(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097760
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】リパーゼ酵素を使用するハイドロゲルの調製方法
(51)【国際特許分類】
C12P 19/04 20060101AFI20170306BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20170306BHJP
C12N 5/076 20100101ALI20170306BHJP
C12N 11/04 20060101ALI20170306BHJP
A61K 47/36 20060101ALN20170306BHJP
A61K 9/00 20060101ALN20170306BHJP
【FI】
C12P19/04 Z
C12N1/04
C12N5/076
C12N11/04
!A61K47/36
!A61K9/00
【請求項の数】29
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-542843(P2014-542843)
(86)(22)【出願日】2012年11月23日
(65)【公表番号】特表2014-533958(P2014-533958A)
(43)【公表日】2014年12月18日
(86)【国際出願番号】EP2012073434
(87)【国際公開番号】WO2013076232
(87)【国際公開日】20130530
【審査請求日】2015年8月31日
(31)【優先権主張番号】1120368.4
(32)【優先日】2011年11月24日
(33)【優先権主張国】GB
(31)【優先権主張番号】61/563,550
(32)【優先日】2011年11月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509003184
【氏名又は名称】スパームヴァイタル アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100082924
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 修一
(72)【発明者】
【氏名】クリンケンベルグ,ゲイル
(72)【発明者】
【氏名】ドマース ヨセフセン,ヒェル
(72)【発明者】
【氏名】コムミスル,エリザベス
【審査官】
厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−176021(JP,A)
【文献】
特開平07−136240(JP,A)
【文献】
特開平07−155369(JP,A)
【文献】
特開2009−114449(JP,A)
【文献】
ENZYME AND MICROBIAL TECHNOLOGY,1992年,VOL 14, NO 1,PAGES 42-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 19/00 −19/64
C12N 1/00 − 7/08
C12N 9/00 − 9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロラーゼを含む溶液と、該ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質を含む溶液とを混合する工程を含み、前記ヒドロラーゼを含む溶液又は前記基質を含む溶液がアルギン酸塩及び二価陽イオン放出化合物を更に含むことを特徴とするアルギン酸ハイドロゲルを調製する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記ヒドロラーゼを含む溶液が、二価陽イオン放出化合物及びアルギン酸塩を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記基質を含む溶液が、二価陽イオン放出化合物及びアルギン酸塩を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記ヒドロラーゼがエステラーゼであることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記エステラーゼが、リパーゼであることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記エステラーゼが、トリアシルグリセロールリパーゼであることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法において、前記基質が有機酸のエステルであることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項
1〜3のいずれか一項に記載の方法において、トリアシルグリセロールリパーゼを含む溶液と、前記ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質を含む溶液とを混合する工程を含み、前記基質が下記式Iで示す化合物であり、前記リパーゼを含む溶液又は式Iの化合物を含む溶液がアルギン酸塩及び二価陽イオン放出化合物を更に含む、アルギン酸ハイドロゲルを調製することを特徴とする方法。
【化1】
(式中、R
1、R
2、及びR
3は独立して、同一又は異なって、直鎖又は分岐鎖、置換又は非置換のC
1〜C
12アルキルカルボニル鎖を表す)
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、R1、R2、及びR3が、メタノン、エタノン、アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノン、ドデカノンからなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項8に記載の方法において、R1、R2、及びR3が、独立して、同一又は異なって、C1〜C3アルキルカルボニル鎖を表すことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法において、前記基質が、トリアセチン、トリプロピオニン及びトリブチリンからなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法において、前記二価陽イオン放出化合物が、Ca2+、Ba2+、及びSr2+からなる群より選択される二価陽イオンを放出することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記二価カチオン放出化合物がカルシウム放出化合物であることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、前記カチオン放出化合物が炭酸カルシウムであることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法において、第1の溶液がアルギン酸ハイドロゲル中に包埋される目的物を更に含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法において、アルギン酸ゲルに包埋される前記目的物が生体材料であることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、前記生体材料が精子であることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項
17に記載の方法において、
i)トリアシルグリセロールリパーゼを含む溶液で精子を希釈することにより第1の溶液を形成する工程と、
