【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水系分散媒中にポリビニルアセタール微粒子が分散された接着剤であって、前記ポリビニルアセタール微粒子は、イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂からなり、体積平均粒子径が10〜500nm、かつ、体積粒子径分布のCV値が40%以下である接着剤である。
以下、本発明を詳述する。
【0007】
本発明者は、分散質としてポリビニルアセタール樹脂を用いることに加えて、該樹脂に特定の官能基を付与し、かつ、体積平均粒子径及び体積平均粒子径のCV値を所定の範囲内とすることで、接着後の耐水性及び密着性が高く、長期に渡って優れた耐久性を実現することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の接着剤は、イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂からなるポリビニルアセタール微粒子を含有する。
【0009】
上記イオン性官能基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、スルフィン酸基、スルフェン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、及び、それらの塩からなる群より選択される少なくとも1種の官能基が好ましい。なかでも、カルボキシル基、スルホン酸基、それらの塩がより好ましく、スルホン酸基、その塩であることが特に好ましい。
【0010】
上記ポリビニルアセタール樹脂中のイオン性官能基の含有量は0.01〜1mmol/gであることが好ましい。上記イオン性官能基の含有量が0.01mmol/g未満であると、微粒子の分散性が低下し、1mmol/gを超えると、被膜とした際に接着強度が低下する場合がある。より好ましくは0.05〜0.5mmol/gである。さらに好ましくは0.2〜0.4mmol/gである。
【0011】
上記ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、単独アルデヒド、混合アルデヒドのいずれを用いる場合でも、全アセタール化度で40〜80モル%の範囲が好ましい。全アセタール化度が40モル%未満では得られるポリアセタール樹脂が水溶性となり、水系分散液からなる接着剤を形成することができないことがある。全アセタール化度が80モル%を超えると、疎水性が強くなりすぎて安定した分散液を得ることが困難となることがある。より好ましくは55〜75モル%である。
【0012】
特に、上記ポリビニルアセタール樹脂としては、重合度200〜5000、ケン化度が80モル%以上のポリビニルアルコールをアセタール化することで得られるものが好ましい。上記重合度およびケン化度のポリビニルアセタール樹脂は、接着剤の調製、得られる接着剤の塗工性、接着性、乾燥時の製膜性に優れ、形成された塗膜の強度や柔軟性も優れたものとなる。
【0013】
上記重合度が200未満であると、被膜とした際に機械的強度、接着強度が低くなる。重合度が5000を超えると、アセタール化反応の際に溶液粘度が異常に高くなってアセタール化反応が困難になる。重合度は800〜4500であることがより好ましい。
また、上記ケン化度が80モル%より小さいと、水への溶解性が悪くなるためアセタール化反応が困難になり、また、水酸基量が少ないためアセタール化反応自体が困難となる。特に、ケン化度85モル%以上とすることがより好ましい。
【0014】
上記アセタール化の方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、塩酸等の酸触媒の存在下で上記ポリビニルアルコールの水溶液に各種アルデヒドを添加する方法等が挙げられる。
【0015】
上記アセタール化に用いるアルデヒドとしては特に限定されず、例えばホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。なかでも、アセトアルデヒド又はブチルアルデヒドが、生産性と特性バランス等の点で好適である。これらのアルデヒドは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
上記イオン性官能基の存在形態については、ポリビニルアセタール樹脂構造中に直接存在していてもよく、グラフト鎖を含むポリビニルアセタール樹脂(以下、単にグラフト共重合体ともいう)のグラフト鎖に存在していてもよい。
なかでも、イオン性官能基がグラフト鎖に存在する場合は、ポリマーの主鎖骨格はポリビニルアセタールのまま維持されるため、ポリビニルアセタール樹脂本来の優れた機械的性質を低下させることが無く、被膜とした際に高い接着強度を発現させることができる。また、導入したイオン性官能基に変質等が生じることを防止することができる。
【0017】
上記ポリビニルアセタール樹脂構造中にイオン性官能基が直接存在するポリビニルアセタール樹脂を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記イオン性官能基を有する変性ポリビニルアルコール原料にアルデヒドを反応させアセタール化する方法、ポリビニルアセタール樹脂を作製した後、該ポリビニルアセタール樹脂の官能基に対して反応性を有する別の官能基を持った化合物と反応させる方法等が挙げられる。
【0018】
上記グラフト共重合体を製造する方法としては特に限定されず、例えば、上記イオン性官能基を含む重合性単量体を、ポリビニルアセタールが存在する環境下において水素引き抜き性重合開始剤の存在下にてラジカル重合させる方法等が挙げられる。
上記重合方法は特に限定されず、例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等の従来公知の重合方法が挙げられる。
