(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097802
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】生体組織の接触凝固用装置
(51)【国際特許分類】
A61B 18/12 20060101AFI20170306BHJP
【FI】
A61B18/12
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-174876(P2015-174876)
(22)【出願日】2015年9月4日
(65)【公開番号】特開2016-55172(P2016-55172A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2015年10月8日
(31)【優先権主張番号】14183771.6
(32)【優先日】2014年9月5日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】592245823
【氏名又は名称】エルベ エレクトロメディジン ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Erbe Elektromedizin GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】サンドラ・ケラー
(72)【発明者】
【氏名】マルク・ケグライス
【審査官】
毛利 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−517498(JP,A)
【文献】
特開2002−325772(JP,A)
【文献】
特開2012−232141(JP,A)
【文献】
特表2004−512135(JP,A)
【文献】
特開2002−306505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 18/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織(16)の接触凝固に用いられる装置(10)であって、
高周波電圧(UApp)を供給し、高周波電流(IApp)を流す発電機(17)と、
前記発電機(17)により供給される前記高周波電圧(UApp)を特定する発電機制御部(19)と、
前記発電機(17)により高周波電流を供給される少なくとも1つの電極(22)を備える器具(11)と、
生体組織インピーダンス(Z)を監視する測定部(23)と、
生体組織インピーダンス(Z)の最小値(Zmin)を検出する最小値検出器(24)とを備え、
前記最小値検出器(24)は、前記発電機制御部(19)に接続され、生体組織インピーダンス(Z)の最小値(Zmin)を検出すると、前記発電機(17)に減少した高周波電圧(UApp)を供給させ、
前記発電機制御部(19)は、印加電圧(UApp)に対する調整値(UEin)を格納し、さらに、凝固工程初期に、前記発電機(17)に前記調整値(UEin)より高い値の印加電圧(UApp)を供給させる
装置。
【請求項2】
前記凝固工程初期の印加電圧(UApp)は、少なくとも前記調整値(UEin)の2倍である
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記発電機制御部(19)は、前記発電機(17)に前記調整値(UEin)以下の値の印加電圧(UApp)を供給させることにより、生体組織インピーダンス(Z)の第1の最小値(Zmin)の検出に対して対応する
請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記発電機制御部(19)は、前記発電機(17)に前記調整値(UEin)より低い値の印加電圧(UApp)を供給させることにより、生体組織インピーダンス(Z)の第2のまたは更なる最小値(ZminII)の検出に対して対応する
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記発電機制御部(19)は、前記発電機(17)に以前に供給された電圧(UApp)より10%低い値の印加電圧(UApp)を供給させることにより、生体組織インピーダンス(Z)の第2のまたは更なる最小値(ZminII)の検出に対して対応する
請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記発電機制御部(19)は、印加電圧(UApp)が前記調整値(UEin)の特定の比率を超えない値に達すると、前記発電機の高周波電圧の印加を終了させる
請求項4または5に記載の装置。
【請求項7】
