(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
撥水撥油加工剤、水溶性ポリマー、抗菌性ポリマー、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び光硬化性樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種類の機能化剤が、前記ブロックポリイソシアネートにより前記微細セルロース繊維層の内部及び/又は表面に固定化されている、請求項2〜4のいずれか1項に記載の微細セルロース繊維シート。
前記親水性化合物が塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムからなる無機酸塩、及びカルボキシルメチルセルロース、カルボキシルエチルセルロース、ヒドロキシルアルキルセルロース及びそれらの塩または架橋物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコールからなる有機化合物より選ばれる少なくとも1種含む、請求項8に記載の積層構造体。
撥水撥油加工剤、水溶性ポリマー、抗菌性ポリマー、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び光硬化性樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種類の水溶性又は水分散型の機能化剤を含む、請求項10〜12のいずれか1項に記載の塗付又は抄紙用の水分散体。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明について詳細に説明する。本実施形態の微細セルロース繊維シートは、繊維径が2nm以上1000nm以下の微細セルロース繊維から構成される。ここで、微細セルロース繊維の平均繊維径は、表面のSEM画像やTEM画像から認識される数平均繊維径を意味し、国際公開第WO2006/4012号明細書に記載の評価手段に準じる。微細セルロース繊維の平均繊維径が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解する。したがって、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現せず、シート作製の微細セルロース繊維としては利用できない。一方、微細セルロース繊維の平均繊維径が1000nm超の場合、微細で均一なネットワーク構造が形成せず、シート物性が不安定になるため好ましくない。シートの強度および寸法安定性の保持、微小かつ均一な孔径形成の観点から微細セルロース繊維の数平均繊維径は、より好ましくは10nm以上500nm以下である。なお、本発明の微細セルロース繊維シートを構成する最大繊維径1000nm以下のセルロース繊維は、短繊維状(ステープル状)の微細繊維であって、エンドレスの長繊維状(フィラメント状)のものは含まない。
本実施形態の微細セルロース繊維層は、重合度(DP)100以上12,000以下の微細セルロース繊維からなる微細セルロース繊維不織布で構成されることが好ましい。重合度はセルロース分子鎖を形成するグルコース環の繰返し数である。セルロース繊維の重合度が100以上であることで、繊維自体の引張強度や弾性率が向上する。その結果、シートの強度の向上およびシートの取扱性が格段に向上することで、例えば、水処理フィルターのプリーツ加工時の破れや濾過工程でのフィルターの破裂等が抑制される。微細セルロース繊維の重合度に特に上限はないが、実質的に12,000を超える重合度のセルロースは入手が困難であり、工業的に利用できない。取扱性及び工業的実施の観点からセルロース繊維の重合度は、150〜8,000が好ましく、より好ましくは300〜6000である。
【0040】
本実施形態の微細セルロース繊維シートを構成する微細セルロース繊維は化学修飾されていてもよい。例えば、微細セルロース繊維の表面に存在する一部又は大部分の水酸基が酢酸エステル、硝酸エステル、硫酸エステルを含むエステル化されたもの、メチルエーテルを代表とするアルキルエーテル、カルボキシメチルエーテルを代表とするカルボキシエーテル、シアノエチルエーテルを含むエーテル化されたもの、TEMPO酸化触媒によってグルコース環6位の水酸基が酸化されカルボキシル基(酸型、塩型を含む)となったものを含むことができる。
【0041】
本実施形態の微細セルロース繊維シートは、微細セルロース繊維の重量比率が50重量%以上99重量%以下である。微細セルロース繊維の重量比率が50重量%未満であると均一な微細孔径の形成が困難であるので、粗大ピンホールが多数形成し、比表面積が低下することにより、水処理フィルターとしての捕集効率が大幅に低下する。また、セルロース特有の耐熱性やフレキシブルさ等が失われる。一方、上記微細セルロース繊維の重量比率が99重量%を超えると機械強度や耐水性が低下し、取扱い性に劣るものとなる。本発明のシートにおける微細セルロース繊維の重量比率は、好ましくは70重量%以上95重量%以下であり、さらに好ましくは80重量%以上90重量%以下である。
【0042】
本実施形態の微細セルロース繊維シートはブロックポリイソシアネートが含まれることが特徴である。ブロックポリイソシアネートとは、(1)ポリイソシアネート及びポリイソシアネート誘導体等のポリイソシアネート化合物を基本骨格とする、(2)ブロック剤によってイソシアネート基がブロックされている、(3)常温では活性水素を有する官能基とは反応しない、(4)ブロック基が解離温度以上の熱処理により、ブロック基が脱離し活性なイソシアネート基が再生され、活性水素を有する官能基と反応し結合を形成することを特徴とする。なお、本実施形態のポリイソシアネートはイソシアネート基を2つ以上有する多官能性イソシアネートを意味する。同様に、ブロックポリイソシアネートは水環境中での水との反応を阻止する目的のブロック剤によりイソシアネート基がブロックされたポリイソシアネート、すなわちブロック多官能性イソシアネートあるいはブロック型多官能性イソシアネートを意味する。
【0043】
通常のブロック基を有さないイソシアネート化合物は水と容易に反応するため、抄紙スラリー中に添加することはできない。しかしながら、ブロックポリイソシアネートは、抄紙スラリー中で水と反応しないため抄紙スラリーに添加することが可能である。さらに、ブロック剤の解離温度以下で湿紙を乾燥することで、イソシアネート化合物の湿紙中の水との反応を防ぐことができる。そして、最終的に乾燥したシートをブロック剤の解離温度以上で熱処理することで、ブロックポリイソシアネートは自身の硬化と共に、微細セルロース繊維や有機高分子シート表面に存在する活性水素を有する官能基(水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基等)と効果的に共有結合を形成する。その結果、微細セルロース繊維シートの耐水性向上につながった。加えて、抄紙性、耐溶剤性、接着性、機能化剤固定化、表面ゼータ電位、親・疎水性、透気抵抗度等の様々な物性や機能を精緻に制御する上でもブロックポリイソシアネートは重要な役割を担っている。
【0044】
本発明で用いるブロックポリイソシアネートには少なくとも2個以上のイソシアネート基を含有するものであれば特に制限されない。また、ブロックポリイソシアネートの基本骨格としては、芳香族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート等が挙げられる。中でも、黄変性が少ないという観点から脂環族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネートがより好ましい。
【0045】
芳香族ポリイソシアネートの原料としては、例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート及びその混合物(TDI)、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、3,3−ジメチル−4,4−ビフェニレンジイソシアネート、粗製TDI、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、粗製MDI、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。
【0046】
脂環族ポリイソシアネートの原料としては、例えば、1,3−シクロペンタンジイソシアネート、1,3−シクロペンテンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートが挙げられる。
脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、1,2−プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。
【0047】
ブロックポリイソシアネートの基本骨格となるポリイソシアネート誘導体としては、例えば、上記のポリイソシアネートの多量体(例えば、2量体、3量体、5量体、7量体等)の他に、活性水素含有化合物と1種類又は2種類以上反応させて得られた化合物が挙げられる。その化合物はアロファネート変性体(例えば、ポリイソシアネートと、アルコール類との反応より生成するアロファネート変性体等)、ポリオール変性体(例えば、ポリイソシアネートとアルコール類との反応より生成するポリオール変性体(アルコール付加体)等)、ビウレット変性体(例えば、ポリイソシアネートと、水やアミン類との反応により生成するビウレット変性体等)、ウレア変性体(例えば、ポリイソシアネートとジアミンとの反応により生成するウレア変性体等)、オキサジアジントリオン変性体(例えば、ポリイソシアネートと炭酸ガスとの反応により生成するオキサジアジントリオン等)、カルボジイミド変性体(ポリイソシアネートの脱炭酸縮合反応により生成するカルボジイミド変性体等)、ウレトジオン変性体、ウレトンイミン変性体等が挙げられる。
【0048】
活性水素含有化合物として、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールを含む1〜6価の水酸基含有化合物、アミノ基含有化合物、チオール基含有化合物、カルボキシル基含有化合物等が挙げられる。また、空気中あるいは反応場に存在する水や二酸化炭素等も含まれる。
1〜6価のアルコール(ポリオール)としては、例えば、非重合ポリオールと重合ポリオールがある。非重合ポリオールとは重合を履歴しないポリオールであり、重合ポリオールはモノマーを重合して得られるポリオールである。
【0049】
非重合ポリオールとしてはモノアルコール類、ジオール類、トリオール類、テトラオール類等が挙げられる。モノアルコール類としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i―ブタノール、s−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、n−ノナノール、2−エチルブタノール、2,2−ジメチルヘキサノール、2−エチルヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、エチルシクロヘキサノール等が挙げられる。ジオール類としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、2−エチル−ヘキサンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−デカンジオール、2,2,4−トリメチルペンタンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、フロログルシン、ピロガロール、カテコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等が挙げられる。トリオール類としては、特に限定されないが、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン等が挙げられる。また、テトラオール類としては、特に限定されないが、例えば、ペンタエリトリトール、1,3,6,8−テトラヒドロキシナフタレン、1,4,5,8−テトラヒドロキシアントラセン等が挙げられる。
【0050】
重合ポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール等が挙げられる。
ポリエステルポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸の単独又は混合物と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、グリセリン等の多価アルコールの単独又は混合物との縮合反応によって得られるポリエステルポリオールや、多価アルコールを用いてε−カプロラクトンを開環重合して得られるようなポリカプロラクトン類等が挙げられる。
【0051】
ポリエーテルポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等の水酸化物、アルコラート、アルキルアミン等の強塩基性触媒、金属ポルフィリン、ヘキサシアノコバルト酸亜鉛錯体等の複合金属シアン化合物錯体等を使用して、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、スチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの単独又は混合物を、多価ヒドロキシ化合物の単独又は混合物に、ランダムあるいはブロック付加して得られるポリエーテルポリオール類や、エチレンジアミン類等のポリアミン化合物にアルキレンオキサイドを反応させて得られるポリエーテルポリオール類が挙げられる。これらポリエーテル類を媒体としてアクリルアミド等を重合して得られる、いわゆるポリマーポリオール類等も挙げられる。
【0052】
前記多価アルコール化合物としては、
1)例えばジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等、
2)例えばエリトリトール、D−トレイトール、L−アラビニトール、リビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、ガラクチトール、ラムニトール等の糖アルコール系化合物、
3)例えばアラビノース、リボース、キシロース、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、ラムノース、フコース、リボデソース等の単糖類、
4)例えばトレハロース、ショ糖、マルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、ラクトース、メリビオース等の二糖類、
5)例えばラフィノース、ゲンチアノース、メレチトース等の三糖類、
6)例えばスタキオース等の四糖類、
等がある。
【0053】
アクリルポリオールとしては、例えば、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸−2−ヒドロキシブチル等の活性水素を持つアクリル酸エステル等、グリセリンのアクリル酸モノエステル若しくはメタクリル酸モノエステル、トリメチロールプロパンのアクリル酸モノエステル若しくはメタクリル酸モノエステル等、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシブチル、メタクリル酸−3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−4−ヒドロキシブチル等の活性水素を持つメタクリル酸エステル等の群から選ばれた単独又は混合物を必須成分とし、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−ヘキシル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等の不飽和アミド、及びメタクリル酸グリシジル、スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、アクリロニトリル、フマル酸ジブチル、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメトキシシラン等の加水分解性シリル基を有するビニルモノマー等のその他の重合性モノマーの群から選ばれた単独又は混合物の存在下、又は非存在下において重合させて得られるアクリルポリオールが挙げられる。
【0054】
ポリオレフィンポリオールとしては、例えば、水酸基を2個以上有するポリブタジエン、水素添加ポリブタジエン、ポリイソプレン、水素添加ポリイソプレン等が挙げられる。更に、炭素数50以下のモノアルコール化合物である、イソブタノール、n−ブタノール、2エチルヘキサノール等を併用することができる。
アミノ基含有化合物としては、例えば、炭素数1〜20のモノハイドロカルビルアミン[アルキルアミン(ブチルアミン等)、ベンジルアミン及びアニリン等]、炭素数2〜20の脂肪族ポリアミン(エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン及びジエチレントリアミン等)、炭素数6〜20の脂環式ポリアミン(ジアミノシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン及びイソホロンジアミン等)、炭素数2〜20の芳香族ポリアミン(フェニレンジアミン、トリレンジアミン及びジフェニルメタンジアミン等)、炭素数2〜20の複素環式ポリアミン(ピペラジン及びN−アミノエチルピペラジン等)、アルカノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン及びトリエタノールアミン等)、ジカルボン酸と過剰のポリアミンとの縮合により得られるポリアミドポリアミン、ポリエーテルポリアミン、ヒドラジン(ヒドラジン及びモノアルキルヒドラジン等)、ジヒドラジッド(コハク酸ジヒドラジッド及びテレフタル酸ジヒドラジッド等)、グアニジン(ブチルグアニジン及び1−シアノグアニジン等)及びジシアンジアミド等が挙げられる。
