(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
30℃から加熱した際に貯蔵弾性率が1000MPa以下になる温度が150℃以上である、ポリエチレンテレフタレート基板上にインジウム−錫複合酸化物層を有する積層体であって、
30℃から加熱した際に貯蔵弾性率が1000MPa以下になる温度が135℃未満のポリエチレンテレフタレート基板を用いている請求項1〜4のいずれかに記載の積層体。
30℃から加熱した際に貯蔵弾性率が1250MPa以下になる温度が135℃以上である、ポリエチレンテレフタレート基板上にインジウム−錫複合酸化物層を有する積層体であって、
30℃から加熱した際に貯蔵弾性率が1250MPa以下になる温度が135℃未満のポリエチレンテレフタレート基板を用いている請求項1〜5のいずれかに記載の積層体。
ポリエチレンテレフタレート基板上にハードコート層、SiOx層、Nb2O5層、SiO2層、インジウム−錫複合酸化物層の順に層を有する請求項1〜7のいずれかに記載の積層体。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[透明電極付積層体の構成]
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
図1はベースフイルムとしてPETを用いた透明フイルム10上にITO層30を有する透明電極付積層体50を示している。透明フイルム10とITO層30との間には、酸化物を主成分とする透明誘電体層20が形成されていることが好ましい。ITO層30が、透明誘電体層20上に直接形成されることで、ITO層30が低抵抗化されやすくなる。
【0015】
なお、本明細書において、ある物質を「主成分とする」とは、当該物質の含有量が51質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%であることを指す。本発明の機能を損なわない限りにおいて、各層には、主成分以外の成分が含まれていてもよい。
【0016】
<透明フイルム>
透明フイルム10を構成するPETベースフイルム11は、少なくとも可視光領域で無色透明であるものが好ましい。
PETフイルム11の厚みは特に限定されないが、10μm〜400μmが好ましく、20μm〜300μmがより好ましく、50〜200μmが特に好ましい。厚みが上記範囲内であれば、PETフイルム11が耐久性と適度な柔軟性とを有し得るため、その上に各透明誘電体層およびITO層をロール・トゥー・ロール方式により生産性高く製膜することが可能である。
【0017】
PETフイルム11としては、二軸延伸により分子を配向させることで、機械的特性や耐熱性を向上させたものが好ましく用いられる。PETフイルム11は、そのまま透明フイルム10として製膜に供することもできる。
【0018】
透明フイルム10に適度な耐久性を持たせる観点や、ITO層を低抵抗化させる観点から、透明フイルム10は、PETフイルム11の片面または両面にハードコート層12,13が形成されたものが好適に用いられる。一実施形態において、PETベースフイルムのITO層が形成されている面である12に有するとITO層が低抵抗になる傾向にあり、PETベースフイルムのITO層と反対側の面である13に有することで耐傷付性を向上させることができる。
【0019】
透明フイルム10に適度な耐久性と柔軟性を持たせるためには、ハードコート層の厚みは0.5〜10μmが好ましく、1〜7μmがさらに好ましい。ハードコート層の材料は特に制限されず、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂等を、塗布・硬化させたもの等を適宜に用いることができる。
【0020】
PETフイルム11上には、ハードコート層以外の各種の機能性層が形成されてもよい。例えば、PETフイルム11上に直接、あるいはハードコート層12上に、機能性層として透明誘電体層20が形成されてもよい。
【0021】
透明誘電体層20は1層のみからなるものでもよく、2層以上からなるものでもよい。
図1では、透明フイルム10側から第一透明誘電体層21、第二透明誘電体層22および第三透明誘電体層23がこの順に形成された例が図示されている。透明誘電体層20を構成する酸化物としては、少なくとも可視光領域で無色透明であり、抵抗率が10Ω・cm以上であるものが好ましい。
【0022】
透明誘電体層20は、その上にITO層30が形成される際に、透明フイルム10から水分や有機物質が揮発することを抑制するガスバリア層や、透明フイルム10に対するプラズマダメージを低減する保護層として作用してITO層30の結晶化後の低抵抗化に寄与する。
【0023】
