特許第6097002号(P6097002)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6097002直噴過給式の多シリンダ内燃エンジンの残留燃焼気体の掃気方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097002
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】直噴過給式の多シリンダ内燃エンジンの残留燃焼気体の掃気方法
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/02 20060101AFI20170306BHJP
【FI】
   F02D13/02 G
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-7676(P2011-7676)
(22)【出願日】2011年1月18日
(65)【公開番号】特開2011-149429(P2011-149429A)
(43)【公開日】2011年8月4日
【審査請求日】2013年10月21日
(31)【優先権主張番号】1000192
(32)【優先日】2010年1月19日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591007826
【氏名又は名称】イエフペ エネルジ ヌヴェル
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】ギョーム ブレション
【審査官】 戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−047166(JP,A)
【文献】 特開2006−097657(JP,A)
【文献】 特開2003−269181(JP,A)
【文献】 仏国特許出願公開第02922955(FR,A1)
【文献】 特開2009−216084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼気体の掃気段階が、エンジンの排気行程(E)中に少なくとも1つの排気弁(18)を開閉するシーケンスと、前記排気弁の開閉シーケンス中に少なくとも1つの吸気弁(28)を開閉する少なくとも1回の開閉シーケンスと、によって実施される、上死点(PMH)と下死点(PMB)との間を往復運動するピストンを有する直噴過給式の多シリンダ内燃エンジン(10)の残留燃焼気体を掃気する方法において、
シリンダの前記排気行程の期間中において、掃気段階の終了時のシリンダの吸気圧力(Pa)がシリンダの吸気上死点(PMHa)の後における掃気段階の終了時のシリンダの排気圧力(Pe)を上回る場合、前記排気行程の下死点(PMBe)後前記シリンダの排気弁(18)を開閉するシーケンスを開始することと、前記排気行程における前記シリンダの前記排気弁の開閉シーケンスを遅くとも次の上死点(PMHa)で終了することと、を含むことを特徴とする、エンジンの残留燃焼気体を掃気する方法。
【請求項2】
前記排気弁(18)の開閉シーケンスを開始する前記クランク角度(e1)で、前記吸気弁(28)の開閉のシーケンスを開始することを特徴とする、請求項1に記載のエンジンの残留燃焼気体を掃気する方法。
【請求項3】
前記排気弁(18)の開閉シーケンスを開始する前記クランク角度(e1)後のあるクランク角度(a1)で、前記吸気弁(281)の開閉シーケンスを開始することを特徴とする、請求項1に記載のエンジンの残留燃焼気体を掃気する方法。
【請求項4】
遅くとも前記排気行程(E)の終了時に前記吸気弁(28)を閉じることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載のエンジンの残留燃焼気体を掃気する方法。
【請求項5】
前記排気弁が開く角度(e1)か該角度後のある角度(a1)から前記吸気上死点(PMHa)までの前記排気行程の領域(a1−PMHa)で、前記吸気弁(28)の開閉シーケンスを実施することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載のエンジンの残留燃焼気体を掃気する方法。
【請求項6】
前記排気弁のリフトの高さよりも低くなるように前記排気行程中に前記吸気弁(281)のリフトの高さを減少させることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載のエンジンの残留燃焼気体を掃気する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直噴過給式の内燃エンジンの残留燃焼気体を掃気する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