【0055】
チオール基含有化合物としては、例えば、炭素数1〜20の1価のチオール化合物(エチルチオール等のアルキルチオール、フェニルチオール及びベンジルチオール)及び多価のチオール化合物(エチレンジチオール及び1,6−ヘキサンジチオール等)等が挙げられる。
【0056】
カルボキシル基含有化合物としては、1価のカルボン酸化合物(酢酸等のアルキルカルボン酸、安息香酸等の芳香族カルボン酸)及び多価のカルボン酸化合物(シュウ酸やマロン酸等のアルキルジカルボン酸及びテレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸等)等が挙げられる。
ブロック剤は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に付加してブロックするものである。このブロック基は常温において安定であるが、熱処理温度(通常約100〜約200℃)に加熱した際、ブロック剤が脱離し遊離イソシアネート基を再生しうるものである。
【0057】
このような要件を満たすブロック剤としては、(1)メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール等のアルコール類、
(2)アルキルフェノール系:炭素原子数4以上のアルキル基を置換基として有するモノ及びジアルキルフェノール類であって、例えばn−プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、n−ブチルフェノール、sec−ブチルフェノール、t−ブチルフェノール、n−ヘキシルフェノール、2−エチルヘキシルフェノール、n−オクチルフェノール、n−ノニルフェノール等のモノアルキルフェノール類、ジ−n−プロピルフェノール、ジイソプロピルフェノール、イソプロピルクレゾール、ジ−n−ブチルフェノール、ジ−t−ブチルフェノール、ジ−sec−ブチルフェノール、ジ−n−オクチルフェノール、ジ−2−エチルヘキシルフェノール、ジ−n−ノニルフェノール等のジアルキルフェノール類、
(3)フェノール系:フェノール、クレゾール、エチルフェノール、スチレン化フェノール、ヒドロキシ安息香酸エステル等、
(4)活性メチレン系:マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等、
(5)メルカプタン系:ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等、
(6)酸アミド系:アセトアニリド、酢酸アミド、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタム等、
(7)酸イミド系:コハク酸イミド、マレイン酸イミド等、
(8)イミダゾール系:イミダゾール、2−メチルイミダゾール、3,5−ジメチルピラゾール、3−メチルピラゾール等、
(9)尿素系:尿素、チオ尿素、エチレン尿素等、
(10)オキシム系:ホルムアルドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトオキシム、メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等、
(11)アミン系:ジフェニルアミン、アニリン、カルバゾール、ジ−n−プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、イソプロピルエチルアミン等、
これらのブロック剤はそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0058】
本発明におけるブロックポリイソシアネートの集合体とは、水分散性ブロックポリイソシアネートが乾燥し、形成するブロックポリイソシアネートにより形成されるシート内部に微分散された塗膜のことを言う。水分散性ブロックポリイソシアネートとは、上記のブロックポリイソシアネートに対し、親水性化合物をブロックポリイソシアネートに直接結合させ乳化させた化合物(自己乳化型)、界面活性剤等で強制乳化させた化合物(強制乳化型)である。それぞれの方法で得られたエマルジョンは、どちらも表面にアニオン性、ノニオン性、カチオン性のいずれかの親水基が露出している。
【0059】
上記の水分散性ブロックポリイソシアネートによる塗膜形成は以下の3つの製造工程を経て行われる。(1)水分散性ブロックポリイソシアネートを添加し、微細セルロース繊維に吸着させる抄紙スラリーの調製工程、(2)該抄紙スラリーを多孔質基材上でのろ過により該水分散性ブロックポリイソシアネートを含む湿紙を形成する抄紙工程、(3)該湿紙を乾燥し乾燥シートを得る乾燥工程。この乾燥工程において、該水分散性ブロックポリイソシアネートは脱水するとともに、微細セルロース繊維上に塗膜が形成される。
【0060】
上記水分散性ブロックポリイソシアネートの構造について詳細に述べる。自己乳化型ブロックポリイソシアネートはブロックポリイソシアネート骨格にアニオン性又はノニオン性又はカチオン性基を有する活性水素基含有化合物を結合したものである。
アニオン性基を有する活性水素基含有化合物としては、特に制限されるものではないが、例えば、1つのアニオン性基を有し、かつ、2つ以上の活性水素基を有する化合物が挙げられる。アニオン性基としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。より具体的には、カルボキシル基を有する活性水素基含有化合物として、例えば、2,2−ジメチロール酢酸、2,2−ジメチロール乳酸等のジヒドロキシルカルボン酸、例えば、1−カルボキシ−1,5−ペンチレンジアミン、ジヒドロキシ安息香酸等のジアミノカルボン酸、ポリオキシプロピレントリオールと無水マレイン酸及び/又は無水フタル酸とのハーフエステル化合物等を挙げることができる。
【0061】
また、スルホン酸基を有する活性水素基含有化合物として、例えば、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸、1,3−フェニレンジアミン−4,6−ジスルホン酸等が挙げられる。
また、リン酸基を有する活性水素基含有化合物として、例えば、2,3−ジヒドロキシプロピルフェニルホスフェート等を挙げることができる。
また、ベタイン構造含有基を有する活性水素基含有化合物として、例えば、N−メチルジエタノールアミン等の3級アミンと1,3−プロパンスルトンとの反応によって得られるスルホベタイン基含有化合物等を挙げることができる。
また、これらアニオン性基を有する活性水素基含有化合物は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加させることによってアルキレンオキサイド変性体としてもよい。
また、これらアニオン性基を有する活性水素基含有化合物は、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0062】
ノニオン性基を有する活性水素基含有化合物としては、特に制限されるものではないが、例えば、ノニオン性基として通常のアルコキシ基を含有しているポリアルキレンエーテルポリオール等が使用される。通常のノニオン性基含有ポリエステルポリオール及びポリカーボネートポリオール等も使用される。
高分子ポリオールとしては、数平均分子量500〜10,000、特に500〜5,000のものが好ましく使用される。
カチオン性基を有する活性水素基含有化合物としては、特に制限されるものではないが、ヒドロキシル基又は1級アミノ基のような活性水素含有基と3級アミノ基を有する脂肪族化合物、例えば、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン等が挙げられる。また、3級アミンを有するN,N,N−トリメチロールアミン、N,N,N−トリエタノールアミンを使用することもできる。なかでも、3級アミノ基を有し、かつイソシアネート基と反応性のある活性水素を2個以上含有するポリヒドロキシ化合物が好ましい。
【0063】
また、これらカチオン性基を有する活性水素基含有化合物は、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加させることによってアルキレンオキサイド変性体としてもよい。また、これらカチオン性基を有する活性水素基含有化合物は、単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
カチオン性基はアニオン性基を有する化合物で中和することで、塩の形で水中に分散せやすくすることもできる。アニオン性基とは、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、燐酸基等が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物としては、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸等が、スルホン基を有する化合物としては、例えば、エタンスルホン酸等が、隣酸基を有する化合物としては、例えば隣酸、酸性隣酸エステル等が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物が好ましく、更に好ましくは、酢酸、プロピオン酸、酪酸である。中和する場合のブロックポリイソシアネートに導入されたカチオン性基:アニオン性基の当量比率は1:0.5〜1:3であり、好ましくは1:1〜1:1.5である。また、導入された三級アミノ基は、硫酸ジメチル、硫酸ジエチル等で四級化することもできる。
本発明でブロックポリイソシアネートと上記活性水素基含有化合物とを反応させる比率は、イソシアネート基/活性水素基の当量比が1.05〜1000、好ましくは2〜200、さらに好ましくは4〜100の範囲である。当量比が1.05未満では、親水性ポリイソシアネート中のイソシアネート基含有率が著しく低下するため、ブロックポリイソシアネートの硬化速度の低下や硬化物の脆弱化が起きる他、微細セルロース繊維との架橋点が少なくなり、耐水化剤や固定化剤として好ましくない。当量比が1000を越えると、界面張力を下げる効果が十分でなく、親水性を発現することが出来ないため好ましくない。なお、本発明で1分子中にイソシアネート基を2つ以上有するポリイソシアネート化合物と活性水素基含有化合物の反応方法としては、両者を混合させて、通常のウレタン化反応を行えばよい。
【0064】
強制乳化型ブロックポリイソシアネートは、周知一般のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、高分子系界面活性剤、反応性界面活性剤等により乳化分散された化合物である。中でもアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤又はカチオン性界面活性剤はコストも低く、良好な乳化が得られるので好ましい。
【0065】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルカルボン酸塩系化合物、アルキルサルフェート系化合物、アルキルリン酸塩等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、炭素数1〜18のアルコールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物、アルキレングリコール及び/又はアルキレンジアミンのエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、1級〜3級アミン塩、ピリジニウム塩、アルキルピリジニウム塩、ハロゲン化アルキル4級アンモニウム塩等の4級アンモニウム塩等が挙げられる。
これらの乳化剤を使用する場合の使用量は、特に制限を受けず任意の量を使用することができるが、ブロックポリイソシアネート1に対する質量比で0.05より小さいと充分な分散性が得られない場合があり、0.3を超えると耐水性、機能化剤固定化等の物性が低下するおそれがあるので0.01〜0.3が好ましく、0.05〜0.2がより好ましい。
【0066】
尚、上記水分散体ブロックポリイソシアネートは、自己乳化型及び強制乳化型ともに水以外の溶剤を20重量%まで含むことができる。この場合の溶剤としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等を挙げることができる。これら溶剤は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。水への分散性の観点から、溶剤としては、水への溶解度が5重量%以上のものが好ましく、具体的には、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。
上記、水分散体ブロックポリイソシアネートの平均分散粒子径は1−1000nmであれば良く、好ましくは10−500nm、より好ましくは10−200nmである。
【0067】
上記水分散体ブロックポリイソシアネートの表面はアニオン性、ノニオン性、カチオン性のいずれであってもよいが、より好ましくはカチオン性である。その理由は、抄紙スラリーを製造する段階で、希薄な微細セルロース繊維スラリー(0.01〜0.5重量%)中で水分散性ブロックポリイソシアネート(0.0001〜0.5重量%)を効果的に微細セルロース繊維に吸着させるうえで、静電相互作用を利用することが有効であるからである。一般的なセルロース繊維表面はアニオン性(蒸留水中ゼータ電位−30〜−20mV)であることが知られている(非特許文献1 J.Brandrup(editor) and E.H.Immergut(editor)“Polymer Handbook 3rd edition”V−153〜V−155)。したがって、水分散性ブロックポリイソシアネート表面はカチオン性であることがより好ましい。ただし、ノニオン性であってもエマルジョンの親水基のポリマー鎖長や剛直性等によっては十分に微細セルロース繊維に吸着させることは可能である。さらに、アニオン性のような静電反発により吸着がより困難な場合であっても、一般的に周知なカチオン性吸着助剤やカチオン性ポリマーを用いることで、微細セルロース繊維上に吸着させることができる。
【0068】
本実施形態の微細セルロース繊維シートは、ブロック基が脱離する温度での加熱処理によりブロックポリイソシアネートと微細セルロース繊維が化学的に結合され、反応体を生成していることを特徴とする。化学的に結合とは、ブロック基解離温度以上の熱処理で再生した活性なイソシアネート基が活性水素を有する官能基と反応し、共有結合を形成することをいう。例えば、微細セルロース系繊維表面に多数存在する水酸基との反応によるウレタン結合が挙げられる。また、微細セルロース繊維表面に微量に存在するカルボキシル基との反応によるアミド尿素結合等が挙げられる。さらに、上記の化学修飾セルロース繊維についても、活性水素を有する官能基が繊維表面に存在すれば共有結合を形成可能である。活性水素を有する官能基とは、例えば水酸基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基等が挙げられる。この化学的な結合が微細セルロース繊維に対し3次元で形成することでシートの引張強力や湿潤強力等の物性が向上するほか、シートに含まれるブロックポリイソシアネートの有機溶剤中での溶出が抑制される。
【0069】
本実施形態の微細セルロース繊維シートはブロックポリイソシアネートがシート内で平面方向及び厚み方向で均一に分布していることを特徴とする。本書中、「ブロックポリイソシアネートがシート内で平面方向及び厚み方向で均一に分布」とは次のように定義する。
平面方向の均一性は、シートの任意の点でのブロックポリイソシアネート量(W1)とセルロース量(W2)の比(W1/W2)が常に一定であることをいう。本実施形態での一定とは、25cm×25cmのシートで任意の4か所におけるW1/W2のバラツキが50%以下の変動係数であることをいう。
厚み方向の均一性は、シートを厚み方向に3等分したときの上部、中部、下部それぞれのブロックポリイソシアネート量とセルロース量の比が同じであることをいう。本実施形態での同じとは、25cm×25cmのシートで任意の4か所における上部のW1/W2の平均、中部のW1/W2の平均、下部のW1/W2の平均を算出する。そして、その3つの平均値のバラツキが50%以下の変動係数であることをいう。
【0070】
ポリイソシアネートの分布の変動係数は50%以下であることが好ましい。変動係数が50%超の場合、同量のポリイソシアネートを均一に含むシートと比べ、湿潤引張強力や耐生分解性等の物性で劣る。
なお、変動係数とは相対的なばらつきを表す値であり、以下の式:
変動係数(CV) = (標準偏差 / 相加平均)×100
により算出できる。
【0071】
ブロックポリイソシアネート量とセルロース量の比は、例えばスパッタエッチングを伴うTOF−SIMSによる3次元組成分析から求められる。TOF−SIMSは試料の極表面の元素組成や化学構造を分析できる。超高真空下で試料に一次イオンビームを照射すると、試料の極表面(1〜3nm)から二次イオンが放出される。二次イオンを飛行時間型(TOF型)質量分析計へ導入することで、試料極表面の質量スペクトルが得られる。この際に一次イオン照射量を低く抑えることにより、化学構造を保った分子イオンや部分的に開裂したフラグメントとして表面成分を検出することができ、極表面の平面方向の元素組成や化学構造の情報が得られる。また、この時にスパッタエッチング銃によるスパッタエッチングと一次イオン銃による二次イオンの測定を繰り返すことで深さ方向の元素組成や化学構造の情報が得られ、3次元での組成・化学構造分析ができる。
