特許第6097584号(P6097584)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097584
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】レーザ発振装置とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/13 20060101AFI20170306BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20170306BHJP
   H01S 3/0941 20060101ALI20170306BHJP
   G02B 6/26 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   H01S3/13
   H01S3/00 A
   H01S3/0941
   G02B6/26
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-19462(P2013-19462)
(22)【出願日】2013年2月4日
(65)【公開番号】特開2014-150222(P2014-150222A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2015年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社日本自動車部品総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金原 賢治
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 明光
【審査官】 佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−016678(JP,A)
【文献】 特開2002−151765(JP,A)
【文献】 特開2011−114005(JP,A)
【文献】 特開2007−241093(JP,A)
【文献】 特開平07−261057(JP,A)
【文献】 特開2006−261194(JP,A)
【文献】 特開2003−302555(JP,A)
【文献】 特開平01−181488(JP,A)
【文献】 特開2007−067271(JP,A)
【文献】 特開平08−136773(JP,A)
【文献】 特開平07−209554(JP,A)
【文献】 特開昭61−245119(JP,A)
【文献】 特開平09−043454(JP,A)
【文献】 特開平06−201921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00−3/02
3/04−3/0959
3/098−3/102
3/105−3/131
3/136−3/213
3/23−4/00
G02B 6/26
6/30−6/34
6/42
F02P 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コヒーレントな励起光(LSRPMP)を放射する励起光源(3)と、
前記励起光(LSRPMP)を集光する励起光集光手段(10)と、集光された励起光(LSRPMP)を共振増幅してエネルギ密度の高いパルス光(LSRPLS)として発振する共振器(11)と、前記パルス光(LSRPLS)を拡張する拡張手段(13)と、拡張されたパルス光(LSRPLS)を集光するパルス光集光手段(14)と、保護カバー(15)とを同軸上に配設して、筒状のハウジング(16、16a、16b、16c、17、18)内に一体的に収容した出力部(1)と、
前記励起光源(3)と前記出力部(1)との間に設けられ前記励起光(LSRPMP)を伝送する励起光伝送部(2)と、を具備するレーザ発振装置であって、
前記励起光伝送部(2)が、光ファイバ(20)と、保護被覆(21)で覆われた前記光ファイバ(20)が圧入される筒状の固定部材(22)と、前記固定部材(22)の基端側(224)に固定されて該基端側(224)に露出する前記光ファイバ(20)の外周を保護する可撓性保護管(24)と、を含み、
前記固定部材(22)の先端に一致する前記光ファイバ(20)の端末面(200)から前記励起光集光手段(10)までの距離を励起光入光距離(L)とし、
前記固定部材(22)が、前記励起光入光距離(L)を調整するための距離調整手段として、前記固定部材(22)の押し戻し両方向への移動を容易とする固定部保持手段(221)と、前記固定部材(22)を戻り方向に押圧する弾性部材(23、23a、23b、23c)と、前記励起光入光距離(L)を所定の位置で固定すべく、前記固定部材(22)と前記出力部(1)とを固定する固定手段(25、25a、25c)を具備し、
前記固定部材(22)の先端側に設けた嵌合部(223)が、前記ハウジング(16、16a、16b、16c)の筒内に圧入され、前記嵌合部(223)より基端側において、前記固定部材(22)の外周面と前記ハウジング(16、16a、16b、16c)との間に区画される空間に、前記弾性部材(23、23a、23b、23c)が収容されていることを特徴とするレーザ発振装置(6、6a、6b、6c、6d、6e、6f)
【請求項2】
前記弾性部材(23、23a)は、前記ハウジング(16、16a)の内周面と前記固定部材(22、22a)の外周面との間に区画した空間内に収容したシール部材である請求項1に記載のレーザ発振装置(6、6a、6d、6e、6f)
【請求項3】
前記固定手段が、前記ハウジング(16)の基端部(163)において前記固定部材(22)を溶接固定した溶接部(25)である請求項1に記載のレーザ発振装置(6、6d、6e、6f)
【請求項4】
前記固定手段(25a)が、前記ハウジング(16a、16b)の基端部(163a)に設けたネジ部に螺合して前記固定部材(22a、22b)を締め付け固定するナット部(250a)と、
該ナット部(250a)を固定するロック部材(251a)とである請求項1に記載のレーザ発振装置(6a、6b、6d、6e、6f)
【請求項5】
前記固定手段(25c)が、前記ハウジング(16c)の基端部(163c)に設けたネジ部に螺合して前記固定部材(22c)を締め付け固定するナット部(250c)と、
前記固定部材(22c)の外周面と前記ハウジング(16c)の内周面との間に区画した空間内に充填し、固化させたロック部材(251c)とである請求項1に記載のレーザ発振装置(6c、6d、6e、6f)
【請求項6】
