特許第6097185号(P6097185)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097185
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】遮断弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/08 20060101AFI20170306BHJP
   H02K 33/00 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   F16K31/08
   H02K33/00 A
【請求項の数】22
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-190258(P2013-190258)
(22)【出願日】2013年9月13日
(65)【公開番号】特開2015-55330(P2015-55330A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】上運天 昭司
(72)【発明者】
【氏名】田中 光晴
【審査官】 北村 一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−199411(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/136259(WO,A1)
【文献】 特開2005−344628(JP,A)
【文献】 実開昭61−073880(JP,U)
【文献】 独国特許出願公開第3515848(DE,A1)
【文献】 特開2001−193857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/06−31/11
H02K 33/00−33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動軸方向に移動可能に設けられた弁体と、
開口部を有するフランジと、
一端が前記フランジの開口部と連通し、他端が閉じられた隔室と、
前記隔室内に配置され、前記可動軸方向に移動可能で、かつ、前記可動軸を中心とした回転を阻止するように保持され、前記可動軸と直交する方向に前記可動軸を挟むように複数の磁極を配置した第1の永久磁石と、前記可動軸と直交する方向に前記可動軸を挟むように、かつ、前記第1の永久磁石の磁極に対して前記可動軸方向に異極同士が対向するように、複数の磁極を配置した第2の永久磁石とを備える可動子と、前記可動軸を中心として回転可能で、かつ、前記可動軸方向の移動を阻止するように保持され、一方の磁極の位置を前記可動軸を中心とする第1の円周上とし、他方の磁極の位置を前記第1の円周よりも大径の前記可動軸を中心とする第2の円周上とする複数の磁極対を、前記可動軸と直交する方向に前記可動子を挟むように配置した永久磁石を備える回転子と、前記回転子を回転させて、前記回転子の第1の円周上の磁極の配置を、第1の配置と第2の配置との間で入れ替える回転子回転手段とを備え、前記回転子は、前記第1の円周上の磁極の配置が第1の配置である場合、前記可動子の第1の永久磁石を磁気吸引保持する一方、前記可動子の第2の永久磁石を磁気反発させ、前記第1の円周上の磁極の配置が前記第2の配置である場合、前記可動子の第2の永久磁石を磁気吸引保持する一方、前記可動子の第1の永久磁石を磁気反発させる双安定移動手段と、
前記双安定移動手段の可動子の動力を前記フランジの開口部を通して前記弁体に伝え、前記弁体を開または閉の位置に動作させる動力伝達手段と
を備えることを特徴とする遮断弁。
【請求項2】
請求項1に記載された遮断弁において、
前記回転子回転手段は、
前記回転子の永久磁石に磁界を与えることにより前記回転子を回転させる
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項3】
請求項2に記載された遮断弁において、
前記回転子回転手段は、
前記隔室の外側に配置され、
電磁コイルと、この電磁コイルのコアの一端および他端にその一方の端部が接続または一体化された第1および第2のヨークとを備え、
前記第1および第2のヨークの他方の端部は、
前記可動軸とほゞ直交する方向から前記回転子の永久磁石の第2の円周上の隣り合う1対の磁極にほゞ対向するように配置されている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項4】
請求項3に記載された遮断弁において、
前記第1および第2のヨークは、前記他方の端部の形状が円弧状とされている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項5】
請求項3又は4に記載された遮断弁において、
前記第1および第2のヨークは、前記他方の端部が部分的に接続または一体化されている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項6】
請求項3〜5の何れか1項に記載された遮断弁において、
前記第1のヨークの他方の端部の中心と前記可動軸とを直交するように結ぶ線と前記第1のヨークの他方の端部とほゞ対向する前記回転子の永久磁石の第2の円周上の磁極の中心と前記可動軸とを直交するように結ぶ線との交差角、および前記第2のヨークの他方の端部の中心と前記可動軸とを直交するように結ぶ線と前記第2のヨークの他方の端部とほゞ対向する前記回転子の永久磁石の第2の円周上の磁極の中心と前記可動軸とを直交するように結ぶ線との交差角が、前記電磁コイルの非励磁状態において、前記可動軸方向からみて0゜より大きく、90゜より小さい範囲とされている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項7】
請求項6に記載された遮断弁において、
前記交差角度の設定が、前記可動子の前記可動軸を中心とする回転角度の設定によって行われている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項8】
請求項6に記載された遮断弁において、
前記交差角度の設定が、前記第1および第2のヨークを非対称な形状または配置にすることによって行われている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか1項に記載された遮断弁において、
前記可動子の永久磁石は、円柱または円筒状とされている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項10】
請求項1〜9の何れか1項に記載された遮断弁において、
前記可動子の第1および第2の永久磁石は、同一の形状、同一のサイズとされている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載された遮断弁において、
前記可動子の第1および第2の永久磁石は、前記可動軸方向の長さが前記回転子の可動軸方向の長さ以上とされている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項12】
請求項1〜11の何れか1項に記載された遮断弁において、
前記可動子の第1および第2の永久磁石は、一体とされている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項13】
請求項1〜11の何れか1項に記載された遮断弁において、
前記可動子の第1および第2の永久磁石は、離間して配置されている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項14】
請求項13に記載された遮断弁において、
前記可動子の第1および第2の永久磁石は、非磁性の部材で接続されている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項15】
請求項1〜14の何れか1項に記載された遮断弁において、
前記可動子は、
前記可動軸方向に移動可能で、かつ、前記可動軸を中心とした回転を阻止するように保持された非磁性シャフトの可動軸方向に接続されている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項16】
請求項1〜14の何れか1項に記載された遮断弁において、
前記可動子は、
前記可動軸方向に移動可能に保持された非磁性シャフトの可動軸方向に接続され、前記非磁性シャフトは、前記可動軸を中心とした回転を阻止する手段に接続されている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項17】
請求項1〜16の何れか1項に記載された遮断弁において、
前記回転子は、径方向に着磁されたリングまたは円筒状の永久磁石で形成されている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項18】
