(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記巻き取り機構は、前記巻き取り軸が、側面から見て前記前部ビームの下方に位置するように、前記面状支持部材の前端部付近に設けられている請求項1記載の車両用シート。
前記前部ビームが、最も前寄りに配置される第1前部ビーム、前記第1前部ビームと前記中間ビームとの間に配置される第2前部ビーム、前記第1前部ビーム及び前記第2前部ビームの間であって、前記前部サブストリンガーを貫通して前記スライダのアッパーレールの前部付近に連結される第3前部ビームを少なくとも備えた複数本のビーム群からなる請求項8記載の車両用シート。
前記第3前部ビーム及び後部ビームのいずれか少なくとも一方がトーションバーからなり、前記トーションバーを介して前記面状支持部材が配設されている請求項9記載の車両用シート。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2,3で開示されているチルト機構は、いずれも、シートクッション部においてシートクッション部用クッション部材を支持するクッションフレーム自体を昇降させる機構であり、構造が複雑で重量が嵩む。従って、この構造を、ヒップポイントが低く設定されるスポーツタイプのシートに適用しようとすれば、臀部下を支持するビームを最小限とした構造にしようとしても、クッションフレーム自体を昇降させる機構によって、その機構を設ける分、ヒップポイントが高くなってしまう。
【0007】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、ヒップポイントを低く設定することができる一方で高剛性で十分なエネルギー吸収機能を発揮することができ、簡易な構造で重量も嵩まない構造でありながら、ヒップポイントの高さ調整を、クッションフレーム自体を昇降させずに行うことができ、スポーツタイプの自動車用のシートとして適する車両用シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の車両用シートは、シートクッション部及びシートバック部を備えた車両用シートであって、前記シートクッション部は、シートクッション部用クッション部材を支持するクッションフレームと、前記クッションフレームの幅方向に掛け渡され、前縁部寄りに位置する前部ビーム及び後縁部寄りに位置する後部ビームと、前記前部ビーム及び後部ビーム間であって、前記シートクッション部用クッション部材の裏面側に配設される面状支持部材と、前記面状支持部材の前端部付近又は後端部付近のいずれか少なくとも一方を巻き取り可能な巻き取り軸を備え、前記巻き取り軸による前記面状支持部材の巻き取り量を調節することによって、前記前部ビーム及び後部ビーム間に張設される前記面状支持部材の周長を変化させ、着座者の着座高さを調節可能である巻き取り機構とを有することを特徴とする。
前記巻き取り機構は、前記巻き取り軸が、側面から見て前記前部ビームの下方に位置するように、前記面状支持部材の前端部付近に設けられていることが好ましい。前記巻き取り機構は、前記巻き取り軸と、前記巻き取り軸にブラケットを介して連結され、前記巻き取り軸の回転に伴って前記巻き取り軸の軸心回りを回転する動作軸とを有し、前記面状支持部材の前端部が前記動作軸に連結されて配設され、前記動作軸が回転することにより、前記巻き取り軸に前記面状支持部材の前端部付近が巻き掛けられるか巻き戻される構成であることが好ましい。前記面状支持部材が、二次元又は三次元の布帛であることが好ましい。前記クッションフレームが、左右一対配設されるスライダのアッパーレールに支持されており、設計基準の決定に用いられる人体模型のヒップポイントが前記スライダのロアレールの底面から100〜200mmの範囲となるように設計されていることが好ましい。
また、前記クッションフレームを構成する左右のサイドフレームの内側に、エネルギー吸収構造部が配設され、前記エネルギー吸収構造部が、左右に設けられる各スライダのアッパーレールに支持され、前記各サイドフレームの内側に、それぞれ前後方向に沿って配置される左右一対のストリンガーを有すると共に、前記一対のストリンガーの前部間及び後部間に前記前部ビーム及び後部ビームが掛け渡された平面視で略四角形の枠状体であって、いずれか一方の前記ストリンガーにおける前記アッパーレールの後部付近との連結位置と前記後部ビームの連結位置との間に、ベルトアンカー取り付け部材が設けられ、
所定以上の衝撃力による前記ベルトアンカー取り付け部材の上方への変位に伴う前記各ストリンガーの変形により前記衝撃力を吸収すると共に、前記各ストリンガーの変形によって、前記ベルトアンカー取り付け部材の配設位置、前記前部ビームの連結位置、並びに、前記アッパーレールの後部付近との連結位置とを結ぶトラスが形成され、このトラスが、少なくとも一時的に前記衝撃力にさらに対抗する構造であることが好ましい。
