(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一透明導電性薄膜における、主金属に対する不純物金属の含有原子数比が、前記透明導電性薄膜積層体を構成する各透明導電性薄膜における、主金属に対する不純物金属の含有原子数比の中で最小である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性積層体。
前記透明導電性薄膜積層体中で最も、主金属に対する不純物金属の含有原子数比が大きい透明導電性薄膜における、主金属に対する不純物金属の含有原子数比と、前記第一透明導電性薄膜における、主金属に対する不純物金属の含有原子数比との差が、0.005〜0.23である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性積層体。
第一透明導電性薄膜以外の前記透明導電性薄膜積層体を構成する透明導電性薄膜全体におけるInに対するSnの含有原子数比Sn/Inが、0.08〜0.13である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性積層体。
前記透明導電性薄膜積層体が、前記第一透明導電性薄膜および前記第一透明導電性薄膜よりも基材側に形成された1層の透明導電性薄膜の2層からなる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の導電性積層体。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について、図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、本発明の導電性積層体の一実施形態を表す模式的断面図であり、
図5は、本発明のパターン配線付き透明導電性積層体の模式的平面図であり、
図6は、
図5のVI-VI線における断面を模式的に表す断面図である。本発明の導電性積層体10は、透明基材1の少なくとも一方の面に透明導電性薄膜積層体2および金属層3が順次形成されている。透明導電性薄膜積層体2は、少なくとも2層の透明導電性薄膜21、22からなる。
【0020】
<導電性積層体>
(透明基材)
透明基材1としては、可視光領域において透明であるものであれば特に制限されず、ガラスや、透明性を有する各種のプラスチックフィルムが用いられる。後述するパターン配線付き透明導電性積層体を、タッチパネルの透明電極やフレキシブルディスプレイ等に用いる場合は、透明基材として、プラスチックフィルム等の可撓性フィルムが用いられることが好ましい。プラスチックフィルムの材料としては、ポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。これらの中で特に好ましいのは、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。
【0021】
透明基材として、プラスチックフィルムが用いられる場合、その厚みは、2〜200μmの範囲内であることが好ましく、2〜100μmの範囲内であることがより好ましい。フィルムの厚みが2μm未満であると、透明基材の機械的強度が不足し、フィルムをロール状にして透明導電性薄膜積層体2や金属層3を連続的に形成する操作が困難になる場合がある。一方、フィルムの厚みが200μmを超えると、デバイスの厚みが大きくなることに加えて、透明導電性薄膜が耐擦傷性に劣る傾向がある。
【0022】
透明基材には、表面に予めスパッタリング、コロナ放電、火炎、紫外線照射、電子線照射、化成、酸化などのエッチング処理や下塗り処理を施して、フィルム基材上に形成される透明導電性薄膜との密着性を向上させるようにしてもよい。また、透明導電性薄膜を形成する前に、必要に応じて溶剤洗浄や超音波洗浄などにより、基材表面を除塵、清浄化してもよい。
【0023】
また、透明基材1の透明導電性薄膜積層体2形成面には、誘電体層やハードコート層が形成されていてもよい。透明基材の透明導電性薄膜積層体形成面側の表面に形成される誘電体層は、導電層としての機能を有さないものであり、表面抵抗が、例えば1×10
6Ω/□以上であり、好ましくは1×10
7Ω/□以上、さらに好ましくは1×10
8Ω/□以上である。なお、誘電体層の表面抵抗の上限は特にない。一般的には、誘電体層の表面抵抗の上限は測定限界である1×10
13Ω/□程度であるが、1×10