前記励起光源(3d)が、複数の半導体レーザ(30)と、それぞれの半導体レーザ(30)から出射される励起光(LSRPMP)を集光する集光レンズ(31)と、複数の励起光(LSRPMP)をまとめて集光する集光手段(32)と、該集光手段(32)を通過した励起光(LSRPMP)の前記光ファイバ(20)への入光角度を変化させる反射鏡(33)を具備する請求項1ないし5のいずれか記載のレーザ発振装置(6d)
【請求項7】
前記励起光源(3d)が、複数の半導体レーザ(30)と、それぞれの半導体レーザ(30)から出射される励起光(LSRPMP)を集光する集光レンズ(31)と、複数の励起光(LSRPMP)をまとめて集光する集光手段(32)と、該集光手段(32)を通過した励起光(LSRPMP)の前記光ファイバ(20)への入光角度を変化させる反射鏡(33)を具備し、前記反射鏡(33)の反射面が光軸に対して光源側に向かって凸となる湾曲面を具備している請求項1ないし5のいずれか記載のレーザ発振装置(6e、6f)
【請求項8】
前記出力部(1、1a、1b、1c、1d)が内燃機関(5)に設けられ、燃焼室(530)内に導入した燃料空気混合気体の点火に用いるレーザ点火部である請求項1ないし6のいずれか記載のレーザ発振装置(6、6a、6b、6c、6d、6e、6f)
【請求項9】
少なくとも、保護被覆(21)で覆われた光ファイバ(20)を可撓性保護管(24)内に挿通しながら、筒状の固定部材(22)内に圧入し、前記光ファイバ(20)の端末面(200)が前記固定部材(22)の先端に一致するまで引き出し、前記可撓性保護管(24)を前記固定部材(22)の基端側(224)に固定すると共に、前記固定部材(22)の先端側に設けた嵌合部(223)を、筒状の第1のハウジング(16)内に圧入し、前記嵌合部(223)の基端側において、前記固定部材(22)の外周面と前記第1のハウジング(16)の内周面との間に区画される空間に、弾性部材(23)を収容して励起光伝送部(2)を形成する励起光伝送部形成工程と、
略筒状の第2のハウジング(17)内に弾性保持部材(12)と共振器(11)と励起光集光手段(10)とを収容し、弾性シールリング(190)を介して、略筒状の第1のハウジング(16)と前記第2のハウジング(17)とを螺結して共振器組立体(W)を形成する共振器組立体形成工程と、
前記弾性部材(23)を介して、前記励起光伝送部(2)と、前記共振器組立体(W)とを組み付ける伝送部固定工程と、を具備し、
前記伝送部固定工程が、前記弾性部材(23)を介した状態で、前記光ファイバ(20)の端末面(200)から前記励起光集光手段(10)までの励起光入光距離(L)を調整する励起光入光距離調整工程を具備することを特徴とするレーザ発振装置の製造方法
【請求項10】
前記伝送部固定工程が、前記共振器(11)内に前記励起光(LSRPMP)を導入して、前記励起光入光距離(L)を調整し、前記共振器(11)内のビームプロファイルをモニタしながら該出力が最大となる位置で、前記励起光伝送部(2)と前記共振器組立体(W)とを固定する請求項9記載のレーザ発振装置の製造方法
【請求項11】
前記伝送部固定工程が、
前記共振器組立体(W)を保持固定する組み立体保持手段(CLP2、CLP3)と、
前記励起光伝送部(2)を保持する伝送部保持手段(CLP1)と、前記伝送部保持手段(CLP1)を駆動して前記伝送部(2)を押し戻し駆動する伝送部固定位置調整手段(SVO)と、
前記励起光伝送部(2)を介して励起光(LSRPMP)を前記組立体(W)に導入して、前記共振器(11)内のビームプロファイルを検出する励起光モニタ(MON)と、
前記励起光伝送部(2)と前記共振器組立体とを固定する固定装置(WLD)と、
前記伝送部固定位置調整手段(SVO)と前記励起光モニタ(MON)と前記固定装置(WLD)とを駆動制御する制御装置(CNT)とによって構成した組立装置(ASM)を具備し、
前記伝送部固定位置調整手段(SVO)を駆動させて前記励起光入光距離(L)を変化させながら前記励起光モニタ(MON)によって検出したビームプロファイルから出力が最大となる位置において、前記伝送部固定位置調整手段(SVO)を停止させ、
前記固定装置(WLD)を駆動して前記励起光伝送部(2)と前記共振器組立体(W)とを固定する請求項9又は10に記載のレーザ発振装置の製造方法
【請求項12】
前記励起光入光距離(L)の調整幅が30μm以上300μm以下である請求項11に記載のレーザ発振装置の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ等の励起光源から放射され、光ファイバを介して伝送されたコヒーレントな励起光を励起光集光手段(コリメートレンズ)によって集光して、レーザ媒質と可飽和吸収体等を組み合わせたQスイッチ式の共振器に照射して、共振器内で増幅しエネルギ密度の高いパルスレーザを発振するレーザ発振装置とその製造方法に関するものであり、特に、内燃機関の燃焼室内にエネルギ密度の高いパルスレーザを集光して点火を行うレーザ点火装置や、被加工部材に高いエネルギ密度のパルスレーザを集光して、被加工部材の溶接するレーザ溶接装置や、被加工物の切断加工を行ったりするレーザ加工装置等に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高過給エンジン、高圧縮エンジン、シリンダ内径の大きな天然ガスエンジン等、難着火性の内燃機関の点火に、フラッシュランプ、半導体レーザ等からなる励起光源から発振した励起光をQスイッチ式のレーザ媒質を含むレーザ共振器に照射し、短いパルス幅でエネルギを集中させて放出するパルスレーザとして発振させ、さらにパルスレーザを集光レンズなどの光学素子を用いて、混合気中に集光して、エネルギ密度の高い火炎核を発生させることにより、内燃機関の点火を行うレーザ点火装置について種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、レーザ点火装置を備えた内燃機関が開示されている(特許文献1図1a、図1b参照)。
また、特許文献1では、このようなレーザ点火装置等に用いられるダイオードレーザから出射されたレーザビームを低損失で光ファイバに入力結合させるために用いられる、所定の横断面を有する結合デバイスを光ファイバと一体的に効率的に形成する方法が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、励起光を発振するレーザダイオードの特性、光ファイバの端末部の研磨形状、入力結合時の損失等には不可避的に個体差が存在し、必然的に光ファイバの端末部から出射される励起光の放射角度やエネルギ密度に個体差が発生する。
