特許第6097284号(P6097284)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097284
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20170306BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20170306BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20170306BHJP
   H01M 10/26 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   H01M2/16 P
   H01M10/0565
   H01M10/052
   H01M10/26
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-516285(P2014-516285)
(86)(22)【出願日】2012年6月15日
(65)【公表番号】特表2014-520377(P2014-520377A)
(43)【公表日】2014年8月21日
(86)【国際出願番号】EP2012061423
(87)【国際公開番号】WO2012175417
(87)【国際公開日】20121227
【審査請求日】2015年5月13日
(31)【優先権主張番号】11305799.6
(32)【優先日】2011年6月23日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】アブスレメ, ジュリオ ア.
(72)【発明者】
【氏名】ファイグ, レジス
(72)【発明者】
【氏名】ピエリ, リッカルド
【審査官】 山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−215917(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/092257(WO,A1)
【文献】 特開2005−310747(JP,A)
【文献】 特表2010−525124(JP,A)
【文献】 特表2008−511733(JP,A)
【文献】 特開2008−300300(JP,A)
【文献】 特開2000−030742(JP,A)
【文献】 米国特許第06077624(US,A)
【文献】 特開2002−117899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/14− 2/18
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのセパレータを含有し、前記セパレータは少なくとも1種のフッ化ポリマー[ポリマー(F)]を含有し、前記ポリマー(F)はフッ化ビニリデン(VDF)と、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)と、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)とに由来する繰り返し単位を含有し、前記ポリマー(F)が、
− 1.5〜3.5mol%のヘキサフルオロプロピレン(HFP)由来の繰り返し単位と、
− 0.5〜1.5mol%のヒドロキシエチルアクリレート(HEA)由来の繰り返し単位と、
を含み、
フッ化ビニリデン(VDF)由来の繰り返し単位が、繰り返し単位合計100mol%の補完成分である、二次電池。
【請求項2】
前記セパレータが多孔質セパレータである、請求項1に記載の二次電池。
【請求項3】
前記多孔質セパレータが微孔性平膜又は不織布である、請求項に記載の二次電池。
【請求項4】
前記セパレータが高密度セパレータである、請求項1に記載の二次電池。
【請求項5】
前記高密度セパレータが、少なくとも1種のポリマー(F)が電荷移動媒体で膨潤したポリマー電解質である、請求項に記載の二次電池。
【請求項6】
前記電池がアルカリ金属又はアルカリ土類金属をその負極に含む二次電池である、請求項1〜のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項7】
前記電池がリチウムイオン二次電池である、請求項1〜のいずれか1項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2011年6月23日に出願された欧州特許出願第11305799.6号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全体は、あらゆる目的のため、参照により本出願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、フッ化ビニリデンポリマーセパレータを含有する二次電池に関する。より詳しくは、本発明はフッ化ビニリデンポリマーセパレータを含有するリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
