(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記状態分析手段は、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)、前記末梢生体信号の拡張初期陽性波(e波)、前記体幹生体信号の心室収縮初期対応波(Eα波)及び前記体幹生体信号の心室拡張初期対応波(Eβ波)の各時相を用いて生体状態を分析する手段を有する請求項1記載の生体状態分析装置。
前記状態分析手段は、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)と前記体幹生体信号の心室収縮初期対応波(Eα波)との心−指尖伝播時間の時相差(a−Eα)、及び、前記末梢生体信号の拡張初期陽性波(e波)と前記体幹生体信号の心室拡張初期対応波(Eβ波)との心−指尖伝播時間の時相差(e−Eβ)を用いて、自律神経系の状態を分析する時相差分析手段を有する請求項2記載の生体状態分析装置。
前記時相差分析手段は、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)と前記体幹生体信号の心室収縮初期対応波(Eα波)との心−指尖伝播時間の時相差(a−Eα)を一方の軸に、前記末梢生体信号の拡張初期陽性波(e波)と前記体幹生体信号の心室拡張初期対応波(Eβ波)との心−指尖伝播時間との時相差(e−Eβ)を他方の軸にとった座標上に、周期毎に対応させて座標点をプロットする手段を有し、座標点の分散の程度から、自律神経系の活動状態を判定する手段である請求項3記載の生体状態分析装置。
前記状態分析手段は、前記時相差分析手段により得られるいずれか少なくとも一方の時相差に、血管の状態に関する血管情報を用いて生体状態を分析する血管情報・時相差分析手段を有する請求項3又は4記載の生体状態分析装置。
前記状態分析手段の前記血管情報・時相差分析手段は、前記血管情報として、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)と拡張初期陽性波(e波)との波高比(e/a値)を用い、各座標点の位置及び分散の程度から、心循環系異常の有無を含むストレスの状態を推定する手段である請求項5記載の生体状態分析装置。
前記状態分析手順は、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)、前記末梢生体信号の拡張初期陽性波(e波)、前記体幹生体信号の心室収縮初期対応波(Eα波)及び前記体幹生体信号の心室拡張初期対応波(Eβ波)の各時相を用いて生体状態を分析する手順を有する請求項10記載のコンピュータプログラム。
前記状態分析手順は、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)と前記体幹生体信号の心室収縮初期対応波(Eα波)との心−指尖伝播時間の時相差(a−Eα)、及び、前記末梢生体信号の拡張初期陽性波(e波)と前記体幹生体信号の心室拡張初期対応波(Eβ波)との心−指尖伝播時間の時相差(e−Eβ)を用いて、自律神経系の状態を分析する時相差分析手順を有する請求項11記載のコンピュータプログラム。
前記時相差分析手順は、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)と前記体幹生体信号の心室収縮初期対応波(Eα波)との心−指尖伝播時間の時相差(a−Eα)を一方の軸に、前記末梢生体信号の拡張初期陽性波(e波)と前記体幹生体信号の心室拡張初期対応波(Eβ波)との心−指尖伝播時間との時相差(e−Eβ)を他方の軸にとった座標上に、周期毎に対応させて座標点をプロットする手順を有し、座標点の分散の程度から、自律神経系の活動状態を判定する手順である請求項12記載のコンピュータプログラム。
前記状態分析手順は、前記時相差分析手順により得られるいずれか少なくとも一方の時相差に、血管の状態に関する血管情報を用いて生体状態を分析する血管情報・時相差分析手順を有する請求項12又は13記載のコンピュータプログラム。
前記状態分析手順の前記血管情報・時相差分析手順は、前記血管情報として、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)と拡張初期陽性波(e波)との波高比(e/a値)を用い、各座標点の位置及び分散の程度から、心循環系異常の有無を含むストレスの状態を推定する手順である請求項14記載のコンピュータプログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した技術は、いずれも、人の上体の中で体幹背部の体表面に生じる振動をエアクッションを介して検出して解析するものである。この体幹背部の体表面に生じる振動である脈波(体幹生体信号)は、心臓と大動脈の運動から生じる圧力振動(以下、「心部揺動波(Aortic Pulse Wave(APW))」という)であり、心室の収縮期及び拡張期の情報と、循環の補助ポンプとなる血管壁の弾力情報を含んでいる。そして、心拍変動に伴う信号波形は交感神経系及び副交感神経系の神経活動情報(交感神経の代償作用を含んだ副交感神経系の活動情報)を含み、大動脈の揺動に伴う信号波形には交感神経活動の情報を含んでいる。このため、検査対象の時間帯における解析結果を、その前の時間帯あるいは通常時の解析結果と比較して入眠予兆、飲酒等の状態変化を捉えることができる。
【0006】
本発明者らは、上記した技術の研究をさらに進めた結果、体幹背部からの体幹生体信号(心部揺動波)の二階微分波形と心音(又は心電図)との関連性を見出すと共に、心部揺動波の二階微分波形と指尖容積脈波との関連性についても新たな知見を見出した。本発明は、これらの新たな知見に基づき、生体状態を解析するための新たな技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の生体状態分析装置は、体幹用生体信号測定装置により体幹背部から採取される体幹生体信号の時系列波形を二階微分し、二階微分波形を時系列に求める体幹二階微分波形演算手段と、
前記体幹二階微分波形演算手段により時系列に求められる二階微分波形を用い、それぞれの周期において、心室の収縮期から拡張期に、振幅が減衰から増幅に切り替わって現れる低周波の最大振幅の波形成分を特定する最大振幅波形成分特定手段と、
前記最大振幅波形成分特定手段により特定される前記最大振幅の波形成分の前後に位置する変曲点を特定する変曲点特定手段と、
前記変曲点特定手段により特定された前記各変曲点の情報を用いて生体状態を分析する状態分析手段と
を有することを特徴とする。
【0008】
前記変曲点特定手段は、時間軸に沿って順に、前記最大振幅の波形成分を挟んで、振幅が減衰から増幅に切り替わる変曲点を心室収縮初期対応波(Eα波)とし、振幅が増幅から減衰に切り替わる変曲点を心室拡張初期対応波(Eβ波)として特定するか、又は、振幅が減衰から増幅に切り替わる変曲点を指尖収縮初期対応波(Pα波)とし、振幅が増幅から減衰に切り替わる変曲点を指尖拡張初期対応波(Pβ波)として特定する手段であることが好ましい。
前記最大振幅波形成分特定手段は、前記体幹二階微分波形演算手段により時系列に求められる前記二階微分波形の基準形態を用いて前記最大振幅の波形成分を特定する第1最大振幅波形成分特定手段と、前記第1最大振幅波形成分特定手段で用いた前記基準形態をその基線に対して反転させた状態の反転形態を用いて前記最大振幅の波形成分を特定する第2最大振幅波形成分特定手段とのうち、いずれか少なくとも一方を備えてなることが好ましい。
前記最大振幅波形成分特定手段として、前記第1最大振幅波形成分特定手段が用いられ、
前記変曲点特定手段は、前記第1最大振幅波形成分特定手段により得られる、前記二階微分波形の基準形態において特定した前記最大振幅の波形成分を挟んで、時間軸に沿って順に、前記心室収縮初期対応波(Eα波)及び心室拡張初期対応波(Eβ波)として特定する手段であることが好ましい。
前記最大振幅波形成分特定手段は、前記第2最大振幅波形成分特定手段が用いられ、
前記変曲点特定手段は、前記第2最大振幅波形成分特定手段により得られる、前記二階微分波形の反転形態において特定した前記最大振幅の波形成分を挟んで、時間軸に沿って順に、前記指尖収縮初期対応波(Pα波)及び指尖拡張初期対応波(Pβ波)として特定する手段であることが好ましい。
末梢用生体信号測定装置により末梢から採取される末梢生体信号の時系列波形を二階微分し、二階微分波形を時系列に求める末梢二階微分波形演算手段をさらに有し、
前記状態分析手段は、前記末梢二階微分波形演算手段により得られる二階微分波形から求められる末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)及び拡張初期陽性波(e波)と、前記変曲点特定手段により特定された前記心室収縮初期対応波(Eα波)及び心室拡張初期対応波(Eβ波)とを用いて生体状態を分析する手段を有することが好ましい。
【0009】
前記状態分析手段は、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)、前記末梢生体信号の拡張初期陽性波(e波)、前記体幹生体信号の心室収縮初期対応波(Eα波)及び前記体幹生体信号の心室拡張初期対応波(Eβ波)の各時相を用いて生体状態を分析する手段を有することが好ましい。
前記状態分析手段は、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)と前記体幹生体信号の心室収縮初期対応波(Eα波)との心−指尖伝播時間の時相差(a−Eα)、及び、前記末梢生体信号の拡張初期陽性波(e波)と前記体幹生体信号の心室拡張初期対応波(Eβ波)との心−指尖伝播時間の時相差(e−Eβ)を用いて、自律神経系の状態を分析する時相差分析手段を有することが好ましい。
前記時相差分析手段は、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)と前記体幹生体信号の心室収縮初期対応波(Eα波)との心−指尖伝播時間の時相差(a−Eα)を一方の軸に、前記末梢生体信号の拡張初期陽性波(e波)と前記体幹生体信号の心室拡張初期対応波(Eβ波)との心−指尖伝播時間との時相差(e−Eβ)を他方の軸にとった座標上に、周期毎に対応させて座標点をプロットする手段を有し、座標点の分散の程度から、自律神経系の活動状態を判定する手段であることが好ましい。
前記状態分析手段は、前記時相差分析手段により得られるいずれか少なくとも一方の時相差に、血管の状態に関する血管情報を用いて生体状態を分析する血管情報・時相差分析手段を有することが好ましい。
前記状態分析手段の前記血管情報・時相差分析手段は、前記血管情報として、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)と拡張初期陽性波(e波)との波高比(e/a値)を用い、各座標点の位置及び分散の程度から、心循環系異常の有無を含むストレスの状態を推定する手段であることが好ましい。
前記状態分析手段は、前記第2最大振幅波形成分特定手段により求められる前記指尖収縮初期対応波(Pα波)及び指尖拡張初期対応波(Pβ波)を、末梢用生体信号測定装置により末梢から採取される末梢生体信号の時系列波形を二階微分した二階微分波形から求められる収縮初期陽性波(a波)及び拡張初期陽性波(e波)にそれぞれ相当するものとし、
前記指尖収縮初期対応波(Pα波)及び前記指尖拡張初期対応波(Pβ波)と、前記第1最大振幅波形成分特定手段により特定された前記心室収縮初期対応波(Eα波)及び前記心室拡張初期対応波(Eβ波)とを用いて生体状態を分析する手段を有することが好ましい。
前記状態分析手段は、前記指尖収縮初期対応波(Pα波)、前記指尖拡張初期対応波(Pβ波)、前記心室収縮初期対応波(Eα波)及び前記心室拡張初期対応波(Eβ波)の各時相を用いて生体状態を分析する手段を有することが好ましい。
前記状態分析手段は、前記指尖収縮初期対応波(Pα波)と前記心室収縮初期対応波(Eα波)との心−指尖対応波伝播時間の時相差(Pα−Eα)、及び、前記指尖拡張初期対応波(Pβ波)と前記心室拡張初期対応波(Eβ波)との心−指尖対応波伝播時間の時相差(Pβ−Eβ)を用いて、自律神経系の状態を分析する時相差分析手段を有することが好ましい。
前記状態分析手段は、前記時相差分析手段により得られるいずれか少なくとも一方の時相差に、血管の状態に関する情報を用いて生体状態を分析する血管情報・時相差分析手段を有することが好ましい。