前記調整値(UEin)は、設定ツールによって特定の変数に設定することができる
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
実際の生体組織インピーダンス(Z)は、0.2ミリ秒より短い経時的インターバル(Δt)で、好ましくは最大でも0.1ミリ秒の経時的インターバル(Δt)で捕捉される
先行する請求項のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記測定部(23)は、存続期間が少なくとも電圧(UApp)の1つの振動周期と同じ長さである走査窓(tm)で生体組織インピーダンス(Z)を捕捉する
請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記測定部(23)は、複数の経時的インターバル(Δt)中に捕捉される複数の生体組織インピーダンス値(Z)からなる移動平均値を特定する
請求項7乃至9に記載の装置。
【請求項11】
前記最小値検出器(24)は、以前に測定された生体組織インピーダンス(Z)との比較において生体組織インピーダンス(Z)の増加を判断すると、生体組織インピーダンスが最小値(Zmin)に達したことおよび最小値(Zmin)を通過したことを信号化する
請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記最小値検出器(24)は、生体組織インピーダンスが最小値(Zmin)に達し最小値(Zmin)を通過した後、以前に測定された生体組織インピーダンス値の中で最も低い生体組織インピーダンスとの比較において生体組織インピーダンス(Z)または平滑化した生体組織インピーダンスの平均値の増加を判断すると、信号を送る
請求項9に記載の装置。
【請求項13】
前記最小値検出器(24)は、生体組織インピーダンス(Z)の数列の傾向を判断することにより測定される次の生体組織インピーダンスの予測値(Zp)を特定し、測定された次の生体組織インピーダンス(Z)が測定される次の生体組織インピーダンス(Z)を所定の値(ΔZ)分超える場合、生体組織インピーダンスの最小値(Zmin)への到達及び最小値(Zmin)からの通過を信号化する
先行する請求項のいずれか1項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流に露すことにより生体組織を接触凝固させる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体組織の接触凝固では、最初に熱誘起プロセスが行われるが、このプロセスはとりわけ生体組織の変性を引き起こし、現状の脈管を閉塞させるものである。高周波電圧を生体組織に印加すると、プロセスの初期に非常に高い生体組織の電気インピーダンスが観測される。電荷キャリアの電流はまず細胞外液を通って移動し、移動した電荷キャリアの運動エネルギーによって生体組織が熱を得始める。生体組織が次第に熱くなるにつれ、インピーダンスは最小値に達するまで減少する。生体組織の変性を伴う温度による構造的な変化のため、導電率は生体組織の温度が60度から100度の間で上昇する。生体組織は失活する。タンパク質分子は凝固し、細胞膜が破壊されることにより組織液が放出される。この「段階I」では、生体組織インピーダンス
Zは連続的に減少する。しばらくすると、生体組織液が沸騰温度に到達し、生体組織インピーダンスは再度上昇する。これを「段階II」とする。一般的に、生体組織インピーダンス
Zは、段階IIで、インピーダンスの最小値より明らかに大きい値に達するが、この値は段階Iの最初のインピーダンス値より明らかに大きい場合が多い。
【0003】
欧州特許出願公開第2520240号明細書は、高周波供給電源の負の内部抵抗を特定することにより、一定で均質な処置時間を実現する生体組織融合に用いる方法および装置、さらに生体組織凝固に用いる方法および装置を開示している。
【0004】
欧州特許出願公開第1862137号明細書は、生体組織インピーダンス
Zをポールし監視する、生体組織凝固に用いる装置および方法を開示している。生体組織への電気エネルギーを連続的に再調整することによって、生体組織のインピーダンスは望ましい特定の曲線を描く。特に、これは段階IIで適応される。
【0005】
さらに、独国特許出願公開第3622337号明細書は、凝固センサと生体組織との間のアークを検出するアーク表示部を有し、高周波による凝固に対応する自動電源制御部を備えた高周波発電機を開示する。アークを確実にスパークさせるために、最初に出力電力の最大量が使用される。アークがスパークした後、最初の最大電力がある期間供給され続ける。その後出力電力は、所定の第2のインターバルの間にゼロまで減少する。発電機が作動する限り、これらのサイクルが繰り返される。
【0006】
