機酸化物層と1層のALD層を有する基板の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、例示的実施形態を参照して本発明を説明する。
【0034】
本発明によれば、フレキシブルなポリマー基板上に水蒸気バリアを製造する、より高速でより効率的な手順が提供される。フレキシブル基板1上にバリア層1bを製造する方法が提供される。この方法は、大気圧プラズマを利用してフレキシブル基板1上に無機酸化物層1aを堆積させることを含む第1のステップと、その無機酸化物層1a上に1〜70層の原子層を連続的に堆積させることを含む第2のステップとを含む。本発明によれば更に、基板1上にバリア層1bを製造する装置が提供される。この装置は、少なくとも2つの電極2、3を備え、この2つの電極2、3の間に形成される処理空間5内に大気圧グロー放電プラズマを生成するように構成された大気圧グロー放電(APGD)プラズマ装置と、原子層堆積(ALD)装置とを備えている。ここで本発明の装置は、大気圧グロー放電(APGD)プラズマ装置を利用して基板1上に無機酸化物層1aを提供し、その無機酸化物層1a上にALD装置を利用して1〜70層の原子層(1b)を連続堆積するように構成されている。
【0035】
図1a、1bは、大気圧グロー放電(APGD)プラズマ装置の例示的実施形態の模式図であり、ここで本発明による本方法の実施形態の第1のステップが実行される。処理空間5は、筐体(
図1aには示さず)内の処理チャンバであってもよいし、または開放構造であってもよいが、2つの電極2、3を備えている。電極2、3には一般的に誘電体バリアが設けられて、処理空間内に大気圧でグロー放電を生成、保持できるようになっている。この誘電体バリアは、運転時に処理すべき基板1で形成されてもよい。
図1aに示す実施形態においては、電極2、3は平板電極であり、処理空間5は矩形空間である。側面タブ6は処理空間5の片側を閉じるために設けられる。ガス供給源8が備えられて、後で詳細を説明するように、処理空間5内に関連する物質を供給する。最終的に電極2、3が電源4に接続される。より詳細を以下で述べる。
【0036】
別の形態の電極2、3及び空隙、すなわち処理空間5も可能であり、例えばプラズマ処理装置の円筒形構造の一部であってもよい。例えば、処理空間は円筒形、楕円形、または特定のタイプの基板1を処理するのに適合した別の形状を持っていてもよい。両方の電極2、3は、同一の平板配向構成(
図1aに示すような)であっても、両方ともロール電極(
図1bのプラズマ処理装置の例示的実施形態に示すような)であってもよい。また構成の異なるものが適用されてもよく、例えば1つのロール電極と、1つの部分的に平坦または円筒形をした電極が相対向していてもよい。更なる実施形態において、電極は複数セグメントから成る電極であってもよい。2つ以上の電極を利用する実施形態もまた考え得る。
【0037】
一般的に大気圧グロー放電プラズマは、処理空間5内の2つの電極2、3の間に生成される。またこれに代わって、複数の電極2、3が提供される。電極2、3が少なくとも基板1と同じ表面積を持っている場合には、基板1を2つの電極2、3の間の処理空間5内に固定することもできる。
【0038】
図1bは、プラズマ処理装置の更なる実施形態を示し、ここでは2つの基板1、1’が同時に処理される。この代替実施形態においては、1つの基板1ではなく2つの基板(1、1’)が処理空間5(及び2つの側面タブ6a、6b)の内部に固定して配置されるか、あるいはガス供給8をより効率的に利用するために処理空間5の中を特定の速度で移動するようにして配置される。
【0039】
基板1が電極面積よりも大きい場合には、基板1、1’は処理空間5内を、例えばロール・ツー・ロール構成を利用して、ある線速度で通り抜けるようになっていてもよい。その例を
図1bの実施形態に示す。基板1、1’は、ガイドローラ9を利用して、ローラ形(ロール)電極2、3に密着して案内される。ロール電極は例えば円筒形電極として実装されて、運転時にはたとえば取り付けシャフトまたはベアリングを利用して回転可能なように取り付けられている。そのようなロール電極は自由回転してもよいし、あるいは、例えば周知のコントローラと駆動ユニットを利用して、一定の角速度で駆動されてもよい。側面タブ6a、6bがローラ端面に配置され、それによって電極2、3の間に隔離された処理空間5が形成される。
【0040】
電極2、3は電源4(
図1aの実施形態参照)に接続され、これが大気圧グロー放電(APGD)プラズマを生成するための電力を電極へ供給するように構成されている。
【0041】
電源4は、広範囲の周波数、例えばf=10kHz〜30MHzを供給する電源であってよい。
【0042】
