(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(メタ)アクリル酸含有溶液から(メタ)アクリル酸融解液を得る晶析操作をn回(ただし、nは2以上の整数)繰り返すことにより、粗(メタ)アクリル酸から精製(メタ)アクリル酸を製造する(メタ)アクリル酸の製造方法であって、
晶析操作は、(メタ)アクリル酸含有溶液を晶析器に供給して(メタ)アクリル酸結晶化物を得る結晶化工程と、前記(メタ)アクリル酸結晶化物を融解し(メタ)アクリル酸融解液を得る融解工程とを有し、
1回目からn−1回目の晶析操作の融解工程で得られる(メタ)アクリル酸融解液、および2回目からn回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液に重合防止剤を添加せず、n回目の晶析操作の融解工程で得られる(メタ)アクリル酸融解液に重合防止剤を添加し、
n回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度が2質量ppm以上となるように、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度を調整することを特徴とする(メタ)アクリル酸の製造方法。
晶析操作の回数nが増えるに従い、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度を高くする請求項1または2に記載の(メタ)アクリル酸の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法は、(メタ)アクリル酸含有溶液から(メタ)アクリル酸融解液を得る晶析操作をn回(ただし、nは2以上の整数)繰り返すことにより、粗(メタ)アクリル酸から精製(メタ)アクリル酸を製造するものである。各晶析操作は、(メタ)アクリル酸含有溶液を晶析器に供給して(メタ)アクリル酸結晶化物を得る結晶化工程と、前記(メタ)アクリル酸結晶化物を融解し(メタ)アクリル酸融解液を得る融解工程とを有する。また晶析操作は、融解工程で得られる(メタ)アクリル酸融解液の純度を高めることを目的に、融解工程の前に、前記(メタ)アクリル酸結晶化物の一部を融解することにより得られた発汗液を前記晶析器から排出する発汗工程を有してもよい。この場合、晶析操作は、(メタ)アクリル酸含有溶液を晶析器に供給して(メタ)アクリル酸結晶化物を得る結晶化工程と、前記(メタ)アクリル酸結晶化物の一部を融解することにより得られた発汗液を前記晶析器から排出する発汗工程と、前記発汗工程の後に、前記(メタ)アクリル酸結晶化物を融解し(メタ)アクリル酸融解液を得る融解工程とを有するものとなる。本発明では、粗(メタ)アクリル酸を含む(メタ)アクリル酸含有溶液を1回目の晶析操作の結晶化工程に供し、n回目の晶析操作の融解工程で得られる(メタ)アクリル酸融解液を精製(メタ)アクリル酸として回収する。
【0015】
粗(メタ)アクリル酸としては、(メタ)アクリル酸とそれ以外の不純物を含むものであれば特に限定されない。前記不純物としては、未反応の(メタ)アクリル酸製造原料、水、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、アセトン、アクロレイン、フルフラール、ホルムアルデヒド、捕集液媒体等が含まれる。粗(メタ)アクリル酸は、(メタ)アクリル酸濃度が80質量%以上であることが好ましく、83質量%以上がより好ましく、86質量%以上がさらに好ましい。
【0016】
晶析操作は、晶析器を用いて行えばよい。晶析器としては、(メタ)アクリル酸含有溶液を結晶化および融解して(メタ)アクリル酸融解液が得られるものであれば特に限定されない。晶析器としては、例えば、伝熱面を有し、伝熱面での熱交換によって(メタ)アクリル酸含有溶液を結晶化および融解する晶析器が挙げられる。伝熱面を有する晶析器としては、一般に熱交換器として用いられる装置を採用することができる。例えば、プレート式熱交換器、多管式(シェル・アンド・チューブ式)熱交換器、二重管式熱交換器、コイル式熱交換器、スパイラル式熱交換器等を採用することができる。
【0017】
晶析器は、(メタ)アクリル酸含有溶液を被膜状に流下させながら(Falling Film形式)結晶化する、いわゆる動的結晶化できるものが好ましい。そのような晶析器としては、例えば、Sulzer Chemtech社スイスの層結晶化装置等を使用することができる。
【0018】
結晶化工程では、(メタ)アクリル酸含有溶液を晶析器に供給して、(メタ)アクリル酸含有溶液を冷却することにより(メタ)アクリル酸結晶化物を生成させる。伝熱面を有する晶析器を用いて結晶化工程を行う場合、伝熱面の一方側に(メタ)アクリル酸含有溶液を供給し他方側に冷熱媒を供給することにより、伝熱面を介した熱交換によって(メタ)アクリル酸含有溶液を冷却し、(メタ)アクリル酸を結晶化すればよい。
【0019】
結晶化工程では、(メタ)アクリル酸含有溶液をその凝固点よりも低い温度で冷却すればよく、所望する量の(メタ)アクリル酸が結晶化する温度であれば特に限定されない。伝熱面を有する晶析器を用いて冷熱媒によって(メタ)アクリル酸含有溶液を冷却する場合は、冷熱媒の温度を(メタ)アクリル酸溶液の冷却温度とする。
【0020】
結晶化工程では、(メタ)アクリル酸含有溶液を循環させながら冷却および結晶化することが好ましい。すなわち、晶析器に循環流路を設け、(メタ)アクリル酸含有溶液を晶析器と循環流路との間を循環させながら冷却し、(メタ)アクリル酸を結晶化させることが好ましい。Falling Film形式の晶析器を用いる場合は、晶析器の下部と上部を繋ぐ循環流路を設け、晶析器の下部から(メタ)アクリル酸含有溶液を抜き出して晶析器の上部に戻せばよい。このように結晶化を行うことにより、効率的に(メタ)アクリル酸を結晶化させることができる。
