【文献】
野里 博和,"画像認識技術を用いた大腸内視鏡画像の客観的評価手法",情報処理学会研究報告,日本,一般社団法人情報処理学会,2012年 2月15日,p.1−6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の電子内視鏡装置によって生成される画像は、通常の内視鏡画像に比べれば正常組織と病変部とを識別し易いものといえる。しかし、病変部の色は症状の程度に応じて変化する。症状の程度に応じた変化は微妙であるため、経験の浅い術者では、特許文献1に記載の技術をはじめとする公知の技術を用いて正常組織と病変部とを識別することができたとしても、病変部の重症度を正確に評価することは難しい。更には、熟練した術者であっても、重症度の評価が術者個々人の経験や知識に依存する読像技能に委ねられるため、客観的かつ再現性のある(術者のスキルに依存しない)評価を行うことができなかった。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、病変部の重症度について客観性かつ再現性が担保された評価を行うことを可能とする病変評価情報生成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の病変評価情報生成装置は、カラー内視鏡画像データを取得する画像データ取得手段と、カラー内視鏡画像データによる内視鏡画像を構成する各画素の色相値及び彩度値を算出する色彩算出手段と、各画素の色相値及び彩度値について画素と評価対象の病変に対応する所定の基準値との相関値を算出する相関値算出手段と、算出された各画素における相関値を積算し、積算することによって得た総和を病変部の重症度を評価する評価値とする評価値算出手段とを備える。
【0007】
本実施形態のように、評価対象の病変に対応する基準値との相関値を画素毎に算出し、算出された相関値の総和を求めることにより、病変部の重症度について客観性かつ再現性が担保された評価を行うのに好適な評価値が得られる。これにより、術者は、病変の症状の程度を客観的に把握することができる。
【0008】
相関値算出手段は、色相値と彩度値を座標軸とする所定の二次元座標系内における画素と基準値との距離に基づいて相関値を算出する構成としてもよい。
【0009】
相関値算出手段は、更に、二次元座標系内における画素と基準値との距離のうち、互いの色相値の距離を色相距離と定義し、互いの彩度値の距離を彩度距離と定義した場合、色相距離に基づいて色相に関する色相相関値を算出し、彩度距離に基づいて彩度に関する彩度相関値を算出し、算出された色相相関値と彩度相関値とを乗算することにより相関値を算出する構成としてもよい。
【0010】
色相相関値は、例えば正規化された値である。色相相関値は、例えば、色相距離が所定距離より長いとき、値が0であり、色相距離が所定距離以内のとき、色相距離が短いほど1に近い。
【0011】
彩度相関値は、例えば正規化された値である。彩度相関値は、例えば、画素の彩度値が基準値の彩度値よりも低くかつ彩度距離が所定距離より長いとき、値が0であり、画素の彩度値が基準値の彩度値よりも低くかつ彩度距離が所定距離以内のとき、彩度距離が短いほど1に近く、画素の彩度値が基準値の彩度値以上のとき、彩度距離に拘わらず1である。
【0012】
色彩算出手段は、カラー内視鏡画像データの色空間をHSI色空間又はHSV色空間に変換することにより、色相値、彩度値及び輝度値を算出する構成としてもよい。
【0013】
病変評価情報生成装置は、彩度値を輝度値に基づいて補正する彩度値補正手段を備えた構成としてもよい。この場合、相関値算出手段は、補正後の彩度値を用いて相関値の算出を行う。
【0014】
彩度値補正手段は、画素の輝度値、彩度値を夫々、INT、SATと定義し、基準値として規定される組織の輝度値、彩度値を夫々、REFER
_INT、REFER
_SATと定義し、組織の輝度値と彩度値との相関係数に対応する角度をθと定義し、補正後の画素の輝度値、彩度値を夫々、INT
_correction、SAT