公知のように、内燃エンジンによって得られる出力は、エンジンの燃焼室に供給される空気の量に依存しており、この空気の量自体は空気の密度に比例する。
【0003】
したがって、この空気の量は、一般に、高出力が必要な場合に燃焼室内に供給される前の外部の空気の圧縮によって増加する。過給と呼ばれるこの動作は、ターボ圧縮機や、スクリュー圧縮機のような駆動圧縮機などの任意の手段を使用して実施することができる。
【0004】
さらに、シリンダの燃焼室内の空気の量を増加させるために、元々燃焼室の排除容積(dead volume)内に含まれている残留燃焼気体が、ピストンの上死点の位置で排出され、過給空気と置き換えられる。この段階を、より一般的には燃焼気体の掃気と呼び、一般にはエンジンの排気行程の終了前に実施される。
【0005】
フランス特許出願公開第2,886,342号(以下、特許文献1と呼ぶ。)で知られるように、この掃気は、シリンダの排気弁と吸気弁とをオーバーラップさせることによって、エンジンの排気行程の終了時、かつ吸気行程の開始時に実施される。このオーバーラップは、これらの吸気弁と排気弁とを、数度から数十度のクランク回転角度の間に同時に開くことによって実現される。
【0006】
したがって、吸入気体は、燃焼室に含まれている排気気体を追い出し、排気行程の終了前に燃焼室に供給される。したがって、この排気気体は、排気弁を通して排出されて、吸入気体と置き換えられる。
【0007】
この種類のエンジンは、満足な結果をもたらすが、決して些細とは言えない欠点がある。
【0008】
実際に、そのような掃気はピストンに深い凹部を必要とし、その結果、燃焼室の形状や燃料混合気の燃焼の経過が悪化する。さらに、この種類のエンジンは、排気弁の開く角度と吸気弁の閉じる角度とを共に修正することが必要である。
【0009】
本出願人によって出願されているフランス特許出願公開第2,926,850号(以下、特許文献2と呼ぶ。)は、別の残留燃焼気体の掃気方法を開示している。この掃気方法では、排気弁の開閉シーケンスはエンジンの排気行程中に実施され、この排気弁の開閉シーケンス中に、残留燃焼気体の掃気を実現するように吸気弁の開閉シーケンスが実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】フランス特許出願公開第2,886,342号
【特許文献2】フランス特許出願公開第2,926,850号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような掃気方法には、排気圧力が掃気行程の終了のはるか前に吸気圧力よりも高くなることがあるという欠点が伴う。
【0012】
これは、一般的に、隣接するシリンダからの排気気体の圧力波(pressure wave)が、一般的には排気マニフォールドを通して、掃気中のシリンダの排気弁に到達し、その結果シリンダの排気圧力を増加させるためである。
【0013】
シリンダの高い排気圧力によって燃焼気体の排気部への排出が妨げられ、それによって、過給されている吸入気体が燃焼室に供給されることを妨げる。そのため、燃焼室に含まれる過給空気の量は、所望のエンジン出力を得るために十分ではなくなる。
【0014】
本発明は、燃焼室の形状を悪化させずに燃焼室への過給空気の充填を増加させつつ、ほとんど全ての残留燃焼気体を排出可能にする単純な構成の掃気方法によって、前述の欠点を克服することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、燃焼気体の掃気段階が、エンジンの排気行程中に少なくとも1つの排気弁を開閉するシーケンスと、排気弁の開閉シーケンス中に少なくとも1つの吸気弁を開閉する少なくとも1つのシーケンスと、によって実施される、上死点と下死点との間を往復運動するピストンを有する直噴過給式の多シリンダ内燃エンジン、特にディーゼル形式のエンジンの残留燃焼気体を掃気する方法において、シリンダの排気行程の期間中において、掃気段階の終了時のシリンダの吸気圧力(Pa)がシリンダの吸気上死点(PMHa)の後における掃気段階の終了時のシリンダの排気圧力(Pe)を上回る場合に、排気行程の下死点後排気弁を開閉するシーケンスを開始することと、排気行程におけるシリンダの排気弁のシーケンスを遅くとも次の上死点で終了することと、を含むことを特徴とする方法に関する。
【0016】
本方法は、排気弁の開閉シーケンスを開始するクランク角度で、吸気弁の開閉のシーケンスを開始することを含んでいて良い。
【0017】
本方法は、排気弁の開閉シーケンスを開始するクランク角度後のあるクランク角度で、吸気弁の開閉シーケンスを開始することを含んでいて良い。
【0018】