前記状態分析手段の前記血管情報・時相差分析手段は、前記血管情報に関する情報として、前記最大振幅波形成分特定手段により特定される前記体幹生体信号の二階微分波形の前記最大振幅の波形成分の前後に位置する一対の変曲点の各振幅比を用い、各座標点の位置及び分散の程度から、心循環系異常の有無を含むストレスの状態を推定する手段であることが好ましい。
前記状態分析手段は、
前記血管情報として、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)と拡張初期陽性波(e波)との波高比(e/a値)を用いた血管情報・時相差分析手段と、
前記血管情報として、前記最大振幅波形成分特定手段により特定される前記体幹生体信号の二階微分波形の前記最大振幅の波形成分の前後に位置する一対の変曲点の各振幅比を用いた血管情報・時相差分析手段との双方を有し、
前記2つの血管情報・時相差分析手段により出力された各座標点の位置及び分散の程度を出力された2つの座標系間で比較して、心循環系異常の有無を含むストレスの状態を推定する手段であることが好ましい。
前記状態分析手段は、
前記体幹生体信号受信手段により受信された体幹生体信号の時系列波形と、
末梢用生体信号測定装置により末梢から採取される末梢生体信号の時系列波形とを比較して生体状態を分析する原波形比較分析手段をさらに有することが好ましい。
前記原波形比較分析手段は、前記体幹生体信号の時系列波形と前記末梢生体信号の時系列波形の周波数及び振幅を比較して心循環系異常の有無を判定する手段であることが好ましい。
前記末梢生体信号としては指尖容積脈波を用いることができる。
【0010】
また、本発明のコンピュータプログラムは、
体幹用生体信号測定装置により体幹背部から採取される体幹生体信号の時系列波形を二階微分し、二階微分波形を時系列に求める体幹二階微分波形演算手順と、
前記体幹二階微分波形演算手順により時系列に求められる二階微分波形を用い、それぞれの周期において、心室の収縮期から拡張期に、振幅が減衰から増幅に切り替わって現れる低周波の最大振幅の波形成分を特定する最大振幅波形成分特定手順と、
前記最大振幅波形成分特定手順により特定される前記最大振幅の波形成分の前後に位置する変曲点を特定する変曲点特定手順と、
前記変曲点特定手順により特定された前記各変曲点の情報を用いて生体状態を分析する状態分析手順と
をコンピュータに実行させる。
【0011】
前記変曲点特定手順は、時間軸に沿って順に、前記最大振幅の波形成分を挟んで、振幅が減衰から増幅に切り替わる変曲点を心室収縮初期対応波(Eα波)とし、振幅が増幅から減衰に切り替わる変曲点を心室拡張初期対応波(Eβ波)として特定するか、又は、振幅が減衰から増幅に切り替わる変曲点を指尖収縮初期対応波(Pα波)とし、振幅が増幅から減衰に切り替わる変曲点を指尖拡張初期対応波(Pβ波)として特定する手順であることが好ましい。
前記最大振幅波形成分特定手順は、前記体幹二階微分波形演算手順により時系列に求められる前記二階微分波形の基準形態を用いて前記最大振幅の波形成分を特定する第1最大振幅波形成分特定手順と、前記第1最大振幅波形成分特定手順で用いた前記基準形態をその基線に対して反転させた状態の反転形態を用いて前記最大振幅の波形成分を特定する第2最大振幅波形成分特定手順とのうち、いずれか少なくとも一方を備えてなることが好ましい。
前記最大振幅波形成分特定手順として、前記第1最大振幅波形成分特定手順が用いられ、
前記変曲点特定手順は、前記第1最大振幅波形成分特定手順により得られる、前記二階微分波形の基準形態において特定した前記最大振幅の波形成分を挟んで、時間軸に沿って順に、前記心室収縮初期対応波(Eα波)及び心室拡張初期対応波(Eβ波)として特定する手順であることが好ましい。
前記最大振幅波形成分特定手順は、前記第2最大振幅波形成分特定手順が用いられ、
前記変曲点特定手順は、前記第2最大振幅波形成分特定手順により得られる、前記二階微分波形の反転形態において特定した前記最大振幅の波形成分を挟んで、時間軸に沿って順に、前記指尖収縮初期対応波(Pα波)及び指尖拡張初期対応波(Pβ波)として特定する手順であることが好ましい。
末梢用生体信号測定装置により末梢から採取される末梢生体信号の時系列波形を二階微分し、二階微分波形を時系列に求める末梢二階微分波形演算手順をさらに有し、
前記状態分析手順は、前記末梢二階微分波形演算手順により得られる二階微分波形から求められる末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)及び拡張初期陽性波(e波)と、前記変曲点特定手順により特定された前記心室収縮初期対応波(Eα波)及び心室拡張初期対応波(Eβ波)とを用いて生体状態を分析する手順を有することが好ましい。
前記状態分析手順は、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)、前記末梢生体信号の拡張初期陽性波(e波)、前記体幹生体信号の心室収縮初期対応波(Eα波)及び前記体幹生体信号の心室拡張初期対応波(Eβ波)の各時相を用いて生体状態を分析する手順を有することが好ましい。
前記状態分析手順は、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)と前記体幹生体信号の心室収縮初期対応波(Eα波)との心−指尖伝播時間の時相差(a−Eα)、及び、前記末梢生体信号の拡張初期陽性波(e波)と前記体幹生体信号の心室拡張初期対応波(Eβ波)との心−指尖伝播時間の時相差(e−Eβ)を用いて、自律神経系の状態を分析する時相差分析手順を有することが好ましい。
前記時相差分析手順は、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)と前記体幹生体信号の心室収縮初期対応波(Eα波)との心−指尖伝播時間の時相差(a−Eα)を一方の軸に、前記末梢生体信号の拡張初期陽性波(e波)と前記体幹生体信号の心室拡張初期対応波(Eβ波)との心−指尖伝播時間との時相差(e−Eβ)を他方の軸にとった座標上に、周期毎に対応させて座標点をプロットする手順を有し、座標点の分散の程度から、自律神経系の活動状態を判定する手順であることが好ましい。
前記状態分析手順は、前記時相差分析手順により得られるいずれか少なくとも一方の時相差に、血管の状態に関する血管情報を用いて生体状態を分析する血管情報・時相差分析手順を有することが好ましい。
前記状態分析手順の前記血管情報・時相差分析手順は、前記血管情報として、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)と拡張初期陽性波(e波)との波高比(e/a値)を用い、各座標点の位置及び分散の程度から、心循環系異常の有無を含むストレスの状態を推定する手順であることが好ましい。
前記状態分析手順は、前記第2最大振幅波形成分特定手順により求められる前記指尖収縮初期対応波(Pα波)及び指尖拡張初期対応波(Pβ波)を、末梢用生体信号測定装置により末梢から採取される末梢生体信号の時系列波形を二階微分した二階微分波形から求められる収縮初期陽性波(a波)及び拡張初期陽性波(e波)にそれぞれ相当するものとし、
前記指尖収縮初期対応波(Pα波)及び前記指尖拡張初期対応波(Pβ波)と、前記第1最大振幅波形成分特定手順により特定された前記心室収縮初期対応波(Eα波)及び前記心室拡張初期対応波(Eβ波)とを用いて生体状態を分析する手順を有することが好ましい。
前記状態分析手順は、前記指尖収縮初期対応波(Pα波)、前記指尖拡張初期対応波(Pβ波)、前記心室収縮初期対応波(Eα波)及び前記心室拡張初期対応波(Eβ波)の各時相を用いて生体状態を分析する手順を有することが好ましい。
前記状態分析手順は、前記指尖収縮初期対応波(Pα波)と前記心室収縮初期対応波(Eα波)との心−指尖対応波伝播時間の時相差(Pα−Eα)、及び、前記指尖拡張初期対応波(Pβ波)と前記心室拡張初期対応波(Eβ波)との心−指尖対応波伝播時間の時相差(Pβ−Eβ)を用いて、自律神経系の状態を分析する時相差分析手順を有することが好ましい。
前記状態分析手順は、前記時相差分析手順により得られるいずれか少なくとも一方の時相差に、血管の状態に関する情報を用いて生体状態を分析する血管情報・時相差分析手順を有することが好ましい。
前記状態分析手順の前記血管情報・時相差分析手順は、前記血管情報に関する情報として、前記最大振幅波形成分特定手順により特定される前記体幹生体信号の二階微分波形の前記最大振幅の波形成分の前後に位置する一対の変曲点の各振幅比を用い、各座標点の位置及び分散の程度から、心循環系異常の有無を含むストレスの状態を推定する手順であることが好ましい。
前記状態分析手順は、
前記血管情報として、前記末梢生体信号の収縮初期陽性波(a波)と拡張初期陽性波(e波)との波高比(e/a値)を用いた血管情報・時相差分析手順と、
前記血管情報として、前記最大振幅波形成分特定手順により特定される前記体幹生体信号の二階微分波形の前記最大振幅の波形成分の前後に位置する一対の変曲点の各振幅比を用いた血管情報・時相差分析手順との双方を有し、
前記2つの血管情報・時相差分析手順により出力された各座標点の位置及び分散の程度を出力された2つの座標系間で比較して、心循環系異常の有無を含むストレスの状態を推定する手順であることが好ましい。
前記状態分析手順は、
前記体幹生体信号受信手順により受信された体幹生体信号の時系列波形と、
末梢用生体信号測定装置により末梢から採取される末梢生体信号の時系列波形とを比較して生体状態を分析する原波形比較分析手順をさらに有することが好ましい。
前記原波形比較分析手順は、前記体幹生体信号の時系列波形と前記末梢生体信号の時系列波形の周波数及び振幅を比較して心循環系異常の有無を判定する手順であることが好ましい。
前記末梢生体信号としては指尖容積脈波を用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、体幹背部からの体幹生体信号(心部揺動波)を二階微分し、その二階微分波形に用い、それぞれの周期において、心室の収縮期から拡張期に、振幅が減衰から増幅に切り替わって現れる現れる低周波の最大振幅の波形成分を特定し、その最大振幅の波形成分の挟んで前後に位置する変曲点を特定し、各変曲点の情報を用いて生体状態を分析する。ここで、本発明者は、心部揺動波の二階微分波形の基準形態から得られる2つの変曲点が、心循環系の動態を表す心音のI音とII音(又は心電図のR波とT波に相当)に時相がほぼ一致することを見出した。従って、本発明によれば、体幹用生体信号測定装置が設置されている医療用の椅子、乗物用のシート、あるいは、ベッド等に、体幹背部が接するような姿勢をとるだけで、心音測定を目的とする聴診器や測定器、さらには心電図計がなくても、心循環系の動態を知ることができる。しかも、採取した心部揺動波の時系列波形を計算処理して上記の2つの変曲点(以下、「心室収縮初期対応波(Eα波)」、「心室拡張初期対応波(Eβ波」)を特定するため、人による聴診と比較して、より客観的で正確なデータを得ることができる。
【0013】
また、本発明者は、上記した心室初期対応波及び心室拡張初期対応波の時相が指尖容積脈波の二階微分した加速度脈波から求められる収縮初期陽性波(a波)及び拡張初期陽性波(e波)と比較した場合、それぞれ一定のずれがあり、しかも、この時相のずれが人の状態(なお、本発明では、自律神経系の状態、体調の変化様子、病気の有無等を含む生体に関する種々の状態を指す)との関係で変化することを見出した。従って、本発明の心室収縮初期対応波及び心室拡張初期対応波を指尖容積脈波の収縮初期陽性波(a波)及び拡張初期陽性波(e波)との関連で考察する構成とすることにより、さらに正確な人の状態判定を行うことができる。
【0014】
