特許第6097184号(P6097184)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097184
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 129/14 20060101AFI20170306BHJP
   C09J 151/00 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   C09J129/14
   C09J151/00
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-187629(P2013-187629)
(22)【出願日】2013年9月10日
(65)【公開番号】特開2015-54874(P2015-54874A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大鷲 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】永井 康晴
(72)【発明者】
【氏名】山内 博史
【審査官】 澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/050795(WO,A1)
【文献】 特表2010−521798(JP,A)
【文献】 特開2005−334767(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/114993(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
C08F 16/38,261/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系分散媒中にポリビニルアセタール微粒子が分散された接着剤であって、
前記ポリビニルアセタール微粒子は、イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂からなり、体積平均粒子径が10〜500nm、かつ、体積粒子径分布のCV値が40%以下である
ことを特徴とする接着剤。
【請求項2】
イオン性官能基は、カルボキシル基、スルホン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、及び、それらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であることを特徴とする請求項1記載の接着剤。
【請求項3】
ポリビニルアセタール樹脂は、イオン性官能基を有するグラフト鎖を含むグラフト共重合体であることを特徴とする請求項1又は2記載の接着剤。
【請求項4】
グラフト鎖は、(メタ)アクリル系モノマーの重合体からなることを特徴とする請求項3記載の接着剤。
【請求項5】
ポリビニルアセタール樹脂のイオン性官能基の含有量が0.01〜1mmol/gであることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着後の耐水性及び密着性が高く、長期に渡って優れた耐久性を有する接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱線反射フィルムや光学フィルム等のフィルムを、樹脂や、金属、ガラス等の基材に接着して用いることが行われており、このような接着剤としては、EVA、アクリル樹脂、ポリウレタンといった材料と有機溶剤とを含有する溶剤型の接着剤が使用されている。
しかしながら、このような接着剤は、接着後の耐水性に問題があり、長期間経過後の耐久性に問題があった。また、近年は、環境負荷の観点から、有機溶剤の使用を低減することが望まれており、溶媒として有機溶剤を使用する溶剤型接着剤から、分散媒として水を使用する水分散型接着剤への転換が望まれている。
【0003】
このような水分散型粘着剤として、アクリル樹脂、ポリウレタンからなる粒子の水分散液を使用することも行われているが、基板への密着性が悪いという問題があった。
これに対して、例えば、特許文献1には、接着剤の材料として、ポリ酢酸ビニル系エマルジョン組成物を用いることが記載されている。
しかしながら、ポリ酢酸ビニル系エマルジョンには、保護コロイドとしてポリビニルアルコールが使用されており、このポリビニルアルコールが持つ高い親水性のため、耐水性に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭51−20213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、接着後の耐水性及び密着性が高く、長期に渡って優れた耐久性を有する接着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水系分散媒中にポリビニルアセタール微粒子が分散された接着剤であって、前記ポリビニルアセタール微粒子は、イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂からなり、体積平均粒子径が10〜500nm、かつ、体積粒子径分布のCV値が40%以下である接着剤である。
