特許第6097102号(P6097102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097102
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】磁気浮上装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 38/14 20060101AFI20170306BHJP
   H01F 7/20 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   H01F38/14
   H01F7/20 E
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-49172(P2013-49172)
(22)【出願日】2013年3月12日
(65)【公開番号】特開2014-175595(P2014-175595A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100918
【弁理士】
【氏名又は名称】大橋 公治
(74)【代理人】
【識別番号】100108729
【弁理士】
【氏名又は名称】林 紘樹
(72)【発明者】
【氏名】水野 毅
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−338415(JP,A)
【文献】 特開2012−217228(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/169014(WO,A1)
【文献】 特開平05−137215(JP,A)
【文献】 特開2012−085472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 38/14
H01F 7/20
H02J 50/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次側電磁石を構成する一次側コイルと該一次側コイルに高周波の交流を供給する高周波電源とを有する静止側と、
二次側電磁石を構成する二次側コイルを有し、前記一次側電磁石から発生される磁力で浮上するとともに、前記一次側コイル及び二次側コイルを通じて前記静止側から非接触で給電が行われる浮上側と、
を備える磁気浮上装置であって、
前記静止側は、前記一次側コイルを含む共振周波数f0の一次側共振回路を有し、
前記浮上側は、前記二次側コイルを含む共振周波数f0の二次側共振回路を有する、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気浮上装置であって、
前記浮上側と前記静止側との間隔は、前記一次側共振回路と前記二次側共振回路とが周波数f1(<f0)及びf2(>f0)で共振する磁界共振結合が維持される間隔に保たれる、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項3】
請求項2に記載の磁気浮上装置であって、
前記高周波電源から出力される交流の周波数は、周波数f1またはその前後の周波数であって、前記静止側の一次側電磁石と、前記静止側の下側で磁気浮上する前記浮上側の二次側電磁石との間に吸引力が作用する周波数に設定される、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項4】
請求項3に記載の磁気浮上装置であって、
前記浮上側の重力に釣り合う前記吸引力は、前記浮上側と前記静止側との間隔が増加すると該吸引力が増加し、前記間隔が減少すると該吸引力が減少する範囲に設定されている、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項5】
請求項2に記載の磁気浮上装置であって、
前記高周波電源から出力される交流の周波数は、周波数f2またはその前後の周波数であって、前記静止側の一次側電磁石と、前記静止側の上側で磁気浮上する前記浮上側の二次側電磁石との間に反発力が作用する周波数に設定され、
前記浮上側の重力に釣り合う前記反発力は、前記浮上側と前記静止側との間隔が増加すると該反発力が減少し、前記間隔が減少すると該反発力が増加する範囲に設定されている、
ことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の磁気浮上装置であって、前記一次側共振回路は、前記一次側コイルに直列接続されたコンデンサを有し、前記二次側共振回路は、前記二次側コイルに直列接続されたコンデンサを有することを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の磁気浮上装置であって、前記浮上側と前記静止側との間隔を制御する制御機構を持たないことを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の磁気浮上装置であって、前記高周波電源から出力される交流の周波数が500Hz以上であることを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の磁気浮上装置であって、前記浮上側が、前記静止側から給電された電力を変換する電力変換装置と、変換された電力によって駆動される電気機械とを備えていることを特徴とする磁気浮上装置。