上記溶液重合に用いる溶媒は特に限定されず、例えば、酢酸エチル、トルエン、ジメチルスルホキシド、エタノール、アセトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、及び、これらの混合溶媒等が挙げられる。
【0019】
上記水素引き抜き性重合開始剤としては特に限定されないが、t−ブチルパーオキシ系の過酸化物が好ましく、例えば、t−ブチルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーヘキシアセテート、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシイソプロピルノモカルボネート、t−ブチルパーオキシネオペンタノエート、t−ブチルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキシルモノカルボネート、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート等を用いることができる。
【0020】
上記グラフト共重合体のグラフト鎖は、(メタ)アクリル系モノマーの重合体からなることが好ましい。これにより、上記イオン性官能基を効率よくポリビニルアセタール樹脂に導入することができる。そのため、上記ポリビニルアセタール微粒子は、水を主成分とした分散媒中でも高い分散安定性を発揮することができる。
具体的には、イオン性官能基を有する(メタ)アクリル系モノマーを用いてグラフト鎖を形成することが好ましい。
【0021】
上記イオン性官能基を有する(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート、フェニル(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルホスホン酸、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム、2−ソジウムスルホエチル(メタ)アクリレート、2−ポタシウムスルホエチル(メタ)アクリレート、3−ソジウムスルホプロピル(メタ)アクリレート、3−ポタシウムスルホプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
上記イオン性官能基を含む重合性単量体がグラフトしたポリビニルアセタール樹脂中のグラフト率(グラフト共重合体中のポリビニルアセタールからなるユニットに対するイオン性官能基を含む重合性単量体からなるユニットの比率)は、上記ポリビニルアセタール樹脂中のイオン性官能基の含有量が上記適性範囲となれば特に限定されないが、0.001〜100重量%が好ましい。上記範囲内とすることで、接着剤の分散質として用いた場合に、得られる膜の接着強度、及び、柔軟性を両立することができる。
なお、本発明において、「グラフト率」とは、グラフト共重合体中のポリビニルアセタールからなるユニットに対するイオン性官能基を含む重合性単量体からなるユニットの比率を表し、例えば、以下の方法により評価することができる。得られた樹脂溶液を110℃で1時間乾燥させた後、メタノールに溶解させ、該メタノール溶液を水に滴下添加した後に、遠心分離操作によって不溶分と可溶分とに分離する。この際得られた不溶分をグラフト共重合体とする。得られたグラフト共重合体について、NMRによりポリビニルアセタールからなるユニットとイオン性官能基を含む重合性単量体からなるユニットの重量を換算し、下記式(1)を用いて算出することができる。
【0023】
【数1】
【0024】
また、上記のイオン性官能基をグラフト鎖に存在させるポリビニルアセタール樹脂とする場合には、上記イオン性官能基を有する(メタ)アクリル系モノマーに加えて、他の(メタ)アクリル系モノマーを同時に用いてもよい。
上記他の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、単官能(メタ)アクリル酸アルキルエステル、単官能(メタ)アクリル酸環状アルキルエステル、単官能(メタ)アクリル酸アリールエステル等を用いることができる。
【0025】
上記単官能(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソテトラデシル(メタ)アクリレート、2−イソシアナトエチルメタクリレート等が挙げられる。
上記単官能(メタ)アクリル酸環状アルキルエステルとしては、例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記単官能(メタ)アクリル酸アリールエステルとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
なお、本明細書において、上記(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及びメタクリル酸を総称するものであり、上記(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートを総称するものとする。
【0026】
上記グラフト共重合体中の他の(メタ)アクリル系モノマーのグラフト率(グラフト共重合体中のポリビニルアセタールからなるユニットに対する他の(メタ)アクリル系ポリマーからなるユニットの比率)は、用途に応じて設計されるため、特に限定されないが、900重量%以下であることが好ましい。上記範囲内とすることで、接着剤の分散質として用いた場合に、得られる膜の接着強度、及び、柔軟性を両立することができる。
なお、本発明において、「他の(メタ)アクリル系モノマーのグラフト率」とは、グラフト共重合体中のポリビニルアセタールからなるユニットに対する他の(メタ)アクリル系ポリマーからなるユニットの比率を表し、例えば、以下の方法により評価することができる。得られた樹脂溶液を110℃で1時間乾燥させた後、キシレンに溶解させ、不溶分と可溶分とに分離し、不溶分をグラフト共重合体とする。得られたグラフト共重合体について、NMRによりポリビニルアセタールからなるユニットと他の(メタ)アクリル系ポリマーからなるユニットの重量を換算し、下記式(2)を用いて算出することができる。