独国特許出願公開第3622337号明細書に開示される方法では、凝固モードは接触凝固から始まり、以下のように成される。組織液が沸騰温度に到達した後、発生中の蒸気にアークが浸透することにより電流密度がアークの浸透箇所で高く上昇し、その結果マークされた局所が凝固し、生体組織が高いインピーダンスを帯びる。凝固センサ近辺の生体組織全体が高いインピーダンスを得るまで、すなわち凝固するまで、アークはスパークし、さまざまな箇所へ跳ぶ。出力線をゼロに設定することで、アークを間欠的にスイッチオフすることにより、生体組織の過度の燃焼、すなわち非常に強い炭化を防ぐ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スパークの形成に基づき凝固が早く成される場合、またはスパークが形成する可能性がある場合、生体組織は器具に付着し、それに伴って、器具や処置員に著しい汚れをもたらす。さらに、炭化が創傷治療プロセスを妨げ得る。
【0008】
段階Iで、高周波発電機からの上昇した高周波電力により、アークを用いない純粋な接触凝固が素早く成された場合、鋭い音とともに視覚的にも知覚可能な治療対象の生体組織の断裂が起こりうる。これは、沸騰する生体組織液とそれに伴う生体組織圧の上昇による生体組織の局所的な断裂によるものである。生体組織の断裂により、これまでは止まっていた出血が始まり、新たな出血を引き起こす可能性がある。さらに、治療中の病原性の生体組織が、断裂により健全な生体組織領域に播種する可能性があり、処置要員による吸収処置が必要となる。
【0009】
本発明の目的は、穏やかな治療を行いながら、素早い生体組織凝固を実現する構想を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、請求項1の装置によって解決する。
【0011】
本発明による生体組織の接触凝固用装置は、高周波電圧を供給し、高周波電流を流す発電機を備える。発電機制御部は、供給される高周波電圧に影響を与えるよう設置される。さらに、本装置は発電機により高周波電流を供給される少なくとも1つの電極を有する器具を備える。測定部は、生体組織インピーダンスを監視する。部分的にあるいは全体的にすでに凝固している生体組織の断裂は、生体組織インピーダンス
Zが最小値に到達することによって起こることを示したが、生体組織は、インピーダンスが最小の時に最も導電性が高い状態となる。これは、組織液が沸点に達する前、すなわち、温度が100度に到達する前に起こる。その後、高周波電圧が印加されると、組織液が蒸発する。このような蒸発は生体組織内の圧を高め、断裂を引き起こすが、本発明によって回避される。したがって、汚染された生体組織の播種を回避することができる上、傷が開くことや器具の汚染も回避できるので手術要員の汚染や感染も回避することができる。さらに、すでに凝固した血管の断裂、リンパ管または他の脈管の断裂を防ぐことができる。低い電圧で凝固が継続するので、望ましい生体組織効果が出るまで上記の影響を受けずに凝固を継続することができる。
【0012】
提案する新しい接触凝固モードは、インピーダンスが最小値に到達するまで上昇した電力が入力されることにより機能する。したがって、段階Iでは、インピーダンスが最小値に到達するまで、上昇した高周波電圧を生体組織に供給することによって、考えられる最大の高周波エネルギーが供給される。凝固は、発電機の最大の電力出力、好ましくは、電流とは別に、実質的に200Vより高い高周波電圧で、器具が生体組織に接触することにより開始する。ここで、インピーダンスの最小値が検出されるとすぐに上昇高周波電圧の印加は中止され、生体組織における蒸気の発生とそれによる生体組織の断裂を防ぐ。続いて、減圧した高周波電圧のみが印加される。
【0013】
好ましい実施の形態において、印加される電圧の調整値は発電機制御部に格納される。そして発電機制御部は、発電機に調整値よりも高い値で印加される電圧を凝固プログラムの最初に供給させるよう構成される。凝固プロセスの最初に印加される電圧は、少なくとも調整値の2倍であることが望ましい。ユーザが接触凝固に適切な例の電圧(すなわち200V)を設定すると、本発明によるシステムでは、ユーザは凝固プロセスの初期に少なくとも400Vの電圧で作業する。しかし、この作業によりスパークは発生しない。なぜなら、インピーダンスが最小値となり蒸気生成の危険性があるとすぐに電圧は下がるからである。蒸気の生成が回避されるため、スパークの発生とそれに伴う生体組織内での気泡の破裂、さらに付随する不利益を回避することができる。
【0014】
好ましい実施の形態では、生体組織インピーダンスの第1の最小値が検出された後、発電機は調整値と等価または調整値以下の値の印加電圧を供給するよう制御される。したがって、調整値は、スパークを形成することのない継続的な凝固を可能にする値に特定されることが好ましい。発電機制御部は、発電機に印加電圧を調整値より低い値に下げさせることにより、生体組織インピーダンス値
