特許第6097112号(P6097112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ リンテック株式会社の特許一覧

特許6097112電気剥離性粘着シート、及び電気剥離性粘着シートの使用方法
<>
  • 特許6097112-電気剥離性粘着シート、及び電気剥離性粘着シートの使用方法 図000017
  • 特許6097112-電気剥離性粘着シート、及び電気剥離性粘着シートの使用方法 図000018
  • 特許6097112-電気剥離性粘着シート、及び電気剥離性粘着シートの使用方法 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097112
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】電気剥離性粘着シート、及び電気剥離性粘着シートの使用方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/00 20060101AFI20170306BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20170306BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20170306BHJP
   C09J 133/06 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   C09J7/00
   C09J7/02 Z
   C09J11/06
   C09J133/06
【請求項の数】11
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-67227(P2013-67227)
(22)【出願日】2013年3月27日
(65)【公開番号】特開2014-189671(P2014-189671A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100158481
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 俊秀
(72)【発明者】
【氏名】山田 陽也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 揮一郎
(72)【発明者】
【氏名】畠中 富男
(72)【発明者】
【氏名】杉野 貴志
(72)【発明者】
【氏名】川田 智史
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−037355(JP,A)
【文献】 特開平05−156215(JP,A)
【文献】 特開2004−155986(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/132566(WO,A1)
【文献】 特開2002−327160(JP,A)
【文献】 特開2012−116802(JP,A)
【文献】 米国特許第06066688(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エマルション型アクリル系粘着剤から形成され、
カールフィッシャー法により算出された含水率が0.53〜15.0%である粘着剤層を有し、前記粘着剤層が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む単量体混合物を用いて、界面活性剤の存在下、乳化重合して得られるエマルション型アクリル系重合体(A1)を含むエマルション型アクリル系粘着剤(A)、及び数平均分子量が2000以下である(ポリ)アルキレンポリオール(B)からなる電気剥離性粘着剤組成物を含む材料より形成されたものである、電気剥離性粘着シート。
【請求項2】
前記電気剥離性粘着剤組成物中の(A)成分の有効成分100質量部に対する(B)成分の含有量が、3.5〜50質量部である、請求項に記載の電気剥離性粘着シート。
【請求項3】
(B)成分が(ポリ)アルキレングリコールを含む、請求項1又は2に記載の電気剥離性粘着シート。
【請求項4】
前記(ポリ)アルキレングリコールが、下記一般式(b−1)で表される化合物である、請求項に記載の電気剥離性粘着シート。
【化1】

〔式(b−1)中、EOはエチレンオキサイド、POはプロピレンオキサイドを表し、p、qは、p≧0、q≧0、及びp+q≧1を満たす実数である。なお、一般式(b−1)で表される化合物は、EOとPOはブロック共重合で形成された化合物であってもよいし、ランダム共重合で形成された化合物であってもよい。〕
【請求項5】
エマルション型アクリル系重合体(A1)が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位(a1)を60〜99.9質量%、及び官能基含有不飽和単量体由来の構成単位(a2)を0.1〜40質量%含む共重合体である、請求項1〜4のいずれかに記載の電気剥離性粘着シート。
【請求項6】
前記界面活性剤が、アニオン型反応性乳化剤である、請求項1〜5のいずれかに記載の電気剥離性粘着シート。
【請求項7】
前記アニオン型反応性乳化剤が、アンモニウム塩である、請求項に記載の電気剥離性粘着シート。
【請求項8】
導電性の基材の少なくとも片面に前記粘着剤層を有する、請求項1〜のいずれかに記載の電気剥離性粘着シート。
【請求項9】
前記粘着剤層が、2枚の剥離シートに挟持された構成を有する、請求項1〜のいずれかに記載の電気剥離性粘着シート。
【請求項10】
2枚の被着体、もしくは被着体及び基材に挟持された前記粘着剤層の両側の面の間に電圧を印加した際、陰極側に接続した前記粘着剤層の面と、該粘着剤層の面と貼付した前記被着体又は前記基材との間で剥離する、請求項1〜のいずれかに記載の電気剥離性粘着シート。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の電気剥離性粘着シートを、導電性を有する被着体に貼付する、電気剥離性粘着シートの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加することで粘着力が低下する電気剥離性粘着シート、及び当該電気剥離性粘着シートの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粘着シートの特性の一つとして、例えば、表面保護フィルム、塗装用又は装飾用マスキングテープ、再剥離可能なメモ等の用途において、再剥離性が求められる場合がある。
再剥離性粘着シートは、被着体に貼付された際に、運搬時、貯蔵時、加工時等においては被着体から剥離しない程度の粘着力が求められる一方、機能を果たし終えた後には、容易に除去し得る再剥離性が求められる。
【0003】
ところで、このような再剥離性粘着シートに用いられる粘着剤として、電圧を印加することにより粘着力が低下する粘着剤が知られている。
例えば、特許文献1には、高機械強度を有する高負荷耐性の結合性ポリマーを含むと共に電解質を含む電気化学的に結合解除可能な接着剤が開示されている。
また、特許文献2には、電圧印加時に剥離可能な粘着剤として、イオン性液体を含む通電剥離用組成物が開示されている。特許文献2によれば、イオン性液体とは、室温で液体である溶融塩であり、蒸気圧がなく、高耐熱性、不燃性、高化学安定性等の性質を有するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−129030号公報
【特許文献2】WO2007/018239号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の接着剤を用いて粘着シートとした場合、当該粘着シートを被着体から剥離するには10〜15分間程度の時間を要するため作業性が劣る。
また、特許文献2に開示の組成物に含まれるイオン性液体は、当該文献に記載されているように特殊な構造を有する化合物であるため価格が高く、それらを用いて安価な粘着テープを提供することは困難である。さらに、特許文献2に開示の組成物は、電圧印加前後の粘着力の低下率が未だ改良の余地がある。
【0006】