ii)工程i)で得られた第1の溶液に、アルギン酸塩、二価陽イオン放出化合物、及び下記式Iで示す化合物を含む第2の溶液を添加するとともに、ゲル化を開始する工程と、
iii)工程ii)で得られた溶液をアルギン酸ハイドロゲルのゲル化用容器に移す工程と、
iv)任意に、iii)のアルギン酸ハイドロゲルを凍結保存に供する工程と、を含むことを特徴とする方法。
【化2】
(式中、R
1、R
2、及びR
3は独立して、同一又は異なって、直鎖又は分岐鎖、置換又は非置換のC
1〜C
12アルキルカルボニル鎖を表す)
【請求項19】
請求項
17に記載の方法において、
i)下記式Iで示す化合物を含む溶液で精子を希釈することによって第1の溶液を形成する工程と、
ii)工程i)で得られた溶液に、アルギン酸塩、二価陽イオン放出化合物、及びトリアシルグリセロールリパーゼを含む第2の溶液を添加するとともに、ゲル化を開始する工程と、
iii)ii)で得られた溶液をアルギン酸ハイドロゲルのゲル化用容器に移す工程と、
iv)任意に、iii)のアルギン酸ハイドロゲルを凍結保存に供する工程と、を含むことを特徴とする方法。
【化3】
(式中、R
1、R
2、及びR
3は独立して、同一又は異なって、直鎖又は分岐鎖、置換又は非置換のC
1〜C
12アルキルカルボニル鎖を表す)
【請求項20】
請求項18又は19に記載の方法において、前記基質が、トリアセチン、トリプロピオニン及びトリブチリンからなる群より選択される方法。
【請求項21】
請求項18又は19に記載の方法において、iii)で得られた溶液を凍結保存に供し、i)及びii)の第1の溶液及び第2の溶液のそれぞれが凍結保護物質を含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項18〜21のいずれか一項に記載の方法において、前記アルギン酸塩がグルロン酸に富むアルギン酸塩であることを特徴とする方法。
【請求項23】
アルギン酸ハイドロゲルであって、
a)アルギン酸塩と、
b)アルギン酸ハイドロゲルに包埋される目的物と、
c)アルギン酸ハイドロゲルの調製に使用されるヒドロラーゼと、
を含むことを特徴とするアルギン酸ハイドロゲル。
【請求項24】
請求項23において、前記アルギン酸ハイドロゲルに包埋される前記目的物は生体材料であることを特徴とするアルギン酸ハイドロゲル。
【請求項25】
請求項23において、前記アルギン酸ハイドロゲルに包埋される前記目的物は精子であることを特徴とするアルギン酸ハイドロゲル。
【請求項26】
ヒドロラーゼの入った1つの容器と、該ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質の入った第2の容器とを含むアルギン酸ハイドロゲルキットであって、アルギン酸塩及び二価陽イオン放出化合物を更に含むことを特徴とするキット。
【請求項27】
請求項
26に記載のキットにおいて、
ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質が、下記式Iで示す化合物であることを特徴とするキット。
【化4】
(式中、R
1、R
2、及びR
3は独立して、同一又は異なってC
1〜C
12アルキルカルボニル鎖を表す)
【請求項28】
請求項26に記載のキットにおいて、ヒドロラーゼを含む溶液の入った1つの容器と、アルギン酸塩、二価陽イオン放出化合物及び前記ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質を含む溶液の入った第2の容器とを含むことを特徴とするキット。
【請求項29】
請求項26に記載のキットにおいて、ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質を含む溶液の入った1つの容器と、アルギン酸塩、二価陽イオン放出化合物及びヒドロラーゼを含む溶液の入った第2の容器とを含むことを特徴とするキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲル、特にアルギン酸ハイドロゲルを調製する改善された方法に関する。本発明のハイドロゲルは幅広い領域の用途を有し、特に生体材料の固定化、より具体的には、例えば精子等の細胞材料の固定化及び保存に有用である。
【背景技術】
【0002】
ハイドロゲルは様々な産業分野、特に生物工学及び製薬産業における幅広い領域の用途を有する親水性、含水ネットワークを形成する高分子鎖からなる。例えば、ハイドロゲルは、移植用細胞等の生体材料を固定化するのに、又は例えば薬学的有効成分若しくは栄養素の輸送システムとして使用される。また、ハイドロゲルは、創傷被覆材としても有用な場合がある。さらに、ハイドロゲル、特にアルギン酸ハイドロゲルは、増粘剤として幅広く使用されている。
【0003】
ハイドロゲルの形成に幅広く使用されている高分子は、アルギン酸塩である。アルギン酸塩は、天然由来の1,4−結合−β−D−マンヌロン酸(M)及びα−L−グルクロン酸(G)からなる陰イオン性多糖である(非特許文献1)。商業的なアルギン酸塩は、アスコフィルム・ノドスム(Ascophyllum nodosum)、マクロシスティス・ピリフェラ(Macrocystis pyrifera)、及びラミナリア・ヒペルボレア(Laminaria hyperborea)等、また或る程度はラミナリア・ディギタータ(Laminaria digitata)、ラミナリア・ジャポニカ(Laminaria japonica)、エクロニア・マキシマ(Ecklonia maxima)、レソニア・ニグレッセンス(Lessonia nigrescens)及びホンダワラ属(Sargassum sp.:サルガッスム属)の海藻から抽出される。また、アルギン酸塩は、一部のアルギン酸塩産生細菌、例えば一部のシュードモナス(Pseudomonas)種、及びアゾトバクター・ビネランジイ(Azotobacter vinelandii)からも調製され得る(上記非特許文献1)。
【0004】
アルギン酸塩は、例えば粘度調節のための安定化剤、又は増粘剤として、特に食品産業において一般的に使用されている。また、アルギン酸塩は、製薬産業及び化粧品産業において安定化剤、増粘剤又は崩壊剤としても幅広く使用されている。様々な目的のため、グルロン酸又はマンヌロン酸のいずれかに富むアルギン酸塩がそれぞれ利用可能である(非特許文献2、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0005】
アルギン酸塩の生体適合性、及び例えばカルシウムイオン等の二価陽イオンの存在下におけるゲル化能力により、アルギン酸塩は、細胞のカプセル封入にも一般的に使用されている(非特許文献3、非特許文献4、特許文献4、特許文献5、特許文献6、非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9)。
【0006】
また、アルギン酸ゲルは、様々な材料を固定化するためにも有用である。例えば、特許文献7は、精子の保存に有用な生体高分子粒子を記載しており、生体材料は、粒子の全直径を通して固形である高分子粒子中に包埋される。カプセルの液体コア中に精子を残す精子のカプセル封入に代えてアルギン酸ハイドロゲル中に精子を包埋することにより、細胞をアルギン酸ゲルネットワーク内に固定化し、それによって保存中の細胞の運動性を制限する。
【0007】
様々な材料のカプセル封入又は捕捉に使用されるアルギン酸ハイドロゲル、例えばアルギン酸ゲルは、捕捉される材料の溶液と、アルギン酸ナトリウム溶液とを混合し、この溶液を多価陽イオン、通常はカルシウムイオン等の二価陽イオンを含有する溶液(例えば、CaCl
2溶液)に添加することによって調製され得る(上記非特許文献1)。
【0008】