Zの第2のまたはそれに続く最小値の検出に対応するよう構成されることが望ましい。この値は、以前に供給された電圧より特定のパーセンテージ分、たとえば10%分低いことが好ましい。
【0015】
さらに、発電機制御部は、供給される電圧が調整値の特定の割合を超えない値に到達したとき、すなわち調整値の特定の割合より低い値に到達したときに、発電機の高周波電圧の印加を終了させるよう構成されてもよい。この特定の割合は、たとえば、設定電圧の60%に達してもよい。そのような装置により、すばやく、大量の凝固が実現される。印加電圧の調整値は、段階的にまたは連続的に特定される。対応する調整手段は実現可能な装置に設置されることが好ましい。生体組織インピーダンスは、連続的に、または密接に連続した時間ポイントで、連続しているかのように監視される。生体組織インピーダンスが測定される時間間隔は0.2ミリ秒より短いことが好ましい。その時間間隔はおおよそ100μ秒であることが好ましい。これにより、変化する生体組織インピーダンスに対し、すばやい対応が可能である。
【0016】
実際の生体組織インピーダンスを短い時間間隔で捕捉する場合、供給された印加電圧と、生体組織を流れる電流と、電圧と電流の互いに対する位相とを、高周波電圧の少なくとも1回の振動周期と同じ長さを有する時間窓、さらに有益には、少なくとも数回の振動周期の長さの時間窓で捕捉するのが好ましい。したがって、印加電圧の少なくとも1つのパラメータと通電電流の少なくとも1つのパラメータとを捕捉することが好ましい。電圧のパラメータは、ピークピーク電圧(ピーク電圧の2倍)、ピーク電圧(単なるピーク電圧)、電圧の平均値、整流値、実効値等であってよい。このことは通電電流にも同様に当てはまる。ピークピーク電流(ピーク電流の二倍)、ピーク電流(単なるピーク電流)、電流量の平均値、整流値、実効値等は電流のパラメータであってよい。位相のパラメータは、互いにオフセットする2つのパラメータである引用パラメータ間の位相角度Φであってよい。
【0017】
生体組織インピーダンス
Zは、位相に対する電圧のパラメータと電流のパラメータとの比であってよい。有益な実施の形態においては、この比が以前に決定された1つ以上の比と比較されることにより、生体組織インピーダンスが最小値に到達することまたは近づくことが検出される。最小値検出器は、生体組織インピーダンスの最小値を発電機制御部に送るよう構成される。
【0018】
【数1】
【0019】
他の実施の形態では、最小値検出器は、測定された生体組織インピーダンスを用いて生体組織インピーダンスの傾向を決定し、測定される次の生体組織インピーダンスを予測し、測定された次の生体組織インピーダンス
Zが、測定される次の生体組織インピーダンスの予測所定値より大きい場合、最小値に到達しそうな生体組織インピーダンスを信号化するよう構成されてもよい。したがって、生体組織インピーダンスが再度上昇する前にその最小値への到達を確認できるので、蒸気泡の形成をより早く抑えることができる。
【0020】
さらなる実施の形態および利点の詳細は、図面と明細書および/または請求項の対象事項である。下記を開示する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、発電機および器具を備える本発明による装置を示す概略図である。
【
図3】
図3は、生体組織インピーダンスの測定値を示す時間表である。
【
図4】
図4は、様々な実施の形態における装置の動作をさらに示す図である。
【
図5】
図5は、様々な実施の形態における装置の動作をさらに示す図である。
【
図6】
図6は、様々な実施の形態における装置の動作をさらに示す図である。
【
図7】
図7は、様々な実施の形態における装置の動作をさらに示す図である。
【
図8】
図8は、様々な実施の形態における装置の動作をさらに示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、器具11と供給デバイス12を備える生体組織の接触凝固用装置10を示す。器具11と、還元システムとして機能する中性局13とは、それぞれケーブル14、15でデバイス12に接続される。生体組織16は、器具11によって断面が凝固する。さらに、生体組織16は点線のブロックで
図1に記号的に示され、器具11と中性局13との間の電気回路を閉じる。生体組織16は生体組織インピーダンス
Zを有するが、この生体組織インピーダンス
Zはオーミック成分Rを有し、かつ事実上大きな無効成分jX、特に、容量成分を有することが可能である。
【0024】