本発明は、電圧印加前は粘着力が高いが、短時間の電圧印加により、粘着力を効果的に低下し得る電気剥離性粘着シート、及び電気剥離性粘着シートの使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、カールフィッシャー法により算出された含水率を特定の範囲に調整した粘着剤層を有する粘着シートが、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、下記〔1〕〜〔11〕を提供するものである。
〔1〕カールフィッシャー法により算出された含水率が0.53〜15.0%である粘着剤層を有する、電気剥離性粘着シート。
〔2〕前記粘着剤層が、(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含む単量体混合物を用いて、界面活性剤の存在下、乳化重合して得られるエマルション型アクリル系重合体(A1)を含むエマルション型アクリル系粘着剤(A)、及び数平均分子量が2000以下である(ポリ)アルキレンポリオール(B)からなる電気剥離性粘着剤組成物を含む材料より形成されたものである、上記〔1〕に記載の電気剥離性粘着シート。
〔3〕前記電気剥離性粘着剤組成物中の(A)成分の有効成分100質量部に対する(B)成分の含有量が、3.5〜50質量部である、上記〔2〕に記載の電気剥離性粘着シート。
〔4〕(B)成分が(ポリ)アルキレングリコールを含む、上記〔2〕又は〔3〕に記載の電気剥離性粘着シート。
〔5〕前記(ポリ)アルキレングリコールが、下記一般式(b−1)で表される化合物である、上記〔4〕に記載の電気剥離性粘着シート。
【化1】
〔式(b−1)中、EOはエチレンオキサイド、POはプロピレンオキサイドを表し、p、qは、p≧0、q≧0、及びp+q≧1を満たす実数である。なお、一般式(b−1)で表される化合物は、EOとPOはブロック共重合で形成された化合物であってもよく、ランダム共重合で形成された化合物であってもよい。〕
〔6〕エマルション型アクリル系重合体(A1)が、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位(a1)を60〜99.9質量%、及び官能基含有不飽和単量体由来の構成単位(a2)を0.1〜40質量%含む共重合体である、上記〔2〕〜〔5〕のいずれかに記載の電気剥離性粘着シート。
〔7〕前記界面活性剤が、アニオン型反応性乳化剤である、上記〔2〕〜〔6〕のいずれかに記載の電気剥離性粘着シート。
〔8〕前記アニオン型反応性乳化剤が、アンモニウム塩である、上記〔7〕に記載の電気剥離性粘着シート。
〔9〕導電性の基材の少なくとも片面に前記粘着剤層を有する、上記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の電気剥離性粘着シート。
〔10〕前記粘着剤層が、2枚の剥離シートに挟持された構成を有する、上記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の電気剥離性粘着シート。
〔11〕2枚の被着体、もしくは被着体及び基材に挟持された前記粘着剤層の両側の面の間に電圧を印加した際、陰極側に接続した前記粘着剤層の面と、該粘着剤層の面と貼付した前記被着体又は前記基材との間で剥離する、上記〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の電気剥離性粘着シート。
〔12〕上記〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の電気剥離性粘着シートを、導電性を有する被着体に貼付する、電気剥離性粘着シートの使用方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電気剥離性粘着シートは、電圧印加前は粘着力が高いが、短時間の電圧印加により、粘着力を効果的に低下させることができ、優れた粘着力及び再剥離性を両立し得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の電気剥離性粘着シートの構成の一例を示す、該粘着シートの断面図である。
図2】本発明の電気剥離性粘着シートに関し、(a)電圧印加前の当該粘着シート、(b)電圧印加後の当該粘着シートの違いを示す図である。
図3】本発明の電気剥離性粘着シートに関し、(a)電圧印加前の当該粘着シート、(b)電圧印加後の当該粘着シートの違いを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
なお、本発明において、例えば「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の双方を示す語であり、「(ポリ)アルキレングリコール」とは、「ポリアルキレングリコール」及び「アルキレングリコール」の双方を示す語として用いている。なお、他の類似用語についても同様である。
【0012】
〔電気剥離性粘着シート〕
本発明の電気剥離性粘着シート(以下、単に「粘着シート」ともいう)は、カールフィッシャー法により算出された含水率が0.53〜15.0%である粘着剤層を有する。
本発明の粘着シートは、上記含水率が特定の範囲に調整された粘着剤層を有するものであれば、その構成は特に限定されず、基材の少なくとも片面に粘着剤層を有する粘着シートであってもよく、粘着剤層が2枚の剥離シートにより挟持された構成を有する粘着シートであってもよい。
【0013】
図1は、本発明の電気剥離性粘着シートの構成の示す電気剥離性粘着シートの断面図である。
本発明の粘着シートの具体的な構成として、例えば、図1(a)に示されたような、基材2の片面上に粘着剤層3を有する、基材付き電気剥離性粘着シート1aが挙げられる。
また、図1(b)に示されたような、基材2の両面上に粘着剤層3及び粘着剤層3’を有する基材付き電気剥離性粘着シート1bや、図1(c)に示されたような、基材2の片面に形成した粘着剤層3上に、さらに剥離シート4が積層された基材付き電気剥離性粘着シート1c等も挙げられる。なお、電気剥離性粘着シート1bは、粘着剤層3及び3’上に、さらに剥離シートが設けられていてもよい。
【0014】
また、図1(d)に示されたような、基材を用いずに、粘着剤層3が2枚の剥離シート4、4’により挟持された構成を有する基材無し電気剥離性粘着シート1dであってもよい。
この電気剥離性粘着シート1dの剥離シート4、4’の素材は、同じものでもよく、異なるものでもよいが、剥離シート4と剥離シート4’との剥離力が異なるように調整された素材であることが好ましい。
他にも、表面が剥離処理された剥離シートの片面に粘着剤層を設けたものをロール状に巻いた構成を有する電気剥離性粘着シート等も挙げられる。
【0015】
また、本発明の粘着シートは、2枚の被着体、もしくは被着体及び基材に挟持された粘着剤層の両側の面の間に電圧を印加した際、陰極側に接続した粘着剤層の面と、該粘着剤層の面と貼付した被着体又は基材との間で剥離する。
つまり、図2の(a)のように、本発明の電気剥離性粘着シート1aを被着体11から剥離しようとする場合を考える。この図2(a)では、粘着剤層3は、被着体11及び基材2aに挟持されており、電圧印加装置50の陽極端子51を基材2aに接続し、陰極端子52を被着体11に接続することで、粘着剤層3の両側の面の間に電極を印加することができる。
なお、図1の(d)のような基材無し電気剥離性粘着シート1dを用いる場合には、図2中の「基材2a」の構成が、別の「被着体」となり、粘着剤層3は、2枚の被着体に挟持された構成となり、電圧印加装置50の陽極端子51、陰極端子52とそれぞれの被着体に接続することで、粘着剤層3の両側の面の間に電極を印加することができる。
この図2の(a)に示された状態で、電圧を印加すると、図2の(b)に示すように、陰極側に接続した粘着剤層の面3aと、当該陰極側に接続した粘着剤層の面3aと貼付した被着体11との間で、粘着力が低下し、電気剥離性粘着シート1aを被着体から容易に剥離することができる。
【0016】
また、逆に図3の(a)のように、図2とは、陰極端子と陽極端子を逆に接続した場合、陰極側に接続した粘着剤層の面3a’と、当該陰極側に接続した粘着剤層の面3aと貼付した基材2aとの間で、粘着力が低下し、基材2aが粘着剤層3から剥離されることとなる。
