特許第6097046号(P6097046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097046
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】防錆剤組成物及び防錆剤被覆鋼材
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/06 20060101AFI20170306BHJP
   C09D 167/08 20060101ALI20170306BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20170306BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20170306BHJP
   C23F 11/00 20060101ALI20170306BHJP
   B32B 15/09 20060101ALI20170306BHJP
   B32B 15/082 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   C09D4/06
   C09D167/08
   C09D133/00
   C09D5/08
   C23F11/00 B
   B32B15/09 Z
   B32B15/082 Z
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-230899(P2012-230899)
(22)【出願日】2012年10月18日
(65)【公開番号】特開2014-80548(P2014-80548A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000207399
【氏名又は名称】大同化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上村 隆之
(72)【発明者】
【氏名】森 伸行
(72)【発明者】
【氏名】有田 勤
(72)【発明者】
【氏名】足立 尚
(72)【発明者】
【氏名】田中 敏明
(72)【発明者】
【氏名】山口 一男
【審査官】 安藤 達也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2000/044840(WO,A1)
【文献】 特開昭53−102935(JP,A)
【文献】 特開平06−248235(JP,A)
【文献】 特開昭55−016071(JP,A)
【文献】 特開昭54−129084(JP,A)
【文献】 特開2002−294140(JP,A)
【文献】 特開昭61−097367(JP,A)
【文献】 特開昭49−093421(JP,A)
【文献】 特開2008−007716(JP,A)
【文献】 特公昭53−008730(JP,B1)
【文献】 特開昭51−125488(JP,A)
【文献】 特開昭51−119043(JP,A)
【文献】 特開平08−283613(JP,A)
【文献】 特開昭62−101666(JP,A)
【文献】 特開昭59−187062(JP,A)
【文献】 特開昭61−261366(JP,A)
【文献】 特開昭58−201861(JP,A)
【文献】 特開2005−008684(JP,A)
【文献】 特開2006−111857(JP,A)
【文献】 特開2004−359824(JP,A)
【文献】 特開2003−155580(JP,A)
【文献】 特公昭54−016974(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00〜C09D201/10
B32B1/00〜B32B43/00
C23F11/00〜C23F11/18
C08G63/00〜C08G63/91
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキッド変性アクリル樹脂、反応性モノマー及び有機溶剤を含有する防錆剤組成物であって、前記アルキッド変性アクリル樹脂は、アクリル樹脂を、油変性アルキッド樹脂で変性したもので、アクリル樹脂部(a)とアルキッド樹脂変性部(b)と脂肪酸変性部(c)とから構成され、(a)を50〜90重量%、(b)を5〜25重量%、(c)を5〜25重量%の割合で含有し、前記反応性モノマーが、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、及びγ−アニリノプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種である、防錆剤組成物。
【請求項2】