励起光の放射角度は、励起用レーザの取付け角度、集光レンズ、プリズム等の光学系のアライメント、光ファイバの直径、光ファイバ端末部の端面の曲率等によって変化する。このため、励起光を所定のビーム径で共振器に入光させるために、光ファイバと励起光集光レンズとの距離を一定にした状態で、特許文献1にあるような入力結合デバイスを用いて、レーザダイオードから出射された励起光を低損失で光ファイバへ結合できたとしても、最終的に共振器に入射する励起光の放射角度、ビーム径が変化することにより、共振器内のビームプロファイルにも個体差を生じ、結果的に共振器から出光されるパルス光の品質を一定に保つことが困難となることが判明した。
このようなパルス光の品質のバラツキは、レーザ点火装置の着火性を不安定にしたり、レーザ溶接機やレーザ切断機の加工速度や加工精度を不安定にしたりすることになる。
【0005】
そこで、本発明は、かかる実情に鑑みなされたもので、共振器内に入射する励起光の個体差があっても、共振器内のビームプロファイルをガウス関数形状に近い状態とし、共振器から出光されるパルス光が高品質かつ高出力となるように、共振器からの出力をモニタしながら光ファイバの端末部と集光レンズとの距離を調整することによって、個体差を抑制した信頼性の高いレーザ発振装置とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(6、6a、6b、6c、6d、6e、6f)では、コヒーレントな励起光(LSRPMP)を放射する励起光源(3)と、前記励起光(LSRPMP)を集光する励起光集光手段(10)と、集光された励起光(LSRPMP)を共振増幅してエネルギ密度の高いパルス光(LSRPLS)として発振する共振器(11)と、前記パルス光(LSRPLS)を拡張する拡張手段(13)と、拡張されたパルス光(LSRPLS)を集光するパルス光集光手段(14)と、保護カバー(15)とを同軸上に配設して、筒状のハウジング(16、16a、16b、16c、17、18)内に一体的に収容した出力部(1)と、前記励起光源(3)と前記出力部(1)との間に設けられ前記励起光(LSRPMP)を伝送する励起光伝送部(2)と、を具備するレーザ発振装置であって、
前記励起光伝送部(2)が、光ファイバ(20)と、保護被覆(21)で覆われた前記光ファイバ(20)が圧入される筒状の固定部材(22)と、前記固定部材(22)の基端側(224)に固定されて前記光ファイバ(20)の外周を保護する可撓性保護管(24)と、を含み、
前記固定部材(22)の先端に一致する前記光ファイバ(20)の端末面(200)から前記励起光集光手段(10)までの距離を励起光入光距離(L)とし、前記固定部材(22)が、前記励起光入光距離(L)を調整するための距離調整手段として、前記固定部材(22)の押し戻し両方向への移動を容易とする固定部保持手段(221)と、前記固定部材(22)を戻り方向に押圧する弾性部材(23、23a、23b、23c)と、前記励起光入光距離(L)を所定の位置で固定すべく、前記固定部材(22)と前記出力部(1)とを固定する固定手段(25、25a、25c)を具備し、
前記固定部材(22)は、先端側の嵌合部(223)が、前記ハウジング(16、16a、16b、16c)内に圧入され、前記嵌合部(223)の基端側において、前記固定部材(22)の外周面と前記ハウジング(16、16a、16b、16c)の内周面との間に区画される空間に、前記弾性部材(23、23a、23b、23c)が収容されている
【発明の効果】
【0007】
少なくとも、保護被覆(21)で覆われた光ファイバ(20)を可撓性保護管(24)内に挿通しながら、筒状の固定部材(22)内に圧入し、前記光ファイバ(20)の端末面(200)が前記固定部材(22)の先端に一致するまで引き出し、前記可撓性保護管(24)を前記固定部材(22)の基端側(224)に固定して励起光伝送部(2)を形成する励起光伝送部形成工程と、略筒状の第2のハウジング(17)内に弾性保持部材(12)と共振器(11)と励起光集光手段(10)とを収容し、弾性シールリング(190)を介して、略筒状の第1のハウジング(16)と前記第2のハウジング(17)とを螺結して共振器組立体(W)を形成する共振器組立体形成工程と、弾性部材(23)を介して、前記励起光伝送部(2)と、前記共振器組立体(W)とを組み付ける伝送部固定工程と、を具備するレーザ発振装置の製造方法によって、本願発明のレーザ点火装置が実現できる。
【0008】
特に、伝送部固定工程において、前記共振器(11)内に前記励起光(LSRPMP)を導入して、前記共振器(11)内のビームプロファイルをモニタしながら該出力が最大となる位置で、前記励起光伝送部(2)と前記共振器組立体(W)とを固定することによって、前記光ファイバ(20)の端末部(200)から放射される励起光(LSRPMP)の放射角に個体差があっても、前記共振器(11)から発振されるパルス光が最も高品質及び高出力となる位置を確認した上で前記励起光入光距離(L)が固定されているので、前記励起光源(3)における消費電力が小さくなり、波長安定化のための音調システムの小型化、低コスト化が可能となる。
【0009】
本発明の前記出力部(1)を内燃機関(5)の燃焼室(530)に望むように配設・固定してレーザ発振装置(6、6a、6b、6c、6d、6e、6f)をレーザ点火装置として用いた場合には、高過給、高圧縮の自動車用エンジン、シリンダボア径の大きいエンジン、天然ガスを用いた発電用エンジン等の難着火性エンジンの点火を安定して実現できる。
また、本発明のレーザ発振装置(6、6a、6b、6c、6d、6e、6f)をレーザ溶接装置やレーザ加工装置として用いた場合には、加工速度を早くしたり、加工精度を向上したりすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本発明の第1の実施形態におけるレーザ点火装置の要部を示す断面図。
図1B】本発明の第1の実施形態におけるレーザ点火装置の全体概要を示す断面図。
図2A】本発明のレーザ点火装置の製造方法における励起光伝送手段製造工程及び点火部製造工程の概要を説明するための展開図。
図2B】本発明のレーザ点火装置の製造方法の要部である点火部と励起光伝送部との組み付け工程の概要を示す構成図。
図3A】本発明の効果を確認するために行った比較例1の試験結果を示すエネルギ密度解析図。
図3B】本発明の効果を確認するために行った実施例1の試験結果を示すエネルギ密度解析図。
図3C】本発明の効果を確認するために行った比較例2の試験結果を示すエネルギ密度解析図。
図4A】比較例1のエネルギ密度分布を示す特性図。
図4B】実施例1のエネルギ密度分布を示す特性図。
図4C】比較例2のエネルギ密度分布を示す特性図。
