(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
各々に酸素イオン導電体と前記酸素イオン導電体上に形成された一対の電極とよりなる第1酸素ポンプセル、第2酸素ポンプセルおよび測定対象ガスが導入される測定室を有し、前記測定室に導入された測定対象ガスから前記第1酸素ポンプセルにより酸素を汲み出し、または、前記測定室へ前記第1酸素ポンプセルにより酸素を汲み入れて、前記測定対象ガスの酸素濃度を調整し、前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間への駆動電圧の印加により、前記酸素濃度が調整されたガスから酸素を汲み出し、前記汲み出した酸素の量に応じて前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間に第2ポンプ電流が流れるガスセンサ素子を備え、前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間に流れる前記第2ポンプ電流に基づいて、前記測定対象ガスに含まれる前記特定ガスの濃度を測定するセンサ制御装置であって、
前記ガスセンサ素子の起動後、且つ、前記第2酸素ポンプセルの前記一対の電極間への前記駆動電圧の印加前に、前記第2酸素ポンプセルに対して、所定値の電流を一定時間流すことにより、前記酸素濃度が調整されたガスから前記第2酸素ポンプセルによって汲み出される酸素の量を一定にする特定制御を行う制御手段と、
前記所定値の電流を流したときの前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間の電圧が閾値を超えた場合に、前記センサ素子と当該センサ制御装置との間の配線状態が正常であると判定する判定手段と、
を備えるセンサ制御装置。
各々に酸素イオン導電体と前記酸素イオン導電体上に形成された一対の電極とよりなる第1酸素ポンプセル、第2酸素ポンプセルおよび測定対象ガスが導入される測定室を有し、前記測定室に導入された測定対象ガスから前記第1酸素ポンプセルにより酸素を汲み出し、または、前記測定室へ前記第1酸素ポンプセルにより酸素を汲み入れて、前記測定対象ガスの酸素濃度を調整し、前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間への駆動電圧の印加により、前記酸素濃度が調整されたガスから酸素を汲み出し、前記汲み出した酸素の量に応じて前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間に第2ポンプ電流が流れるガスセンサ素子を制御し、前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間に流れる前記第2ポンプ電流に基づいて、前記測定対象ガスに含まれる前記特定ガスの濃度を測定するセンサ制御方法であって、
前記ガスセンサ素子の起動後、且つ、前記第2酸素ポンプセルの前記一対の電極間への前記駆動電圧の印加前に、前記第2酸素ポンプセルに対して、所定値の電流を一定時間流すことにより、前記酸素濃度が調整されたガスから前記第2酸素ポンプセルによって汲み出される酸素の量を一定にする特定制御を行う特定制御過程と、
前記所定値の電流を流したときの前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間の電圧が閾値を超えた場合に、前記センサ素子と当該センサ制御装置との間の配線状態が正常であると判定する判定過程と、
を有するセンサ制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献4に記載されたセンサの異常検出処理では、内燃機関の運転中にフューエルカット(F/C)が生じないと、異常検出処理を開始できないという問題があり、NOxセンサの駆動を開始してから早期に第2酸素ポンプセルとセンサ制御装置との間の配線状態が正常であるか否かを判定することができない。
【0008】
本発明は上述の課題に鑑みてなされたものであり、ガスセンサ素子の駆動を開始してから早期に、第2酸素ポンプセルとセンサ制御装置間との間の配線状態の診断を行うことができるセンサ制御装置及びセンサ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のセンサ制御装置は、各々に酸素イオン導電体と前記酸素イオン導電体上に形成された一対の電極とよりなる第1酸素ポンプセル、第2酸素ポンプセルおよび測定対象ガスが導入される測定室を有し、前記測定室に導入された測定対象ガスから前記第1酸素ポンプセルにより酸素を汲み出し、または、前記測定室へ前記第1酸素ポンプセルにより酸素を汲み入れて、前記測定対象ガスの酸素濃度を調整し、前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間への駆動電圧の印加により、前記酸素濃度が調整されたガスから酸素を汲み出し、前記汲み出した酸素の量に応じて前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間に第2ポンプ電流が流れるガスセンサ素子を備え、前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間に流れる前記第2ポンプ電流に基づいて、前記測定対象ガスに含まれる前記特定ガスの濃度を測定するセンサ制御装置であって、前記ガスセンサ素子の起動後、且つ、前記第2酸素ポンプセルの前記一対の電極間への前記駆動電圧の印加前に、前記第2酸素ポンプセルに対して、所定値の電流を一定時間流すことにより、前記酸素濃度が調整されたガスから前記第2酸素ポンプセルによって汲み出される酸素の量を一定にする特定制御を行う制御手段と、前記所定値の電流を流したときの前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間の電圧が閾値を超えた場合に、前記センサ素子と当該センサ制御装置との間の配線状態が正常であると判定する判定手段と、を備える。
このセンサ制御装置によれば、ガスセンサ素子の起動後、且つ、第2酸素ポンプセルへ駆動電圧を印加する前に実行される特定制御を利用して、第2酸素ポンプセルとセンサ制御装置との間の配線状態の診断を行うようにしている。より具体的には、制御手段による特定制御の際に所定値の電流を第2酸素ポンプセルに向けて流し、そのときの第2酸素ポンプセルの一対の電極間の電圧が閾値を超える場合には、第2酸素ポンプセルとセンサ制御装置との間の配線状態に断線が生じておらず正常であると判定している。これにより、ガスセンサ素子の駆動を開始してから早期に、第2酸素ポンプセルとセンサ制御装置間との間の配線状態の診断を行うことができる。
