(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高度制御側の出力を、電力調整器やバルブへの指示値である操作量MVとすることも、理論上は十分可能である。このとき、高度制御の操作量MVがPID制御の操作量MVと同じ変数になって重複する場合は、
図10に示すように高度制御の単独構造にならざるを得ない。
多くのケースで、高度制御は複数の状態観測値を取り込む多入力のアルゴリズムが採用されるのであるが、それゆえに演算量も大きくなる。そして、演算量が大きい(演算が集中的になる)高度制御は、演算機能がダウンするリスクも無視できないということになるので、高度制御のアルゴリズムを単独で実装するのは、リスクの高い計装ということになる。
【0009】
また、高度制御が状態量観測値をフィードバックする制御でない場合、温度や圧力などの目標値(設定値SPに相当)と実際の値(制御量PVに相当)との間に誤差が生じる可能性が高くなる。高度制御のアルゴリズムを単独で実装する場合には、この誤差を吸収できないことになる。
したがって、高度制御とPID制御とを組み合わせたハイブリッド制御を実装することが好ましいが、高度制御とPID制御とを組み合わせる手法は実際には確立されておらず、高度制御の異常をPID制御で補うバックアップの技術や高度制御の誤差をPID制御で吸収する誤差吸収の技術は実現できていなかった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、高度制御とPID等のフィードバック制御とを組み合わせたハイブリッド制御を実現し、高度制御の異常をフィードバック制御で補うバックアップの技術や高度制御の誤差をフィードバック制御で吸収する誤差吸収の技術を実現することができる制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の制御装置は、高度制御演算により設定値SPから操作量MV1を算出する上位側制御演算手段と、制御の状態が過渡状態か定常状態かを判定する過渡/定常状態判定手段と、過渡状態と判定された場合は予め規定された過渡操作量幅α1を操作量幅αとして指定し、定常状態と判定された場合は前記過渡操作量幅α1より大きい定常操作量幅α2を操作量幅αとして指定する操作量幅指定手段と、前記上位側制御演算手段で算出された操作量MV1に、前記操作量幅αを与えることにより操作量下限値OL、操作量上限値OHのうち少なくとも一方を算出する操作量変換手段と、下位側のリミット処理で用いる操作量下限値OL、操作量上限値OHを前記操作量変換手段で算出された値に変更する上下限値設定手段と、フィードバック制御演算により設定値SPから操作量MV2を算出する下位側制御演算手段と、この下位側制御演算手段で算出された操作量MV2を操作量下限値OL以上で操作量上限値OH以下の値に制限する前記リミット処理を行なうリミット処理手段と、このリミット処理された操作量MV2を制御対象に出力する操作量出力手段とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の制御装置の1構成例において、前記過渡/定常状態判定手段は、設定値SPと制御量PVとの偏差が予め規定された閾値以上の場合は過渡状態と判定し、前記偏差が閾値未満の場合は定常状態と判定することを特徴とするものである。
また、本発明の制御装置の1構成例において、前記過渡/定常状態判定手段は、最新の設定値SP変更時点からの経過時間が予め規定された閾値未満の場合は過渡状態と判定し、前記経過時間が閾値以上の場合は定常状態と判定することを特徴とするものである。