請求項1〜16の何れか1項に記載された遮断弁において、
前記回転子は、
1対の磁極を持つ複数の永久磁石を、その磁極方向が前記可動軸と直交するように、前記可動子を挟むようにして配置した構成とされている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項19】
請求項13又は14に記載された遮断弁において、
前記可動子および前記回転子の近接対向するエッジの両方または片方に面取り部が形成されている
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項20】
請求項1〜19の何れか1項に記載された遮断弁において、
前記弁体は、前記可動軸を中心とした回転を阻止する回転止め手段を備える
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項21】
請求項1〜20の何れか1項に記載された遮断弁において、
前記可動子の可動軸方向の可動範囲を制限する手段を備える
ことを特徴とする遮断弁。
【請求項22】
請求項1〜21の何れか1項に記載された遮断弁において、
前記弁体を閉の位置に動作させる場合の力特性と前記弁体を開の位置に動作させる場合の力特性とが非対称とされている
ことを特徴とする遮断弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、可動子と回転子を用い、可動子を2つの位置の間で移動させ、そのどちらかの位置に保持する双安定移動手段を用いた遮断弁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、都市ガスやLPガスの供給管路やガスメータ内に設置されるガス緊急遮断装置として、電気的に遮断/復帰(閉弁/開弁)の双方向動作が可能なソレノイド式やステッピングモータ式の電池駆動の遮断弁がある。
【0003】
例えば、特許文献1には、閉弁方向の付勢にスプリング(圧縮バネ)、開弁状態の保持に永久磁石の吸引力を用い、開弁状態から遮断(閉弁)する時には、永久磁石と逆の磁界を電磁コイルで与えて永久磁石が接続された固定鉄心とプランジャとの間の吸着力を打ち消し、固定鉄心からプランジャを引き離してスプリングの付勢力による遮断を行い、復帰(開弁)時には、電磁コイルでガス圧とスプリングの付勢力に打ち勝つ吸引力を与えてプランジャを引き戻して永久磁石が接続されている固定鉄心に吸着保持させる双方向動作が可能な自己保持型電磁ソレノイド式の遮断弁が開示されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、ステッピングモータで駆動されるリードスクリューを用いて弁体の移動を行い、弁の開閉と状態保持を行う自己保持型ステッピングモータ式の遮断弁が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−71637号公報
【特許文献2】特開平11−2351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されているような自己保持型電磁ソレノイド式の遮断弁では、弁体が開弁状態に保持されているとき、ガスの流れや機械的な衝撃などにより永久磁石の吸引保持力よりも大きい力がかり、プランジャが固定鉄心から離れてスプリング(圧縮バネ)の付勢力により弁体およびプランジャが遮断(閉弁)方向へ移動して遮断(閉弁)してしまうという問題がある。なお、実際の使用条件では起こりにくいが、上述の逆で閉弁から開弁状態になってしまうことも考えられる。
【0007】
また、上述した特許文献1に記載されているような自己保持型電磁ソレノイド式の遮断弁では、閉弁状態の弁体を開弁状態に復帰する場合、プランジャが固定鉄心から最も離れた状態において、ガス圧とスプリングの付勢力に打ち勝つ吸引力を電磁コイルで発生させ、プランジャを引き戻さなければならないが、電磁力は距離のほぼ2乗に反比例するため、大きな電力が必要であるという問題もある。
【0008】
一方、特許文献2に記載されているような自己保持型ステッピングモータ式の遮断弁では、弁体がリードスクリューで機械的に拘束されているため原理的に耐衝撃性が高く、上述した電磁ソレノイド式における誤開閉の問題については解決されるが、駆動電圧1パルス当たりの弁体の移動距離が非常に小さいため、遮断/復帰(閉弁/開弁)動作には長い時間にわたって多くのパルス印加が必要であり、消費電力が大きくなるという問題がある。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、弁体が開弁状態に保持されているとき、ガスの流れや機械的な衝撃などによる過大力がかり、弁体が遮断(閉弁)方向へ移動した場合でも、遮断(閉弁)せずに自動的に開弁状態に(速やかに)復帰する、逆に、弁体が閉弁状態から開弁方向に移動した場合でも、開弁状態を維持せずに自動的に閉弁状態に(速やかに)復帰する遮断弁を提供することを目的とする。
また、特許文献1に対して、復帰(開弁)動作に必要な電力が(原理的に)小さく、さらに、特許文献2に対して、遮断/復帰(閉弁/開弁)動作に必要な消費電力が小さい遮断弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために本発明は、可動軸方向に移動可能に設けられた弁体と、開口部を有するフランジと、一端がフランジの開口部と連通し、他端が閉じられた隔室と、隔室内に配置され、可動軸方向に移動可能で、かつ、可動軸を中心とした回転を阻止するように保持され、可動軸と直交する方向に可動軸を挟むように複数の磁極を配置した第1の永久磁石と、可動軸と直交する方向に可動軸を挟むように、かつ、第1の永久磁石の磁極に対して可動軸方向に異極同士が対向するように、複数の磁極を配置した第2の永久磁石とを備える可動子と、可動軸を中心として回転可能で、かつ、可動軸方向の移動を阻止するように保持され、一方の磁極の位置を可動軸を中心とする第1の円周上とし、他方の磁極の位置を第1の円周よりも大径の可動軸を中心とする第2の円周上とする複数の磁極対を、可動軸と直交する方向に可動子を挟むように配置した永久磁石を備える回転子と、回転子を回転させて、回転子の第1の円周上の磁極の配置を、第1の配置と第2の配置との間で入れ替える回転子回転手段とを備え、回転子は、第1の円周上の磁極の配置が第1の配置である場合、可動子の第1の永久磁石を磁気吸引保持する一方、可動子の第2の永久磁石を磁気反発させ、第1の円周上の磁極の配置が第2の配置である場合、可動子の第2の永久磁石を磁気吸引保持する一方、可動子の第1の永久磁石を磁気反発させる双安定移動手段と、双安定移動手段の可動子の動力をフランジの開口部を通して弁体に伝え、弁体を開または閉の位置に動作させる動力伝達手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明において、可動子は、可動軸方向に移動可能で、かつ、可動軸を中心とした回転を阻止するように保持され、可動軸と直交する方向に可動軸を挟むように複数の磁極を配置した第1の永久磁石と、可動軸と直交する方向に可動軸を挟むように、かつ、第1の永久磁石の磁極に対して可動軸方向に異極同士が対向するように、複数の磁極を配置した第2の永久磁石とで構成されており、回転子は、回転させることによって、第1の円周上の磁極の配置を第1の配置と第2の配置との間で入れ替えることができる。
【0012】
本発明において、回転子を回転させ、回転子の第1の円周上の磁極の配置を第1の配置とすると、可動子の第1の永久磁石を磁気吸引保持する一方、可動子の第2の永久磁石を磁気反発させる。また、回転子を回転させ、回転子の第1の円周上の磁極の配置を第2の配置とすると、可動子の第2の永久磁石を磁気吸引保持する一方、可動子の第1の永久磁石を磁気反発させる。
【0013】
すなわち、本発明において、回転子の第1の円周上の磁極の配置が第1の配置にあり、可動子の第1の永久磁石が回転子に磁気吸引されている場合に、回転子を回転させて回転子の第1の円周上の磁極の配置を第2の配置にすると、可動子の第1の永久磁石と回転子との間の磁気吸引力が消失し、第1の永久磁石と回転子との間に磁気反発力が発生する。
【0014】
これにより、第1の永久磁石が回転子を離れるとともに、第2の永久磁石が回転子に近づき、第2の永久磁石との間に生じる磁気吸引力との合力により、可動子が可動軸方向の一方側に移動し、可動子の第2の永久磁石が回転子によりラッチ(吸引・保持)される。この可動子の動力は、フランジの開口部を通して弁体に伝えられ、弁体を例えば閉の位置に動作(閉弁)させる。
【0015】
また、本発明において、回転子の第1の円周上の磁極の配置が第2の配置にあり、可動子の第2の永久磁石が回転子に磁気吸引されている場合に、回転子を回転させて回転子の第1の円周上の磁極の配置を第1の配置にすると、可動子の第2の永久磁石と回転子との間の磁気吸引力が消失し、第2の永久磁石と回転子との間に磁気反発力が発生する。
【0016】
