【文献】
Biotechnology for Biofuels,2013年,6:181,pp. 1/15-15/15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において、「リグノセルロース系バイオマス」としては、主に、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンを含有するものであり、例えば針葉樹、広葉樹、建築廃材、林地残材、剪定廃材、稲藁、籾殻、麦藁、木材チップ、木材繊維、化学パルプ、古紙、合板等の農林産物資源、サトウキビバガス、サトウキビ茎葉、コーンストーバー等の農林産物廃棄物、農林産物加工品及び大型藻類、微細藻類等の植物組織等が挙げられ、これらに限定されない。これらのリグノセルロース系バイオマスは単独であってもよく、混合物であってもよい。
【0019】
本明細書において、「ヘミセルロース」には、キシロースなどの5つの炭素を構成単位とする五炭糖とよばれるものやマンノース、アラビノース、ガラクツロン酸などの6つの炭素を構成単位とする六炭糖とよばれるもの、さらにグルコマンナンやグルクロノキシランなどのような複合多糖等が含まれる。よって、ヘミセルロースは加水分解を受けると、炭素5つからなる五炭糖の単糖やその単糖が複数個連結された五炭糖のオリゴ糖、炭素6つからなる六炭糖の単糖やその単糖が複数個連結された六炭糖のオリゴ糖、五炭糖の単糖と六炭糖の単糖が複数個連結されたオリゴ糖を生ずる。
「セルロース」には、6つの炭素を構成単位とする六炭糖が含まれる。よって、セルロースは加水分解を受けると、炭素6つからなる六炭糖の単糖やその単糖が複数個連結された六炭糖のオリゴ糖を生ずる。
一般に、ヘミセルロース又はセルロースから生ずる単糖又はオリゴ糖の構成比率や生成量は、前処理方法や原料として用いた農林産物資源、農林産物廃棄物、農林産物加工品及び大型藻類、微細藻類等の植物組織等の種類によって異なる。
【0020】
本明細書において、「リグノセルロース系バイオマス由来化合物」とは、リグノセルロース系バイオマスを分解して得られた単糖及びオリゴ糖を、酵母が摂取することにより生成された化合物を意味する。例えば、エタノール、ブタノール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、グリセロール等のアルコール、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸、クエン酸、乳酸等の有機酸、イノシン、グアノシン等のヌクレオシド、イノシン酸、グアニル酸等のヌクレオチド、カダベリン等のジアミン化合物等が挙げられる。発酵によって得られた化合物が乳酸等のモノマーである場合は、重合によりポリマーに変換することもある。
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、各図において、説明に関連しない部分は図示を省略する場合がある。
【0022】
<<リグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造方法>>
<第一実施形態>
一実施形態において、本発明のリグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造方法は、酵母に対し、リグノセルロース系バイオマス由来の糖化液を添加しながら培養を行う流加培養により発酵を行う第1の発酵工程と、添加された前記糖化液が一定量に達したとき、前記糖化液の添加を停止し、回分培養により発酵を行う第2の発酵工程と、を備え、前記第1の発酵工程における前記酵母に対する前記糖化液の流加速度を、酵母の糖消費速度により調節し、前記酵母の糖消費速度が、前記酵母の糖消費速度が、残糖が発生しない最大の糖消費速度以上、酵母の最大糖消費速度以下である。
【0023】
本実施形態の製造方法によれば、高速且つ高収率を達成できると共に、発泡が抑制されたリグノセルロース系バイオマス由来化合物を得ることができる。
【0024】
[第1の発酵工程]
本実施形態の製造方法において、まず、酵母を発酵槽に添加する。続いて、リグノセルロース系バイオマス由来の糖化液の流加速度を調節しながら発酵槽へ添加し、撹拌しながら発酵を行う。前記糖化液の発酵槽への添加は、連続的に行ってもよく、一定の間隔をおいて断続的に行ってもよい。発酵温度は、25℃〜50℃が好ましく、28℃〜35℃がより好ましく、32℃が特に好ましい。また、発酵時間は続く第2の発酵工程と合わせて、24時間〜120時間が好ましく、24時間〜96時間がより好ましく、24時間〜72時間がさらに好ましい。
【0025】
使用する酵母としては、キシロース資化能力を有する酵母であればよい。また、酵母は酵母を含む培養液をそのまま使用してもよく、又は、酵母を含む培養液を遠心分離により濃縮したもの、乾燥状態のもの等を適宜使用してよい。
使用する酵母の量は、酵母の増殖速度、発酵槽の大きさ、最終的に発酵に用いる糖化液の量を元に算出すればよい。
【0026】
使用する糖化液としては、リグノセルロース系バイオマスを原料として、前処理及び糖化処理等して得られたものであればよい。前処理及び糖化処理については、後述の[前処理工程]及び[糖化工程]において、詳細に説明する。また、糖化液中、酵母が分解可能な糖としては、主にグルコース及びキシロース等の単糖が挙げられる。
【0027】