13Ω/□を超えるものであってもよい。
【0024】
誘電体層の材料としては、NaF(1.3)、Na
3AlF
6(1.35)、LiF(1.36)、MgF
2(1.38)、CaF
2(1.4)、BaF
2(1.3)、BaF
2(1.3)、SiO
2(1.46)、LaF
3(1.55)、CeF(1.63)、Al
2O
3(1.63)などの無機物〔( )内の数値は屈折率を示す〕や、屈折率が1.4〜1.6程度のアクリル樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、シロキサン系ポリマー、有機シラン縮合物などの有機物、あるいは上記無機物と上記有機物の混合物が挙げられる。
【0025】
このように、透明基材の透明導電性薄膜形成面側に誘電体層を形成することによって、透明導電性薄膜積層体2が複数領域にパターン化された場合においても、透明導電性薄膜形成領域と透明導電性薄膜非形成領域との間の視認性の差を低減することが可能である。また、透明基材としてフィルム基材を用いる場合においては、誘電体層がプラスチックフィルムからのオリゴマー等の低分子量成分の析出を抑止する封止層としても作用し得る。
【0026】
透明基材1の透明導電性薄膜積層体2形成面と反対側の面には、必要に応じてハードコート層等が設けられていてもよい。また、粘着剤などの適宜の接着手段を用いて他の基材が貼り合わせたものや、他の基材と貼り合わせるための粘着剤層等にセパレータ等の保護層が仮着されたものであってもよい。なお、
図1〜3においては、透明基材1の一方の面にのみ透明導電性薄膜積層体2および金属層3が形成された形態が図示されているが、透明基材の両面に透明導電性薄膜積層体および金属層が形成されていてもよい。
【0027】
(透明導電性薄膜積層体)
透明基材1上には、透明導電性薄膜積層体2が形成される。透明導電性薄膜積層体は、少なくとも2層の透明導電性薄膜21,22が積層されたものである。透明導電性薄膜積層体2は、
図2に示すように3層の透明導電性薄膜21,22,23を有していてもよく、4層以上の透明導電性薄膜を有していてもよい。
【0028】
これらの透明導電性薄膜はいずれも、金属の導電性酸化物を主成分とする薄膜、または主金属と1種以上の不純物金属を含有する複合金属酸化物を主成分とする薄膜である。これらの導電性薄膜は、透明でありかつ導電性を有するものであれば、その構成材料は特に限定されず、Sc,Y,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Cr,Mo,W,Mn,Tc,Re,Fe,Ru,Os,Co,Rh,Ir,Ni,Pd,Pt,Cu,Ag,Au,Zn,Cd,Al,Ga,Ti,Ge,In,Sn,Pb,As,Sb,Bi,Se,Te,Iからなる群より選択される1種の金属を主成分とする金属酸化物が好適に用いられる。透明導電性薄膜の透明性や導電性の観点からは、主金属元素はIn,Zn,Snのいずれかであることが好ましく、In最も好ましい。透明導電性薄膜が、主金属と不純物金属を含有する複合金属酸化物である場合、不純物金属としても、上記群より選択される1種以上の金属が好適に用いられる。
【0029】
透明導電性薄膜のキャリア密度を上昇させて透明導電性薄膜を低抵抗化する観点においては、複合金属酸化物における不純物金属は、主金属よりも価電子数の多いものが好適に用いられる。このような複合金属酸化物としては、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、アルミドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、インジウムドープ酸化亜鉛(IZO)等が挙げられる。中でも低抵抗かつ高透明の透明導電性薄膜を形成する観点において、ITOが最も好適に用いられる。
【0030】
本発明においては、透明導電性薄膜積層体2上に形成される金属層3に最近接である第一透明導電性薄膜21における不純物金属の含有比が、透明導電性薄膜積層体を構成する各透明導電性薄膜22,23における不純物金属の含有比の中で最大ではないことを特徴とする。例えば、
図1に示すように、透明導電性薄膜積層体2が2層の透明導電性薄膜21,22からなる場合、金属層3に近い側の第一透明導電性薄膜21における不純物金属の含有比は、透明基材1側の透明導電性薄膜22における不純物金属の含有比よりも小さい。
