特許第6097114号(P6097114)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097114
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】耐震管の挿し口形成方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 13/02 20060101AFI20170306BHJP
   B22D 13/10 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   B22D13/02 501Z
   B22D13/10 508C
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-68669(P2013-68669)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-188571(P2014-188571A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100139181
【弁理士】
【氏名又は名称】花田 考士
(72)【発明者】
【氏名】長谷目 哲朗
【審査官】 伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭51−080623(JP,A)
【文献】 特開昭64−031561(JP,A)
【文献】 特開2000−288707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 13/00−13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠心鋳造法にて製造される耐震管の挿し口形成方法であって、挿し口端部の内面側を膨らませて、管の直部よりも挿し口端部側を厚肉に鋳造し、その挿し口端部の外周を所定の幅で削って縮径し、縮径部における管の肉厚を管の直部の肉厚と同等にし、挿し口の外面に突起を削り出すことを特徴とする耐震管の挿し口形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳鉄管の挿し口形成方法に関し、特に、継ぎ手部に離脱防止機能や伸縮機能を備える耐震管の挿し口形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水道管などに使用される鋳鉄管には、その継ぎ手部に伸縮機能と離脱防止機能を備えた耐震管と呼ばれるものがある。
耐震管の継ぎ手構造は、例えば、図4に示すように、管Pの挿し口1の外周に設けた突起11が、隣接する管P’の受口2の内周溝に嵌め込んだロックリング4と当接面12で係合して抜け止め機能を発揮するとともに、受口内面の奥壁(胴付け部21)と挿し口先端との距離L1(縮み代)と、突起11とロックリング4との距離L2(伸び代)を足した伸縮代Lが確保された構造になっている。
【0003】
このような耐震管の挿し口外周の突起は、従来から、遠心鋳造法で製造した管の挿し口に金属製のリングを外嵌めし、そのリングを管の外面に溶接などで固定して形成されてきた。
【0004】
図5は、遠心鋳造法を用いた管の鋳造設備を説明する図である。
円筒状の金型5を、円柱ローラーRに載せてその軸方向が略水平となるように配置し、駆動機(図示なし)によってローラーRを回して、金型5を軸周りに回転させる。その金型5の一端(受口2側)には、注入された溶湯の堰となる円盤状の蓋7が取り付けられ、他端(挿し口1側)には、注湯樋8が差し込まれている。また、金型5の内表面のうち、溶湯と接触する部分には、溶湯の焼き付きを防ぐために、砂やスラリーを一定の厚みで付着させた保護層が設けられている。
【0005】
鋳造は、金型5を高速で回転させた状態で、注湯樋8の先端から金型の保護層内面に溶湯9を注ぎ込んで行う。溶湯を注ぎながら、注湯樋8は金型5の中をその軸方向に沿って挿し口1側へ移動し、金型内の全長に亘って溶湯を注いでいく。
注湯が完了し、金型内の溶湯が凝固してから金型の回転を止め、蓋7を金型5から取り外し、そこから管Pを軸方向に沿って金型の外に引き抜く。
【0006】
引き抜かれた管は、熱処理等によって材質を整えられ、その後、挿し口の外面に金属製リングを嵌め、挿し口外面とリングを溶接して一体化する。続いて、溶接したリングや溶接ビードなどを機械加工することで、挿し口突起の形状が整えられる。