また、本発明の制御装置の1構成例は、さらに、前記操作量幅指定手段から出力される操作量幅αの急変を緩和する操作量幅平滑化手段を備え、前記操作量変換手段は、前記操作量幅平滑化手段によって急変が緩和された操作量幅αを前記操作量MV1に与えることにより、操作量下限値OL、操作量上限値OHのうち少なくとも一方を算出することを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の制御方法は、高度制御演算により設定値SPから操作量MV1を算出する上位側制御演算ステップと、制御の状態が過渡状態か定常状態かを判定する過渡/定常状態判定ステップと、過渡状態と判定した場合は予め規定された過渡操作量幅α1を操作量幅αとして指定し、定常状態と判定した場合は前記過渡操作量幅α1より大きい定常操作量幅α2を操作量幅αとして指定する操作量幅指定ステップと、前記上位側制御演算ステップで算出した操作量MV1に、前記操作量幅αを与えることにより操作量下限値OL、操作量上限値OHのうち少なくとも一方を算出する操作量変換ステップと、下位側のリミット処理で用いる操作量下限値OL、操作量上限値OHを前記操作量変換ステップで算出した値に変更する上下限値設定ステップと、フィードバック制御演算により設定値SPから操作量MV2を算出する下位側制御演算ステップと、この下位側制御演算ステップで算出した操作量MV2を操作量下限値OL以上で操作量上限値OH以下の値に制限する前記リミット処理を行なうリミット処理ステップと、このリミット処理した操作量MV2を制御対象に出力する操作量出力ステップとを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上位側制御演算手段で算出された操作量MV1に、操作量幅αを与えることにより操作量下限値OL、操作量上限値OHのうち少なくとも一方を算出する操作量変換手段と、下位側のリミット処理で用いる操作量下限値OL、操作量上限値OHを操作量変換手段で算出された値に変更する上下限値設定手段とを設けることにより、高度制御とPID等のフィードバック制御とを組み合わせたハイブリッド制御を実現することができ、高度制御の異常をフィードバック制御で補うバックアップの技術や高度制御の誤差をフィードバック制御で吸収する誤差吸収の技術を実現することができる。また、本発明では、下位側制御演算手段とリミット処理手段と操作量出力手段として、例えば温調計のような市販のコントローラを利用することができる。また、本発明では、過渡/定常状態判定手段と操作量幅指定手段とを設けることにより、高度制御の影響割合(支配率)が、操作量幅αを固定する場合よりも適切になる可変動作を実現することができる。
【0015】
また、本発明では、操作量幅指定手段から出力される操作量幅αの急変を緩和する操作量幅平滑化手段を設けることにより、操作量下限値OL、操作量上限値OHの急変によって制御に悪影響が出ることを回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[先願技術]
発明者は、高度制御とPID制御とを組み合わせたハイブリッド制御を実現し、高度制御の異常をPID制御で補うバックアップの機能や高度制御の誤差をPID制御で吸収する誤差吸収の機能を実現することができる技術を提案した(特願2012−194955)。以下、この技術を先願技術と呼ぶ。
【0018】
図1は先願技術の制御系の構成を示すブロック図である。先願技術では、高度制御の操作量MVに、誤差範囲を想定した幅を考慮する。この操作量幅を、PID制御ループの操作量下限値OL、操作量上限値OHとしてPID制御ループに与えれば、PID制御ループはフィードバック演算による誤差吸収が行なえる。このとき、PID制御ループの設定値SPには、高度制御側に設定されるはずの設定値SPと同じ変数を重複して割当てればよい。また、これによりPID制御ループが常時動作することになるので、高度制御が不調になったり無効状態になったりしたときのためのバックアップ構造としても機能するようになる。
【0019】
さらに、操作量幅(あるいは上限値OHと下限値OLとの差)をゼロに近づければ、高度制御側から直接的に操作量MVを電力調整器などに作用させている状態に近づけることができる。すなわち、操作量幅を調整することで、高度制御の影響割合(支配率)を実質的に調整できるというように、可調整なハイブリッド制御を実現することができる。
【0020】