一方、本発明者は、心部揺動波の二階微分波形の上記基準形態に対し、基線を中心として反転させた二階微分波形の形態(反転形態)から得られる各周期の最大振幅の波形成分の前後に位置する変曲点が、指尖容積脈波の収縮初期陽性波(a波)及び拡張初期陽性波(e波)に相当することを見出した。そこで、この変曲点を、時間軸に沿って順に、指尖収縮初期対応波(Pα波)及び指尖拡張初期対応波(Pβ波)として特定することで、これらの情報を指尖容積脈波のa波、e波の代わりに用い、指尖容積脈波を測定することなく、心部揺動波の測定だけで人の状態判定を行うことができる。すなわち、心部揺動波は、心音や心電図から得られる中枢に近いところの情報と、心臓を起点にした入力波に末梢系の弾性による影響が重畳された出力波の情報(すなわち、本来、同一周期、同一のゆらぎとなる指尖容積脈波から得られる末梢の情報によって周期特性が変化した情報)との両方を含んだ情報となっている。従って、心部揺動波の二階微分波形を基準形態とその反転形態で解析することで、中枢に近い心音や心電図の情報と、末梢の指尖容積脈波の情報の2つの情報を、心部揺動波の情報だけで捉えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一の実施形態において用いた体幹用生体信号測定装置の一例を示した斜視図でる。
【
図2】
図2は、
図1に示した体幹用生体信号測定装置の分解斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示した体幹用生体信号測定装置の要部断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一の実施形態に係る生体状態分析装置の構成を模式的に示した図である。
【
図5】
図5は、
図1に示した体幹用生体信号測定装置の荷重−たわみ特性を示した図である。
【
図6】
図6は、
図5のグラフの縦軸をばね定数に変換した図である。
【
図7】
図7は、人の腰部の荷重−たわみ特性の一例を示した図である。
【
図8】
図8(a)は、自動車用シートに被験者が座っているときの体幹背部の体圧分布を示した図であり、
図8(b)は、マットレス上で別の被験者が臥位になった時の体幹背部の体圧分布を示した図である。
【
図9】
図9(a),(b)は、体幹用生体信号測定装置から得られた体幹用生体信号である心部揺動波(APW)の時系列波形とその周波数分析した結果を示した図である。
【
図10】
図10は、被験者Aより計測された指尖容積脈波の時系列波形とその二階微分波形を示した図である。
【
図11】
図11は、被験者Bより計測された指尖容積脈波の時系列波形とその二階微分波形を示した図である。
【
図12】
図12は、被験者Aより計測された心音を示した図である。
【
図13】
図13は、被験者Bより計測された心音を示した図である。
【
図14】
図14は、被験者Aから計測した心部揺動波(APW)の原波形とその二階微分波形を示した図である。
【
図15】
図15は、被験者Bから計測した心部揺動波(APW)の原波形とその二階微分波形を示した図である。
【
図16】
図16は、心音、心部揺動波(APW)及び指尖容積脈波の関係を拡大して示した図である。
【
図17】
図17(a)〜(h)は被験者A,BのAPW、指尖容積脈波、心尖拍動・心音の周波数解析結果を示した図である。
【
図18】
図18は、被験者Aの指尖容積脈波のa波及びe波、心音のI音及びII音、並びに、APWの基準形態の二階微分波形における時相のずれを説明するための図である。
【
図19】
図19は、被験者Bの指尖容積脈波のa波及びe波、心音のI音及びII音、並びに、APWの基準形態の二階微分波形における時相のずれを説明するための図である。
【
図20】
図20(a),(b)は、被験者A及び被験者Bの実験中の15秒間の指尖容積脈波及びAPWの各原波形を示した図である。
【
図21】
図21は、実施例3の実験で用いた体幹用生体信号測定装置が背部支持用クッション部材内に装填されたシート用クッションを、自動車用シートに取り付けた状態を示した斜視図である。
【
図23】
図23は、体幹用生体信号測定装置とシート用クッションの配置関係を示した図である。
【
図24】
図24(a)〜(g)は、実施例3の実験において得られた各種自律神経指標による測定結果を示した図である。
【
図25】
図25(a)〜(d)は、実施例3において、指尖容積脈波の時相とAPWの基準形態の二階微分波形から求めた時相の差を用いて分析した結果を示した図である。
【
図26】
図26は、実施例4における被験者Cのデータ(15−40sec)であり、(a)は血管情報・時相差分析手段の出力結果を、(b)は時相差分析手段の出力結果を示した図である。
【
図27】
図27は、実施例4における被験者Cのデータ(1280−1305sec)であり、(a)は血管情報・時相差分析手段の出力結果を、(b)は時相差分析手段の出力結果を示した図である。
【
図28】
図28は、実施例4における被験者Cのデータ(2610−2635sec)であり、(a)は血管情報・時相差分析手段の出力結果を、(b)は時相差分析手段の出力結果を示した図である。
【
図29】
図29は、実施例4における被験者Cのデータ(3450−3475sec)であり、(a)は血管情報・時相差分析手段の出力結果を、(b)は時相差分析手段の出力結果を示した図である。
【
図30】
図30は、実施例4における被験者Yのデータ(2010/09/30、15−40sec)であり、(a)は血管情報・時相差分析手段の出力結果を、(b)は時相差分析手段の出力結果を示した図である。
【
図31】
図31は、実施例4における被験者Yのデータ(2011/01/21、15−40sec)であり、(a)は血管情報・時相差分析手段の出力結果を、(b)は時相差分析手段の出力結果を示した図である。
【
図32】
図32は、実施例4における被験者Yのデータ(2011/07/17、15−40sec)であり、(a)は血管情報・時相差分析手段の出力結果を、(b)は時相差分析手段の出力結果を示した図である。
【
図33】
図33は、実施例4における被験者:藤田良登氏のデータ(2011/02/02、15−40sec)であり、(a)は血管情報・時相差分析手段の出力結果を、(b)は時相差分析手段の出力結果を示した図である。
【
図34】
図34は、実施例4における被験者:藤田良登氏のデータ(2011/03/09、15−40sec)であり、(a)は血管情報・時相差分析手段の出力結果を、(b)は時相差分析手段の出力結果を示した図である。
【
図35】
図35は、実施例4における被験者:藤田良登氏のデータ(2011/03/21、15−40sec)であり、(a)は血管情報・時相差分析手段の出力結果を、(b)は時相差分析手段の出力結果を示した図である。
【
図36】
図36は、本発明の他の実施形態に係る生体状態分析装置の構成を模式的に示した図である。
【
図37】
図37(a)〜(f)は、指尖収縮初期対応波(Pα波)、指尖拡張初期対応波(Pβ波)、指尖容積脈波の二階微分波形のa波、e波、心室収縮初期対応波(Eα波)、心室拡張初期対応波(Eβ波)、心電図のR波(収縮期初期に聴取される心音のI音に相当)、心電図のT波の末期(収縮期末期に聴取される心音のII音に相当)の関係を説明するための一例を示した図である。
【
図39】
図39(a)〜(g)は、指尖収縮初期対応波(Pα波)、指尖拡張初期対応波(Pβ波)、指尖容積脈波の二階微分波形のa波、e波、心室収縮初期対応波(Eα波)、心室拡張初期対応波(Eβ波)、心電図のR波(収縮期初期に聴取される心音のI音に相当)、心電図のT波の末期(収縮期末期に聴取される心音のII音に相当)の関係を説明するための他の例を示した図である。
【
図41】
図41は、指尖収縮初期対応波(Pα波)、指尖拡張初期対応波(Pβ波)、指尖容積脈波の二階微分波形のa波、e波、心室収縮初期対応波(Eα波)、心室拡張初期対応波(Eβ波)、心電図のR波、心電図のT波の末期の関係を説明するためのさらに他の例を示した図である。
【
図42】
図42は、時相差(a−Eα)、時相差(e−Eβ)、時相差(Pα−Eα)、時相差(Pβ−Eβ)を説明するための図である。
【
図43】
図43は、被験者YKのデータを用いた血管情報・時相差分析手段による(1)の出力結果と(2)の出力結果を示した図である。
【
図44】
図44は、被験者YKのデータを用いた血管情報・時相差分析手段による(3)の出力結果と(4)の出力結果を示した図である。
【
図45】
図45は、被験者NYのデータを用いた血管情報・時相差分析手段による(1)の出力結果と(2)の出力結果を示した図である。
【
図46】
図46は、被験者NYのデータを用いた血管情報・時相差分析手段による(3)の出力結果と(4)の出力結果を示した図である。
【
図47】
図47は、被験者:藤田良登氏の2011/02/02のデータを用いた血管情報・時相差分析手段による(1)の出力結果と(2)の出力結果を示した図である。
【
図48】
図48は、被験者:藤田良登氏の2011/02/02のデータを用いた血管情報・時相差分析手段による(3)の出力結果と(4)の出力結果を示した図である。
【
図49】
図49は、被験者:藤田良登氏の2011/03/09のデータを用いた血管情報・時相差分析手段による(1)の出力結果と(2)の出力結果を示した図である。
【
図50】
図50は、被験者:藤田良登氏の2011/03/09のデータを用いた血管情報・時相差分析手段による(3)の出力結果と(4)の出力結果を示した図である。
【
図51】
図51は、被験者ATのデータを用いた血管情報・時相差分析手段による(1)の出力結果と(2)の出力結果を示した図である。
【
図52】
図52は、被験者ATのデータを用いた血管情報・時相差分析手段による(3)の出力結果と(4)の出力結果を示した図である。
【
図53】
図53は、被験者AGの2011/04/06のデータを用いた血管情報・時相差分析手段による(1)の出力結果と(2)の出力結果を示した図である。
【
図54】
図54は、被験者AGの2011/04/06のデータを用いた血管情報・時相差分析手段による(3)の出力結果と(4)の出力結果を示した図である。
【
図55】
図55は、被験者AGの2011/08/23のデータを用いた血管情報・時相差分析手段による(1)の出力結果と(2)の出力結果を示した図である。
【
図56】
図56は、被験者AGの2011/08/03のデータを用いた血管情報・時相差分析手段による(3)の出力結果と(4)の出力結果を示した図である。
【
図57】
図57は、被験者AGの2012/04/26のデータを用いた血管情報・時相差分析手段による(1)の出力結果と(2)の出力結果を示した図である。
【
図58】
図58は、被験者AGの2012/04/26のデータを用いた血管情報・時相差分析手段による(3)の出力結果と(4)の出力結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に示した本発明の実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
図1〜
図3は、本発明の一の実施形態に係る生体状態分析装置60の分析対象である体幹背部から採取される体幹生体信号、すなわち心部揺動波(Aortic Pulse Wave(APW)を採取する体幹用生体信号測定装置1を示した図である。心部揺動波は、人の上体の背部から検出される心臓と大動脈の運動から生じる圧力振動であり、心室の収縮期及び拡張期の情報と、循環の補助ポンプとなる血管壁の弾性情報及び血圧による弾性情報を含んでいる。そして、心拍変動に伴う信号波形は交感神経系及び副交感神経系の神経活動情報(交感神経の代償作用を含んだ副交感神経系の活動情報)を含み、大動脈の揺動に伴う信号波形には交感神経活動の情報を含んでいる。
【0017】
本実施形態で用いたの体幹用生体信号測定装置1は、
図2及び
図3に示したように、コアパッド11、スペーサパッド12、センサ13、フロントフィルム14、リアフィルム15を有して構成される。
【0018】
コアパッド11は、例えば板状に成形され、脊柱に対応する部位を挟んで対称位置に、縦長の貫通孔11a,11aが2つ形成されている。コアパッド11は、板状に形成されたポリプロピレンのビーズ発泡体から構成することが好ましい。コアパッド11をビーズ発泡体から構成する場合、発泡倍率は25〜50倍の範囲で、厚さがビーズの平均直径以下に形成されていることが好ましい。例えば、30倍発泡のビーズの平均直径が4〜6mm程度の場合では、コアパッド11の厚さは3〜5mm程度にスライスカットする。
【0019】