【0021】
結晶化工程では、全ての(メタ)アクリル酸含有溶液を結晶化させずに、一部の(メタ)アクリル酸含有溶液を未結晶で残すことが好ましい。すなわち結晶化工程では、(メタ)アクリル酸含有溶液を晶析器に供給して、(メタ)アクリル酸結晶化物とともに未結晶の(メタ)アクリル酸含有溶液である残留母液を得ることが好ましい。残留母液は、結晶化工程または発汗工程で晶析器から排出する。残留母液を発汗工程で系外に排出する場合は、発汗工程で生じた発汗液とともに晶析器から排出することが効率的である。
【0022】
結晶化工程では、晶析器に供給した(メタ)アクリル酸含有溶液の50質量%〜95質量%が結晶化することが好ましく、60質量%〜90質量%が結晶化することがより好ましい。(メタ)アクリル酸含有溶液の結晶化割合がこのような範囲にあれば、生成する(メタ)アクリル酸結晶化物の純度と収量を効率的に高めることができる。
【0023】
発汗工程では、結晶化工程で生成した(メタ)アクリル酸結晶化物を加温し、(メタ)アクリル酸結晶化物の一部を融解することにより得られた発汗液を晶析器から排出する。発汗工程により、(メタ)アクリル酸結晶化物の結晶間や結晶表面に存在する不純物が洗い流され、続いて行われる融解工程において、より高純度の(メタ)アクリル酸融解液が得られるようになる。
【0024】
伝熱面を有する晶析器を用いて発汗工程を行う場合、伝熱面の一方側に(メタ)アクリル酸結晶化物が存在した状態で他方側に温熱媒を供給することにより、伝熱面を介した熱交換によって(メタ)アクリル酸結晶化物を加温し融解すればよい。融解工程も基本的に発汗工程と同様に行われる。
【0025】
発汗工程で(メタ)アクリル酸結晶化物を加温する温度は、(メタ)アクリル酸結晶化物が融解する温度であれば特に制限されないが、(メタ)アクリル酸の融点よりも著しく高温であれば、(メタ)アクリル酸結晶化物の全体が溶け出して発汗効果が損なわれるため、融点付近が好ましい。(メタ)アクリル酸結晶化物を溶かすことで不純物が染み出していくが、一気に(メタ)アクリル酸融点近辺にすると、一気に(メタ)アクリル酸結晶化物が溶け出してしまい、好ましくない。従って、発汗工程では、融点以下からゆっくりと温度を上げていくことが好ましい。
【0026】
融解工程では、(メタ)アクリル酸結晶化物をその融点以上の温度で加温すればよいが、効率的に(メタ)アクリル酸結晶化物を融解するために、(メタ)アクリル酸結晶化物の加温温度は20℃以上が好ましく、25℃以上がより好ましい。
【0027】
なお、発汗工程、融解工程ともに、前記加温温度の上限については、(メタ)アクリル酸の重合反応を抑制し、得られる(メタ)アクリル酸融解液の純度や収率を高める点から、45℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。伝熱面を有する晶析器を用いて温熱媒によって(メタ)アクリル酸結晶化物を加温する場合は、前記加温温度は温熱媒の温度を意味する。
【0028】
発汗工程では、(メタ)アクリル酸結晶化物の0.01質量%〜30質量%を融解することが好ましく、0.1質量%〜10質量%がより好ましい。(メタ)アクリル酸結晶化物を前記割合で一部融解することで、融解工程で得られる(メタ)アクリル酸融解液の純度と収量とを効果的に高めることができる。
【0029】
(メタ)アクリル酸結晶化物の一部を融解することにより得られた発汗液は、晶析器から排出する。晶析器から排出した発汗液は、別の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液として使用してもよく、晶析より前段の任意の工程に戻してもよい。当該前段の工程としては、後述する捕集工程や凝縮工程、精製工程等が挙げられる。結晶化工程で発生した残留母液も発汗液と同様に扱えばよい。従って、発汗液や残留母液は、融解工程に先立って晶析器から排出されることとなる。
【0030】
融解工程では、結晶化工程で生成した(メタ)アクリル酸結晶化物を加温して融解し、(メタ)アクリル酸融解液を得る。融解工程により、(メタ)アクリル酸含有溶液よりも純度が高められた(メタ)アクリル酸融解液が得られる。融解工程では、発汗工程で融解されなかった(メタ)アクリル酸結晶化物の全量を融解することが好ましい。
【0031】
融解工程では、(メタ)アクリル酸融解液を循環させながら(メタ)アクリル酸結晶化物を融解させることが好ましい。すなわち、晶析器に循環流路を設け、(メタ)アクリル酸融解液を晶析器と循環流路との間を循環させながら加温し、(メタ)アクリル酸結晶化物を融解させることが好ましい。Falling Film形式の晶析器を用いる場合は、晶析器の下部と上部を繋ぐ循環流路を設け、晶析器の下部から(メタ)アクリル酸融解液を抜き出して晶析器の上部に戻せばよい。このように融解を行うことにより、効率的に(メタ)アクリル酸結晶化物を融解することができる。
【0032】
本発明の製造方法では、結晶化工程と融解工程を含む晶析操作をn回(ただし、nは2以上の整数)繰り返し、粗(メタ)アクリル酸から精製(メタ)アクリル酸を製造する。好ましくは、結晶化工程と発汗工程と融解工程を含む晶析操作をn回(ただし、nは2以上の整数)繰り返し、粗(メタ)アクリル酸から精製(メタ)アクリル酸を製造する。晶析操作を複数回繰り返すことにより、より高純度の精製(メタ)アクリル酸を得ることができる。効率的に高純度の精製(メタ)アクリル酸を製造する点から、晶析操作は2〜5回繰り返すことが好ましい。