本方法は、遅くとも排気行程の終了時に吸気弁を閉じることを含んでいて良い。
【0019】
本方法は、排気弁が開く角度かこの角度後のある角度から吸気上死点までの排気行程の領域で、吸気弁の開閉シーケンスを実施することを含んでいても良い。
【0020】
本方法は、排気弁のリフトの高さよりも低くなるように排気行程中に吸気弁のリフトの高さを減少させることを含んでいても良い。
【0021】
本発明のその他の特徴や利点は、添付の図面を参照して、非限定的な例による以降の説明を読むことで明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の方法を使用する過給内燃エンジンの模式図である。
図2】掃気中のシリンダの吸気弁および排気弁の様々なリフト規則(L)を示す曲線を、本発明の方法を使用するエンジンのクランク回転(クランク角度°Vで表されている)の関数として示す図である。
図3】シリンダの吸気(Pa)と排気(Pe)の位置での圧力(P:バールで示されている)を、クランク回転(クランク角度°Vで表されている)の関数として示す曲線を表わすグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0024】
図1に示されている内燃エンジンは、自己着火形式の過給内燃エンジン、特にディーゼルエンジンであり、吸気行程A、圧縮行程C、膨張行程Dおよび排気行程Eを有する4ストロークモードで動作する。
【0025】
このエンジンは、少なくとも2つのシリンダ10、ここでは4つのシリンダ101〜104を有している。シリンダの内部では、燃料混合気の燃焼が行われる燃焼室12を区切ることによって、ピストン(不図示)が上死点(PMH)と下死点(PMB)との間の直線的な往復運動でスライドしている。
【0026】
公知のように、この燃料混合気は、再循環排気気体(EGR)と混合された過給空気と燃料との混合気か、過給空気と燃料との混合気である。
【0027】
シリンダ10は、少なくとも1つ、本例では2つの燃焼気体排出手段14を有し、燃焼気体排出手段1の各々は、排気弁18のような遮断手段に連結された排気管16を有する。
【0028】
排気管16は、排気マニフォールド20内で終端しており、燃焼気体を燃焼室12から排出できるようにしている。排気マニフォールド20は、排気ライン22に接続されている。
【0029】
このシリンダ10は、少なくとも1つ、ここでは2つの吸気手段24を有し、吸気手段24の各々は、吸気弁28のような遮断手段によって制御された吸気管26を有する。
【0030】
通常、吸気マニフォールド30は、複数の吸気管26に接続されており、新気(通常過給されており、再循環排気気体と混合されていたりされていなかったりする)を複数の燃焼室12に分配できるようにしている。
【0031】
吸気マニフォールドは、ターボ圧縮機36の圧縮部分34の出口にライン32によって接続されているのに対して、排気マニフォールド20は、ターボ圧縮機36のタービン38の入口にライン22によって接続されている。
【0032】
吸気弁28の開閉は、これらの弁のリフト規則を変化させることができる任意の公知の手段によって制御することができる。これらの手段は、より具体的には、高出力が必要なエンジンの動作条件、特に低いエンジン回転数でのこれらの弁の2段リフト、または中間および高いエンジン回転数での通常の動作条件下における単一リフトを達成できるようにする。
【0033】
そのため、これらの弁の2つのリフト規則を実現できるようにするVVA(可変弁作動)カムシャフト形式の制御手段40が使用される。第1の規則によって、エンジンの排気行程E中に吸気弁28を開閉する少なくとも1つのシーケンスを実行し、これに続き、吸気行程A中にこれらの弁を開閉する従来のシーケンスを実行することができる。別のリフト規則によって、エンジンの吸気行程A中に吸気弁28を開閉するシーケンスだけを実行することができる。
【0034】
非限定的な例として、このカムシャフトは、エンジンの排気行程Eおよび吸気行程A中にこれらの吸気弁28に対して2段のリフト規則を実現できるようにする、第2のカムに連動するカムだけでなく、エンジンの吸気行程A中に吸気弁28の単一のリフトを実現するように、複数のカムのうちの1つ、たとえば第2のカムを動作不能にする連結解除装置を有する。
【0035】
排気弁18の開閉は、これらの弁のリフト規則を変化させることができる制御手段42によって制御することができる。これらの手段も、排気行程E中に排気弁を閉じるクランク角度の修正と共にまたは修正なしに、これらの排気弁が開き始めるクランク角度の変化を実現できるようにするVVA(可変弁作動)カムシャフト形式である。
【0036】