前記左右一対のストリンガーが、前記各スライダのアッパーレールと前記各サイドフレームとの間において、それぞれ前後方向に沿って配置されると共に、前記各スライダのアッパーレールの内側において、前記各ストリンガーの少なくとも前部付近及び後部付近に対応する位置に、それぞれ前後方向に沿って配置され、前記各アッパーレールの前部付近及び後部付近にそれぞれ連結される左右一対のサブストリンガーを有し、前記前部ビーム及び後部ビームが、前記一対のストリンガーの前部間及び後部間で、前記各サブストリンガーを貫通してそれぞれ掛け渡され、前記ベルトアンカー取り付け部材が、前記各サブストリンガーにおける前記各アッパーレールの後部付近との連結位置と前記後部ビームの連結位置との間における、前記各アッパーレールを介して対向する前記各ストリンガーと前記各サブストリンガーとに跨って両持ち構造となるように貫通配置されるていることが好ましい。
前記左右一対のサブストリンガーは、前部サブストリンガー及び後部サブストリンガーを有してなり、前記前部サブストリンガーは、前記アッパーレールの前部付近に連結されると共に、前記前部ビームに連結され、前記後部サブストリンガーは、前記アッパーレールの後部付近に連結されると共に、前記後部ビームに連結され、前記ベルトアンカー取り付け部材が、前記アッパーレールの後部付近との連結位置と前記後部ビームとの連結位置との間であって、前記ストリンガーと前記後部サブストリンガーとに掛け渡されていることが好ましい。
前記前部ビーム及び後部ビームの間に、幅方向に掛け渡され、前記クッション部材を支持する中間ビームをさらに備え、前記中間ビームが、前記前部ビーム及び後部ビームのいずれの配設位置よりも下方にオフセットされて配設されていることが好ましい。
前記前部ビームが、最も前寄りに配置される第1前部ビーム、前記第1前部ビームと前記中間ビームとの間に配置される第2前部ビーム、前記第1前部ビーム及び前記第2前部ビームの間であって、前記前部サブストリンガーを貫通して前記スライダのアッパーレールの前部付近に連結される第3前部ビームを少なくとも備えた複数本のビーム群からなることが好ましい。
前記第3前部ビーム及び後部ビームのいずれか少なくとも一方がトーションバーからなり、前記トーションバーを介して前記面状支持部材が配設されている構成とすることもできる。
前記第3前部ビームとして設けられるトーションバーによって前記第1前部ビームが弾性的に支持されており、前記第1前部ビームが着座状態で前方に回動させることによって前記面状支持部材に弛みを生じさせ、前記巻き取り機構による前記面状支持部材の巻き取りによる着座高さの調整を着座状態で行うことが可能とした構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の車両用シートは、シートクッション部用クッション部材の裏面側に面状支持部材を配設しており、この面状支持部材の張設の程度を巻き取り機構によって調節することで、前部ビーム及び後部ビーム間の面状支持部材の周長を変化させ、着座者の着座高さを調節可能である。クッションフレーム自体を昇降させる構造ではなく、面状支持部材の周長の程度を調節するだけで着座高さを変化させることができるため、構造が簡易であり、ヒップポイントを低く抑えることができる。従って、低いヒップポイントが要請されるスポーツタイプの自動車用のシートに適用するのに特に適している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面に示した実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。本実施形態の車両用シート1は、シートクッション部を形成するクッションフレーム10と、シートバック部を形成するバックフレーム30を有し、それらが、リクライニング機構50を介して連結されている。
【0012】
クッションフレーム10は、
図1〜
図3に示したように、左右のサイドフレーム11,12と、エネルギー吸収構造部100を有して構成される。左右のサイドフレーム11,12は、本実施形態では、車両用シート1の前縁部からバックフレーム30の下部に至るように延びた金属製の板状体から構成され、軽量化のため、好ましくは厚さ0.5〜1.2mmの薄板材が用いられる。本実施形態の車両用シート1は、スポーツタイプの自動車用のシートとして適するように設計基準位置となるヒップポイント(設計基準を決定する際に用いる人体模型(例えば、JIS D 4607又はISO6549で規定した成人男子の50パーセンタイル人体模型)のヒップポイント(H.P.))の高さを低く設定する。好ましくは、ヒップポイントは高さ(スライダ600,610のロアレール602,612の底面からの高さ)は、100〜200mmに設定される。
【0013】