【0010】
前記判定手段は、前記配線状態が正常であると判定した場合を除き、前記配線状態を異常であると確定するとよい。
このセンサ制御装置によれば、判定手段によって配線状態が正常でない場合に、異常と決定するため、配線状態の正常、異常の判定を簡易的に行うことができる。
【0011】
ところで、第2酸素ポンプセルのインピーダンスは、ガスセンサ素子の周囲を流れる測定対象ガスの影響による当該ガスセンサ素子の急冷等により一時的に高まることがある。そして、制御手段による特定制御を実行している期間に、上記のように第2酸素ポンプセルのインピーダンスが一時的に高まると、第2酸素ポンプセルとセンサ制御装置との間の配線状態が正常であるにも関わらず、所定値の電流を流したときの第2酸素ポンプセルの一対の電極間の電圧が閾値を超えないおそれがある。
そこで、本発明では、前記制御手段による前記特定制御の終了後、前記第2酸素ポンプセルの前記一対の電極間への前記駆動電圧の印加を開始し、前記判定手段にて前記配線状態が
正常であると判定した場合を除き、所定時間内の前記第2ポンプ電流の値、該値に基づく算出値、前記値の変動幅、又は前記算出値の変動幅のいずれかを用いて、前記配線状態の異常を確定する確定判定手段、をさらに備えてもよい。
このセンサ制御装置によれば、判定手段で配線状態が正常でないと判定された場合に即座に異常を確定させず、特定制御が終了し、且つ、第2酸素ポンプセルへの駆動電圧の印加開始後の所定期間内における第2ポンプ電流の値、該値に基づく算出値、前記値の変動幅、又はは前記算出値の変動幅のいずれかを用いて、配線状態の異常を判定することで、配線異常を容易に確定させることができる。換言すれば、第2酸素ポンプセルとセンサ制御装置との間の配線状態が正常であるにも関わらず、所定値の電流を流したときの第2酸素ポンプセルの一対の電極間の電圧が閾値を超えない場合にも、確定判定手段により、上記配線状態が正常であると容易に判定することができる。
【0012】
本発明では、前記制御手段による前記特定制御の終了後、前記第2酸素ポンプセルの前記一対の電極間への前記駆動電圧の印加を開始し、前記判定手段にて前記配線状態が
正常であると判定した場合を除き、当該駆動電圧を変化させたときの前記第2ポンプ電流の変化量、又は、該変化量に基づく算出値を用いて、前記配線状態の異常を確定する確定判定手段、をさらに備えてもよい。
このセンサ制御装置によれば、判定手段で配線状態が正常でないと判定された場合に即座に異常を確定させず、特定制御が終了し、且つ、第2酸素ポンプセルへの駆動電圧の印加開始後にさらに精度の高い手段(方法)で配線状態の異常を判定することで、配線異常を確定させることができる。換言すれば、第2酸素ポンプセルとセンサ制御装置との間の配線状態が正常であるにも関わらず、所定値の電流を流したときの第2酸素ポンプセルの一対の電極間の電圧が閾値を超えない場合にも、確定判定手段により、上記配線状態が正常であると判定することができる。
【0013】
本発明のセンサ制御方法は、各々に酸素イオン導電体と前記酸素イオン導電体上に形成された一対の電極とよりなる第1酸素ポンプセル、第2酸素ポンプセルおよび測定対象ガスが導入される測定室を有し、前記測定室に導入された測定対象ガスから前記第1酸素ポンプセルにより酸素を汲み出し、または、前記測定室へ前記第1酸素ポンプセルにより酸素を汲み入れて、前記測定対象ガスの酸素濃度を調整し、前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間への駆動電圧の印加により、前記酸素濃度が調整されたガスから酸素を汲み出し、前記汲み出した酸素の量に応じて前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間に第2ポンプ電流が流れるガスセンサ素子を制御し、前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間に流れる前記第2ポンプ電流に基づいて、前記測定対象ガスに含まれる前記特定ガスの濃度を測定するセンサ制御方法であって、前記ガスセンサ素子の起動後、且つ、前記第2酸素ポンプセルの前記一対の電極間への前記駆動電圧の印加前に、前記第2酸素ポンプセルに対して、所定値の電流を一定時間流すことにより、前記酸素濃度が調整されたガスから前記第2酸素ポンプセルによって汲み出される酸素の量を一定にする特定制御を行う特定制御過程と、前記所定値の電流を流したときの前記第2酸素ポンプセルの一対の電極間の電圧が閾値を超えた場合に、前記センサ素子と当該センサ制御装置との間の配線状態が正常であると判定する判定過程と、を有する。
【0014】
前記判定過程は、前記配線状態が正常であると判定した場合を除き、前記配線状態を異常であると確定してもよい。
前記特定制御過程の終了後、前記第2酸素ポンプセルの前記一対の電極間への前記駆動電圧の印加を開始し、前記判定過程にて前記配線状態が
正常であると判定した場合を除き、所定時間内の前記第2ポンプ電流の値、該値に基づく算出値、前記値の変動幅、又は前記算出値の変動幅を用いて、前記配線状態の異常を確定する確定判定過程、をさらに有してもよい。
前記特定制御過程の終了後、前記第2酸素ポンプセルの前記一対の電極間への前記駆動電圧の印加を開始し、前記判定過程にて前記配線状態が
正常であると判定した場合を除き、当該駆動電圧を変化させたときの前記第2ポンプ電流の変化量、又は、該変化量に基づく算出値を用いて、前記配線状態の異常を確定する確定判定過程、をさらに有してもよい。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、ガスセンサ素子の駆動を開始してから早期に、第2酸素ポンプセルとセンサ制御装置間との間の配線状態の診断を行うことができることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.第1実施例:
A1.ガスセンサ素子の概略構成:
図1は、実施例におけるガスセンサ素子およびガスセンサ制御装置の概略構成を例示する説明図である。
図1において、ガスセンサのセンサ素子1は、先端部分における内部構造を示す断面図をもって図示しており、図中左側がセンサ素子1の先端側である。
【0018】
ガスセンサは、細長で長尺な板状体に形成されているセンサ素子1を、内燃機関の排気管(図示省略)に取り付けるためのハウジング(図示省略)内で保持した構造を有する。センサ素子1の出力する信号を取り出すための信号線がガスセンサから引き出されており、ガスセンサとは離れた位置に取り付けられるガスセンサ制御装置100に電気的に接続されている。
【0019】
センサ素子1の構造について