もちろん、本発明の範囲から逸脱することなく、これらの制御手段40,42は、弁棒に直接作用する電磁アクチュエータ、電気空圧アクチュエータまたはその他の、各弁用の具体的な制御手段であって良い。
【0037】
「リフト」という用語は、パイプオリフィスを開き始める瞬間からオリフィスが完全に開いた位置まで、そしてこのオリフィスが閉じ終わる瞬間までの弁の動きを(2つの軸線に沿った)グラフ的に表現したものに対応する。
【0038】
このエンジンは、吸気マニフォールド30内の吸気圧力Paおよび排気マニフォールド20内の排気圧力Pe、エンジン回転数またはエンジンの負荷などのような、データ線46によって送信された複数のエンジンパラメータの値に基づいて、車両のドライバの要求を満たすようにエンジンが発生すべき出力を評価することを可能にする、マップまたはデータチャートを収容するエンジン計算機と呼ばれる処理ユニット44も有している。
【0039】
より正確には、この計算機44によって、これらの値に従って、吸気弁28の単一または2段のリフトを実現するように、制御手段40に作用している制御線48を通して吸気弁28のリフト規則を制御することができる。この計算機44は、開および/または閉に対するクランク角度を修正できるように、制御手段42に作用する制御線50を通して排気弁18のリフト規則を制御できるようにすることもできる。
【0040】
したがって、エンジンが高出力の要求に対応する条件下で動作しなければならないときには、この計算機は、吸気マニフォールド24内で記録された圧力Paが排気マニフォールド内での圧力Peよりも高い場合、燃焼室12に存在している残留燃焼気体を掃気するようにエンジンを制御する。
【0041】
この図に示している例では、エンジンは行程(cycle)1、3、4、2で動作する。ここで、燃焼行程中のクランク軸が所定の回転角度の時に、シリンダ101は排気行程Eの最後かつ吸気行程Aの最初であって、吸気弁と排気弁とが同時に開くことによって燃焼室に存在している燃焼気体を掃気する段階にあり、次のシリンダ102は排気弁および吸気弁が閉じた位置にある圧縮行程にあり、シリンダ103は排気弁が開いている排気行程Eにあり、最後のシリンダ(シリンダ104)は排気弁および吸気弁が閉じている膨張行程にある。
【0042】
掃気されるシリンダの燃焼気体を掃気する段階中に、排気行程Eにあるシリンダから来て排気マニフォールド20内を循環する排気気体の圧力波が排気気体の排出を妨げないようにするために、排気されるシリンダ10の排気弁の開き始めのクランク角度が修正される。そのため、排気弁が閉じるまで、排気圧力よりも吸気圧力の方がより高くなるように、この圧力波のピークが対象のシリンダの掃気段階の最後またはその後に来るようにすることが可能である。
【0043】
図2は、開いている位置(O)と閉じている位置(F)との間の掃気中のシリンダ10の吸気弁28および排気弁18のさまざまなリフト規則を表わす複数の曲線を、クランク回転角度(°V)の関数として示している。
【0044】
この図は、これらのクランク角度における吸気圧力Paと排気圧力Peとの複数の曲線を示している図3と関連している。
【0045】
燃焼気体掃気される技術を有する特許文献2に記載のエンジンについては、細い曲線で示しているように、排気弁Seは、(エンジンの排気行程Eの間は)燃焼室内に含まれている排気気体を排気マニフォールド20に向けて排出するように、ピストンの排気下死点(PMBe)と吸気上死点(PMHa)との間は従来の開閉シーケンスに従う。
【0046】
排気弁Seのこの開閉シーケンスの間に、残留燃焼気体の掃気を実現するために吸気弁28の開閉シーケンスが実行される。
【0047】
図3からわかるように、この従来技術の排気圧力曲線Peaaは、下死点PMBeの後に位置している吸気圧力曲線Paとの交点P1を有しており、この交点P1以降では排気圧力が吸気圧力よりも低くなっている。この曲線Peaaは、吸気上死点PMHaの前に、吸気圧力曲線Paとの別の交点P2を有しており、この交点P2以降では排気圧力が吸気圧力よりも高くなっている。曲線Peaaは、隣接するシリンダ10からの排気圧力波との組み合わせに起因する圧力ピーク領域Pemaxまで連続しており、それから圧縮下死点PMBcの周辺まで減少する。
【0048】
この構成においては、排気圧力の方がより高くなるような圧力差により、燃焼気体は点P2からもはや掃気されないのに対し、排気弁18と吸気弁28とは開いている位置のままである。この点P2から排気弁18がPMHaで閉じるまで、燃焼室12に既に存在している過給空気が吸気弁28を通して排出されつつ、燃焼ガスが燃焼室12へ再導入されるという不必要な期間が発生する。
【0049】
これを防止するために、排気弁18の開閉シーケンスの開始のクランク角度e1は、PMBeに一致していてはならず、図3に太線で示しているように、右側に変位した排気圧力曲線Peが得られるように、このPMBeの後に位置していなければならない。