【0031】
このように、金属層3に最近接の第一透明導電性薄膜21の不純物金属含有比を小さくすることによって、透明導電性薄膜積層体2の上に金属層3を形成し、その面内の一部をエッチングにより除去してパターン化を行った際の透明導電性薄膜積層体の抵抗の変化が抑制される。
【0032】
本発明者らの検討によると、透明導電性薄膜の不純物金属の含有比が多い場合には、透明導電性薄膜上に形成された金属層をエッチングにより除去した際にキャリア密度が低下して、抵抗が増大し易いことが判明した。すなわち、
図4に示すように、1層の透明導電性薄膜25上に金属層3を積層した形態においては、透明導電性薄膜25を低抵抗膜とするために、不純物金属含有比の大きい複合金属酸化物を用いると、金属層3をエッチングにより除去した後の導電性膜25の抵抗が増大する傾向がある。
【0033】
これに対して、本発明においては、基材1側に不純物金属の含有比が相対的に大きい複合酸化物薄膜22を有し、金属層3側に不純物金属の含有比が相対的に小さい複合酸化物薄膜21を用いることで、透明導電性薄膜積層体全体としての比抵抗が低く、かつ金属層3をエッチングにより除去した際の抵抗の増大が抑制される。なお、不純物金属の含有率とは、透明導電性薄膜中の主金属元素の原子数N
Pに対する不純物金属元素の原子数N
Dの比N
D/N
Pで表される。
【0034】
第一透明導電性薄膜21の不純物金属含有比を小さくすることによって金属層をエッチング除去した際の抵抗増大が抑制される原因は定かではない。推定原因の1つとして、不純物金属含が大きい場合は、金属層除去に用いられるエッチャント中の化学種と不純物金属との錯形成等によって透明導電性薄膜のキャリア密度が低下する傾向があり、不純物金属の含有比を小さくすることでこのようなエッチャントの影響による抵抗増大が抑制されることが考えられる。
【0035】
図1に示すように、透明導電性薄膜積層体2が2層の透明導電性薄膜21,22からなる場合、透明基材1側の透明導電性薄膜22における不純物金属の含有比と金属層3に近い側の第一透明導電性薄膜21における不純物金属の含有比との差は、0.005〜0.23であることが好ましく、0.01〜0.23であることがより好ましく、0.02〜0.23であることがさらに好ましい。なお、上記の不純物金属の含有比の範囲を、透明導電性薄膜を構成する複合金属酸化物薄膜としてインジウム−スズ複合酸化物(ITO)が用いられる場合、すなわち、主金属がインジウムであり不純物金属がスズである場合における、透明基材側の透明導電性薄膜と金属層側の第一透明導電性薄膜21とのSn原子含有量(In
2O
3とSnO
2との重量の合計に対するSnO
2の重量)の差で表すと、概ね0.5%〜20%、1%〜20%、2%〜20%となる。
【0036】
また、
図2に示すように、透明導電性薄膜積層体2が3層以上の透明導電性薄膜からなる場合、透明導電性薄膜積層体2中で最も不純物金属の含有比が高い透明導電性薄膜における不純物金属の含有比と金属層3に近い側の第一透明導電性薄膜21における不純物金属の含有比との差が、0.005〜0.23であることが好ましく、0.01〜0.23であることがより好ましく、0.02〜0.23であることがさらに好ましい。透明導電性薄膜積層体を低抵抗膜としつつ、金属層をエッチングした際の抵抗の増大を抑制する観点においては、透明導電性薄膜積層体2中の金属層3に近い側の第一透明導電性薄膜21以外の透明導電性薄膜22,23を1つの膜とみなした場合の不純物金属の含有比と第一透明導電性薄膜21における不純物金属の含有比との差が前記範囲であることが好ましい。
【0037】
第一透明導電性薄膜における不純物金属の含有比とその他の透明導電性薄膜における不純物金属の含有比との差が過度に小さいと、透明導電性薄膜積層体2内での各薄膜の物理的な相違が小さいために、
図4に示すように1層のみの透明導電性薄膜のみを有する場合と物性が類似する。一方、不純物金属の含有量の差が過度に大きいと、不純物金属含有量の大きい透明導電性薄膜の結晶化が阻害される等の理由により生産性に劣ったり、透明導電性薄膜積層体を低抵抗とすることが困難になる場合がある。
【0038】
