特許第6097821号(P6097821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097821
(24)【登録日】2017年2月24日
(45)【発行日】2017年3月15日
(54)【発明の名称】ステントデリバリーシステム
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/966 20130101AFI20170306BHJP
【FI】
   A61F2/966
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-509638(P2015-509638)
(86)(22)【出願日】2013年4月1日
(86)【国際出願番号】JP2013059853
(87)【国際公開番号】WO2014162400
(87)【国際公開日】20141009
【審査請求日】2015年7月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(72)【発明者】
【氏名】東 洋
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 宏佳
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 郁
【審査官】 鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−529724(JP,A)
【文献】 特開2008−155017(JP,A)
【文献】 特開2008−86465(JP,A)
【文献】 特表2008−541936(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/040218(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/95
A61F 2/966
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縮径された自己拡張型のステントを内部に収容可能な収容部を備えた管状のシースと、
前記シースの内部に挿通されるとともに、前記ステントに接して当該ステントを先端方向へ押圧可能な接触部を備えるシャフトと、
前記収容部の内面のうちの、前記ステントの少なくとも最先端部を含む位置または前記ステントの最先端部よりも先端側に設けられ、薬剤を含むとともに接触対象に対して付着性を有し、前記ステントが前記収容部に対して相対的に先端方向に移動して前記ステントの表面に付着することで当該ステントの表面に維持される薬剤含有体と、を有するステントデリバリーシステム。
【請求項2】
前記薬剤含有体は、水膨潤性高分子材料を含む請求項1に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項3】
前記薬剤含有体は、前記収容部の内面のうちの、前記ステントの最先端部よりも先端側に設けられる請求項1または2に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項4】
前記シースの内面に、前記薬剤含有体を収容する凹部が形成される請求項1〜3のいずれか1項に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項5】
前記凹部は、前記シースの最先端部に形成される請求項4に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項6】
前記薬剤含有体は、部位に応じて薬剤の濃度が異なる請求項1〜5のいずれか1項に記載のステントデリバリーシステム。
【請求項7】
前記ステントのストラットの外表面に凹凸構造が形成される請求項1〜6のいずれか1項に記載のステントデリバリーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体管腔内に生じた狭窄部や閉塞部等にステントを留置して管腔の開存状態を維持するためのステントデリバリーシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば心筋梗塞や狭心症の治療では、冠動脈の病変部(狭窄部)にステントを留置して、冠動脈内の空間を確保する方法が行われており、他の血管、胆管、気管、食道、尿道、その他の生体管腔内に生じた狭窄部の改善についても同様の方法が行われることがある。ステントは、機能および留置方法によって、バルーン拡張型ステントと、自己拡張型ステントとに区別される。
【0003】
