(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リニアステッピングモータでは、シャフトの軸方向の移動量(ストローク)が重要なファクタとなる。そのため機械的ストッパをモータ内部に設けないで、モータの外にこれを設定する装置もある。しかしこの場合にはモータ内部にストップ位置が無いので、モータ単体でシャフトの絶対位置を規定することができず、位置精度の再現性が確保できなくなる問題がある。例えば、出荷試験データと実機装置での位置精度が合わない等の問題がある。
【0005】
また、長ストロークを実現するために、ステータのリア部にシャフト端が飛び出すことが出来る貫通穴を開けるものもある。この場合には、シャフトストロークの拡大の自由度は増すが、この穴から塵の進入等のトラブルが発生するリスクが増大する。この問題は、ステータのリア部を閉鎖した構造とすることで避けられるが、そうするとストロークを大きく確保できない。
【0006】
上述したように、リア部が密閉されているステータ構造においては、必然的にシャフトストロークが限定され、最大でもモータ長以下のストロークとなる。理由は、モータ長以上シャフトが移動すると、モータからシャフトが抜けてしまうからである。厳密には、スクリューナットの位置からステータリア部の壁までの距離以上のストロークを取ることが出来ない。理由は、シャフトが一番入り込んだ状態は、シャフトエンド端面が前記ステータの壁に当たっている時で、シャフトが一番出た時は、シャフトエンド端面がスクリュースクリューナットに到達した所であるからである。
【0007】
このような背景において、本発明は、モータの軸方向における寸法を切り詰めた構造であっても、シャフトのストロークをできるだけ大きく確保できるリニアステッピングモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、
転がり軸受と、ステータユニットと、該ステータユニットの内側に回転可能な状態で配置され
、前記転がり軸受が取り付けられるボスを備えたロー
タと、該ロー
タの回転運動が直線運動に変換されて直線運動する出力軸とを備え、前記ロータ
は、前記出力軸に形成したねじ部と螺合するナット部
と一対のマグネットとをインサート材とした、樹脂による一体成形構造を備えており、前記ナット部は、前記ロー
タの軸方向における一端
側にオフセットした位置に配置され
るとともに、前記ロータの一端に設けられた前記ボスに隣接しており、軸方向において、前記マグネットの長さに対して前記ナット部の長さが短いことを特徴とするリニアステッピングモータである。請求項1に記載の発明によれば、ナット
部を軸方向においてオフセット配置することで、シャフトストロークを長くできる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ロー
タは、前記ステータユニット
に、一対の同一構造の
前記転がり軸受により回転自在な状態で保持されていることを特徴とする。請求項2に記載の発明によれば、部品の共通化が図られ、低コスト化に有利となる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、
前記一対のマグネットは、軸方向において間隔を有して配置され
ており、前記ロータは、該一対のマグネットと、該一対のマグネットの外
周面よりも
低い外周面を有する中間部分
とを有し、
前記中間部分が樹脂で形成されていることを特徴とする。請求項3に記載の発明によれば、樹脂のバリ等に起因してロータの一部がステータ
ユニットに接触する事故の発生が抑えられる。さらに温度上昇によ
るマグネットと樹脂の熱膨張係数の違いにより、樹脂の外径寸法が大きくなることによるステータ
ユニットに接触する事故の発生(不具合)も抑えられる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発明において、前記ステータユニットは、樹脂でモールドされた一体構造を有することを特徴とする。請求項
4に記載の発明によれば、ステータユニットの製造が簡素化され、また内部の隙間が樹脂で充填されるので、防塵性が高く高信頼性が得られる。また、樹脂モールドによりコイルボビンが一体化されて、コイル励磁による振動やモータ回転による振動が低減し低騒音化に寄与する。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の発明において、前記出力軸にはストッパが設けられており、該ストッパは、前記出力軸の一方の端部側にある前記転がり軸受の内輪の端面にあたることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、モータの軸方向における寸法を切り詰めた構造であっても、シャフトのストロークをできるだけ大きく確保できるリニアステッピングモータを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(構造)
