特許第6097457号(P6097457)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6097457川崎病の迅速診断用核酸マーカー及びそのキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097457
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】川崎病の迅速診断用核酸マーカー及びそのキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20060101AFI20170306BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20170306BHJP
【FI】
   C12Q1/68 A
   !C12N15/00 AZNA
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-561063(P2016-561063)
(86)(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公表番号】特表2017-500894(P2017-500894A)
(43)【公表日】2017年1月12日
(86)【国際出願番号】CN2014095152
(87)【国際公開番号】WO2016082272
(87)【国際公開日】20160602
【審査請求日】2016年2月9日
(31)【優先権主張番号】201410709423.0
(32)【優先日】2014年11月27日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】516042158
【氏名又は名称】広州賽哲生物科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】賈紅玲
(72)【発明者】
【氏名】張弓
(72)【発明者】
【氏名】劉超武
(72)【発明者】
【氏名】張麗
(72)【発明者】
【氏名】陳傑
(72)【発明者】
【氏名】曾宏彬
(72)【発明者】
【氏名】余旻斐
【審査官】 安居 拓哉
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−137299(JP,A)
【文献】 Chisato Shimizu et al.,PLOS one,2013年 3月 6日,Vol.8, Issue 3, e58159,pp.1-12
【文献】 Hubert D Lau et al.,Pediatrics International,2012年,Vol.54, Suppl.1,P-60
【文献】 Aihua Zhou et al.,Pediatrics International,2012年,Vol.54, Suppl.1,P-61
【文献】 Rebecca Reindel et al.,Pediatrics International,2012年,Vol.54, Suppl.1,P-62
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小分子RNA miR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pを併用して川崎病の迅速検出用生物マーカーとしての使用。
【請求項2】
前記小分子RNA miR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pは、それぞれ血清におけるエキソソーム小体内のmiR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pである、
ことを特徴とする請求項1に記載の使用。
【請求項3】
川崎病の迅速診断用キットであって、
血清におけるエキソソーム小体内のmiR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pの発現量を定量的に検出する試薬を含む、
ことを特徴とする川崎病の迅速診断用キット。
【請求項4】
前記キットは、miR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pに対して蛍光定量PCR検出を行うための配列番号9〜16に記載の塩基配列からなるプライマーを含む、
ことを特徴とする請求項3に記載の川崎病の迅速診断用キット。
【請求項5】
前記キットは、miR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pに対して逆転写を行うための配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8に記載の塩基配列からなるプライマーを含む、