バルーン拡張型ステントは、ステント自体に拡張機能はなく、目的部位に挿入後、バルーンにより拡張し、塑性変形させることにより管腔内に密着固定するものである。これに対し、自己拡張型ステントは、ステント自体が拡張機能を有し、カテーテル内に予め縮径した状態で収容し、目的部位に到達した後、縮径状態を解放して拡張させることにより管腔内に密着固定するものである。例えば特許文献1には、外側シースの内側に縮径させた自己拡張型のステントを収容し、ステントと接することが可能なストッパーを備えた内側シャフトを外側シースの内側に挿通させ、生体管腔内の目的部位でストッパーによりステントの移動を規制した状態で外側シースを手前へ引くことにより、ステントを外側シースから押し出して拡張させる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−313893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のようなステントを目的部位へ留置して狭窄部を拡張させた場合であっても、ステントを留置した部位に再狭窄が生じる場合がある。再狭窄の主な原因は、血管壁の治癒反応である血管内膜の増殖であることから、最近では、血管内膜の増殖を抑制しうる薬剤をステントの外表面にコーティングし、ステント留置部位で薬剤を溶出させて再狭窄を防止する、DES(Drug Eluting Stents)と称される薬剤溶出型のステントの開発が行われているが、ステントを外側シースから放出する際に外側シースの内面との摩擦により薬剤が剥がれ落ち、薬剤を生体管腔へ十分に作用させられない可能性がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、ステントに対して薬剤を効果的に適用することが可能なステントデリバリーシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明に係るステントデリバリーシステムは、縮径された自己拡張型のステントを内部に収容可能な収容部を備えた管状のシースと、前記シースの内部に挿通されるとともに、前記ステントに接して当該ステントを先端方向へ押圧可能な接触部を備えるシャフトと、前記収容部の内面のうちの、前記ステントの少なくとも最先端部を含む位置または前記ステントの最先端部よりも先端側に設けられ、薬剤を含むとともに接触対象に対して付着性を有し、前記ステントが前記収容部に対して相対的に先端方向に移動して前記ステントの表面に付着することで当該ステントの表面に維持される薬剤含有体と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
上記のように構成したステントデリバリーシステムは、収容部の内面のうちの、ステントの少なくとも最先端部を含む位置またはステントの最先端部よりも先端側に、薬剤を含むとともに接触対象に対して付着性を有する薬剤含有体が設けられるため、接触部によりステントをシースに対して相対的に先端方向へ移動させてシースから放出する際に、ステントの先端部から基端部にわたる全体が薬剤含有体と接触して薬剤含有体が付着することでステントの表面に維持され、ステントに対して薬剤を効果的に適用することができる。
【0009】
前記薬剤含有体が、水膨潤性高分子材料を含むようにすれば、生理食塩水や血液と接触することで水膨潤性高分子材料が吸水して膨潤し、ゲル状となるため、ステントが放出される際にステントと接触しやすくなり、薬剤含有体が絡め取られるようにしてステントに効果的に付着する。
【0010】
前記薬剤含有体が、前記収容部の内面のうちの、前記ステントの最先端部よりも先端側に設けられるようにすれば、ステントをシースに対して相対的に先端方向へ移動させることで、ステントの全体に薬剤含有体を効果的に付着できる。また、薬剤含有体が、ステントの最先端部よりも先端側に設けられるため、シースの先端開口からアクセスしやすく、薬剤含有体をシースに対して容易に塗布できる。
【0011】
前記シースの内面に、前記薬剤含有体を収容する凹部が形成されるようにすれば、薬剤含有体を良好に保持できるとともに、ステントがシースに対して相対的に先端方向へ移動する際に、薬剤含有体をステントへ少しずつ付着させることができ、ステントの全体へ薬剤含有体を均一に付着させることができる。
【0012】
前記凹部が、前記シースの最先端部に形成されるようにすれば、凹部を通過して薬剤含有体が付着されたステントが、ステントデリバリーシステムのいずれの部位とも接触することなしに、そのままシースの先端開口から生体管腔内へ放出されるため、ステントに付着された薬剤含有体を効果的に維持することができる。また、凹部がシースの最先端部に形成されるため、シースの先端開口から凹部へアクセスしやすく、薬剤含有体をシースの凹部に対して容易に塗布できる。
【0013】
前記薬剤含有体が、部位に応じて薬剤の濃度が異なるようにすれば、ステントに付着される薬剤の量を、自在に調節することができる。