本明細書において、「糖化液」とは、リグノセルロース系バイオマスを原料として、前処理及び糖化処理等して得られたものを意味し、糖化装置から発酵槽に供給されるものを示す。また、「培養液」とは、前記発酵槽に供給された前記糖化液を酵母とともに培養し、エタノール等のリグノセルロース系バイオマス由来化合物を生成している状態のものを意味する。また、「発酵液」とは、前記発酵槽における培養が終了し、リグノセルロース系バイオマス由来化合物が含まれ、続く精製工程等に用いられるものを意味する。
【0028】
(発酵阻害物質)
糖化液には、セルロース、ヘミセルロース、単糖(例えば、グルコース、キシロース等)、及びオリゴ糖の少なくともいずれかの糖以外にも、種々の副生成物が含まれている。それら副生成物が発酵工程に悪影響を及ぼさない物質であれば、最後の精製工程において除去すればよいので大きな問題とはならない。しかしながら、前処理の方法によっては、悪影響を及ぼす発酵阻害物質が含まれる。
【0029】
本明細書において、「発酵阻害物質」とは、発酵工程で発酵反応を妨害する物質のことである。代表的な発酵阻害物質としては、糖の過分解物、弱酸、リグニン又はリグニン由来の芳香族化合物、接着剤又は塗料由来の化合物が挙げられる。この中で、接着剤又は塗料などの人工的な薬品に由来する化合物は、それらの処理が施されていない自然由来のリグノセルロース系バイオマスを使用することにより、ある程度回避可能である。しかし、リグノセルロース系バイオマスを原料とする限り、糖の過分解物、弱酸、リグニン由来の芳香族化合物の生成は回避することが困難である。ここで、発酵阻害物質がリグニンのような不溶性固体であり、セルロース、ヘミセルロース、単糖、及びオリゴ糖のうち少なくともいずれかが可溶性である場合には、通常の固液分離によって除去することが可能な場合もある。しかしながら、発酵阻害物質も有用物も可溶性である場合には、通常の固液分離が適用できない。
すなわち、本実施形態において、主に処理対象とする発酵阻害物質は、実質的にセルロース、ヘミセルロース、単糖、及びオリゴ糖の少なくともいずれかの糖との混合溶液を形成しているものであり、通常の固液分離では分離できない、又は、分離し難い状態のものを指す。そのような発酵阻害物質としては、例えば、酢酸、ギ酸、レブリン酸、糖の過分解物であるフルフラール、5−ヒドロキシメチルフルフラール(5−HMF)、リグニン由来の芳香族化合物であるバニリン、アセトバニリン、グアヤコール等が挙げられる。これら発酵阻害物質のうち、代表的な発酵阻害物質はフルフラール及び5−HMFである。
【0030】
上記のフルフラール又は5−HMFによる酵母における発酵阻害機構について、以下に説明する。フルフラール又は5−HMFは、酵母の解糖系やアルコール脱水素(ADH)を阻害することで、酵母の増殖速度や酵母による発酵速度が低下し、さらに、フルフラール又は5−HMFの濃度が高い場合には、酵母は死滅に至ることが知られている(参考文献:Alemeida et al., J Chem. Technol. Biotechnol., 82, 320-349, 2007.)。しかし、酵母もこれら発酵阻害物質の分解能を保有しており、好気条件下では、酸素、水によりカルボン酸の一種である2−フロイック酸に変化し、さらにATPにより2−フロリル−CoAに変化することでTCA回路において活用される。一方、嫌気条件下でフルフラールを無毒化するためには、NADHが必要である。フルフラールはNADHによりフルフリルアルコールに還元され、さらにフルフリルアルコールを細胞外に排出されることが知られている(参考文献:Nieces et al., Front. Bioengi. Biotechnol., 18, 2015.)。
本発明者らは、上記の酵母における発酵阻害機構及び発酵阻害物質の分解機構に着目し、流加培養により糖化液中の発酵阻害物質(主に、フルフラール)の濃度を低く抑えることで、酵母による発酵阻害物質及び糖の分解を同時に行い、さらに回分培養を組み合わせることで、発酵阻害物質が低減された、又は含まれない糖化液中の糖を酵母により分解させて発酵速度を速めることにより、本発明を完成させるに至った。
【0031】
(流加速度)
酵母に対する糖化液の流加速度は、酵母の糖消費速度により調節する。
図1の(A)〜(C)は、発酵阻害物質濃度の異なる糖化液における酵母の糖消費速度と流加速度との関係を示すグラフである。
図1の(A)は発酵阻害物質濃度が低いときのグラフであり、(B)は発酵阻害物質濃度がやや高いときのグラフであり、(C)は発酵阻害物質濃度が高いときのグラフである。なお、
図1の(A)〜(C)は、酵母に対する糖化液の流加速度及び酵母の糖消費速度について、仮説を元に作成した概念図である。
酵母における分解の優先順位としては、発酵阻害物質、グルコース、グルコース以外の糖(例えば、キシロース等)の順番である。以下、説明を簡略化するために、グルコース以外の単糖の代表例としてキシロースを挙げて説明する。
【0032】
図1の(A)において、流加速度が(1)の範囲であるとき、酵母により糖及び発酵阻害物質が分解されている。また、流加速度が(1)と(2)の間の点であるとき、酵母により糖及び発酵阻害物質が分解され、流加培養において、高収率を達成し得る糖消費速度の最大値、すなわち、残糖が発生しない最大の糖消費速度となる。
本明細書において、「残糖」とは、酵母による分解が行われず、培養液中に残留する糖を意味する。ここでいう糖は、酵母が分解可能な単糖等の糖であり、グルコース、キシロース等を含む。
【0033】
また、流加速度が(2)の範囲であるとき、酵母により糖化液中のグルコース及び発酵阻害物質は分解されるが、供給される糖化液中のキシロース濃度が酵母のキシロースの消費能力を上回り、キシロースが低濃度残留している状態である。また、(2)と(3)の間のグラフの頂点のとき、酵母は糖消費速度の最大値を迎える。
