(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097748
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】バルーン表面被覆
(51)【国際特許分類】
A61L 29/16 20060101AFI20170306BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20170306BHJP
A61M 25/10 20130101ALI20170306BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
A61L29/16
A61L29/08
A61M25/10 500
A61K31/337
【請求項の数】14
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2014-519512(P2014-519512)
(86)(22)【出願日】2012年7月7日
(65)【公表番号】特表2014-527421(P2014-527421A)
(43)【公表日】2014年10月16日
(86)【国際出願番号】EP2012063340
(87)【国際公開番号】WO2013007666
(87)【国際公開日】20130117
【審査請求日】2015年6月9日
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2011/003564
(32)【優先日】2011年7月8日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513195411
【氏名又は名称】カーディオノブーム エスぺー. ゼット. オー. オー.
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】オーロウスキ ミカエル
【審査官】
金田 康平
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第02243501(EP,A1)
【文献】
特表2007−502281(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0183581(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00−33/18
A61M25/00−29/04
A61F 2/82− 2/97
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性剤およびセラックを有する被覆を含むカテーテルバルーンであって、前記被覆は、前記活性剤の垂直濃度勾配及び水平濃度勾配を有し、前記垂直濃度勾配について、前記活性剤の濃度は、前記カテーテルバルーンの表面から前記被覆の頂部又は表面に向けて濃度の増加することを特徴とするカテーテルバルーン。
【請求項2】
前記活性剤の濃度勾配は、マトリックス物質としてのセラック層中に存在することを特徴とする請求項1に記載のカテーテルバルーン。
【請求項3】
前記被覆は、前記活性剤の前記濃度勾配下で、第1層としてセラックのベースコートをさらに含むことを特徴とする請求項1または2に記載のカテーテルバルーン。
【請求項4】
前記被覆は、セラックのトップコートをさらに含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載のカテーテルバルーン。
【請求項5】
前記活性剤は、抗増殖性剤、免疫抑制剤、血管新生阻害剤、抗炎症剤、および/または抗血栓剤であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載のカテーテルバルーン。
【請求項6】
前記活性剤は、以下からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載のカテーテルバルーン:
アブシキマブ、アセメタシン、アセチルビスミオンB、アクラルビシン、アデメチオニン、アドリアマイシン、アエスシン、アフロモソン、アカゲリン、アルデスロイキン、アミドロン、アミノグルテチミド、アムサクリン、アナキンラ、アナストロゾール、アネモニン、アノプテリン、抗真菌剤、抗血栓剤、アポシマリン、アルガトロバン、アリストラクタ−AII、アリストロキン酸、アスコマイシン、アスパラギナーゼ、アスピリン、アトルバスタチン、オーラノフィン、アザチオプリン、アジスロマイシン、バッカチン、バフィロマイシン、バシリキシマブ、ベンダムスチン、ベンゾカイン、ベルべリン、ベツリン、ベツリン酸、ビロボール、ビスパルセノリジン、ブレオマイシン、コンブレタスタチン、ボスウェル酸およびその誘導体、ブルセアノールA,BおよびC、ブリオフィリンA、ブスルファン、抗トロンビン、ビバリルジン、カドへリン、カンプトテシン、カぺシタビン、o−(カルバモイル)フェノキシ酢酸、カルポプラチン、カルムスチン、セレコキシブ、セファランチン、セリバスタチン、CETP阻害剤、クロラムブシル、リン酸クロロキン、シクトキシン、シプロフロキサシン、シスプラチン、クラドリビン、クラリスロマイシン、コルヒチン、コンカナマイシン、クマディン、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)、クドライソフラボンA、クルクミン、シクロホスファミド、シクロスポリンA、
シタラビン、ダカルバジン、ダクリズマブ、ダクチノマイシン、ダプソーン、ダウノルビシン、ジクロフェナク、1,11−ジメトキシカンチン−6−オン、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノマイシン、エピルビシン、エリスロマイシン、エストラムスチン、エトポシド、エベロリムス、フィルグラスチム、フルロブラスチン、フルバスタチン、フルダラビン、フルダラビン−5’−リン酸二水素、フルオロウラシル、フォリマイシン、ホスフェストロール、ゲムシタビン、グハラキノシド、ギンコール、ギンコール酸、グリコシド 1a、4−ヒドロキシオキシシクロホスファミド、イダルビシン、イホスファミド、ジョサマイシン、ラパコール、ロムスチン、ロバスタチン、メルファラン、ミデカマイシン、ミトキサントロン、ニムスチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、プロカルバジン、マイトマイシン、メトトレキサート、メルカプトプリン、チオグアニン、オキサリプラチン、イリノテカン、トポテカン、ヒドルキシカルバミド、ミルテフォシン、ペントスタチン、ペグアスパラガーゼ、エキセメスタン、レトロゾール、フォルメスタン、ミコフェノール酸モフェチル、β−ラパコン、ポドフィロトキシン、ポドフィリン酸−2−エチルヒドラジド、モルグラモスチム(rhuGM-CSF)、ペグインターフェロンα−2b、レノグラスチム(r-HuG-CSF)、マクロゴール、セレクチン(サイトカインアンタゴニスト)、サイトカイニン阻害剤、COX−2阻害剤、アンギオぺプチン、筋細胞増殖を抑制するモノクロ―ナル抗体、bFGF拮抗薬、プロブコール、プロスタグランジン、1−ヒドロキシ−11−メトキシカンチン−6−オン、スコポレチン、NOドナー、四硝酸ペンタエリスリトールおよびシドノンイミン類、S−ニトロソ誘導体、タモキシフェン、スタウロスポリン、β−エストラジオール、α−エストラジオール、エストリオール、エストロン、エチニルエストラジオール、メドロキシプロゲステロン、エストラジオールシピオネート、安息香酸エストラジオール、トラニラスト、カルバコーリンおよび他の癌治療に用いられるテルペノイド、ベラパミル、チロシンキナーゼ阻害剤(チロホスチン)、パクリタキセルおよびその誘導体、6−α−ヒドロキシパクリタキセル、タキソテール、モフェブタゾン、ロナゾラク、リドカイン、ケトプロフェン、メフェナム酸、ピロキシカム、メロキシカム、ペニシラミン、水酸化クロロキン、アウロチオマレイン酸ナトリウム、オキサセプロール、β−シトステロール、ミルテカイン、ポリドカノール、ノニバミド、レボメンソール、エリプチシン、D−24851(カルビオケム)、コルセミド、サイトカラシンA−E、インダノシン、ノコダゾール、バシトラシン、ビトロネクチン受容体拮抗薬、アゼラスチン、グアニジル基シクラーゼ刺激剤、金属プロテイナーゼ−1および−2の組織阻害剤、遊離核酸、ウイルス伝達に組み込まれた核酸、DNAおよびRNAフラグメント、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤2、アンチセンスオリゴヌクレオチド、VEGF阻害剤、IGF−1、抗生物質のグループによる活性剤、セファドロキシル、セファゾリン、セファクロル、セフォキシチン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、ペニシリン、ジクロキサシリン、オキサシリン、スルホンアミド、メトロニダゾール、エノキサパリン、ヘパリン、ヒルジン、PPACK、プロタミン、プロウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ワルファリン、ウロキナーゼ、血管拡張剤、ジピリダモール(dipyramidole)、トラピジル、ニトロプルシド、PDGF拮抗薬、トリアゾロピリミジン、セラミン、ACE阻害剤、カプトプリ、シラザプリル、リシノプリル、エナラプリル、ロサルタン、チオプロテアーゼ阻害剤、プロスタシクリン、バピプロスト、インターフェロンα,βおよびγ、ヒスタミン拮抗薬、セロトニン阻害剤、アポトーシス阻害剤、アポトーシス調節剤、ハロフジノン、ニフェジビン、トコフェロール、トラニラスト、モルシドミン、茶ポリフェノール、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、レフルノミド、エタネルセプト、スルファサラジン、テトラサイクリン、トリアムジノロン、ムタマイシン、プロカインイミド、レチノイン酸、キニジン、ジソピラミド、フルカイニド、プロパフェノン、ソタロール、ブリオフィリンAなどの天然および合成で得られたステロイド、イノトシオ−ル、マキロシドA、グハアキノシド、マンソニン、ストレブロシド、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、非ステロイド性物質(NSAIDS)、フェノプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、フェニルブタゾン、抗ウイルス薬、アシクロビル、ガンシクロビルジドブジン、クロトリマゾール、フルシトシン、グリセオフルビン、ケトコナゾール、ミコナゾール、ナイスタチン、テルビナフィン、抗原生動物薬、クロロキン、メフロキン、キニーネ、天然テルペノイド、ヒッポカエスクリン、バリントゲノール−C21−アンゲレート、14−デヒロドアグロスチスタチン、アグロスケリン、アガロスチスタチン、17−ヒドロキシアグロスチスタチン、オヴァトジオライド、4,7−オキシシクロアニソメリック酸、バッカリノイドB1, B2, B3 および B7、ツベイモシド、ブルセアンチノシドC、ヤダンジオシドNおよびP、イソデオキシエレファントピン、トメンファントピンAおよびB、コロナリンA,B,CおよびD、ウルソール酸、ヒプタチン酸A、イソイリドゲルマナール、メイテンフォリオール、エフサンチンA、エクシサニンA および B、ロンギカウリンB、スクルポネアチンC、カメバウニン、ロイカメニンAおよびB、13,18−デヒドロ−6−アルファ−セネシオイロキシチャパリン、タクサマイリンAおよびB、レジェニロール、トリプトライド、シマリン、ヒドロキシアノプテリン、プロトアネモニン、塩化ケルブリン、シンコクリンAおよびB、ジヒドロニチジン、塩化ニチジン、12−ベータ−ヒドロキシプレグナジエン−3,20−ジオン、ヘレナリン、インジシン、インジシン−N−酸化物、ラシオカルピン、イノトジオール、ポドフィロトキシン、ジャスシジンAおよびB、ラレアチン、マロテリン、マロトクロマノール、イソブチリルマロトクロマノール、マーチャンチンA、メイタンシン、リコリジシン、マルゲチン、パンクラチスタチン、リリオデニン、オキソウシンスニン、ペリプロコシドA、デオキシソロスパミン、サイコルビン、リシンA、サンギナリン、マンブ小麦酸、メチルソルビフォリン、スファセリアクロモン、シゾフィラン、ジヒロドウサムバレンシン、ヒドロキシウサムバリン、ストリクノペンタミン、ストリクノフィリン、ウサムバリン、ウサムバレンシン、リリオデニン、ダフノレチン、ラリシレジノール、メトキシラリシレジノール、シリンガレシノール、シロリムス(ラパマイシン)、ラパマイシン誘導体、バイオリムスA9、ピメクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、ファスジル、エポチロン、ソマトスタチン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、シンバスタチン、ロスバスタチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、テニポシド、ビノレルビン、トロフォスファミド、トレオスルファン、テモゾロマイド、チオテパ、トレチノイン、スピラマイシン、ウンベリフェロン、デスアセチルビスミオンA、ビスミオンAおよびB、ゼオリン。
【請求項7】
前記活性剤は、
パクリタキセルおよびパクリタキセル誘導体、タキサンス、ドセタキセル、ラパマイシンおよびラパマイシン誘導体、ビオリムスA9、ピメクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、ファスジル、およびエポチロン、
からなる群から選ばれることを特徴とする請求項6に記載のカテーテルバルーン。
【請求項8】
前記活性剤は、パクリタキセルであることを特徴とする請求項7に記載のカテーテルバルーン。
【請求項9】
請求項1に記載のカテーテルバルーンの製造方法であって、以下のステップ:
A) 未被覆のカテーテルバルーンを準備するステップ;
および
B) 活性剤の溶液を準備し、かつ、セラックの溶液を準備するステップ;
および
C) 前記カテーテルバルーンの表面を前記セラックの溶液で被覆するステップ;
および
D) 前記活性剤の溶液を塗布し、それにより前記活性剤の濃度勾配を得るステップ;
および、ひき続いて
E) 前記被覆したカテーテルバルーンを乾燥するステップ;
を含む方法。
【請求項10】