透明誘電体層20を構成する酸化物としては、Si,Nb,Ta,Ti,Zn,ZrおよびHfからなる群から選択される1以上の元素の酸化物が好適に用いられる。中でも、酸化シリコン(SiO
2)が好ましい。本発明の製造方法においては、酸化シリコンを主成分とする透明誘電体層上にITO層30が形成されることで、透明電極層がパターニングされた際に、パターン境界に沿った皺が発生し難くなる傾向がある。
【0024】
透明誘電体層20が2層以上からなる場合、各層の厚みや屈折率を調整することにより、透明電極付積層体の透過率や反射率を調整して、表示装置の視認性を高めることができる。また、
図3に示すように、ITO層30の面内の一部がエッチング等によりパターニングされる場合、透明誘電体層の厚みや屈折率を調整することにより、電極形成部30aと、電極非形成部30bとの透過率差、反射率差、色差を低減して、電極パターンの視認を抑止することができる。このため、透明誘電体層20は2層以上からなることが好ましい。なお、ここで言う電極パターンの視認を抑止するとは、透明電極層がパターニングされた際に、パターン境界に沿った皺が発生し難くなるものとは異なるものである。
【0025】
透明誘電体層20が2層以上である場合、少なくとも透明フイルム10側から、屈折率が1.70〜2.50の第二透明誘電体層22(高屈折率層)、および屈折率が1.30〜1.60の第三透明誘電体層23(低屈折率層)を有することが好ましい。また、透明フイルム10との密着性を向上させるために透明フイルム10と第二透明誘電体層22の間に第一透明誘電体層21を有していてもよい。上記範囲外では視認性の抑止効果が小さくなることがある。
【0026】
第一透明誘電体層21の材料としては、SiO
x(1.5≦x<2)を主成分とするシリコン酸化物層が好ましい。
第二透明誘電体層22の材料としては、Nb,Ta,Ti,Zr,Zn,およびHfからなる群より選択される金属の酸化物、あるいはこれらの金属の複合酸化物を主成分とするものが好ましい。第二透明誘電体層22は、可視光の短波長域の吸収が小さいことが好ましい。かかる観点から、第二透明誘電体層22の材料としては、酸化ニオブ(Nb
2O
5)、酸化タンタル(Ta
2O
5)、酸化チタン(TiO
2)あるいは酸化ジルコニウム(ZrO
2)が好ましく、中でも、酸化ニオブが好適に用いられる。
第三透明誘電体層23の材料としては、SiO
2を主成分とするシリコン酸化物層が好ましい。
【0027】
透明誘電体層の製膜方法は、均一な薄膜が形成される方法であれば特に限定されない。製膜方法としては、スパッタリング法、蒸着法等のPVD法、各種CVD法等のドライコーティング法や、スピンコート法、ロールコート法、スプレー塗布やディッピング塗布等のウェットコーティング法が挙げられる。これらのうち、膜厚の制御が容易であるスパッタリング法が好ましい。
【0028】
透明誘電体層がスパッタリング法により形成される場合、スパッタ装置内に透明フイルムが導入される前に透明誘電体層が形成されていてもよく、透明電極層を形成するためにスパッタ製膜装置内に透明フイルム10が導入された後、透明電極層が形成される前に透明誘電体層が形成されてもよい。また、2層以上の透明誘電体層が形成される場合、スパッタ装置内に透明フイルムが導入される前に1層以上の透明誘電体層が形成され、スパッタ製膜装置内に透明フイルムが導入された後、透明電極層が形成される前に1層以上の透明誘電体層が形成されてもよい。
【0029】
例えば、透明フイルム10上にウェットコーティング法により第一透明誘電体層21が形成された後、第一透明誘電体層21形成後の透明フイルム10がスパッタ装置内に導入され、スパッタリング法により第二透明誘電体層22、第三透明誘電体層23およびITO層30が連続して形成されてもよい。透明誘電体層の膜厚制御の観点からは、全ての透明誘電体層がスパッタリング法により形成されることが好ましい。
【0030】
<ITO層>
ITO層30は、インジウム−スズ酸化物(Indium Tin Oxide)からなる非晶質の金属酸化物薄膜である。本明細書において、「非晶質」とは、完全に結晶化されていないものを指し、膜中に一部(80%以下)の結晶質部分を含んでいてもよい。膜中の結晶質部分の含有量は、顕微鏡観察時において観察視野内で結晶粒が占める面積の割合から求められる。
【0031】
ITO層30は透明性と低抵抗を両立する観点から、酸化インジウムを88質量%〜98質量%含有し、酸化錫を2〜12質量%含有することが好ましい。より好ましのは酸化インジウムを90質量%〜97質量%含有し、酸化錫を3〜10質量%含有することであり、酸化インジウムを94質量%〜96質量%含有し、酸化錫を4〜6質量%含有することがさらに好ましい。酸化錫の含有量が上記範囲外になると光学特性と電気特性のバランスが悪化することがある。