【0014】
前記ステントのストラットの外表面に凹凸構造が形成されるようにすれば、薬剤含有体をステントに効果的に付着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係るステントデリバリーシステムを示す平面図である。
図2】第1実施形態に係るステントデリバリーシステムの先端部を示す断面図である。
図3】自己拡張型のステントが拡張した際の平面図である。
図4】自己拡張型のステントが縮径した際の展開図である。
図5】第1実施形態に係るステントデリバリーシステムにより生体管腔内にステントを留置する際を示す断面図である。
図6】第1実施形態に係るステントデリバリーシステムの変形例を示す断面図である。
図7】第1実施形態に係るステントデリバリーシステムの他の変形例を示す断面図である。
図8】第2実施形態に係るステントデリバリーシステムの先端部を示す断面図である。
図9】第2実施形態に係るステントデリバリーシステムにより生体内にステントを留置する際を示す断面図である。
図10】第2実施形態に係るステントデリバリーシステムの変形例を示す断面図である。
図11】第2実施形態に係るステントデリバリーシステムの他の変形例を示す断面図である。
図12】第2実施形態に係るステントデリバリーシステムのさらに他の変形例を示す断面図である。
図13】第2実施形態に係るステントデリバリーシステムのさらに他の変形例を示す断面図である。
図14】ステントの変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
<第1実施形態>
【0017】
本発明の第1実施形態に係るステントデリバリーシステム10は、血管、胆管、気管、食道、尿道、またはその他の生体管腔内に生じた狭窄部や閉塞部等にステント20を留置して管腔の開存状態を維持するためのものであり、図1,2に示すように、ステント20と、ステント20を収容する管状のシース30と、シース30内に摺動可能に挿通され、ステント20を先端方向へ押圧可能なステント押出用突出部46(接触部)を備える内管40(シャフト)とを有する。なお、本明細書では、管腔に挿入する側を「先端」若しくは「先端側」、操作する手元側を「基端」若しくは「基端側」と称することとする。
【0018】
ステント20は、図3,4に示すように、自己の弾性力により拡張する、いわゆる自己拡張型ステントであり、細く線状に延びるストラット21を備えている。
【0019】
ストラット21は、線材が折り返されながら環状に形成される複数の環状部22をその中心軸方向に配列し、隣接する環状部22同士を、互いの環状部22に共有される複数の共有部23によって一体化させて、全体として1つの円筒形状に形成されている。ストラット21の延在方向と直交する断面形状は、矩形形状となっている。なお、環状部22の数は、特に限定されない。
【0020】
ステント20は、留置対象部位により異なるが、一般的に、拡張時(非縮径時、復元時)の外径が1.5〜30mm、好ましくは2.0〜20mm、肉厚が0.04〜1.0mm、好ましくは0.06〜0.5mmのものであり、長さは、5〜250mm、好ましくは10〜200mmである。
【0021】
そして、ストラット21は、生体内挿入前および生体内挿入後のいずれにおいても超弾性を示す超弾性金属により略円筒形状に一体的に形成されているのが好ましい。
【0022】
超弾性金属としては、超弾性合金が好適に使用される。ここでいう超弾性合金とは一般に形状記憶合金といわれ、少なくとも生体温度(37℃付近)で超弾性を示すものである。好ましくは、49〜54原子%NiのTiNi合金、38.5〜41.5重量%ZnのCu−Zn合金、1〜10重量%XのCu−Zn−X合金(X=Be,Si,Sn,Al,Ga)、36〜38原子%AlのNi−Al合金等の超弾性合金が使用される。特に好ましくは、上記のTiNi合金である。また、Ti−Ni合金の一部を0.01〜10.0重量%Xで置換したTi−Ni−X合金(X=Co,Fe,Mn,Cr,V,Al,Nb,W,B、Au,Pdなど)とすること、またはTi−Ni合金の一部を0.01〜30.0原子%で置換したTi−Ni−X合金(X=Cu,Pb,Zr)とすること、また、冷間加工率または/および最終熱処理の条件を選択することにより、機械的特性を適宜変えることができる。
【0023】
そして、使用される超弾性合金の座屈強度(負荷時の降伏応力)は、5〜200kg/mm(22℃)、好ましくは、8〜150kg/mm、復元応力(除荷時の降伏応力)は、3〜180kg/mm(22℃)、好ましくは、5〜130kg/mmである。ここでいう超弾性とは、使用温度において通常の金属が塑性変形する領域まで変形(曲げ、引張り、圧縮)させても、荷重の解放後、加熱を必要とせずにほぼ元の形状に回復することを意味する。
