(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
対象者の顔面から検出した皮膚温度データ及びその検出部位の位置データを含む顔面皮膚温度データを時系列で取得する顔面皮膚温度取得手段(20)及び/又は対象者の顔面を時系列で撮影した撮影画像データに対して行われるRGB処理により得られた前記撮影画像データのRGBデータに基づき顔面血行量データを時系列で取得する顔面血行量取得手段と、
前記顔面皮膚温度取得手段により取得された前記顔面皮膚温度データ及び/又は前記顔面血行量取得手段により取得された前記顔面血行量データを、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析により分解することで得られた複数の成分に基づき、前記対象者の脳活動を推定する脳活動推定手段(30,130)と、
前記脳活動推定手段により推定された前記対象者の脳活動に基づき、前記対象者の感情を判定する感情判定手段(200)と、
を備える感情判定装置(300)。
前記顔面皮膚温度取得手段及び/又は前記顔面血行量取得手段は、前記対象者の顔面の副鼻腔周辺及び/又は前額部の前記顔面皮膚温度データ及び/又は前記顔面血行量データを少なくとも取得する、
請求項1又は2に記載の感情判定装置。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態を説明する前に、まず、本発明者らが本発明を為すにあたって重要な基礎となった、本発明者らによる知見について説明する。
【0028】
(1)本発明者らによる知見の要点
人間の脳活動には、人間の知的活動(認知活動等)及び情動活動(快/不快等の活動)が反映されていることが知られている。そして、従来、人間の脳活動を推定する試みがされているが、この場合、脳波計測法、磁気共鳴画像法及び近赤外線分光法のいずれかの方法によって検出されたデータが利用されることが多い。
【0029】
ここで、検出方法として、例えば、脳波計測法が採用される場合には、被験者に対して脳波電極を装着する必要がある。そして、脳波電極を装着する際には皮膚と電極との間の抵抗を小さくする必要があるため、皮膚を研磨する処理を行ったり電極にペーストを塗布したりする等の作業が必要になる。また、磁気共鳴画像法が採用される場合には、MRI室以外での測定が不可能であるとともに、測定室内に金属を持ち込むことができない等の測定条件に制約がある。さらに、近赤外線分光法が採用される場合には、被験者に対してプローブを装着する必要があるが、プローブを長時間装着することで被験者が痛みを感じたり、被験者の髪とプローブとの接触具合によっては正確に検出できなかったりすることがある。このように、人間の脳活動を測定するために従来の検出方法が採用される場合、脳波電極やプローブ等を装着する際の前処理が必要であったり、測定条件が限定されたりする等、被験者に与える負担が大きくなる。
【0030】
したがって、被験者の負担を軽減し、かつ簡便に人間の脳活動を推定できる手段の開発が求められている。
【0031】
そして、本発明者らは、人間の顔面の皮膚温度又は顔面の皮膚温度に比例すると考えられている顔面の血行状態に基づき人間の脳活動を推定することができるのではないか、と考えた。人間の顔面の皮膚温度であればサーモグラフィ等の測定装置を用いることで取得することができ、顔面の血行状態すなわち顔面の血行量であれば撮影装置を利用して得られる顔面の撮影画像のRGBデータから推定することができる。このように、顔面の皮膚温度や顔面の撮影画像であれば、脳波電極やプローブ等の装着前に処理が必要なセンサを装着することなく取得することができる。
【0032】
一方で、人間の顔面の皮膚温度は、外気温度及び/又は自律神経の活動等の様々な要因の影響を受けて変化することが知られている。このため、顔面の皮膚温度に基づいて又は顔面の皮膚温度に比例すると考えられる顔面の血行量に基づいて脳活動を推定しようとすると、取得したデータが脳活動のみを反映しているかどうかを判断することは、非常に困難であると考えられる。
【0033】
本発明者らは、鋭意検討した結果、顔面の皮膚温度を検出し、検出した温度データ及び検出部位の位置データ(座標データ)を含む時系列の顔面皮膚温度データを、或いは、時系列の顔面の撮影画像データから得られるRGBデータに基づき算出された時系列の顔面の血行量データを、特異値分解法、主成分分析法若しくは独立成分分析法を用いて複数の成分に分解し、分解した複数の成分について解析を行うことで、脳活動を反映した顔面の皮膚温度の変化或いは顔面の血行量の変化を示す成分を同定することができることを見いだした。そして、本発明者らは、対象者の脳活動を推定し、これを解析することで、推定した脳活動に基づき対象者の生理状態を可視化することのできる本発明に到達した。
【0034】
(2)顔面の各種データの取得方法、及び取得した各種データの解析方法
(2−1)顔面皮膚温度データの取得方法、及び顔面皮膚温度データの解析方法
次に、本発明者らが上記の知見を得るに際して用いた顔面皮膚温度データの取得方法、及び顔面皮膚温度データの解析方法について説明する。
【0035】
この試験では、6名の被験者から顔面皮膚温度データを取得した。具体的には、室温25℃を維持した人工気象室内に設置した椅子に被験者を座らせて、赤外線サーモグラフィ装置を用いて、被験者の顔面全体から顔面皮膚温度データを取得した。赤外線サーモグラフィ装置は、対象物から出ている赤外線放射エネルギーを赤外線カメラで検出し、検出した赤外線放射エネルギーを対象物表面の温度(ここでは、摂氏での温度)に変換して、その温度分布を顔面皮膚温度データ(例えば、温度分布を表した画像データ)として表示、蓄積することが可能な装置である。なお、この試験では、赤外線サーモグラフィ装置として、NEC Avio 赤外線テクノロジー株式会社製のR300を使用した。また、赤外線カメラは、被験者の正面であって、被験者から1.5m離れた地点に設置した。そして、顔面皮膚温度データは、30分間取得した。
【0036】
また、この試験では、顔面皮膚温度データを取得している間に、被験者に対して脳機能賦活課題を与えた。これにより、脳の非賦活時の顔面皮膚温度データ、及び脳の賦活時の顔面皮膚温度データを取得した。脳機能賦活課題としては、被験者が表示装置等に表示された映像に基づいて、計算、又は、数値、形状及び色の認知、或いは、記号、文字ないし言語の記憶などの心理的作業が挙げられる。この試験では、脳機能賦活課題として「かけ算の暗算」を採用し、被験者に、表示装置に筆算形式で表示される数字を計算させ、その回答をキーボードに入力させる作業を課した。なお、この試験では、顔面皮膚温度データの取得開始から5分経過後から10分間継続して、被験者に対して脳機能賦活課題を与えた。
【0037】
顔面皮膚温度データの解析としては、取得した顔面皮膚温度データを対象として、MATLAB(登録商標)のSVD(Singular Value Decomposition)を分析ツールとして用いて特異値分解を行った。特異値分解では、時系列で取得した全ての顔面皮膚温度データ(30分間のデータ)を対象とし、要因を30秒毎の時間データ(30分間で60 time point)とし、測度をその期間(30秒間)における顔面皮膚温度データ(240×320 pixels)とした。そして、特異値分解により、顔面皮膚温度データXを、複数の成分に分解し、それぞれの成分の時間分布Vと、空間分布Uと、各成分の大きさを示す特異値Sとを算出した。なお、これらの関係は、以下の式で表される。また、V’は、Vの行と列とを入れ替えた行列である。
【0039】
そして、特異値分解によって求められた各成分の時間分布V及び空間分布Uをグラフにプロットし、各成分の成分波形図と温度分布図とを作成した。
【0040】
さらに、作成した各成分の成分波形図及び温度分布図について、脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分を同定するための解析を行った。
【0041】
各成分の成分波形図については、その成分波形の振幅と、脳の非賦活時及び脳の賦活時との相関関係の有無について解析した。具体的には、各成分の成分波形図に示された振幅と、脳の非賦活期間/脳の賦活期間との間に相関関係があるか否かを評価した。この試験では、顔面皮膚温度データを取得している期間のうち、被験者に対して脳機能賦活課題が与えられていない期間であるデータ取得開始時点から5分が経過した時点までの5分間の期間、及びデータ取得開始時から15分が経過した時点からデータ取得終了時点までの15分間の期間を脳の非賦活時とし、被験者に対して脳機能賦活課題が与えられている期間であるデータ取得開始時から5分が経過した時点から10分が経過した時点までの10分間の期間を脳の賦活時とした。そして、各成分の成分波形図に示された振幅と、脳の非賦活時及び脳の賦活時との相関関係の有無について評価した。なお、相関関係の有無については、統計的相関分析を行い、有意水準(α)が0.05以下の場合に相関があると判断した。
