特許第6097413号(P6097413)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6097413溶湯供給構造、鋳造機、および鋳造物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097413
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】溶湯供給構造、鋳造機、および鋳造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 13/10 20060101AFI20170306BHJP
   B22D 35/00 20060101ALI20170306BHJP
   B22D 41/06 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   B22D13/10 505A
   B22D35/00 E
   B22D41/06
   B22D13/10 505B
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-2272(P2016-2272)
(22)【出願日】2016年1月8日
(62)【分割の表示】特願2015-11642(P2015-11642)の分割
【原出願日】2015年1月23日
(65)【公開番号】特開2016-135507(P2016-135507A)
(43)【公開日】2016年7月28日
【審査請求日】2016年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】秋山 尚久
(72)【発明者】
【氏名】小原 勝
(72)【発明者】
【氏名】田中 進一郎
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 仏国特許出願公開第00627240(FR,A1)
【文献】 特開昭50−140314(JP,A)
【文献】 実公昭04−013058(JP,Y1)
【文献】 仏国特許出願公開第00593957(FR,A1)
【文献】 特開昭55−088976(JP,A)
【文献】 特開2006−326645(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 13/00−13/12
B22D 33/00−41/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取鍋と、
上記取鍋から注湯された溶湯を受け、受けた溶湯を水平方向に導くための溝を有するシュートとを備えており、
上記取鍋は、
上記溶湯を貯留する取鍋本体と、
上記取鍋本体に貯留された溶湯を外部へ注湯するための注湯口とを備えており、
上記取鍋本体は、
上記シュートが溶湯を導く方向と、鉛直方向とで規定される平面内で、上記取鍋本体を回動させる回動軸と、
上記溶湯を貯留する底面部を備えており、
上記底面部は、上記平面と平行な方向に切った断面が上記回動軸を中心とする第1円弧を有し、かつ、上記第1円弧を上記回動軸に沿って延伸させてできる曲面であり、
上記注湯口は、上記底面部に配置されており、
上記平面と平行な方向における断面において、上記取鍋本体から外部へと注湯が行われる方向に対する、上記シュートが溶湯を導く方向の角度が90°以上180°以下となる範囲で、上記取鍋本体が回動することを特徴とする溶湯供給構造。
【請求項2】
上記シュートは、上記平面と平行な方向に切った断面が、上記回動軸を中心とし、かつ、上記第1円弧より上記回動軸までの距離が遠い第2円弧であることを特徴とする請求項1に記載の溶湯供給構造。
【請求項3】
上記回動軸に沿う方向における上記底面部の幅は、上記第1円弧を有する円の直径未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の溶湯供給構造。
【請求項4】
上記注湯口は、略円筒形状のノズルによって構成されており、
上記平面と平行な方向における断面において、上記ノズルの軸心を延伸した直線が上記回動軸を通ることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の溶湯供給構造。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の溶湯供給構造を備えていることを特徴とする鋳造機。