【0050】
この角度e1の値は、排気下死点PMBe後の0°を超えて50°までの範囲にあることが好ましい。
【0051】
排気弁の開き始めを変位させることによって、曲線Paとの交点P’1が実質的にクランク角度a1に位置し、曲線Paとの交点P’2が吸気上死点PMHaの十分後に位置するようにできる。
【0052】
そのため、排気圧力Peは排気弁が閉じるまで常に吸気圧力よりも低いままであり、これにより、排気気体の掃気に有利な領域を増加させることができる。曲線Peは、隣接するシリンダの排気からの排気圧力波との組み合わせの結果として生じる圧力ピーク領域Pe’maxまで連続する。
【0053】
これは、排気弁の開く角度とそのため圧力波の位置によって排気圧力の位相設定が即座に決まり、これが、排気弁を遅く開くことによってPeがPeaaに対して変位する原因である。
【0054】
したがって、高出力の要求に相当するエンジンの動作状態に対しては、排気弁18は、排気行程Eの間、排気下死点PMBe後の点e1と吸気上死点PMHaとの間に開閉シーケンスを行うように、制御手段42によって制御される。
【0055】
この排気弁の開閉シーケンスと共に、排気行程E中かつ排気弁の開閉シーケンス中に吸気弁28の少なくとも1つの開閉シーケンスを実現するように、制御手段40は計算機44によって制御される。
【0056】
このシーケンスは、より具体的には、吸気弁28のレベルで検知された圧力Paが排気弁18のレベルで検知された圧力Peよりも高いという情報を計算機44が受信したときに実施される。
【0057】
より具体的には、これらの吸気弁は、排気弁が開く角度e1後のある角度a1(またはこの角度e1)で開き、燃焼室12に過給空気を供給して吸気上死点PMHaで閉じる。
【0058】
角度a1とPMHaとの間で、吸気圧力Paと排気圧力Peとの間の圧力差に関して吸気圧力の方がより高いため、燃焼室12に含まれている排気気体は、排気弁18を通して排気マニフォールド20に向けて排出される。したがって、この排気気体は、エンジンの吸気行程Aの最後に燃焼室12に存在する空気の量を全体的に増加させる過給空気によって置き換えられる。
【0059】
排気行程Eに続くこのエンジン吸気行程A中に、計算機44は、従来のようにPMHaの近傍で再び開いて圧縮下死点PMBcの近傍で閉じるように、これらの吸気弁28の制御手段40を制御する。
【0060】
角度a1とPMHaとの間の吸気弁28のリフトは、対象としている排気行程Eについて、吸気圧力Paと排気圧力Peとの間の圧力差が全体的に最大になるのに対して吸気圧力については正になるような排気行程の領域に相当している(図3を参照)。
【0061】
吸気弁のリフトの高さは排気弁のリフトの高さに実質的に等しいことが有利である。しかし、吸気弁のリフトの高さは、図2でパターン混合線(一点二短鎖線)によって示しているように、残留燃焼気体の排出を制御できるように、たとえば完全に開いている位置Oと3分の1だけ開いている位置O/3との間で変えてもよい。
【0062】
同様に、開閉シーケンスを、角度a1で開始してPMHaの前のクランク角度で終了させるように、排気行程中の吸気弁リフトの範囲を変えることができる。
【0063】
排気行程中のこれらの吸気弁の最大リフトおよび最大範囲は、排気弁の最大リフトおよび最大範囲よりも小さいことが好ましい。
【0064】
このようにして、吸気弁の第2のリフトの間、吸気行程Aの最後の空気の量がより多くなるように、掃気動作後に燃焼室12内に既に存在している過給空気に対してさらに過給空気が追加される。
【0065】
燃焼気体の掃気の無い従来のエンジン動作状態において、計算機44は、排気行程E中に吸気弁28の従来の開閉シーケンスを実現するように制御手段42を制御する。また、この計算機は、排気行程E中に吸気弁28の開閉シーケンスを実施しないように制御手段40を制御する。
【0066】
この排気行程には、吸気弁がPMHaとPMBcとの間で従来の開閉シーケンスに従う吸気行程Aが続く。
【0067】
本発明は、排気行程中に排気弁のリフト規則に作用して掃気パラメータ(排出される燃焼気体の量、燃焼気体の排出の時間など)を調整可能で、排気ガスが掃気されるエンジン動作状態から、従来のエンジン動作状態への変更、およびその逆の変更を、容易に行うことができる。さらに、吸気規則のモジュール化によって、吸気圧力と排気圧力との圧力差に従って残留燃焼気体の掃気を管理することができる。
【0068】
本発明は、前述の例に限定されるものでは無く、あらゆる変形例または等価な例を含む。
【符号の説明】
【0069】
12 燃焼室
18 排気弁
28 吸気弁
図1
図2
図3