ことを特徴とする請求項4に記載の川崎病の迅速診断用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、川崎病を迅速に診断するための核酸マーカー及びそのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
川崎病(KD:Kawasaki disease)は、原因不明の急性、発熱性、全身性血管炎症候群であり、1961年に川崎富作博士により日本で初めて発見され、1967年に最初に報告された。1970年以来、KDは、世界の大多数の国又は区域で続々と報告されており、そのうち、アジア人の発症率が最も高い。近年、KDは、小児に好発する疾患の1つになっており、主として5才以下の小児によく見られ、その臨床的特徴が発熱、粘膜炎、皮疹、頸部リンパ節腫脹、及び肢端変化であり、病理学的変化が主として全身性中小動脈血管炎であり、特に冠状動脈炎症性損傷及びそれに起因する血栓性梗塞、狭窄、拡張及び動脈腫瘍の発生を引き起こしやすい。そのうち、一部の患児に発生する巨大冠状動脈腫瘍は、長期間存在すると、後期に冠状動脈狭窄及び閉塞まで進行し、虚血性心疾患、ひいては死亡を引き起こす場合もある。また、KDは、心筋細胞肥大、局所的心筋虚血、心筋繊維化、及び成人期における心筋梗塞の発生を引き起こし、重症の場合に突然死を引き起こす可能性もある。冠状動脈腫瘍が発生したKD患者に対して迅速かつ効果的な標的療法を行っても、巨大冠状動脈腫瘍により患者の死亡を引き起こす場合もある。また、文献によると、冠状動脈拡張の発生率が18.6%〜26.0%であり、冠状動脈腫瘍の発生率が3.1%〜5.2%でかつ年々上昇傾向にあることを示唆する。KDの最も重篤な合併症である冠状動脈腫瘍は、発生時に血管内膜に血栓が形成されやすく、血管内皮増殖が起こることで、近接した冠状動脈管腔の狭窄を生じることがある。腫瘍内における血液の滞留により、血栓が形成されやすくなることで、近接した冠状動脈の血流量を減少させ、心筋梗塞及び突然死を引き起こすこともある。さらに、腫瘍直径≧8mmの巨大腫瘍の場合、その退縮がより困難になる一方、狭窄の発生率が時間と共に明らかに増大する。そのため、患児を大きな危険にさらして、患児の生活の質に大きな影響を与える。しかしながら、現在、KDによる冠状動脈腫瘍に対する主要な治療手段は、長期抗凝固療法、血栓溶解療法、冠動脈バイパス移植術、心臓移植術、及び介入療法を含むが、それらの療法がいずれも事後の治療的処置であるため、理想的な効果が得られず、治療費用が高いだけでなく、治療後の患児の生活の質も保証できない。
【0003】
報道によると、日本及び米国などの先進国において、KDによる冠状動脈合併症は、リウマチ熱に代わって幼児後天性心疾患の原因の第1位になっており、成人後の虚血性心疾患の主要因の1つになっている。中国においても、KDの発症率が高く、日本、韓国に次ぐ世界第3位の高発症国になっており、同様にリウマチ熱に代わって中国における小児後天性心疾患の主な病因になっている。近年では、KDの発症率は年々上昇傾向にあるため、中国における幼児の心臓及び血管の健康を大きな危険にさらすとともに、経済及び社会上の大きな負担をもたらす。
【0004】
現在、KDの診断は、臨床徴候、超音波画像、及び実験室検査を含む。KDの臨床診断は、主として患児の臨床症状に応じて、一連の典型的な兆候が現れた後、他の可能な疾患を排除する限り、診断を行うことができるため、適時性が悪い。超音波画像検査の場合、主として心エコー図により冠状動脈病変の診断を確定するが、KD患児の早期の微小な冠状動脈病変に対して、超音波診断には制限がある。実験室検査では、小児KDの診断を補助するために、急性末梢血白血球と好中球の増加、軽度の貧血、血小板進行性増加、C反応性タンパクの明らかな増加、及び赤血球沈降速度の明らかな上昇などの全身炎症性指標が使用される。これらの実験的指標は、炎症性指標によりKDの診断を間接的に補助するので、特異性及び指向性が理想的ではない。全身性炎症が生じるその他の疾患、特に感染性疾患は多いので、従来の診断方法によれば、他の感染性疾患との混同がよく見られ、治療を遅らせることもある。
【0005】
近年、非定型KDは、臨床診断が困難であり、発生率が約10%〜36%でかつ年々上昇している。非定型KDの臨床症状は多様性及び複雑性を持ち、呼吸器感染症、敗血症、薬疹、猩紅熱、麻疹、リンパ節炎、若年性関節リウマチなどの疾患と誤診されやすく、さらに誤診又は見逃された診断により最適な治療機会を失うことがある。そのため、多数の幼児は、KDの診断が確定されるときに、冠状動脈損傷が生じてきた。
【0006】