【0072】
TOF−SIMSによるW1/W2の算出は例えば次のように実施する。25cm×25cmのシート内の任意の4か所を選択し、1cm各のサンプルを採取する。その4つのサンプルの3次元TOF−SIMS組成分析を実施する。ブロックポリイソシアネート量とセルロース量の比は、ブロックポリイソシアネート由来のm/z=26(フラグメントイオン:CN)のカウント数(C1)とセルロース由来のm/z=59(フラグメントイオン:C
2H
3O
2)カウント数(C2)よりW1/W2=C1/C2として求めることができる。他のブロックポリイソシアネート由来のフラグメントイオンとして例えばCNO(m/z=42)を用いてもよい。また、他のセルロース由来のフラグメントイオンとして例えばC
3H
3O
2(m/z=71)を用いてもよい。なお、観測されるフラグメントイオンはブロックポリイソシアネートの組成やセルロースの原料の違い等により異なることがあるため、上記のフラグメントイオンに限定されるものではない。
用いるTOF−SIMSの測定条件は例えば以下のとおりである。
(測定条件)
使用機器 :nanoTOF (アルバック・ファイ社製)
一次イオン :Bi
3++
加速電圧 :30 kV
イオン電流 :約0.1nA(DCとして)
分析面積 :200μm×200μm
分析時間 :約6sec/cycle
検出イオン :負イオン
中和 :電子銃使用
(スパッタ条件)
スパッタイオン :Ar2500
+
加速電圧 :20kV
イオン電流 :約5nA
スパッタ面積 :600μm×600μm
スパッタ時間 :60sec/cycle
中和 :電子銃使用
【0073】
本実施形態の微細セルロース繊維シートはブロックポリイソシアネートが含まれることを特徴とする。その量は、ブロックポリイソシアネート固形分重量率がセルロース重量に対して1重量%以上100重量%以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは、2重量%以上70重量%以下であり、更により好ましくは、3重量%以上50重量%以下である。パルプにおける湿潤紙力増強剤等の添加剤の添加量は一般的に1重量%以下である。しかし、本実施形態の場合、微細セルロース繊維は比表面積が非常に大きい為、ブロックポリイソシアネート1重量%では全面を被覆することは容易ではなく、所望の引張強度や引張強度の乾湿強度比、耐生分解性等が得られない。一方、100重量%以上の場合、微細セルロース繊維の周りが過剰にポリイソシアネートで被覆されるため、高い耐熱性や加飾性等のセルロースが本来持つ性質が損なわれ、好ましくない。
【0074】
本実施形態の微細セルロース繊維シートは、該シート内に含まれるブロックポリイソシアネートにより、目付10g/m
2相当の引張強度は5N/15mm以上であることが好ましい。シートの引張強度はその目付の大小に影響されるが、目付10g/m
2相当の引張強度が5N/15mm未満であるとシートの取扱い時の破損につながる。より好ましくは、7N/15mm以上、さらに好ましくは8N/15mm以上である(いずれも目付10g/m
2相当)。一方、本実施形態の微細セルロース繊維シートの引張強度の上限値は特にないが、目付10g/m
2あたり100N/15mmを超えることは実質ありえない。尚、本明細書中、引張強度は、室温20℃、湿度50%RHに制御された環境下に24時間保管した後に測定する。
【0075】
また、本実施形態の微細セルロース繊維シートの特徴の一つは湿潤引張強力にも優れる点である。比表面積が大きなシートである本発明の一つの用途として液体フィルターがある。液体中での使用において湿潤引張強力に優れる必要がある。具体的には、引張強度の乾湿強度比が50%以上である。本明細書中に定義する乾湿強度比とは、上記所定の条件で乾燥シートの引張強度を乾燥強度とし、当該乾燥シートを、シートを浸すに十分な水をはった容器内に5分間浸漬した後に測定した引張強度を湿潤強度とし、下記式にて算出したものをいう。尚、ここでは乾燥強度、湿潤強度ともに目付10g/m
2相当に換算する必要はない。
乾湿強度比(%)=(湿潤強度)/(乾燥強度)×100
【0076】
本実施形態の微細セルロース繊維シートは、引張強度の乾湿強度比が50%以上であるので、水を含む溶液に触れる吸着フィルターや細胞培養基材として利用する場合、シートが破れることなく長期間安定的に吸着効果を維持発揮することができる。耐水性セルロースシートの乾湿強度比は50%以上が利用上の利点から好ましく、より好ましくは60%以上である。
【0077】
本実施形態の微細セルロース繊維シートは、セルラーゼによる生物分解性に対し、高い耐性を有してもよい。セルラーゼはセルロース分子鎖のβ−1,4グルコシド結合の加水分解反応を触媒する酵素たんぱく質の総称である。セルラーゼは細菌や菌類等の微生物、昆虫等の生物界に広く存在する酵素たんぱく質であり、容易に手に入ることができる。そして、セルラーゼには様々な種類が知られており、適切な種類を選択することで、セルロースをセルロースのモノマーユニットであるグルコース分子まで効率的に加水分解させることができる。一方、セルロース系材料を提供する観点から考えると、セルラーゼは材料を著しく劣化させる存在である。したがって、本実施形態の微細セルロース繊維シートにセルラーゼに対する耐生分解性を付与することは重要である。
【0078】
本実施形態の微細セルロース繊維シートのセルラーゼに対する耐生分解耐性を定量的に評価する方法としては、例えば、エンドグルカナーゼ、エクソグルカナーゼ、及びβ−グルコシダーゼを含むセルラーゼ混合物でセルロースの加水分解を進行させ、反応液中のグルコース量を定量することで評価する方法が挙げられる。グルコース生成量はグルコースオキシダーゼ法にて定量できる。なお、和光純薬工業株式会社製グルコーステストワコーIIのようなキットを使った定量も可能である。グルコース生成量が少なければセルロースの加水分解反応が進行しにくいことを意味しており、耐生分解性が高いと言える。すなわち、以下の式:
グルコース収率(%)=(グルコース生成量)/(試料の絶乾重量)×100
を用いて、グルコース収率を求めることができる。そして、耐生分解性指標は以下の式:
耐生分解性指標=1/(グルコース収率/100)
を用いて評価することができる。この耐生分解性指標が高いほど生分解性が低い。
【0079】
本実施形態の微細セルロース繊維シートの応用の一つである水処理フィルターは、セルラーゼが存在するような環境下での使用も含まれる。したがって、本実施形態のシートの耐生分解耐性は、用途によってはブロックポリイソシアネートを含まない微細セルロース繊維単独シートよりも2倍以上の耐生分解性が好ましい。
【0080】
本実施形態の微細セルロース繊維シートは親・疎水性が制御されたシートであることを特徴とする。シートの親・疎水性は、例えば用途に応じた所定の目的のために親水性化合物や疎水性化合物をシート上に塗工したり、シートを含浸させたりした際の塗工量や含浸量あるいは、塗工や含浸の操作性にも大きく影響を与える。また、親・疎水性を利用した分離膜への応用がある。特に上記ブロックポリイソシアネートの種類や添加量によって、加熱処理後のシートの疎水化の度合いがかなり異なる。したがって、適切なブロックポリイソシアネートの選択あるいは設計によって、微細セルロース繊維シートの親・疎水性を制御することが可能である。
【0081】
親・疎水性の評価方法はいくつかあり、目的に応じた方法を選択すればよい。また、親・疎水性は相対的な指標であるため、基準となる物質に対する比較を行うことで決定する。例えば、微細セルロース繊維のみで構成されるシートを基準物質として、ブロックポリイソシアネートや各種機能化剤を添加したシートの親・疎水性の判断をする。評価方法として例えば、水滴の静的接触角測定が挙げられる。4μLの蒸留水(20℃)を滴下し、着滴1秒後の静的接触角を自動接触角計(例えば、商品名:「DM−301」、共和界面化学株式会社製)で測定する。この時、静的接触角が小さいほど親水的、大きいほど疎水的といえる。ほかに、水滴が吸液するのにかかる時間を測定する方法が挙げられる。4μLの蒸留水(20℃)を滴下し、液滴が吸水されるまでにかかる時間を測定する方法である。吸水される時間が長いほど疎水的と判断する。
【0082】
本実施形態の微細セルロース繊維シートの特徴は所望の透気抵抗度に精緻に制御されたシートという点である。例えば、該シートをフィルターとして好適に機能させるためには、セルロース不織布が微細な網目構造を有し、一定の通気性を有することが重要である。上述した理由から適度な透気抵抗度の範囲にあることが必要である。透気抵抗度は、1sec/100ml以上2000sec/100ml以下、好ましくは20sec/100ml以上1000sec/100ml以下の範囲であると、本発明の主張する機能性フィルターとしての種々の機能を好適に発現させることが可能となる。ここで、機能性フィルターでは、ネットワークの微細性から該透気抵抗度が1sec/100mlよりも小さなものは作り難く、また、該透気抵抗度が2000sec/100mlを超えるものは空孔率が低くなり、透気抵抗が増大し機能性フィルターとしての本来の機能に乏しい材料となるため、やはり好ましくない。
一方でガス透過膜あるいはガスバリア膜としての使用を考えた場合、通気性が小さいことが重要である。その透気抵抗度はむしろ1000sec/100ml以上であることが望ましい。1000sec/100ml以下では通気性が高くバリア膜としての使用は困難である。ガスバリア膜の性質上、シート自体は緻密なほど好ましく、透気抵抗度は1,000,000sec/100ml以上であっても構わない。
このような透気抵抗度の制御は、用いる微細セルロース繊維の繊維径の選択あるいは繊維径の異なる複数種の微細セルロース繊維の混合比によって変えることができる。繊維径が小さいほど緻密な膜を製膜することができる。しかし、ブロックポリイソシアネートの種類の選択や添加量によっても透気抵抗度を大きく変化させられる。
【0083】
透気抵抗度とは、王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)の測定を室温で行った結果を意味する。測定は、一つのシートサンプルに対して種々の異なる位置について10点の測定を行い、その平均値とする。なお、この測定方法で測定可能な透気抵抗度の範囲は1〜1,000,000sec/100mlの間である。また、100sec/100ml以下の透気抵抗度のサンプルについては、ガーレー式デンソメーター((株)東洋精機製、型式G−B2C)を用いて、100mlの空気の透過時間を測定し、10点の平均値をとる。
【0084】
本実施形態の微細セルロース繊維シートは抄紙法だけでなく塗工法によって形成させることが可能である。特に該シートを塗工法により形成させるためには、単層シートの製造よりも基材上に微細セルロース繊維からなる層を積層させる積層シートの製造の方がより適当である。なお、塗工法により本発明の微細セルロース繊維シートを形成させるには、以下に述べる抄紙法と同様に微細セルロース繊維の水分散体中に水分散型ブロックポリイソシアネートを混合した分散液を塗工液として使用する。すなわち、前述の後加工法と内添法の区分で言えば、内添法に相当する。しかしながら、本発明のシートは特に抄紙法により好適に製造することが可能である。本発明のシートを抄紙法で製造する際には抄紙性に優れるという利点を有する。ここでいう抄紙性が優れるとは濾水時間が短いことを言う。一般的なパルプスラリーと異なり、微細化が高度に進んでいる本発明の微細セルロース繊維は濾水時間が極めて長い。特にその傾向は微細化が進むほど顕著になる。したがって、工業生産を考えた場合、濾水時間が適度に短いことが非常に重要である。具体的には60秒以下でないと連続抄紙による工業生産は困難である。好ましくは30秒以下、より好ましくは10秒以下である。
濾水時間の評価は次のように実施する。PET/ナイロン混紡製の平織物(敷島カンバス社製、NT20・・・大気下25℃での水透過量:0.03ml/cm
2・s、微細セルロース繊維を大気圧下25℃における濾過で99%以上濾別する能力あり)をセットしたバッチ式抄紙機(熊谷理機工業社製、自動角型シートマシーン 25cm×25cm、80メッシュ)に目付10g/m2のセルロースシートを目安に、調整した抄紙スラリーを投入し、その後大気圧に対する減圧度を4KPaとして抄紙(脱水)を実施する。この時の脱水に掛かる時間を濾水時間とし計測する。
【0085】
本実施形態の微細セルロース繊維シートは、撥水加工剤又は撥水撥油加工剤、水溶性ポリマー、抗菌性ポリマー、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及び光硬化性樹脂からなる群から選ばれる機能化剤の少なくとも1種類以上を含有してもよい。機能化剤の固形分重量率が微細セルロース繊維重量に対して0.1重量%以上100重量%以下の範囲であることが好ましい。固形分重量率が0.1重量%以下であると、微細セルロース繊維シート全体に対して機能化剤が少なすぎ、機能化剤のもつ機能が十分に発揮できない。一方、固形分重量率が100重量%以上では機能化剤量が過剰となり、機能化剤の固定化が困難になるため好ましくない。
【0086】
含有される撥水加工剤又は撥水撥油加工剤として、例えば、フッ素を含有する各種の有機系樹脂を挙げることができる。特に、パーフルオロアルキル基を含有するアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アルキルアクリルアミド、アルキルビニルエーテル、ビニルアルキルケトン等の不飽和モノマーの重合物、あるいは上記パーフルオロアルキル基含有不飽和モノマーとアクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、塩化ビニル、アクリロニトリル、マレイン酸エステル、ポリオキシエチレン基含有不飽和モノマー等のパーフルオロアルキル基を含有しない不飽和モノマーとの共重合体が好ましい。また、フッ素系化合物を含有しない撥水加工剤又は撥水撥油加工剤として、シリコーン系化合物、例えば、メチルハイドロジェンポリシロキサン、ジメチルシロキサン、反応型(OH基末端)ジメチルポリシロキサン等、ワックス系化合物、通常の蝋等のワックスを始め、合成パラフィンワックス、パラフィン蝋等がある。なお、合成パラフィンでは低融点のもの、高融点のもの等多数あるが、高融点のパラフィンワックスが好適である。また、パラフィンにアクリル酸エステル系の重合物を共存させた変性物も所望の作用効果を発揮させるために活用できる。また、ワックス−ジルコニウム系化合物、すなわち前述のワックス系化合物をジルコニウム系化合物、具体的には酢酸ジルコニウム、塩酸ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、水酸化カリウム等による塩基性ジルコニウム等を反応させたものやアルキレン尿素化合物、例えば、オクタデシルエチレン尿素、あるいは、それの変性物や、脂肪族アマイド系化合物、例えば、N−メチロールステアリルアマイド、あるいはそれの変性物等の高級脂肪酸アマイド誘導体等が挙げられる。これらは、単独で使用されても二種以上組み合わせて含有してもよい。
【0087】
撥水撥油加工した微細セルロース繊維シートは、例えば、透湿防水膜として利用することができる。該シート自体はセルロースでできているため吸湿性に優れる一方、撥水加工により吸水自体は起きない。このような透湿防水膜はレインコートのようなアウトドア用衣料や膜蒸留用のセパレーター膜への利用が可能である。また、撥水撥油性を利用して油水分離膜としての応用も可能である。
透湿度の測定方法はJIS L1099に記載のB−1法により、24時間あたりの透湿度(g/m
2・24h)を測定できる。透湿度は10,000g/m2・24h以上であることが一般的なレインコート等の衣料に適応する上で好ましい。また、撥水性はJIS L1092−1998耐水度試験B法(高水圧法)で測定できる。耐水圧は100kPa以上であることが一般的なレインコート等の衣料に適応する上で好ましい。また、撥水性の指標として、JIS−L−1092のスプレー法によるシャワー撥水性や水滴(表面張力72mN/m)を用いた静的接触角や動的接触角における転落角、および前進接触角と後退接触角の差を表すヒステリシスの測定で評価してもよい。なお、n−ヘキサデカン滴(表面張力27mN/m)を用いた上記の静的接触角や動的接触角を測定することで撥油性を評価することもできる。
【0088】
含有される水溶性ポリマーは、カチオン性、アニオン性、両性又はノニオン性のいずれであってよい。
カチオン性ポリマーとしては、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、第4級アンモニウム塩基、ピリジニウム、イミダゾリウム、及び四級化ピロリドンを有するポリマーであり、例えば、カチオン化澱粉、カチオン性ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド、ポリアミドアミンエピクロロヒドリン、ポリエチレンイミン、キトサン等の水溶性のカチオン性ポリマー等が挙げられる。
アニオン性ポリマーとしては、カルボキシル基、スルホン基、リン酸基等のアニオン性基を有するポリマーであり、例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸、アニオン性ポリアクリルアミド、尿素リン酸化デンプン、コハク酸変性デンプン、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0089】
両性ポリマーとしては、アニオン性のモノマー単位とカチオン性のモノマー単位が両方、分子鎖骨格中に含まれる両性水溶性高分子を挙げることができる。例えば、ジアリルアミン塩酸塩・マレイン酸共重合体、両性ポリアクリルアミド等が挙げられる。