これにより、第2の永久磁石が回転子を離れるとともに、第1の永久磁石が回転子に近づき、第1の永久磁石との間に生じる磁気吸引力との合力により、可動子が可動軸方向の他方側に移動し、可動子の第1の永久磁石が回転子によりラッチ(吸引・保持)される。この可動子の動力は、フランジの開口部を通して弁体に伝えられ、弁体を例えば開の位置に動作(開弁)させる。
【0017】
本発明において、例えば、回転子の第1の円周上の磁極の配置が第1の配置にあり、可動子の第1の永久磁石が回転子に磁気吸引されている場合に、可動軸方向の一方側への衝撃や一時的な過大力が掛かり、可動子が可動軸方向の一方側へ移動してしまったとする。この場合、可動子は、回転子の第1の円周上の磁極の配置が第1の配置にある状態で、第1の永久磁石が回転子にラッチされている状態から、可動軸方向の一方側へ移動する。可動子の第2の永久磁石が回転子に近づくと、第2の永久磁石と回転子との間には磁気反発力が発生する。
【0018】
これにより、第2の永久磁石が回転子から離れるとともに、第1の永久磁石が回転子に近づき、第1の永久磁石と回転子との間に生じる磁気吸引力との合力により、可動子が可動軸方向の他方側に戻される。すなわち、可動子が可動軸方向の一方側(例えば、閉弁側)へ移動しても、可動子は可動軸方向の一方側に移動した位置ではラッチされずに、自動的に可動軸方向の他方側(例えば、開弁側)に移動した位置でのラッチ(元のラッチ状態)に復帰する。
【0019】
本発明において、例えば、回転子の第1の円周上の磁極の配置が第2の配置にあり、可動子の第2の永久磁石が回転子に磁気吸引されている場合に、可動軸方向の他方側への衝撃や一時的な過大力が掛かり、可動子が可動軸方向の他方側へ移動してしまったとする。この場合、可動子は、回転子の第1の円周上の磁極の配置が第2の配置にある状態で、第2の永久磁石が回転子にラッチされている状態から、可動軸方向の他方側へ移動する。可動子の第1の永久磁石が回転子に近づくと、第1の永久磁石と回転子との間には磁気反発力が発生する。
【0020】
これにより、第1の永久磁石が回転子から離れるとともに、第2の永久磁石が回転子に近づき、第2の永久磁石と回転子との間に生じる磁気吸引力との合力により、可動子が可動軸方向の一方側に戻される。すなわち、可動子が可動軸方向の他方側(例えば、開弁側)へ移動しても、可動子は可動軸方向の他方側に移動した位置ではラッチされずに、自動的に可動軸方向の一方側(例えば、閉弁側)に移動した位置でのラッチ(元のラッチ状態)に復帰する。
【0021】
このように、本発明では、回転子を回転させて回転子の第1の円周上の磁極の配置を入れ替えなければ、可動子の一方側に移動した位置から他方側に移動した位置へのラッチの切り換え、他方側に移動した位置から一方側に移動した位置へのラッチの切り換えを行うことができない。また、回転子の第1の円周上の磁極の配置を入れ替えない状態で、一方側に移動した位置にラッチされている可動子の他方側への移動、他方側に移動した位置にラッチされている可動子の一方側への移動が生じた場合、自動的に元のラッチ状態に復帰される。これは、可動子の可動軸方向の移動に、すなわち遮断弁の開閉状態の変更に、回転子の回転というロック機構を付加したことによるものであり、このロック機構を付加することによって、開弁/閉弁状態を確実に維持することが可能となり、安全性が高められる。
【0022】
また、本発明では、可動子と回転子の両方に永久磁石を使用し、可動子を可動軸方向へ移動させるための主動力は、回転子(永久磁石)との間で働く、移動元側の可動子(永久磁石)の磁気反発力と、移動先側の可動子(永久磁石)の磁気吸引力の両方を同時に使用して行い、回転子を回転させるための回転力は、パイロット動力として、回転子の第1の円周上の磁極の配置を入れ替えるためにだけに使用されるので、例えば回転子(永久磁石)に近接した位置から瞬間的に磁界を与え、回転子の第1の円周上の磁極の配置を入れ替えるために必要な回転トルクを発生させるようにするだけでよく、従来のソレノイド(特許文献1)やステッピングモータ(特許文献2)で可動軸方向への移動の主動力に使われる場合よりも、(原理的に)少ない電力で動作させることが可能となる。特に、特許文献2に対しては、電圧(パルス)印加時間が大幅に短くなるため、省電力化が実現できる。よって、電池駆動の遮断弁には好適である。
【0023】
本発明において、可動子は、可動軸方向に移動可能で、かつ、可動軸を中心とした回転を阻止するように保持される必要がある。このために、例えば、可動子または可動子が接続されたシャフトなどに回転止め機構を設置するなどして、可動軸を中心とした回転を阻止するようにし、可動軸方向への移動のみを可能とする。なお、この回転止め機構は、動力伝達手段に含ませたり、弁体に含ませたりするが、双安定移動手段に含ませてもよい。一方、回転子は、可動軸を中心として回転可能で、かつ可動軸方向の移動を阻止するように保持される必要があり、例えば、環状の溝に配置するなどしてなどして、可動軸方向の移動を阻止するようにし、可動軸を中心とした回転のみを可能とする。
【0024】
本発明において、可動子の永久磁石と回転子の永久磁石とを接触しないように配置すると、動作時や状態保持にも磁石に機械的な衝撃が加わらないため、磁石の特性劣化を抑制でき、磁石への衝撃力や吸着音も抑制され、また、コンプライアンスを持った状態に保持できるため、従来のソレノイドのようにメカ的な緩衝機構やバネ機構などを省略することもできるというメリットが生じる。
【0025】
さらに、本発明において、回転子の永久磁石に外部から磁界を与えることにより回転子を回転させるような構成の場合は、回転子の永久磁石の第2の円周上に配置された磁極(外周側の磁極)を回転力発生用に使用し、回転子の永久磁石の第1の円周上に配置された磁極(内周側の磁極)を可動子の磁気吸引保持と磁気反発用に使用することにより、可動子との間に発生する磁気吸引力に起因する内周側からの回転を妨げるトルクに対して、外周側からの弱い力で回転子を回転させることができるため、回転子回転手段の小型化と省電力化とが可能となる。
【0026】
また、本発明では、さらなる安全対策として、通常の保持状態では回転子が衝撃などで意図しない回転をしないように、回転子に回転力を与える回転子回転手段により、回転子の外周側に回転保持力が働くようにしておくことが好ましい。例えば、回転子回転手段が電磁コイルとヨーク、または、永久磁石から構成される場合は、ヨークまたは永久磁石と回転子との間の磁気吸引力によって回転子の外周側に回転保持力が働くようにし、回転子回転手段がレバーなどのメカ機構の場合は、そのメカ機構によって回転子に回転保持力が働くようにしておくことが好ましい。
【0027】
なお、本発明において、可動子の永久磁石(第1および第2の永久磁石)としては、最も単純な例として2磁極のものが考えられるが、4磁極(例えば、円柱径方向着磁(円筒の場合は、内周側にも磁極があるため8磁極))以上の多磁極でも同様に構成することが可能である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、可動子を第1の永久磁石(可動軸と直交する方向に可動軸を挟むように複数の磁極を配置した永久磁石)と第2の永久磁石(可動軸と直交する方向に可動軸を挟むように、かつ、第1の永久磁石の磁極に対して可動軸方向に異極同士が対向するように、複数の磁極を配置した永久磁石)とを備えた構成とし、回転子を回転させることによって回転子の第1の円周上の磁極の配置を第1の配置と第2の配置との間で入れ替え、回転子の第1の円周上の磁極の配置が第1の配置である場合に、可動子の第1の永久磁石を磁気吸引保持する一方、可動子の第2の永久磁石を磁気反発させ、回転子の第1の円周上の磁極の配置が第2の配置である場合に、可動子の第2の永久磁石を磁気吸引保持する一方、可動子の第1の永久磁石を磁気反発させるようにしたので、可動子に他方向(閉弁方向あるいは開弁方向)への衝撃や一時的な過大力が掛かり、可動子が他方向へ移動してしまった場合でも、可動子が他方向でラッチされることがなく、可動子が元の方向でのラッチに自動的に復帰するものとなり、開弁/閉弁状態を確実に維持することが可能となり、安全性が高められる。
【0029】
また、本発明によれば、回転子を回転させるための回転力は、パイロット動力として、回転子の第1の円周上の磁極の配置を入れ替えるためにだけに使用されるので、例えば回転子の永久磁石に近接した位置から回転子の第2の円周上の磁極に瞬間的に磁界を与えるようにするだけでよく、従来のソレノイド(特許文献1)やステッピングモータ(特許文献2)で可動軸方向への移動の主動力に使われる場合よりも、(原理的に)少ない電力で動作させることが可能となる。特に、特許文献2に対しては、電圧(パルス)印加時間が大幅に短くなるため、省電力化が実現できる。これにより、特許文献1に対して、復帰(開弁)動作に必要な電力が(原理的に)小さく、さらに、特許文献2に対して、遮断および復帰(閉弁および開弁)動作に必要な消費電力が小さい遮断弁を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明に係る遮断弁の一実施の形態の要部の構成を示す図(可動子が可動軸方向の他方側に移動した状態でラッチされている状態(開弁状態)を示す図)である。