そして、先願技術では、高度制御の操作量MV1と操作量下限値OLとの差および高度制御の操作量MV1と操作量上限値OHとの差を、操作量幅αというパラメータとして規定し、次式により操作量下限値OL、操作量上限値OHを与えるようにしている。
OL=MV1−α ・・・(1)
OH=MV1+α ・・・(2)
したがって、操作量上限値OHと操作量下限値OLとの差は2αになる。
【0021】
図2(A)、
図2(B)は先願技術の動作を説明する図であり、
図2(A)は高度制御の操作量MV1(
図1の高度制御演算部1で算出される操作量)の変化に伴う操作量下限値OL、操作量上限値OHの変化を示す図、
図2(B)は操作量下限値OL、操作量上限値OHによって制約されるPID制御の操作量MV2(
図1の温調計2から出力される操作量)の変化を示す図である。
【0022】
図2(A)には、操作量MV1が時間の経過とともに8%から92%に直線的に上昇し、α=8%の設定に基づき操作量下限値OLが0%から84%に直線的に上昇し、操作量上限値OHが16%から100%に直線的に上昇する事例が示されている。
図2(B)には、時間の経過とともに操作量下限値OLが0%から84%、操作量上限値OHが16%から100%に直線的に上昇し、この操作量下限値OLと操作量上限値OHの範囲内で操作量MV2が算出される事例が示されている。このように、先願技術では、上位側の高度制御により大局的な操作量変化が与えられ、下位側のPID制御により誤差吸収程度の操作量の調整(変更)が常時継続するようになっている。
【0023】
以上の先願技術では、操作量幅αを調整することで、高度制御の影響割合(支配率)を実質的に調整できるが、操作量幅αは基本的には固定値として設定される。しかし、高度制御が複雑な制御動作を実対象に展開することを目的とし、PID制御が高度制御の誤差を吸収することを目的としているので、高度制御の影響割合(支配率)が常に一定になることが、必ずしも適切とは限らない。すなわち、高度制御の影響割合(支配率)の適切さを向上させる改善策が必要になる。
【0024】
[発明の原理]
そこで、発明者は、以下のような原理によれば、高度制御の影響割合(支配率)の適切さを改善できることに想到した。
制御動作については2つに大別され、制御対象の状態量を要求通りに遷移させる過渡状態と、制御対象の状態量を要求通りに安定させる定常状態とがある。先願技術では、上位側の高度制御は複雑な制御動作が目的であり、主に過渡状態が対象になる。一方、下位側のPID制御は高度制御で生じる、設定値SPと制御量PVとの誤差の吸収が目的である。このような誤差は定常状態において問題になる。発明者は、このように目的と制御動作が対応的に大別されることに着眼した。
【0025】
そして、制御の過渡状態では上位側の高度制御を優先するために操作量幅αを小さくし、制御の定常状態では下位側のPID制御を優先するために操作量幅αを大きくする可変動作に想到した。制御の過渡状態と定常状態を明確に識別することは不可能であるが、設定値SP変更後の特定時間帯や、設定値SPと制御量PVとの偏差を指標にすることで、過渡状態か定常状態かを概ね適切に識別することができる。このようにすることにより、高度制御の影響割合(支配率)を、シンプルな計装で変更できる。
【0026】
[第1の実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。本実施の形態においても、制御系全体の構成は先願技術と同様であるので、
図1の符号を用いて説明する。本実施の形態の制御系は、高度制御演算部1と、温調計2と、SSR(Solidstate Relay)やSCR(Silicon Controlled Rectifier)などの電力調整器3とから構成される。なお、
図1では、操作量MVの出力先である制御対象として電力調整器3を例に挙げているが、これに限るものではなく、バルブ等を制御対象としてもよい。
【0027】
図3は本実施の形態の制御装置の詳細な構成を示すブロック図である。本実施の形態の制御装置は、
図1に示した高度制御演算部1と温調計2とから構成される。