エネルギー吸収構造部100は、左右のサイドフレーム11,12の内側に配設され、一対のストリンガー110,111、前部ビーム、後部ビーム113、中間ビーム114等を有して構成される。なお、本実施形態において、前部ビームは、第1前部ビーム112、第2前部ビーム115、第3前部ビーム116の3本のビーム群から構成される。
【0014】
一対のストリンガー110,111は、サイドフレーム11,12の内側にそれぞれ前後方向に沿って配設されている。各ストリンガー110,111は、サイドフレーム11,12よりも厚く剛性の高い厚さ0.8〜4.0mmの金属板から形成される。
【0015】
第1前部ビーム112は、一対のストリンガー110,111の前部間に掛け渡され、後部ビーム113は、一対のストリンガー110,111の後部間に掛け渡され、いずれもパイプ材からなる。
【0016】
一対のストリンガー110,111の前部付近には、各ストリンガー110,111の内側に位置し、ストリンガー110,111の1/4〜1/6程度の長さを有し、一部が下方に突出する略三角形状の前部サブストリンガー1101,1111が配設される。前部サブストリンガー1101,1111とストリンガー110,111との間には、左右に設けられるスライダ600,610のアッパーレール601,611が位置できるような間隔が設けられ、第1前部ビーム112が、一方側では前部サブストリンガー1101及びストリンガー110を貫通し、他方側では前部サブストリンガー1111及びストリンガー111を貫通して配置される。従って、第1前部ビーム112の各端部付近は、前部サブストリンガー1101とストリンガー110、並びに、前部サブストリンガー1111とストリンガー111により、それぞれ、両持ち支持されることになる。
【0017】
略三角形状の前部サブストリンガー1101,1111間の前端付近には上記した第1前部ビーム112が掛け渡されるが、後端付近には両者の間隔を維持して剛性を高めるための第2前部ビーム115が掛け渡される。また、それらの間であって、下方に突出している部分には第3前部ビーム116が掛け渡され、第3前部ビーム116の各端部がスライダ600,610のアッパーレール601,611に連結固定される。これにより、一対のストリンガー110,111は、前部サブストリンガー1101,1111を介して、各アッパーレール601,611の前部付近に連結支持されることになる。前部サブストリンガー1101,1111間には、このように3本のビーム群からなる前部ビーム112,115,116が掛け渡され、それにより、立体的なトラスが形成されている。この立体的なトラスにより、エネルギー吸収構造部100の前方付近の耐衝撃性を高めている。なお、
図3に示した符号620は、スライダ600,610のアッパーレール601,611とロアレール602,612とのロック解除用のロッドである。
【0018】
一方、一対のストリンガー110,111の後部付近には、各ストリンガー110,111の内側に位置する後部サブストリンガー1102,1112が配設されている。後部サブストリンガー1102,1112は、各ストリンガー110,111と略平行に前後方向に延び、ストリンガー110,111の1/4〜1/5程度の長さを有する第1プレート部1102a,1112aと、第1板状部1102a,1112aの前端から下方に延びる第2プレート部1102b,1112bとを備えた略L字状に形成されている。
【0019】
対向配置される一対の第1プレート部1102a,1112aの後部において、後部ビーム113が掛け渡されているが、該後部ビーム113の各端部は一対のストリンガー110,111の後部を貫通しており、これにより、該後部ビーム113は、一方側の端部が後部ストリンガー1102及びストリンガー110に、他方側の端部が後部ストリンガー1112及びストリンガー111に両持ち構造で支持されることになる。
【0020】
第1プレート部1102a,1112aと第2プレート部1102b,1112bとの角部がピン部材1102d,1112dによって、スライダ600,610のアッパーレール601,611の後部付近に連結され、これにより、一対のストリンガー110,111は、後部サブストリンガー1102,1112を介して、各アッパーレール601,611の後部付近に連結支持されることになる。
【0021】
第2プレート部1102b,1112bの対向する各下端部間には、パイプ材からなる中間ビーム114が掛け渡されている。中間ビーム114は、このように、下方に延びる第2プレート部1102b,1112bの各下端部間に配設されていることから、第1前部ビーム112及び後部ビーム113のいずれの配設位置(配設高さ)よりも下方にオフセットされている。中間ビーム114は、上記したヒップポイントの直下付近、具体的には、ヒップポイントの直下から前後100mmの範囲までのいずれかに位置するように設けられる。人の着座時においては、ヒップポイントを中心として荷重がパッド部材にかかることから、着座時の支持感を得るために、この範囲に設けられる。その一方、ヒップポイントを低くする必要があることから、上記のように中間ビーム114は下方にオフセットされている。オフセット量としては、ピン部材1102d,1112dから中間ビーム114までの中心間の長さで50〜150mmの範囲が好ましい。
