(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097647
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】無機結晶膜積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 25/32 20060101AFI20170306BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
C01B25/32 P
C23C14/34 N
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-134071(P2013-134071)
(22)【出願日】2013年6月26日
(65)【公開番号】特開2015-9994(P2015-9994A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2015年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000235783
【氏名又は名称】尾池工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】508114454
【氏名又は名称】地方独立行政法人 大阪市立工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100117042
【弁理士】
【氏名又は名称】森脇 正志
(72)【発明者】
【氏名】中西 康之
(72)【発明者】
【氏名】松川 公洋
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 充
【審査官】
吉野 涼
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−058049(JP,A)
【文献】
特開2006−066362(JP,A)
【文献】
特開2006−128641(JP,A)
【文献】
特開平11−268169(JP,A)
【文献】
特開2005−250385(JP,A)
【文献】
特開2002−134272(JP,A)
【文献】
特開平11−24081(JP,A)
【文献】
特開昭59−204542(JP,A)
【文献】
特開2012−161957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C01B 25/32
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、無機微粒子と前記無機微粒子が溶解しない溶媒との混合物を塗布し、乾燥することにより、無機微粒子からなる離型層を形成する工程と、
前記離型層の上にアモルファス状態の無機材料膜を形成する工程と、
前記アモルファス状態の無機材料膜を加熱処理により結晶化する工程と、
を備え、
前記無機微粒子は、シリカ、金属酸化物、金属フッ化物から選択されることを特徴とする無機結晶膜の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理の温度は310℃以上であることを特徴とする請求項1記載の無機結晶膜の製造方法。
【請求項3】
前記無機微粒子の一次粒径は15nm以下、二次粒径は40nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の無機結晶膜の製造方法。
【請求項4】
前記無機微粒子はシリカ微粒子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機結晶膜の製造方法。
【請求項5】
前記無機結晶膜を基材上に転写する工程
をさらに備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の無機結晶膜の製造方法。
【請求項6】
前記基材は樹脂フィルムであることを特徴とする請求項5に記載の無機結晶膜の製造方法。
【請求項7】
前記無機材料は酸化インジウムスズ(ITO)であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の無機結晶膜の製造方法。
【請求項8】
前記アモルファス状態の無機材料膜はスパッタリング法により形成されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の無機結晶膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機結晶膜積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無機結晶膜は、無機結晶が持つ種々の特性(機械的性質、光学的性質、電気的性質、磁気的性質、化学的性質、生体親和性など)を活かし、広範囲な用途に用いられている。