金属層3に最近接の第一透明導電性薄膜21における不純物金属の含有比は、0.08以下であることが好ましく、0.08未満であることが好ましく、0.05以下であることがより好ましい。第一透明導電性薄膜の不純物金属含有比が大きくなると、金属層3をエッチングした際に、導電性薄膜積層体の表面抵抗が増大する傾向がある。なお、上記の不純物金属の含有比の範囲を、透明導電性薄膜を構成する複合金属酸化物薄膜としてインジウム−スズ複合酸化物(ITO)が用いられる場合における、透明基材側の透明導電性薄膜と金属層側の第一透明導電性薄膜21とのSn原子含有量(In
2O
3とSnO
2との重量の合計に対するSnO
2の重量)で表すと、概ね、8%、5%となる。第一透明導電性薄膜21における不純物金属の含有比の最小値は0である。すなわち、第一透明導電性薄膜21は、例えば酸化インジウムのような単一の金属の酸化物膜であってもよい。
【0039】
透明導電性薄膜積層体2中で最も不純物金属の含有比が高い透明導電性薄膜における不純物金属の含有比は、0.04〜0.31であることが好ましく、0.04〜0.24であることがより好ましい。
図1に示すように透明導電性薄膜積層体2が2層の透明導電性薄膜からなる場合は、透明基材1側の透明導電性薄膜22における不純物金属の含有比が前記範囲であることが好ましい。
図2に示すように透明導電性薄膜積層体2が3層以上の透明導電性薄膜からなる場合、透明導電性薄膜積層体2中で最も不純物金属の含有比が高い透明導電性薄膜における不純物金属の含有比が前記範囲であればよい。透明導電性薄膜積層体2の比抵抗を小さくする観点においては、透明導電性薄膜積層体2中の金属層3に近い側の第一透明導電性薄膜21以外の透明導電性薄膜を1つの膜とみなした場合の不純物金属の含有比が前記範囲であることが特に好ましい。なお、上記の不純物金属の含有比の範囲を、透明導電性薄膜を構成する複合金属酸化物薄膜としてインジウム−スズ複合酸化物(ITO)が用いられる場合における、透明基材側の透明導電性薄膜と金属層側の第一透明導電性薄膜21とのSn原子含有量(In
2O
3とSnO
2との重量の合計に対するSnO
2の重量)で表すと、概ね、4%〜25%、4%〜21%となる。
【0040】
第一透明導電性薄膜21の厚みは、1nm以上であることが好ましい。また、第一透明導電性薄膜21の厚みは、1nm〜17nmであることが好ましく、1nm〜12nmであることがより好ましく、1nm〜6nmであることがさらに好ましい。透明導電性薄膜積層体2中の第一透明導電性薄膜21以外の透明導電性薄膜の厚みの合計は、9nm〜34nmであることが好ましく、9〜29nmであることがより好ましく、9〜24nmであることがさらに好ましい。各層の厚みは、上記範囲を採用できるが、透明導電性薄膜積層体の比抵抗を小さくする観点からは、第一の透明導電性薄膜21の厚みが、第一透明導電性薄膜21以外の透明導電性薄膜の厚みの合計よりも小さくなるように、各透明導電性薄膜を形成することが好ましい。第一の透明導電性薄膜21の厚みと、第一透明導電性薄膜21以外の透明導電性薄膜の厚みの合計との差は、1nm以上であることが好ましく、さらには1nm〜33nmであることがより好ましく、1nm〜20nmであることがさらに好ましい。
【0041】
積層体を高透過率とする観点からは、透明導電性薄膜積層体全体の厚みは、35nm以下であることが好ましく、30nm以下であるのが好ましい。また、透明導電性薄膜積層体2の全体の厚みに対する第一の透明導電性薄膜21の厚みの割合は、6%以上であることが好ましく、6%〜45%であることがより好ましく、6%〜35%であることがさらに好ましい。厚み比率を前記範囲とすることで、透明導電性薄膜積層体が低抵抗特性を維持しつつ、結晶化速度が高められるため、抵抗安定性に優れる透明導電膜を生産効率高く得ることができる。
【0042】
透明導電性薄膜積層体を構成する各透明導電性薄膜の形成方法は特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。具体的には、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法を例示できる。また、必要とする膜厚に応じて適宜の方法を採用することもできる。
【0043】