高度制御演算部1は、例えば高度制御演算により操作量MV1を算出する上位側制御演算部10と、設定値SPと制御量PVとの偏差が予め規定された閾値以上の場合は制御の過渡状態と判定し、偏差が閾値未満の場合は定常状態と判定する過渡/定常状態判定部11と、過渡状態と判定された場合は予め規定された過渡操作量幅α1を操作量幅αとして指定し、定常状態と判定された場合は過渡操作量幅α1より大きい定常操作量幅α2を操作量幅αとして指定する操作量幅指定部12と、上位側制御演算部10で算出された操作量MV1に、指定された操作量幅αを与えることにより操作量下限値OL、操作量上限値OHに変換する操作量変換部13と、操作量変換部13で得られた操作量下限値OL、操作量上限値OHを、温調計2の後述するリミット処理部で用いる値として設定する上下限値設定部14とを有する。
【0028】
温調計2は、例えばPID制御演算等のフィードバック制御演算により操作量MV2を算出する下位側制御演算部20と、下位側制御演算部20で算出された操作量MV2を操作量下限値OL以上で操作量上限値OH以下の値に制限するリミット処理を行なうリミット処理部21と、このリミット処理された操作量MV2を制御対象に出力する操作量出力部22とを有する。
【0029】
次に、本実施の形態の制御装置の動作を
図4を用いて説明する。本実施の形態では、説明を簡単にするために、上位側制御演算部10の制御演算式を、簡易な多入力1出力の1次多項式とする。また、炉内温度を制御対象の状態量とする。つまり、炉を加熱するヒータ(不図示)が
図1の電力調整器3に接続されていて、電力調整器3は、温調計2から出力される操作量MV2に応じてヒータに供給する電力を調整する。
本実施の形態の特徴部分である過渡/定常状態判定部11と操作量幅指定部12とは上位側の高度制御演算部1に実装されるものとするが、温調計2に実装されていても構わない。
【0030】
上位側制御演算部10は、次式の制御演算式により、電力調整器3に出力されることを想定した操作量MV1を算出する(
図4ステップS100)。
MV1=ASP+BX1+CX2+DX3 ・・・(3)
式(3)において、SPは制御装置のオペレータによって設定される、制御対象の炉内温度に対する設定値、X1は操作量MV1を決定するために考慮すべき第1の状態量(例えば炉内圧力計測値)、X2は操作量MV1を決定するために考慮すべき第2の状態量(例えば炉内湿度計測値)、X3は操作量MV1を決定するために考慮すべき第3の状態量(例えば炉外周辺温度計測値)、A,B,C,Dは予め規定される1次多項式係数である。
【0031】
過渡/定常状態判定部11は、制御対象の炉内温度に対する設定値SPと図示しない温度センサによって計測された制御量PV(制御対象の炉内温度計測値)とを取込み、設定値SPと制御量PVとの偏差Erを算出する(
図4ステップS101)。
Er=SP−PV ・・・(4)
【0032】
そして、過渡/定常状態判定部11は、算出した偏差Erに基づいて制御が過渡状態か否かを判定する(
図4ステップS102)。具体的には、過渡/定常状態判定部11は、以下のように偏差Erが予め規定された閾値β以上ならば過渡状態と判定し、偏差Erが閾値β未満ならば定常状態と判定する。
IF Er≧β THEN 過渡状態 ・・・(5)
IF Er<β THEN 定常状態 ・・・(6)
【0033】
操作量幅指定部12は、過渡/定常状態判定部11により制御の過渡状態と判定された場合は(ステップS102においてYES)、予め規定された過渡操作量幅α1を操作量変換部13で使用する操作量幅αとして設定し(
図4ステップS103)、制御の定常状態と判定された場合は(ステップS102においてNO)、予め規定された定常操作量幅α2(α1<α2)を操作量変換部13で使用する操作量幅αとして設定する(
図4ステップS104)。
IF 過渡状態 THEN αL=αL1,αH=αH1 ・・・(7)
IF 定常状態 THEN αL=αL2,αH=αH2 ・・・(8)
【0034】