【0042】
各成分の温度分布図については、顔面の所定部位における温度変化の有無について解析した。ここで、脳には、選択的脳冷却機構(Selective Brain Cooling System)という体温とは独立して脳を冷却する仕組みがある。選択的脳冷却機構としては、脳活動によって生じた熱を前額部及び副鼻腔周辺(眉間及び鼻部周辺を含む)を用いて排熱していることが知られている。そこで、この試験では、各成分の温度分布図において、副鼻腔周辺及び前額部における温度変化があるか否かを評価した。なお、温度分布図における副鼻腔周辺及び前額部の温度変化の有無については、目視(visual inspection)による温度変化の有無、もしくは副鼻腔周辺及び前額部の温度が測定データ全体の平均温度から1標準偏差(SD)以上異なるか否かを温度変化の有無の基準とした。
【0043】
なお、空間分布U、特異値S及び時間分布Vの値の関係で、顔面皮膚温度データXの極性(プラスマイナス)が決定するため、各成分の成分波形図及び温度分布図において極性が反転して現れることがある。このため、成分波形図及び温度分布図の評価に関して、極性については評価対象としないこととした。
【0044】
ここで、この赤外線サーモグラフィ装置では、上述しているように、対象物から検出された赤外線放射エネルギーを温度に変換して、その温度分布を顔面皮膚温度データとしている。ところで、人間を対象として赤外線サーモグラフィ装置を用いて顔面の皮膚温度を取得する場合、顔面の動き及び/又は自律神経の活動等の様々な脳活動とは関連しない温度変化(いわゆるノイズ)についても顔面皮膚温度データとして取得してしまう。そこで、このような脳活動とは関連しない温度変化を検出するために、30秒毎の顔面皮膚温度データに含まれる温度データの全平均値を「0」とした相対的な顔面皮膚温度データを作成し、作成した顔面皮膚温度データについても、MATLAB(登録商標)のSVDを分析ツールとして用いて特異値分解を行い、特異値Sに応じた各成分の成分波形図と温度分布図とを作成し、脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分を同定するための解析を行った。
【0045】
なお、以下より、説明の便宜上、赤外線サーモグラフィ装置で取得した顔面皮膚温度データを「温度換算データに応じた顔面皮膚温度データ」といい、所定時間毎(この試験では30秒毎)の温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに含まれる温度データの全平均値を「0」とした相対的な顔面皮膚温度データを「相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データ」という。
【0046】
また、6名の被験者のうちの1名に対しては、赤外線サーモグラフィ装置による顔面皮膚温度の検出の他に、被験者の頭皮上に電極を接続して脳波を測定し、覚醒時や意識が緊張した時に現れる波形として知られているβ波(14〜30Hzの周波数の脳波)の振幅と、成分波形図の振幅との間の相関関係についても評価した。なお、脳波測定では、国際式10−20法に基づき、6つの部位(F3、F4,C3、C4、Cz、Pz)に電極を配置した。
【0047】
ところで、被験者に脳機能賦活課題が与えられている間、被験者の頭が上下に動くことが考えられる。そうすると、赤外線カメラに対する被験者の顔面の位置が変化することになる。この顔面の位置の変化が皮膚温度の変化に影響しているか否かを検証するために、被験者1名に対して対照試験を行った。顔面皮膚温度データを取得する際の被験者の動きの影響を検証するための対照試験では、上記試験と同様に赤外線サーモグラフィ装置を用いて被験者の顔面皮膚温度データを取得するが、脳機能賦活課題が与えられていない間(すなわち、脳の非賦活時)についてもランダムなタイミングでキーボードを押す作業を被験者に課した。この対照実験によって得られた温度換算データに応じた顔面皮膚温度データ及び相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データについても、MATLAB(登録商標)のSVDを分析ツールとして用いて特異値分解を行い、特異値Sに応じた各成分の成分波形図と温度分布図とを作成し、脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分を同定するための解析を行った。
【0048】
(2−2)顔面撮影画像データの取得方法、及び顔面撮影画像データの解析方法
図1(a)は、撮影装置にて撮影した被験者の顔面の副鼻腔周辺の撮影画像データの一例を示す図である。
図1(b)は、血行量分布図(画像マップ)の一例を示す図である。
【0049】
次に、本発明者らが上記の知見を得るに際して用いた顔面撮影画像データの取得方法、及び顔面撮影画像データの解析方法について説明する。
【0050】
この試験では、6名の被験者から顔面の撮影画像データを取得した。具体的には、室温25℃を維持した人工気象室内に設置した椅子に被験者を座らせて、時系列で画像を取得可能な撮影装置を用いて、被験者の顔面全体の副鼻腔周辺の撮影画像データを時系列で取得した。
【0051】
また、上述した選択的脳冷却機構に基づくと、脳活動に伴う顔面皮膚温度に比例すると考えられる顔面の血行量の変化は、前額部及び/又は副鼻腔周辺に出現すると考えられる。このことから、本発明者らは、少なくとも前額部及び/又は副鼻腔周辺の顔面の血行量の変化を捉えることができれば、精度良く脳活動を推定することができる、と考えた。そして、この試験では、被験者の顔面の副鼻腔周辺の撮影画像データを時系列で取得した。
【0052】
また、この試験では、撮影装置として、Apple社製のiPad Air(登録商標)の備える液晶画面側の撮影装置を使用し、時系列の撮影画像データとしてカラーの動画データを取得した。また、撮影装置を、被験者の正面側であって、被験者から1.0m離れた地点に設置した。そして、撮影装置によって、30フレーム/秒の撮影周期で時間軸に沿って30分間の撮影画像データを連続撮影することで、顔面の動画データを得た。
【0053】
さらに、この試験では、顔面の動画データを取得している間に、被験者に対して脳機能賦活課題を与えた。これにより、脳の非賦活時の顔面の動画データ、及び脳の賦活時の顔面の動画データを取得した。この試験では、上記試験と同様に、脳機能賦活課題として「かけ算の暗算」を採用し、被験者に、表示装置に筆算形式で表示される数字を計算させ、その回答をキーボードに入力させる作業を課した。なお、この試験では、顔面の動画データの取得開始から5分経過後から10分間継続して、被験者に対して脳機能賦活課題を与えた。
【0054】
顔面の動画データの解析としては、撮影した顔面の動画データより得られたRGBデータに基づき血行量データを算出し、算出した時系列の血行量データを対象として、MATLAB(登録商標)のSVDを分析ツールとして用いて特異値分解を行った。ここでは、CIE−L
*a
*b
*表色系に従って、画像のRGBデータより演算される肌の赤みやヘモグロビン量と相関のある紅斑指数「a
*」を求め、これを血行量データとした。また、特異値分解では、時系列で取得した全ての動画データ(30分間のデータ)から得られたRGBデータに基づく血行量データ(ここでは、紅斑指数)を対象とし、要因を30秒毎の時間データ(30分間で60 time point)とし、測度をその期間(30秒毎)におけるRGBデータから演算した紅斑指数(30秒毎に1秒間のフレームデータを取り出し、該フレームデータから得られるRGB値の平均値から演算した紅斑指数;240×320 pixels)とした。そして、特異値分解により、顔面の動画データより得られたRGBデータに基づく時系列の血行量データを、複数の成分に分解し、それぞれの成分の時間分布Vと、空間分布Uと、各成分の大きさを示す特異値Sとを算出した。なお、これらの関係は、上記式(数1)と同様の式で表される。
【0055】
そして、特異値分解によって求められた各成分の時間分布V及び空間分布Uをグラフにプロットし、各成分の成分波形図と血行量分布図とを作成した。
【0056】
さらに、作成した各成分の成分波形図及び血行量分布図について、脳活動を反映した顔面の血行量の変化すなわち顔面のRGB変化を示す成分を同定するための解析を行った。
【0057】