図1を参照して説明する。センサ素子1は、酸素イオン伝導性を有する3枚の固体電解質層11,21、31の間に絶縁体40、45を挟んで板状に形成した構造を有する。また、固体電解質層31側の外層(
図1における下側)には、ヒータ素子61が設けられている。
【0020】
固体電解質層11は、例えばジルコニアであり、酸素イオン伝導性を有する。センサ素子1の積層方向において固体電解質層11の両面には、固体電解質層11を挟むように多孔質性の電極12、13が設けられている。電極12、13は、Pt又はPt合金あるいはPtとセラミックスを含むサーメット等から形成されている。また、電極12、13の表面上にはセラミックスからなる多孔質性の保護層14が設けられている。保護層14は、電極12、13が排気ガスに含まれる被毒性ガス(還元雰囲気)に晒されることによる電極の劣化を抑制している。
【0021】
固体電解質層11は、電極12、13間に電流が流れることにより、電極12の接する雰囲気(センサ素子1の外部の雰囲気)と電極13の接する雰囲気(後述する第1測定室50内の雰囲気)との間で酸素の汲み出しおよび汲み入れ(いわゆる酸素ポンピング)を行う。以降、実施例では、固体電解質層11、電極12、電極13から構成される酸素ポンプセルを、Ip1セル10と呼ぶ。Ip1セル10は、特許請求の範囲における「第1酸素ポンプセル」に当たり、固体電解質層11は、特許請求の範囲における第1酸素ポンプセルの「酸素イオン導電体」に当たり、電極12、電極13が、特許請求の範囲の第1酸素ポンプセルの「一対の電極」に相当する。
【0022】
固体電解質層12は、例えばジルコニアであり、酸素イオン伝導性を有する酸素イオン導電体である。固体電解質層21は、絶縁体40を挟んで固体電解質層11と対向するように配置されている。センサ素子1の積層方向における固体電解質層21の両面にも、固体電解質層21を挟むように多孔質性の電極22、電極23がそれぞれ設けられており、同様に、Pt又はPt合金あるいはPtとセラミックスを含むサーメット等から形成されている。そのうちの電極22は、固体電解質層11と対向するように形成されている。
【0023】
第1測定室50は、絶縁体40と同一面上に形成されると共に、固体電解質層11と固体電解質層21との間に形成されており、排気通路内を流通する排気ガスがセンサ素子1内に最初に導入される小空間である。第1測定室50におけるセンサ素子1の先端側には多孔質性の第1拡散抵抗部51が設けられている。第1拡散抵抗部51は、第1測定室50の内部と外部とを仕切るとともに、第1測定室50内へ流入する排気ガスの単位時間あたりの流量を制限している。固体電解質層11側の電極13と、固体電解質層21側の電極22とは第1測定室50に露出するように配置されている。
【0024】
第2測定室60は、第1測定室50と連通するように形成されており、lp1セル10の酸素ポンピングにより酸素濃度が調整されたガス(以降、実施例では調整ガスと呼ぶ)が導入される小空間である。第2測定室60の開口部41には、多孔質性の第2拡散抵抗部52が設けられており、第1測定室50と第2測定室60との間を仕切るとともに、第2測定室60へ導入される調整ガスの単位時間あたりの流量を制限する。
【0025】
基準酸素室70は絶縁体45、電極23、電極32により囲われている小空間であり、絶縁性セラミック製の多孔質体が充填されている。
【0026】
固体電解質層21、電極22および電極23は、固体電解質層21により隔てられた、第1測定室50内の雰囲気と基準酸素室70内の雰囲気の間の酸素分圧差に応じて起電力を発生する。電極23は基準雰囲気に調整された基準酸素室70に露出するように配置されている。本実施例では、固体電解質層21、電極22および電極23から構成される酸素ポンプセルをVsセル20と呼ぶ。
【0027】
固体電解質層31は、例えばジルコニアであり、酸素イオン伝導性を有する。固体電解質層31は、絶縁体45を挟んで固体電解質層21と対向するように配置されている。固体電解質層31の固体電解質層21に対向する側の面には、多孔質性の電極32、33が設けられている。電極32、33は、Pt又はPt合金あるいはPtとセラミックスを含むサーメット等から形成されている。電極33は、第2測定室60に露出するように、換言すれば、調整ガスに晒されるように、配置されている。
【0028】
固体電解質層31および両電極32、33は、電極32、33に印加される電圧に応じて、絶縁体45により隔てられた基準酸素室70内の雰囲気と第2測定室60内の雰囲気の間で酸素の汲み出しを行う。本実施例では、固体電解質層31、電極32および電極33とから構成される酸素ポンプセルをIp2セル30と呼ぶ。Ip2セル30は、特許請求の範囲における「第2酸素ポンプセル」に当たり、固体電解質層31は特許請求の範囲における第2酸素ポンプセルの「酸素イオン導電体」に当たり、電極32、33は、特許請求の範囲における第2酸素ポンプセルの「一対の電極」に当たる。
【0029】
ヒータ素子61は、アルミナを主体とするシート状の絶縁層62、63が積層され、絶縁層62および63の間にプラチナ(Pt)を主体とするヒータパターン64が埋設されている。ヒータ素子61は、ヒータパターン64に電流を流すことにより発熱を行う。
【0030】
センサ素子1と電気的に接続されたガスセンサ制御装置100の構成について説明する。ガスセンサ制御装置100は、マイクロコンピュータ110と、電気回路部120を有している。マイクロコンピュータ110は、図示しないCPU、RAM、ROM、A/Dコンバータおよび信号入出力部を備える。マイクロコンピュータ110は、内燃機関の制御を行うECU(エンジン制御装置)200と通信するとともに、A/Dコンバータおよび信号入出力部を介して電気回路部120と通信を行う。また、ガスセンサ制御装置100は、タイマクロック(図示を省略)を備えている。電気回路部120は、基準電圧比較回路121、Ip1ドライブ回路122、Vs検出回路123、Icp供給回路124、抵抗検出回路125、Ip2検出回路126、Vp2印加回路127、定電流回路128、スイッチ回路129およびヒータ駆動回路130から構成され、マイクロコンピュータ110による制御を受けて、センサ素子1を駆動制御すると共に、センサ素子1を用いた排気ガス中のNOx濃度の測定を行う。なお、Ip1セル10の第1測定室50側の電極13、Vsセル20の第1測定室50側の電極22、Ip2セル30の第2測定室60側の電極33は、基準電位(例えば3.6V)に接続され、同電位とされている。
なお、マイクロコンピュータ110が、特許請求の範囲の「制御手段」、「判定手段」、「確定判定手段」に相当する。
【0031】