前記活性剤の溶液は、活性剤、好ましくはパクリタキセル、の溶解度がセラックの溶解度よりも大きい溶媒を用いて調製されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記活性剤の溶液は、酢酸エチル中で調製されることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記活性剤は、パクリタキセルであることを特徴とする請求項9〜請求項11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記活性剤を含む溶液は、スプレーコーティング法、ブラシコーティング法、蒸着法またはピペット法により塗布されることを特徴とする請求項9〜請求項12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜請求項7の何れか1項による被覆されたカテーテルバルーンを含む拡張式カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、少なくとも1種の活性剤とセラック(Shellac)を含んでなる勾配(グラジエント)被覆法によって被覆されたカテーテルバルーンに関する。さらに本発明は薬理的活性剤および生体分解組成物であるセラックで被覆されたカテーテルバルーンの特定の製造方法に関する。
【0002】
ステントのような血管移植片の移植は、狭窄症の治療のために確立された外科的なインターベンション(介入手段)となっている。この状況においては、いわゆる再狭窄(狭窄の再発)すなわち血管の再閉塞は、しばしば厄介な問題を引き起こす。文献中には再狭窄なる語句についての正確な定義はない。最も多く用いられている再狭窄の形態学的定義によれば、再狭窄は、成功したPTA(経皮経管血管形成術)により得られた正常値の50%より低い血管径の減少として定義される。前記定義は経験的に決定された値を記述したものであり、血流力学的意味と臨床的現象に関しては学術的な背景を欠いている。実際には、患者の臨床症状の悪化は、以前に治療した血管部分が再狭窄を起こす兆候であるとしばしば考えられている。
【0003】
このような問題を回避するために、いかなるステントも用いない被覆カテーテルバルーン、すなわち、被覆カテーテルバルーンの拡張により血管の収縮部分を拡張する、いわゆる「生物学的ステンティング」を実施することができる。そのステンティングでは、カテーテルバルーンが短時間拡張している間に、血管を拡張して活性剤を送達することで血管を再圧縮または再閉塞しないようにして十分な量の薬剤を血管壁に移送する。
【0004】
現在では、活性剤は、テルぺノイドシェロール酸(shellolic acid)のような物質を含む種々のマトリックス物質をバルーンカテーテルに使用できることが知られている。活性剤は狭窄症におけるバルーン拡張時に放出されるが、それは活性剤を動脈壁セグメントに浸透させて、平滑な筋肉細胞に抗増殖性と抗炎症性を与えかつ血管の内腔(ルーメン)内での増殖を抑制するためである。
【0005】
細胞反応の抑制は、好ましくは、抗増殖性、免疫抑制性、および/または抗炎症性の薬剤、および同様な活性派生物/類似物および代謝産物を用いて、主に最初の数日および数週間で達成される。
【0006】
国際特許出願WO2004/028582A1には、薬物と造影剤からなる組成物で、特に折畳み内部を被覆した、多重折り畳み式バルーンが開示されている。また、カテーテルバルーンをスプレーコーティングする方法(噴霧被覆法)は、WO2004/006976A1に記載されている。
【0007】
さらに、我々および他の研究グループは、従来法によりパクリタキセル(paclitaxel)で被覆されたカテーテルバルーンで治療した後に、ブタの冠状大動脈でこれまでに測定されたパクリタキセル濃度は、再狭窄を抑止する治療効果を発揮する効果がないことを見出している。
【0008】
「サーキュレーション(Circulaion)」誌の2004、110巻、810−814で、著者は、純粋なパクリタセルで被覆したカテーテルバルーンは如何なる治療効果も示さなかったことを実証している。治療効果は、パクリタセルが造影剤溶液ULTRAVIST(登録商標)と結合されたときのみに発揮された。ULTRAVIST(登録商標)は造影剤イオプロミド(iopromide)溶液である。同様の観察がクレーマーら(Cremers et. al.)の「心臓病での臨床研究(Clin. Res. Cardiol.) 」、2008、97−増刊号(Suppl.)1によりなされた。
【0009】
本発明の目的は、再狭窄の発生を減少させる治療効果を得ることができるように、容易にバルーンから分離して効果的に血管壁に移行するような被覆形成が行われるように、カテーテルバルーン上に、活性剤、特に好ましくはパクリタキセル活性剤を使用することにある。
【0010】
このような本発明の目的は、独立請求項における技術的な教示によって解明される。さらに好都合な本発明の形態は、従属請求項、記述、図面および実施例から得られる。
驚くべきことに、活性剤とセラックを含有する被覆を含み、その被覆が少なくとも1層を有して形成され、かつその活性剤が濃度勾配を有するカテーテルバルーンは、前記の目的の解決に適していることがわかった。
【0011】
従って本発明は、活性剤とセラックからなる被覆を含み、かつ被覆中に含まれる活性剤が濃度勾配を有するカテーテルバルーンに関する。それにより、濃度勾配を持った活性剤は、セラックの層中において基質物質(マトリックス物質)として存在する。この濃度勾配は、ここではバルーンの半径方向(放射状)または垂直方向の濃度勾配を指す。それは活性剤の濃度は、バルーンの表面から被覆頂部もしくは被覆表面に向かって増加するためであるが、換言すれば、活性剤の濃度は、濃度が好ましくは90重量%〜100重量%である被覆の頂部から、濃度が好ましくは0重量%〜10重量%であるカテーテルバルーンの表面に向かって減少するためである。
【0012】
垂直方向の濃度勾配に加えて、活性剤の濃度は、カテーテルバルーンの中央部からカテーテルバルーンの遠位端および近位端に向かって減少するので、縦方向または横方向の濃度勾配が存在し得る。
図3に垂直および水平方向の濃度勾配を持った被覆形式での本発明の実施形態を示す。カテーテルバルーンの中央部および被覆表面上では、ほぼ100重量%のパクリタキセルが存在するが、その一方でパクリタキセルの濃度は、セラックを介してカテーテルバルーンの表面方向に向かって、またカテーテルバルーンの遠位端および近位端に向かって減少する。
【0013】
従って、ここで用いられる「垂直方向濃度勾配」および「半径方向濃度勾配」なる語句は、活性剤の濃度、特にパクリタキセル濃度が被覆の頂部からバルーン表面に向かって低下することを意味する。
【0014】
また、ここで用いられる「縦方向(長手方向)濃度勾配」および「水平方向濃度勾配」なる語句は、活性剤の濃度、特にパクリタキセル濃度がバルーン表面の中間または中間部分からカテーテルバルーンの近位端および遠位端に向かって低下することを意味する。
【0015】
さらに、カテーテルバルーンの被覆は、活性剤層下の第1層としてセラックのベースコートを含むことが好ましい。またさらに、カテーテルバルーンの被覆は、セラックのトップコートを含むことが好ましい。
【0016】
また本発明は、特に本発明のカテーテルバルーンの製造に適した、以下に示す形式の被覆方法に関する。
拡張式カテーテルバルーンの装着または被覆のための本発明の1方法は以下のステップを含む:
A) 未被覆のカテーテルバルーンを準備する;
および
B) 活性剤の溶液を準備し、かつセラックの溶液を準備する;
および
C) カテーテルバルーンの表面をセラック溶液で被覆する;
および
D) 活性剤の溶液を塗布する;
および、ひき続いて
E) 被覆したカテーテルバルーンを乾燥する。
【0017】
前記方法は、さらにステップDのあとにステップD’を含むことが好ましい。
D’)再びセラック溶液を塗布する。
もちろん乾燥ステップは各被覆ステップ後に行うことができるので、以下により詳細な方法を記述する:
A) 未被覆のカテーテルバルーンを準備する;
および
B) 活性剤の溶液を準備し、かつまたセラックの溶液を準備する;
および
C) カテーテルバルーンの表面をセラックの溶液で被覆し、さらに被覆したバルーン表面を乾燥する;
および
D) 活性剤の溶液を塗布し、該活性剤の濃度勾配が得られるように被覆したバルーンの表面を乾燥する;
および、ひき続いて
C) 再びセラック溶液を塗布する;
および
E) 被覆したカテーテルバルーンを乾燥する。
【0018】
最初に、カテーテルバルーン、好ましくは未被覆のカテーテルバルーンまたは表面に放出可能な活性剤が存在しないカテーテルバルーンが供給される。次に、活性剤の溶液および第2のセラック溶液のそれぞれは、アセトン、酢酸エチル、エタノール、メタノール、DMSO、THF、クロロフォルム、塩化メチレン等のような適切な溶剤中で作られ、次いで乾燥ステップ後にカテーテルバルーンの表面上に固体被覆が得られるように、スプレーコーティング、ディップコーティングなどの従来の被覆法を用いて順次被覆する。
【0019】
ステップDは、活性剤の溶液がセラック層を浸透するようにして実施されることが好ましい。それにより濃度勾配が発生する。セラック層は活性剤の溶液でカテーテルバルーンの表面まで浸漬されないようにすることが好ましい。これは、カテーテルバルーンの表面上に直接ベースコートまたは活性剤の無いセラック層のゾーンが存続することを意味する。従って、カテーテルバルーンはセラックのみからなるベースコートを持つことが好ましい。活性剤の濃度は、0またはほぼ0から、バルーン表面からの距離を増やすことで最大値に向かい増加する。被覆の頂部では、純粋な活性剤を含んでなる1つのゾーンまたは1つの層が存在することがある。濃度勾配を進展させるためには、活性剤の溶液に対してセラックを溶解しない溶媒を用いることが肝要であり、セラックのみを溶解するものは極めて好ましくない。
【0020】
活性剤の溶媒また特にパクリタキセルの溶媒として好ましいものは酢酸エチルである。そのため、セラックおよびパクリタキセルには、例えばセラックにはエタノールまたパクリタキセルには酢酸エチルというように2つの異なる溶媒を使用することが好ましい。そのため、カテーテルバルーンへの装着もしくは被覆のための本発明の好ましい方法では、活性剤の溶液は、該活性剤に対する、好ましくはパクリタキセルに対する溶解度がセラックに対する溶解度よりも大きい溶媒を使用して作成される。
【0021】
溶解性は、溶質と呼ばれる化学物質、ここでは活性剤またはセラックが、固体、液体、またはガス状溶媒中に溶解して溶媒中で溶質が均質となった溶液を形成するための特性である。物質の溶解性は基本的には、使用される溶媒、ならびに温度、圧力に依存する。特定の溶媒中における物質の溶解性の度合いは、溶質の一層の負荷を行っても溶液の濃度が上昇しなくなる飽和濃度として測定される。
【0022】
乾燥ステップE)は、室温もしくは50度までの昇温下で、かつ常圧または高真空への降圧下で実施することができる。さらに、乾燥ステップE)は、ステップC)後、および/またはステップD)後にも実施することができる。このことは、乾燥ステップが、カテーテルバルーンの表面が最初にセラック溶液で塗布された後にも可能であり、また、活性剤層で塗布された後にもまた可能であることを意味する。それにより、第1の乾燥ステップは室温かつ常圧で実施されるが、その一方で本方法による最後の被覆ステップ後では、乾燥ステップはより強力に、すなわち長時間または真空中または高温で行なわれることが好ましい。
【0023】
拡張式カテーテルバルーンへの装着または被覆のための本発明の1つの好ましい方法は以下のステップからなる:
A) 未被覆のカテーテルバルーンを準備する;
さらに
B) 活性剤とセラックの溶液を準備する;
さらに
C’)カテーテルバルーンの表面を活性剤およびセラックの溶液で被覆し、活性剤またはセラックのいずれか一方の濃度を変化させる;
さらに
D) 被覆したカテーテルバルーンを乾燥させる。
【0024】
ステップC)の濃度変化は、活性剤またはセラックのうちの1つの成分を溶液中に継続的に添加することで達成することができる。
本発明は、さらに以下のステップを含む拡張式カテーテルバルーンへの装着もしくは被覆のための方法を含む:
A) 未被覆のカテーテルバルーンを準備する;
さらに
B
*)活性剤の溶液とセラックの溶液を準備し、かつ活性剤とセラックの溶液を準備する;
さらに
C) カテーテルバルーンの表面をセラックの溶液で被覆する;
さらに
D
*)活性剤の溶液およびグラジエントミキサー(勾配混合機)を使用して活性剤とセラックの溶液を塗布する;
さらに続いて
C) 再びセラックの溶液を塗布する;
さらに
E) 被覆したカテーテルバルーンを乾燥する。
【0025】
ステップD
*)において、グラジエントミキサーにおいて、第1のチャンバ(槽)はセラックと低濃度の活性剤の溶液で満たされ、また第2のチャンバはより高い濃度の活性剤溶液で満たされる。次に、グラジエントミキサーから得られた混合溶液は、スプレーガンを用いてバルーンに噴霧するかバルーンにピペットで注入する。
【0026】
さらにバルーンの勾配は、バルーン表面からトップコートへの距離が増加するに従って活性剤の濃度増加とセラックの濃度減少を示す。従って、勾配は、濃度の上昇が不連続である異なるステップを有することも可能であるが、もし濃度勾配が連続的であれば特に好ましい。
【0027】
本発明によれば、本被覆方法は、セラック中の活性剤について半径方向(垂直方向)および縦方向(水平方向)の2つの異なる濃度勾配を生じさせることができる。従って、前記活性剤の垂直濃度勾配のみならず、前記活性剤の垂直方向と水平方向の濃度勾配も同時に、最初に塗布した純粋なセラック被覆上に、活性剤溶液を適切に利用することで、tコーティングに適用することができる。
【0028】
バルーンにおける垂直勾配の場合において、バルーン表面からの距離が増加するにつれてセラックの濃度の減少が見られるのにも拘わらず、同時に、活性剤はバルーンの表面から被覆の頂部に向けて濃度の増加を示す。むしろバル―ン表面に近い内部層は、低濃度のパクリタキセルを持ったセラックからなり、一方同じ被覆において、むしろ被覆の頂部に近い外部被覆層(拡張中に血管と直接接触することになる被覆の一部)は、より高いパクリタキセル濃度となり、従ってセラック濃度は低い。
【0029】
2つの濃度勾配が本発明の被覆方法に適用される場合には、上記の垂直濃度勾配に加えて、バルーンの縦軸方向に活性剤の水平勾配が形成される。従って、好ましい実施形態によれば、活性剤の最高濃度は被覆されたバルーンの中央部で、また最低濃度はバルーンの近位端および遠位端で見ることができる。本発明の他の実施形態では、バルーンの縦軸方向による活性剤の最高濃度を有する領域は、バル―ンの近位端もしくは遠位端のいずれの方向に向けても適用することができる。本発明の被覆方法によれば、縦軸方向における最高濃度のピークは、遠位および近位の間のいずれの距離においても適用することができるが、ごく近傍もしくは中間位であることが好ましい。
【0030】
また、本発明の被覆方法のさらに好ましい結果として、活性剤の最高濃度は、バルーンの水平中間部の勾配被覆の表面に位置する(