各成分の成分波形図については、その成分波形の振幅と、脳の非賦活時及び脳の賦活時との相関関係の有無について解析した。具体的には、各成分の成分波形図に示された振幅と、脳の非賦活期間/脳の賦活期間との間に相関関係があるか否かを評価した。この試験では、顔面の撮影画像データを取得している期間のうち、被験者に対して脳機能賦活課題が与えられていない期間であるデータ取得開始時点から5分が経過した時点までの5分間の期間、及びデータ取得開始時から15分が経過した時点からデータ取得終了時点までの15分間の期間を脳の非賦活時とし、被験者に対して脳機能賦活課題が与えられている期間であるデータ取得開始時から5分が経過した時点から10分が経過した時点までの10分間の期間を脳の賦活時とした。そして、各成分の成分波形図に示された振幅と、脳の非賦活時及び脳の賦活時との相関関係の有無について評価した。なお、相関関係の有無については、統計的相関分析を行い、有意水準(α)が0.01以下の場合に相関があると判断した。
【0058】
各成分の血行量分布図については、顔面の所定部位における血行量変化の有無について解析した。血行量分布図は、ピクセル毎に算出された空間分布Uを各ピクセルの位置に並べることで作成される。このように作成された各成分の血行量分布図において、副鼻腔周辺及び前額部における血行量の変化があるか否かを評価した。なお、血行量分布図における副鼻腔周辺及び前額部の血行量変化の有無については、目視(visual inspection)による血行量変化の有無、もしくは
図1(b)に示す副鼻腔周辺及び前額部の血行量の値が「0.000」でないことを血行量変化の有無の基準とした。
【0059】
なお、空間分布U、特異値S及び時間分布Vの値の関係で、血行量データXの極性(プラスマイナス)が決定するため、各成分の成分波形図及び血行量分布図において極性が反転して現れることがある。このため、成分波形図及び血行量分布図の評価に関して、極性については評価対象としないこととした。
【0060】
さらに、顔面の皮膚温度と顔面の血行量との相関関係を検証するために、6名の被験者から顔面の撮影画像データを時系列で取得している間、赤外線サーモグラフィ装置により顔面皮膚温度データも時系列で取得し、取得した顔面皮膚温度データについてもMATLAB(登録商標)のSVDを分析ツールとして用いて特異値分解を行い、特異値Sに応じた各成分の成分波形図を作成し、その成分波形の振幅と、脳の非賦活時及び脳の賦活時との相関関係の有無について解析した。なお、この試験では、赤外線サーモグラフィ装置として、上記試験と同様の装置を用いた。また、赤外線カメラは、被験者の正面であって、被験者から1.5m離れた地点に設置した。
【0061】
ところで、撮影装置を用いて顔面の撮影画像データを取得する場合、撮影中に太陽の光等が顔に当たることで光が顔で反射し、この反射光が撮影装置のレンズに入り込んでしまうことがある。そうすると、撮影された顔面の撮影画像データにはこの反射光が記録されてしまうことになる。ここで、撮影画像データから得られるRGBデータにおいて、顔面の血行量に基づく明度の変化は反射光に基づく明度の変化よりも小さいため、反射光の記録された撮影画像データから得られるRGBデータに基づいて算出された血行量が解析されると、脳活動とは関連しない顔面のRGB変化(いわゆるノイズ)が混入してしまう可能性があると考えられた。そこで、このような脳活動とは関連しない顔面のRGB変化の混入を防ぐために、30秒毎のRGBデータの全平均値を「0」とした相対的なRGBデータから相対的な血行量データを作成し、作成した血行量データについても、MATLAB(登録商標)のSVDを分析ツールとして用いて特異値分解を行い、特異値Sに応じた各成分の成分波形図と血行量分布図とを作成し、脳活動を反映した顔面のRGB変化を示す成分を同定するための解析を行った。
【0062】
なお、以下より、説明の便宜上、所定時間毎(この試験では30秒毎)のRGBデータの全平均値を「0」とした相対的なRGBデータに基づく相対的な血行量データを「相対換算血行量データ」といい、相対的なRGBデータに換算する前のRGBデータに基づく血行量データを単に「血行量データ」という。
【0063】
また、6名の被験者に対して撮影装置によって顔面の時系列の撮影画像データを取得している間、各被験者の頭皮上に電極を接続して脳波を測定し、覚醒時等の脳細胞が活動している時に現れる波形として知られているβ波(13〜30Hzの周波数の脳波)の振幅と、成分波形図の振幅との間の相関関係についても評価した。なお、脳波測定では、国際式10−20法に基づき、頭皮上19の部位(Fp1、Fp2、F3、F4、C3、C4、P3、P4、O1、O2、F7、F8、T3、T4、T5、T6、Fz、Cz及びPz)に電極を配置した。
【0064】
さらに、被験者に脳機能賦活課題が与えられている間、被験者の頭が上下に動くことが考えられる。そうすると、撮影装置に対する被験者の顔面の位置が変化することになる。この顔面の位置の変化が顔面のRGB変化に影響しているか否かを検証するために、被験者1名に対して対照試験を行った。対照試験では、上記試験と同様に撮影装置を用いて被験者の顔面の時系列の撮影画像データを取得するが、脳機能賦活課題が与えられていない間(すなわち、脳の非賦活時)についてもランダムなタイミングでキーボードを押す作業を被験者に対して課した。この対照実験によって撮影された顔面の時系列の撮影画像データから得られたRGBデータに基づく時系列の血行量データについても、MATLAB(登録商標)のSVDを分析ツールとして用いて特異値分解を行い、特異値Sに応じた各成分の成分波形図を作成し、その成分波形の振幅と、脳の非賦活時及び脳の賦活時との相関関係の有無について解析した。また、各成分波形の振幅と、実際の顔面の動きとの相関関係の有無について解析した。実際の顔面の動きは、撮影画像データから顔の同一箇所の2次元座標を取得し、対照実験開始時の撮影画像データを基準として撮影時における30秒毎の顔面の移動距離を算出することで評価した。さらに、各成分波形の振幅と、撮影中のキーボードの入力数との相関関係の有無についても解析した。撮影中のキーボードの入力数は、時系列の撮影画像データにおける30秒毎の単純移動平均を算出することで評価した。
【0065】
(3)解析結果
以下、特異値の大きいものから順次「成分1,2,・・・」としている。各成分は全体の分散に占める割合を示しており、変化の大きい影響が成分1に反映される。具体的には、被験者の動作や外界ノイズの影響が成分1に反映される傾向がある。結果として、成分1より成分2の成分波形に脳活動の影響が反映されることが少なくない。
【0066】
(3−1)顔面皮膚温度データの解析結果
図2は、温度換算データに応じた顔面皮膚温度データを解析した結果の一部を示す図である。
図2(a)は、被験者1の成分2の成分波形図を示している。
図2(b)は、被験者1の成分2の温度分布図を示している。
図3(a)は、被験者1の成分3の成分波形図を示している。
図3(b)は、被験者1の成分3の温度分布図を示している。
図4及び
図5は、成分波形の振幅と、脳波との関係を示す図である。
図4は、被験者1の成分2の成分波形の振幅と、測定された脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図5は、被験者1の成分3の成分波形の振幅と、測定された脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図6は、対照実験で得られた顔面皮膚温度データを解析した結果の一部を示す図である。
図6(a)は、成分3の成分波形図を示している。
図6(b)は、成分3の温度分布図を示している。
【0067】
表1は、各被験者に対する顔面皮膚温度データの解析結果を示したものである。
【0068】
上記の顔面皮膚温度データの解析によって得られた結果から、時系列の顔面皮膚温度データを特異値分解により分解して得られた複数の成分のうち、成分2及び/又は成分3と、人間の脳活動との間に有意な相関があることが確認された。
【0070】
また、
図4及び
図5に示すように、脳波解析の結果から、成分2及び成分3の各成分波形の振幅と、脳波のβ波の振幅との間に有意な相関が確認された。
【0071】
さらに、対照実験では、脳機能賦活課題が与えられていない間に被験者に動きがある状態であっても、成分3と人間の脳活動との間に有意な相関があった(
図6参照)。このことから、複数の成分のうち、成分3については、顔面皮膚温度データを取得する際の被験者の動きが影響していないことが認められた。
【0072】
これらの結果から、本発明者らは、以下の知見を得た。
【0073】
被験者から取得した時系列の顔面皮膚温度データを特異値分解により複数の成分に分解し、分解した各成分について解析した結果、複数の成分のうちの成分3が脳活動に関連する成分であると認められた。すなわち、時系列の顔面皮膚温度データを特異値分解により複数の成分に分解し、分解した複数の成分から脳の賦活/非賦活と相関のある成分を抽出し、抽出した成分について選択的脳冷却機構を利用した解析を行うことで、複数の成分から脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分を同定することができることが判明した。このことから、本発明者らは、人間の顔面の皮膚温度に基づいて、脳活動を推定することができる、という知見を得た。