さらに、流加速度が(3)の範囲であるとき、酵母により発酵阻害物質は分解されるが、供給される糖化液中のグルコース濃度が酵母のグルコースの消費能力を上回り、グルコースが残留することで、カタボライト抑制によりキシロースの残留量が増加している状態である。また、流加速度が(3)と(4)の間の点であるとき、酵母により発酵阻害物質は分解されるが、グルコースが残留する最小の糖消費速度、すなわち、発酵阻害が生じない最大の糖消費速度となる。
【0034】
一般的に、「カタボライト抑制」とは、ある化合物を微生物が代謝して代謝生成物を生成したとき、その代謝生成物がその物質代謝経路若しくは他の経路の酵素合成を抑制したり、酵素活性を抑制して、経路の活性を抑制する現象を意味する。本実施形態においては、主にグルコースの代謝生成物により、その他の糖(主に、キシロース)を分解するための酵素合成を抑制したり、酵素活性を抑制して、グルコース以外の糖(主に、キシロース)の代謝経路を抑制する現象を示す。
【0035】
また、流加速度が(4)の範囲であるとき、供給される糖化液中の発酵阻害物質濃度が酵母の発酵阻害物質の消費能力を上回り、発酵阻害物質による発酵阻害が生じ、グルコース及びキシロース等の糖が分解される量が急激に減ることにより、残糖が大量に発生している状態である。
【0036】
図1(A)において、流加速度が(1)と(2)の間の点における糖消費速度と、(3)と(4)の間の点における糖消費速度とが同じである場合(「(1)と(2)の間の点における糖消費速度」=「(3)と(4)の間の点における糖消費速度」)を例示しているが、糖化液に含まれる糖や発酵阻害物質の濃度によって、「(1)と(2)の間の点における糖消費速度」>「(3)と(4)の間の点における糖消費速度」となる場合もあり、「(1)と(2)の間の点における糖消費速度」<「(3)と(4)の間の点における糖消費速度」となる場合もある。
よって、「(1)と(2)の間の点における糖消費速度」=「(3)と(4)の間の点における糖消費速度」である場合、
図1(A)に示すように、流加速度の最適範囲は、(2)及び(3)の範囲である。
一方、「(1)と(2)の間の点における糖消費速度」>「(3)と(4)の間の点における糖消費速度」である場合、図示していないが、流加速度の最適範囲は、(2)の範囲と、(3)の範囲の内、(2)と(3)の間のグラフの頂点となる流加速度から、(1)と(2)の間の点における糖消費速度と同じ値の糖消費速度となる流加速度までの範囲とを合わせた範囲となる。
また、「(1)と(2)の間の点における糖消費速度」<「(3)と(4)の間の点における糖消費速度」である場合、図示していないが、流加速度の最適範囲は、(2)の範囲と、(3)の範囲と、さらに、(4)の範囲の内、(3)と(4)の間の点となる流加速度から、(1)と(2)の間の点における糖消費速度と同じ値の糖消費速度となる流加速度までの範囲とを合わせた範囲となる。
【0037】
よって、上記の通り、酵母に対する糖化液の流加速度と酵母の糖消費速度とが対応関係にあることから、本実施形態における流加速度は、対応する酵母の糖消費速度を元に調節される。
従って、発酵阻害物質が低い場合において、流加速度に対応する酵母の糖消費速度の下限値としては、
図1(A)における(1)と(2)の間の点における糖消費速度以上、すなわち、残糖が発生しない最大の糖消費速度以上であることが好ましい。
また、流加速度に対応する酵母の糖消費速度の上限値としては、
図1(A)における(2)と(3)の間のグラフの頂点における糖消費速度以下、すなわち、酵母の最大糖消費速度以下であることが好ましい。
前記糖消費速度が上記下限値及び上限値に挟まれる範囲となるように流加速度を調節することによって、流加培養を用いる第1の発酵工程において、残糖、又は未分解の発酵阻害物質が発生しても、後に続く回分培養を用いる第2の発酵工程において、前記残糖、又は前記未分解の発酵阻害物質を消費することができるため、第1の発酵工程及び第2の発酵工程を通して、酵母による糖消費速度を速く保つことができ、効率的に発酵工程を行うことができる。
【0038】
また、
図1の(B)において、流加速度が(1)及び(2)の範囲であるときは、
図1の(A)と同様であるが、供給される糖化液中のグルコース濃度が酵母のグルコースの消費能力を上回り、グルコースが残留することで、カタボライト抑制によりキシロースの残留量が増加する前に、発酵阻害物質による発酵阻害が生じるため、流加速度が(3)の範囲であるときが存在せず、すぐに流加速度が(4)の範囲となっている。
よって、発酵阻害物質がやや高い場合において、流加速度に対応する酵母の糖消費速度としては、
図1(B)における(1)と(2)の間の点における糖消費速度以上、すなわち、残糖が発生しない最大の糖消費速度以上、酵母の最大糖消費速度以下であることが好ましい。
【0039】
また、
図1の(C)において、流加速度が(1)の範囲であるときは、
図1の(A)と同様であるが、供給される糖化液中のキシロース濃度が酵母のキシロースの消費能力を上回り、キシロースが低濃度残留する前に、発酵阻害物質による発酵阻害が生じるため、流加速度が(2)及び(3)の範囲であるときが存在せず、すぐに流加速度が(4)の範囲となっている。
よって、発酵阻害物質が高い場合において、流加速度に対応する酵母の糖消費速度としては、
図1(C)における(1)と(4)の間のグラフの頂点における糖消費速度、すなわち、酵母の最大糖消費速度であることが好ましい。
【0040】
