(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱反応型レジスト材料中の前記シリコンまたは前記酸化シリコンの含有量が、シリコンのモル換算で、6.5mol%以上8.5mol%以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱反応型レジスト材料。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の形態について、以下具体的に説明する。
本発明の一実施の形態に係る熱反応型レジスト材料は、酸化銅と、シリコンまたは酸化シリコンと、を含み、酸化銅中へのシリコンまたは酸化シリコンの添加量が、シリコンのモル換算で、4.0mol%以上10.0mol%未満であることを特徴とする。
【0014】
この熱反応型レジスト材料の構成要素である酸化銅は、露光などの熱によって変化するため、加熱部と未加熱部の現像液による現像速度差ができ、パターンの形成が可能になる。しかしながら、酸化銅単体(シリコンまたは酸化シリコンを添加していない状態)をレジスト材料として用いた場合、露光などの熱によって酸化銅の結晶化が進行し、酸化銅の粗大粒子を形成してしまう。パターンのラフネスを抑制し、良好なパターン形成のためには粗大粒子は無い方が好ましく、さらに、パターンを微細化するためにも粗大粒子は無い方が好ましい。そこで、酸化銅の結晶化抑制の添加材として、シリコンまたは酸化シリコンを添加する。シリコンまたは酸化シリコンは、酸化銅とほとんど相溶しないため、ピニング効果により酸化銅の結晶化抑制が可能であり、これにより粗大粒子の形成を抑制することができる。このように、酸化銅の結晶化抑制用の添加材としては、シリコンまたは酸化シリコンが最適である。
【0015】
また、酸化銅は、高温で酸化第二銅から酸化第一銅に変化(分解)するが、高温から室温への冷却過程で再酸化という現象が生じて、分解により生じた酸化第一銅の一部が酸化されて酸化第二銅に戻る。その結果、加熱部と未加熱部の化学組成の違いが少なくなり、現像差が少なくなるという問題が生じる。この問題に対しても、酸化銅にシリコンまたは酸化シリコンを添加することで、分解により生じた酸化第一銅の再酸化を抑制でき、現像差を小さくすることを防ぐことが可能になる。
【0016】
酸化銅の結晶化を抑制するために必要なシリコンまたは酸化シリコンの添加量は、4.0mol%以上であり、好ましくは4.5mol%以上、さらに好ましくは5.5mol%以上、最も好ましくは6.5mol%以上である。
【0017】
図1は、シリコン添加量と酸化銅の粒子径の関係を示した図である。
図1に示すように、シリコンまたは酸化シリコンの添加量が0〜4.0mol%までは、酸化銅の結晶粒子径は単調に小さくなっていく。したがって、求めるパターン形態に応じて、シリコンまたは酸化シリコンの添加量を選択すればよい。一方、シリコンまたは酸化シリコンを4.0mol%以上添加した場合は、酸化銅の結晶粒子径はそれほど大きく変化しないため、多量に加えても問題はないが、結晶粒子径抑制という観点ではあまり影響がない。
【0018】
酸化第一銅の再酸化を抑制するために必要なシリコンまたは酸化シリコンの添加量は、0.01mol%以上であり、好ましくは0.5mol%以上であり、さらに好ましくは1.0mol%以上である。すなわち、結晶化抑制のために添加するシリコンまたは酸化シリコンの添加量で、十分再酸化抑制の効果を発現することができる。
【0019】
さらに、シリコンまたは酸化シリコンの添加量と現像液であるグリシン溶液、シュウ酸アンモニウム水溶液との関係において、シリコンまたは酸化シリコンの添加量が10.0mol%を超えると加熱部と未加熱部で現像差が徐々に小さくなる現象が生じる。したがって、安定に微細パターンを形成するためには、添加量の上限を設ける必要がある。すなわち、シリコンまたは酸化シリコンの添加量が10.0mol%未満であり、好ましくは9.5mol%以下、さらに好ましくは9.0mol%以下、最も好ましくは8.5mol%以下である。シリコンまたは酸化シリコンの添加量を上記範囲に設定することで、現像差が生じやすく製造安定に優れた熱反応型レジスト材料が得られる。現像差の指標は、選択比(加熱部の現像速度を未加熱部の現像速度で除した値)として表すことができ、選択比が大きいほど、製造安定性に優れる。
図2は、シリコン添加量に対する酸化銅の粒子径と現像選択比との関係を示したグラフである。
図2からわかるように、シリコンまたは酸化シリコンの添加量が10mol%を超えると選択比が低下する傾向がある。このため、選択比は、好ましくは5以上であり、より好ましくは10以上であり、最も好ましくは20以上である。
【0020】
以上のように、レジストのパターンラフネスが良好であり、かつ、加熱部と未加熱部の現像差が大きく製造安定性に優れるという理由から、本実施の形態に係る熱反応型レジスト材料を構成する酸化銅に添加するシリコンまたは酸化シリコンの添加量は、4.0mol%以上、10.0mol%未満であり、好ましくは4.5mol%以上、9.5mol%以下であり、さらに好ましくは5.5mol%以上、9.0mol%以下であり、最も好ましくは6.5mol%以上、8.5mol%以下である。
【0021】
シリコンまたは酸化シリコンの添加量の好ましい範囲とその理由について、以下、詳細に説明する。まず、下限値については、4.0mol%以上であることにより、酸化銅の結晶化を抑制できるとともに、酸化第一銅の再酸化を抑制することができる。