携帯電話、携帯情報端末(PDA’s)、ラップトップコンピューター、及び他の無線電子機器などの、携帯用電子機器や電子通信機器の利用の広がりのため、電池産業は充電式二次電池に関してここ数年で大きな成長を遂げている。
【0004】
特に、リチウムイオン電池市場における持続的な成長によって、電池用セパレータの需要が高まった。長年にわたり、様々な種類のセパレータが電池に使用されてきている。これらの主な機能は、電気化学セルの正極と負極との間のイオン輸送を可能にしつつも電気的な接触を防ぐことである。
【0005】
電池用セパレータの材料は不活性であり、電気エネルギーの貯蔵や出力に影響を与えるものではないが、その物理的特性は電池の性能及び安全性に大きく影響する。
【0006】
二次電池用に最も一般的に用いられているセパレータは、微孔性ポリマーフィルム若しくは不織布からなる多孔質セパレータ、又は高分子電解質からなる高密度セパレータである。
【0007】
二次電池用の微孔性セパレータは、一般的にポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらの積層体)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなるポリマーフィルムから製造される。
【0008】
不織布に一般的に用いられる材料としては、特に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのポリオレフィンが挙げられる。
【0009】
二次電池での使用に特に好適なポリマー電解質の中でも、ポリマーマトリックスが液体電解質で膨潤している電解質が提案されている。
【0010】
例えば米国特許出願公開第2002/0197536号明細書(SAMSUNG SDI CO. LTD.2002年12月26日)には、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、又は、これに加えてアクリル酸及びマレイン酸のモノアルキルエステルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物の繰り返し単位を更に有する共重合体を含有する、リチウム電池に用いるためのポリマー電解質が開示されている。
【0011】
しかし、性能と安全性に対する大きな要求を満たす二次電池の需要が高まっていることから、二次電池を、内部短絡、過剰放電、過充電、振動、衝撃、温度変化などの典型的な酷使条件に対して耐久性のある設計及び構造にする必要がある。
【0012】
電池温度の異常な上昇は、電気的誤用(例えば過充電又は短絡)又は機械的負荷(例えば釘刺し又は圧壊)によって生ずる内部加熱のために起こり得、外的な加熱によっても起こり得る。
【0013】
約130℃より高い温度でのセパレータの機械的完全性が高いほど、セパレータによってもたらされる安全域が広くなる。もしセパレータが機械的完全性を失うと、電極は直接接触し、化学的に反応して熱暴走を起こすであろう。セパレータの高温溶着性は、過充電しすぎた際や高温に長時間晒された際に電池を安全に保つための非常に重要な特性である。
【0014】
したがって当該技術分野では、二次電池の製造に好適な良好なイオン伝導率の値を維持しつつも優れた熱安定性を有するセパレータの需要が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
したがって、本発明の目的は、少なくとも1つのセパレータを含有し、前記セパレータは少なくとも1種のフッ化ポリマー[ポリマー(F)]を含有し、前記ポリマー(F)はフッ化ビニリデン(VDF)と、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)と、下記式(I)

(式中、
− R、R、Rは互いに同じ又は異なり、独立に水素原子及びC〜Cの炭化水素基から選択され、
− ROHは少なくとも1つのヒドロキシル基を有するC〜Cの炭化水素基である)の少なくとも1種の(メタ)アクリルモノマー(MA)と
に由来する繰り返し単位を含有する、二次電池である。
【0016】
出願人は、驚くべきことに、フッ化ビニリデン(VDF)ポリマーの適切な選択を行うことによって、性能と安全性の要求を満たす二次電池の製造を可能とする良好なイオン伝導率の値を有しながらも優れた熱安定性を示すことに成功するセパレータを有利には得られることを見出した。
【0017】
本発明の二次電池は、通常以下の構成要素、すなわち
− 少なくとも1種の金属を含有する負極、
− 電荷輸送媒体と少なくとも1種の金属塩とを含有する電荷輸送電解質、及び
− 正極、
を更に含有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明にかかるセパレータは、通常二次電池の正極と負極との間に位置している。