したがって、発酵阻害物質濃度を全て包含する形として、本実施形態における流加速度は、対応する酵母の糖消費速度により調節されるものであって、前記酵母の糖消費速度が、残糖が発生しない最大の糖消費速度以上、酵母の最大糖消費速度以下であることが好ましい。
上述の速度に調節することにより、高速且つ高収率でリグノセルロース系バイオマス由来化合物を得ることができる。
【0041】
糖消費速度の測定方法としては、特別な限定はなく、直接的又は間接的な方法により行ってよい。直接的に行う方法としては、例えば、バイオセンサーを用いる方法等が挙げられる。間接的に行う方法としては、例えば、培養液の糖濃度を屈折式ブリックス(Brix)計を始めとする屈折率計、振動式密度計、粘度計等を用いて測定する方法等が挙げられる。また、その他の間接的に行う方法としては、ガス分析計(例えば、レーザガス分析計、ガスクロマトグラフ等)等を用いて、排気ガス中の二酸化炭素濃度を測定し、糖消費速度を算出する方法等が挙げられる。これは、例えば、リグノセルロース系バイオマス化合物としてエタノールを製造する場合において、1分子のグルコースから、2分子のエタノールと2分子の二酸化炭素とが生成されるため、二酸化炭素の発生量からグルコース消費量を計算することができる。
中でも、糖消費速度の測定方法としては、ガス分析計(例えば、レーザガス分析計、ガスクロマトグラフ等)等を用いて、排気ガス中の二酸化炭素濃度を測定し、糖消費速度を算出する方法が好ましい。この方法を用いることで、糖濃度を測定する方法と比較して、短時間で正確な制御を行うことができる。さらに、この方法は、オンラインで素早く糖消費速度を算出することができるため、連続的に行われる発酵工程において、原料の違いや前処理条件の変化による糖濃度や発酵阻害物質濃度の変化に応じて、即座に流加速度を修正するができ、発酵速度の最大化を実現できる。
【0042】
[第2の発酵工程]
続いて、添加された前記糖化液が一定量に達したとき、前記糖化液の添加を停止し、回分培養により撹拌しながら発酵を行う。発酵温度は、25℃〜50℃が好ましく、28℃〜35℃がより好ましく、32℃が特に好ましい。
【0043】
本実施形態の製造方法において、「一定量」とは、発酵槽を十分に満たす量であって、発酵槽の大きさにより、適宜調節可能な量である。通常、発酵槽の容量の80%以上95%以下であればよい。
【0044】
第2の発酵工程において、回分培養による発酵を終了する判断基準としては、例えば、キシロースの消費速度がグルコースの消費速度よりも遅いことから、キシロース濃度を測定することによって判断する方法等が挙げられる。キシロース濃度の測定方法としては、例えば、高速液体クロマトグラフを用いる方法、D−キシロース測定キット(BIOCON社製)を用いる方法等が挙げられる。これらの機器は、発酵工程中継続してキシロース濃度をモニターできるようにフローセル方式若しくは発酵槽内に直接設置する方式にて備えることができる。
回分培養による発酵を終了する判断基準となる培養液中のキシロース濃度としては、1.0g/L以下であることが好ましく、0.5g/L以下であることがより好ましい。
キシロース濃度が上記範囲にあることにより、培養液中の糖が十分に消費されており、高収率で所望のリグノセルロース系バイオマス由来化合物を得ることができる。
【0045】
また、その他の回分培養による発酵を終了する判断基準としては、例えば、上述の通り、1分子のグルコースから、2分子のエタノールと2分子の二酸化炭素とが生成されることから、二酸化炭素濃度を測定することによって判断する方法等が挙げられる。二酸化炭素濃度の測定方法としては、例えば、ガス分析計(例えば、レーザガス分析計、ガスクロマトグラフ等)等を用いる方法等が挙げられる。
回分培養による発酵を終了する判断基準となる培養液中の二酸化炭素濃度としては、ガス分析計(例えば、レーザガス分析計、ガスクロマトグラフ等)等を用いて検知されなくなる程度の低濃度以下であることが好ましい。
二酸化炭素濃度が上記範囲にあることにより、培養液中の糖が十分に消費されており、高収率で所望のリグノセルロース系バイオマス由来化合物を得ることができる。
【0046】
発酵における撹拌により酸素が培養液中に供給されることにより、培養液中の1分子のグルコースと6分子の酸素とから6分子の二酸化炭素と6分子の水分子が生成されることが知られている。そのため、グルコースが枯渇すると上記の酸素消費反応が生じなくなり、酸素が消費されず溶存酸素濃度が上昇する。よって、その他の回分培養による発酵を終了する判断基準としては、例えば、培養液中の溶存酸素濃度を測定する方法等が挙げられる。溶存酸素濃度の測定方法としては、例えば、滴定法(例えば、ウインクラー法、ウインクラーアジ化ナトリウム変法)、隔膜電極法(例えば、ガルバニ電極法、ポーラログラフ法)、蛍光法等が挙げられる。
回分培養による発酵を終了する判断基準となる培養液中の溶存酸素濃度としては、10分前の測定値に対して、1.2倍以上であることが好ましく、2.0倍以上であることがより好ましい。
溶存酸素濃度が上記範囲にあることにより、培養液中の糖が十分に消費されており、高収率で所望のリグノセルロース系バイオマス由来化合物を得ることができる。
【0047】
上述の回分培養による発酵を終了する判断基準は、いずれか一つを測定し、発酵を終了するタイミングを判断してもよく、二つ以上を測定し、複合的に発酵を終了するタイミングを判断してもよい。
【0048】
また、本実施形態の製造方法において、前記第1の発酵工程及び前記第2の発酵工程それぞれにおける発酵時間は、使用する糖化液中に含まれる発酵阻害物質(特に、フルフラール)の含有量、酵母液の量及び糖化液の量によって、適宜調整することができる。例えば、糖化液中のフルフラール濃度が500ppm以上1500ppm以下であり、1.0×10