本実施の形態では、過渡操作量幅α1としてαL1,αH1の2種類があり、定常操作量幅α2としてαL2,αH2(αL1<αL2,αH1<αH2)の2種類がある。また、操作量幅αについても、αL,αHの2種類がある。αL1は予め規定された下限値用の過渡操作量幅、αH1は予め規定された上限値用の過渡操作量幅、αL2は予め規定された下限値用の定常操作量幅、αH2は予め規定された上限値用の定常操作量幅である。αLは操作量幅指定部12によって設定された下限値用の操作量幅、αHは操作量幅指定部12によって設定された上限値用の操作量幅である。過渡操作量幅αL1とαH1は同じ値でもよいし、異なる値でもよい。同様に、定常操作量幅αL2とαH2は同じ値でもよいし、異なる値でもよい。この説明から明らかなとおり、操作量幅αLとαHは同じ値でもよいし、異なる値でもよい。
【0035】
続いて、操作量変換部13は、上位側制御演算部10で算出された操作量MV1に、操作量幅指定部12から設定された操作量幅を加減算して、温調計2の操作量下限値OL、操作量上限値OHを次式のように算出する(
図4ステップS105)。
OL=MV1−αL ・・・(9)
OH=MV1+αH ・・・(10)
【0036】
上下限値設定部14は、操作量変換部13で得られた操作量下限値OL、操作量上限値OHを、通信機能などを介して温調計2のリミット処理部21に対して設定する(
図4ステップS106)。
【0037】
次に、下位側制御演算部20は、PID制御演算により、以下の伝達関数式のように操作量MV2を算出する(
図4ステップS107)。
MV2=(100/Pb){1+(1/Tis)+Tds}(SP−PV)
・・・(11)
式(11)において、SPは制御対象の炉内温度に対する設定値であり、上位側制御演算部10が用いる値と同じである。PVは図示しない温度センサによって計測される制御対象の炉内温度計測値(制御量)、Pbは予め規定された比例帯、Tiは予め規定された積分時間、Tdは予め規定された微分時間、sはラプラス演算子である。
【0038】
続いて、リミット処理部21は、下位側制御演算部20で算出された操作量MV2を操作量下限値OL以上で操作量上限値OH以下の値に制限する上下限リミット処理を行なう(
図4ステップS108)。
IF MV2<OL THEN MV2=OL ・・・(12)
IF MV2>OH THEN MV2=OH ・・・(13)
つまり、リミット処理部21は、操作量MV2が操作量下限値OLより小さい場合、操作量MV2=OLとし、操作量MV2が操作量上限値OHより大きい場合、操作量MV2=OHとする。
【0039】
そして、操作量出力部22は、リミット処理部21でリミット処理された操作量MV2を制御対象の電力調整器3に出力する(
図4ステップS109)。
以上のようなステップS100〜S109の処理が、例えばオペレータからの指令によって制御が終了するまで(
図4ステップS110においてYES)、制御周期毎に繰り返し実行される。
【0040】
本実施の形態の構成と処理により、制御の過渡状態では上位側の高度制御を優先するために操作量幅αL,αHを小さくし、制御の定常状態では下位側のPID制御を優先するために操作量幅αL,αHを大きくする可変動作になるので、高度制御の影響割合(支配率)が、操作量幅αL,αHを固定する場合よりも適切になる。
【0041】
制御が過渡状態か否かを判定するための閾値βについては、オペレータが経験などに基づき適宜調整すればよい。ここでは、設定値SPの変更により制御の過渡状態が生じることを前提としているので、想定される標準的な設定値SPの変更幅を考慮して、この変更幅の例えば10%程度の値を閾値βにするなどの調整が考えられる。
【0042】
過渡操作量幅αL1,αH1と定常操作量幅αL2,αH2は、αL1<αL2,αH1<αH2の関係になるように適宜設計すればよいが、本発明の目的を考慮するならば、例えばαL1<0.5×αL2,αH1<0.5×αH2というように大きめの格差が生じる設計になるのが好ましい。
【0043】
図5(A)、
図5(B)、
図5(C)は先願技術の制御装置の動作を説明する図であり、
図5(A)は操作量MV1の変化に伴う操作量下限値OL、操作量上限値OHの変化を示す図、