【請求項10】
請求項9に記載の磁気浮上装置であって、前記浮上側は、さらに、前記電力変換装置で変換された電力を蓄積する電力貯蔵装置を備え、前記電気機械が、前記電力貯蔵装置に蓄積された電力によって駆動されることを特徴とする磁気浮上装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁石の磁力で浮上体を非接触支持する磁気浮上装置に関し、電磁石のコイルを利用して、磁気浮上中の浮上体に大電力を非接触で伝送することを可能にしたものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、図15に示すように、固定側が、電磁石を構成する一次側コイルを備え、浮上体側が、一次側コイルに対向する二次側コイルと、二次側コイルのインピーダンスを制御するインピーダンス制御回路とを備える交流磁気浮上装置が従来例として紹介されている。
この装置では、磁気浮上中の浮上体に対し、一次側コイル及び二次側コイルを通じて非接触給電が行われる。また、浮上体を安定浮上させるため、固定側と浮上体との空隙が検知され、その検知結果に基づいて二次側コイルのインピーダンスがインピーダンス制御回路で制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−338415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、図15の装置は、固定側から浮上体へのエネルギー伝送効率が低く、また、浮上体の安定浮上を図るためにインピーダンス制御回路が必要であり、高コストになると言う課題がある。
【0005】
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、浮上中の浮上体に大電力を供給することができ、また、浮上体を安定浮上させるための制御機構が不要である磁気浮上装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、一次側電磁石を構成する一次側コイルと一次側コイルに高周波の交流を供給する高周波電源とを有する静止側と、二次側電磁石を構成する二次側コイルを有し、一次側電磁石から発生される磁力で浮上するとともに、一次側コイル及び二次側コイルを通じて静止側から非接触で給電が行われる浮上側と、を備える磁気浮上装置であって、
静止側が、一次側コイルを含む共振周波数f0の一次側共振回路を有し、浮上側が、二次側コイルを含む共振周波数f0の二次側共振回路を有する、ことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の磁気浮上装置では、浮上側と静止側との間隔は、一次側共振回路と二次側共振回路とが周波数f1(<f0)及びf2(>f0)で共振する磁界共振結合が維持される間隔に保たれる。
【0008】
磁界共振結合は、2006年にMITからWiTricityという名称で発表された非接触の電力伝送技術であり、高効率な非接触給電が可能である。この磁界共振結合では、共通の共振周波数f0を持つ一次側コイルと二次側コイルとの距離が近づくにつれ、1つであった共振周波数f0が2つ(f1、f2)に分かれる。
【0009】
また、本発明の磁気浮上装置では、高周波電源から出力される交流の周波数は、周波数f1またはその前後の周波数であって、静止側の一次側電磁石と、静止側の下側で磁気浮上する浮上側の二次側電磁石との間に吸引力が作用する周波数に設定される。
浮上側が静止側の下側で磁気浮上する吊下げ型の磁気浮上装置では、一次側コイルに供給する交流の周波数をf1近傍に設定することで静止側の一次側電磁石と浮上側の二次側電磁石との間に吸引力が作用する。
【0010】
また、本発明の磁気浮上装置では、浮上側の重力に釣り合う吸引力は、浮上側と静止側との間隔が増加すると吸引力が増加し、この間隔が減少すると吸引力が減少する範囲に設定される。
「静止側と浮上側との間隔(ギャップ)」と「吸引力」との関係が“ギャップが増加すると吸引力が増加し、ギャップが減少すると吸引力が減少する”範囲に浮上している浮上側は、静止側との間隔が変動しても自らバランス位置に戻る自己平衡性を有している。
【0011】