7CFU/mL以上1.0×10
8CFU/mL以下含む酵母液を用いて、前記酵母液に対する前記糖化液の体積比が2倍以上25倍以下であるとき、前記第1の発酵工程における発酵時間が10時間以上14時間以下であることが好ましく、前記第2の発酵工程における発酵時間が22時間以上38時間以下であることが好ましい。
【0049】
本実施形態の製造方法において、第1の発酵工程の前に、前処理工程及び糖化工程を備えていてもよい。また、第2の発酵工程の後に、精製工程を備えていてもよく、精製工程については、発酵液の活用方法によって、適宜選択できる。例えば、エタノールを得ることを目的とした場合は、発酵液を精製する工程として蒸留工程を設けることができる。
【0050】
[前処理工程]
前処理工程は、続く糖化工程において、糖化反応を効率的に行うためにリグノセルロース系バイオマスを前処理する工程である。
前処理方法としては、例えば、蒸気のみでの蒸煮法、イオン液体を用いる方法、ミルを用いる粉砕法などが挙げられる。また、前処理工程において、必要に応じて、適宜酸又はアルカリを混合させてもよい。酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の中から選ばれ、これらを単独で又は組み合わせて用いてもよい。中でも工業利用には安価で手に入りやすい硫酸が特に好ましい。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等が挙げられ、これらを単独で又は組み合わせて用いてもよい。事前処理に用いる反応容器には特に限定はないが、耐酸性又は耐アルカリ性を有する加熱圧力容器、若しくは、耐酸性又は耐アルカリ性を有する容器をオートクレーブのような加熱圧力装置に入れて処理する形態が考えられる。
【0051】
[糖化工程]
糖化工程は、続く発酵工程において、発酵を効率的に行うために、前処理済みリグノセルロース系バイオマスを糖化する工程である。
糖化工程において、前処理済リグノセルロース系バイオマス及び酵素を混合し、糖化する。糖化温度は、45℃〜70℃が好ましく、45℃〜55℃がより好ましく、50℃が特に好ましい。また、糖化時間は12時間〜120時間が好ましく、24時間〜96時間がより好ましく、24時間〜72時間がさらに好ましい。
【0052】
本明細書において、酵素とは、リグノセルロース系バイオマスを単糖又はオリゴ糖単位に分解する酵素を意味し、リグノセルロース系バイオマスを単糖又はオリゴ糖にまで分解するものであればよく、セルラーゼ及びヘミセルラーゼの各活性を持つものであればよい。
セルラーゼは、セルロースをグルコース等の単糖又はオリゴ糖に分解するものであればよく、エンドグルカナーゼ(EG)、セロビオハイドロラーゼ(CBH)及びβ−グルコシダーゼ(BGL)の各活性の少なくとも1つの活性を有するものを挙げることができ、これらの各活性を有する酵素混合物であることが、酵素活性の観点から好ましい。
同じくヘミセルラーゼは、ヘミセルロースをキシロース等の単糖又はオリゴ糖に分解するものであればよく、キシラナーゼ、キシロシダーゼ、マンナナーゼ、ペクチナーゼ、ガラクトシダーゼ、グルクロニダーゼ及びアラビノフラノシダーゼの各活性の少なくとも1つの活性を有するものを挙げることができ、これらの各活性を有する酵素混合物であることが、酵素活性の観点から好ましい。
これらセルラーゼ及びヘミセルラーゼの起源は限定されることはなく、糸状菌、担子菌、細菌類等のセルラーゼ及びヘミセルラーゼを用いることができる。
【0053】
[精製工程]
精製工程は、第2の発酵工程において得られた発酵液に含まれるリグノセルロース系バイオマス化合物を精製するための工程である。
精製方法としては、リグノセルロース系バイオマス化合物がアルコール類である場合は、例えば、前記発酵液を蒸留する方法等が挙げられる。また、リグノセルロース系バイオマス化合物がアミノ酸類である場合は、例えば、イオン交換法、活性炭を用いた異物の吸着除去法等が挙げられる。
【0054】
[リグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造装置]
図2は、本発明の第一実施形態に係るリグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造装置の概略構成を示す図である。なお、以下の説明で用いる図は、本発明の特徴を分かり易くするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
本実施形態の製造装置10は、糖化槽12と発酵槽11とが配管により配設されている。また、前記糖化槽12において得られた糖化液を前記発酵槽11へ送液する配管13と、前記発酵槽11において得られた発酵液を続く精製装置に送役する配管16とが配設されている。さらに、発酵槽11は、ガス分析計14、糖濃度分析計15及び溶存酸素分析計23を備えている。ガス分析計14、糖濃度分析計15及び溶存酸素分析計23は、必須の構成ではなく、いずれも備えていなくてもよく、少なくともいずれか一つを備えていてもよく、
図2に示すように全て備えていてもよい。
また、
図2に示すように、配管13及び16は、ガス分析計14、糖濃度分析計15及び溶存酸素分析計23を備えていてもよい。
さらに、制御装置18がガス分析計14、糖濃度分析計15、溶存酸素分析計23、ポンプ17a及びポンプ17bに接続している。
糖化槽12の前には、前処理装置が配設されていてもよい。また、発酵槽11の後に続く設備は、発酵液の用途に応じて、適宜選択することができる。例えば、蒸留塔、分離ろ過膜、遠心分離機等の精製装置が配設されていてもよい。