【0022】
なお、第1前部ビーム112及び後部ビーム113の各端部は、本実施形態では、それぞれ、上記したように、前部サブストリンガー1101,1111及び後部サブストリンガー1102,1112と、ストリンガー110,111とによって両持ち支持されているだけでなく、さらに、サイドフレーム11,12の前部及び後部を厚み方向に貫通して配置され、それにより、略四角形の枠状体として構成されるエネルギー吸収構造部100の剛性をより高めた構造になっている。
【0023】
また、後部ビーム113とピン部材1102d,1112dとの間には、シートベルトの一端が連結されるベルトアンカーを固定するベルトアンカー取り付け部材(アンカーボルト)117,118が配置される。ベルトアンカー取り付け部材117,118は、サイドフレーム11,12、ストリンガー110,111、及び、後部サブストリンガー1102,1112の第1プレート部1102a,1112aの3つの部材を貫通して取り付けられる。ベルトアンカー取り付け部材117,118がこのような位置に設けられることにより、所定以上の衝撃力が入力されてシートベルトが前方に付勢されると、ベルトアンカー取り付け部材117,118を斜め上前方に上昇させる力が加わる。
【0024】
そのため、各ストリンガー110,111は、その力によって、前部サブストリンガー1101,1111と共に固定連結されている第1〜第3前部ビーム112,115,116との連結位置付近を中心として、斜め上方に引き上げられる方向に変形する(
図4(a)の状態から(b)の状態に変形する)。前部サブストリンガー1101,1111間には、3本の第1〜第3前部ビーム112,115,116が掛け渡され、それにより、立体的なトラスが形成されているため、前部サブストリンガー1101,1111付近は変形しにくく、それよりも後方に位置する部位が変形しやすくなっている。また、変形の際には、通常、ストリンガー110,111は、外側に逃げるように広がる方向の変形も加わる(
図4(b)参照)。ストリンガー110,111におけるこのような変形により、付加された衝撃力は吸収されていく。
【0025】
ストリンガー110,111が上記のような変形を生じると、ストリンガー110,111を側方から見た場合に、
図4(b)に示したようにベルトアンカー取り付け部材117,118の配設位置が前部ビーム(本実施形態では第1〜第3前部ビーム112,115,116のいずれか少なくとも一つ)との連結位置に対して上昇した傾斜辺になる。また、ベルトアンカー取り付け部材117,118は、後部サブストリンガー1102,1112の第1プレート部1102a,1112aにおいて、ピン部材1102d,1112dと後部ビーム113の連結位置との間に設けられている。このため、ベルトアンカー取り付け部材117,118が上方に変位すると、後部サブストリンガー1102,1112は、第1プレート部1102a,1112aと第2プレート部1102b,1112bとの角部がピン部材1102d,1112dによってアッパーレール601,611の後部付近に連結されているため、後部サブストリンガー1102,1112は、このピン部材1102d,1112dを中心として、それよりも後部に位置するベルトアンカー取り付け部材117,118が上昇した位置となる傾斜辺になる。
【0026】
これにより、衝撃力を受けて所定の変形をした後は、ベルトアンカー取り付け部材1117,118の配設位置、前部ビーム(本実施形態では第1〜第3前部ビーム112,115,116のいずれか少なくとも一つ)との連結位置、並びに、アッパーレール601,611の後部付近との連結位置とを結ぶトラス(
図4(b)の太い実線で示した大きい三角形)が新たに形成されることになる。このようなトラスが形成されることで、変形後も加わり続ける衝撃力を、今度は、新たに形成されたトラスによって受け、耐えることになる。
【0027】
つまり、本実施形態では、衝撃力を受けた場合に、上記のようなストリンガー110,111を中心として部材の変形によって衝撃力を吸収するが、この際、ベルトアンカー取り付け部材117,118の配設位置が後部サブストリンガー1102,1112におけるピン部材1102d,1112dと後部ビーム113の連結位置との間であり、また、前部サブストリンガー1101,1111と共にストリンガー110,111が前部ビームに強固に取り付けられ(すなわち、前部サブストリンガー1101,1111間に3本のビーム112,115,116が掛け渡され、それにより、立体的なトラス(