特許文献8は、包埋される細胞と、アルギン酸塩と、カルシウム放出剤とを混合し、その後この混合物にカルシウム放出化合物を添加して架橋ゲルを形成することを含む、アルギン酸ハイドロゲル等の生体適合性ハイドロゲルの別の調製方法を開示する。特許文献8によれば、カルシウム放出剤は、D−グルコノ−δ−ラクトン(GDL)であってもよい。
【0009】
特許文献8に開示される方法は、人工授精に有用な精子を固定化するため(例えば、特許文献7に開示されるアルギン酸ハイドロゲルの調製のため)に使用され得る。例えば、希釈し、冷却(4℃)した精子を、溶解したアルギン酸ナトリウム及び懸濁した炭酸カルシウム、また任意にグリセロール等の凍結保護物質を含む溶液に添加してもよく、その後GDLを含む溶液を添加することによってゲル化を開始して所望のアルギン酸ハイドロゲルを得ることができる。GDLの添加は、順次水と反応してH
3O
+を形成する、グルコン酸の形成をもたらす。H
3O
+の増加、及び炭酸カルシウムの存在はCO
2及びCa
2+の放出を生じる。GDLを添加することによるCa
2+の供給は、包埋された精子を含むアルギン酸ハイドロゲルの形成をもたらす。
【0010】
ゲル化が起こった後、アルギン酸塩に包埋された精子で満たされた容器を液体窒素中で凍結保存することにより、非常に長い有効保存期間を有する精子の凍結保存を提供することができる。
【0011】
しかしながら、本発明者らは、特許文献8に開示される方法によるアルギン酸ハイドロゲルの調製におけるGDLの使用は、幾つかの欠点を含むことを経験した。上記方法に従って固定化した精子を含むアルギン酸ゲルを調製する場合、精子のゲル化を回避するためGDL溶液を調製した直後に溶液にGDLを添加することが極めて重要である。精子に有害な初期に高濃度のグルコン酸を含む局所領域/区域を回避するため、粉末ではなく溶解した形態でGDLを添加しなければならない。さらに、GDLの添加後、ゲル化反応の開始の結果として粘度が増加する期間が続く。粘度増加により、ハイドロゲルを形成するために使用する容器をかなり素早く満たす必要がある。したがって、溶解したGDLをグルクロン酸に転化するため生じる時間の間、更なるゲル化及び所望の生体材料の固定化のため、溶液を好適な容器(例えば、IMV, L'Aigle, Franceにより提供されるミニストロー等)に移す。したがって、従来技術において開示される方法は、所望の生体材料を含むハイドロゲルを調製するため幾分短く融通の利かない時間スケジュールをもたらし、工業的見地から実質的な不利益である。
【0012】
上記方法の欠点により、ハイドロゲルを調製する改善された方法、特に工業規模でハイドロゲルを調製するのに好適な方法が必要とされている。
【0013】
ハイドロゲルを調製する様々な他の方法が従来技術において記載されている。様々な報告が、特定の基質に供されるに際して、最終的には様々な種類の高分子の交差結合(crossbinding)をもたらす様々な反応を提供する、酵素の利用を開示している。
【0014】
例えば、特許文献9は、特に、高分子ゲルの調製のための酵素触媒法におけるフェノール性ヒドロキシル単位及びジオキシゲナーゼを含む高分子の使用を開示している。
【0015】
非特許文献10は、グルコースオキシダーゼを使用する重合されたPEG系ハイドロゲルの調製を報告している。グルコースオキシダーゼは、β−D−グルコースの酸化を触媒し、フラビンアデニンジヌクレオチド酵素補因子を生成するための後の酸素の使用によってH
2O
2が形成される。第一鉄イオンとこの酵素的なH
2O
2産生とを組み合わせることにより、アクリル化モノマーと更に反応する一次ヒドロキシルラジカル種が産生される。
【0016】
また、ハイドロゲルの調製におけるH
2O
2及びセイヨウワサビペルオキシダーゼの使用も報告されており、例えば、非特許文献11、非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14、非特許文献15を参照されたい。
【0017】
オキシダーゼ及びH
2O
2の使用により調製されたハイドロゲルは、H
2O
2が強力な酸化剤であることから一部の用途に不適切である。
【0018】
したがって、アルギン酸ハイドロゲル、特に生体材料を固定化するのに好適なハイドロゲルの調製のため改良され、簡略化された方法が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】国際公開第8603781号
【特許文献2】米国特許第4,990,601号
【特許文献3】米国特許第5,639,467号
【特許文献4】国際公開第2006/106400号
【特許文献5】欧州特許出願公開第0922451号
【特許文献6】米国特許第6596310号
【特許文献7】国際公開第2008/004890号
【特許文献8】米国特許第6,497,902号
【特許文献9】中国特許出願公開第101439206号
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Smidsroed and Skjak-Braak, 1990, Trends in biotechnology, vol. 8, no. 3, pp 71-78
【非特許文献2】Mancini et al. (1999), Journal of Food Engineering 39, 369-378
【非特許文献3】Nebel, R.L., Balme, J., Saacke, R.G. and Lim. F. (1985), J. Anim. Sci. 60:1631-1639
【非特許文献4】Lim, F and Sun, A.M., (1980) Science 210: 908-9100
【非特許文献5】Torre et al. (1998), S.T.P. Pharma Sciences, 8 (4), pp. 233-236
【非特許文献6】Torre et al., (2000), Biomaterials, 21, pp. 1493-1498
【非特許文献7】Torre et al. (2002), Journal of Controlled Release, 85, pp. 83-89
【非特許文献8】Faustini et al, (2004),Theriogenology, 61, 173-184
【非特許文献9】Weber et al. (2006), Journal of Biotechnology, 123, pp. 155-163
【非特許文献10】Johnsen et al. (2010), ACS Applied Materials & Interfaces, 2(7), pp. 1963-1972
【非特許文献11】Kurisawa et al., (2010), J. of Materials Chemistry, 20(26), pp. 5371-5375
【非特許文献12】Sakai et al, (2009), Biomaterials, 30(20), pp. 3371-3377
【非特許文献13】Sakai and Kawakami (2006), Acta Biomaterialia, 20017, 3, pp. 495-501
【非特許文献14】Lee et al. (2009), J. of Controlled Release, 134, pp. 186-193
【非特許文献15】Wang et al.(2010), Biomaterials, 31, pp. 1148-1157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、従来技術の方法の欠点を伴わないアルギン酸ハイドロゲルを調製するための改善された方法を提供することである。
【0022】
本発明の別の目的は、生体材料を固定化するのに好適なアルギン酸ハイドロゲルの簡略化された調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