また、本発明の磁気浮上装置では、浮上側を静止側の上側で非接触支持する場合、一次側コイルに供給する交流の周波数をf2近傍に設定することで静止側の一次側電磁石と浮上側の二次側電磁石との間に反発力が作用する。また、「静止側と浮上側との間隔(ギャップ)」と「反発力」との関係が“ギャップが増加すると反発力が減少し、ギャップが減少すると反発力が増加する”範囲に浮上している浮上側は、自己平衡性を有しており、静止側との間隔が変動しても自らバランス位置に戻ることができる。
【0012】
また、本発明の磁気浮上装置では、一次側共振回路が、一次側コイルに直列接続されたコンデンサを有し、二次側共振回路が、二次側コイルに直列接続されたコンデンサを有している。
一次側共振回路及び二次側共振回路は、それぞれ単独では、共通の共振周波数f0を持つLC共振回路である。
【0013】
また、本発明の磁気浮上装置は、浮上側と静止側との間隔を制御する制御機構を持たない。
浮上側が自己平衡性を有しているため、浮上側と静止側との間隔を制御するための制御機構が不要である。
【0014】
また、本発明の磁気浮上装置では、高周波電源から出力される交流の周波数が500Hz以上に設定される。
磁界共振結合はMHz帯での技術として発表されたが、磁気浮上を行うにあたり、この周波数帯では浮上が難しい。しかし、500Hz以上であれば磁界共振結合が達成されることを実験で確認できた。
【0015】
また、本発明の磁気浮上装置は、浮上側が、静止側から給電された電力を変換する電力変換装置と、変換された電力によって駆動される電気機械とを備える装置などに適用できる。
電力変換装置が、静止側から供給された交流を直流や所望の周波数の交流に変換し、モータ等の電気機械が、変換された電力で駆動される。
【0016】
また、本発明の磁気浮上装置では、浮上側が、さらに、電力変換装置で変換された電力を蓄積する電力貯蔵装置を備え、電気機械が、電力貯蔵装置に蓄積された電力によって駆動されるようにしても良い。
例えば、電力変換装置が、静止側から供給された交流を直流に変換し、その直流が電力貯蔵装置に蓄積され、電気機械が、蓄積された電力で駆動される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の磁気浮上装置では、静止側と浮上側とが磁界共振結合で結合されているため、静止側から浮上側に大電力を効率的に非接触伝送することができる。
また、自己平衡性を有する浮上側は、安定浮上のための制御機構が不要であり、装置の低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る磁気浮上装置の構成を模式的に示す図
図2図1の磁気浮上装置の等価回路図
図3図1の磁気浮上装置の特性を測定するために用いた実験装置を示す図
図4】磁界共振結合における共振周波数のギャップによる変化を示す図
図5図1の磁気浮上装置の共振周波数を示す図
図6図1の磁気浮上装置の入力周波数と吸引力との関係を示す図
図7】電磁石間の吸引力と反発力とを説明する図
図8図1の磁気浮上装置のギャップと吸引力との関係を示す図
図9図1の磁気浮上装置の自己平衡性を説明する図
図10図1の磁気浮上装置の入力周波数を変えたときのギャップと吸引力との関係を示す図
図11図1の磁気浮上装置のギャップと電力伝送効率との関係を示す図
図12図1の磁気浮上装置の自己平衡性に関する測定結果を示す図
図13】本発明が適用された磁気浮上装置を模式的に示す図
図14図13の磁気浮上装置の変形例を示す図
図15】従来の交流磁気浮上装置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る磁気浮上装置を模式的に示している。
この装置は、磁力を発生する静止側10と、静止側10の下側で磁気浮上する浮上体20とから成り、静止側10は、一次側電磁石を構成するE型コア11及び一次側コイル12と、一次側コイル12に高周波交流を供給する高周波電源14と、一次側コイル12に直列接続したコンデンサ13とを備えている。
一方、浮上体20は、二次側電磁石を構成するE型コア21及び二次側コイル22と、二次側コイル22に直列接続したコンデンサ23とを備えている。
【0020】
静止側10の一次側コイル12及びコンデンサ13は、共振周波数f0で共振する一次側共振回路を構成し、浮上体20の二次側コイル22及びコンデンサ23は、同じ共振周波数f0で共振する二次側共振回路を構成している。
図2(a)は、一次側共振回路の一次側コイル12と二次側共振回路の二次側コイル22とが非接触給電を行うトランスとして機能するときの等価回路を示している。
【0021】
また、図3は、この磁気浮上装置の特性を測定するために用いた実験装置を示している。この装置では、静止側10を固定し、静止側10に対向する浮上体20の浮上方向を垂直方向のみに限定するため、浮上体20が固定された可動体31の左右をそれぞれ2本の板32と軸受33とで支持している。また、2本の板32の浮上体20と反対の側にカウンターウェイト34を取り付けて、静止側10の電磁石が支持する重力を調節できるようにしている。また、浮上体20に作用する吸引力は、可動体31の下側に取り付けたロードセル35で測定し、静止側10と浮上体20とのギャップは、可動体31の下面位置までの距離を渦電流形変位センサ36で測定して求めている。なお、この実験装置では、浮上体20の可動範囲をストッパーで2.2 [mm]に制限している。
