特許第6097636号(P6097636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097636
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】真珠核の識別方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/29 20060101AFI20170306BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
   G01N21/29
   G01N21/27 Z
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2013-105808(P2013-105808)
(22)【出願日】2013年5月20日
(65)【公開番号】特開2014-228292(P2014-228292A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】300069680
【氏名又は名称】一般社団法人日本真珠振興会
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤松 尉
(72)【発明者】
【氏名】須藤 雄二
【審査官】 横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−208204(JP,A)
【文献】 特開2012−047489(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0050526(US,A1)
【文献】 特開平10−260136(JP,A)
【文献】 特開2007−151548(JP,A)
【文献】 特開2005−274545(JP,A)
【文献】 特開平11−133030(JP,A)
【文献】 米国特許第05146288(US,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01650567(EP,A1)
【文献】 特表2013−526712(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00,21/01
G01N 21/17−21/958
G01N 33/00−33/46
G01J 3/00− 3/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象である真珠核をタンパク質反応性染料で処理した後、真珠核表面に付着した染料を除去し、その後、当該真珠核の着色状況を根拠にして、当該真珠核が漂白されているものか否かを判断することを特徴とする、真珠核の識別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真珠核が漂白されているものか否かを判断するための、真珠核の識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
養殖真珠は、球状に加工した真珠核を、アコヤガイの体内に外套膜と共に挿入した後、そのアコヤガイを養殖して、真珠核表面に真珠層を形成させることで製造されている。ここで使用される真珠核は、一般に、淡水に生息するドブガイやヒレイケチョウガイ等の貝殻を球状に削って加工されたものが使用されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
ドブガイの貝殻が白色であるのに対し、ヒレイケチョウガイの貝殻は、オレンジ色や紫色を呈しており、この貝殻から真珠核を採取すると、白色系の真珠核と共に、何らかの色を帯びた非白色系の真珠核が生産される。ヒレイケチョウガイから白色系の真珠核を生産できる割合は20%程度に止まっており、薄い色がついている真珠核が30〜40%、残りの真珠核は濃い色を帯びている。
【0004】
真珠核としては白色系のものが求められていることから、非白色系の真珠核を、ロンガリット等の漂白剤を用いてあらかじめ漂白し、白色系の真珠核に混入して販売される場合があった。
【0005】
しかしながら、真珠核が漂白されていると、真珠核の強度が低下してしまう問題がある。また、ロンガット漂白が施された真珠核は、水に浸漬すると有害なホルモリンを出すという問題もある。従って、漂白処理が施された真珠核は使用されるべきではない。
【0006】