以下、本発明を詳述する。
【0007】
本発明者は、分散質としてポリビニルアセタール樹脂を用いることに加えて、該樹脂に特定の官能基を付与し、かつ、体積平均粒子径及び体積平均粒子径のCV値を所定の範囲内とすることで、接着後の耐水性及び密着性が高く、長期に渡って優れた耐久性を実現することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の接着剤は、イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂からなるポリビニルアセタール微粒子を含有する。
【0009】
上記イオン性官能基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、及び、それらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の官能基が好ましい。なかでも、カルボキシル基、スルホン酸基、それらの塩がより好ましく、スルホン酸基、その塩であることが特に好ましい。
【0010】
上記ポリビニルアセタール樹脂中のイオン性官能基の含有量は0.01〜1mmol/gであることが好ましい。上記イオン性官能基の含有量が0.01mmol/g未満であると、微粒子の分散性が低下し、1mmol/gを超えると、被膜とした際に接着強度が低下する場合がある。より好ましくは0.05〜0.5mmol/gである。さらに好ましくは0.2〜0.4mmol/gである。
【0011】
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、単独アルデヒド、混合アルデヒドのいずれを用いる場合でも、全アセタール化度で40〜80モル%の範囲が好ましい。全アセタール化度が40モル%未満では得られるポリアセタール樹脂が水溶性となり、水系分散液からなる接着剤を形成することができないことがある。全アセタール化度が80モル%を超えると、疎水性が強くなりすぎて安定した分散液を得ることが困難となることがある。より好ましくは55〜75モル%である。
【0012】
特に、上記ポリビニルアセタール樹脂としては、重合度200〜5000、ケン化度が80モル%以上のポリビニルアルコールをアセタール化することで得られるものが好ましい。上記重合度およびケン化度のポリビニルアセタール樹脂は、接着剤の調製、得られる接着剤の塗工性、接着性、乾燥時の製膜性に優れ、形成された塗膜の強度や柔軟性も優れたものとなる。
【0013】
上記重合度が200未満であると、被膜とした際に機械的強度、接着強度が低くなる。重合度が5000を超えると、アセタール化反応の際に溶液粘度が異常に高くなってアセタール化反応が困難になる。重合度は800〜4500であることがより好ましい。
また、上記ケン化度が80モル%より小さいと、水への溶解性が悪くなるためアセタール化反応が困難になり、また、水酸基量が少ないためアセタール化反応自体が困難となる。特に、ケン化度85モル%以上とすることがより好ましい。
【0014】
上記アセタール化の方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、塩酸等の酸触媒の存在下で上記ポリビニルアルコールの水溶液に各種アルデヒドを添加する方法等が挙げられる。
【0015】
上記アセタール化に用いるアルデヒドとしては特に限定されず、例えばホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。なかでも、アセトアルデヒド又はブチルアルデヒドが、生産性と特性バランス等の点で好適である。これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
上記イオン性官能基の存在形態については、ポリビニルアセタール樹脂構造中に直接存在していてもよく、グラフト鎖を含むポリビニルアセタール樹脂(以下、単にグラフト共重合体ともいう)のグラフト鎖に存在していてもよい。
なかでも、イオン性官能基がグラフト鎖に存在する場合は、ポリマーの主鎖骨格はポリビニルアセタールのまま維持されるため、ポリビニルアセタール樹脂本来の優れた機械的性質を低下させることが無く、被膜とした際に高い接着強度を発現させることができる。また、導入したイオン性官能基に変質等が生じることを防止することができる。
【0017】
上記ポリビニルアセタール樹脂構造中にイオン性官能基が直接存在するポリビニルアセタール樹脂を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記イオン性官能基を有する変性ポリビニルアルコール原料にアルデヒドを反応させアセタール化する方法、ポリビニルアセタール樹脂を作製した後、該ポリビニルアセタール樹脂の官能基に対して反応性を有する別の官能基を持った化合物と反応させる方法等が挙げられる。
【0018】
上記グラフト共重合体を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記イオン性官能基を含む重合性単量体を、ポリビニルアセタールが存在する環境下において水素引き抜き性重合開始剤の存在下にてラジカル重合させる方法等が挙げられる。