図3参照)。勾配の濃度差は、活性剤およびセラックの2種を使用した溶液の濃度差、さらにはグラジエントミキサーにおける前記2種の溶液の混合速度によって容易に調整できる。本発明の好ましい実施形態では、グラジエントミキサーの第1のチャンバおよび第2のチャンバに満たされた2種の溶液は、一方はパクリタキセルのような適切な溶媒中の活性剤であり、他方は純粋なセラック溶液である。本発明の別の好ましい実施形態では、低濃度または高濃度の活性剤溶液は、セラックおよびセラック溶液とともに使用することができる。
【0031】
さらに、別の好ましい実施形態では、セラック溶液中の高濃度活性剤およびセラック溶液中の低濃度活性剤を利用することができる。活性剤溶液およびセラック溶液を使用するためには、本発明の被覆方法として、ピペット法、スプレーコ−ティング法、スパッタリング法およびブラシコーティング法(刷毛塗り被覆法)を用いることができる。
【0032】
本発明の被覆方法は、さらに任意で選択的にステップF)を含むことができる:
F) パクリタキセルおよびセラック被覆カテーテルバルーンの滅菌。
最も好ましくは、滅菌はエチレンオキサイドで行う。
【0033】
本発明はさらに活性剤およびセラックを使用した被覆を含むカテーテルバルーンに係り、この被覆は濃度勾配を有する活性剤および任意でセラックのベースコートおよびトップコートまたはセラック層を含む。本発明のカテーテルバルーンは、活性剤含有層を被覆するセラックの別の分離したトップコートを有することが好ましい。
【0034】
ここで用いられる「ベースコート」なる用語は、直接カテーテルバルーンの表面に存在するカテーテルバルーンの被覆層をいう。この層はカテーテルバルーンの材料上に直接的に被せる第1の層である。ここで用いられる「トップ層」または「トップコート」なる用語は、活性剤含有層を覆う活性剤を含まない被覆層をいう。
【0035】
またここで用いられる「未被覆」なる用語は何ら薬剤被覆をしない平滑化または構造化または粗面化した面を持ったカテーテルバルーン、すなわちバル―ン表面に薬理学的活性剤、特に抗増殖性、抗脈管形成性または抗再狭窄性の薬剤を含まないバルーン、また、抗増殖性、抗脈管形成性または抗再狭窄性の薬剤を含む被覆のないカテーテルバルーンをいう。
【0036】
またここで用いられる「勾配」なる用語は、濃度勾配をいう。これは本発明によるカテーテルバルーンの被覆は活性剤、好ましくはセラック中のパクリタキセルの濃度が2つの部位間で、緩やかに異なることを意味する。これらの部位では、最低濃度のパクリタキセルのような活性剤が、カテーテルバルーンの表面(バルーンを作成する基材の)にカテーテルバルーンに対して半径方向または水平方向に位置して存在し、また最高濃度の活性剤が、組織に接触するようになる端部を意味する被覆の頂部に存在することが好ましい。純粋なパクリタキセルのトップコートからなる実施形態は例外的である。最高濃度は層を含む活性剤の頂部であることが好ましく、それはトップコートの真下であることを意味する。一般的に、以下に述べる半径方向または垂直方向の濃度勾配は、本発明の好ましい実施形態である。より好ましくは、本発明のカテーテルバルーンは2つ以上の勾配を有するが、それは4つの部位間でセラック中の活性剤(好ましくはパクリタキセル)の濃度に緩やかな差異があることを意味する。それにより、前記勾配の方向は異なるものとなる。バルーン被覆において、前記した半径方向の勾配に加えて、縦方向すなわち水平方向の勾配が存在することは、半径方向の濃度勾配に加えて縦方向すなわち水平方向の濃度勾配を有することを意味するので、特に好ましい。ここではそれらの部位が、カテーテルバルーンの縦方向に位置するので、例えば最低濃度のパクリタキセルのような活性剤が直ちにカテーテルバルーンの一端もしくは両端部(バルーン両端部、およびカテーテルまたはカテーテルチップの始点)に存在し、かつ最高濃度がバルーンの中央部に存在する(
図3参照)。
【0037】
濃度勾配には連続的(直線的)な濃度勾配または段階的な濃度勾配があるが、ここでは連続的(直線的)な濃度勾配が好ましい。さらに好ましくは、勾配は被覆の孔部の深さをを包含する。これは勾配が、バルーンの直ぐ表面から始まり被覆の頂部で終わることを意味する。またこれは、カテーテルバルーンの直ぐの表面では、活性剤(好ましくはパクリタキセル)の濃度が、セラック100%に対して0%、好ましくはセラック90%に対して10%であること、また被覆の頂部においては、活性剤(好ましくはパクリタクセル)の濃度がセラック無しの100%であることを意味する。またさらに、活性剤(好ましくはパクリタキセル)の量は、カテーテルバルーン被覆の上方3分の1の箇所において、75%であることが好ましく、80%であることがさらに好ましい。
【0038】
カテーテルバルーンにおいて、活性剤は、抗増殖性剤、免疫抑制剤、血管新生阻害剤、抗炎症剤、および/または抗血栓剤であることが好ましい。このような活性剤は以下からなるか、あるいは以下を含む群から選らばれることが好ましい:
アブシキマブ、アセメタシン、アセチルビスミオンB(acetylvismione B)、アクラルビシン、アデメチオニン、アドリアマイシン、アエスシン、アフロモソン(afromosone)、アカゲリン(akagerine)、アルデスロイキン、アミドロン、アミノグルテチミド、アムサクリン、アナキンラ、アナストロゾール、アネモニン、アノプテリン(anopterine)、抗真菌剤、抗血栓剤、アポシマリン(apocymarin)、アルガトロバン、アリストラクタ−AII、アリストロキン酸、アスコマイシン、アスパラギナーゼ、アスピリン、アトルバスタチン、オーラノフィン、アザチオプリン、アジスロマイシン、バッカチン、バフィロマイシン、バシリキシマブ、ベンダムスチン、ベンゾカイン、ベルべリン、ベツリン、ベツリン酸、ビロボール、ビスパルセノリジン(bisparthenolidine)、ブレオマイシン、コンブレタスタチン、ボスウェル酸およびその誘導体、ブルセアノールA,BおよびC(bruceanol A, B and C)、ブリオフィリンA、ブスルファン、抗トロンビン、ビバリルジン、カドへリン、カンプトテシン、カぺシタビン、o−(カルバモイル)フェノキシ酢酸、カルポプラチン、カルムスチン、セレコキシブ、セファランチン、セリバスタチン、CETP阻害剤、クロラムブシル、リン酸クロロキン、シクトキシン、シプロフロキサシン、シスプラチン、クラドリビン、クラリスロマイシン、コルヒチン、コンカナマイシン、クマディン、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)、クドライソフラボンA、クルクミン、シクロホスファミド、シクロスポリンA、シタラビン、ダカルバジン、ダクリズマブ、ダクチノマイシン、ダプソーン、ダウノルビシン、ジクロフェナク、1,11−ジメトキシカンチン−6−オン(1,11- dimethoxycanthin-6-one)、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノマイシン、エピルビシン、エリスロマイシン、エストラムスチン、エトポシド、エベロリムス、フィルグラスチム、フルロブラスチン(fluroblastin)、フルバスタチン、フルダラビン、フルダラビン−5’−リン酸二水素、フルオロウラシル、フォリマイシン、ホスフェストロール、ゲムシタビン、グハラキノシド(ghalakinoside)、ギンコール、ギンコール酸、グリコシド 1a、4−ヒドロキシオキシシクロホスファミド、イダルビシン、イホスファミド、ジョサマイシン、ラパコール、ロムスチン、ロバスタチン、メルファラン、ミデカマイシン、ミトキサントロン、ニムスチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、
プロカルバジン、マイトマイシン、メトトレキサート、メルカプトプリン、チオグアニン、オキサリプラチン、イリノテカン、トポテカン、ヒドロキシカルバミド、ミルテフォシン、ペントスタチン、ペグアスパラガーゼ、エキセメスタン、レトロゾール、フォルメスタン、ミコフェノール酸モフェチル、β−ラパコン、ポドフィロトキシン、ポドフィリン酸−2−エチルヒドラジド、モルグラモスチム(rhuGM-CSF)、ペグインターフェロンα−2b、レノグラスチム (r-HuG-CSF)、マクロゴール、セレクチン(サイトカインアンタゴニスト)、サイトカイニン阻害剤、COX−2阻害剤、アンギオぺプチン、筋細胞増殖を抑制するモノクロ―ナル抗体、bFGF拮抗薬、プロブコール、プロスタグランジン、1−ヒドロキシ−11−メトキシカンチン−6−オン、スコポレチン、NOドナー、四硝酸ペンタエリスリトールおよびシドノンイミン類、S−ニトロソ誘導体、タモキシフェン、スタウロスポリン、β−エストラジオール、α−エストラジオール、エストリオール、エストロン、エチニルエストラジオール、メドロキシプロゲステロン、エストラジオールシピオネート、安息香酸エストラジオール、トラニラスト、カルバコーリン(kamebakaurin)および他の癌治療に用いられるテルペノイド、ベラパミル、チロシンキナーゼ阻害剤(チロホスチン)、パクリタキセルおよびその誘導体、6−α−ヒドロキシパクリタキセル、タキソテール、モフェブタゾン、ロナゾラク、リドカイン、ケトプロフェン、メフェナム酸、ピロキシカム、メロキシカム、ペニシラミン、水酸化クロロキン、アウロチオマレイン酸ナトリウム、オキサセプロール(oxaceprol)、β−シトステロール、ミルテカイン、ポリドカノール、ノニバミド、レボメンソール、エリプチシン、D−24851(カルビオケム)、コルセミド、サイトカラシンA−E、インダノシン、ノコダゾール、バシトラシン、ビトロネクチン受容体拮抗薬、アゼラスチン、グアニジル基シクラーゼ刺激剤、金属プロテイナーゼ−1および−2の組織阻害剤、遊離核酸、ウイルス伝達に組み込まれた核酸、DNAおよびRNAフラグメント、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤2、アンチセンスオリゴヌクレオチド、VEGF阻害剤、IGF−1、抗生物質のグループによる活性剤、セファドロキシル、セファゾリン、セファクロル、セフォキシチン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、ペニシリン、ジクロキサシリン、オキサシリン、
スルホンアミド、メトロニダゾール、エノキサパリン、ヘパリン、ヒルジン、PPACK、プロタミン、プロウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ワルファリン、ウロキナーゼ、血管拡張剤、ジピリダモール(dipyramidole)、トラピジル、ニトロプルシド、PDGF拮抗薬、トリアゾロピリミジン、セラミン、ACE阻害剤、カプトプリ、シラザプリル、リシノプリル、エナラプリル、ロサルタン、チオプロテアーゼ阻害剤、プロスタシクリン、バピプロスト、インターフェロンα,β および γ、ヒスタミン拮抗薬、セロトニン阻害剤、アポトーシス阻害剤、アポトーシス調節剤、ハロフジノン、ニフェジビン、トコフェロール、トラニラスト、モルシドミン、茶ポリフェノール、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、レフルノミド、エタネルセプト、スルファサラジン、テトラサイクリン、トリアムジノロン、ムタマイシン、プロカインイミド、レチノイン酸、キニジン、ジソピラミド、フルカイニド、プロパフェノン、ソタロール、ブリオフィリンAなどの天然および合成で得られたステロイド、イノトシオ−ル(inotodiol)、マキロシドA(maquiroside A)、グハアキノシド(ghalakinoside)、マンソニン(mansonine)、ストレブロシド、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、非ステロイド性物質(NSAIDS)、フェノプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、フェニルブタゾン、抗ウイルス薬、アシクロビル、ガンシクロビルジドブジン、クロトリマゾール、フルシトシン、グリセオフルビン、ケトコナゾール、ミコナゾール、ナイスタチン、テルビナフィン、抗原生動物薬、クロロキン、メフロキン、キニーネ、天然テルペノイド、ヒッポカエスクリン(hippocaesculin)、バリントゲノール−C21−アンゲレート(barringtogenol-C21-angelate)、14−デヒロドアグロスチスタチン(14-dehydroagrostistachin)、アグロスケリン(agroskerin)、アガロスチスタチン(agrostistachin)、17-ヒドロキシアグロスチスタチン(17-hydroxyagrostistachin)、オヴァトジオライド(ovatodiolids)、4,7−オキシシクロアニソメリック酸(4,7- oxycycloanisomelic acid)、バッカリノイドB1, B2, B3 および B7(baccharinoids B1, B2, B3 and B7)、
ツベイモシド(tubeimoside)、ブルセアンチノシドC(bruceantinoside C)、ヤダンジオシドNおよびP(yadanziosides N and P)、イソデオキシエレファントピン(isodeoxyelephantopin)、トメンファントピンAおよびB(tomenphantopin A and B)、コロナリンA,B,CおよびD、ウルソール酸、ヒプタチン酸A、イソイリドゲルマナール、メイテンフォリオール、エフサンチンA、エクシサニンAおよびB、ロンギカウリンB、スクルポネアチンC、カメバウニン(kamebaunin)、ロイカメニンAおよびB(leukamenin A and B)、13,18−デヒドロ−6−アルファ−セネシオイロキシチャパリン(13,18-dehydro-6-alpha-senecioyloxychaparrin)、タクサマイリンAおよびB(taxamairin A and B )、レジェニロール(regenilol)、トリプトライド、シマリン、ヒドロキシアノプテリン(hydroxyanopterine)、プロトアネモニン、塩化ケルブリン、シンコクリンAおよびB(sinococuline A and B)、ジヒドロニチジン(dihydronitidine)、塩化ニチジン(nitidine chloride)、12−ベータ−ヒドロキシプレグナジエン−3,20−ジオン(12-β-hydroxypregnadien-3,20-dione)、ヘレナリン(helenalin)、インジシン、インジシン−N−酸化物、ラシオカルピン(lasiocarpine)、イノトジオール(inotodiol)、ポドフィロトキシン(podophyllotoxin)、