【0055】
糖化槽12は、酵素、前処理済みリグノセルロース系バイオマスを含み、単糖を生成する糖化反応を行うための槽であり、特別な制限はない。例えば、撹拌型、通気撹拌型、気泡塔型、流動層型、充填層型などを挙げられ、これらに限定されない。糖化槽12の温度は、40℃〜70℃が好ましく、45℃〜55℃がより好ましく、50℃が特に好ましい。また、糖化反応時間は12時間〜120時間が好ましく、24時間〜96時間がより好ましく、24時間〜72時間がさらに好ましい。糖化槽12内の温度を一定に保つために、糖化槽3の外側に温水循環式のジャケットなど温度調整装置を備えていることが好ましい。
【0056】
発酵槽11は、糖化槽12から得られた糖化液に、酵母を植菌し、発酵するための槽であって、特別な限定はない。発酵槽としては、例えば、撹拌型、通気撹拌型、気泡塔型、流動層型、充填層型等を挙げられ、これらに限定されない。発酵槽11の温度は、25℃〜50℃が好ましく、28℃〜35℃がより好ましく、32℃が特に好ましい。また、発酵時間は、24時間〜120時間が好ましく、24時間〜96時間がより好ましく、24時間〜72時間がさらに好ましい。
また、
図2に示すように発酵槽11はガス分析計14及び糖濃度分析計15を備えているが、ガス分析計14及び糖濃度分析計15のうちいずれか一つを備えていてもよく、両方ともに備えていてもよい。
【0057】
ガス分析計14は、排気ガス中の二酸化炭素濃度を測定するための分析計であって、特別な限定はない。ガス分析計としては、例えば、レーザガス分析計、ガスクロマトグラフ等を挙げられ、これらに限定されない。これらの機器は、発酵工程中継続して二酸化炭素濃度をモニターできるようにフローセル方式若しくは発酵槽11内に直接設置する方式にて備えることができる。
【0058】
糖濃度分析計15は、培養液中の糖濃度を測定するための分析計であって、特別な限定はない。糖濃度分析計としては、例えば、屈折式ブリックス(Brix)計を始めとする屈折率計、振動式密度計、粘度計等が挙げられ、これらに限定されない。これらの機器は、発酵工程中継続して糖濃度をモニターできるようにフローセル方式若しくは発酵槽11内に直接設置する方式にて備えることができる。
【0059】
溶存酸素分析計23は、培養液中の溶存酸素濃度を測定するための分析計であって、特別な限定はない。溶存酸素分析計としては、例えば、ガルバニ式溶存酸素分析計、ポーラログラフ式溶存酸素分析計等が挙げられ、これらに限定されない。これらの機器は、発酵工程中継続して溶存酸素濃度をモニターできるようにフローセル方式若しくは発酵槽11内に直接設置する方式にて備えることができる。
【0060】
制御装置18は、ガス分析計14又は糖濃度分析計15での測定結果から糖消費速度を算出し、糖消費速度が上述の[第1の発酵工程]で示した範囲となるようにモニタリングしながらポンプ17aを制御することにより、発酵槽11に送液される糖化液の流加速度を制御するためのものである。さらに、制御装置18は、ガス分析計14、糖濃度分析計15、又は溶存酸素分析計23での測定結果から、キシロース濃度、二酸化炭素濃度、又は溶存酸素濃度が上述の[第2の発酵工程]で示した範囲となったとき、回分培養による発酵を終了することを判断し、撹拌翼による撹拌を停止し、ポンプ17bを制御することにより、続く精製装置等に送液される発酵液の送液速度を制御するためのものである。
制御装置18は、例えば、
図2に示すように、制御用コンピュータ及びコントローラーから構成されるもの等が挙げられる。
【0061】
図2に示す本実施形態のリグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造装置を用いて、リグノセルロース系バイオマス由来化合物を製造する方法を以下に説明する。
まず、前処理装置を用いて、リグノセルロース系バイオマスを物理的又は化学的な処理を施し、形状を微細化する、又はオリゴ糖に分解する等して糖化酵素処理しやすい状態にする。続いて、前処理済みのリグノセルロース系バイオマスを糖化槽12へ送液し、糖化酵素を用いて、グルコースやキシロース等の単糖又はより小さなオリゴ糖に分解させる。続いて、糖化槽12から発酵槽11へ糖化液の一部を送液し、酵母を添加する。続いて、糖化液を連続的に送液する。このとき、制御装置18を用いて、ガス分析計14又は糖濃度分析計15で測定された値を元に糖消費速度を算出し、糖消費速度が上述の[第1の発酵工程]で示した範囲となるようにモニタリングしながら、ポンプ17aを制御することにより、発酵槽11に送液される糖化液の流加速度を制御し、発酵を行う。続いて、発酵槽11が一定量の糖化液(通常、発酵槽11の容量の80%以上95%以下)で満たされたら、糖化液の送液を停止し、さらに発酵を行う。続いて、制御装置18を用いて、ガス分析計14、糖濃度分析計15、又は溶存酸素分析計23で測定された値から、キシロース濃度、二酸化炭素濃度、又は溶存酸素濃度が上述の[第2の発酵工程]で示した範囲となったとき、発酵を終了することを判断し、撹拌翼による撹拌を停止する。続いて、制御装置18を用いて、ポンプ17bを制御することにより、得られた発酵液の送液速度を制御し、前記発酵液に含まれる所望のリグノセルロース系バイオマス由来化合物を分離又は精製するために、必要に応じて、蒸留塔等の精製装置へ送液される。
【0062】
<第二実施形態>
一実施形態において、本発明のリグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造方法は、前記第1の発酵工程において、発酵開始時の培養液の液面より下から前記糖化液を添加する。