ノニオン性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
このような水溶性ポリマーを固定化させることでシートの表面ゼータ電位を自在に制御できる。表面ゼータ電位制御により、静電的相互作用による物質の吸着あるいは意図的な吸着抑制が可能になる。例えば、シート表面がカチオンに帯電している時は、アニオン性の物質を吸着する一方で、カチオン性の物質は吸着しにくくなる。また、シート表面がアニオン性に帯電している場合は、カチオン性の物質を吸着する一方で、アニオン性の物質は吸着しにくくなる。このような特徴を有することで、例えば、水処理用吸着フィルターとして利用した際に、濾過対象物よりも大きな孔径のフィルターでも静電的相互作用による吸着を利用して対象物を補足することができる。また、水処理膜のファウリングの原因となる微小粒子はアニオン性である場合が多く、シートをアニオン性にすることで微小粒子の吸着を妨げ、膜寿命を延ばすことができる。
【0090】
水溶性ポリマーを固定化させた微細セルロース繊維シートの静電相互作用による吸着能は、以下のような手法で評価することができる。例えば、アニオン性物質の吸着能を評価したい場合、本発明の微細セルロース繊維シートを濾材として、アニオン性色素である1ppmのオレンジII(関東化学社製)を含む水溶液3mlを、差圧100kPa、有効濾過面積3.5cm
2で全量濾過させる。濾液の濃度C(ppm)を測定し、下記式よりアニオン性色素の除去率(%)を算出できる。
アニオン性成分除去率(%)=(1−C)×100
濾液のオレンジIIの濃度C(ppm)は、紫外可視分光光度計(日本分光:V−650)を用い、濃度既知のオレンジII(波長485nm)の検量線を作成することで測定できる。カチオン性物質の吸着能も前記と同様に、オレンジIIの代わりにメチレンブルー(波長665nm)を用いることで測定できる。
【0091】
本実施形態の微細セルロース繊維シートの表面ゼータ電位は、目的に応じてpH1−14の間で−100mV〜+100mVであればよい。pH1未満およびpH14以上では微細セルロース繊維シートが酸およびアルカリにより容易に化学変性を起こすため、シート形状の保持が困難である。また、−100mV未満および+100mV以上のゼータ電位を有する物質は一般的には存在しない。
ゼータ電位は、電気泳動光散乱光度計により測定できる。例えば、シートを超純水で洗浄し、平板試料用セルに微細セルロース繊維面がモニター粒子溶液(ポリスチレンラテックス)に接するようにセットし、マルバーン株式会社製電気泳動光散乱光度計(ゼータサイザーナノZS)により測定することができる。また、モニター粒子溶液のpHを調整することで所定のpHでのゼータ電位も測定できる。
【0092】
抗菌性を有するポリマーとして、例えば、ポリヘキサメチレンビグアナイド塩酸塩、クロロヘキシジン、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合物、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸塩と硫酸亜鉛の配合物、リン酸エステルモノマーの共重合体の4級アンモニウム塩化合物、ジシアンアミド・ジエチレントリアミン・塩化アンモニウム縮合物、ジシアンジアミド・ポリアルキレン・ポリアミンアンモニウム重縮合体、(ポリβ-1,4)-N-アセチル-D-グルコサミンの部分脱アセチル化合物とヘキサメチレンビス(3‐クロロ‐2‐ヒドロキシプロピルジメチルアンモニウムクロライドとの反応生成分、アクリロニトリル・アクリル酸共重合物銅架橋物、アクリルアミドージアリルアミン塩酸塩共重合体、メタクリレート共重合物、ヒドロキシプロピルキトサン、架橋キトサン、キトサン有機酸塩、キトサン微粉末(ポリグルコサミン)、キチン繊維、キチン、N-アセチル-D-グルコサミンが挙げられる。これら抗菌性を有するポリマーをシート表面にブロックポリイソシアネートにより固定化することにより、例えば洗濯耐性に優れた抗菌性衣料用布帛(シート)を提供することができる。
【0093】
抗菌性評価は、例えばJIS−1902−1998で制定の繊維製品の抗菌性試験法( 統一法)で行うことができる。具体的には、密閉容器の底部に予めサンプルを2g置き、このサンプル上に予め培養した1/50ブロースで希釈した黄色ブドウ球菌( 試験菌種:AATCC−6538P) の菌液0.2mlを蒔き、37℃のインキュベーター内に18時間静置した後、20mLのSCDLP培地を添加して十分に振とうして菌を洗い落とす。これを普通寒天培地に置き24時間後に菌数を計測し、同時に実施した無加工試料布による菌数値と比較し抗菌性を判断する。
D=(Ma−Mb)−(Mc−Md)
式中、
Ma:無加工試料の18時間培養後の生菌数の対数(3検体の平均)
Mb:無加工試料の接種直後の生菌数の対数(3検体の平均)
Mc:加工布培養18時間培養後の生菌数の対数
Md:加工布培養の接種直後の生菌数の対数
D:静菌活性値
である。
静菌活性値D≧2.2の時、抗菌性があると判断される。したがって、微細セルロース繊維シートも静菌活性値D≧2.2であることが好ましい。
【0094】
熱可塑性樹脂として、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、脂肪族ポリオレフィン系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスルホン系樹脂、非晶性フッ素系樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂の数平均分子量は一般に1000以上、好ましくは5000以上500万以下、さらに好ましくは1万以上100万以下である。これらの熱可塑性樹脂は、単独で又は2種以上を含有してもよい。2種以上の熱可塑性樹脂含有する場合、その含有比によって樹脂の屈折率を調整することが可能であるので好ましい。例えば、ポリメタクリル酸メチル(屈折率約1.49)とアクリロニトリルスチレン(アクリロニトリル含量約21%、屈折率約1.57)を50:50で含有すると、屈折率約1.53の樹脂が得られる。
【0095】
熱硬化性樹脂としては、例えば、特に制限されるものではないが、具体例を示すと、エポキシ樹脂、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテル樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂、ユリア樹脂、アリル樹脂、ケイ素樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、アルキド樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、アニリン樹脂等、その他工業的に供されている樹脂及びこれら樹脂2以上を混合して得られる樹脂が挙げられる。なかでも、エポキシ樹脂、アリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、熱硬化型ポリイミド樹脂等は透明性を有するため、光学材料として使用する場合に好適である。
光硬化性樹脂として、例えば、潜在性光カチオン重合開始剤を含むエポキシ樹脂等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂は、単独で含有してもよく、2種以上を含有してもよい。
【0096】
なお、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂とは、常温では液状、半固形状又は固形状等であって常温下又は加熱下で流動性を示す比較的低分子量の物質を意味する。これらは硬化剤、触媒、熱又は光の作用によって硬化反応や架橋反応を起こして分子量を増大させながら網目状の三次元構造を形成してなる不溶不融性の樹脂となり得る。また、樹脂硬化物とは、上記熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂が硬化してなる樹脂を意味する。
【0097】
硬化剤、硬化触媒は、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂の硬化に用いられるものであれば特に限定されない。硬化剤の具体例としては、多官能アミン、ポリアミド、酸無水物、フェノール樹脂が挙げられ、硬化触媒の具体例としてはイミダゾール等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上の混合物として本発明に含有されていてもよい。
【0098】
微細セルロース繊維シートにおいて、上記機能化剤はブロックポリイソシアネートと結合していることが好ましい。ブロックポリイソシアネートが微細セルロース繊維と化学的に結合するとともに、機能化剤とも結合することにより、微細セルロース繊維層の内部及び/又は表面に機能化剤を固定化できる。例えば、該シートを水系フィルターに用いた場合、機能化剤が固定化されていることにより機能化剤の溶出を防ぐことができる。したがって、水中での長期間の使用を経ても、機能化剤由来の機能を持続させることができる。
【0099】
機能化剤が固定化されているかの検証としては以下の3つの手法がある。機能化剤を溶解しやすいあるいは膨潤させやすい溶媒中に、機能化剤が固定化されたシートを長期間浸漬させた後に、i)その機能性がどれだけ維持されているかを評価する手法、ii)シート中に残存する機能化剤の減少量を分析する手法、iii)溶媒中に溶出した機能化剤量を定量する方法である。例えば、フッ素系撥水撥油剤を固定化シートであれば、上記撥水性や撥油性の評価試験を浸漬前後のサンプルで実施し、その変動を評価する。また、シート中に含まれるフッ素系撥水撥油剤由来のフッ素量の浸漬による変化を燃焼イオンクロマトグラフ法で分析することでも評価可能である。なお、分析手法は燃焼イオンクロマトグラフ法に限ったものではなく、分析対象である機能化剤の種類によって分析しやすい機器、例えば溶液NMRや固体MAS−NMR、ICP、液体クロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィ、TOF−SIMS等を選択すればよい。
【0100】
本実施形態の微細セルロース繊維シートと有機高分子からなるシート(以下、有機高分子シートと略す。)を積層させた積層構造体は、引張強度等が強化されて丈夫になるため、シートとしての取扱い性が改善される。特に水処理フィルターや分離膜、細胞培養シート等の液体と接触する用途において効果的である。
有機高分子シートとしては、特に規定されるものではなく、目的とする積層構造体の形状、硬さ、機械的性質、熱的性質、耐久性、透水性、透気抵抗度、濾過性等の要求性能、または用途に応じて、素材を選択すれば足りる。
【0101】
高分子組成としては特に規定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸類、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、シリコーン樹脂、アイオノマー、セルロース、セルロース誘導体、酢酸セルロース、ニトロセルロース、スチレン−ブタジエン又はスチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミドシリコーン樹脂、熱硬化型ポリフェニレンエーテル樹脂、変性PPE樹脂、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、ブチルゴム及びハロゲン化ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、及びシリコーンゴム等が挙げられる。
【0102】
前記有機高分子シートは接着性改善のためにコロナ放電処理やプラズマ処理等のシート表面の表面改質がされていてもよい。
本実施形態の積層構造体において、有機高分子シートの構造は特に規定されるものではない。但し、抄紙法により微細セルロース繊維を濾過して製造するという観点及び水処理フィルター等の物質透過目的で利用する観点からは多孔質シートがより好ましい。多孔質シートとしては、例えば、有機高分子繊維からなる織物、編物、網状物、長繊維不織布、短繊維不織布、あるいは樹脂の相分離や延伸等で製造される高分子微多孔膜又はフィルム等が挙げられる。中でも、シートへの機能付与の観点や製造時の抄紙性やシートのコスト、柔軟性等の観点から有機高分子繊維からなるシート(以下、高分子繊維シートともいう。)がより好ましい。
【0103】
水処理フィルターや分離膜への応用を考えた場合、有機高分子繊維の数平均繊維径は数平均繊維径0.5μm以上30μm以下であることが、微細セルロース繊維シートの強度改善と柔軟性維持、更には膜質均一性のために好ましい。また、同時に有機高分子繊維の数平均繊維径がこの範囲にあることで有機高分子繊維層が数μm〜数十μmの空孔を形成し、粗大粒子の濾材としても作用する。微細セルロース繊維シートに対する有機高分子繊維の重量比率は、100重量%以上3000重量%以下であることが好ましく、100重量%以上であることで微細セルロース繊維層を含むシート全体強度が改善される。一方、有機高分子繊維の重量比率が3000重量%を超えると微細セルロース繊維の特長(比表面積の高さによる高吸着性能)が阻害される。したがって、好ましい有機高分子繊維の繊維径は1μm以上25μm以下、より好ましくは1.5μm以上20μm以下であって、好ましい有機高分子繊維層の重量比率は150重量%以上2500重量%以下、より好ましくは200重量%以上2000重量%以下である。
【0104】
有機高分子繊維とは、6−ナイロンや6,6−ナイロン等のポリアミド繊維、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、木材パルプやコットンリンター等の天然セルロース繊維、ビスコースレーヨンや銅アンモニアレーヨン等の再生セルロース繊維及びリヨセルやテンセル等の精製セルロース繊維の群から選ばれる少なくとも1種である。前記有機高分子繊維からなる層は長繊維シート、短繊維シートいずれでもよく、長繊維シートの場合は不織布であっても織物、編物、網状物であっても構わない。
【0105】
また、前記高分子繊維シートは接着性改善のためにシート表面をコロナ放電処理やプラズマ処理がされていてもよい。微細セルロース繊維層と有機高分子繊維層との剥離及び微細セルロース繊維のシートからの滑落が防止することを目的として、前記有機高分子繊維層に対して微細セルロース繊維が厚み方向に入り込んでいてもよい。
【0106】
本実施形態の積層構造体の構造は、有機高分子シート上に微細セルロース繊維シートが積層化された2層構造であっても、有機高分子シートの表裏両面に該セルロースシートを配した3層構造をもつものでもよい。また、異なる有機高分子からなる多層化シートの片面又は表裏両面に微細セルロース繊維シートを配してもよく、これら多層構造のシートの片面或いは表裏両面に更に有機高分子シートを配してもよい。有機高分子シートのシート重量に対する重量比率は、使用された有機高分子シート全ての重量で判断する。
【0107】
上記の微細セルロース繊維シートと有機高分子シートの積層構造体はブロックポリイソシアネートによって化学的に架橋されていることが好ましい。化学的な架橋として、例えば、水酸基との反応によるウレタン結合やアミノ基との反応による尿素結合、カルボキシル基との反応によるアミド尿素結合等が挙げられる。化学的な架橋が無い場合、微細セルロース繊維と有機高分子の間は水素結合やイオン結合のような弱い結合により積層構造を保持している。そのため、水に対して弱く、水中で容易に剥離が起きるため、その応用展開を著しく限定するものとなる。したがって、両シート間が該ブロックポリイソシアネートで架橋されることにより、微細セルロース繊維シートと有機高分子シートの剥離を防ぐことができる。
【0108】
該ブロックポリイソシアネートが架橋する上で好ましい有機高分子シートは、有機高分子シート表面にイソシアネート基との反応性の高い活性水素を有する官能基(水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基等)を多数有するシートである。その理由は該官能基がシート表面に多数存在することで、多数の共有結合によって強固に両シート間が化学的に架橋されるためである。好ましい有機高分子シートとして、具体的には、セルロース、ナイロン、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸系等の繊維からなるシートが挙げられる。また、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラートのような該官能基を持たない有機高分子シートでも、コロナ放電処理やプラズマ処理等の表面活性化処理によって該官能基を導入可能であり、該ブロックポリイソシアネートによる化学的な架橋は可能である。
【0109】
積層構造体が上記のように化学的に架橋されることにより、水と長時間接触する水系フィルターや分離膜、細胞培養シート、又は高湿潤化での高い寸法安定性が要求されるガスバリア膜、全熱交換器用シート等への利用が可能になる。また、架橋化により乾燥時においても引張強度や引張伸度も向上するため、積層構造体そのものの取扱いが容易になる。したがって、水との接触が無いような用途、例えばエアフィルター等の用途においても有効である。
【0110】
本実施形態の積層構造体は、親水化処理を施すことでシートの水蒸気透過性を向上させることができる。透湿性が向上したシートは、例えば全熱交換器用シートとして好適である。全熱交換器用シートとは換気による空調エネルギーを削減する全熱交換機に用いられる部材である。該シートは温度・湿度が異なる2種類の空気を混合させることなく、顕熱の移動と湿気の透過による潜熱の移動に優れたシートである。したがって、該シートに求められる性能はi)空気を通さない高い透気抵抗度(緻密性)、ii)効率よく顕熱を移動させられる薄膜性、iii)効率よく湿気を透過させられる高い透湿性の3つである。一般的に透気抵抗度を上昇させると、空気だけでなく水蒸気の透過も減少する。それに対し親水化処理を施すことで、ガスバリア性は高いにも関わらず透湿性に優れたシートを得ることができる。