大気圧グロー放電(APGD)プラズマはステップを超高速で実行可能なために、それを利用することで、非常に良好な結果を得ることができる。第1の堆積ステップの結果として、無機酸化物層1aが基板1上に供給される(
図4の断面図を参照)。この無機酸化物層1aそのものは、何も被覆されていないポリマー基板1に対してバリア特性の改良はない。
【0043】
最近までAPGDプラズマは安定性が悪かったが、例えば米国特許第6774569号、欧州特許第1383359号、欧州特許第1547123号、及び欧州特許第1626613号(これらは参照により本明細書に援用する)に記載の安定化回路の使用により、非常に安定したAPGプラズマが処理空間5内で得られるようになった。一般的にこれらのプラズマは、プラズマ中の局所不安定性に対処する安定化回路21(
図1a参照)によって安定化される。この安定化回路21を、プラズマ発生装置用の電源4内のAC電源20と組み合わせて使用することにより、ストリーマ放電、フィラメント放電やその他の欠陥のない、制御された安定プラズマが得られる。
【0044】
一実施形態において、安定化回路21を含む本発明の装置の使用によって、化合物や元素の前駆体を含むガス組成中で大気圧グロー放電プラズマが生成され、それによって単層の堆積が行うことができる。別の実施形態においては、基板1を処理空間5の中を複数回通過させるか、複数個の処理空間5を互いに直列して配置することによって、化合物または元素の複数層を堆積させることができる。この後者の実施形態では、各層が1nmまたはそれより大きい厚さの組成の異なる複数の層を、非常に効率的に相互に積層することが可能である。
【0045】
プラズマ処理装置においては
図1aに示すように、ガス供給装置8が、処理する基板1の内部領域へ向けて少なくとも1つの前駆体からを含むガスを送出するように構成されている。ガス供給口を利用して、ガスを処理空間5内部へ、例えば基板1の表面へ向けるようにしてもよい。供給装置8はまた主搬送ガス供給源としても作用する。アルゴン、ヘリウム、窒素などの搬送ガスが、放電開始電圧を下げる添加物ないしは混合物として、プラズマ形成に利用されてもよい。前駆体を利用することで、処理空間または処理ギャップ5内で前駆体を分解させて化合物または化学元素とし、これが超高速で基板1上に気孔率が0.3〜10%の、(活性ヒドロキシル表面部位を有する)無機酸化物層1aとして堆積される。
【0046】
ガス供給口は、本出願人による欧州特許出願第2226832号に示すようにガスを処理空間5内に向けるように使用されてもよい。参照によりこれを本明細書に援用する。ガス供給装置8には、当業者には周知のように、貯蔵、供給、及び混合の部品が備えられていてもよい。好適な前駆体は、TEOS及びHMDSOであり、基板1上に10〜100nmのシリコン酸化物の堆積層を形成する。
【0047】
本発明の実施形態によれば、(フレキシブルな)基板1の上にバリア層を形成する、時間的により早く、従ってより効率的なプロセスが提供される。第2のステップの原子層堆積(ALD)は、第1のステップでの大気圧グロー放電(APGD)プラズマを利用した無機物層の形成に追加して行われる。
【0048】
本発明による方法の実施形態の第2のステップにおいて、ALDプロセスそのものの種類は問題とならない。第2のステップのALDは、真空中の(バッチ)プロセスには限定されず、大気圧中で、熱、オゾン、またはプラズマアシストALD法として知られるような任意の方法で、ロール・ツー・ロール処理を可能とする空間方式を利用して行うことができる。
【0049】
第2のステップは、本出願人による国際出願第2007145513号及び国際出願第2009031886号(これらは引用により本明細書に援用される)に開示された、例えば大気圧グロー放電(APGD)プラズマのような、(空間)プラズマアシストALDによって行われてよい。
【0050】
本発明の実施形態の第2のステップにおいて、ALDを連続的に数サイクル行うことにより、(第1のステップで形成した)無機酸化物層1aの表面に約1〜10nmの、非常に薄い第2の層1bが成長する。これを
図4の断面図に示す。驚くべきことに、この2つのステッププロセスにより、水蒸気透過速度(WVTR)が約5*10
−4g/m
2*日以下の非常に優れたバリア(基表1面上の層1aと層1b)が得られることが判った。ただし、この2つのステップは分離されているが、1つだけの堆積(すなわち、第1のステップだけで第2のステップの堆積のないもの、または第2のステップだけで第1のステップの堆積のないもの)では、何も積層していない基板そのものに比べて、湿度バリア膜として改良された結果とはならない。従来法では同程度のWVTRを得るのに200サイクルを超えるALDを必要としたのに対し、本方法の実施形態では第2層1bの成長に僅かに5〜70サイクルのALDしか必要とせず、結果として、フレキシブル基板1の上に優れたバリアを得るための、はるかに効率的で高速のプロセスが実現された。