各透明導電性薄膜は結晶質であってもよく、非晶質であってもよい。例えば、透明基材としてプラスチックフィルムが用いられ、透明導電性薄膜としてスパッタリング法によってITO膜が形成される場合、基材の耐熱性による制約があるため、高い温度でスパッタ製膜を行うことができない。そのため、製膜直後の透明導電性薄膜は非晶質膜(一部が結晶化している場合もある)となっている場合が多い。このような非晶質の透明導電性薄膜は結晶質のもの比して透過率が低く、加湿熱試験後の抵抗変化が大きい等の問題を生じる場合がある。かかる観点からは、一旦非晶質の透明導電性薄膜を形成した後、大気中の酸素存在下で加熱することにより、結晶膜へ転換させてもよい。透明導電性薄膜を結晶化することにより、透明性が向上し、低抵抗化が図られるとともに、さらに加湿熱試験後の抵抗変化が小さく、加湿熱信頼性が向上するなどの利点がもたらされる。
【0044】
各透明導電性薄膜の結晶化は、透明基材1上に非晶質の膜を形成後、金属層3を製膜する前に行うこともできるし、金属層を製膜した後に結晶化を行ってもよい。また、エッチング等により透明導電性薄膜積層体をパターン化する場合、透明導電性薄膜の結晶化は、エッチング加工前に行うこともできるし、エッチング加工後に行ってもよい。
【0045】
(金属層)
透明導電性薄膜積層体2上には、金属層3が形成される。なお、第一透明導電性薄膜21と金属層3との間には、透明導電性薄膜積層体と金属層との密着性向上や、金属層を構成する金属元素の透明導電層への拡散防止等の観点から、例えば厚みが5nm以下の薄膜を設けることもできる。一方、金属層3をエッチングにより除去した際の透明導電性薄膜積層体の表面抵抗の増加を抑制する観点においては、第一透明導電性薄膜21上に直接金属層3が形成されることが好ましい。
【0046】
金属層の構成材料は、導電性を有するものであれば特に限定されず、例えば、Ti,Si,Nb,In,Zn,Sn,Au,Ag,Cu,Al,Co,Cr,Ni,Pb,Pd,Pt,W,Zr,Ta,Hf等の金属が好適に用いられる。また、これらの金属の2種以上を含有するものや、これらの金属を主成分とする合金等も好適に用いることができる。導電性積層体を形成した後に金属層3の面内の一部をエッチング等により除去して、
図5に示すようなパターン配線を形成する場合は、金属層3の材料としてAu,Ag,Cu等の導電性の高い金属が好適に用いられる。中でもCuは導電性が高く、かつ安価な材料であるため、配線を構成する材料として適している。そのため、金属層3は実質的に銅からなることが特に好ましい。
【0047】
金属層3の厚みは特に制限されない。例えば、導電性フィルムの形成後に金属層3の面内の一部をエッチング等により除去してパターン配線を形成する場合は、形成後のパターン配線が所望の抵抗値を有するように金属層3の厚みが適宜に設定される。金属層の厚みが過度に小さいと、パターン配線の抵抗が高くなりすぎるために、デバイスの消費電力が大きくなる場合がある。そのため、金属層の厚みは20nm以上であることが好ましい。逆に金属層の厚みが過度に大きいと、金属層の成膜に時間を要するために生産性に劣る他、成膜時の積算熱量が大きくなることや、成膜時のパワー密度を高くする必要があるために、フィルムに熱シワが生じ易くなる傾向がある。これらの観点から、金属層の厚みは、20nm〜500nmであることが好ましい。
【0048】
金属層は、膜厚の均一性や成膜効率の観点から、化学気相成長法(CVD)や物理気相成長法(PVD)等の真空成膜法や、メッキ法(電解メッキ、無電解メッキ)等により成膜されることが好ましい。また、これらの製膜方法の複数を組み合わせてもよい。中でも、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、電子ビーム蒸着法等の物理気相成長法が好ましく、スパッタリング法が特に好ましい。
【0049】
図3に示すように、金属層3上に、さらに酸化防止を目的とした第2金属層4を設けてもよい。例えば、金属層3上に金属層3とは異なる組成を有する第2金属層4を有することで、透明導電性薄膜の結晶化時の加熱や、タッチパネル等のデバイス組立て時の加熱によって、金属層3が酸化されて配線の抵抗が上昇することが抑止され得る。このような第2金属層としては、酸素存在下で加熱された場合にも酸化され難く、金属層3と同一のエッチャントにより同時にエッチングできるものであることが好ましい。複数の金属層3,4を1回のエッチングでパターン化することが可能であれば、パターン配線の形成を容易になし得る。
【0050】