Icp供給回路124は、Vsセル20の電極22、23間に電流Icpを供給し、第1測定室50内から基準酸素室70内への酸素の汲み入れを行っている。Vs検出回路123は、電極22、23間の電圧(起電力)Vsを検出するための回路であり、その検出結果を基準電圧比較回路121に対し出力している。基準電圧比較回路121は、Vs検出回路123に検出されたVsセル20の電極22、23間の電圧Vsを、基準となる基準電圧(例えば425mV)と比較するための回路であり、その比較結果をIp1ドライブ回路122に対し出力している。また、Vs検出回路123は、電極22、23間の電圧Vsを別途にマイクロコンピュータ110にも出力している。
【0032】
Ip1ドライブ回路122は、Ip1セル10の電極12、13間に電流Ip1を供給するための回路である。電流Ip1の大きさや向きは、基準電圧比較回路121によるVsセル20の電極22、23間の電圧の比較結果に基づいてVsセル20の電極22、23間の電圧が予め設定された基準電圧と略一致するように調整される。
【0033】
電流Ip1が供給されると、Ip1セル10は、第1測定室50内からセンサ素子1外部への酸素の汲み出し、あるいはセンサ素子1外部から第1測定室50内への酸素の汲み入れを行う。換言すると、Ip1セル10は、Vsセル20の電極22、23間の電圧が一定値(基準電圧値)に保たれるように、第1測定室50内における酸素濃度の調整を行っている。
【0034】
抵抗検出回路125は、定期的に、Vsセル20に予め規定された値を有する電流を通電し、その通電に応答して得られる電圧変化量(電圧Vsの変化量)を検出するための回路である。この抵抗検出回路125にて検出された電圧変化量を示す値は、マイクロコンピュータ110に出力され、マイクロコンピュータ110に記憶されている電圧Vsの変化量とVsセル20の内部抵抗とが予め関連付けられたテーブルに基づいて、Vsセル20の内部抵抗が求められることになる。Vsセル20の内部抵抗は、Vsセル20の温度、すなわち、センサ素子1全体の温度と相関があり、マイクロコンピュータ110は、Vsセル20の内部抵抗に基づいて、センサ素子1の温度を検出する。なお、Vsセル20の内部抵抗を表す電圧変化量を検出するための抵抗検出回路125の回路構成は特開平11−307458号公報にて公知であるため、これ以上の説明は省略する。
【0035】
Vp2印加回路127は、Ip2セル30の電極32、33間へ電圧(駆動電圧)Vp2(例えば450mV)を印加するための回路である。この電圧Vp2の印加により、調整ガスに含まれるNOxを窒素と酸素に解離させ、解離によって生じた酸素を第2測定室60から汲み出し、汲み出した酸素の量に応じてIp2セル30の電極32、33間に電流Ip2が流れることになる。Ip2検出回路126は、Ip2セル30の電極32、33間に流れた電流Ip2の値の検出を行う回路である。Ip2検出回路126にて検出された電流Ip2(詳細には、電流Ip2を電圧変換した信号)は、図示しない差動増幅回路等を介してマイクロコンピュータ110に出力され、マイクロコンピュータ110は、電流Ip2の値に基づいて、排気ガス中に含まれるNOx濃度を測定する。
【0036】
定電流回路128は、Ip2セル30の電極33と電極32の間に一定の値の電流Ip3(例えば、10μA)を供給するための回路である。スイッチ回路129は、Vp2印加回路127および定電流回路128と、電極32との接続を切り替えるための回路である。スイッチ回路129は、電極32に接続されているスイッチ端子SW1と、Vp2印加回路127に接続されているスイッチ端子SW2と、定電流回路128に接続されているスイッチ端子SW3と、を備えている。Ip2セル30の電極32、電極33の間に所定の電圧を印加する場合には、スイッチ端子SW1とスイッチ端子SW2とが接続され電極32とVp2印加回路127とが接続される。Ip2セル30の電極32、電極33間に定電流Ip3を流す場合には、スイッチ端子SW1とスイッチ端子SW3とが接続され、電極32と定電流回路128とが接続される。
【0037】
ヒータ駆動回路130は、マイクロコンピュータ110により制御され、ヒータ素子61のヒータパターン64へ電流を流し、Ip1セル10、Vsセル20、Ip2セル30の加熱を行うと共に、Ip1セル10、Vsセル20、Ip2セル30の温度を所定の温度に保持するための回路である。ヒータパターン64はヒータ素子61内で繋がる一本の電極パターンであり、一方の端部が接地され、他方の端部がヒータ駆動回路130に接続されている。なお、ヒータ駆動回路130には、ヒータパターン140に電圧を印加するための電源(図示せず)と接続されている。このヒータ駆動回路130は、センサ素子1(詳細には、Vsセル20)が狙いとする温度になるように、マイクロコンピュータ110にて求められるVsセル20の温度(内部抵抗)に基づいてヒータパターン64をPWM通電制御して当該ヒータパターン64に電流を流す制御を行えるように構成されている。
【0038】
A2.起動処理:
図2は、実施例におけるNOxセンサの起動処理(メインルーチン)について説明するフローチャートである。NOxセンサの起動処理は、内燃機関の起動時にECU200からの指示を受けて、マイクロコンピュータ110により、実行される。
【0039】
マイクロコンピュータ110は、内燃機関が起動され、ECU200からの指示を受けると、センサ素子1を起動し、ヒータ駆動回路130を介してヒータ素子61への通電を開始する(ステップS10)。具体的には、マイクロコンピュータ110は、ヒータ素子61へ一定電圧(実施例では、12V)を印加するようにヒータ駆動回路130を制御する。
【0040】
次に、マイクロコンピュータ110は、Icp供給回路124を介してVsセル20への電流(電流Icp)供給を開始し、Vsセル20を起動する(ステップS12)。Vsセル20は、電流供給を受けて、基準酸素室70への酸素の汲み込みを開始する。これにより、基準酸素室70の雰囲気が基準の酸素濃度雰囲気となる。センサ素子1がヒータ素子61により加熱され、Vsセル20の内部抵抗が低下するに従い、Vsセルの両端電圧Vsは、徐々に低下する。
【0041】
マイクロコンピュータ110は、Vs検出回路123を介して取得される両端電圧Vsと所定値Vthとを比較し(ステップS14)、取得されたVsセル20の両端電圧Vsが所定値Vth以下の場合(ステップS14:YES)、ヒータ電圧Vhの制御を開始する(ステップS16)。具体的には、マイクロコンピュータ110は、Vsセル120の内部抵抗Rpvsが目標値となるように、ヒータ駆動回路130を介してヒータ素子61への通電を制御する。実施例では、目標値とは、例えば、200Ωであり、内部抵抗Rpvsが200Ωの場合、Vsセル20の温度は、約750℃と推定される。
【0042】