【0024】
そして、ストラット21は、例えば、超弾性合金パイプを用いて、ストラット非構成部分を除去(例えば、切削、溶解)することにより作製され、これにより、一体形成物となっている。なお、ストラット21の形成に用いられる超弾性金属パイプは、不活性ガスまたは真空雰囲気にて超弾性合金のインゴットを形成し、このインゴットを機械的に研磨し、続いて、熱間プレスおよび押し出しにより、太径パイプを形成し、その後順次ダイス引き抜き工程および熱処理工程を繰り返すことにより、所定の肉厚、外径のパイプに細径化し、最終的に表面を化学的または物理的に研磨することにより製造することができる。そして、この超弾性合金パイプによるストラット21の形成は、切削加工(例えば、機械研磨、レーザー切削加工)、放電加工、化学エッチングなどにより行うことができ、さらにそれらの併用により行ってもよい。
【0025】
シース30は、図1,2に示すように、先端および基端が開口しており、先端側の内部にステント20を収容可能な収容部31が設けられる。先端開口は、ステント20を生体管腔内の狭窄部に留置する際、ステント20の放出口として機能する。収容部31の内面のステント20と接する全面には、薬剤および水膨潤性高分子材料を含む薬剤含有体Dが塗布される。ステント20は、縮径された状態で収容部31に収容される。ステント20は、先端開口より押し出されることにより応力負荷が解除されて自己の弾性力により拡張し、圧縮前の形状に復元する。
【0026】
薬剤含有体Dに含まれる薬剤としては、例えば、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、インスリン抵抗性改善剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GP IIb/IIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、一酸化窒素産生促進物質が挙げられる。
【0027】
抗癌剤は、例えば、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンデシン、イリノテカン、ピラルビシン、パクリタキセル、ドセタキセル、メトトレキサートである。免疫抑制剤は、例えば、シロリムス、エベロリムス、ピメクロリムス、ゾタロリムス、バイオリムス、AP23573、CCI−779等のシロリムス誘導体、タクロリムス、アザチオプリン、シクロスポリン、シクロフォスファミド、ミコフェノール酸モフェチル、グスペリムス、ミゾリビン、ドキソルビシンである。
【0028】
抗生物質は、例えば、マイトマイシン、アクチノマイシン、ダウノルビシン、イダルビシン、ピラルビシン、アクラルビシン、エピルビシン、ペプロマイシン、ジノスタチンスチマラマー、バンコマイシンである。抗リウマチ剤は、例えば、メトトレキサート、チオリンゴ酸ナトリウム、ペニシラミン、ロベンザリットである。抗血栓薬は、例えば、ヘパリン、アスピリン、抗トロンピン製剤、チクロピジン、ヒルジンである。
【0029】
HMG−CoA還元酵素阻害剤は、例えば、セリバスタチン、セリバスタチンナトリウム、アトルバスタチン、アトルバスタチンカルシウム、ロスバスタチン、ロスバスタチンカルシウム、ピタバスタチン、ピタバスタチンカルシウム、フルバスタチン、フルバスタチンナトリウム、シンバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、プラバスタチンナトリウムである。
【0030】
インスリン抵抗性改善剤は、例えば、トログリタゾン、ロシグリタゾン、ピオグリタゾン等のチアゾリジン誘導体である。ACE阻害剤は、例えば、キナプリル、ペリンドプリルエルブミン、トランドラプリル、シラザプリル、テモカプリル、デラプリル、マレイン酸エナラプリル、リシノブリル、カプトプリルである。カルシウム拮抗剤は、例えば、ニフェジピン、ニルバジピン、ジルチアゼム、ベニジピン、ニソルジピンである。
【0031】
抗高脂血症剤は、例えば、ベザフィブラート、フェノフィブラート、エゼチミブ、トルセトラピブ、パクチミブ、K−604、インプリタピド、プロブコールである。
【0032】
インテグリン阻害薬は、例えば、AJM300である。抗アレルギー剤は、例えば、トラニラストである。抗酸化剤は、例えば、α−トコフェロール、カテキン、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソールである。GP IIb/IIIa拮抗薬は、例えば、アブシキシマブである。レチノイドは、例えば、オールトランスレチノイン酸である。フラボノイドは、例えば、エピガロカテキン、アントシアニン、プロアントシアニジンである。カロチノイドは、例えば、β−カロチン、リコピンである。