ジャスシジンAおよびB(justicidin A and B)、ラレアチン(larreatin)、マロテリン(malloterin)、マロトクロマノール(mallotochromanol)、イソブチリルマロトクロマノール(isobutyrylmallotochromanol)、マーチャンチンA(marchantin A)、メイタンシン、リコリジシン(lycoridicin)、マルゲチン(margetine)、パンクラチスタチン(pancratistatin)、リリオデニン(liriodenine)、オキソウシンスニン(oxoushinsunine)、ペリプロコシドA(periplocoside A)、デオキシソロスパミン(deoxypsorospermin)、サイコルビン(psychorubin)、リシンA、サンギナリン、マンブ小麦酸(manwu wheat acid)、メチルソルビフォリン(methylsorbifolin)、スファセリアクロモン(chromones of spathelia)、シゾフィラン、ジヒロドウサムバレンシン(dihydrousambaraensine)、ヒドロキシウサムバリン(hydroxyusambarine)、ストリクノペンタミン(strychnopentamine)、ストリクノフィリン、ウサムバリン(usambarine)、ウサムバレンシン(usambarensine)、リリオデニン、ダフノレチン、ラリシレジノール、メトキシラリシレジノール(methoxylariciresinol)、シリンガレシノール、シロリムス(ラパマイシン)、ラパマイシン誘導体、バイオリムスA9、ピメクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、ファスジル、エポチロン、ソマトスタチン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、シンバスタチン、ロスバスタチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、テニポシド、ビノレルビン、トロフォスファミド、トレオスルファン、テモゾロマイド、チオテパ、トレチノイン、スピラマイシン、ウンベリフェロン、デスアセチルビスミオンA(desacetylvismione A)、ビスミオンAおよびB(vismione A and B)、ゼオリン。
【0039】
基本的には、如何なる活性剤および活性剤の組合せでも使用することができるが、パクリタキセルおよびパクリタキセル誘導体、タキサン、ドキタクセルならびにラパマイシン、および例えばビオリムスA9、ピメクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、ファスジルおよびエポチロンのようなラパマイシン誘導体などが好ましいが、特に好ましくは、パクリタキセルおよびラパマイシンである。パクリタキセルの使用は好ましい。従って、ここで与えられる全ての範囲および数値、および本明細書に記載される全ての実施形態は、特にパクリタキセルに関するものであり、先ず第一に、このように解釈すべきである。
【0040】
従って、本発明はパクリタキセルとセラックを使用した被覆を含むカテーテルバルーンに関し、この被覆は濃度勾配を持ったセラックを含む。パクリタキセルは数社の業者から市販されている。パクリタキセルは、タキソール(Taxsol)(商標登録)の商標名で知られており、また例えば、以下に示すような種々の同義名称でも呼ばれている:
BMS、181339−01、BMS−181339、BMS−181339−01、Capxol、DRG−0190、DTS−301、エベタクセル(Ebetaxel)、ジェナクソール(Genaxol)、ジェネクソール(Genexol)、ジェネクソール−PM(Genexol−PM)、HSDB、6839、インタクセル(Intaxel)、KBio2_002509、KBio2_005077、KBio2_007645、KBio3_002987、KBioGR_002509、KBioSS_002517、LipoPac、MBT 0206、MPI−5018、ナノタクセル(Nanotaxel)、NCI60_000601、ノバ−12005(Nova−12005)、NSC−125973、NSC125973、オノクソール(Onxol)、パクリジェル(Pacligel)、パキシード(Paxceed)、パクセン(Paxene)、パキソラル(Paxoral)、プラキセル(Plaxicel)、QW 8184、SDP−013、TA1、Tax−11−en−9−on、タクスアルビン(TaxAlbin)、タキソールA(Taxol A)、ゾラーネ(Xorane)またはユータクサン(Yewtaxan)。
【0043】
アイユーパック(IUPAC)命名法によれば次の通りである:
[2aR−[2a,4,4a,6,9(R
*S
*),11,12,12a,12b]](ベンゾイルアミノ)−ヒドロキシベンゼン プロピオン酸 6,12b−ビスー(アセチルオキシ)−12−(ベンゾイルオキシ)−2a−3,4,4a,5,6,9,10,11,12,12a,12b−ドデカヒドロ−4,11−ジヒドロキシ−4a,8,13,13−テトラメチル−5ーオキソ−7,11−メタノ−1H−シクロデカ[3,4]ベンズ[1,2−b]オキセトー9−イル エステル)
パクリタキセルは、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびメタノールならびに無水エタノールによく溶けるが、しかし水には比較的溶けない。また、パクリタキセルはpH3からpH5の範囲では極めて安定し、長期間貯蔵することができるが、アルカリpH下では比較的不安定である。
【0044】
ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、酢酸エチル、エタノールおよびメタノールは、パクリタキセルの溶媒として用いられる。
再狭窄の予防法と同様の目的のための極めて有効な活性剤として、親水性のマクロライド系抗生物質のラパマイシン(別名シロリムス)がある。この活性剤は、免疫抑制剤として特に移植用薬剤に用いられ、他の免疫抑制活性剤とは反対に、ラパマイシンはまた腫瘍形成を阻害する。患者にとって、移植後は、腫瘍が形成する危険性が増加し、シクロスポリンAのような他の免疫抑制剤は腫瘍の形成を促進することで知られているため、ラパマイシンの投与は極めて好都合である。
【0047】
アイユーパック(IUPAC)命名法:
[3S−[3R
*[E(1S
*,3S
*,4S
*)]4S
*,5R
*,8S
*,9E,12R
*,14R
*,15S
*,16R
*,18S
*,19S
*,26aR
*]]−5,6,8,11,12,13,14,15,16,17,18,19,24,25,26,26a−ヘキサデカヒドロ−5,19−ジヒドロキシ−3−[2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロへキシル)−1−メチルエチニル]−14,16−ジメトキシ−4,10,12,18−テトラメチル−8−(2−プロペニル)−15,19−エポキシ−3H−ピリド[2,1−c][1,4]−オキサアザシクロトリコシン−1,7,20,21(4H,23H)−テトロンモノハイドレート。
【0048】
ラパマイシンの作用機構についてはまだ詳細には解明されていないが、該作用機構はプロテインmTOR(哺乳動物を標的とするラパマイシン)282kDのホスファチジルイノシトール−3キナーゼとの複合体形成に特に寄与する。mTORは、免疫抑制効果に加えて、一連のサイトカイン媒介シグナル導入経路、すなわち、細胞分裂のために必要なシグナル経路をもたらすので、抗炎症性、抗増殖性、および抗カビ性も有する。
【0049】
増殖性はリボソーム蛋白質の合成を停止することにより末期のG1相内で抑止される。他の抗増殖性活性剤に比べてラパマイシンの作用機構は、パクリタキセルと同様に特別なものとして指摘することができるが、該作用機構は著しい疎水性を有する。さらに、上記の免疫抑制および抗増殖性の効果は極めて好都合であるが、それはステント植え込み後の早期調整としての炎症反応および免疫反応全体の程度がさらなる成功を収めるために非常に重要なものであるためである。
【0050】
従って、ラパマイシンは狭窄および再狭窄に対する利用に必要な全ての条件を具備している。必然的に活性剤は、ステント植え込み後の初めの重要な数週間において効果を発揮すべきであるので、ラパマイシンの保存性すなわち移植寿命が限られていることは、パクリタキセルに比べてさらに好都合であることに言及すべきであろう。その結果、健康的治癒方法の完結のために重要である内皮細胞層を、ステント上に一体に成長させて血管内壁と一体化させることができる。
【0051】
mTORの結合部位とは無関係な分子官能基上で改質するので、既知のラパマイシン誘導体(ビオリムス、エベロリムス)には、同様な作用機構が見られる。他の臨床試験(RAVEL試験、SIRIUS試験、SIROCCO試験)では、ラパマイシンは、(デクサメタソン、タクロリムス、バチマスタットのような他の活性剤とは反対に)異なる物理的性質にもかかわらず、強力な疎水性を持つパクリタキセルに比較して、より適切に狭窄に対処することができることを示している。
【0052】
驚くべきことに、セラックマトリックス内のパクリタキセルのような活性剤の勾配を有する活性剤−セラック−被覆は、血管の開放を維持し、新規のルーメンロス(内腔のロス)を減少させ、また再狭窄を減少させることで、治療に極めて有効であることが見出された。
【0053】
活性剤、特にパクリタキセルは、それ自体狭窄の最適な予防薬として保証されるものではない。活性剤、特にパクリタキセルが溶出したカテーテルバルーンは、完全に要件を満たす必要がある。投与量を決定するほかに、活性剤の溶出物は短時間(約30秒)である拡張の間に効果がなければならない。活性剤の溶出、ならびにシロリムスの溶出速度は、活性剤の物理的性質および化学的性質のみならず、用いられたマトリックの性質やマトリックスと活性剤との相互作用にも依存する。
【0054】
他の同様なバルーン被覆とは異なり、薬剤送達用バルーンの被覆では活性剤とマトリックスは1:1の混合比で存在せず、勾配が存在する。これにより、活性剤の量を変えずに、血管壁に対するマトリックス物質のセラックの移動量を低下させることができる。
【0055】
本発明のバルーン被覆においては、被覆中の活性剤が、被覆の表面に近接して存在するので、バルーンの拡張時においては、抗増殖剤、免疫抑制剤、抗脈管形成剤、抗炎症剤および/または抗血栓剤の少なくとも1種、好ましくはパクリタキセルが、直接的で明らかに血管壁に確実に放出される。活性剤は、血管壁に接触すると、直ちにそして明らかに純化されかつ高度に濃縮されるが、それはすなわち高比率のセラックを含まない。
【0056】
臨床的な利点としては、より純度の高い薬剤を供給できるので、動脈組織に対して極めて高度な生物的利用を図り得ることである。血管壁の組織中のこの高い薬剤濃度は、狭窄治療の部位の動脈内腔(ルーメン)に関して、血管筋肉細胞の移動と増殖に対する効果が高い。新生内膜増殖はより効果的に抑制される。
【0057】
バルーンカテーテルに使用される物質は、以下に示すような物質である。その中で以下に示すポリマーは特に好ましい:ポリアミド、ポリアミドのブロック共重合体、ポリエーテルとポリエステル、ポリウレタン、ポリエステルとポリオレフィン。
【0058】
カテーテルバルーンは、拡張可能または膨張可能であり、かつ圧着ステント無し、または圧着ステント有りで使用することができる血管形成用のカテーテルバルーンが特に好ましい。ステントについては、自己拡張ステント、非自己拡張ステント、金属製ステント、ポリマー製ステント、生体分解性ステント、分岐ステント、非被覆(露出)ステント、ポリマー被覆ステント、薬剤放出被覆ステント、純粋な活性剤をコーティングしたステント、などの一般的なステントが使用できる。
【0059】
さらにまた、ステントは本発明の被覆工程を実施する前にカテーテルバルーンに圧着することができ、カテーテルバルーンとステントには共にセラック−活性剤の被覆を施すことができる。しかしながら、本発明の被覆カテーテルバルーンはステント無しで使用することが好ましい。
【0060】
供給されるカテーテルバルーンは、通常は折り畳み部の下部または内部にコーティング(被覆)をした多重折り畳み式のカテーテルバルーンである。さらに、折り畳み部を被覆または充填するかは選択可能である。折り畳み部の内部または下部に被覆すると、カテーテルバルーンの挿入時に被覆(つまりパクリタキセル)が血流によって洗い流されることを保護するという利点がある。
【0061】
さらに、カテーテルバルーンは膨張(拡張)または収縮した状態で被覆することができる。市販されている拡張式カテーテルバルーンは、どれでもカテーテルバルーンとして用いることができる。好ましくは、国際特許出願WO94/23787A1(デビットH.ラムレ(David H. Rammler)、ラボインテリジェンス社(Labintelligence)米国)、または、国際特許出願WO03/059430A1(シュミットライフサイエンス社(Scimed Life Science Inc.)米国)、または、国際特許出願WO2004/028582A1(ドクター・ユインチ・スペック教授(Porf. Dr. Ulrich Speck) )、または、欧州特許EP0519063B1(メドトロニック社(Medtronic Inc.)米国)に記載されたような、いわゆる多重折り畳みバルーンが用いられる。
【0062】
このようなバルーンは、該バルーンが圧縮状態にあるときは実質的に閉鎖空洞を形成し、拡張時には外側に屈曲して、中に入れられた物質を放出することができるか、または該物質を血管壁に押し付けることができるような、折り畳み部または袖部を備える。
【0063】
このようなバルーンは、カテーテル挿入に際して、折り畳み部に封入された物質(あるいは、それぞれ折り畳み部に封入されたパクリタキセル)があまりにも早く放出されることから保護する利点がある。
【0064】
セラックの原料に関係なく、種々の場所からまたは異なる昆虫から得られた全ての種類のセラック型によって本発明の結果を得ることができるので、本発明では、どの種類のセラックも用いることができる。従って、セラックについての制限はない。
【0065】
セラックは多種のラック生成昆虫の腺分泌物から得られた天然樹脂である。ラック虫は、メタタカルデア(Metatachardia)、ラクシファー(Laccifer)、タコルジーラ(Tachordiella)などの半翅目(Hemiptera)のカイガラムシ(Coccoidea)上科に属する昆虫である。しかしながら、この中で2種の科に属するラクシフェリダエ(Lacciferidae)、およびタカルジニダエ(Tachardinidae)がラックの分泌にとってさらに重要な昆虫である。その1種で商業的に育成されているものにヤマブキラッカ(Kerria lacca)があり、ラクシファーラッカケル(Laccifer lacca Ker)、タカルジニアラッカ(Tachardia lacca)およびカーテリアラッカ(Carteria lacca)の名前で知られている。ヤマブキラッカは、ブーテア フロンドスロッシュ(Butea frondos Rosch)、アカシアアラビカ(Acacia arabica)ウイルドアンドフィカスレリジョサリン(Willd and Ficus religiosa Linn)のような東インド産出の多くの樹木の枝にはびこるインドカイガラムシ(in