【0074】
(3−2)顔面の撮影画像データの解析結果
図7〜
図18は、顔面の撮影画像データ(血行量データ)又は顔面皮膚温度データに基づく成分波形図と、測定された脳波のうちのβ波の波形図を比較解析した結果の一部を示す図である。
図7は、被験者1の撮影画像データに基づく成分2の成分波形の振幅と、測定された被験者1の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図8は、被験者1の顔面皮膚温度データに基づく成分2の成分波形の振幅と、測定された被験者1の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図9は、被験者2の撮影画像データに基づく成分2の成分波形の振幅と、測定された被験者2の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図10は、被験者2の顔面皮膚温度データに基づく成分2の成分波形の振幅と、測定された被験者2の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図11は、被験者3の撮影画像データに基づく成分4の成分波形の振幅と、測定された被験者3の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図12は、被験者3の顔面皮膚温度データに基づく成分3の成分波形の振幅と、測定された被験者3の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図13は、被験者4の撮影画像データに基づく成分3の成分波形の振幅と、測定された被験者4の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図14は、被験者4の顔面皮膚温度データに基づく成分2の成分波形の振幅と、測定された被験者4の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図15は、被験者5の撮影画像データに基づく成分2の成分波形の振幅と、測定された被験者5の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図16は、被験者5の顔面皮膚温度データに基づく成分2の成分波形の振幅と、測定された被験者5の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図17は、被験者6の撮影画像データに基づく成分4の成分波形の振幅と、測定された被験者6の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
図18は、被験者6の顔面皮膚温度データに基づく成分3の成分波形の振幅と、測定された被験者6の脳波のうちのβ波の振幅とを示す図である。
【0075】
図7〜
図18に示すように、各成分波形と脳波解析との結果から、顔面の皮膚温度と顔面の血行量とが相関関係にあることが確認された。なお、顔面の皮膚温度データ及び顔面の血行量データのいずれのデータに基づく解析においても、各成分波形の振幅と、頭頂部又は後頭部に装着した電極が測定した脳波のβ波の振幅との間に有意な相関が確認された。
【0076】
以下に示す表2は、各被験者に対する顔面の撮影画像データの解析結果を示したものである。
【0078】
表2に示すように、上記の顔面の撮影画像データの解析によって得られた結果から、顔面の撮影画像データに基づく時系列の血行量データを特異値分解により分解して得られた複数の成分のうち、成分1,2,3,4,5と人間の脳活動との間に有意な相関があることが確認された。なお、ここでは、血行量データに基づく相関において有意な相関が見られかつ相対換算血行量データに基づく相関において有意な相関が見られた成分だけでなく、血行量データに基づく相関においては有意な相関が見られなかったが相対換算血行量データに基づく相関において有意な相関が見られた成分も、人間の脳活動と有意な相関があると認めるようにした。
【0079】
また、以下に示す表3は、対照実験の結果を示したものである。
【0081】
表3に示すように、対照実験では、脳機能賦活課題が与えられていない間に被験者に動きがある場合、成分1,2の成分波形の振幅と脳の非賦活時及び脳の賦活時との間に有意な相関があった。さらに、成分2については、脳機能賦活課題が与えられていない間に被験者に動きがある場合でも、移動距離及びキーボード入力数それぞれとの間に有意な相関が認められなかった。このことから、顔面の撮影画像データから取得したRGBデータに基づく血行量データを特異値分解することで得られる複数の成分において、脳活動との間に有意な相関がある成分については、顔面の時系列の撮影画像データを取得する際の被験者の動きによる影響を受けたとしても、その影響は脳の脳活動による影響(脳の賦活や非賦活による影響)よりも遙かに小さいことが確認された。
【0082】
これらの結果から、本発明者らは、以下の知見を得た。
【0083】
被験者から取得した時系列の顔面の撮影画像データに基づく顔面のRGBデータから得られる血行量データを特異値分解により複数の成分に分解し、分解した各成分について解析した結果、複数の成分のうちの成分1,2,3,4,5が脳活動に関連する成分であると認められた。すなわち、時系列の顔面の撮影画像データに基づく顔面のRGBデータから得られる血行量データを特異値分解により複数の成分に分解し、分解した複数の成分から脳の賦活/非賦活と相関のある成分を抽出し、抽出した成分について解析することで、複数の成分から脳活動を反映した顔面のRGB変化を示す成分を同定することができることが判明した。このことから、本発明者らは、人間の顔面の時系列の撮影画像データに基づいて、脳活動を推定することができる、という知見を得た。
【0084】
(4)脳活動可視化装置
次に、上記に説明した知見に基づいて、本発明者らが完成するに至った本発明の一実施形態に係る脳活動可視化装置10,110について説明する。なお、本発明に係る脳活動可視化装置は、以下の実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0085】
本発明の一実施形態に係る脳活動可視化装置10,110は、顔面皮膚温度データに基づき脳活動を推定する脳活動推定手段30、及び/又は顔面の撮影画像データに基づき脳活動を推定する脳活動推定手段130を備えている。以下では、本発明の一実施形態に係る脳活動可視化装置10,110を説明する前に、各脳活動推定手段30,130について説明する。
【0086】
(4−1)顔面皮膚温度データに基づき脳活動を推定する脳活動推定手段30
図19は、本発明の一実施形態に係る脳活動可視化装置10の概略図である。
図20は、脳活動可視化装置10において脳機能を反映した皮膚温度の変化を示す成分を同定する際の処理の流れを示すフローチャートである。
【0087】
脳活動可視化装置10の備える脳活動推定手段30は、個人(被験者)の顔面の皮膚温度から、個人の脳活動を推定する。脳活動可視化装置10は、
図19に示すように、顔面皮膚温度取得手段20と、脳活動推定手段30と、状態可視化手段200と、を備える。
【0088】
顔面皮膚温度取得手段20は、個人の顔面の少なくとも一部の皮膚温度を検出し、検出した温度データ及びその検出部位の位置データを含む顔面皮膚温度データを時系列で取得する(ステップS1)。なお、ここでは、顔面皮膚温度取得手段20は、赤外線サーモグラフィ装置であり、
図19に示すように、赤外線カメラ21と、処理部22と、を有する。赤外線カメラ21は、個人の顔面から出ている赤外線放射エネルギーを検出するためのものである。そして、ここでは、赤外線カメラ21は、個人の顔面全体から赤外線放射エネルギーを検出しているものとする。処理部22は、赤外線カメラ21によって検出した赤外線放射エネルギーを温度に変換して温度データとし、赤外線放射エネルギーの検出された部位を位置データ(座標データ)とした顔面全体における顔面皮膚温度の温度分布図を作成し、作成した温度分布図を温度換算データに応じた顔面皮膚温度データとして処理する。温度換算データに応じた顔面皮膚温度データは、処理部22の有する記憶部(図示せず)に蓄積される。
【0089】
ここでは、処理部22において、顔面全体における顔面皮膚温度の温度分布図が作成されているが、これに限定されず、少なくとも副鼻腔周辺及び/又は前額部を含む顔面皮膚温度の温度分布図が作成され、これが温度換算データに応じた顔面皮膚温度データとされてもよい。
【0090】