上記重合方法は特に限定されず、例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の従来公知の重合方法が挙げられる。
上記溶液重合に用いる溶媒は特に限定されず、例えば、酢酸エチル、トルエン、ジメチルスルホキシド、エタノール、アセトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、及び、これらの混合溶媒等が挙げられる。
【0019】
上記水素引き抜き性重合開始剤としては特に限定されないが、t−ブチルパーオキシ系の過酸化物が好ましく、例えば、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーヘキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルノモカルボネート、t−ブチルパーオキシネオペンタノエート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカルボネート、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート等を用いることができる。
【0020】
上記グラフト共重合体のグラフト鎖は、(メタ)アクリル系モノマーの重合体からなることが好ましい。これにより、上記イオン性官能基を効率よくポリビニルアセタール樹脂に導入することができる。そのため、上記ポリビニルアセタール微粒子は、水を主成分とした分散媒中でも高い分散安定性を発揮することができる。
具体的には、イオン性官能基を有する(メタ)アクリル系モノマーを用いてグラフト鎖を形成することが好ましい。
【0021】
上記イオン性官能基を有する(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、フェニル(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスホン酸、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、2−ソジウムスルホエチル(メタ)アクリレート、2−ポタシウムスルホエチル(メタ)アクリレート、3−ソジウムスルホプロピル(メタ)アクリレート、3−ポタシウムスルホプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
上記イオン性官能基を含む重合性単量体がグラフトしたポリビニルアセタール樹脂中のグラフト率(グラフト共重合体中のポリビニルアセタールからなるユニットに対するイオン性官能基を含む重合性単量体からなるユニットの比率)は、上記ポリビニルアセタール樹脂中のイオン性官能基の含有量が上記適性範囲となれば特に限定されないが、0.001〜100重量%が好ましい。上記範囲内とすることで、接着剤の分散質として用いた場合に、得られる膜の接着強度、及び、柔軟性を両立することができる。
なお、本発明において、「グラフト率」とは、グラフト共重合体中のポリビニルアセタールからなるユニットに対するイオン性官能基を含む重合性単量体からなるユニットの比率を表し、例えば、以下の方法により評価することができる。得られた樹脂溶液を110℃で1時間乾燥させた後、メタノールに溶解させ、該メタノール溶液を水に滴下添加した後に、遠心分離操作によって不溶分と可溶分とに分離する。この際得られた不溶分をグラフト共重合体とする。得られたグラフト共重合体について、NMRによりポリビニルアセタールからなるユニットとイオン性官能基を含む重合性単量体からなるユニットの重量を換算し、下記式(1)を用いて算出することができる。
【0023】
【数1】
【0024】
また、上記のイオン性官能基をグラフト鎖に存在させるポリビニルアセタール樹脂とする場合には、上記イオン性官能基を有する(メタ)アクリル系モノマーに加えて、他の(メタ)アクリル系モノマーを同時に用いてもよい。
上記他の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、単官能(メタ)アクリル酸アルキルエステル、単官能(メタ)アクリル酸環状アルキルエステル、単官能(メタ)アクリル酸アリールエステル等を用いることができる。
【0025】
上記単官能(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソテトラデシル(メタ)アクリレート、2−イソシアナトエチルメタクリレート等が挙げられる。
上記単官能(メタ)アクリル酸環状アルキルエステルとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記単官能(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、本明細書において、上記(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸を総称するものであり、上記(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートを総称するものとする。