図2】本発明に係る遮断弁の一実施の形態の要部の構成を示す図(可動子が可動軸方向の一方側に移動した状態でラッチされている状態(閉弁状態)を示す図)である。
図3】可動子の第1の永久磁石と第2の永久磁石とを離間して配置するようにした例を示す図(図1に対応する図)である。
図4】可動子の第1の永久磁石と第2の永久磁石とを離間して配置するようにした例を示す図(図2に対応する図)である。
図5】可動子の可動範囲を制限するようにした例を示す図である。
図6】可動子および回転子の近接対向するエッジの両方に面取り部を形成するようにした例を示す図である。
図7】2つの永久磁石をその磁極方向が可動軸と直交するように可動子を挟むようにして配置した回転子を用いた例を示す図である。
図8】2つの永久磁石をその磁極方向が可動軸と直交するように可動子を挟むようにして配置した回転子の他の例を示す図である。
図9】2つの永久磁石をその磁極方向が可動軸と直交するように可動子を挟むようにして配置した回転子の他の例を示す図である。
図10】隔室内に回転子を設けるようにした例を示す図である。
図11】可動軸とほゞ直交する方向から可動子を挟んで対向するヨークの他方の端部の形状を平坦面とした例を示す図である。
図12】可動軸とほゞ直交する方向から可動子を挟んで対向するヨークの他方の端部を部分的に接続または一体化させた例を示す図である。
図13】可動軸とほゞ直交する方向から可動子を挟んで対向するヨークの他方の端部の形状を非対称とした例を示す図である。
図14】可動軸とほゞ直交する方向から可動子を挟んで対向するヨークの他方の端部にノッチを設けるようにした例を示す図である。
図15】可動軸とほゞ直交する方向から可動子を挟んで対向するヨークの端部の中心を結ぶ線と可動軸とを交わらせないようにした例を示す図である。
図16】可動軸とほゞ直交する方向から可動子を挟んで対向するヨーク端部の中心を可動軸に直交する面内で可動子の両側にずらすようにした例を示す図である。
図17】可動体の可動軸を中心とした回転を阻止する機構(回転止め機構)の他の例を示す図である。
図18】回転止め機構の別の例を示す図である。
図19】回転止め機構の別の例を示す図である。
図20】回転止め機構の別の例を示す図である。
図21】回転止め機構の別の例を示す図である。
図22】回転止め機構の別の例を示す図である。
図23】可動子の第1および第2の永久磁石を4磁極とした場合の要部の構成を示す図である。
図24】可動子の第1および第2の永久磁石を4磁極とした場合の回転子回転手段を構成するヨークの配置を示す図である。
図25】可動子の第1および第2の永久磁石を4磁極とした場合に回転子における磁極対を上下だけの2方向とした例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る遮断弁の一実施の形態の要部の構成を示す図(図1(a)は側面断面図、図1(b)は図1(a)におけるA−A線断面図)である。
【0032】
図1において、1(1A)は可動子であり、その両端にはシャフト2−1,2−2が接続されている。シャフト2−1,2−2は非磁性体とされている。また、シャフト2−1および2−2には、円筒状の摺動体(非磁性部材)3−1および3−2が挿通され固定(圧入)されている。以下では、この可動子1とシャフト2−1,2−2と円筒状の摺動体3−1,3−2からなる一体物を可動体と呼び、符号4で示す。
【0033】
可動体4は、シャフト2−1,2−2の軸方向(Z軸方向)に移動可能に設けられている。すなわち、可動体4(可動子1)は、Z軸方向を可動軸方向とし、この可動軸方向に移動可能に設けられている。
【0034】
また、可動体4(可動子1)は、Z軸を中心とした回転を阻止するように保持されている。このZ軸を中心とした可動体4(可動子1)の回転を阻止する機構(回転止め機構)については後述する。以下、Z軸を可動軸Zと呼ぶ。
【0035】
可動子1は、円柱状の第1の永久磁石1−1と第2の永久磁石1−2とから構成され、永久磁石1−1および1−2は径方向に着磁されている。本実施の形態において、永久磁石1−1と1−2とは一体とされており、永久磁石1−1が可動軸方向の一方側(閉弁側)に設けられ、永久磁石1−2が可動軸方向の他方側(開弁側)に設けられている。
【0036】
また、永久磁石1−1は、可動軸Zと直交する方向に可動軸Zを挟むように2つの磁極を配置した構成とされ、可動軸Zを挟んで対向する一方の面側(図1の状態では上側)がS極、他方の面側(図1の状態では下側)がN極とされている。
【0037】
また、永久磁石1−2も、永久磁石1−1と同様に、可動軸Zと直交する方向に可動軸Zを挟むように2つの磁極を配置した構成とされ、可動軸Zを挟んで対向する一方の面側(図1の状態では上側)がN極、他方の面側(図1の状態では下側)がS極とされている。
【0038】
すなわち、この例において、永久磁石1−1と1−2とは、可動軸方向に異極同士が対向するように、可動軸Zと直交する方向に可動軸Zを挟むように1対の磁極が配置された構成とされている。
【0039】
なお、永久磁石1−1および1−2の磁極の方向は、図1(b)に示されるように、可動軸Zと直交する垂直方向の線L1の方向を基準方向とした場合、この基準方向に対してθだけ傾けられている。
【0040】
また、可動体4は、フランジ(非磁性部材)5とシール管(非磁性部材)6とで作られる隔室、すなわち一端がフランジ5の開口部5aと連通し、他端が閉じられた隔室7内に配置されており、可動体4のシャフト2−1がフランジ5の開口部5aを通して隔室7の外側に延びている。なお、シール管6は、フランジ5の開口部5aと一端が連通するように、一体、または気密接続され、他端が閉じられている。また、フランジ5は、その鍔面が流路への取付部とされる。
【0041】
図1において、8は可動子1の可動軸方向の力を受けてその表面側に配置された弁ゴムと流路に形成された弁座(図示しない)との間の接触・離間により流路の開閉を行う弁体であり、この弁体8に可動体4のシャフト2−1の先端が接続(固定)されている。弁体8には、その裏面側にガイド用の複数の孔8aが形成されており、この孔8aのそれぞれにフランジ5に設けられたピン9が差し込まれている。弁体8は、このフランジ5に設けられたピン9をガイドとしてその可動軸方向への動きが案内されると共に、可動軸Zを中心とする回転がピン9によって規制(阻止)される。
【0042】
また、ピン9によって弁体8の回転が規制(阻止)されることによって、可動体4(可動子1)の可動軸Zを中心とした回転が阻止される。すなわち、可動体4(可動子1)のシャフト2−1の先端が弁体8に接続(固定)されているので、弁体8の回転が規制されると、可動体4(可動子1)の回転も規制される。この弁体8の回転を規制する機構が可動体4(可動子1)の可動軸Z軸を中心とした回転を阻止する回転止め機構(回転止め手段)となっている。
【0043】
図1において、10(10A)は回転子であり、隔室7の外側に設けられている。回転子10は、径方向に着磁されたリングまたは円筒状の永久磁石(この例では、リング状の永久磁石)とされている。回転子10は、円筒状に構成された保持部材(非磁性部材)11の摺動溝11aに回転可能、かつ、可動軸方向の移動を阻止するように保持されており、可動軸Zを中心として回転する。可動体4(可動子1)は、隔室7内において、回転子(リング状の永久磁石)10の中空部10aを通して可動軸方向に移動する。なお、回転子10と保持部材(非磁性部材)11の摺動溝11aの接触面(摺動面)の片方または両方には、例えば、フッ素樹脂系などの乾性被膜潤滑剤による個体潤滑コーティングが施されている。また、保持部材(非磁性部材)11をテフロン(登録商標)やポリアセタールなどの摺動用材料で構成してもよい。
【0044】
回転子10において、リング状の永久磁石の内周面は、可動軸Zを挟んで対向する一方の面側(図1の状態では上側)がN極、他方の面側(図1の状態では下側)がS極とされており、リング状の永久磁石の外周面は、可動軸Zを挟んで対向する一方の面側(図1の状態では上側)がS極、他方の面側(図1の状態では下側)がN極とされている。
【0045】
すなわち、回転子10には、可動軸Zを中心とする第1の円周(内周面)上をN極の位置とし、可動軸Zを中心とする第1の円周よりも大径の第2の円周(外周面)上をS極の位置とする第1の磁極対(上側の磁極対)と、可動軸Zを中心とする第1の円周(内周面)上をS極の位置をとし、可動軸Zを中心とする第1の円周よりも大径の第2の円周(外周面)上をN極の位置とする第2の磁極対(下側の磁極対)とが、可動軸Zを直交する方向に可動子1を挟むように配置されている。
【0046】