親水化処理の手段としては、内添法により微細セルロース繊維層の表面及び/又は内部に高い親水性を付与する方法と、後加工により積層構造体の表面層に親水性化合物を導入する方法がある。
内添法に関しては、上述した機能化剤の固定化において、前記記載の水溶性ポリマーを固定化する方法において達成できる。
後加工法に関しては、親水性の高い親水性化合物の溶液若しくは分散液を積層構造体に塗工又は噴霧する方法や、親水性化合物溶液に積層構造体を浸漬後、乾燥する方法が挙げられる。
【0111】
後加工法に用いることができる親水性化合物としては、無機酸塩、有機酸塩、無機質填材、多価アルコール、尿素類、吸湿(吸水)性高分子(水溶性高分子やハイドロゲル形成能のある親水性高分子)等があり、例えば、無機塩としては、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、有機塩としては、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、無機質填材としては、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、タルク、クレー、ゼオライト、珪藻土、セピオライト、シリカゲル、活性炭、多価アルコールとしては、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリグリセリン、尿素類としては、尿素、ヒドロキシルエチル尿素、吸湿(吸水)性高分子として、ポリアスパラギン酸、ポリアクリル酸、ポリグルタミン酸、ポリリジン、アルギン酸、カルボキシルメチルセルロース、カルボキシルエチルセルロース、ヒドロキシルアルキルセルロース及びそれらの塩または架橋物、カラギーナン、ペクチン、ジェランガム、寒天、キサンタンガム、ヒアルロン酸、グアーガム、アラビアゴム、澱粉及びそれらの架橋物、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、コラーゲン、アクリルニトリル系重合ケン化物、澱粉/アクリルニトリルグラフト共重合体、アクリル酸塩/アクリルアミド共重合体、ポリビニルアルコール/無水マレイン酸共重合体、多糖類/アクリル酸塩グラフト自己架橋体等の吸湿剤が挙げられ、目的とする吸湿度に応じて種類や付着量を選んで用いられる。尚、前記無機質填量とは、無機鉱物や無機塩等であって、吸湿目的の他に増量剤、嵩高剤等の目的で使用するものをいう。該吸湿剤を固定化させる(高湿度で透湿剤が移動しないようにする)目的で、上記記載を含む水溶性高分子と無機塩類や有機塩類と共存させると有効である場合もある。
【0112】
本実施形態の積層構造体において、ブロックポリイソシアネートはシートの耐水化を目的とする。具体的には、例えば高湿潤下や結露発生環境下での使用時にシートの崩壊を防ぐ。上記ブロックポリイソシアネートや親水性化合物以外にも、本発明の積層構造体の透湿度や透気抵抗度を損なわない範囲で、難燃剤等の任意の添加剤を含んでいてもよい。以上、ブロックポリイソシアネート、親水性化合物、その他添加剤の含有量は、該シート全重量の50重量%以下に抑えられることが好ましく、より好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは30重量%以下である。この範囲にあると、高いガスバリア性と高い透湿性を兼ね備えた本発明の積層構造体を提供することが可能となる。一方、添加剤類は各々の目的で効果を発揮する代わりに化学物質としての活性も高いものが多いため、含有量の総和が50重量%を超えると、該シートの耐久性が著しく損なわれるため、好ましくない。
【0113】
全熱交換器用シートの目的において、本実施形態の積層構造体は、透気抵抗度(JAPAN TAPPI 紙パルプ試験法による測定)が1,000sec/100ml以上であることが好ましい。透気抵抗度が1,000sec/100ml未満であると、湿気と共に空気も透過するため、換気の機能を果たせない。熱交換としての機能を発揮するためには、透気抵抗度は3000sec/100ml以上であることが好ましく、全熱交換用シートとして使用する場合には、4000sec/100ml以上であることが好ましい。透気抵抗度の上限は高ければ高い程(大きければ大きい程)好ましいが、測定装置の検出限界である1000万sec/100ml以下であることが好ましい。
【0114】
全熱交換器用シートの目的において、本実施形態の積層構造体は透湿度(JIS L 1099 A−1法による測定)が5000g/m2・24hr以上、より好適には、7000g/m2・24hr以上、さらに好適には8000g/m2・24hr以上であることが好ましい。透湿度は全熱交換器用シートとして使用するには高ければ高いほど好ましい。透湿度を向上させる方法は前述の親水性化合物を添加する他に、水蒸気透過の抵抗となる微細セルロース繊維層を薄くすることも効果的である。
【0115】
全熱交換器用シートの目的において、本実施形態の積層構造体は、0.0100W/(m・K)以上0.1000W/(m・K)以下の範囲の比較的高い熱伝導性を有する。実質的な熱伝導率は空気の抵抗層となる緻密な微細セルロース繊維層が支配する。したがって、該層を薄くすることで、積層構造体の熱伝導率を向上させることができる。すなわち顕熱交換率を発現できることになる。
【0116】
全熱交換器用シートの目的において、本実施形態の全熱交換器用シートは、全熱交換素子のコンパクト化や熱伝導率の要求から薄いものを用いる方が好ましく、全体平均厚みは10μm以上200μm以下、好ましくは10μm以上120μm以下、より好ましくは10μm以上70μm以下、である。該平均厚みが10μm未満のシートは技術的に製造が困難であり、また120μmよりも大きな平均厚みのものでは熱伝導率が著しく低くなるため好ましくない。
【0117】
以上、本実施形態の積層構造体は、全熱交換器用シートの目的において、高い透気抵抗度、高い透湿性及び比較的高い熱伝導率を有する。該シートは静止型全熱交換器に使用される全熱交換素子(エレメントと呼ばれる積層型カートリッジ)の中で、排気/吸気を仕切る仕切り材として好適であり、高いエネルギー交換率に寄与することができる。
【0118】
上記全熱交換器用素子は供給ファン及び排出ファンと組み合わせることで全熱交換器を作ることができる。全熱交換器は次のようなシステムで稼働している。供給ファンによって、外気等の供給気体が全熱交換器用素子に吸い込まれて、全熱交換器用素子内に組み込まれた全熱交換器用シートに接触する。一方で、排出ファンによって、室内空気等の排出気体も全熱交換器用素子に吸い込まれて、全熱交換器用シートに接触する。全熱交換器用シートを介して接触した供給気体と排出気体とは、温度及び湿度に応じてそれぞれで熱交換を行う。熱交換された供給気体は、供給ファンに吹き込んで、例えば、室内に給気される。一方で、熱交換された排出気体は、排出ファンに吹き込んで、例えば、屋外に排出されたりする。
この時、全熱交換器用シートの透湿性能・熱伝導率が優れると、供給気体−排出気体間での効率的な熱交換が行える。その結果、建築物内の熱又は冷熱の放出を抑制しつつ、建築物内の高濃度の揮散性有機化合物を含む二酸化炭素を排出し、新鮮な室外の空気を給気できる。
【0119】
なお、高い透湿度と高い透気抵抗度及び比較的高い熱伝導性を有する本発明の積層構造体は全熱交換器用シート以外の用途に適用可能である。例えば、高い耐水圧と水蒸気透過性が問われる膜蒸留のような水処理膜や衣料用素材等を挙げることができるがこれらに限定されるものではない。
【0120】
以下、本発明の微細セルロース繊維シートの製造方法の例について説明するが、特にこの方法に限定されるものではない。
本実施形態の微細セルロース繊維シートの製造方法は、抄紙法または塗布法のいずれかで製造する。抄紙法の場合には、(1)セルロース繊維の微細化による微細セルロース繊維製造工程、(2)該微細セルロース繊維の抄紙スラリーの調製工程、(3)該抄紙スラリーを多孔質基材上でのろ過により湿紙を形成する抄紙工程、(4)該湿紙を乾燥し乾燥シートを得る乾燥工程、(5)該乾燥シートの熱処理によりブロックポリイソシアネートによる化学的な結合形成等を促進させる熱処理工程からなる。また、塗布法の場合には、上記(1)および(2)と同様の工程により調整した塗布用スラリーを有機高分子シート上に塗布、乾燥させ、(5)と同様に熱処理により化学的な結合形成を促進させる。塗布法の場合の塗布方法はスプレー塗工、グラビア塗工、ディップ塗工等種々な塗布方法を選定することができる。以下に本発明の微細セルロース繊維からなる抄紙用または塗布用スラリーの調製方法および抄紙法による微細セルロース繊維層の形成方法について説明する。
【0121】
微細セルロース繊維を製造する際の原料としては、針葉樹パルプや広葉樹パルプ等のいわゆる木材パルプと非木材パルプを使用することができる。非木材パルプとしては、コットンリンターパルプを含むコットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、ワラ由来パルプを挙げることができる。コットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、ワラ由来パルプは各々、コットンリントやコットンリンター、麻系のアバカ(例えば、エクアドル産又はフィリピン産のものが多い)、ザイサルや、バガス、ケナフ、竹、ワラ等の原料を蒸解処理による脱リグニン等の精製工程や漂白工程を経て得られる精製パルプを意味する。この他、海藻由来のセルロースやホヤセルロースの精製物も微細セルロース繊維の原料として使用することができる。さらに、再生セルロース繊維のカット糸やセルロース誘導体繊維のカット糸もその原料として使用でき、また、エレクトロスピニング法により得られた再生セルロース又はセルロース誘導体の極細糸のカット糸も微細セルロース繊維の原料や微細セルロース繊維そのものとして使用することができる。
【0122】
次に、セルロース繊維の微細化の方法について記載する。セルロース繊維の微細化は、前処理工程、叩解処理工程及び微細化工程を経ることが好ましい。前処理工程においては、100〜150℃の温度での水中含浸下でのオートクレーブ処理、酵素処理等、又はこれらの組み合わせによって、原料パルプを微細化し易い状態にしておくことは有効である。これらの前処理は、微細化処理の負荷を軽減するだけでなく、セルロース繊維を構成するミクロフィブリルの表面や間隙に存在するリグニンやヘミセルロース等の不純物成分を水相へ排出し、その結果、微細化された繊維のα−セルロース純度を高める効果もあるため、微細セルロース繊維不織布の耐熱性の向上に大変有効であることもある。
【0123】
叩解処理工程においては、原料パルプを0.5重量%以上4重量%以下、好ましくは0.8重量%以上3重量%以下、より好ましくは1.0重量%以上2.5重量%以下の固形分濃度となるように水に分散させ、ビーターやディスクレファイナー(ダブルディスクレファイナー)のような叩解装置でフィブリル化を高度に促進させる。ディスクレファイナーを用いる場合には、ディスク間のクリアランスを極力狭く(例えば、0.1mm以下)設定して、処理を行うと、極めて高度な叩解(フィブリル化)が進行するので、高圧ホモジナイザー等による微細化処理の条件を緩和でき、有効な場合がある。
【0124】
好ましい叩解処理の程度は以下のように定められる。本願発明者らによる検討において、叩解処理を行うにつれCSF値(セルロースの叩解の程度を示す。JIS P 8121で定義されるパルプのカナダ標準ろ水度試験方法で評価)が経時的に減少していき、一旦、ゼロ近くとなった後、さらに叩解処理を続けると再び増大していく傾向が確認され、本実施形態の不織布構造体の原料である微細セルロース繊維を調製するためには、前処理として、CSF値が一旦、ゼロ近くとなった後、さらに叩解処理を続けCSF値が増加している状態まで叩解することが好ましいことが分かった。本明細書中、未叩解からCSF値が減少する過程でのCSF値を***↓、ゼロとなった後に増大する傾向におけるCSF値を***↑と表現する。該叩解処理においては、CSF値は少なくともゼロが好ましく、より好ましくはCSF30↑である。このような叩解度に調製した水分散体ではフィブリル化が高度に進行し、数平均繊維径が1000nm以下の微細セルロース繊維からなる均質なシートが得られる。また、それと同時に、得られた微細セルロース繊維シートはセルロースミクロフィブリル同士の接着点の増加からか、引張強度が向上する傾向がある。またCSF値が少なくともゼロあるいはその後増大する***↑の値をもつ高度に叩解された水分散体は均一性が増大し、その後の高圧ホモジナイザー等による微細化処理での詰まりを軽減できるという製造効率上の利点がある。
【0125】
微細セルロース繊維の製造には、上述した叩解工程に引き続き、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、グラインダー等による微細化処理を施すことが好ましい。この際の水分散体中の固形分濃度は、上述した叩解処理に準じ、0.5重量%以上4重量%以下、好ましくは0.8重量%以上3重量%以下、より好ましくは1.0重量%以上2.5重量%以下である。この範囲の固形分濃度の場合、詰まりが発生せず、しかも効率的な微細化処理が達成できる。
【0126】
使用する高圧ホモジナイザーとしては、例えば、ニロ・ソアビ社(伊)のNS型高圧ホモジナイザー、(株)エスエムテーのラニエタイプ(Rモデル)圧力式ホモジナイザー、三和機械(株)の高圧式ホモゲナイザー等を挙げることができ、これらの装置とほぼ同様の機構で微細化を実施する装置であれば、これら以外の装置であっても構わない。超高圧ホモジナイザーとしては、みづほ工業(株)のマイクロフルイダイザー、吉田機械興業(株)ナノマイザー、(株)スギノマシーンのアルティマイザー等の高圧衝突型の微細化処理機を意味し、これらの装置とほぼ同様の機構で微細化を実施する装置であれば、これら以外の装置であっても構わない。グラインダー型微細化装置としては、(株)栗田機械製作所のピュアファインミル、増幸産業(株)のスーパーマスコロイダーに代表される石臼式摩砕型を挙げることができるが、これらの装置とほぼ同様の機構で微細化を実施する装置であれば、これら以外の装置であっても構わない。
【0127】
微細セルロース繊維の繊維径は、高圧ホモジナイザー等による微細化処理の条件(装置の選定や操作圧力及びパス回数)又は該微細化処理前の前処理の条件(例えば、オートクレーブ処理、酵素処理、叩解処理等)によって制御することができる。
さらに、本発明に使用できる微細セルロース繊維として、表面の化学処理を加えたセルロース系の微細繊維、及びTEMPO酸化触媒によって6位の水酸基が酸化され、カルボキシル基(酸型、塩型を含む)となったセルロース系の微細繊維を本発明の微細セルロース繊維として使用することもできる。前者の場合は、目的に応じて種々の表面化学処理を施すことにより、例えば、微細セルロース繊維の表面に存在する一部あるいは大部分の水酸基が酢酸エステル、硝酸エステル、硫酸エステルを含むエステル化されたもの、メチルエーテルを代表とするアルキルエーテル、カルボキシメチルエーテルを代表とするカルボキシエーテル、シアノエチルエーテルを含むエーテル化されたものを、適宜調製して使用することができる。また、後者、すなわち、TEMPO酸化触媒によって6位の水酸基が酸化された微細セルロースの調製においては、必ずしも高圧ホモジナイザーのような高エネルギーを要する微細化装置を使用することは必要なく、微細セルロースの分散体を得ることができる。例えば、文献(A.Isogai et al.,Biomacromolecules,7,1687−1691(2006))に記載されるように、天然セルロースの水分散体に2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルのようなTEMPOと呼ばれる触媒とハロゲン化アルキルを共存させ、これに次亜塩素酸のような酸化剤を添加し、一定時間反応を進行させることにより、水洗等の精製処理後に、通常のミキサー処理を施すことにより極めて容易に微細セルロース繊維の分散体を得ることができる。
なお、本発明では、上記の原料の異なる微細セルロース繊維やフィブリル化度の異なる微細セルロース繊維、表面を化学処理された微細セルロース繊維等を2種類以上、任意の割合で混合した水分散体を用いて後述する抄紙・乾燥・加熱処理を行い、2種類以上の微細セルロース繊維で構成されるシートを製造することもできる。
【0128】
次いで、上記の微細セルロース繊維の水分散体に各種添加剤(油性化合物、ブロックポリイソシアネート、機能化剤等)を添加し、抄紙スラリーを調製する工程について記す。微細セルロース繊維抄紙スラリーは、微細セルロース繊維0.01重量%以上0.5重量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.08重量%以上0.35重量%以下であると好適に安定な抄紙を実施することができる。該スラリー中の微細セルロース繊維濃度が0.01重量%よりも低いと濾水時間が非常に長くなり生産性が著しく低くなると同時に、膜質均一性も著しく悪くなるため好ましくない。また、微細セルロース繊維濃度が0.5重量%よりも高いと、分散液の粘度が上がり過ぎてしまうため、均一に製膜することが困難になり好ましくない。
多孔質の微細セルロース繊維シートを製造する上で、上記抄紙スラリー中には本発明者らによる前記した特許文献1に記載のエマルジョン化した油性化合物が含まれていてもよい。