【0022】
酸化銅の結晶化抑制、すなわち、酸化銅の粒子サイズを指標にした時、前述の通り、シリコンまたは酸化シリコンを4.0mol%以上添加した場合は、酸化銅の粒子径はそれほど大きく変化しない。従って、効果的に粒子径を小さくするためには、シリコンまたは酸化シリコンを4.0mol%以上添加することが好ましい。加えて、
図2が示すように、シリコンまたは酸化シリコンを4.0mol%以上の範囲で、粒子径は、ある程度のばらつきをもってなだらかに粒子径が小さくなる傾向を示す。粒子径のばらつきは、酸化銅中のシリコンまたは酸化シリコンの分散状態の分布が起因していると予想される。従って、シリコンまたは酸化シリコンの添加量が多い方が、より粒子径の微小化を志向する場合や、酸化銅中のシリコンまたは酸化シリコンの分散状態の分布を均一化するためには好ましい。
【0023】
以上のことから、シリコンまたは酸化シリコンの添加量が4.5mol%以上であることにより、より粒子径の微小化を志向する場合や、酸化銅中のシリコンまたは酸化シリコンの分散状態の分布を均一化することに優れる。
【0024】
さらに、5.5mol%以上であることにより、より粒子径の微小化を志向する場合や、酸化銅中のシリコンまたは酸化シリコンの分散状態の分布を均一化することにより優れる。
【0025】
一方、上限値については、10mol%未満であることにより、加熱部と未加熱部で現像差が徐々に小さくなる現象を抑制することができる。すなわち、現像選択比において、選択比20以上を得ることができる。現像選択比20以上を得ることで、製造安定性に優れるため、管理窓を広く設定できるため繰り返し再現性に優れるとともに大面積を現像する際に非常に有効である。
【0026】
また、9.5mol%以下であることにより、より高い現像選択比約21を得ることができ、製造安定性により優れる。
【0027】
また、9.0mol%以下であることにより、より高い現像選択比約23を得ることができ、製造安定性にさらに優れる。
【0028】
また、8.5mol%以下であることにより、より高い現像選択比約25を得ることができ、製造安定性に最も優れる。
【0029】
以上のことから、繰り返し再現性や大面積を現像する場合などの製造安定性を重要視する場合は、シリコンまたは酸化シリコンの添加量は4.0mol%以上8.5mol%以下が好ましい。一方、良好なパターンのラフネスの形成やより微細化パターンの形成を重要視志向する場合は、シリコンまたは酸化シリコンの添加量は6.5mol%以上10.0mol%未満が好ましい。加えて、製造安定性とともに良好なパターンのラフネスの形成やより微細化パターンの形成を重要視する場合は、シリコンまたは酸化シリコンの添加量は6.5mol%以上8.5mol%以下が好ましい。
【0030】
なお、本発明の熱反応型レジスト材料は、酸化銅と、シリコン又は酸化シリコンと、を含む、言い換えれば、酸化銅とシリコンとを含む、または、酸化銅と酸化シリコンとを含む、ことを特徴とし、添加されるシリコンの酸化度が0から2の範囲を特徴とする。ここで完全酸化物(酸化度が2)に比べて酸化度の低いシリコン、すなわち亜酸化シリコンについて説明する。亜酸化シリコンは、酸化度が完全酸化物に近い場合は、完全酸化物の結晶構造から酸素が欠損した状態などで存在しえるが、より酸化度が低くなった場合は、その結晶構造を保つことが困難なため一般的にはシリコンと酸化シリコンの混合体として存在することが多い。従って、本発明の酸化シリコンには、酸化度が低い場合、すなわち、シリコンと酸化シリコンの混合物である場合も含まれる。従って、酸化銅とシリコンと酸化シリコンが混合された状態であっても上記シリコンの添加量の範囲であれば問題ない。
【0031】
また、シリコンまたは酸化シリコンの添加量の範囲を表す単位mol%は、シリコン(Si)のmol数を、銅(Cu)とシリコン(Si)それぞれのmol数の合計で除した値を100分率表記した値である。また、mol%以外の表記方法としてat%が存在する。at%は、原子数の百分率を示す単位であるが、本願においてmol%とat%は同などの意味をなす。
【0032】
本実施の形態に係る熱反応型レジスト材料は、酸化銅とシリコンまたは酸化シリコンの一部が、互いに相互作用していることが好ましい。ここで、相互作用の有無は、XPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)分析で、Siの2Pの結合エネルギーを観察することによって確認できる。通常、XPS分析でシリコン単体、酸化シリコン単体におけるSiの2Pの結合エネルギーは、それぞれ、99.5eV、103.5eV付近に観察される。一方、本実施の形態に係る熱反応型レジスト材料に含まれるSiの2Pの分析を行うと、結合エネルギーは100.0〜102.5eV付近に観察される。観察されるSiの2Pの結合エネルギーは、シリコン単体と酸化シリコン単体との間の結合エネルギーであるため、シリコンの亜酸化物の可能性が示唆される。しかし、通常SiOx(1<X<2)は高温下の気体でのみ存在しえるため、室温状態の薄膜での観察結果とは一致しない。したがって、この結合エネルギーのシフトは、シリコン原子が酸化銅と相互作用していることを示唆していると考えられる。したがって、XPS分析により、本実施の形態に係る熱反応型レジスト材料は、酸化銅とシリコンまたは酸化シリコンの一部が相互作用していることが確認できるため、熱反応型レジスト材料として好ましいといえる。