なお、この例において、可動子1の永久磁石1−1,1−2は、同一の形状、同一のサイズとされている。また、可動子1の永久磁石1−1,1−2の可動軸方向の長さlは、回転子10の可動軸方向の長さL以上とされている。
【0047】
図1において、14は、可動軸Zとほゞ直交する方向から回転子10に正逆方向の磁界を与えて回転子10を回転(180゜回転)させて、回転子10の内周面上の磁極の配置を、第1の配置と第2の配置との間で入れ替える回転子回転手段である。
【0048】
この回転子回転手段14は、電磁コイル12と、この電磁コイル12のコアの一端および他端にその一方の端部が接続または一体化されたヨーク13−1および13−2とから構成されている。
【0049】
この回転子回転手段14において、ヨーク13−1および13−2の他方の端部は、可動軸Zとほゞ直交する方向から回転子10を挟んで対向している。すなわち、回転子10の外周面の隣り合う1対の磁極にほゞ対向している。また、このヨーク13−1および13−2の他方の端部は、その形状が回転子10の外周面の形状に合わせて円弧状とされている。この円弧の形状は、回転子10の外周と同心円状に形成するのが回転効率を向上させるために好ましい。
【0050】
〔通常のラッチ動作(開弁/閉弁動作)〕
図1の状態は、回転子回転手段14によって回転子10を回転させ、回転子10の内周面上の磁極の配置を第1の配置(上側がN極、下側がS極)に切り替えた状態を示している。
【0051】
この第1の配置において、回転子10(リング状の永久磁石)の内周面の磁極は図1に示されているように、上側がN極、下側がS極となる。この状態において、回転子10は、隔室7の外側から、可動子1の永久磁石1−1を磁気吸引している。すなわち、中空部10a内に可動子1の永久磁石1−1を引き込んで、ラッチ(吸引・保持)している。これにより、弁体8は、可動軸方向の他方側(図1(a)に示す右方向)に移動した状態、すなわち開弁側に移動した状態で停止(開弁状態を維持)している。
【0052】
なお、図1の状態は、回転子回転手段14によって回転子10を回転させた後、すなわち電磁コイル12への通電を行った後、電磁コイル12への通電を遮断した状態(非励磁状態)を示している。
【0053】
この電磁コイル12の非励磁状態において、回転子10は、可動子1の永久磁石1−1との間の磁気吸引力によって、可動子1の永久磁石1−1の磁極の方向に沿って、その磁極の方向をほゞθだけ傾けた状態で静止している。
【0054】
この状態から、回転子回転手段14によって回転子10を回転(180゜回転)させ、回転子10の内周面上の磁極の配置を第2の配置に切り替えたとする。すなわち、回転子10の内周面の磁極の位置を入れ替え、下側をN極、上側をS極にしたとする。すると、可動子1の永久磁石1−1と回転子10との間の磁気吸引力が消失し、永久磁石1−1と回転子10との間に磁気反発力が発生する。
【0055】
これにより、永久磁石1−1が回転子10を離れるとともに、永久磁石1−2が回転子10に近づき、永久磁石1−2との間に生じる磁気吸引力との合力により、可動子1が可動軸方向の一方側(図1(a)に示す左方向)に移動し、可動子1の永久磁石1−2が回転子10によりラッチされる(図2参照)。
【0056】
この可動子1の動力は、シャフト2−1によって弁体8に伝えられ、弁体8を可動軸方向の一方側(閉弁側)に移動させる。すなわち、弁体8を閉の位置に動作させる。そして、回転子10による可動子1の永久磁石1−2のラッチにより、弁体8を閉の位置に留める(閉弁状態を維持する)。
【0057】
なお、図2の状態は、回転子回転手段14によって回転子10を回転させた後、すなわち電磁コイル12への通電を行った後、電磁コイル12への通電を遮断した状態(非励磁状態)を示している。この場合も、回転子10は、可動子1の永久磁石1−2との間の磁気吸引力によって、可動子1の永久磁石1−2の磁極の方向に沿って、その磁極の方向をほゞθだけ傾けた状態で静止する。
【0058】
次に、この状態(図2の状態)から、回転子回転手段14によって回転子10を回転(180゜回転)させ、回転子10の内周面上の磁極の配置を第1の配置に切り替えたとする。すなわち、回転子10の内周面の磁極の位置を入れ替え、下側をS極、上側をN極に戻したとする。すると、可動子1の永久磁石1−2と回転子10との間の磁気吸引力が消失し、永久磁石1−2と回転子10との間に磁気反発力が発生する。
【0059】
これにより、永久磁石1−2が回転子10を離れるとともに、永久磁石1−1が回転子10に近づき、永久磁石1−1との間に生じる磁気吸引力との合力により、可動子1が可動軸方向の他方側(図2(a)に示す右方向)に移動し、可動子1の永久磁石1−1が回転子10によりラッチされる(図1参照)。
【0060】
この可動子1の動力は、シャフト2−1によって弁体8に伝えられ、弁体8を可動軸方向の他方側(開弁側)に移動させる。すなわち、弁体8を開の位置に動作させる。そして、回転子10による可動子1の永久磁石1−1のラッチにより、弁体8を開の位置に留める(開弁状態を維持する)。
【0061】
このようにして、回転子回転手段14によって回転子10を回転させることによって、可動子1が回転子10と非接触で移動し、可動子1の一方側でのラッチ(閉弁状態の維持)、他方側でのラッチ(開弁状態の維持)が行われる。この場合、回転子10の外周面の磁極を回転力発生用に使用し、回転子10の内周面の磁極を可動子1の磁気吸引保持と磁気反発用に使用することから、可動子1との間に発生する磁気吸引力に起因する内周側からの回転を妨げるトルクに対して、外周側からの弱い力で回転子10を回転させることができる。これにより、回転子回転手段14の小型化と省電力化とが可能となる。
【0062】
また、回転子10は、電磁コイル12の非励磁状態において、その磁極の方向がθだけ傾けられて静止しているので、回転子回転手段14からの電磁力を受けて効率よく回転する。すなわち、電磁コイル12の非励磁状態において、ヨーク13−1の他方の端部の中心と可動軸Zとを直交するように結ぶ線とヨーク13−1の他方の端部とほゞ対向する回転子10の外周面の磁極の中心と可動軸Zとを結ぶ線との交差角をθとして、またヨーク13−2の他方の端部の中心と可動軸Zとを直交するように結ぶ線とヨーク13−2の他方の端部とほゞ対向する回転子10の外周面の磁極の中心と可動軸Zとを結ぶ線との交差角をθとして生じさせていることから、電磁コイル12を励磁状態とした時に発生する電磁力が回転子10の回転に効率よく作用する。なお、上述の交差角θをつけていない場合は、つまり、θ=0の場合は、電磁力を受けても右回りと左回り(時計方向と反時計方向)の回転力がバランスしてしまうため回転しにくい。
【0063】
これにより、回転子10を回転させ易くなり、低電力で回転させることができ、回転子回転手段14の省電力化が可能となる。なお、この場合の交差角θは、0゜より大きく、90゜より小さい範囲とすることが好ましい。
【0064】
〔ラッチ状態で他方向への衝撃や一時的な過大力が掛かった場合〕
今、回転子10の内周面上の磁極の配置が第1の配置とされ、可動子1の永久磁石1−1が回転子10に磁気吸引されている場合に(図1参照)、可動軸方向の一方側への衝撃や一時的な過大力が掛かり、可動子1が可動軸方向の一方側へ移動してしまったとする。
【0065】
この場合、可動子1は、回転子10の内周面上の磁極の配置が第1の配置にある状態で、永久磁石1−1が回転子10にラッチされている状態から、可動軸方向の一方側(閉弁側)へ移動する。可動子1の永久磁石1−2が回転子10に近づくと、永久磁石1−2と回転子10との間には磁気反発力が発生する。この際、回転子10とヨーク13−1および13−2の他方の端部との間、および、回転子10と永久磁石1−1との間には磁気吸引力が働いているので、回転子10の回転は規制(阻止)されており、永久磁石1−2との間の磁気反発力は可動軸方向のみの動作として現れる。(なお、回転子10と永久磁石1−2の磁極方向(角度)がほぼ一致しているため、回転力自体も発生しにくい。)これにより、永久磁石1−2が回転子10から離れるとともに、永久磁石1−1が回転子10に近づき、永久磁石1−1と回転子10との間に生じる磁気吸引力との合力により、可動子1が可動軸方向の他方側(開弁側)に戻される。
【0066】
すなわち、可動軸方向の一方側(閉弁側)への衝撃や一時的な過大力が掛かり、可動子1が可動軸方向の一方側へ移動しても、可動子1は可動軸方向の一方側に移動した位置ではラッチされずに、自動的に可動軸方向の他方側(開弁側)に移動した位置でのラッチ(元のラッチ状態)に復帰する。
【0067】
今、回転子10の内周面上の磁極の配置が第2の配置とされ、可動子1の永久磁石1−2が回転子10に磁気吸引されている場合に(図2参照)、可動軸方向の他方側への衝撃や一時的な過大力が掛かり、可動子1が可動軸方向の他方側へ移動してしまったとする。
【0068】