【請求項6】
請求項5に記載の鋳造機を用いた鋳造物の製造方法であって、
上記取鍋から注湯された溶湯を、上記シュート、トラフの順に導き、該トラフの終端から上記鋳造機の円筒形状のモールドに供給する溶湯供給工程を含んでおり、
上記溶湯供給工程にてさらに、上記モールドの円筒軸を軸として上記モールドを回動させつつ、上記トラフの終端を上記シュート方向に移動させるように、トラフ移動部により該トラフを移動させることを特徴とする鋳造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯を外部へ注湯する取鍋を備えた溶湯供給構造、この溶湯供給構造を備えた鋳造機、およびこの鋳造機を用いた鋳造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造機としては、特許文献1に記載のような、鋳造機の溶湯供給構造として、取鍋の注湯口から注湯された溶湯を受け、受けた溶湯を水平方向に導くための溝を有するシュートを備えたものが知られている。
【0003】
図8は、従来例に係る上記鋳造機の一例を示す断面図である。
【0004】
図8に示す鋳造機150は、定置取鍋101から溶湯102が供給される三角取鍋103、モーター104、シュート105、トラフ(溝)106、台車部107、台車走行部108、およびシリンダ109を備えている。台車部107は、モールド110、スリーブ111、およびモールド回動機構112を備えている。
【0005】
図8に示す鋳造機150では、三角取鍋103が傾動することによって、この三角取鍋103の傾動角度に比例した量の溶湯102が、その表面に塗型(黒鉛等)が塗布されているシュート105、およびトラフ106を通って、鋳造機150を構成する台車部107のモールド110内に供給される。
【0006】
鋳造機150では、三角取鍋103に関する下記の課題が生じる。
【0007】
すなわち、三角取鍋103内に貯留された溶湯102には、垢が混入し得る。垢の一例として、溶湯102の酸化物または硫化物が挙げられる。垢が溶湯102と共に三角取鍋103から流出し、モールド110に供給されると、鋳造物に垢が混入して鋳造物の品質が低下する虞がある。また、垢が三角取鍋103の内壁に付着すると、垢が溶湯102の流れを妨げ、溶湯102の注湯量が安定しない虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−204819号公報(1995年8月8日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、鋳造機150では、シュート105に関する下記の課題が生じる。
【0010】
すなわち、三角取鍋103では、常に扇形の中心103c付近から溶湯102が注湯される。また、中心103cは三角取鍋103の回動軸であるため、三角取鍋103を回動させても中心103cは固定される。この結果、シュート105は、三角取鍋103から注湯された溶湯102を、常に同じ位置で受けることとなる。この結果、シュート105表面の溶湯接触面に塗布された塗型の厚みが薄いと、焼き付きが生じる場合がある。そのため、塗型を厚く形成すると、塗型が剥がれやすくなり、塗型が剥がれて溶湯102に混入した場合には、鋳造物の品質が低下する虞がある。
【0011】
そこで、本願発明者らにおいて鋭意検討を行い、シュート105に係る問題を解決するための新たな溶湯供給構造を案出する必要があった。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑みて為されたものであり、その目的は、シュートを備えた溶湯供給構造において、シュートに対するダメージを低減することを可能とする溶湯供給構造、この溶湯供給構造を備えた鋳造機、およびこの鋳造機を用いた鋳造物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明の溶湯供給構造は、取鍋と、上記取鍋から注湯された溶湯を受け、受けた溶湯を水平方向に導くための溝を有するシュートとを備えており、上記取鍋は、上記溶湯を貯留する取鍋本体と、上記取鍋本体に貯留された溶湯を外部へ注湯するための注湯口とを備えており、上記取鍋本体は、上記シュートが溶湯を導く方向と、鉛直方向とで規定される平面内で、上記取鍋本体を回動させる回動軸と、上記溶湯を貯留する底面部を備えており、上記底面部は、上記平面と平行な方向に切った断面が上記回動軸を中心とする第1円弧を有し、かつ、上記第1円弧を上記回動軸に沿って延伸させてできる曲面であり、上記注湯口は、上記底面部に配置されており、上記平面と平行な方向における断面において、上記取鍋本体から外部へと注湯が行われる方向に対する、上記シュートが溶湯を導く方向の角度が、90°以上180°以下となるように、上記取鍋本体は注湯可能に構成されていることを特徴としている。