【0033】
本実施の形態に係る熱反応型レジスト材料からなる薄膜の膜厚は、10nm以上50nm以下であることが好ましい。熱反応型レジスト材料の加熱は、露光などの光を熱反応型レジスト材料が吸収して熱に変化することで達成される。したがって、加熱を達成するためには、熱反応型レジスト材料が光を吸収する必要があり、この光の吸収量は膜厚に大きく依存する。熱反応型レジスト材料からなる薄膜の膜厚が10nm以上だと、光の吸収量が多くなるため、効率よく加熱しやすくなる。したがって、本発明の熱反応型レジスト材料からなる薄膜の膜厚は10nm以上が好ましい。なお、膜厚が薄い場合でも、熱反応型レジスト材料からなる薄膜の上方と下方の両方、またはいずれか一方に光吸収層などを配置することで、光の吸収量を補うことができる。
【0034】
一方、熱反応型レジスト材料からなる薄膜の膜厚が50nm以下の方が、露光による膜厚方向への均一性が確保しやすい。すなわち、深さ方向だけでなく、膜面方向の微細パターンの加工精度も好ましいものとなる。以上のことから、熱反応型レジスト材料からなる薄膜の膜厚は、10nm以上50nm以下であり、最も好ましくは20nm以上30nm以下である。熱反応型レジスト材料からなる薄膜の膜厚を、最も好ましい20nm以上30nm以下の範囲にすることで、露光などによる光の吸収量が適度にあり、膜厚方向と膜深さ方向の熱の均一性が保てるという利点があり、かつ、膜厚変化に対する光吸収量の変化率が小さいため、膜厚斑が生じた場合でも加熱斑になりにくく、均一なパターン形成が可能であるという利点がある。
【0035】
次に、本実施の形態に係る熱反応型レジストを用いたモールドの形成方法について説明する。熱反応型レジスト材料用の現像液は、グリシン溶液またはグリシンとシュウ酸アンモニウムとの混合液である。
【0036】
この現像液は、熱反応型レジスト材料中の酸化第二銅が露光などにより加熱され酸化第一銅へと熱分解された加熱部と、未加熱部とが混合した状態から、加熱部のみを選択的に溶解させることが可能である。つまり、価数の異なった酸化銅が混在している状態から、価数の小さい酸化銅を選択的に溶解させることができる。
【0037】
現像液に用いられる溶媒は、現像液成分であるグリシンやシュウ酸アンモニウムが適度に溶解すれば特に制限はないが、溶解性、安全性、汎用性やコストの観点から水を用いることが好ましい。
【0038】
現像の反応メカニズムは、現像液中のグリシンやシュウ酸アンモニウムといった現像液成分が、熱反応型レジスト材料である酸化銅表面に移動し、続いて酸化銅固体表面でキレート化反応し、最後に生成物が脱離することで進行する。この中で選択性に最も影響するのが酸化銅表面と現像液成分との固−液反応の速度であり、価数の異なる酸化銅との反応における反応速度の差が大きいほど選択性は高くなる。現像液としてグリシンを用いた場合、第一酸化銅との反応は速いが、第二酸化銅との反応は非常に遅いため良好な選択性を得ることができる。すなわち、グリシンと酸化銅のキレート化反応が律速反応であるため、現像液成分の移動や生成物の脱離の速度による影響は少なくなり、高い均一性も同時に得ることができる。このような高い選択性/均一性を有する現像液成分としてはアミノ酸が優れているが、選択性のほかに、水への溶解性、汎用性やコストなどの観点からグリシンが最も優れている。さらに、アミノ酸であるグリシンを用いる利点としては、同一分子内にカルボキシル基とアミノ基を有しているので、緩衝作用によってpHの変動が小さいことが挙げられる。pHが酸性側に偏りすぎたり、塩基性側に偏りすぎたりすると、酸や塩基の影響によっても酸化銅が溶解するため、選択性の低下に繋がるだけでなく、良好な微細パターン形状を得ることが難しくなる。
【0039】
なお、現像液であるグリシン溶液の濃度は、0.01重量%以上10重量%以下であることが好ましい。0.01%以上だと、所望の現像速度を得ることができ生産性からも好ましい。また、10%より多くても、特に大きな問題はないが、10%を超えても反応速度に顕著な変化は見られないため、コスト面を考慮すると10%以下が好ましい。
【0040】
また、グリシンのみを現像液として用いる場合、上述のように、反応速度は、添加量が10%を超えると反応速度の増加傾向がフラットな傾向になるため、そのような場合に、より速い反応速度で現像を行いたい場合には、別途キレート剤を現像液に添加することが好ましい。反応速度を制御するキレート剤としては様々あるが、高い選択性を有しつつ、水への溶解性、汎用性やコストなどを考慮すると、シュウ酸アンモニウムが優れている。つまり、反応速度の遅い領域ではグリシンの濃度を調整することで反応速度を制御し、反応速度の速い領域ではグリシン溶液にシュウ酸アンモニウムを適宜添加することで反応速度を調整することができる。なお、これらグリシン溶液やグリシンとシュウ酸アンモニウムとの混合液を、熱反応型レジスト材料に対して別々に作用させてもなんら問題はない。ただし、シュウ酸アンモニウムの割合をグリシンの割合以上に高くしすぎると、シュウ酸アンモニウムと酸化銅との反応の寄与が全体の反応速度を支配してしまうため、所望の選択性を維持するためにはグリシンの割合が高いほうが好ましい。以上の観点から、シュウ酸アンモニウムの割合は0.01重量%以上でグリシンの濃度以下の範囲であることが好ましい。
