(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097792
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】ギヤドモータ
(51)【国際特許分類】
H02K 7/116 20060101AFI20170306BHJP
F16H 1/46 20060101ALI20170306BHJP
F16D 7/04 20060101ALI20170306BHJP
【FI】
H02K7/116
F16H1/46
F16D7/04 A
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-128514(P2015-128514)
(22)【出願日】2015年6月26日
(65)【公開番号】特開2017-11975(P2017-11975A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2016年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001225
【氏名又は名称】日本電産コパル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】特許業務法人 英知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】百瀬 陽介
【審査官】
小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−130144(JP,A)
【文献】
特開2007−37363(JP,A)
【文献】
特開2016−121738(JP,A)
【文献】
特開平10−159866(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/039362(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 7/116
F16D 7/04
F16H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ部と、出力軸を有する遊星歯車伝動機構を備えたギヤ伝動部とを備え、
前記ギヤ伝動部は、
前記モータ部に駆動される入力太陽歯車周りの遊星歯車の公転を出力側に伝動するキャリアを備え、
前記キャリアは、係合部を有すると共に前記遊星歯車を軸支するキャリアピンを有する第1キャリア部材と、前記係合部に係合する被係合部を有すると共に出力伝動要素を有する第2キャリア部材とを備え、
前記係合部と前記被係合部の係合が前記出力伝動要素に加わる過負荷で外れるように設定されていることを特徴とするギヤドモータ。
【請求項2】
前記係合部は、前記入力太陽歯車周りに設けた複数の凸部又は凹部であり、
前記被係合部は、前記出力伝動要素周りに設けた複数の凹部又は凸部であることを特徴とする請求項1記載のギヤドモータ。
【請求項3】
前記第1キャリア部材は、前記入力太陽歯車周りに複数配置されると共に前記入力太陽歯車の軸方向に沿って延びる脚部を備え、前記脚部の内面に前記係合部が設けられ、
前記第2キャリア部材は、前記出力伝動要素の軸に直交する円盤部を備え、前記円盤部の外周面に前記被係合部が設けられることを特徴とする請求項1又は2記載のギヤドモータ。
【請求項4】
前記遊星歯車は、前記入力太陽歯車周りに等角度で配置され、
前記脚部は、前記遊星歯車間のスペースに設けられることを特徴とする請求項3記載のギヤドモータ。
【請求項5】
前記脚部は、前記入力太陽歯車の中心に向いて突出し、前記入力太陽歯車の軸方向に沿って延設されるリブを備えることを特徴とする請求項3又は4に記載のギヤドモータ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載されたギヤドモータと、該ギヤドモータによって作動する作動部を備えることを特徴とする携帯電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの回転を歯車伝動機構を介して出力するギヤドモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種装置(或いは機器)の電動機構には、モータの回転出力を歯車伝動機構により減速して出力するギヤドモータが用いられている。ギヤドモータは、モータの回転軸と同軸又は平行の出力軸を有するものがあり、このようなギヤドモータは、ギヤケース内に遊星歯車減速機構を配備しているものが知られている(例えば、下記特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−37363号公報