【0027】
【数2】
【0028】
上記イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂の分子量としては特に制限は無いが、数平均分子量(Mn)が10,000〜400,000で、重量平均分子量(Mw)が20,000〜800,000で、これらの比(Mw/Mn)が2.0〜40であることが好ましい。Mn、Mw、Mw/Mnがこのような範囲であると、接着剤の分散質として用いた場合に、得られる膜の接着強度、及び、柔軟性を両立することができる。
【0029】
上記ポリビニルアセタール微粒子は、体積平均粒子径の下限が10nm、上限が500nmである。体積平均粒子径が10nm未満であると、実質的に作成することが困難であり、500nmを超えると分散液中での微粒子の沈降速度が早くなり、安定な分散液を得ることができなくなる。上記体積平均粒子径の好ましい下限は20nm、好ましい上限は400nm、より好ましい下限は30nm、より好ましい上限は300nmである。
なお、上記ポリビニルアセタール微粒子の体積平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0030】
上記ポリビニルアセタール微粒子の体積平均粒子径は、CV値の上限が40%である。CV値が40%を超えると、大きな粒子径を持った微粒子が存在することとなり、該大粒径粒子が沈降することによって安定な分散液を得ることができなくなる。
上記CV値の好ましい上限は35%、より好ましい上限は32%、更に好ましい上限は30%である。なお、CV値は、標準偏差を平均粒子径で割った値の百分率(%)で示される数値である。
【0031】
上記ポリビニルアセタール微粒子を製造する方法としては特に限定されず、例えば、イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂を得た後、上記ポリビニルアセタール樹脂を粒子化することで製造することができる。
【0032】
上記イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂を得る方法としては、例えば、上記イオン性官能基を有する変性ポリビニルアルコール原料にアルデヒドを反応させアセタール化する方法、ポリビニルアセタール樹脂を作製した後、該ポリビニルアセタール樹脂の官能基に対して反応性を有する別の官能基を持った化合物と反応させる方法、水素引き抜き性開始剤を用いてポリビニルアセタール樹脂に上記イオン性官能基を含む重合性単量体をグラフトさせる方法等が挙げられる。
なかでも、ポリビニルアセタール樹脂本来の優れた機械的性質を低下させることが無く、被膜とした際に高い機械的性質を発現させることができ、また、導入した官能基の変質等が発生しないためにグラフトさせる方法が特に好ましい。
【0033】
また、上記ポリビニルアセタール樹脂を粒子化する方法としては、上記イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂を有機溶剤に溶解した後、水を少量ずつ添加し、加熱及び/又は減圧して有機溶剤を除去する方法や、大量の水に上記イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂が溶解した溶液を添加した後に必要に応じて加熱及び/又は減圧して有機溶剤を除去する方法、イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂を該イオン性官能基を有するポリビニルアセタール樹脂のガラス転移温度以上で加熱してニーダー等で混練しながら、加熱加圧下で水を少量ずつ添加して混練する方法等が挙げられる。
【0034】
上記有機溶剤としては、例えば、テトラヒドロフラン、アセトン、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチルや、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール等が挙げられる。
【0035】
本発明の接着剤は、水系分散媒を含有する。
上記水系分散媒としては、水を主成分として含有すれば良く、水と有機溶剤との混合溶剤であっても良い。有機溶剤を含有する場合には、有機溶剤が多すぎると接着剤の保存安定性が低下するため、接着剤中の有機溶剤の含有量は40重量%以下が好ましい。より好ましくは30重量%以下である。
【0036】
上記水系分散媒に使用される有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、テトラヒドロフラン、アセトン、トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等が挙げられる。
【0037】
本発明の接着剤における水の含有量は、ポリビニルアセタール微粒子100重量部に対して40〜1000重量部である。水の量が少なすぎると固形分濃度が高くなりすぎて、分散性が低下したり、接着剤の粘度が高くなりすぎて塗工性が低下したりする。多すぎると固形分濃度が少なくなるために、塗工後に得られる被膜が不均一となる場合がある。
なお、本発明の接着剤は、充分な分散安定性を有しているが、得られる被膜の接着強度を劣化させない範囲で、分散剤を別途添加しても良い。
【0038】
本発明の接着剤は、必要に応じて、酸化防止剤、光安定剤、界面活性剤、難燃剤、帯電防止剤、耐湿剤、熱線反射剤、熱線吸収剤等の添加剤を含有してもよい。
上記酸化防止剤としては特に限定されず、フェノール系のものとしては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−P−クレゾール(BHT)(住友化学社製、スミライダーBHT)、テトラキス−[メチレン−3−(3’−5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(チバガイギー社製、イルガノックス1010)等が挙げられる。上記酸化防止剤の含有量の好ましい下限は0.01重量部、上限は5.0重量部である。