【0032】
ITO層30は、150℃で30分加熱された際に、結晶質膜に転化されるものが好ましい。加熱後の結晶質膜は、抵抗率が4.5×10
−4Ω・cm以下であることが好ましい。また、加熱後の結晶質膜は、表面抵抗が150Ω/□以下であることが好ましく、140Ω/□以下であることがより好ましい。透明電極層が低抵抗であれば、静電容量方式タッチパネルの応答速度向上や、各種光学デバイスの省消費電力化等に寄与し得る。
【0033】
透明電極層を低抵抗かつ高透過率とする観点から、ITO層30の膜厚は、15〜40nmが好ましく、18nm〜35nmであることがより好ましく、20nm〜30nmであることがさらに好ましい。
本発明の各誘電体層および透明電極層の膜厚は、透明電極付積層体の断面の透過型電子顕微鏡(TEM)観察により求めることができる。
【0034】
このような透明電極付積層体を静電容量方式タッチパネルの位置検出用いる場合、
図3に示すように、ITO層30の面内の一部をエッチング等により電極形成部30aと電極非形成部30bにパターニングすることになるが、本発明の積層体を用いれば、パターン境界に沿った物理的な皺を大幅に抑制することが可能となる。なお、前述のように、透明誘電体層20の厚みや屈折率を調整すると、電極層がエッチングされずに残存している電極形成部30aと、電極層がエッチングにより除去された電極非形成部30bとの透過率差、反射率差、色差を低減する作用が働き、電極パターンの視認を光学的な観点でも抑止することが可能になる。
【0035】
[透明電極付積層体の物性]
<貯蔵弾性率>
貯蔵弾性率は、動的粘弾性測定装置(例えば、TAインスツルメンツ社製のQ800)により測定することができる。
測定条件は次のとおりである。5mm巾のサンプルを用意し、チャック間距離(挟み具間距離)20mm、100mNのプレロード荷重(あらかじめ印加する荷重)をかけて装置にセットする。3℃/分で昇温しながら30℃から150℃において連続的に測定を行う。測定は引張モードで、歪振幅は0.1%、周波数は5Hzである。
【0036】
本発明者らの検討によれば、加熱時に生じるパターニングされた透明導電層のパターン境界に沿った皺の発生原因は、パターニングされた透明導電層を有する透明電極付積層体50のITO層を加熱により結晶化する工程や、AgやCu等からなる引き廻し配線を加熱により形成する工程において、パターン境界付近の透明電極層がある部分と無い部分で、応力差を生じ、その応力差により境界付近の積層体が微小変形することによると考えられた。
【0037】
加熱された時の貯蔵弾性率が高いと、加熱された時のパターニングされた透明電極付積層体50の剛性が高くなるため、応力による微小変形が起こりにくく、結果として加熱時に生じるパターニングされた透明導電層のパターン境界に沿った皺の発生が抑制される。そのため、本発明の積層体では、パターン境界が視認され難く、静電容量方式のタッチパネルに用いられた際には、画面の視認性に優れる。
【0038】
貯蔵弾性率比の範囲は、ITO層形成後の透明電極付積層体50の30℃での貯蔵弾性率をX
30、150℃での貯蔵弾性率をY
150とすると、Y
150/X
30が0.21以上0.30以下であることが好ましく、ITO層形成前のPET基板の30℃での貯蔵弾性率をA
30、150℃での貯蔵弾性率をB
150とすると、B
150/A
30が0.10以上0.21未満であることが好ましい。Y
150/X
30が0.21未満であると、加熱時に生じるパターニングされた透明導電層のパターン境界に沿った皺の発生を抑制できなくなり、0.30を超える場合、剛性が高くなりすぎてハンドリング性が低下する場合がある。
【0039】
本発明の積層体は、B
150/A
30が0.10以上0.21未満と低く、透明電極層30が形成されることで、加熱時の貯蔵弾性率比がY
150/X
30に高められている。つまり、ITO層形成によって貯蔵弾性率が高められることにより、加熱時に生じるパターニングされた透明導電層のパターン境界に沿った皺の発生が抑制されるものである。
【0040】
さらに、135℃での貯蔵弾性率をY
135とすると、ITO層形成後の透明電極付積層体50の貯蔵弾性率比の範囲は、Y
135/X
30が0.26以上0.35以下であることが好ましく、ITO層形成前のPET基板の30℃での貯蔵弾性率をA
30、135℃での貯蔵弾性率をB
135とすると、B
135/A
30が0.15以上0.26未満であることが好ましい。Y
135/X
30が0.26未満であると加熱時に生じるパターニングされた透明導電層のパターン境界に沿った皺の発生を抑制できなくなり、0.35を超える場合、剛性が高くなりすぎてハンドリング性が低下する場合がある。
【0041】