【0019】
本発明の目的上、用語「セパレータ」は、これと接触する化学種の透過を穏やかに行う、独立した一般的に薄い界面のことをいう。この界面は均質、すなわち、完全に均一な構造であってもよく(高密度セパレータ)、あるいは、例えば有限次元の空隙、細孔、又は穴を有する、化学的又は物理的に不均一なもの(多孔質セパレータ)であってもよい。用語「空隙」、「細孔」、及び「穴」は、本発明との関係においては同義語として扱われる。
【0020】
多孔質セパレータは一般的に、空隙率(ε)及び平均細孔径(d)によって特徴付けられ、前記空隙率は多孔質なセパレータの体積の部分の度合いである。
【0021】
本発明の第1の実施形態によれば、二次電池は少なくとも1つの多孔質セパレータを含有し、前記セパレータは上で定義した少なくとも1種のフッ化ポリマー[ポリマー(F)]を含有する。
【0022】
この第1の実施形態にかかる多孔質セパレータは、有利には少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、そして有利には最大で90%、好ましくは最大で80%の空隙率(ε)を有する。
【0023】
本発明のこの第1の実施形態にかかる多孔質セパレータは、有利には少なくとも0.01μm、好ましくは少なくとも0.05μm、より好ましくは少なくとも0.1μm、そして有利には最大で30μm、好ましくは最大で10μmの平均細孔径(d)を有する。
【0024】
本発明のこの第1の実施形態にかかる多孔質セパレータは、好ましくは微孔性平膜又は不織布である。
【0025】
微孔性平膜は、通常約25μm以下である厚さと、通常40〜70%の範囲である空隙率と、通常0.01〜1μmの範囲である平均細孔径とを有する。
【0026】
不織布は、一般的には繊維がランダムに敷かれることで無数の空隙が形成されているフェルトあるいはマットであり、前記フェルトあるいはマットは、通常約80〜300μmの範囲である厚さと、通常60〜80%の範囲である空隙率と、通常10〜50μmの範囲である平均細孔径とを有する。
【0027】
微孔性膜は、一般的には乾式法又は湿式法のいずれかによって作られる。どちらの方法も、薄膜を製造するための押出工程を含み、細孔を形成するための1つ以上の配向工程が行われる。これらの方法は溶融ポリマー又は可溶性ポリマーに対してのみ適用可能である。
【0028】
乾式法は、一般的に(1)溶融ポリマーを押出ししてフィルムを形成する工程と、(2)フィルムをアニールする工程と、(3)フィルムを延伸して細孔を形成する工程とからなり、湿式法は、(1)抽出可能な添加剤と混合して高温ポリマー溶液を得る工程と、(2)高温溶液を押出ししてゲル状フィルムを得る工程と、(3)フィルムから可溶性添加剤を抽出して多孔質構造を形成する工程とからなる。乾式法によって得られた膜は一般的に特徴的なスリット孔状の微細構造を有し、一方、湿式法によって得られた膜は互いに繋がった球状あるいは楕円形の細孔を有する。安全性を高めるために、異なる融点を有する膜の2つ以上の層を積層して熱シャットダウンセパレータを製造することもできる。
【0029】
不織布は乾式法、湿式法、スパンボンド法、又はメルトブロー法によって作ることができる。これらすべての方法は、(1)繊維ウェブを製造する工程と、(2)ウェブを接着する工程と、(3)後処理工程とからなり、ほとんどの場合、ウェブの製造と接着は1つの工程中で行われる。電池用セパレータ製造には、上述の方法の中でも湿式法が広く用いられてきた。
【0030】
本発明の第2の実施形態によれば、二次電池は少なくとも1つの高密度セパレータを含有し、前記セパレータは上で定義した少なくとも1種のフッ化ポリマー[ポリマー(F)]を含有する。
【0031】
本発明のこの第2の実施形態にかかる高密度セパレータは、好ましくは上で定義した少なくとも1種のフッ化ポリマー[ポリマー(F)]が上で定義した電荷輸送媒体で膨潤している、ポリマー電解質である。
【0032】
セパレータを高密度セパレータとする場合、これは通常フィルムをキャスティング及び/又は溶融成形することによって製造される。
【0033】
キャスティングには一般的に溶液キャスト法が含まれる。溶液キャスト法では、適切な液体媒体中の適切なポリマー溶液の均一なフィルムを適切な支持体上に広げるために、通常キャスティングナイフ又はドローダウンバーが用いられる。キャスティングが行われた後、通常は液体を蒸発させることで均一な高密度セパレータが得られる。
【0034】
フィルム押出、好ましくはフラットキャストフィルム押出によって高密度セパレータを作るためには一般的に溶融成形が用いられる。
【0035】
本発明の二次電池の負極の選択は、その二次電池の特性に依存する。
【0036】
本発明の二次電池は好ましくはアルカリ二次電池又はアルカリ土類二次電池である。
【0037】
アルカリ二次電池又はアルカリ土類二次電池の代表的な負極としては、特には、