_correctionと定義した場合に、次式
により、画素の彩度値を補正する構成としてもよい。上記組織は、例えば血液である。
【0015】
病変評価情報生成装置は、各画素について色相値及び彩度値に基づいて病変部を写す画素か否かを判定する病変画素判定手段を備えた構成としてもよい。この場合、相関値算出手段は、病変部を写す画素と判定されたものについてだけ相関値を算出する。
【0016】
病変評価情報生成装置は、評価値を所定の表示画面に表示させる表示手段を備えた構成としてもよい。
【0017】
病変評価情報生成装置は、相関値が算出された各画素の色情報を相関値に応じた色情報に置換する色情報置換手段を備えた構成としてもよい。この場合、表示手段は、色情報が置換された画素により構成される内視鏡画像を表示画面に表示させる。
【発明の効果】
【0018】
本実施形態の病変評価情報生成装置によれば、病変部の重症度について客観性かつ再現性が担保された評価を行うのに好適な評価情報が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0021】
図1は、本実施形態の電子内視鏡装置1の構成を示すブロック図である。
図1に示されるように、電子内視鏡装置1は、電子スコープ100、電子内視鏡用プロセッサ200、モニタ300及びプリンタ400を備えている。
【0022】
電子内視鏡用プロセッサ200は、システムコントローラ202やタイミングコントローラ206を備えている。システムコントローラ202は、メモリ204に記憶された各種プログラムを実行し、電子内視鏡装置1の全体を統括的に制御する。また、システムコントローラ202は、操作パネル208に入力されるユーザ(術者又は補助者)による指示に応じて電子内視鏡装置1の各種設定を変更する。タイミングコントローラ206は、各部の動作のタイミングを調整するクロックパルスを電子内視鏡装置1内の各回路に出力する。
【0023】
電子内視鏡用プロセッサ200は、電子スコープ100に照明光を供給する光源装置230を備えている。光源装置230は、ランプ232、ランプ電源234、集光レンズ236及び調光装置240を備えている。ランプ232は、ランプ電源234から駆動電力の供給を受けることにより白色の照明光を放射する高輝度ランプであり、例えば、キセノンランプ、メタルハライドランプ、水銀ランプ又はハロゲンランプが適用される。ランプ232より放射された照明光は、集光レンズ236により集光された後、調光装置240を介して電子スコープ100のLCB(Light Carrying Bundle)102の入射端に入射される。
【0024】
調光装置240は、システムコントローラ202の制御に基づいてLCB102の入射端に入射される照明光の光量を調整する装置であり、絞り242、モータ243及びドライバ244を備えている。ドライバ244は、モータ243を駆動するための駆動電流を生成してモータ243に供給する。絞り242は、モータ243による駆動によって照明光が通過する開口を変化させることにより、開口を通過する照明光の光量を調整する。
【0025】
入射端よりLCB102内に入射した照明光は、LCB102内を伝播して電子スコープ100の先端部内に配置されたLCB102の射出端より射出され、配光レンズ104を介して被写体に照射される。被写体からの反射光は、対物レンズ106を介して固体撮像素子108の受光面上で光学像を結ぶ。
【0026】
固体撮像素子108は、IR(Infra Red)カットフィルタ108a、ベイヤ配列カラーフィルタ108bの各種フィルタが受光面に配置された単板式カラーCCD(Charge-Coupled Device)イメージセンサであり、受光面上で結像した光学像に応じたR(Red)、G(Green)、B(Blue)の各原色信号を生成する。
【0027】