前記アルキッド変性アクリル樹脂の重量平均分子量が5万〜20万である、請求項1に記載の防錆剤組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の防錆剤組成物が鋼材の表面に塗布されてなる、防錆剤被覆鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材、特に油井用鋼管(以下、油井用鋼管を「油井管」という)等の鋼管類を長期的に防錆するための樹脂被膜型防錆剤組成物ならびにこの樹脂被膜型防錆剤組成物を塗布した鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、鋼材の防食及び美観を目的として、アルキッド樹脂、アクリル変性アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が、防錆剤または塗料に利用されている。
【0003】
鋼材の中でも鋼管、特に原油、ガス油等の採掘のための油井掘削に用いられる油井管には乾性油からの脂肪酸(大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸等)による変性アルキッド樹脂が、比較的経済性も高く、鋼材との密着性がよいために広く使われている。しかし、脂肪酸で変性したアルキッド樹脂は、耐候性、特に耐UV(紫外線)劣化性が弱く、通常の屋外曝露で6ヶ月程度しか防錆力が持続しない。
【0004】
ここで、アルキッド樹脂の耐候性が弱いのは、太陽光(UV)による樹脂骨格の分解に原因があると考えられる。アルキッド樹脂の骨格はエステル結合により繋がっており、そのエステル結合部が、UVによって分解するからである。UVによって特に劣化し易い樹脂分子内の箇所は、C=CやC=O等の多重結合部である。
【0005】
一般に、家電製品の上塗り塗料として、アクリル樹脂が広く用いられている。アクリル樹脂の骨格は炭素同士の結合であるため、UVによる分解は起きない。よって、アクリル樹脂は耐候性が良い。しかし、アクリル樹脂は鋼材表面への密着性が劣り、膜が剥離するという問題が生じるために、鋼材用の塗料としては利用されていなかった。
【0006】
膜の密着性及び/又は防食性を高めるために、防錆剤を鋼材へ塗布する前に鋼材表面にブラスト処理等を施し、活性化させることが一般に行われている。しかしながら、鋼材表面の活性化処理を行うことなく、鋼材製品の一時的な貯蔵又は保管、運搬等にあたり、防錆剤を塗布して一時的な防錆力を維持したいとするニーズがある。ここで、油井管等の鋼管製品の一部では表面にミルスケール(製管時に生成する鉄酸化物)が生じている場合があり、また、工程等の都合で、油井管等が製管のままの状態で保管された場合には、防錆剤を塗布する時点で、錆が生成していることがある。製管直後、鋼材表面にミルスケールのみが存在する状態であれば、従来の防錆剤でも、それを塗布すれば、その防錆剤本来の防食性能により錆の発生は抑制される。しかしながら、前述のように出荷前の保管段階で既に鋼管表面に錆が生成している場合、従来の防錆剤では、これを塗布しても、防錆剤本来の防食性能が発揮されず、腐食がさらに進行し、防錆被膜の剥離に至る場合もある。
【0007】
また、油井管等の鋼管類は輸出されることが多く、特に中近東等の赤道に近い地点に輸出した場合には、従来の防錆剤を塗布したものでは、強力なUV及び高温多湿の環境によって1ヶ月程度で錆が顕著に発生するケースがある。近年は、油井管表面の外観も重視される傾向にあり、油井管表面に傷のないことが求められる。
【0008】
長期耐候性、耐食性を有し、かつ高光沢等の塗膜外観に優れた常温硬化可能な溶剤型塗料組成物として、特許文献1には、アクリル化アルキド樹脂及び含フッ素共重合体を含む混合物を結合剤として含有する塗料組成物が記載されている。
【0009】
また、特許文献2には、鋼材に対する長期防錆性のすぐれた皮膜にエポキシ樹脂を主成分とする長期防錆被覆組成物が記載されている。
【0010】
しかし、いずれの特許文献の防錆剤においても、塗膜の耐候性(耐UV性を含む)及び塗膜の密着性が両立でき、かつ比較的安価であり、予め鋼材に表面活性化を行うことなく、例えば、既に錆が発生した状態で塗膜性能が発現するという、特に油井管において要求されるニーズを満足できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平4−79391号公報
【特許文献2】特公平3−49942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記した従来のアルキッド樹脂の課題及びアクリル樹脂の課題を解決することであり、特に耐UV劣化性に優れ、錆が共存する状態で更なる腐食の進行を抑制することができる防錆剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定のアルキッド変性アクリル樹脂を含有する防錆剤組成物を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は下記の防錆剤組成物等に関する。
【0015】