図5】光ファイバ端面から集光レンズまでの距離の変化に対するパルス光エネルギの変化を示す特性図。
図6】本発明の第2の実施形態における出力部(点火部)1aの概要を示す要部断面図。
図7】本発明の第3の実施形態における出力部(点火部)1bの概要を示す要部断面図。
図8】本発明の第4の実施形態における出力部(点火部)1cの概要を示す要部断面図。
図9】本発明に用いられる励起光源と入力結合部の例を示す要部断面図。
図10】本発明に用いられる励起光源と入力結合部の変形例を示す要部斜視図。
図11】本発明に用いられる励起光源と入力結合部の他の変形例を示す要部斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1A図1B図2Aを参照して本発明の第1の実施形態におけるレーザ発振装置の概要について説明する。
本発明は、コヒーレントな励起光LSRPMPを放射する励起光源3と、励起光LSRPMPを集光する励起光集光手段10と、集光された励起光LSRPMPを共振増幅してエネルギ密度の高いパルス光LSRPLSとして発振する共振器11と、パルス光LSRPLSを拡張する拡張手段13と、拡張されたパルス光LSRPLSを集光するパルス光集光手段14と、保護カバー15とを同軸上に配設してハウジング16、17、18内に一体的に収容した出力部1と、励起光源3と出力部1との間に設けられ励起光LSRPMPを伝送する励起光伝送部2と、を具備するレーザ発振装置6に関するものである。
【0012】
励起光伝送部2は、光ファイバ20と、保護被覆21と、固定部材22と、可撓性保護管24とによって構成されている。
本実施形態においては、光ファイバ20の端末面200から励起光集光手段10までの距離を励起光入光距離Lとし、固定部材22が、起光入光距離Lを調整するための距離調整手段として、固定部材22の押し戻し両方向への移動を容易とする固定部保持手段221と、固定部材22を戻り方向に押圧する弾性部材23と、励起光入光距離Lを所定の位置で固定すべく、固定部材22と出力部1とを固定する固定手段25を具備することを特徴とする。
【0013】
以下、出力部1が内燃機関5に設けられ、燃焼室530内に導入した燃料空気混合気体の点火に用いるレーザ点火部として用いた場合を例に詳述する。
レーザ点火装置6は、詳述略の内燃機関5に設けられ、エンジン制御装置4(以下、ECU4と称する。)と、励起光源3と、励起光伝送部2と、出力部(点火部)1とによって構成されている。
【0014】
ECU4は、内燃機関5の運転状況に応じて点火信号IGtを出力する。
その点火信号IGtにしたがって、励起光源3への駆動電圧の供給とを停止とが行われる。
励起光源3は、フラッシュランプや半導体レーザ等の公知の励起光源を用いることができ、電源から供給されたエネルギを高周波の励起光LSRPMPに変換し、励起光伝送部2を経由して、出力部(点火部)1に励起光LSRPMPを入射する。
【0015】
励起光伝送部2は、光ファイバ20と、保護被覆21と、固定部材22と、弾性部材23と、可撓性金属保護管24とによって構成されている。
本発明の要部である固定部材22は、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケルなどの金属を略筒状に形成してある。
固定部材22は、筒状基体220に、その外周の一部を外径方向に向かって鍔状に突出せしめた鍔部221と、外径を段状に縮径した固定部材側径変部222と、出力部(点火部)1との嵌合を図る嵌合部223と、可撓性保護管24との嵌合を図る基端部224と、光ファイバ20を挿入するための貫通孔225が形成されている。
光ファイバ20は、保護被覆21を介して固定部材22に保持された状態で、第1のハウジング16(以下、単にハウジング16と称する。)に固定されている。
固定部材側径変部222は、後述するハウジング側径変部162との間に弾性部材23を収容するための空間を区画する。
【0016】
本実施形態における嵌合部223には、ハウジング16へ圧入したときに、ハウジング16の内周面161と嵌合するように、軸方向に対して僅かに先細りとなるテーパが設けられている。
固定部材22の内側に設けた貫通孔225には、保護被覆21で覆われた光ファイバ20が挿入保持されている。
基端部224には、金属製の可撓性保護管24が嵌着され、レーザ溶接等により固定され、光ファイバ20の保護と、外部からの水分の侵入防止が図られている。
光ファイバ20には、例えば、NA<0.09(NAは、Numerical Aperture、開口数)、コア径600μmの公知の光ファイバを用いることができる。
保護被覆21には、フッ素樹脂やシリコーン樹脂等の公知の可撓性部材が用いられ、光ファイバ20を覆っている。
【0017】
ハウジング16は、例えば、ステンレス、鉄、ニッケルなどの金属を略筒状に形成してある。
ハウジング16は、ハウジング基体160と、内周面161と、ハウジング側径変部162と、基端部163と、ネジ部163と、先端部165と、ネジ締め部167とによって構成されている。
ハウジング16の内周面161には、固定部材22の先端側に設けた嵌合部223が圧入されている。ハウジング16の内周面161は、テーパ状となっているので、固定部材22の嵌合部223を挿入したときに、内周面161から嵌合部223を介して光ファイバ20の外周面に面圧が負荷され、光ファイバ20を保持する力が高まる。
ハウジング側径変部162と固定部材側径変部222とによって、弾性部材収容空間が区画され、略リング状の弾性部材23が収容されている。
本実施形態における弾性部材23は、例えば、ウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等の公知の弾性部材からなるシールリングが用いられている。
弾性部材23は、ハウジング側径変部162と固定部材側径変部222とによって軸方向に上下から押圧されており、反力によって、固定部材22を基端側、即ち、戻り方向に向かって押圧している。
【0018】
後述する製造方法によって、共振器11から発振されるパルス光LSRPLSのエネルギ密度PDが最大となるように、光ファイバ20の端末部201から、後述する励起光集光手段10の表面までの距離(以下、励起光入光距離と称する。)Lを調整した状態で、ハウジング基端部163において、固定部材22が固定手段としてレーザ溶接部25を形成して溶接固定されている。
鍔部221は、後述の製造方法に示すように励起光入光距離Lを調整する際に固定部材22をハウジング16内で押し戻し方向への移動を容易にするために用いられるものであり、鍔状に限らず、固定部材22の外周面の一部を窪ませた窪み形状でもよい。