金属層3が実質的に銅からなる場合、酸化防止を目的として金属層上に設けられる第2金属層4は、銅−ニッケル合金からなり、銅とニッケルの合計100重量部に対してニッケルを15〜55重量部含有することが好ましい。第2金属層の厚みは、5nm〜100nmであることが好ましく、5nm〜80nmであることがより好ましく、5nm〜70nmであることがより好ましい。第2金属層の厚みが過度に小さいと、酸化防止層としての作用が発揮されず、酸素存在下での加熱時に、実質的に銅からなる金属層が酸化され易くなる傾向がある。一方、第2金属層の厚みが過度に大きいと、製膜に時間を要するために生産性に劣る他、エッチング等により金属層の面内の一部を除去してパターン配線を形成する際にも長時間を要する場合がある。
【0051】
<透明導電性積層体>
このような本発明の導電性積層体10は、パターン配線付き透明導電性積層体の形成に適している。
図5は、パターン配線付き透明導電性積層体の一実施形態を模式的に表す平面図であり、
図6は
図5のVI-VI線における断面を模式的に表す断面図である。パターン配線付き透明導電性積層体100は、パターン化された複数の透明電極121〜126からなる透明電極部、およびパターン配線部131a〜136a、131b〜136bを有する。パターン配線は、各透明電極に接続されている。例えば
図5の透明電極部121は、パターン配線131aおよび131bと接続されている。
図6に模式的に示すように、透明電極121は、透明基材1上に透明導電性薄膜積層体2を有する領域であり、パターン配線131aおよび131bは、透明基材1上に透明導電性薄膜積層体2および金属層3をこの順に有する領域である。なお、
図5においては、各透明電極が短冊状にパターン化されており、その両端部がパターン配線と接続されているが、透明電極の形状は短冊状に限定されず、また、透明電極は1箇所あるいは3箇所以上でパターン配線と接続されていてもよい。各パターン配線は必要に応じて、IC等の制御手段150に接続される。
【0052】
このようなパターン配線付き透明導電性積層体は、前記導電性積層体の透明導電性薄膜積層体2および金属層3をエッチング等により除去してパターン化することにより形成され得る。具体的には、まず、金属層3の面内の一部が除去されて、パターン配線が形成される。この際、パターン配線部131a〜136aおよび131b〜136bにおいて金属層3が残存するように加工がおこなわれる。また、
図7に模式的に示すように、透明電極とパターン配線との接続部231a〜236aおよび231b〜236bにおいても金属層3が残存するように、加工が行われることが好ましい。なお、この、パターン配線と透明電極との接続部はパターン配線部の一部を構成している。
【0053】
金属層3の除去は、エッチングにより行うことが好ましい。エッチングに際しては、パターンを形成するためのマスクによりパターン配線部および接続部に対応する領域の表面を覆って、エッチャントにより金属層3をエッチングする方法が好適に用いられる。なお、金属層上に酸化防止等を目的として第2金属層4が形成されている場合は、1回のエッチング加工により、金属層3と第2金属層4とが同時に除去されることが好ましい。エッチャントとしては、塩化第二銅溶液、塩化第二鉄溶液、銅アンモニア錯体溶液等が挙げられる。中でも、透明導電性薄膜に対してエッチング能力を示さないエッチャント、あるいは透明導電性薄膜に対するエッチング速度が金属層に対するエッチング速度に比して小さいエッチャントが好適に用いられる。
【0054】
金属層3を除去した後、透明導電性薄膜積層体2の露出部において、透明導電性薄膜積層体2の面内の一部が除去されることで、
図5に示すようなパターン化された透明電極121〜126が形成される。透明導電性薄膜積層体2の除去もエッチングにより行うことが好ましい。エッチングに際しては、パターンを形成するためのマスクにより、透明電極部121〜126に対応する領域の表面を覆って、エッチャントにより透明導電性薄膜積層体をエッチングする方法が好適に用いられる。また、金属層3に対してもエッチング能力を有するエッチャントが用いられる場合は、前記パターン配線部および接続部もマスクにより表面が覆われることが好ましい。
【0055】
透明導電性薄膜のエッチングに用いられるエッチャントは、透明導電性薄膜を形成する材料によって適宜に選択し得る。透明導電性薄膜としてITO等の導電性酸化物が用いられる場合は、エッチャントとして酸が好適に用いられる。酸としては、例えば、塩化水素、臭化水素、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、酢酸等の有機酸、およびこれらの混合物、ならびにそれらの水溶液が挙げられる。
