(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097195
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】スパッタ装置およびスパッタ装置のメンテナンス方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/00 20060101AFI20170306BHJP
C23C 14/56 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
C23C14/00 B
C23C14/56 E
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-212629(P2013-212629)
(22)【出願日】2013年10月10日
(65)【公開番号】特開2015-74811(P2015-74811A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094248
【弁理士】
【氏名又は名称】楠本 高義
(74)【代理人】
【識別番号】100129207
【弁理士】
【氏名又は名称】中越 貴宣
(74)【代理人】
【識別番号】100185454
【弁理士】
【氏名又は名称】三雲 悟志
(72)【発明者】
【氏名】梨木 智剛
(72)【発明者】
【氏名】濱田 明
【審査官】
延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/053171(WO,A1)
【文献】
特開2010−53382(JP,A)
【文献】
特開2006−322055(JP,A)
【文献】
特開平10−36967(JP,A)
【文献】
特開平10−212578(JP,A)
【文献】
特開2012−136724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 − 14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空槽と、
前記真空槽内に備えられた成膜ロールと、
前記成膜ロールと対向するターゲットと、
前記ターゲットを支持するカソードと、
前記ターゲットおよびカソードを支持するカソード台車と、
前記カソード台車に設けられた、前記ターゲットおよびカソードを前記ターゲットの長手方向を回転軸として回転可能に支持するカソード回転機構と、
前記カソード台車に設けられた、前記カソード回転機構の高さを変更可能に支持するカソードスライド機構と、
前記カソード台車を移動可能に支持案内する案内部品を備えたスパッタ装置。
【請求項2】
前記カソード回転機構が、角度センサーを備えた請求項1に記載のスパッタ装置。
【請求項3】
前記カソードスライド機構が、距離センサーを備えた請求項1または2に記載のスパッタ装置。
【請求項4】
カソード台車を移動して、前記カソード台車に支持されたターゲットおよびカソードを真空槽外に取り出す工程と、
カソード回転機構を稼働して、前記ターゲットが上向きになるように、前記ターゲットおよび前記カソードを回転させる工程と、
カソードスライド機構を稼働して、高所の前記ターゲットおよび前記カソードを、低所に移動させる工程と、
前記ターゲットを前記カソードから外し、前記ターゲットとは異なる新規ターゲットを前記カソードに取り付ける工程と、
前記カソードスライド機構を稼働して、前記新規ターゲットおよび前記カソードを移動させて元の高さに戻す工程と、
前記カソード回転機構を稼働して、前記新規ターゲットおよび前記カソードを回転させて元の方向に戻す工程と、
前記カソード台車を逆方向に移動して、前記カソード台車に支持された前記新規ターゲットおよび前記カソードを前記真空槽内に戻す工程を含む、スパッタ装置のメンテナンス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のターゲットおよびカソードを備え、長尺フィルム基材の表面に薄膜を形成するスパッタ装置、およびそのようなスパッタ装置のメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長尺フィルム基材の表面に薄膜を形成する方法としてスパッタ法が広く用いられている。長尺フィルム基材のスパッタ装置においては、成膜ロールとターゲットは所定の間隔を隔てて対向している。低圧アルゴンガスなどのスパッタガス中で、長尺フィルム基材を巻き付けた成膜ロールをアノード電位とし、ターゲットをカソード電位とする。成膜ロールとターゲットの間に電圧を印加して、成膜ロールとターゲットの間にスパッタガスのプラズマを生成させる。プラズマ中のスパッタガスイオンがターゲットに衝突し、ターゲットの構成物質が叩き出される。叩き出されたターゲットの構成物質が長尺フィルム基材の表面に堆積し薄膜となる。