【0033】
脂質改善薬は、例えば、エイコサペンタエン酸である。DNA合成阻害剤は、例えば、 5−FUである。チロシンキナーゼ阻害剤は、例えば、ゲニステイン、チルフォスチン、アーブスタチン、スタウロスポリンである。抗血小板薬は、例えば、チクロピジン、シロスタゾール、クロピドグレルである。抗炎症剤は、例えば、デキサメタゾン、プレドニゾロン等のステロイドである。
【0034】
生体由来材料は、例えば、EGF(epidermal growth factor) 、VEGF(vascular endothelial growth factor)、HGF(hepatocyte growth factor)、PDGF(platelet derived growth factor)、BFGF(basic fibroblast growth factor)である。インターフェロンは、例えば、インターフェロン−γ1aである。一酸化窒素産生促進物質は、例えば、L−アルギニンである。
【0035】
なお、狭窄治療用として一般的に用いられ、かつ短時間に効率よく細胞内へ移行させることができるという観点から、パクリタキセル、ドセタキセル、シロリムス、エベロリムスが好ましく、特に、シロリムスおよびパクリタキセルが好ましい。
【0036】
薬剤含有体Dに含まれる水膨潤性高分子材料は、薬剤を担持する役割を果たすとともに、生理食塩水や血液と接触することで給水して膨潤し、ゲル状となって、ステント20に対する付着性を向上させる役割を果たす。水膨潤性高分子材料は、例えば、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸ナトリウム、トポロジカルゲル等が挙げられる。
【0037】
また、シース30の基端部には、シースハブ50が固定されている。シースハブ50は、シースハブ本体51と、シースハブ本体51内に収容され、内管40を摺動可能、かつ液密に保持する弁体(図示せず)を備えている。また、シースハブ50は、シースハブ本体51の中央付近より斜め後方に分岐するサイドポート52を備えている。また、シースハブ50は、内管40の移動を規制する内管ロック機構を備えていることが好ましい。
【0038】
内管40は、シャフト状の内管本体部41と、内管本体部41の先端に設けられ、シース30の先端より突出する内管先端部42と、内管本体部41の基端部に固定された内管ハブ43とを備える。
【0039】
内管先端部42は、シース30の先端より突出し、かつ、先端に向かって徐々に縮径するテーパー状に形成されている。このように形成することにより、狭窄部への挿入が容易となる。また、内管先端部42は、基端がシース30の先端と当接可能となっており、シース30の先端方向への移動を阻止するストッパーとして機能している。
【0040】
内管40の内管先端部42の基端側には、ステント保持用突出部45が設けられている。そして、ステント保持用突出部45より所定距離基端側には、ステント押出用突出部46が設けられている。これら2つの突出部45,46間にステント20が配置される。突出部45,46は、環状の突出部であることが好ましい。これら突出部45,46の外径は、圧縮されたステント20と当接可能な大きさとなっている。このため、ステント20は、ステント保持用突出部45により先端側への移動が規制され、ステント押出用突出部46により基端側への移動が規制される。そして、内管40の位置を保持した状態でシース30を基端側へ移動させると、ステント押出用突出部46によってステント20の基端側への移動が規制され、ステント20がシース30の内面を摺動し、シース30の先端開口より放出される。さらに、ステント押出用突出部46の基端側は、基端側に向かって徐々に縮径するテーパー部46Aとなっていることが好ましい。同様に、ステント保持用突出部45の基端側は、基端側に向かって徐々に縮径するテーパー部45Aとなっていることが好ましい。このようにすることにより、内管40に対してシース30を基端側に移動させ、ステント20をシース30より放出した後に、シース30を先端側に移動させて内管40をシース30内に再収容する際に、突出部45,46がシース30の先端に引っかかることを防止できる。また、2つの突出部45,46は、X線造影性材料からなる別部材により形成されてもよい。これにより、X線造影下でステント20の位置を的確に把握することができ、手技がより容易なものとなる。
【0041】
内管40は、シース30内を貫通し、シース30の基端開口より突出している。内管40の基端部には、内管ハブ43が固着されている。内管40は、ガイドワイヤーが挿通されるルーメン44が、先端から基端まで延びて形成されている。なお、ルーメン44は、内管40の先端から内管40の途中で側方へ開口するように形成されてもよい。