【0026】
上記グラフト共重合体中の他の(メタ)アクリル系モノマーのグラフト率(グラフト共重合体中のポリビニルアセタールからなるユニットに対する他の(メタ)アクリル系ポリマーからなるユニットの比率)は、用途に応じて設計されるため、特に限定されないが、900重量%以下であることが好ましい。上記範囲内とすることで、接着剤の分散質として用いた場合に、得られる膜の接着強度、及び、柔軟性を両立することができる。
なお、本発明において、「他の(メタ)アクリル系モノマーのグラフト率」とは、グラフト共重合体中のポリビニルアセタールからなるユニットに対する他の(メタ)アクリル系ポリマーからなるユニットの比率を表し、例えば、以下の方法により評価することができる。得られた樹脂溶液を110℃で1時間乾燥させた後、キシレンに溶解させ、不溶分と可溶分とに分離し、不溶分をグラフト共重合体とする。得られたグラフト共重合体について、NMRによりポリビニルアセタールからなるユニットと他の(メタ)アクリル系ポリマーからなるユニットの重量を換算し、下記式(2)を用いて算出することができる。
【0027】
【数2】
【0028】
上記イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂の分子量としては特に制限は無いが、数平均分子量(Mn)が10,000〜400,000で、重量平均分子量(Mw)が20,000〜800,000で、これらの比(Mw/Mn)が2.0〜40であることが好ましい。Mn、Mw、Mw/Mnがこのような範囲であると、接着剤の分散質として用いた場合に、得られる膜の接着強度、及び、柔軟性を両立することができる。
【0029】
上記ポリビニルアセタール微粒子は、体積平均粒子径の下限が10nm、上限が500nmである。体積平均粒子径が10nm未満であると、実質的に作成することが困難であり、500nmを超えると分散液中での微粒子の沈降速度が早くなり、安定な分散液を得ることができなくなる。上記体積平均粒子径の好ましい下限は20nm、好ましい上限は400nm、より好ましい下限は30nm、より好ましい上限は300nmである。
なお、上記ポリビニルアセタール微粒子の体積平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0030】
上記ポリビニルアセタール微粒子の体積平均粒子径は、CV値の上限が40%である。CV値が40%を超えると、大きな粒子径を持った微粒子が存在することとなり、該大粒径粒子が沈降することによって安定な分散液を得ることができなくなる。
上記CV値の好ましい上限は35%、より好ましい上限は32%、更に好ましい上限は30%である。なお、CV値は、標準偏差を平均粒子径で割った値の百分率(%)で示される数値である。
【0031】
上記ポリビニルアセタール微粒子を製造する方法としては特に限定されず、例えば、イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂を得た後、上記ポリビニルアセタール樹脂を粒子化することで製造することができる。
【0032】
上記イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂を得る方法としては、例えば、上記イオン性官能基を有する変性ポリビニルアルコール原料にアルデヒドを反応させアセタール化する方法、ポリビニルアセタール樹脂を作製した後、該ポリビニルアセタール樹脂の官能基に対して反応性を有する別の官能基を持った化合物と反応させる方法、水素引き抜き性開始剤を用いてポリビニルアセタール樹脂に上記イオン性官能基を含む重合性単量体をグラフトさせる方法等が挙げられる。
なかでも、ポリビニルアセタール樹脂本来の優れた機械的性質を低下させることが無く、被膜とした際に高い機械的性質を発現させることができ、また、導入した官能基の変質等が発生しないためにグラフトさせる方法が特に好ましい。
【0033】
また、上記ポリビニルアセタール樹脂を粒子化する方法としては、上記イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂を有機溶剤に溶解した後、水を少量ずつ添加し、加熱及び/又は減圧して有機溶剤を除去する方法や、大量の水に上記イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂が溶解した溶液を添加した後に必要に応じて加熱及び/又は減圧して有機溶剤を除去する方法、イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂を該イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度以上で加熱してニーダー等で混練しながら、加熱加圧下で水を少量ずつ添加して混練する方法等が挙げられる。
【0034】