具体的には、大気圧下での沸点範囲が50℃以上200℃以下である油性化合物が、エマルジョンの形態で抄紙スラリー中に0.15重量%以上10重量%以下の濃度で分散していることが好ましい。油性化合物の抄紙スラリー中の濃度は0.15重量%以上10重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.3重量%以上5重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以上3重量%以下である。油性化合物の濃度が10重量%を超えても本発明の微細セルロース繊維多孔質シートを得ることはできるが、製造プロセスとして使用する油性化合物の量が多くなり、それに伴う、安全上の対策の必要性やコスト上の制約が発生するため好ましくない。また、油性化合物の濃度が0.15重量%よりも小さくなると所定の透気抵抗度範囲よりも高い透気抵抗度のシートしか得られなくなるため、やはり好ましくない。
【0129】
乾燥時に上記油性化合物が除去されないと本発明の微細セルロース繊維多孔質シートとなり得ないため、用いる油性化合物は乾燥工程で除去可能なことが必要である。したがって、本発明において、抄紙スラリー中にエマルジョンとして含まれる油性化合物は、一定の沸点範囲にあることが必要であり、具体的には、大気圧下での沸点が50℃以上200℃以下であることが好ましい。さらに好ましくは、60℃以上190℃以下であれば、工業的生産プロセスとして抄紙スラリーを操作し易く、また、比較的効率的に加熱除去することが可能となる。油性化合物の大気圧下での沸点が50℃未満であると抄紙スラリーを安定に扱うために低温制御下で扱うことが必要となり、効率上好ましくない。さらに、油性化合物の大気圧下での沸点が200℃を超えると、乾燥工程で油性化合物を加熱除去するのに多大なエネルギーが必要となるため、やはり好ましくない。
さらに、上記油性化合物の25℃での水への溶解度は5重量%以下、好ましくは2重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下であることが油性化合物の必要な構造の形成への効率的な寄与という観点で望ましい。
【0130】
油性化合物として、例えば、炭素数6〜炭素数14の範囲の炭化水素、鎖状飽和炭化水素類、環状炭化水素類、鎖状または環状の不飽和炭化水素類、芳香族炭化水素類、炭素数5〜炭素数9の範囲での一価かつ一級のアルコールが挙げられる。特に、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノールの中から選ばれる少なくとも一つの化合物を用いると特に好適に本発明の微細セルロース繊維多孔質シートを製造することができる。これは、エマルジョンの油滴サイズが極めて微小(通常の乳化条件で、1μm以下)となるため、高空孔率かつ微細な多孔質構造を有する不織布の製造に適していると考えられる。
これらの油性化合物は単体として配合してもよいし、複数の混合物を配合してもよい。さらには、エマルジョン特性を適当な状態に制御するために、抄紙スラリー中に水溶性化合物を溶解させてもよい。
【0131】
水溶性化合物として、具体的には、糖、水溶性多糖、水溶性多糖誘導体、多価アルコール、アルコール誘導体、及び水溶性高分子からなる群から選択される1種以上の水溶性化合物を含有していてもよい。ここで、水溶性多糖は、水溶性の多糖を意味し、天然物としても多種の化合物が存在する。例えば、でんぷんや可溶化でんぷん、アミロース等である。また、水溶性多糖誘導体は、上述した水溶性多糖の誘導体、例えば、アルキル化物、ヒドロキシアルキル化物、アセチル化物であって水溶性のものが含まれる。あるいは、誘導体化する前の多糖がセルロース、スターチ等の様に水に不溶性であっても、誘導体化、例えば、ヒドロキシアルキル化やアルキル化、カルボキシアルキル化等によって、水溶性化されたものも該水溶性多糖誘導体に含まれる。2種類以上の官能基で誘導体化された水溶性多糖誘導体も含まれる。ただし、使用できる水溶性化合物は上記に記載された化合物に限定されるものではない。
【0132】
上記の水溶性化合物の混合量は、油性化合物に対し25重量%以下であることが好ましい。これ以上の添加量とすると油性化合物のエマルジョンの形成能が低下するため、好ましくない。また、抄紙スラリー中において、水溶性化合物が水相中に溶解していることが好ましい。水溶性化合物の濃度は、0.003重量%以上0.3重量%以下、より好ましくは、0.005重量%以上0.08重量%以下、さらに好ましくは、0.006重量%以上0.07重量%以下の量であり、この範囲であると、微細セルロース繊維多孔質シートが得られ易いと同時に、抄紙スラリーの状態が安定化することが多いので好ましい。
エマルジョンを安定化させる目的で、抄紙スラリー中に上記の水溶性化合物以外に界面活性剤が、上記特定の水溶性高分子との合計量が上記濃度範囲で含まれていても構わない。
界面活性剤としては、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α‐オレフィンスルホン酸塩等のアニオン界面活性剤、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム等のカチオン界面活性剤、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルアミドジメチルアミノ酢酸ベタイン等の両性界面活性剤、アルキルポリオキシエチレンエーテルや脂肪酸グリセロールエステル等のノニオン性界面活性剤を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0133】
続いて、抄紙または塗布用スラリーに上記水分散性ブロックポリイソシアネートを添加する工程について述べる。抄紙スラリーに前述の水分散性ブロックポリイソシアネートを添加する濃度は、本実施形態の微細セルロース繊維シートの構造や性能を落とさない限りにおいて、抄紙スラリー中の0.0001重量%以上0.5重量%以下の範囲で任意に変えることができる。尚、水分散性ブロックポリイソシアネートの添加量は、熱処理工程後のシート内に所望する重量のブロックポリイソシアネートが含まれるように決定する。
【0134】
この他、抄紙スラリー中には、目的に応じて種々の添加物が添加されていても構わない。例えば、上記撥水撥油加工剤、水溶性ポリマー、抗菌性ポリマー、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂からなる機能化剤、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化チタン粒子、炭酸カルシウム粒子のような無機系粒子状化合物、樹脂微粒子、各種塩類、抄紙スラリーの安定性を阻害しない程度の有機溶剤、消泡剤等、シート構造体の製造に悪影響を及ぼさない範囲(種類の選択や組成の選択)で添加することができる。
【0135】
抄紙スラリー中では水の組成は、85重量%以上99.9重量%以下、好ましくは90重量%以上99.4重量%以下、さらに好ましくは92重量%以上99.2%以下であることが好ましい。抄紙スラリー中の水の組成が85重量%より低くなると、粘度が増大するケースが多く、微細セルロース繊維を抄紙スラリー中に均一に分散し難くなり、均一な構造の通気性を有する微細セルロース繊維シートが得られ難くなるため好ましくない。また、抄紙スラリー中の水の組成が99.5重量%を超えると、濾水時間が非常に長くなり生産性が著しく低くなると同時に、膜質均一性も著しく悪くなるため好ましくない。
また、塗布用スラリーの場合には、水の組成は70重量%以上99.8重量%以下、より好ましくは75重量%以上99.6重量%以下である。
【0136】
抄紙または塗布用スラリーの調製方法として、例えば、(1)微細セルロース繊維水分散体に予め調製した添加物を含む水溶液を混合し、分散させて抄紙スラリーとする、(2)微細セルロース繊維水分散体を撹拌させながら、各種添加物を個別に一つずつ添加する等の方法がある。尚、複数種の添加物を添加する場合であって、添加物同士が凝集するような系において(例えば、カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマーがイオンコンプレックスを形成する系)、添加する順番により、抄紙スラリーの分散状態やゼータ電位が変わる可能性がある。しかしながら、その添加する順番や量は特に限定するものではなく、所望の抄紙スラリーの分散状態やシート物性が得られる方法で添加することが好ましい。
【0137】
以上の添加剤を均一に混合分散するための撹拌装置として、アジテーター、ホモミキサー、パイプラインミキサー、ブレンダーのようなカッティング機能をもつ羽根を高速回転させるタイプの分散機や高圧ホモジナイザー等が挙げられる。撹拌において、スラリーの分散平均径が1μm以上300μm以下になるのが好ましい。但し、過度な撹拌を行うことで水分散性ブロックポリイソシアネート等のエマルジョンに過剰な剪断応力がかかり、そのエマルジョン構造が壊れる恐れがあるため、高圧ホモジナイザーやグラインダー型微細化装置、石臼式摩砕型装置等の使用は好ましくない。
【0138】
次に、抄紙スラリーの多孔質基材上でのろ過により湿紙を形成する抄紙工程について説明する。
この抄紙工程は、基本的に、抄紙スラリーから水を脱水し、微細セルロース繊維が留まるようなフィルターや濾布(製紙の技術領域ではワイヤーとも呼ばれる)を使用する操作であればどのような装置を用いて行ってもよい。
抄紙機としては、傾斜ワイヤー式抄紙機、長網式抄紙機、円網式抄紙機のような装置を用いると好適に欠陥の少ないシート状の微細セルロース繊維シートを得ることができる。抄紙機は連続式であってもバッチ式であっても目的に応じて使い分ければよい。
【0139】
上述した調製工程により得られる微細セルロース繊維抄紙スラリーを用いて抄紙工程により脱水を行うが、抄紙はワイヤー又は濾布を用いて抄紙スラリー中に分散している微細セルロース繊維等の軟凝集体を濾過する工程であるため、ワイヤー又は濾布の目のサイズが重要である。本発明においては、本質的には、抄紙スラリー中に含まれる微細セルロース繊維等を含む水不溶性成分の歩留まり割合が70重量%以上、好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上で抄紙することのできるようなワイヤー又は濾布であればいかなるものでも使用できる。
【0140】
但し、微細セルロース繊維等の歩留まり割合が70重量%以上であっても濾水性が高くないと抄紙に時間がかかり、著しく生産効率が悪くなるため、大気圧下25℃でのワイヤー又は濾布の水透過量が、好ましくは0.005ml/(cm
2・sec)以上、より好ましくは0.01ml/(cm
2・sec)以上であると、生産性の観点からも好適な抄紙が可能となる。上記水不溶成分の歩留まり割合が70重量%よりも低くなると、生産性が著しく低減するばかりか、用いるワイヤーや濾布内に微細セルロース繊維等の水不溶性成分が目詰まりしていることになり、製膜後の微細セルロース繊維シートの剥離性も著しく悪くなる。
【0141】
ここで、大気圧下でのワイヤー又は濾布の水透過量は次のようにして評価するものとする。バッチ式抄紙機(例えば、熊谷理機工業社製の自動角型シートマシーン)に評価対象となるワイヤー又は濾布を設置するにおいて、ワイヤーの場合はそのまま、濾布の場合は、80〜120メッシュの金属メッシュ(濾水抵抗がほとんど無いものとして)上に濾布を設置し、抄紙面積がx(cm
2)の抄紙機内に十分な量(y(ml)とする)の水を注入し、大気圧下で濾水時間を測定する。濾水時間がz(sec)であった場合の水透過量を、y/(x・z)(ml/(cm
2・s))と定義する。
【0142】
極めて微細セルロース繊維に対しても使用できるフィルター又は濾布の例として、SEFAR社(スイス)製のTETEXMONODLW07−8435−SK010(PET製)、敷島カンバス社製NT20(PET/ナイロン混紡)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
本実施形態の微細セルロース繊維シートは、上述した有機高分子シート層を配することができるが、特に、セルロース、ナイロン、ポリエステル等の有機高分子繊維シート層を支持体として抄紙を行うことがより好ましい。この場合、抄紙機のワイヤー又は濾布は当該支持体との組み合わせで、歩留まり割合や水透過量に係わる要件を満足できる素材を選択すれば足りる。
【0143】
抄紙工程による脱水では、高固形分化が進行し、微細セルロース繊維濃度と抄紙スラリーより増加させた濃縮組成物である湿紙を得る。湿紙の固形分率は、抄紙のサクション圧(ウェットサクションやドライサクション)やプレス工程によって脱水の程度を制御し、好ましくは固形分濃度が6重量%以上25重量%以下、より好ましくは固形分濃度が8重量%以上20重量%以下の範囲に調整する。湿紙の固形分率が6重量%よりも低いと湿紙としての自立性がなく、工程上問題が生じ易くなる。また、湿紙の固形分率が25重量%を超える濃度まで脱水すると水相だけでなく、微細セルロース繊維近傍の水層の存在によって、均一性が失われてしまう。
【0144】
また、濾布上で抄紙を行い、得られた湿紙中の水を有機溶媒への置換工程において有機溶媒に置換させ、乾燥させるという方法を用いてもよい。この方法の詳細については、本発明者らによる国際公開2006/004012号パンフレットに従う。
なお、有機高分子繊維シート層を支持体として用いる場合、ワイヤー又は濾布をセットした抄紙機に当該支持体を載せて、抄紙スラリーを構成する水の一部を該支持体上で脱水(抄紙)を行い、該支持体上に微細セルロース繊維からなるシートの湿紙を積層化させ、一体化させることにより、少なくとも2層以上の多層構造体からなる多層化シートを製造することができる。3層以上の多層化シートを製造するためには、2層以上の多層構造を有する支持体を使用すればよい。また、支持体上で2層以上の本発明の微細セルロース繊維シートの多段抄紙を行って3層以上の多層シートとしてもよい。
【0145】
続いて乾燥工程について説明する。上述した抄紙工程で得た湿紙は、加熱による乾燥工程で水の一部を蒸発させることによって、微細セルロース繊維シートとなる。乾燥工程は、ドラムドライヤーやピンテンターのような幅を定長とした状態で、水を乾燥し得るタイプの定長乾燥型の乾燥機を使用すると、透気抵抗度の高い微細セルロース繊維シートを安定に得ることができるため、好ましい。乾燥温度は、条件に応じて適宜選択すればよいが、好ましくは45℃以上180℃以下、より好ましくは60℃以上150℃以下の範囲とすれば、好適に通気性のある微細セルロース繊維シートを製造することができる。乾燥温度が45℃未満では、多くの場合に水の蒸発速度が遅いため、生産性が確保できないため好ましくなく、180℃より高い乾燥温度とすると、構造体を構成する親水性高分子が熱変性を起こしてしまうケースがあり、また、コストに影響するエネルギー効率も低減するため、やはり好ましくない。100℃以下の低温乾燥で組成調製を行い、次段で100℃以上の温度で乾燥する多段乾燥を実施することも、均一性の高い微細セルロース繊維シートを得るうえで有効である。
【0146】
上述した乾燥工程で得られたシートを加熱処理することにより、シート内に含まれるブロックポリイソシアネートと微細セルロース繊維との化学的な結合が形成する。また、それと同時に該ブロックポリイソシアネートにより機能化剤の該シート内部及び/又は表面への固定化や積層構造体における有機高分子シートと微細セルロース繊維シートとの架橋化も進行する。
熱処理工程は、均一な加熱処理と加熱によるシートの収縮の抑制の観点から、ドラムドライヤーやピンテンターのような幅を定長した状態で加熱するタイプの定長乾燥型の熱処理器を使用することが好ましい。なお、ドラムドライヤーのような乾燥機を用いる場合、送り速度の調整やロール径で調整することができる。
【0147】
上述したように、ブロックポリイソシアネートは常温において安定であるが、ブロック剤の解離温度以上に熱処理することでブロック基が解離してイソシアネート基が再生し、活性水素を有する官能基との化学的な結合が形成できる。加熱温度は用いられるブロック剤により異なるが、好ましくは80℃以上220℃以下、より好ましくは100℃以上180℃以下の範囲で、ブロック基の解離温度以上に加熱する。ブロック基の解離温度以下の場合は、イソシアネート基が再生しないため架橋化が起きない。一方、220℃以上で加熱を行うと微細セルロース繊維やブロックポリイソシアネートの熱劣化がおき、着色する場合があり好ましくない。
【0148】
加熱時間は、好ましくは15秒以上10分以下であり、より好ましくは30秒以上2分以下である。加熱温度がブロック基の解離温度より十分に高い場合は、加熱時間をより短くすることができる。また、加熱温度が130℃以上の場合、2分以上の加熱を行うとシート内の水分が極端に減少するため、加熱直後のシートは脆くなり、取扱い性が難しくなるケースがあることから好ましくない。
【0149】
また、上述した乾燥工程で得られた微細セルロース繊維シートにカレンダー装置によって平滑化処理を施す平滑化工程を設けてもよい。該平滑化工程を経ることにより表面が平滑化され、薄膜化された微細セルロース繊維シートを得ることもできる。すなわち、乾燥後の微細セルロース繊維シートに対し、さらにカレンダー装置による平滑化処理を施す工程を含むことにより、薄膜化が可能となり、広範囲の、膜厚/通気度/強度の組み合わせの本発明の微細セルロース繊維シートを提供することができる。例えば、10g/m
2以下の目付の設定下で20μm以下(下限は3μm程度)の膜厚の微細セルロース繊維シートを容易に製造することが可能である。カレンダー装置としては単一プレスロールによる通常のカレンダー装置の他に、これらが多段式に設置された構造をもつスーパーカレンダー装置を用いてもよい。これらの装置、及びカレンダー処理時におけるロール両側それぞれの材質(材質硬度)や線圧を目的に応じて選定することにより多種の物性バランスをもつ微細セルロース繊維シートを得ることができる。また、前述の熱処理工程をカレンダー処理と同時に行ってもよい。