【0014】
上記の構成によれば、取鍋本体を回動させることにより、注湯口の位置を変化させることができる。これにより、シュートが溶湯を受ける位置を、取鍋本体の回動角度に応じて適宜変化させることができる。この結果、シュート表面の溶湯接触面に塗布された塗型を厚塗りしないでも、シュート表面に焼き付きが生じることを抑制することができ、シュートに対するダメージを低減することができる。
【0015】
また、上記の構成によれば、取鍋から注湯された溶湯の流れが、シュートによって流れの方向を大きく変えられるため、取鍋からの注湯時の勢いを緩衝することが可能である。このため、シュートから供給される溶湯の流れを安定化させることができる。
【0016】
また、本発明の溶湯供給構造の、上記シュートは、上記平面と平行な方向に切った断面が、上記回動軸を中心とし、かつ、上記第1円弧より上記回動軸までの距離が遠い第2円弧であることが好ましい。
【0017】
上記の構成によれば、底面部(ひいては注湯口)とシュートとの最短距離を一定とすることが容易である。この最短距離を一定とすることにより、シュートが溶湯を導くことをより安定化させることが可能となる。
【0018】
また、本発明の溶湯供給構造の、上記回動軸に沿う方向における上記底面部の幅は、上記第1円弧を有する円の直径未満であることが好ましい。
【0019】
上記の構成によれば、注湯方向に対して垂直な方向における取鍋本体の幅を小さくすることにより、溶湯の注湯量の制御が容易となる。
【0020】
また、本発明の溶湯供給構造の、上記注湯口は、略円筒形状のノズルによって構成されており、上記平面と平行な方向における断面において、上記ノズルの軸心を延伸した直線が上記回動軸を通ることが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、上記断面において、回動軸上を、ノズルの軸心を延伸した直線が通るため、ノズルを通過する溶湯の流れをスムーズにすることができる。
【0022】
また、本発明の鋳造機は、上記の溶湯供給構造を備えていることを特徴としている。
【0023】
上記の構成によれば、鋳造機において、上記の溶湯供給構造と同様の効果を得ることができる。
【0024】
また、本発明の鋳造物の製造方法は、上記の鋳造機を用いた鋳造物の製造方法であって、上記取鍋から注湯された溶湯を、上記シュートを介して、上記鋳造機の円筒形状のモールドに供給する溶湯供給工程を含んでおり、上記溶湯供給工程にてさらに、上記モールドの円筒軸を軸として上記モールドを回動させつつ、上記モールドへの上記溶湯の供給部分を上記シュート方向に移動させることを特徴としている。
【0025】
上記の構成によれば、本発明の鋳造機を用いることによって、品質低下が抑制された鋳造物を製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、シュートを備えた溶湯供給構造において、溶湯の流れの安定化を図り、鋳造物の品質低下を抑制し、かつ、シュートに対するダメージを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施の形態1に係る鋳造機の構成を示す断面図である。
図2図1に示す鋳造機における溶湯供給構造である、取鍋およびシュートの拡大図である。
図3】本発明の実施の形態2に係る鋳造機の構成を示す断面図であり、鋳造開始時点の様子を示している。
図4】本発明の実施の形態2に係る鋳造機の構成を示す断面図であり、鋳造終了時点の様子を示している。
図5図3および図4に示す鋳造機の取鍋およびシュートの断面図である。
図6】(a)〜(e)は、本発明に係る取鍋における注湯口と溶湯の液面との高さ関係を時系列で示した図である。
図7】本発明に係る取鍋の構成の具体例を示す断面図である。
図8】従来例に係る鋳造機の一例を示す断面図であり、鋳造開始時点の様子を示している。
