(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
熱伝達流体の蒸発と、熱伝達流体の圧縮と、70℃以上の温度での熱伝達流体の凝縮と、熱伝達流体の減圧とを順次行う、熱伝達流体を収容した蒸気圧縮回路を用いた、熱伝達方法であって、
上記熱伝達流体が熱伝達流体中の1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの重量比率が20%以下になるように1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンと、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンとを含み、
熱伝達流体中の1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの重量比率が97%以上である、
ことを特徴とする方法。
1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの重量比率が20%以下になるように、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンと1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンとを含み、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの重量比率が97%以上である熱伝達流体。
【背景技術】
【0002】
フルオロカーボン化合物をベースにした流体は多くの工業機器、特に空調、ヒートポンプまたは冷蔵機器で広く使われている。これらの機器に共通する特徴は低圧で流体を蒸発し(流体が熱を吸収)、蒸発した流体を高圧へ圧縮し、蒸発した流体を凝縮して高圧の液体にし(流体が熱を放出)、流体の圧力を下げてサイクルを完了させるという熱力学サイクルをベースにしている点にある。
【0003】
熱伝達流体(純粋化合物または混合物)は流体の熱力学的性質と、他の追加的拘束条件とによって選択される。特に重要な選択の判定基準は対象としている流体の環境に対する影響である。特に、塩素化物(クロロフルオロカーボンやヒドロクロロフルオロカーボン)はオゾン層を破壊するという欠点があるので、一般にはハイドロフルオロカーボン、フルオロエーテルおよびフルオロオレフィンのような非塩素化物が好ましい。
【0004】
既存の熱伝達装置の一つに高温ヒートポンプすなわち凝縮温度が70℃以上、実際には80℃以上であるヒートポンプがある。この装置は特に高温の流体に付加価値を与えるために工業的に使用されている。
【0005】
しかし、高温ヒートポンプには設計上の問題がある。すなわち、このタイプのシステムの温度および圧力上の制約から、使用できる流体がほとんどないという問題がある。他の用途で熱伝達に用いられているHFC−134aのような流体は臨界温度が凝縮温度より低いため、高温での熱伝達性能が極めて悪く、上記用途には適していない。
【0006】
高温ヒートポンプにこれまで使用されてきた熱伝達化合物はCFC−114(ジクロロフルオロエタン)である。この化合物は環境に影響(負荷)を与えるため代替する必要がある。
【0007】
特許文献1(米国特許第US6814884号明細書)には1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)を、1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、ペンタフルオロエタン(HFC−125)、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)および1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオロプロパン(HFC−227ea)の中から選ばれる少なくとも一つの追加の化合物と組み合わせた使用が記載されている。HFC−365mfcは40〜95重量%の量で、追加の化合物は5〜60重量%の量で存在する。75重量%のHFC−365mfcおよび25重量%のHFC−227eを用いた具体例が挙げられている。
【0008】
特許文献2(米国特許第US 2009/0049856号明細書)には高温熱伝達用の三成分混合物の使用が記載されている。この三成分混合物は1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)、1,1,1,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン(HFC−236ea)および1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)から成る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施例では、熱伝達流体の凝縮を70〜150℃、好ましくは90〜140℃の温度で行う。