次に、マイクロコンピュータ110は、抵抗検出回路125を介して電圧変化量(電圧Vsの変化量)を取得してVsセル120の内部抵抗Rpvsを算出し、算出された内部抵抗Rpvsに基づいて、センサ素子1が活性化したかを判断する(ステップS18)。具体的には、マイクロコンピュータ110は、Vsセル120の内部抵抗Rpvsが、上記目標値よりも若干大きい値に設定された閾値に達しているか否かによって、センサ素子1が活性化されたか否かを判断する。この実施例では、閾値は、例えば、300Ωであり、内部抵抗Rpvsが300Ωの場合、Vsセル20の温度は、約650℃と推定される。なお、Vsセル120の内部抵抗Rpvsの算出方法は、上述したように、抵抗検出回路125にて定期的にVsセル120の電圧Vsの変化量を検出し、マイクロコンピュータ110がその電圧Vsの変化量を取得し、電圧Vsの変化量とVsセル20の内部抵抗とが予め関連付けられたテーブルを参照することで算出される。
【0043】
マイクロコンピュータ110は、内部抵抗Rpvsが閾値に達している場合、センサ素子1が十分に活性化されたと判断し(ステップS18:YES)、Ip1ドライブ回路122の駆動を開始して、第1測定室50に導入される排気ガスの酸素濃度の調整を、Ip1セル10を用いて行う(ステップS20)。次いで、マイクロコンピュータ110は、予備制御を開始する(ステップS22)。予備制御とは、センサ素子1の起動から安定してNOx濃度を測定可能となるまでの時間を短縮するための制御である。予備制御について、以下に具体的に説明する。
【0044】
まず、予備制御を行う理由について説明する。本実施例のように、内燃機関に設置して排気ガス中のNOx濃度を測定する場合、前回の内燃機関の運転停止から起動停止までの経過時間に応じて、大気雰囲気に近いリーン状態のガスが第2測定室60に存在する。すなわち、起動前には、第2測定室60には、酸素が通常動作時よりも大量に存在している。この状態でセンサ素子1の起動直後から通常動作(Ip1セル10、Ip2セル30の駆動制御)を開始すると、安定してNOx濃度を測定可能となるまでに長時間(例えば、約10分程度)必要となる。このため、安定してNOx濃度を測定可能となるまでの時間を短縮するために、余剰な酸素を第2測定室60から短時間で強制的に汲み出す制御を行う。この制御が予備制御である。本実施例の予備制御では、一定時間、一定の電流を流すことにより、Ip2セル130を流れる電流に応じた量の酸素を汲み出す。
【0045】
実施例の予備制御の処理詳細について説明する。
図2に示すように、マイクロコンピュータ110は、Ip2セル30に対して一定値の電流を流す制御を行う(ステップS30)。この一定値の電流を、適宜「Ip3電流」と称する。具体的には、マイクロコンピュータ110は、スイッチ端子SW1を、定電流回路128に接続されているスイッチ端子SW3に接続して、Ip2セルと定電流回路128とを接続し、定電流回路128にIp3電流を流す指示を行う。なお、実施例において「一定値の電流」とは、例えば、10μAである。Ip2セル30は、電流供給を受けて、第2測定室60に存在する酸素の汲み出しを開始する。
【0046】
次に、マイクロコンピュータ110は、図示しないタイマー回路を起動する(ステップS32)。タイマー回路は、一定時間後にタイムアウトするように構成されている。実施例において、一定時間とは、例えば、20secである。
マイクロコンピュータ110は、ステップS32から、本発明の特徴部分であって、サブルーチンであるS33のIp2断線判定処理(後述)に移行する。
Ip2断線判定処理が終了すると、マイクロコンピュータ110は、予備制御S22の処理を終了し、Ip2セル30の制御(通電状態)を通常制御に切り替える(ステップS24)。通常制御とは、NOx濃度を測定するための制御であり、Ip2セル30へ駆動電圧Vp2を印加し、第2測定室60から酸素の汲み出しを行う制御である。通常制御への切り替えは、スイッチ端子SW1を、定電流回路128に接続されているスイッチ端子SW2からスイッチSW3に切り替えてVp2印加回路127を電極32に接続し、Ip2セル130の両電極32、33間に印加する電圧(駆動電圧)Vp2を一定の電圧(例えば450mV)に設定することにより行われる。
さらに、ステップS24に続き、本発明のさらなる特徴部分であって、サブルーチンであるS26の確定Ip2断線判定処理(後述)に移行した後、メインルーチンを終了する。
【0047】
マイクロコンピュータ110は、以上説明したように、一定時間(20sec)、一定電流(10μA)をIp2セル30に供給して予備制御を行う。なお、この一定時間および一定電流の値は、センサ素子1の構成やセンサ素子1の設置される部位、環境など種々の条件に基づいて、実験により規定される。マイクロコンピュータ110は、予備制御を終えると、通常制御を開始する。
【0048】
実施例のガスセンサによれば、Ip2セル30に対して、第2測定室60から汲み出す酸素の量を一定にする制御が行われる。従って、センサ素子1の起動時に、測定対象ガスである排気ガスのH
2O濃度に依存することなく、第2測定室60からほぼ同量の酸素が汲み出される。よって、センサ素子1を起動してから、排気ガスに含まれるNOxの濃度を安定して測定可能となるまでの時間を、H
2O濃度に依存することなくほぼ一定とすることができる。
【0049】
また、実施例のガスセンサによれば、起動時に、Ip2セル30に対して、予め規定された所定の電流が一定時間流される。従って、起動時において第2測定室60から汲み出される酸素の量を、排気ガスに含まれるH
2O濃度に依存することなくなくほぼ一定に制御できる。
【0050】
A3.Ip2断線判定処理:
図3は、実施例におけるNOxセンサのIp2断線判定処理(サブルーチン)について説明するフローチャートである。Ip2断線判定処理はマイクロコンピュータ110により、実行される。
【0051】
まず、マイクロコンピュータ110は、ステップS22(
図2)の予備制御において、Ip2セル30にIp3電流を流したときのIp2セル30の一対の電極32,33間の電圧が閾値を超えたか否かを判定する(ステップS102)。閾値は0より大きい正の値であればよく、例えば0.2Vとする。ステップS102で「Yes」であれば、Ip2セル30に電流が流れている、つまりIp2セル30とガスセンサ制御装置100との間の配線状態が正常である(断線なし)と判定することができるので、ステップS104へ移行せずにステップS106へジャンプする。一方、ステップS102で「No」であれば、Ip2セル30に電流が流れていない、つまり上記配線状態が異常(断線)であるとみなしてステップS104へ移行し、断線カウンタを1だけインクリメントし、異常(断線)が生じていると暫定的に判定する。