dian scale insect)である。セラックは、生物由来の唯一の商業的に利用される天然樹脂であり、全ての他の天然樹脂とは極めて異なる。最近では、化学原料物質の環境性および毒性に対する認識について至る所で注目されており、セラックまたはセラック改質樹脂はその興味深く特色ある性質により重要性が高まっている。折れた枝がラック染料スティックとして売られており、破砕後水で洗浄して樹木部分と赤い色素(ラック染料)部分を取り除くと、種ラックが得られる。この種ラックを精製すると、セラックとして知られるより均質な製品が得られる。原料セラックは、70−80%の樹脂、4−8%の染料、6−7%の硬く艶のある仕上げ用ワックス、3%の水、9%までの植物および動物性不純物および香料物質を含む。セラックは、脂肪族化合物(60%)およびセスキテルペノイド酸(32%)およびこれらのエステルの複雑な混合物である。セスキテルペノイド酸はジャラール酸(jalaric acid)およびラッシジャラル酸(laccijalaric acid)(構造式IおよびII)であり、また脂肪酸はアロイリット酸(aleuritic acid)(III)およびブトール酸(butolic acid)である。
【0066】
樹脂分子の化学的記述の可能性として、各ケースにおいて4分子のジャラ―ル酸またはラッシジャラル酸およびアロイリット酸が相互にエステル結合によって連結された構造モデルを示す。
【0069】
その化学成分は、一部の成分量は昆虫が成長した宿主樹木の性質によって変化するが、概ね一定である。カニッツァーロ型(Cannizzaro-type)では、アルカリ加水分解下で不均衡性は、シェロール酸(IV)および誘導体化合物から合成される。精製セラックは2種の主要成分からなる。これらの成分は、9,10,16−トリヒドロキシパルミチン酸(アロイリット酸)CAS[53−387−9]とシェロール酸(IV)である。
【0072】
他の天然または合成樹脂または種々の単量体との共重合体による改質は、架橋セラック、改質セラック樹脂、および尿素、メラミン、フォルムアルデヒド、イソシアナイドとのセラック共重合体、またはその他の化学方法(重合、ヒドロキシ化、遊離反応など)により実施可能である。
【0073】
以下にセラックの商業用等級を示す:
シードラック(Seedlac)
ハンドメイドセラック(手製セラック)
マシンメイドセラック(機械製セラック)
デワックスドセラック(脱蝋セラック)
デワックスドブリーチドセラック(脱蝋脱色セラック)
アロイリット酸(Aleuritic Acid)
セラックの主要な性質は以下の通りである。:
− セラックは硬質天然樹脂である。
【0074】
− セラックは溶媒に対して耐性を有する。
− セラックは炭化水素に基づく。
− セラックは無毒である。
【0075】
− セラックは熱可塑性である。
− セラックは生理的に無害である。
− セラックは食品産業において種々の用途が認められる。
【0076】
− セラックは紫外線抵抗性がない。
− セラックは低級アルコールに可溶である。
− セラックは優れた誘電特性、高い絶縁耐力、低い誘電率および良好なトラッキング抵抗性などを示す。
【0077】
− セラックは低い融点(65−85℃)を有する。
− セラックは水−アルカリ溶液中で水溶性である。
− 被覆は紫外線照射のもとでは電気的特性が変わらない。
【0078】
− セラックは薄膜形成特性に優れている。
− セラックは低い熱伝導性と低い膨張係数を有し、平滑で光輝性のある薄膜と表面を形成する。
【0079】
− セラックコーティング(被覆)は他の多くのコーティングに対して優れた接着性を示し、また研磨できる。
− セラックは産業に利用される他の天然または合成樹脂試料の改質のために架橋結合できる。
【0080】
− 丸薬や錠剤へのコーティング
− 果物へのコーティング
− 化粧品
− フランスワニス表面のコーティング(被覆)とシーリング
− 光学フレーム。
【0081】
本発明のカテーテルバルーンは、異なる商業用銘柄のセラックで、さらにラック昆虫、使用される宿主樹木のタイプならびに収穫時期の異なるバッチのセラックで被覆される。種々の被覆カテーテルバルーンについては、活性剤の放出に対する差異は認められなかった。
【0082】
一般的にバルーンカテーテルの表面には、被覆すべきバルーンカテーテルの表面1mm
2に対して0.1μg〜30μgの量のパクリタキセルが使用されるが、一方において、再狭窄予防のために所望の効果を達成するには、0.5μg/mm
2〜12μg/mm
2の量のパクリタキセルで十分である。カテーテルバルーン上への活性剤、好ましくはパクリタキセルの表面装着量は0.1μg/mm
2〜30μg/mm
2の範囲である。被覆バルーン表面上に存在する活性剤の量は、好ましくは1μg/mm
2〜12μg/mm
2の範囲、さらに好ましくは2μg/mm
2〜10μg/mm
2、最も好ましくはバルーン表面1mm
2当たり2.5μg〜5μgの範囲である(μg/mm
2)。
【0083】
また、カテーテルバルーンあたりの活性剤、好ましくはパクリタキセルの合計量は好ましくは10〜1000μgであり、最も好ましくは20〜400μgである。
カテーテルバルーンにおけるセラックの表面被覆量は、1μg/mm
2〜12μg/mm
2である。被覆バルーン表面のベースコート中に存在するセラックの量は、好ましくは0.5μg/mm
2〜5μg/mm
2の範囲、より好ましくは1μg/mm
2〜4μg/mm
2、最も好ましくは1.5μg/mm
2〜2μg/mm
2の範囲である(μg/mm
2)。被覆バルーン表面のトップコート中に存在するセラックの量は、好ましくは0.1μg/mm
2〜3μg/mm
2の範囲、さらに好ましくは0.5μg/mm
2〜2μg/mm
2、最も好ましくはバルーン表面1mm
2当たり0.8μg〜1.5μgの範囲である(μg/mm
2)。
【0084】
カテーテルバルーンの表面は、型押し面、平滑面、粗面、ごつごつ面、空洞形成面、あるいはバルーン外部に向けて開口する溝(channel)形成面とすることができる。
パクリタキセルの被着を改善し、かつパクリタキセルの析出および結晶化を助長することができるように、カテーテルバルーン表面に型押し面が望まれる場合には、カテーテルバルーン表面は機械的、化学的電気的および/または放射線により型押しすることができる。
【0085】
バルーン表面に型押しを形成する間に、カテーテルバルーンの表面が一切損傷を受けないようにすること、さらに拡張能力に不利な影響を受けないようにすることは、重要である。従って、微細な型押を形成する方法により、バルーンの表面に空孔、微細孔または裂け目を形成してはいけない。バルーンの外部表面にのみ、すなわち最大1μmの型押しとすることが理想的である。
【0086】
活性剤含有溶液中における活性剤の含有量は、活性剤溶液1ml当たり1μg〜1mgの範囲、好ましくは活性剤溶液1ml当たり10μg〜500μg、さらに好ましくは活性剤溶液1ml当たり30μg〜300μg、最も好ましくは活性剤溶液1ml当たり50μg〜100μgの範囲である。
【0087】
本発明によれば、カテーテルバルーンは完全に被覆する必要はない。カテーテルバルーンの部分的被覆すなわちある種の型押し要素をカテーテルバルーン表面に部分的に装着することで十分である。微細な針孔、微細孔、微細チャンバを含む特定のカテーテルバルーンは、国際特許出願WO02/043796A2(シュミットライフサイエンス社(Scimed Life Science Inc.)米国)で、バルーン表面に拡張可能な型押し部分が存在することを開示している。前記開示の実施形態には、バルーン表面のある一部分のみの装着または拡張でも、所望の治療効果を収めるのに十分であり、また全表面を被覆したものでも明らかに可能であることが記載されている。
【0088】
特に本発明の好ましい実施形態は、セラックとバルーンの表面方向に濃度勾配を持ったパクリタキセルとで被覆したカテーテルバルーンであって、被覆の頂部ではほぼ100重量%のパクリタキセルが存在し、またバルーンの直ぐの表面では100重量%のセラックが存在する。その一方、セラック中のパクリタキセル濃度は被覆の頂部における100重量%から、バルーンに直ぐの表面における0重量%にまで減少する。
【0089】
さらに好ましい実施形態では、カテーテルバルーンの縦軸に垂直なこの垂直濃度勾配に加えて、水平濃度勾配も存在する。このような水平濃度勾配は、カテーテルバルーンの中央部に最高濃度のパクリタキセルが存在し、このパクリタキセル濃度が近位端および遠位端の方向に向かって減少するので、カテーテルバルーンの近位端および遠位端に最低濃度のパクリタキセルが存在することを意味する。
【0090】
図3を参照すれば、半径(垂直)方向および縦(水平)方向の被覆がどのような濃度勾配であるかが明らかである。カテーテルバルーンの頂部および中央部では、ほぼ100重量%のパクリタキセルと0重量%のセラックが存在し、その一方、カテーテルバルーンの近位および遠位のバルーンの直ぐの表面では、0重量%のパクリタキセルと100重量%のセラックが存在する。パクリタキセルの濃度は、被覆の頂部から被覆を介してカテーテルバルーンの表面へと減少し、またカテーテルバルーンの中央部からカテーテルバルーンの近位端および遠位端へと減少する。この特定の被覆では、狭窄または疾病血管部位の中心部では、高い投与量のパクリタキセルを確実に使用し、また狭窄および疾病血管部位の近位および遠位では、より低い投与量でパクリタキセルを確実に使用する。従って、パクリタキセルの使用は、狭窄部位または疾病血管部位に応じて完全に調整されるので、活性剤が必要とされる部位では多く投与され、狭窄部位または疾病血管部位の側面部(脇の部分)では投与量は少ない。
【0091】
本発明の別の好ましい実施形態では、セラック、特にセラックのトップコートで完全に被覆されるが、活性剤の被覆は部分的、すなわちカテーテルバルーンのある部分のみであるカテーテルバルーンに関する。
【0092】
活性剤−セラック被覆は特徴付けが困難であるので、本発明はまた、本明細書で開示された被覆方法により得られた被覆カテーテルバルーン、および前記活性剤−セラック被覆のカテーテルバルーンまたは本発明による一般的なカテーテルバルーンを含む風船カテーテル(バルーンカテーテル)と拡張式カテーテルに関する。
【0093】
本発明により被覆されたこの様なカテーテルまたはカテーテルバルーンは、収縮した導管セグメント、特に血管の治療、および狭窄症、再狭窄症、動脈硬化症および線維性導管狭窄症の治療および予防に好適に用いられる。
【0094】
本発明により被覆されたカテーテルバルーンは、ステント挿入時再狭窄症、すなわち既に植え込まれたステント内での血管狭窄の再発に対する治療および予防に好適である。さらにまた、本発明によるカテーテルバルーンは、小径血管、好ましくは管径が2.25mmより小さい血管の治療に特に好適である。
【0095】
本発明によるカテーテルバルーンは心臓血管領域で用いることが好ましいが、本発明により被覆されたカテーテルバルーンはまた、末梢血管、胆道、食道、尿路、膵臓、腎管、肺臓、気管、小腸および大腸などの管収縮の治療にも適している。
【0096】
さらに、活性剤溶液に第2の活性剤を添加することができる。前記のさらなる活性剤は以下からなるか、あるいは以下を含む群から選らばれることが好ましい:
アブシキマブ、アセメタシン、アセチルビスミオンB(acetylvismione B)、アクラルビシン、アデメチオニン、アドリアマイシン、アエスシン、アフロモソン(afromosone)、アカゲリン(akagerine)、アルデスロイキン、アミドロン、アミノグルテチミド、アムサクリン、アナキンラ、アナストロゾール、アネモニン、アノプテリン(anopterine)、抗真菌剤、抗血栓剤、アポシマリン(apocymarin)、アルガトロバン、アリストラクタ−All、アリストロキン酸、アスコマイシン、アスパラギナーゼ、アスピリン、アトルバスタチン、オーラノフィン、アザチオプリン、アジスロマイシン、バッカチン、バフィロマイシン、バシリキシマブ、ベンダムスチン、ベンゾカイン、ベルべリン、ベツリン、ベツリン酸、ビロボール、ビスパルセノリジン(bisparthenolidine)、ブレオマイシン、コンブレタスタチン、ボスウェル酸およびその誘導体、ブルセアノールA,BおよびC(bruceanol A, B and C)、ブリオフィリンA、ブスルファン、抗トロンビン、ビバリルジン、カドへリン、カンプトテシン、カぺシタビン、o−(カルバモイル)フェノキシ酢酸、カルポプラチン、カルムスチン、セレコキシブ、セファランチン、セリバスタチン、CETP阻害剤、クロラムブシル、リン酸クロロキン、シクトキシン、シプロフロキサシン、シスプラチン、クラドリビン、クラリスロマイシン、コルヒチン、コンカナマイシン、クマディン、C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)、クドライソフラボンA、クルクミン、シクロホスファミド、シクロスポリンA、シタラビン、ダカルバジン、ダクリズマブ、ダクチノマイシン、ダプソーン、ダウノルビシン、ジクロフェナク、1,11−ジメトキシカンチン−6−オン(1,11- dimethoxycanthin-6-one)、ドセタキセル、ドキソルビシン、ダウノマイシン、エピルビシン、エリスロマイシン、エストラムスチン、エトポシド、エベロリムス、フィルグラスチム、フルロブラスチン(fluroblastin)、
フルバスタチン、フルダラビン、フルダラビン−5’−リン酸二水素、フルオロウラシル、フォリマイシン、ホスフェストロール、ゲムシタビン、グハラキノシド(ghalakinoside)、ギンコール、ギンコール酸、グリコシド 1a、4−ヒドロキシオキシシクロホスファミド、イダルビシン、イホスファミド、ジョサマイシン、ラパコール、ロムスチン、ロバスタチン、メルファラン、ミデカマイシン、ミトキサントロン、ニムスチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、