静止側10及び浮上体20の電磁石は、共に、ホルマル銅線を260回巻きしたボビンを、積層ケイ素鋼板のE型コアに取り付けて構成している。
【0022】
磁界共振結合は、図4に示すように、共通の共振周波数を持つ送信コイルと受信コイルとの距離が近づくと、1つであった共振周波数が2つに分かれる点に特徴がある。
磁界共振結合は、2006年にMITからMHz帯での技術として発表されたが、その後の研究で、MHz以外のkHz帯やGHz帯においても同様の結合が利用できることが明らかにされている。
【0023】
図5は、図3の装置において、静止側10の電磁石単体のコンダクタンスと電磁石への入力周波数との関係について測定した結果(1)と、静止側10及び浮上体20の2つの電磁石を近づけたときのコンダクタンスと入力周波数との関係について測定した結果(2)とを示している。測定は、インピーダンスアナライザを用いて行っている。
2つの電磁石を近づけた場合、電磁石単体での共振周波数f0より低い共振周波数f1と、共振周波数f0より高い共振周波数f2とが現われている。これにより、静止側10の一次側共振回路と浮上体20の二次側共振回路とが磁界共振結合により結合していることが確認できる。
この磁気浮上装置では、電磁石の入力周波数が500Hz以上において、磁界共振結合が達成できることを確認した。
【0024】
共振周波数f0、f1及びf2は、図2(a)の等価回路の抵抗成分を無視し(即ち、R1=R2=RL=0)、一次側共振回路及び二次側共振回路で同じコイル及びコンデンサを使う(即ち、L1=L2=L、C1=C2=C)こととする図2(b)の等価回路で考えると、次の(数1)(数2)(数3)のように表すことができる。
【数1】
【数2】
【数3】
ここで、kは一次側共振回路と二次側共振回路との結合係数であり、
k=Lm/(L1・L2)1/2=Lm/L
で表される。
【0025】
図6は、図3の実験装置により、静止側10の電磁石の入力周波数を変えて吸引力の変化を測定した結果を示している。図6から、共振周波数f1(1050Hz)の付近では吸引力が発生し、共振周波数f2(1910Hz)の付近では反発力が発生していることが分かる。
なお、図6では、反発力の方が吸引力に比べて力が弱いが、これは、浮上体20を静止側10の下側に配置して測定しているため、反発力により浮上体20と静止側10とのギャップが拡がり、吸引力に比べて磁束漏れが多くなることが原因している。
【0026】
入力周波数により吸引力と反発力とが発生する現象は、次のように説明できる。
図2(b)の等価回路において、一次側共振回路に流れる電流I1は、次式(数4)で表され、二次側共振回路に流れる電流I2は、式(数5)で表される。
【数4】
【数5】
ここで、ωは入力角周波数である。
このI1及びI2は、0<ω<ω0のとき異符号となり、ω0<ωのとき同符号となる。I1及びI2が異符号の場合は、図7(a)に示すように、静止側10の電磁石で発生する磁束φ1と浮上体20の電磁石で発生する磁束φ2とが同じ向きになり、両者間に吸引力が発生する。一方、I1及びI2が同符号の場合は、図7(b)に示すように、静止側10の電磁石で発生する磁束φ1と浮上体20の電磁石で発生する磁束φ2とが逆向きになり、反発力が発生する。
【0027】
また、図8は、図3の実験装置により、静止側10の電磁石の入力周波数を吸引力が最大になる周波数(1020Hz)に設定し、静止側10及び浮上体20間のギャップを変えて吸引力の変化を測定した結果を示している。
図8において、ギャップが、最大吸引力をもたらすギャップより狭いG1〜G2の範囲では、ギャップの増加に伴って吸引力が増大する。そのため、浮上体20の重力に釣り合う吸引力が、この範囲内に存在すると、何らかの原因でギャップが拡がった場合、図9(a)に示すように、吸引力が増加して、浮上体20の重力より吸引力が勝り、浮上体20は、ギャップを狭める方向に移動して元の位置に戻る。
【0028】
また、逆に、ギャップが狭くなったときは、図9(b)に示すように、吸引力が減少して、浮上体20の重力が吸引力に勝り、浮上体20は、ギャップを拡げる方向に移動して元の位置に戻る。
このように、浮上体20の重力に釣り合う吸引力が、ギャップの増加に伴って吸引力が増大する範囲にあれば、ギャップが変動しても自らバランス位置に戻る“自己平衡性”を有している。
【0029】
また、図10は、静止側10の電磁石の入力周波数を共振周波数f1の近傍で変えて、ギャップと吸引力との関係を測定した結果を示している。ここでは、電磁石の入力周波数を1000Hz、1050Hz及び1100Hzに設定している。図10から、高い周波数の方が自己平衡性を示すギャップ範囲が広がることが分かる。そのため、浮上体20を広いギャップで浮かせたい場合には、共振周波数f1の近傍でなるべく高い周波数を用いれば良い。