図9図2に示す取鍋の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明を実施するための形態について、以下に説明する。
【0029】
〔実施の形態1〕
図1は、実施の形態1に係る鋳造機の構成を示す断面図である。具体的に、図1は鋳造終了時点の様子を示している。
【0030】
図2は、図1に示す鋳造機における溶湯供給構造である、取鍋およびシュートの拡大図である。
【0031】
図1に示す鋳造機100は、定置取鍋1から溶湯2が供給される円弧取鍋(取鍋)3、モーター4、シュート5、トラフ6、鋳造部7、およびトラフ移動部8を備えている。円弧取鍋3は、取鍋本体9およびノズル(注湯口)10を備えている。
【0032】
取鍋本体9は、溶湯2を貯留するものである。取鍋本体9は、第1断面(取鍋本体から外部への注湯方向と、鉛直方向とで規定される平面と平行な方向における断面、すなわち、紙面と同じ面)形状が中心3cを中心とする第1円弧である底面部9bを備えている。換言すれば、取鍋本体9の第1断面視は、中心3cを中心とする扇形である。取鍋本体9は、モーター4により、中心3cを回動軸として、取鍋本体9から外部への注湯方向と、鉛直方向とで規定される平面内で回動される。なお、底面部9bは、該回動軸に沿って(紙面表裏方向に)延伸するように設けられている。
【0033】
ノズル10は、底面部9bに配置されている。円弧取鍋3は、このノズル10から、取鍋本体9に貯留された溶湯2を外部へ注湯することが可能となっている。モーター4により取鍋本体9の回動角度を制御することで、取鍋本体9から外部へ注湯される溶湯2の量を調節することが可能である。また、取鍋本体9の回動に追従して、ノズル10も回動される。
【0034】
シュート5は、円弧取鍋3から注湯された溶湯2を受け、受けた溶湯2を水平方向に導く溝状の部材である。シュート5は、その表面に塗型(黒鉛等)が塗布されている。シュート5により導かれた溶湯2は、トラフ6に供給される。
【0035】
シュート5は、上記第1断面において、取鍋本体9から外部への注湯方向と、シュート5が溶湯2を導く方向とがなす角度θ(図2参照)が、90°以上270°以下である。好ましくは、180°以下である。ここで、シュート5が溶湯2を導く方向とは、シュート5の先端部における溶湯2の流れ方向(トラフ6に溶湯2を導く方向)であり、角度θは図2に示す通り、取鍋本体9から外部への注湯方向と、シュート5の先端がトラフ6に溶湯2を導く方向への、流れの方向が変化する角度である。換言すれば、シュート5の先端における溶湯2が流れる方向は、ノズル10からの注湯方向と水平方向において、概ね逆方向である。これにより、円弧取鍋3から注湯された溶湯2の流れが、シュート5によって流れの方向を大きく変えられるため、円弧取鍋3からの注湯時の勢いを緩衝することが可能である。このため、シュート5から供給される溶湯2の流れを安定化させることができる。また、シュート5は、上記第1断面形状が、中心3cを中心とし、かつ、上記第1円弧より中心3cまでの距離が遠い第2円弧である。これにより、底面部9bとシュート5との最短距離d(図2参照)を一定とすることが容易である。この最短距離dを一定とすることにより、シュート5が溶湯2を導くことをより安定化させることが可能となる。
【0036】
トラフ6は、溶湯2が通る溝であり、鋳造部7側が下がるようにやや傾斜して延伸しており、台車6bに載せられている。トラフ移動部8は、例えばレールであり、トラフ6の延伸方向に沿って台車6bを移動させる。トラフ6は、普段は該レールに対して平行な傾斜角度であるが、該レールに対して鋳造部7側が下がるようにさらに傾斜させることが可能となっていてもよい。
【0037】
鋳造部7は、モールド11、スリーブ12、モールド回動機構13、および制振台14を備えている。モールド11およびスリーブ12は、円筒形状である。また、スリーブ12は、モールド11を囲むように、モールド11に対して同心円状に設けられている。さらに、モールド11とスリーブ12との間には空間15が形成されており、この空間15に冷却用の流体(水等)を供給することにより、モールド11の冷却が可能となっている。なお、トラフ6に導かれた溶湯2は、鋳造部7側のトラフ6の端部(以下、トラフ6の終端と称する)から流れ落ち、モールド11に導かれる。つまり、トラフ6の終端が、モールド11への溶湯2の供給部分となっている。