【0042】
シース30は、ある程度の可撓性を有する材料により形成されるのが好ましく、そのような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。
【0043】
内管40は、シース30と同様の材料や、金属材料を適用することが可能である。金属材料は、例えば、ステンレス鋼、Ni−Ti合金である。
【0044】
シースハブ50および内管ハブ43は、例えば、ポリカーボネート、ポリオレフィン、スチレン系樹脂、ポリエステルなどの樹脂材料、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料が使用できる。
【0045】
次に、ステントデリバリーシステム10を用いてステント20を生体管腔内(例えば血管)に留置する方法を説明する。
【0046】
まず、中心軸に向かって縮径されたステント20をシース30の先端側の収容部31に収容し、内管40のステント押出用突出部46をステント20の基端側に位置させた状態で、シース30内および内管40内を生理食塩水で満たす。特にシース30内(収容部31の内面)を生理食塩水で満たすことによって、後述の薬剤含有体Dがゲル状となる。
【0047】
次に、患者の血管に、例えばセルジンガー法によりシースイントロデューサを留置し、ガイドワイヤールーメン44内にガイドワイヤーを挿通させた状態で、ガイドワイヤーおよびステントデリバリーシステム10をシースイントロデューサの内部より血管内へ挿入する。続いて、ガイドワイヤーを先行させつつステントデリバリーシステム10を進行させ、シース30の先端部を狭窄部へ到達させる。
【0048】
この後、内管ハブ43を手で抑えてステント押出用突出部46が基端側へ移動しないように保持しつつ、シースハブ50を基端側へ引いて移動させ、基端方向へ移動するシース30の先端開口から、ステント押出用突出部46によって押し出すようにステント20を放出する。これにより、図5に示すように、ステント20は、応力負荷が解除されて自己の弾性力により拡張し、圧縮前の形状に復元する。これにより、狭窄部Sをステント20によって押し広げた状態で良好に維持することができる。
【0049】
そして、収容部31の内面に塗布されている薬剤含有体Dは、水膨潤性高分子材料を含んでいるため、生理食塩水や血液と接触することで吸水して膨潤し、ゲル状となる。このため、ステント20が放出される際に、薬剤含有体Dがステント20と接触しやすくなり、絡め取られるようにしてステント20に付着する。このとき、収容部31の内面のステント20と接する全面に薬剤含有体Dが塗布されているため、ステント20の全体に薬剤含有体Dを効果的に付着させることができる。そして、薬剤を含む薬剤含有体Dが付着したステント20が生体管腔内に留置されることで、ステント20の留置後の再狭窄や遅延性ステント血栓症の発生を効果的に抑制できる。
【0050】
ステント20を生体管腔内に留置した後には、シースイントロデューサを介して血管よりガイドワイヤーおよびステントデリバリーシステム10を抜去し、手技が終了する。
【0051】
以上のように、第1実施形態に係るステントデリバリーシステム10は、縮径された自己拡張型のステント20を内部に収容可能な収容部31を備えた管状のシース30と、シース30の内部に挿通されるとともに、ステント20に接して当該ステント20を先端方向へ押圧可能なステント押出用突出部46(接触部)を備える内管40(シャフト)と、収容部31の内面のうちの、ステント20の少なくとも最先端部を含む位置に設けられ、薬剤を含むとともにステント20に付着可能な薬剤含有体Dと、を有する。このため、ステント20がシース30から放出される際に、ステント押出用突出部46によりステントがシース30に対して相対的に先端方向へ移動することで、ステント20の全体に薬剤含有体Dを効果的に付着させることができる。そして、薬剤を含む薬剤含有体Dが付着したステント20が生体管腔内に留置されることで、ステント20の留置後の再狭窄や遅延性ステント血栓症の発生を効果的に抑制できる。
【0052】
また、薬剤含有体Dが、水膨潤性高分子材料を含んでおり、生理食塩水や血液と接触して吸水することで膨潤してゲル状となるため、ステント20が放出される際にステント20と接触しやすくなり、薬剤含有体Dが絡め取られるようにしてステント20に対して効果的に付着する。
【0053】
なお、薬剤含有体Dは、収容部31の内面の全面に塗布されなくてもよく、例えば図6に示す変形例のように、収容部31の内面のうちの、ステント20の少なくとも最先端部を含む位置に塗布されればよい。このようにすれば、収容部31の全面に薬剤含有体Dが塗布されなくとも、ステント20をシース30から放出する際に、ステント20がシース30に対して相対的に先端方向へ移動することで、ステント20の全体が、薬剤含有体Dが塗布された部位を必然的に通過することになる。このため、収容部31の全面に薬剤含有体Dを塗布せずとも、ステント20の外表面の全体に薬剤含有体Dを付着させることができる。
