(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097527
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】原着極細繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 1/04 20060101AFI20170306BHJP
D01F 8/04 20060101ALI20170306BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20170306BHJP
D01F 6/62 20060101ALI20170306BHJP
D06M 11/05 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
D01F1/04
D01F8/04 Z
D01F8/14 B
D01F6/62 303J
D06M11/05
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-248498(P2012-248498)
(22)【出願日】2012年11月12日
(65)【公開番号】特開2014-95170(P2014-95170A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】森島 一博
【審査官】
久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−088562(JP,A)
【文献】
特開2011−157647(JP,A)
【文献】
特開2002−146624(JP,A)
【文献】
特開2011−157646(JP,A)
【文献】
特開2011−208326(JP,A)
【文献】
特開平07−109616(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0075018(US,A1)
【文献】
特許第4659821(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−9/04
D06M 10/00−11/84、16/00、19/00−23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均1次粒径5〜50nmの顔料を1〜20重量%含有する繊維形成性ポリマーから構成され、その直径が10〜2500nmの極細繊維の製造方法であって、該極細繊維は熱水溶解性海成分を用いた海島型複合繊維から海成分を熱水を用いて溶出除去する極細繊維の製造方法であり、該熱水溶解性海成分が7〜13モル%の5−ナトリウムスルホイソフタル酸および8〜30モル%のイソフタル酸が共重合されている共重合ポリエステルであり、かつ極細繊維の強度の平均値が1〜6cN/dt、強度の変動係数cv%が10%以下であることを特徴とする原着極細繊維の製造方法。
【請求項2】
極細繊維を構成する繊維形成性ポリマーがポリエステル系ポリマーである請求項1記載の原着極細繊維の製造方法。
【請求項3】
熱水溶解性海成分がポリエステル系ポリマーである請求項1又は2記載の原着極細繊維の製造方法。
【請求項4】
顔料がカーボンブラックである請求項1、2又は3記載の原着極細繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料により着色された極細繊維に関するものである。さらに詳しくは、強度、均一性に優れると共に、摩擦堅牢性にも優れる、衣料、産業資材など多方面に利用可能な品質に優れた原着極細繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、柔軟性や取り扱い性を向上させる、あるいは表面積を増大させて効率的に機能性を発現させる、などの目的で繊維を極細化する方法が種々検討され一般化している。
極細繊維を得る方法としては、直接細繊度化する方法の他、2成分分割型断面複合繊維を分割する方法、海島型繊維から海成分を抽出除去する方法が一般的であり、単糸の細さが数μm以下の場合、海島型繊維から海成分を抽出除去する方法が工程面の優位性から多く用いられている。特に連続海島型複合繊維から海成分を抽出除去すると長繊維でかつ均一な系の極細繊維を得ることができる。
【0003】
一方、繊維を発色させるには染色や、顔料による原料着色の方法が取られている。極細繊維は表面積が大きくなるため、濃色とするには染料や顔料の含有率を通常の繊度の繊維と比較して相当上げる必要がある。しかし、染料や顔料の濃度を上げると強度が低下し、特に極細繊維においては元々の繊度が小さい為強度の低下による影響が著しく、実用に耐えられないという問題を有していた。
【0004】