プロカルバジン、マイトマイシン、メトトレキサート、メルカプトプリン、チオグアニン、オキサリプラチン、イリノテカン、トポテカン、ヒドルキシカルバミド、ミルテフォシン、ペントスタチン、ペグアスパラガーゼ、エキセメスタン、レトロゾール、フォルメスタン、ミコフェノール酸モフェチル、β−ラパコン、ポドフィロトキシン、ポドフィリン酸−2−エチルヒドラジド、モルグラモスチム(rhuGM-CSF)、ペグインターフェロンα−2b、レノグラスチム (r-HuG-CSF)、マクロゴール、セレクチン(サイトカインアンタゴニスト)、サイトカイニン阻害剤、COX−2阻害剤、アンギオぺプチン、筋細胞増殖を抑制するモノクロ―ナル抗体、bFGF拮抗薬、プロブコール、プロスタグランジン、1−ヒドロキシ−11−メチルキサンチン−6−オン、スコポレチン、NOドナー、四硝酸ペンタエリスリトールおよびシドノンイミン類、S−ニトロソ誘導体、タモキシフェン、スタウロスポリン、β−エストラジオール、α−エストラジオール、エストリオール、エストロン、エチニルエストラジオール、メドロキシプロゲステロン、エストラジオールシピオネート、安息香酸エストラジオール、トラニラスト、カルバコーリン(kamebakaurin)および他の癌治療に用いられるテルペノイド、ベラパミル、チロシンキナーゼ阻害剤(チロホスチン)、パクリタキセルおよびその誘導体、6−α−ヒドロキシパクリタキセル、タキソテール、モフェブタゾン、ロナゾラク、リドカイン、ケトプロフェン、メフェナム酸、ピロキシカム、メロキシカム、ペニシラミン、水酸化クロロキン、アウロチオマレイン酸ナトリウム、オキサセプロール(oxaceprol)、β―シトステロール、ミルテカイン、ポリドカノール、ノニバミド、レボメンソール、エリプチシン、D−24851(カルビオケム)、コルセミド、サイトカラシンA−E、インダノシン、ノコダゾール、バシトラシン、ビトロネクチン受容体拮抗薬、アゼラスチン、グアニジル基シクラーゼ刺激剤、金属プロテイナーゼ−1および−2の組織阻害剤、遊離核酸、ウイルス伝達に組み込まれた核酸、DNAおよびRNAフラグメント、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤1、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤2、アンチセンスオリゴヌクレオチド、VEGF阻害剤、IGF−1、抗生物質のグループによる活性剤、セファドロキシル、セファゾリン、セファクロル、セフォキシチン、トブラマイシン、ゲンタマイシン、ペニシリン、ジクロキサシリン、オキサシリン、
スルホンアミド、メトロニダゾール、エノキサパリン、ヘパリン、ヒルジン、PPACK、プロタミン、プロウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、ワルファリン、ウロキナーゼ、血管拡張剤、ジピリダモール(dipyramidole)、トラピジル、ニトロプルシド、PDGF拮抗薬、トリアゾロピリミジン、セラミン、ACE阻害剤、カプトプリ、シラザプリル、リシノプリル、エナラプリル、ロサルタン、チオプロテアーゼ阻害剤、プロスタシクリン、バピプロスト、インターフェロンα,β および γ、ヒスタミン拮抗薬、セロトニン阻害剤、アポトーシス阻害剤、アポトーシス調節剤、ハロフジノン、ニフェジビン、トコフェロール、トラニラスト、モルシドミン、茶ポリフェノール、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、レフルノミド、エタネルセプト、スルファサラジン、テトラサイクリン、トリアムジノロン、ムタマイシン、プロカインイミド、レチノイン酸、キニジン、ジソピラミド、フルカイニド、プロパフェノン、ソタロール、ブリオフィリンAなどの天然および合成で得られたステロイド、イノトシオ−ル(inotodiol)、マキロシドA(maquiroside A)、グハアキノシド(ghalakinoside)、マンソニン(mansonine)、ストレブロシド、ヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、非ステロイド性物質(NSAIDS)、フェノプロフェン、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロキセン、フェニルブタゾン、抗ウイルス薬、アシクロビル、ガンシクロビルジドブジン、クロトリマゾール、フルシトシン、グリセオフルビン、ケトコナゾール、ミコナゾール、ナイスタチン、テルビナフィン、抗原生動物薬、クロロキン、メフロキン、キニーネ、天然テルペノイド、ヒッポカエスクリン(hippocaesculin)、バリントゲノール−C21−アンゲレート(barringtogenol-C21-angelate)、14−デヒロドアグロスチスタチン(14-dehydroagrostistachin)、アグロスケリン(agroskerin)、アガロスチスタチン(agrostistachin)、17-ヒドロキシアグロスチスタチン(17-hydroxyagrostistachin)、オヴァトジオライド(ovatodiolids)、4,7−オキシシクロアニソメリック酸(4,7- oxycycloanisomelic acid)、バッカリノイドB1, B2, B3 および B7(baccharinoids B1, B2, B3 and B7)、
ツベイモシド(tubeimoside)、ブルセアンチノシドC(bruceantinoside C)、ヤダンジオシドNおよびP(yadanziosides N and P)、イソデオキシエレファントピン(isodeoxyelephantopin)、トメンファントピンAおよびB(tomenphantopin A and B)、コロナリンA,B,Cおよび D、ウルソール酸、ヒプタチン酸A、イソイリドゲルマナール、メイテンフォリオール、エフサンチンA、エクシサニンA および B、ロンギカウリンB、スクルポネアチンC、カメバウニン(kamebaunin)、ロイカメニンAおよびB(leukamenin A and B)、13,18−デヒドロ−6−アルファ−セネシオイロキシチャパリン(13,18-dehydro-6-alpha-senecioyloxychaparrin)、タクサマイリンAおよびB(taxamairin A and B )レジェニロール(regenilol)、トリプトライド、シマリン、ヒドロキシアノプテリン(hydroxyanopterine)、プロトアネモニン、塩化ケルブリン、シンコクリンAおよびB(sinococuline A and B)、ジヒドロニチジン(dihydronitidine)、塩化ニチジン(nitidine chloride)、12−ベータ−ヒドロキシプレグナジエン-3,20-ジオン(12-β-hydroxypregnadien-3,20-dione)、ヘレナリン(helenalin)、インジシン、インジシン−N−酸化物、ラシオカルピン(lasiocarpine)、イノトジオール(inotodiol)、ポドフィロトキシン(podophyllotoxin)、ジャスシジンAおよびB(justicidin A and B)、ラレアチン(larreatin)、マロテリン(malloterin)、マロトクロマノール(mallotochromanol)、イソブチリルマロトクロマノール(isobutyrylmallotochromanol)、マーチャンチンA(marchantin A)、メイタンシン、リコリジシン(lycoridicin)、マルゲチン(margetine)、パンクラチスタチ(pancratistatin)、リリオデニン(liriodenine)、オキソウシンスニン(oxoushinsunine)、ペリプロコシドA(periplocoside A)、デオキシソロスパミン(deoxypsorospermin)、サイコルビン(psychorubin)、リシンA、サンギナリン、マンブ小麦酸(manwu wheat acid)、メチルソルビフォリン(methylsorbifolin)、スファセリアクロモン(chromones of spathelia)、シゾフィラン、ジヒロドウサムバレンシン(dihydrousambaraensine)、ヒドロキシウサムバリン(hydroxyusambarine)、ストリクノペンタミン(strychnopentamine)、ストリクノフィリン、ウサムバリン(usambarine)、ウサムバレンシン(usambarensine)、リリオデニン、ダフノレチン、ラリシレジノール、メトキシラリシレジノール(methoxylariciresinol)、シリンガレシノール、シロリムス(ラパマイシン)、ラパマイシン誘導体、バイオリムスA9、ピメクロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、タクロリムス、ファスジル、エポチロン、ソマトスタチン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、シンバスタチン、ロスバスタチン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、テニポシド、ビノレルビン、トロフォスファミド、トレオスルファン、テモゾロマイド、チオテパ、トレチノイン、スピラマイシン、ウンベリフェロン、デスアセチルビスミオンA(desacetylvismione A)、ビスミオンAおよびB(vismione A and B)ゼオリン。
【0097】
本発明の被覆方法によれば、カテーテルバルーンの表面で乾燥された活性剤ーセラック混合物は特定の特性(濃度)を有する。その特徴付けは難しいが、それは細胞壁への移動と特に平滑筋肉細胞への取り込みに非常に重要であると思われる。
【0098】
以下に示す実施例は、本発明の可能性を示す実施形態について記載するものであるが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【
図1】壁内のパクリタキセル濃度を示す[μg/g]。
【
図2】血管壁内のパクリタキセルの投与量の割合(パーセンテージ)を示す。
【
図3】半径方向(垂直方向)および縦方向(水平方向)の濃度勾配を持ったカテーテルバルーン上のパクリタキセル被覆の勾配を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0100】
〔実施例〕
実施例1 パクリタキセルとセラックを用いたカテーテルバルーンの被覆
最初に、パクリタキセル120mgを800μLのエタノール中に溶解し、セラック5gを100mLのエタノール中に溶解し、室温で24時間撹拌する。
【0101】
セラック溶液を、ピペット用具で、回転可能に取り付けられた折り畳み式バルーンの表面に塗布する。次に、折り畳み式バルーンを室温で緩やかな回転で乾燥する。ベースコートは、バルーン表面上でセラック2μg/mm
2を含有する。
【0102】
次に、パクリタキセル溶液を、3.0μg/mm
2のパクリタキセルが塗布されるようにして、ベースコートで被覆されたバルーンカテーテル上にスプレーする。次に、バルーンを回転させずに室温で乾燥させる。最後に、セラック溶解液を、ピペット用具で別のトップコートとして活性剤層上に塗布する。セラック1μg/mm
2を塗布する。その後、カテーテルバルーンを50℃で30分間完全に乾燥させる。バルーンに圧着されたステントすなわち薬剤溶出ステントの存在は、この被覆工程の障害にはならない。
【0103】
実施例2 ラパマイシンとセラックを用いたカテーテルバルーンの被覆
ポリアミドで形成された膨張可能なバルーンが装備された市販の拡張式カテーテルを準備する。バルーン表面は型押し(テクスチャ加工)されているが溝や空洞はない。
【0104】
エタノール50mL中にセラック4gを溶解した溶液を準備し、カテーテルバルーンの表面の水平領域に刷毛塗りする。エタノール2.0mL中にラパマイシン140μgを溶解した溶液を準備し、カテーテルバルーンをその溶液中に浸す。セラック1.5μg/mm
2を含むトップコートを刷毛塗りする。その後、カテーテルバルーンを完全に乾燥させ、エチレンオキシドで殺菌する。
【0105】
実施例3 パクリタキセル、α−リノレン酸とセラックを用いたカテーテルバルーンの表面被覆
血管を拡張させるのに適したバルーンカテーテルのバルーンを、超音波浴中で10分間アセトンとエタノールで脱脂し、次に100℃で乾燥させる。エタノール50mL中にセラック4gを溶解した溶液を準備し、カテーテルバルーンの表面の水平面に刷毛塗りする。エタノール0.25重量%のα−リノレン酸の噴霧液を準備し、バルーンカテーテルを一様に回転させてバルーンの表面上を均一にスプレーガンでスプレーする。パクリタキセル120mgをエチルアセテート1mL中に溶解する。この溶液をカテーテルバルーンに吹き付けて塗布する。セラック溶液を薄いトップコートとして再度塗布する。被覆されたカテーテルバルーンを70℃で13時間乾燥する。
【0106】
実施例4 グラジエントミキサー(gradient mixer)を使ったパクリタキセルとセラックを用いたカテーテルバルーンの表面被覆
最初に、パクリタキセル120mgをエタノール800μL中に溶解し、セラック5gをエタノール100mL中に溶解し、室温で24時間撹拌する。この後、パクリタキセル溶液100μLをセラック溶液900μLと混合する。
【0107】
ピペット用具で回転可能に取り付けられた折り畳み式バルーンに、純粋なセラック溶液を塗布する。次に、折り畳み式バルーンは、室温で緩やかな回転で乾燥させる。ベースコートは、バルーン表面上でセラック1μg/mm
2を含有する。
【0108】
パクリタキセルとセラックを含有する溶液を、グラジエントミキサーの第1のチャンバ(槽)に注ぎ、純粋なパクリタキセル溶液を、第1のチャンバの後部にある第2のチャンバに注ぐ。グラジエントミキサーの排出口を、スプレーガンに結合する。次に、グラジエントミキサーから排出された溶液を、パクリタキセル濃度を増加させながら、ベースコートで被覆されたバルーンカテーテル上に噴霧する。全部で3.0μg/mm
2のパクリタキセルを塗布する。次に、バルーンを室温で緩やかな回転で乾燥する。最後に、セラック溶液は、活性剤層上にピペット用具で別のトップコートとして塗布される。セラック1μg/mm
2を塗布する。続いて、カテーテルバルーンを50℃で30分間完全に乾燥する。バルーンに圧着されたステントすなわち薬剤溶出性ステントの存在は、この被覆工程の障害にはならない。
【0109】
実施例5 グラジエントミキサーを使ったパクリタキセルとセラックを用いたカテーテルバルーンの表面被覆
最初に、パクリタキセル120mgをエタノール800μL中に溶解し、セラック5gをエタノール100mL中に溶解し、室温で24時間撹拌する。この後、パクリタキセル溶液100μLをセラック溶液900μLと混合する。
【0110】
ピペット用具で回転可能に取り付けられた折り畳み式バルーンの表面に、純粋なセラック溶液を塗布する。次に、折り畳み式バルーンを、室温で緩やかな回転で乾燥する。ベースコートは、バルーン表面上でセラック1μg/mm
2を含有する。
【0111】