【0041】
また、現像液をレジストに作用させる際の温度を制御することで現像速度を変化させることが可能である。温度は現像液が凍結、沸騰、極端に濃度が変化する速度での揮発、あるいは現像液中の成分やレジストの分解を引き起こす範囲を避ければ任意に設定することが可能である。温度が高い範囲においては反応速度が速く、未反応領域も溶解しやすくなるが、現像時間を適宜短縮することで問題なく微細パターンを形成することができる。また、温度が低い範囲においては反応速度が遅く、所望の形状が得られるまでに必要な現像時間が増加するが、長時間現像すれば問題なく微細パターンを形成することができる。しかし、生産性の面からは1分〜数十分程度が好ましい。ここで、製造安定性の指標の1つである現像差を示す選択比の観点から考えると、現像温度は低い方が高い値になる。しかしながら、前述の通り現像温度が低くすぎる場合、必要な現像時間が増加してしまうため、生産性が低下する。上記の理由から、温度範囲は10℃以上50℃以下が好ましく、15℃以上40℃以下がさらに好ましく、製造安定性、製造上の実施の簡便さ、生産性などを考慮すると20℃以上30℃以下が最も好ましい。
【0042】
またpHに関しては、用いるグリシンやシュウ酸アンモニウムによって概ね1以上11以下の値を取るが、pHは3.50以上であることが望ましく、4.00以上であることが好ましく、4.50以上であることがより好ましく、6.00以上であることが特に好ましい。pHが3.50未満になると錯形成反応以外でのエッチングの進行が顕著になり、所望の選択性が得られない場合がある。
【0043】
以上のことから、本実施の形態に係る熱反応型レジスト材料と現像液との組み合わせ、すなわちパターン形成材料によれば、非常に解像度の高い微細パターンの形成が可能であるとともに、生産性良く安定したパターン形成が可能になる。
【0044】
従って、本発明のパターン形成材料は、酸化銅と、添加剤として4.0mol%以上10.0mol%未満のシリコンまたは酸化シリコンと、を含有する熱反応型レジスト材料と、グリシン溶液またはグリシンとシュウ酸アンモニウムとの混合液からなる現像液との組み合わせからなることが好ましい。
【0045】
ところで、本発明の熱反応型レジスト材料を用いたパターンの形成は、ポジ型(加熱部が現像液で溶解する)とネガ型(未加熱部が現像液で溶解する)のどちらでも実施することが可能である。ポジ型は、加熱部が分解されることで、分解された部分が現像液に溶解してパターンを形成することができる。一方、ネガ型は、酸化銅が分解に至らない程度の加熱を加えた際に生じる結晶成長を利用してパターンを形成することができる。すなわち、結晶成長があまり進んでいない未加熱部が現像液により溶解され、結晶成長が進行した加熱部は現像液に耐性があるため残存することにより、パターンを形成することができる。
【0046】
このように、本実施の形態に係る熱反応型レジスト材料によれば、与える熱量を制御することで、ポジ型やネガ型のパターンを形成することができる。
【0047】
続いて、本実施の形態に係る熱反応型レジスト材料を用いたモールドの製造方法を説明する。
工程(1)基材上に、熱反応型レジスト層を成膜する。
工程(2)熱反応型レジスト層を露光した後、グリシン溶液またはグリシンとシュウ酸アンモニウムとの混合溶液からなる現像液で現像する。
工程(3)現像後の熱反応型レジストをマスクとして、フロン系ガスを用いて基材をドライエッチング処理して微細パターンを形成する。
工程(4)熱反応型レジストを除去して、モールドを製造する。
【0048】
熱反応型レジスト層を成膜する場合は、スパッタリング法や蒸着法やCVD法を用いた成膜が好ましい。熱反応型レジスト材料は、数十nmレベルの微細パターン加工が可能であるため、微細パターンサイズによっては、成膜時の熱反応型レジスト材料の膜厚分布、表面の凹凸が非常に大きく影響することが考えられる。そこで、これらの影響をできる限り少なくするために、膜厚の均一性などの制御がやや困難な塗布法やスプレー法などによる成膜方法より、スパッタリング法や蒸着法やCVD法などの成膜方法で熱反応型レジスト材料を形成することが好ましい。
【0049】
熱反応型レジスト層は、必要に応じて、放熱設計を設けることができる。放熱設計は、熱反応型レジスト材料から、できるだけ早く熱を逃がす必要があるときに設計する。例えば、放熱設計は、熱が篭ることで、露光による熱反応のスポット形状より、広い領域で熱による反応が進行してしまう場合に行う。放熱設計は、熱反応型レジスト材料の上方に空気より熱伝導率の高い材料を成膜した積層構造をとることや、熱反応型レジスト材料の下方に基材より熱伝導率の高い材料を成膜した積層構造をとることで可能である。
【0050】
次に、本実施の形態に係る現像液を用いた現像方法について説明する。現像方法は、熱反応型レジスト材料を構成する酸化銅を熱分解する露光工程と、熱反応型レジスト層に現像液を供給して熱反応型レジスト層から熱分解された銅の酸化物を除去する現像工程とを含む。
【0051】
熱分解工程では、熱反応型レジスト層の所定の領域に対して、所定の温度以上に熱を加えることにより、熱反応型レジスト層の所定の領域の銅の酸化物を熱分解する。また、熱分解工程では、熱反応型レジスト層にレーザー光を照射して熱反応型レジスト層の熱分解を行うことが好ましい。
図3で示すような分布を持つレーザー光を物体に照射すると、物体の温度もレーザー光の強度分布と同じガウス分布を示す(
