(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転軸に、略円盤状の被組立部材
としてのインペラを組み立てて回転体を構成する際の回転体のバランス調整方法であって、
前記
インペラを前記回転軸に組み立てる部材組立工程と、
前記回転軸に組み立てられた前記
インペラの周方向に沿った軸方向の変位分布を計測する第一変位計測工程と、
前記第一変位計測工程により計測した前記
インペラの前記軸方向の変位分布に基づいて、前記
インペラの前記回転軸に対する傾き量を算出する傾き量算出工程と、
次式(1)で求められる距離L1によって定められる前記
インペラの前記回転軸に直交する一面で、前記傾き量に基づいて算出された重量の調整を行う調整工程とを有することを特徴とする回転体のバランス調整方法。
【数1】
L
1:
前記インペラにおける上流側端面と前記回転軸の中心軸との交点である傾きの基点から一面までの距離(mm)
L
G:
前記傾きの基点から被組立部材の重心までの距離(mm)
I
P:極慣性モーメント(kg−mm
2)
I
D:直径慣性モーメント(kg−mm
2)
m:被組立部材の質量(kg)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のバランス調整においては、被組立部材の回転軸に直交する異なる二面において不釣合いを修正する構成であるため、修正箇所が多くなり、バランス調整に費やす修正時間が長くなってしまうという問題がある。
【0007】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、調整に要される時間を短縮することができる回転体のバランス調整方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明の回転体のバランス調整方法は、回転軸に、略円盤状の被組立部材
としてのインペラを組み立てて回転体を構成する際の回転体のバランス調整方法であって、前記
インペラを前記回転軸に組み立てる部材組立工程と、前記回転軸に組み立てられた前記
インペラの周方向に沿った軸方向の変位分布を計測する第一変位計測工程と、前記第一変位計測工程により計測した前記
インペラの前記軸方向の変位分布に基づいて、前記
インペラの前記回転軸に対する傾き量を算出する傾き量算出工程と、次式(1)で求められる距離L1によって定められる前記
インペラの前記回転軸に直交する一面で、前記傾き量に基づいて算出された重量の調整を行う調整工程とを有することを特徴とする。
【0009】
【数1】
【0010】
L
1:
前記インペラにおける上流側端面と前記回転軸の中心軸との交点である傾きの基点から一面までの距離(mm)
L
G:
前記傾きの基点から被組立部材の重心までの距離(mm)
I
P:極慣性モーメント(kg−mm
2)
I
D:直径慣性モーメント(kg−mm
2)
m:被組立部材の質量(kg)
【0011】
上記構成によれば、被組立部材の傾きに起因するアンバランスを修正することができる。また、修正面が一面のみでよいため、バランス調整にかかる作業時間を短縮することができる。
【0012】
また、上記回転体のバランス調整方法において、前記回転軸に組み立てられた前記
インペラの周方向に沿った径方向の変位分布を計測する第二変位計測工程と、前記第
二変位計測工程により計測した前記
インペラの径方向の変位分布に基づいて、前記
インペラの前記回転軸に対する偏心量を算出する偏心量算出工程とを有し、前記調整工程において、前記偏心量に基づいた調整を行うことが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、被組立部材の傾きに起因するアンバランスと同時に、被組立部材の偏心によるアンバランスを修正することができる。
【0014】
また、上記回転体のバランス調整方法において、前記部材組立工程の前に、前記回転軸及び前記
インペラの重量の調整を行う単体調整工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被組立部材の傾きに起因するアンバランスを修正することができる。また、修正面が一面のみでよいため、バランス調整にかかる作業時間を短縮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のバランス調整方法によって調整される回転体を有する回転機械の一例として、圧縮機を示している。