【特許文献2】特開2007−159237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各種装置に組み込まれるギヤドモータは、出力軸に大きな負荷が加わって歯車などに破損が生じても、部品交換が実質的に困難な場合がある。これに対しては、歯車伝動機構にトルクリミッタを組み込むことが考えられるが、これによると、トルクリミッタを設ける為のスペースが必要になり、また、部品点数が大幅に増加することになる。このため、ギヤドモータの小型化が困難になり、省スペース化の要求に応えられない問題が生じる。
【0005】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、ギヤドモータにおいて、部品点数を大幅に増やすこと無くトルクリミッタを組み込むことができ、出力軸に加わる大きな負荷に対する破損を防止すると共に、省スペース化が可能なギヤドモータを得ること、などが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために、本発明によるギヤドモータは、以下の構成を具備するものである。
モータ部と、出力軸を有する遊星歯車伝動機構を備えたギヤ伝動部とを備え、前記ギヤ伝動部は、前記モータ部に駆動される入力太陽歯車周りの遊星歯車の公転を出力側に伝動するキャリアを備え、前記キャリアは、係合部を有すると共に前記遊星歯車を軸支するキャリアピンを有する第1キャリア部材と、前記係合部に係合する被係合部を有すると共に出力伝動要素を有する第2キャリア部材とを備え、前記係合部と前記被係合部の係合が前記出力伝動要素に加わる過負荷で外れるように設定されていることを特徴とするギヤドモータ。
【発明の効果】
【0007】
このような特徴を有する本発明のギヤドモータは、ギヤドモータにおいて、部品点数を大幅に増やすこと無くトルクリミッタを組み込むことができ、出力軸に加わる大きな負荷に対する破損を防止すると共に、省スペース化が可能なギヤドモータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るギヤドモータの分解斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るギヤドモータのキャリア((a)が第1キャリア部材、(b)が第2キャリア部材)を示している。
【
図3】本発明の実施形態に係るギヤドモータの出力で駆動する電動機構を備えた携帯電子機器を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るギヤドモータを示している。ギヤドモータ1は、モータ部10とギヤ伝動部20を備えており、モータ部10とギヤ伝動部20の出力軸21とが同軸になっている。
【0010】
モータ部10は、図示省略した回転軸を含むロータと、その周囲に配置される枠体11を含むステータからなるステッピングモータである。枠体11にはブラケット12が装着されている。枠体11の外周には入力端子13が設けられている。このモータ部10には、入力太陽歯車22が装着されている。この例では、入力太陽歯車22は、モータ部10の回転軸に装着されてモータ部10によって駆動されるが、モータ部10の回転軸から歯車などの伝動機構を介して駆動されるものであってもよい。
【0011】
ギヤ伝動部20は、モータ部10と同軸の出力軸21を有する遊星歯車伝動機構を備えている。遊星歯車伝動機構は、モータ部10に駆動される入力太陽歯車22、第1遊星歯車23、第1のキャリア24、中間太陽歯車(出力伝動要素)25、第2遊星歯車26、第2のキャリア27、固定内歯車を備えるギヤケース28を備えている。図示の例では、出力軸21がモータ部10と同軸になる例を示しているが、これに限らず、出力軸21がモータ部10の回転軸と平行に配置されるものであってもよい。
【0012】