− リチウム、ナトリウム、マグネシウム、又はカルシウムを含むアルカリ金属又はアルカリ土類金属、
− 少なくとも1種のアルカリ金属又はアルカリ土類金属を受け入れる、通常は粉末、フレーク、繊維、又は球体(例えばメソカーボンマイクロビーズ)の形態で存在する、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を挿入できる黒鉛質炭素、
− シリコン系合金及びゲルマニウム系合金を含む、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の合金組成物、
− 有利にはアルカリ金属又はアルカリ土類金属を誘起歪なく挿入するのに好適な、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のチタン酸塩、
が挙げられる。
【0038】
本発明の二次電池は、より好ましくはリチウムイオン二次電池である。
【0039】
リチウムイオン二次電池の代表的な負極としては、特には、
− リチウムを受け入れる、通常は粉末、フレーク、繊維、又は球体(例えばメソカーボンマイクロビーズ)の形態で存在する、リチウムを挿入できる黒鉛質炭素、
− 金属リチウム
− 特には米国特許第6203944号明細書(3M INNOVATIVE PROPERTIES CO.2001年3月20日)及び/又は国際公開第00/03444号パンフレット(MINNESOTA MINING AND MANUFACTURING2000年1月20日)に記載されているものを含む、リチウム合金組成物、
− 可動イオン、すなわちLi、の取り込みに際して低レベルの物理的膨張しか生じない「無歪」挿入物質と一般的に見なされている、一般的には式LiTi12で表されるチタン酸リチウム、
− 一般的に高いLi/Si比率のリチウムシリサイドとして知られるリチウム−シリコン合金、特には式Li4.4Siのリチウムシリサイド、
− 式Li4.4Geの結晶相を含む、リチウム−ゲルマニウム合金、
が挙げられる。
【0040】
負極は当業者に良く知られているような添加剤を含有していてもよい。そのようなものとしては、特にはカーボンブラック、グラフェン、又はカーボンナノチューブを挙げることができる。
【0041】
負極あるいは陰極は、当業者に認識されているように、箔、板、棒、ペーストを含む、いずれの都合のよい形態であってもよいし、導電性集電体若しくは他の適切な支持体上に負極材料の膜を形成することによって作られる複合材料であってもよい。
【0042】
電荷輸送媒体と金属塩とを含有する電荷輸送電解質は、有利には正極と負極との間の電荷輸送経路を与え、通常は最初に少なくとも電荷輸送媒体と金属塩とを含有する。
【0043】
電解質は当業者によく知られている他の添加剤を含んでいてもよい。電解質は、当業者に認識されているように、液体及びゲルを含むいずれの都合のよい形態でもあってもよい。
【0044】
電解質には様々な電荷輸送媒体を用いることができる。典型的な媒体は、十分な量の金属塩と任意選択的な他の成分又は添加剤とを溶解し、正極と負極との間で適切な量の電荷を輸送することができる、液体又はゲル(例えばポリ(オキシエチレン)などの溶媒和ポリマー)である。
【0045】
典型的な電荷輸送媒体は、例えば約−30〜70℃の広い温度範囲で凍ったり沸騰したりせずに使用することができ、電池の電極が稼働する範囲である電位窓で安定である。
【0046】
代表的な電荷輸送媒体としては、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチル−メチル、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、炭酸フルオロエチレン、炭酸フルオロプロピレン、ガンマ−ブチロラクトン、ジフルオロ酢酸メチル、ジフルオロ酢酸エチル、ジメトキシエタン、ジグリム(ビス(2−メトキシエチル)エーテル)、非プロトン性イオン液体、ポリ(オキシエチレン)類、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0047】
電解質には様々な金属塩を用いることができる。本発明の金属イオン電池には、選択した電荷輸送媒体に安定かつ可溶である金属塩が通常選択される。
【0048】
本発明の金属イオン電池に好適な金属塩は、特にはM(PF、M(BF、M(ClO、M(ビス(オキサラト)ボレート)(“M(BOB)”)、M[N(CFSO、M[N(CSO、M[N(CFSO)(RSO)]であってRがC、C、CFOCFCF、M(AsF、M[C(CFSO、であり、Mは金属、好ましくは遷移金属、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属であり、より好ましくはM=Li、Na、K、Csであり、nは前記金属の価数であり、通常n=1又は2である。
【0049】