電子スコープ100の接続部内には、ドライバ信号処理回路112が備えられている。ドライバ信号処理回路112は、固体撮像素子108より入力される原色信号に対して色補間、マトリクス演算、Y/C分離等の所定の信号処理を施して画像信号(輝度信号Y、色差信号Cb、Cr)を生成し、生成された画像信号を電子内視鏡用プロセッサ200の画像処理ユニット220に出力する。また、ドライバ信号処理回路112は、メモリ114にアクセスして電子スコープ100の固有情報を読み出す。メモリ114に記録される電子スコープ100の固有情報には、例えば固体撮像素子108の画素数や感度、動作可能なフレームレート、型番等が含まれる。ドライバ信号処理回路112は、メモリ114より読み出された固有情報をシステムコントローラ202に出力する。
【0028】
システムコントローラ202は、電子スコープ100の固有情報に基づいて各種演算を行い、制御信号を生成する。システムコントローラ202は、生成された制御信号を用いて、電子内視鏡用プロセッサ200に接続中の電子スコープ100に適した処理がなされるように電子内視鏡用プロセッサ200内の各回路の動作やタイミングを制御する。
【0029】
タイミングコントローラ206は、システムコントローラ202によるタイミング制御に従って、ドライバ信号処理回路112及び画像処理ユニット220にクロックパルスを供給する。ドライバ信号処理回路112は、タイミングコントローラ206から供給されるクロックパルスに従って、固体撮像素子108を電子内視鏡用プロセッサ200側で処理される映像のフレームレートに同期したタイミングで駆動制御する。
【0030】
画像処理ユニット220は、システムコントローラ202による制御の下、ドライバ信号処理回路112より入力した画像信号に基づいて内視鏡画像等をモニタ表示するためのビデオ信号を生成し、モニタ300に出力する。これにより、術者は、モニタ300の表示画面に表示された内視鏡画像を通じて例えば消化管内の診断等を行うことができる。
【0031】
電子内視鏡用プロセッサ200は、NIC(Network Interface Card)210及びネットワーク500を介してサーバ600に接続されている。電子内視鏡用プロセッサ200は、内視鏡検査に関する情報(例えば、患者の電子カルテ情報や術者の情報)をサーバ600からダウンロードすることができる。ダウンロードされた情報は、例えばモニタ300の表示画面や操作パネル208に表示される。また、電子内視鏡用プロセッサ200は、内視鏡検査結果(内視鏡画像データ、検査条件、画像解析結果、術者所見等)をサーバ600にアップロードすることにより、サーバ600に保存することができる。
【0032】
[病変評価情報生成処理]
図2は、電子内視鏡用プロセッサ200にて実行される病変評価情報生成処理のフローチャートを示す。以下に説明する病変評価情報生成処理は、電子スコープ100により撮像された撮影画角内の病変部であって、炎症性腸疾患(IBD)の病変である炎症(浮腫や易出血性を含む赤変病変)の重症度を客観的に評価するための処理である。病変評価情報生成処理は、概略的には、カラー内視鏡画像データに含まれる各画素について、例えば受光面の左上隅に位置する画素から所定の画素アドレス順に、病変部を写す画素(以下、「病変画素」と記す。)であるか否かを判定し、病変画素と判定された画素に写る病変部の重症度を示すスコアを算出する。全ての病変画素についてスコアが算出されると、算出された全てのスコアに基づいて病変部の重症度を評価するための評価値が算出される。評価値は、所定のアルゴリズム(
図2に示される病変評価情報生成処理)の実行により算出される再現性が担保された数値データである。そのため、術者は評価値を把握することにより、病変部の重症度を客観的に評価することができる。
【0033】
[
図2のS11(病変画素の判定)]
本処理ステップS11(病変画素の判定)では、処理対象の画素(x,y)が病変画素であるか否かが判定される。本処理ステップS11(病変画素の判定)を実行して病変画素を検出することにより、以降の処理ステップの処理実行対象を病変画素に限定することができる。これにより、本フローチャート全体の処理量が削減される。