図1に示すように、圧縮機1は、外郭をなす筐体2と、筐体2に対して軸回りに回転可能に支持された回転軸11及び回転軸11に組み立てられた被組立部材である複数のインペラ12で構成される回転体10と、回転軸11及びインペラ12の周囲に各インペラ12との間に連続した複数の作動室3を形成するように配置されたダイヤフラム4とを備える。
【0018】
筐体2には、流体が流入する吸込口5と流出する吐出口6とが設けられ、また、流体が回転軸11に沿って筐体2外部へ流出するのを防止するシール7が設けられている。インペラ12は、それぞれ、略円盤状の本体12aと、本体12aの吸込口5側の一面に放射状に立設された複数の羽12bと、羽12bの先端に形成されたシュラウド12cとで構成され、本体12aと羽12bとシュラウド12cとで形成される流路12dによって軸方向に沿って流入する気体を径方向外側へ排出可能となっている。また、吸込口5と最も吸込口5に近接したインペラ12E、12Fとの間には入口案内羽根8が設けられている。
【0019】
このような圧縮機1では、外部から回転力が回転軸11に伝達され、インペラ12が回転する。流体は吸込口5から流入し、入口案内羽根8によってインペラ12への流入方向を整えられ、作動室3内で回転するインペラ12により圧縮され、吐出口6より流出される。流入する流体流量が変化すると、吐出口6の流体圧力を一定に保つように、回転軸11の回転数は変更される。ここで、回転軸11及びインペラ12で構成される回転体10は高速で回転し、不釣合いが生じているとその不釣合い量により振動が発生しまうことから、組み立てる際にバランス調整が行われている。以下に、本実施形態のバランス調整方法を説明する。
【0020】
図2は、本実施形態のバランス調整方法のフロー図を示している。ここで、本実施形態では、複数のインペラ12(12A、12B、12C、12D、12E、12F)を、軸方向中心から順に左右一対として、すなわちインペラ12A、12Bを第一の組、インペラ12C、12Dを第二の組、インペラ12E、12Fを第三の組とするように二つずつで組をなすようにして、各組ごとに以下の工程を行っていく。
【0021】
まず、回転軸11に軸方向中心位置に最も近い第一の組であるインペラ12A、12B
を組み付ける前に、単体調整工程S1として、回転軸11、及びインペラ12A、12Bのバランス調整を行う。即ち、回転軸11、及びインペラ12A、12Bのそれぞれを単体でバランス調整を行う。バランス調整は、例えば、調整対象をバランサーに取り付けて測定を行い、適切な箇所にウェイト(重り、修正重量)を取り付けたり、切削したりすることで行う。
【0022】
次に、
図2及び
図3に示すように、部材組立工程S2として、インペラ12A、12Bを回転軸11に対して組み付ける。
【0023】
次に、第一変位計測工程S3Aとして、一方のインペラ12Aについて、軸方向の変位分布の計測を行う。すなわち、羽12bが設けられておらず、平面を形成する本体12aの他面12fにおいて、径方向外周側の所定の位置にダイヤルゲージDを配置させる。そして、回転軸11を軸回りに回転させることで、周方向に沿って軸方向の変位分布を計測する。
【0024】
次に、傾き量算出工程S4Aとして、第一変位計測工程S3Aにより計測したインペラ12Aの軸方向の変位分布に基づいて、インペラ12Aの回転軸11に対する傾き量θ(
図4参照)を算出する。軸方向の変位分布は即ち、回転軸11に対する平面を形成する本体12aの他面12fの角度であるから、この角度が計測されることによって、インペラ12Aの慣性主軸C2と回転軸11の中心軸C1の傾き量θが算出される。なお、傾きの基点Bは、インペラ12Aの本体12aの一面12eと回転軸11の中心軸C1との交点とする。
【0025】
次に、第一調整工程S5Aとして、一方のインペラ12Aについてバランス調整を行う。バランス調整は、インペラ12Aに重りを設置、あるいは、インペラ12A自体の切削を行い、インペラ12Aにウェイト量を付加、あるいは、削除することによってなされる。
まず、インペラ12Aの偏重量(アンバランス)を修正するために、修正ウェイト量を付加する位置、即ち修正面の位置L
1(mm)、及び修正ウェイト量u
1(kg−mm)を算出する(ステップS5Aa)。
まず、修正面の位置L
1は以下の数式(1)によって算出される。
【0027】
ここで、mはインペラ12Aの質量、L
Gは、傾きの基点Bからインペラ12Aの重心までの距離である。また、I
Pは、インペラ12Aの極慣性モーメントであり、I
Dは、インペラ12Aの直径慣性モーメントである。
【0028】
次に、修正ウェイト量u