図5(B)は操作量下限値OL、操作量上限値OHによって制限される操作量MV2の変化を示す図、
図5(C)は制御量PVの変化を示す図である。先願技術の制御装置は、本実施の形態の制御装置から過渡/定常状態判定部11と操作量幅指定部12とを除いた構成であり、操作量幅αL,αHが予め規定された値に固定された構成となる。
図5(A)、
図5(B)、
図5(C)では、操作量幅αL,αHが固定され、制御の定常状態においても高度制御の影響割合(支配率)が高いことにより、PID制御が本領発揮するフィードバック補償に支障が生じる状況が現れている。
【0044】
一方、
図6(A)、
図6(B)、
図6(C)は本実施の形態の制御装置の動作を説明する図であり、
図6(A)は制御の状態(過渡状態/定常状態)に応じた操作量下限値OL、操作量上限値OHの変化を示す図、
図6(B)は操作量下限値OL、操作量上限値OHによって制限される操作量MV2の変化を示す図、
図6(C)は制御量PVの変化を示す図である。
図6(A)、
図6(B)、
図6(C)では、制御の定常状態においてPID制御によるフィードバック補償が機能しやすいように操作量下限値OL、操作量上限値OHが修正された状況を示している。
【0045】
なお、本実施の形態では、制御の状態を過渡状態と定常状態の2つに限定したが、操作量幅αの指定のためにはこれら2つに限定する必要はない。例えば準定常状態というように過渡状態と定常状態の中間の状態を偏差Erにより規定し、準定常操作量幅αL3,αH3をαL1<αL3<αL2,αH1<αH3<αH2の関係になるように設計してもよい。
【0046】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本実施の形態においても、制御系全体の構成は先願技術と同様であるので、
図1の符号を用いて説明する。
図7は本実施の形態の制御装置の詳細な構成を示すブロック図である。本実施の形態の高度制御演算部1は、上位側制御演算部10と、最新の設定値SP変更時点からの経過時間が予め規定された閾値未満の場合は制御の過渡状態と判定し、経過時間が閾値以上の場合は定常状態と判定する過渡/定常状態判定部11aと、操作量幅指定部12と、上位側制御演算部10で算出された操作量MV1に、後述する操作量幅平滑化部から指定された操作量幅αを与えることにより操作量下限値OL、操作量上限値OHに変換する操作量変換部13aと、上下限値設定部14と、操作量幅指定部12から出力される操作量幅αの急変を緩和する操作量幅平滑化部15とを有する。温調計2の構成は第1の実施の形態と同じである。
【0047】
次に、本実施の形態の制御装置の動作を
図8を用いて説明する。本実施の形態においても、炉内温度を制御対象の状態量とする。
図8のステップS200の処理は、
図4のステップS100と同じなので、説明は省略する。
【0048】
過渡/定常状態判定部11aは、設定値SPの変更を検出すると(
図8ステップS201においてYES)、この設定値SP変更時点からの経過時間TSの計測を開始する(
図8ステップS202)。過渡/定常状態判定部11aは、設定値SPが直前の制御周期の設定値SPと異なるときに、設定値SPが変更されたと判断する。
【0049】
そして、過渡/定常状態判定部11aは、最新の設定値SP変更時点からの経過時間TSに基づいて制御が過渡状態か否かを判定する(
図8ステップS203)。具体的には、過渡/定常状態判定部11aは、以下のように経過時間TSが予め規定された閾値γ未満ならば過渡状態と判定し、経過時間TSが閾値γ以上ならば定常状態と判定する。
IF TS<γ THEN 過渡状態 ・・・(14)
IF TS≧γ THEN 定常状態 ・・・(15)
【0050】
なお、過渡/定常状態判定部11aは、制御装置が起動した初期状態では制御開始時点(設定値SPの初期値が与えられた時点)からの経過時間をTSとする。