図3に、本処理ステップS11(病変画素の判定)のサブルーチンを示す。
【0034】
(
図3のS11a)
本処理ステップS11aでは、処理対象の画素(x,y)について、ドライバ信号処理回路112より入力した画像信号(輝度信号Y、色差信号Cb、Cr)が所定のマトリクス係数を用いて原色信号(R、G、B)に変換される。
【0035】
(
図3のS11b)
本処理ステップS11bでは、RGB3原色で定義されるRGB空間の画素値(R(x,y)、G(x,y)、B(x,y))が、色相(Hue)・彩度(Saturation)・輝度(Intensity)の3要素で定義されるHSI(Hue-Saturation-Intensity)色空間の画素値(色相H(x,y)、彩度S(x,y)、輝度I(x,y))に変換される。変換処理後の画素値(H(x,y)、S(x,y)、I(x,y))は、画像処理ユニット220内のメモリ220aに保存される。なお、本処理ステップS11bでは、RGB空間の画素値(R(x,y)、G(x,y)、B(x,y))を、HSI色空間の画素値(H(x,y)、S(x,y)、I(x,y))に代えて、色相・彩度・明度(Value)の3要素で定義されるHSV(Hue-Saturation-Value)色空間の画素値(色相H(x,y)、彩度S(x,y)、明度V(x,y))に変換してもよい。
【0036】
(
図3のS11c)
本処理ステップS11cでは、処理対象の画素(x,y)が病変画素であるか否かが色相値H(x,y)及び彩度値S(x,y)に基づいて判定される。
図4は、本判定処理において用いられる参照データを示す図である。
図4は、複数の炎症性腸疾患患者の内視鏡画像データより抽出した生体組織像の画素データ(色相値H(x,y)と彩度値S(x,y)からなるデータ対)をプロットした散布図となっている。
図4に示される散布図は、右側下方の一点鎖線で囲まれた領域Aとそれ以外の領域Bに区分される。領域Aは、炎症性腸疾患の内視鏡診断に熟練した医師によって炎症と判断された部位の画素の大半がプロットされた領域であり、領域Bは、正常と判断された部位の画素の大半がプロットされた領域である。このように、領域A及びBは経験値に基づいて規定される領域であり、本発明者の研究の成果物である。
【0037】
本処理ステップS11cでは、処理対象の画素(x,y)について、色相値H(x,y)と彩度値S(x,y)とのデータ対が領域Aにプロットされるか否かが判定される。具体的には、画素値(H(x,y),S(x,y))は、次式(1)及び(2)を満たす場合(
図3のS11c:YES)、領域Aにプロットされると判定される。画素値(H(x,y),S(x,y))は、次式(1)と次式(2)の少なくとも一方を満たさない場合には(
図3のS11c:NO)、領域Bにプロットされると判定される。なお、δ
H1、δ
S1及びδ
S2は、術者によって設定可能な補正値である。各補正値を適宜設定することにより、判定の厳しさ(感度)等を調整することができる。
【0040】
(
図3のS11d)
領域Aにプロットされる画素値(H(x,y),S(x,y))の画素は、炎症部を写す画素(すなわち病変画素)と判定される。ここで、メモリ220aには、フラグテーブルが格納されている。フラグテーブルは、カラー内視鏡画像データに含まれる各画素(x,y)に対応するフラグf(x,y)から構成されたテーブルである。画像処理ユニット220は、病変画素と判定された画素(x,y)に対応するフラグf(x,y)の値を「1」に書き換える。
【0041】
(
図3のS11e)
領域Bにプロットされる画素値(H(x,y),S(x,y))の画素は、正常組織を写す画素と判定される。画像処理ユニット220は、正常組織を写す画素と判定された画素(x,y)に対応するフラグf(x,y)の値を「0」に書き換える。
【0042】
[
図2のS12(フラグの判定)]
本処理ステップS12(フラグの判定)では、
図3の処理ステップS11d又はS11eにて書き換えられたフラグf(x,y)の値が判定される。フラグf(x,y)の値が「1」である場合(