本発明の一実施例では、上記方法が流体または物体の加熱方法であり、蒸気圧縮回路がヒートポンプを形成する。
【0013】
本発明の一実施例では、熱伝達流体中の1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの重量比率が2〜16%、好ましくは5〜13%、特に好ましくは8〜10%である。
本発明の一実施例では、熱伝達流体中の1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの重量比率が97%以上である。
【0014】
本発明の他の対象は、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンと、1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンとを、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの重量比率が20%以下になるように含む、上記方法の実行に適した熱伝達流体にある。
本発明の一実施例では、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンの重量比率は2〜16%、好ましくは5〜13%、特に好ましくは8〜10%である。
本発明の一実施例では、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタンおよび1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパンの重量比率は97%以上である。
【0015】
本発明のさらに他の対象は、上記の熱伝達流体と、潤滑剤、安定剤、界面活性剤、トレーサ、蛍光剤、香料、可溶化剤およびこれらの混合物の中から選択される一種以上の添加剤とを含む熱伝達組成物にある。
本発明のさらに他の対象は、上記の熱伝達流体または上記の熱伝達組成物を含む蒸気圧縮回路を有する熱伝達設備にある。
本発明の一実施例では、上記設備はヒートポンプ設備である。
【0016】
本発明は従来技術の上記欠点を克服することができる。本発明は特に、効率的な高温熱伝達を実行できる熱伝達流体を提供し、この熱伝達流体を用いることで環境に大きな負荷を与えずに、高温ヒートポンプを効率的に運転することができる。
【0017】
以下、本発明および非限定的な具体例をさらに詳細する。
「熱伝達化合物(heat-transfer compound)」、「熱伝達流体(heat-transfer fluid)」(または冷媒(refrigerant))という用語は、低い蒸発温度および低い蒸発圧力で蒸発して熱を吸収でき、蒸気圧縮回路中で高い凝縮温度および高い凝縮圧力で縮合して熱を放出する化合物および流体を意味する。熱伝達流体は1種、2種、3種または3種以上の熱伝達化合物から成ることができる。
【0018】
「熱伝達組成物」という用語は、熱伝達流体と、必要に応じて用いる一種または複数の添加剤(これは各用途で熱伝達化合物ではないもの)とを含む組成物を意味する。
本発明の熱伝達プロセスは熱伝達流体を収容した蒸気圧縮回路の使用をベースにしたものである。熱伝達プロセスは流体または物体を加熱または冷却するプロセスにすることができる。
【0019】
熱伝達流体を収容した蒸気圧縮回路は少なくとも一つの蒸発器と、圧縮器と、凝縮器と、膨張装置と、これらの要素間で熱伝達流体を輸送するラインとを有する。
圧縮器としては特に単段または多段の遠心圧縮機または小型遠心圧縮機(またはミニ遠心圧縮機)を使用できる。回転ピストンまたはスクリュー圧縮器も使用できる。圧縮機は電動機、ガスタービン(自動車用では例えば車両の排気ガス駆動)または伝動装置で駆動できる。
【0020】
上記設備は膨張装置をタービンと組み合わせて電気を作ることもできる(ランキンサイクル)。
上記設備はさらに、オプションとして熱伝達流体回路と加熱または冷却される流体または物体との間で熱(状態変化有りまたは無し)を伝達するのに用いる少なくとも一つの熱交換流体回路を有することができる。
【0021】
上記設備はさらに、オプションとして同一または異なる熱伝達流体を収容した2つ(または2つ以上)の蒸気圧縮回路を有することができる。例えば複数の蒸気圧縮回路を連結することができる。
【0022】
蒸気圧縮回路は従来の蒸気圧縮サイクルに従って運転される。このサイクルは比較的低い圧力での液相(または液体/気相2相状態)から気相への熱伝達流体の状態変化と、比較的高い圧力での気相での流体の圧縮と、比較的高い圧力での気相から液相への熱伝達流体の状態の変化(凝縮)と、減圧してサイクルを再び始める段階から成る。
【0023】