よって、本発明は、ヒドロラーゼ及び該ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質を利用することによりそのゲル化が開始され、H
3O
+の形成、及び後の二価陽イオン放出剤の存在に起因する二価陽イオンの放出をもたらす、アルギン酸ハイドロゲルに関する。
【0024】
本発明の1つの態様によれば、アルギン酸ハイドロゲルの調製する方法であって、ヒドロラーゼを含む溶液と、該ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質を含む溶液とを混合することを含み、ここで、上記ヒドロラーゼを含む溶液、又は該ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質を含む溶液は、アルギン酸塩及び二価陽イオン放出化合物を更に含む、方法が提供される。2つの溶液の混合により、基質のヒドロラーゼへの結合が該基質の加水分解、及び後のH
3O
+の形成をもたらす。さらに、H
3O
+の産生は、二価陽イオンの放出をもたらし、それによってハイドロゲルの形成を開始する。
【0025】
1つの実施の形態によれば、ヒドロラーゼを含む溶液中に二価陽イオン放出化合物及びアルギン酸塩が存在する。別の実施の形態によれば、二価陽イオン放出化合物及びアルギン酸塩は、上記基質を含む溶液中に存在する。
【0026】
上記ヒドロラーゼは、リパーゼ等のエステラーゼであり得る。本発明の1つの実施の形態によれば、本発明による方法において使用されるヒドロラーゼは、トリアシルグリセロールリパーゼである。
【0027】
本発明の更に別の実施の形態によれば、二価陽イオン放出化合物は、Ca
2+、Ba
2+、及びSr
2+からなる群より選択される二価陽イオンを放出する。
【0028】
本発明の別の実施の形態によれば、二価陽イオン放出化合物は、例えば炭酸カルシウム等のカルシウム放出化合物である。
【0029】
本発明の更に別の実施の形態によれば、基質は有機酸のエステルである。
【0030】
本発明の更に別の実施の形態によれば、トリアシルグリセロールリパーゼを含む溶液と、該ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質を含む溶液とを混合する工程を含み、基質が下記式Iで示す化合物であり、上記リパーゼを含む溶液又は下記式Iの化合物を含む溶液が、アルギン酸塩及び二価陽イオン放出化合物を更に含む、方法が提供される。
【化1】
(式中、R
1、R
2、及びR
3は独立して、同一又は異なって、直鎖又は分岐鎖、置換又は非置換のC
1〜C
12アルキルカルボニル鎖を表す)
1つの実施の形態によれば、R
1、R
2、及びR
3は、独立して、同一又は異なって、直鎖、非置換のC
1〜C
3アルキルカルボニル鎖等の直鎖、非置換のC
1〜C
12アルキルカルボニル鎖を表す。
【0031】
本発明の更なる実施の形態によれば、式IのR
1、R
2、及びR
3は、同一又は異なって、直鎖又は分岐鎖、置換又は非置換のC
1〜C
3アルキルカルボニル鎖を表す。
【0032】
本発明の1つの実施の形態によれば、式IのR
1、R
2、及びR
3は、メタノン、エタノン、アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノン、又はドデカノンからなる群より選択される。
【0033】
具体的には、例えば、精子がアルギン酸ハイドロゲルに包埋される場合、基質は、トリアセチン、トリプロピオニン及びトリブチリン、好ましくはトリプロピオニン及びトリブチリンからなる群より選択され得る。
【0034】
本発明の別の実施の形態によれば、ヒドロラーゼを含む溶液、又は該ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質を含む溶液は、アルギン酸ハイドロゲル中に包埋される目的物を更に含んでもよい。
【0035】
アルギン酸ゲルに包埋される目的物は、本発明の1つの態様によれば、生体材料、例えば精子等の細胞材料であってもよい。
【0036】
本発明の1つの実施の形態によれば、精子を含むアルギン酸ハイドロゲルを調製する方法であって、
i)トリアシルグリセロールリパーゼを含む溶液で精子を希釈することにより第1の溶液を形成する工程と、
ii)工程i)で得られた第1の溶液に、アルギン酸塩、二価陽イオン放出化合物、及び下記式Iで示す化合物を含む第2の溶液を添加するとともに、ゲル化を開始する工程と、
iii)工程ii)で得られた溶液をアルギン酸ハイドロゲルのゲル化用容器に移す工程と、
iv)任意に、iii)のアルギン酸ハイドロゲルを凍結保存に供する工程と、を含む、方法が提供される。
【化2】
(式中、R
1、R
2、及びR
3は独立して、同一又は異なって、直鎖又は分岐鎖、置換又は非置換のC
1〜C
12アルキルカルボニル鎖を表す)
【0037】
本発明の更に別の実施の形態によれば、精子を含むアルギン酸ハイドロゲルを調製する方法であって、
i)下記式Iで示す化合物を含む溶液で精子を希釈することによって第1の溶液を形成する工程と、
ii)工程i)で得られた溶液に、アルギン酸塩、二価陽イオン放出化合物、及びトリアシルグリセロールリパーゼを含む第2の溶液を添加するとともに、ゲル化を開始する工程と、
iii)ii)で得られた溶液をアルギン酸ハイドロゲルのゲル化用容器に移す工程と、
iv)任意に、iii)のアルギン酸ハイドロゲルを凍結保存に供する工程と、
含む、方法が提供される。
【化3】
(式中、R
1、R
2、及びR
3は独立して、同一又は異なって、直鎖又は分岐鎖、置換又は非置換のC
1〜C
12アルキルカルボニル鎖を表す)
【0038】
1つの実施の形態によれば、i)及びii)の第1の溶液及び第2の溶液は凍結保護物質を更に含み、iii)で得られた溶液は更に凍結保存に供される。さらに、以上に述べたように、本発明による精子を含むアルギン酸ハイドロゲルを調製する場合、iii)で得られた容器は、更に凍結保存に供されてもよく、ここで、工程i)及び/又は工程ii)の溶液は凍結保護物質を含む。
【0039】
本発明のこの実施の形態による工程i)及び/又は工程ii)の溶液に存在する凍結保護物質は、グリセロール、エチレングリコール、メタノール、DMA、DMSO、プロピレングリコール、トレハロース、グルコースからなる群より選択され得る。
【0040】
本発明による精子を含むアルギン酸ハイドロゲルを調製する場合、二価陽イオン放出化合物は、好ましくは炭酸カルシウムであってもよく、ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質は、好ましくはトリアセチン、トリプロピオニン及びトリブチリンからなる群より選択され得る。
【0041】
本発明の1つの実施の形態によれば、アルギン酸塩はグルロン酸が豊富なアルギン酸塩である。
【0042】
本発明の別の態様によれば、本発明により調製されるアルギン酸ハイドロゲルが提供される。
【0043】
本発明の1つの実施の形態において、本発明によるアルギン酸ハイドロゲルは、
a.アルギン酸塩と、
b.任意に、アルギン酸ハイドロゲルに包埋される目的物と、
c.アルギン酸ハイドロゲルの調製に使用されるヒドロラーゼと、
を含み得る。
【0044】
本発明によるアルギン酸ハイドロゲルは、アルギン酸塩のゲル化により形成され、ゲル化は、ヒドロラーゼ基質の加水分解の結果として二価陽イオン放出化合物から二価陽イオンが放出されることによって達成される。よって、形成されたハイドロゲルは、ゲルの形成に使用されたヒドロラーゼを含む。よって、本発明によるハイドロゲル中のヒドロラーゼの存在は、本発明の方法が適用されたことを示す。
【0045】