図2のS12:YES)、本フローチャートの処理は、処理対象の画素(x,y)について炎症部の評価値(スコア)を算出するため、
図2の処理ステップS13(炎症部の画素単位でのスコア算出)に進む。フラグf(x,y)の値が「0」である場合(
図2のS12:NO)、本フローチャートの処理は、処理対象の画素(x,y)について炎症部の評価値(スコア)を算出する必要がないため、
図2の処理ステップS13(炎症部の画素単位でのスコア算出)等をスキップして処理ステップS16(全画素終了判定)に進む。
【0043】
[
図2のS13(炎症部の画素単位でのスコア算出)]
本処理ステップS13(炎症部の画素単位でのスコア算出)では、処理対象の病変画素(x,y)について炎症部の評価値(スコア)が算出される。
図5に、本処理ステップS13(炎症部の画素単位でのスコア算出)のサブルーチンを示す。
【0044】
(
図5のS13a)
本処理ステップS13aでは、処理対象の病変画素(x,y)について、メモリ220aから画素値(H(x,y)、S(x,y)、I(x,y))が読み出される。
【0045】
(
図5のS13b)
被写体を照明する照明光の照度は、撮影画角内において一様ではなく少なからずバラツキがある。また、炎症は血管の拡張及び血漿成分の血管外への漏出等を伴い、症状が進行するほど表面の正常粘膜が脱落するため、血液の色に近付くことが知られている。また、血液の彩度と輝度とが負の相関を持つことが知られている。本発明者は、これらの事実から、照明光の照度のバラツキにより炎症部の輝度に潜在的な誤差が含まれており、輝度の誤差が血液と色の近い炎症部の彩度に影響している(すなわち、炎症部の彩度が照明光の照度のバラツキに起因した誤差を持つ。)との知見を得た。そこで、本処理ステップS13bでは、処理対象の病変画素(x,y)の彩度値S(x,y)が輝度値I(x,y)に基づいて補正される。具体的には、本処理ステップS13bでは、処理対象の病変画素(x,y)の輝度値I(x,y)、彩度値S(x,y)を夫々、INT、SATと定義し、基準値として規定される血液サンプルデータの輝度値、彩度値を夫々、REFER
_INT、REFER
_SATと定義し、該血液サンプルデータの輝度値と彩度値との相関係数に対応する角度をθと定義し、補正後の画素(x,y)の輝度値、彩度値を夫々、INT
_correction、SAT
_correctionと定義した場合に、次式(3)により、彩度値S(x,y)が補正される。なお、血液サンプルの彩度と輝度の相関係数を求めたところ、−0.86(θ=149.32)であることが認められた。
【0047】
このように、彩度値S(x,y)を輝度値I(x,y)を用いて補正することにより、照明光の照度のバラツキによる彩度値S(x,y)の誤差が補正される。
【0048】
図6(a)、
図6(b)の各図は、複数の症例より採取した血液サンプルデータの分布図である。
図6(a)、
図6(b)の各図中、縦軸は彩度値Sを示し、横軸は輝度値Iを示す。
図6(a)は、式(3)によって彩度値Sが補正される前の分布図を示し、
図6(b)は、式(3)によって彩度値Sが補正された後の分布図を示す。
図6(a)に示されるように、血液サンプルデータは、血液サンプルデータ間で彩度値Sにバラツキがある。これを式(3)にて変換することにより、
図6(b)に示されるように、血液サンプルデータ間での彩度値Sのバラツキが軽減される。すなわち、血液サンプルデータは、輝度値Iに拘わらず彩度値Sがほぼ一定となる。
【0049】
図7(a)、
図7(b)の各図は、内視鏡画像内の領域R
1〜R
3の画素データ及び血液サンプルデータSの分布図である。なお、
図7(a)には、内視鏡画像と領域R
1〜R
3との対応関係を視覚的に示すため、内視鏡画像も示されている。領域R
1及びR
2は、病変画素群によりなる病変領域であり、領域R
3は、正常組織を写す画素群よりなる正常領域である。
図7(a)、
図7(b)の各図中、縦軸は色相値H(x,y)を示し、横軸は彩度値S(x,y)を示す。