【0033】
k回目(ただし、kは1以上n−1以下の整数)の晶析操作の融解工程で得られた(メタ)アクリル酸融解液は、k+1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液として用いる。なお、粗(メタ)アクリル酸を含む(メタ)アクリル酸含有溶液を1回目の晶析操作の結晶化工程に供し、n回目の晶析操作の融解工程で得られた(メタ)アクリル酸融解液は精製(メタ)アクリル酸として回収し、製品とする。以下の説明においては、k回目の晶析操作を「第kステージ」と称する場合がある。
【0034】
第k+1ステージで得られた残留母液や発汗液は、第k+1ステージの結晶化工程に供される(メタ)アクリル酸含有溶液よりも(メタ)アクリル酸濃度が低いものとなる。従って、第k+1ステージで得られた残留母液および/または発汗液は、第kステージかそれより前のステージの結晶化工程に供される(メタ)アクリル酸含有溶液に加えることが好ましい。すなわち、k+1回目の晶析操作の結晶化工程で得られた残留母液および/またはk+1回目の晶析操作の発汗工程で得られた発汗液は、k回目かそれより前の晶析操作の結晶化工程に供される(メタ)アクリル酸含有溶液に加えることが好ましい。なお残留母液や発汗液を晶析操作で有効活用する点から、第k+1ステージで得られた残留母液および/または発汗液は、第kステージの結晶化工程に供される(メタ)アクリル酸含有溶液に加えることがより好ましい。特に、残留母液に含まれる重合防止剤を有効活用する点から、第k+1ステージで得られた残留母液を、第kステージの結晶化工程に供される(メタ)アクリル酸含有溶液に加えることが好ましい。
【0035】
第k+1ステージで得られた残留母液および発汗液は、第kステージ(あるいはそれより前のステージ)の結晶化工程に供される(メタ)アクリル酸含有溶液の量に対して、好ましくは1質量%〜50質量%、より好ましくは10質量%〜40質量%の量で、第kステージ(あるいはそれより前のステージ)の結晶化工程に供される(メタ)アクリル酸含有溶液に加えられればよい。なお、第k+1ステージで得られた残留母液や発汗液に含まれる重合防止剤濃度は、第kステージの結晶化工程に供される(メタ)アクリル酸含有溶液に含まれる重合防止剤濃度の0.1倍〜2.5倍となるのが好ましく、0.2倍〜2.0倍となるのがより好ましく、0.3倍〜1.5倍となるのがさらに好ましい。
【0036】
第1ステージで得られた残留母液および/または発汗液は、晶析より前段の工程に返送することが好ましい。この際、第1ステージで得られた残留母液や発汗液は、蒸留、放散、抽出等の公知の精製手段により(メタ)アクリル酸含有量を高めた上で、晶析よりも前段の工程に返送することが好ましい。これにより残留母液や発汗液に含まれる不純物を(メタ)アクリル酸製造プロセスの系外に抜き出すことができる。また、第1ステージで得られた残留母液および/または発汗液は、一部または全部を系外に抜き出して廃棄してもよい。
【0037】
ところで、(メタ)アクリル酸は易重合性物質として知られており、晶析操作では、(メタ)アクリル酸の重合を防止して得られる精製(メタ)アクリル酸の純度を高めるとともに、安定した晶析操作を実現するために、重合防止剤を加えることが好ましい。しかし、(メタ)アクリル酸含有溶液中の重合防止剤は、結晶化工程ではその大部分が残留母液に移行するため、融解工程で得られる(メタ)アクリル酸融解液には重合防止剤が少量しか移行せず、(メタ)アクリル酸の重合が起こりやすくなる。さらに、このようにして得られた(メタ)アクリル酸融解液を次のステージの(メタ)アクリル酸含有溶液として用いると、次のステージでも(メタ)アクリル酸の重合が起こるリスクが高まる。従って、従来は重合防止剤が複数のステージで加えられ、晶析操作が煩雑化していた。
【0038】
そこで本発明の製造方法では、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液に所定量の重合防止剤が含まれるようにし、1回目からn−1回目の晶析操作の融解工程で得られる(メタ)アクリル酸融解液、および2回目からn回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液に重合防止剤を添加しないようにする。晶析操作が発汗工程を含む場合は、1回目からn回目の晶析操作の発汗工程で得られる発汗液にも重合防止剤を添加しないようにする。そして、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液は、n回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度が2質量ppm以上となるように、重合防止剤濃度を調整する。n回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度が2質量ppm以上であれば、第1ステージの結晶化工程から第nステージの結晶化工程または発汗工程までの間で、(メタ)アクリル酸の重合反応が起こりにくくなる。すなわち、本発明の製造方法によれば、第1ステージの結晶化工程から第nステージの結晶化工程または発汗工程までの(メタ)アクリル酸の重合防止に必要な重合防止剤が、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液に予め含まれることとなる。本発明の製造方法は、このように重合防止剤を添加する箇所と濃度を定めることにより、(メタ)アクリル酸の重合を防止しつつ、重合防止剤の添加箇所が最小限で済むために晶析操作を簡略化することができる。