【0003】
例えば、半導体的性質と特異な光透過特性を持つ酸化インジウムスズ(ITO)は、透明導電材料として、ノートパソコンや携帯電話の表示素子用電極、太陽電池用電極、プラズマディスプレイパネル用電極などに広く用いられている。
【0004】
また、生体親和性を有するハイドロキシアパタイト(HAp)は、人工骨や人工歯根をはじめとするインプラント素材として、広く医療分野に用いられている。特に近年、薄膜状のハイドロキシアパタイトを直接歯に貼り付けることにより、う蝕(むし歯)・知覚過敏症等の治療に効果を示すことが認められ、ハイドロキシアパタイトシートの歯科応用への期待が高い。
【0005】
ここで、酸化インジウムスズやハイドロキシアパタイトなどの無機材料は、十分な機能を発揮するために高温で結晶化させる必要があり、低耐熱性の基材上では直接結晶化させることはできない。そのため、これらの無機結晶膜を低耐熱基材上に形成する際には、ガラス基板などの耐熱性を有する支持体の表面上に離型層を介して形成し、結晶化後に基材に転写する必要がある。このような低耐熱基材上への無機結晶膜の成膜方法として、離型剤にポリイミドを用いた方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−161957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、離型剤にポリイミドを用いた上記方法には、ポリイミドの離型性が十分ではないという問題があり、特許文献1の段落0021に記載されているように、無機結晶膜を基材に転写した後に、粘着テープ等を用いて無機結晶膜に付着したポリイミドを除去する必要があった。
【0008】
それ故、この発明の課題は、離型性に優れた離型層を有する無機結晶膜積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる無機結晶膜積層体の製造方法では、
支持体上に無機微粒子からなる離型層を形成する工程と、
前記離型層の上にアモルファス状態の無機材料膜を形成する工程と、
前記アモルファス状態の無機材料膜を加熱処理により結晶化する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
ここで、「無機結晶膜」とは、アモルファス状態の無機材料膜を加熱処理によって目的の機能を発揮することが可能な程度に結晶化させたものをいい、無機材料のみから構成されるか、あるいは必要に応じて他の材料を含んでいてもよい。また、「アモルファス状態の無機材料膜」とは、結晶化されていない無機材料膜をいうものであり、厳密にはアモルファス状態といえないがアモルファス状態に近い無機材料膜も含むものとする。なお、「アモルファス状態の無機材料」には、アモルファス金属を含まないものとする。
【0011】
このような構成によれば、シリカ微粒子(ナノシリカ、コロイダルシリカ)などの離型性に優れた無機微粒子を離型層に用いるため、支持体から無機結晶膜を剥離あるいは基材上に転写した後に、無機結晶膜に付着した無機微粒子を容易に除去することができる。
【0012】
ここで、「離型」とは、離型層を介して支持体上に形成された無機結晶膜を支持体から剥離すること、あるいは基材上に転写することをいうものとし、「離型性」とは、無機結晶膜の剥離し易さ、あるいは基材への転写し易さの度合いを意味するものであって、剥離あるいは転写後に無機結晶膜に付着した離型層(無機微粒子)の除去し易さの度合いを含むものとする。また、「転写」とは、離型層を介して支持体上に形成された無機結晶膜を基材上に固定した後、支持体から剥離することをいうものとする。
【0013】
また、上記構成にあっては、
前記無機結晶膜を基材上に転写する工程
をさらに備えてもよい。
【0014】
このような構成によれば、支持体上での結晶化後に無機結晶膜を基材に転写できるため、基材に低耐熱性の安価な材料を用いることができ、基材付きの無機結晶膜積層体を安価に製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明にかかる無機結晶膜積層体の製造方法によれば、離型性に優れた離型層を有する無機結晶膜積層体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】無機結晶膜積層体の製造過程を模式的に示す図である。
【
図2】無機結晶膜積層体の転写過程を模式的に示す図である。
【
図3】PETフィルム/接着層/ハイドロキシアパタイト結晶膜からなる積層体の断面構造を模式的に表す図である。
【
図4】PETフィルム/接着層/ハイドロキシアパタイト結晶膜からなる積層体の光学顕微鏡写真である。
【