図4参照)。レーザー光を熱反応型レジスト層の所定の領域に照射することにより、熱反応型レジスト層の所定の領域内の温度がガウス分布となるため、所定の温度以上になった部分のみ反応が進行してレーザー光のスポット径より小さな範囲を熱分解することが可能となる。なお、熱分解は、熱反応型レジスト層の所定の領域に対して所定の温度以上の熱を加えることにより、酸化銅を分解できるものであればレーザー光に限定されない。
【0052】
現像工程では、熱反応型レジスト層に現像液を供給し、熱反応型レジスト層の所定の領域の銅の酸化物を溶解除去する。熱分解工程後の熱反応型レジスト層には、熱分解していない銅の酸化物と、熱分解により酸化数が減少した銅の酸化物とが存在する。現像液中のグリシンやシュウ酸アンモニウムが熱分解により酸化数が減少した銅の酸化物と選択的にキレート化反応するので、熱反応型レジスト層から熱分解された酸化銅領域の銅の酸化物を選択的に溶解除去することができる。
【0053】
なお、現像液を熱反応型レジスト層に作用させる方法は特に限定されず、現像液に熱反応型レジスト層を浸漬させてもよく、現像液を熱反応型レジスト層に噴射してもよい。現像液に熱反応型レジスト層を浸漬させる際に液を循環させるか、あるいは熱反応型レジスト層を動作させることにより、単位時間当たりに熱反応型レジスト層に触れる液の量を増加させると、現像速度を上げることができる。また、現像液を熱反応型レジスト層に噴射する際に噴射圧を上げることで、現像速度を上げることができる。現像液を熱反応型レジスト層に噴射させる場合は、ノズルを移動させる方法、熱反応型レジスト層を回転させる方法などを単独で用いることもできるが、併用すると現像が均一に進行するため好ましい。噴射に用いるノズルの種類は任意のものが使用可能で、例えばラインスリット、フルコーンノズル、ホローコーンノズル、フラットノズル、均一フラットノズル、ソリッドノズルなどを挙げることができ、熱反応型レジスト層や基材の形状に合わせて選択できる。また、一流体ノズルでも二流体ノズルでも構わない。
【0054】
現像液を熱反応型レジスト層に作用させる際に、不溶性の微粉末などの不純物が現像液中に存在すると、特に微細なパターンを現像する際にムラの原因となるおそれがあるので、現像液を事前にろ過しておくことが好ましい。ろ過に用いるフィルターの材質は現像液と反応しないものなら任意に選択でき、例えば、PFAやPTFEを挙げることができる。フィルターの目の粗さはパターンの微細度合いに応じて選択すればよいが、0.2μm以下、より好ましくは0.1μm以下である。また、溶出した成分の析出、再付着を防ぐためには、浸漬より噴射が好ましく、さらに、現像液を熱反応型レジスト層に噴射する場合は現像液を使い捨てにすることが望ましい。現像液を再利用する場合は、溶出成分を除去することが好ましい。
【0055】
現像方法においては、熱反応型レジスト層を洗浄する工程と、現像後の基材および熱反応型レジスト層を洗浄する工程と、を含むことが好ましい。
【0056】
モールドの形状は、平板形状またはスリーブ(ロール、ドラム)形状とすることができる。光ディスクの原盤やナノインプリントなどで用いられるモールドの多くは小型で平板形状であるため、簡単な装置により転写することが可能である。一方、スリーブ形状は、大面積にパターンを転写できる特徴がある。
【0057】
モールドを製造するための基材は、材質について特に制限を受けない。しかし、表面平滑性、加工性に優れる材質であり、かつ、ドライエッチング処理できる材質であることが好ましい。そのような材質の代表としてガラスを用いることができる。その他、基材として、シリコン、二酸化ケイ素などを用いることもできる。また、後述のドライエッチング層を設けることで、アルミニウム、チタニウム、銅、銀または金などを用いることもできる。中でも、ドライエッチング処理の観点から、基材としては石英ガラスが好適であり、ドライエッチング処理の時間を制御するだけで、所望のアスペクト比を形成することができる。
【0058】
モールドを製造する前に、モールドを製造するための基材を洗浄することが好ましい。洗浄方法は、使用する材質や形状によって適宜選択することができる。例えば、基材の材質がガラスである場合には、無機アルカリ、有機アルカリなどのアルカリ性の洗浄液や、フッ酸などの酸性洗浄液を用いて洗浄することができる。さらに、洗浄対象物が基材から取れ難く、また、基材から離れた洗浄対象物が再付着する場合には、界面活性剤の添加、洗浄液の加温、スクラブ洗浄、超音波洗浄などを適宜選択することが好ましい。
【0059】
基材の洗浄に続いて、この基材を乾燥することが好ましい。乾燥方法は、使用する材質や形状によって適宜選択することができる。例えば、ウォーターマークなどの汚れの発生を抑制するために、イソプロピルアルコール(IPA)乾燥、オーブン乾燥、温水引上げ乾燥、エアナイフ乾燥などを用いることが好ましい。特に、モールドを製造するための基材が、スリーブ形状の場合は、IPA乾燥、温水引上げ乾燥、エアナイフ乾燥などを用いることが好ましい。加えて、基材に用いる材質が複合材料の場合は、複合材料それぞれの材質に適応できる洗浄、乾燥方法を選択することが好ましい。例えば、基材がスリーブ形状で、コア材が炭素繊維強化樹脂、表面が石英ガラスの場合は、洗浄剤は、アルカリ性の洗浄液が好ましく、乾燥方法は、温水引上げ乾燥、エアナイフ乾燥が好ましい。
【0060】