上記有機溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、アセトン、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチルや、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール等が挙げられる。
【0035】
本発明の接着剤は、水系分散媒を含有する。
上記水系分散媒としては、水を主成分として含有すれば良く、水と有機溶剤との混合溶剤であっても良い。有機溶剤を含有する場合には、有機溶剤が多すぎると接着剤の保存安定性が低下するため、接着剤中の有機溶剤の含有量は40重量%以下が好ましい。より好ましくは30重量%以下である。
【0036】
上記水系分散媒に使用される有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、テトラヒドロフラン、アセトン、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等が挙げられる。
【0037】
本発明の接着剤における水の含有量は、ポリビニルアセタール微粒子100重量部に対して40〜1000重量部である。水の量が少なすぎると固形分濃度が高くなりすぎて、分散性が低下したり、接着剤の粘度が高くなりすぎて塗工性が低下したりする。多すぎると固形分濃度が少なくなるために、塗工後に得られる被膜が不均一となる場合がある。
なお、本発明の接着剤は、充分な分散安定性を有しているが、得られる被膜の接着強度を劣化させない範囲で、分散剤を別途添加しても良い。
【0038】
本発明の接着剤は、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、界面活性剤、難燃剤、帯電防止剤、耐湿剤、熱線反射剤、熱線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
上記酸化防止剤としては特に限定されず、フェノール系のものとしては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−P−クレゾール(BHT)(住友化学社製、スミライダーBHT)、テトラキス−[メチレン−3−(3’−5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバガイギー社製、イルガノックス1010)等が挙げられる。上記酸化防止剤の含有量の好ましい下限は0.01重量部、上限は5.0重量部である。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、接着後の耐水性及び密着性が高く、長期に渡って優れた耐久性を有する接着剤が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下に実施例を掲げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0041】
(実施例1)
温度計、攪拌機、窒素導入管、冷却管を備えた反応容器内に、ポリビニルアセタール樹脂(重合度800、アセタール化度[ブチラール化度]65モル%、水酸基量33.8モル%、アセチル基量1.2モル%)25重量部と、2−ソジウムスルホエチルメタクリレート1重量部と、ジメチルスルホキシド100重量部とを加え、撹拌しながらポリビニルブチラールおよび2−ソジウムスルホエチルメタクリレートを溶解させた。次に、窒素ガスを30分間吹き込んで反応容器内を窒素置換した後、反応容器内を撹拌しながら85℃に加熱した。30分間後、0.5重量部の重合開始剤としてのt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートを5重量部のジメチルスルホキシドで希釈し、得られた重合開始剤溶液を上記反応器内に3時間かけて滴下添加した。その後、さらに85℃にて3時間反応させた。反応液を冷却後、水への沈殿を3回行ってから充分乾燥し、2−ソジウムスルホエチルメタクリレートがグラフトしたポリビニルアセタール樹脂からなるポリビニルアセタール樹脂を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂に含まれるイオン性官能基の量をNMRにより測定したところ、0.1mmol/gであった。
次いで、得られたポリビニルアセタール樹脂10重量部をメタノール150重量部に溶解させ、溶解液を水300重量部に滴下添加した。次いで液温を30℃に保ち、減圧しながら撹拌を行うことでメタノールを揮発させた後、固形分が20重量%となるまで濃縮し、ポリビニルアセタール微粒子が分散した接着剤を作製した。
【0042】
(実施例2)
重合度800、ケン化度99モル%であり、共重合体としてのアクリル酸を1モル%有するポリビニルアルコール100重量部を純水1000重量部に加え、90℃の温度で約2時間攪拌し溶解させた。この溶液を40℃に冷却し、これに濃度35重量%の塩酸80重量部を添加した後、液温を4℃に下げてn−ブチルアルデヒド70重量部を添加しこの温度を保持してアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。その後、液温を30℃、3時間保持して反応を完了させ、中和、水洗及び乾燥を経て、ポリビニルアセタール系樹脂の白色粉末を得た。得られたポリビニルアセタール系樹脂についてNMRを用いて測定を行ったところ、ブチラール化度は67モル%、水酸基量は32モル%、アセチル基量は1モル%、樹脂中に含まれるイオン性官能基の量は0.15mmol/gであった。