リチウムイオン電池に好ましいリチウム塩の中では、LiPF、LiBF、LiClO、リチウムビス(オキサラト)ボレート(“LiBOB”)、LiN(CFSO、LiN(CSO、M[N(CFSO)(RSO)]であってRがC、C、CFOCFCF、LiAsF、LiC(CFSOであるもの、及びこれらの組み合わせが挙げることができる。
【0050】
電解質は簡便には少なくとも1種のレドックスケミカルシャトルを含有し得る。また一方で、電解質は溶解したレドックス化学シャトルなしで配合されてもよい。「レドックスケミカルシャトル」という表現は、リチウムイオン電池の充電中に、充電電位が所望の値に達すると正極で酸化されることができ、負極へ移動することができ、負極で還元されることで酸化されていない(あるいは少ししか酸化されていない)シャトル種を再び形成することができ、そして正極へ戻ることができる、電気化学的に可逆の化合物のことをいう。
【0051】
本発明の二次電池の正極は、無機金属酸化物又は有機ポリマーを含有していてもよい。
【0052】
本発明の二次電池の正極の製造に好適な有機ポリマーの代表的な例としては、特に、国際公開第83/02368号パンフレット(CHEVORON RESEARCH COMPANY1983年7月7日)に記載されているような、チアントレン、フェノキサチイン、フェノキサジン、N−アルキルフェノチアジン、ジヒドロフェナジン、ジアルキルジヒドロフェナジン、ジベンゾジオキシン、これらの置換誘導体及びこれらの混合物、のジラジカルで製造された、縮合6,6,6−員環系ポリマーが挙げられる。
【0053】
本発明の二次電池のセパレータのフッ化ポリマー[ポリマー(F)]は、通常0.5〜10mol%、好ましくは1〜5mol%、より好ましくは1.5〜3.5mol%の、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)由来の繰り返し単位を含有する。
【0054】
本発明の二次電池のセパレータのフッ化ポリマー[ポリマー(F)]は、上述したような式(I)で表される少なくとも1種の(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の繰り返し単位を通常0.1〜5mol%含有する。
【0055】
ポリマー(F)は、上述したような式(I)で表される少なくとも1種の(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の繰り返し単位を好ましくは少なくとも0.3mol%、より好ましくは少なくとも0.5mol%含有する。
【0056】
ポリマー(F)は、上述したような式(I)で表される少なくとも1種の(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の繰り返し単位を好ましくは最大で3mol%、より好ましくは最大で1.5mol%含有する。
【0057】
ポリマー(F)の(メタ)アクリルモノマー(MA)は、好ましくは下記式(II)

(式中、
− R’、R’、及びR’は水素原子であり、
− R’OHは少なくとも1つのヒドロキシル基を有するC〜Cの炭化水素基である)
を満たす。
【0058】
(メタ)アクリルモノマー(MA)の非限定例としては、特に、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロプル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0059】
モノマー(MA)は、より好ましくは、
− 下記式のヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、

− 下記式のうちのいずれかの2−ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、

− 及びこれらの混合物、
から選択される。
【0060】
モノマー(MA)は、更に好ましくはヒドロキシエチルアクリレート(HEA)である。
【0061】
本発明の二次電池のセパレータのポリマー(F)は、少なくとも1種の他のコモノマー[コモノマー(C)]由来の繰り返し単位も更に含有していてもよい。
【0062】
[コモノマー(C)]は、水素化コモノマー[コモノマー(H)]又はフッ化コモノマー[コモノマー(F)]のいずれかとし得る。
【0063】
「水素化コモノマー[コモノマー(H)]」という語は、本明細書においてはフッ素原子を含有しないエチレン性不飽和コモノマーを意味する。
【0064】
好適な水素化コモノマー(H)の非限定例としては、特には、エチレン、プロピレン、酢酸ビニルなどのビニルモノマーが挙げられる。
【0065】
「フッ化コモノマー[コモノマー(F)]」という語は、本明細書においては少なくとも1つのフッ素原子を含有するエチレン性不飽和コモノマーを意味する。
【0066】