【0003】
長尺フィルム基材の場合、長尺フィルム基材全体に一度にスパッタ膜を成膜することは不可能である。そこで、供給ロールから繰り出された長尺フィルム基材を成膜ロール(キャンロール)に一周弱巻き付け、成膜ロールを回転させて長尺フィルム基材を連続的に走行させる。そして長尺フィルム基材の、ターゲットと対向する部分に成膜を行なう。成膜の終わった長尺フィルム基材は収納ロールに巻き取られる。
【0004】
一般に、ターゲットはカソードにネジ止め支持されている。ターゲットとカソードは同電位である。ターゲットとカソードは組(セット)になっているので、ターゲット/カソードと表示することにする。ターゲットを交換するときはネジを外して、ターゲットとカソードを分離する。薄膜形成を進めるに従いターゲットは消耗する。ターゲットが所定量消耗したら、新しいターゲットに交換しなければならない。またカソードにはターゲットの構成物質などの汚染物質が付着する。カソードの汚染がひどくなると、異常放電が発生したり、薄膜に不純物が混合したりする。そのため、汚染がひどくなる前にカソードの清掃を行なわなければならない。カソードの清掃の際もターゲットとカソードを分離することが望ましい。
【0005】
小型のスパッタ装置の場合、ターゲットは人力で容易に交換できる。またカソードの清掃も容易である。しかし、現在の長尺フィルム基材のスパッタ装置は、長尺フィルム基材の幅が1.6m程度あるため、ターゲット/カソードの重さが数百kgもある。ターゲットやカソードは人力では到底扱えないので、ターゲット交換の際にはクレーンやリフトを使用しなければならない。
【0006】
ターゲットは成膜ロールと狭い間隔を隔てて対向している。そのため、ターゲットが成膜ロールと対向した位置で、ネジを外してターゲットを交換することは困難である。以前から行なわれていたメンテナンス方法では、まずターゲット/カソードをメンテナンス用台車に載せて真空槽から取り出す。次にメンテナンス用台車上で古いターゲットの止めネジを外し、古いターゲットを除き、カソードの汚染を清掃する。次に新しいターゲットをネジ止めする。その後、メンテナンス用台車を用いて、ターゲット/カソードを真空槽内の所定の位置に戻して固定する。
【0007】
上記の以前から行なわれていたメンテナンス方法では作業の能率が悪い上、大きくて重いターゲット/カソードをメンテナンス用台車へ載せ換えることは危険である。特に成膜ロールを取り囲むように多数のターゲット/カソードが設置されたスパッタ装置では、ターゲット/カソードを抜き出し、古いターゲットを外し、カソードを清掃し、新しいターゲットを取り付け、ターゲット/カソードを戻す作業を一本ずつ行なうと、メンテナンスに非常に長時間かかり、スパッタ装置の稼働率が大きく低下する。
【0008】
上記の問題に対して、既に色々な工夫が行なわれている。例えば特許文献1(特開平10−36967)および特許文献2(特開2002−60936)では、真空槽の壁の一部を開閉可能な可開壁とし、ターゲット/カソードを可開壁に固定する。可開壁を成膜ロールの中心軸と平行に移動させると、ターゲット/カソードは可開壁に固定されたまま、真空槽から取り出される。そこでターゲットを交換し、カソードの汚染を清掃する。その後、可開壁を元の位置に移動させて、ターゲット/カソードを、真空槽内の所定の位置(成膜ロールを取り囲む位置)に戻す。このメンテナンス方法によれば、ターゲット/カソードをメンテナンス用台車へ載せ換える必要がないため、ターゲット/カソードの取り出しと元の位置に戻す作業の効率が良い。また作業の危険も少ない。
【0009】
あるいは特許文献3(特開2006−322055)では、真空槽の壁の一部を開閉可能な可開壁とし、ターゲット/カソードを可開壁にヒンジを介して固定する。可開壁を成膜ロールの中心軸と平行に移動させると、ターゲット/カソードは可開壁に固定されたまま、真空槽から取り出される。次にヒンジを利用して、ターゲット/カソードを可開壁に対して直角方向に開くと、作業領域が広くなる。そこでターゲットを交換し、カソードの汚染を清掃する。その後、ターゲット/カソードを元の角度に戻してから、可開壁を元の位置に移動させて、ターゲット/カソードを真空槽内の所定の位置(成膜ロールを取り囲む位置)に戻す。このメンテナンス方法によれば、メンテナンス用台車へ載せ換える必要がない上、作業領域が広くなるので、複数のターゲットの交換やカソードの清掃を二人以上で同時に実施することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−36967号公報