このような問題を解決する為、カーボンブラックの含有率が多く濃色性であるにもかかわらず高い強度を有する原着極細繊維として、ナイロン6又はポリエチレンテレフタレートを島成分とし、ポリエチレンを海成分とする海島型複合繊維をポリエチレンの溶媒である熱トルエンで処理して海成分を除去したものが提案されているが(特許文献1)、この繊維は島成分の分散に限りがある上、溶剤を使用する為環境面にも配慮する必要があり、製造コストが高くなるという問題がさけられない。
【0005】
また、カーボンブラックを含有する、ガラス転移点が60℃以上の島成分と易溶解性海成分を組み合わせ、島数100以上の海島複合繊維から海成分を抽出除去する、強度、濃染性に優れた繊維が提案されている(特許文献2)。この文献の実施例中に記載されている方法では、島成分、海成分共ポリエステル系ポリマーを用い、アルカリ減量により海成分を除去するものであり、良好な物性のものを得ることが可能であるものの、海成分溶出除去時に、島成分のポリエステル表面も一部溶解し、強度のばらつきが出やすく、カーボンブラックにより汚染されることがあり、アルカリ減量の制御が困難であること、および摩擦堅牢性も著しく低いという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−146624号公報
【特許文献2】特開2008−88562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術を背景になされたもので、強度、均一性に優れると共に、摩擦堅牢性にも優れる、衣料、産業資材など多方面に利用可能な品質に優れた原着極細繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、平均1次粒径5〜50nmの顔料を1〜20重量%含有する繊維形成性ポリマーから構成され、その直径が10〜2500nmの極細繊維であって、該極細繊維は熱水溶解性海成分を用いた海島型複合繊維から海成分を溶出除去して得られたものであり、かつ極細繊維の強度の平均値が1〜6cN/dt、強度の変動計数cv%が10%以下であることを特徴とする原着極細繊維が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原着された島成分を有する海島型複合繊維において、熱水溶解可能な海成分をポリマーを用い、それを抽出除去することによって、実用に耐えうる均一で十分な強度があり、且つ濃色の極細繊度の単糸(極細繊維)からなる、工程安定性にも優れたハイマルチフィラメント糸が提供される。したがって、本発明による原着極細繊維は、従来さらなる低コスト化、あるいは、さらなる極細化や濃色化が要求されている各種用途分野に好適に適用することができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本発明においては、繊維断面においてマトリックスとなる海成分ポリマー中に極細繊維を構成する島成分ポリマーが多数の島となって繊維軸方向に連続して存在する海島型複合繊維から、極細繊維の単糸からなるハイマルチフィラメント糸が製造される。
【0012】
上記海島型複合繊維を構成するポリマーの組合せは、海成分ポリマーの溶解性が島成分ポリマーの溶解性よりも高く、海成分が熱水溶解性であることが必要である。ここで、熱水可溶性とは、95℃の熱水に60分間浸した際に完全に熱水中に溶解することを意味するものであり、熱水可溶性ポリエステルを海成分とした複合繊維とすることによって、織編物加工工程で一般的な精練工程において、アルカリなどの薬品を用いずに海成分を溶解除去し、複合繊維中の島成分を各々に完全に分割することにより極細繊維を得ることができる。
【0013】
海成分/島成分の溶解速度比は200以上であることが好ましい。また、島成分が熱水溶解性である場合、複合繊維断面中央部の海成分を溶解させている間に、繊維断面表層部の島成分の一部も溶解されるため、島成分には熱水溶解性のものは適さない。
海成分として好ましい熱水溶解性ポリマーとしては、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系のポリマーを挙げることができる。
【0014】
本発明における島成分のポリマーは、繊維形成性ポリマーであれば特に限定されるものではなく、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマーなどが挙げられる。素材の汎用性、繊維形成性の点からは芳香族ポリエステル系ポリマーが好ましく、具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどを挙げることができる。
【0015】
本発明においては、島成分には顔料が添加される。添加する顔料としては、平均1次粒径が5〜50nmのものを使用する必要がある。顔料の平均1次粒径が5nm未満の場合は充分な濃色性を得られず、50nmを超えると顔料が均一に分散されにくくなり、色斑が発現しやすくなる。