しかし、このように挿し口外周にリングを溶接して加工する工程は、溶接作業と溶接前後の処理作業に多くの時間がとられるため、耐震管を製造する際のボトルネックとなっていた。
【0007】
溶接やその前後処理の負担を軽減する技術として、溶接するリングの形状や溶接の溶け込み箇所を工夫するものが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
これによると、溶接部の後処理については、溶接したリングの外周溝から外にはみ出したビードのみを加工すれば足り、管の挿し口突部の形成が容易で外観も美しく仕上げることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−122910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、軽減されるとはいえ、溶接とその前後の加工処理は残るため、作業負担は依然大きく、製造のボトルネック工程になってしまう。
【0010】
本発明は、耐震管の挿し口のように、ロックリングとの当接面を備えた外周突起を設ける場合であっても、作業負担の大きな溶接工程を不要とし、耐震管製造の省力化を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の耐震管の挿し口形成方法は、 遠心鋳造法にて製造される耐震管の挿し口形成方法であって、管の直部よりも挿し口端部側を厚肉に鋳造し、その挿し口端部の外周を所定の幅で削って縮径し、挿し口の外面に突起を削り出す構成とした。
これにより、溶接やその前後処理作業が不要となり、耐震管製造の省力化が達成できる。また、挿し口端部のみを厚肉に鋳造するだけなので、管の直部に無駄な肉厚を付けなくても、外径縮小(縮径)による挿し口の強度不足を防ぐことができる。
【0012】
また、本発明の耐震管の挿し口形成方法として、遠心鋳造法にて製造される耐震管の挿し口形成方法であって、挿し口端部の内面側を膨らませて、管の直部よりも挿し口端部側を厚肉に鋳造し、その挿し口端部の外周を所定の幅で削って縮径し、挿し口の外面に突起を削り出す構成を採ることができる。
この方法によると、金型を水冷する遠心鋳造法のように溶湯の急冷が容易な鋳造方式を用いて、挿し口端部のみの厚肉化と挿し口外面の突起の削り出しが容易に実現できる。
【0013】
さらに、本発明の耐震管の挿し口形成方法として、遠心鋳造法にて製造される耐震管の挿し口形成方法であって、挿し口端部の外面側を膨らませて、管の直部よりも挿し口端部側を厚肉に鋳造し、その挿し口端部の外周を所定の幅で削って縮径し、挿し口の外面に突起を削り出す構成を採ることができる。
この方法によると、砂型鋳造のように、金型と鋳造管との間に一定の厚みのある保護層を設ける鋳造方式を用いて、挿し口端部のみの厚肉化と挿し口外面の突起の削り出しが容易に実現できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る耐震管の挿し口形成方法によれば、挿し口の突起形成に溶接が不要となり、耐震管製造の省力化が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】遠心鋳造で挿し口を厚肉にする方法の説明図であり、(a)は挿し口の内側に膨らます鋳造方法、(b)は挿し口の外側に膨らます鋳造方法の説明図である。
図2】本発明の方法により形成する挿し口の断面図であり、(a)は内面だけを膨らませた挿し口を、(b)は外面のみを膨らませた挿し口を、(c)は内外面ともに膨らんだ挿し口を加工して突起を形成する断面図である。
図3】本発明の方法により形成された挿し口を適用した耐震管継ぎ手の断面構造を表す図である。
図4】耐震管継ぎ手の断面構造を表す図である。
図5】遠心鋳造法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図1から図3の各図面に沿って説明を行う。なお、既述の背景技術と共通するものについては同じ符号を付け、重複する説明は省略する。
【0017】
図1は、遠心鋳造で挿し口を厚肉にする方法の説明図であり、(a)は挿し口の内側に膨らます鋳造方法の説明図である。
この鋳造方法は、回転する金型5に溶湯を注ぐ遠心鋳造法であり、注湯時の操作以外は既述の背景技術と同じであるが、挿し口1の内側を膨らませて厚肉にするために、金型5の挿し口部分への注湯量を、管の直部3などの他の部分と比べて増やすと共に、金型5を外から水冷したり、あるいは、金型内に注ぐ溶湯9をシャワー水等で冷やすことで、溶湯の冷却速度を早くしている。