また、本発明において、光ファイバ20の端末部201から、励起光集光手段10の表面までの距離を励起光入光距離Lとして定義しているが、ファイバ20の端末部201から、励起光集光手段10の中心、励起光集光レンズ100の焦点、レンズホルダ101の端面等何らかの規準となる位置までの距離を定義し、これを規準として、光ファイバ20の端末部20の位置を設定できればよい。
【0019】
出力部(点火部)1は、励起光集光手段10、共振器11、弾性保持部材12、パルス光拡張手段13、パルス光集光手段14、保護カバー15が、一軸上に配設され、略筒状の第1のハウジング16、第2のハウジング17(以下、ハウジング17と称する。)、第3のハウジング18(以下、ハウジング18と称する。)内に収容固定されて構成されている。
出力部(点火部)1は、内燃機関5のプラグホール501内に収容固定され、先端に配設した保護カバー15を介して燃焼室530内に露出している。
励起光集光手段10は、励起光集光レンズ100とレンズホルダ101とによって構成されている。
【0020】
励起光集光レンズ100には、光学ガラス、耐熱ガラス、石英ガラス、サファイヤガラス等の公知の光学素子材料が用いられ、入射面が先端側に向かって凹面状に窪み、出射面が先端側に向かって凸面状に膨らんで、それぞれが異なる曲率半径を有する非球面レンズを構成して一体的に形成されている。
励起光集光レンズ100の入射面と出射面には、それぞれ、励起光LSRPMPの反射を抑制すべく、フッ化マグネシウム等の公知のARコーティングが施されている。
【0021】
励起光集光手段10は、所定の屈折率を有する集光レンズ100とこれを収容するレンズホルダ101とからなり、光ファイバ20の端末面200から放射された励起光LSRPMPを所定のビーム径に集光して共振器11に入射させる。
レンズホルダ101は、その底面と共振器11の上面とが当接したときに、励起光集光レンズ100と共振器11との距離を一定に保持する役割を果たすべく、レンズホルダ101の底面が精度良く加工されている。
【0022】
レーザ共振器11は、レーザ媒質110と、その一方の端面に励起光LSRPMPの反射を抑制するARコーティング111が施され、波長の短い励起光LSRPMP(例えば、波長λIN=808nm)を透過し、波長の長い反射光(例えば、波長λOUT=1064nm)を全反射する全反射鏡112と、他方の端面に配設され、レーザ媒質110内の光が所定のQ値以下の場合には全反射し、Q値を超えた場合には透過する受動Qスイッチを構成する可飽和吸収体113と、部分反射膜114とが一体に形成されて構成されている。
レーザ媒質110には、例えば、YAG単結晶にNdをドーピングしたNd:YAG等、公知のレーザ媒質が用いられている。
また、可飽和吸収体113には、YAG単結晶にCr4+をドーピングしたCr:YAG等受動Qスイッチとして公知のものが用いられている。
【0023】
共振器11は、共振器11内に導入された励起光LSRPMPを共振、増幅させ、エネルギ密度の高いパルス光LSRPLSとして出射する。
共振器11から放出されるパルス光LSPPLSは、例えば、M=1.2〜1.4の集光性が高く、約φ1.2mmのビーム径を有する平行光となっている。
なお、共振器11は、前記構成に限定するものではなく、レーザ媒質110として、公知のNd:YVO、Nd:GVO、Nd:GGG、Nd:SUAP、Yb:YAG、YB;LUAG、受動Qスイッチ112には、Cr:GGG、V:YAG、Co:スピネル等を適宜採用できる。
【0024】
ハウジング17は、略筒状で、内側には、ハウジング16と螺合するネジ部174と、励起光集光手段10を収容する集光手段収容空間173と、共振器11と弾性部材12とを収容する共振器収容空間172と共振器11から出射されたパルス光LSRPLSが通過する貫通孔171とが形成され、外周には、ネジ締め部177が形成されている。
集光手段収容空間173と共振器収容空間172との間の段差部176は、集光手段11の底面を支持すると共に、第1の基準面S1を構成している。
共振器収容空間172と貫通孔171との間の段差部175は、弾性保持部材12を係止している。
【0025】
弾性保持部材12は、コイル状バネ等の弾性部材からなり、ハウジング17内に収容された共振器11を基端側に向かって弾性的に押圧し、共振器11の上面とレンズホルダ101の底面との密着状態を維持して、励起光集光手段10と共振器11との距離が一定となるように保持している。
ハウジング17内に、弾性保持部材12、共振器11、励起光集光手段10の順に収容した後、ハウジング16のネジ部194とハウジング17のネジ部174とを螺結することによって、励起光集光手段10と共振器11とが第1の基準面S1にレンズホルダ101の底面が密着してハウジング17内に弾性的保持された状態となる。
弾性シール部材190は、ハウジング16とハウジング17とを螺合したときに、ハウジング16の先端面165が過剰に励起光集光手段10を押圧しないように、緩衝効果を発揮すると共に、ハウジング16とハウジング17とを密着させ共振器収容空間内に水滴等の侵入を防いでいる。
【0026】
拡張レンズ130には、光学ガラス、耐熱ガラス、石英ガラス、サファイヤガラス等の公知の光学素子材料が用いられている。
拡張レンズ130の入射面と出射面のそれぞれには、パルス光LSRPLPの反射を抑制するARコーティングが施されている。
また、拡張レンズ130は、入射面と出射面とが異なる曲率半径を有する一体の非球面レンズとなっている。
【0027】
集光レンズ14には、光学ガラス、耐熱ガラス、石英ガラス、サファイヤガラス等の公知の光学素子材料が用いられている。
集光レンズ14の入射面と出射面のそれぞれには、パルス光LSRPLPの反射を抑制するARコーティングが施されている。
また、集光レンズ140は、入射面と出射面とが異なる曲率半径を有する一体の非球面レンズとなっている。
【0028】
保護ガラス150は、燃焼室530内を臨み、燃焼室530内の熱、圧力、燃料、煤等による汚染等から集光レンズ14を保護している。
保護ガラス15には、光学ガラス、耐熱ガラス、石英ガラス、サファイヤガラス等の公知の光学素子材料が用いられている。
保護ガラス15の入射面には、集光レンズ14から出射されたパルス光LSRPLSの反射を抑制するARコーティングが施されている。
【0029】
ハウジング18には、SUS等の耐熱性金属が用いられている。
ハウジング18は、略筒状で、内側に、パルス光拡張手段13(ビームエキスパンダ)、パルス光集光手段14、保護カバー16を収容保持している。