図7(a)は、式(3)によって彩度値S(x,y)が補正される前の分布図を示しており、血液サンプルデータ間で彩度値S(x,y)にバラツキがあることが判る。
図7(b)は、式(3)によって彩度値S(x,y)が補正された後の分布図を示しており、血液サンプルデータ間での彩度値S(x,y)のバラツキが軽減されていることが判る。
【0050】
上述したように、炎症は、症状が進行するほど表面の正常粘膜が脱落するため、鮮やかな赤(彩度の高い赤)となって血液の色に近付き、症状が軽いほど表面の正常粘膜が厚いため、くすんだ赤(彩度の低い赤)となる。そのため、炎症部は重症なほど血液との色の相関が高い。
図7の例では、病変領域R
1の方が病変領域R
2よりも症状が重い。彩度値S(x,y)の補正前は、
図7(a)に示されるように、照度ムラに起因する彩度値S(x,y)のバラツキにより病変領域R
1と病変領域R
2との彩度の差が小さくなっているものの、病変領域R
1の彩度の方が血液の彩度に近いことが判る。一方、彩度値S(x,y)の補正後は、
図7(b)に示されるように、照度ムラに起因する彩度値S(x,y)のバラツキを軽減することにより病変領域R
1と病変領域R
2との彩度の差が大きくなっており、病変領域R
1の彩度の方が血液の彩度に近いことが一層明瞭となっている。このように、補正後の彩度値S(x,y)は炎症部の症状を一層精確に反映したものとなる。そのため、彩度値S(x,y)の補正を行うことにより、炎症部の重症度の評価精度が向上する。
【0051】
(
図5のS13c)
図2の処理ステップS13(炎症部の画素単位でのスコア算出)では、原則、
図7のグラフ(色相値H(x,y)−彩度値S(x,y))上で距離が近い点同士ほど相関が高いという考えに基づいて相関値(スコア)を算出する。ここで、
図8(a)に、相関値の算出処理の説明を補助する図を示す。
図8(a)中、補正後の病変画素の色相値H(x,y)と血液重心Cの色相値H(x
C,y
C)との距離を色相距離D
_HUEと定義し、補正後の病変画素の彩度値S(x,y)と血液重心Cの彩度値S(x
C,y
C)との距離を彩度距離D
_SATと定義する。血液重心Cは、血液サンプルデータ群の重心である。
【0052】
また、
図8(b)に、色相距離D
_HUEと相関値(以下、「色相相関値HCV」と記す。)との関係を規定する色相相関テーブルを示す。色相相関値HCVは、例えば正規化された値(=0.0〜1.0)である。色相相関テーブルは、メモリ220aに格納されている。
図8(b)において、色相距離D
_HUEが0のとき、病変画素の色相値H(x,y)と血液重心Cの色相値H(x
C,y
C)とが一致し、色相距離D
_HUEが0より小さいとき(マイナスの値のとき)、病変画素の色相値H(x,y)の方が血液重心Cの色相値H(x
C,y
C)よりも低く、色相距離D
_HUEが0より大きいとき(プラスの値のとき)、病変画素の色相値H(x,y)の方が血液重心Cの色相値H(x
C,y
C)よりも高い。±30°以内の色相距離D
_HUEの範囲(以下、「色相近似範囲R
11」と記す。)は、血管の赤又は血管の赤に近い色である。そのため、
図8(b)に示されるように、色相近似範囲R
11では色相距離D
_HUEが短いほど血管の赤に近いため、色相相関値HCVが高い(1に近い)。一方、色相近似範囲R
11以外の範囲(以下、「色相近似外範囲R
12」と記す。)は血管の赤に近い色ですらない。そのため、
図8(b)に示されるように、色相近似外範囲R
12では色相相関値HCVが一律に0である。
【0053】
本処理ステップS13cでは、処理対象の病変画素(x,y)について色相距離D
_HUEが色相近似範囲R
11に収まるか否かが判定される。
【0054】
(
図5のS13d)
色相距離D
_HUEが色相近似範囲R
11に収まる場合(
図5のS13c:YES)、色相相関テーブルに従い、色相距離D
_HUEに応じた色相相関値HCVが処理対象の病変画素(x,y)に対して与えられる。
【0055】
(
図5のS13e)
色相距離D