【0016】
また、島成分に含まれる顔料の含有量は、島成分重量を基準にして1〜20重量%とする必要がある。顔料の含有量が1重量%より少ないと有用な濃色性を得難く、20重量%を越えると紡糸調子が不良となるという問題が生じる。なお、島成分には上記顔料の他に、必要に応じて、安定剤、難燃剤などの添加剤を添加しても差し支えない。顔料としては、カーボンブラックの他有機系、無機系の剤、およびこれらを組み合わせてを任意に選択することができる。
【0017】
島成分がポリエステル系の場合、海成分もポリエステル系であることが海島断面の形成性、経時安定性から好ましい。海成分となる熱水溶解性ポリエステル系の具体例としては、特開平1−272820号公報、特開昭61−296120号公報、特開昭63−165516号公報および特開昭63−159520号公報等に記載されているような、5−ナトリウムスルホイソフタル酸およびイソフタル酸を特定量共重合した共重合ポリエステル、5−ナトリウムイソフタル酸、イソフタル酸およびポリアルキレングリコールもしくはその誘導体を特定量共重合した共重合ポリエステル、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、イソフタル酸および脂肪族ジカルボン酸を特定量共重合した共重合ポリエステルなどが挙げられる。好ましくは7〜13モル%の5−ナトリウムスルホイソフタル酸および8〜30
モル%のイソフタル酸が共重合されている共重合ポリエステルから選ばれることが好ましい。5−ナトリウムスルホイソフタル酸が7モル%未満の場合では、充分な熱水可溶性が得られず、13モル%を超える場合は、複合繊維紡糸時の断糸が増加し、工程安定性が悪化する傾向があるので不適切である。また、イソフタル酸が8モル%未満の場合では、充分な熱水可溶性が得られず、30モル%を超える場合は、複合繊維紡糸時の断糸が増加し、工程安定性が悪化するだけでなく、非晶性となり軟化点が低下するため、延伸後の熱セット温度が上げられず、海成分を溶解除去して得られるポリ乳酸極細繊維は充分な強度を保持できないので不適切である。
【0018】
本発明で使用する海島型複合繊維においては、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの方より大きくすることが好ましく、そのように設定することにより海成分の複合重量比率が40%以下のように低くなっても、島同士が互に接合したり、或は島成分の大部分が互に接合して海島型複合繊維とは異なるものを形成することがない。また島径が均一になりやすく、そのため高延伸できることにより従来にない超極細繊度、高強度繊維が得られる。
【0019】
上記の海成分と島成分の溶融粘度比(海/島)は、0.8〜2.5であることが好ましく、より好ましくは1.1〜2.0、最も好ましくは1.3〜1.5の範囲内である。この比が0.8倍未満の場合には、工程の安定性溶融紡糸時に島成分が互に接合しやすくなり、一方溶融粘度比が2.5倍を超える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸工程の安定性が低下しやすい。
【0020】
さらに、海島型複合繊維としては、その海島複合重量比率(海:島)は、95:5〜5:95の範囲内にあることが必要であり、好ましくは30:70〜10:90の範囲内にあることが好ましい。より好ましくは40:60〜10:90である。上記範囲内にあれば、島成分間の海成分の厚さを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になる。ここで海成分の割合が5重量%未満の場合には、海成分の量が少なくなりすぎて、島間に相互接合が発生しやすくなる。
【0021】
また海島型複合繊維における島成分数は、多いほど海成分を溶解除去して極細繊維を製造する場合の生産性が高くなり、しかも得られる極細繊維も顕著に細くなって、超極細繊維特有の柔らかさ、滑らかさ、光沢感と共に高抗菌性などを発現することができるので、島成分数は100以上であることが好ましく、より好ましくは500以上である。なお、島成分数があまりに多くなりすぎると、紡糸口金の製造コストが高くなるだけでなく、紡糸口金の加工精度自体も低下しやすくなるので、島成分数を1000以下とすることが好ましい。
【0022】
本発明で使用する海島型複合繊維は、上記の海成分、島成分を公知の海島型複合繊維装置を用いて繊維化することにより得られる。
かくして得られる、本発明の極細繊維は、強度の平均値が1〜6cN/dt、強度の変動計数cv%が10%以下であることが必要である。強度が1cN/dtを下回ると取り扱い面および実用的用途への適用が困難となり、6cN/dtを超えるものとなると一般的な製法では得ることが難しい。また、強度のばらつきを表すcv%は10%を超えるとばらつきが大きくなり品質面の制御が困難となるばかりか、強度の低い部分が切断し、汚染の原因となる可能性がある。