【0017】
印加する電圧(印加電圧)は、好ましくは10〜200V、より好ましくは40〜140V、更に好ましくは70〜120Vであり、当該範囲の電圧を印加する時間(印加時間)は、好ましくは1〜180秒、より好ましくは5〜120秒、更に好ましくは10〜90秒である。
なお、一般的に印加電圧が大きい程、印加時間は短く、一方、印加電圧が小さい程、印加時間は長くなる。例えば、印加電圧が10〜50Vである場合、印加時間は30〜300秒で剥離が可能となる。
【0018】
〔粘着剤層〕
本発明の粘着シートの粘着剤層の厚さは、用途等に応じて適宜調整されるが、好ましくは0.5〜120μm、より好ましくは1〜100μm、更に好ましくは3〜60μmである。
当該粘着剤層の厚さが0.5μm以上であれば、被着体の種類に依らずに、良好な粘着力を発現させることができる。一方、当該粘着剤層の厚さが120μm以下であれば、生産性の面で利点があると共に、取扱性の面でも良好な電気剥離性粘着シートとなり得る。
【0019】
本発明の粘着シートにおいて、粘着剤層のカールフィッシャー法により算出された含水率(以下、単に「粘着剤層の含水率」ともいう)が0.53〜15.0%であることを特徴とする。
粘着剤層の含水率が0.53%未満であると、電圧印加後の粘着力が十分に低下せず、粘着シートの再剥離性が劣る結果となる。一方、粘着剤層の含水率が15.0%を超えると、粘着剤層の成形性が劣り、粘着シートの取扱性に問題が生じる。
粘着剤層のカールフィッシャー法により算出された含水率は、上記観点から、0.53〜15.0%であるが、好ましくは0.54〜6.50%、より好ましくは0.55〜2.50%、更に好ましくは0.60〜2.20%、より更に好ましくは0.70〜1.90%である。
なお、上記の粘着剤層のカールフィッシャー法により算出された含水率は、実施例に記載の方法で測定された値を意味する。
【0020】
なお、粘着剤層の含水率は、粘着剤層を形成する際の乾燥温度、乾燥時間、乾燥方法等の乾燥条件を適宜設定することで、調整が可能である。また、粘着剤層を形成する材料の成分の種類や配合量を調製することによっても、粘着剤層の含水率の調整は可能である。
また、本発明の粘着シートの粘着剤層を形成する粘着剤組成物は特に限定されないが、形成される粘着剤層の含水率を上記範囲に調整する観点から、粘着剤層が、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体混合物を用いて、界面活性剤の存在下、乳化重合して得られるエマルション型アクリル系重合体(A1)を含むエマルション型アクリル系粘着剤(A)、及び数平均分子量が2000以下である(ポリ)アルキレンポリオール(B)からなる電気剥離性粘着剤組成物を含む材料より形成されたものであることが好ましい。
【0021】
粘着剤層を形成する材料の水分を除く全量に対する、当該電気剥離性粘着剤組成物の含有量は、好ましくは90〜100質量%、より好ましくは95〜100質量%、更に好ましくは98〜100質量%、より更に好ましくは100質量%である。
なお、粘着剤層を形成する材料として、上記の電気剥離性粘着剤組成物以外に、粘着剤層の含水率が上記範囲を満たす限り、例えば、(B)成分に該当しない、数平均分子量が2000超の(ポリ)アルキレンポリオール等を含んでもよい。
以下、本発明の粘着シートの粘着剤層を形成する材料として含まれる、上記電気剥離性粘着剤組成物について説明する。
【0022】
〔電気剥離性粘着剤組成物〕
本発明の粘着シートに粘着剤層を形成する材料として、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体混合物を用いて、界面活性剤の存在下、乳化重合して得られるエマルション型アクリル系重合体(A1)(以下、単に「重合体(A1)」ともいう)を含むエマルション型アクリル系粘着剤(A)(以下、単に「粘着剤(A)」又は「(A)成分」ともいう)、及び数平均分子量が2000以下である(ポリ)アルキレンポリオール(B)(以下、「(B)成分」ともいう)からなる電気剥離性粘着剤組成物を用いることが好ましい。
【0023】
<(A)成分:エマルション型アクリル系粘着剤(A)>
電気剥離性粘着剤組成物に含まれるエマルション型アクリル系粘着剤(A)は、(メタ)アクリル酸エステルを含む単量体混合物を用いて、界面活性剤の存在下、乳化重合して得られるエマルション型アクリル系重合体(A1)を含むものである。
【0024】
当該粘着剤(A)には、重合体(A1)以外に、重合体(A1)の合成時に使用した界面活性剤、重合開始剤、連鎖移動剤、pH緩衝剤等や、架橋剤、粘着付与樹脂、濡れ剤等のその他の添加剤が含まれていてもよい。
粘着剤(A)中の重合体(A1)の含有量は、好ましくは70〜99質量%、より好ましくは80〜97質量%、更に好ましくは85〜95質量%である。
【0025】
[(A1)成分:エマルション型アクリル系重合体(A1)]
重合体(A1)は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下、「モノマー(a1)」ともいう)を含む単量体混合物を用いて、界面活性剤の存在下、乳化重合して得られるものであるため、少なくとも(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構成単位(a1)を含む。
重合体(A1)は、当該構成単位(a1)のみからなる重合体であってもよいが、構成単位(a1)と共に、分子中に官能基を有し、且つ二重結合を一つ以上有する化合物(以下、モノマー(a2)ともいう)由来の構成単位(a2)を含む共重合体であることが好ましい。
また、アクリル系重合体(A)は、モノマー(a1)及び(a2)以外のその他のモノマー(以下、「モノマー(a3)」ともいう)由来の構成単位(a3)を含む共重合体であってもよい。
(A1)成分が共重合体である場合、共重合の形態については、特に制限はなく、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体のいずれであってもよい。
なお、本発明において、(A1)成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
(モノマー(a1)、構成単位(a1))
モノマー(a1)としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
これらのモノマー(a1)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、電圧印加前の粘着力の向上の観点から、炭素数4〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、炭素数4〜8のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。
具体的に好適なモノマー(a1)としては、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、又は2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましく、ブチル(メタ)アクリレート、又は2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートがより好ましく、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが更に好ましい。
【0027】
重合体(A1)中の構成単位(a1)の含有量は、重合体(A1)の全構成単位に対して、好ましくは60〜99.9質量%、より好ましくは75〜99.6質量%、更に好ましくは85〜99.3質量%、より更に好ましくは95〜99.0質量%である。
構成単位(a1)の含有量が60質量%以上であれば、電圧印加前の粘着力を良好とすることができる。また、当該含有量が99.9質量%以下であれば、上述のモノマー(a2)由来の構成単位(a2)の含有量を確保することができ、凝集力を向上させ、得られる粘着シートの再剥離性を良好とすることができる。
【0028】