【0052】
続いて、ステップS106では、マイクロコンピュータ110は、メインルーチンのステップS32のタイマーがタイムアウトしたか否か(つまり、特定制御を実行する期間が経過したか否か)を判定する。ステップS106で「No」であれば、ステップS102へ移行して以降の処理を繰り返す。一方、ステップS106で「Yes」であれば、マイクロコンピュータ110は断線カウンタが規定値以下であるか否かを判定する(ステップS108)。例えば、ステップS102で1回「No」であったときに直ちに断線ありと判定した場合には誤検知の可能性があるが、例えば規定値を3とし、断線カウンタが3以上のときに異常(本実施例では、暫定的な異常)を判定すると、安定した判定が行える。ただし、ステップS102で1回「No」であったときに異常を判定するようにしても良い。
ステップS108で「Yes」であれば、マイクロコンピュータ110は、配線状態が正常であると判定し、「暫定Ip2断線なし判定」のフラグをたて(ステップS110)、処理を終了し、メインルーチンへ戻る。
一方、ステップS108で「No」であれば、マイクロコンピュータ110は、配線状態が異常(断線)であると暫定的に判定し、「暫定Ip2断線あり判定」のフラグをたて(ステップS112)、Ip2断線判定処理を終了し、メインルーチンへ戻る。
【0053】
A4.確定Ip2断線判定処理:
図4は、実施例におけるNOxセンサの確定Ip2断線判定処理(サブルーチン)について説明するフローチャートである。確定Ip2断線判定処理はマイクロコンピュータ110により、実行される。
【0054】
まず、マイクロコンピュータ110は、ステップS24(
図2)にてIp2セル30へ上記駆動電圧Vp2(例えば450mV)を印加した通常設定のもと、上述のステップS110(
図3)で「暫定Ip2断線なし判定」のフラグが立っているか否かを判定する(ステップS202)。ステップS202で「Yes」であれば、Ip2断線判定処理で既に配線状態が正常と判定しているので、確定Ip2断線判定処理を実質的に行わずに(詳細には、ステップS204以降の処理を行わずに)、本処理を終了する。
ステップS202で「No」であれば、マイクロコンピュータ110はステップS204へ移行して所定時間が経過したか否かを判定する。所定時間は例えば1秒であり、この所定時間内に以下のステップS206の判定を繰り返し行い、ステップS206で「Yes」であれば、ステップS208に移行する。
【0055】
すなわち、ステップS204で「No」の場合、ステップS206で、マイクロコンピュータ110は、駆動電圧Vp2を印加した状態でIp2セル30に流れたIp2電流に基づき算出されたNOx値(NOx濃度換算値)又はその変動幅が基準値以上か否かを判定する。ステップS206で「Yes」であれば、Ip2セル30に電流が流れている、つまりIp2セル30とガスセンサ制御装置100との間の配線状態が正常であるのでステップS208へ移行し、マイクロコンピュータ110は、配線状態が正常であると判定し直し、「確定Ip2断線なし判定」のフラグをたて、処理を終了する。つまり、Ip2断線判定処理にて異常(断線)が生じていると暫定的に判定された結果を取り消し、配線状態が正常であると確定する。なお、NOx値(濃度)の変動幅とは、ステップS204の時間内のNOx値(濃度)の最大値と最小値の差分である。
一方、ステップS206で「No」であれば、マイクロコンピュータ110はステップS204へ戻る。
【0056】
次に、ステップS204で「Yes」の場合に実行される、ステップS210以降の確定Ip2断線判定処理について説明する。ステップS204で「Yes」であれば、Ip2断線判定処理で配線状態が暫定的に異常、かつステップS206で配線状態が正常と判定されなかったので、Ip2セル30に印加する駆動電圧Vp2を変化させる処理を行う必要がある。
まず、ステップS210で、マイクロコンピュータ110は、Ip2セル30の駆動電圧Vp2を規定値であるV0(例えば450mV)から5mV高い電圧値である第1電圧値V1に切り替え、第1電圧値V1を一定時間印加する。
次に、ステップS211で、マイクロコンピュータ110は、第1電圧値V1を印加したときの第2ポンプ電流Ip2の変動値ΔIp2を算出し、変動値ΔIp2と、規定値V0に対する第1電圧値V1への電圧変化量(5mV)とからIp2セル30のインピーダンス値(Ip2セル抵抗)を算出する。
なお、上記インピーダンス値は、特許請求の範囲の「第2ポンプ電流の変化量に基づく算出値」に相当する。又、上記インピーダンス値に代えて、ΔIp2(特許請求の範囲の「第2ポンプ電流の変化量」に相当)そのものをステップS215の判定に用いてもよい。
【0057】
次いで、ステップS212で、マイクロコンピュータ110は、Ip2セル30の駆動電圧Vp2を規定値V0に戻す。そして、ステップS213に移行し、マイクロコンピュータ110は、Ip2セル30の駆動電圧Vp2を規定値V0(例えば450mV)から5mV低い電圧値である第2電圧値V2に切り替え、第2電圧値V2を一定時間印加する。次に、ステップS214に移行し、マイクロコンピュータ110は、Ip2セル30の駆動電圧Vp2を規定値V0に戻す。第1電圧値を印加した後、規定値V0を境にして逆極性の第2電圧値を印加することにより、交番電圧を印加したことになる。そして、ステップS215で、マイクロコンピュータ110は、S211で算出したインピーダンス値(Ip2セル抵抗)が、断線判定のために予め設定された基準値以上であるか否かを判定する。ステップS215で「No」であれば、Ip2セル30に電流が流れている、つまりIp2セル30とガスセンサ制御装置100との間の配線状態が正常であるため、ステップS208へ移行し、マイクロコンピュータ110は、配線状態が正常であると判定し直し、「確定Ip2断線なし判定」のフラグをたて、処理を終了する。このようにして、Ip2断線判定処理にて異常(断線)が生じていると暫定的に判定された結果を取り消し、配線状態が正常であると確定する。
一方、ステップS215で「Yes」であれば、Ip2セル30に電流が流れていない、つまり上記配線状態が異常(断線)であると判定することができるので、ステップS216へ移行し、断線カウンタを1だけインクリメントする。
【0058】
続いて、ステップS218では、マイクロコンピュータ110は断線カウンタが規定値以下であるか否かを判定する(ステップS218)。ステップS108と同様、ステップS214で1回「Yes」であっても誤検知の可能性があるので、例えば規定値を3とし、断線カウンタが複数の値以上のときに異常を確定するようにすると、安定した判定が行える。ただし、ステップS218で1回「No」であったときに異常を確定するようにしても良い。