【0063】
本実施形態の製造方法によれば、水しぶきによる空気の巻き込みや糖化液自体の溶存酸素濃度による培養液中の酸素濃度の増加を抑制することができることができる。
また、発酵工程において、好気条件下では、添加された糖が酵母の菌体合成に使われてしまう。そのため、高発酵収率を達成するためには嫌気条件下に保つことが重要となる。本実施形態の製造方法によれば、培養液を嫌気条件下に保つことができ、発酵収率を向上させることができる。
【0064】
上述の[第1の発酵工程]において、通常、まず少量の糖化液及び酵母を投入し、混合した後に、糖化液の連続的な添加を開始し、流加培養による発酵を行う。ここでいう少量の糖化液とは、発酵開始時に投入された酵母の量に対し、酵母が糖化液に含まれるグルコース、キシロース及び発酵阻害物質全てを分解可能である程度にグルコース、キシロース及び発酵阻害物質を含む糖化液の量を意味する。よって、使用する糖化液中のグルコース、キシロース及び発酵阻害物質の濃度によって、初期投入する糖化液の量は適宜調節することができる。
【0065】
本実施形態の製造方法において、初期投入した少量の糖化液及び酵母を含む培養液の液面より下から糖化液を送液することにより、空気との接触を防ぎ、空気の巻き込みを防ぐことができる。培養液の液面より下とは、例えば、発酵槽の底面から糖化液を送液してもよく、液面より下にあたる側面から糖化液を送液してもよい。
【0066】
[リグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造装置]
図3は、本発明の第二実施形態に係るリグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造装置の概略構成を示す図である。本実施形態の製造装置20は、配管13が発酵槽11の底面に配設されている点で、
図2に示す製造装置10と相違し、その他の構成は製造装置10と同じである。
なお、以下の
図3〜7において、
図2に示す構成要素と同一のものについては同じ符号を用いている。
【0067】
配管13は、
図2と同様に、糖化槽12において得られた糖化液を発酵槽11へ送液するための配管であって、特別な限定はない。
図3において、配管13は発酵槽11の底面に配設されているが、発酵開始時の糖化液の液面より下の側面に配設されていてもよい。
図3に示す製造装置20は、糖化液の添加が発酵槽11の底面から送液される以外は、
図2に示す製造装置10と同様の方法により、リグノセルロース系バイオマス由来化合物を製造することができる。
【0068】
<第三実施形態>
一実施形態において、本発明のリグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造方法は、前記第1の発酵工程において、前記培養液の液面が発酵槽の撹拌翼の底面から20cm下から前記撹拌翼の天面から20cm上までを通過するとき、撹拌を停止する。
【0069】
本実施形態の製造方法によれば、発酵槽内の培養液の液面が発酵槽の撹拌翼と同じ高さになり空気を巻き込むことを予防することができる。さらに、培養液を嫌気雰囲気下に保つことができ、発酵収率を向上させることができる。
【0070】
上述の[第1の発酵工程]において、撹拌前に初期投入した糖化液と酵母を含む培養液の液面が発酵槽の撹拌翼の底面よりも下である場合、連続的に糖化液を添加していくことで、経時的に培養液の液面が上昇していく。そして、その液面が、好ましくは撹拌翼の底面から20cm下から前記撹拌翼の天面から20cm上まで、より好ましくは撹拌翼の底面から15cm下から前記撹拌翼の天面から15cm上まで、さらに好ましくは撹拌翼の底面から10cm下から前記撹拌翼の天面から10cm上までを通過するとき、発酵槽の撹拌翼による撹拌を停止させる。
本実施形態の製造方法において、糖化液の添加は、上述の<第二実施形態>に示す通り、発酵槽内の培養液の液面より下から行ってもよい。
【0071】
[リグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造装置]
図4は、本発明の第三実施形態に係るリグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造装置の概略構成を示す図である。本実施形態の製造装置30は、フローセル流量計19を備え、前記フローセル流量計19及び発酵槽11の撹拌翼が制御装置18と接続している点で、
図2に示す製造装置10と相違し、その他の構成は製造装置10と同じである。また、製造装置30において、
図3に示す製造装置20と同様に、配管13が発酵槽11の底面に配設されていてもよい。
【0072】
フローセル流量計19は、発酵槽11の外側面に配設されており、発酵槽11内の液量及び液面の高さを計測するためのものであって、公知のものを用いればよい。フローセル流量計19は、制御装置18と接続している。よって、製造装置30における制御装置18は、発酵槽内の培養液の液面を経時的にモニタリングするものである。さらに、制御装置18は発酵槽11の撹拌翼に接続しており、撹拌を制御するものである。発酵槽内の培養液の液面が、好ましくは撹拌翼の底面から20cm下から前記撹拌翼の天面から20cm上まで、より好ましくは撹拌翼の底面から15cm下から前記撹拌翼の天面から15cm上まで、さらに好ましくは撹拌翼の底面から10cm下から前記撹拌翼の天面から10cm上までを通過するとき、制御装置18は撹拌翼による撹拌を停止する。
【0073】