【0051】
本発明の実施形態の第2の(ALD)ステップは、
図2に示すように4つのサブステップ(いわゆるA/I/B/Iステップ)に分割される。左端に、Si原子で構成される基板1が示されており、これはOH−基との反応性表面部位を形成する。ステップAにおいて、前駆体材料が基板1の表面に供給され、反応表面部位が前駆体材料分子と反応して、反応部位を介して基板表面に付着した単層の前駆体分子で表面が被覆される。ステップBにおいて、前駆体分子で被覆された表面を、付着した前駆体分子を活性前駆体部位(水酸基)に変換可能な反応剤に曝露する。基板表面に多層の材料を得るために、これらの前駆体材料を供給してその表面を反応剤に曝露するステップを連続的に繰り返してよい。ステップAとステップBの間にステップI(排出ステップ)を入れて、余剰分と反応生成物とを処理空間5から除去する。
【0052】
本発明の実施形態の第2のステップは、1つの処理空間内で実行可能である。ステップA/I/B/Iに対するガス供給装置8が、ALDプロセスを適切に制御するように構成される。
【0053】
本プロセスにおいてさらに有利なことには、
図3の例示的実施形態(空間アシストALD設備)に模式的に示すように、ALDステップを少なくとも2つの分離された処理空間(1つが前駆体ステップ用、2番目がプラズマアシスト反応ステップ用)を利用して行って、高速の第2プロセスステップを可能としてもよい。ここで基板1は、気体軸受11で相互に分離された連続する処理空間の下を一定速度で移動する。気体軸受11は処理領域IとIIとの分離を可能とし、またプラズマ処理装置内の排出ステップを促進させる。第1の処理領域Iでは特別のガス供給源12を利用して、TMAなどの前駆体材料が基板1の上の処理空間内に導入される。第2の処理領域IIでは、プラズマ発生器14と、反応剤(オゾン、水または反応剤を含んだ窒素など)または反応剤(オゾン、水または反応剤を含んだ窒素など)とヘリウム、アルゴン、窒素またはこれらの混合ガスなどの希ガスから選択される不活性ガスとから成る反応性混合物、とを用いてプラズマが生成される。
【0054】
図3の実施形態において、少なくとも4つの分離した処理空間を用いて本発明の実施形態の第2のステップが実施される。処理空間IとIIの間に排出ステップを入れて、例えば不活性ガスまたは不活性ガス混合物を用いて、(処理空間I内の)余剰の前駆体分子及び/または(処理空間II内の)反応中に形成された分子の除去を行ってもよい。こうして、ALD装置内を連続的に通過させて基板1を処理することが可能となり、移動基板1の利用でプロセスをより効率的にできる。
【0055】
大気圧プラズマを利用することで、非常に低圧力での作業が不要となる。従って、大気圧プラズマアシストALDプロセスステップの使用を、有利に利用することも可能である。プロセス中に基板表面に真空または真空に近い状態を得るための複雑な構造が不要となるので、大気圧中でロール・ツー・ロール方式によるバリア膜製造が可能となる。
【0056】
更には、空間大気圧プラズマを利用することで、本発明の方法の第2のステップのALDを、
図2に示すように移動する織物状の基板を利用して順次、連続的に行ってもよく、本プロセスをより効率的にすることが可能となる。
【0057】
前駆体材料は例えば
図2に示すようにトリメチルアルミニウム(TMA)であり、これが例えばS
iO
2基板1上にAl
2O
3層1a、1bを成長させる。前駆体材料の他の例はすべてアルキルーアルミニウム化合物であり、トリエチルアルミニウム(TEA)、ALCl
3やAlBr
3のようなアルミニウムハロゲン化物、HfCl
4、TEMAH(テトラキスメチルエチルアミノハフニウム)、TiCl
4、Ti(OEt)
4またはTi(O
iPr)
4またはS
iCl
4またはZrCl
4、Zr(O
tBu)
4、ZrI
4、ZnEt
2、Zn(OAc)
2、SnCl
4、SnI
4、TaCl
5、Ta(OEt)
5などである。
【0058】
更なる実施形態によれば、前駆体材料は0.1〜5000ppmの範囲の濃度で供給される。これは、本方法の実施形態の第2のステップにおいて、基板表面上に前駆体分子の均一な単一層を得るのに十分な濃度である。
【0059】
更なる実施形態において、反応剤混合物は、ヘリウム、窒素またはこれらの混合ガスなどの希ガスから選択される不活性ガスで構成される。
【0060】
更なる実施形態において、反応剤は、酸素、またはオゾンや水などの酸素含有剤、または窒素含有剤などのような反応性ガスである。