そのため、漂白された真珠核と、漂白されていない真珠核をあらかじめ見分ける方法が必要となる。そのような方法として、従来、ブラックライトを真珠核に照射する方法が行われている。この方法によると、漂白された真珠核には、青白い透明感のある明るさが認められる一方、漂白されていないものにはそのような明るさが認められないことから、目視によって両者を識別することが可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−65100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述したブラックライトを用いた真珠核の識別方法では、検定結果にばらつきが生じる傾向があり、また、この方法のみでは漂白されている真珠核か否かを判断しにくい場合もあることから、真珠核の漂白の有無について、より確実で、簡易な識別方法の開発が望まれている。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑み、貝殻から採取された真珠核が漂白されているものであるか否かを識別するための、より確実で、簡易な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
貝殻から採取された真珠核に含まれる貝殻真珠層は、炭酸カルシウム層と、タンパク質層であるコンキオリンとの積層構造から構成されており、その特性として、色素が炭酸カルシウム層ではなく、タンパク質層に存在することが知られている。
【0011】
本発明者らが真珠核に対して虐待劣化試験及び強度テストを行って得られた結果から、漂白処理が施された真珠核では、色素を持っているタンパク質層が破壊されていると考えられた。
【0012】
以上の知見に基づいて、本発明者らは、タンパク質と反応し得る染料を用いて真珠核を染色すれば、漂白処理が施されていない真珠核に含まれる破壊されていないタンパク質にのみ着色できる可能性があると推測し、その推測に基づき鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、検査対象である真珠核をタンパク質反応性染料で処理した後、真珠核表面に付着した染料を除去し、その後、当該真珠核の着色状況を根拠にして、当該真珠核が漂白されているものか否かを判断することを特徴とする、真珠核の識別方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明を実施することで、貝殻から採取された真珠核において、漂白が施されることでタンパク質層が破壊されている場合には、当該真珠核の着色状況は、漂白されていない真珠核の着色状況と異なるので、真珠核の着色状況に基づいて、簡易かつ確実に、真珠核が漂白されているものか否かを識別することができる。
【0015】
また、本発明によれば、漂白の有無だけではなく、生産から時間が経過して強度が低下している真珠核や、高温下での保存や日光照射により強度が低下している真珠核についても、識別することが可能である。
【0016】
本発明では、真珠核と染料を接触させて一定時間加熱するという簡易な処理で漂白の有無の識別が可能になるので、実施が容易である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の実施形態を説明する。
【0018】
本発明の真珠核の識別方法では、まず、検査対象である真珠核をタンパク質反応性染料で処理する。この識別方法では、検査対象として、真珠核は1個のみを用いてもよいが、識別の精度を上げるために、複数の真珠核を用いることが好ましい。
【0019】
本発明で用いるタンパク質反応染料とは、タンパク質と反応することで、当該タンパク質を含む材料を染めることが可能な染料であれば特に限定されない。タンパク質反応染料の具体例としては、直接染料、酸性染料、カチオン染料、建染染料、反応染料等が挙げられる。これらタンパク質反応染料を用いると、漂白処理が施されていない真珠核は着色されるが、漂白処理が施されてタンパク質が破壊又は変質している真珠核は、着色されない、あるいは、異なるように着色される。その結果、真珠核が漂白されているものか否かを識別することが可能となる。
【0020】
タンパク質反応性染料としては1種類のみを使用してもよいし、複数を使用してもよい。複数使用する場合には、真珠核の着色に基づいた識別がより容易になるような、タンパク質反応性染料の組合せを用いることができる。
【0021】
真珠核をタンパク質反応染料で処理する際の条件としては、使用するタンパク質反応染料の種類に応じて適宜決定することができる。一例としては、水の中に染料と真珠核を投入し、100℃以下の加温下で1分〜1時間程度保持すればよい。
【0022】
次に、染料で処理した系から真珠核を取り出した後、真珠核表面に付着した染料を除去する。除去する際の条件としては、染料が真珠核表面から十分に除去される条件を適宜決定すればよいが、一例として、適当な界面活性剤を投入した水中に真珠核を浸漬して、室温または100℃未満の加温下で1分〜1時間程度保持すればよい。これにより、余剰な染料を真珠核表面から取り除く。
【0023】
最後に、未反応の染料が除去された真珠核の着色の色及び程度に応じて、真珠核が漂白されているものか否かを判断する。着色の色及び程度に関しては、一例として、後述する実施例では、貝殻真珠層から採取され、かつ、漂白されていない真珠核はピンク色を呈する一方、漂白されている真珠核はピンク色以外の色に着色されるか、あるいは、着色されなかった。このような着色状況の結果に応じて、真珠核があらかじめ漂白されているものか否かを判断することができる。