別の実施の形態によれば、本発明によるアルギン酸ハイドロゲルは、包埋した目的物を含む。別の実施の形態によれば、包埋される上記目的物は、細胞材料、例えば、精子等の生体材料である。
【0046】
本発明の更に別の態様によれば、ヒドロラーゼの入った1つの容器と、該ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質の入った第2の容器とを含むアルギン酸ハイドロゲルキットが提供される。
【0047】
本発明のこの態様によれる1つの実施の形態は、ヒドロラーゼを含む溶液の入った1つの容器と、アルギン酸塩、二価陽イオン放出化合物及び該ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質を含む溶液の入った第2の容器とを含む、アルギン酸ハイドロゲルキットに関する。
【0048】
この態様の更に別の実施の形態は、ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質を含む溶液の入った1つの容器と、アルギン酸塩、二価陽イオン放出化合物及びヒドロラーゼを含む溶液の入った第2の容器とを含む、アルギン酸ハイドロゲルキットに関する。
【0049】
最後に、本発明は、アルギン酸ハイドロゲルの調製におけるヒドロラーゼ及び該ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質の使用を提供する。1つの実施の形態によれば、この態様により使用される酵素は、リパーゼ、例えばトリアシルグリセロールリパーゼ等のエステラーゼである。
【0050】
この態様の1つの実施の形態によれば、本発明は、生体材料、好ましくは精子を包埋するアルギン酸ハイドロゲルの調製におけるヒドロラーゼ及び基質の使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0051】
発明の詳細な説明:
本発明は、様々な領域の用途に有用なアルギン酸ハイドロゲルを調製するための新規な方法を提供する。特に、本発明は、生体材料を包埋し固定化するのに特に有用なハイドロゲルを調製する新規な方法を提供する。
【0052】
本発明によるハイドロゲルを調製するのに、様々な種類のアルギン酸塩を使用することができる。グルロン酸:マンヌロン酸の比は重要ではなく、すなわち、所望の強度特性、安定特性、膨潤特性、浸食特性等に応じて、アルギン酸塩の種類、及びグルロン酸対マンヌロン酸の含有量が選択され得る。例えば、高Gアルギン酸塩の使用は、より強い、より安定なハイドロゲルを提供する。
【0053】
1つの実施形態によれば、ハイドロゲルを形成するために使用されるアルギン酸塩は、グルロン酸に富むアルギン酸塩である。本明細書で使用される「グルロン酸に富むアルギン酸塩」又は「高Gアルギン酸塩」の用語は、使用するアルギン酸塩の多糖高分子鎖中にマンヌロン酸に比べて多量のグルロン酸を含むアルギン酸塩を意味する。逆に、本明細書で使用される「高Mアルギン酸塩」又は「マンヌロン酸に富むアルギン酸塩」の用語は、グルロン酸に比べて多量のマンヌロン酸を含むアルギン酸塩を意味する。多量のマンヌロン酸又はグルロン酸のいずれかを含むアルギン酸塩それぞれと関連して使用される「高(rich)」の用語は、当業者によく知られており、一般的に使用され、例えば、Britt Iren Glaerum Svanem et al Journal of Biological Chemistry Vol 276, No 34, Aug 24 2001 pp31542-31550、Sumita Jain et al Molecular Microbiology (2003) 47(4), pp1123-1133、非特許文献2、Applied and Environmental Microbiology, Sept 1982, Vol. 44 No.3 pp754-756、特許文献3、米国特許出願公開第2006/0159823号、Ji Minghou (M. H. Chi) et al Hydrobiologia 116/117 (1984), pp554-556を参照されたい。
【0054】
本発明により使用される好適なアルギン酸塩型の非限定的な例は、ノルウェー、ドランメンのFMC Biopolymer ASから入手可能なFMC LF 10/40、FMC LF 10/60及びFMC LF 20/60、ノルウェー、オスロのSigmaから入手可能なA2033、又は例えばノルウェー、サンヴィカのNovaMatrixから入手可能なPronova UP MYGアルギン酸塩、Pronova UP LVGアルギン酸塩である。
【0055】
本発明によるアルギン酸ハイドロゲルの機能は、形成されたハイドロゲルの三次元形状とは独立しており、すなわち、アルギン酸ハイドロゲルは、例えば球状又は円柱状等の種々の形状を有し得る。アルギン酸ゲルの様々な形状は、ゲル化に使用する容器に応じて得ることができる。
【0056】
また、酵素及び基質に供された際にハイドロゲルからの二価陽イオンの放出をもたらす他の高分子を、本発明により使用することもできる。
【0057】
本発明によれば、酵素、すなわちヒドロラーゼをそれに対する好適な基質と共に使用し、アルギン酸塩のゲル化を開始する。本明細書で使用される「ヒドロラーゼ」の用語は、基質(複数の場合もあり)を含む溶液とヒドロラーゼを含む別の溶液とを混合する際にH
3O
+を産生することを可能にするヒドロラーゼを包含することを意味する。本発明の1つの実施形態によれば、ヒドロラーゼはリパーゼである。本発明の更に別の実施形態によれば、リパーゼはアシルヒドロラーゼであり、より好ましくは、例えば酵母カンジダ・ルゴサ(Candida rugosa)から単離されたトリアシルグリセロールリパーゼ等のトリアシルグリセロールリパーゼである。好適なリパーゼは、Sigma-Aldrich Co. LLC(L1754−Type VII又はL3001 Type I、CAS番号9001−62−1)から入手可能である。
【0058】
その基質の加水分解の際にH
3O
+純産生をもたらす任意のヒドロラーゼが、本発明により使用され得ることが理解される。よって、使用され得るヒドロラーゼは、カルボン酸エステルヒドロラーゼ、グリコシダーゼ及びケトン物質の炭素−炭素結合に作用する酵素からなる群より選択され得る。
【0059】
カルボン酸エステルヒドロラーゼの非限定的な例は、カルボキシルエステラーゼ、トリグリセロールリパーゼ、アセチルエステラーゼ、ステロールエステラーゼ、L−アラビノノラクトナーゼ、グルコノラクトナーゼ、アシルグリセロールリパーゼ、g−アセチルグルコースデアセチラーゼ、リポタンパク質リパーゼ、脂肪酸アシルエチルエステルシンターゼ、及びジアシルグリセロールアシルヒドロラーゼである。
【0060】
ケトン物質中の炭素−炭素結合に作用するヒドロラーゼの非限定的な例は、アシルピルビン酸ヒドロラーゼ(acylpyruvate hydrolase)及びアセチルピルビン酸ヒドロラーゼである。
【0061】
グリコシダーゼの非限定的な例は、a−ガラクツロニダーゼである。
【0062】
本発明によりアルギン酸ゲルを形成する場合、ヒドロラーゼ及びその基質は異なる溶液中に存在し、混合によってゲル化プロセスの開始がもたらされ、この2つの溶液のうち1つはアルギン酸塩及び二価陽イオン放出化合物を更に含む。混合の順序、すなわち、酵素を含む溶液を、基質を含む溶液に添加するのか、若しくはその逆であるのか、又は酵素を含む溶液にアルギン酸塩及び二価陽イオン放出化合物を更に含ませるのか、若しくはその逆であるのかは、重要ではない。
【0063】
本発明によるアルギン酸ハイドロゲルの形成において使用される基質は、酵素への結合によってH
3O
+の産生をもたらす基質である。よって、基質は、本発明により使用されるヒドロラーゼの種類に応じて変化し得る。
【0064】