なお、重合体(A1)中の炭素数4〜12のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来の構成単位の含有量は、電圧印加前の粘着力の向上の観点から、重合体(A1)の全構成単位に対して、好ましくは50〜99.9質量%、より好ましくは60〜99.6質量%、更に好ましくは70〜99.0質量%である。
【0029】
(モノマー(a2)、構成単位(a2))
モノマー(a2)は、分子中に官能基を有し、且つ二重結合を一つ以上有する化合物である。モノマー(a2)が有する官能基は、架橋反応の架橋点となり、凝集力を向上させ、再剥離性を向上させることができる。
モノマー(a2)としては、例えば、カルボキシ基含有不飽和モノマー、ヒドロキシル基含有不飽和モノマー、エポキシ基含有不飽和モノマー等が挙げられる。
【0030】
カルボキシ基含有不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸等のエチレン性不飽和モノカルボン酸;フマル酸、イタコン酸、マレイン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸;2−カルボキシルエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0031】
ヒドロキシル基含有不飽和モノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
エポキシ基含有不飽和モノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0033】
これらのモノマー(a2)は、単独で又は2種以上を組み合わせてもよい。
これらの中でも、汎用性の観点から、カルボキシ基含有不飽和モノマーが好ましく、エチレン性不飽和モノカルボン酸がより好ましく、(メタ)アクリル酸が更に好ましく、カルボキシル基が架橋点としての役割を担うことも考慮した場合、当該架橋点となるカルボキシ基がエマルション粒子表層に配向しやすいとの観点から、アクリル酸がより更に好ましい。
【0034】
重合体(A1)中の構成単位(a2)の含有量は、粘着シートの粘着力と再剥離性の向上の観点から、重合体(A1)の全構成単位に対して、好ましくは0.1〜40質量%で、より好ましくは0.4〜25質量%、更に好ましくは0.7〜10質量%、より更に好ましくは1.0〜5質量%である。
構成単位(a2)の含有量が0.1質量%以上であると、架橋剤と十分に架橋結合を形成することができ、凝集力が向上させ、粘着シートの再剥離性を向上させることができる。一方、構成単位(a2)の含有量が40質量%以下であれば、モノマー(a1)由来の構成単位(a1)の含有量を確保することができるため、粘着力を良好とすることができる。
【0035】
なお、重合体(A1)は、さらにモノマー(a1)及び(a2)以外のその他のモノマー(a3)由来の構成単位(a3)を有する共重合体であってもよい。
その他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン類、塩化ビニル、ビニリデンクロリド等のハロゲン化オレフィン類、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系モノマー類、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン等が挙げられる。
【0036】
(エマルション型アクリル系重合体(A1)の合成方法)
本発明において、重合体(A)は、上述のモノマーを含む単量体混合物を原料として、界面活性剤の存在下、乳化重合することにより得ることができる。
用いる界面活性剤としては、電圧印加後の粘着力を効果的に低下させ得る粘着シートを得る観点から、アニオン型反応性乳化剤が好ましく、アンモニウム塩であるアニオン型反応性乳化剤がより好ましい。なお、本発明において、アンモニウム塩とは、NH4+で示されるカチオンを有する塩を指し、第四級アンモニウム塩はこれに含まれない。
アニオン型反応性乳化剤とは、エチレン性不飽和二重結合を含む官能基含有の反応性を有するアニオン性乳化剤であり、例えば、下記一般式(1)〜(11)で表される化合物等が挙げられる。
【0037】
【化2】
【0038】
【化3】
【0039】
【化4】
【0040】
【化5】
【0041】
【化6】
【0042】
【化7】
【0043】
【化8】
【0044】
【化9】
【0045】
【化10】
【0046】
【化11】
【0047】
【化12】
【0048】
上記一般式(1)〜(11)において、R1はアルキル基、R2は水素又はメチル基、R3はアルキレン基、nは1以上の整数、m、lは1以上の整数であり、mとlの和が3である。
また、Xは、それぞれ独立に−SO3NH4又は−SO3Naであるが、電圧印加後の粘着力を効果的に低下させ得る粘着シートを得る観点から、−SO3NH4であることが好ましい。
【0049】
また、上記式(1)〜(11)で表されるアニオン型反応性乳化剤の中でも、環境面での安全性の観点から、アルキルフェノール構造を有さないアニオン型反応性乳化剤が好ましく、上記一般式(3)、(4)、(5)、(8)、(9)、(10)で表される化合物がより好ましい。
【0050】
上記一般式(1)〜(11)で表されるアニオン型反応性乳化剤の市販品としては、例えば、アデカリアソープSE−20N、アデカリアソープSE−10N、アデカリアソープPP−70、アデカリアソープPP−710、アデカリアソープSR−10、及びアデカリアソープSR−20(以上、製品名、株式会社ADEKA製)、エレミノールJS−2、及びエレミノールRS−30(以上、製品名、三洋化成工業社製)、ラテムルS−180A、ラテムルS−180、及びラテムルPD−104(以上、製品名、花王株式会社製)、アクアロンBC−05、アクアロンBC−10、アクアロンBC−20、アクアロンHS−05、アクアロンHS−10、アクアロンHS−20、ニューフロンティアS−510、アクアロンKH−05、及びアクアロンKH−10(以上、製品名、第一工業製薬社製)、フォスフィノ−ルTX(東邦化学工業社製)等が挙げられる。
これらのアニオン型反応性乳化剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0051】
界面活性剤の使用量は、単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0.5〜10質量部、より好ましくは0.8〜7質量部、更に好ましくは1〜4質量部である。
界面活性剤の使用量が0.5質量部以上であれば、安定して乳化重合を進行させることができる。一方、界面活性剤の使用量が10質量部以下であれば、未反応の界面活性剤が残存することによる基材密着性や耐水白化性、粘着力及び再剥離性の低下といった弊害を防ぐことができる。
なお、界面活性剤は、単量体混合物からなる乳化物に添加してもよく、予め重合容器に添加しておいてもよく、重合後に添加してもよく、又はそれらを併用してもよい。
【0052】
乳化重合の際に添加する重合開始剤は、特に限定されずに、水溶性、油溶性のいずれであってもよい。
このような重合開始剤としては、例えば、アルキルパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド、p−メタンヒドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイド、ジ−イソブチルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリックアシッドのアンモニウム(アミン)塩、2,2’−アゾビス(2−メチルアミドオキシム)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(2−メチルブタンアミドオキシム)ジヒドロクロライドテトラヒドレート、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル〕−プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド〕、各種レドックス系触媒(この場合、酸化剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過酸化水素、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、p−メタンハイドロパーオキサイド等が、還元剤としては亜硫酸ナトリウム、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等が用いられる)等が挙げられる。