また、ここでは、顔面皮膚温度取得手段20により温度換算データに応じた顔面皮膚温度データが取得されている間に、個人に対して脳機能賦活課題が一定期間与えられる。すなわち、顔面皮膚温度取得手段20により取得される温度換算データに応じた顔面皮膚温度データには、個人に対して脳機能賦活課題が与えられている期間のデータが含まれていることになる。なお、個人に対して与えられる脳機能賦活課題としては、脳が賦活状態になると推定されるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、脳活動可視化装置10の利用目的に応じてその内容が適宜決定されるよう構成されていてもよい。
【0091】
脳活動推定手段30は、顔面皮膚温度取得手段20により取得された温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに基づき、人間の脳活動を推定する。具体的には、脳活動推定手段30は、
図19に示すように、換算部31と、解析部32と、推定部33と、を有する。
【0092】
換算部31は、温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに含まれる温度データを相対的な温度データに換算し、換算した相対的な温度データに基づく顔面皮膚温度データすなわち相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データを作成する(ステップS2)。具体的には、換算部31は、所定時間毎(例えば、30秒)の温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに含まれる温度データの平均値を基準値として、該温度データを相対的な温度データに換算する。そして、換算部31は、換算した相対的な温度データ及び位置データを利用して、相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データを作成する。
【0093】
解析部32は、時系列の温度換算データに応じた顔面皮膚温度データ及び相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データのそれぞれを、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析により複数の成分に分解する(ステップS3)。ここでは、解析部32は、取得した温度換算データに応じた顔面皮膚温度データ及び換算した相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データのそれぞれを対象として、MATLAB(登録商標)のSVDを分析ツールとして用いて、特異値分解を行う。特異値分解は、時系列で取得した温度換算データに応じた顔面皮膚温度データ及び相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データについて、要因を所定期間(例えば、30秒)毎の時間データとし、測度をその期間における温度換算データに応じた顔面皮膚温度データ及び相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データとして行われる。そして、特異値分解により、温度換算データに応じた顔面皮膚温度データ及び相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データのそれぞれを複数の成分に分解し、時間分布と、空間分布と、各成分の大きさを示す特異値とを算出する。
【0094】
また、解析部32は、特異値分解によって分解した複数の成分から脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分を同定するために、各成分が第1条件及び第2条件を満たすか否かを判定する(ステップS4a、ステップS4b、ステップS5a、及びステップS5b)。なお、ここでは、解析部32において、まず、温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに基づく各成分について第1条件が満たされているか否かが判定され(ステップS4a)、ステップS4aにおいて第1条件が満たされていると判定された温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに基づく成分について第2条件が満たされているか否かが判定される(ステップS4b)。そして、相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに基づく各成分のうちステップS4a及びステップS4bにおいて第1条件及び第2条件を満たすと判定された成分と一致する成分についてのみ第1条件が満たされているか否かが判定され(ステップS5a)、その後、ステップS5aにおいて第1条件が満たされていると判定された相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに基づく成分について第2条件が満たされているか否かが判定される(ステップS5b)。しかしながら、解析部32における該判定の順序はこれに限定されるものではなく、例えば、温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに基づく各成分と、相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに基づく各成分とが、第1条件及び第2条件を満たすか否かがそれぞれ判定され、判定結果の一致する成分が最終的に抽出されてもよい。
【0095】
第1条件とは、特異値分解によって分解した成分の成分波形の振幅が、脳の非賦活時及び脳の賦活時の変化と相関関係にある、という条件である。解析部32は、複数の成分のうち、第1条件を満たす成分を、判定用成分として抽出する。なお、ここでは、温度換算データに応じた顔面皮膚温度データを取得している間に、個人に対して脳機能賦活課題が与えられている期間が一定期間ある。解析部32は、個人に対して脳機能賦活課題が与えられていない期間を脳の非賦活時とし、個人に対して脳機能賦活課題が与えられている期間を脳の賦活時として、脳機能賦活課題が与えられている期間及び与えられていない期間と、各成分の成分波形とを比較解析する。解析部32は、成分波形データに基づく比較解析結果を利用して、各成分の成分波形と脳の非賦活時及び脳の賦活時とが相関関係にあるか否かを評価し、複数の成分のうち相関関係にあると評価した成分を、第1条件を満たす判定用成分として抽出する。一方、解析部32は、複数の成分のうち相関関係にないと評価した成分を、第1条件を満たさず人間の脳活動を反映した温度変化を示す成分ではないと判定する(ステップS6)。
【0096】
ここでは、温度換算データに応じた顔面皮膚温度データの取得時に個人に対して脳機能賦活課題が一定期間与えられており、これに基づき解析部32は判定用成分を抽出しているが、第1条件の内容、すなわち解析部32における判定用成分の抽出手段はこれに限定されない。例えば、予め実験等がされていることで複数の成分のうち脳の非賦活時及び脳の賦活時と相関関係にある成分波形を示す成分が特定されている場合には、解析部32は、複数の成分から特定されている該成分を判定用成分として抽出する。また、本脳活動可視化装置において眼球運動又はまたたき等の脳の賦活/非賦活に関連することが知られている人間の動作が検出される場合には、解析部32が、この検出結果と各成分の成分波形とを比較解析及び評価することで、複数の成分から判定用成分を抽出してもよい。なお、解析部32による第1条件を満たすか否かの判定の基準は、脳活動可視化装置10の利用目的等に応じて、シミュレーションや実験、机上計算等によって適宜決定される。
【0097】
第2条件は、抽出した判定用成分において、人間の顔面の所定部位における温度変化がある、という条件である。解析部32は、判定用成分のうち、第2条件を満たす成分を、人間の脳活動に関連している可能性の高い成分と判定し、候補成分として抽出する。すなわち、解析部32は、人間の顔面の所定部位における温度変化の有無に基づき、判定用成分が人間の脳活動に関連しているか否かを判定する。具体的には、解析部32は、抽出した判定用成分の温度分布データに基づき、副鼻腔周辺及び/又は前額部において温度変化が生じているか否かを判定し、温度変化が生じている場合には該判定用成分が第2条件を満たす人間の脳活動に関連する可能性の高い成分であると判定し、候補成分として抽出する。一方で、解析部32は、副鼻腔周辺及び/又は前額部において温度変化が生じていない場合には、該判定用成分は第2条件を満たさず脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分ではない、と判定する(ステップS6)。なお、解析部32による第2条件を満たすか否かの判定の基準は、脳活動可視化装置10の利用目的等に応じて、シミュレーションや実験、机上計算等によって適宜決定される。