1.アルキッド変性アクリル樹脂及び有機溶剤を含有する防錆剤組成物であって、前記アルキッド変性アクリル樹脂は、アクリル樹脂を、油変性アルキッド樹脂で変性したもので、アクリル樹脂部(a)とアルキッド樹脂変性部(b)と脂肪酸変性部(c)とから構成され、(a)を50〜90重量%、(b)を5〜25重量%、(c)を5〜25重量%の割合で含有する、防錆剤組成物。
【0016】
2.前記アルキッド変性アクリル樹脂が、前記アクリル樹脂と前記油変性アルキッド樹脂とをエステル結合させ、さらに前記アルキッド変性アクリル樹脂同士を反応性モノマーで架橋させたものである、上記項1に記載の防錆剤組成物。
【0017】
3.前記アルキッド変性アクリル樹脂の重量平均分子量が5万〜20万である、上記項1または2に記載の防錆剤組成物。
【0018】
4.上記項1〜3のいずれか1項に記載の防錆剤組成物が鋼材の表面に塗布されてなる、防錆剤被覆鋼材。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特定のアルキッド変性アクリル樹脂を適用することにより、アクリル樹脂の耐UV劣化性とアルキッド樹脂の金属密着性とを兼ね備え、長期防錆が可能な防錆剤組成物ならびに該組成物を塗布した鋼材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の防錆剤組成物について詳細に説明する。
【0021】
本発明の防錆剤組成物は、アルキッド変性アクリル樹脂及び有機溶剤を含有する。
【0022】
本発明の防錆剤組成物の主成分であるアルキッド変性アクリル樹脂は、アクリル樹脂を、油(脂肪酸)変性アルキッド樹脂で変性したもので、同一分子内にアクリル樹脂に由来する構造部分とアルキッド樹脂の構造部分と脂肪酸の構造部分とを有する。
【0023】
アクリル樹脂にアルキッド樹脂部を結合させることにより、アクリル樹脂の金属への吸着性を向上させて、金属への密着性を改善することができる。
【0024】
アクリル樹脂としては、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等が挙げられる。
【0025】
油変性アルキッド樹脂は、アルキッド樹脂に脂肪酸をエステル付加させて変性したものである。
【0026】
アルキッド樹脂は、アルキッド樹脂の製造に通常用いられる成分、例えば、多塩基酸(酸無水物を含む)、多価アルコール及び油脂から構成される。
【0027】
前記多塩基酸として、炭素数が、例えば2〜30程度のものを使用することができる。このような多塩基酸には、例えば、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸などの脂肪族又は脂環式飽和多塩基酸;マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水ヘット酸、無水ハイミック酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸無水物などの脂肪族又は脂環式不飽和多塩基酸;フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、テトラクロロ無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの芳香族多塩基酸などが含まれる。これらの中で、好ましくは脂肪族又は脂環式不飽和多塩基酸であり、より好ましくは脂肪族又は脂環式不飽和二塩基酸であり、特に、マレイン酸等の脂肪族不飽和二塩基酸が好ましい。多塩基酸は1種であってもよく2種以上の組み合わせであってもよい。
【0028】
前記多価アルコールとして、炭素数が、例えば2〜30程度のものを使用することができる。このような多価アルコールには、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAビスヒドロキシプロピルエーテルなどの2価アルコール;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリスヒドロキシメチルアミノメタンなどの3価アルコール;ジグリセリン、トリグリセリン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトールなどの4価以上のアルコールが含まれる。多価アルコールは1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。多価アルコールとして、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの3価以上のアルコールを少なくとも1種用いるのが好ましい。
【0029】
前記油脂としては、例えば、大豆油、アマニ油、キリ油、ヒマシ油、ヤシ油、パーム核油、サフラワー油、トール油脂肪酸、脱水ヒマシ油などが例示される。好ましい油脂には、オレイン酸等の不飽和脂肪酸を酸成分として含む油脂が含まれる。
【0030】
本発明では、特に、アルキッド樹脂を脂肪酸で変性した、油変性アルキッド樹脂を用いる。アルキッド樹脂に脂肪酸をエステル付加することにより、膜質を柔らかくして耐衝撃性を改善することができる。これにより、パイプ同士が衝突した場合に、その衝撃で樹脂が割れるのを防ぐことができる。