このようにして、挿し口1の内側が膨らみ直部3に比べて挿し口が厚肉に鋳造された管は、既述と同様、受口2側から金型5の外へ引き抜かれる。
【0018】
同図(b)は、挿し口1の外側を突出させて厚肉にする遠心鋳造方法の説明図である。
金型5の内表面に作られた保護層(砂型層6)の内面が、挿し口1側のみ外側に凹んでいる。つまり、挿し口1に対応する部分のみ、保護層の内径が大きくなっている。この凹みは、挿し口側の砂型層6(保護層)だけを内側から削り込むことで形成されている。
他にも、鋳造した管の引き抜きに支障が出ない程度に、金型5の挿し口側だけ内径を大きくすることで、同様に、挿し口側のみ外に凹む砂型層を作製することができる。その場合は、砂型層を削り込む必要がないので、挿し口側の砂型層の厚み(砂厚)が小さくならずに済む。
その他の鋳造操作は既述と同じであるから説明を省略する。
【0019】
図2(a)は、本発明の方法により形成する挿し口の一例を示す断面図であり、前述した図1(a)に示す方法で、挿し口1の内面側だけが管の直部3の内面と比べて突出する(膨らむ)ように遠心鋳造により製造した管の挿し口1を外から削り込んで加工代Sを除去し、挿し口先端に突起11と当接面12を形成している。すなわち、挿し口端部の外周を所定の幅で削って外径を小さく(縮径)し、削らず縮径しなかった部分(削り残した部分)が挿し口突起となっている。
図中のL’は、この挿し口を他の管の受口内に挿入して接合した継ぎ手が伸縮した際に、その受口内のロックリングの内面が臨む挿し口外面(ロックリング外嵌面15)の幅を示している。
【0020】
同図(b)は、本発明の方法により形成する挿し口の他の一例を示す断面図であり、前述した図1(b)に示す方法で、挿し口1の外面側だけが管の直部3の外面と比べて突出する(膨らむ)ように遠心鋳造により製造した管の挿し口を外から削り込んで加工代Sを除去し、挿し口先端に突起11と当接面12を形成している。
【0021】
同図(c)は、本発明の方法により形成する挿し口1のさらに他の一例を示す断面図であり、前述した図1(a)と(b)に示す2つの方法を併せて実施し、挿し口1の内外面の両面を管の直部3の内外面と比べて突出する(膨らむ)ように遠心鋳造により製造した管の挿し口1を外から削り込んで加工代Sを除去し、挿し口先端に突起11と当接面12を形成している。
【0022】
図3は、本発明の方法により形成された挿し口を適用した耐震管継ぎ手の断面構造の一例を表す図である。
挿し口1は、前述した図2(a)に示す挿し口と同一であり、鋳造時に内側だけ膨らませた挿し口の外面を加工して形成したものである。
受口2の中に挿し口1が挿入され、挿し口の先端が受口の胴付け部21から縮み代L1の距離を開けた状態となっている。
【0023】
挿し口の先端側で外側に突出した挿し口突起11の後方に臨む面である当接面12から伸び代L2の距離を開けて、ロックリング4が取り付けられている。このロックリング4は幅Wの円環であって円周上の一箇所を切り欠いている。ロックリング4の後方(受口端寄り)には、止水用パッキンの役割を果たすリング状のゴム輪41が、受口2の内面の周溝に嵌め込まれ、その内面が挿し口1の外面と液密に接触している。
【0024】
挿し口1の先端部は、内径がその管の直部3より小さく形成されている。
この挿し口1の外面は、機械加工によって外から削り込んで形成した縮径部13(旋削面14)が表れている。この縮径部13は、管の軸方向に沿って当接面12から、伸び代L2とロックリング幅Wと縮み代L1を加算したロックリング外嵌面15の幅L’よりも長く、全周に亘って同一外径寸法で仕上げられている。
また、縮径部13における管の肉厚は、管の直部の肉厚と同じか大きくなっている。(同等以上となっている)
【0025】
なお、図3では、鋳造時に内側だけ膨らませた挿し口の外面を加工した図2(a)と同一の挿し口を適用する耐震管継ぎ手の断面構造を例示したが、図2(b)に示すような鋳造時に挿し口の外面側を膨らませて、外面を削り込んだ挿し口も同様に適用できる。
また、図2(c)に示すような鋳造時に挿し口の内外面両側を膨らませて厚肉にし、外面を削り込んだ挿し口も同じ様に適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 挿し口
11 挿し口突起
12 当接面
13 縮径部
14 旋削面
15 ロックリング外嵌面
2 受口
21 胴付部
3 直部
4 ロックリング
41 ゴム輪
5 金型
6 砂型層(保護層)
7 蓋
8 注湯樋
9 溶湯
P 鋳鉄管(管)
R ローラー
S 加工代
図1
図2
図3
図4
図5