図1および
図2には、実施形態のリニアステッピングモータ100が示されている。リニアステッピングモータ100は、フロント側ハウジング101とエンド側ハウジング102を有している。フロント側ハウジング101とエンド側ハウジング102との間には、ステータアッシー130とステータアッシー140とが配置されている。ステータアッシー130およびステータアッシー140は、基本的に同じ構造を有し、軸方向において背中合わせに配置されている。ステータアッシー130およびステータアッシー140によって、クローポール型ステッピングモータのステータが構成されている。
【0015】
以下代表して、ステータアッシー130について説明する。ステータアッシー130は、外側ステータ131および内側ステータ132を有している。外側ステータ131と内側ステータ132は、電磁鋼板等の磁性材料により構成されている。外側ステータ131と内側ステータ132は、通常のクローポール型のステッピングモータにおけるものと同様な構造を有している。外側ステータ131の内側には、樹脂製のボビン133にマグネットワイヤを巻回することで構成されたステータコイル134が配置されている。ボビン133には、端子ピン137が埋め込まれている。ここでは、ステータアッシー130について説明したが、ステータアッシー140も同様な構造を有している。
【0016】
ステータアッシー130と140は、仮組みした状態で、樹脂を内部の隙間に注入し、樹脂モールド構造により一体化されている。符号136は、充填された樹脂材料である。この樹脂モールド構造により、ステータアッシー130と140は、軸方向において背中合わせに接触した状態で一体化されている。また、この際、樹脂材料136によってエンド側ハウジング102も一体に同時形成されている。エンド側ハウジング102は、ステータ内側の空間を閉鎖する部材であり、ステータ内側に配置された後述するシャフトは、エンド側ハウジング102によってその移動が制限される。
【0017】
ステータアッシー130には、フロントプレート135が接触した状態で固定されている。フロントプレート135は、2つのネジ孔135aが設けられたフランジ部を有している。ネジ孔135aを利用してリニアステッピングモータ100が、固定対象物に固定される。フロントプレート135には、フロント側ハウジング101が固定されている。この固定は、フロントプレート135に設けられた爪部(係止部)135bを利用して行われている。なお、フロントプレート135におけるフランジの形状は、図示する形状に限定されない。
【0018】
図示するように、ステータアッシー130には、端子ピン137が設けられ、端子ピン137には、ステータコイル134の巻き線の端部が絡げられて接続されている。端子ピン137は、配線パターンが形成された基板138のコンタクトホールに通され、その端部は基板138を突き抜けている。基板138は、端子部139と一体化され、端子部139は、ステータアッシー130および140に固定されている。なお、説明は省略するが、ステータアッシー140の側にも同様な構造の端子ピンが設けられている。
【0019】
ステータアッシー130および140の内側には、ロータ150が回転自在な状態で収められている。
図3には、ロータの断面図が示されている。ロータ150は、ロータ部材151、ロータマグネット152,153、スクリューナット154を有している。ロータ部材151は、ロータマグネット152,153およびスクリューナット154をインサート材とした樹脂の射出成形により形成された略筒状の部材である。ロータ部材151の両端には、転がり軸受161,162を取り付けるためのボス156,157が設けられている。ロータ150を構成する樹脂には、ガラスフィラ等を10重量%〜50重量%含ませてもよい。ロータマグネット152,153は、樹脂と磁性粉を原料したボンド磁石であり、略円筒形状を有している。ロータマグネット152,153は、周方向に沿ってNSNSと交互に着磁されている。スクリューナット154は、内側に雌ネジ構造が形成されており、この雌ネジ構造は、後述するシャフト170の雄ネジと噛み合っている。
【0020】