今まで、学者らは、KDを早期に診断するためのマーカーを求めているが、KDの病因及び発病メカニズムが不明であるため、学者の大多数は、遺伝子、サイトカイン、炎症性因子などから着手することに限られ、得られた生物マーカーが特異的指標としてKDの診断に用いられることはできない。いくつかの研究によると、心臓由来脂肪酸結合蛋白(h−FABP)、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP−9)、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド(NT−proBNP)などの蛋白及び遺伝子は、川崎病を診断するための分子マーカーとする可能性があることを報告したが、その感度と特異性を両立できず、操作者の取材方法、操作レベルなどにも関係して、誤差が生じやすいので、規模の大きな臨床コホートで証明されていない。現在まで、広く認められた指標及び方法は依然として見当たらない。したがって、迅速かつ正確に川崎病を診断可能な分子マーカーを見出すことは、臨床治療の方向を示すことができ、冠状動脈病変の防止、予後の改善,川崎病患児の生活の質の向上を可能にするので、非常に重要である。
【0007】
エキソソーム(exosome)は、生細胞から分泌される後期エンドソーム(多胞体とも呼ばれる)由来の小胞である。多胞体が質膜と融合すると、それに含まれる小胞を胞外に放出する。研究によると、異なる細胞由来のエキソソームに母親細胞の最も重要な機能分子を含むことが示されている。エキソソームは、直径30〜100nmの小胞であり、様々な細胞から分泌され、タンパク質、脂質及びマイクロRNAなどの成分を含む。異なる細胞由来のエキソソームに含まれるタンパク質及びマイクロRNAが異なり、その生物学的機能も相違する。血液におけるエキソソームは、密度の低い固形成分であり、豊富な生物マーカー情報を伝えるものと認められるため、近年では広く注目されている。血清、尿、組織液のようなヒト体液において、エキソソームの膜に包まれたRNAは、ヌクレアーゼによって分解されず、またアルブミン、IgGなどの高含有量タンパク質から影響を受けない。細胞に由来するため、エキソソームに含まれる物質は、細胞における一部の物質の特徴を表す。このようにして、細胞内におけるあるタンパク質及び核酸の変化を検出することを可能にする。近年、体液におけるエキソソームの臨床診断上の意義が益々重視されるようになり、例えば、がん患者の血清に多種のがんを早期に診断可能なマイクロRNA分子マーカーが存在する。また、オミクス手段は、病因が未知の疾患の特異的分子マーカーを見出すための最適なプラットフォーム及び技術を提供する。現在、一般的なオミクスの範囲には、ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオームなどがあり、一定の実験手段及びデータ解析法を用いてサンプルにおけるDNA、RNA又はタンパク質の全体を検討することができる。正常個体由来のサンプルデータと患者由来のサンプルデータを比較することにより、疾患特異的分子マーカーを見出すことが期待され、疾患の早期診断、病因分析、後続の徹底的研究及び治療などのために重要な基礎を提供することができる。現在、これらの方法により、細胞的増殖、分化、異常な転換、腫瘍の形成などの面において、肝がん、乳がん、結腸がん、膀胱がん、前立腺がん、肺がん、腎がん、及び神経芽細胞腫などに関して、有力な探索を行った。また、一連の腫瘍関連タンパク質を同定し、腫瘍の早期診断、薬剤標的の発見、治療効果の判断及び予後のために重要な証拠を提供する。ある核酸分子は、疾患診断のための分子マーカーとして使用され得る。臨床診断の実践において、検出用核酸マーカーは、高感度、優れた特異性、正確な定量化などの特徴を有し、早期診断のためのマーカーとして適用されている。
【0008】
成熟型マイクロRNA(miRNA)は、長さ約17〜25ヌクレオチドの小分子非コードRNAであり、主として標的mRNAの3'−非翻訳領域(UTR)、5'−UTR及びコード領域における塩基との相補的対合により、標的mRNAの翻訳を抑制し、転写後に標的遺伝子の発現に対してレベル調節を行う。生物情報学の研究によると、1つのmiRNAは複数の標的遺伝子を調節することができる一方、1つの標的遺伝子は同時に複数のmiRNAsによって調節され得ることが示されている。したがって、保守的な予想によると、約60%〜70%のヒトタンパク質コード遺伝子がmiRNAsによって調節され、単一のmiRNA分子は、機能の異なる数百の標的mRNAと結合して調節作用を発揮することができ、例えば、個体発生、組織分化、細胞自然死、エネルギー代謝などの哺乳動物のほぼ全ての病理及び生理活動に関与し、多くの疾患の発生、発展と緊密な関係を持っている。
【0009】