貯蔵弾性率の絶対値範囲は、PET基板上にITO層を有する積層体において、150℃での貯蔵弾性率が1000MPa以上2000MPa以下であることが好ましく、ITO層形成前のPETフイルムの150℃での貯蔵弾性率が200MPa以上1000MPa未満であることが好ましい。
【0042】
PET基板上にITO層を有する積層体において、150℃での貯蔵弾性率が1000MPa未満であると、加熱時に生じるパターニングされた透明導電層のパターン境界に沿った皺の発生を抑制できなくなり、2000MPaを超える場合、剛性が高くなりすぎてハンドリング性が低下する。本発明の積層体はITO層形成前のPETフイルムの150℃での貯蔵弾性率が200MPa以上1000MPa未満であり、透明電極層30を形成することで加熱時の貯蔵弾性率が高められている。これにより、加熱時に生じるパターニングされた透明導電層のパターン境界に沿った皺の発生が抑制される。
【0043】
さらに、貯蔵弾性率の絶対値範囲は、PET基板上にITO層を有する積層体において、135℃での貯蔵弾性率が1250MPa以上2500MPa以下であることが好ましく、ITO層形成前のPETフイルムの135℃での貯蔵弾性率が500MPa以上1250MPa未満であることが好ましい。
【0044】
PET基板上にITO層を有する積層体において、135℃での貯蔵弾性率が500MPa未満であると、加熱時に生じるパターニングされた透明導電層のパターン境界に沿った皺の発生を抑制できなくなり、1250MPaを超える場合、剛性が高くなりすぎてハンドリング性が低下する場合がある。
【0045】
昇温時の貯蔵弾性率の挙動としては、30℃から加熱した際に貯蔵弾性率が1250MPa以下になる温度が135℃以上であるPET基板上にITO層を有する積層体であって、30℃から加熱した際に貯蔵弾性率が1250MPa以下になる温度が135℃未満のPET基板を用いていることが好ましい。PET基板上にITO層を有する積層体の貯蔵弾性率が1250MPa以下になる温度が135℃未満の場合、積層体の剛性が不足して、加熱時に生じるパターニングされた透明導電層のパターン境界に沿った皺の発生を抑制できなくなる場合がある。
【0046】
さらに、昇温時の貯蔵弾性率挙動としては、30℃から加熱した際に貯蔵弾性率が1000MPa以下になる温度が150℃以上であるPET基板上にITO層を有する積層体であって、30℃から加熱した際に貯蔵弾性率が1000MPa以下になる温度が150℃未満のPET基板を用いていることが好ましい。PET基板上にITO層を有する積層体の貯蔵弾性率が1000MPa以下になる温度が150℃未満の場合、積層体の剛性が不足して、加熱時に生じるパターニングされた透明導電層のパターン境界に沿った皺の発生を抑制できなくなる場合がある。
【0047】
<熱収縮率>
本発明の透明電極付積層体50は、150℃で30分加熱時の熱収縮率が、MD方向、TD方向共に0.5%以下が好ましく、0.4%以下がより好ましく、0.3%以下がさらに好ましい。以下、特に断りが無い場合、本明細書における「熱収縮率」は、150℃で30分加熱時の収縮率を表す。熱収縮率は、加熱前の2点間距離(L
0)と加熱後の2点間距離(L)から、
式: 熱収縮率(%)=100×(L
0−L)/L
0
によって得られる。
【0048】
熱収縮率が上記範囲であると、透明電極層がパターニングされた際に、パターン境界に沿った皺の発生がある程度抑制されるため、好ましい場合がある。
本発明者らの検討によれば、スパッタにより非晶質の透明電極層が製膜された後、加熱により透明電極層が結晶化された際にカールの発生量が大きい透明電極付きフイルムは、その後に透明電極層がパターニングされた際にパターン境界での皺が視認されやすい傾向があった。加熱結晶化時のカールの発生は、透明電極付積層体が加熱される際に、透明フイルムが収縮し、透明電極層と透明フイルムとの界面に応力差が生じるためと推定される。
本発明においては、熱収縮率が小さくなることで、界面の応力が小さくなり、これが皺の抑制に寄与していると考えられる。
【0049】
なお、透明電極層がパターニングされた際の皺の発生は、透明電極付積層体50の熱収縮率のみに起因するものではないと考えられる。すなわち、本発明者らの検討によれば、透明電極付積層体50の熱収縮率が上記範囲のフイルムが用いられた場合でも、貯蔵弾性率が本発明の請求の範囲外の場合、透明電極層のパターン境界に皺が発生した。そのため、本発明者らは、積層体の貯蔵弾性率を特定の範囲とすることで、パターニングされた際の皺を抑制できることを明らかにし、本発明に至った。
【0050】
[透明電極付積層体の製造方法]
以下、本発明の好ましい実施の形態について、透明電極付積層体の製造方法に沿って説明する。