【0031】
前記脂肪酸としては、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸を挙げることができる。飽和脂肪酸として、例えば、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの炭素数が4〜24の飽和脂肪酸が挙げられ、好ましくは炭素数が8〜18の飽和脂肪酸である。不飽和脂肪酸として、例えば、ブテン酸、ヘキセン酸、オクテン酸、デセン酸、ドデセン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、脱水リシノール酸などの炭素数が4〜24の不飽和脂肪酸が挙げられ、好ましくは炭素数が8〜18の不飽和脂肪酸である。これらの脂肪酸の中でも、得られるアルキッド変性アクリル樹脂の溶剤溶解性を高める上で、オレイン酸などの不飽和脂肪酸が特に好ましい。ただし、不飽和脂肪酸は、二重結合を有するため、付加割合が多いと耐UV劣化性が低下するため、配合量を少なくする必要がある。前記脂肪酸は1種又は2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
アルキッド変性アクリル樹脂は、アクリル樹脂と、油変性アルキッド樹脂とをエステル結合させることにより得ることができる。
【0033】
アルキッド変性アクリル樹脂同士をさらに密に結合させるため、アルキッド変性アクリル樹脂同士を反応性モノマーで架橋させることが好ましい。これにより、得られるアルキッド変性アクリル樹脂の耐衝撃性をより向上させることができる。
【0034】
反応性モノマーとして、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン等のシラン類が挙げられる。
【0035】
本発明において使用するアルキッド変性アクリル樹脂は、アクリル樹脂部(a)とアルキッド樹脂変性部(b)と脂肪酸変性部(c)とから構成され、(a)を50〜90重量%、(b)を5〜25重量%、 (c)を5〜25重量%の割合で含む。好ましい割合は、(a)70〜85重量%、(b)8〜15重量%、(c)8〜15重量%である。なお、(a)+(b)+(c)=100重量%である。
【0036】
本発明で使用されるアルキッド変性アクリル樹脂の重量平均分子量は、5万〜20万であることが好ましい。重量平均分子量が5万未満だと、防錆性が低下し、20万を超えると粘性が高くなり作業性が低下する。より好ましくは、8万〜15万である。
【0037】
アルキッド変性アクリル樹脂として、例えば、ハリアクロン8283(商品名、ハリマ化成(株)製)、ハリアクロン8281(商品名、ハリマ化成(株)製)、ハリアクロン8730(商品名、ハリマ化成(株)製)等の市販品を使用することができる。
【0038】
本発明のアルキッド変性アクリル樹脂は、有機溶剤に溶解または分散される。有機溶剤の例としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素類;塩化メチレン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、n−ブチルエーテル等のエーテル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類などが挙げられ、好ましくは芳香族炭化水素系溶剤を含む溶剤(ミネラルスピリット)である。
【0039】
有機溶剤は、アルキッド変性アクリル樹脂100重量部に対して150〜300重量部の量で使用する。
【0040】
本発明の防錆剤組成物は、上述したような特定のアルキッド変性アクリル樹脂を使用することにより、アクリル樹脂の耐UV劣化性とアルキッド樹脂の金属密着性とを兼ね備え、錆が共存する状態で更なる腐食の進行を抑制することができるので長期防錆が可能である。本発明の防錆剤組成物は、特に油井管用の防錆剤組成物として有用である。
【0041】
本発明は、上述した防錆剤組成物が鋼材の表面に塗布されてなる防錆材被覆鋼材も提供する。防錆剤組成物が塗布される鋼材はいかなる形状および材質のものであってもよいが、特に防食のために特別のコーティングが施されない裸使用の鋼材、なかでも油井管等の鋼管類が対象となる。これらの鋼材は圧延加工および熱処理を施された後、ショットブラスト等により表面のスケールを除去されたものやその後さらに酸洗されたものでもよいし、またスケール種や厚さを調整され密着スケールを被覆された鋼材であってもよい。鋼管に防錆剤が塗布される場合は、鋼管の外面に塗布されるのが一般的であるが、さらに内面に塗布しても差し支えない。材質は炭素鋼、低合金鋼、中合金鋼、またステンレス等の高合金鋼であってもよい。このうち特に炭素鋼、低合金鋼、中合金鋼、13Cr鋼程度までが主対象になる。
【0042】
鋼管への塗布方法は汎用のスプレー塗装、静電塗装、しごき塗りでもよく、特に静電塗装は均一な膜厚形成には好適である。