好適なフッ化コモノマー(F)の非限定例としては、特には、テトラフルオロエチレン(TFE)、トリフルオロエチレン(TrFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、及びフッ化ビニルが挙げられる。
【0067】
コモノマー(C)が存在する場合、本発明の二次電池のセパレータのポリマー(F)は、通常1〜10mol%、好ましくは2〜5mol%の、前記コモノマー(C)由来の繰り返し単位を含有する。
【0068】
本発明の二次電池のポリマー(F)は、好ましくは
− 1.5〜3.5mol%のヘキサフルオロプロピレン(HFP)由来の繰り返し単位と、
− 0.5〜1.5mol%の、上述した式(I)で表される少なくとも1種の(メタ)アクリルモノマー(MA)由来の繰り返し単位と、
を含有し、フッ化ビニリデン(VDF)由来の繰り返し単位が、繰り返し単位合計100mol%の補完成分である、フッ化ポリマー[ポリマー(F)]である。
【0069】
本発明の二次電池のポリマー(F)は、より好ましくは
− 1.5〜3.5mol%のヘキサフルオロプロピレン(HFP)由来の繰り返し単位と、
− 0.5〜1.5mol%の、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)由来の繰り返し単位と、
を含有し、フッ化ビニリデン(VDF)由来の繰り返し単位が、繰り返し単位合計100mol%の補完成分である、フッ化ポリマー[ポリマー(F)]である。
【0070】
本発明の二次電池のポリマー(F)は、より好ましくは
− 1.5〜3.5mol%のヘキサフルオロプロピレン(HFP)由来の繰り返し単位と、
− 0.5〜1.5mol%の、ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)由来の繰り返し単位と、
からなり、フッ化ビニリデン(VDF)由来の繰り返し単位が、繰り返し単位合計100mol%の補完成分である、フッ化ポリマー[ポリマー(F)]である。
【0071】
本発明の二次電池のセパレータのポリマー(F)は、水性懸濁重合法又は水性乳化重合法によって製造することができる。本発明の二次電池のセパレータのポリマー(F)は、好ましくは国際公開第2008/129041号パンフレット(SOLVAY SOLEXIX S.P.A.2008年10月30日)に記載されているような水性懸濁重合法によって製造される。
【0072】
参照によって本明細書に包含されている特許、特許出願、及び刊行物の開示が、用語が不明確になるほどに本出願の記載と相反するときは、本明細書が優先される。
【0073】
本発明を以下の実施例を参照しつつより詳細に説明するが、実施例の目的は例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0074】
実施例1
VDF/HFP/HEAポリマーの合成
880rpmの速度で稼働する撹拌翼を備えた4lt.の反応器に、2455gの脱塩水と0.63gのMETHOCEL(登録商標)K100 GR懸濁化剤とを連続して入れた。
反応器を通気して窒素で1barに加圧し、その後t−アミルパーピバレート開始剤の75体積%イソドデカン溶液8.55gを反応器に入れ、次いで107gのHFPモノマーと947gのVDFモノマーとを入れた。その後反応器を徐々に52℃まで加熱して最終圧力を110barにした。温度は試験全体を通して55℃で一定に維持した。圧力は、19.96g/lのHEAモノマー水溶液を総量709mlまで供給することによって試験全体を通して110barで一定に維持した。510分後、大気圧になるまで懸濁液の脱気をすることで重合を停止した。その後、得られたポリマーを回収し、脱塩水で洗浄し、50℃でオーブン乾燥した(814g)。
NMRによる測定から、得られたポリマーは、2.3mol%のHFPと、1.0mol%のHEAとを含有していた。
【0075】
比較例1
VDF/HFP/アクリル酸(AA)ポリマーの合成
880rpmの速度で稼働する撹拌翼を備えた4lt.の反応器に、2460gの脱塩水と0.63gのMETHOCEL(登録商標)K100 GR懸濁化剤とを連続して入れた。
反応器を通気して窒素で1barに加圧し、その後t−アミルパーピバレート開始剤の75体積%イソドデカン溶液9.98gと5.35gの炭酸ジエチルとを反応器に入れ、次いで0.5gのアクリル酸(AA)モノマーと、107gのHFPモノマーと、949gのVDFモノマーとを入れた。その後反応器を徐々に55℃まで加熱して最終圧力を110barにした。温度は試験全体を通して55℃で一定に維持した。圧力は、17.44g/lのAAモノマー水溶液を総量750mlまで供給することによって試験全体を通して110barで一定に維持した。516分後、大気圧になるまで懸濁液の脱気をすることで重合を停止した。その後、得られたポリマーを回収し、脱塩水で洗浄し、50℃でオーブン乾燥した(852g)。
NMRによる測定から、得られたポリマーは、2.5mol%のHFPと、1.0mol%のAAとを含有していた。