スペーサパッド12は、コアパッド11の貫通孔11a,11a内に装填される。スペーサパッド12は、三次元立体編物から形成することが好ましい。三次元立体編物は、例えば、特開2002−331603号公報、特開2003−182427号公報等に開示されているように、互いに離間して配置された一対のグランド編地と、該一対のグランド編地間を往復して両者を結合する多数の連結糸とを有する立体的な三次元構造となった編地である。三次元立体編物が人の背によって押圧されることにより、三次元立体編物の連結糸が圧縮され、連結糸に張力が生じ、生体信号に伴う人の筋肉を介した体表面の振動が伝播される。また、コアパッド11よりも、三次元立体編物からなるスペーサパッド12の方が厚いものを用いることが好ましい。これにより、フロントフィルム14及びリアフィルム15の周縁部を貫通孔11a,11aの周縁部に貼着すると、三次元立体編物からなるスペーサパッド12が厚み方向に押圧されるため、フロントフィルム14及びリアフィルム15の反力による張力が発生し、該フロントフィルム14及びリアフィルム15に固体振動(膜振動)が生じやすくなる。一方、三次元立体編物からなるスペーサパッド12にも予備圧縮が生じ、三次元立体編物の厚み方向の形態を保持する連結糸にも反力による張力が生じて弦振動が生じやすくなる。
【0020】
センサ13は、上記したフロントフィルム14及びリアフィルム15を積層する前に、いずれか一方のスペーサパッド12に固着して配設される。スペーサパッド12を構成する三次元立体編物は上記したように一対のグランド編地と連結糸とから構成されるが、各連結糸の弦振動がグランド編地との節点を介してフロントフィルム14及びリアフィルム15に伝達されるため、センサ13はスペーサパッド12の表面(グランド編地の表面)に固着することが好ましい。センサ13としては、マイクロフォンセンサ、中でも、コンデンサ型マイクロフォンセンサを用いることが好ましい。
【0021】
次に、本実施形態の生体状態分析装置60の構成について
図4に基づいて説明する。生体状態分析装置60は、体幹二階微分波形演算手段61と、最大振幅波形成分特定手段62と、変曲点特定手段63と、状態分析手段64とを有して構成される。生体状態分析装置60はコンピュータから構成され、コンピュータプログラムとして構成される体幹二階微分波形演算手段61が体幹二階微分波形演算手順を実行し、最大振幅波形成分特定手段62が最大振幅波形成分特定手順を実行し、変曲点特定手段63が変曲点特定手順を実行し、状態分析手段64が状態分析手順を実行する。なお、コンピュータプログラムは、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO(光磁気ディスク)、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体へ記憶させて提供することもできるし、通信回線を通じて伝送することも可能である。
【0022】
体幹二階微分波形演算手段61は、体幹用生体信号測定装置1により体幹背部から採取される体幹生体信号の時系列波形、すなわち、センサ13から送信される出力データ(好ましくは、フィルタリング処理(例えば、体動などにより生じた周波数成分を除去するフィルタリング処理)された所定の周波数領域のデータ)を受信して二階微分し、二階微分波形を時系列に求める。
【0023】
最大振幅波形成分特定手段62は、本実施形態では、第1最大振幅波形成分特定手段621が設定されている。第1最大振幅波形成分特定手段621は、体幹二階微分波形演算手段61によって時系列に求められる二階微分波形の基準形態のそれぞれの周期において、心室の収縮期から拡張期に、振幅が減衰から増幅に切り替わって現れる最大振幅波形成分(一周期の中で、波形に重畳されている高周波成分を含まない低周波の最大振幅の略U字型の波形成分に相当)を特定する。ここで、二階微分波形の基準形態には、体幹二階微分波形演算手段61によって出力される時系列の二階微分波形の出力時の波形の状態そのままの形態を基準形態とする場合と、二階微分波形の出力時の波形を、その基線(グラフの0目盛りの線)に対して上下に反転させた波形の形態を基準形態とする場合とがある。いずれを基準形態とするかは、生体信号の原波形を処理して二階微分波形を得るまでの演算条件によって決定されるが、後述の試験結果から、最大振幅波形成分を特定した後、変曲点特定手段63によって特定される一対の変曲点が心音のI音、II音(心電図のT波、R波)に相当するようになる二階微分波形の形態を基準形態とする。本実施形態の第1最大振幅波形成分特定手段621は、体幹二階微分波形演算手段61によって出力される時系列の二階微分波形の出力時の波形を反転させた波形を基準形態として設定している。
変曲点特定手段63は、第1最大振幅波形成分特定手段621によって特定された最大振幅波形成分の前後に位置する一対の変曲点(最大振幅波形成分の接線に対して傾きが所定角度以上(例えば45度以上)変化するポイント)を特定する。具体的には、最大振幅の波形成分を挟んで、時間軸に沿って順に、振幅が減衰から増幅に切り替わる変曲点を心室収縮初期対応波(Eα波)とし、振幅が増幅から減衰に切り替わる変曲点を心室拡張初期対応波(Eβ波)として特定する。
【0024】
状態分析手段64は、第1最大振幅波形成分特定手段621及び変曲点特定手段63により二階微分波形の基準形態から特定された各変曲点(心室収縮初期対応波(Eα波)及び心室拡張初期対応波(Eβ波))の特定位置を含む変曲点の情報を用いて生体状態を分析する。各変曲点の特定位置は時間軸上の位置をいうが、それに限らず、変曲点の振幅、周期等の情報を用いて分析する。
【0025】
本実施形態に係る生体信号分析装置1は、状態分析手段64として、
図4に示したように、末梢用生体信号測定装置により末梢から採取される末梢生体信号の時系列波形(好ましくは、フィルタリング処理(例えば、体動などにより生じた周波数成分を除去するフィルタリング処理)された所定の周波数領域のデータ)を受信し、この受信した末梢生体信号を用いて分析する手段をさらに有している。
【0026】
具体的には、本実施形態に係る生体信号分析装置1は、
図4に示したように、末梢用生体信号測定装置から送信された末梢生体信号の時系列波形を二階微分し、二階微分波形を時系列に求めるコンピュータプログラムからなり、末梢二階微分波形演算手順を実行する末梢二階微分波形演算手段65をさらに有している。末梢用生体信号測定装置としては、典型的には、指尖容積脈波の計測装置が挙げられる。
【0027】
また、状態分析手段64は、末梢二階微分波形演算手段65により得られる末梢生体信号である指尖容積脈波の二階微分波形から求められる収縮初期陽性波(a波)及び拡張初期陽性波(e波)と、第1最大振幅波形成分特定手段621及び変曲点特定手段63により特定された上記基準形態の二階微分波形における低周波の略U字型波形として現れる最大振幅波形成分を挟んだ振幅が減衰から増幅に切り替わる前側の変曲点である心室収縮初期対応波(Eα波)及び振幅が増幅から減衰に切り替わる後側の変曲点である心室拡張初期対応波(Eβ波)とを用いて生体状態を分析する手段を有する。具体的には、いずれもコンピュータプログラムとして構成され、これらの時相を考慮して判断する。時相を考慮して判断する手段の一つとして本実施形態では時相差分析手順を実行する時相差分析手段642、血管情報・時相差分析手順を実行する血管情報・時相差分析手段643を有している。
【0028】
時相差分析手段642は、末梢二階微分波形演算手段65により得られた収縮初期陽性波(a波)と第1最大振幅波形成分特定手段621及び変曲点特定手段63により得られた最大振幅波形成分を挟んだ前側の心室収縮初期対応波(Eα波)との心−指尖伝播時間の時相差を対応する周期毎に求めると共に、末梢二階微分波形演算手段65により得られた拡張初期陽性波(e波)と第1最大振幅波形成分特定手段621及び変曲点特定手段63により得られた最大振幅波形成分を挟んだ後側の心室拡張初期対応波(Eβ波)との心−指尖伝播時間の時相差を対応する周期毎に求め、その時相差から自律神経系の状態を分析する。後述の実施例1からわかるように、指尖容積脈波の収縮初期陽性波(a波)がAPWの心室収縮初期対応波(Eα波)に関連し、指尖容積脈波の拡張初期陽性波(e波)がAPWの心室拡張初期対応波(Eβ波)に関連するが、末梢の情報である指尖容積脈波と中枢系に近いところの情報であるAPWは、いずれも心拍のゆらぎと自律神経支配の心拍変動によって生じるため、それらの間には所定の時相差があり、その時相差が自律神経支配の程度の差をあらわすことになる。
【0029】
時相差分析手段642は、自律神経系の活動状態をより明確に把握するために、後述の
図25に示したように、指尖容積脈波の収縮初期陽性波(a波)とAPWの心室収縮初期対応波(Eα波)との心−指尖伝播時間の時相差(a−Eα)を一方の軸に、指尖容積脈波の拡張初期陽性波(e波)とAPWの心室拡張初期対応波(Eβ波)との心−指尖伝播時間の時相差(e−Eβ)を他方の軸にとった座標上に、周期毎に対応させて座標点をプロットする手段を有することが好ましい。プロットした座標点が各座標の中で分散状態にあるか収束状態にあるかを判定し、自律神経系の活動状態を判定できる。例えば、後述の
図25(a)のように、時相差はあるものの、座標点が比較的まとまっており、ゆるやかな収束傾向を示している場合には、副交感神経と交感神経が同程度で出現していると判定する。
図25(c),(d)のように、座標点がほぼ同じ位置にプロットされ、時相差がほとんどないものは副交感神経系優位の状態になっているものと判定する。
図25(b)のように、時相差が大きく、座標点が分散している場合には交感神経機能が亢進していると判定する。なお、副交感神経と交感神経のバランスがとれている状態、副交感神経優位の状態、交感神経機能が亢進している状態を区別する分散・収束の程度の判定は、座標点がどの範囲にプロットされているかを示すアルゴリズムからその値が所定の範囲であるか否かによって判定できる。
【0030】
血管情報・時相差分析手段643は、上記の時相差分析手段642によって求められる指尖容積脈波の収縮初期陽性波(a波)とAPWの心室収縮初期対応波(Eα波)との心−指尖伝播時間の時相差(a−Eα)と、指尖容積脈波の拡張初期陽性波(e波)とAPWの心室拡張初期対応波(Eβ波)との心−指尖伝播時間の時相差(e−Eβ)とのうちの少なくとも一方を、座標上の一方の軸にとり、収縮初期陽性波(a波)と拡張初期陽性波(e波)との波高比(e/a値)を他方の軸にとってプロットした座標を作成する手段である。a波やe波は、動脈硬化の有無によって顕著に変化したり、末梢血流の状態を現したりする指標の一つであり、その波高比を一方の軸にとることによって、血管年齢等の情報を得ることができる。なお、血管情報とは、血行動態、血管剛性、血管弾性等の血管の状態を示す種々の情報をいい、波高比(e/a値)はその一例であり、e/a値は主として血管弾性、血管剛性によって影響され、血管年齢の推定に用いられる。
従って、この情報を、自律神経系の情報を捉えている時相差(a−Eα)又は時相差(e−Eβ)と併せて考察することで、心循環系その他の病気の有無、飲酒や薬物などによる体調変化、加齢など、低次元のカオスとしての振る舞いを呈する人の体調や精神的状態などをより正確に捉えることができる。
【0031】
血管情報・時相差分析手段643は、座標上にプロットされた各座標点の位置、分散の程度から、病気等の外的要因によるストレスの有無を含んだ人の状態を判定する。分散の程度は、上記と同様に、所定のアルゴリズムを作って判定できる。例えば、座標点の位置、分散の程度等を健常者のデータと比較したり、あるいは、自己の健康時のデータと比較して適宜の閾値を設定するなどして、状態の変化を判定できる。詳細についてはさらに後述する。
【0032】
本実施形態の生体状態分析装置60の状態分析手段64は、
図4に示したように、さらに原波形比較分析手段641を備える。原波形比較分析手段641は、体幹生体信号の時系列波形と末梢生体信号の時系列波形の周波数及び振幅を比較して心循環系疾患の可能性の有無を判定する。すなわち、体幹生体信号である心部揺動波は、上記したように、心室の収縮期及び拡張期の情報と、循環の補助ポンプとなる血管壁の弾力情報を含んでいる。従って、体幹生体信号である心部揺動波(APW)の時系列波形(原波形)と末梢生体信号である指尖容積脈波の時系列波形(原波形)とを比較して、その波形の現れ方(周波数、振幅)に大きな差異が生じている場合には、中枢と末梢との間に何らかの異常の存在をこの原波形からも推定できることになる。
【0033】