【0023】
本発明の極細繊維は、直径10〜2500nmである必要がある。10nm未満のものは作成が困難であり、2500nmを越えるものは極細繊維特有の性質を発現しにくい。好ましくは、100〜1000nmである。極細繊維の繊度のばらつきを表すcv%値は、0〜25%であることが強度のばらつきと同様に品質管理および原着繊維による汚染防止の面から好ましい。より好ましくは0〜20%である。
【0024】
本発明の極細繊維は、必要に応じて少量の添加剤、例えば滑剤、ラジカル捕捉剤、酸化防止剤、固相重合促進剤、整色剤、蛍光増白剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤、難燃剤又は艶消剤等を含んでいてもよい。
【0025】
上記本発明の極細繊維製造用の海島型複合繊維は、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、まず溶融粘度が高く且つ易溶解性であるポリマーと溶融粘度が低く且つ難溶解性で特定のTgをもつポリマーとを、前者が海で後者が島となるように溶融紡糸する。すでに述べたとおり、海成分と島成分の融粘度の関係は重要で、海成分の比率が小さくなって島間の厚みが小さくなると、海成分の溶融粘度が小さい場合には島間の一部の流路を海成分が高速流動するようになり、島間に接合が起こりやすくなるので好ましくない。
【0026】
溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、多数の島を形成するための中空ピン群や極細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば中空ピンや極細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面形成がなされるいかなる紡糸口金でもよい。
【0027】
そして、かかる紡糸口金から吐出された海島型断面複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。より好ましくは1000〜3500m/分である。紡糸速度が400m/分以下では生産性が悪く、6000m/分以上では紡糸安定性が悪いので好ましくない。
【0028】
得られた複合繊維未延伸糸は一旦巻き取り、別途延伸工程にて延伸・熱セットし、所望の強伸度・熱収縮特性などを有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取って所望の強伸度・熱収縮特性などを有する複合繊維とする方法のいずれも適用することが出来る。具体的には、該未延伸糸を60〜190℃、好ましくは75℃〜180℃の予熱ローラー上で予熱し、延伸倍率1.2〜6.0倍、好ましくは2.0〜5.0倍で延伸し、セットローラー120〜220℃、好ましくは130〜200℃で熱セットを実施することが好ましい。予熱温度不足の場合には目的とする高倍率延伸を達成することができなくなる。セット温度が低すぎると収縮率が高すぎるため好ましくない。また、セット温度が高すぎると該繊維の物性が著しく低下するため好ましくない。
【0029】
得られた複合繊維の海成分を溶解除去して極細繊維とするには、熱水を用いて海成分ポリマーを選択的に溶出させる方法であればいかなる方法も採用できる。
海成分の溶解除去は、織編物などの布帛の段階で行うのがよいが、糸、紐、綿の段階や二次製品の段階で行っても差し支えない。
【0030】
かかる本発明の原着極細繊維を少なくとも一部に有する繊維製品は、糸、組み紐状糸、短繊維からなる紡績状糸、織物、編物、フェルト、不織布、人工皮革などの中間製品とすることができる。これらをジャケット、スカート、パンツ、下着などの衣料、スポーツ衣料、衣料資材、カーペット、ソファー、カーテンなどのインテリア製品、カーシートなどの車両内装品、化粧品、化粧品マスク、ワイピングクロス、健康用品などの生活用途に適用することができる。
【0031】
本発明の複合繊維を布帛とする場合は、布帛全てに用いてもよく、部分的に用いても良い。その組織は特に限定されず、織物でもよいし編物でもよいし不織布でもよい。
【実施例】
【0032】
次に、本発明を実施例によって本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例中の評価、測定は次のとおり実施した。
【0033】
(1)顔料の平均1次粒径
顔料を含有するポリマーまたは、その成形品(繊維)をエッチング処理した後、日立社製SEM(S3500−N)で観察し粒子のサイズを観察した。観察した1粒の粒子について、最大となる長さ(Dmax)および最小となる長さ(Dmin)を測定し、平均値(Dave)を測定した。その後、同様の操作を繰り返し、100粒の粒子の平均値(Dave)をそれぞれ求め、この100粒あたりの平均値を平均1次粒径(D)と定義した。