次いで、得られたポリビニルアセタール樹脂を用いて、実施例1と同様の操作によりポリビニルアセタール微粒子が分散した接着剤を作製した。
【0043】
(実施例3)
重合度3300、ブチラール化度67モル%、水酸基量32モル%、アセチル基量1モル%のポリビニルアセタール樹脂に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、2−ソジウムスルホエチルメタクリレートがグラフトしたポリビニルアセタール樹脂からなるポリビニルアセタール樹脂微粒子を得た。得られた樹脂中に含まれるイオン性官能基の量をNMRにより測定したところ、0.15mmol/gであった。
得られたポリビニルアセタール樹脂を用いて、実施例1と同様の操作によりポリビニルアセタール微粒子が分散した接着剤を作製した。
【0044】
(比較例1)
溶質としてポリビニルアルコール30重量部を水100重量部に添加し、その後、90℃で30分間加熱して溶解させ、接着剤を作製した。
比較例1では、ポリビニルアルコールは水に溶解しており、ポリビニルアルコールからなる粒子は形成されていなかった。
【0045】
(比較例2)
メタクリル酸メチル30重量部を油相成分とし、水100重量部、ラウリル硫酸ナトリウム0.3重量部を溶解し、水相成分とした。油相成分と水相成分をホモジナイザーにより乳化し、攪拌下で70℃まで加熱し、70℃に到達した時点で、過硫酸カリウム0.3重量部を添加し、12時間重合反応を行い、アクリル樹脂からなる粒子が分散した接着剤を作製した。
【0046】
(比較例3)
重合度1000、ケン化度99モル%であるポリビニルアルコール100重量部を純水1000重量部に加え、90℃の温度で約2時間攪拌し溶解させた。
この溶液を40℃に冷却し、これに濃度35重量%の塩酸80重量部を添加した後、液温を4℃に下げてn−ブチルアルデヒド70重量部を添加しこの温度を保持してアセタール化反応を行い、反応生成物を析出させた。
その後、液温を30℃、3時間保持して反応を完了させ、常法により中和、水洗及び乾燥を経て、ブチラール化度68モル%、水酸基量31モル%、アセチル基量1モル%であるポリビニルアセタール樹脂粉末を得た。
次いで、得られたポリビニルアセタール樹脂を用いて、実施例1と同様の操作によりポリビニルアセタール微粒子が分散した接着剤を作製した。
【0047】
(比較例4)
溶質としてイオン性官能基を有しないポリビニルブチラール樹脂(重合度800、アセタール化度68モル%、水酸基量31モル%、アセチル基量1モル%)10重量部をトルエン100重量部に溶解させ、接着剤を作製した。
比較例4では、ポリビニルブチラール樹脂はトルエンに溶解しており、ポリビニルブチラール樹脂からなる粒子は形成されていなかった。
【0048】
(評価方法)
得られた接着剤の性能を以下の方法で評価した。結果を表1に示した。
【0049】
(1)粒子径の測定
接着剤に含まれる樹脂微粒子の体積平均粒子径及び体積粒子径分布をレーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(堀場製作所社製、LA−950)を用いて測定した。
【0050】
(2)耐水性評価
得られた接着剤を、それぞれ1.5cm×6cmのガラス板にバーコーターを用いて、膜厚が300μmとなるようにウェットコーティングを行った。その後、80℃30分で乾燥させた。得られた接着剤を流水で30分間流した後、接着剤の残存面積比(被膜を形成した面積に対する残存している面積の比率)を観察することで耐水性を評価した。
○:残存面積が50%以上
△:残存面積が5%以上、50%未満
×:残存面積が5%未満
【0051】
(3)密着性評価
「(2)耐水性評価」で作製した被膜形成ガラス板の被膜を形成した面に、粘着テープ(積水化学工業社製、セロテープ(登録商標)No.252)を貼り付け、10分後にテープを静かに剥がした。接着剤の残存面積比(被膜を形成した面積に対する残存している面積の比率)を観察することで密着性を評価した。
◎:残存面積が70%以上
○:残存面積が50%以上70%未満
△:残存面積が30%以上50%未満
×:残存面積が30%未満
【0052】
(4)耐久性評価
得られた接着剤を、それぞれ1.5cm×6cmのガラス板にバーコーターを用いて、膜厚が300μmとなるようにウェットコーティングを行った。その後、80℃30分で乾燥させた。得られた接着剤を恒温オーブン50℃100hr後に接着剤の変化を目視にて観察した。黄変が認められた場合を「○」、黄変が認められなかった場合を「×]と評価した。
○:黄変あり
×:黄変なし
【0053】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、接着後の耐水性及び密着性が高く、長期に渡って優れた耐久性を有する接着剤を提供することができる。