本発明の製造方法では、透明フイルム10がスパッタ製膜装置内に導入され(基材準備工程)、透明フイルム10上に非晶質の金属酸化物薄膜からなるITO層30が形成される(製膜工程)。
【0051】
スパッタ製膜装置は、バッチ式のものでもよいが、透明電極層をロール・トゥー・ロール方式により生産性高く製膜する観点から、巻取式スパッタ製膜装置が好適に用いられる。
さらに、基材準備工程から製膜工程までの間に、フイルムが加熱される工程(加熱工程)を有することが好ましい。そのため、スパッタ製膜装置は加熱部を備えていることが好ましい。
【0052】
(製膜装置の構成例)
図2は、本発明に用いられる巻取式スパッタ製膜装置の一例を表す模式的断面図である。スパッタ製膜装置200の中は、基材準備室201および製膜室202,203に仕切られており、基材準備室201内に繰出しロール261および巻取りロール262を備えている。透明フイルム10の巻回体は繰出しロール261にセットされ、透明フイルム10が製膜室202,203に搬送される。透明フイルムは搬送されながら、製膜ロール260上でITO層30が製膜される。製膜後の透明電極付積層体50は、再び基材準備室に搬送され、巻取りロール262によって巻取られ、透明電極付積層体のロール状巻回体250が得られる。製膜室202,203内の製膜ロール260の近傍には、カソード282,283が配置され、カソードと製膜ロールとの間に、ターゲット222,223が配置される。
【0053】
繰出しロール261と製膜ロール260との間、および製膜ロール260と巻取りロール262との間には、搬送ロール263〜268が配置されている。
図2においては、基材準備室201内の繰出しロール261と製膜ロール260との間のフイルム搬送経路近傍に、加熱部としてヒータ271,272を有する構成が図示されている。
【0054】
(加熱工程)
スパッタ製膜装置200内に導入された透明フイルム10は、ITO層30が形成される前に基材準備室201内で加熱処理されることが好ましい。加熱処理が行われる前に、基材準備室201内の圧力が一旦0.001Pa以下に減圧されることが好ましい。
基材準備室内の加熱部271,272からの熱によって、透明フイルム10が加熱される。加熱温度は、透明フイルムの表面の温度が70℃〜160℃となるように設定されることが好ましく、80℃〜160℃がより好ましく、85℃〜120℃がさらに好ましい。
【0055】
フイルムの表面温度は、フイルム表面にサーモラベルや熱電対を貼り付けて測定することができる。
加熱時間は0.1秒〜600秒であることが好ましく、0.5秒〜300秒であることがより好ましく、1秒〜180秒であることがさらに好ましい。
【0056】
加熱工程を経ると、透明電極付積層体の熱収縮率が低くなり、前述のように、透明電極層がパターニングされた際に、パターン境界に沿った皺の発生がある程度抑制される傾向がある。 加熱部は、マイクロ波、遠赤外線等を利用したヒータやヒートパイプ等の温度調節機構、熱風吹き出しノズル、加熱ロール(例えば
図2において搬送ロール263,264,265を温度調整可能に構成したもの)等であってよい。
透明フイルムの加熱は、透明フイルムの一方の面から行われてもよく、両面から行われても良い。
【0057】
(製膜工程)
透明フイルム10は、製膜室202,203に搬送され、製膜室内でITO層30が形成される。
ITO層30の製膜は、製膜室202,203内に、アルゴン等の不活性ガスおよび酸素ガスを含むキャリアガスが導入されながら行われる。導入ガスは、アルゴンと酸素の混合ガスが好ましい。混合ガスは、酸素を0.10体積%〜2.00体積%含むことが好ましく、0.15体積%〜1.50体積%含むことがより好ましい。上記体積の酸素を供給することで、透明電極層の透明性および導電性を向上させることができる。なお、混合ガスには、本発明の機能を損なわない限りにおいて、その他のガスが含まれていてもよい。製膜室内の圧力(全圧)は、10.0Pa以下が好ましく、0.05Pa〜5.0Paがより好ましく、0.1Pa〜0.4Paがさらに好ましい。圧力が高すぎるとITO層の光学特性と抵抗のバランスが悪化することがある。
【0058】
上記透明電極層製膜工程において、製膜室内の質量数16のガスの分圧P
16は、1×10
−2以下であることが好ましい。製膜雰囲気中の質量数16のガス分圧を低くすることで、透明電極層の加熱結晶化された際の膜質が良好になり、透明電極付積層体の加熱された際の貯蔵弾性率が高くなるため、透明電極層がパターニングされた際の皺の発生が抑制される。質量数16のガス分圧は、オンライン四重極質量分析計(Q−mass)によりモニターできる。
【0059】