【0061】
更なる実施形態において、本発明の第2ステップの反応剤と不活性ガスとの混合ガスは、1〜50%の反応剤を含む。これは、本方法の実施形態の第2ステップにおいて良好な反応結果を得るために十分である。
【0062】
本発明は更に、
図1a、1b、3またはその組合せで示される装置の実施形態などのような、本発明の方法の実施形態を実行可能な装置にも関する。
【0063】
更に本発明は、気孔率が0.3〜10%の範囲の薄い無機酸化物薄層1aと、厚さが0.5〜10nmの範囲で、例えば0.5、1、2、3、4、または5nmの厚さのALD薄膜層1bとを有するフレキシブル基板1にも関する。
【実施例】
【0064】
WVTR(water vapor transmission rate(水蒸気透過速度))は、最小検出限界が5*10
−4g/m
2*日の比色測定セル(電気化学セル)を利用する、Mocon社のAquatran(登録商標)モデル1を使用して決定した。この方法は、赤外吸収による透過率測定よりも、高感度で精度の高い透過率評価が可能である。全ての測定は40℃、相対湿度100%で行った。
【0065】
フィルム膜厚は、Woollam社の分光エリプソメータ、タイプD2000を用いて評価し、光学密度(屈折率)は分光エリプソメータに備えられた真空槽と加熱ステージを利用して測定した。無機酸化物の気孔率は、材料の光学密度差を測定して、ローレンツ−ローレンツの式から決定した。
【0066】
エリプソメータの測定に基づいて、ALDプロセスの成長速度が0.12nm/サイクルと決定された。
【0067】
いくつかの実施例1、6〜14では、PEN Q65−FA(100μm厚)の基板1に、国際出願第2009104957号で開示したAPGD−CVDプラズマ装置を用いて堆積した。処理空間5において、プラズマ電力600W、励起周波数200kHz、TEOS前駆体(3ppm)を用いたガス組成(95%N2/5%O2)、60nm/sのDRの条件で、本発明の実施形態の第1のステップで70nmのS
iO
2層1a(活性ヒドロキシル表面部位を持つ)を得た。
【0068】
実施例1は比較用実施例である。:SiOx層1aをPEN Q65基板1に上記のAPGD−CVDで堆積した。ただし本発明の第2のステップのALD処理は行わなかった。気孔率の測定結果は、0.3〜3%。WVTRは2g/m
2*日であり、これは未被覆のPEN基板1のWVTRとほぼ同じである。
【0069】
実施例6〜10は、実施例1と同じ第1のAPGD処理を行い、第2のステップとして、OxfordFlexAl装置を用いた空間(真空)プラズマアシストALD処理を行い、本発明の第2のステップとして基板1をそれぞれ5、10、20、50、200サイクルだけALD装置内を輸送して、それぞれ約0.5、1、2、5、20nmの厚さのバリア膜1bを堆積した。条件:真空10
−6Torr;ステップA:20ms TMA/排出ステップI:1.5s、ステップB:2sプラズマO2/排出ステップI:1.5s。膜1bは基板温度80℃で、TMAを順次注入し、プラズマアシストO
2ガスを基板1に付加して成長させた。
【0070】
実施例11〜14は、熱ALD装置を用い、それぞれ10、20、50、200サイクルだけ熱ALD装置を通過させて、それぞれ約1、2、5、20nmの厚さのバリア膜1bを堆積した。膜1bは基板温度90℃で、ステップAとしてTMAを、ステップBとしてH
2Oを順次注入して成長させた。
【0071】
実施例2〜5は比較用実施例であり、実施例6〜9のそれぞれと同様に、PEN Q65−FAの基板1(100μm厚)に、空間(真空)プラズマアシストALD装置のOxfordFlexAlを用いて準備した。ただし本発明の第1のAPGDステップは行わなかった。
【0072】
実施例15は比較用実施例であり、実施例11〜14と同様にPEN Q65−FAの基板1(100μm厚)に熱ALD装置を用いて準備した。ただし本発明の第1のAPGDステップは行わなかった。
【0073】
実施例16は本発明の実施例であり、実施例6と同じ条件で準備した。ただし基板1として、帝人デュポン社のST505(Melinex)PET(100μm厚)を用いた。
【0074】
単一のAl
2O
3層は水蒸気で損傷を受けやすい。単一のA1
2O
3層1a(実施例2〜5)のバリア特性は、ALD膜が飽和水蒸気圧に曝露されると、5日後には顕著な劣化をした。驚くべきことに、実施例6〜14ではこの現象は見られなかった。S
iO
2層1aがこの現象に対して効果的であり、これらのサンプルに対する堅牢性の改良を示した。
【0075】
表1に実施例とそれらのWVTR性能及び5日間の飽和水蒸気に曝露した後の劣化をまとめて示す。
表1