図4(b)の太い実線で示した小さい三角形)が予め形成されて変形しにくくなっており)、後部サブストリンガー1102,1112がアッパーレール601,611に連結されていることから、ベルトアンカー取り付け部材117,118を斜め上前方に変位させる所定以上の衝撃力は、上記したトラス(
図4(b)の太い実線で示した大きい三角形)を形成するように変形させる。従って、上記した変形によってトラスが形成された後は、変形によってなお吸収しきれない衝撃力を今度は新たに形成されたトラスで耐えて吸収するという多段階のエネルギー吸収構造部100となっている。すなわち、衝撃力が入力された後のエネルギー吸収構造部100の上記した変形により、衝撃力が入力された後におけるクッションフレーム10が、通常の使用状態におけるクッションフレーム10とほぼ同等か若しくはそれ以上の剛性を発揮できる構造である。
【0028】
図5及び
図6に示したように、クッションフレーム10の第1前部ビーム112及び後部ビーム113間には面状支持部材150が掛け渡されるが、第1前部ビーム112付近には、面状支持部材150の巻き取り機構160が設けられる。
【0029】
巻き取り機構160は、より詳細には、
図5〜
図9に示したように、巻き取り軸161及び動作軸162を有して構成される。第1前部ビーム112には、左右に所定間隔をおいて一対の第1ブラケット163,163の上部が溶接により固定されて斜め下前方に延びており、この第1ブラケット163,163の中途部を貫通して巻き取り軸161が配設されている。従って、巻き取り軸161は、側面から見ると、第1前部ビーム112の斜め前下方に位置している(
図6参照)。第1ブラケット163,163の片面には、それぞれ一方側に突出するピン164,164が突設されている。
【0030】
巻き取り軸161は、上記したように第1ブラケット163,163を貫通し、一方の第1ブラケット163から突出している一端部にはハンドル161aが取り付けられており、他方の第1ブラケット163から突出している他端部にはコイルスプリング161bが装着されている。コイルスプリング161bは、他方の第1ブラケット163と巻き取り軸161の端部に設けたスプリング受け板161cとの間で、巻き取り軸161を
図7(b)及び
図8(b)の右方に常時付勢している。なお、
図7(c)に示した符号161dは、他方の第1ブラケット163の内側において巻き取り軸161回りに固定される抜け止め用の板部材である。
【0031】
巻き取り軸161において、各第1ブラケット163,163のピン164,164が突設されている側には、ディスク165,165が溶接されている。ディスク165,165には、任意の角度毎に切り欠き溝165a,165aが複数設けられており、各切り欠き溝165a,165aはピン163,163に係合可能となっている。巻き取り軸161は、コイルスプリング161bにより常に
図7(b)及び
図8(b)の右方に付勢されているため、いずれかの切り欠き溝165a,165aにピン164,164が係合することになる。その一方、ハンドル161aを把持して、コイルスプリング161bの弾性力に抗して
図7(b)及び
図8(b)の左方に引くと、ピン164,164から切り欠き溝165a,165aが離脱し、係合が解除される。
【0032】
巻き取り軸161には、軸方向に所定間隔をおいて、一対の第2ブラケット166,166の上部が溶接により固定され、下部が斜め下前方に延びており、その下部間に動作軸162が掛け渡されている。第2ブラケット166,166の上部が巻き取り軸161に溶接されているため、動作軸162は、巻き取り軸161が回転すると、巻き取り軸161の軸心回りを巻き取り軸161との離間距離を半径とした回転運動を行う。
【0033】
ここで、面状支持部材150は、好ましくは二次元又は三次元の布帛からなる。布帛の種類は限定されるものではなく、織物、編物、不織布のいずれも含み、例えば、二次元の布やネット状のもの、三次元立体編物、あるいは、それらに弾性糸を少なくとも一部に含む伸縮性の高めたもの等を用いることができる。
【0034】
この面状支持部材150の前端部151が上記した動作軸162に連結され、後端部152が後部ビーム113に連結される。そして、それらの間の前端部151よりも若干後端部152寄りに位置する部位(前端部付近153)は、第1前部ビーム112上を通過するように配設される。なお、巻き取り機構160を用いた面状支持部材150の周長の調整方法については後述する。
【0035】
面状支持部材150の上面には、シートクッション部用クッション部材として、ウレタンフォーム等からなるパッド部材21が配設される。
図10及び