冷却プロセスの場合には、液体または被冷却物体からの熱(直接または熱交換流体を介した間接的な熱)が、環境温度と比較して相対的に低い温度で蒸発する時に熱伝達流体によって吸収される。
【0024】
加熱プロセスの場合には、凝縮時に熱伝達流体によって(直接または熱交換流体を介して間接的に)熱が液体または被加熱物体に与えられる。これは環境温度と比較して相対的に高い温度で行われる。この場合に熱伝達を実行できる設備は「ヒートポンプ」として知られている。本発明は特にこのヒートポンプシステムで用いられる。
【0025】
本発明は高温熱伝達プロセス、すなわち、熱伝達流体の凝縮温度が70℃以上、さらには80℃以上であるプロセスに関する。一般に、凝縮温度は150℃以下である。凝縮温度は90〜140℃であるのが好ましい。
【0026】
本発明では、熱伝達流体は少なくとも2つの熱伝達化合物、すなわち、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン(HFC−365mfc)および1,1,1,3,3−ペンタフルオロプロパン(HFC−245fa)を含む。
【0027】
本発明の一実施例では熱伝達流体は二成分タイプである。換言すれば、熱伝達流体が(不純物を除いて)HFC−365mfcとHFC−245faの他に熱伝達化合物を含まないタイプである。しかし、本発明の別の実施例では、熱伝達流体は一種以上の追加の熱伝達化合物、特に炭化水素を5%以下、好ましくは3%以下の重量比率で含む。この追加の熱伝達化合物の例としては、化合物の相溶性を高める利点を有するイソペンタンが挙げられる。
【0028】
本発明の熱伝達流体は下記(1)〜(4)を含むのが有利である:
(1)1〜20重量%のHFC−365mfcと、80〜99重量%のHFC−245fa、
(2)特に、2〜16重量%のHFC−365mfcと、84〜98重量%のHFC−245fa、
(3)特に、5〜13重量%のHFC−365mfcと、87〜95重量%のHFC−245fa、
(4)特に、8〜10重量%のHFC−365mfcと、90〜92重量%のHFC−245fa。
【0029】
これは、上記二成分混合物が対象としている用途で従来の熱伝達流体より良い成績係数を示すことによる。
不燃性(ASTM E681規格に準じる)熱伝達流体を利用できるのが特に有利である。これは二成分混合物のHFC−365mfc含有量が9.4%以下、特に9%以下の場合である。
【0030】
熱伝達流体は一種以上の添加剤と混合して、蒸気圧縮回路中を循環する熱伝達組成物にすることができる。添加剤は特に潤滑剤、安定剤、界面活性剤、トレーサ、蛍光剤、香料および可溶化剤およびこれらの混合物の中から選択できる。
【0031】
安定剤を使用する場合、好ましい安定剤は熱伝達組成物の重量の多くとも5%である。安定剤としては特にニトロメタン、アスコルビン酸、テレフタル酸、アゾール、例えばトルトリアゾールまたはベンゾトリアゾール、フェノール化合物、例えばトコフェロール、ハイドロキノン、(t−ブチル)ハイドロキノンまたは2,6−ジ−tert-ブチル−4−メチルフェノール、エポキシド(アルキル、必要に応じてフッ素化またはパーフッ素化された、または、アルケニルまたは芳香族エポキシド)、例えばn−ブチルグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブチルフェニル・グリシジルエーテル、亜リン酸エステル、ホスホン酸エステル、チオールおよびラクトンを挙げることができる。
【0032】
潤滑剤としては特に鉱物起源のオイル、シリコーン油、パラフィン、ナフテン、合成パラフィン、アルキルベンゼン、ポリ(α−オレフィン)、ポリアルキレン・グリコール、ポリオール・エステルおよび/またはポリビニールエーテルを使用できる。
【0033】
トレーサ(検出可能な試薬)としては重水素化または非重水素化ハイドロフルオロカーボン、重水素化炭化水素、パーフルオロカーボン、フルオロエーテル、臭素化物、沃素化物、アルコール、アルデヒド、ケトン、窒素酸化物およびこれらの組合せを挙げることができる。トレーサは熱伝達流体を形成する熱伝達化合物とは異なるものである。
【0034】
可溶化剤としては炭化水素、ジメチルエーテル、ポリオキシアルキレン・エーテル、アミド、ケトン、ニトリル、クロロカーボン、エステル、ラクトン、アリールエーテル、フルオロエーテルそして、1,1,1−トリフルオロアルカンを挙げることができる。可溶化剤は熱伝達流体を形成する熱伝達化合物とは異なる。
【0035】
蛍光剤としてはナフタルイミド、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、アントラセン誘導体、フェナンスレン、キサンテン誘導体、チオキサンテン誘導体、ナフタキサンテン、フルオレセインおよびこれらの誘導体および組合せを挙げることができる。
【0036】