【特許文献2】特開2002−60936号公報
【特許文献3】特開2006−322055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1および特許文献2のメンテナンス方法では、メンテナンス用台車へ載せ換える必要はない。また一括して全部のターゲット/カソードを抜き出し、かつ、戻すことができる。そのため以前から行なわれていたメンテナンス方法より効率が良い。また、メンテナンス用台車へ載せ換える際の危険がない。しかし抜き出したターゲット/カソードは成膜ロールを取り囲んでいた配置のままである。そのため作業者は、脚立に乗って成膜ロールのあった空間に入り込み、ターゲットの交換とカソードの清掃を行なわなければならない。成膜ロールのあった空間に二人以上の作業者が入り込むのは難しいので、二人以上の作業者が同時に作業を進めることは難しい。そのため以前から行なわれていた方法よりは効率が良いが、作業時間を大幅に短縮することは難しい。また脚立に乗った作業は危険である。
【0012】
特許文献1および特許文献2のメンテナンス方法では、抜き出したターゲット/カソードは成膜ロールを取り囲んでいた配置のままであるから、ターゲットによっては横向き、あるいは下向きである。ターゲットが横向き、あるいは下向きの場合、ターゲットをカソードに止めているネジを外すと、ターゲットが落下して非常に危険である。そのためネジを外す前に、ターゲットの落下防止治具を取付ける等の準備作業が必要である。これはメンテナンス作業の能率を低下させる。
【0013】
特許文献3のメンテナンス方法では、ターゲット/カソードを可開壁に対して直角方向に開くと、作業領域が広くなる。作業領域が広いため、複数のターゲットの交換やカソードの清掃を二人以上で同時に実施できる。そのため特許文献1および特許文献2の方法より能率が良く、メンテナンス作業時間を短縮できる。しかしターゲット/カソードを直角方向に開いても、高所にあるターゲット/カソードの高さは変わらないから、脚立に乗って作業をしなければならない。脚立に乗った作業は危険である。
【0014】
また特許文献3の方法で、ヒンジを利用して、ターゲット/カソードを可開壁に対して直角方向に開いても、カソードに対するターゲットの上下の向きは変わらない。つまり開く前のターゲットが横向き(下向き)のときは、開いた後のターゲットの方向も横向き(下向き)である。その状態でターゲットをカソードにとめているネジを外すと、ターゲットが落下して非常に危険である。そのためネジを外す前に、ターゲットの落下防止治具を取付ける等の準備作業が必要である。従ってターゲットの交換の能率は、特許文献1および特許文献2の方法とそれほど変わらない。
【0015】
本発明の目的は、ターゲット/カソードのメンテナンス(ターゲット交換、カソード清掃)において、一括して全部のターゲット/カソードを取り出し、かつ、戻すことができることに加えて、(1)二人以上で同時にメンテナンス作業ができるようにすること、(2)高所(脚立)作業をなくすこと、(3)全部のターゲットを、ネジを外しても落下しない、上向きの状態で交換することである。二人以上で同時に作業する目的は作業時間を短縮するためである。脚立作業をなくす目的は、危険防止と作業時間を短縮するためである。全部のターゲットを上向きの状態で交換する目的は、危険防止と作業時間を短縮するためである。本発明によって、メンテナンス時間を短縮することができ、高価なスパッタ装置の稼働率を高めてコストダウンを行なうと共に、生産量を増やすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(1)本発明のスパッタ装置は次のものを備える。真空槽。真空槽内に備えられた成膜ロール。成膜ロールと対向するターゲット。ターゲットを支持するカソード。ターゲットおよびカソードを支持するカソード台車。カソード台車に設けられた、ターゲットおよびカソードをターゲットの長手方向を回転軸として回転可能に支持するカソード回転機構。カソード台車に設けられた、カソード回転機構の高さを変更可能に支持するカソードスライド機構。カソード台車を移動可能に支持案内する案内部品。案内部品は代表的にはレールあるいは溝である。
(2)本発明のスパッタ装置においては、カソード回転機構が、角度センサーを備える。
(3)本発明のスパッタ装置においては、カソードスライド機構が、距離センサーを備える。
(4)本発明の、スパッタ装置のメンテナンス方法は次の工程を含む。
(a)カソード台車を移動して、カソード台車に支持されたターゲットおよびカソードを真空槽外に取り出す工程。