発電機17は、電力供給ユニット18により供給される動作電圧に接続される。
発電機17の動作は発電機制御部19によって決定されるが、この発電機制御部19は、たとえば電気スイッチ素子または中継器20を制御し、発電機17に属する発振回路を励起する。発電機制御部19は、図示される1つまたは複数の動作素子21を備えることが可能であり、これによりユーザは発電機の操作や設定を特定することができる。たとえば、初期化される設定には、調整値UEinを含むことが可能であり、これによりユーザは、接触凝固用に使いやすい電圧値を設定する(たとえば200V)。このように、調整値UEinは、設定ツールによって特定の変数に設定することができる。また、調整値には、操作の種類と、たとえば望ましい凝固の体積あるいは望ましい凝固時間、最大値で適応されるエネルギー等の他のパラメータとが含まれる。さらに、波高率、最大電流、最大電力等の他のパラメータは調整可能である。発電機17は、器具11の電極22で用いられる電圧UAppを供給し、それに基づき電流IAppが生体組織16を流れる。
【0025】
生体組織に印加される電圧UAppと、生体組織を流れる電流IAppとは、測定部23で捕捉され、そこから測定値が得られる。測定部23は、電流IAppの測定値と電圧UAppの測定値とを用いて、実際の生体組織インピーダンス
Zを決定する。したがって、最小値検出器24は、生体組織インピーダンス
Zが最小値に到達したかあるいは通過したか、またはいつ到達したかあるいはいつ通過したかを検出するために設置される。上記においては、最小値検出器24は検出結果を発電機制御部19へ送る。
【0026】
発電機制御部19、測定部23、および最小値検出器24は機能ブロックである。構造的に、これらは単体のモジュールに一体化できるし、複数の独立したモジュールに細分化することもできる。特に、測定部23および最小値検出器24は発電機制御部19と組み合わせて単体のモジュールにすることができる。このモジュールは、物理的なモジュールであってもよいし、またはプログラムモジュール等であってもよい。たとえば、測定部23は、測定される電流IAppと測定される電圧UAppとをアナログ/デジタル変換器によってデータ対に変換でき、その後計算ブロックを用いて適切な生体組織インピーダンス値を決定することができる。生体組織インピーダンス値は、さらなる処理用に、たとえばメモリにアクセス可能に保持される。
【0027】
最小値検出器24は、データ対におけるインピーダンスの最小値を検索するプログラムルーチンによって構成される。したがって、生体組織インピーダンスは、測定電圧UAppのパラメータの1つと測定電流IAppのパラメータの1つとの比として定義される。
図3は電圧UAppの測定値を示す。
【0028】
たとえば、望ましくは0.2ミリ秒より少ない短い経時的インターバルΔt、望ましくはたった100μ秒の時間インターバルΔtで、電圧UAppと電流IAppと(すなわち、それぞれ少なくとも1つのパラメータ)は測定される。
【0029】
これに関し、
図3にそれぞれの時間窓(走査窓)tmを示すが、時間窓tmは時間インターバルΔtより少し短い。時間窓tmの間、少なくとも1つの適切な電圧値、たとえば、ピーク値Up、二倍のピーク値Upp、電圧量の平均値Umean、実効値Urms、または同様のパラメータが当該電圧用に測定される。相応して、電流のパラメータが測定される。これは、同様に、電流ピーク値Ip、電流の平均量Imeanまたは実効値Irmsとなり得る。さらに、パラメータが位相用に測定される。これは電圧と電流との変異角Φとなり得る。このように、各測定インターバルでは、生体組織インピーダンスは、電圧および電流の測定パラメータの位相に対する、電圧の測定パラメータUApp(たとえば、Up、Upp、Umean、またはIrms)の1つと電流のパラメータIApp(たとえば、IP、Ipp、Imean、またはIrms)の1つとの比として与えられる。測定部23は、複数の経時的インターバルΔt中に補足される複数の生体組織インピーダンスからなる移動平均値を特定する。
【0030】
発電機制御部19は、測定値または計算値を用いて、生体組織インピーダンス
Zに対するさまざまな発電機電圧UAppを特定する。
図2にその概要を示す。接触凝固の初期では、未だ影響を受けていない生体組織は
Z0の最初のインピーダンスを有する。発電機17は、調整値UEinに対応するよう発電機制御部19に特定される電圧UAppで動作する。調整値UEinが、たとえば接触凝固用の200Vの値(これは通常スパークの発生を防ぐ)で特定されると、発電機制御部19は、望ましくは少なくとも印加電圧UAppの2倍の高さ、たとえば400V以上の著しく高い値を特定する。相応して、発電機17は400V以上の電圧UAppを供給する。結果として得られる高い電流IAppによって、生体組織16はすばやく熱せられ、生体組織インピーダンス値