操作量幅指定部12は、過渡/定常状態判定部11aにより制御の過渡状態と判定された場合は(ステップS203においてYES)、予め規定された過渡操作量幅αL1,αH1を操作量変換部13aで使用する操作量幅αL,αHとして出力し(
図8ステップS204)、制御の定常状態と判定された場合は(ステップS203においてNO)、予め規定された定常操作量幅αL2,αH2を操作量変換部13aで使用する操作量幅αL,αHとして出力する(
図8ステップS205)。過渡操作量幅αL1,αH1、定常操作量幅αL2,αH2については第1の実施の形態で説明したとおりである。
【0051】
制御の状態が過渡状態から定常状態に移行する際に、操作量幅指定部12から出力される操作量幅αが急変するのは好ましくない。そこで、操作量幅平滑化部15は、操作量幅指定部12から出力される操作量幅αの急変を緩和するために、制御の状態が過渡状態から定常状態に移行した時点から定常状態が継続する間は式(16)、式(17)の伝達関数式で示すように1次遅れフィルタにより操作量幅αの平滑化処理を行ない、平滑化処理後の操作量幅α’を操作量変換部13aで使用する操作量幅として設定する(
図8ステップS206)。
αL’=αL/(1+Tfs)=αL2/(1+Tfs) ・・・(16)
αH’=αH/(1+Tfs)=αH2/(1+Tfs) ・・・(17)
【0052】
第1の実施の形態で説明したとおり、操作量幅αについては、αL,αHの2種類がある。したがって、平滑化処理後の操作量幅α’についても、αL’,αH’の2種類がある。式(16)、式(17)において、Tfは予め規定されたフィルタ時定数、sはラプラス演算子である。
【0053】
また、操作量幅平滑化部15は、制御の状態が定常状態から過渡状態に移行した時点(設定値SP変更時点)から過渡状態が継続する間は式(18)、式(19)に示すように平滑化処理を行なわずに、操作量幅指定部12から出力される操作量幅αL=αL1,αH=αH1をそのまま操作量変換部13aで使用する操作量幅αL’,αH’として設定する(
図8ステップS207)。
αL’=αL=αL1 ・・・(18)
αH’=αH=αH1 ・・・(19)
【0054】
続いて、操作量変換部13aは、上位側制御演算部10で算出された操作量MV1に、操作量幅平滑化部15から設定された操作量幅を加減算して、温調計2の操作量下限値OL、操作量上限値OHを次式のように算出する(
図8ステップS208)。
OL=MV1−αL’ ・・・(20)
OH=MV1+αH’ ・・・(21)
上記の説明から明らかなとおり、下限値用の操作量幅αL’と上限値用の操作量幅αH’は同じ値でもよいし、異なる値でもよい。
【0055】
図8のステップS209〜S212の処理は、それぞれ
図4のステップS106〜S109と同じなので、説明は省略する。
以上のようなステップS200〜S212の処理が、例えばオペレータからの指令によって制御が終了するまで(
図8ステップS213においてYES)、制御周期毎に繰り返し実行される。
【0056】
こうして、本実施の形態では、制御の状態が過渡状態から定常状態に移行する際の操作量幅αL’,αH’の急変を緩和することにより、操作量下限値OL、操作量上限値OHの急変を緩和することができ、操作量下限値OL、操作量上限値OHの急変によって制御に悪影響が出ることを回避することができる。
【0057】
なお、過渡/定常状態判定部11の代わりに、本実施の形態の過渡/定常状態判定部11aを第1の実施の形態で用いることも可能である。また、本実施の形態の操作量幅平滑化部15を第1の実施の形態に適用することも可能である。
フィルタ時定数Tfは、下位側がPID制御であるならば、PIDパラメータの積分時間Tiを参考にして決めることができる。最も単純にTf=Tiでも、実用範囲になり得る。
【0058】
第1、第2の実施の形態で説明した制御装置は、CPU、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。CPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って第1、第2の実施の形態で説明した処理を実行する。