【0056】
なお、透明導電性薄膜が非晶質である場合は、大気中等の酸素存在下で加熱することで、結晶化してもよい。結晶化条件は適宜に設定し得るが、透明導電性薄膜がITOから形成される場合は、例えば、100℃〜180℃の温度範囲で15分〜180分程度加熱を行えばよい。透明導電性薄膜が結晶質であるとは、透過型電子顕微鏡(TEM)観察で、結晶化したグレンが全面に存在する状態を指す。また、透明導電性薄膜がITOから形成される場合は、積層体を濃度5wt%の塩酸に15分間浸漬した後、水洗・乾燥し、15mm間の端子間抵抗をテスタにて測定することによっても、結晶質であるか否かを判断し得る。非晶質ITO膜は塩酸によりエッチングされて消失するために、塩酸への浸漬により抵抗が増大する。本明細書においては、塩酸への浸漬・水洗・乾燥後に、15mm間の端子間抵抗が10kΩを超える場合に、ITO膜が非晶質であるものとする。
【0057】
透明導電性薄膜の結晶化は、金属層の除去によるパターン配線形成の前、パターン配線形成後透明導電性薄膜積層体の除去による透明電極形成前、透明電極形成後のいずれの段階で行ってもよい。
【0058】
本発明の導電性積層体は、透明導電性薄膜積層体2の金属層3側の透明導電性薄膜21として、不純物金属の含有比が相対的に大きい複合金属酸化物が用いられているため、金属層3をエッチングにより除去した後の透明導電性薄膜積層体の表面抵抗の上昇が抑制される。そのため、低抵抗の透明電極を有するパターン配線付き透明導電性積層体を、生産性高く得ることができる。
【0059】
<光学デバイス>
このようにして得られたパターン配線付き透明導電性積層体は、必要に応じて基板上にIC等の制御手段150が設けられ、実用に供される。本発明の透明導電性積層体は、パターン化された透明電極を有し、各透明電極がパターン配線に接続されていることから、各種の光学デバイスに好適に用いられる。このようなデバイスとしては、タッチパネルや、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ、照明装置等が挙げられる。タッチパネルとしては、例えば、静電容量方式、抵抗膜方式などのタッチパネルが挙げられる。
【0060】
このような光学デバイスの形成においては、パターン配線付き透明導電性積層体をそのまま用いてもよいし、透明電極上に他の付加的な層を設けたものを用いることができる。例えば有機ELでは、陽極として作用し得る透明電極上に、発光層、および陰極として作用し得る金属電極層等を設けることができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明の導電性積層体に関して、実施例を用いて詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実施例1]
(透明導電性フィルムの作製)
厚み75μmのポリカーボネート系フィルムからなるフィルム基材の一方の面に、光硬化型樹脂(JSR製 商品名「オプスターKZ6661」)を用いて厚み100nmの誘電体層を形成した。ArおよびO
2を導入した減圧下で、酸化インジウムと酸化スズを90:10の重量比で有する焼結体のターゲット材料を用いて、DCマグネトロンスパッタ法により、誘電体層上にSnとInの原子数比Sn/Inが0.10のインジウム−スズ複合酸化物からなる第二透明導電性薄膜を20nmの厚みで形成した。この薄膜上に、酸化インジウムと酸化スズを97:3の重量比で有する焼結体のターゲット材料を用いて、DCマグネトロンスパッタ法により、SnとInの原子数比Sn/Inが0.03のインジウム−スズ複合酸化物からなる第一透明導電性薄膜を6nmの厚みで形成した。このようにして、ポリカーボネートフィルム基材上に、Sn/In=0.10で厚みが20nmのITO膜およびSn/In=0.03で厚みが6nmのITO膜からなる透明導電性薄膜積層体を有する透明導電性フィルムを得た。
【0063】
(金属層の形成)
この透明導電性フィルムの第一の透明導電性薄膜上に、Arを導入した減圧下で、無酸素銅ターゲットを用いて、DCマグネトロンスパッタ法により、銅からなる金属層を50nmの厚みで形成して、導電性積層体を得た。
【0064】
[実施例2]