【0038】
モールド回動機構13は、モールド11およびスリーブ12を、モールド11の円筒軸を回動軸として回動させる。モールド回動機構13による回動の手法としては、スリーブ12の両端を支持ローラによって支持し、制振台14に搭載されたローラをスリーブ12の下方に接触させ、この制振台14に搭載されたローラをモーターにより回動させる手法が挙げられる。
【0039】
制振台14は、モールド11およびスリーブ12の回動時における、モールド11の振動を抑えるものである。また上述したとおり、制振台14にはローラが設けられており、このローラがモールド11およびスリーブ12を回動させている(モールド回動機構13の機能の一部を担っている)。
【0040】
鋳造機100では、取鍋本体9を回動させることにより、ノズル10の位置を変化させることができる。これにより、シュート5が溶湯2を受ける位置を、取鍋本体9の回動角度に応じて適宜変化させることができる。この結果、シュート5表面の溶湯接触面に塗布された塗型を厚塗りしないでも、シュート5表面に焼き付きが生じることを抑制することができ、シュート5に対するダメージを低減することができる。
【0041】
また、上記回動軸に沿う方向における底面部9bの幅Z3は、上記第1円弧を有する円caの直径dca未満である(図2および図9参照)。図9は、円弧取鍋3の斜視図である。換言すれば、該底面部9bの幅は、取鍋本体9の扇形である側面部の幅の最大値未満である。これにより、注湯方向に対して垂直な方向における取鍋本体9の幅を小さくすることにより、円弧取鍋3の回転に伴う注湯量の変化を小さくすることが可能となるため、溶湯2の注湯量の制御が容易となる。
【0042】
また、図2に示すとおり、ノズル10は、略円筒形状によって構成されており、上記第1断面において、中心3c(回動軸)とノズル10の中心10cとを結ぶ線分上に、ノズル10の軸心10axが配置されているのが好ましい。これにより、ノズル10を通過する溶湯2の流れをスムーズにすることができる。
【0043】
〔実施の形態2〕
図3および図4は、実施の形態2に係る鋳造機の構成を示す断面図である。具体的に、図3は鋳造開始時点の様子を示しており、図4は鋳造終了時点の様子を示している。
【0044】
図3および図4に示す鋳造機140は、シュート5の配置が、図1に示す鋳造機100と異なる。
【0045】
すなわち、鋳造機140においてシュート5は、上記第1断面において、取鍋本体9から外部への注湯方向と、シュート5の先端がトラフ6に溶湯2を導く方向とがなす角度θが、90°未満であるように配置されている。換言すれば、シュート5の先端における溶湯2が流れる方向は、ノズル10からの注湯方向と水平方向において、概ね同一方向である。また、鋳造機140においてシュート5は、上記第1断面形状が円弧であるが、この円弧が中心3cを中心としていない(第2円弧でない)。
【0046】
鋳造機140より鋳造機100のほうが、溶湯2の流れのさらなる安定化が図れ、シュート5が溶湯2を導くことをより安定化させることが可能である。但し、鋳造機140においても、シュート5が溶湯2を受ける位置を、取鍋本体9の回動角度に応じて適宜変化させることができる。従って、溶湯2の流れの安定化を図り、鋳造物の品質低下を抑制し、かつ、シュート5に対するダメージを低減することは可能である。
【0047】
〔鋳造物の製造方法〕
図3および図4を参照して、鋳造機140を用いた鋳造物の製造方法について下記に説明する。鋳造機100についても、下記に説明する製造方法により、鋳造物の製造が可能である。
【0048】
鋳造機140による鋳造が開始されると、まず、円弧取鍋3から溶湯2を注湯する。円弧取鍋3から注湯された溶湯2は、シュート5、トラフ6の順に導かれ、トラフ6の終端からモールド11に供給される(溶湯供給工程)。
【0049】
このとき、モールド11およびスリーブ12は、モールド回動機構13により、モールド11の円筒軸を軸として回動されている。さらにこのとき、図3に示すとおり、トラフ6の終端をシュート5方向に移動させるように、トラフ移動部8によりトラフ6を移動させる。これにより、トラフ6の終端は、モールド11におけるシュート5側に向けて移動することになる。従って、モールド11におけるシュート5と反対側の端部に溶湯2が供給できるよう、トラフ6の初期位置を設定すれば、モールド11には、シュート5と反対側の端部から、シュート5側の端部へと、順次溶湯2が供給されることになる。