また図示の例では、第1遊星歯車23と第1のキャリア24と中間太陽歯車25により第1遊星歯車ユニットが構成され、第2遊星歯車26と第2のキャリア27と出力軸21により第2遊星歯車ユニットを構成しているが、出力伝動要素である中間太陽歯車25を出力軸として、第1遊星歯車ユニットのみで遊星歯車機構を構成しても良い。
【0013】
ここで、第1のキャリア24は、第1キャリア部材24Xと第2キャリア部材24Yからなっており、第1キャリア部材24Xのキャリアピン24Aに第1遊星歯車23が軸支され、第2キャリヤ部材24Yの中心と同軸になるように第2キャリヤ部材24Yと中間太陽歯車(出力伝動要素)25が一体になっている。また、第2のキャリア27のキャリアピン27Aに第2遊星歯車26が軸支され、第2のキャリア27の中心と同軸になるように第2キャリア27と出力軸21が一体になっている。
【0014】
第1遊星歯車23と第2遊星歯車26が噛み合う固定内歯車は、ギヤケース28の内側に形成されている。ギアケース28は、開口部28Aを備えており、開口部28Aから出力軸21を突出させる。出力軸21は止め部21Aを備えており、止め部21Aにリング29を嵌めることで、ギヤケース28の抜け止めを図っている。また、ギアケース28は、モータ部10側の端部に被係合部(被係合孔)28Bを備えており、被係合部28Bをモータ部10のブラケット12における係合部12Aに係合させることで、ギアケース28はモータ部10に取り付けられる。
【0015】
図2は、第1のキャリア24の構成例を示している。図において、(a)が第2キャリア部材24Yを示し、(b)が第1キャリア部材24Xを示している。第1キャリア部材24Xは、モータ部10のブラケット12における摺動面12B上を摺動する摺動台座24Bを備えている。摺動台座24Bは、中央に開口24B1を有しており、その開口24B1に入力太陽歯車22が挿通される。摺動台座24Bには、第1遊星歯車23を入力太陽歯車22の周りに等角度で配置するためのキャリアピン24Aと、入力太陽歯車22の軸方向に沿って延設される脚部24Cを設けている。ここで、キャリアピン24Aと脚部24Cは開口24B1の周りに交互に等間隔で配置されている。これによって、第1遊星歯車23の間のスペースに脚部24Cが配置される。
【0016】
第1キャリア部材24Xの摺動台座24Bに設けられる脚部24Cは、入力太陽歯車22周りに複数配置されると共に、入力太陽歯車22の軸方向に沿って延設され、その内面に係合部24Dが設けられる。一方、第2キャリア部材24Yは、出力伝動要素である中間太陽歯車25の軸に直交する円盤部24Eを備え、この円盤部24Eの外周面に被係合部24Fが設けられる。そして、係合部24Dと被係合部24Fとが係合することで、第1キャリア部材24Xと第2キャリア部材24Yは一体となり第1のキャリア24として入力太陽歯車22の周りを回転する。
【0017】
ここで、係合部24Dと被係合部24Fは、トルクリミッタを構成している。すなわち、出力伝動要素である中間太陽歯車25に過負荷が加わった場合には、係合部24Dと被係合部24Fの係合が外れて、モータ部10の回転を第1のキャリア24の出力側に伝達しない構造になっている。
【0018】
図示の例では、脚部24Cの内面に設けられる係合部24Dを、入力太陽歯車22周りに設けた複数の凸部(又は凹部)とし、円盤部24Eの外周面に設けた被係合部24Fを、出力伝動要素である中間太陽歯車25の周りに設けた複数の凹部(又は凸部)としており、係合部24Dの凸部(又は凹部)と被係合部24Fの凹部(又は凸部)の嵌まり具合によって、伝達トルクの限界値を設定している。
【0019】
また、係合部24Dは、摺動台座24Bに片持ち支持される脚部24Cの自由端に設けられるので、脚部24Cの撓み剛性によって第1のキャリア24における伝達トルクの限界値が設定される。図示の例では、脚部24Cは、入力太陽歯車22の中心に向いて突出し、入力太陽歯車22の軸方向に沿って延設されるリブ24Gを備えるので、このリブ24Gの形状(断面係数)を適宜設定することで、第1のキャリア24が伝達するトルクの限界値を設定することができる。
【0020】