図5】PETフィルム/接着層/ハイドロキシアパタイト結晶膜からなる積層体のX線回折スペクトルである。
【
図6】シリカ微粒子サンプルPL−1の電子顕微鏡写真である。
【
図7】シリカ微粒子サンプルPL−3の電子顕微鏡写真である。
【
図8】シリカ微粒子サンプルPL−5の電子顕微鏡写真である。
【
図9】離型層に用いるシリカ微粒子の粒径を変化させたときの離型結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
(第一の実施形態)
(1)離型層形成工程
まず、
図1(a)に示すように、支持体11の上に、無機微粒子と純水の混合物を塗布し、加熱乾燥により、無機微粒子からなる離型層12を形成する。例えば、無機微粒子として、シリカ(SiO
2)、チタニア(TiO
2)、フッ化マグネシウム(MgF
2)、フッ化アルミニウム(AlF
3)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、アルミナ(Al
2O
3)、ジルコニア(ZrO
2)、酸化ニオブ(Nb
2O
5)、セリア(CeO
2)、イットリア(Y
2O
3)、酸化ビスマス(Bi
2O
3)などの微粒子を用いることができ、安価で汎用的である点でシリカ微粒子が特に好ましい。また、無機微粒子の一次粒径15nm以下、二次粒径は40nm以下であることが好ましい(理由は後述する)。
【0019】
なお、純水の代わりに、有機溶媒を用いてもよい。このようにすることで、金属フッ化物などの純水には溶解する無機微粒子も離型剤に用いることができる。あるいは、純水の代わりに、アルコールなどを含む混合溶剤を用いてもよく、また、純水、有機溶剤、もしくは混合溶剤に、界面活性剤などの濡れ性改善剤を添加してもよい。このようにすることで、支持体11上に離型層12を形成する際の塗工性を改善することができ、後述する支持体11の洗浄工程を省略ないし簡略化できる場合がある。
【0020】
ここで、「一次粒径」とは、一次粒子の平均粒径を指し、また「二次粒径」とは、一次粒子が複数個集まって形成される凝集体の平均粒径を指すものとする。
【0021】
支持体11は、離型層12を形成可能な表面を有するものであればよく、限定されない。アモルファス状態の無機材料膜13Aを結晶化できる耐熱性と平坦な表面を有するものであれば十分であり、例えばガラス基板、シリコン基板、チタン基板、ステンレス基板、石英基板、アルミナ基板が挙げられる。
【0022】
なお、支持体11に親水性を付与するため、支持体11上に無機微粒子と純水の混合物を塗布する前に、支持体11を洗浄することが好ましい。洗浄方法としては、UV/オゾン洗浄、プラズマ洗浄等が挙げられる。
【0023】
(2)無機結晶膜形成工程
次に、
図1(b)に示すように、前記離型層12の上に、アモルファス状態の無機材料膜13Aを形成する。形成方法として、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、イオンビーム蒸着法、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法、分子線エピタクシー法、化学的気相成長法などを用いることができる。また無機材料として、生体親和性を有するハイドロキシアパタイト、導電性を有する酸化インジウムスズ、酸化スズ、酸化亜鉛、光触媒機能を有するチタニア、高屈折率を有するジルコニアなどを用いることができ、特にハイドロキシアパタイト、酸化インジウムスズが好ましい。
【0024】
次に、
図1(c)に示すように、加熱処理により前記アモルファス状態の無機材料膜13Aを結晶化させることで、離型層12上に無機結晶膜13Bを形成する。ここで、結晶化温度は、使用する無機材料にもよるが、一般的に300℃以上であることが好ましく、例えばハイドロキシアパタイトを用いる場合、310℃〜550℃が好ましい範囲である。310℃に満たなければハイドロキシアパタイトを十分に結晶化することができず、550℃を超えるとハイドロキシアパタイトの組成が変化するおそれがある。
【0025】
以上の工程により、第1の実施形態である離型層12を有する無機結晶膜13Bを製造することができる。本実施形態によれば、シリカ微粒子などの離型性に優れた無機微粒子を離型層12に用いるため、支持体11から無機結晶膜13Bを剥離あるいは基材14上に転写した後に、無機結晶膜13Bに付着した無機微粒子を容易に除去することができ、製造時間を短縮できるとともに、不純物の付着が少ない高品質の無機結晶膜13Bを製造することができる。なお、無機微粒子の除去方法としては、アルカリ処理又はフッ酸処理などのうち、無機結晶膜13Bが溶解しない方法を用いることができる。
【0026】