香料としてはアクリル酸アルキル、アリル・アクリレート、アクリル酸誘導体、アクリル酸エステル、アルキル・エーテル、アルキルエステル、アルキン誘導体、アルデヒド、チオール、チオエーテル、ジスルフィド、イソチオシアン酸アリル、アルカノン酸、アミン、ノルボルネン、ノルボルネン誘導体、シクロヘキセン、複素環芳香族化合物、アスカリドール、o−メトオキシ(メチル)フェノールおよびこれらの組合せを挙げることかできる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明が下記実施例に限定されるものではない。
実施例1
熱伝達流体の特性の計算方法
RK−Soave式を用いて混合物の濃度、エンタルピー、エントロピーおよび液体/蒸気平衡データを計算する。この式を用いるには当該混合物で用いられる純粋物質の特性の知識と、各二成分混合物の相互作用係数とが必要である。
計算に必要な各純粋物質に関するデータは沸点、臨界温度および圧力、温度を関数とする沸点から臨界点までの圧力曲線、温度を関数とする飽和液体および飽和気体の密度である。
【0038】
HFC−245faのデータはASHRAE Handbook 2005の第20章に記載されており、Refprop(冷媒特性計算用にNISTが開発したソフトウェア)で入手することもできる。
【非特許文献1】ASHRAE Handbook 2005の第20章
【0039】
HFC−365mfcのデータはRefprop(冷媒特性計算用にNISTが開発したソフトウェア)で入手することができる。
【0040】
RK−Soave式は混合物としての生成物の挙動を表すために、二成分相互作用係数を使用する。この係数は実験室での液体/蒸気平衡データの関数として計算される。
【0041】
液体/蒸気平衡の測定に使う技術は静止セル分析法である。平衡セルはサファイヤ・チューブから成り、2つの電磁式のRolsi(登録商標)サンプラを備えている。これを凍結浴(Cryothermostat bath)(Huber HS40)中に浸す。可変速度で回転するフィールドドライブを有する電磁攪拌器を用いて加速して平衡に到達させる。サンプル解析はカサロメータ(TCD)を使用してガスクロマトグラフィ(HP5890系列II)で実行した。
【0042】
HFC−245fa/HFC−365mfc二成分混合物での液体/蒸気平衡の測定は100℃の等温度で実行した。
【0043】
実施例2
90℃での凝縮
この実施例では蒸発器、凝縮器、圧縮器、内部交換器および膨張装置を備えた圧縮システムを考える。このシステムは5℃の過熱および59.3%の等エントロピー(Isentropic)効率で運転される。
この実施例では、圧縮システムを蒸発器内の冷媒の蒸発温度30℃と凝縮器内の冷媒の凝縮温度90℃との間の温度で運転する。
【0044】
本発明の組成物の性能を[表1]に示す。各組成物の成分(HFC−245fa、HFC−365mfc)の値は重量百分率で示す。
[表1]中で:
Temp inlet evap:蒸発器の入口での温度
Temp outlet comp:圧縮器の出口での温度
T inlet cond:凝縮器の入口での温度
evap P:蒸発器の圧力
cond P:凝縮器の圧力
Ratio (w/w):圧縮比
Glide:温度グライド
%CAPc:HFC−114で得られる基準容積に対する、対象としている流体で得られる容積の比である
%COP:HFC−114で得られる成績係数に対する、対象としている流体で得られる成績係数の比である(成績係数はシステムに供給されるまたは消費されたパワーに対するシステムによって供給される有効パワーの比として定義)
【0045】
【表1】
【0046】
本発明の熱伝達流体で得られる性能は従来の熱伝達流体、特に上記特許文献1(米国特許第US6814884号明細書)に記載の75%のHFC−365mfcと25%のHFC−227eaとの二成分混合物および特許文献2(米国特許第US 2009/0049856号明細書)に記載の10%のHFC−245faと10%のHFC−236eaと80%のHFC−134aとの三成分混合物より良いことが分かる。
【0047】
実施例3
140℃での凝縮
実施例2と同じ方法で圧縮システムを運転するが、蒸発器内の流体の蒸発温度を80℃にし、凝縮器内の流体の凝縮温度を140℃にした。
本発明の組成物の性能を[表2]に示す。各組成物の成分(HFC−245fa、HFC−365mfc)の値は重量百分率で示す。[表2]中の略語は[表1]の略語と同じ意味を有する。
【0048】
【表2】
【0049】
熱伝達流体は従来の流体、特に上記特許文献1(米国特許第US6814884号明細書)に記載の75%のHFC−365mfcと25%のHFC−227eaとの二成分混合物および特許文献2(米国特許第US 2009/0049856号明細書)に記載の10%のHFC−245faと10%のHFC−236eaと80%のHFC−134aとの三成分混合物より高いキャパシティー(100以上)とより良い成績係数を示す。