このようなギヤ伝動部20は、モータ部10に駆動される入力太陽歯車22に第1遊星歯車23が噛み合い、第1遊星歯車23がギヤケース28の固定内歯車28に噛み合うことで、モータ部10に駆動される入力太陽歯車22の回転によって第1遊星歯車23が入力太陽歯車22の周りを公転し、その公転によって第1のキャリア24が入力太陽歯車22と同軸に回転する。第1のキャリア24と一体に回転する中間太陽歯車25には、第2遊星歯車26が噛み合い、第2遊星歯車26がギアケース28の固定内歯車に噛み合うことで、第1のキャリア24と一体の中間太陽歯車25の回転によって、第2遊星歯車26が中間太陽歯車25の周りを公転し、その公転によって第2のキャリア27が入力太陽歯車22と同軸に回転する。これによって、モータ部10の回転が減速されて第2のキャリア27と一体の出力軸21に伝動される。
【0021】
モータ部10にギヤ伝動部20を組み付けた状態では、モータ部10の回転軸に入力太陽歯車22が圧入され、第1キャリア部材24Xの摺動台座24Bがブラケット12の摺動面12B上に載置され、摺動台座24Bに設けたキャリアピン24Aが第1遊星歯車23を軸支する。また、第1キャリア部材24Xの係合部24Dに対して、第2キャリア部材24Yの被係合部24Fを係合して第1のキャリア24を一体化し、第2遊星歯車26が第2キャリア部材24Yの円盤部24E上に載置され、第2遊星歯車26が中間太陽歯車25に噛み合い、第2のキャリア27のキャリアピン27Aで第2遊星歯車26を軸支する。ギヤケース28は、その内側の固定内歯車と第1遊星歯車23及び第2遊星歯車26とが噛み合わせられ、ギヤケース28に設けた被係合部28Bをブラケット12の係合部12Aに係合することで、ギヤケース28がモータ部10に取り付けられる。
【0022】
ここで、モータ部10とギヤ伝動部20との組み付けは、ギヤケース28を逆さにして、その内部に、第2のキャリア27、第2遊星歯車26、第1遊星歯車23を組み付けて一体化した第1のキャリア24を順次入れ込み、最後に入力太陽歯車22を装着したモータ部10を挿入して、ギヤケース28の被係合部28Bとモータ部10の係合部12Aを係合する。
【0023】
このようなギヤドモータ1によると、出力軸21に大きな負荷が加わると、第1のキャリア24に組み込まれたトルクリミッタが働き、係合部24Dと被係合部24Fの係合が外れて、ギヤ伝動部20の破損が回避される。この際、トルクリミッタは、第1のキャリア24を第1キャリア部材24Xと第2キャリア部材Yに分割して、第1キャリア部材24Xに係合部24Dを設け、第2キャリア部材24Yに被係合部24Fを設けた簡単な構造になっているので、部品点数を増やすこと無くトルクリミッタをギヤ伝動部20に組み込むことができる。
【0024】
そして、第1キャリア部材24Xの係合部24Dと第2キャリア部材24Yの被係合部24Fの係合は、モータ部10の軸方向に沿った追加スペースを形成することがなく、また、ギヤ伝動部20内の伝動要素が軸方向に沿ってスペースを空けること無く配置されているので、軸方向の全長を短することができる。これによって、省スペース化が可能なギヤドモータ1を得ることができる。
【0025】
図3は、本発明の実施形態に係るギヤドモータ1の出力で駆動する電動機構を備えた携帯電子機器100を示している。スマートホンなどの携帯電子機器100は、カメラユニット(作動部)101を備えているが、このカメラユニット101における撮影方向調整の電動機構などにギヤドモータ1を用いることができる。また、携帯電子機器100の画面を覆うカバー(作動部)を設けて、このカバーを開閉する電動機構としてギヤドモータ1を用いることもできる。ギヤドモータ1は、全長を短くできるので、携帯電子機器100内の設置占有スペースを最小限に抑えることができ、携帯電子機器100の高機能化が可能になる。
【0026】
以上、本発明の実施の形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0027】
1:ギヤドモータ,
10:モータ部,11:枠体,
12:ブラケット,12A:係合部,12B:摺動面,13:入力端子,
20:ギヤ伝動部,21:出力軸,21A:止め部,
22:入力太陽歯車,
23:第1遊星歯車,24:第1のキャリア,24A:キャリアピン,
24B:摺動台座,24B1:開口,24C:脚部,24D:係合部,
24E:円盤部,24F:被係合部,24G:リブ,
24X:第1キャリア部材,24Y:第2キャリア部材,
25:中間太陽歯車(出力伝動要素),26:第2遊星歯車,
27:第2のキャリア,27A:キャリアピン,
28:ギヤケース,28A:開口部,28B:被係合部(被係合孔),
29:リング,100:携帯電子機器,101:カメラユニット(作動部)