ハウジング18は、略筒状のハウジング基体180と、その内側に設けたパルス集光レンズ14とスペーサ192と保護カバー15とを収容する集光レンズ収容空間181と、パルス光拡張手段13を収容する拡張レンズ収容空間182と、ハウジング17を螺結するためのネジ部183と、パルス光LSRPLSが通過するための貫通孔184、185と、外周面の一部に設けたハウジング18を内燃機関5のシリンダヘッド50に固定するためのネジ部187と、ネジ部187を締め付けるための六角部188と、集光レンズ収容空間181内に収容されたパルス集光レンズ14とスペーサ192と保護カバー15とを一体的に加締め固定する加締め部186とによって構成されている。
拡張レンズ収容空間182と貫通孔184との段差部は第2の基準面S2となり、拡張レンズ収容空間182内に収容したパルス光拡張手段13のレンズホルダ131の底面が当接する。
【0030】
弾性シール部材191を介挿した状態で、ハウジング17のネジ部178と、ハウジング18のネジ部183とを螺合すると、ハウジング17の先端面179がレンズホルダ131の上面に当接して、レンズホルダ131の底面を第2の基準面S2に弾性的に押圧することになる。
このとき、弾性シール部材191は、レンズホルダ131が過剰に押圧されるのを抑制している。
【0031】
貫通孔185と、集光レンズ収容空間181との間の段差部は第3の基準面S3となり集光レンズ14、スペーサ192、保護カバー15を収容したときに、集光手段14のレンズホルダ141の上面が当接する。
第2の基準面S2と第3の基準面S3との距離は精度良く加工されており、拡張レンズ130と集光レンズ140との距離が一定となる。
【0032】
共振器11から出射されるパルス光LSRPLSは、ほぼ平行光であり、拡張レンズ130と集光レンズ140とが一定の距離を隔てて配設されているので、拡張レンズ130で拡張されたパルス光LSRPLSが、集光レンズ140によって集光されたときには、常に所定の集光点FPに集光することになる。
このとき、本発明においては、光ファイバ20の端末面200から出射される励起光LSRPMPの放射角に個体差があっても、共振器11から出射するパルス光LSRPMPの品質、出力がもとっとも高くなるように、励起光入光距離Lが調整されているので、安定した品質のパルス光LSRPLSが一定の位置に集光されるため、安定した着火を実現できるのである。
【0033】
図2A図2Bを参照して、本発明の要部である、高品質のパルス光LSRPMPを出力させるために、励起光入光距離Lを調整しながら出力部1と励起光伝送部2とを組み付けする製造方法について説明する。
本発明のレーザ発振装置の製造方法は、少なくとも、保護被覆21で覆われた光ファイバ20を可撓性保護管24内に挿通しながら、筒状の固定部材22内に圧入し、光ファイバ20の端末面200が固定部材22の先端に一致するまで引き出し、可撓性保護管24を固定部材22の基端側224に固定して励起光伝送部2を形成する励起光伝送部形成工程と、略筒状の第2のハウジング17内に弾性保持部材12と共振器11と励起光集光手段10とを収容し、弾性シールリング190を介して、略筒状の第1のハウジング16と第2のハウジング17とを螺結して共振器組立体Wを形成する共振器組立体形成工程と、弾性部材23を介して、励起光伝送部2と、共振器組立体Wとを組み付ける伝送部固定工程と、を具備する。
【0034】
以下、各工程、及び、本発明のレーザ発振装置の完成までに必要な工程について順を追って詳述する。
予め、図2Aに示すように、保護被覆21で覆われた光ファイバ20を可撓性保護管24内に挿通しながら、筒状の固定部材22内に圧入し、光ファイバ20の端末面200が固定部材22の先端に一致するまで引き出し、可撓性保護管24を固定部材22の基端側に溶接固定して励起光伝送部2が完成する。
このとき、樹脂製の保護被覆21は弾性を有するので、弾性変形しながら固定部材22内を摺動するが、光ファイバ20の末端部200を所定位置に配設し、静止した状態になると、保護被覆21の復元力が固定部材22の内周面及び光ファイバ20に作用し、摩擦力によって光ファイバ20が固定部材22内で移動することがない。なお、光ファイバ20と固定部材22との間に接着剤を充填したり、固定用リングを圧入したりしても良い。
【0035】
次いで、ハウジング17内に弾性保持部材12と共振器11と励起光集光手段10とを収容し、弾性シールリング190を介して、ハウジング16とハウジング17と螺結する。
さらに、励起光伝送部2と、内部に弾性保持部材12と共振器11と励起光集光手段10とを収容しハウジング16、17が一体となったもの(以下、共振器組立体Wと称する。)と、弾性部材23とを、図2Bに示すような、組付装置ASMによって組み付けを行う。
【0036】
組付装置ASMの一例と合わせて、本発明の要部である励起光入光距離調整工程について説明する。
組付装置ASMは、伝送部保持クランプCLP1と、ワーククランプCLP2、CLP3、伝送部固定位置調整手段SVOと、パルス光モニタMONと、固定装置として設けたレーザ溶接機WLDと、これらを駆動制御する制御装置CNTとによって構成されている。
組立体保持手段として設けられたワーククランプCLP2、CLP3は、生後装置CNTによって開閉駆動され、共振器組立体Wを保持固定する。
このとき、ハウジング16、17の外周に設けたネジ締め部167、177を利用しても良い。
【0037】
伝送部保持手段として設けられた伝送部保持クランプCLP1は、励起光伝送部2の固定部材22に設けた鍔部221を保持する。
伝送部保持クランプCLP1は、伝送部固定位置調整手段SVOによって駆動され、固定部材22の先端に設けた嵌合部223を共振器組立体Wのハウジング16の内周面161に摺動するように移動させる。
伝送部固定位置調整手段SVOは、励起光入光距離Lを30μm以上300μm以下の調整幅で調整可能となっている。
【0038】
パルス光モニタMONは、励起光伝送部2を利用して、励起光源3から励起光LSRPMPを共振器組立体W内に導入したときに、共振器11内のビームプロファイルをモニタし、出力が最大となる光ファイバ20の端末面200の位置を検出する。
具体的には、ビームプロファイルを検出する励起光モニタMONとして、公知のイメージスセンサ式のレーザビームプロファイラやスキャン式のレーザビームプロファイラ等を用いることができる。
また、本発明では、相対的な結果が分かればよいので、エネルギ密度の代用特性として、共振器11の出力側表面の温度分布等を計測しても良い。