【0050】
さらにこのとき、トラフ6を、トラフ移動部8のレールに対して鋳造部7側が下がるようにさらに傾斜させてもよい。これにより、トラフ6を流れ切らずトラフ6上に残った溶湯2を、トラフ6の終端からモールド11に残さず導くことができる。この結果、溶湯2の利用効率を上げると共に、トラフ6上に余剰銑(ジャミ)が残存することを抑制することができる。
【0051】
鋳造機140による鋳造が終了した時点では、図4に示すとおり、トラフ6の終端は、モールド11よりシュート5に近い位置となっている。そして、溶湯2は、モールド11全体に亘って供給されている。なお、円弧取鍋3は、鋳造物1個毎に、必要量の溶湯2を注湯するのが好ましい。
【0052】
〔取鍋に関する課題の解決〕
円弧取鍋3を用いることにより、三角取鍋103に関する課題を解決することができる。このことについて、図5を参照して説明する。図5は、鋳造機140の円弧取鍋3およびシュート5の断面図である。
【0053】
取鍋本体9内に貯留された溶湯2には、垢16が混入し得る。垢16は、溶湯2にて浮上する程度に軽い。従って、ノズル10を溶湯2の液面より十分下方に維持しつつ注湯を行うことにより、垢16が溶湯2と共に流出することを防ぐことができる。
【0054】
また、取鍋本体9を回動させて、注湯の間、ノズル10に対する溶湯2の液面の高さを一定にすることにより、ノズル10に加わる圧力を一定に保ち、これにより、ノズル10から溶湯2が注湯される勢いを一定に保つことができるため、溶湯2の注湯量をある程度厳密に定量化することが容易である。
【0055】
ノズル10から溶湯2が注湯される勢いを一定に保つことについて、図6を参照して説明する。図6は、円弧取鍋3におけるノズル10と溶湯2の液面との高さ関係を時系列で示した図である。
【0056】
図6の(a)は、定置取鍋1から溶湯2が供給される前の様子を示している。このとき、ノズル10は溶湯2の液面より高い位置にある。このため、取鍋本体9から溶湯2が注湯されることは無い。
【0057】
図6の(b)は、定置取鍋1から溶湯2が供給された直後の様子を示している。このときはまだ、ノズル10は溶湯2の液面より高い位置にある。このため、取鍋本体9から溶湯2が注湯されることは無い。
【0058】
図6の(c)は、溶湯2の注湯中(前半)の様子を示している。図6の(d)は、溶湯2の注湯中(中盤)の様子を示している。図6の(e)は、溶湯2の注湯中(後半)の様子を示している。これらのとき、取鍋本体9の回動によって、ノズル10は溶湯2の液面の一定高さHmm下方に位置する。ここで、一定高さHmmは例えば50mmに設定される。このため、取鍋本体9から溶湯2が注湯される。また、溶湯2の注湯中(前半)から溶湯2の注湯中(後半)までの間、ノズル10を溶湯2の液面のHmm下方に維持するように、取鍋本体9の回動角度が制御される。このため、溶湯2の注湯中、ノズル10から溶湯2が注湯される勢いを一定に保つことができるため、溶湯2の注湯量をある程度厳密に定量化することができる。
【0059】
〔取鍋の構成の具体例〕
図7は、円弧取鍋3の構成の具体例を示す断面図である。
【0060】
図7に示すとおり、円弧取鍋3は、取鍋本体9の内壁を構成する取鍋壁31、取鍋壁31を覆い取鍋本体9の外壁を構成する鉄皮32、中心3cに設けられており紙面表裏方向に延伸する回動軸33、およびノズル10を備えている。
【0061】
例えば、図2および図9に示す取鍋本体9の外壁の半径(円caの半径に相当)は250mm、取鍋本体9の幅(回動軸に沿う方向における底面部9bの幅に相当)は150mm、ノズル10の長さは110mmである。
【0062】
〔付記事項〕
鋳造機100および140では、注湯口としてノズル10を設けたが、注湯口の形態は円筒状のノズル10に限定されず、円錐状、角柱状等の形態であってもよい。また、注湯口の形成方法としては例えば、取鍋本体9の底面部9bを切り欠いて注湯口を形成してもよい。
【0063】
なお、以上の説明に係る溶湯供給構造、鋳造機、および鋳造物の製造方法は、以下のように表現されてもよい。
【0064】