【0098】
そして、解析部32は、ステップS5bにおいて第2条件を満たすと判定した成分を、脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分として同定する(ステップS7)。すなわち、ステップS7において脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分として同定される成分は、温度換算データに応じた顔面皮膚温度データを特異値分解により分解し解析することで抽出された候補成分と、相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データを特異値分解により分解し解析することで抽出された候補成分と、の間で一致している成分ということになる。なお、両解析で一致していない候補成分については、ステップS6において脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分ではない、と判定されている。
【0099】
推定部33は、解析部32において人間の脳活動を反映した皮膚温度の変化を示す成分として同定された成分に基づいて、人間の脳活動を推定する。具体的には、推定部33は、解析部32において同定された成分の成分波形データに基づいて、顔面皮膚温度データの取得時における脳活動量を推定する。
【0100】
(4−1−1)変形例1A
上記脳活動推定手段30は換算部31を有しており、換算部31によって相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データが作成されている。そして、解析部32が、顔面皮膚温度取得手段20により取得された温度換算データに応じた顔面皮膚温度データだけでなく、相対的な温度データに換算された温度データに基づく相対温度データに応じた顔面皮膚温度データについても、特異値分解により複数の成分に分解し、各成分についての解析を行っている。
【0101】
これに代えて、脳活動推定手段30が換算部31を有していなくてもよい。この場合、相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データを作成したり、相対温度換算データに応じた顔面皮膚温度データに基づくデータの解析を行ったりする処理を省くことができる。
【0102】
ただし、人間の脳活動に関連する成分を精度よく同定するためには、上記実施形態のように脳活動推定手段30が換算部31を有しており、解析部32によって、顔面皮膚温度取得手段20により取得された温度換算データに応じた顔面皮膚温度データだけでなく、相対的な温度データに換算された温度データに基づく相対温度データに応じた顔面皮膚温度データについても、特異値分解により複数の成分に分解され、各成分についての解析が行われるほうが望ましい。
【0103】
(4−1−2)変形例1B
また、上記顔面皮膚温度取得手段20は、対象物と非接触の状態で温度データを取得することができる赤外線サーモグラフィ装置である。
【0104】
しかしながら、個人の顔面の少なくとも一部の皮膚温度を検出し、検出した温度データ及びその検出部位の位置データを含む顔面皮膚温度データを時系列で取得することができれば、顔面皮膚温度取得手段は赤外線サーモグラフィ装置に限定されない。
【0105】
例えば、顔面皮膚温度取得手段が温度センサを含む装置であってもよい。具体的には、個人の顔面の所定部位に温度センサを装着し、温度センサによって検出される温度データと、温度センサを装着した部位の位置データとに基づいて、時系列の顔面皮膚温度データが取得されてもよい。このように、温度センサにより対象となる個人に接触した状態で顔面皮膚温度データが取得される場合であっても、温度センサは脳波電極等のように装着前の処理が必要ではないため、脳波計測法、磁気共鳴画像法、及び近赤外線分光法等の従来の検出方法と比較して、簡便にデータを取得することができる。これにより、簡便に人間の脳活動を推定することができる。
【0106】
(4−2)顔面の撮影画像データに基づき脳活動を推定する脳活動推定手段130
図21は、本発明の実施形態に係る脳活動可視化装置110の概略図である。
図22は、脳活動可視化装置110において脳機能を反映した顔面のRGB変化を示す成分を同定する際の処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0107】
脳活動可視化装置110の備える脳活動推定手段130は、個人(被験者)の顔面の撮影画像データから、個人の脳活動を推定するための装置である。脳活動可視化装置110は、
図21に示すように、画像データ取得手段120と、脳活動推定手段130と、状態可視化手段200と、を備える。
【0108】
画像データ取得手段120は、個人の顔面の少なくとも一部の撮影画像データを時系列で取得する(ステップS101)。なお、画像データ取得手段120は、少なくとも撮影装置を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、スマートフォンやタブレット(例えば、iPad:登録商標)等の撮影装置内蔵型ポータブル端末等が挙げられる。ここでは、画像データ取得手段120は、
図21に示すように、撮影装置としてのカメラ121と、記憶部122とを有する。カメラ121は、個人の顔面の撮影画像データを時系列で取得するためのものである。ここでは、カメラ121は、個人の顔面全体の動画を撮影し、撮影した動画データを取得する。記憶部122は、撮影装置により撮影された時系列の撮影画像データを蓄積する。ここでは、記憶部122は、カメラ121によって取得された動画データを蓄積する。
【0109】
なお、ここでは、カメラ121によって顔面全体の動画が撮影されているが、これに限定されず、顔面の少なくとも前額部及び/又は副鼻腔周辺の画像を含む動画が撮影されていればよい。
【0110】
また、ここでは、画像データ取得手段120により顔面の時系列の撮影画像データが取得されている間に、個人に対して脳機能賦活課題が一定期間与えられる。すなわち、画像データ取得手段120により取得される撮影画像データには、個人に対して脳機能賦活課題が与えられている期間のデータが含まれていることになる。なお、個人に対して与えられる脳機能賦活課題としては、脳が賦活状態になると推定されるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、脳活動可視化装置110の利用目的に応じてその内容が適宜決定されるよう構成されていてもよい。
【0111】
脳活動推定手段130は、画像データ取得手段120により取得された顔面の時系列の撮影画像データに基づき、人間の脳活動を推定する。具体的には、脳活動推定手段130は、
図21に示すように、RGB処理部131と、換算部132と、血行量算出部133と、解析部134と、推定部135と、を有する。なお、
図21では、脳活動推定手段130が、RGB処理部131、換算部132、血行量算出部133、解析部134及び推定部135を有する1つの装置として存在している態様が示されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、RGB処理部131、換算部132、血行量算出部133、解析部134及び推定部135の一部或いはそれぞれが独立した装置として存在していてもよい。また、ここでは、画像データ取得手段120、RGB処理部131、換算部132、及び血行量算出部133により顔面血行量取得手段が構成されている。
【0112】
RGB処理部131は、画像データ取得手段120により取得された撮影画像データに対して、R成分、G成分及びB成分の3つの色成分に分解するRGB処理を行う(ステップS102)。ここで、顔面全体の撮影画像データに対してRGB処理を行ってもよいが、ここでは、演算処理量及びノイズを減らすために、撮影画像データから前額部及び/又は副鼻腔周辺のデータを抽出し、抽出したデータについてのみRGB処理を行うものとする。
【0113】
換算部132は、RGB処理により得られた撮影画像データのRGBデータを相対的なRGBデータに換算する(ステップS103)。具体的には、換算部132は、取得された所定時間毎(例えば、30秒)の撮影画像データから得られるRGBデータの平均値を基準値として、該RGBデータを相対的なRGBデータに換算する。
【0114】
血行量算出部133は、RGB処理により得られた撮影画像データのRGBデータに基づき、顔面の時系列の血行量データを算出する(ステップS104)。
【0115】