本発明による好適な基質は、カルボン酸等の有機酸のエステルである。
【0065】
本発明の1つの実施形態によれば、基質は式I:
【化4】
(式中、R
1、R
2、及びR
3は独立して、同一又は異なって、直鎖又は分岐鎖、置換又は非置換のC
1〜C
12アルキルカルボニル鎖、例えば、メタノン、エタノン、アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノン、ドデカノン等を表す)の化合物である。1つの実施形態によれば、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれメタノンである。1つの実施形態によれば、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれエタノンである。さらに別の実施形態によれば、R
1、R
2、及びR
3はアセトンである。式Iの基質は、本発明によるヒドロラーゼとしてトリアシルグリセロールリパーゼを使用してアルギン酸ハイドロゲルを形成する場合に特に有用である。
【0066】
一次希釈液に存在する酵素への結合により、上記式Iのエステルはグリセロールとカルボン酸とに分割され、すなわち、そのようにしてH
3O
+を提供する。
【0067】
アルキルカルボニル鎖は、分岐鎖あってもよく、又は非分岐鎖であってもよい。さらに、アルキルカルボニル鎖は、置換されていてもよく、又は非置換であってもよい。当業者であれば、式Iによって包含される様々な基質を使用することができ、本明細書の教示に基づき、本明細書により使用される適切な基質を選択し得ることを認めるであろう。よって、当業者であれば、アルキル鎖の長さを、基質のグリセロール及びカルボン酸を産生する酵素の能力に影響を及ぼすことなく変化させることができ、そのようにしてH
3O
+イオンの放出がもたらされることを認めるであろう。
【0068】
本発明の好ましい実施形態によれば、基質は、下記式のトリアセチン、トリプロピオニン及びトリブチリンの群より選択される。
【化5】
【0069】
よって、1つの実施形態よれば、R
1、R
2、及びR
3はC1〜C4のアルキルカルボニルを表す。
【0070】
本発明の更に別の実施形態によれば、存在する基質は、トリプロピオニン及びトリブチリンからなる群より選択される。
【0071】
本発明によれば、上記に規定されるヒドロラーゼ及び基質の混合は、H
3O
+の産生をもたらす。さらに、上記H
3O
+は、二価陽イオン放出剤からの二価陽イオンの放出をもたらす。「二価陽イオン放出剤」の用語は、例えば、Ca
2+、Br
2+又はSr
2+の放出をもたらす化合物を包含することを意味する。
【0072】
本発明の1つの実施形態によれば、二価陽イオン放出剤は、CaCO
3、BrCO
3又はSrCO
3等の炭酸塩(carbonate salt)である。好ましい実施形態によれば、二価陽イオン放出剤は、例えば炭酸カルシウム等のカルシウム放出剤である。
【0073】
本発明の1つの実施形態によれば、本発明の方法は、ハイドロゲルの高分子マトリクス中に様々な材料を包埋するために提供される。本明細書で使用される「包埋する(embed)」又は「包埋している(embedding)」の用語は、本発明のアルギン酸ハイドロゲル中に材料を固定化するものとして理解されるべきであり、ここで、(ハイドロゲルが、高分子ネットワークを含まない液体コアの周囲に壁を形成するカプセル封入とは対照的に)アルギン酸塩ネットワークはハイドロゲルの全直径を通して存在する。
【0074】
「生体材料」の用語は、生体適合性ハイドロゲルにおける固定化又はカプセル封入に好適な任意の種類の生体材料を包含すると理解される。生体材料の非限定的な一覧は例えば、例えばインスリン産性細胞、モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞、又は人工授精及び他の生殖工学に利用される精子等の移植用細胞である。
【0075】
包埋される材料が精子である場合、包埋により、精子が生得的な運動能力を有することが阻止される。固定化の程度は、機械的強度、及び例えば授精後のレシピエント動物における分解能等のアルギン酸ハイドロゲルの特性に応じて変化し得る。
【0076】
1つの好ましい実施形態によれば、本方法により固定化される生体材料は精子である。本発明により調製されたアルギン酸ハイドロゲル中に固定化された精子は、任意に、液体窒素中での保存のため凍結保存され得る。本発明により調製した固定化された精子を含むアルギン酸ハイドロゲルを、アルギン酸ハイドロゲル中に好適な量の精子を固定化し、所望の大きさ、形状及び体積を有する、人工授精の手順において一般的に使用されるストロー等の容器中でゲル化することによって既製の(ready-to-use)授精一回用量で調製することができる。
【0077】
本発明のある1つの実施形態によりハイドロゲル中に精子を包埋(固定化)するため、精子を採取した後、酵素又は基質のいずれかを含む希釈液に希釈する。上記精子の希釈溶液は、任意に、およそ4℃まで冷却される。また、精子を希釈するのに使用する溶液を、本明細書においてエクステンダー溶液(例えば、実施例1を参照)と名付ける。
【0078】
本発明の好ましい実施形態によれば、基質又は酵素を含まないエクステンダー溶液に精子を一次希釈する。その後、二次希釈工程において基質又は酵素を添加し、ここで、使用されるエクステンダー溶液は、その後、酵素又は基質のいずれかを更に含む。
【0079】
1つの実施形態によれば、精子に対して、ヒドロラーゼ酵素を含むエクステンダー溶液中に2度目の希釈を行う。そのようにして得られた溶液を、その後、アルギン酸塩、炭酸カルシウム、及び任意にグリセロール等の凍結保護物質、並びに希釈した精子及び酵素を含む第1の溶液中に存在する酵素に対する基質を含む第2の溶液と混合する。2つの溶液の添加及び混合により、酵素は基質に結合して酸の形成をもたらし、それによりH
3O
+のレベルが上昇する。バッファーとして作用する炭酸カルシウムは、pHの上昇を阻止してCa
2+の放出とCO
2の産生をもたらす。Ca
2+の放出は、アルギン酸塩の多糖鎖の交差結合をもたらし、それによりアルギン酸ハイドロゲルの形成がもたらされる。
【0080】
また、精子は、本発明により使用される酵素によって加水分解可能な基質を含むエクステンダー溶液に希釈し、その後それを、酵素、炭酸カルシウム、及び任意に凍結保護物質を含む第2の溶液と混合してもよいことが理解される。
【0081】
よって、精子は、エクステンダー溶液で最初に希釈され、その後、更に基質を含む更なるエクステンダー溶液を添加することによって二次希釈に供され得る。そのようにして得られた溶液は、その後、酵素、アルギン酸塩、炭酸カルシウム、及び任意にグリセロール等の凍結保護物質を含む溶液と混合され得る。2つの溶液の混合により、ゲル化が開始される。
【0082】
精子を希釈するために使用される溶媒の温度、及び更なるゲル形成工程の温度は、例えば、精子の種類及び供給源に応じて変化し得る。よって、本発明の方法は、冷蔵条件又は室温(例えば、20℃〜40℃)又は例えば30℃〜35℃等の一層高い温度で実施され得る
【0083】
本発明の方法は、使用する酵素の量を変化させることによってゲル化プロセスの速度を制御することを可能とする。さらに、使用するアルギン酸塩の濃度は、形成されるハイドロゲルの機械的特性に影響を及ぼすことから、ハイドロゲルの溶解特性にも影響を及ぼす。よって、アルギン酸塩の濃度は、所望のハイドロゲルの特性に応じて、またハイドロゲルの適用領域に応じて変化し得る。当業者であれば、本明細書の教示に基づき、所望のゲル強度及び所望のゲル化時間を得るために、酵素、基質及びアルギン酸塩の好適な使用量を選択することができる。
【0084】