図3において、Lrotはロータ150の軸方向における長さ(ロータ長)、Lmagはロータマグネット152,153の軸方向における長さ(マグネット長)であり、Lnutは、スクリューナット154の軸方向における長さ(ナット長)である。ここで、Lnut<Lmagとなるように設定されている。
【0021】
図3に示すように、Lrotの中心部分P1がロータ150の軸方向における中心の位置となる。P1は、基本的にステータアッシー130とステータアッシー140とで構成されるステータ(ステータユニット)の軸方向における中心の位置でもある。また、P2がスクリューナット154の軸方向における中心の位置である。ここで、P1とP2の位置を一致させず、軸方向における両者の位置をずらすことでオフセット状態を得ている。すなわち、P1とP2の位置をずらすことで、ナット部の位置を、
ロータ150の軸方向における一端側または他端側のどちらかにオフセット配置した状態を実現している。
【0022】
なお、本実施形態では、ロータマグネットとして、ロータマグネット152,153の2つを用いる場合を説明したが、ロータマグネットが一つの場合もあり得る。この場合もLnut<Lmagとし、P1とP2の位置をずらしたオフセット状態とする。
【0023】
ロータ150の両端の部分に設けられたボス156,157には、転がり軸受161,162が圧入により取り付けられている。転がり軸受161,162は同じ部品であり、転がり軸受161,162によって、ロータ150がフロント側ハウジング101およびエンド側ハウジング102に回転自在な状態で保持されている。ロータ150の内側には、金属製のシャフト170が固定されている。シャフト170は軸方向に可動する出力軸として機能する。シャフト170の外周には、スクリューナット170の雌ネジ構造と噛み合う雄ネジ構造が刻まれている。また、シャフト170には、回転防止用のストッパ171が設けられている。フロント側ハウジング101は、ストッパ171を軸方向に移動可能で、且つ、ストッパ171が回転できないように規制する軸方向に延在する空間を有している。ストッパ171は、この空間内において、その内壁に沿って軸方向に移動可能で、フロント側ハウジング101に対して回転ができない(回転しようすると、フロント側ハウジング101の内壁に接触する)状態とされている。
【0024】
(動作)
ステータアッシー130および140のステータコイルに極性が周期的に反転する駆動電流を流すと、クローポール型のステッピングモータの動作原理により、ロータマグネット152,153を回転させようとする駆動力が作用し、ロータ150が回転する。この際、シャフト170外周の雄ネジ構造に噛み合ったスクリューナット154も回転するが、ストッパ171の機能により、シャフト170は回転できず、他方でシャフト170は軸方向に移動できるので、スクリューナット154の回転にしたがって、ネジの原理により、シャフト170は軸方向に移動する。この際、駆動信号のパルス数により、ロータ150の回転量が制御され、それにより、シャフト170のリニア移動量の制御が行われる。
【0025】
(組立工程)
最初に、
図3のロータ150を得る工程について説明する。まず、図示しない金型のキャビティー内に、ロータマグネット152および153、スクリューナット154をインサート材として配置する。そして、当該金型のキャビティー内部に加熱し流動化させた樹脂を注入し、射出成形を行う。この射出成形により、
図3に示すロータ150を得る。
【0026】
次に、
図4(A)に示すシャフト170を用意し、シャフト170とロータ150とを結合させる。シャフト170には、雄ネジ部170aが設けられており、この雄ネジ部170aにロータ150のスクリューナット154を螺合させることで、
図4(A)に示す状態が得られる。
【0027】
次に、ステータアッシー130と140を仮組みし、その状態のものを図示しない金型内に配置して、当該金型内に樹脂を注入する。この工程において、
図2の符号136に示されるように樹脂が隙間の部分に充填され、ステータアッシー130,140が樹脂により一体化される。
【0028】
次に、転がり軸受162をエンド側ハウジング102の内側に圧入(接着剤による固定でもよい)により固定し、更にフロントプレート135をプラズマ溶接等の手段によりステータアッシー130に固定する。こうして、
図4(B)に示す状態において、
図4(A)に示すシャフト170とロータ150が結合した部材が取り付けられていない状態を得る。次に、エンド側ハウジング102内部に取り付けられた転がり軸受162の内輪に
図4(A)に示す部材のロータ150を固定する。この固定は、同様に圧入(接着剤による固定でもよい)により行う。こうして、
図4(B)に示す状態を得る。