そこで、後述の実施例2の結果からも明らかなように、原波形比較分析手段641は、体幹生体信号の時系列波形と末梢生体信号の時系列波形の周波数の差が略同じであって、体幹生体信号の時系列波形の振幅が末梢生体信号の時系列波形の振幅よりも小さい場合には、心循環系異常の可能性有りと判定する構成とすることが好ましい。体幹生体信号の振幅が末梢生体信号よりも小さい傾向がある場合の判定基準としては、例えば、時系列波形同士を所定の測定時間で比較した場合に、その比較している測定時間の50%以上の時間帯で、体幹生体信号の時系列波形の振幅が末梢生体信号の時系列波形の振幅の2/3以下、より典型的には1/2以下のような場合には、血液の流れが正常でないと考えられ、僧帽弁逆流などの何らかの心循環系の異常を有すると推定できる。
【0034】
なお、本実施形態では、状態分析手段64として、上記の原波形比較分析手段641、時相差分析手段642及び血管情報・時相差分析手段643を全て有しているが、いずれか少なくとも一つ以上を備えた構成とすることも可能である。
【0035】
(実施例)
以下において、上記実施形態に係る体幹用生体信号測定装置1により体幹生体信号である心部揺動波(APW)を測定し、測定データを用いて上記実施形態に係る生体状態分析装置60により生体状態の分析を行った。
【0036】
実施例で用いた体幹用生体信号測定装置1は、
図1〜
図3に示した構成を有しているものである。また、この体幹用生体信号測定装置1の物理的特性は次のとおりであった。
【0037】
(体幹用生体信号測定装置1の特性)
島津製作所製オートグラフに直径98mmの木製円盤を装着して、50mm/minの移動速度で200Nまでの荷重を
図3のZ方向に印加した。
図5はその荷重−たわみ特性を示し、
図6は、
図5の縦軸をばね定数に変換した図である。これらの図から、上記体幹用生体信号測定装置1は、圧縮代1〜4.5mmの間では、ばね定数が一定の値を示し、その値はk=19400N/mであることがわかる。
【0038】
次に、体幹用生体信号測定装置1を当接する体幹背部の中で人の腰部の静特性を調べるために静荷重実験と臥位・座位における体圧分布の計測実験を行った。
図7は、
図5と同様にオートグラフに直径98mmの木製円盤を装着して、50mm/minの移動速度で100Nまでの荷重を人の腰部に加えた時の荷重−たわみ特性を示す。
図8は、一般的な自動車用シートとマットレス上で体格の異なる被験者2名が座位、臥位になった時の体幹背部の体圧分布を示す。
図8(a)の被験者の体格は身長172cm、体重52kgであり、
図8(b)の被験者の体格は身長178cm、体重76kgであった。
図8中○印で示した位置は、心尖部であり、肩甲骨から計測して140〜150mmの範囲に相当する。
図8(a),(b)共に心尖部でシート、マットレスからの反力は直径98mmの面積で15〜35Nの荷重値を示した。この値は、
図7の中でたわみ代が範囲Bのときの反力である。この反力に相当するものが体幹用生体信号測定装置1に負荷された時のばね定数は、
図5から、1〜2mmのたわみの範囲内にあり、余裕代は2.5mmある。従って、体幹用生体信号測定装置1は、3Gまでの荷重変動に耐えられるものであることがわかる。
【0039】
なお、体幹用生体信号測定装置1のばね定数k=19400N/mは、腰部の荷重−たわみ特性では、腰部の筋肉が5〜20mm前後(
図7、Aの範囲)圧縮されたときの動ばね定数に近似する。例えば5mm圧縮された状態での片振幅0.2mmの振動条件下での動ばね定数、20mm圧縮された状態での片振幅0.4mmの振動条件下での動ばね定数に相当する。従って、体幹用生体信号測定装置1は、それ自体が備えているヒステリシスロスで振幅の変動を吸収しつつ、腰部を含む体幹背部に当接することでトノメトリー法の原理に従って、腰部を含む体幹背部からの圧力振動を捉えることができるものである。
【0040】
図9(a),(b)は、体幹用生体信号測定装置1がシートバックに組み込まれた自動車用シートに着座した被験者から得られた体幹用生体信号である心部揺動波(APW)の時系列波形とその周波数分析した結果を示した図であり、いずれも、同時に計測した指尖容積脈波の時系列波形とその周波数分析した結果を併せて示す。なお、指尖容積脈波は、光学式指尖容積脈波計を被験者の左人差し指に取り付けて測定した。周波数分析結果から、いずれも1.14Hzの周波数成分が一致しており、体幹用生体信号測定装置1によって採取されるAPWの時系列波形が心拍変動を含んでいることがわかる。
【0041】
(実施例1)
(体幹生体信号である心部揺動波(APW)、末梢生体信号である指尖容積脈波、及び心音の関係検証実験)
・実験方法
ベッド上に体幹用生体信号測定装置1を敷き、20歳代の被験者A、30歳代の被験者Bの2名の健常な男性をその上に仰臥させ、背部に体幹用生体信号測定装置1が当接するようにセットし、センサ13の出力信号を生体状態分析装置60により受信し、体幹生体信号である心部揺動波(APW)を採取した。同時に、左手人差し指に取り付けられた光学式指尖容積脈波センサにより指尖容積脈波を計測し、心尖部に貼り付けられた加速度センサにより心音を計測した。また、胸郭部には呼吸センサを取り付けて呼吸を計測した。被験者A、Bは、仰臥位姿勢とし、安静状態かつ開眼状態で計測した。1回あたりの計測時間は15秒間とし、いずれの装置も同期計測した。
【0042】
・実験結果
図10及び
図11は、被験者A,Bより計測された指尖容積脈波の時系列波形とその二階微分波形の収縮初期陽性波(a波)、拡張初期陽性波(e波)を示す。
図12及び
図13は、被験者A,Bより計測された心音を示す。ここで、心音と指尖容積脈波の時相で判断すると、収縮期の初期に聴取される心音のI音に指尖容積脈波の収縮初期陽性波(a波)が対応し、収縮期の末期に聴取される心音のII音に指尖容積脈波の拡張初期陽性波(e波)が対応している。心音のI音と指尖容積脈波の収縮初期陽性波(a波)の時相差、及び、心音のII音と指尖容積脈波の拡張初期陽性波(e波)の時相差をそれぞれ求めると0.10〜0.18秒の範囲であった。なお、時相差を脈波の伝播速度から求めた場合には0.16秒であり、実験結果の時相差に近い値であった。
【0043】
図14及び
図15は、被験者A,Bから計測した心部揺動波(APW)の原波形とその二階微分波形の出力された状態から反転させた波形(この例では、この反転させた波形を「基準形態の波形」とする)を示す。心臓の拍動に伴う弁膜の開閉や血流の状態の変化によって生じる振動は、心音ではI音,II音として発生し、20Hzの聴取可能な音である。このため、APWでは振動エネルギーが大きくなる所がI音,II音に相当する。この振動エネルギーが大きくなるところは、APWの二階微分波形の基準形態の時系列波形から求めると、各二階微分波形(一周期の波形)の中で、波形に重畳している高周波成分を除いた低周波の最大振幅の波形成分(
図16の矢印Aで示す波形成分)として出現する収縮期の陰性波の前後に位置する各変曲点(心室収縮初期対応波(Eα波)及び心室拡張初期対応波(Eβ波))である。従って、心音のI音及び指尖容積脈波のa波に対応するのは、APWの上記基準形態における二階微分波形の最大振幅波形成分の前側に位置する変曲点(心室収縮初期対応波(Eα波))となり、心音のII音及び指尖容積脈波のe波に対応するのは、APWの上記基準形態における二階微分波形の後側に位置する変曲点(心室拡張初期対応波(Eβ波))となる。これらのことから、前側に位置する変曲点(心室収縮初期対応波(Eα波))は房室弁閉鎖、動脈弁開放、動脈の渦流系による振動を反映し、後側に位置する変曲点(心室拡張初期対応波(Eβ波)は動脈弁閉鎖,房室弁開放,動脈壁の振動,拍動に伴う心臓の変形などによって起こる振動を反映している。
【0044】
図17(a)〜(h)は被験者A,BのAPW、指尖容積脈波、心尖拍動・心音の周波数解析結果を示す。なお、
図17(g),(h)は、心音のI音、II音の帯域を見やすくするため、心尖拍動・心音の周波数解析結果を50Hzまでの対数表示として表した図である。
図17(a),(c),(e)から、被験者Aは、1.10Hz、2.19Hz、3.22Hzの成分でパワースペクトルが大きくなり、
図17(b),(d),(f)から、被験者Bは、1.23Hz、2.47Hz、3.52Hzの成分でパワースペクトルが大きくなっている。このことから、APWは、心拍変動成分を捉えていることがわかる。但し、APWには、指尖容積脈波に含まれていない矢印bで示した0.5Hz近傍の情報を含んでいる。この0.5Hz近傍の情報は、心音の周波数解析結果においては、
図17(f)の被験者Bのデータでは現れているが、
図17(e)の被験者Aのデータでは現れておらず、心音の情報だけでは捉えにくい場合がある。心音は体の前面から、胸郭に伝わる音を計測するため、心臓の変形などによって生じると考えられる0.5Hz近傍の振動は減衰して捉えにくい。しかし、体の後面から捉えるAPWは腰腸肋筋を介して骨格に伝わる振動であるため、0.5Hz近傍の振動を捉えることができる。なお、心尖拍動・心音の周波数解析結果に示される矢印aは呼吸成分であり、これは同時計測された呼吸センサより得られた生体信号を周波数分析することで確認された。
【0045】
図18及び
図19は、
図10〜
図15に示した指尖容積脈波のa波及びe波、心音のI音及びII音、並びに、APWの基準形態の二階微分波形において前側に位置する変曲点(心室収縮初期対応波(Eα波))及び後側に位置する変曲点(心室拡張初期対応波(Eβ波))について、対応する各成分同士の時相のずれ量を横軸に表し、縦軸にその計測点数を示したものである。APWの基準形態の二階微分波形において前側に位置する変曲点(心室収縮初期対応波(Eα波))は、指尖容積脈波の収縮初期陽性波a波と時相差0.2秒以内に、被験者Aは92.3%の精度で一致し、被験者Bは96.9%の精度で一致した。APWの基準形態の二階微分波形において前側に位置する変曲点(心室収縮初期対応波(Eα波))と心音のI音とは時相差0.2秒以内に、被験者A及びB共に100%の精度で一致した。一方、APWの基準形態の二階微分波形において後側に位置する変曲点(心室拡張初期対応波(Eβ波)は、指尖容積脈波の拡張初期波陽性波e波と時相差0.2秒以内に、被験者Aは23.1%の精度で一致し、被験者Bは100%の精度で一致した。APWの基準形態の二階微分波形において後側に位置する変曲点(心室拡張初期対応波(Eβ波)と心音のII音とは時相差0.2秒以内に、被験者A及びB共に100%の精度で一致した。なお、被験者Aの時相差の閾値を0.2秒以内から0.3秒以内に変更すると、被験者AのAPWの基準形態の二階微分波形において後側に位置する変曲点(心室拡張初期対応波(Eβ波))及び拡張初期波陽性波e波間の一致精度は23.1%から96.2%に上昇する。これは、被験者Aは被験者Bに比べて年齢が若く、脈波伝播速度は遅くなる傾向があるためによるものと考えられる。
【0046】
以上のことから、APWの基準形態の二階微分波形において前側に位置する変曲点(心室収縮初期対応波(Eα波))及びAPWの基準形態の二階微分波形において後側に位置する変曲点(心室拡張初期対応波(Eβ波))は、心音のI音及びII音に相当することがわかる。従って、生体状態分析装置60に設定される第1最大振幅波形成分特定手段631により、体幹二階微分波形演算手段61によって時系列に求められる二階微分波形の反転波形(反転二階微分波形)のそれぞれにおいて心室収縮初期対応波(Eα波)及び心室拡張初期対応波(Eβ波)を特定すれば、状態分析手段63は、心室収縮初期対応波(Eα波)及び心室拡張初期対応波(Eβ波)の時間軸上の特定位置を含むそれらに関する情報(時間軸上の特定位置のほか、例えば、振幅、周波数などの情報)を用いて生体状態を分析できることがわかる。
【0047】
一方、時相差0.2秒以内という条件下で、ばらつきの多い被験者Aとばらつきの少ない被験者Bの指尖容積脈波e波とAPWの基準形態の二階微分波形において後側に位置する変曲点(心室拡張初期対応波(Eβ波))の時相差に着目すると、このような差異が生じるということは、心拍ゆらぎと自律神経支配の心拍変動が持つ末梢系の情報である指尖容積脈波と中枢系に近い所の情報であるAPWの時相差を捉えることが、自律神経支配の程度を見る計測システムとして有効であると言える。但し、収縮期と拡張期の制御の動態を相対的に見るためにAPWの基準形態の二階微分波形において前側に位置する変曲点(心室収縮初期対応波(Eα波))及びAPWの基準形態の二階微分波形において後側に位置する変曲点(心室拡張初期対応波(Eβ波))と、指尖容積脈波のa波及びe波との二点間で比較評価することが好ましい。
【0048】
ここで、
図18及び