従来から、miRNAsへの研究は主としてそれらの細胞内における活動に注目している。2008年に、Mitchellらは、正常人の血漿における18〜24ヌクレオチドのRNAを単離することにより、小RNAライブラリーを構築して、得られた125種のDNAクローンを測定して分析した。使用される血漿サンプルにおいて、let−7a、miR−16及びmiR−15bなどを含む37種のmiRNA分子がクローニングされた。そして、miRNAsは、内因性RNaseによる分解から保護されるように、非常に安定した形で人体の血漿に存在できることを発見した。同時に、Chenらは、ハイスループットシークエンシング技術で血清におけるmiRNAを分析することにより、男性及び女性正常人の血清にそれぞれ100種以上及び91種以上の血清miRNAを発見した。それらの血清miRNAは、劣悪な条件(例えば、高温、極低又は極高のpH環境、複数回の凍結融解)においても安定性を保つことができるが、その時に大多数のRNAが分解する。また、正常人及び異なる疾患の患者の血清・血漿におけるmiRNAを検出した結果、miRNAは、正常人及び患者の血清・血漿に幅広く存在しており、生理的状況、疾患の種類及び病気の進行に伴ってmiRNAの発現プロフィールに特異的変化が生じることを発見した。最近の研究によると、異なる腫瘍が特異的マイクロRNA発現プロフィールを示し、腫瘍由来のマイクロRNAが循環系に放出され、血液組織に侵入し得ることが示されている。一方、血液組織において、マイクロRNAはRNaseによる分解を回避でき、優れた安定性を有する。したがって、血清・血漿におけるマイクロRNAは、腫瘍の生物マーカーになる潜在力を有している。例えば、最近の研究によると、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫患者の血清において、miR−21の含有量は正常人より高いことを発見した。さらに、研究によると、ヒト血清・血漿において安定したマイクロRNAは大量に存在することも発見した。そのため、血液におけるエキソソームは、豊富な生物マーカー情報を伝えるものと認められ、異なる細胞由来のエキソソームは、母親細胞の最も重要な機能分子を含むので、近年では体液におけるエキソソームは、体液におけるエキソソームの臨床診断上の意義が益々重視されるようになる。例えば、がん患者の血清には、複数種類のがんを早期に診断可能なマイクロRNA分子マーカーが存在している。これらの現象によると、川崎病患者の血清エキソソームに発現量が明らかに変わったマイクロRNAを見出して、生物マーカーとして川崎病の早期診断を行う可能性を示唆する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、川崎病を迅速に診断するための核酸マーカーを提供することにある。
【0011】
本発明の別の目的は、川崎病を迅速に診断するためのキットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る技術的構想は、以下の通りである。
小分子RNA miR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pを併用して川崎病の迅速検出用生物マーカーとしての使用。
【0013】
好ましくは、上記小分子RNA miR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pは、それぞれ血清におけるエキソソーム小体内のmiR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pである。
川崎病の迅速診断用キットであって、そのキットは、血清におけるエキソソーム小体内のmiR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pの発現量を定量的に検出する試薬を含む。
【0014】
好ましくは、上記キットは、miR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pに対して蛍光定量PCR検出を行うための配列番号9〜16に記載の塩基配列からなるプライマーを含む。
【0015】
好ましくは、上記キットは、miR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pに対して逆転写を行うための配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8に記載の塩基配列からなるプライマーを含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の有益な効果は、以下の通りである。
(1)臨床徴候、超音波画像及び実験室検査などの従来の川崎病の診断方法に比べると、本発明は、原材料が入手しやすく、操作が簡単であり、特異性が強く、所要時間が少なく、迅速で正確であり、結果が安定であるなどの利点を有し、川崎病患児を即時、迅速、正確、かつ客観的に診断することができる。特に、1回の実験により川崎病と症状が混同されるウイルス感染とを区別することができるため、従来の診断方法にはない優位性を有している。したがって、本発明は、川崎病患児に対する迅速な診断は、極めて大きな臨床上の使用価値を有し、川崎病患児に使用される迅速診断用キットのさらなる研究の方向性が示される。