【0039】
1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度の調整方法は特に限定されない。例えば、1回目の晶析操作の前に、晶析器に導入する(メタ)アクリル酸含有溶液に重合防止剤を添加してもよく、晶析器に(メタ)アクリル酸含有溶液とともに重合防止剤を導入してもよい。また、粗(メタ)アクリル酸が得られる前段の工程(晶析よりも前段の工程)で重合防止剤を添加し、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液に重合防止剤が含まれるようにしてもよい。特に、粗(メタ)アクリル酸が得られる前段の工程で、晶析操作での重合防止に必要な量の重合防止剤を添加すれば、当該前段の工程での重合防止効果も得られ、効率的である。当該前段の工程としては、捕集工程や凝縮工程等が挙げられる。
【0040】
晶析操作での(メタ)アクリル酸の重合を防止するためには、各晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液が重合防止剤を2質量ppm以上の濃度で含有すればよい。晶析操作を複数回(本発明の製造方法ではn回)繰り返して粗(メタ)アクリル酸から精製(メタ)アクリル酸を製造する場合は、後の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液になるほど重合防止剤の含有量が減るため、n回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度が2質量ppm以上となるように、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度を調整すればよい。n回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度は、好ましくは5質量ppm以上であり、より好ましくは10質量ppm以上である。なお、n回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度の上限は特に限定されないが、重合防止剤の添加量を低減する点から、50質量ppm以下が好ましく、25質量ppm以下がより好ましい。
【0041】
例えば、1回目の晶析操作の結晶化工程に供される(メタ)アクリル酸含有溶液に2回目以降の晶析操作で発生した残留母液や発汗液が加えられる場合は、これらの残留母液や発汗液が加えられた(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度を、1回目の晶析操作の結晶化工程に供される(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度とする。
【0042】
1回目からn−1回目の晶析操作の融解工程で得られる(メタ)アクリル酸融解液、および2回目からn回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液には、重合防止剤を添加しない。すなわち、第1ステージの融解工程から第nステージの結晶化工程に至る間は重合防止剤は添加しない。晶析操作が発汗工程を含む場合は、1回目からn回目の晶析操作で得られる発汗液にも重合防止剤を添加しない。すなわち、第1ステージの発汗工程から第nステージの発汗工程に至る間は重合防止剤は添加しない。
【0043】
1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度は、晶析操作を行う回数nが増えるに従い、高くすることが好ましい。ステージが進むに従い(メタ)アクリル酸含有溶液中の重合防止剤濃度が低下するため、晶析操作の回数nが増えて、第nステージでも重合防止効果を確実に奏効させるようにするために、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度は晶析操作の回数nが増えるに従い高くすることが好ましい。具体的には、晶析操作の回数nと1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度との関係は、次のように定めることが好ましい。
【0044】
k回目(ただし、kは1以上n−1以下の整数)の晶析操作における分離係数をα
kとするとき、晶析操作の回数nが2の場合は、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度を2×α
1質量ppm以上に調整することが好ましく、晶析操作の回数nが3の場合は、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度を2×α
1×α
2質量ppm以上に調整することが好ましく、晶析操作の回数nが4の場合は、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度を2×α
1×α
2×α
3質量ppm以上に調整することが好ましい。なお、分離係数α
kは、k回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度A
kとk回目の晶析操作の融解工程で得られる(メタ)アクリル酸融解液の重合防止剤濃度B
kとの比A
k/B
kにより求められる。分離係数α
kは、各ステージの晶析操作条件により変わるが、1.0を超え100以下が好ましく、1.5以上50以下がより好ましく、2.0以上30以下がさらに好ましい。
【0045】
1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度の具体的な値は、晶析操作の回数nと分離係数α