【0043】
なお、乾燥膜厚は2〜50μmが好ましく、より好ましくは5〜30μmである。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
表1に、各種樹脂の成分構成を示す。樹脂A〜Gをミネラルスピリットで樹脂分が35重量%になるように希釈し、市販の冷延鋼板上にバーコーターで乾燥膜厚が5±0.5μmになるように塗布、調整し、各種試験を行った。塗布前に冷延鋼板は脱脂後、600番研磨し、各樹脂を塗布前に再度脱脂したものを用いた。
【0046】
さらに、鋼管製造後に保管時に鋼管表面にさびが生成した状況を模擬するために、冷延鋼板を脱脂、600番研磨後、予め兵庫県尼崎市において、南面30°の姿勢で2ヶ月間暴露し、鋼材表面にさびを形成したのち、バーコーターにて、表1に示す防錆油剤組成物を塗布し、同様に各種試験を行った。なお、バーコーターは、脱脂後、600番研磨した冷延鋼板を用いた場合、乾燥膜厚が10μmとなるようなバーコーターを選定し、錆が形成された鋼板に塗布した。
【0047】
【表1】
【0048】
樹脂A:ハリアクロン8283(商品名、ハリマ化成(株)製、樹脂分50重量%、溶剤ミネラルスピリット)
樹脂B:ハリアクロン8281(商品名、ハリマ化成(株)製、樹脂分50重量%、溶剤ミネラルスピリット)
樹脂C:ハリアクロン8730(商品名、ハリマ化成(株)製、樹脂分50重量%、溶剤ミネラルスピリット)
樹脂D:ハリアクロン8006G−8(商品名、ハリマ化成(株)製、樹脂分50重量%、溶剤ミネラルスピリット)
樹脂E:ハリアクロン8006G(商品名、ハリマ化成(株)製、樹脂分50重量%、溶剤ミネラルスピリット)
樹脂F:ベッコゾールES−4801−50MS(商品名、DIC(株)製、樹脂分50重量%、溶剤ミネラルスピリット)
樹脂G:ベッコゾールDK−550(商品名、DIC(株)製、樹脂分70重量%、溶剤ミネラルスピリット)
【0049】
1.各種試験の条件と判定基準
1)密着性試験
バーコーター塗布後7日間放置した塗布膜に、カッターにて碁盤目の切り目を入れ、セロテープ(登録商標)にて剥がした時に、100枡中に塗布膜が在る箇所数で以下のように判定した。
基準
○;100〜95/100 △;75〜94/100 ×;75未満/100
【0050】
2)塩水噴霧試験
下記の条件下の塩水噴霧試験機に24時間入れた時の錆面積で防錆性を試験した。さび面積は、デジタル画像を二値化処理にて算出した。
塩水噴霧試験の条件(JIS−K−2246に準じる)
(i) 機内温度:35±1℃
(ii) 噴霧する液:5%塩化ナトリウム水溶液
(iii) 試験片:傾斜角45°に置く
基準
○;錆面積10%未満 △;錆面積10%以上25%未満 ×;錆面積25%以上
【0051】
3)湿潤箱試験
下記の条件下の湿潤箱試験機に168時間入れた時の錆面積で防錆性を試験した。
湿潤箱試験の条件(JIS−K−2246に準じる)
(i) 機内温度:49±1℃
(ii) 相対湿度:95%以上
(iii) 試験片:吊り下げた状態で回転させる
基準
○;錆面積10%未満 △;錆面積10%以上25%未満 ×;錆面積25%以上
【0052】
4)UV照射試験後の塩水噴霧試験 その1(クロスカット無し塗膜)
下記条件下のUV照射試験48時間後に2)と同じ塩水噴霧試験機に24時間入れた後のさび面積で防錆性を試験した。さび面積は、デジタル画像を二値化処理にて算出した。
UV照射試験の条件
(i) ブラックパネル温度:63±1℃
(ii) 試料面のエネルギー(波長300nm〜400nm):60 mW/cm
基準
○;錆面積10%未満 △;錆面積10%以上25%未満 ×;錆面積25%以上
【0053】
5)UV照射試験後の塩水噴霧試験 その2(クロスカット有り塗膜)
塗膜面にPカッターを用いて鋼面に達するクロスカットを付与して試験を行った。試験は4)と同様、下記条件下のUV照射試験48時間後に2)と同じ塩水噴霧試験機に24時間入れた後のさび面積で防錆性を試験した。さび面積は、デジタル画像を二値化処理にて算出した。
UV照射試験の条件
(i) ブラックパネル温度:63±1℃
(ii) 試料面のエネルギー(波長300nm〜400nm):60 mW/cm
基準
○;錆面積10%未満 △;錆面積10%以上25%未満 ×;錆面積25%以上
【0054】
6)鋼管模擬さび残存鋼材の塩水噴霧試験
無塗装の試験鋼板を、兵庫県尼崎市において、南面30°に傾けて2ヶ月暴露し表面にさびを形成させた後、バーコーターを用いて各種樹脂を塗布、乾燥した。その後、2)の塩水噴霧試験を24時間実施した。
基準
○;錆面積10%未満 △;錆面積10%以上25%未満 ×;錆面積25%以上
【0055】
【表2】
【0056】
各種試験の結果からわかる通り、実施例1〜3はUV照射試験において良好な結果が得られたことから耐UV劣化性に優れていることが判明した。また、鋼管の製造後、保管時に腐食し、さびが生成した後の防腐剤塗布の状況を模擬した状態においても、本発明の組成物は防食性が優れることが判明した。