【0017】
(2)本発明は血漿・血清中における安定したmiRNAを検出する一方、従来の潜在的な分子診断法はタンパク質を検出する。そのため、定量測定の場合、本発明はmiRNAの定量精度及び感度が非常に高く、さらにqPCR技術を使用すると、ひいては単分子検出のような能力を達することもできる一方、従来の方法はタンパク質を検出するので、感度が低く、定量精度も低い。
【0018】
(3)従来の潜在的な分子診断法は、あるタンパク質の絶対含有量を測定し、参考範囲又は標準品と比較して検出結果を得る方法である。しかしながら、絶対含有量を測定する場合、必然的にサンプリング方法、抽出効率、操作者の実験精度などの問題により偏差を発生させ、検査効果に影響を与える。本発明は、単一の指標ではなく複数のmiRNAにより検査を行うので、信頼性が単一の指標の検出よりはるかに高い。また、本発明に係る検査方法は、サンプルにおける数種類のmiRNAを用いて自己対照を行って、サンプリング方法、抽出効率、操作者の操作習熟度などの要因による誤差を完全に除去することができるため、安定性が従来の方法より優れ、低コストで大規模の拡大使用に便利である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、正常児(Control)とKD患児の血清におけるエキソソームの特徴を示す。図1Aは、透過電子顕微鏡で見られる正常児とKD患児の血清におけるエキソソームの形態特徴を示し、図1Bは、電子顕微鏡で見られる正常児とKD患児の血清における200個のエキソソームの直径分布範囲を示し、図1Cは、血清(serum,S)と比べて、エキソソーム(Ex)における3つのマーカータンパク質CD9、CD81及びTSG101の含有量検出(westernblot)を示す。
図2図2は、5人の正常児の等量血清混合及び5人のKD患児の等量血清におけるエキソソーム内のマイクロRNAのマイクロアレイ(Microarray)解析結果を示す。図2において、上方調節又は下方調節の発現差異が200倍以上のmiRNAのみを挙げて、KDはKD患者であり、Controlは正常人である。
図3図3は、5人の合胞体ウイルス感染患児、5人のアデノウイルス感染患児、20人のKD患児、及び20人の正常児の血清におけるエキソソーム内のマイクロRNAのマイクロアレイ解析結果に対する蛍光定量PCR検証を行い、2群間ずつ相互参照したt検定結果を示す。図3Aは、KD群と正常群との比較を示し、図3Bは、正常群と合胞体ウイルス(RSV)感染群との比較を示し、図3Cは正常群とアデノウイルス(ADV)感染群との比較を示す。
図4図4は、検出効果の検定を示し、蛍光定量PCR方法により8人の合胞体ウイルス感染患児、2人のアデノウイルス感染患児、2人のEBウイルス感染患児、30人のKD患児、及び30人の正常児の血清におけるエキソソーム内の4種類のマイクロRNAsの含有量を検出し、Ct(miR−1246)−Ct(miR−4436b−5p)の差を横軸とし、Ct(miR−197−3p)−Ct(miR−671−5p)の差を縦軸として作成した2次元プロットである。図4において、黒点は正常児のデータを表し、赤色の×はKD患児のデータを表し、青色標識は各種のウイルス感染患児のデータを表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の技術的内容をより明確に理解するために、以下、実施例を挙げて図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。これらの実施例は、本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定するものではないと理解すべきである。以下の実施例において、具体的な条件が記載されない実験方法は、一般的な条件、例えば、Sambrookら、分子クローン:実験室マニュアル(NewYork:ColdSpringHarborLaboratoryPress,1989)に記載される条件、又は製造業者の推奨条件に応じて行われる。実施例に使用される各種類の常用の化学試薬は、すべて市販品である。
【0021】
本発明において、KD患児の血清におけるエキソソーム内のmiR−1246発現量とmiR−4436b−5p発現量との差、及びmiR−197−3p発現量とmiR−671−5p発現量との差は、いずれも正常児と比べて明らかな変化が生じて、サンプルの量が大きいほど、このような変化の傾向もより明らかになる。また、川崎病の最も主要な症状は、体温が39℃を超える持続性発熱であるので、他の発熱性疾患と区別するために、miR−1246とmiR−4436b−5p、及びmiR−197−3pとmiR−671−5pという2対のmiRNAsに対して発熱性疾患(合胞体ウイルス感染、アデノウイルス及びEBウイルス感染)患児で特異的スクリーニングを行った。実験結果によると、KDの2対のmiRNAsは、発熱性疾患の2対のmiRNAsと明らかに区別できることが示された。すなわち、miRNAs:miR−1246とmiR−4436b−5p、及びmiR−197−3pとmiR−671−5pの2対のmiRNAsは、川崎病の特異的分子マーカーであり、血清におけるエキソソーム内のCt(miR−1246)−Ct(miR−4436b−5p)の差、及びCt(miR−197−3p)−Ct(miR−671−5p)の差を分析することにより、KD患児を他の発熱性疾患と区別して迅速かつ正確に診断できる。これは、KD患者の早期診断に対して顕著な意義を有する。