kにより異なるが、例えば次のように示される。晶析操作の回数nが2の場合は、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度を3質量ppm以上に調整することが好ましく、5質量ppm以上に調整することがより好ましく、10質量ppm以上に調整することがさらに好ましい。晶析操作の回数nが3の場合は、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度を15質量ppm以上に調整することが好ましく、20質量ppm以上に調整することがより好ましく、30質量ppm以上に調整することがさらに好ましい。晶析操作の回数nが4の場合は、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度を30質量ppm以上に調整することが好ましく、50質量ppm以上に調整することがより好ましく、80質量ppm以上に調整することがさらに好ましい。また、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度の上限は、重合防止剤の添加量を低減する点から、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下がさらに好ましい。
【0046】
なお、晶析操作の回数nが5以上の場合は、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度を高くするために、重合防止剤を多量に添加することが必要な場合がある。従って、重合防止剤の添加量を低減する点から、晶析操作の回数nは2、3、または4が好ましい。得られる精製(メタ)アクリル酸の純度を確保する点を考慮すると、晶析操作の回数nは3または4がより好ましく、重合防止剤の添加量の低減と精製(メタ)アクリル酸の純度の確保のバランスを考慮すると、晶析操作の回数nは3が特に好ましい。
【0047】
本発明の製造方法では、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液に重合防止剤が所定濃度含まれるようにし、それ以降は第nステージの融解工程より前まで重合防止剤を添加しないが、第nステージの融解工程で得られる(メタ)アクリル酸融解液には重合防止剤を添加してもよい。第nステージで得られる(メタ)アクリル酸融解液は精製(メタ)アクリル酸として製品になるため、製品中での(メタ)アクリル酸の重合を防止して保存安定性を高めるために、重合防止剤が添加されることが好ましい。精製(メタ)アクリル酸中の重合防止剤濃度は、製品スペックに定められた濃度範囲内になるようであれば特に限定されない。なお、製品スペックに定められた濃度としては、精製(メタ)アクリル酸全量に対して、好ましくは60質量ppm〜220質量ppm、より好ましくは65質量ppm〜215質量ppm、さらに好ましくは70質量ppm〜210質量ppmである。
【0048】
第nステージで得られる(メタ)アクリル酸融解液に重合防止剤を添加する場合、重合防止剤は、第nステージの融解工程で晶析器内に供給することにより(メタ)アクリル酸融解液に添加してもよく、第nステージの融解工程で得られ晶析器から排出された(メタ)アクリル酸融解液に添加してもよい。重合防止剤は、好ましくは前者の方法により(メタ)アクリル酸融解液に添加されることが好ましく、このように重合防止剤を添加することにより、第nステージの融解工程で(メタ)アクリル酸結晶化物を融解する際の(メタ)アクリル酸の重合防止効果が高められる。
【0049】
重合防止剤としては、従来公知の重合防止剤を用いることができる。重合防止剤としては、ハイドロキノン、メトキノン(p−メトキシフェノール)等のキノン類;フェノチアジン、ビス−(α−メチルベンジル)フェノチアジン、3,7−ジオクチルフェノチアジン、ビス−(α−ジメチルベンジル)フェノチアジン等のフェノチアジン類;2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル、4,4’,4”−トリス−(2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル)フォスファイト等のN−オキシル化合物;ジアルキルジチオカルバミン酸銅、酢酸銅、ナフテン酸銅、アクリル酸銅、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅等の銅塩化合物;ジアルキルジチオカルバミン酸マンガン、ジフェニルジチオカルバミン酸マンガン、ギ酸マンガン、酢酸マンガン、オクタン酸マンガン、ナフテン酸マンガン等のマンガン塩化合物;N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンやその塩、p−ニトロソフェノール、N−ニトロソジフェニルアミンやその塩等のニトロソ化合物等が挙げられる。これらの重合防止剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの重合防止剤の中でも、キノン類、N−オキシル化合物、銅塩化合物およびマンガン塩化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0050】
重合防止剤を2種以上併用する場合の重合防止剤濃度は、添加される全重合防止剤の合計濃度を意味する。例えば、重合防止剤としてハイドロキノンとメトキノンが添加される場合、(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度とは、(メタ)アクリル酸含有溶液中のハイドロキノンとメトキノンの合計質量濃度を意味する。