これらの重合開始剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0053】
これらの中でも、重合安定性に優れるという観点から、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、レドックス系触媒(用いる酸化剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられ、用いる還元剤としては、亜硫酸ナトリウム、酸性亜硫酸ナトリウム等が挙げられる)等が好ましい。
【0054】
重合開始剤の添加量は、重合速度を速める観点から、単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0.01〜5質量部、より好ましくは0.03〜3質量部、更に好ましくは0.1〜2質量部である。
【0055】
なお、これらの重合開始剤は、予め重合容器内に加えておいてもよく、重合開始直前に加えてもよく、重合開始後に複数回に分けて加えてもよい。また、単量体混合物に、予め加えておいてもよく、該混合物からなる乳化液を調整後、当該乳化液に加えてもよい。
添加に当たっては、重合開始剤を別途溶媒や単量体混合物に溶解して添加してもよく、溶解した重合開始剤を更に乳化状にして、添加してもよい。
【0056】
また、重合時において、さらに連鎖移動剤を添加してもよい。
連鎖移動剤としては、例えば、ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、メルカプト酢酸、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸、チオグルコール酸2−エチルヘキシル、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール等が挙げられる。
これらの連鎖移動剤は、単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
連鎖移動剤の添加量は、単量体混合物100質量部に対して、好ましくは0.01〜2質量部、より好ましくは0.05〜1質量部である。
【0057】
また、重合時において、pH調整の観点から、さらにpH緩衝剤を添加してもよい。
pH緩衝剤としては、pH緩衝作用を有する化合物であれば特に制限されないが、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸アンモニウム等が挙げられる。
【0058】
乳化重合に際し、用いる水としては、イオン交換水が好ましい。
水の使用量は、単量体混合物100質量部に対して、好ましくは30〜400質量部、より好ましくは35〜200質量部、更に好ましくは40〜150質量部である。
水の使用量が30質量部以上であれば、重合体(A1)を含む粘着剤(A)の粘度を適度な範囲とすることができる。また、得られる重合体(A1)の重合安定性も良好となる。
一方、水の使用量が400質量部以下であれば、得られる電気剥離性粘着剤組成物の有効成分濃度を適度な範囲とすることができ、当該電気剥離性粘着剤組成物を基材や剥離シート上に塗布して塗布膜を形成する際の塗布膜の形成性が良好となる。
【0059】
重合体(A1)の合成方法としては、単量体混合物を、界面活性剤の存在下、重合開始剤を添加することで、乳化重合を進行させて行う方法が好ましい。
その乳化重合を行う際の手順としては、以下の(1)〜(3)の方法が挙げられ、重合温度の制御が容易であるとの観点から、(2)又は(3)の方法が好ましい。
(1)単量体混合物、界面活性剤、水等の全量を仕込み、昇温し、水に溶かした重合開始剤を全量滴下又は分割添加して、重合する。
(2)反応容器内に水、界面活性剤、単量体混合物の一部を仕込み、昇温した後、水に溶かした重合開始剤を滴下又は分割添加して重合反応を進行させた後、残りの単量体混合物を全量滴下又は分割添加して重合を継続する。
(3)反応容器内に水に溶かした重合開始剤を仕込んでおき昇温した後、単量体混合物、界面活性剤、及び水からなる乳化液を全量滴下又は分割添加して重合する。
【0060】
上記重合方法における重合条件としては、特に限定されない。
例えば(1)の方法では、温度範囲としては40〜100℃が好ましく、昇温開始後1〜8時間程度で重合反応を行うことが好ましい。
(2)の方法では、単量体混合物の1〜50質量%を40〜90℃で0.1〜4時間で重合した後、残りの単量体混合物を1〜5時間程度かけて全量滴下又は分割添加して、その後、同温度で1〜3時間程度熟成することが好ましい。
(3)の方法では、水に溶かした重合開始剤を、好ましくは40〜90℃まで昇温し、単量体混合物、界面活性剤、及び水からなる乳化液を2〜5時間程度かけて全部滴下又は分割添加することが好ましい。また、その後、同温度で1〜3時間程度熟成することが好ましい。
【0061】
上記重合方法において、重合安定性の観点から、単量体混合物は、界面活性剤(又は界面活性剤の一部)を、単量体混合物に溶解しておくか、又は、予めO/W型の乳化液の状態としておくことが好ましい。
【0062】
上記乳化液の調製は、各成分を混合し、ホモディスパー、パドル翼等の撹拌翼を取り付けた撹拌装置を用いて行うことができる。乳化時の温度は、乳化中に混合物が反応しない程度の温度であれば問題なく、5〜60℃が好ましい。
【0063】
また、アンモニア水、各種水溶性アミン、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液等のアルカリ水溶液を添加して、pH5〜9、好ましくはpH6〜8に調整することにより、エマルション系共重合体(A)が得られる。
上記アルカリ水溶液は、重合中又は重合終了後に添加することができるが、重合安定性及び得られるエマルジョンの経時粘度安定性の観点から、重合中の熟成段階で、室温(25℃)まで冷却後、一部又は全量を添加することが好ましい。
【0064】
以上のようにして得られる重合体(A1)のエマルションを含む水分散液の有効成分濃度は、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは25〜70質量%、更に好ましくは45〜65質量%である。
また、重合体(A)のエマルションの平均粒子径は、好ましくは100〜900nm、より好ましくは200〜600nm、更に好ましくは300〜500nmである。
なお、上記の水分散液の有効成分濃度及び重合体(A)のエマルションの平均粒子径は、実施例に記載の方法で測定された値を意味する。
【0065】
[架橋剤]
粘着剤(A)には、重合体(A1)以外に、さらに架橋剤を含有してもよい。
当該架橋剤は、重合体(A1)が官能基含有不飽和単量体(モノマー(a2))由来の構成単位(a2)を有する場合、重合体(A1)が有する官能基と架橋する化合物である。
架橋剤としては、例えば、エポキシ系化合物、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド系化合物、アジリジン系化合物、ポリイソシアネート化合物、メラミン系化合物、金属錯体系化合物、アミン系化合物、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド等のヒドラジン誘導体等が挙げられる。
これらの架橋剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、架橋剤は、重合体(A1)を得た後、添加することが好ましい。
【0066】
架橋剤の含有量は、重合体(A1)の有効成分100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜15質量部、更に好ましくは1〜10質量部である。
【0067】
[粘着付与樹脂]
粘着剤(A)には、重合体(A1)以外に、粘着力向上の観点から、さらに粘着付与樹脂を含有することが好ましい。