図11は、パッド部材21の一例を示すものであるが、この図において、パッド部材21の裏面側に配置される面状支持部材150は省略している。
【0036】
図10及び
図11に示したパッド部材21は、前方パッド部材211と後方パッド部材212とに分割された構造である。前方パッド部材211は、幅が、対向する前部サブストリンガー1101,1111間に収まり、前後方向の長さが、第1前部ビーム112から中間ビーム114に至るまでの長さを有する平面視で略四角形に形成されている。前方パッド部材211の前縁部211aは、その下面が下方に膨出する形状となっている。そして、前縁部211aの下方に膨出している部位に隣接する段差部211bを第1前部ビーム112上に位置させ、さらに、第2前部ビーム115上を通過して後側隣接部211cが中間ビーム114の上方に位置するように配設される。
【0037】
後方パッド部材212は、後縁部212aの下面が下方に膨出する形状となっており、それに隣接する段差部212bを後部ビーム113上に位置させて配設される。前方パッド部材211と後方パッド部材212は、非着座時の荷重がかかっていない状態(
図11の二点鎖線の状態)では、前方パッド部材211の後側隣接部211cと後方パッド部材212の前側隣接部212cとは、両者が接触する程度か、隙間が生じても僅かとなるように前後方向の長さが設定されている。また、前方パッド部材211の後側隣接部211cが、ヒップポイントの直下から前後100mmの範囲までのいずれかの位置となるように設定される。なお、中間ビーム114は、上記したようにヒップポイントの直下から前後100mmの範囲までに設けられるが、その範囲であって、かつ、前方パッド部材211の後側隣接部211cが下方に変位した際に、後側隣接部211cの下面が接することができる範囲に設定される。
【0038】
後方パッド部材212の各側面には、左右のサイドパッド部材213,214の後部が一体に設けられている。すなわち、後方パッド部材212及び左右のサイドパッド部材213,214は、平面視で略コ字状となるように一体成型されている。サイドパッド部材213,214は、上記した一対のストリンガー110,111(前部サブストリンガー1101,1111、後部サブストリンガー1102,1112を含む)とサイドフレーム11,12とを被覆して配設される。
【0039】
また、前部サブストリンガー1101,1111の後端付近に掛け渡される第2前部ビーム115は、上記した人体模型におけるヒップポイントとニーポイントとを結ぶ直線上の距離で、ヒップポイントに対し、120〜180mm前方の範囲(
図11の符号a)に設けられることが大腿部を支持する上で好ましい。また、大腿部の支持感を高めるために、第2前部ビーム115を中心とした前後20〜80mmの範囲(
図11の符号b)における前方パッド部材211の裏面に、ウレタンフォーム等からなる前方パッド部材211の他の部位よりも剛性を高める剛性部材(フェルトなど)211dを設けることがより好ましい。
【0040】
上記した前方パッド部材211、後方パッド部材212及びサイドパッド部材213,214を備えてなるパッド部材21には、それらを表面側から被覆するように表皮材22が配設されて固定される。
【0041】
上記したクッションフレーム10には、シートバック部を構成するバックフレーム30がリクライニング機構50を介して連結される。そして、このバックフレーム30に、シートバック部用クッション部材としてパッド部材41が支持され、さらに、その表面に表皮材42が配設されてシートバック部が形成される。
【0042】
本実施形態の車両用シート1によれば、人が着座すると、
図11に示したように、シートクッション部においては、座骨結節を中心として下方に荷重がかかる。このとき、前方パッド部材211の後側隣接部211cが、第2前部ビーム115を支点として下方に回転する方向に変位し、最も変位する場合で、第1前部ビーム112及び後部ビーム113の配設位置よりも下方にオフセットされた中間ビーム114に該後側隣接部211c付近の下面が当接するまで変位する。また、後方パッド部材212の前側隣接部212cも後部ビーム113を支点として下方に回転する方向に変位する(
図11の実線で示した状態)。それにより、着座時においては、前方パッド部材211及び後方パッド部材212の反力が着座者の骨盤相当部を前後からくさび状に押圧して支持する。また、前方パッド部材211は、上記のように、ヒップポイントに対し、120〜180mm前方の範囲に設けられた第2前部ビーム115を支点として回転し、かつ、その部位の前後20〜80mmの範囲に剛性部材211dが設けられている。このため、大腿部の支持も確実になされ、着座者の骨盤相当部の後転が抑制され、姿勢支持性に優れている。前方パッド部材211の変形の支点となる第2前部ビーム115の配設位置が上記した範囲を逸脱し、よりヒップポイントに近い場合には圧迫感を感じやすく、上記した範囲よりも離間している場合には支持感が乏しくなる。