スパッタ電源としては、DC,RF,MF電源等が使用できる。スパッタ製膜に用いられるターゲット222,223の材料としては、酸化インジウムを、88質量%〜98質量%含有し、酸化錫を2〜12質量%含有することが好ましく、90質量%〜97質量%含有し、酸化錫を3〜10質量%含有することがより好ましく、94質量%〜96質量%含有し、酸化錫を4〜6質量%含有することがさらに好ましい。
【0060】
透明電極層製膜時の基板温度は、透明フイルムが耐熱性を有する範囲であればよいが、−40℃〜100℃であることが好ましく、−30℃〜30℃であることがより好ましく、−20℃〜20℃であることがさらに好ましく、−0℃〜20℃であることが特に好ましい。基板温度を100℃以下とすることで、フイルムの熱ダメージが抑制される。また、基板温度を−20℃以上とすることで、透明電極層の透過率の低下や、透明フイルムの脆化を抑制することができる。
【0061】
(誘電体層製膜工程)
本発明の一実施形態において、透明フイルム10が基材準備室201内で加熱部271,272からの熱により加熱処理された後、製膜室内の製膜ロール260上でITO層30が製膜されるまでの間に透明誘電体層20が製膜されることが好ましい。
【0062】
本発明においては、透明フイルムを加熱後、製膜ロール260上で透明誘電体層20とITO層30とが連続して製膜されることが好ましい。例えば、
図2において、製膜室202内のターゲット222として誘電体層を構成する材料からなる酸化物のターゲットが用いられ、製膜室203内のターゲット223として透明電極層を構成する材料からなる金属酸化物のターゲットが用いられることで、透明誘電体層20とITO層30とが連続製膜される。
図2では、2つの製膜室202,203内のそれぞれにカソード282,283を有する構成が図示されているが、スパッタ製膜装置200は、3以上の製膜室を備えるものであってもよい。3以上の製膜室内のそれぞれにカソードおよびターゲットが備えられることにより、2層以上の誘電体層と透明電極層とを連続製膜することができる。
【0063】
(その他の工程)
透明フイルム10が加熱された後、ITO層30が製膜されるまでの間には、透明誘電体層20の形成以外の工程が含まれていてもよい。例えば、透明フイルム10が加熱された後、フイルム表面をプラズマに晒す処理(ボンバード処理)が行われてもよい。例えばアルゴン等の不活性ガス存在下で、SUS等のターゲットを用いてスパッタリングを行いプラズマを発生させることで、フイルム表面が清浄化される。ITO層30製膜前に透明誘電体層20が形成される場合、ボンバード処理は、透明誘電体層20の形成前、形成後のいずれに行われてもよい。
【0064】
透明電極付積層体50は、加熱処理されることで、透明電極層が結晶化されることが好ましい。結晶化のための加熱処理は、例えば、120℃〜160℃のオーブン中で、15〜60分間行われる。或いは85℃〜120℃で1日〜3日間など、比較的低温で長時間加熱されてもよい。透明電極層の加熱処理は、透明電極層のパターニング前、パターニング後のいずれに行ってもよい。また、透明電極層の加熱処理は、引き廻し配線形成時の加熱処理等のタッチパネル形成のための加熱アニール処理を兼ねるものであってもよい。
【0065】
透明電極付積層体50は、ITO層30が、電極形成部30aと電極非形成部30bとにパターニングされて用いられる。パターニングは、例えば透明電極層が形成された後、面内の一部において透明電極層がエッチング等によって除去されることにより行われる。
【0066】
透明電極層のエッチング方法としては、ウェットプロセスおよびドライプロセスのいずれでもよいが、ITO層30のみが選択的に除去されやすいという観点から、ウェットプロセスが適している。本発明の透明電極付積層体は、透明電極層がパターニングされた後に、パターンに沿った皺が発生し難い。そのため、パターンが視認され難く、画面の視認性を向上することができる。
【0067】
タッチパネルの形成においては、透明電極付積層体上に、導電性インクやペーストが塗布されて、熱処理されることで、引き廻し回路用配線としての集電極が形成される。加熱処理の方法は特に限定されず、オーブンやIRヒータ等による加熱方法が挙げられる。加熱処理の温度・時間は、導電性ペーストが透明電極に付着する温度・時間を考慮して適宜に設定される。例えば、オーブンによる加熱であれば120〜150℃で30〜60分、IRヒータによる加熱であれば150℃で5分等の例が挙げられる。なお、引き廻し回路用配線の形成方法は、上記に限定されず、ドライコーティング法によって形成されてもよい。また、フォトリソグラフィによって引き廻し回路用配線が形成されることで、配線の細線化が可能である。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
各透明電極付積層体およびPETフイルムの貯蔵弾性率はティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製動的粘弾性測定装置Q800にて測定した。