【0034】
(2)極細単糸繊維の繊維径と繊度、繊維径の均一性
海成分溶解除去後の極細繊維の10000倍の走査型電子顕微鏡観察により、1本の複合繊維内の極細単糸繊維について、平均単糸繊維直径を算出した。繊維径より繊度を算出した。
繊維径の均一性として、繊維直径のばらつき(cv%)を算出し、評価した。海成分溶解除去後の極細単糸繊維の10000倍の走査型電子顕微鏡観察により、繊維径を求めた。ランダムに選択した50本の極細単糸繊維の繊維径データから平均単糸繊維径(r)と標準偏差(σ)を算出し、以下に定義する繊維径変動係数(CV)を算出した。
繊維径変動係数(cv%)=σ/r
【0035】
(3)極細繊維の強度、強度の均一性
室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JIS L−1013に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に破断時の荷重値を初期の繊度で割った値を引張り強度とした。
海成分溶解除去後の極細繊維からランダムに選択した50本のハイマルチフィラメント糸の強度データから、平均強度(st)と標準偏差(σ)を算出し、以下に定義する強度変動係数(cv%)を算出した。
強度変動係数(cv%)=σ/st
【0036】
(4)海溶解後布帛の色斑
顔料の分散性の指標として、海成分溶出除去後の布帛に色斑があるかどうかを目視で確認し、色斑があるものを×、色斑がないものを○と判定した。
【0037】
(5)摩擦堅牢性
海成分溶出除去後の布帛を試験布として、摩擦堅牢度試験用の学振型平面摩耗機を使用し、摩擦布としてポリエチレンテレフタレート100%よりなる未染色のジョーゼットを用い、試験布を500gの荷重下で2000回摩耗させ、ジョーゼットへの色移りを目視にて3段階で評価した。全く色移りがないものを○、色移りが見られるものを×とした。
【0038】
実施例1
島成分として平均1次粒径が18nmのカーボンブラックを5%含有する285℃での溶融粘度が1200poiseのポリエチレンテレフタレートを用い、海成分として260℃/1000sec
−1における溶融粘度が2100poiseである、5−ナトリウムスルホイソフタル酸10モル%、およびイソフタル酸29モル%、分子量4000のポリエチレングリコール2.7重量%を共重合した熱水溶解性ポリエステルを用い、島成分数900、ホール数10の海島型複合紡糸用口金を用いて、公知の複合紡糸機にて複合重量比率(海:島)が30:70の海島型複合繊維を、紡糸温度260℃で溶融紡糸した後、引き取り速度1000m/分で巻き取った。
続いて、得られた未延伸糸をホットロール−ホットロール系延伸機を用いて、延伸温度80℃、熱セット温度150℃で延伸倍率4倍にて延伸を行い、56dtexのマルチフィラメント延伸糸(海島型複合繊維)を得た。
得られたマルチフィラメント延伸糸を用いて、目付け100g/m
2となるよう筒編みを作成した。続いて、筒編みを攪拌下95℃の熱水で精練と同時に海成分を溶解除去し、布帛として極細繊維構造体を得た。得られた極細繊維は強度およびその均一性に優れ、布帛の濃色性も良好で色斑も見られないものであった。各物性を表1に示す。
【0039】
実施例2
島成分として平均1次粒径が25μmの赤、黄色の混合色顔料を2%含有する260℃での溶融粘度が2000poiseであるナイロン6を用い、他は実施例1と同様にして海島型複合繊維を成型し、極細繊維、および海成分溶出除去を行い布帛を得た。得られた極細繊維は強度およびその均一性に優れ、布帛の濃色性も良好で色斑も見られないものであった。各物性を表1に示す。
【0040】
比較例1
海成分として、285℃での溶融粘度が1600poiseである平均分子量4000のポリエチレングリコール(PEG)を3wt%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸(SIP)を9mol%共重合した改質ポリエチレンテレフタレート用いた以外は実施例1と同様に実施した。海成分は熱水では溶解しない為、4%NaOH水溶液で95℃にて減量加工を行った。得られた極細繊維は減量時の制御が困難であり、強度のばらつき、および色斑もみられるものであった。各物性を表1に示す。
【0041】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、容易に顔料の均一性に優れた原着極細繊維からなる品質に優れたハイマルチフィラメント糸を、生産性よく且つ低コストで提供することができる。したがって、従来さらなる低コスト化、あるいは、さらなる極細化且つ濃染化が要求されている各種用途分野に好適に使用することができるものである。