粘着付与樹脂としては、例えば、ロジン樹脂、ロジンフェノール樹脂、ロジンエステル樹脂等のロジン系樹脂;これらロジン系樹脂を水素化した水素化ロジン系樹脂;テルペン系樹脂、テルペンフェノール系樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂等のテルペン系樹脂;これらテルペン系樹脂を水素化した水素化テルペン系樹脂;石油ナフサの熱分解で生成するペンテン、イソプレン、ピペリン、1.3−ペンタジエン等のC5留分を共重合して得られるC5系石油樹脂及びこのC5系石油樹脂の水素化石油樹脂;石油ナフサの熱分解で生成するインデン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン等のC9留分を共重合して得られるC9系石油樹脂及びこのC9系石油樹脂の水素化石油樹脂;等が挙げられる。
これらの粘着付与樹脂は、重合体(A1)を得た後に添加してもよく、重合体(A1)を得る前に単量体混合物と共に配合して重合反応を経てもよいが、単量体混合物と共に配合することが好ましい。
【0068】
粘着付与樹脂の軟化点は、粘着シートの電圧印加前の粘着力の向上の観点から、好ましくは60〜170℃、より好ましくは75〜150℃、更に好ましくは85〜140℃、より更に好ましくは90〜130℃である。
なお、粘着付与樹脂の軟化点の値は、JIS K 2531に準拠して測定した値である。
【0069】
粘着付与樹脂の含有量は、重合体(A1)の有効成分100質量部もしくは重合体(A1)の原料である単量体混合物100質量部に対して、好ましくは1〜40質量部、より好ましくは2〜30質量部、更に好ましくは3〜20質量部、より更に好ましくは4〜15質量部である
【0070】
[その他の添加剤]
本発明の粘着剤(A)には、本発明の効果を損なわない範囲において、上述以外のその他の添加剤を含有してもよい。
その他の添加剤としては、可塑剤、濡れ剤、増粘剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、軟化剤(可塑剤)、充填剤、防錆剤、顔料、染料等が挙げられる。
なお、これらのその他の添加剤は、重合体(A1)を得た後、添加することが好ましい。
【0071】
可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジエステル類、フマル酸ジエステル類、セバシン酸ジエステル類等が挙げられる。
濡れ剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、アクリル系化合物、シリコーン系化合物、フッ素系化合物、水溶性アルコール等が挙げられる。
増粘剤としては、例えば、ポリアクリル酸系増粘剤、ポリビニル系増粘剤、ポリエーテル系増粘剤、ポリグリコール系増粘剤、ポリアマイド系増粘剤、ポリエステル系増粘剤、疎水化セルロースエステル系増粘剤、ウレタン系増粘剤、ポリカルボン酸系増粘剤等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤等が挙げられる。
【0072】
その他の添加剤の含有量は、重合体(A1)の有効成分100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.05〜5質量部、更に好ましくは0.1〜3質量部である。
【0073】
<(B)成分:(ポリ)アルキレンポリオール>
電気剥離性粘着剤組成物中には、数平均分子量が2000以下である(ポリ)アルキレンポリオール(B)を含有する。
数平均分子量が2000以下の(ポリ)アルキレンポリオール(B)を含有することで、電気剥離性粘着剤組成物を用いて形成される粘着剤層の含水率を上記範囲に調整することができ、電圧印加後の粘着力を効率的に低下する再剥離性に優れた粘着シートを得ることができる。
(B)成分の数平均分子量は、形成される粘着剤層の含水率を上記範囲に調整し、電圧印加後の粘着力を効果的に低下させ得る粘着シートを得る観点から、好ましくは100〜2000、より好ましくは120〜1600、より好ましくは140〜1300、更に好ましくは180〜1000、更に好ましくは250〜900、より更に好ましくは320〜760である。
なお、(B)成分の数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定されるポリスチレン換算の値であり、具体的には実施例に記載の方法に基づいて測定された値である。
【0074】
(B)成分である(ポリ)アルキレンポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリエチレンポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,2−トリメチルペンタンジオール、3,3−ジメチロールヘプタン、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン等のトリオール等の多価アルコールが挙げられる。
これらの(ポリ)アルキレンポリオールは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0075】
これらの中でも、電圧印加後の粘着力を効果的に低下する再剥離性に優れた粘着シートを得る観点から、ポリアルキレングリコール、ジオールが好ましく、ポリエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールがより好ましい。
(B)成分中の(ポリ)アルキレングリコールの含有量は、上記と同様の観点から、好ましくは50〜100質量%、より好ましくは70〜100質量%、更に好ましくは85〜100質量%、より更に好ましくは95〜100質量%である。
【0076】
(ポリ)アルキレングリコールとしては、電圧印加後の粘着力を効果的に低下する再剥離性に優れた粘着シートを得る観点から、下記一般式(b−1)で表される化合物が好ましく、ポリエチレングリコールがより好ましい。
【0077】
【化13】
【0078】
上記一般式(b−1)中、EOはエチレンオキサイド、POはプロピレンオキサイドを表す。p、qは、p≧0、q≧0、及びp+q≧1を満たす実数である。なお、上記一般式(b−1)で表される化合物は、EOとPOはブロック共重合で形成された化合物であってもよいし、ランダム共重合で形成された化合物であってもよい。
なお、p、qの値は、上記一般式(b−1)で表される化合物の数平均分子量が上述の範囲に属するように調整された値が好ましい。
【0079】
本発明において、(A)成分の有効成分100質量部に対する(B)成分の含有量は3.5質量部以上であることが好ましい。(B)成分の含有量が3.5質量部以上であれば、電気剥離性粘着剤組成物を用いて形成される粘着剤層の含水率を上記範囲に調整することができ、電圧印加後の粘着力を効率的に低下する再剥離性に優れた粘着シートを得ることができる。
そのため、(A)成分の有効成分100質量部に対する(B)成分の含有量は、上記観点から、好ましくは3.5〜50質量部、より好ましくは5〜45質量部、より好ましくは7〜40質量部、更に好ましくは9〜37質量部、更に好ましくは15〜35質量部、より更に好ましくは20〜32質量部である。
なお、本発明において、「有効成分」とは、電気剥離性粘着剤組成物中に含有している水や残留する有機溶媒等の直接的及び間接的に反応や物性に影響を与えない物質を除いた成分を意味し、具体的には水及び有機溶媒以外の成分を意味する。
【0080】
〔基材〕
本発明の粘着シートの基材としては、被着体から剥離したい際に、粘着シートの粘着剤層に電圧印加を行うため、導電性の基材であることが好ましい。
導電性の基材を構成する材料としては、例えば、アルミニウム、スズドープ酸化インジウム、銅、鉄、銀、白金、金等の金属及びこれら金属の合金等が挙げられる。
また、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂フィルムに、上記金属を蒸着させてなる金属蒸着体を基材として用いてもよい。樹脂フィルムに金属を蒸着させる場合は、粘着剤層と接する樹脂フィルムの面に金属を蒸着させることが好ましい。