この場合、可動子1は、回転子10の内周面上の磁極の配置が第2の配置にある状態で、永久磁石1−2が回転子10にラッチされている状態から、可動軸方向の他方側(開弁側)へ移動する。可動子1の永久磁石1−1が回転子10に近づくと、永久磁石1−1と回転子10との間には磁気反発力が発生する。この際、回転子10とヨーク13−1および13−2の他方の端部との間、および、回転子10と永久磁石1−2との間には磁気吸引力が働いているので、回転子10の回転は規制(阻止)されており、永久磁石1−1との間の磁気反発力は可動軸方向のみの動作として現れる。(なお、回転子10と永久磁石1−1の磁極方向(角度)がほぼ一致しているため、回転力自体も発生しにくい。)これにより、永久磁石1−1が回転子10から離れるとともに、永久磁石1−2が回転子10に近づき、永久磁石1−2と回転子10との間に生じる磁気吸引力との合力により、可動子1が可動軸方向の一方側(閉弁側)に戻される。
【0069】
すなわち、可動軸方向の他方側(開弁側)への衝撃や一時的な過大力が掛かり、可動子1が可動軸方向の他方側へ移動しても、可動子1は可動軸方向の他方側に移動した位置ではラッチされずに、自動的に可動軸方向の一方側(閉弁側)に移動した位置でのラッチ(元のラッチ状態)に復帰する。
【0070】
このように、本実施の形態の遮断弁では、回転子10を回転させて回転子10の内周面上の磁極の配置を入れ替えなければ、可動子1の一方側に移動した位置から他方側に移動した位置へのラッチの切り換え、他方側に移動した位置から一方側に移動した位置へのラッチの切り換えを行うことができない。また、回転子10の内周面上の磁極の配置を入れ替えない状態で、一方側に移動した位置にラッチされている可動子1の他方側への移動、他方側に移動した位置にラッチされている可動子1の一方側への移動が生じた場合、自動的に元のラッチ状態に復帰する。
【0071】
本実施の形態の遮断弁では、可動子1の可動軸方向の移動に、すなわち遮断弁の開閉状態の変更に、回転子10の回転というロック機構を付加しており、このロック機構を付加することによって、開弁/閉弁状態を確実に維持することが可能となり、安全性が高められる。
【0072】
また、本実施の形態の遮断弁では、可動子1と回転子10の両方に永久磁石を使用し、可動子1を可動軸方向へ移動させるための主動力は、回転子(永久磁石)10との間で働く、移動元側の可動子1(永久磁石)の磁気反発力と、移動先側の可動子1(永久磁石)の磁気吸引力の両方を同時に使用して行い、回転子10を回転させるための回転力は、パイロット動力として、回転子10の内周面上の磁極の配置を入れ替えるためにだけに使用される。これにより、回転子(永久磁石)10に近接した位置から回転子10の外周上の磁極に瞬間的に磁界を与え、回転子10の内周面上の磁極の配置を入れ替えるために必要な回転トルクを発生させるようにするだけでよく、従来のソレノイド(特許文献1)やステッピングモータ(特許文献2)で可動軸方向への移動の主動力に使われる場合よりも、(原理的に)少ない電力で動作させることが可能となる。特に、特許文献2に対しては、電圧(パルス)印加時間が大幅に短くなるため、省電力化が実現できる。よって、電池駆動の遮断弁には好適である。
【0073】
また、本実施の形態の遮断弁では、開弁と閉弁で電気的(および動作シーケンス的)な仕様はほゞ同じでよいため、コントール回路の構成も簡素化できる。すなわち、特許文献1の技術では、開弁時のみ大きなコンデンサを備えた昇圧回路が必要であり、特許文献2の技術では、ステップモータ用ドライバ回路が必要であり、コントロール回路の構成が複雑となる。これに対して、本実施の形態の遮断弁では、基本的にトランジスタのスイッチング回路のみで可能であり、コントール回路の構成を簡素化することができる。
【0074】
〔可動体について〕
本実施の形態において、可動体4は、隔室7内を移動する。このため、可動子1やシャフト2−1,2−2などの移動で隔室7内の圧力が変化して可動子1の動作を妨げることがないように、摺動体3−1,3−2やシャフト2−1,2−2、永久磁石1−1,2−2などにスリットや面取り加工などを行ってガスの流通路を作り、ガスの流動を可能としている。
【0075】
なお、図1に示した構成では、小型化のために、シャフト2−1,2−2に摺動体3−1,3−2を設けて、摺動体3−1,3−2の外面と隔室7の内面とで可動体4の移動を案内させるようにしているが、隔室7内にブッシュ(リニアガイド)を設置(固定)して、シャフト2−1,2−2の外周面とブッシュ(リニアガイド)の内周面とで可動体4を案内する一般的な構成としてもよい。
【0076】
〔可動子について〕
図1に示した構成では、可動子1の永久磁石1−1,1−2を円柱状としたが、円筒状とするなどしてもよい。可動子1の永久磁石1−1,1−2を円柱状としたり、円筒状としたりすることにより、外側に配置される回転子10の内周面との距離を近く設定することができるため、磁気的な効率が良く、小型化にも都合がよい。さらに、円筒状の場合は、体積や磁極間距離に応じて磁力は弱くなるが、内側にシャフトを通して固定できるので、軸合わせやシャフトとの接続が容易になり組立やすくなる。また、円筒状の場合は、シャフトも管状にすることにより隔室7内のガスの流通路としてガスの流動を可能とし、上述したような可動体4の動作を妨げる可動体4の移動による隔室7内の圧力変化を抑制することもできる。可動子1の永久磁石1−1,1−2は、角型としてもよいが、円柱または円筒状とすることが、磁気的およびスペース的な効率が最も良い形状であると言える。
【0077】
また、図1に示した構成では、可動子1の永久磁石1−1,1−2を同一の形状、同一のサイズとしたが、必ずしも同一の形状、同一のサイズとしてなくてもよい。同一の形状、同一のサイズとすることにより、双方向の動作特性を均一にすることができる。なお、逆に永久磁石1−1,1−2の形状やサイズを変えることにより、双方向の動作特性を非対称にすることも可能である。
【0078】
また、図1に示した構成では、可動子1の永久磁石1−1,1−2の可動軸方向の長さlを回転子10の可動軸方向の長さL以上としているが、必ずしもl≧Lとしなくてもよい。l≧Lとすることにより、可動子1のストロークを大きくすることができる。
【0079】
また、図1に示した構成では、可動子1の永久磁石1−1,1−2を一体としているが、必ずしも一体としてなくてもよく、永久磁石1−1,1−2を別部材として磁力や接着などにより接続しても良い。可動子1の永久磁石1−1,1−2を一体とすることにより、すなわち多磁極着磁で同一部材に永久磁石1−1,1−2を形成することにより、構成が簡素になり、組立を容易とすることができる。
【0080】
図3に、可動子1の永久磁石1−1と永久磁石1−2とを離間して配置するようにした例(図1に対応する図)を示す。図3に示した例では、可動子1を永久磁石1−1と永久磁石1−2とで構成し、この永久磁石1−1と永久磁石1−2との間(可動軸方向)を非磁性の部材(シャフトなど)1aで連結している。このような可動子1(1B)を用いることにより、可動子1のストロークをさらに大きくすることができる。なお、双安定移動手段の動作に悪影響を与えないように、永久磁石1−1,1−2の連結には非磁性の部材を使用している。図4図2に対応する図を示す。
【0081】
図3に示されるような構成とする場合、可動子1(1B)の永久磁石1−1,1−2が回転子10の中空部10a内に入らないように、可動子1(1B)の永久磁石1−1,1−2の内側(非磁性の部材1a側)の端面付近で止まるように可動子1(1B)の可動範囲を制限すると、回転子10の回転を妨げる永久磁石1−1,1−2と回転子10の内周側の磁極との間の吸引力の可動軸Zと垂直方向のベクトル成分が大きくなるのを抑制できるので、回転子10を回転させやすくなる。また、可動子1(1B)の永久磁石1−1,1−2の内側の端面が回転子10の中空部10a内にわずかに(例えば、回転子10が外径13mm、内径8mm程度のリング状永久磁石であれば、0.5mm程度)入ったところで止まるように可動子1(1B)の可動範囲を制限すると、さらに回転子10を回転させやすくなる。これは、可動子1(1B)の永久磁石1−1,1−2の回転子10に接近している方の永久磁石の磁極と、回転子10の内周側の磁極との間(異極同士)に発生する吸引力の他に、回転子10の外周側の磁極との間(同極同士)に発生する反発力の影響も受けるためお互いの力がバランスし、回転子10が可動子1(1B)の永久磁石1−1,1−2の回転子10に接近している方の永久磁石から受ける合力として、回転子10の回転を妨げる力が弱くなるためである。
【0082】
〔可動子の可動範囲の規制〕
図5に可動子1の可動範囲を制限するようにした例を示す。この例では、可動子1の可動軸方向の一方側(閉弁側)への移動を、弁体8が着座する弁座15をメカ的なストッパとして規制し、可動子1の可動軸方向の他方側(開弁側)への移動を、シール管6の端面(閉塞面)に設けたスペーサ16をメカ的なストッパとして規制し、これによって可動子1の可動範囲を制限するようにしている。
【0083】