ステップS218で「Yes」であれば、マイクロコンピュータ110は、配線状態が異常(断線)であると確定し、「確定Ip2断線あり判定」のフラグをたて(ステップS220)る。次に、ステップS222にて、マイクロコンピュータ110は、Ip1セル10及びIp2セル30の駆動を停止する処理を実行し、確定Ip2断線判定処理を終了し、メインルーチンへ戻る。
【0059】
以上のように、ステップS210以降の処理は、Ip2セル30に印加する駆動電圧Vp2を変化させてさらに精度の高い異常検出処理を行うものである。ただし、本実施例では、Ip2断線判定処理の「暫定Ip2断線なし判定」のフラグが立ち、配線状態が正常であると判定されれば、確定Ip2断線判定処理は、ステップS202で「Yes」と判定されて、S204以降の駆動電圧Vp2を変化させての異常検出処理を実行する必要がない。駆動電圧Vp2を変化させての異常検出処理においては、NOx濃度に関係なくIp2セル30を流れるIp2電流が変化するため、異常検出処理の際にNOx濃度の検出を中断する等の処理が必要になるが、Ip2断線判定処理にて配線状態が正常であると判定されれば、そのような処理は必要なく、精度の良いNOx濃度の検出を継続することができる。
【0060】
B.第2実施例:
次に、本発明の第2実施例のガスセンサ制御装置について説明する。第2実施例のガスセンサ制御装置は、第1実施例の
図1に示した概略構成を有するものであるが、第1実施例と比較して、Vp2印加回路127の構成、スイッチ回路129の構成、及び、マイクロコンピュータ110による起動処理の内容が一部異なるだけで、その他のハードウェアやソフトウェアの構成は同一である。そのため、以降の説明では、第1実施例と異なる部分を中心に説明する。
【0061】
まず、本実施例におけるVp2印加回路127は、上述したように、Ip2セル30の電極32、33間へ電圧(駆動電圧)Vp2(例えば450mV)を印加するための回路であるが、本実施例では、電極32、33間に生ずる最大電圧値を予め定められた制限値に制限する機能をも有する。Vp2印加回路127の詳細な回路構成について次に説明する。
【0062】
図5は、Vp2印加回路127の回路構成を示す図である。図示するように、センサ素子1のIp2セルの電極32には、演算増幅回路301の出力端子307がIp2検出回路126を介して接続されている。なお、Ip2検出回路126は、数百kΩの所定の値に設定された検出抵抗器から構成されている。そして、演算増幅回路301の非反転入力端子(+入力端子)303には、第2スイッチ回路309を介して、基準電位(例えば3.6V)に電圧Vp2(例えば450mV)を重畳した第1電圧、または、基準電位(例えば3.6V)に所定の電圧Vli(例えば1.0V)を重畳した第2電圧のいずれかが加えられるように構成されている。また、演算増幅回路301の反転入力端子(−入力端子)305は、出力端子307と互いに電気的に接続されている。より具体的には、反転入力端子305は、Ip2検出回路126の一端と電極32との接続点であって、スイッチ回路129と電極32との接続点に接続されている。なお、この演算増幅回路301は、例えば5Vの定電圧にて駆動され、また、Ip2セル30の電極33は第1実施例と同様に基準電位(3.6V)に接続されている。
さらに、本実施形態では、Vp2印加回路127は第2の演算増幅回路401を有する。第2の演算増幅回路401の反転入力端子(−入力端子)403は、出力端子307に電気的に接続されている。又、第2の演算増幅回路401の非反転入力端子(+入力端子)405は、Ip2検出回路126の一端と電極32との接続点に接続されている。さらに、第2の演算増幅回路401の出力端子407はマイクロコンピュータ110へ接続され、Ip2検出回路126にて検出された電流Ip2(電流Ip2を電圧変換した信号)が出力端子407を介してマイクロコンピュータ110に出力される。なお、第2の演算増幅回路401は、
図5に示すように、オペアンプと4本の抵抗線とを備えた周知のものであり、第2の演算増幅回路401の非反転入力端子405には、1本の抵抗器とバッファ409を介してオフセット電圧(
図5の例では+1.389V)が印加されている。又、第2の演算増幅回路401は一定の駆動電圧(例えば、5V)にて駆動される。
【0063】
ここで、第2の演算増幅回路401の機能について説明する。上述の
図2に示す予備制御(FLO制御;特許請求の範囲の「特定制御」)を行うと、第2測定室60から酸素を汲み出し過ぎ、基準酸素室70よりも第2測定室60の酸素濃度が低い状態となる。このとき、Vp2印加回路127に第2の演算増幅回路401を設けると共に、第2の演算増幅回路401にオフセット電圧を印加すると、基準酸素室70よりも第2測定室60の酸素濃度が低い状態のときにIp2セル30の電極32,33間に通常と逆方向に流れる第2ポンプ電流Ip2(マイナスの電流、以下、「逆電流」という)を測定することができる。
図7は、FLO制御完了後、Ip2セル30の電極32,33間に流れる第2ポンプ電流Ip2の値の変動状態を示す。
図7(a)に示すように、FLO制御完了直後からIp2セル30に逆電流が流れるが、所定時間が経過すると元に戻って通常のプラスの第2ポンプ電流Ip2が流れるようになる。
【0064】
そして、所定時間内にIp2セル30に逆電流が流れていれば、Ip2セル30とガスセンサ制御装置100との間が断線しておらず、配線状態が正常であるので、上記した「A4.確定Ip2断線判定処理:」の
図4のステップS206において、逆電流の有無によってIp2断線判定処理を行える。一方、配線状態が異常である(断線が生じている)場合、
図7(b)に示すように、Ip2セル30には逆電流が流れず、第2ポンプ電流Ip2が0となるので、配線状態が異常であると判定することができる。
以上のように、Ip2セル30に逆電流が流れるか否かによって配線状態の異常を確定することにより、
図4のステップS204以降の処理、つまりIp2セル30の電極32,33間への駆動電圧を変化させて配線状態の異常を判定しなくとも、配線状態を容易に確定することができる。
【0065】
なお、「所定時間」は、
図7(a)の逆電流が生じてから、元に戻って第2ポンプ電流Ip2が0に近付くか、又は所定のプラスの値になるまでの時間とすればよい。
上記逆電流の値は、特許請求の範囲の「第2ポンプ電流の値」に相当する。上記逆電流をNOx濃度(NOx値)に変換した値は、特許請求の範囲の「第2ポンプ電流の値に基づく算出値」に相当する。又、
図7(a)に示すように、所定時間内の逆電流又はNOx濃度(NOx値)の最大値と最小値の差分は、特許請求の範囲の「変動幅」に相当する。