厚み23μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなるフィルム基材の一方の面に、メラミン樹脂:アルキド樹脂:有機シラン縮合物の重量比2:2:1の熱硬化型樹脂(光の屈折率n=1.54)を用いて厚み35nmの誘電体層を形成した。この誘電体層上に、実施例1と同様にして、Sn/In=0.10で厚みが20nmのITO膜(第二透明導電性薄膜)およびSn/In=0.03で厚みが6nmのITO膜(第一透明導電性薄膜)を順次形成して、透明導電性フィルムを得た。この透明導電性フィルムの第一の透明導電性薄膜上に、実施例1と同様にして銅からなる金属層を50nmの厚みで形成して、導電性積層体を得た。
【0065】
[実施例3]
厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなるフィルム基材の一方の面に、実施例2と同様に誘電体層を形成した。この誘電体層上に、実施例1と同様にして、Sn/In=0.10で厚みが26nmのITO膜およびSn/In=0.03で厚みが2nmのITO膜を順次形成して、透明導電性フィルムを得た。この透明導電性フィルムの第一の透明導電性薄膜上に、実施例1と同様にして銅からなる金属層を50nmの厚みで形成して、導電性積層体を得た。
【0066】
[実施例4〜10、比較例4]
ITO膜の形成に用いるターゲットの、酸化インジウムと酸化スズの比率、および製膜厚みを表1に示すように変更したこと以外は、実施例3と同様にして、導電性積層体を得た。
【0067】
[比較例1]
厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなるフィルム基材の一方の面に、実施例2と同様に誘電体層を形成した。ArおよびO
2を導入した減圧下で、酸化インジウムと酸化スズを90:10の重量比で有する焼結体のターゲット材料を用いて、DCマグネトロンスパッタ法により、誘電体層上にSnとInの原子数比Sn/Inが0.10のインジウム−スズ複合酸化物からなる透明導電性薄膜を20nmの厚みで形成して、基材上に透明導電性薄膜を1層のみ有する透明導電性フィルムを得た。この透明導電性フィルムの透明導電性薄膜上に、実施例1と同様にして銅からなる金属層を50nmの厚みで形成して、導電性積層体を得た。
【0068】
[比較例2]
実施例3と同様に、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材の一方の面に誘電体層を形成した。この誘電体層上に、比較例1と同様にして、Sn/In比が0.08のITO膜を膜厚25nmで形成し、その上に銅からなる金属層を50nmの厚みで形成して、導電性積層体を得た。
【0069】
[比較例3]
上記比較例2において、ITO膜の形成に用いるターゲットの、酸化インジウムと酸化スズの重量比を88:12(ITO膜のSn/In比=0.13)に変更したこと以外は、比較例2と同様にして、導電性積層体を得た。
【0070】
<評価>
室温下で、アンモニア水溶液(濃度8重量%)100重量部に対して塩化アンモニウム8重量部を混合した溶液(エッチャント)に、各実施例および比較例で得られた導電性積層体を10分間浸漬して、銅層をエッチング除去した。
【0071】
銅層を形成する前の透明導電性フィルムおよび導電性積層体から銅層をエッチングにより除去した透明導電性フィルムのそれぞれを、140℃の熱風オーブンにて90分間加熱して、ITOの結晶化を行った。結晶化後の導電性薄膜(積層体)の表面抵抗を4端子法により測定した。
【0072】
各実施例および比較例のITO膜の製膜に用いたターゲット中の酸化インジウムと酸化スズの合計に対する酸化スズの量(重量%)、ITO膜中のSn/In比、および銅層をエッチングにより除去する前後での表面抵抗を表1に示す。表1中、ITO1は、第一透明導電性薄膜(金属層側のITO膜)、ITO2は、第二透明導電性薄膜(基材側のITO膜)を表す。
【0073】
【表1】
【0074】
基材上に透明導電性薄膜を1層のみ有する比較例1〜3では、銅層を形成後にエッチング除去した場合の表面抵抗が、銅層形成前に比して約8%〜13%増加していた。また、金属層側の透明導電性薄膜(ITO1)における不純物金属(Sn)の含有比が、基材側の透明導電性薄膜(ITO2)よりも大きい比較例2においても、表面抵抗の増加がみられた。これに対して、実施例1〜10では、銅層をエッチング除去した後も抵抗の変化が小さかった。このことから、Sn含有量の小さい第一の透明導電性薄膜を形成することにより、抵抗の増加が抑制されることがわかる。