例えば、本発明による2つの溶液を混合した後に得られる精子/アルギン酸塩溶液1リットル当たり3gのトリアシルグリセロールリパーゼ、及び100ml当たり0.3g〜1gの基質の使用は、溶液が約4℃で維持された場合に約2時間〜3時間のゲル化時間をもたらす。さらに、基質の量は、使用する酵素の種類によって変化し得る。
【0085】
さらに、2つの溶液を混合する際の酸の量及びそれにより産生されるH
3O
+の量は、第2の希釈液に存在する基質の量によって制御され得る。このことから、上記方法のゲル加速度及び最終pHの両方を制御することが可能であり、これは産業的な見地から有利である。酵素又は基質のいずれかを含むエクステンダー溶液に希釈した精子を混合する際にゲル化が始まることから、いつでも生産の観点から好適なゲル化を行うことができる、改善されたより容易な生産方法が提供される。
【0086】
生体材料の包埋のため、混合される溶液は例えば、例えば抗体、エクステンダー、抗酸化剤、バッファー等の保存目的に有用な化合物を更に含んでもよいことが理解される。特許文献7を参照されたい。
【0087】
本発明によるアルギン酸ハイドロゲルに包埋される生体材料、例えば生細胞の濃度は、材料の種類/供給源に応じて変化し得る。精子を包埋する場合、濃度は、品種、レシピエント動物、授精技術、追加の化合物の存在(例えば、保存目的のため)等に応じて更に変化する場合がある。例えば特許文献7を参照されたい。
【0088】
本発明は、細胞又は組織の形態の生体材料をアルギン酸ゲルに包埋するために特に有用であるが、本発明により調製されたアルギン酸ゲルは、生体材料以外の他の目的物の包埋又は固定化を含む他の用途範囲、またハイドロゲル自体を含む用途をも有することが理解される。よって、本発明は、本明細書中の実施例に具体的に開示される用途に限定するものと解釈されるものではない。
【0089】
よって、他の対象となる目的物もまた、本発明によって調製されたアルギン酸ハイドロゲルに包埋され得る。本明細書で使用される「アルギン酸ハイドロゲルに包埋される目的物」の用語は、ハイドロゲルに固定化されるのに好適な任意の材料を包含することを意味する。例えば、本発明によるアルギン酸ハイドロゲルが、放出制御システムとして使用される場合、包埋される目的物は薬学的活性成分であってもよい。例えば、本発明によって調製されるアルギン酸ゲルは、薬学的活性成分等の広範な化合物に対する放出制御又は徐放性送達システムとして使用されてもよい。例えば、国際公開第98/46211号、米国特許第US4,695,463号、米国特許第6,656,508号(引用することにより本明細書の一部となる)を参照されたい。本発明によりアルギン酸ハイドロゲルに包埋される薬学的活性成分の非限定的な群は、例えば、成長因子、ホルモン、抗体、インターフェロン、インターロイキン等の組換え若しくは天然由来のタンパク質若しくはポリペプチド、天然若しくは合成若しくは半合成の化合物である。また、本発明によるアルギン酸ハイドロゲルは、食品産業における、例えば栄養素の包埋に対する有用性も有し得る。
【0090】
また、本発明により調製されたハイドロゲルは、それ自体を他の産業目的、製薬産業若しくは化粧品産業(例えば、増粘剤として、創傷被覆材において、口腔衛生製品及び方法において)の両方、又はヒト及び動物の食品産業(例えば、再構成食品の調製において、増粘剤として等)において使用され得る。
【0091】
本発明は、従来技術と比較して利益を提供する。例えば、特許文献8に記載される技術を使用する場合、反応速度及び酸の産生量は、GDLの濃度を変化することにより影響を受け得る。しかしながら、GDL濃度の変化は、同時に、酸の産生量、ひいてはゲルの最終pHにも影響を与える。ゲル化を開始するのに酵素及び該酵素によって加水分解可能な基質を使用するアルギン酸ハイドロゲルの調製は、反応速度及び最終pHを、酵素及び基質の濃度を各々変化させることによって個別に制御することができることから、反応速度及び酸の産生量(ゲルのpH)の顕著に良好な制御を可能にする。
【0092】
本発明の更に別の態様によれば、本発明は、ヒドロラーゼの入った容器と、該ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質の入った別の容器とを含むアルギン酸ハイドロゲルキットを提供する。また、本発明によるキットは、本発明によるアルギン酸ハイドロゲルをキャスティングするのに必要な他の化合物を含んでもよい。よって、上記キットは、アルギン酸塩及び二価陽イオン放出化合物も含み得る。上記化合物は、ヒドロラーゼの入った容器、該ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質の入った容器に含まれてもよく、又はそれらは別々の容器(複数の場合もあり)に含まれてもよい。
【0093】
また、容器は、本発明のキットを使用してキャストされるアルギン酸ハイドロゲルの使用に応じて、具体的な対象となる他の化合物を含んでもよい。
【0094】
例えば、キットが、細胞材料、例えば、精子等の生体材料を含むゲルをキャスティングするために使用され、得られるアルギン酸ハイドロゲルが更に凍結保存に供される場合、上記キットは、例えばグリセロール、エチレングリコール、メタノール、DMA、DMSO、プロピレングリコール、トレハロース、グルコース等の凍結保護物質を更に含んでもよい。上記凍結保護物質(複数の場合もあり)は、ヒドロラーゼの入った容器、該ヒドロラーゼによって加水分解可能な基質の入った容器に含まれてもよく、又はそれらは別々の容器(複数の場合もあり)に含まれてもよい。
【0095】
また、キットは、当業者に既知の、例えば抗生物質、エクステンダー、抗酸化剤、バッファー等の保存目的に有用な他の化合物を含んでもよい。例えば、特許文献7を参照されたい。
【0096】
説明するのに、以下の実施例を提示する。下記実施例は本発明の範囲を限定するものとして解釈されるものではないことが理解される。上記本発明の様々な実施形態の説明は、本発明の概略的な特徴を明らかにするものであり、当業者であればハイドロゲルの領域の一般的な知識を適用することによって、過度な実験を伴うことなく、本発明の一般概念及び同封された特許請求の範囲から逸脱することなく、容易に本発明の方法を改変し及び/又は適合させるであろう。よって、かかる適合又は改変は、本明細書に提示される教示及び指針に基づき、開示される実施形態と均等な意味の範囲内であることが意図される。本明細書で使用される専門用語は、説明目的のためであって限定を目的とするものではないことが理解される。よって、本明細書の専門用語は、当業者の知識と組み合わせ、本明細書に提示される教示及び指針に照らして当業者により解釈されるものである。
【実施例】
【0097】
実施例1:ウシ精子の固定化
材料及び方法
材料
以下の化学物質を使用した:Sigma(アメリカ、セントルイス)よりトリズマ塩酸塩及びEDTA、Riedel de Haeen(ドイツ、ゼールツェ)よりNaHCO
3、NaCl、グリセロール(99%超)、クエン酸ナトリウム及びピルビン酸ナトリウム、Norsk Medisinaldepot(ノルウェー、オスロ)よりフルクトース及びグルコース一水和物、KSL staubtechnik gmbh(ドイツ、ラウインゲン)より炭酸カルシウム、並びにFMC Biopolymer A/S(ノルウェー、ドランメン)よりアルギン酸ナトリウム(PROTANAL LF 10/60)。
【0098】
精子の供給源
ノルウェー、トロンハイムのハルシュタインガード及びシュタンゲのストーレリーのGeno施設でウシ精子を採取した。
【0099】
バッファー溶液
以下のエクステンダー溶液を使用した:
【0100】
精子の一次希釈用エクステンダー:1.45g/lのトリズマ塩酸塩グルコース、0.4g/lのクエン酸ナトリウム、1g/lのフルクトース、0.22g/lのピルビン酸ナトリウム、及び200ml/lの卵黄。NaONを添加して溶液のpHを6.4に調整した。