(b)カソード回転機構を稼働して、ターゲットが上向きになるように、ターゲットおよびカソードを回転させる工程。
(c)カソードスライド機構を稼働して、高所のターゲットおよびカソードを低所に移動させる工程。
(d)ターゲットをカソードから外し、新規ターゲットをカソードに取り付ける工程。
(e)カソードスライド機構を稼働して、新規ターゲットおよびカソードを移動させて元の高さに戻す工程。
(f)カソード回転機構を稼働して、新規ターゲットおよびカソードを回転させて元の方向に戻す工程。
(g)カソード台車を逆方向に移動して、カソード台車に支持された新規ターゲットおよびカソードを真空槽内に戻す工程。
【発明の効果】
【0017】
本発明のスパッタ装置およびスパッタ装置のメンテナンス方法により次の効果が得られる。
(1)全ターゲット/カソードがカソード台車に支持されているため、カソード台車を移動させることにより、一括して全部のターゲット/カソードを取り出し、かつ、戻すことができる。
(2)カソード台車を移動して、カソード台車に支持されたターゲットおよびカソードを真空槽外に取り出し、カソードスライド機構を稼働して、高所のターゲットおよびカソードを低所に移動させることにより、ターゲットおよびカソードが広い面積に展開されるので、二人以上で同時にメンテナンス作業ができる。
(3)カソードスライド機構を稼働して、高所のターゲットおよびカソードを低所に移動させることにより、脚立作業をなくすことができる(床上で作業をすることができる)。
(4)カソード回転機構を稼働して、ターゲットが上向きになるように、ターゲットおよびカソードを回転させることにより、全部のターゲットを上向きの状態で交換することができる。
(5)上記の作用効果を総合してメンテナンス時間を短縮することにより、高価なスパッタ装置の稼働率を高めてコストダウンを行なうと共に、生産量を増やすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明のスパッタ装置の正面図と側面図(非メンテナンス時)
【
図2】本発明のスパッタ装置の正面図と側面図(メンテナンス時)
【
図3】本発明のスパッタ装置のターゲット/カソードのメンテナンス機構の正面図と側面図(ターゲット/カソードの回転時)
【
図4】本発明のスパッタ装置のターゲット/カソードのメンテナンス機構の正面図と側面図(ターゲット/カソードの移動時)
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は本発明のスパッタ装置10の一例の、スパッタ実行時(非メンテナンス時)の正面図と側面図である。本発明のスパッタ装置10では、真空槽11内に供給ロール12、ガイドロール13、成膜ロール14、ガイドロール13、収納ロール15が備えられる。長尺フィルム基材16は、供給ロール12から繰り出され、ガイドロール13によりガイドされ、成膜ロール14に一周弱巻き付けられ、再びガイドロール13によりガイドされ、収納ロール15に巻き取られ収納される。ターゲット17はカソード18にネジ止め支持されている。ターゲット17とカソード18は同電位である。ターゲット17/カソード18は複数本あり(
図1では5本)、ターゲット17/カソード18は成膜ロール14を取り囲む位置に設置され、各ターゲット17は所定の距離を隔てて成膜ロール14に対向している。各ターゲット17の表面は成膜ロール14の接線方向と平行である。成膜ロール14上を連続的に走行する長尺フィルム基材16には、ターゲット17と対向する位置で、スパッタ薄膜が付着する。ターゲット17/カソード18の本数は、特に限定されない。
【0020】
各ターゲット17/カソード18はカソード台車19に片持ち支持されている。ターゲット17/カソード18の端には気密蓋20が設けられている。ターゲット17/カソード18を真空槽11内に収納したとき、ターゲット17/カソード18の取り出し口は気密蓋20で気密封止される。カソード台車19は複数の車輪21を有する。車輪21はカソード台車基台22に設けられたレール23に載っている。レール23は成膜ロール14の中心軸と平行方向に敷設される。カソード台車19は、ターゲット17/カソード18を真空槽11から取り出す際および戻す際に、成膜ロール14の中心軸と平行方向に移動する。
【0021】
スパッタ時に上向きのターゲット17/カソード18(