【0051】
本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法は、さらに、粗(メタ)アクリル酸を得る工程を有することが好ましい。粗(メタ)アクリル酸を得る工程は、(メタ)アクリル酸製造原料から(メタ)アクリル酸含有ガスを得る(メタ)アクリル酸生成工程と、前記(メタ)アクリル酸含有ガスを捕集塔に導入して、液媒体と接触させることにより粗(メタ)アクリル酸を得る捕集工程とを有していることが好ましい。また、前記捕集工程の代わりに、前記(メタ)アクリル酸含有ガスを凝縮塔に導入して、(メタ)アクリル酸を凝縮させることにより粗(メタ)アクリル酸を得る凝縮工程を有していてもよい。
【0052】
(メタ)アクリル酸生成工程で用いられる(メタ)アクリル酸製造原料としては、反応により(メタ)アクリル酸を生成するものであれば特に限定されず、例えば、プロパン、プロピレン、(メタ)アクロレイン、イソブチレン等が挙げられる。アクリル酸は、例えば、プロパン、プロピレンまたはアクロレインを1段で酸化させたり、プロパンやプロピレンをアクロレインを経由して2段で酸化させることにより得ることができる。アクロレインは、プロパンやプロピレンを原料として、これを酸化させることにより得られるものに限定されず、例えば、グリセリンを原料として、これを脱水させることにより得られるものであってもよい。メタクリル酸は、例えば、イソブチレンやメタクロレインを1段で酸化させたり、イソブチレンをメタクロレインを経由して2段で酸化させることにより得ることができる。これらの酸化反応や脱水反応は、触媒の存在下で行うことが好ましく、(メタ)アクリル酸製造用の酸化触媒や脱水触媒は公知の触媒を使用すればよい。
【0053】
捕集工程では、(メタ)アクリル酸生成工程で得られた(メタ)アクリル酸含有ガスを捕集塔に導入して、液媒体と接触させることにより粗(メタ)アクリル酸を得る。捕集塔に導入された(メタ)アクリル酸含有ガスは、液媒体と接触することにより液媒体に捕集される。(メタ)アクリル酸含有ガスを捕集する液媒体としては、水、(メタ)アクリル酸含有水、または高沸点溶剤(ジフェニルエーテルやビフェニル等)等を用いることができる。粗(メタ)アクリル酸は、捕集塔の下部(好ましくは底部)から抜き出され、これを晶析操作に供することができる。
【0054】
捕集工程により粗(メタ)アクリル酸を得る場合は、晶析操作に必要な重合防止剤を捕集塔で加えてもよい。捕集塔に供給した重合防止剤は、粗(メタ)アクリル酸とともに捕集塔の下部から抜き出されるため、重合防止剤を捕集塔に供給することにより、晶析操作に必要な量の重合防止剤を粗(メタ)アクリル酸に含ませることができる。またこのように重合防止剤を添加することにより、捕集塔での重合防止効果も得られる。つまり、本発明の(メタ)アクリル酸の製造方法では、(メタ)アクリル酸含有ガスを捕集塔に導入して液媒体と接触させることにより粗(メタ)アクリル酸を得て、重合防止剤を捕集塔に供給することにより、1回目の晶析操作の結晶化工程に供する(メタ)アクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度を調整することが好ましい。なおこの際、結晶化工程で得られた残留母液と発汗工程で得られた発汗液を除いて、捕集塔から抜き出された粗(メタ)アクリル酸に重合防止剤が添加されないことが好ましい。このようにすることで、重合防止剤の添加箇所が最小限で済み、プロセスを簡略化することができる。
【0055】
捕集工程の代わりに凝縮工程を採用する場合、凝縮工程では、(メタ)アクリル酸生成工程で得られた(メタ)アクリル酸含有ガスを凝縮塔に導入して、冷却することにより(メタ)アクリル酸を凝縮させ、粗(メタ)アクリル酸を得る。例えば、凝縮塔の中段から抜き出した凝縮液を粗(メタ)アクリル酸として晶析操作に供することができる。
【0056】
また、捕集工程や凝縮工程で得られた粗(メタ)アクリル酸の(メタ)アクリル酸含有率を上げることを目的に、捕集工程または凝縮工程の後段に精製工程を設けてもよい。この場合は、捕集工程や凝縮工程で低質の粗(メタ)アクリル酸が得られ、精製工程では低質の粗(メタ)アクリル酸から(メタ)アクリル酸含有量が高められた高質の粗(メタ)アクリル酸が得られる。精製工程では、蒸留、放散、抽出等の公知の精製手段を用いればよい。例えば蒸留により精製を行う場合は、低質の粗(メタ)アクリル酸を蒸留塔に導入して高質の粗(メタ)アクリル酸を得ればよい。このようにして得られた高質の粗(メタ)アクリル酸を晶析操作に供してもよい。
【0057】
次に、図面を参照して、本発明の製造方法の実施態様の一例を説明する。
図1には、晶析操作を3回繰り返すことにより粗(メタ)アクリル酸から精製(メタ)アクリル酸を製造する方法のフローを示した。なお、本発明は図面に示された実施態様に限定されるものではない。
【0058】
図1では、1回目の晶析操作をS1で行い、2回目の晶析操作をS2で行い、3回目の晶析操作をS3で行う。各晶析操作S1,S2,S3に供する(メタ)アクリル酸含有溶液はそれぞれA1,A2,A3で表され、各晶析操作S1,S2,S3で得られる(メタ)アクリル酸融解液はB1,B2,B3で表されている。また、各晶析操作S1,S2,S3で発生した残留母液と発汗液(以下、これらをまとめて不純物残留液と称する)はそれぞれC1,C2,C3で表されている。
【0059】