【0024】
しかし、着色の色及び程度は、使用するタンパク質反応性染料の種類や量、あるいは、染料による処理条件等に異なるため、上記に限定されない。あらかじめ、漂白されていない真珠核及び漂白されている真珠核を準備し、所定の条件で、上述した染料の処理及び除去を実施して、各真珠核の着色状況を確認しておくことで、識別を実施する際の判断基準を作製しておけばよい。
【0025】
本発明の識別方法は、入手した多数の真珠核の中から、識別用のサンプルとして少数の真珠核を取り出してこれを検査に付することにより実施することができる。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
本実施例では、真珠核のサンプルとして、以下の表1に示すものを用いた。
【0028】
【表1】
【0029】
各サンプルをポリエステル製の袋に投入し、複合染料で5分間煮沸した後、余剰な染料を除去し、各サンプルを乾燥させて着色状況を目視にて評価した。
【0030】
その結果、サンプル1−10はピンク色に着色されているが、漂白処理が施されているサンプル11−15は、着色されないか、あるいは、ピンク色とは明らかに異なる紫がかった色や緑色に着色された。このことから、ピンク色に着色された真珠核は漂白処理が施されていない真珠核であり、着色されないか、又はピンク色以外の色に着色された真珠核は漂白処理があらかじめ施されている真珠核であると判断することができる。
【0031】
サンプル1〜3は、いずれもピンク色に着色されたが、サンプル2のピンク色が最も鮮やかであったことから、漂白処理が施されていない真珠核の中でも、新しい真珠核は着色度合が強く、製造年数が経過するにつれ、着色度合が薄くなることが分かった。
【0032】
サンプル7〜9の結果から、原貝の種類によって着色度合に若干の相違があったが、漂白処理が施されていないサンプルは、原貝の種類に関わらず、いずれもピンク色に着色された。このことから、本発明は原貝の種類によらず適用できることが分かった。
【0033】
また、サンプル10の再生核は、ピンク色に着色されたので漂白処理が施されていないと判断される。しかし、着色度合のばらつきが大きかった。これは、種々の履歴の真珠核が混在していることによるものと考えられる。
【0034】
サンプル11は、無漂白のサンプル1に対して、漂白剤としてロンガリットを使用して22時間の漂白を行って得たサンプルである。着色試験の結果、サンプル1がピンク色に着色したのに対し、サンプル11は緑色に着色した。
【0035】
サンプル12〜14は、無漂白のサンプル2に対して、漂白剤としてロンガリットを使用してそれぞれ8時間、14時間、22時間と漂白時間を変更して漂白を行って得たサンプルである。着色試験の結果、サンプル2がピンク色に着色したのに対し、22時間の漂白を施したサンプル14は、まったく着色しなかった。一方、8時間又は14時間の漂白を施したサンプル12及び13は、紫色に着色した。
【0036】
サンプル15は、漂白はされているものの、漂白時間が不明なサンプルであるが、サンプル14と同様、着色しなかった。
【0037】
(実施例2)
本実施例では、以下の4種類の真珠核を用いた。
1.中国製イケチョウ核
2.日本製米国産三山核
3.日本製米国産ニガーヘッド核
4.日本製米国産ウォッシュボード核
これらの真珠核に対して下記の虐待試験のいずれかを行った。
1.水漂白。35%過酸化水素水を水で3%に希釈した溶液に7日間浸漬。
2.メタノール漂白。35%過酸化水素水をメタノールで3%に希釈した溶液に7日間浸漬。
3.加温メタノール処理。50℃に加温したメタノールに1晩浸漬。
4.日光照射(7日)
5.80℃で加熱(7日)
6.無処理(対照区)
虐待試験後、4種類の核について6試験ずつ、全部で24試料について染色試験を実施した。
【0038】
その結果、無処理の真珠核がピンク色に着色したのに対し、W漂白を施した真珠核は、濃い紫色に着色した。HotMeOH前処理を施した真珠核は、無処理の真珠核と同程度の着色度合であった。一方、M漂白、日光照射、及び加熱による処理を施した真珠核は、無処理の真珠核よりも薄い色目に着色された。
【0039】
実施例1との対比から、本発明の識別方法を使用すると、ロンガリット等の還元漂白剤による処理を施された真珠核を最も有効に識別することができるが、酸化水素等の酸化漂白剤による処理を施された真珠核や、高温下での保存や日光照射に晒された真珠核をも識別できる可能性があることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、真珠核をアコヤガイの体内に挿入する前の段階で、真珠核に漂白処理が施されているものか否かを識別することができるため、アコヤガイの養殖により真珠を製造するにあたって、漂白処理により強度が低下した真珠核の使用を回避することができる。