解析部134は、時系列の相対換算血行量データを、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析により複数の成分に分解する(ステップS105)。ここでは、解析部134は、相対換算血行量データに対して、MATLAB(登録商標)のSVDを分析ツールとして用いて、特異値分解を行う。具体的には、特異値分解は、時系列の相対換算血行量データを対象として、要因を所定期間(例えば、30秒)毎の時間データとし、測度をその期間毎における相対的なRGBデータから演算したピクセル毎の相対換算血行量データとして行われる。そして、特異値分解により、時系列の相対換算血行量データを複数の成分に分解し、時間分布と、空間分布と、各成分の大きさを示す特異値とを算出する。
【0116】
また、解析部134は、特異値分解によって分解した複数の成分から脳活動を反映した顔面のRGB変化を示す成分を同定するために、各成分が所定条件を満たすか否かを判定する(ステップS106)。ここで、所定条件としては、例えば、特異値分解によって分解した成分の成分波形の振幅が、脳の非賦活時及び脳の賦活時の変化と相関関係にあるという条件(以下、第1条件という)や、特異値分解によって分解した成分において人間の顔面の所定部位に血行量変化があるという条件(以下、第2条件という)等が含まれる。解析部134において判定される所定条件としては、1又は複数の条件が設定されていればよく、ここでは、所定条件として第1条件が設定されているものとする。
【0117】
そして、解析部134は、複数の成分のうち所定条件を満たす成分を、判定用成分として抽出する。さらに、解析部134は、抽出した判定用成分のうち所定条件に含まれる全ての条件を満たす成分を、脳活動を反映した顔面のRGB変化を示す成分として同定する(ステップS107)。一方、解析部134は、複数の成分のうち所定条件に含まれる少なくとも1つの条件を満たさないと判定した成分を、脳活動を反映した顔面のRGB変化を示す成分ではないと判定する(ステップS108)。
【0118】
ここでは、上述のように所定条件として1つの条件(第1条件)のみが設定されており、顔面の時系列の撮影画像データを取得している間に、個人に対して脳機能賦活課題が与えられている期間が一定期間ある。このため、解析部134は、個人に対して脳機能賦活課題が与えられていない期間を脳の非賦活時とし、個人に対して脳機能賦活課題が与えられている期間を脳の賦活時として、脳機能賦活課題が与えられている期間及び与えられていない期間と、各成分の成分波形とを比較解析する。そして、解析部134は、成分波形データに基づく比較解析結果を利用して、各成分の成分波形と脳の非賦活時及び脳の賦活時とが相関関係にあるか否かを評価し、複数の成分のうち相関関係にあると評価した成分を、所定条件を満たす判定用成分として抽出すると共に、脳活動を反映した顔面のRGB変化を示す成分として同定する。一方、解析部134は、複数の成分のうち相関関係にないと評価した成分を、所定条件を満たさず人間の脳活動を反映した顔面のRGB変化を示す成分ではないと判定する。
【0119】
ここでは、顔面の時系列の撮影画像データが取得される際に個人に対して脳機能賦活課題が一定期間与えられており、これに基づき解析部134が判定用成分を抽出しているが、第1条件の内容、すなわち解析部134における判定用成分の抽出手段はこれに限定されない。例えば、予め実験等がされていることで複数の成分のうち脳の非賦活時及び脳の賦活時と相関関係にある成分波形を示す成分が特定されている場合には、解析部134は、複数の成分から特定されている該成分を判定用成分として抽出する。また、脳活動可視化装置110において眼球運動又はまたたき等の脳の賦活/非賦活に関連することが知られている人間の動作についても検出される場合には、解析部134が、この検出結果と各成分の成分波形とを比較解析及び評価することで、複数の成分から判定用成分を抽出してもよい。なお、解析部134による第1条件を満たすか否かの判定の基準は、脳活動可視化装置110の利用目的等に応じて、シミュレーションや実験、机上計算等によって適宜決定される。
【0120】
また、所定条件として第2条件が設定されている場合には、解析部134は、人間の顔面の所定部位における顔面の血行量変化の有無に基づき、判定用成分を抽出する。具体的には、解析部134は、特異値分解によって分解された複数の成分に応じた血行量分布図に基づき、副鼻腔周辺及び/又は前額部において血行量の変化が生じているか否かを判定し、血行量の変化が生じている場合には該成分が第2条件を満たしていると判定する。一方で、副鼻腔周辺及び/又は前額部において血行量の変化が生じていない場合には、解析部134は、該成分が第2条件を満たしていないと判定する。なお、解析部134による第2条件を満たすか否かの判定の基準は、脳活動可視化装置110の利用目的等に応じて、シミュレーションや実験、机上計算等によって適宜決定されるものとする。
【0121】
さらに、血行量算出部133によって相対的なRGBデータに換算される前のRGBデータに基づく時系列の血行量データが算出される場合には、解析部134によって、該血行量データを特異値分解等することで得られた複数の成分についても、上記第1条件及び/又は第2条件が満たされるか否かが判定され、判定用成分が抽出されてもよい。
【0122】
推定部135は、解析部134において人間の脳活動を反映した顔面のRGB変化を示す成分として同定された成分に基づいて、人間の脳活動を推定する。具体的には、推定部135は、解析部134において同定された成分の成分波形データに基づいて、顔面の撮影画像データの取得時における脳活動量を推定する。
【0123】
(4−2−1)変形例2A
なお、上記血行量算出部133において、RGBデータに含まれる各画素のうちの主にR成分を用いて顔面の血行量データが算出されてもよい。また、RGBデータに基づき血行量データを算出できるのであれば、血行量データは必ずしも紅斑指数に限定されるものではない。
【0124】
(4−2−2)変形例2B
上記血行量算出部133は、換算部132によって換算された相対的なRGBデータに基づき相対換算血行量データを算出するが、これに代えて或いはこれに加えて、相対的なRGBデータに換算される前のRGBデータに基づき血行量データが算出されてもよい。ここで、相対的なRGBデータに換算される前のRGBデータに基づき算出された血行量データには、脳活動と相関する成分が出やすい(検定力が高い)ため、例えば、相対的なRGBデータに換算される前のRGBデータに基づき算出された血行量データを、相対的なRGBデータに基づき算出された相対換算血行量データよりも先行して解析してもよい。また、例えば、まず、血行量データを解析して有意な相関のある成分を抽出し、相対換算血行量データに関しては、前記抽出した成分に対応する成分のみを解析することで、演算処理量を減らすことができる。
【0125】
(4−3)状態可視化手段200
状態可視化手段200は、脳活動推定手段30及び/又は脳活動推定手段130により推定された対象者の脳活動に基づき、対象者の生理状態を表示することにより可視化する。例えば、状態可視化手段200が、対象者の脳活動量の変化を解析することで、対象者の生理状態を解析する解析部201を有していてもよい。具体的には、解析部201が、対象者に対して与えられた刺激(視覚刺激、聴覚刺激、触覚刺激、臭覚刺激或いは味覚刺激等)に対する脳活動量の変化を解析することで、対象者の生理状態を判定する。なお、生理状態の種類やレベルについては、脳活動量の上昇度合い及び/又は持続時間に基づき、脳活動可視化装置10,110の用途に応じて適宜設置可能になっていてもよい。そして、解析部201により解析された対象者の生理状態を状態可視化手段200の表示部202から管理者へと出力されることで、管理者は対象者の生理状態を知ることができる。表示部202としては、画像やメッセージを表示する表示デバイス等、解析した対象者の生理状態に関する情報を管理者に対して可視化できるものであればどのようなものであっても採用することができる。
【0126】
また、解析部32,134において脳活動を反映する成分が同定された後に、さらに顔面皮膚温度取得手段20及び/又は画像データ取得手段120により時系列の各種データが取得される場合には、脳活動可視化装置10,110において、さらに取得された各種データが特異値分解により複数の成分に分解され、同定された成分のみが解析されることで、対象者の生理状態をリアルタイムで知ることができる。
【0127】
さらに、被験者の顔面の皮膚温度や撮影した画像から被験者の心拍情報や生体情報等を取得する技術が従来よりあるが、顔面皮膚温度取得手段20及び/又は画像データ取得手段120から得られた各種データが特異値分解等されることで得られる成分に対して従来の技術を採用することで、心拍情報や生体情報を精度良く取得することができる。したがって、特異値分解した複数の成分を解析して心拍情報や生体情報を取得する機能を、解析部32及び/又は解析部134に持たせ、取得した心拍情報や生体情報に基づき交換神経/副交感神経の働きを推定する機能を上記実施形態の推定部33,135に持たせてもよい。