粗(メタ)アクリル酸Rは捕集塔Tの底部から抜き出され、(メタ)アクリル酸含有溶液A1として晶析操作S1に供される。晶析操作S1では、結晶化工程、発汗工程、融解工程が行われて、(メタ)アクリル酸融解液B1と不純物残留液C1が得られる。(メタ)アクリル酸融解液B1は(メタ)アクリル酸含有溶液A2として晶析操作S2の結晶化工程に供され、同様にして(メタ)アクリル酸融解液B2と不純物残留液C2が得られる。(メタ)アクリル酸融解液B2は(メタ)アクリル酸含有溶液A3として晶析操作S3の結晶化工程に供され、同様にして(メタ)アクリル酸融解液B3と不純物残留液C3が得られる。(メタ)アクリル酸融解液B3は精製(メタ)アクリル酸Pとなる。
【0060】
晶析操作S2,S3で発生した不純物残留液C2,C3は、1つ前の晶析操作S1,S2の結晶化工程に供される(メタ)アクリル酸含有溶液A1,A2にそれぞれ加えられる。一方、晶析操作S1で発生した不純物残留液C1の少なくとも一部は、捕集塔Tに返送されるが、その際、蒸留、放散、抽出等の公知の精製手段により(メタ)アクリル酸含有量を高めた上で、捕集塔Tに返送することが好ましい。また、不純物残留液C1(その精製物を含む)の一部を系外に抜き出して廃棄してもよい。
【0061】
図1では、重合防止剤PI
1は粗(メタ)アクリル酸Rに添加され、(メタ)アクリル酸含有溶液A1の重合防止剤濃度が調整されている。重合防止剤PI
1は粗(メタ)アクリル酸Rに添加され、(メタ)アクリル酸含有溶液A2,A3と(メタ)アクリル酸融解液B1,B2には添加されない。また、重合防止剤PI
1は不純物残留液C1,C2,C3にも添加されない。
【0062】
重合防止剤PI
1を粗(メタ)アクリル酸Rに添加する方法として、重合防止剤PI
1は捕集塔Tに供給してもよく(ラインX1で表されている)、捕集塔Tから排出され晶析操作S1に供されるより前の粗(メタ)アクリル酸Rに重合防止剤PI
1が添加されてもよい(ラインX2で表されている)。この際、重合防止剤PI
1は、(メタ)アクリル酸含有溶液A3の重合防止剤濃度が2質量ppm以上となるように、粗(メタ)アクリル酸Rに添加される。
【0063】
重合防止剤PI
2は(メタ)アクリル酸融解液B3に添加してもよい。(メタ)アクリル酸融解液B3に重合防止剤PI
2を添加することにより、精製(メタ)アクリル酸Pの安定性が向上する。重合防止剤PI
2は、晶析操作S3の融解工程で晶析器に導入してもよく(ラインY1で表されている)、晶析操作S3により得られ晶析器から排出された(メタ)アクリル酸融解液B3に添加してもよい(ラインY2で表されている)。ただし、重合防止の観点から、重合防止剤PI
2は、晶析操作S3の融解工程でラインY1より直接晶析器に導入する方が好ましい。
【0064】
上記の(メタ)アクリル酸の製造方法によれば、晶析操作で(メタ)アクリル酸の重合が防止され、安定して晶析操作を行うことができる。また、重合防止剤の添加箇所が最小限で済むために、晶析操作を簡略化することができる。
【実施例】
【0065】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0066】
製造例1
プロピレンの接触気相酸化反応によって得られたアクリル酸含有ガスを捕集塔に導入し、液媒体と接触させ、捕集塔の塔底より粗アクリル酸を抜き出した。捕集塔には、重合防止剤としてハイドロキノンを添加していた。捕集塔の塔底から抜き出された粗アクリル酸は、アクリル酸90.0質量%、水2.4質量%、酢酸1.9質量%、マレイン酸0.6質量%、アクリル酸二量体1.5質量%、ハイドロキノン0.01質量%(100質量ppm)の組成を有し、温度は91℃であった。この粗アクリル酸を外気温度程度まで冷却した後、晶析器に導入した。
【0067】
晶析器は、長さ6m、内径70mmの金属製の晶析管を有し、下部に貯蔵器(コレクター部)を備えていた。晶析器には、晶析器の下部(貯蔵器)から上部(晶析管の頂部)に繋がる循環流路が備えられ、循環流路には循環ポンプが備えられていた。晶析器は、循環ポンプにより、貯蔵器に溜まった液体を晶析器の上部に移送し、液体を晶析器の晶析管内壁面に落下被膜(Falling Film)状に流すことができるようになっていた。晶析管の表面は二重ジャケットから構成され、このジャケットは、サーモスタットで一定温度になるように制御されていた。
【0068】
粗アクリル酸を晶析器に導入し、結晶化工程、発汗工程、融解工程とからなる晶析操作を3回繰り返し行い、精製アクリル酸を得た。結晶化工程では、晶析器に粗アクリル酸(アクリル酸含有溶液)を供給し、粗アクリル酸を晶析器と循環流路との間を循環させながら、晶析管内壁面に落下被膜状に流した。ジャケットの温度は粗アクリル酸の凝固点未満に調整し、晶析器に供給した粗アクリル酸の約60〜90質量%を晶析管内壁面に結晶化させた。発汗工程では、循環ポンプを停止させ、ジャケットの温度を凝固点以上に上昇させ、アクリル酸結晶化物の約2〜5質量%を融解させた。発汗工程の最後には、結晶化工程での未結晶残留母液と発汗工程での融解液(発汗液)を晶析器から排出した。融解工程では、ジャケットの温度を凝固点以上に上昇させ、残りのアクリル酸結晶化物を融解させ、アクリル酸融解液を得た。この際、アクリル酸融解液を晶析器と循環流路との間を循環させながら、融解液を晶析管内壁面のアクリル酸結晶化物上を流下させた。1回目の晶析操作の融解工程で得られたアクリル酸融解液は、アクリル酸含有溶液として2回目の晶析操作の結晶化工程に供し、2回目の晶析操作の融解工程で得られたアクリル酸融解液は、アクリル酸含有溶液として3回目の晶析操作の結晶化工程に供した。3回目の晶析操作の結晶化工程に供したアクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度は15質量ppmであった。