【0076】
イオン伝導率の決定
ポリマーのフィルムを1MのLiPFの炭酸エチレン/炭酸プロピレン(重量比1:1)電解質溶液に浸漬し、乾燥グローブボックス中、室温で24時間保管した。得られたポリマー電解質を2つのステンレス鋼製電極の間に挟み、容器に封入した。
ポリマー電解質の抵抗を測定し、以下の式を用いてイオン電導率([σ])を計算した。

式中、dはフィルムの厚さであり、Rはバルク抵抗であり、Sはステンレス鋼電極の面積である。
【0077】
試験規模での高密度セパレータ製造の基本手順
6個の温度ゾーンと4mm−2穴ダイとを備えた2軸スクリュー押出機であるLEISTRITZ LSM 30/34で押出しすることによってポリマー粉末を加工した。
設定温度は下の表1に詳述されている通りに設定した。
【0078】
【表1】
【0079】
スクリュー速度は15%の供給速度で100rpmに設定した。押出ストランドは水浴で冷却し、乾燥し、調整(calibrate)し、ペレタイザーで切断した。
【0080】
高密度セパレータは、このようにして得られたペレットをフラットキャストフィルム押出することによって製造した。
【0081】
フラットキャストフィルム押出
高密度セパレータを製造するために、ペレットを200℃に設定された5個の温度ゾーンと0.5mm×100mmのテープダイとを備えた単軸スクリューBraebender押出機(スクリュー速度=25rpm)で加工した。ダイから出た溶融テープは60℃の温度に保持されている2つの連続した冷却ロールに巻き取った。巻取り速度は約20〜25μmの厚さのフィルムが得られるように調整した。
【0082】
熱劣化試験
上で詳述したように得られた高密度セパレータを150℃のオーブン中に15〜42時間置いた。セパレータの熱安定性を確かめるために、UV/VIS分光光度計を用いて熱劣化試験前と後の450nmでの透過率の値を測定した。
【0083】
450nmでの透過率の値の観測から、本発明の実施例1に従って合成したVDF/HFP/HEAポリマーから得られた高密度セパレータは150℃で15〜42時間熱劣化試験を行っても劣化を示さないことが見出された(下の表2参照)。
【0084】
他方で、比較例1に従って合成したVDF/HFP/AAポリマーから得られた高密度セパレータは、15〜42時間後に大幅に減少した透過率の値によって示されるように、150℃での持続的熱劣化試験に耐えることができない(下の表2参照)。
【0085】
以上から、本発明の実施例1従って合成したVDF/HFP/HEAポリマーから得られた高密度セパレータは、比較例1に従って合成したVDF/HFP/AAポリマーから得られた高密度セパレータと比較して向上した熱安定性を示す。
【0086】
【表2】
【0087】
更に、本発明の実施例1従って合成したVDF/HFP/HEAポリマーから得られた高密度セパレータは、比較例1に従って合成したVDF/HFP/AAポリマーから得られた、得られた材料の黄変を伴って熱劣化した高密度セパレータと比較して、150℃で15〜42時間熱劣化試験した後の構造が有利には均一である。
【0088】
加えて、本発明の実施例1従って合成したVDF/HFP/HEAポリマーから得られた高密度セパレータと、比較例1に従って合成したVDF/HFP/AAポリマーから得られた高密度セパレータは、有利には、上述した測定から、共に約10−5S/cmの伝導率を有することが見出された。
【0089】
工業規模での高密度セパレータ製造の基本手順
高密度セパレータは、実施例1及び比較例1に従って合成したポリマーのペレットから、リップ長450mm、リップ幅0.55mmのフィルムダイと、3つのカレンダーロールとを備えた直径45mmの単軸スクリュー押出機を用いた押出によっても製造された。
【0090】
温度プロファイルは下の表3に詳述されているように設定した。
【0091】
【表3】
【0092】
押出条件は下の表4に詳述されているように設定した。
【0093】
【表4】
【0094】
本発明の実施例1に従って合成したVDF/HFP/HEAポリマーのペレットを上で詳述した手順に従って押出することによって、厚さ約15μmの均質で大きな(450mm)高密度セパレータが有利には得られることが見出された。他方で、比較例1に従って合成したVDF/HFP/AAポリマーは、上述の手順では押出中に劣化してしまったため、この手順では高密度セパレータは得られなかった。
【0095】
このように、性能と安全性の要求が満たされた二次電池を、ポリマー(F)のセパレータを用いて本発明に従って得ることに成功したことが示された。前記セパレータは、有利には良好なイオン伝導率の値を保持しつつも優れた熱安定性を有していた。
【0096】
また、本発明に従ってポリマー(F)を加工することによって、最大450mmの、あるいはそれを超える長さのセパレータを有利には得ることができ、従ってそれに対応する大型の二次電池を製造することができる。