【0054】
また、例えば図7に示す他の変形例のように、シース60の収容部61に、薬剤含有体Dを収容可能な環状の凹部62が形成されてもよい。凹部62が形成されば、薬剤含有体Dをシース60に良好に保持できるとともに、ステント20が収容部61内を移動する際に、薬剤含有体Dをステント20へ少しずつ付着させることができ、ステント20の全体へ薬剤含有体Dをより均一に付着させることができる。また、凹部62を設けることで、凹部62に薬剤含有体Dを塗布させた後に縮径させたステント20を収容部61内へ収容する場合に、薬剤含有体Dの剥がれを抑制できる。なお、薬剤含有体Dは、ステント20を収容部61内へ収容した後に、ステント20のストラット21の間の隙間からシース60の内面へ塗布させることもできる。
<第2実施形態>
【0055】
本発明の第2実施形態に係るステントデリバリーシステム70は、シース80の薬剤含有体Dを設ける部位が、第1実施形態に係るステントデリバリーシステム10と異なる。なお、第1実施形態と同一の機能を有する部位には同一の符号を付し、重複を避けるため、説明を省略する。
【0056】
ステントデリバリーシステム70のシース80は、図8に示すように、先端側の内部にステント20を収容可能な収容部81が設けられ、収容部81の先端側の内面に環状の凹部82が設けられる。凹部82は、ステント20を収容部81に収容した際のステント20の最先端部よりも先端側から、シース80の最先端面83まで設けられ、段差状に形成される。そして、この凹部82に、薬剤および水膨潤性高分子材料を含む薬剤含有体Dが塗布される。
【0057】
ステントデリバリーシステム70を用いてステント20を生体管腔内に留置する際には、ステント押出用突出部46が基端側へ移動しないように内管40を保持しつつシース80を基端側へ移動させ、シース30の先端開口から、ステント押出用突出部46によって押し出すようにステント20を放出する。ステント20は、図9に示すように、応力負荷が解除されて自己の弾性力により拡張し、圧縮前の形状に復元する。これにより、狭窄部Sをステント20によって押し広げた状態で良好に維持することができる。
【0058】
そして、凹部82に塗布されている薬剤含有体Dは、水膨潤性高分子材料を含んでいるため、生理食塩水や血液と接触することで吸水して膨潤し、ゲル状となる。このため、ステント20が放出される際に、薬剤含有体Dがステント20と接触しやすくなり、薬剤含有体Dが絡め取られるようにしてステント20に付着する。なお、薬剤含有体Dは、収容部81よりも先端側の凹部82に設けられており、ステント20が収容部に収容されている状態では、ステント20は薬剤含有体Dと接触していない。しかしながら、ステント20がシース30に対して相対的に先端方向へ移動することで、ステント20は凹部82を通過することになるため、ステント20の全体に薬剤含有体Dを効果的に付着させることができる。そして、薬剤を含む薬剤含有体Dが付着したステント20が生体管腔内に留置されることで、ステント20の留置後の再狭窄や遅延性ステント血栓症の発生を効果的に抑制できる。
【0059】
そして、凹部82が収容部81よりも先端側(シース80の最先端部)に設けられるため、シース80の先端開口から凹部82へアクセスしやすく、薬剤含有体Dを凹部82に容易に塗布させることができる。また、凹部82を設けることで、凹部82に薬剤含有体Dを塗布させた後に縮径させたステント20を収容部61内へ収容する場合に、薬剤含有体Dの剥がれを抑制できる。なお、薬剤含有体Dは、ステント20を収容部81内へ収容した後に、凹部82へ塗布させることもできる。
【0060】
また、シース80の内面に、薬剤含有体Dを収容する凹部82が形成されるため、薬剤含有体Dをシース80に良好に保持できるとともに、ステント20がシース80内を移動する際に、薬剤含有体Dをステント20へ少しずつ付着させることができ、ステント20の全体へ薬剤含有体Dを均一に付着させることができる。
【0061】
また、凹部82が、シース80の最先端部に形成されるため、凹部82を通過して薬剤含有体Dが付着されたステント20が、ステントデリバリーシステム70のいずれの部位とも接触することなしに、そのままシース80の先端開口から生体管腔内へ放出されるため、ステント20に付着した薬剤含有体Dを効果的に維持することができる。また、凹部82がシース80の最先端部に形成されるため、シース80の先端開口から凹部82へアクセスしやすく、薬剤含有体Dを凹部82に容易に塗布させることができる。したがって、例えば、操作者がステントデリバリーシステム70を使用する直前に、凹部82に薬剤含有体Dを塗布することも可能である。