_HUEが色相近似外範囲R
12に収まる場合(
図5のS13c:NO)、色相相関テーブルに従い、色相相関値HCV=0が処理対象の病変画素(x,y)に対して与えられる。
【0056】
(
図5のS13f)
また、
図8(c)に、彩度距離D
_SATと相関値(以下、「彩度相関値SCV」と記す。)との関係を規定する彩度相関テーブルを示す。彩度相関値SCVは、例えば正規化された値(=0.0〜1.0)である。彩度相関テーブルは、メモリ220aに格納されている。
図8(c)において、彩度距離D
_SATが0のとき、病変画素の彩度値S(x,y)と血液重心Cの彩度値S(x
C,y
C)とが一致し、彩度距離D
_SATが0より小さいとき(マイナスの値のとき)、病変画素の彩度値S(x,y)の方が血液重心Cの彩度値S(x
C,y
C)よりも低く、彩度距離D
_SATが0より大きいとき(プラスの値のとき)、病変画素の彩度値S(x,y)の方が血液重心Cの彩度値S(x
C,y
C)よりも高い。彩度距離D
_SATが0以上の範囲(以下、「彩度一致範囲R
21」と記す。)は、炎症部が重症化して正常粘膜が脱落することにより、血液に極めて近い鮮やかさを持った状態にある。そのため、
図8(c)に示されるように、彩度一致範囲R
21では彩度相関値SCVが一律に1である。また、彩度距離D
_SATが0より小さくかつ所定値PV以上の範囲(以下、「彩度近似範囲R
22」と記す。)は、彩度一致範囲R
21ほどでないにしろ、炎症部が重症化して正常粘膜が脱落することにより、血液に近い鮮やかさを持った状態にある。そのため、
図8(c)に示されるように、彩度近似範囲R
22では彩度距離D
_SATが短いほど血管の鮮やかさに近いため、彩度相関値SCVが高い(1に近い)。また、彩度距離D
_SATが所定値PVよりも小さい(マイナス側の)値の範囲(以下、「彩度近似外範囲R
23」と記す。)は、正常粘膜が厚いため、くすんだ色となる。そのため、
図8(c)に示されるように、彩度近似外範囲R
23では彩度相関値SCVが一律に0である。
【0057】
本処理ステップS13fでは、処理対象の病変画素(x,y)について彩度距離D
_SATが彩度一致範囲R
21、彩度近似範囲R
22、彩度近似外範囲R
23の何れに収まるかが判定される。
【0058】
(
図5のS13g)
彩度距離D
_SATが彩度一致範囲R
21に収まる場合(
図5のS13f:R
21)、彩度相関テーブルに従い、彩度相関値SCV=1が処理対象の病変画素(x,y)に対して与えられる。
【0059】
(
図5のS13h)
彩度距離D
_SATが彩度近似範囲R
22に収まる場合(
図5のS13f:R
22)、彩度相関テーブルに従い、彩度距離D
_SATに応じた彩度相関値SCVが処理対象の病変画素(x,y)に対して与えられる。
【0060】
(
図5のS13i)
彩度距離D
_SATが彩度近似外範囲R
23に収まる場合(
図5のS13f:R
23)、彩度相関テーブルに従い、彩度相関値SCV=0が処理対象の病変画素(x,y)に対して与えられる。
【0061】
(
図5のS13j)
本処理ステップS13jでは、処理対象の病変画素(x,y)に対して与えられた色相相関値HCVと彩度相関値SCVとを乗算することにより、処理対象の病変画素(x,y)と血液との相関値CV(=0.0〜1.0)を得る。色相値と彩度値の2次元情報によって病変画素と血液との相関値を算出することにより、処理対象の病変画素(x,y)について、炎症部の重症度を反映した精度の高い評価情報が得られる。
【0062】
[
図2のS14(相関値CVの積算)]
本処理ステップS14(相関値CVの積算)では、
図2の処理ステップS13(炎症部の画素単位でのスコア算出)にて求められた処理対象の病変画素(x,y)の相関値CVを、これまで求めた各病変画素の相関値CVの総和に積算する。各病変画素の相関値CVを積算することにより、内視鏡画像内に写る病変部の重症度を数値化した客観的かつ再現性のある(術者のスキルに依存しない)評価値が得られる。
【0063】
[