【0069】
3回目の晶析操作の融解工程においては、p−メトキシフェノール(重合防止剤)の5質量%アクリル酸溶液を晶析器の下部の貯蔵器に投入した後、融解液を晶析器と循環流路との間を循環させながら、融解液を晶析管内壁面のアクリル酸結晶化物上を流下させ、精製アクリル酸を得た。なお、p−メトキシフェノールの5質量%アクリル酸溶液は、精製アクリル酸にp−メトキシフェノールが70質量ppm含まれるように投入した。
【0070】
製造例1ではこのように精製アクリル酸の製造を行い、60日間連続的に運転を行った。60日間の連続運転では、晶析操作でアクリル酸重合物の発生は見られず、安定的に晶析操作を行うことができた。
【0071】
製造例2
製造例1と同様にプロピレンから精製アクリル酸を製造したが、捕集塔に添加した重合防止剤の量を製造例1よりも減らした。捕集塔の塔底から抜き出した粗アクリル酸の組成は、ハイドロキノンを除いて製造例1と実質的に変わらず、ハイドロキノンは0.004質量%(40質量ppm)含まれていた。それ以降の工程でも、3回目の晶析操作の融解工程より前に重合防止剤は添加しなかった。その結果、3回目の晶析操作の結晶化工程に供したアクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度は5.0質量ppmに低下した。
【0072】
製造例2ではこのように精製アクリル酸の製造を行い、50日間連続的に運転を行った。50日間の連続運転では、晶析操作でアクリル酸重合物の発生は見られず、安定的に晶析操作を行うことができた。
【0073】
製造例3
製造例1と同様にプロピレンから精製アクリル酸を製造したが、捕集塔に添加した重合防止剤の量を製造例1よりも減らした。捕集塔の塔底から抜き出した粗アクリル酸の組成は、ハイドロキノンを除いて製造例1と実質的に変わらず、ハイドロキノンは0.0015質量%(15質量ppm)含まれていた。それ以降の工程でも、3回目の晶析操作の融解工程より前に重合防止剤は添加しなかった。その結果、3回目の晶析操作の結晶化工程に供したアクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度は2.0質量ppmに低下した。
【0074】
製造例3ではこのように精製アクリル酸の製造を行い、30日間連続的に運転を行った。30日間の連続運転では、晶析操作でアクリル酸重合物の発生は見られず、安定的に晶析操作を行うことができた。
【0075】
製造例4
製造例1と同様にプロピレンから精製アクリル酸を製造したが、捕集塔に添加した重合防止剤の量を製造例1よりも減らした。捕集塔の塔底から抜き出した粗アクリル酸の組成は、ハイドロキノンを除いて製造例1と実質的に変わらず、ハイドロキノンは0.001質量%(10質量ppm)含まれていた。それ以降の工程でも、3回目の晶析操作の融解工程より前に重合防止剤は添加しなかった。その結果、3回目の晶析操作の結晶化工程に供したアクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度は1.5質量ppmに低下した。
【0076】
製造例4ではこのように精製アクリル酸の製造を行って連続的に運転したところ、運転開始後8日目に2回目の晶析操作の融解工程で、アクリル酸融解液が循環ポンプ内で重合を起こし、循環ポンプが停止した。
【0077】
製造例5
製造例1と同様にプロピレンから粗アクリル酸を製造した。捕集塔の塔底から抜き出した粗アクリル酸の組成は、ハイドロキノンを除いて製造例1と実質的に変わらず、ハイドロキノンは0.0005質量%(5質量ppm)含まれていた。粗アクリル酸を、晶析器に導入し、結晶化工程、発汗工程、融解工程とからなる晶析操作を2回繰り返し行い、精製アクリル酸を得た。2回目の晶析操作の融解工程より前に重合防止剤は添加しなかった。その結果、2回目の晶析操作の結晶化工程に供したアクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度は2.0質量ppmであった。2回目の晶析操作の融解工程においては、製造例1と同様に、p−メトキシフェノールの5質量%アクリル酸溶液を、精製アクリル酸にp−メトキシフェノールが70質量ppm含まれるように投入した。
【0078】
製造例5ではこのように精製アクリル酸の製造を行い、30日間連続的に運転を行った。30日間の連続運転では、晶析操作でアクリル酸重合物の発生は見られず、安定的に晶析操作を行うことができた。
【0079】
製造例6
製造例1と同様にプロピレンから粗アクリル酸を製造した。捕集塔の塔底から抜き出した粗アクリル酸の組成は、ハイドロキノンを除いて製造例1と実質的に変わらず、ハイドロキノンは0.004質量%(40質量ppm)含まれていた。粗アクリル酸を、晶析器に導入し、結晶化工程、発汗工程、融解工程とからなる晶析操作を4回繰り返し行い、精製アクリル酸を得た。4回目の晶析操作の融解工程より前に重合防止剤は添加しなかった。その結果、4回目の晶析操作の結晶化工程に供したアクリル酸含有溶液の重合防止剤濃度は2.0質量ppmであった。4回目の晶析操作の融解工程においては、製造例1と同様に、p−メトキシフェノールの5質量%アクリル酸溶液を、精製アクリル酸にp−メトキシフェノールが70質量ppm含まれるように投入した。
【0080】
製造例6ではこのように精製アクリル酸の製造を行い、30日間連続的に運転を行った。30日間の連続運転では、晶析操作でアクリル酸重合物の発生は見られず、安定的に晶析操作を行うことができた。
【0081】
製造例1〜6のアクリル酸製造条件と設備運転状況を下記の表1にまとめる。
【0082】
【表1】