パクリタキセルとセラックを含有する溶液を、グラジエントミキサーの第1のチャンバに注ぎ、純粋なパクリタキセル溶液を、第1のチャンバの後部にある第2のチャンバに注ぐ。グラジエントミキサーの排出口を、スプレーガンに結合する。次に、グラジエントミキサーから排出された溶液を、パクリタキセル濃度を増加させながら、ベースコートで被覆されたバルーンカテーテル上に噴霧する。全部で3.0μg/mm
2のパクリタキセルを塗布する。次に、バルーンを室温で緩やかな回転で乾燥する。
【0112】
実施例6 ピペット法によるグラジエントミキサーを使ったパクリタキセルとセラックを用いたカテーテルバルーンの表面被覆
最初に、パクリタキセル120mgを800μLのエタノール中に溶解し、セラック5gを100mLのエタノール中に溶解し、室温で24時間撹拌する。この後、パクリタキセルの溶液100μLをセラック溶液900μLと混合する。
【0113】
パクリタキセルとセラックを含有する溶液をグラジエントミキサーの第1のチャンバに注ぎ、純粋なパクリタキセル溶液を、第1のチャンバの後部にある第2のチャンバに注ぐ。グラジエントミキサーの排出口を、ピペット用具に結合する。次に、グラジエントミキサーから排出された溶液を、パクリタキセル濃度を増加させながら、ベースコートで被覆されたバルーンカテーテル上に噴霧する。全部で3.0μg/mm
2のパクリタキセルを塗布する。次に、バルーンを室温で緩やかな回転で乾燥する。最後に、セラック溶液を、活性剤層上にピペット用具で、別のトップコートとして塗布する。セラック1μg/mm
2を塗布する。続いて、カテーテルバルーンを50℃で30分間完全に乾燥する。バルーンに圧着されたステントすなわち薬剤溶出性ステントの存在は、この被覆工程の障害にはならない。
【0114】
実施例7 グラジエントミキサーを使ったパクリタキセルとセラックを用いたカテーテルバルーンの表面被覆
最初に、パクリタキセル120mgを酢酸エチル800μL中に溶解し、セラック5gをエタノール100mL中に溶解し、室温で24時間撹拌する。この後、パクリタキセル溶液100μLを酢酸エチル900μLで希釈する。
【0115】
ピペット用具で回転可能に取り付けられた折り畳み式バルーンに、純粋なセラック溶液を塗布する。次に、折り畳み式バルーンを、室温で緩やかな回転で乾燥する。セラック1μg/mm
2を含有するベースコートをバルーン表面に塗布する。
【0116】
低濃度のパクリタキセル溶液をグラジエントミキサーの第1のチャンバに注ぎ、高濃度のパクリタキセル溶液を、第1のチャンバの後部にある第2のチャンバに注ぐ。グラジエントミキサーの排出口を、スプレーガンに結合する。次に、グラジエントミキサーから排出された溶液を、パクリタキセル濃度を増加させながら、ベースコートで被覆されたバルーンカテーテル上に噴霧する。全部で3.0μg/mm
2のパクリタキセルを塗布する。次に、バルーンを室温で緩やかな回転で乾燥する。最後に、セラック溶液を、活性剤層上にピペット用具で、別のトップコートとして塗布する。セラック1μg/mm
2を塗布する。続いて、カテーテルバルーンを、50℃で30分間完全に乾燥する。バルーンに圧着したステンすなわち薬剤溶出性ステントの存をは、この被覆工程の障害にはならない。
【0117】
実施例8 グラジエントミキサーを使ったスプレー(噴霧)法による、パクリタキセルとセラックを用いたカテーテルバルーンの2つの濃度勾配表面被覆
最初に、パクリタキセル120mgを800μLのエタノール中に溶解し、セラック5gを100mLのエタノール中に溶解し、室温で24時間撹拌する。この後、パクリタキセルの溶液100μLをセラック溶液900μLと混合する。
【0118】
ピペット用具で回転可能に取り付けられた折り畳み式バルーンに、純粋なセラック溶液を塗布する。次に、折り畳み式バルーンを、室温で緩やかな回転で乾燥する。セラック1μg/mm
2を含有するベースコートをバルーン表面に塗布する。
【0119】
パクリタキセルとセラックを含有する溶液を、グラジエントミキサーの第1のチャンバに注ぎ、純粋なパクリタキセル溶液を、第1のチャンバの後部にある第2のチャンバに注ぐ。グラジエントミキサーの排出口を、スプレーガンに結合する。次に、グラジエントミキサーから排出された溶液を、パクリタキセル濃度を増加させながら、ベースコートで被覆されたバルーンカテーテル上に噴霧する。全部で3.0μg/mm
2のパクリタキセルを塗布する。被覆工程では、前記活性剤の濃度を、以下のようにコントロールする。スプレーガンがバルーンの中央部に位置する場合には、最も高濃度の活性剤溶液をグラジエントミキサーにより供給する。スプレーガンを、バルーンの近位端または遠位端に向けて中央部から移動させる間に、グラジエントミキサーにより活性剤の濃度はゆっくりと低下する。スプレーガンがバルーンの近位端または遠位端に位置したときに、最も低濃度の活性剤溶液をグラジエントミキサーにより供給する。上記の濃度コントロールは、噴霧工程中で繰り返される。次に、バルーンを室温で緩やかな回転で乾燥する。最後に、セラック溶液を、活性剤層上にピペット用具で、別のトップコートとして塗布する。セラック1μg/mm
2を塗布する。続いて、カテーテルバルーンを、50℃で30分間完全に乾燥する。バルーンに圧着したステントすなわち薬剤溶出ステントの存在は、この被覆工程の障害にはならない。
【0120】
実施例9 グラジエントミキサーを使ったピペット法による、パクリタキセルとセラックを用いたカテーテルバルーンの2つの濃度勾配の表面被覆
最初に、パクリタキセル120mgを800μLのエタノール中に溶解し、セラック5gを100mLのエタノール中に溶解し、室温で24時間撹拌する。この後、パクリタキセルの溶液100μLをセラック溶液900μLと混合する。
【0121】
セラック溶液を、ピペット用具で回転可能に取り付けられた折り畳み式バルーンの表面に塗布する。次に、折り畳み式バルーンを室温で緩やかな回転で乾燥させる。
パクリタキセルとセラックを含有する溶液をグラジエントミキサーの第1のチャンバに注ぎ、純粋なパクリタキセル溶液を、第1のチャンバの後部にある第2のチャンバに注ぐ。グラジエントミキサーの排出口を、ピペット用具に結合する。次に、グラジエントミキサーから排出された溶液を、パクリタキセル濃度を増加させながら、ピペットで未被覆のバルーンカテーテル上にピペットする。全部で3.0μg/mm
2のパクリタキセルを、最も高濃度のパクリタキセルを必要とするバルーンの中央部に塗布する。被覆工程では、パクリタキセルの濃度を、以下のようにコントロールする。ピペット用具がバルーンの中央部に位置する場合には、最も高濃度のパクリタキセル溶液をグラジエントミキサーにより供給し、パクリタキセル溶液を10回ピペットする。ピペット用具を、バルーンの中央部から近位端または遠位端に向けて移動させる間に、グラジエントミキサーにより活性剤の濃度はゆっくりと低下し、ピペット回数も同時に減少する。ピペット用具がバルーンの近位端または遠位端に位置したときに、最も低濃度のパクリタキセル溶液がグラジエントミキサーにより供給され、パクリタキセル溶液を1回だけピペットする。上記の濃度コントロールおよびピペット回数コントロールは、ピペット工程中で繰り返される。次に、バルーンを室温で緩やかな回転で乾燥する。最後に、セラック溶液を、活性剤層上にピペット用具で別のトップコートとして塗布する。セラック1μg/mm
2を塗布する。続いて、カテーテルバルーンを、50℃で30分間完全に乾燥する。バルーンに圧着されたステントすなわち薬剤溶出性ステントの存在は、この被覆工程の障害にはならない。
【0122】
実施例10 パクリタキセルとセラックを用いたカテーテルバルーンの被覆
最初に、パクリタキセル120mgを800μLの酢酸エチル中に溶解し、セラック5gを100mLのDMSO中に溶解し、室温で20時間撹拌する。
【0123】
純粋なセラック溶液を、ピペット用具で回転可能に取り付けられた折り畳み式バルーンの表面に塗布する。次に、折り畳み式バルーンを室温で緩やかな回転で乾燥させる。前記セラック層は、バルーン表面上でセラック2μg/mm
2を含有する。
【0124】
パクリタキセル溶液を既存のセラック層上に塗布する。それにより、パクリタキセル溶液がセラック層に染み込み、濃度勾配は、最も高濃度のセラックが被覆層の最上部になるように展開される。全部で3.0μg/mm
2のパクリタキセルを塗布する。次に、バルーンを50℃で緩やかな回転で乾燥する。
【0125】
実施例11 動物実験1
この実験には、体重が35〜42Kgのポーランドの国産ブタ8匹を用い、24個のパクリタキセル溶出バルーンが用いられた。この実験工程は、2010年11月3日から14日にポーランドのアメリカ心臓協会におけるアニマル・キャス・ラボで行われた。地域の生命倫理委員会の適切な承認を受けている。どの実験グループに対しても1:1:1の割合でそれぞれのブタの3つの冠状動脈(LAD、LCX,RCA)が無作為(ランダム)に割り当てられた。
【0126】
以下の被覆を施した3つの実験用カテーテルの評価をした:
1.パクリタキセル3.0μg/mm
2+アルファリノレン0.3μg/mm
2+ボスウェル酸0.3μg/mm
2
2.パクリタキセル3.0μg/mm
2+zアルファリノレン0.3μg/mm
2
3.実施例1に従った、パクリタキセル3.0μg/mm
2およびセラック3.0μg/mm
2の被覆
全ての実験用バルーンは、直径3.0mmで長さ20mmであった。
【0127】
方法
実験動物は、インターベンション3日前と実験を通じてアセチルサリチル酸とクロピドグレル(clopidogrel)からなる抗血小板療法を受けた。全身麻酔下で、ステントを6Fシ―スより大腿動脈に接近させて導入し、2つの異なる冠状動脈に植え込んだ。全てのバルーンは、バルーン/動脈の直径比が1.15:1.0を確保する膨張圧力で、定量的血管造影分析法のライブガイダンスに基づいて移植された。
【0128】
定量的冠動脈造影(QCA)分析法を、CMS−QCAソフトウエア(Medis社製)を使って実施し、血管造影図をDICOM形式で記録した。ステント評価用に2つの対側性投影が選択された。予定時点で、実験動物は安楽死させた。安楽死後、心臓を、実験用血管へのダメージを避けるために注意を払いながら、できるだけ速く収集した。収集した心臓は異常があるかどうかを検査してから、動物のID番号、プロトコル番号および収集日についてラベル付けをした。収集した心臓は、血液がなくなるまで生理食塩液で洗い流し、次に、10%の中性緩衝ホルマリン(NBF)で80〜100mmHgに固定した圧力灌流で洗い流した。異常組織のサンプルを収集し、10%のNBFに浸漬固定した。全ての実験用血管セグメントには、動物のID番号、プロトコル番号、組織のタイプおよび収集日のラベル付けをした。全ての組織は、容器に移されドライアイスで−68℃に凍結してから、HPLC実験場に送られた。各実験動物の心臓は、それぞれ別々の容器に入れられた。
【0129】
HPLC分析
プラズマ、LAD、LCXおよびRCAのパクリタキセル濃度を、高性能液体クロマトグラフィ(AnaKat Insitut fur Biotechnologie GmbH社製、ベルリン、ドイツ)を用いて、サンプルの素性が判らないようにして測定した。簡潔に言えば、解凍後、室温で組織の重さを量り、その重さにより、異なる分量のエタノールをサンプルに添加した(完全に組織を覆うのために十分なエタノール)。次にサンプルは、超音波で40分間処理した。およそ200mlのサンプルが遠心分離された。
【0130】
検量線を、50から5000ng/mlの範囲で作成した。検量線のサンプルは、1000mg/mlの濃度の原液を希釈することで得られた。全てのサンプルの一部(組織および検量線のサンプル)は、オートサンプラ―バイアルに移され、同量の0.1%のギ酸を添加した。粒子径5mで細孔径120Åの、ハイパーシル(Hypersil)ODsカラム(サーモエレクトロン社(ThermoElectron Company)、サーモサイエンティフック(Thermo Scientific)、米国マサチューセッツ州ウォルサム)を通過させる高性能液体クロマトグラフィーシステムの流速を0.2ml/分とした。定組成溶離液は、ギ酸(0.1%)を含有する70%のメタノ―ルからなる。パクリタキセルは、854から105AMUにパクリタキセルを移行させた多反応モニタリング方式のマススペクトル分析法により検出した。組織のパクリタキセル濃度をμg/gで示した。
【0131】
術前処置手順
一晩の絶食後に、実験動物は体重を基準にして混合物を用い前麻酔された。これらの薬物には以下が含まれる:アトロピン(1mg/20kg (皮下))、ケタミン(4mL/10kg (筋肉内))およびキラジン(1ml/20kg(筋肉内))。公認の動物技師が、動物の首または後部筋肉象限のどちらかに筋肉注射を行った。実験動物は、準備室に送られ、静脈ラインを耳介縁静脈に置いて、静脈液(乳酸化リンゲル液または0.9%の生理食塩水)を処置中投与した。抗不整脈麻酔薬をこれらの4液中に添加した(リドカイン 200mg/リッター、メトプロロール 5mg/リッター)。実験動物が適切な麻酔水準の状態(1−3%のイソフルランのガスマスク)に到達したならば、適切な寸法の気管内チューブを挿管し、チューブを所定の位置に拘束して漏れないようにカフを膨らませた。次に、実験動物はキャス・ラボに移送され、テーブル上に置かれて、麻酔器および人工呼吸器が取り付けられた。
【0132】
処置
合計で24個のバルーンを配置したが、グループ1および2に8個、またグループ3(本発明によるもの)に8個配置した。それぞれのバルーンは装備前に検査した。構造的に異常を示すものは見つからなかった。バルーンを、大腿動脈からのアクセスで容易に選択した動脈部位に導入し、QCAライブガイダンスでバルーンと動脈の割合が1,1:1であることを確認してから、所望の部位に首尾よく配置した。全ての検査済のバルーンを60秒間膨らませた。血管が開いたままで末端の血流は損なわれなかったが、過剰に拡張されたことで3つの解離ケースがバルーン膨張後に目視されたので、そのためステントの移植は必要なくなった。
【0133】
フォローアップ
実験動物は、1時間、1日、3日および7日で計画された(1期間ごとに2匹のブタ)。フォローアップ期間全体で、死亡や心臓に目立った副作用の事象はなかった。全ての動物は、良好な全身状態を保ち、安定した体重増加が見られた。
【0134】
統計的分析
結果は、平均および標準偏差(SD)で示される。変数の正規分布は、コルモゴロフ・スミルノフのテスト(Kolmogorov-Smirnov test)で確認された。等分散性(variance uniformity)は、レーベンテスト(Levene test)を用いて確認された。血管造影およびHPLCの分析データは、分散分析法(ANOVA Test)により分析された。傾斜分布または変数の非正規分布の場合には、ノンパラメトリック・クラスカル・ワリスのテスト(nonparametric Kruskal-Wallis)およびマン・ホイットニーUテスト(U Mann-Whitney)を用いた。p値<0.05は、統計的に重要であると考えられた。