実施例1 川崎病の迅速診断用核酸マーカーのスクリーニング
【0022】
1.初期スクリーニング
(1)正常児及びKD患児の血液500μlをそれぞれ採取し、4℃で冷蔵庫において1時間〜2時間静置し、2000rpmで5分間遠心分離した後、血清を取り出した。
(2)エキソソーム抽出キット(SystemBiosciencesInc、MountainView,CA)の説明に応じて、血清におけるエキソソームを抽出した。
(3)透過電子顕微鏡でエキソソームの形態を観察し、その直径がすべて30〜100nmの範囲内にある(図1A及び図1Bに示すように)ことを確認した。また、western Blotにより検出されたエキソソームの3つのマーカータンパク質CD9、CD81及びTSG101の発現は図1Cに示される(Stamer WD,Hoffman EA, Luther JM, Hachey DL,,Schey K.L: Protein profile of exosomes from trabecular meshwork cells. J Proteomics 2011,74 (6): 796-804、及びStreet JM, Barran PE, Mackay CL, Weidt S, Balmforth C, Walsh TS, Chalmers RT, Webb DJ, Dear JW: Identification and proteomic profiling of exosomes in human cerebrospinal fluid. J Transl Med 2012, 5;10:5. doi: 10.1186/1479-5876-10-5)。
(4)Trizol試薬(LifeTechInc、USA)を用いてエキソソーム内のRNAを抽出し、抽出されたRNAに対して濃度及び純度の測定を行った。
(5)核酸マーカーの初期スクリーニングは、下記のように行われた。
【0023】
上記の分析方法で5人の正常児の等量混合血清及び5人の川崎病患児の等量混合血清におけるエキソソーム内のRNAに対して、マイクロRNAマイクロアレイ解析を行い、上方調節又は下方調節の発現差異>200倍の基準に応じて、マイクロRNAの初期スクリーニングを行った。マイクロRNAマイクロアレイ解析により上方調節又は下方調節の発現差異が明らかであるmiRNAs(差異>200倍)を得た。得られたmiRNAsには、miR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5p(図2を参照)を含む。この4種類のmiRNAのヌクレオチド配列は表1に示される。
【0024】
表1:miR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pのヌクレオチド配列
【表1】
【0025】
2.二次スクリーニング
核酸マーカーの二次スクリーニングは、下記のように行われた。
5人の合胞体ウイルス(RSVRespiratorySyncytialVirus、RSV)感染患児、5人のアデノウイルス(Adenovirus、ADV)感染患児、20人のKD患児、及び20人の正常児の血清をランダムに選択して血清におけるエキソソームを抽出し、上記初期スクリーニングで得られたmiRNAsに対して蛍光定量PCR検出を行った。
【0026】
一般的な方法で逆転写を行ってcDNAを得た後、蛍光定量PCR反応を行った。具体的な操作は、下記の通りである。
(1)逆転写によるcDNAの取得
(1−1)上記エキソソーム内のRNAを抽出して鋳型とし、RNaseを取り除いたPCRチューブに、RNA鋳型1.0μg及びRNAフリーHOを合計体積が8μLになるように加えた。
(1−2)上記溶液を均一に混合し、RNAの二次構造を融解させるように85℃で5分間培養した直後、二次構造に巻き戻すRNAの再生を防止するように氷に置いた。
(1−3)逆転写は、下記のように行われた。
逆転写において、初期スクリーニングで得られたmiRNAsの特異的逆転写RTプライマー配列は、表2に示される(miR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pのプライマー配列が記載されるが、他のプライマー配列が省略される)。
【0027】