【0043】
また、着座時において、臀部下付近に位置する中間ビーム114が上記したように下方にオフセットされている。このため、ヒップポイントが所定の高さ以下であっても、上記した前方パッド部材211及び後方パッド部材212の動きにより、所定のストローク感が得られる構造であり、低ヒップポイントであることが要件とされるスポーツタイプの自動車用シートとして好適である。
【0044】
パッド部材21は、上記のような動作を示すが、着座時における着座高さ(ヒップポイントの高さ)は、その裏面側に配置される面状支持部材150の周長を変化させることによって調節する。すなわち、面状支持部材150の周長が短くなれば、上記した前方パッド部材211及び後方パッド部材212の変位量が小さくなり着座高さを高くすることができ、面状支持部材150の周長を長くすれば上記した前方パッド部材211及び後方パッド部材212の変位量が大きくなって着座高さを低くすることができる。
【0045】
着座高さを調節する場合には次のように操作する。操作する前の状態では、
図7に示したように、コイルスプリング161bの弾性力により、ディスク165,165のいずれかの切り欠き溝165a,165aにピン163,163が係合されている。そこで、まず、
図8に示したように、ハンドル161aを外側(
図8(b)の左方)にコイルスプリング161bの弾性力に抗して引っ張る。これにより、ピン163,163と切り欠き溝165a,165aとの係合が解除される。この状態で、ハンドル161aをいずれかの方向に回転させ、ピン163,163を係合させる切り欠き溝165a,165aを変更する。その状態で、ハンドル161aを離すと、コイルスプリング161bの弾性力により、ピン163,163に変更後の切り欠き溝165a,165aが係合し、面状支持部材150の周長が変わる。
【0046】
例えば、
図9に示したように、切り欠き溝165a,165aが回転方向aに沿って、円周上の略半分の範囲に順に3箇所形成されているとする(順に、切り欠き溝165a−1,165a−2,165a−3とする)。面状支持部材150の周長が最も長い状態(
図9(f),(g)の状態)のときに、回転方向aに沿った最初の切り欠き溝165a−1にピン163が係合されている。次に、中央の切り欠き溝165a−2にピン163を係合させるようにハンドル161aを回転方向aに沿って回転させると、第2ブラケット166,166が巻き取り軸161に固定されているため、巻き取り軸161の回転に伴って、動作軸162は、巻き取り軸161の軸心回りを、巻き取り軸161との離間距離を半径とした回転運動を行う。それにより、動作軸162に連結された面状支持部材150の前端部151が回転方向aに沿って巻き込まれ、巻き取り軸161に巻き付いていく。その結果、第1前部ビーム112及び後部ビーム113間の面状支持部材150の周長は短くなり、
図9(d),(e)の状態となる。
【0047】
さらに、回転方向aに回転刺せて切り欠き溝165a−3にピン163を係合させると、動作軸162に連結された面状支持部材150の前端部151が回転方向aに沿ってさらに巻き込まれ、巻き取り軸161にさらに巻き付く。それにより、第1前部ビーム112及び後部ビーム113間の面状支持部材150の周長はさらに短くなり、
図9(b),(c)の状態、すなわち、着座高さが最も高い状態となる。
【0048】
なお、
図9(b),(c)に示した状態から、
図9(d),(e)に示した状態、さらに
図9(f),(g)に示した状態というように、着座高さをより低く調節したい場合には、ハンドル161aを上記と逆方向に回転させるように操作すればよい。
【0049】
本実施形態によれば、クッションフレーム10の第1前部ビーム112及び後部ビーム113間に設けられる面状支持部材150の周長を変化させるだけで、着座者の着座高さ(ヒップポイントの高さ)を調節することができる。クッションフレーム10自体を動作させて調節する必要がないため、調節するための機構が簡易であり、このような機構を設けても重量増加は少ない。
【0050】
なお、上記実施形態では、基本的に低いヒップポイントで設定されるスポーツタイプの自動車用シートに適用する場合を例にとって説明しているが、本発明の面状支持部材150と巻き取り機構160を用いた着座高さを調節するための機構は、セダン系の自動車、その他の車両におけるシートにおいても適用可能である。また、上記実施形態では、巻き取り機構160における調節を、ハンドル161aを用いて手動で行う構成としているが、巻き取り軸161の回転を電動で行う構成とすることももちろん可能である。また、上記実施形態では、巻き取り機構160を前端部付近に設け、面状支持部材150の前端部付近を巻き取る構成としているが、後部ビーム113付近に設け、面状支持部材150の後端部付近を巻き取る構成とすることも可能である。