図19の時相差(時相のずれ量)の評価(ばらつきの程度)は上記したように0.2秒を閾値として行っているが、これは、平均的な心拍数を75回/分(1拍0.8秒)とした場合に、その1/4の周期である0.2秒を境界条件として設定したものである。上記のように、被験者Aの指尖容積脈波e波とAPWの基準形態の二階微分波形において後側に位置する変曲点(心室拡張初期対応波(Eβ波))の時相でばらつきの中心が少しずれている。被験者Aは、実験中、リラックス状態で、交感神経と副交感神経がバランスよく出現している状態であった。このことから、交感神経と副交感神経がバランスよく出現する場合、その作用は、末梢系の指尖容積脈波の動態に影響を与えたものと考えられ、上記した指尖容器脈波e波とAPWの基準形態の二階微分波形において後側に位置する変曲点(心室拡張初期対応波(Eβ波))との間での時相のばらつきは正常な動態を示すものである。
【0049】
一方、被験者Bは、
図17(f)に示すように心尖拍動のパワースペクトルが被験者Aよりも低く、実験中、リラックス度が被験者Aよりも高い状態であった。被験者Bは、
図19より、APWの基準形態の二階微分波形において後側に位置する変曲点(心室拡張初期対応波(Eβ波))と心音のII音との時相のばらつき、APWの基準形態の二階微分波形において後側に位置する変曲点(心室拡張初期対応波(Eβ波))と指尖容積脈波e波との時相のばらつきがいずれも小さくなっている。すなわち、
図17(h)で示すように心音のI音のばらつきが小さく、
図13で示すように全体的にII音も小さくなっている。また、
図15中の矢印で示すように、周波数は変わっていないが、部分的にAPWの振幅も被験者Aよりも小さくなっている。
【0050】
従って、被験者Aと被験者Bの間で実験中の自律神経系の状態に差があることで上記の時相差のばらつきの大小が生じたと考えられ、状態分析手段64に設定した時相差分析手段642によって、指尖容積脈波とAPWの時相差の関係を設定することで状態判定を行うことができることがわかる。
【0051】
(実施例2)
実施例1から、指尖容積脈波及びAPW間の時相差は、自律神経系の状態の差を示していることが明らかになった。そこで、実施例2では、その自律神経系の状態の差が体幹用生体信号測定装置1のAPWの原波形及び指尖容積脈波の原波形においてどのように反映されているかを調べた。
【0052】
図20(a),(b)は、被験者A及び被験者Bの実験中の15秒間の原波形を示した図である。この図から明らかなように、被験者Aは、指尖容積脈波とAPWの周波数がほぼ同じで振幅もほぼ同じである。これに対し、被験者Bは、周波数はほぼ同じであるが、APWの振幅が指尖容積脈波の振幅よりも小さくなっていることがわかる。上記したように、APWは、心室の収縮期及び拡張期の情報と、循環の補助ポンプとなる血管壁の弾力情報を含んでいるため、このように末梢生体信号である指尖容積脈波と比較して振幅に大きな差があるということは、心循環系異常の可能性あると言える。実際、被験者Bは、経度の心循環系の疾患を患っている。実施例1のように時相差に着眼した場合、被験者Bはリラックス度が高いという自律神経系の程度を推定できるだけであるが、このように原波形の違いを判定要素に含めることで心循環系の異常を推定できる。従って、
図4に示した原波形比較分析手段641を備え、上記のように振幅差について所定の閾値を設定することで、心循環系の異常の有無を自動判定することができる。
【0053】
(実施例3)
(指尖容積脈波及びAPW間の時相差と、他の自律神経指標との関係)
実施例1で示したように、指尖容積脈波及びAPW間の時相差は、自律神経系の状態の差を示している。実施例3では、この点をより明確にするため、評価指標として公知の他の自律神経指標との相関性についての検証実験を行った。
【0054】
・実験方法
実験室内にある自動車用シート100に被験者を着座させ、覚醒から睡眠に至るまでの状態変化の様子を捉えるため、閉眼状態で最初の30分間は覚醒状態を継続することを義務付け、後半の30分間は睡眠状態へ移行しても構わないという条件設定で実施した。自動車用シート100には、
図21〜
図23に示したように、
図1に示した体幹用生体信号測定装置1が背部支持用クッション部材201内に装填されたシート用クッション200をシートバック101表面に装着した。また、被験者には、精密脳波計、指尖容積脈波計を装着し、APW、脳波、指尖容積脈波を同期計測した。被験者は25歳から47歳までの男性6名であった。
【0055】
・実験結果
実験前半は眠気に耐えて覚醒状態を維持し、実験後半は寒さで眠ることが出来ない状態になったが、その後実験終了間際に入眠した30歳代被験者Cの実験結果を示す。被験者の状態情報は、脳波と実験担当者の視察及び被験者の所感により、確認されたものである。
【0056】
図24(a)〜(g)は、上記した他の自律神経指標による測定結果を示した図である。
図24(a)は、精密脳波計から得られた被験者の睡眠段階を示した波形である。
図24(b)は指尖容積脈波をウェーブレット解析して求められた自律神経系指標の変化の様子を示す。
図24(c)は、指尖容積脈波の時系列波形からパワー値の時系列波形を求め、その後、最小二乗法でパワー値の傾きを求めて、さらに所定の時間窓を設定して移動計算を行って求めたパワー値の傾き時系列波形と、指尖容積脈波の時系列波形をカオス解析してさらに所定の時間窓を設定して移動計算を行った求めた最大リアプノフ指数の傾き時系列波形を示した図である(なお、指尖容積脈波のパワー値の傾き時系列波形及び最大リアプノフ指数の傾き時系列波形を併せて、「指尖容積脈波傾き時系列波形」という)。
図24(d),(e)は、APWの時系列波形のゼロクロスの時間間隔及びピークの時間間隔からそれぞれ周波数傾き時系列波形をそれぞれ求め、さらに、それぞれについて周波数傾き時系列波形を周波数解析し、本出願人が特願2011−43428号等として提示している人の恒常性を維持に寄与する特徴的なVLF、ULFの帯域の3つの低周波のゆらぎ信号(約0.0017Hz、約0.0035Hz、約0.0053Hz)の分布率の時系列変化を求めた図である。
図24(f),(g)は、
図24(c)のパワー値の傾き時系列波形及び最大リアプノフ指数の傾き時系列波形を時間帯別に周波数分析した結果を示したものである。
【0057】
まず、
図24(a)の精密脳波計の測定結果から、30歳代被験者Cは、実験前半の1800秒を超えるまでは覚醒状態を維持し、その後3300秒までの25分間は睡眠段階1、2と中途覚醒を繰り返し、3300秒以降で入眠したことが確認される。
【0058】
図24(b)の指尖容積脈波のウェーブレット解析結果からは、図中「I」で示した実験前半の1600秒までは交感神経系の亢進を示すバースト波が頻発し、図中「II」で示した1800秒を越えた範囲では、副交感神経系優位の中で交感神経系機能の低下が生じており、図中「III」で示した3300秒を超えた範囲では、更に副交感神経系機能が亢進しているのが示されている。
【0059】
図24(c)の指尖容積脈波の傾き時系列解析結果からは、1000秒超から1400秒まで入眠に抵抗している区間が示され、1400〜2400秒間ではリラックス状態となり、2400秒超から3000秒間で入眠予兆現象発現し、3300秒超から睡眠への移行が示された。
【0060】
図24(d),(e)のAPWの分布率時系列波形からは、2600秒前後で切迫睡眠現象が発現し、3400秒付近で入眠が確認された。
【0061】
図24(f),(g)の指尖容積脈波傾き時系列の周波数解析結果からは、1800〜3000秒間で0.0033Hz以下のULFの帯域でパワー値にピークが発現し、さらに0.0033〜0.0055HzのVLFの帯域でパワー値、最大リアプノフ指数共にピークが生じており、入眠予兆現象が発現したことが示された。また、3000〜3600秒間ではパワー値の振幅が前半の900〜1800秒間にある時系列波形の振幅に比べて1/4以下となり、睡眠に入ったことが示された。また、0〜900秒間は覚醒状態にあるが、VLF帯域でもピークがあるため、リラックスしていたことがパワー値の周波数分析結果から示唆された。900〜1800秒間については,パワー値は0.0055Hzを中心とした帯域で、最大リアプノフ指数は0.0033Hzと0.0055Hzの二つのパワースペクトルのピークが存在するため入眠に抵抗している状態が推測された。
【0062】
以上のことから、
図24(a)〜(g)の指標は、1800秒までの実験前半は覚醒状態を維持し、徐々に眠気に抵抗しながら入眠予兆現象を発現し、3300秒付近で睡眠に入ったことを示している点で一致していた。
【0063】
図25(a)〜(d)は、本発明の一の実施形態に係る時相差分析手段642によって、指尖容積脈波の時相とAPWの基準形態の二階微分波形から求めた時相の差を用いて分析した結果を示したものである。横軸に時相差(a−Eα)を設定し、縦軸に時相差(e−Eβ)を設定した。
【0064】
図25(a)の15〜40秒間は、
図24の他の自律神経指標の結果から、交感神経系と副交感神経系が同程度に出現し、疲労感を感じていない状態と判定される時間帯である。
図25(b)の1280〜1305秒間は、
図24の他の自律神経指標の結果から、交感神経系の機能が亢進している状態と判定される時間帯である。
図25(c)の2610〜2635秒間は、
図24の他の自律神経指標の結果から、交感神経系の機能が低下している状態と判定される時間帯である。
図25(d)の3450〜3475秒間は、
図24の他の自律神経指標の結果から、副交感神経系が優位の中で交感神経機能が低下している状態と判定される時間帯である。
【0065】
これらを比較すると、座標点の分散の程度(収束の程度)が異なることがわかる。つまり、
図25(a)では座標点が所定の範囲にまとまっており時相差が緩やかに分散していると言えるのに対し、
図25(b)では相対的に分散傾向が大きく、時相差が大きいことがわかる。
図25(c),(d)はいずれも時相差が小さいため、座標点の分散の程度が極めて小さく、座標点がほぼ一点に収束しているような状態となっている。これらのことから、時相差分析手段642において、上記した座標点の分散の程度について、例えば、座標点が散らばっている範囲の面積を基準にするなどして判定し、所定の面積以下であれば、
図25(c),(d)のように、交感神経機能が低下している状態、その面積よりも大きい所定の範囲の面積の場合には、
図25(a)に示したように、交感神経系と副交感神経系のバランスが比較的良い状態と判定し、さらに面積が大きい場合には、
図25(b)のように交感神経系の機能が亢進している状態といったように自動判定することができる。もちろん、これはあくまで一例であり、状態をより詳細に区分したり、分散の程度の判定について異なるアルゴリスムを用いたりすることも可能である。
【0066】
上記の時相差分析手段642による判定結果と
図24(b)のウエーブレット解析による自律神経指標との相関性を、被験者6名全員についてまとめると表1に示した結果となった。
【0067】
具体的には、
図24(b)の分析結果において、交感神経機能が亢進になっている状態、あるいは、機能低下が生じた状態を各被験者について4箇所抽出し、抽出した各時間帯の指尖容積脈波とAPWとの間の各時相差を
図25のように求めて2×2クロステーブルで示した。
【0069】
表1において、「分散」は、
図25(a)に示した座標点の散らばっている範囲の面積と同程度がそれよりも大きい場合、「収束」は、
図25(c),(d)に示した座標点の散らばっている範囲と同程度かそれよりも小さい場合であり、「亢進」は、
図24(b)のIの状態になっている場合、「機能低下」は、
図24(b)のII、IIIの状態になっている場合である。
【0070】
表1の結果についてカイ二乗検定を行ったところ、P値は0.0016を示し、0.05を大幅に下回っており、指尖容積脈波とAPWとの時相差に基づいた座標点の分散の仕方と、公知の他の自律神経指標との間に有意な相関があることが確認された。
【0071】
以上より、覚醒状態で交感神経と副交感神経が同程度に活動する定常状態では、指尖容積脈波とAPWの時相差に基づいた座標点は、緩やかな分散傾向(
図25(a)参照)を示し、眠気に対向して交感神経活動が亢進するとその時相差が増大して分散の程度が大きくなり(
図25(b)参照)、交感神経活動が低下し、さらには睡眠状態に入って副交感神経優位の状態になると時相差がほとんどなくなり座標点の分散の程度が極めて小さくなることがわかった(