【0128】
(5)特徴
(5−1)
本実施形態では、顔面皮膚温度取得手段20及び/又は画像データ取得手段120によって取得された時系列の顔面皮膚温度データ及び/又は顔面血行量データに基づき人間の脳活動が推定される。このため、脳波電極等の装着前に処理が必要なセンサを装着しなくても、人間の脳活動を推定することができる。したがって、簡便に人間の脳活動を推定し、推定した脳活動に基づき対象者の生理状態を可視化することができている。
【0129】
(5−2)
ここで、時系列の顔面の皮膚温度データ及び/又は画像データが取得される際に、人間に対して実際に脳機能賦活課題が与えられたり与えられなかったりすることにより、人間の脳が賦活化したり賦活化しなかったりする状況が作られている場合、各成分の成分波形と脳の賦活時及び非賦活時との間に相関関係のある成分は、脳活動を反映した皮膚温度及び/又は血行量の変化を示す成分である可能性が高い成分であるといえる。
【0130】
本実施形態では、顔面皮膚温度取得手段20及び/又は画像データ取得手段120により時系列の顔面の皮膚温度データ及び/又は画像データが取得されている間に、個人に対して脳機能賦活課題が一定期間与えられている。すなわち、本実施形態では、個人に対して実際に脳機能賦活課題を与えたり与えなかったりすることにより、人間の脳が賦活化したり賦活化しなかったりする状況が作られている。そして、このように取得された時系列の各種データが特異値分解により複数の成分に分解され、各成分についてその成分波形と脳の賦活時及び非賦活時との相関関係が評価され、相関関係にある成分が判定用成分として複数の成分から抽出される。このため、例えば、予め実験等により特定された所定の成分が抽出用成分として複数の成分から抽出される場合と比較して、人間の脳活動と関連性の低い成分が抽出用成分として複数の成分から抽出されるおそれを低減することができている。
【0131】
(5−3)
ここで、脳には、選択的脳冷却機構という体温とは独立して脳を冷却する仕組みがある。選択的脳冷却機構としては、脳活動によって生じた熱を前額部及び副鼻腔周辺を用いて排熱していることが知られている。そうすると、脳活動に伴う顔面皮膚温度や顔面皮膚温度に相関する顔面の血行量の変化は、前額部及び/又は副鼻腔周辺に出現することになる。
【0132】
本実施形態では、前額部及び/又は副鼻腔周辺の各種データが解析されて、判定用成分が抽出されている。このため、人間の脳活動に関連する成分を精度よく抽出することができている。
【0133】
(6)脳活動可視化装置の用途例
次に、本発明に係る脳活動可視化装置の用途例について説明する。
【0134】
(6−1)感情の判定に用いる場合
上記実施形態又は上記変形例の脳活動可視化装置10,110を、対象者の感情の判定に用いる場合の一例を説明する。例えば、上述した脳活動可視化装置10,110を感情判定装置300に組み込むことで、検査対象の感情の判定が可能になる。
【0135】
詳しくは、
図23に示すように、上記状態可視化手段200に感情記憶部203を設ける。この感情記憶部203は、脳活動の推定結果とヒトの感情を示す「感情データ」を関連付けて記憶するメモリである。ここでは、例えば、対象者を「喜怒哀楽」のいずれかの状態にしておいてから、脳機能賦活課題を一定期間与えたときの脳活動量のデータを収集する。そして、これらのデータに基づいて脳活動の推定結果と感情データとを関連付けて感情記憶部203に格納する。なお、脳活動の推定結果と感情データとの相関関係は逐次最適化される。
【0136】
そして、状態可視化手段200が、脳活動推定手段30,130により算出された脳活動の推定結果から感情データを感情記憶部203から抽出する。これにより、感情判定装置300は、対象者の感情を表示部202に提示することが可能となる。
【0137】
要するに、感情判定装置300は、顔面皮膚温度取得手段20及び/又は画像データ取得手段120と、脳活動推定手段30,130と、状態可視化手段(感情判定手段)200とを備える。顔面皮膚温度取得手段20は、顔面皮膚温度データを時系列で取得する。画像データ取得手段120は、顔面の撮像画像データを時系列で取得する。脳活動推定手段30,130は、顔面皮膚温度データ及び/又は顔面血行量データを、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析により分解することで得られた複数の成分に基づき、対象者の脳活動を推定する。状態可視化手段200は、脳活動推定手段30により推定された対象者の脳活動に基づき、対象者の感情を判定する。したがって、感情判定装置300は、脳波電極等の装着前に処理が必要なセンサを装着しなくても、ヒトや動物の感情を簡便に判定することができる。
【0138】
(6−2)乳児の感情の判定に用いる場合
上記感情記憶部203は乳児の感情を示す「乳児感情データ」を記憶するものであってもよい。具体的には、乳児の脳活動の数値(昂進)と交換神経の数値(高値)の度合いを事前に分析しておき、脳活動の推定結果と乳児感情データとを関連付けて感情記憶部203に記憶しておく。乳児に特化した感情データを感情記憶部203に記憶しておくことで、脳活動の推定結果から乳児の感情を判定できるようになる。例えば、乳児が泣いている状況において、空腹であるからなのか、おむつが不快であるからなのか、痛みを感じているからなのかといった、泣いている理由を特定することができる。
【0139】
一般的に乳児の脳機能は未発達であるが、この感情判定装置300を用いることで乳児であっても適切に感情を判定できる。
【0140】
(6−3)ヒト以外の動物の感情の判定に用いる場合
上記感情記憶部203はヒト以外の動物の感情を示す「動物感情データ」を記憶するものであってもよい。ヒト以外の動物の感情データを感情記憶部203に記憶しておくことで、それらの動物の感情を判定できる。この場合は、顔面皮膚温度取得手段20又は画像データ取得手段120は、当該動物に合わせた最適な形態で情報を取得する。これにより、例えば愛玩動物(ペット)が快適な状況であるのか不快な状況であるのかといったことを飼い主が判断できるようになる。
【0141】
(7)スマートデバイスの利用
本実施形態に係る脳活動可視化装置10,110は、スマートデバイスに格納されるものであってもよい。具体的には、顔面皮膚温度取得手段20及び/又は画像データ取得手段120と、脳活動推定手段30,130と、状態可視化手段200とが多機能機能携帯電話等のスマートデバイスに格納されていてもよい。さらに、感情判定装置として利用する脳活動可視化装置10,110をスマートデバイスに格納する場合、ユーザは携帯しているスマートデバイスにより情報の入出力及び演算が可能となるので、ヒトや動物の感情を簡便に判定できるようになる。
【0142】
なお、上述の形態に代えて、顔面皮膚温度取得手段20及び/又は画像データ取得手段120と状態可視化手段200とを多機能機能携帯電話等のスマートデバイスに格納し、脳活動推定手段30,130をサーバ装置に格納する構成を採用してもよい。この場合、スマートデバイス本体の演算負荷を軽減することができる。また、サーバ装置上でデータ管理することで、多数のデータを収集し最適化していくことで、出力結果の精度を高めていくことができる。例えば脳活動の推定結果と検査対象の感情データとの関連を適時最適化していくことで、感情判定の精度を高めることができる。
【0143】
<付記>
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではない。本発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、本発明は、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できるものである。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素は削除してもよいものである。さらに、異なる実施形態に構成要素を適宜組み合わせてもよいものである。
【解決手段】感情判定装置300は、顔面皮膚温度取得手段20及び/又は画像データ取得手段120と、脳活動推定手段30,130と、状態可視化手段200とを備える。顔面皮膚温度取得手段20は、顔面皮膚温度データを時系列で取得する。画像データ取得手段120は、顔面の撮像画像データを時系列で取得する。脳活動推定手段30,130は、顔面皮膚温度データ及び/又は顔面血行量データを、特異値分解、主成分分析或いは独立成分分析により分解することで得られた複数の成分に基づき、対象者の脳活動を推定する。状態可視化手段200は、脳活動推定手段30により推定された対象者の脳活動に基づき、対象者の感情を判定する。