また、図3に示されるような構成とする場合、可動子1および回転子10の近接対向するエッジの両方または片方に面取り部を形成するようにしてもよい。図6に、可動子1および回転子10の近接対向するエッジの両方に面取り部を形成するようにした例を示す。図6(a)は要部の側面断面図であり、図6(b)は図6(a)を左方向から見た図、図6(c)は図6(a)を右方向から見た図である。なお、図6において、回転子回転手段14やシール管6などは省略している。
【0084】
図6に示した例では、可動子1の永久磁石1−1および1−2の回転子10に近接対向するエッジに、面取り部1aおよび1bを形成している。また、回転子10の可動子1の永久磁石1−1および1−2に近接対向するエッジに、面取り部10bおよび10cを形成している。
【0085】
可動子1と回転子10のエッジ部が近接した時、急激に磁気吸引力が高くなり、可動子1に発生する力の特性が急変するとともに、回転を妨げる可動軸Zと直交する方向の力も大きくなる。可動子1および回転子10Aの近接対向するエッジの両方または片方に面取り部を形成することにより、特性変化が滑らかになるため、固体間によるばらつきが小さくなり、可動軸Zと直交する方向の力も弱くなるため、回転を妨げるトルクも小さくなり、回転子回転手段14における低電力化が可能となる。また、可動軸Zと平行な方向の力成分が大きくなるため、可動子1の発生力が向上する。
【0086】
〔回転子について〕
図1に示した構成では、回転子10をリングまたは円筒状の永久磁石としたが、リング状や円筒状の永久磁石に限られるものではなく、図7に示すように、1対の磁極を持つ永久磁石10−1,10−2を、その磁極方向が可動軸Zと直交するように、可動子1を挟むようにして配置した構成としてもよい。
【0087】
図7に示した構成では、環状の保持部材(非磁性部材)10−3の外周面に矩形状の永久磁石10−1,10−2を嵌め込んで、全体の形状をリングまたは円筒状とした回転子10(10B)を用いている。
【0088】
この回転子10(10B)では、永久磁石10−1のN極および永久磁石10−2のS極の位置を回転子10(10B)のほゞ内周面上(第1の円周上)とし、永久磁石10−1のS極および永久磁石10−2のN極の位置を回転子10(10B)の外周面上(第2の円周上)としている。すなわち、1対の磁極を持つ永久磁石10−1,10−2を、その磁極方向が可動軸Zと直交するように、可動子1を挟むようにして配置した構成としている。
【0089】
なお、図8に示すように、円板状の保持部材(非磁性部材)10−4上に矩形状の永久磁石10−1,10−2を設けるようにしてもよく、図9に示すように、半リングまたは半円筒状の保持部材(非磁性部材)10−5と10−6の端部間に矩形状の永久磁石10−1,10−2を挟むようにしてもよい。図7図9に示すような保持部材10−3〜10−6を用いることにより、磁石材料の使用量を削減することができ、摺動部を一体化するなど、設計の自由度が広がる。
【0090】
また、図1に示した構成では、回転子10を隔室7の外側に設けるようにしたが、例えば図10に示すように隔室7内に回転子10を設けるようにしてもよい。図10に示した例では、フランジ5とシール管6に挟まれた隔室7内の空間(溝状の空間)に、可動軸Zを中心として回転可能に、かつ可動軸方向の移動を阻止するように回転子10を保持させている。
【0091】
〔回転子回転手段について〕
図1に示した構成では、回転子回転手段7(7A)を電磁コイル12とヨーク13−1,13−2とから構成し、ヨーク13−1および13−2の他方の端部を可動軸Zとほゞ直交する方向から回転子10を挟んで対向させるようにしているが、必ずしもこのような構成でなくてもよい。
【0092】
例えば、図示してはいないが、可動軸Zを挟んでその軸芯をほゞ一致させてかつそのコアの一端を対向させて配置した1組の電磁コイルを用い、この1組の電磁コイルのコアの他端を連結するヨークとで回転子回転手段を構成するようにしてもよい。
【0093】
また、図1に示した構成では、ヨーク13−1および13−2の他方の端部の形状を回転子10の外周面の形状に合わせて円弧状としているが、図11に示すように、ヨーク13−1および13−2の他方の端部の形状を平坦面としてもよい。なお、ヨーク13−1および13−2の他方の端部の形状を円弧状とすると、回転力の発生効率が良くなる(低磁束(低電力)で回転させることができる)。また、それぞれ対向するヨーク13−1および13−2の円弧の両端部分は、断面積を小さく(磁気抵抗を高く)し、近接して対向させることが回転力を大きくするために好ましい。さらに、この円弧の形状は、回転子10の外周と同心円状に形成するのが回転効率を向上させるために好ましい。
【0094】
また、図1に示した構成では、ヨーク13−1および13−2の他方の端部の突き合わせ部に空間を設けているが、図12に示すように、突き合わせ部に空間を設けずに接続または一体化するようにしてもよい。ヨーク13−1および13−2の他方の端部の突き合わせ部を接続または一体化すると、すなわちヨーク13−1および13−2の他方の端部を部分的に接続または一体化すると、回転力の発生効率はやや低下するが、位置合わせや組み付けが容易となる。
【0095】
また、図1に示した構成では、電磁コイル12の非励磁状態における回転子10の交差角θの設定を可動子1の可動軸Zを中心とする回転角度の設定によって行うようにしているが、ヨーク13−1および13−2の非対称な形状または配置で行うようにしてもよい。図13図14にその一例を示す。
【0096】
図13に示した例では、ヨーク13−1および13−2の他方の端部の形状を非対称とすることにより、電磁コイル12の非励磁状態において、回転子10とヨーク13−1および13−2の他方の端部との間に働く吸引力によって回転子10の回転角度がバランスする安定位置を設定することにより交差角θを生じさせるようにしている。
【0097】
図14に示した例では、ヨーク13−1および13−2の他方の端部にノッチ13aおよび13bを設けることにより、電磁コイル12の非励磁状態において、回転子10とヨーク13−1および13−2の他方の端部との間に働く吸引力によって回転子10の回転角度がバランスする安定位置を設定することにより交差角θを生じさせるようにしている。
【0098】
このように、ヨーク13−1および13−2の非対称な形状または配置で交差角θの設定を行うようにすると、回転子10を所定の角度位置に保持する保持トルクが働くため、電磁コイルの励磁以外の要因による回転を妨げ、誤動作を防止することが可能となる。
【0099】
なお、図13および図14に示した例において、可動子1の磁極の方向は、可動子1の可動軸Z方向の発生力を最大にするために、可動子1の磁極の方向も回転子10の磁極の方向と合わせるように回転止め機構によって設定することが好ましい。
【0100】
また、図15に示すように、図11に示した構成において、可動軸Zとほゞ直交する方向から回転子10を挟んで対向するヨーク13−1,13−2の端部の中心を結ぶ線と可動軸Zとを交わらせないようにしてもよい。
【0101】
また、図16に示すように、図11に示した構成において、可動軸Zとほゞ直交する方向から回転子10を挟んで対向するヨーク13−1,13−2の端部の中心を、可動軸Zに直交する面内で回転子10の両側にずらすようにしてもよい。
【0102】
図15図16に示すような構成とすると、図11に示した構成に比べて電磁コイル12の励磁で回転し易くなるため、低電力で回転させることができ、回転子回転手段14の 省電力化が可能となる。
【0103】
〔回転止め機構の他の例〕
図17に可動体4(可動子1)の可動軸Zを中心とした回転を阻止する機構(回転止め機構)の他の例を示す。図17(a)は要部の側面断面図であり、図17(b)は図17(a)におけるD−D線断面図である。
【0104】
この例では、摺動体3−1の外周面に突起3a,3bを設け、フランジ5に溝5b,5cを設け、摺動体3−1の突起3a,3bをフランジ5の溝5b,5cに係合させることによって、可動体4(可動子1)の可動軸Zを中心とした回転を阻止するようにしている。また、この突起3a,3bと溝5b,5cとの係合によって、つまり、フランジ5の溝5b,5cの可動軸Zを中心とした回転角度の設定によって、可動体4(可動子1)の可動軸Zを中心とする回転角度を設定し、この回転角度の設定によって可動子1の永久磁石1−1および1−2の磁極の方向の傾きθを設定している。
【0105】
図18に可動体4(可動子1)の可動軸Zを中心とした回転を阻止する機構(回転止め機構)の別の例を示す。図18(a)は要部の側面図であり、図18(b)は図18(a)におけるE−E線断面図である。
【0106】
この例において、可動子1の一端に接続されたシャフト2−1はブッシュ(リニアガイド)17−1に挿通され、可動子1の他端に接続されたシャフト2−2はブッシュ(リニアガイド)17−2に挿通されている。ブッシュ(リニアガイド)17−1,17−2は隔室7内に固定されており、このブッシュ(リニアガイド)17−1,17−2内を可動体4(可動子1)が可動軸方向に移動する。この場合、可動体4は、可動子1(1A)とシャフト2−1と2−2とから構成される。