表2:miR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pの特異的逆転写プライマー配列
【表2】
RNaseを取り除いた別のPCRチューブにおいて以下の溶液を調製した。
10mM dNTP(promega) 2.0μl
RNase阻害剤(promega) 0.5μl
miR−1246−RT 0.5μl
miR−4436b−5p−RT 0.5μl
miR−197−3p−RT 0.5μl
miR−671−5p−RT 0.5μl
5x 緩衝液 4μl
M−MLV(promega) 0.5μl
合計体積 9μl
(1−4)上記(1−3)で得られた溶液を上記(1−1)で得られた溶液に加えて、均一に混合した後、42℃で60分間培養した。
(1−5)85℃で10分間培養して逆転写酵素を不活性化させた後、cDNAを得た。
【0028】
(2)蛍光定量PCR
蛍光定量PCRにおいて、初期スクリーニングで得られたmiRNAsの蛍光定量PCRプライマー配列は、表3に示される(miR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pのプライマー配列が記載されるが、他のプライマー配列が省略される)。
【0029】
表3:miR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pの蛍光定量PCRプライマー配列
【表3】
(2−1)以下の反応系に応じて初期スクリーニングで得られたmiRNAsに対してそれぞれ蛍光定量PCRを行った。
cDNA(1:20) 5.0μl
上流プライマー 0.5μl
下流プライマー 0.5μl
2x SYBR Green qPCR SuperMix 10μl
ddHO 4.0μl
合計体積 20μl;
【0030】
(2−2)蛍光定量PCRの反応条件は、50℃で2分間、95℃で2分間、95℃で15秒、60℃で32秒、プレートリーダー40サイクル、融解曲線解析温度60℃〜95℃である。
【0031】
その後、サンプリング方法、操作誤差などによる誤差を除去するために、初期スクリーニングで得られたmiRNAsのCt値に対して2群間ずつの比較を行って相互参照とした。2群間ずつの比較において、Ct(miR−1246)−Ct(miR−4436b−5p)の差は、正常群Normalと川崎病群KDとの間に有意差(P<0.01)がある(図3A)が、正常群と他の発熱性疾患群の間、例えば、正常群Normalと合胞体ウイルス感染群RSVとの間(図3B)、及び正常群Normalとアデノウイルス感染群ADVとの間(図3C)に有意差がないことが見られた。Ct(miR−1246)−Ct(miR−328)の差に効果の差があるが、Ct(miR−1246)−Ct(miR−328)の差は、Ct(miR−1246)−Ct(miR−4436b−5p)の差より小さくてP値が大きいので、好ましくない。
【0032】
また、2群間ずつの比較において、Ct(miR−197−3p)−Ct(miR−671−5p)の差は、正常群Normalと川崎病群KDとの間に有意差がない(図3A)が、正常群と他の発熱性疾患群との間、例えば、正常群Normalと合胞体ウイルス感染群RSVとの間(図3B)、及び正常群Normalとアデノウイルス感染群ADVとの間(図3C)に有意差がある(P<0.01)ことも見られた。
【0033】
上記のように、Ct(miR−1246)−Ct(miR−4436b−5p)の差及びCt(miR−197−3p)−Ct(miR−671−5p)の差を兼用して同時に川崎病の診断指標とすることにより、川崎病診断(特に早期診断)の安定性及び判定精度を向上させることができる。
実施例2 川崎病の迅速診断用核酸マーカーの検証
【0034】
実施例1でスクリーニングされた4種類のmiRNAs(すなわち、miR−1246、miR−328、miR−197−3p、及びmiR−671−5p)は、KDの迅速かつ正確な診断と密接に関わるか否かをさらに確認するために、30人の正常児、30人のKD患児、8人の合胞体ウイルスRSV患児、2人のアデノウイルスADV患児、2人のEBウイルス患児の新鮮血清におけるエキソソームのRNAをそれぞれ抽出した。これらの群の血清におけるエキソソームのRNAに対して実施例1に係る蛍光定量PCR検出を行うことにより、各群のmiR−1246、miR−328、miR−197−3p、及びmiR−671−5pのCt値を検出した。サンプリング方法、操作誤差などによる誤差を除去するために、それらのCt値に対して2群間ずつの比較を行って相互参照とした。各サンプルのCt(miR−1246)−Ct(miR−4436b−5p)の差及びCt(miR−197−3p)−Ct(miR−671−5p)の差を計算して、それぞれX、Y座標としてプロットした。
【0035】
結果は図4に示される。実験結果によると、正常群(黒点で表す)と、KD群(「×」符号で表す)と、ウイルス感染発熱群(EBを「◇」符号で表し、RSVを「+」符号で表し、ADVを青色点で表す)とは、完全に区別できることが示される。また、サンプルの統計によると、以下の結論を得ることができる。