図1では一番下のターゲット17/カソード18)を除き、ターゲット17/カソード18はカソード回転機構24に支持されている。スパッタ時に上向きのターゲット17/カソード18は、メンテナンス時に方向を変える必要がないため、カソード回転機構24で支持する必要がない。カソード回転機構24は、例えば角度センサー付きのモーター駆動減速歯車ユニットである。真空槽11からターゲット17/カソード18を取り出した後、カソード回転機構24により、ターゲット17が上向きになるように、ターゲット17/カソード18を回転させる。ターゲット17交換後には、ターゲット17/カソード18を回転させて、ターゲット17/カソード18を元の角度(ターゲット17の表面が成膜ロール14の接線方向となる角度)に戻す。ターゲット17/カソード18は正確に元の角度に戻さなければならないため、角度センサーを用いる。
【0022】
作業者が脚立に乗らなければ作業できないような高所にあるターゲット17/カソード18(
図1では上方の2本)は、カソード回転機構24がカソードスライド機構25に支持されている。高所とは、脚立に乗って作業をしなければならない高さをいい、例えば床から概略150cm以上の高さをいう。カソードスライド機構25は、例えば距離センサー付きのモーター駆動ボールネジリニアガイドである。メンテナンス時には、高所にあるターゲット17/カソード18を、カソードスライド機構25により、作業者が床上で作業できる低所に移動させる。低所とは、作業者が脚立に乗らないでも(床面に立って)作業のできる高さをいい、例えば床から概略150cm未満の高さをいう。ターゲット17交換後、ターゲット17/カソード18を元の高さに戻す。ターゲット17/カソード18は正確に元の高さに戻さなければならないため、距離センサーを用いる。
【0023】
本発明のスパッタ装置10で用いられる長尺フィルム基材16としては、一般的に、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの単独重合体や共重合体からなる透明フィルムが用いられる。長尺フィルム基材16は、単層フィルムでもよく、積層フィルムでもよい。長尺フィルム基材16の厚さは特に限定されないが、通常、6μm〜250μmである。
【0024】
本発明のスパッタ装置10では、低圧アルゴンガスなどのスパッタガス中で、成膜ロール14をアノード電位とし、ターゲット17/カソード18をカソード電位として、成膜ロール14とターゲット17の間に電圧を印加する。これにより長尺フィルム基材16とターゲット17の間にスパッタガスのプラズマを生成させる。プラズマ中のスパッタガスイオンがターゲット17に衝突し、ターゲット17の構成物質が叩き出される。叩き出されたターゲット17の構成物質が長尺フィルム基材16上に堆積し、薄膜となる。
【0025】
例えば透明導電膜として、インジウム−スズ酸化物(Indium-Tin-Oxide : ITO)の薄膜が広く使用されている。しかし本発明のスパッタ装置10で用いられるターゲット17の材料は特に限定されるものではない。
【0026】
図2はターゲット17/カソード18のメンテナンスの第一段階として、真空槽11を大気圧にした後、カソード台車19を成膜ロール14の中心軸14aと平行方向に移動させて、ターゲット17/カソード18を真空槽11の外に取り出したときの正面図と側面図である。全てのターゲット17/カソード18が、カソード台車19の移動により、一括して真空槽11から取り出されるので、作業能率がよく、危険も少ない。カソード回転機構24およびカソードスライド機構25はまだ稼働していないため、ターゲット17/カソード18の角度および位置は、ターゲット17/カソード18が成膜ロール14の周囲にあったときと同じである。従ってターゲット17の止めネジを外すとターゲット17はカソード18から落下し非常に危険である。そのため
図2の段階では、ターゲット17の交換作業をしない。図示しないが、ターゲット17/カソード18の取り出し後、取り出し口を速やかに仮の蓋で気密封止し、真空槽11を真空排気して、メンテナンス中も真空槽11を真空保管することが望ましい。これは真空槽11内に汚染物質(コンタミネーション)や排気困難物質(特に水分)が付着することを避けるためである。
【0027】
図3はターゲット17/カソード18のメンテナンスの第二段階として、カソード回転機構24を稼働させてターゲット17/カソード18を回転させ、全てのターゲットを上向きにしたときの正面図と側面図である。このとき角度センサーにより回転角度を測定して、記憶させておく。記憶された回転角度はターゲット17/カソード18の方向(角度)を元に戻す時に必要となる。
図3の段階で、既に全てのターゲット17は上を向いているので、ネジを外してもターゲット17はカソード18から落下しない。しかし高所のターゲット17/カソード18(
図3の上方の2つのターゲット17/カソード18)は、作業者が脚立に乗らなければ作業ができない。高所のターゲット17を交換したり、カソード18を清掃したりすることは能率が悪い上、危険である。従って