Zは急激に減少する。最小値検出器24は、時間ポイントt1でインピーダンス値が最小値
Zminを通過したこと、またはそのすぐ後であることを検出すると、発電制御19に、生体組織16に印加される電流UAppを減少させるよう、対応する信号を送信する。電圧UAppは調整値UEinまで減少することが望ましい。その結果、スパークの発生を防ぐことができるが、スパークは、沸騰プロセスが開始することによる電気的フラッシュオーバと蒸気泡とによって、インピーダンスが最小値
Zminに到達した後に起こり得る。したがって、生体組織の早過ぎる乾燥によって起こるような生体組織インピーダンスの急速な上昇もまた防ぐ。たとえば、時間ポイントt2で、インピーダンスがさらに最小値
ZminIIになると、最小値検出器24は再度それを捕捉し、印加される電圧UAppを再度下げるよう発電機制御部19に通知すると、発電機制御部19はたとえばさらに10%分印加電圧を下げる。
【0031】
プロセスは、印加される電圧UAppがたとえば調整値UEinの60%である下限値に到達するまで続いてもよい。この場合には、発電機制御部19は、電気スイッチ素子20を制御することによりこの活動を中断することができる。これにより、凝固が終了する。
【0032】
最小値検出器24は、収集されたデータの解析に適切なそれぞれの方法によってインピーダンス最小値を決定する。
図4および
図5は、インピーダンス最小値近傍の関係性を示す。これに関し、まず理想の信号のシーケンスが例として以下のように想定される。生体組織インピーダンス値
Zは、時間ポイントt1においてインピーダンス最小値
Zminに到達した後再度上昇するので、ある段階から他の段階へのパーセンテージの上昇は比較的小さい。さらに、測定値は測定の不確実性に左右される(すなわちノイズを含む)ので、ある段階から他の段階へのインピーダンスの小さな上昇は最小値を決定するのには不適切である。このことは、連続する走査間での時間インターバルΔtが小さくなるほど、より当てはまる。信号のノイズを無効にするために、たとえばインピーダンスにおけるそのような上昇は、通常の信号ノイズには存在しない、すなわち信号ノイズより高い、インピーダンスの再上昇の抽出条件として特定される。そのようなインピーダンスの上昇は、たとえば、連続する段階においては結果的に発生しない5%の閾値であってよい。
【0034】
生体組織インピーダンスの上昇を検出するために、
図6に示される実際に測定された生体組織インピーダンス値
Zm+kが、一連の先行するインピーダンス測定値
Zm、
Zm+1、
Zm+2と比較される。インピーダンス値
Zm+kが、先行する生体組織インピーダンス値の少なくとも1つより少なくとも5%高い、または他の特定されたインピーダンス上昇閾値Δ
Z分高い場合、最小値検出器24は生体組織インピーダンスが再上昇した、すなわち最小値に到達したと判定してよい。
【0035】
実際の値
Zm+kが少なくとも2つ以上の先行するインピーダンス値より高い場合、最小値検出器24は最小値
Zminのみを捕捉するとしてもよい。最小値検出器24は、以前に測定された生体組織インピーダンス
Zとの比較において生体組織インピーダンス
Zの増加を判断すると、生体組織インピーダンスが最小値
Zminに達したことおよび最小値
Zminを通過したことを信号化する。
【0036】
最小値検出器24による最小値の捕捉に関する変形例を
図7に示す。
図7では、個々のインピーダンス値が×印として示される。個々のインピーダンス値は、電流および電圧を測定し、その測定値に基づく計算により決定された。これらのインピーダンス値は任意の変動に左右されるが、この変動は、生体組織に存在する微視的スケールの不均質性と、生体組織で起こる変性プロセスとに起因するものである。最小値検出器24および/または測定部23は、時間tにわたってインピーダンス値
Zの並びに近似する個々に測定された値に基づき測定曲線Kを決定するよう構成される。測定曲線Kは、n次のスプラインにより、または最も適切なアルゴリズム、たとえば最小二乗誤差の方法または他の適切な手段に基づき決定される。測定曲線Kとしては、多項式、直線、アナグラム、および他の勾配カーブおよびそれらの組み合わせが考えられる。たとえば、実質的に線型の測定値の並びは、直線、および放物線の一部による非線型の測定値の並びによって近似される。測定曲線Kの測定値の並びを用いて、インピーダンスΔ
Zにおける最大の上昇率がいつだったかが決定される。これは、カーブKの上昇勾配が正であることが検出されることによる。この状況を得るために、インピーダンスΔ
Zにおいて正の増加が存在するか否か、および存在することが検出されてもよい。この増加率は、最も低い生体組織インピーダンス値