モールド製造において、基材の上に直接、熱反応型レジスト材料を成膜する構成以外にも、基材と熱反応型レジスト層との間に別途エッチング層を設ける構成とすることも可能である。エッチング層を構成するエッチング材料は、主要フッ化物の沸点が250℃以下である元素から構成される材料から選択するのが好ましい。具体的には、Ta、Mo、W、C、Si、Ge、TeおよびPまたはそれら2種類以上の複合物、或いはそれらの酸化物、窒化物、硫化物および炭酸化物からなる群より選ばれた材料であることが好ましい。より好ましくは、SiO
2、SiまたはSi
3N
4である。なお、エッチング層の膜厚は、所望のパターン深さの厚みに成膜することで、パターンの加工深さを制御することができる。
【0061】
モールドを製造する際に実施されるドライエッチング処理に用いるフロン系ガスは、特に制限はないが、例えば、CF
4、CHF
3、CH
2F
2、C
2F
6、C
3F
8、C
4F
6、C
4F
8、C
4F
10、C
5F
10、CCl
2F
2、CIF
3などのフルオロカーボンが挙げられ、単独で用いても、複数のガスを混合して用いても構わない。さらにこれらのガスにO
2、H
2、Ar、N
2、COなどを混合したガスであっても良い。さらにHBr、NF
3、SF
6、CF
3Br、HCl、HI、BBr
3、BCl
3、Cl
2、SiCl
4のガスや、これらにAr、O
2、H
2、N
2、COなどのガスを混合したガスもフロン系ガスの範囲内とする。
【0062】
さらに、前述のエッチングガスの種類、組成、エッチング圧力および温度といった条件を最適化することによってレジストマスクの耐性や、基材やエッチング層のエッチング方向を制御することができる。例えば、フロン系のエッチングガスにAr添加することで、フロン系ガスの解離度を制御して、基材やエッチング層と熱反応型レジスト層のエッチングレートを増減させる方法や、使用するフロンガスのFとCとのモル比の制御や、ドライエッチング処理の圧力の制御で、エッチング方向を垂直から斜めに制御して、所望のモールド形状を製造する方法などがある。
【0063】
ドライエッチング処理する工程に用いられる装置は、真空中でフロン系ガスが導入でき、プラズマが形成でき、かつ、エッチング処理ができるものであれば特に制限はないが、市販のドライエッチング装置、RIE装置、ICP装置などを用いることができる。ドライエッチング処理を行うガス種、時間、電力などは、レジスト材料の種類、エッチング層の種類、エッチング層の厚み、エッチング層のエッチングレートなどによって適宜決定しうる。
【0064】
モールドの製造過程において、モールドを製造するための基材から熱反応型レジスト材料を除去する必要がある。熱反応型レジスト材料の除去方法は、基材やエッチング層に影響がなければ特に制限はなく、例えば、ウエットエッチングやドライエッチングを用いることができる。
【0065】
例えば、モールドを製造するための基材に石英ガラスを用いる場合、一般的な酸を用いることでウエットエッチングにより容易に熱反応型レジスト材料を除去することが可能である。具体的には、塩酸、硝酸、硫酸や燐酸などである。熱反応型材料に作用させる方法は特に限定されず、前述の現像液を作用させる方法と同様の方法で全く問題ない。
【0066】
また、熱反応型レジスト材料を除去後、基材を洗浄する工程を含むことが好ましい。
【0067】
露光に用いるレーザーは、KrFやArFレーザーなどのエキシマレーザーや、半導体レーザー、電子線、X線などを用いることができる。KrFやArFレーザーなどのエキシマレーザーは装置が非常に大型で高価なこと、電子線、X線などは真空チェンバーを使用する必要があることからコストや大型化の観点からかなりの制限がある。したがって、光源装置が非常に小型化でき、安価である半導体レーザーを用いることが好ましい。
【0068】
一般的に、電子線やエキシマレーザーなどを用いて露光光源を短波長化することで微細パターンの形成を可能にしてきたが、本実施の形態に係る熱反応型レジスト材料は半導体レーザーでも十分に微細パターンを形成することが可能である。
【0069】
本発明においては、これらのモールドの製造方法を用いることにより、1nm以上1μm以下の微細パターンを有するモールドを製造することが可能となる。なお、本発明に係るモールドの製造方法においては、基材としては、スリーブ形状、平板形状を用いることが好ましい。
【0070】
以下、本発明の効果を明確にするために実施した実施例および比較例により本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0071】
(LER)
LER(Line Edge Roughness)とは、パターンの乱れを表す指標であり、パターンエッジ形状のラフネス、すなわち、パターン端部にできた凹凸の大きさを表す。LERの値が小さいほど、パターン形状にバラつきがないことを表す。LERは、現像後のレジストの表面SEM(走査型電子顕微鏡)観察を行い、得られた像をSEMI International Standardsに記載のSEMI P47−0307に従い導出した。
【0072】
(実施例1)
2inφ、厚み0.5mmの石英ガラス基材上に、酸化銅と、シリコンまたは酸化シリコンとを含み、添加材としてシリコンまたは酸化シリコンの添加量が異なる試料1−a〜1−dの熱反応型レジスト材料を、スパッタリング法を用いて膜厚25nmに成膜した。堆積した熱反応型レジスト層を、それぞれ蛍光X線で分析したところ、シリコンの添加量は、表1に示す値(表1中、Si添加量(単位:mol%)と記す)であった。