又、上述のように、逆電流(又はNOx値)の値そのものを基準値と比較して配線状態を判定してもよく、上記した変動幅を基準値と比較して配線状態を判定してもよい。
【0066】
次に、本実施例のマイクロコンピュータ110が実行する起動処理を、
図6を用いて説明する。本実施例の起動処理も、内燃機関の起動時にECU200からの指示を受けて、実行される。マイクロコンピュータ110は、第1実施例と同様に、ステップS10,S12,S14,S16,S18,S20の処理を実行する。そして、マイクロコンピュータ110は、ステップS20の処理を終えた後、ステップS42に示す予備制御を開始する。
【0067】
この予備制御(ステップS42)が開始されると、まず、スイッチ回路129を制御して、スイッチ端子SW8と、定電流回路128側のスイッチ端子SW7と導通させ、一定の電流を定電流回路128からIp2セル30に向けて通電する指示を行う。次に、マイクロコンピュータ110は、第2スイッチ回路309を制御してスイッチ端子SW4をスイッチ端子SW6に接続し、演算増幅回路301の非反転入力端子303に対して、基準電圧(例えば3.6V)に所定の電圧Vli(例えば1.0V)を重畳した第2電圧(例えば4.6V)が入力されるように指示する(ステップS31)。
【0068】
ところで、定電流回路128から電極32(Ip2セル30)に対して定電流Ip3が供給されることにより、第2測定室60から余剰の酸素が汲み出されて、第2測定室60の酸素濃度が低下することによって、Ip2セル30の電極32,33間に生ずる起電力が上昇し、その状態で定電流回路128による通電が継続されると、電極32,33間に過電圧がかかり、Ip2セル30の固体電解質層31にブラックニングを誘発するおそれがある。しかしながら、本実施例では、予備制御(ステップS42)が開始されると、演算増幅回路301の非反転入力端子303に、基準電圧に電圧Vliを加算した第2電圧(例えば4.6V)を入力させている。そのため、Ip2セル30の電極32,33間の電圧が1V(=4.6V−3.6V)を超えるまでの間、反転入力端子305の電位を上げるべく出力端子307から電流を吐き出すように駆動していた演算増幅回路301は、Ip2セル30の電極32,33間の電圧が最大となる1V(=4.6V−3.6V)を超えると、定電流回路128からの電流を吸い込むように機能する。そして、演算増幅回路301が電流を吸い込むように機能することで、Ip2セル30の電極32,33間に生ずる電圧は、予め定められた値の電圧(本実施例では1V)に制限されることになる。これにより、Ip2セルの電極32,33間に過電圧がかかるのが防止され、予備制御(ステップS42)の期間中にIp2セル30の固体電解質層31にブラックニングを誘発するのを防ぐことができる。
【0069】
マイクロコンピュータ110は、ステップS31の処理を終えると、第1実施例と同様のステップS32,及びステップS33のIp2断線判定処理の処理を行う。そして、Ip2断線判定処理が終了すると、予備制御S42の処理を終了し、Ip2セル30の制御を通常制御に切り替える(S44)。この通常制御は、第1実施例と同様に、NOx濃度を測定するために、Ip2セル30に定電圧(駆動電圧)を印加し、第2測定室60から酸素の汲み出しを行う制御である。ただし、本実施例では、予備制御(ステップS42)において、演算増幅回路301の非反転入力端子303に対し、基準電圧に電圧Vliを加算した第2電圧(例えば4.6V)を入力させているため、このステップS44の処理では、スイッチ端子SW4の接続先を、スイッチ端子SW6からスイッチ端子SW5に切り替えるよう指示する。これにより、通常制御では、非反転入力端子303に対し、基準電位(例えば3.6V)に電圧Vp2(例えば450mV)を重畳した第1電圧が入力されて、演算増幅回路301は、Ip2セル30への駆動電圧Vp2を生成する回路として機能することになる。
【0070】
さらに、ステップS44に続き、第1実施例と同様、ステップ26の確定Ip2断線判定処理に移行した後、処理を終了する。
【0071】
以上のように構成された第2実施例のセンサ制御装置においても、第1実施例と同様に、センサ素子1を起動してから、排気ガスに含まれるNOxの濃度を安定して測定可能となるまでの時間を、H
2O濃度に依存することなくほぼ一定とすることができる効果が発揮されることは言うまでもない。
【0072】
C.変形例:
(1)上記第1、第2実施例では、Vsセル20の内部抵抗に基づいてセンサ素子1の温度を検出しているが、例えば、Vsセル20に代えて、Ip1セル10やIp2セルの内部抵抗に基づいて、センサ素子1の温度を検出してもよい。また、ヒータ素子61を構成するヒータパターン64の抵抗値に基づいて、センサ素子1の温度を検出してもよい。
【0073】
(2)上記第1、第2実施例では、NOxの濃度を測定するNOxセンサを例示しているが、上記第1、第2実施例において説明した予備制御の態様は、NOxセンサに限らず、酸素イオン導電体を備える酸素ポンプセルを利用する種々のガスセンサに適用可能である。
【0074】
(3)上記第2実施例では、Ip2セル30の電極32,33間に生ずる電圧を、予め定められた制限値に制限するにあたり、Ip2セルに電圧(駆動電圧)Vp2を印加するための演算増幅回路301を兼用する構成を例示している。しかし、電圧を制限するための回路構成は上記第2実施例の構成に限られるものではなく、例えば、演算増幅回路301とは別の演算増幅回路(例えば、公知の電圧リミット回路)を併設してIp2セル30の電極32,33間に生ずる電圧を制限値に制限してもよい。
【0075】
(4)上記第1、第2実施例では、ステップS33のIp2断線判定処理におけるステップS108にて「No」と判定されたときに、マイクロコンピュータ110は、配線状態が異常(断線)であると暫定的に判定し、「暫定Ip2断線あり判定」のフラグをステップS112にてたてるようにし、その後のステップS26の確定Ip2断線判定処理にて、配線状態の異常(断線)を確定させるか否かを判定する構成を例示した。しかし、ステップS33のIp2断線判定処理におけるステップS108にて「No」と判定されたときに、即座に配線状態が異常(断線)であると確定し、以降の確定Ip2断線判定処理を省略するようにしてもよい。
また、ステップS26の確定Ip2断線判定処理におけるステップS204及びステップS206を省略し、ステップS202にて「No」と判定されたときに、ステップS210の処理に移行するようにしてもよい。
【0076】
以上、本発明の種々の実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の構成をとることができる。