【0081】
基材の厚さは、好ましくは5〜300μm、より好ましくは10〜150μm、更に好ましくは20〜100μmである。
【0082】
〔剥離シート〕
本発明の粘着シートで用いる剥離シートは、剥離シート用基材の片面又は両面に剥離剤を塗布して得ることができる。
剥離シート用基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン(メタ)アクリル酸共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、フッ素樹脂、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、トリアセチルセルロース等の樹脂フィルムや、上質紙、コート紙、グラシン紙等の紙基材、これらの紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙等が挙げられる。
【0083】
用いる剥離剤としては、例えば、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂、長鎖アルキル系樹脂、アルキド系樹脂、フッ素系樹脂、イソプレン系樹脂やブタジエン系樹脂等のゴム系エラストマー等が挙げられる。
【0084】
剥離シートの厚さは、特に制限は無いが、好ましくは5〜300μm、より好ましくは10〜200μmである。なお、剥離シート用基材としてポリエチレンテレフタレート系フィルムを用いる場合は、好ましくは10〜100μmである。
【0085】
〔電気剥離性粘着シートの製造方法〕
本発明の電気剥離性粘着シートの製造方法としては、特に制限はなく、上記の方法により調製した電気剥離性粘着剤組成物の水分散液を、上述の基材又は剥離シート上に公知の塗布方法により塗布して製造することができる。
【0086】
電気剥離性粘着剤組成物の水分散液の有効成分濃度としては、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは25〜70質量%、更に好ましくは45〜65質量%である。
【0087】
電気剥離性粘着剤組成物の水分散液を基材や剥離シート上に塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等が挙げられる。
【0088】
なお、基材や剥離シート上に電気剥離性粘着剤組成物の水分散液を塗布し塗布膜を形成した後、乾燥処理をすることが好ましい。
形成した塗布膜の乾燥条件としては、形成される粘着剤層の含水率を上述の範囲に調整する観点から、80℃〜150℃の温度で、30秒〜5分間(好ましくは40秒〜3分間、より好ましくは45秒〜2分間)加熱し、乾燥させることが好ましい。この乾燥工程を経て、基材又は剥離シート上に粘着剤層を形成することができる。
【0089】
電気剥離性粘着シートの構成別の具体的な製造方法としては、以下の方法が挙げられる。
まず、図1(a)のような基材2の片面に粘着剤層3を有する電気剥離性粘着シート1aは、例えば、基材2の一方の面上に、上述の電気剥離性粘着剤組成物の水分散液を直接塗布して、粘着剤層3を形成して作製することができる。
また、剥離シートの剥離処理面上に、上述の電気剥離性粘着剤組成物の水分散液を直接塗布して、粘着剤層3を形成した後、その粘着剤層3と基材2とを貼り合わせ、剥離シートを除去して作製してもよい。
【0090】
図1(b)のような基材2の両面に粘着剤層3、3’を有する電気剥離性粘着シート1bは、例えば、基材2の両面に、上述の電気剥離性粘着剤組成物の水分散液を直接塗布して粘着剤層3、3’を形成し、作製することができる。
また、剥離シートの剥離処理面上に、上述の電気剥離性粘着剤組成物の水分散液を直接塗布して、粘着剤層を形成したものを2枚用意し、それぞれの粘着剤層を基材2の両面に貼り合わせて、剥離シートを除去して作製してもよい。
【0091】
図1(c)のような基材2上に粘着剤層3及び剥離シート4をこの順で有する電気剥離性粘着シート1cは、例えば、上述のようにして得られた電気剥離性粘着シート1aの粘着剤層3の面上に、剥離シート4をラミネートして作製することができる。
また、剥離シート4の剥離処理面上に、上述の電気剥離性粘着剤組成物の水分散液を直接塗布して、粘着剤層3を形成した後、その粘着剤層3と基材2とを貼り合わせて作製してもよい。
【0092】
図1(d)のような、基材を用いずに、粘着剤層3が2つの剥離シート4、4’により挟持された構成を有する電気剥離性粘着シート1dは、例えば、剥離シート4の剥離処理面上に、上述の電気剥離性粘着剤組成物の水分散液を直接塗布して、粘着剤層3を形成した後、この粘着剤層3の面上に、別の剥離シート4’をラミネートして作製することができる。
なお、上述のとおり、剥離シート4と剥離シート4’とは、剥離力差が異なるように調整することが好ましい。
【0093】
〔電気剥離性粘着シートの使用方法〕
本発明の電気剥離性粘着シートは、任意の被着体に貼付して使用することができる。
被着体としては、特に限定されず、導電性を有していても有さなくてもよいが、粘着剤面に電圧を印加することが容易となる観点から、被着体がそのまま電極となるように、導電性を有する被着体であることが好ましい。
そのため、上記観点から、本発明の電気剥離性粘着シートの使用方法としては、本発明の粘着シートを、導電性を有する被着体に貼付して使用する方法が好ましい。
導電性を有する被着体としては、例えば、アルミニウム、スズドープ酸化インジウム、銅、鉄、銀、白金、金等の金属やそれら金属の合金等が挙げられる。
【実施例】
【0094】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
また、以下の合成例、実施例及び比較例で使用した成分の以下の物性値については、下記に示す方法に基づいて測定した値を用いた。
【0095】
<エマルション型アクリル系共重合体の平均粒子径>
動的光散乱方式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、製品名「LB−550」)を使用し、25℃で体積基準のメジアン径を測定して得た値を用いた(単位:nm)。
【0096】
<エマルション型アクリル系粘着剤の有効成分濃度>
JIS K−6833に準じて、エマルション型アクリル系粘着剤を107℃、3時間乾燥させた後、残渣を秤量し、下記式より有効成分濃度を算出した。
・有効成分濃度(質量%)=(残渣の質量)/(乾燥前のエマルション型アクリル系粘着剤の質量)×100
【0097】
<(ポリ)アルキレンポリオールの数平均分子量(Mn)>
ゲル浸透クロマトグラフ装置(東ソー株式会社製、製品名「HLC−8020」)を用いて、下記の条件下で測定し、標準ポリスチレン換算にて測定した値を用いた。
(測定条件)
・カラム:「TSK guard column HXL−L」「TSK gel G2500HXL」「TSK gel G2000HXL」「TSK gel G1000HXL」(いずれも東ソー株式会社製)
・カラム温度:40℃
・展開溶媒:テトラヒドロフラン
・流速:1.0mL/min
【0098】
合成例1
(エマルション型アクリル系粘着剤(A−1)の調製)
攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを備えた反応容器内に、単量体混合物として、2−エチルヘキシルアクリレート75質量部、メチルアクリレート15質量部、メチルメタクリレート7.5質量部、アクリル酸1.5質量部、及びダイアセトンアクリルアミド1.0質量部からなる混合物、並びに、粘着付与樹脂として、ロジンエステル樹脂(荒川化学工業社製、製品名「スーパーエステルA−100」、軟化点100℃)8質量部を投入し、約30℃に保ちながら、30分間攪拌し溶解させた。
上記成分を均質に溶解させた後、約30℃で、アニオン型反応性乳化剤(ADEKA(株)製、製品名「アデカリアソープSR−10」、上記式(10)で表される化合物(XはSO3NH4))2.0質量部を、脱イオン水57質量部に分散させた分散液を加え、30分間攪拌して、乳化物(1)を得た。
【0099】