図2のS15(色置換処理)]
メモリ220aには、相関値CVと所定の表示色とを関連付けた表示色テーブルが格納されている。
図9に、表示色テーブルの概念図を示す。
図9に示されるように、表示色テーブルは、相関値CV(=0.0〜1.0)を11段階に分けており、各段階に対して所定の表示色を関連付けている。本処理ステップS15(色置換処理)では、表示色テーブルに従い、処理対象の画素(x,y)の色情報が相関値CVと関連付けられた表示色の色情報に置換される。処理対象の画素(x,y)は、例えば、相関値CVが0に近いほど寒色系の色に置換され、相関値CVが1に近いほど暖色系の色に置換される。
【0064】
[
図2のS16(全画素終了判定)]
本処理ステップS16(全画素終了判定)では、全ての画素について
図2の処理ステップS11(病変画素の判定)が実行されたか否かが判定される。処理ステップS11(病変画素の判定)が実行されていない画素が残っている場合(
図2のS16:NO)、本フローチャートの処理が処理ステップS11(病変画素の判定)に戻る。
【0065】
[
図2のS17(評価画像の表示)]
全ての画素について
図2の処理ステップS11(病変画素の判定)が実行された場合(
図2のS16:YES)、所定の評価画像がモニタ300の表示画面に表示される。
図10に、評価画像を例示する。
図10に例示されるように、評価画像には、
図2の処理ステップS15(色置換処理)にて各画素の色情報が置換された内視鏡画像が含まれる。
図10に示されるように、内視鏡画像は、各画素が炎症の重症度に応じた11の段階の色で区分された階調画像となっている。そのため、術者は、撮影画角内のどの位置にどの程度の症状の炎症が発生しているかを容易に視認することができる。
【0066】
また、評価画像には、全ての病変画素の相関値CVを積算することによって得た総和が炎症部の評価値(=0〜画素数と同一の値)として表示される。
図10の例では、「スコア:1917」が表示される。このように、本実施形態では、炎症部の症状(炎症部の評価)が客観性かつ再現性が担保された数値として表示される。そのため、術者は、炎症部の重症度を客観的に把握することができる。
【0067】
従来、炎症性腸疾患の炎症の症状は、MAYOスコア等の所見評価により4段階に区分されていた。一方、近年、粘膜治癒の達成と寛解維持期間との間に相関が見られることが判ってきた。そのため、MAYO0相当やMAYO1相当の軽症例に対して症状を細かく評価することが炎症性腸疾患の治療に有効であると考えられる。本実施形態では、炎症部の症状が細かい数値として表示されるため、術者は、炎症部の症状を細かく評価することができる。すなわち、本実施形態では、MAYO0相当やMAYO1相当の軽症例に対して症状を細かく評価することができるため、炎症性腸疾患の治療に有益である。
【0068】
以上が本発明の例示的な実施形態の説明である。本発明の実施形態は、上記に説明したものに限定されず、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば明細書中に例示的に明示される実施形態等又は自明な実施形態等を適宜組み合わせた内容も本願の実施形態に含まれる。例えば、相関値CVは病変画素だけでなく、全ての画素に対して算出されてもよい。
【0069】
また、本実施形態では、固体撮像素子108としてCCDイメージセンサが用いられているが、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の別の構成の固体撮像素子が用いられてもよい。
【0070】
また、本実施形態では、R、G、Bのベイヤ配列カラーフィルタ108bを有する固体撮像素子108が用いられているが、補色系のCy(シアン)、Mg(マゼンタ)、Ye(イエロー)、G(グリーン)のフィルタを有する固体撮像素子が用いられてもよい。
【0071】
また、本実施形態は炎症性腸疾患の内視鏡検査に本発明を適用した例であるが、当然ながら他の疾患の内視鏡検査にも本発明を適用することができる。