【0135】
結果
血管ベースラインとバルーン配置の特性:グループ全体で、および研究グループのそれぞれの期間内で、血管ベースライン、基準直径、最小ルーメン(動脈内腔)直径、バルーンの直径、およびステントと動脈比などの、ベースラインQCA結果に違いはなかった(表1)。過剰拡張の平均は210%であり、グループ間で再現可能であった。全ての検査済みバルーンは、3分±30秒間血液循環内に留まった。
【0137】
パクリタキセル濃度分析
1時間の観察では、グループ3のパクリタキセルの壁内血管濃度が極端に高かった。1日では、統計的に重要ではないが、数値はより高かった。グループ3は、3日と7日で、濃度は1μg/gまで下がり、グループ1と2と認識できないほどのレベルまで下がった(
図1、表2)。これらの結果は、初回投与量パーセンテージ分析で認められた(
図2)。
【0139】
全ての検査済みバルーンは、容易に導入されて研究部位に配置された。送達や撤退の問題は生じなかった。バルーンの直径は基準膨張で、設計上の直径に達した。工程後あるいはフォローアップで有害事象(副作用)は認められなかった。検死解剖で、心筋梗塞あるいは研究部位の炎症の肉眼的徴候は見られなかった。研究対象となったベースライン血管特性は、基準直径および最小ルーメン(動脈内腔)直径に関してグループ間で類似していた。最も重要なことは、研究グループ間で、ステントと動脈比1.1:1により類似する過剰拡張となった。全ての膨張は、60秒間行われ、全てのバルーンは血液循環内で同じ期間留まった。従来の研究に基づき、この過剰拡張と膨張時間は、パクリタキセル送達のために、確実に適切で再現可能な条件として提供されるであろう(1、2)。
【0140】
HPLC分析では、グループ1および2と比較した場合、本発明のバルーンを受け入れたグループにおいて1時間の観察で極めて高いパクリタキセル組織濃度が見られた。24時間では、大幅ではないが、(主に高い標準偏差による)、この違いは数値として非常に異なるものとなった。3日と7日では、パクリタキセル溶出、セラック被覆バルーンでは、濃度は下がった。このようなパクリタキセル組織濃度と装着量のパーセンテージは、Diorパクリタキセル溶出バルーンに見られる量よりも高く、Sequentと類似する。従来の研究で評価されたい(2、3)。他方では、グループ1と2におけるバルーンのパクリタキセルの送達は充分ではなかった。全ての研究地点でパクリタキセルの濃度は非常に低く、3日と7日ではHPLCで区別できないほどの水準であった。組織のパクリタキセルの濃度のレベルは、担体分子のないパクリタキセルバルーンで見られた濃度よりも低かった(1)。
【0141】
実施例12 動物実験2
14匹の若い健康な農場ブタの心臓の冠状動脈にカテーテルベースのパクリタキセル溶出バルーンを配備した(それぞれ個々のブタの心臓冠動脈にカテーテルバルーンを配置した表3aおよび3bの移植マトリックスを参照)。要約すると、5個の単純な非被覆のカテーテルバルーン(POBA)と、10個のDIOR IIおよび10個のPRIMUS(プライマス)を25個の心臓冠状動脈中に配備した。ブタは7日後および28日後に安楽死をさせ(1時点ごとにn=5;POBAは28日のみ)、また主な器官に、特に胸腔内の器官または胸膜に総合的な病理検査を行った。心臓は外植し、また心筋組織および処理済みの隣接血管セグメントは切除して病理組織検査を行った。
【0142】
以下の心筋組織/動脈を組織病理学的に分析した:
1.バルーンを配備した領域内での処理済み冠状動脈
2.処理済みセグメントに隣接する近位および遠位の血管セグメント
3.無作為に割り当てられた肉眼的に疑義のある心筋組織
各動物の3種の冠動脈心筋(LDA、LCX、RCA)が、いずれかの実験グループに無作為に割り当てられた(表3)。
【0143】
以下の被覆を持った3種の実験用カテーテルが評価された:
1.PRIMUS― 実施例10によるパクリタキセル3.0μg/mm
2およびセラック3.0μg/mm
2を被覆した、パクリタキセル被覆冠動脈PTCAカテーテル。
2.DIOR II− パクリタキセルを被覆した血管形成術用バルーン(Eurocor社製)。
3.POBA− コントロールとしての、単純な旧式の血管形成術用バルーン(バルーン表面に被覆はない)。
【0144】
全ての実験用バルーンは直径が30mmで長さが20mmであった。
【0146】
方法
無傷の分枝部を持った冠動脈血管を切開し、各心臓から注意深く取り除いた。血管造影用ビデオを用い、静止フレーム画像を作成して、バルーンの処理した部位にラベル付けをした。分枝部を解剖用マーカーとして用い、各処理部位は長さ2cmとすべきことが周知の事実であるので、処理位置が見積もられ処理サイトに対して近位0.5cmおよび遠位0.5cmを含むように区分した。
【0147】
心臓は房室溝に並行に1cm間隔で破断した。次に、心筋部分の全層を前壁、側壁、後壁および隔壁を含む主冠状動脈が配置される周囲を2つの高さ(中間部および頂端部)でサンプリングした。さらに、右心室もまた中間部および頂端部の高さでサンプリングした。肉眼的に疑義のある心筋領域は、何れもサンプリングして評価の対象とした。左右の肺臓、肝臓、左右の腎臓、脾臓、縦隔リンパ節、および肋骨(骨髄を含む)を含む非標的器官からのサンプルも採取した。全ての切片(セクション)について梗塞および血栓塞栓の有無を検査した。
【0148】
パラフィン包埋
パラフィン組織学のために、組織は段階的に一連のアルコールとキシレンで処理した。脱水後、血管は近位の未処理領域、中間の処理領域および遠位の未処理領域に切り分けた。処理領域は、さらに3〜4mmの間隔で2〜5の切片に切断し、続いて方位の補正のために最も近位の部分をパラフィン塊中に置いた(セクションAという)。組織学的切片を4〜6μmで切断し、荷電したスライド上に載せてヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)およびエラシン(モーバットペンタクロム)染色剤によって染色した。全ての切片について光学顕微鏡によって炎症、血栓、新生内膜形成、および血管壁の損傷の有無を調べた。全ての心筋および非標的器官切片を個別のカセット内に入れ、パラフィン内に埋め込み、H&Eのみで切片し染色を行った。
【0149】
形態計測
形態計測は、最大の内側の損傷について2〜3の組織切片(1部位のみが利用可能の部位を除く)で実行された。「遠位」切片が「処理」切片よりも多く傷害を示す場合には、「遠位」切片は「処理」切片を表すものとして用いられる。形態計測のソフトウエア(IP Lab(Mac OS X)、Scanalytics社、ロックビル(Rockville)、メリーランド州)は、2.0mm線形および環状NIST追跡可能マイクロメータを用いた2×対物鏡により較正された。クラーマン・ルーリングス社(Klarmann Rulings,Inc.)(マンチェスター、ニューハンプシャー州)は、マイクロメータの目盛について認定されている。
【0150】
血管の断面領域(外側の弾性薄膜[EEL]および内側の弾性薄膜[IEL]およびルーメン)が測定された。また、最小および最大の新生内膜肥厚と、最小および最大の内側肥厚(目視により特定)を計測した。平均の新生内膜肥厚/血栓負荷(thrombus burden)および平均の内側肥厚、および狭窄%、内側領域および新生内膜領域を以下の式を使い算出した:
%狭窄=[1−(管腔領域/IEL領域)]
*100
新生内膜領域=IEL領域−管腔領域
内側領域=EEL領域−IEL領域
組織学的評価
形態計測のために選ばれたのと同様の切片を、表4に示す半定量採点基準を用いて損傷の評価を行った。側部の切片は、近位端(オフセット切片(基準位置から離れた切片))を文字Aから始めてアルファベット順に記載した。
【0151】
動脈の損傷、治癒の評価のために、順序データは、内皮由来血管弛緩(endothelialization)、血小板/線維素、炎症、赤血球、傷害、プロテオグリカン/コラーゲン、中間平滑筋喪失(深さおよび周囲)および血管外膜線維化を含む、複数のパラメータで収集した。これらのパラメータを、0〜4:0=無し、1=最小、2=軽度、3=中程度、4=重度(著しい)の採点システムを用いて半定量化した。
【0153】
統計的解析
データは平均±標準偏差として報告される。形態計測(パラメータ)値間の統計差異は、一方向分散分析法(ANOVA)(JMPソフトウエア社、ケーリー、ノースカロライナ州)を用いて報告される。順序データ(非パラメータ組織学的スコア)は、ウィルコクソン/クラシカルーウォリスの(順位和)検定(Wilcoxon/Kruskal-Wallis (Rank Sumx) test)を用いて比較した。P値≦0.05は有意性があると思われる(表中太字)。もし統計的有意性に到達した場合には、さらにサブグループ(各組、連続変数のためにスチューデントのTテスト(student’s T-test)、または順序データのためにウィルコクソン/クラシカルーウォリスの検定の解析を、実験グループの平均値とコントロールグループの平均値と比較することにより実施した。順序データの比較では、統計的有意性のためにより説得性の高いp−値を測定するために、ウィルコクソン/クラシカルーウォリスの検定をボンフェローニの補正(Bonferroni correction)とともに分析のために使用した。
【0154】
(p≦0.05/♯グループ比較 =0.0083以下
結果
形態学的および組織学的研究結果
血管の大きさおよび寸法(EEL、IEL領域)を表した形態学的データでは、血管寸法は、28日では、PRIMUSグループがDIOR IIに比べて若干大きい数値を示すが、グループ間では類似した。狭窄症(管腔内障害)の%は7日のDIOR IIで大きかった。両グループ共に28日のパラメータが7日の結果に比べて増加していることを示した(表5)。
【0156】
内皮細胞の喪失はグループ間で類似した。線維素(フィブリン)の堆積は7日のDIOR IIで最大であるが、28日では消失する。これに反して、PRIMUSは線維素の堆積は28日でも上昇を示した(表6)。同様の傾向が、グループ間および時点間における内側平滑筋細胞で見られた。装置の有効性を間接的に測定するものとして、線維素スコアおよび内側SMCの喪失は、DIOR IIに比べ、28日のPRIMUSで上昇した。PRIMUSは平滑筋の増殖を阻止するために継続的にパクリタキセル作用を提供する(表7)。
【0159】
処理したどの心臓にも心筋梗塞の兆候は見られなかった。しかしながら、処理した血管から遠い心筋および心筋血管にDCBに伴う反応を示す幾つかの所見があった。重要なことに、急速/短期間相(処理後7日)のPRIMUSは、DIOR IIに比べて、心筋および血管の変化が少ないことを示した(表8)。
【0161】
治療効果および安全性についての仮説評価
装置の有効性について述べるのにさらに微妙に治癒パラメータを考慮すると、この実験では、PRIMUSにおける長期的なパクリタキセル効果は、DIOR IIにおける効果よりもより顕著である。一方、実験の早期段階では、DIOR IIは増大されたパクリタキセルの効果を示し、これは効果的なパクリタキセルの取り込みがなされるが、限定的であることを示している。これはこれらのDCBsに用いられる被覆技術の差によるものであろう。DIOR IIは、体内送達中に障壁として最初に作用する被覆マトリックスとして、セラック酸を用いる。バルーンの膨張に際して、パクリタキセルとセラック酸の微細結晶片は血管壁に送られる。しかしながら、バルーンの収縮及び退縮(引き戻し)後、微細粒子は血液循環によって流し去られるので、この技術の効果は低下する。PRIMUSでは新規な勾配被覆方法が用いられる。セラック酸は、薬剤と等量には混合されない。薬剤は頂上部に被覆され、ごく少量がセラックベースコートの表面に埋め込まれる。その結果、極く少量のセラック酸の結晶片が動脈細胞に移行し、かなり濃縮されたパクリタキセルがその担体マトリックスの表面から放出されて、細胞内の薬剤取り込みと保持を促進する。それにより28日データに記載された遅延した血管治癒反応を説明することができる。
【0162】
両DCBsは、予期した範囲内で、下流の心筋に病巣の瘢痕が形成されていたことを示した。この点について、7日データはより関連しているが、それはDCB配備後の短期の心筋反応を反映し、また被覆により誘導される微細塞栓とより良好に関係するので、その結果として特定の臨床的関心をもたらしている。この早期の時点で、DIOR IIは、PRIMUSに比べて、非常に高い頻度で急性の心筋変化を示した。
【0163】
結論
本発明による活性剤溶出バルーンは、臨床的に認められた活性剤被覆バルーンについて従来公開されているデータと比べた場合に、一層高いレベルの組織パクリタキセル濃度を有する薬剤の血管壁への送達能に関して有望な結果を示した。
【0164】
28日試験では、DCBを展開した後に、PRIMUSは、DIOR IIに比べて、血管壁に薬剤送達するのに大きな効果があった。これに対してDIOR IIは、7日までは効果があるが28日では効果が喪失すると思われた。全ての装置について予期した期間内で安全なプロファイルを示した。これらの結果を確認するために、長期的な追跡調査(フォローアップ)によりDCBに対するさらなる評価が必要である。
【0165】
(参考文献)
1.グレー WA、グラナダ JF.(Gray WA、Granada JF.)、「血管再狭窄予防のための薬剤被覆バルーン(Drug-coated balloons for the prevention of vascular restenosis)」、サーキュレーション(Circulation);121:2672−80。
2.ポサ Aら、(Posa A et al.)「ブタ冠動脈におけるパクリタキセル溶出バルーンと局所薬物送達の達成(Attainment of local drug devlivery with paclitaxel-eluting balloon in porcine coronary arteries)」、冠動脈疾患ジャーナル(Coron Artery Dis)、2008、19:243−7。
3.シェラ― B、スペック U、シュミット A、ベーム M、ニッケン G (Scheller B, Speck U, Schmitt A, Bohm M, Nickening G)、 「造影剤にパクリタキセルを添加することで冠動脈ステント移植後の再狭窄を防止する(Addition of paclitaxel to contast media prevents restenosis after coronary stent implantation)」、米国心臓病学会会誌(J Am Coll Cardiol)、 2003、42:141 5−20。