本実施形態にかかる製造方法は、支持体11上に無機微粒子からなる離型層12を形成することを特徴とする。一般的には離型剤として、油脂、カーボン、顔料、フッ素材料、シリコーン材料などが用いられる。しかしながら、油脂やシリコーン材料は高温(本発明ではアモルファス状態の無機材料膜13Aの結晶化温度)で加熱すると気化し、無機結晶膜13Bを剥離あるいは基材14に転写する際に離型層として機能し得ない。また、カーボンや顔料は発色するため、酸化インジウムスズ(ITO)などの透明無機結晶膜の製造には適さず、フッ素材料は比較的高価である。その点、無機微粒子は一般的に高い耐熱性を有し、無色であり、比較的安価である。
【0027】
本実施形態に用いられる無機微粒子は、アモルファス状態の無機材料膜13Aを結晶化させるために必要な温度以上の耐熱性を有し、かつ無機結晶膜13Bを剥離あるいは基材14上に転写する際に離型層として機能するものであればよく、限定されない。
【0028】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、上記第1の実施形態に、さらに次の工程を備えるものである。
【0029】
(3)転写工程
まず、
図2(d)に示すように、離型層12を介して支持体11上に形成された無機結晶膜13Bを、基材14の表面に押し当てる。その後、
図2(e)に示すように、無機結晶膜13Bと基材14を離型層12で切り離すことにより、無機結晶膜13Bを基材14側に転写する。転写工程は、無機結晶膜13Bを基材14に固定した状態で支持体11から剥離できる方法であれば、その方法は特に制限されるものではない。例えば、転写工程の際に、無機結晶膜13Bを転写する側の基材14に接着層としてUV硬化樹脂を塗布し、その上に無機結晶膜13Bを貼り合わせ、UVランプによりUV硬化樹脂を硬化させた後、支持体11から無機結晶膜13Bを剥がしてもよい。このようにして、基材14上に無機結晶膜13Bが形成された積層体10が完成する。
【0030】
本実施形態にかかる無機結晶膜積層体の製造方法は、支持体11上でアモルファス状態の無機材料膜13Aを結晶化した後、無機結晶膜13Bを基材14に転写するため、基材14は耐熱性を必要としない。そのため、汎用的で安価な低耐熱性基材を用いることができ、製造コストを低減できる。
【実施例】
【0031】
−実験例1−
この実施例は、接着層25を介してポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、PETフィルムとする)24上にハイドロキシアパタイト結晶膜23Bを形成し、PETフィルム/接着層/ハイドロキシアパタイト結晶膜からなる積層体20を製造する実験例である。離型剤となる無機微粒子としてシリカ微粒子(扶桑化学工業株式会社製PL−1、一次粒径15nm・二次粒径40nm)を用いた。以下、実験方法を説明する。
【0032】
まず、平坦な主面を有するガラス基板の表面に対し、10分間のUV/オゾン洗浄を行った後、シリカ微粒子と純水の混合物(シリカ濃度2.4質量%)を用いて回転速度1000rpmのスピンコーティングにより厚さ150〜200nmのシリカ微粒子膜を形成し、150℃の温度下で10分間乾燥させた。
【0033】
次に、RFスパッタリング法(スパッタリング電力300W、成膜レート0.4μm/h)により、前記シリカ微粒子膜上に厚さ2μmのアモルファス状態のハイドロキシアパタイト膜を形成した後、450℃の電気炉で10時間加熱し、前記アモルファス状態のハイドロキシアパタイト膜を結晶化させた。
【0034】
なお、本実施例において、ハイドロキシアパタイト結晶膜13Bが可撓性及び柔軟性を備え、かつ、一定の強度を維持するため、ハイドロキシアパタイト結晶膜13Bの厚さは0.5〜15μmであることが好ましい。さらに、骨や歯などの生体組織への貼り付けがより容易となるため、特に1〜4μmであることが好ましい。
【0035】
次に、ハイドロキシアパタイト結晶膜23Bを転写する側のPETフィルム24に接着層25としてUV硬化樹脂(アクリル系)をバーコーターで塗布し、そのフィルムをハイドロキシアパタイト結晶膜23B上に貼り合わせた。UVランプ(電力1.5kW)を10秒程度照射してUV硬化樹脂25を硬化させた後、ガラス基板からPETフィルム24を剥がすことで、PETフィルム24にハイドロキシアパタイト結晶膜23Bが転写された。
【0036】
図2は上記方法で製造されたPETフィルム24/接着層25/ハイドロキシアパタイト結晶膜23Bからなる積層体20の断面構造を模式的に表す図であり、
図3はかかる積層体20のハイドロキシアパタイト結晶膜23Bを観察した光学顕微鏡写真である。
【0037】
図4は上記方法で製造されたPETフィルム24/接着層25/ハイドロキシアパタイト結晶膜23Bからなる積層体20のX線回折測定結果である。ポリエチレンテレフタレートの他に、ハイドロキシアパタイトに帰属する回折ピークが現れており、PETフィルム24にハイドロキシアパタイト結晶膜23Bが転写されていることを確認できた。