図25(c),(d)参照)。よって、
図4に示した時相差分析手段642は、上記のように、この時相差に基づいた座標点の分散の程度について、閾値となる値を設定すれば人の状態をより詳細に判定することができる。
【0072】
(実施例4)
状態分析手段64は、血管情報・時相差分析手段643を有することが好ましい。血管情報・時相差分析手段643は、上記したように、自律神経系の情報を捉えている時相差(a−Eα)又は時相差(e−Eβ)を一方の軸にとり、波高比(e/a値)を他方の軸にとってプロットすることで、末梢情報を踏まえた人の状態情報を得るものである。本実施例では、その点についての検証を行った。
【0073】
検証は、実施例3の30歳代の健康な男性被験者Cのデータと、APWを採取した際のデータ測定時(2010年〜2011年)の年齢で、62歳のY氏、86歳の藤田良登氏のデータを用いて行った。なお、実験条件は実施例1と同様に仰臥位姿勢で行っている。
【0074】
まず、
図26〜
図29は被験者Cのデータである。このうち、各図の(b)は、時相差分析手段642による出力結果を示し、
図25の(a)〜(d)と同じデータであり、上記したように、
図26(b)は、交感神経系と副交感神経系が同程度に出現している状態、
図27(b)は、交感神経系の機能が亢進している状態、
図28(b)は、交感神経系の機能が低下している状態、
図29(b)は、副交感神経系が優位の中で交感神経機能が低下している状態と判定される時間帯である。
【0075】
各図の(a)が、血管情報・時相差分析手段643の出力結果である。
図27(a)から、交感神経系の機能が亢進している状態において、横軸(時相差(a−Eα)又は時相差(e−Eβ)の軸)方向への分散の程度が最も大きく、
図28(b)及び
図29(b)のように交感神経系の機能が低下している状態では、横軸方向への分散の程度が最も小さく、
図26(b)のように、交感神経系と副交感神経系が同程度に出現している状態では、横軸方向への分散の程度がそれらの中間になっている。しかしながら、いずれの場合も、縦軸(指尖容積脈波の波高比e/aの軸)方向へ大きく分散することはなく、分散の程度は、波高比e/aの値の幅で0.5、各図(a)で示した目盛りでは一目盛りに相当)の範囲に収まっている。
【0076】
図30〜
図32は、測定時62歳の被験者Y氏のデータである。Y氏は、2010/09/30の最初の測定日の時点で、既に甲状腺がんを手術していると共に、肺への転移も認められた頃である。時相差分析手段642の出力結果である
図30(b)を見ると、座標点の分散の程度が大きく、交感神経系の機能が亢進していることがわかる。その後の2011/01/21も、
図31(b)から、比較的交感神経系の機能が亢進している状態であり、2011/07/17は、
図32(b)から交感神経系と副交感神経が同程度に出現している状態と判定できる。一方、
図30〜
図32の各図(a)に示された血管情報・時相差分析手段643を比較すると、いずれの場合も、健康な男性被験者Cのデータと比較して、縦軸(波高比)方向への分散の程度が大きい。これは、病気によるストレスによって、末梢に近い部分と中枢に近い部分との間でバランスが崩れていることを示していると考えられ、波高比(e/a値)を併せてみることで、自律神経系の状態だけでなく、病気等による外的要因の有無を判断することができることがわかる。しかしながら、被験者Y氏は、縦軸方向のばらつきは、時間経過に伴って縮小傾向にあり、徐々に回復傾向であることが推定できる。
【0077】
図33〜
図35は、測定時86歳の藤田良登氏のデータである。この被験者もがんを患っていた。2011/02/02は、大腸がんの一部切除手術を行ったが、測定時は家の中で歩行でき、食事を座って摂ることができる程度に回復した状態のデータである。
図33(b)の時相差分析手段642の結果では、分散の程度が小さく、副交感神経系が優位の状態である。これは、測定時、穏やかな安静状態であったためであるが、
図33(a)の血管情報・時相差分析手段643の出力結果では、縦軸(波高比e/aの軸)方向に大きく広がっていることがわかる。つまり、安静状態ではあっても、病気という外的ストレスにより、体のバランスが崩れていることを示している。
【0078】
図34の2011/03/09のデータは、再入院して、たまった腹水、胸水を抜く処置を行った後のデータである。このデータでは、
図34(a)において縦軸方向への広がりが大きくなっていない。これは、腹水、胸水を抜く処置によって肉体的に楽になり、一時的な体調の回復傾向を示したものであると推定できる。
【0079】
図35の2011/03/21は、藤田良登氏の余命僅かの時点のデータである。
図35(b)から副交感神経系が優位の状態であるが、
図35(a)では縦軸方向に大きく広がっている。この時点では既に回復処置の施すことができない状態であり、体のバランスが大きく崩れていることが読み取れるデータである。
【0080】
以上のことから、血管情報・時相差分析手段643により、APW及び指尖容積脈波間の時相差(a−Eα)又は時相差(e−Eβ)と、指尖容積脈波の波高比(e/a値)とを用いることで、自律神経系の状態だけでなく、病気等の体のバランスを崩す外的ストレスの有無を判定することができる。
図26〜
図35の各図(a)に示した血管情報・時相差分析手段643の出力結果の座標において、波高比(e/a値)の軸に沿った方向にどの程度広がっている場合に病気等の外的ストレス要因「有り」と判定するかは、統計的にデータ処理するなどして任意に設定できる。個人差を考慮して、個人毎に設定することももちろん可能である。このような閾値を設定すれば、
図4に示した血管情報・時相差分析手段643によって、自律神経系の状態と外的要因(病気、飲酒、薬物等)のストレスの有無を自動判定することができる。
【0081】
上記した実施形態では、最大振幅波形成分特定手段62として、第1最大振幅波形成分特定手段621により、体幹二階微分波形演算手段61の二階微分波形を反転させ、その反転させた反転二階微分波形を基準波形として最大振幅波形成分を特定し、変曲点特定手段63によってから最大振幅波形成分の前後の変曲点(心室収縮初期対応波(Eα波)、心室拡張初期対応波(Eβ波))を特定していたが、本実施形態では、
図36に示したように、最大振幅波形成分特定手段62として、さらに第2最大振幅波形成分特定手段622を有している。
【0082】
第2最大振幅波形成分特定手段622は、上記第1最大振幅波形成分特定手段621で採用した二階微分波形の基準形態を、その基線(0目盛りの線)を基準として上下に180度反転させた反転形態の二階微分波形のそれぞれの周期において、波形に重畳している高周波成分を除いた低周波の最大振幅の波形成分を特定する。なお、本実施形態では、第1最大振幅波形成分特定手段621で採用した二階微分波形の基準形態は、体幹二階微分波形演算手段61により時系列に求められる出力時の二階微分波形を反転させた状態であり、第2最大振幅波形成分特定手段622で採用する二階微分波形は、基準形態の二階微分波形を反転させてもの、すなわち、結果的には、体幹二階微分波形演算手段61により時系列に求められる出力時の二階微分波形を指す。
変曲点特定手段63は、この第2最大振幅波形成分特定手段622によって特定される最大振幅波形成分の前後の一対の変曲点を、時間軸に沿って順に、すなわち、振幅が減衰から増幅に切り替わる前側の変曲点を指尖収縮初期対応波(Pα波)として特定し、振幅が増幅から減衰に切り替わる後側の変曲点を指尖拡張初期対応波(Pβ波)として特定する。
【0083】
第2最大振幅波形成分特定手段622及び変曲点特定手段63により特定される最大振幅波形成分を挟んだ前側の変曲点である指尖収縮初期対応波(Pα波)及び後側の変曲点である指尖拡張初期対応波(Pβ波)は、指尖容積脈波の二階微分波形のa波、e波に相当する。
図37及び
図38は、その一例を示したものである。被験者は20歳代の女性被験者NYであり、第2最大振幅波形成分特定手段622及び変曲点特定手段63により求められる
図37(d)の指尖収縮初期対応波(Pα波)が
図37(b)の指尖容積脈波のa波に一致し、
図37(d)の指尖拡張初期対応波(Pβ波)が
図37(b)のe波に一致していることがわかる。また、上記実施形態で説明した第1最大振幅波形成分特定手段621により求められる
図37(e)の心室収縮初期対応波(Eα波)が
図37(f)の心電図のR波(収縮期初期に聴取される心音のI音に相当)に一致し、
図37(e)の心室拡張初期対応波(Eβ波)が
図37(f)の心電図のT波の末期(収縮期末期に聴取される心音のII音に相当)に一致していることがわかる。
【0084】
図39及び
図40は20歳代の男性被験者ATのデータであり、
図41は、20歳代の男性被験者YKのデータである。いずれも、
図37及び
図38の女性被験者NYと同様に、第2最大振幅波形成分特定手段622及び変曲点特定手段63により求められる指尖収縮初期対応波(Pα波)、指尖拡張初期対応波(Pβ波)が、指尖容積脈波のa波、e波に一致していることがわかる。つまり、APWは、心音や心電図から得られる中枢に近いところの情報と、指尖容積脈波から得られる末梢の情報との両方を含んだ情報を有している。
【0085】
以上のことから、本実施形態では、第2最大振幅波形成分特定手段622及び変曲点特定手段63により求められる指尖収縮初期対応波(Pα波)、指尖拡張初期対応波(Pβ波)を上記実施形態の指尖容積脈波のa波、e波に代えて用いる構成としている。
【0086】
すなわち、時相差分析手段642は、指尖容積脈波の収縮初期陽性波(a波)に相当するAPWの前側の指尖収縮初期対応波(Pα波)とAPWの前側の心室収縮初期対応波(Eα波)との時相差(Pα−Eα)を一方の軸に、指尖容積脈波の拡張初期陽性波(e波)に相当するAPWの指尖拡張初期対応波(Pβ波)とAPWの心室拡張初期対応波(Eβ波)との時相差(Pβ−Eβ)を他方の軸にとった座標上に、周期毎に対応させて座標点をプロットする。それにより、
図25と同様に、座標点の分散の程度から人の状態を判定することができる。
【0087】
また、血管情報・時相差分析手段643では、指尖容積脈波の利用した上記実施形態の時相差(a−Eα)又は時相差(e−Eβ)に代え、時相差(Pα−Eα)又は時相差(Pβ−Eβ)を用いる。また、血管情報としては、 第1最大振幅波形成分特定手段621から得られた最大振幅波形成分の前後の変曲点である心室収縮初期対応波(Eα波)の振幅と心室拡張初期対応波(Eβ波)の振幅の比(Eα/Eβ)、又は、第2最大振幅波形成分特定手段622から得られた最大振幅波形成分の前後の変曲点である指尖収縮初期対応波(Pα波)の振幅と指尖拡張初期対応波(Pβ波)の振幅の比(Pα/Pβ)を用いる(
図42参照)。上記したように、APWは、心室の収縮期及び拡張期の情報だけでなく、循環の補助ポンプとなる血管壁の弾力情報や剛性情報、あるいは、血管の外側に存在する腫瘍などの異物の影響などによって変化する血管動態などの血管に関する情報を含んでいる。そして、振幅比(Eα/Eβ又はPα/Pβ)は、心室収縮期の最小血圧時の値と心室拡張期の最高血圧時の値との比である。若くて健常な者ほど、血管壁は、その弾性による拡張及び収縮が規則正しく行われ、振幅比も安定している。これに対し、高齢になると、収縮期血圧は増加し、拡張期には末梢への血流が低下することが知られている。すなわち、高齢者や健康不良の場合には、血管壁の拡張及び収縮変化が安定して行われず、ランダムな乱れが生じたり、血管壁の弾性が若年時より小さいためにその拡張、収縮変化自体が小さい。言い換えれば、血管壁及びその周辺の弾性が変化するということは、年齢の違いや病気の有無等により、血管や病巣などの体内組織の変化に応じて肉体の固有振動数が変化することを意味する。すなわち、心室の収縮・拡張に伴う圧力変動による入力は血管壁や血液などで反射して伝播され、体幹に発生する加速度振動として捉えられるが、その加速度応答や振幅応答が、血管や病巣などの体内組織の状態によって変化するということである。このようなことから、この収縮期と拡張期との振幅比(Eα/Eβ)を用いて比較すると、健康状態、加齢といった生体の状態を表すことができる。若くて健康であれば、プロットした点の分散の仕方は比較的まとまった範囲でカオティックに変化するのに対し、加齢や病気などの場合であれば、分散の程度が大きいと共に、一次元方向に偏在する傾向を示すと考えられる。従って、振幅比が一定でなく変化が大きいほど人体の中枢から末端部分に至るまでの血液の流れに生じている何らかの悪影響が大きいことを示す。