また、別途、攪拌機、還流冷却器、温度計、窒素導入管及び滴下ロートを備えた反応容器内に、脱イオン水40質量部と、アニオン型反応性乳化剤(ADEKA(株)製、製品名「アデカリアソープSR−10」)0.2質量部を仕込み、窒素を流入させて、反応容器内の温度を80℃まで昇温させ、当該反応容器内に5質量%の過硫酸カリウム水溶液を4質量部添加した。
そして、この反応容器内の温度を80〜83℃に保持しながら、上述のとおり調製した乳化物(1)と、5質量%の過硫酸カリウム水溶液4質量部とを並行して、当該反応容器内に3時間かけて滴下し、攪拌しながら乳化重合を行った。
【0100】
滴下終了後、80〜83℃の温度で3時間熟成した後、室温(25℃)まで冷却し、25質量%アンモニア水を加えて、pHが7.5になるように調整して、平均粒子径180nmのエマルション型アクリル系共重合体(1)を得た。
そして、得られたエマルション型アクリル系共重合体(1)の有効成分100質量部に対して、さらに架橋剤として、アジピン酸ジヒドラジド(日本ファインケム社製、製品名「ADH」)を8質量部(有効成分比)、及び濡れ剤として、アニオン性界面活性剤(ADEKA(株)製、製品名「アデカコールEC−4500」)を0.5質量部添加し、混合して、有効成分濃度50.5質量%のエマルション型アクリル系粘着剤(A−1)の溶液を得た。
【0101】
合成例2
(エマルション型アクリル系粘着剤(A−2)の調製)
攪拌機、温度計、還流コンデンサー、滴下ロートを備えた反応容器内に、イオン交換水40質量部と、アニオン型反応性界面活性剤(第一工業製薬(株)製「アクアロンKH−10」、上記式(9)で表される化合物(XはSO3NH4))0.2質量部を仕込み、80℃まで昇温した。
次に、単量体混合物として、2−エチルヘキシルアクリレート80質量部、メチルメタクリレート16質量部、アクリル酸2質量部、メタクリル酸2質量部、及びγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学(株)製「シリコーンKBM−503」)0.2質量部、連鎖移動剤として、ドデシルメルカプタン0.03質量部、並びにラジカル重合性界面活性剤(第一工業製薬(株)製、製品名「アクアロンHS−10」)1.0質量部を、イオン交換水49質量部に乳化分散させた溶液と、過硫酸カリウム0.3質量部をイオン交換水9.7質量部に溶解させた重合開始剤を混合し、この混合溶液を3時間かけて滴下ロートから、上記反応容器内に供給し、80℃で乳化重合を行い、乳化物(2)を得た。
【0102】
滴下終了後、80℃で2時間熟成した後、室温(25℃)まで冷却し、25質量%アンモニア水を加えて、pHが7.5になるように調整して、平均粒子径150nmのエマルション型アクリル系共重合体(2)を得た。
そして、得られたエマルション型アクリル系共重合体(2)の有効成分100質量部に対して、さらに消泡剤として、シリコーン系消泡剤(ビック・ケミー社製、製品名「BYK025」)を2質量部、増粘剤として、ウレタン系増粘剤(ローム&ハース社製、製品名「EXP300」)を0.3質量部添加し、混合して、有効成分濃度50.5質量%のエマルジョン型アクリル系粘着剤(A−2)の溶液を得た。
【0103】
実施例1〜16、比較例1〜7
合成例1又は2で得たエマルション型アクリル系粘着剤(A−1)又は(A−2)100質量部に対し、表1に示す種類、数平均分子量(Mn)、及び配合量の(ポリ)アルキレンポリオールを添加し、さらに濃度調整のために脱イオン水を添加して有効成分濃度37質量%の粘着剤組成物の塗布液を調製した。
次に、上記のとおり調製した粘着剤組成物の塗布液を、剥離シート(リンテック社製、製品名「SP−PET381130」、厚さ:38μm、表面がシリコーン剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム)の剥離処理面上に、乾燥後の厚さが50μmになるように塗布し、100℃で120秒間乾燥させて、剥離シート上に粘着剤層を形成した。
そして、形成した粘着剤層の面上に、基材として、アルミニウム箔基材(日本金属箔工業社製、製品名「アルミタンタイSツヤ50フクオカ」、厚さ:50μm)を貼付して、図1の(c)に示す電気剥離性粘着シート1cと同様の構成を有する、基材付きタイプの電気剥離性粘着シートを作製した。
作製した電気剥離性粘着シートを用いて、以下の方法に基づいて、各物性値を測定した。その結果を表1に示す。
【0104】
(1)粘着剤層の含水率
実施例及び比較例で作製した電気剥離性粘着シートを、50mm×20mmの大きさに裁断して23℃、50%RH(相対湿度)の環境下で、24時間放置した。
放置後、裁断した当該粘着シートの剥離シートを剥離して、アルミニウム箔基材及び粘着剤層からなる粘着シートとし、カールフィッシャー水分計(京都電子工業社製、装置名「MKC−510N」)を用いて、当該粘着シートの含水率の値を測定した。なお、測定の際の設定加熱温度は230℃とし、試薬は発生液として、「クーロマットAG−Oven(リーデル・デ・ハーン社製)」、対極液として、「クーロマットCG(リーデル・デ・ハーン社製)」をそれぞれ使用した。
また、別途、アルミニウム箔基材単体の含水率も測定した上で、測定したアルミ箔基材及び粘着剤層からなる粘着シートの含水率の値から、アルミニウム箔基材単体の含水率を除いた値を、その粘着剤層の含水率とし、表1に記載した。
【0105】
(2)電圧印加前の粘着シートの粘着力
実施例及び比較例で作製した電気剥離性粘着シートを、25mm×300mmの大きさに裁断し、23℃、50%RH(相対湿度)の環境下で、剥離シートを剥がし、表出した粘着剤層を、被着体であるアルミニウム板(パルテック社製、製品名「A105OP」、150mm×70mm×1mm)に貼付した。貼付に際しては、重さ2kgのローラーを用い、1往復させて、被着体に圧着し、23℃、50%RH(相対湿度)の環境下で、貼付後24時間放置し、粘着力測定用サンプルを作製した。
そして、23℃、50%RH(相対湿度)の環境下で、引張試験機(オリエンテック社製、製品名「テンシロン」)を用いて、剥離速度300mm/分、剥離角度180°の条件で粘着シートを剥離した際に測定された値(単位:N/25mm)を電圧印加前の粘着シートの粘着力とした。
【0106】
(3)電圧印加後の粘着シートの粘着力
上述の粘着力測定用サンプルを、図2の(a)に示すように、電圧印加装置50(高砂製作所社製、製品名「KH−100H」)を用い、陽極端子51をアルミニウム箔基材2aに、陰極端子52を被着体11に接続し、100Vの電圧を60秒間印加した。
電圧印加後、30秒間放置した後、同じ23℃、50%RH(相対湿度)の環境下で、引張試験機(オリエンテック社製、商品名「テンシロン」)を用いて、剥離速度300mm/分、剥離角度180°の条件で粘着シートを剥離した際に測定された値(単位:N/25mm)を電圧印加後の粘着シートの粘着力とした。
なお、表1中の粘着力減少率は、下記式により算出した値である。
〔粘着力の減少率(%)〕=100−〔電圧印加後の粘着シートの粘着力〕/〔電圧印加前の粘着シートの粘着力〕×100
【0107】
【表1】
【0108】
表1によれば、実施例1〜16の電気剥離性粘着シートは、粘着剤層の含水率が所定の範囲内であるため、電圧印加後の粘着力が低く、電圧印加による粘着力の減少率が高いことが分かる。なお、実施例1〜16の電気剥離性粘着シートは、図2の(b)に示されるように、電圧印加後、粘着剤層が陰極側から剥離されることが確かめられた。
一方、比較例1〜4の電気剥離性粘着シートは、粘着剤層の含水率が0.53%未満であるため、実施例の電気剥離性粘着シートに比べて、電圧印加後の粘着力が高く、電圧印加前後での粘着力の減少があまり見られず、再剥離性が劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の電気剥離性粘着シートは、優れた粘着力及び再剥離性を両立し得る。そのため、例えば、表面保護フィルム、塗装用又は装飾用マスキングテープ、再剥離可能なメモ、工業製品の仮固定用等の再剥離性が求められる用途として、好適である。
【符号の説明】
【0110】
1a、1b、1c、1d 電気剥離性粘着シート
2 基材
2a アルミニウム箔基材
3、3’ 粘着剤層
3a、3a’ 陰極側に接続した粘着剤層の面
4、4’ 剥離シート
11 被着体
50 電圧印加装置
51 陽極端子
52 陰極端子
図1
図2
図3