【0029】
図4(B)に示すように、フロントプレート135は、4つの爪部135aを有している。
図4(B)の状態を得たら、フロント側ハウジング101をフロントプレート135に固定する。この際、爪部135bをカシメることで、フロントプレート135にフロント側ハウジング101を固定する。こうして、
図4(C)に示すリニアステッピングモータ100を得る。なお、図示されていないが、
図4(C)に示す状態を得たら、基板138を備えた端子部139を取り付け、
図1および
図2に示す状態を得る。
【0030】
(特徴)
本実施形態では、ロータにスクリュークリューナットを組み込む際、マグネット長に対して出来るだけ短いスクリューナット長を使い、軸方向で見て、このスクリューナット位置をロータマグネットに対して出来るだけ前側に置いている。こうすることで、スクリューナットからステータリアの壁までの距離を長く確保し、シャフトのストローク長を大きくしている。また、スクリューナットをフロント側へオフセットしたことにより、モータ全長を短くすることが出来る。また、モールド一体成形なので、金型の一部の部品を変えることにより、スクリューナットの位置が自由に配置でき、必要に応じたストロークに対応できるリニアモータが提供できる。
【0031】
以下、リニアステッピングモータ100の特徴を列挙する。
(1)2個の転がり軸受161および162として、同じものを使用し、部品の共通化を図っている。
(2)ロータ150は、ロータマグネット152,153、およびネジ部を持つスクリューナッ
ト154が樹脂モールドにより一体成形された構造を有している。この構造によれば、組み立てが簡素化され、また部品精度が向上する。また、スクリューナット154の位置の変更が簡単に行える。
(3)ステータアッシー130,140を樹脂により一体化することで、製造工程の簡素化、隙間を樹脂により封止することによる防塵性および信頼性の向上を得ている。
(4)スクリューナット154をフロント側にオフセットした位置に配置している。すなわち、スクリューナット15
4の中心の位置がフロント側ステータユニット(ステータアッシー130)の中心よりフロント側にある。この構造によれば、シャフト170のストローク(
図2における左方向への移動量)を確保しつつ、リニアステッピングモータ100本体の軸方向における寸法を短くできる。
(5)ストッパ171によるシャフト170の回転防止機構、フロント側ハウジング101によるシャフト170の前進を制約する機械的ストッパ機構、エンド側ハウジング102による後退端でシャフト170の移動を制約する機械的ストッパ機構を内蔵している。
また、ストッパ171をハウジング101の内面にあたることによる前進の制約および転がり軸受けの内輪の端面にあたることによる後退の制約を行う機械的ストッパ機構として捉えることもできる。
(6)ロータ150において、2個のロータマグネット152,153の間の中間部分150aの外径が、マグネットの外径よりも小さく、中間部分150aがロータマグネット152,153の外周面より低い位置にある。この構造により、ロータ150を構成する樹脂のバリ等によってロータ150の回転が阻害される可能性が抑制されている。
(7)スクリューナット154の軸方向の長さLnutは、ロータマグネット152,153の軸方向長さLmagに対して、Lnut< L magの関係がある。
(8)スクリューナット154の外形形状は多角形あるいは回転止めのある形状とされ、ロータ150に対するスクリューナット154の相対的な空転が生じない構造とされている。
(9)エンド側ハウジング102は、転がり軸受162を保持する受け部を備え、ステータと一体的に成形された構造を持つ。
(10)フロント側ハウジング101は、転がり軸受161を保持する受け部、およびシャフト170の回転止め溝を有する一体構造を有している。
(11)リニアステッピングモータ100の構造は、ロータマグネット152,153の外径が9mm以下である場合に特に適している。
(12)ロータマグネット152,153としては、フェライト磁石、希土類磁石などの焼結磁石、ボンド磁石が使用可能である。
(13)ロータ150を構成する樹脂の径方向の厚みを極力薄くでき、モータ外径を小さくすることができる。また、スクリューナット154のフロント側端面が転がり軸受161の端面より後方にある。
【0032】
(その他)
本発明の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本発明の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。