測定条件は下記のとおりである。
5mm巾のサンプルを用意し、チャック間距離(挟み具間距離)20mm、100mNのプレロード荷重(あらかじめ印加する荷重)をかけ装置にセットする。3℃/分で昇温しながら30℃から150℃において測定を行う。測定は引張モードで、歪振幅は0.1%、周波数は5Hzである。
【0070】
熱収縮率は、試料に10mm間隔で2点の穴を開け、150℃で30分間の加熱を行う前の2点間の距離L
0および加熱後の2点間の距離Lを三次元測長器により測定することで求めた。
【0071】
[実施例1]
透明フイルムとして、PETベースフイルムの厚みが125μmで、両面にハードコート層が形成されており、一方の面に7μm、もう一方の面に10μmの厚さのハードコート層を有する総厚みが142μmのPETフイルム1(きもと社製)が用いられた。この透明フイルムを、
図2に模式的に示す巻取式スパッタ製膜装置内に導入した。以下に示す、各透明誘電体層とITO層はハードコート層厚みが7μmの面に積層された。
【0072】
その後、一旦基材準備室内が5×10
−4Paまで減圧された後、フイルムを搬送させながら、フイルムの加熱が行われた。基材準備室201内のヒータ271,272の温度は380℃であり、フイルム表面に添付されたサーモラベルにより測定したフイルム表面の温度は82℃であった。加熱時間(ヒータ271,272間をフイルムが搬送される時間)は、20秒であった。
【0073】
加熱処理後の透明フイルムは連続的に製膜室に搬送され、製膜ロール260上で、第一透明誘電体層としてSiO
x、第二透明誘電体層としてNb
2O
5、第三誘電体層としてSiO
2、透明電極層としてITOが順次製膜された。製膜時の基板温度は−20℃であった。
【0074】
第一誘電体層は、B−Siをターゲットとして用い、酸素/アルゴン(20sccm/400sccm)混合ガスを製膜室内に導入しながら、装置内圧力0.2Pa、パワー密度1.4W/cm
2の条件で製膜された。第二誘電体層は、ニオブ(Nb)をターゲットとして用い、酸素/アルゴン(160sccm/1600sccm)混合ガスを製膜室内に導入しながら、装置内圧力0.87Pa、基板温度−20℃、パワー密度8.1W/cm
2の条件で製膜された。第三誘電体層は、B−Siをターゲットとして用い、酸素/アルゴン(190sccm/400sccm)混合ガスを装置内に導入しながら、装置内圧力0.19Pa、パワー密度10.2W/cm
2の条件で製膜された。
【0075】
透明電極層は、酸化インジウム・スズ(酸化インジウムと酸化スズの合計100重量部に対する酸化スズの含有量5重量部)をターゲットとして用い、酸素/アルゴン(4sccm/796sccm)混合ガスを装置内に導入しながら、装置内圧力0.30Pa、パワー密度5.2W/cm
2の条件で行われた。製膜室内の質量数16のガスの分圧P
16は、8.8×10
−3であった。
このようにして、透明フイルム上に誘電体層および透明電極層を備える透明電極付積層体を得た。
【0076】
[比較例1]
透明フイルムとして、PETベースフイルムの厚みが125μmで、両面に形成されたハードコート層がそれぞれ5μmで総厚みが135μmのPETフイルム2(中井工業社製)が用いられ、ITO製膜時の装置内圧力が0.34Pa、ITO製膜室内の質量数16のガスの分圧P
16が3.3×10
−2で製膜が行われた以外は、上記実施例1と同様にして、透明電極付積層体を得た。加熱工程でのフイルム温度は80℃であった。
【0077】
[比較例2]
透明フイルムとして、PETベースフイルムの厚みが125μmで、両面に形成されたハードコート層がそれぞれ7μmで総厚みが139μmのPETフイルム3(デクセリアルズ社製)が用いられ、ITO製膜時に酸素/アルゴン(15sccm/1000sccm)混合ガスを装置内に導入しながら、装置内圧力が0.42Pa、ITO製膜室内の質量数16のガスの分圧P
16が1.1×10
−2で製膜が行われた以外は、上記実施例1と同様にして、透明電極付積層体を得た。加熱工程でのフイルム温度は83℃であった。
【0078】
[評価]
(貯蔵弾性率の評価)
各実施例および比較例で得られた透明電極付積層体およびPETフイルムの貯蔵弾性率がティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製動的粘弾性測定装置Q800によって測定された。結果を表1〜4、
図4〜6に示す。表1は、ITO製膜時の質量数16のガス分圧と、パターンの非視認性(物理的な皺)の評価結果を示し、表2は、貯蔵弾性率の評価結果を示し、表3は、加熱工程でのフイルム温度と加熱収縮率の評価結果を示し、表4は、表面抵抗、全光線透過率、b*の評価結果を示す。