以上の条件を満たすことにより、ブロックポリイソシアネートの集合体をシート内に含む微細セルロース繊維シートであり、かつ、該微細セルロース繊維シートを加熱処理することでブロックポリイソシアネートの一部又は全部が微細セルロース繊維と化学的に結合して架橋構造が形成したシートを提供することができる。
【実施例】
【0150】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、物性の主な測定値は以下の方法で測定した。
(1)微細セルロース繊維の数平均繊維径
微細セルロース繊維からなる多層構造体の表面に関して、無作為に3箇所、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を微細繊維の繊維径に応じて10000〜100000倍相当の倍率で行った。得られたSEM画像に対し、画面に対し水平方向と垂直方向にラインを引き、ラインに交差する繊維の繊維径を拡大画像から実測し、交差する繊維の個数と各繊維の繊維径を数えた。こうして一つの画像につき縦横2系列の測定結果を用いて数平均繊維径を算出した。さらに抽出した他の2つのSEM画像についても同じように数平均繊維径を算出し、合計3画像分の結果を平均化し、対象とする試料の平均繊維径とした。
【0151】
(2)目付
シートの目付の評価は、JIS P 8124に準じて算出した。
【0152】
(3)抄紙性
抄紙性は抄紙時の濾水時間を測定することで評価した。PET/ナイロン混紡製の平織物(敷島カンバス社製、NT20・・・大気下25℃での水透過量:0.03ml/(cm
2・s)、微細セルロース繊維を大気圧下25℃における濾過で99%以上濾別する能力あり)をセットしたバッチ式抄紙機(熊谷理機工業社製、自動角型シートマシーン 25cm×25cm、80メッシュ)に目付10g/m
2のセルロースシートを目安に、調整した抄紙スラリーを投入し、その後大気圧に対する減圧度を4KPaとして抄紙(脱水)を実施した。この時の脱水に掛かる時間を濾水時間とし、計測した。
水分散性ブロックポリイソシアネートを添加しない場合の濾水時間に対して、水分散性ブロックポリイソシアネートを添加した系での濾水時間が50%未満の時を○、80%未満の時を△、80%以上の時を×として評価した。
【0153】
(4)引張強度の乾湿強度比
まず、乾燥時引張強度の評価は、JIS P 8113にて定義される方法に従い、熊谷理機工業(株)の卓上型横型引張試験機(No.2000)を用い、幅15mmのサンプル10点について測定し、その平均値を乾燥強度(N/15mm)とした。また、同様の方法で、シートを浸すに十分な水を張った容器内にシートを5分間浸漬しサンプル10点について測定し、その平均値を湿潤強度(N/15mm)とした。
上記で評価した乾燥強度と湿潤伸度から下記式:
乾湿強度比(%)=(湿潤強度)/(乾燥強度)×100
により算出した。ここでは乾燥強度、湿潤強度ともに目付10g/m
2相当に換算しない。
この乾湿強度比が70%以上の時を○、50%以上の時を△、50%未満の時を×とし評価した。
【0154】
(5)溶剤浸漬後乾湿強度比
ジメチルホルムアミドを張った容器の中に25cm×25cmのサンプルを1日浸漬した。その後、サンプルを真空、室温下で乾燥させ、前記手法で引張強度の乾湿強度比を算出した。この乾湿強度比が70%以上の時を○、50%以上の時を△、50%未満の時を×とし評価した。
【0155】
(6)ブロックポリイソシアネートのシート内の分布評価
まず、25cm×25cmのシート内の任意の4か所を選択し、1cm各のサンプルを採取した。その4つのサンプルについて3次元TOF−SIMS組成分析を実施した。
[平面方向の均一性]
4つのサンプルのブロックポリイソシアネート由来のm/z=26(フラグメントイオン:CN)のカウント数(C1)とセルロース由来のm/z=59(フラグメントイオン:C
2H
3O
2)カウント数(C2)について、C2について規格化した(C1/C2)。各サンプルのC1/C2値の変動係数が50%未満である場合を○、50%以上である場合を×として平面方向の均一性を評価した。
[厚み方向の均一性]
4つのサンプルについて、シートを厚み方向に3等分したときの上部、中部、下部のC1/C2を算出した。C1およびC2はブロックポリイソシアネート由来のm/z=26(フラグメントイオン:CN)のカウント数(C1)とセルロース由来のm/z=59(フラグメントイオン:C
2H
3O
2)カウント数(C2)。さらに、上部、中部、下部それぞれ4つのC1/C2の平均を算出した。この時、その3つの平均値についての変動係数が50%未満である場合を○、50%以上である場合を×として厚み方向の均一性を評価した。
【0156】
TOF−SIMSの測定条件は以下のとおりである。
(測定条件)
使用機器 :nanoTOF (アルバック・ファイ社製)
一次イオン :Bi
3++
加速電圧 :30 kV
イオン電流 :約0.1nA(DCとして)
分析面積 :200μm×200μm
分析時間 :約6sec/cycle
検出イオン :負イオン
中和 :電子銃使用
(スパッタ条件)
スパッタイオン :Ar2500
+
加速電圧 :20kV
イオン電流 :約5nA
スパッタ面積 :600μm×600μm
スパッタ時間 :60sec/cycle
中和 :電子銃使用
【0157】
(7)積層体接着性
有機高分子シートに積層化した微細セルロース繊維シートを5cm×5cmで切り取り、蒸留水が100ml入ったプラスチックボトル中に浸漬し、振とう数200rpmで1日振とうした。振とう後に、微細セルロース繊維シートと有機高分子シートが剥離したかどうかを目視で観察した。剥離しなかった時を○、剥離した時を×として評価した。
【0158】
実施例1−11及び比較例1−5の実験条件及び実験結果を以下の表1に示す。
[実施例1]
リンターパルプを10重量%となるように水に浸液させてオートクレーブ内で130℃、4時間の熱処理を行い、得られた膨潤パルプを何度も水洗し、水を含浸した状態の膨潤パルプを得た。
該膨潤パルプを固形分1.5重量%となるように水中に分散させて(400L)、ディスクレファイナー装置として相川鉄工(株)製SDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを1mmで400Lの該水分散体を20分間叩解処理した。それに引き続き、クリアランスをほとんどゼロに近いレベルにまで低減させた条件下で叩解処理を続けた。経時的にサンプリングを行い、サンプリングスラリーに対して、JIS P 8121で定義されるパルプのカナダ標準ろ水度試験方法(以下、CSF法)のCSF値を評価したところ、CSF値は経時的に減少していき、一旦、ゼロ近くとなった後、さらに叩解処理を続けると、増大していく傾向が確認された。クリアランスをゼロ近くとしてから10分間、上記条件で叩解処理を続け、CSF値で73ml↑の叩解水分散体を得た。得られた叩解水分散体を、そのまま高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社(伊)製NS015H)を用いて操作圧力100MPa下で5回の微細化処理を実施し、微細セルロース繊維の水分散体(固形分濃度:1.5重量%)を得た。
さらに、前記水分散体を固形分濃度0.2重量%まで希釈した後、希釈水系分散液312.5gをスリーワンモーターで撹拌させ、カチオン性ブロックポリイソシアネート(商品名「メイカネートWEB」、明成化学工業株式会社製、 固形分濃度1.0重量%まで希釈)を1.9g滴下した後3分間撹拌を行い、抄紙スラリー(合計314.4g)を得た。添加したカチオン性ブロックポリイソシアネート重量比率はセルロース固形分重量に対して、3重量%であった。
PET/ナイロン混紡製の平織物(敷島カンバス社製、NT20・・・大気下25℃での水透過量:0.03ml/(cm
2・s)、微細セルロース繊維を大気圧下25℃における濾過で99%以上濾別する能力あり)をセットしたバッチ式抄紙機(熊谷理機工業社製、自動角型シートマシーン 25cm×25cm、80メッシュ)に目付10g/m2のセルロースシートを目安に、上記調整した抄紙スラリーを投入し、その後大気圧に対する減圧度を4KPaとして抄紙(脱水)を実施した。
得られた濾布上に乗った湿潤状態の濃縮組成物からなる湿紙を、ワイヤー上から剥がし、1kg/cm
2の圧力で1分間プレスした後、湿紙面をドラム面に接触させるようにして、湿紙/濾布の2層の状態で表面温度が130℃に設定されたドラムドライヤーにやはり湿紙がドラム面に接触するようにして約120秒間乾燥させ、得られた乾燥した2層体からセルロースのシート状構造物から濾布を剥離させて、白色の均一な微細セルロース繊維から構成される微細セルロース繊維シート(25cm×25cm)を得た。この乾燥シート表面を10000倍の倍率でSEM画像解析を行ったところ、微細セルロース繊維の表面における微細セルロース繊維の数平均繊維径は110nmであった。
さらに、上記乾燥シートを2枚のSUS製金枠(25cm×25cm)で挟み、クリップで固定し、オーブンで160℃、2分間の熱処理を行い、ブロックポリイソシアネートで架橋された微細セルロース繊維シートS1を得た。抄紙性、乾湿強度比、溶剤浸漬後乾湿強度比、ブロックポリイソシアネート分布はどれも優れていた。
【0159】
[実施例2]
カチオン性ブロックポリイソシアネートの添加量を6.3g(セルロース固形分重量に対して10重量%)にした以外は、実施例1と同様に、微細化、抄紙スラリー調製、抄紙、乾燥及び熱処理を行い、S2を得た。抄紙性、乾湿強度比、溶剤浸漬後乾湿強度比、ブロックポリイソシアネート分布はどれも優れていた。また、TOF−SIMSで分析したS2のサンプル4点のうちの1点について、深さ方向におけるC1/C2の変動の関係を示したグラフを
図1に示す。シート上部の最表面のみC1/C2比が大きく示されたが、その後安定してC1/C2≒0.2を示した。このことからシート最表面にはブロックポリイソシアネートが比較的多く存在しているが、シート内部は広範囲にわたって均一であると言える。シート裏面に近づくとC1/C2は緩やかに上昇した。理想的にはシート上部と同じように最表面だけC1/C2が上昇するはずである。しかし、繊維間の僅かな隙間が存在することで、ブロックポリイソシアネート量が多い最表面から生成したフラグメントイオンが早めに観測された結果と考える。実際、シート裏面より同様にTOF−SIMSで分析を行った結果、同様のグラフが得られた。したがって、ブロックポリイソシアネートはシート最表面に若干多く存在し、シート内部は広範囲にわたって均一であると結論づけられる。
【0160】
[実施例3]
カチオン性ブロックポリイソシアネートの添加量を19g(セルロース固形分重量に対して30重量%)にした以外は、実施例1と同様に、微細化、抄紙スラリー調製、抄紙、乾燥及び熱処理を行い、S3を得た。抄紙性、乾湿強度比、溶剤浸漬後乾湿強度比、ブロックポリイソシアネート分布はどれも優れていた。
【0161】
[実施例4]
異なるカチオン性ブロックポリイソシアネート(商品名「メイカネートCX」、明成化学工業株式会社製、 固形分濃度1.0重量%まで希釈)を選択し、添加量を6.3g(セルロース固形分重量に対して10重量%)にした以外は、実施例1と同様に、微細化、抄紙スラリー調製、抄紙、乾燥及び熱処理を行い、S4を得た。ブロックポリイソシアネート種を変えても、抄紙性、乾湿強度比、溶剤浸漬後乾湿強度比、ブロックポリイソシアネート分布はどれも優れていた。
【0162】
[実施例5]
原料パルプをテンセルカット糸(3mm長)にした以外は、実施例1と同様に、微細化、抄紙スラリー調製、抄紙、乾燥及び熱処理を行い、S5を得た。より繊維径の太い微細セルロース繊維でも抄紙性、乾湿強度比、溶剤浸漬後乾湿強度比、ブロックポリイソシアネート分布はどれも優れていた。
【0163】
[実施例6]
原料パルプをアバカパルプにした以外は、実施例1と同様に、微細化、抄紙スラリー調製、抄紙、乾燥及び熱処理を行い、S6を得た。より繊維径の細い微細セルロース繊維でも抄紙性、乾湿強度比、溶剤浸漬後乾湿強度比、ブロックポリイソシアネート分布はどれも優れていた。
【0164】
[実施例7]
実施例1に記載の微細セルロース繊維製造方法を用いてリンターパルプから製造された微細セルロース繊維の水分散体(固形分濃度:0.2重量%)とテンセルカット糸から製造された微細セルロース繊維の水分散体(固形分濃度:0.2重量%)をそれぞれ得た。続いて、それぞれの水分散体を混合して混合スラリーを製造した。混合比はリンターパルプ由来の微細セルロース繊維60重量%、テンセルカット糸由来の微細セルロース繊維40重量%となる様に調整した。得られた混合スラリーは家庭用ミキサーで4分間強力に混合する。この混合スラリー312.5g(固形分濃度:0.2重量%、リンターパルプ由来0.14重量%、テンセルカット糸由来0.06重量%)をスリーワンモーターで撹拌させ、セルロース固形分重量に対して3重量%相当のカチオン性ブロックポリイソシアネート(メイカネートWEB、 固形分濃度1.0重量%まで希釈)1.9g滴下した後3分間撹拌を行い、抄紙スラリー(合計314.4g)を得た。後は実施例1と同様に、抄紙、乾燥及び熱処理を行い、S7を得た。2種類の繊維径の異なる微細セルロース繊維でも抄紙性、乾湿強度比、溶剤浸漬後乾湿強度比、ブロックポリイソシアネート分布はどれも優れていた。
【0165】
[実施例8]
キュプラ長繊維不織布(旭化成せんい株式会社製、商品名:ベンリーゼ SA14G 目付:14g/m
2、膜厚:70μm、密度:0.2g/cm
3、平均単糸繊度:0.2dtex)を基材として、その上に微細セルロース繊維シートを積層させる抄紙を行った。目付5g/m
2の微細セルロース繊維シートの形成を目安に、実施例1における微細セルロース繊維の水分散体(固形分濃度:1.5重量%)を固形分濃度0.1重量%まで希釈した後、希釈水系分散液312.5gをスリーワンモーターで撹拌させ、カチオン性ブロックポリイソシアネート(商品名「メイカネートWEB」、明成化学工業株式会社製、 固形分濃度1.0重量%まで希釈)を0.95g滴下した後3分間撹拌を行い、抄紙スラリー(合計313.5g)を得た。バッチ式抄紙機(熊谷理機工業社製、自動角型シートマシーン、抄紙部面積:25cm×25cm、80メッシュ)に濾布としてPET/ナイロン混紡製の平織物(敷島カンバス社製、NT20、大気下25℃での水透過量:0.03ml/cm
2・s)をセットし、その上に上述したナイロンシートを敷き、前記抄紙スラリーを投入した。その後大気圧に対する減圧度を4KPaとして抄紙(脱水)を実施した。得られた濾布上に形成された2層構造の湿紙に対し同じ濾布を被せ、湿紙を両側から挟んだ状態で、1kg/cm
2の圧力で1分間加圧プレスした後、濾布/湿紙/濾布の3層の状態のまま表面温度が130℃に設定されたドラムドライヤーにてドラム面に接触するようにして約120秒間乾燥させた。得られた3層のシートから両面の濾布は容易に剥離することができ、乾燥したサンプルを得た。さらに、このサンプルを実施例1と同様に熱処理を行い、S8を得た。抄紙性およびブロックポリイソシアネート分布は優れていた。さらにキュプラ長繊維不織布と微細セルロース繊維シートは水に浸漬後も剥離しなかった。なお、積層体であるため微細セルロース繊維単独の乾湿強度比および溶剤浸漬後乾湿強度比を算出できないので、この二つの項目は評価しなかった。
【0166】
[実施例9]
実施例1における希釈水分散液(312.5g)に、1−ヘキサノール及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名「60SH−4000」、信越化学工業製)をそれぞれ1.2重量%(3.9g)、0.012重量%(0.039g)添加し、家庭用ミキサーで4分間乳化、分散化させた。その後、セルロース固形分重量に対して3重量%相当のカチオン性ブロックポリイソシアネート(メイカネートWEB、 固形分濃度1.0重量%まで希釈)1.9g添加し撹拌した。それ以外は、該抄紙スラリー用いて実施例1と同様の方法で抄紙・乾燥・加熱処理を行い、S9を得た。エマルジョン抄紙においても、抄紙性、乾湿強度比、溶剤浸漬後乾湿強度比、ブロックポリイソシアネート分布はどれも優れていた。
【0167】
[実施例10]
(以下、「参考例10」と読み替える。)
ノニオン性ブロックポリイソシアネート(商品名「MF−25K」、第一工業製薬株式会社製、 固形分濃度1.0重量%まで希釈)を選択し、添加量を1.9g(セルロース固形分重量に対して3重量%)にした以外は、実施例1と同様に、微細化、抄紙スラリー調製、抄紙、乾燥及び熱処理を行い、S10を得た。ブロックポリイソシアネート種を変えた結果、抄紙性、乾湿強度比、溶剤浸漬後乾湿強度比はカチオン性ブロックポリイソシアネートには劣るものの許容範囲内であった。一方、ブロックポリイソシアネート分布は均一であった。
【0168】
[実施例11]
実施例1における抄紙スラリー製造において、セルロース固形分重量に対して3重量%相当のアニオン性ブロックポリイソシアネート(商品名「E−37」、第一工業製薬株式会社製、 固形分濃度1.0重量%まで希釈)1.9g添加し3分間撹拌した後に、セルロース固形分重量に対して0.3重量%相当のカチオン性ポリマーポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体(商品名「PAS−H−10L」、ニットーボーメディカル株式会社製、 固形分濃度1.0重量%希釈溶液)0.19g添加し3分間撹拌した。それ以外は、該抄紙スラリー用いて実施例1と同様の方法でシートS11を得た。アニオン性ブロックポリイソシアネートではあったが、カチオン性ポリマーを利用することで、カチオン性ブロックポリイソシアネート同様の優れた抄紙性、乾湿強度比、溶剤浸漬後乾湿強度比、ブロックポリイソシアネート分布を示した。
【0169】
[比較例1]