すなわち、本発明に係る溶湯供給構造は、取鍋と、上記取鍋から注湯された溶湯を受け、受けた溶湯を水平方向に導くための溝を有するシュートとを備えており、上記取鍋は、上記溶湯を貯留する取鍋本体と、上記取鍋本体に貯留された溶湯を外部へ注湯するための注湯口とを備えており、上記取鍋本体は、上記注湯口を、上記取鍋本体から外部への注湯方向と、鉛直方向とで規定される平面内で回動させる回動軸と、上記平面と平行な方向における断面形状が上記回動軸を中心とする第1円弧であり、かつ、上記回動軸に沿って延伸する底面部とを備えており、上記注湯口は、上記底面部に配置されているものとして表現してもよい。
【0065】
上記の構成によれば、取鍋本体を回動させることにより、注湯口の位置を変化させることができる。これにより、シュートが溶湯を受ける位置を、取鍋本体の回動角度に応じて適宜変化させることができる。この結果、シュート表面の溶湯接触面に塗布された塗型を厚塗りしないでも、シュート表面に焼き付きが生じることを抑制することができ、シュートに対するダメージを低減することができる。
【0066】
また、本発明に係る溶湯供給構造は、上記平面と平行な方向における断面において、上記取鍋本体から外部への注湯方向と、上記シュートが溶湯を導く方向とがなす角度が、90°以上270°以下であるものとして表現してもよい。
【0067】
上記の構成によれば、取鍋から注湯された溶湯の流れが、シュートによって流れの方向を大きく変えられるため、取鍋からの注湯時の勢いを緩衝することが可能である。このため、シュートから供給される溶湯の流れを安定化させることができる。
【0068】
また、本発明に係る溶湯供給構造における上記シュートは、上記平面と平行な方向における断面形状が、上記回動軸を中心とし、かつ、上記第1円弧より上記回動軸までの距離が遠い第2円弧として表現してもよい。
【0069】
上記の構成によれば、底面部(ひいては注湯口)とシュートとの最短距離を一定とすることが容易である。この最短距離を一定とすることにより、シュートが溶湯を導くことをより安定化させることが可能となる。
【0070】
また、本発明に係る溶湯供給構造における上記回動軸に沿う方向における上記底面部の幅は、上記第1円弧を有する円の直径未満として表現してもよい。
【0071】
上記の構成によれば、注湯方向に対して垂直な方向における取鍋本体の幅を小さくすることにより、溶湯の注湯量の制御が容易となる。
【0072】
また、本発明に係る溶湯供給構造における上記注湯口は、略円筒形状のノズルによって構成されており、上記平面と平行な方向における断面において、上記回動軸と上記ノズルの中心とを結ぶ線分上に、上記ノズルの軸心が配置されているものとして表現してもよい。
【0073】
上記の構成によれば、上記断面において、回動軸とノズルの中心とを結ぶ線分上に、ノズルの軸心が配置されているため、ノズルを通過する溶湯の流れをスムーズにすることができる。
【0074】
また、本発明に係る鋳造機は、上記の溶湯供給構造を備えているものとして表現してもよい。
【0075】
上記の構成によれば、鋳造機において、上記の溶湯供給構造と同様の効果を得ることができる。
【0076】
また、本発明に係る鋳造物の製造方法は、上記の鋳造機を用いた鋳造物の製造方法であって、上記取鍋から注湯された溶湯を、上記シュートを介して、上記鋳造機の円筒形状のモールドに供給する溶湯供給工程を含んでおり、上記溶湯供給工程にてさらに、上記モールドの円筒軸を軸として上記モールドを回動させつつ、上記モールドへの上記溶湯の供給部分を上記シュート方向に移動させるものとして表現してもよい。
【0077】
上記の構成によれば、本発明の鋳造機を用いることによって、品質低下が抑制された鋳造物を製造することができる。
【0078】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、溶湯を外部へ注湯する取鍋を備えた溶湯供給構造、この溶湯供給構造を備えた鋳造機、およびこの鋳造機を用いた鋳造物の製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 定置取鍋
2 溶湯
3 円弧取鍋(取鍋)
3c 第1円弧の中心(回動軸)
4 モーター
5 シュート
6 トラフ
7 鋳造部
8 トラフ移動部
9 取鍋本体
9b 底面部
10 ノズル
10ax ノズルの軸心
10c ノズルの中心
11 モールド
12 スリーブ
13 モールド回動機構
14 制振台
15 空間
31 取鍋壁
32 鉄皮
33 回動軸
100 鋳造機
140 鋳造機
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9