Zminのたとえば5%の限定値を超える。
【0037】
上記した方法で、インピーダンスの再上昇により通過した後のものとなるインピーダンスの最小値が捕捉される。最小値検出器24は、生体組織インピーダンスが最小値
Zminに達し最小値
Zminを通過した後、以前に測定された生体組織インピーダンス値の中で最も低い生体組織インピーダンスとの比較において生体組織インピーダンス
Zまたは平滑化した生体組織インピーダンスの平均値の増加を判断すると、信号を送る。しかしながら、時間的に早い時点で最小値に到達したことまたは最小値にかかったことを決定することもまた可能である。このことは
図8に示される。
図8における小さなクロス印は時間tのそれぞれの時点で決定された生体組織インピーダンスを記号化したものである。測定曲線Kは回帰直線であり、それぞれ小さな丸で示される理想的なインピーダンス値を含む。最小値検出器24はこれらの理想値、すなわち、生体組織が理想的な性質である場合に期待されるインピーダンス値を決定し、理想化されたインピーダンスの最新の値と測定されたインピーダンスの最新の値とを比較する。
図8では、生体組織インピーダンス値
Zxが時間ポイントtxで決定される。曲線Kによりインピーダンス予測値
Zpが予見される。インピーダンス予測値
Zpと実際の生体組織インピーダンス値
Zxとの差異Δ
Zは、予測値
Zpのたとえば上述した5%の閾値に到達するか、またはそれを超える。最小値検出器24は、生体組織インピーダンス値
Zが最小値
Zminへ到達することまたは到達しそうなことを表示することにより対応するよう構成されてもよい。上記した5%の閾値に換えて、他の閾値および基準が特定されてもよい。最小値検出器24は、生体組織インピーダンス
Z値の並びの傾向を判断することにより測定される次の生体組織インピーダンスの予測値
Zpを特定し、測定された次の生体組織インピーダンス
Zが測定される次の生体組織インピーダンス
Zを所定の値Δ
Z分超える場合、生体組織インピーダンスの最小値
Zminへの到達及び最小値
Zminからの通過を信号化する。
【0038】
提案するデバイス12は生体組織インピーダンス
Zの再上昇を判定するが、この再上昇は生体組織16の乾燥と、付随する蒸気の形成を示すものである。印加される電圧UAppを下げることにより、スパークの形成が回避される。一方、生体組織16へ電流を印加し始める際、上昇電圧(たとえば、UAppが2*UEin以上)が印加されるため、凝固が非常に速くなる。生体組織の断裂、血管の裂傷、望まないスパークの形成による炭化など、過度な電圧の印加に起因するその他の当面の不利な影響が回避される。
【0039】
本発明による装置10は、生体組織16の接触凝固に用いる高周波電圧UAppを供給するデバイス12を備える。デバイス12は、接触凝固の開始時に、たとえば400V以上の非常に高い電圧(通常は接触凝固には不適切だが、スパーク凝固に用いられる)で動作するよう構成される。デバイス12の動作中、生体組織インピーダンス値
Zは監視されるが、これは電圧UAppと通電電流IAppとを連続的に測定することにより行うことができる。電圧と電流の両方に基づき、測定部23は連続して生体組織インピーダンス値
Zを決定する。最小値検出器24は、いつインピーダンスが最小値
Zminとなるかを検出し、さらに、インピーダンスが最小値
Zminとなったことを検出した場合には、発電機制御部19に、デバイス12から供給される電圧UAppをスパークの形成と生体組織の乾燥とが避けられる値にまで減少させる目的で設けられている。
【符号の説明】
【0040】
10 装置
11 器具
12 デバイス
13 中性局
14,15 ケーブル
16 生体組織
Z 生体組織インピーダンス
17 発電機
18 電力供給ユニット
19 発電機制御部
20 中継器または制御素子
21 動作素子
UEin 高周波電圧の調整値
UApp ある時点での印加高周波電圧
IApp 生体組織16を流れる電流
22 器具11の電極
23 測定部
24 最小値検出器
Δt 経時的距離
tm 時間窓
Up 電圧UAppのピーク値
u(t) 電圧UAppの経時的数列
Upp 電圧UAppのピーク値の2倍
Umean 電圧UApp量の平均値
Urms 電圧UAppの実効値
Ip 電流IAppのピーク値
i(t) 電流IAppの経時的数列
Ipp 電流IAppのピーク値の2倍
Imean 電流IAppの平均値
Irms 電流IAppの実効値
Z0 最初のインピーダンス
Zmin 生体組織インピーダンスの第1の最小値
ZminII 生体組織インピーダンスの第2のまたはさらなる最小値
K 測定曲線
Δ
Z インピーダンスの上昇
Zp インピーダンスの予測
R オーミック抵抗
X インダクタンス
φ 電圧UAppと電流IAppの位相差