1は、傾き量算出工程S4Aにて算出した傾き量θを用いて、以下の数式(2)によって算出される。
u
1=m・L
G・θ ・・・(2)
即ち、数式(1)によって算出される、修正面の位置L
1において、修正ウェイト量u
1に基づいてインペラ12Aのアンバランスが修正される。
【0029】
ここで、上記数式(1)、及び数式(2)の導出方法について
図4を参照して説明する。まず、数式(2)による修正ウェイト量u
1の算出方法について説明する。
まず、インペラの傾きによるアンバランスをインペラの入口側及び出口側の二面で修正する方法について説明する。
【0030】
[二面修正重量の算出]
図4に示すように、インペラの回転軸方向慣性主軸C2が、回転軸11の中心軸受C1に対してθ(rad)傾いて取り付けられた場合、回転軸11に対するインペラ慣性主軸C2の傾き及び重心のずれにより、モーメントアンバランスM
θ、及び偏心アンバランスU
θの二つのアンバランスが生じる。
モーメントアンバランスM
θは、以下の数式(3)で表される。
M
θ=(I
P−I
D)・θ ・・・(3)
上述したように、I
Pは、インペラ12Aの極慣性モーメントであり、I
Dは、インペラ12Aの直径慣性モーメントである。
【0031】
偏心アンバランスU
θは、以下の数式(4)で表される。
U
θ=m・ε
θ
=m・L
G・θ ・・・(4)
上述したように、mはインペラ質量、L
Gは傾きの基点Bからインペラ12Aの重心までの距離である。また、ε
θ=L
G・θであり、インペラ傾きによる偏心量である。
【0032】
これらのインペラ傾き量θによるアンバランスに対する修正ウェイト量計算式を以下に示す。ここで、バランス修正は、インペラ入口側と出口側の二面で行うものとし、それぞれにおける修正ウェイト量u
1(kg−mm)及びu
2(kg−mm)を求める。これは、力およびモーメントの釣合式を連立させることにより、インペラの傾きθ(rad)の関数として一意に求めることができる。
【0035】
ここで、L
1は、傾きの基点Bからインペラ入口側修正面までの距離(mm)であり、L
2は、傾きの基点Bからインペラ出口側修正面までの距離(mm)である。
【0036】
[一面修正重量の算出]
次に、一面修正重量の算出方法について説明する。
ここで、数式(6)に着目し、θの係数に関して、以下の式が成り立つようにL
1を設定する。
【0038】
このように設定すると、インペラの傾きθに関わらず、常にインペラ出口側の修正ウェイト量u
2がu
2=0となることがわかる。即ち、インペラ入口側の修正ウェイト量のみによって、インペラの傾きによる不釣合いが修正できることがわかる。
数式(7)を変形することにより、このときの入口側修正面の位置L
1(mm)が、次の数式(8)によって得られる。
【0040】
このとき、インペラ入口側の修正ウェイト量u
1(kg−mm)は,数式(5)に数式(8)を代入することにより、次のように得られる。
【0042】
これは数式(4)で表されるインペラ傾きによって生じる偏心アンバランスU
θに等しいことが分かる。
以上により数式(1)及び数式(2)の導出方法が説明された。
【0043】
さらに、ウェイト量u1を調整する周方向の位置を算出する。なお、アンバランスの算出に必要な情報として、インペラ12Aの形状、寸法、重量などは予め取得している。
次に、算出された周方向の位置で、ウェイト量u1の調整、すなわち重りの設置、あるいは、インペラ12A自体の切削を行う(ステップS5Ab)。これにより、組み付けた一方のインペラ12Aの傾き量θによるアンバランスについて、バランスを調整することができる。
【0044】
次に、同様の工程を第一の組の他方のインペラ12Bについても実施する。即ち、まず、第一変位計測工程S3Bとして、他方のインペラ12BについてダイヤルゲージDを用いて同様に変位分布を計測する。次に、傾き量算出工程S4Bとして、インペラ12Bの傾き量θを算出する。そして、第一調整工程S5Bとして、修正面の位置L
1(mm)、及び修正ウェイト量u
1(kg−mm)を算出し(ステップS5Ba)、これを解消するようなバランス調整を行う(ステップS5Bb)。これにより、組み付けた他方のインペラ12Bの傾き量θによるアンバランスを修正することができる。
【0045】
図2及び