【0051】
さらに、上記した巻き取り機構160は、巻き取り軸161に対して動作軸162が軸心方向に直交する方向に離間しているため、効率よく巻き付け、巻き戻し操作ができるという利点を有するが、面状支持部材150の周長を変化させることができる限り、巻き取り機構160の構造は、上記したものに限定されるものではない。
【0052】
図12〜
図16は、本発明の他の実施形態を示した図である。上記したエネルギー吸収構造部100における、前部サブストリンガー1101,1111を貫通してスライダ600,610のアッパーレール601,611の前部付近に連結される上記実施形態の第3前部ビーム116及び後部ビーム113に代えて、トーションバーを採用した構造である。すなわち、
図12〜
図16に示したように、エネルギー吸収構造部100の第3前部ビーム116が掛け渡されている位置に前部トーションバー116Aを、後部ビーム113が掛け渡されている位置に後部トーションバー113Aを配設している。
【0053】
前部トーションバー116A(第3前部ビーム116に相当)には、それぞれ幅方向に離間して斜め上前方に突出するブラケット116B,116Bが設けられ、このブラケット116B,116B間に、第1前部ビーム112Aが掛け渡されている。なお、本実施形態では、第1前部ビーム112Aの両端部が前部サブストリンガー1101,1111の前端部に挿通されていないため、これに代えて、前部サブストリンガー1101,1111とサイドフレーム11,12の前端部間に貫通する固定部材112C,112Cが設けられる。
【0054】
後部トーションバー113A(後部ビーム113に相当)には、それぞれ幅方向に離間して斜め前下方に突出するブラケット113B,113Bが設けられ、このブラケット113B,113B間に、後部支持フレーム113Cが掛け渡されている。
【0055】
一方、巻き取り機構160は、前部トーションバー116Aにより支持された第1前部ビーム112Aの前方に設けられる。すなわち、前部サブストリンガー1101,1111とサイドフレーム11,12の前端部間に貫通する両側の固定部材112C,112Cに、それぞれ第1ブラケット163,163の上部を固定して斜め下前方に延びるように配設する。そして、この第1ブラケット163,163の中途部を貫通して巻き取り軸161を配設する。巻き取り軸161には、一対の第2ブラケット166,166の上部が溶接により固定され、下部が斜め下前方に延びており、その下部間に動作軸162が掛け渡される。なお、各第1部ラケット163,163に設けられるピン164,164、該ピン164,164に係合する切り欠き溝を有するディスク165、ハンドル161a、コイルスプリング161b等の構成は、上記実施形態と同様である。
面状支持部材150は、前端部151が巻き取り機構160の動作軸162に連結され、前端部付近153が第1前部ビーム112A上を通過するように配設され、後端部152が後部支持フレーム113Cに連結される。
【0056】
本実施形態によれば、面状支持部材150を前部トーションバー116A及び後部トーションバー113Aにより弾性支持することにより、前部トーションバー116A及び後部トーションバー113Aを中心とした前後方向の回転運動が行われる構造であるため、走行中に路面から入力される振動を、この回転運動によって効率よく吸収することができる。そして、上記実施形態と同様に、ハンドル161aをいずれかの方向に回転すると、面状支持部材150の周長を可変できる。これにより、本実施形態においても着座高さを簡易な構成で容易に調整することができる。
【0057】
また、着座状態で、前部トーションバー116Aにより支持された第1前部ビーム112Aに、膝上付近から大腿部付近で体重をかけると、第1前部ビーム112Aが前方に回動する。それにより、面状支持部材150のうち臀部下に位置する部分が上昇する一方で、第1前部ビーム112Aと動作軸162との間の面状支持部材150に弛みが生じる。従って、その状態で巻き取り機構160のハンドル160aを回せば、弛んだ分に相当する面状支持部材150を巻き取り軸161に巻き取ることができる。すなわち、本実施形態によれば、着座したままで巻き取り機構160による着座高さの調整が可能となるという利点がある。
【0058】
なお、前部及び後部の両方にトーションバー116A,113Aを採用するのではなく、いずれか少なくとも一方をトーションバーとしてもよい。但し、振動吸収性の点では、本実施形態のように前部及び後部の両方にトーションバー116A,113Aを採用する構成とすることが好ましい。また、着座したままでの巻き取り機構160による着座高さの調整を可能とするためには、少なくとも前部にトーションバー116Aを設けた構成とすることが好ましい。