【0074】
以上のように成膜した熱反応型レジスト層を以下の条件で露光した。
露光用半導体レーザー波長:405nm
レンズ開口数:0.85
露光レーザーパワー:1mW〜25mW
送りピッチ:120nm〜800nm
露光速度:0.88m/s〜7.0m/s
【0075】
実施例1では、パターン形状として、溝形パターンを使用した。露光中にレーザーの強度を変調させることで、さまざまな形状やパターンを作製できるが、実験では露光精度を確かめるために、パターンとして連続の溝形、孤立した円形を使用した。形成する形状は目的とする用途によっては楕円形状などでも構わず、本発明は露光形状によって何ら制限を受けるものではない。
【0076】
続いて、上記露光機によって露光された熱反応型レジスト層を現像した。現像液は、表1に示す条件で行った。なお、表1中、「混合液」とは、グリシン及びシュウ酸アンモニウムの混合水溶液を示す。また、「0.3+0.3」とは、グリシン0.3wt%及びシュウ酸アンモニウム0.3wt%を混合したことを表わしている。現像時間は、製造安定性を確保するために、5分間での現像を実施した。なお、この際の選択比は25と非常に高かった。
【0077】
このように現像された熱反応型レジスト層について、SEM(走査型電子顕微鏡)にて表面形状と断面形状を観察したところ、表1に示す開口幅(nm)が溝形パターンとして形成されていた。また、LERは、それぞれ、3nm(試料1−a、Si=6.5mol%)、2nm(試料1−b、Si=7.5mol%)、2nm(試料1−c、Si=8.5mol%)、2nm(試料1−d、SiO
2=7.5mol%)で非常に良好なラフネスを示した。
【0078】
次に得られた熱反応型レジストをマスクとして、ドライエッチング処理による石英ガラス基材のエッチングを行った。ドライエッチングは、エッチングガスとしてSF
6を用い、処理ガス圧を5Pa、処理電力を300W、処理時間10分の条件で行った。これらパターンが付与された基板から熱反応型レジストのみを剥離したものを、SEMにて断面形状を観察したところ、表1に示すエッチング層深さ(nm)が観察され、エッチング層がマスクの幅形状を反映して溝形パターンが形成されていた。
【0079】
上記で得られたパターン付の基板をモールドとして用いて、UV硬化樹脂を使って表面形状をフィルムに転写させたところ、ほぼモールドを反転した形状がフィルム上に転写された。
【0080】
(比較例1)
表1に示すように、熱反応型レジスト材料に添加するシリコン量を2.0mol%または20.0mol%にした以外は実施例1と同じ条件で、モールドを製造した。得られたモールドをSEMにて表面形状を観察したところ、添加するシリコン量が2.0mol%と少ない場合(試料2−a)は、LERが5nmであり、酸化銅の結晶成長があまり抑制できておらず、実施例1のSi添加量が多いものに比べ溝形パターンのラフネスが悪い。一方、添加するシリコン量が20.0mol%と多い場合(試料2−b)は、選択比が2と小さく、現像時に露光部と未露光部の現像差が小さくなり製造上安定性に欠けた。
【0081】
実施例1と比較例1とを比較すると、実施例1に係る熱反応型レジスト材料および現像液を用いると、製造上安定したパターンの形成が可能であることがわかる。
【0082】
(実施例2)
φ80mm、長さ400mmの石英ガラスロール基材上に、酸化銅とシリコンとを含む熱反応型レジスト材料を、スパッタリング法を用いて表1に示す膜厚で成膜した(試料3−a、3−b)。
【0083】
堆積した熱反応型レジスト層を、それぞれ蛍光X線で分析したところ、シリコンの添加量は、表1に示す値であった。
【0084】
以上のように成膜した熱反応型レジスト材料を以下の条件で露光した。
露光用半導体レーザー波長:405nm
レンズ開口数:0.85
露光レーザーパワー:1mW〜25mW
送りピッチ:120nm〜800nm
回転速度:210〜1670rpm
【0085】
なお、実施例2では、パターン形状として円形パターンを使用した。
【0086】
続いて、上記露光機によって露光された熱反応型レジストの現像を行った。現像液は、表1に示す条件で行った。現像時間は、製造安定性を確保するために、5分間での現像を実施した。
【0087】
次に得られた熱反応型レジスト層をマスクとしてドライエッチング処理による石英ガラスロールのエッチングを行った。ドライエッチングは、エッチングガスとしてSF
6を用い、処理ガス圧を3Pa、処理電力を1000W、処理時間5分の条件で行った。
【0088】
これらパターンが付与された基板から熱反応型レジスト層のみを剥離したものをモールドとして用いて、UV硬化樹脂を使って表面形状をフィルムに転写させ、SEMにて表面形状と断面形状を観察したところ、表1に示す開口幅(nm)とエッチング層深さ(nm)が観察された。
【0089】
(実施例3)
表1に示すように、熱反応型レジスト材料の膜厚を5nm(試料4−a)または120nm(試料4−b)にし、円形パターンを使用した以外は実施例1の試料1−dと同じ条件で、モールドを製造した。SEMにて得られたモールドの表面形状を観察したところ、膜厚が5nmと薄い場合(試料4−a)は、露光レーザーパワーを大きくすることで孤立した円形パターン形成が可能であった。一方、膜厚が120nm(試料4−b)と厚い場合は、膜面方向への熱の拡散が大きいため、開口幅が大きい孤立した円形パターン形成が可能であった。