図5に示すように、第二の調整工程S6では、まず、回転軸11に一対のインペラ12A、12Bが組み付けられた状態で、これらを一体として回転させ、動不釣合い量の計測を行う(ステップS6a)。なお、動不釣合い量の計測は、公知のバランスマシンによって行われる。そして、各インペラ12A、12Bの各重心ma,mbの位置を含んで回転軸11に直交するように予め設定された二面Lga、Lgbの位置で、求めた動不釣合いを解消するのに調整することが必要な重量Na、Nb、及び、当該重量を調整する周方向の位置を算出する。そして、実際に、二面Lga、Lgbのそれぞれ算出した周方向の位置で、重量Na、Nbの調整を行う(ステップS6b)ことで、組み立てた回転軸11及びインペラ12A、12B全体のバランスを調整することができる。
【0046】
ここで、上記二面Lga、Lgbを各インペラ12A、12Bの重心ma,mbの位置を含む回転軸11に直交する面に設定していることで、各第一の調整工程S3A、S3Bで行った各インペラ12A、12Bの偶釣合いが崩れてしまうことなく、全体のバランス調整を行うことができる。
【0047】
そして、第二調整工程S6を終えて、全てのインペラ12が組み立てられている場合には、回転体10の組立及びバランス調整が終了する(ステップS7)。上記においては、まだ、第一の組である二つのインペラ12A、12Bのみが組み付けられただけであるので、次に、第二の組のインペラ12C、12Dについて、単体調整工程S1〜第二の調整工程S6までの一連の工程を同様に実施する。
【0048】
このようにして、全ての組のインペラ12において、単体調整工程S1〜第二の調整工程S6までの一連の工程を実施することで、全てのインペラ12がそれぞれとしてバランスが調整された状態で回転軸11に組み付けられるとともに、回転体10全体としてもバランスを調整することができ、回転体10の不釣合いを確実に解消し、圧縮機1として組み立てられて回転する時の振動発生を防止することができる。
【0049】
上記実施形態によれば、インペラ12の傾き量θに起因するアンバランスを修正することができる。また、修正面が一面のみでよいため、バランス調整にかかる作業時間を短縮することができる。
【0050】
(第二実施形態)
第二実施形態を
図6及び
図7に基づいて説明する。また、この実施形態において、前述した実施形態で用いた部材または工程と共通の部材又は工程には同一の符号と付して、その説明を省略する。
【0051】
図6に示すように、本実施形態の回転体のバランス調整方法は、第一実施形態のバランス調整方法の第一調整工程S5において、インペラの傾き量θによるアンバランスに、インペラ自体の偏心量によるアンバランスを合成して、同時に修正することを特徴としている。即ち、インペラ12の組付け時における径方向のアンバランスの修正を同時に行うことを特徴としている。
【0052】
具体的には、
図7に示すように、第一変位計測工程・第二変位計測工程S3において、軸方向の変位分布を計測するとともに、径方向の変位分布を計測する。即ち、インペラ12Aのシュラウド12cの外周面において、軸方向の所定の位置にダイヤルゲージDを配置させる。そして、回転軸11を軸回りに回転させることで、周方向に沿って径方向の変位分布を計測する。
次いで、傾き量・偏心量算出工程S4において、傾き量θ及び偏心量を算出し、第一調整工程S5においては、この傾き量θ及び偏心量に基づいた調整を行う。
【0053】
上記実施形態によれば、インペラの傾き量θによるアンバランスと同時に、インペラの偏心量によるアンバランスを修正することができる。
【0054】
(第三実施形態)
第三実施形態を
図8に基づいて説明する。本実施形態は、第一実施形態のバランス調整方法又は第二実施形態のバランス調整方法において、インペラ12にウェイト取付穴15を設けることを特徴としている。
【0055】
ウェイト取付穴15は、インペラの本体12aに他面12f側より、軸方向に沿って形成されたネジ穴である。ウェイト取付穴は、所定の深さを有しており、インペラ12の周方向に複数設けられている。
ウェイと取付穴15に取り付けられるウェイト16は、円筒形をなし、その外周面には、ウェイト取付穴に対応する雄ネジが形成されている。また、ウェイト16は、複数種用意されており、第一調整工程S5にて算出された修正面の位置、及び修正ウェイト量u1に応じてウェイト取付穴15に取り付けられるようになっている。
ウェイト16を取り付ける際には、第一調整工程S1にて決定された位置に応じて、ウェイト16を取り付けることができる。
【0056】
上記実施形態によれば、作業者が修正箇所を間違うことなく作業を行うことができる。
また、バランス修正の再現性を向上させることができる。即ち、削り加工では、アンバランス修正量の制度に問題があったが、精度を向上させることができる。