【0062】
なお、薬剤含有体Dは、例えば図10に示す変形例のように、シース80の最先端面83に設けられてもよい。このようにしても、最先端面83を通過して薬剤含有体Dが付着されたステント20が、そのままシース80の先端開口から生体管腔内へ放出されるため、ステント20に付着した薬剤含有体Dを効果的に維持することができる。
【0063】
また、薬剤含有体Dは、部位に応じて薬剤の濃度が異なってもよい。部位に応じて薬剤の濃度を異ならせることで、ステント20に付着される薬剤の量を、自在に調節することができる。特に、ステント20は、先端側と基端側で薬剤含有体Dが付着される量が異なりやすいため、薬剤含有体Dの部位に応じて薬剤の濃度を異ならせることで、放出された後のステント20に塗布される薬剤の量を均一とすることができる。例えば図11に示す変形例では、凹部82の底側(径方向外側)から第1の薬剤含有体D1、第2の薬剤含有体D2、第3の薬剤含有体D3および第4の薬剤含有体D4を設け、薬剤含有体D1から薬剤含有体D4へ向かって薬剤の濃度を徐々に低くすることができる。このようにすれば、先に薬剤含有体と接触して薬剤含有体を多く絡め取るステント20の先端部では、濃度の低い薬剤含有体D4が付着され、後に薬剤含有体と接触して薬剤含有体を多く絡め取ることができないステント20の基端部では、濃度の高い薬剤含有体D1が付着され、ステント20に塗布される薬剤の量を均一とすることができる。また、例えば図12に示す他の変形例では、凹部82の基端側から第1の薬剤含有体D5、第2の薬剤含有体D6、第3の薬剤含有体D7および第4の薬剤含有体D8を設け、D5からD8へ向かって薬剤の濃度を徐々に低くすることができる。このようにすれば、先に薬剤含有体と接触して薬剤含有体を多く絡め取るステント20の先端部では、濃度の低い薬剤含有体D8が多く付着され、後に薬剤含有体と接触して薬剤含有体を多く絡め取ることができないステント20の基端部では、濃度の高い薬剤含有体D5が多く付着されて、ステント20に塗布される薬剤の量を均一とすることができる。なお、濃度が異なる部位の数は、限定されない。また薬剤含有体の濃度が、傾斜的に徐々に変化してもよい。
【0064】
また、図13に示すように、凹部82に、連続気泡を有するとともに柔軟性を備えた樹脂等からなるスポンジ状の多孔体84を設け、多孔体84に薬剤を含ませることによって薬剤含有体Dを形成してもよい。これにより、薬剤を多孔体84によって良好に保持しつつ、ステント20へ付着させることができる。この場合、多孔体84に、水膨潤性高分子材料が含まれてもよく、または含まれなくてもよい。また、スポンジ状の多孔体でなしに、不織布などの繊維集合体を用いてもよい。
【0065】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、図14に示すように、ステント90のストラット91の生体管腔と接する外表面92に、凹凸構造93が形成されてもよい。凹凸構造93は、図14に示す例では、凹部94と、凹部94が形成される表面95(凸部)と、により構成される。外表面92に凹凸構造93が形成されることで、ステント90のストラット91の外表面92に、薬剤含有体Dを効果的に付着させることができる。また、凹凸構造は、凸部と、凸部が形成される表面(凹部)と、により構成されてもよい。また、凹凸構造として、ストラットの外表面の表面粗さを、他の面よりも高くしてもよい。表面祖さは、JIS規格に示される最大高さ、十点平均粗さ、または中心線平均粗さ等により特定できる。
【0066】
また、ステントは、ストラットの表面に薬剤を含む層が予め被覆された薬剤溶出型ステントであってもよい。
【0067】
また、上述した種々の構成を、適宜組み合わせて適用することができる。したがって、例えば、第1実施形態に係るステントデリバリーシステム10の薬剤含有体Dが、部位に応じて薬剤の濃度が異なってもよく、多孔体や繊維集合体に含まれてもよい。
【符号の説明】
【0068】
10,70 ステントデリバリーシステム、
20,90 ステント、
21,91 ストラット、
30,60,80 シース、
31,61,81 収容部、
40 内管、
46 ステント押出用突出部(接触部)、
62,82 凹部、
83 最先端面、
93 凹凸構造、
D,D1〜D8 薬剤含有体。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
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図10
図11
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図14