制御装置CNTは、伝送部固定位置調整手段SVOを駆動して、励起光入光距離Lを変化させながら、励起光モニタMONによって検出された共振器11内のビームプロファイルが最適となる位置を判定し、最もレーザ品質が高く出力が安定したときの励起光入光距離Lで伝送部固定位置調整手段SVOをを停止し、レーザ溶接機WLDを駆動させて、固定部材22とハウジング16の基端部163とをレーザ溶接により固定することにより、共振器組立体Wと励起光伝送部2との組み付けが完了する。
【0039】
なお、伝送部固定位置調整手段SVOは、サーボモータ、ソレノイドアクチュエータ、エアシリンダ等の駆動手段と、ボール螺子やリニアガイド等の移動方向変換手段と、変速ギア等とを組み合わせて、前進後退、又は、正転逆転によって、固定部材22の押し戻しを30μmから300μmの範囲で自在に制御できるものであればどのような機構であっても構わない。
また、ハウジング16の内周面161には、先端に向かって径小となるように僅かに傾斜面が施されており、固定部材22を圧入したときに、ハウジング16と固定部材22との間に面圧が作用し、固定部材22内に配設された光ファイバ20が固定部材22内を移動することはない。
【0040】
さらに、弾性部材23は、伝送部固定位置調整手段SVOを移動させている間は、固定部材22を反挿入方向へ付勢するため、伝送部固定位置手段SVOによって、急激に固定部材22がハウジング16内に挿入されるのを抑制することができる。
また、固定部材22とハウジング16との組み付けが完了した後は、ハウジング16と固定部材22との気密性を確保し、内部に水滴などの侵入を阻止するシール部材として機能する。
なお、共振器11から出射されたパルス光LSRPLSは、全反射鏡MLを用いて、出射方向を特定の方向に変化させてパルス光モニタMONへ入力するようにし、戻り光による共振器11等の損傷を防止するようにしても良い。
【0041】
図3A図3B図3C図4A図4B図4C図5を参照して本発明の効果を確認するために行った試験について説明する。
図2Bに示した組立装置ASMと同様の原理で、光ファイバ20の端末面200から励起光集光手段10の表面までの距離Lを3.0mmから3.6mmまで変化させてたときの共振器11の出力をモニタした。
【0042】
励起光入光距離Lを変化させたとき、最も出力が高くなった位置(L=3.3mm)を実施例1とし、実施例1よりも、励起光入光距離Lを短くしたとき(L=3.0mm)を比較例1とし、実施例1よりも、励起光入光距離Lを長くしたとき(L=3.6mm)を比較例2とする。
図3A図4Aに示すように、比較例1においては、出力されるビーム径が小さく、エネルギ密度も低い。
また、図3C図4Cに示すように、比較例2においては、出力されるビーム径は大きくなるが、中心部分のエネルギ密度が平均化され、却って出力強度は低下する。
図3B図4B図5に示すように、励起光入光距離Lには、パルス光LSRPLSの出力強度を最大とする最適値が存在する。
特に、レーザ媒質110内のエネルギ分布が、図4Bに示すように、ガウス関数に近くなるほど、出力品質が向上する。
【0043】
一方、励起光入力距離Lの最適値は、励起光源2に用いられる半導体レーザの品質、光ファイバ20への入力結合時の損失、光ファイバ20の端末面200の端面形状等によって端末面200から出射される励起光LSRPMPのる放射角に個体差がある。
しかし、本発明により、このような個体差があっても、共振器組立体Wに励起光LSRPMPを入光して、パルス光LSRPLSの出力をモニタしながら励起光入光距離Lを調整することによって、出力の最適化を図ることができる。
【0044】
図6を参照して、本発明の第2の実施形態におけるレーザ発振装置6aの要部である、出力部1a、及び、励起光伝送部2aについて説明する。
本実施形態においては、前記実施形態と同様の構成を基本とし、励起光入光距離Lの調整を図るための調整手段と、最適な励起光入光距離Lを決定した後固定部材22aとハウジング16aとを固定するための固定手段25aが相違する。
このため、前記実施形態と同様の構成については、同じ符号を付し、本実施形態における特徴的な部分にアルファベットの枝番を付して示したので、特徴的な部分についてのみ説明する。なお、図6中では、光ファイバ20を覆う保護被覆21の図示を略している。以下の実施形態においても同様である。
【0045】
前記実施形態においては、励起光入光距離Lを調整するのに、鍔部221をクランプCLP1によって保持して、固定位置調整装置SVOによって、固定部材22を前後させ、レーザ溶接部25によって固定部材22とハウジング16とを直接的に固定した例を示したが、本実施形態においては、ハウジング16aのネジ部を設けた先端部163aに螺合するナット部250aと、ナット部250aを固定するロック部材251aとを設け、弾性部材23aを先端側に向かって縮径するテーパ面を設けた先端先細り形状とし、ハウジング16aのハウジング側径変部162aの一部にもテーパ面を設けた点が相違する。
【0046】
本実施形態では、ナット部250aをネジ締めすると、鍔部221が押し込まれ、励起光入光距離Lが短くなり、ナット部250aを緩めると、弾性部材23aの復元力によって、固定部側径変部222が基端側に押し戻され、励起光入光距離Lが長くなる。
前記実施形態においては、上述の組立装置ASMにおいて、転送部保持クランプCLP1によって鍔部221を保持して固定部材22を押し戻し移動させたが、本実施形態においては、ナット部250aの締め緩み移動するように固定位置調整装置SVOを構成することによって励起光入光距離Lを調整できる。
【0047】
本実施形態においては、前記実施形態と同様の効果に加え、ナット部250aを弾性部材23aがによって押圧されたときに、先端側に設けたテーパ面がハウジング側径変部162aのテーパ面に押し込まれ、径方向に向かう弾性圧力が発生し、固定部材22aが強固に保持される。
ロック部材251aは、前記実施形態と同様に共振器11内におけるビームプロファイルが最適となる位置でナット部250aを固定する。
本実施形態において、具体的なロック部材251aの固定方法を特に限定するものではないが、例えば、環状部材を固定部材基体220の基端側から圧入したり、固定部材22の基端側にネジ部を形成して、ロックナットでナット部250aを締め付けるようにしたり、ナット部250aと固定部材基体220とを溶接固定したりすることで実現できる。
【0048】
図7を参照して、本発明の第3の実施形態におけるレーザ発振装置6bの要部である、出力部1b、及び、励起光伝送部2bについて説明する。
本実施形態では、第2の実施形態と同様の構成において、弾性部材23aに代えて、弾性部材23bとして、コイル状のバネ部材を用いた点が相違する。