【0090】
実施例2と実施例3とを比較すると、実施例3に係る熱反応型レジスト層の膜厚によれば、製造上より安定したパターンの形成が可能であることがわかる。
【0091】
(実施例4)
表1に示すように、現像液の種類をグリシン水溶液にし、円形パターンを使用した以外は実施例1の試料1−bと同じ条件で、モールドを製造した(試料5)。SEMにて得られたモールドの表面形状を観察したところ、表1に示す開口幅(nm)が孤立した円形パターンとして形成されていた。
【0092】
(実施例5)
表1に示すように、現像液の濃度を0.1%、1%、15%にした以外は実施例1の試料1−dと同じ条件で、モールドを製造した(試料6−a〜試料6−c)。SEMにて得られたモールドの表面形状を観察したところ、表1に示す開口幅(nm)を有する孤立した円形パターンが形成されていた。これにより、現像液の濃度によって、開口幅がまったく変わらないことが確認でき、製造上安定したパターンの形成が可能であることがわかる。
【0093】
(実施例6)
表1に示すように、現像液の濃度を0.001%にし、現像時間を10分にした以外は実施例1の試料1−dと同じ条件で、モールドを製造した(試料7)。SEMにて得られたモールドの表面形状を観察したところ、レジスト層の溶解した部分が基材側まで達しておらず、さらに時間を延長することでパターン形成が可能である。
【0094】
(実施例7)
表1に示すように、現像時間を5分、7分、10分にし、円形パターンを使用した以外は実施例1の試料1−bと同じ条件で、モールドを製造した(試料8−a〜試料8−c)。SEMにて得られたモールドの表面形状を観察したところ、表1に示す開口幅(nm)が孤立した円形パターンとして形成されていた。いずれも良好な形状のパターンが得られていた。
【0095】
(実施例8)
表1に示すように、現像液の温度を15℃、30℃、40℃にし、円形パターンを使用した以外は実施例1の試料1−bと同じ条件で、モールドを製造した(試料9−a〜試料9−c)。SEMにて得られたモールドの表面形状を観察したところ、表1に示す開口幅(nm)が孤立した円形パターンとして形成されていた。また、表1に示すように、現像液の温度を50℃にし、現像時間を1分にし、円形パターンを使用した以外は実施例1の試料1−bと同じ条件で、モールドを製造した(試料9−d)。SEMにて得られたモールドの表面形状を観察したところ、表1に示す開口幅(nm)が孤立した円形パターンとして形成されていた。なお、この際の選択比はそれぞれ、27(試料9−a、15℃)、20(試料9−b、30℃)、10(試料9−c、40℃)、5(試料9−d、50℃)と高かった。
【0096】
(実施例9)
表1に示すように、現像液の温度を60℃にし、現像時間を1分にし、円形パターンを使用した以外は実施例1の試料1−bと同じ条件で、モールドを製造した(試料10)。SEMにて得られたモールドの表面形状を観察したところ、レジスト層は大部分が溶解していたが、現像時間をさらに短く0.5分にすることでパターン形成が可能である。なお、この際の選択比を、別途現像時間を短くして測定した所、1.5であった。
【0097】
実施例8と実施例9とを比較すると、実施例8に係る現像液の温度によれば、製造上より安定したパターンの形成が可能であることがわかる。
【0098】
(実施例10)
表1に示すように、現像液の組成を変え、現像時間を2分にし、円形パターンを使用した以外は実施例1の試料1−bと同じ条件で、モールドを製造した(試料11)。なお、表1における現像液の液種Aは、グリシン、フッ化アンモニウム、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸とホスホン酸、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテルと水で構成され、その濃度Bは、それぞれグリシン0.9wt%、フッ化アンモニウム0.04wt%、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン0.06wt%、ホスホン酸0.004wt%で、pH2.6である。
【0099】
SEMにて得られたモールドの表面形状を観察したところ、レジスト層は大部分が溶解していたが、現像時間をさらに短く0.25分にすることでパターン形成が可能である。
【0100】
(実施例11)
表1に示すように、熱反応型レジスト材料に添加するシリコン量を4.0mol%(試料12−a)、9.0mol%(試料12−b)及び9.5mol%(試料12−c)にし、円形パターンを使用した以外は実施例1の試料1−bと同じ条件で、モールドを製造した。得られたモールドをSEMにて表面形状を観察したところ、添加するシリコン量が4.0mol%の場合は、LERが4nmであった。一方、添加するシリコン量が9.0mol%と9.5mol%の場合は、現像選択比がそれぞれ、23、21であった。
【0101】
以上説明した実施例及び比較例から明らかなように、酸化銅に、シリコンまたは酸化シリコンを4.0mol%以上10.0mol%未満の範囲で添加することで、良好なパターンのラフネスの形成とより微細化パターンの形成が可能であり、かつ、繰り返し再現性や大面積を現像する場合などの製造安定性に非常に優れる熱反応型レジスト材料を得ることができる。