図3の段階ではメンテナンス作業をまだ実施しないのが望ましい。
【0028】
図4はターゲット17/カソード18のメンテナンスの第三段階として、カソードスライド機構25を稼働させて高所のターゲット17/カソード18を下方に移動させ、低所のターゲット17/カソード18とほぼ同じ高さにしたときの正面図と側面図である。このとき距離センサーにより移動距離を測定して、記憶させておく。記憶した移動距離は高所のターゲット17/カソード18を元の高さに戻す時に必要となる。カソード回転機構24とカソードスライド機構25を同時に稼働させて、高所のターゲット17/カソード18の方向を上向きに変えながら、低所に移動することも可能である。そのようにすると回転と移動をシリーズに実施するよりも、時間を短縮することができる。ターゲット17/カソード18の方向と高さを戻すときも同様である。またカソードスライド機構25を稼働させて高所のターゲット17/カソード18を下方に移動させた後、カソード回転機構24を稼働させてターゲット17/カソード18を回転させ、全てのターゲットを上向きにしてもよい。
【0029】
図4の段階で、ターゲット17/カソード18の実際のメンテナンスを実施する。まずターゲット17をカソード18に止めているネジを外す。ターゲット17は上を向いているので、ネジを外しても落下しない。そのためターゲット17の落下防止治具を取り付ける必要はない。次に古いターゲット17を除く。ターゲット17は重いのでクレーンあるいはリフトを用いる。ターゲット17/カソード18の周囲に広い作業領域があるので、クレーンやリフトが利用しやすく、危険も少ない。次にカソード18の清掃を実施する。カソード18が平面的に並んでいるため、カソード18の清掃をしたときに発生したゴミが、他のカソード18に付着するおそれは少ない。次に新しいターゲット17をカソード18に載せ、ネジ止めする。このときもターゲット17が上を向いているので落下防止治具を取り付ける必要はなく、ネジ止めの能率がよい。以上でターゲット17/カソード18の実際のメンテナンスは終了する。
図4に示すように、各ターゲット17/カソード18の周囲に広い作業領域があるので、多数の作業者が同時に全ターゲット17/カソード18のメンテナンスを実施することができる。
図4のように、ターゲット17/カソード18が5本の場合、本発明のメンテナンス方法で数人の作業者が同時にメンテナンスを行なうと、以前から行なわれていたメンテナンス方法で、一人の作業者がターゲット17/カソード18を1本ずつメンテナンスする場合と比べて、メンテナンス時間が約1/10になる。
【0030】
ターゲット17/カソード18の実際のメンテナンスが完了したら、メンテナンスのために高所から低所に移動させたターゲット17/カソード18を、カソードスライド機構25を稼働させて、元の高さに移動させる。このとき移動距離を距離センサーで測定して、先に記憶しておいた値に合わせ、正確に元の高さに戻す。これにより、ターゲット17/カソード18の位置は
図3に示す位置になる。
【0031】
次に、メンテナンスのために上向きに回転させたターゲット17/カソード18を、カソード回転機構24を稼働させて回転させ、元の方向に戻す。このとき回転角度を角度センサーで測定して、先に記憶しておいた値に合わせ、正確に元の方向(角度)に戻す。これにより、ターゲット17/カソード18の方向は
図2に示す方向になる。
【0032】
最後に、真空槽11を大気圧にして仮の蓋を外し、カソード台車19を、ターゲット17/カソード18を取り出すときと逆方向に移動させて、ターゲット17/カソード18を真空槽11内に戻す。ターゲット17/カソード18の取り出し口は気密蓋20により気密封止される。これにより、ターゲット17/カソード18の位置は
図1に示す位置になり、真空引きの後、スパッタの実施が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のスパッタ装置は複数のターゲット/カソードを備え、長尺フィルム基材の表面に、多種類の薄膜を形成する用途に用いられる。本発明のスパッタ装置は、ターゲット/カソードのメンテナンスが容易である。本発明のスパッタ装置のメンテナンス方法は、ターゲット/カソードのメンテナンス時間が短いので、スパッタ装置の稼働率を高くすることができる。
【符号の説明】
【0034】
10 スパッタ装置
11 真空槽
12 供給ロール
13 ガイドロール
14 成膜ロール
14a 成膜ロールの中心軸
15 収納ロール
16 長尺フィルム基材
17 ターゲット
18 カソード
19 カソード台車
20 気密蓋
21 車輪
22 カソード台車基台
23 レール
24 カソード回転機構
25 カソードスライド機構