本実施形態においては、第2の実施形態と同様の方法により励起光入光距離Lを最適化した後、固定部材22bをハウジング16bに対して所定位置に保持できる。
本実施形態においては、第2の実施形態のように、弾性部材23aの圧力を径方向の保持力に利用することはできないが、少なくとも、第1の実施形態と同様の効果が発揮できる。
【0049】
図8を参照して、本発明の第4の実施形態におけるレーザ発振装置6cの要部である、出力部1c、及び、励起光伝送部2cについて説明する。
前記実施形態においては、弾性部材23、23a、23bを固定部材22、22a、22bの固定部材側径変部222と、ハウジング側径変部162、162aとによって区画された空間内に収容した例を示したが、本実施形態においては、その空間を弾性部材23cの収容空間として利用するのではなく、固定手段25cとして、エポキシ樹脂や、接着剤等のロック部材251cを充填するための空間として利用し、弾性部材23cは、ハウジング16cの基端部163cの上面と鍔部221及びナット部250aとの間に形成される空間内に収容した点が相違する。
【0050】
本実施形態においては、基端部163cに貫通孔162cを設け、固定部材22cとハウジング基端部162cとの間に形成された空間と連通させ、貫通孔162cから、ロック部材251cを流し込み、固化させて固定部材22cを所定位置に固定することができる。
本実施形態においても、第1、第3の実施形態と同様の効果が発揮される。
【0051】
図9を参照して、本発明のレーザ発振装置に適用可能な、励起光源の変形例3dと励起光伝送部2への入力結合手段について説明する。
前記実施形態においては、公知の励起光源3を使用し、出力部1には、励起光源3に内蔵された1つの半導体レーザから発振された励起光LSRPMPが入力される構成を示したが、本実施形態においては、励起光源3dが、複数の半導体レーザ30と、それぞれの半導体レーザ30から出射される励起光LSRPMPを集光する集光レンズ31と、複数の励起光LSRPMPをまとめて集光する集光手段32と、集光手段32を通過した励起光LSRPMPの光ファイバ20への入光角度を変化させる反射鏡33を具備する点が相違する。
本実施形態においては、励起光源3dから光ファイバ20に入光側の端末面203に入力結合される励起光LSRPMPの0入光角度を変化させることにより、光ファイバ20の出光側の端末面200から出射する励起光LSRPMPの放射角度θの安定化を図っている。
【0052】
励起光源3dでは、ハウジング34内に、複数の半導体レーザ30が、球面上若しくは湾曲面上に配設されている。
それぞれの半導体レーザ30の出光方向には所定の屈折率を有するシリンドリカルレンズ31が配設されている。
シリンドリカルレンズ31を介して集光された複数の励起光LSRPMPは集光レンズ320とレンズホルダ321とからなる集光手段32を介して集光されながら、略すり鉢状の鏡面を有する反射鏡33内に導入され、光ファイバ20の入射側端末部203から光ファイバ20内に入力される。
【0053】
光ファイバ20な内部は屈折率の高いコア201と相対的に屈折率の低いクラッド202によって構成されており、光ファイバ20内では、入光された励起光LSRPMPが、コア201とクラッド201との境界で反射を繰り返しながら伝送される。
このとき、本実施形態のように、複数の半導体レーザ30から出射された励起光LSRPMPがそれぞれ、異なる入射角で光ファイバ20内に入力されるので、コア201内に複数の伝送モードが存在することになり、コア201内で副屈折が促進され、合成波の形成により、出射側の端末面200から出射される励起光LSRPMPの放射角θが一定となる。
【0054】
図10図11を参照して、本発明に用いられる励起光源と入力結合部の変形例3e、3fを具備するレーザ装置6e、6fについて説明する。
図9に示した構成では、半導体レーザ30を球面上に配設し、反射鏡33を反射面が略円錐面状に形成した例を示したが、図10に示す変形例3eでは、複数の半導体レーザを平板状に並べたレーザダイオードアレイ(レーザバーともいう。)30eと複数の集光レンズを各半導体レーザの光軸上に位置するように配設したレンズアレイ31eとによって励起光源3eを構成し、光ファイバ20との入力結合部に、曲率半径が光ファイバ20との連結側に向かって徐々に大きくなり、光軸に対して光源側に向かって凸となる湾曲面状の反射面を有する反射鏡33eが用いられている。
さらに、図11に示す変形例33fでは、平面状に複数の半導体レーザを配設した面発光レーザ30fと、複数の集光レンズを各半導体レーザの光軸上に位置するように配設したレンズアレイ31fとによって励起光源3fを構成し、光ファイバ20との入力結合部に、曲率半径が光ファイバ20との連結側に向かって徐々に大きくなり、光軸に対して光源側に向かって凸となる湾曲面状の反射面を有する反射鏡33fが用いられている。
このような構成とすることによって、励起光源3、3eから放射された励起光LSRPMPが反射鏡33e、33fで励起光源側に戻る戻り光の発生を抑制して、さらなる光ファイバ20へ結合される励起光LSRPMPの集光効率の向上を図ることもできる。
なお、本変形例は、上記実施形態におけるレーザ装置のいずれにも適宜採用し得るものである。
【0055】
前記実施形態においては、本発明のレーザ発振装置を内燃機関用の点火装置として用いた場合を例として説明したが、本発明のレーザ発振装置は、点火装置としての用途に限定されるものでなく、レーザ溶接機やレーザ切断機、レーザ加工機等の用途にも適宜採用し得るものである。
この場合においても、効率よくパルスレーザが発振されるので、共振器の発熱が抑制され、加工速度の向上を図ることができる。
また、共振器の冷却システムの小型化、低コスト化も可能となる。
【符号の説明】
【0056】
1 出力部(点火部)
10 励起光集光手段
11 共振器
12 弾性保持部材
13 パルス光拡張手段
14 パルス光集光手段
15 保護カバー
16、17、18 ハウジング
2 励起光伝送部
20 光ファイバ
21 保護被覆
22 固定部材
220 固定部基体
221 距離調整手段(鍔部)
222 固定部材側径変部
223 嵌合部
224 基端部
225 光ファイバ挿入孔
3 励起光源
4 電子制御装置(ECU)
5 内燃機関
6 レーザ発振装置(レーザ点火装置)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0057】
【特許文献1】特表2010−539530号公報
図1A
図1B
図2A
図2B
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図3A
図3B
図3C