【0107】
ブッシュ(リニアガイド)17−1,17−2の内周面には、突起17a,17bが形成されており、この突起17a,17bにシャフト2−1,2−2の外周面に可動軸方向に沿って形成されている溝2a,2bを係合させて、シャフト2−1,2−2をブッシュ(リニアガイド)17−1,17−2に挿通させている。
【0108】
この突起17a,17bと溝2a,2bとの係合によって、可動体4(可動子1)の可動軸Zを中心とした回転が阻止される。また、この突起17a,17bと溝2a,2bとの係合によって、つまり、ブッシュ(リニアガイド)17−1,17−2の突起17a,17bの可動軸Zを中心とした回転角度の設定によって、可動体4(可動子1)の可動軸Zを中心とする回転角度が設定され、この回転角度の設定によって可動子1の永久磁石1−1および1−2の磁極の方向の傾きθが設定される。
【0109】
図19図22に回転止め機構のさらに別の例を示す。図19に示した例では、弁体8の裏面側に設けられた複数のピン18をフランジ5に設けられた孔5dに挿入することにより、弁体8の可動軸方向への動きを案内すると共に、弁体8の可動軸Zを中心とする回転方向の動きを規制(可動体4(可動子1)の可動軸Zを中心とした回転を阻止)するようにしている。
【0110】
図20に示した例では、シャフト2−1に円板状のガイド19を固定し、このガイド19にフランジ5に設けられた複数のピン20を係合させることによって、弁体8の可動軸方向への動きを案内すると共に、弁体8の可動軸Zを中心とする回転方向の動きを規制(可動体4(可動子1)の可動軸Zを中心とした回転を阻止)するようにしている。
【0111】
図21に示した例では、弁体8の裏面側に設けられた複数の凸部8bとフランジ5に設けられた複数の凸部5dとを噛み合わせることにより、弁体8の可動軸方向への移動を案内すると共に、弁体8の可動軸Zを中心とする回転方向の動きを規制(可動体4(可動子1)の可動軸Zを中心とした回転を阻止)するようにしている。
【0112】
図22に示した例では、弁体8の裏面側に設けられた柱状の凸部8cをフランジ5に設けられた角孔5eに挿入することにより、弁体8の可動軸方向への動きを案内すると共に、弁体8の可動軸Zを中心とする回転方向の動きを規制(可動体4(可動子1)の可動軸Zを中心とした回転を阻止)するようにしている。
【0113】
図19図22に示すような構成(図1に示した構成も同じ)とすることにより、弁体8に何らかの外力(可動軸Zを中心とした回転力)が加わってしまった場合の誤動作を防止することができると共に、回転止めをシャフト側に設けないようにすることが可能となる。
【0114】
〔可動子の永久磁石について〕
図1に示した構造では、可動子1を構成する永久磁石1−1,1−2を2磁極としているが、4磁極以上(例えば、円柱径方向着磁(円筒の場合は、内周側にも磁極があるため8磁極))の多磁極の永久磁石としてもよい。
【0115】
図23に、可動子1の永久磁石1−1,1−2を円柱状の永久磁石とし、この円柱状の永久磁石を4磁極とした場合の構成図を示す。図23(a)は要部の側面断面図であり、図23(b)は図23(a)を左方向から見た図、図23(c)は図23(a)を右方向から見た図である。なお、図23において、図1に示されている回転子回転手段14やシール管6などは省略している。
【0116】
この例では、可動子1の永久磁石1−1の円周方向を4分割し、90゜間隔で隣接する周方向の面に磁極を形成している。この例では、90゜間隔で隣接する周方向の第1の面(図23(b))では上側の面)にS極を、第2の面(図23(b)では左側の面)にN極を形成し、第3の面(図23(b)では下側の面)にS極を、第4の面(図23(b)では右側の面)にN極を形成している。
【0117】
同様に、可動子1の永久磁石1−2の円周方向を4分割し、90゜間隔で隣接する周方向の面に磁極を形成している。この例では、90゜間隔で隣接する周方向の第1の面(図23(c))では上側の面)にN極を、第2の面(図23(c)では左側の面)にS極を形成し、第3の面(図23(c)では下側の面)にN極を、第4の面(図23(c)では右側の面)にS極を形成している。
【0118】
また、これに伴い、回転子10もその内周面を4磁極、外周面を4磁極、合計8磁極のリング状の永久磁石としている。すなわち、回転子10の内周面を円周方向に4分割し、90゜間隔で隣接する周方向の面に磁極を形成している。この例では、90゜間隔で隣接する周方向の第1の面(図23(b))では上側の面)にN極を、第2の面(図23(b)では左側の面)にS極を形成し、第3の面(図23(b)では下側の面)にN極を、第4の面(図23(b)では右側の面)にS極を形成している。
【0119】
なお、図23に示した構造において、回転子回転手段14を設ける場合には、図24に示すように、ヨーク13−1および13−2の他方の端部は、可動軸Zとほゞ直交する方向から回転子10の永久磁石の外周面上の隣り合う1対の磁極にほゞ対向するように配置する。
【0120】
このようなヨーク13−1,13−2の配置とする場合も、電磁コイル12の非励磁状態において、ヨーク13−1の他方の端部の中心と可動軸Zとを直交するように結ぶ線とヨーク13−1の他方の端部とほゞ対向する回転子10の永久磁石の外周面上の磁極の中心と可動軸Zとを直交するように結ぶ線との交差角をθとして、またヨーク13−2の他方の端部の中心と可動軸Zとを直交するように結ぶ線とヨーク13−2の他方の端部とほゞ対向する回転子10の永久磁石の外周面上の磁極の中心と可動軸Zとを直交するように結ぶ線との交差角をθとして、位置させるようにすることが望ましい。
【0121】
なお、例えば、可動子1を構成する永久磁石1−1,1−2を4磁極とする場合、図25に示すように、回転子10における磁極対は上下だけの2方向でもよい。但し、磁極対を上下だけの2方向とした場合、同極対向となるので、コイル(電磁力)による回転は難しくなるが、構成は可能である。
【0122】
また、上述した実施の形態では、可動体4(可動子1)と回転子10と回転子回転手段14とで双安定移動手段が構成されているが、この双安定移動手段は、可動子1が可動軸方向の一方側に移動した位置(第1の位置)でラッチされているときと、可動軸方向の他方側に移動した位置(第2の位置)でラッチされているときで、可動軸方向に対称な構造や特性にするのが一般的であるが、その用途や仕様に応じて、第1と第2の位置に関係する永久磁石のサイズ、形状、配置などのバランスを変えて、遮断/復帰(閉弁/開弁)動作の特性を変えてもよい。例えば、遮断弁では閉弁状態において弁体に弁体を閉弁する方向にガス圧(背圧)がかかっているため、開弁時は閉弁時よりも大きな力が必要であり、力特性を非対称にした方が効率がよい。なお、図5に示したような可動子1の可動範囲を制限する手段の設定で設定することも可能である。
【0123】
また、上述した実施の形態において、永久磁石は、例えば、ネオジムやサマリウムコバルトなどの希土類磁石またはフェライト磁石、あるいは、それらの磁性体粉末に樹脂を混合して成形したボンド磁石などからなる。ヨークやコアは、飽和磁束密度や透磁率が大きく、保磁力が小さく、磁気ヒステリシスの小さい軟磁性材料(例えば、電磁鋼板、電磁軟鉄、パーマロイなど)からなる。また、シャフトなどの非磁性部材は、例えば、アルミ、SUS316(L)、真鍮、樹脂などからなる。なお、非磁性部材は、上述のような非磁性材料の代わりに、わずかに磁性を持つ材料(例えば、SUS304など)でも構成は可能であり、性能は低くなるがコストなどの観点から選択することも考えられる。弁体は、単弁構造でも、パイロット弁(逃がし弁)を有する副弁構造でもよい。上述した実施の形態では、弁体8は回転しないような構成にしたが、可動体4側に回転止め機構があれば、弁体8を回転可能に構成してもよい。その場合は、弁体8とシャフト2−1との間に回転摺動機構やベアリングなどの回転力の伝達を抑制する手段を設けることが好ましい。また、都市ガスやLPガスの供給管路やガスメータ内に設置されるガス緊急遮断装置に限られるものではなく、他の用途の遮断弁にも適用可能である。
【0124】
〔実施の形態の拡張〕
以上、実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0125】
1(1A,1B)…可動子、1−1,1−2…永久磁石、2−1,2−2…シャフト、3−1,3−2…摺動体、4…可動体、5…フランジ、6…シール管、7…隔室、8…弁体、10(10A,10B)…回転子、10−1,10−2…永久磁石、12…電磁コイル、13−1,13−2…ヨーク、14…回転子回転手段。
図8
図9
図21
図22
図23
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図3
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