【0079】
(パターン皺の評価)
各実施例および比較例で得られた透明電極付積層体から10cm角のシート状のフイルムが切り出された。切り出されたフイルムは、150℃のオーブン内で30分加熱され、透明電極層が結晶化された。
【0080】
その後、フォトリソグラフィによる透明電極層のパターニングが行われた。まず透明電極層上に、フォトレジスト(製品名TSMR−8900(東京応化工業社製))がスピンコートにより約2μm程度の膜厚で塗布された後、90℃のオーブンでプリベークされた。フォトマスクを介して、40mJの紫外光が照射された。その後110℃でフォトレジスト層がポストベークされた後、現像液(製品名NMD−W(東京応化工業社製))を用いてパターニングされた。さらに、エッチング液(製品名:ITO02(関東化学社製))を用いて透明電極層がエッチングされた。最後にリンス液(製品名104(東京応化工業社製))を用いて残ったフォトレジストが除去された。
【0081】
目視により、透明電極層のパターン皺の有無を評価した。透明電極層のパターン形成方向と直管式蛍光灯の反射光とが略直交するように配置された状態で、蛍光灯からの反射光を観察し、蛍光灯の反射像が直線状に見えるものを3(皺なし)、反射像が著しく歪んで見えるものを1とし、1〜3の3段階で評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(熱収縮率)
各実施例および比較例で得られた透明電極付積層体の熱収縮率が上記記載の方法にて測定された。結果を表3に示す。
【0083】
(表面抵抗)
各実施例および比較例で得られた透明電極付きフイルムから10cm角のシート状のフイルムが切り出された。切り出されたフイルムは、150℃のオーブン内で30分加熱され、透明電極層が結晶化された。
【0084】
その後、4端子4探針法式表面抵抗計ロレスタGP MCP−T610(三菱化学アナリティック社製)によって測定した。結果を表4に示す。
【0085】
(全光線透過率)
実施例および比較例で得られた透明電極付きフイルムから10cm角のシート状のフイルムが切り出された。切り出されたフイルムは、150℃のオーブン内で30分加熱され、透明電極層が結晶化された。その後、ヘーズメーターNDH 5000(日本電色工業社製、光源D)によって測定された。結果を表4に示す。
(b*)
実施例および比較例で得られた透明電極付きフイルムから10cm角のシート状のフイルムが切り出された。切り出されたフイルムは、150℃のオーブン内で30分加熱され、透明電極層が結晶化された。
その後、分光色差計SE 6000(日本電色工業社製、D光源)によって測定された。結果を表4に示す。
【0086】
実施例及び比較例の透明電極付積層体の製造に用いられた透明フイルムの貯蔵弾性率、皺、ITO製膜時の質量数16のガス分圧、加熱工程におけるフイルム温度、熱収縮率、および150℃30分加熱後の抵抗、透過率、b*の評価結果を表1、表2、表3、表4に示す。また、
図4、
図5、
図6に貯蔵弾性率の測定結果を示す。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
【表4】
【0091】
表1、
図4、
図5、
図6から、実施例1の30℃での貯蔵弾性率X
30と150℃での貯蔵弾性率Y
150の比Y
150/X
30は0.21以上0.30以下であり、比較例1および比較例2は0.21未満である。それぞれの、パターンに沿った物理的皺を比較すると、実施例1は評価レベルが3であり、比較例は評価レベルが2以下であり、実施例1がパターンの非視認性に優れていることがわかる。
【0092】
より詳細には、実施例は比較例に比べてY
150/X
30が高く、貯蔵弾性率が高い。貯蔵弾性率が高いと、積層体の剛性が高くなり、加熱時に積層体の物理変形が起こりにくく、パターンに沿った物理的な皺が発生しなくなる。その結果、静電容量方式のタッチパネルに用いられた際には、画面の視認性に優れる。
【0093】
さらに、実施例は製膜前のPET基板の30℃での貯蔵弾性率A
30と150℃での貯蔵弾性率B
150の比B
150/A
30が0.10以上0.21未満であり、ITO層を形成することにより貯蔵弾性率が向上している。このことから、ITO層の形成により、パターンに沿った物理的皺の発生が抑えられ、視認性が改良されていることがわかる。
また、貯蔵弾性率は高いほど積層体が変形しにくいため、本発明の請求の範囲では、実施例と同様の効果が得られる。
【0094】
さらに、実施例と比較例は同程度の熱収縮率でありながら、パターンに沿った物理的な皺は実施例が優れていることから、貯蔵弾性率が高いことが、パターンに沿った物理的な皺の抑制に大きな効果があることがわかる。