【0088】
そこで、本実施形態の血管情報・時相差分析手段643は、横軸に時相差(Pα−Eα)又は時相差(Pβ−E)をとり、縦軸にAPWの二階微分波形のいずれかの振幅比(Eα/Eβ又はPα/Pβ)をとって座標点をプロットする。このようにしてプロットした例が後述する出力結果(4)の手法によるものであり、
図44(b)、
図46(b)、
図48(b)、
図50(b)、
図52(b)、
図54(b)、
図56(b)、
図58(b)である。詳細については、後述するが、例えば、
図44(b)は、20歳代の健康な男性被験者YK氏のデータであり、
図46(b)は、20歳代の健康な女性被験者NY氏のデータであるが、いずれも、時相差が小さいと共に、座標点の縦軸方向へのばらつきも小さく、比較的まとまっていることがわかる。これに対し、例えば、
図48(b)に示した藤田良登氏のデータを見ると、座標点の縦軸方向へのばらつきが大きいことがわかる。このことから、上記実施形態の指尖容積脈波のa波及びe波に代えて、第2最大振幅波形成分特定手段622により特定される指尖収縮初期対応波(Pα波)及び指尖拡張初期対応波(Pβ波)を用いて、上記実施形態と同様の分析が行うことが可能であることがわかる。すなわち、この手法によれば、APWのデータのみで生体状態の分析を行うことができる。但し、より正確な判定を行うためには、以下のことから、血管情報・時相差分析手段643として、指尖容積脈波のa波、e波、波高比(e/a値)を用いたものと、Eα波、Eβ波、Pα波、Pβ波、APWの振幅比を用いたものとを組み合わせた出力を得て、それらを総合的に比較して判定することが好ましい。
【0089】
具体的には、血管情報・時相差分析手段643として以下の(1)〜(4)のような組み合わせの出力を得られるように設定し、相互に比較検討した。
【0090】
(1)縦軸:指尖容積脈波の波高比(e/a値)
横軸:指尖容積脈波を利用した時相差(a−Eα又はe−Eβ)
(2)縦軸:指尖容積脈波の波高比(e/a値)
横軸:APWのみの時相差(Pα−Eα又はPβ−Eβ)
(3)縦軸:APWの振幅比(Eα/Eβ)
横軸:指尖容積脈波を利用した時相差(a−Eα又はe−Eβ)
(4)縦軸:APWの振幅比(Eα/Eβ)
横軸:APWのみの時相差(Pα−Eα又はPβ−Eβ)
【0091】
まず、
図43〜
図44に示した健康な男性被験者YKのデータを参照すると、(1)の出力結果と(2)の出力結果の間で座標点の分散の程度に大きさな差はなく、時相差が小さく、時相差同士の差もほとんどない。(3)と(4)の出力結果の比較でもほぼ同じことが言える。
図45及び
図46に示した20歳代の健康な女性被験者NY氏のデータも同様であり、(1)と(2)の出力結果での比較、(3)と(4)の出力結果での比較のいずれの場合も、ほぼ同じような傾向で、時相差が小さく、それらの差も小さくてほぼ同じであると共に、分散の程度も小さく、分散の範囲は略円形に近い状態で分散している。
【0092】
これに対し、
図47〜
図48の藤田良登氏のデータを見ると、2011/02/02は、上記したように、(1)〜(4)のいずれの出力結果も縦軸方向への分散の程度が大きい。その一方、(1)と(2)の出力結果を比較すると、時相差が大きく違うことがわかる。この点は、(3)と(4)の出力結果を比較しても同様である。そして、いずれの場合も、横軸に、指尖容積脈波を利用した時相差(a−Eα又はe−Eβ)をとった(1)及び(3)の出力結果(
図47(a)、
図48(a))の方が、横軸に、APWのみの時相差(Pα−Eα又はPβ−Eβ)をとった(2)及び(4)の出力結果(
図47(b)、
図48(b))よりも時相差が大きい。これは、中枢に近い体幹の生体信号であるAPWと、人体の末梢(末端)の生体信号である指尖容積脈波との違いによるものであり、指尖容積脈波を利用した時相差の方が大きいということは、末梢(末端)に至るまでの間に異常があり、心循環系の病気の存在を推定できる。
【0093】
上記したように、2011/02/02の測定データは、大腸がんの一部切除手術を行ってその部分では回復を示した時期であるが、各出力結果における縦軸方向の分散が大きいことから依然として体調が万全ではないことが推定できると共に、このような出力結果の比較を行うことによって、心循環系の病気の存在をより正確に推定できる。
【0094】
つまり、上記したように、APWから求められる指尖収縮初期対応波(Pα波)の振幅と指尖拡張初期対応波(Pβ波)は、指尖容積脈波の収縮初期陽性波(a波)と拡張初期陽性波(e波)との相関性が極めて高く、このa波、e波に代わる指標として用いることができるものである。従って、この観点からは、(1)と(2)の出力結果を比較した場合、その時相差はほぼ同じになると考えられ、(3)と(4)の出力結果で比較した場合も同様と考えられる。それにも拘わらず、上記した結果になったということは、各出力結果同士を比較して、それらの時相差同士の差が所定以上か否かにより、健康であるか否か、すなわち、心循環系の異常やその他の病気をもっているか否かを判定できるということを意味する。
【0095】
従って、血管情報・時相差分析手段643は、上記した(1)〜(4)の出力結果が得られるように、指尖容積脈波の波高比(e/a値)を用い、それを指尖容積脈波を利用した時相差(a−Eα又はe−Eβ)及びAPWのみの時相差(Pα−Eα又はPβ−Eβ)との相関で座標点をプロットする手段と、APWの振幅比(Eα/Eβ)を用い、それを指尖容積脈波を利用した時相差(a−Eα又はe−Eβ)及びAPWのみの時相差(Pα−Eα又はPβ−Eβ)との相関で座標点をプロットする手段との両方が設定されていることが好ましく、さらに、それらの出力結果同士を比較して、時相差の差が所定以上か否かを判定できる構成とすることが好ましい。
【0096】
血管情報・時相差分析手段643により、上記の判定を行ったさらなる例を示す。
図49〜
図50は、藤田良登氏の2011/03/09の出力結果である。
図49の(1)と(2)の出力結果を比較した場合、
図50の(3)と(4)の出力結果を比較した場合のいずれも、時相差同士の差は存在するが、2011/02/02より小さくなっている。これは、腹水、胸水を抜く処置によって肉体的に楽になり、一時的な体調の回復傾向を示したものであり、
図49の(1)と(2)の出力結果を見ると、縦軸の分散の程度が小さくなっている。その一方、
図50の(3)と(4)の出力結果を見ると、縦軸への分散の程度が大きいことがわかる。つまり、
図49の指尖容積脈波の波高比(e/a値)を縦軸に用いた出力結果のみだと一見体調が良いように判断できる場合であっても、
図50のAPWの振幅比(Eα/Eβ)を縦軸に用いた出力結果で判断すると分散の程度が大きく、中枢系に近いところで依然として異常が存在することが推定される。このことからも、血管情報・時相差分析手段643は、上記2つの手段が設定されていることにより、より詳細な生体状態の判定ができ、好ましいことがわかる。
【0097】
図51〜
図52は、健康な20歳代の男性被験者AT氏の出力結果である。まず、
図51の(1)及び(2)の出力結果から、時相差が小さく、また、分散の程度も比較的小さいことかから、健康であることがわかる。しかし、
図52の(3)及び(4)の出力結果を見ると、いずれも縦軸方向への分散の程度が大きくなっている。これは、(3)及び(4)は、APWの振幅比(Eα/Eβ)を縦軸に用いた出力結果であり、体幹において何らの異常が生じていることが推定される。なお、この被験者は、実験中、緊張状態であったことが自己申告されており、(3)及び(4)の出力結果における分散はその生体状態が現れたものと推定される。この
図51〜
図52の結果からも、血管情報・時相差分析手段643が上記2つの手段を有することにより、より正確な生体状態の判定ができることがわかる。
【0098】
図53〜
図58は、40歳代の男性被験者AG氏の出力結果である。
図53〜
図54は、2011/04/06に測定した結果であり、
図55〜
図56は、2011/08/23に測定した結果であり、
図57〜
図58は、2012/04/26に測定した結果である。この被験者AG氏は、2011/08/23の翌日、体調が急変し、腹膜炎の発症による手術を受けている。
【0099】
まず、
図53〜
図54の2011/04/06のデータを見ると、(1)と(2)の出力結果では、分散傾向は小さいものの時相差同士の差が大きいことがわかる。(3)と(4)の出力結果では、縦軸方向に分散が多少あるが、(3)と(4)の時相差同士の差も大きい。従って、このデータから、被験者AG氏は、指尖容積脈波を利用した時相差の方が大きく、中枢から末梢(末端)までの間で何らかの異常があることが推定できる。しかしながら、実験時における被験者の自己申告では健常であった。このことから、自覚症状がなくても、体の何らかの異常が各出力結果間の時相差同士の差として現れていると考えられる。
【0100】
2011/08/23のデータでは、
図55の(1)と(2)の出力結果の間、
図56の(3)と(4)の出力結果の間のいずれの場合も、時相差同士の差が大きく、体に異常があることが読み取れる。一方、APWの振幅比(Eα/Eβ)を縦軸に用いた
図56の(3)と(4)の出力結果では、縦軸方向の分散の程度が大きく、体幹において何らかの異常が生じていることが推定できる。
【0101】
2012/04/26のデータは、腹膜炎の手術後7ヶ月余り経過した時点のものである。まず、
図57の(1)と(2)の出力結果を比較すると、時相差同士の差はほとんどなく、分散の程度も比較的小さいことがわかる。
図58の(3)と(4)の出力結果を比較しても、時相差同士の差はほとんどないが若干分散の傾向がある。いずれも時相差同士の差がほとんどなく、また、いずれも縦軸方向の一次元的な分散の程度もそれほど大きくないことから、体幹から末端まで、異常は認められないと推定できる。なお、
図58の(3)と(4)の出力結果では若干の分散の広がりが見られるが、これは、縦軸方向に沿った縦長の分散というよりも、略円形に広がる形状を示しており、病的要因や緊張によって生じる分散ではなく、心身状態が非常にリラックスしていることによって生じたカオティックな分散と考えられる。
【0102】
以上のことから、実際に手術を行った被験者AG氏のデータを見ると、自覚的症状のある段階はもとより、自覚のない段階から体調異常を推定でき、しかも、術後、体調が安定した段階では(1)〜(4)の出力結果においていずれも異常を示す兆候を示していない。従って、上記血管情報・時相差分析手段643による複数の手段を併用した状態判定の判定精度が高いことがわかる。
【0103】
なお、状態分析手段64における時相差分析手段642や血管情報・時相差分析手段643において座標点の分散や収束の程度を判定する手法としては限定されるものではないが、例えば次のような手法を用いることができる。すなわち、座標の各象限内に、例えば所定面積の升目(セル)を縦横に設け、座標点が分布しているセル数を求める。このセル数の単位時間あたりの変化を求めると座標点の変化の動向、例えば分散傾向にあるか、収束傾向にあるかを判定することができる。また、単なるセル数の変化を時系列に見るだけでなく、例えば90%のラップ時間でオーバーラップさせたスライド計算を行ってセル数の変化を考察すると、分散や収束の様子をより細分化して把握でき、生体状態の変化の様子をより細かく分析することが可能となる。
【0104】
また、上記実施形態では、末梢用生体信号測定装置として指尖容積脈波計を用い、指尖容積脈波を末梢生体信号として用いているが、これに限らず、脈を比較的容易に検出可能な部位、例えば、浅側頭頸動脈、頸動脈、鎖骨下動脈、上腕動脈、橈骨動脈、尺骨動脈、大腿動脈、膝窩動脈、後脛骨動脈、足背動脈等の脈波を末梢生体信号として用いることもできる。例えば、大腸がんなどの場合、APWとの比較では、指尖容積脈波よりも大腿動脈の脈波の方が、時相のずれが大きい。従って、この場合には、APWと大腿動脈の脈波の時相を比較することで、APWを測定する体幹用生体信号測定装置を付設する腰部から心臓の位置付近と、大腿部との間において大腸がんなどの何らかの疾患要因が存在すると判定できる。また、上記した指尖、頸動脈、橈骨動脈、大腿動脈などの複数箇所の末梢生体信号を同時に測定し、これら複数の末梢生体信号をAPWと比較し、それぞれの時相を比べることで、疾患要因の特定をより正確に行うことが可能となる。