【0101】
精子の二次希釈用エクステンダー溶液:4g/lの炭酸カルシウム(別段の指定がない限り)、54g/lのフルクトース、170g/lのグリセロール及び24g/lのLF10/60アルギン酸ナトリウム。いずれのエクステンダーもEU dir 88/407で要求される最終濃度を少なくとも与える標準抗生物質カクテルを含有する。改変IVT:3g/lのグルコース、20g/lのクエン酸ナトリウム、2.1g/lのNaHCO
3、1.16g/lのNaCl、3g/lのEDTA(pH7.35)。エクステンダー溶液に以下に規定される酵素(Sigma L1754)又は基質のいずれかを添加した。
【0102】
ウシ精子の希釈、固定化及び凍結保存
ウシ精子をGeno施設で採取し、以下に記載の通り希釈した:採取の直後、一次希釈用エクステンダー溶液中1ml当たり219×10
6細胞の濃度まで精子を希釈した。その後、この溶液を直ちに等容量の更なる希釈用エクステンダーと混合した。ここでは上記エクステンダー溶液は、酵素又は基質のいずれかを含んでいた。その後、得られた希釈した精子を含有する溶液を4℃まで冷却した。4℃まで冷却した後、溶液を等容量の三次希釈用エクステンダー溶液と混合した。ここでは上記エクステンダーは、前工程由来の希釈された精子が酵素を含んでいた場合にはいずれかの基質(トリアセチン、トリプロピオニン又はトリブチリン)を含み、又は前工程由来の希釈された精子が基質を含んでいた場合には酵素を含んでいた。さらに、上記エクステンダーは、この時、二価陽イオン放出化合物として炭酸カルシウムと、アルギン酸塩とを含んでいた。その後、得られた溶液を授精ストローに移し、4℃にておよそ3時間平衡化させた。その後、授精ストローをN
2冷凍庫に移し、ウシ精液用の標準的手順に従って凍結した。
【0103】
運動性の評価
精子の運動性を顕微鏡的判定により評価した。凍結した精液ストローを37℃のウォーターバスに30秒間保持することによって解凍した。測定前に改変IVT溶液でアルギン酸ゲルを液化した。授精ストローの内容物を0.9mlのIVT溶液に添加し、およそ10分間チューブタンブラー上で注意深く振盪した。運動性の評価の前に、チューブを37℃のヒートブロックにおいて最低15分間予熱した。およそ3μlの溶液を予熱した顕微鏡スライドに添加し、光学顕微鏡を使用して直ちに検査した。各試料中の運動性精子の数を最近傍5%間隔と推定した。実質的に可能であれば、評価中、オペレータは試料の属性について知らされていなかった。
【0104】
結果
a)基質としてトリアセチンを使用するウシ精子の固定化
上記手順に従って精子を回収し、希釈した。二次希釈用エクステンダー溶液に、精子を含有する最終溶液中6g/lの濃度まで酵素(Sigma L1754)を添加した。三次希釈用エクステンダー溶液は8g/lの炭酸カルシウムを含有し、そこに0.5g/100mlの濃度までトリアセチンを添加した。二次希釈のおよそ4時間後、精子を固定化したゲルが形成された。4℃でのおよそ24時間の保存の後、ゲルを液化し、固定化した精子の運動性を評価した。その際、およそ60%の精子が運動性であった。
【0105】
b)トリプロピオニンを基質として使用するウシ精子の固定化
上記手順に従って精子を回収し、希釈、固定化して凍結保存した。二次希釈用エクステンダー溶液に、希釈した精子を含有する最終溶液中6g/lの濃度まで酵素(Sigma L1754)を添加した。三次希釈用エクステンダー溶液は4g/lの炭酸カルシウムを含有し、そこに0.30g/100mlの濃度までトリプロピオニンを添加した。二次希釈のおよそ3時間後、ゲルが形成され、固定化した精子を含むストローを凍結した。精液ストローを、解凍して運動性を評価するまで液体N
2中で数日保存した。解凍及びゲルの液化後、およそ60%の精子が運動性であった。
【0106】
c)トリプロピオニンを基質として使用するウシ精子の固定化
上記手順に従って精子を回収し、希釈し、固定化して凍結保存した。二次希釈用エクステンダー溶液に、希釈した精子を含有する最終溶液中0.30g/100mlの濃度までトリプロピオニンを添加した。三次希釈用エクステンダー溶液は4g/lの炭酸カルシウムを含有し、そこに6g/lの濃度まで酵素Sigma L1754を添加した。二次希釈のおよそ2時間後、ゲルが形成された。4℃でのおよそ24時間の保存の後、ゲルを液化し、固定化した精子の運動性を評価した。その際、およそ60%の精子が運動性であった。
【0107】
d)トリブチリンを基質として使用するウシ精子の固定化
上記手順に従い、精子を回収し、希釈し、固定化して凍結保存した。二次希釈用エクステンダー溶液に、希釈した精子を含有する最終溶液中6g/lの濃度まで酵素(Sigma L1754)を添加した。三次希釈用エクステンダー溶液は、4g/lの炭酸カルシウムを含有し、そこに0.35g/100mlの濃度までトリブチリンを添加した。二次希釈のおよそ3時間後、ゲルが形成され、固定化した精子を含むストローを凍結した。精液ストローを、解凍して運動性を評価するまで液体N
2中で数日保存した。解凍及びゲルの液化後、およそ60%の精子が運動性であった。
【0108】
実施例2 リパーゼ酵素及びトリアセチン基質又はトリオクタノエート基質を使用するアルギン酸カルシウムゲルの制御された調製
【0109】
材料及び方法
材料
FMC Biopolymer A/S(ノルウェー、ドランメン)よりアルギン酸ナトリウム(PROTANAL LF 10/60)、Sigma(アメリカ、セントルイス)より酵素L3001及びL1754、Sigma(アメリカ、セントルイス)よりトリアセチン及びトリオクタノエート、KSL staubtechnik gmbh(ドイツ、ラウインゲン)より炭酸カルシウム。
【0110】
溶液
以下の溶液を使用した。溶液L1.1:蒸留水中のL3001酵素の10g/l溶液、溶液L1.2:蒸留水中0.2g/lのトリアセチン。溶液L2.1:蒸留水中4g/lの炭酸カルシウム、24g/lのLF10/60アルギン酸ナトリウム、及び0.1g/lのトリアセチン。溶液L2.2:蒸留水中4g/lの炭酸カルシウム、24g/lのLF10/60アルギン酸ナトリウム、及び0.2g/lのトリアセチン。溶液L2.3:蒸留水中4g/lの炭酸カルシウム、24g/lのLF10/60アルギン酸ナトリウム、及び0.3g/lのトリアセチン。溶液L2.4:蒸留水中4g/lの炭酸カルシウム、24g/lのLF10/60アルギン酸ナトリウム、及び10g/lのL3001酵素。溶液L2.5:蒸留水中4g/lの炭酸カルシウム、24g/lのL10/60アルギン酸ナトリウム及び0.3g/lのトリオクタノエート。
【0111】
ゲル化の開始
L1溶液のうちの1つと等容量のL2溶液のうちの1つとを混合することによってゲル化を開始した。溶液を表1に従って混合した。
【0112】
【表1】
【0113】
混合前、全ての溶液は常温であり、ゲル化のため溶液を常温に置いた。溶液の目視検査によりゲル化反応の時間経過を追った。
【0114】
結果
酵素L3001(コムギ胚芽由来リパーゼ)及びL1754(カンジダ・ルゴサ由来リパーゼ)と、基質トリアセチン及びトリオクタノエートとを、アルギン酸ナトリウム溶液の制御されたゲル化に使用した。酵素及び基質の溶液を調製し、表1に従って混合した。酵素と基質との間の反応は、溶液中に懸濁した炭酸カルシウムと反応するH
3O
+イオンを産生する。この反応は、溶液中のアルギン酸塩高分子鎖と相互作用するカルシウムイオンを放出し、ゲルが形成される。実験においてゲルが形成される前の観察時間を表2に示す。酵素が添加されなかった実験5において、ゲルは形成されなかった。結果は、反応時間は、選択された基質及び酵素の種類、また使用した酵素及び基質の濃度の両方に依存することを示す。
【0115】
【表2】