【0038】
本実施例の効果を、離型剤にポリイミドを用いた場合と対比させて説明する。
【0039】
(1)シリカ微粒子はポリイミドよりも安価であるため、製造コストを低減できる。
【0040】
(2)離型剤にポリイミドを用いた場合、ポリイミドはポリアミド酸(ポリアミック酸)溶液を加熱することにより生成されるため、仮にポリアミド酸がポリイミドに転換されずに残存していると、耐酸性の低いハイドロキシアパタイトはポリアミド酸によって溶解されてしまい、ハイドロキシアパタイト結晶膜23Bを製造することができない可能性がある。その点、本実施例によれば、離型層形成工程で酸性物質を用いないため、ハイドロキシアパタイトが溶解するおそれはない。
【0041】
(3)離型剤にポリイミドを用いた場合、ハイドロキシアパタイトは吸着性が高いため、ハイドロキシアパタイト結晶膜23Bに付着したポリイミドを粘着テープ等で除去することが困難な可能性がある。その点、本実施例によれば、シリカ微粒子は離型性に優れるため、アルカリ処理などによりハイドロキシアパタイト結晶膜23Bから容易にシリカ微粒子を除去することができ、製造時間を短縮できるとともに、不純物の付着が少ない高品質のハイドロキシアパタイト結晶膜23Bを製造することができる。
【0042】
(4)離型剤にポリイミドを用いた場合、ハイドロキシアパタイト結晶膜23Bに付着したポリイミドが人体に悪影響を及ぼす可能性がある。その点、本実施例によれば、シリカ微粒子は人体に対する影響が少ないため、人体に直接適用できるハイドロキシアパタイト結晶膜23Bを製造することができる。
【0043】
(5)離型剤にポリイミドを用いた場合、アモルファス状態のハイドロキシアパタイト膜の形成にスパッタリング法を用いると、ポリイミドが長時間高温にさらされ、離型剤としての機能を失い、ハイドロキシアパタイト結晶膜23BをPETフィルム24に転写できない可能性がある。その点、本実施例によれば、シリカ微粒子は耐熱性に優れるため、スパッタリングにより生じる熱を受けても離型層としての機能を失うことはなく、スパッタリング法により成膜されたハイドロキシアパタイト結晶膜23Bであっても離型することができる。
【0044】
(6)なお、離型剤にポリイミドを用いた特許文献1の実施例では、接着層に瞬間接着剤(東亞合成株式会社製アロンアルファ201)を用いているため(段落0021)、PETフィルム24からハイドロキシアパタイト結晶膜23Bを剥離して使用する用途には適さない。その点、本実施例によれば、シリカ微粒子は離型性に優れるため、接着層に剥離可能な材料を用いることができ、PETフィルム24からハイドロキシアパタイト結晶膜23Bを剥離することが可能である。
【0045】
なお、本実施例では、ハイドロキシアパタイト結晶膜23Bは片面にしか樹脂フィルム24を備えないが、両面に樹脂フィルム24を備えてもよい。この場合、ハイドロキシアパタイト結晶膜23Bの両面が樹脂フィルム24により保護されるため、ハイドロキシアパタイト結晶膜23Bをより衛生的に取り扱うことができる。
【0046】
−実験例2−
本実験は、離型剤としてのシリカ微粒子の粒径と、離型性との相関を確かめたものである。一次粒径がそれぞれ15nm、35nm、55nmである3種類のシリカ微粒子サンプル(扶桑化学工業株式会社製PL−1、PL−3、PL−5)を用いた。各シリカ微粒子サンプルを支持体に塗布できる程度の粘度が出るよう、純水と混合した。
図6〜8は支持体上の各シリカサンプルのSEM写真である。すべてのサンプルにおいてシリカ微粒子は支持体上をほぼ一様に覆っていることが分かる。
【0047】
これらのシリカ微粒子膜を離型層とし、実験例1と同様にしてハイドロキシアパタイト結晶膜23Bを成膜し、PETフィルム24に転写を試みた場合の離型結果を
図9に示す。シリカ微粒子サンプルPL−1では離型が可能であり、PL−3およびPL−5では離型が不可能であった。これは、シリカ微粒子の粒径が大きい場合、微粒子間の間隙が大きくなり、この間隙にハイドロキシアパタイトが入り込むことによって支持体との連続部が生じ、離型性が悪化するものと考えられる。
【0048】
本実験結果から、シリカ微粒子が所望の離型機能を発揮するためには、少なくともその一次粒径が15nm以下、二次粒径が40nm以下である必要があると考えられる。また、シリカ微粒子の粒径が小さいほど離型性が良好になると考えられることから、所望の離型機能を発揮する粒径範囲の下限値は、シリカの分子サイズから自ずと決まると考えられる。
【符号の説明】
【0049】
10 無機結晶膜積層体
11 支持体
12 離型層
13A アモルファス状態の無機材料膜
13B 無機結晶膜
14 基材
20 PETフィルム/接着層/ハイドロキシアパタイト結晶膜からなる積層体
23B ハイドロキシアパタイト結晶膜
24 PETフィルム
25 接着層(UV硬化樹脂)