x=Ct(miR−1246)−Ct(miR−4436b−5p)、y=Ct(miR−197−3p)−Ct(miR−671−5p)とする場合、
(1)y≦−4.9かつy≦−x+5.6のときに、KD疾患になることとし、
(2)y>−4.9かつx≦10.2のときに、ウイルス性感染になることとし、
(3)若x>10.2かつy>−x+5.6のときに、正常であることとする。
【0036】
上記のように、血清におけるエキソソーム内のmiR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pは、川崎病患児を迅速かつ正確に診断する分子マーカーとして用いられ、川崎病を迅速に診断するキットを製造することができる。そのキットは、血清におけるエキソソーム小体内のmiR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pの発現量を定量的に検出する試薬を含む。例えば、そのキットは、miR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pに対して蛍光定量PCR検出を行うための配列番号9〜16に記載の塩基配列からなるプライマーを含んでもよく、この4種類のmiRNAsに対して逆転写を行うための配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8に記載の塩基配列からなるプライマーを含んでもよい。
実施例3 臨床サンプルの検出
【0037】
臨床血清サンプルを80個用意して、川崎病の迅速診断を行った。
(1)実施例1と同様にして、サンプル血清におけるエキソソーム内のRNAを抽出した。
(2)実施例1と同様にして、上記(1)で抽出されたRNAに対して逆転写を行い、エキソソーム内のmiR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pを定量検出して、その4種類のmiRNAのCt値を得た。その後、サンプリング方法、操作誤差などによる誤差を除去するために、各サンプルの測定したCt値に対して2群間ずつの比較を行って相互参照とした。
(3)各サンプルのx、y値をx=Ct(miR−1246)−Ct(miR−4436b−5p)、y=Ct(miR−197−3p)−Ct(miR−671−5p)に基づいて計算した。
(4)結果分析
(4−1)y≦−4.9かつy≦−x+5.6のときに、KD疾患になることとし、
(4−2)y>−4.9かつx≦10.2のときに、ウイルス性感染になることとし、
(4−3)x>10.2かつy>−x+5.6のときに、正常であることとする。
【0038】
上記の結果分析によると、本実施例の80個のサンプルにおいて、35個はKD疾患及び発熱性ウイルス感染のない正常サンプルであり、28個はKD疾患になるサンプルであり、17個は発熱性ウイルス感染になるサンプルである。本発明の検出結果は、臨床上の検出結果(臨床徴候、超音波画像及び実験室検査などの結果)と完全に一致しているから、本発明は精度が高いことが分かった。
【0039】
本発明に係る分子マーカーであるmiR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pは、川崎病患児を迅速かつ正確に診断するために用いられる場合、従来の各種類の臨床診断方法と比べて、原材料が入手しやすく、操作が簡単であり、特異性が強いなどの利点を有する客観的な評価方法である。特に、本発明は、標準品を使用する必要なく自己対照を行うので、操作者の操作習熟度、抽出効率の差異などの要因による誤差を完全に除去することができる。したがって、本発明は、極めて大きな臨床的応用の可能性がある。そのため、miR−1246、miR−4436b−5p、miR−197−3p、及びmiR−671−5pを定量検出可能なキットを製造して、川崎病の診断に用いることができる。このようにして、1回の実験により正常人とKD患児と発熱性ウイルス感染患者とを完全に区別できるので、KD患者と正常人の間の判定問題を解決できる上に、KD症状に類似した発熱性疾患によるKD診断への障害を完全に取り除くことができる。
【0040】
上述した実施例は、本発明のいくつかの実施形態を具体的、かつ詳細に説明するものであるが、本発明の特許請求の範囲を限定するものではないと理解されるべきである。本発明の思想を逸脱しない範囲において、当業者が複数の変形及び変更をしても、本発明の保護範囲に属するものであると理解されるべきである。したがって、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲に基づくものである。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]