【0030】
また、図11は、静止側10の電磁石の入力周波数を、浮上体20の磁気浮上と浮上体20への電力伝送とが両立する共振周波数f1近傍に設定して、そのときの電力伝送効率ηとギャップとの関係を示している。
なお、電力伝送効率ηは、図2(a)の回路において、V1とI1との位相差をθとして、
η=(V2/V1)(I2/I1)(1/cosθ)
と表される。
従来の交流磁気浮上装置の電力伝送効率は0.1程度であり、それに比べて、静止側10と浮上体20とが磁界共振結合で結合された磁気浮上装置の電力伝送効率は、高い値を示している。また、ギャップが増加しても、電力伝送効率の低下は少ない。
【0031】
また、図12は、図3の可動体31にVCMを取り付けて浮上体20にステップ状の外乱を加え、浮上体20の応答を測定した結果を示している。図12から、磁気浮上の安定化を図る制御機構が無くても、自己平衡性により安定な浮上が達成できることが確認できる。
【0032】
このように、静止側10の電磁石の入力周波数を、磁界共振結合の共振周波数f1(<f0)近傍に設定し、浮上体20の重力に釣り合う吸引力を、浮上体20と静止側10とのギャップが増加すると吸引力が増加し、ギャップが減少すると吸引力が減少する“自己平衡性の発揮可能なギャップ範囲”に設定した磁気浮上装置は、浮上体20に対して効率的に電力を伝送することができ、また、制御機構が無くても安定な浮上が達成できる。
【0033】
なお、これまで、浮上体20に吸引力を及ぼして、浮上体20を静止側10の下側で磁気浮上させる吊下げ型の磁気浮上装置について説明してきたが、浮上体20に反発力を及ぼして、浮上体20を静止側10の上側で支持する磁気浮上装置の場合は、静止側10の電磁石の入力周波数を、磁界共振結合の共振周波数f2(>f0)近傍に設定し、浮上体20の重力を支える反発力を、浮上体20と静止側10とのギャップが増加すると反発力が減少し、ギャップが減少すると反発力が増加する“自己平衡性の発揮可能なギャップ範囲”に設定すれば良い。
【0034】
本発明は、電気エネルギーが必要な浮上体の磁気浮上装置に適用することができる。
図13は、この磁気浮上装置を模式的に示している。この装置の浮上体20は、静止側10から非接触給電された電力を変換する電力変換装置41と、変換された電力により駆動される電気機械42とを備えている。
電力変換装置41は、インバータなどであり、静止側10から供給された交流を直流や所望の周波数の交流に変換する。電気機械42は、モータなどであり、電力変換装置41により変換された電力で駆動される。
【0035】
特開2009−97597号公報には、磁気軸受により非接触支持された回転体に電動モータのロータが設けられ、ケーシングなどの固定部側に電動モータのステータが設けられた磁気軸受装置が記載されている。非接触支持された回転体は、電動モータにより回転する。
この磁気軸受装置に本発明を適用すれば、電動モータのロータ側に供給する電力の位相を電力変換装置41で適宜変換することにより、モータの回転を自由に制御することが可能になる。
【0036】
図14は、図13の磁気浮上装置の変形例を示しており、この装置の浮上体20は、電力変換装置41及び電気機械42の他に、電力変換装置41で変換された電力を蓄積する電力貯蔵装置43を備えている。
電力貯蔵装置43は、例えば、電力変換装置41で交流から変換された直流を蓄積し、電気機械42は、電力貯蔵装置43に蓄積された電力で駆動される。
【0037】
また、本発明は、磁気浮上する搬送装置や磁気浮上鉄道に対して、磁気浮上状態を保ったまま充電用電力等を供給するために利用することができる。また、磁気浮上を利用する除振装置、軸受、慣性センサ、ターボ分子ポンプ等において、浮上体に検出装置や記憶装置、駆動装置、情報発信装置等を搭載して、それら搭載装置への電力供給を、本発明を利用して行うことができる。そのため、本発明を適用して、新たな機能を備える磁気浮上装置の開発が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の磁気浮上装置は、簡単な構成で浮上体の磁気浮上と、浮上体への非接触給電とを行うことができ、搬送装置や磁気浮上鉄道、除振装置、軸受、慣性センサ、ターボ分子ポンプ等、磁気浮上を利用する各種の装置に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
10 静止側
11 E型コア
12 一次側コイル
13 コンデンサ
14 高周波電源
20 浮上体
21 E型コア
22 二次側コイル
23 コンデンサ
31 可動体
32 板
33 軸受
34 カウンターウェイト
35 ロードセル
36 渦電流形変位センサ
41 電力変換装置
42 電気機械
43 電力貯蔵装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15