カチオン性ブロックポリイソシアネートを添加しない以外は実施例1と同様に抄紙、乾燥及び熱処理を行い、R1を得た。抄紙性、乾湿強度比、溶剤浸漬後乾湿強度比は劣っていた。これはブロックポリイソシアネートが含まれず、化学架橋できなかったことに起因している。
【0170】
[比較例2]
カチオン性ブロックポリイソシアネートの代わりにカチオン性ポリウレタンエマルション(商品名「スーパーフレックス650」、第一工業製薬製、固形分濃度1.0重量%まで希釈)を1.9g(セルロース固形分重量に対して3重量%)添加した以外は実施例1と同様に、微細化、抄紙スラリー調製、抄紙、乾燥及び熱処理を行い、R2を得た。乾湿強度比は優れるものの、微細セルロース繊維との化学結合が無い結果、耐溶剤性が低くポリウレタンエマルションが溶出したため、溶剤浸漬後乾湿強度比は悪化した。
【0171】
[比較例3]
カチオン性ブロックポリイソシアネートを添加しない以外は実施例8と同様に微細化、抄紙スラリー調製、抄紙、乾燥及び熱処理を行い、R3を得た。ブロックポリイソシアネートによる架橋がないため、キュプラ長繊維不織布と微細セルロース繊維シートは剥離した。また、ブロックポリイソシアネートを添加していないため、抄紙性も変化がなかった。なお、積層体であるため微細セルロース繊維単独の乾湿強度比及び溶剤浸漬後乾湿強度比を算出できないので、この二つの項目は評価しなかった。
【0172】
[比較例4]
カチオン性ブロックポリイソシアネートを添加しない実施例2の抄紙スラリーを抄紙、乾燥し、微細セルロース繊維のみからなる25cm×25cmのシート0.63gを得た。このシートをカチオン性ブロックポリイソシアネート水分散体(商品名「メイカネートWEB」、固形分濃度2.1重量%まで希釈)の入った浸漬浴に3分間浸漬し、引き上げた後に余分な処理液をろ紙で吸液した。25cm角のSUS製金枠にシートを挟んだのち、40℃で乾燥させた。そして160℃、2分間の加熱処理を行い、R4を得た。なお、ろ紙で余分な液を吸液した後のシートの吸液量は3.5gであり、ここから算出されるシートに付着したカチオン性ブロックポリイソシアネート量は0.06gであった。すなわち、セルロース固形分重量に対して10重量%のカチオン性ブロックポリイソシアネートを含んだシートであった。TOF−SIMSでの分析の結果、後加工法では、平面方向のC1/C2のバラツキは小さかった。一方、厚さ方向ではシート上部・下部のブロックポリイソシアネート量は非常に多かったが、シート中部ではかなり少なく、上部・中部・下部でのバラツキは著しかった。ブロックポリイソシアネート量が少ない部分が存在することで、乾湿強度比は低かった。TOF−SIMSで分析したR4のサンプル4点のうちの1点について、深さ方向におけるC1/C2の変動の関係を示したグラフを
図1に示す。シート表面はブロックポリイソシアネートで完全に覆われたC1>>C2(C1/C2>10)であった。測定が中部まで到達すると、ブロックポリイソシアネートがほとんど存在しないため、C1/C2≒0.04となった。シート裏面に近づくと実施例2同様C1/C2が上昇した。なお、上昇の傾きが実施例2よりも大きい理由は、再表面のブロックポリイソシアネート量が実施例2のS2よりも著しく多いため、より多くのフラグメントイオンが早めに観測された結果と考える。シート裏面より同様にTOF−SIMSで分析を行った結果、
図1と同じようなグラフが得られた。したがって、後加工法ではブロックポリイソシアネートはシート最表面に大量に存在する一方で、シート内部にはほとんど浸透しなかった。すなわち、後加工法では、内添法のようにシート内のブロックポリイソシアネートを厚み方向で均一に分布させることは困難である。
【0173】
[比較例5]
カチオン性ポリマー;ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体を添加しない以外は、実施例11と同様に微細化、抄紙スラリー調製、抄紙、乾燥及び熱処理を行い、R5を得た。アニオン性ブロックポリイソシアネートは微細セルロース繊維に付着しなかったため、抄紙性、乾湿強度比、溶剤浸漬後乾湿強度比は全て劣っていた。また、ブロックポリイソシアネート分布は測定することができなかった。
【0174】
【表1】
【0175】
実施例1〜4及び比較例1のシートについて以下の測定を行った。結果を以下の表2に示す。
(1)疎水化度評価(吸液時間)
4μLの蒸留水(20℃)を微細セルロース繊維シートに滴下し、液滴が吸水されるまでにかかる時間を測定する。吸水される時間が長いほど疎水的と判断した。
(2)透気抵抗度
室温20℃、湿度50%RHの雰囲気下で調湿した。調湿したサンプルは王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)で透気抵抗度を10点測定し、その平均値を該サンプルの透気抵抗度とした。
【0176】
【表2】
【0177】
ブロックポリイソシアネートを含まないR1が最も親水的なシートであった。これに対し、メイカネートWEBを添加すると添加量に伴い、吸液時間が長くなり疎水化が進んでいることがわかる(S1−S3)。しかし、メイカネートCXを用いたS4はメイカネートWEBのどの濃度よりも長く吸液に時間がかかっており、より疎水的であることがわかる。
また、ブロックポリイソシアネートを含まないR1を基準として、メイカネートWEBを添加した系では添加量に伴い、透気抵抗度が上昇した(S1−S3)。一方、メイカネートCXを用いたS4は透気抵抗度が下降した。
【0178】
実施例1及び比較例6,7の実験条件・結果を以下の表3に示す。
[比較例6]
針葉樹クラフトパルプ(NBKP)を濃度2.5重量%となるように水中に分散させて水分散体(400L)とし、ディスクリファイナー装置として実施例1と同じSDR14型ラボリファイナー(加圧型DISK式)を用い、ディスク間のクリアランスを0.8mmとして400Lの該水分散体に対して、約40分間叩解処理を進め、CSF値で90ml↓の叩解スラリーを得た。このスラリー125.0gにカチオン性ブロックポリイソシアネート(「メイカネートWEB」、 固形分濃度1.0重量%まで希釈)を1.6g(セルロース固形分重量に対して0.5重量%)、水185.9gに添加してパルプ濃度1%の抄紙スラリーを製造した以外は、実施例1と同様に抄紙、乾燥及び熱処理を行い、R6を得た。
[比較例7]
カチオン性ブロックポリイソシアネートの添加量を9.6g(セルロース固形分重量に対して3重量%)にした以外は、比較例6と同様に、微細化、抄紙スラリー調製、抄紙、乾燥及び熱処理を行い、R7を得た。
【0179】
【表3】
【0180】
繊維径が非常に大きいR6およびR7ではカチオン性ブロックポリイソシアネートによって抄紙性は変わらなかった。微細セルロース繊維でできたシート、例えばS1、では微細セルロース繊維の比表面積が大きいため、カチオン性ブロックポリイソシアネートによる凝集をより効果的に受けたためと考える。また、目付10gあたりの湿潤強力はS1と比べてかなり小さかった。微細セルロース繊維と比較して、繊維径の大きいNBKPでは繊維間の交絡点が少ない。そのため、単位面積あたりの交絡点数が少なくなる低目付なシートにおいて、湿潤強力は著しく弱くなったと考えられる。加えて、比表面積が少ないためカチオン性ブロックポリイソシアネートの吸着量は少ない添加量で飽和する。そのため、R6と比較してカチオン性ブロックポリイソシアネート量を増やしたR7でも湿潤強力は改善されなかった。したがって、特に低目付なシート、例えば1−30g/m
2を作製するにあたって、NBKPでは湿潤強力の観点で実質的な使用に耐えられない。一方、微細セルロース繊維であれば湿潤強力の観点で実質的な使用に耐えられる低目付シートを作ることができる。
【0181】
実施例12及び比較例8の実験条件・結果を以下の表4に示す。
[実施例12]
実施例6における抄紙スラリー製造において、セルロース固形分重量に対して3重量%に相当するカチオン性ブロックポリイソシアネート1.9g添加し3分間撹拌した後に、セルロース固形分重量に対して10重量%撥水化剤(商品名「AG−E082」、旭硝子株式会社製, 固形分濃度1.0重量%まで希釈)を6.3g滴下し、3分間撹拌を行い抄紙スラリーとした。該抄紙スラリー用いて実施例6と同様の抄紙・乾燥および熱処理によりS12を得た。
【0182】
[比較例8]
カチオン性ブロックポリイソシアネート量を添加しない以外は実施例12と同様の微細化、抄紙スラリー調製、抄紙、乾燥及び熱処理を行い、R8を得た。
【0183】
(1)撥水化剤固定化評価の前処理
撥水化剤の固定化度の評価実施するための前処理として、実施例12及び比較例8で得られた25cm×25cmのシートS12およびR8を、酢酸ブチル500mlが入ったガラスバイアルに浸漬し、振とう数200rpmで1日振とうした。その後、シートを真空、室温中で乾燥させ、透湿度、耐水圧、静的接触角の変化を評価した。
【0184】
(2)透湿度変化
前処理前後でのサンプルの透湿度はJIS L 1099に記載のB−1法により、温度40℃、湿度90%RH環境下での24時間あたりの透湿度(g/m
2・24h)を測定した。前処理前後での透湿度の維持率が80%以上を○、50%以上を△、50%未満を×として評価した。
維持率(%)=前処理後透湿度/前処理前透湿度×100
【0185】
(3)耐水圧変化
前処理前後でのサンプルの耐水圧は、JIS L1092−1998耐水度試験B法(高水圧法)に準じた方法で測定した。前処理前後での耐水圧の維持率が80%以上を○、50%以上を△、50%未満を×として評価した。
維持率(%)=前処理後耐水圧/前処理前耐水圧×100
【0186】
(4)静的接触角変化
前処理前後でのサンプルの静的接触角は、4μLの蒸留水(20℃)をシートに滴下し、着滴1秒後の接触角を自動接触角計(商品名:「DM−301」、共和界面化学株式会社製)で測定した。前処理前後での静的接触角の維持率が80%以上を○、50%以上を△、50%未満を×として評価した。
維持率(%)=前処理後静的接触角/前処理前静的接触角×100
【0187】
【表4】
【0188】
カチオン性ブロックポリイソシアネートを添加したS12は、酢酸ブチル中に浸漬しても透湿度、耐水圧、静的接触角の変化は小さかった。すなわち、撥水化剤は酢酸ブチルによる膨潤・溶解は起きなかったと考える。一方、カチオン性ブロックイソシアネートを添加しないR8では浸漬前後での透湿度、耐水圧、静的接触角の変化は大きかった。これは酢酸ブチル中への浸漬により撥水化剤が膨潤・溶出したためと考えられる。以上より、カチオン性ブロックポリイソシアネートを用いることで撥水化剤を微細セルロース繊維上に固定化できた結果、例えば耐溶剤性の向上に効果的であることが示された。
【0189】
実施例5、13、14、及び比較例9の実験条件・結果を以下の表5に示す。
[実施例13]
実施例5における抄紙スラリー製造において、セルロース固形分重量に対して3重量%に相当するカチオン性ブロックポリイソシアネート1.9gを添加し3分間撹拌した後に、アニオン性ポリマーポリスチレンスルホン酸(商品名ポリナス「PS−50」、東ソー株式会社製、 固形分濃度1.0重量%希釈溶液を6.3g)を添加し3分間撹拌した。それ以外は、該抄紙スラリー用いて実施例5と同様の方法でS13を得た。
【0190】
[実施例14]
実施例13で製造した抄紙スラリーにさらにカチオン性抗菌剤;ポリジシアンジアミドとポリアルキレンポリアミンの共重合体(商品名「センシル555」、センカ株式会社製、 固形分濃度1.0重量%希釈溶液を12.6g)を添加し3分間撹拌した。それ以外は、該抄紙スラリー用いて実施例13と同様の方法でS14を得た。
【0191】
[比較例9]
カチオン性ブロックポリイソシアネート量を添加しない以外は実施例5と同様の微細化、抄紙スラリー調製、抄紙、乾燥及び熱処理を行い、R9を得た。
【0192】
(1)表面ゼータ電位
サンプルを超純水で洗浄し、平板試料用セルに微細セルロース繊維面がモニター粒子溶液(ポリスチレンラテックス, pH6.8)に接するようにセットし、マルバーン株式会社製電気泳動光散乱光度計(ゼータサイザーナノZS)により測定した。
【0193】
(2)色素除去特性
サンプルを濾材として、アニオン性色素である1ppmのオレンジII(関東化学社製)を含む水溶液3mlを、差圧100kPa、有効濾過面積3.5cm
2で全量濾過させる。濾液の濃度C(ppm)を測定し、下記式よりアニオン性色素の除去率(%)を算出した。
アニオン性成分除去率(%)=(1−C)×100
濾液のオレンジIIの濃度C(ppm)は、紫外可視分光光度計(日本分光:V−650)を用い、濃度既知のオレンジII(波長485nm)の検量線を作成することで測定できる。また、カチオン性色素の除去率はオレンジIIの代わりにメチレンブルー(波長665nm)を用いて、前記と同様の手法で算出した。
この時、除去率が80%以上を○、50%以上を△、50%未満を×とし、色素除去特性を評価した。
【0194】
(3)抗菌性評価
抗菌性評価は、JIS−1902−1998で制定の繊維製品の抗菌性試験法(統一法)で行った。具体的には、密閉容器の底部に予めサンプルを2g置き、このサンプル上に予め培養した1/50ブロースで希釈した黄色ブドウ球菌( 試験菌種:AATCC−6538P) の菌液0.2ml を蒔き、37℃のインキュベーター内に18時間静置した後、20mLのSCDLP培地を添加して十分に振とうして菌を洗い落とした。これを普通寒天培地に置き24時間後に菌数を計測し、同時に実施した無加工試料布による菌数値と比較し抗菌性を判断した。
D=(Ma−Mb)−(Mc−Md)
式中、
Ma:無加工試料の18時間培養後の生菌数の対数(3検体の平均)
Mb:無加工試料の接種直後の生菌数の対数(3検体の平均)
Mc:加工布培養18時間培養後の生菌数の対数
Md:加工布培養の接種直後の生菌数の対数
D:静菌活性値
である。
静菌活性値D≧2.2の時、抗菌性があると判断される。D≧2.2の場合○、D<2.2の場合×として評価した。
【0195】
【表5】
【0196】
S5はカチオン性ブロックポリイソシアネートの影響でゼータ電位はカチオン性を示した。したがって、アニオン性色素を吸着できた反面、カチオン性色素の除去はできなかった。一方、ポリアニオンを用いたS13ではゼータ電位は陰転し、カチオン性色素の除去が可能となった。また、アニオン性表面の微細セルロース繊維であるS13のスラリーにカチオン性抗菌剤を添加したS14はS5と同様のカチオン性のゼータ電位およびアニオン性色素除去能を示した。また、カチオン性抗菌剤を用いたことで、シートに抗菌性を付与することにも成功した。R9において、微細セルロース繊維由来のゼータ電位はマイナスを示した。しかし、アニオン性・カチオン性色素除去試験および抗菌性試験はシートの湿潤強力が弱すぎ、測定することが困難であった。以上、本手法を用いてシートのゼータ電位および吸着性能を制御することに成功した。また、用いる水溶性ポリマーの選択により、例えば抗菌性を付与できることが分かった。
【0197】
[実施例15]
実施例8で作製したS8に対し、塩化カルシウムとポリビニルアルコール(商品名「ゴーセノールEG−05」、日本合成化学社製)との混合水溶液(塩化カルシウム:20重量%、ポリビニルアルコール10重量%)をキュプラ長繊維不織布側にアプリケーターで均一に塗工した後、乾燥オーブンにて乾燥することでシートS15を得た。
【0198】
[比較例10]
比較例3で作製したR3に対し、塩化カルシウムとポリビニルアルコール(商品名「ゴーセノールEG−05」、日本合成化学社製)との混合水溶液(塩化カルシウム:20重量%、ポリビニルアルコール10重量%)をキュプラ長繊維不織布側にアプリケーターで均一に塗工した後、乾燥オーブンにて乾燥することでシートR10を得た。
【0199】
(1)透湿度
JIS L 1099に記載のA−1法により、温度40℃、湿度90%RHの環境下での24時間あたりの透湿度(g/m2・24h)を測定した。
【0200】
(2)膜厚
室温20℃、湿度50%RHの雰囲気下で調湿したサンプルをハイブリッジ製作所製のオートマティックマイクロメーターで10点厚みを測定し、その平均値を該サンプルの厚みとした。
【0201】
(3)浸水後透気抵抗度
サンプルを5cm×5cmで切り取り、蒸留水が100ml入ったプラスチックボトル中に浸漬し、振とう数200rpmで1日振とうした。振とうしたサンプルは室温で乾燥させ、室温20℃、湿度50%RHの雰囲気下で調湿した。調湿したサンプルは王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)で透気抵抗度を10点測定し、その平均値を該サンプルの透気抵抗度とした。
実施例15及び比較例10の実験条件・結果を以下の表6に示す。
【表6】
【0202】
S15はS8に対し塩化カルシウムとポリビニルアルコールを塗布することで、透気抵抗度と透湿度の飛躍的な向上が確認された。この値は全熱交換器用シートに要求される高い透気抵抗度と高い透湿度を満足するものであった。また、S15を水へ浸漬し、乾燥した後の透気抵抗度を測定した結果、透気抵抗度は変化しなかった。これはブロックポリイソシアネートによる架橋により、微細セルロース繊維層のシート構造が基材上に保持されたことを意味する。さらに、ポリビニルアルコールがS15の中に残存することで高い透気抵抗度の保持が確認された。以上の結果はシートが水に濡れても膜のガス透過性が低いことを示し、全熱交換器用シートとして要求される「水に濡れてもガスを隔離する機能」は保持された。
一方、R10もR3に対し塩化カルシウムとポリビニルアルコールを塗布することで、透気抵抗度と透湿度の飛躍的な向上が確認された。しかし、水へ浸漬により微細セルロース繊維層のシート構造が崩壊し、基材からの剥離がおきた。したがって、全熱交換器用シートとして要求される「水に濡れてもガスを隔離する機能」が損なわれた。
すなわち、全熱交換機用シートを提供する上で、ブロックポリイソシアネートとポリビニアルアルコールの使用が有効であることが分かった。