図4に示す製造装置30は、制御装置18がフローセル流量計19の計測結果を元に、発酵槽11内の培養液の液面が撹拌翼付近を通過する際に撹拌を停止する制御を行う以外は、
図2に示す製造装置10と同様の方法により、リグノセルロース系バイオマス由来化合物を製造することができる。
【0074】
<<発酵装置>>
<第一実施形態>
一実施形態において、本発明の発酵装置は、リグノセルロース系バイオマス由来の糖化液を発酵するための装置であって、少なくとも1つの泡探知機を有する発酵槽と、前記泡探知機で探知された泡高さを指標として、前記発酵槽へのリグノセルロース系バイオマス由来の糖化液の流加速度を制御する制御装置と、を備える。
【0075】
本実施形態の発酵装置によれば、流加培養における発泡を抑制することができる。
発泡は菌の流出につながり、従来では、発酵槽内の液面を低く保つ操作、又は消泡剤の添加、撹拌数の抑制等の対策を行っており、生産能力低下、試薬費の増加や収率低下を引き起こすため、製造コストの増加につながることが課題であった。また、発泡の主な要因としては、酵母による二酸化炭素ガスの合成等が挙げられ、発酵槽内の培養液は粘性が高く、合成された二酸化炭素よる発泡が起きやすい環境となっている。
本実施形態の発酵装置は、酵母による二酸化炭素の合成量が少ない流加培養による発酵に好適に用いられるため、優れた発泡抑制効果を有する。また、本実施形態の発酵装置は、泡高さを指標として流加速度を制御することによりさらに発泡を抑制することができ、上記従来法において課題であった製造コストの低下につながる。
【0076】
図5は、本発明の第一実施形態に係る発酵装置の概略構成を示す図である。本実施形態の発酵装置100は、ガス分析計14及び糖濃度分析計15の代わりに、泡探知機22を備える点で、
図4に示す製造装置30における発酵槽11と相違し、その他の構成は製造装置30における発酵槽11と同じである。また、発酵装置100において、
図2に示す製造装置10における発酵槽11と同様に、ガス分析計14、糖濃度分析計15及び溶存酸素分析計23を備えていてもよい。
【0077】
泡探知機22は、発酵槽内の培養液の液面に発生した泡の高さ(泡高さ)を探知するためのものであって、特別な限定はなく、公知のものを用いればよい。泡探知機22は制御装置18に接続している。よって、発酵装置100における制御装置18は、発酵槽11内の培養液の液面の泡高さをモニタリングするものである。さらに、制御装置18はポンプ17aに接続しており、前記泡探知機22で探知された泡高さを指標として、流加速度を制御するものである。制御装置18は、発酵槽内の培養液の液面に泡が発生していない場合は、流加速度が速くするように制御し、一方、発酵槽内の培養液の液面に発生された泡高さが、好ましくは30cm以上、より好ましくは15cm以上、さらに好ましくは5cm以上になるとき、流加速度が遅くなるように制御する。
また、制御装置18は、発酵槽11にガス分析計14及び糖濃度分析計15のうち少なくともいずれか一つを備える場合、上述の
図1に示す製造装置10と同様に、酵母の糖消費速度による流加速度の制御と組み合わせて、発泡を抑制しながら酵母による最適な糖消費速度となるように、制御を行ってもよい。
また、制御装置18は、発酵槽11にガス分析計14、糖濃度分析計15及び溶存酸素分析計23のうち少なくともいずれか一つを備える場合、上述の
図1に示す製造装置10と同様に、ガス分析計14、糖濃度分析計15及び溶存酸素分析計23の測定値から、キシロース濃度、二酸化炭素濃度、又は溶存酸素濃度が上述の[第2の発酵工程]で示した範囲となったとき、発酵を終了することを判断するように、制御を行ってもよい。
また、制御装置18は、発酵槽11内の培養液の液面が撹拌翼の底面より下にある場合、上述の製造装置30における制御装置18と同様に、液面が、好ましくは撹拌翼の底面から20cm下から前記撹拌翼の天面から20cm上までを通過するとき、撹拌翼による撹拌を停止するように制御してもよい。
【0078】
図5に示す本実施形態の発酵装置を用いて、リグノセルロース系バイオマス由来の糖化液を発酵する方法を以下に説明する。
まず、糖化装置から発酵槽11へ糖化液の一部を送液し、酵母を添加する。続いて、糖化液を連続的に送液する。このとき、制御装置18を用いて、泡探知機22で探知された泡高さをモニタリングしながら、ポンプ17aを制御することにより、発酵槽11に送液される糖化液の流加速度を制御し、培養液の発泡が抑制しながら発酵を行う。続いて、発酵槽11が一定量の糖化液(通常、発酵槽11の容量の80%以上95%以下)で満たされたら、糖化液の送液を停止し、さらに発酵を行う。続いて、発酵終了後、制御装置18を用いて、ポンプ17bを制御することにより、得られた発酵液の送液速度を制御し、前記発酵液に含まれる所望のリグノセルロース系バイオマス由来化合物を分離又は精製するために、必要に応じて、蒸留塔等の精製装置へ送液される。
【0079】
<第二実施形態>
一実施形態において、本発明の発酵装置は、さらに、前記発酵槽は、底面、又は発酵開始時の前記糖化液の液面より下の側面に配設された、前記糖化液を前記発酵槽へ送液するための配管を備える。
【0080】
本実施形態の発酵装置によれば、流加培養における発泡を抑制することができる。また、水しぶきによる空気の巻き込みや糖化液自体の溶存酸素濃度による培養液中の酸素濃度の増加を抑制することができることができる。さらに、培養液を嫌気雰囲気下に保つことができ、発酵収率を向上させることができる。
【0081】
図6は、本発明の第二実施形態に係る発酵装置の概略構成を示す図である。本実施形態の発酵装置200は、配管13が発酵槽11の底面に配設されている点で、
図5に示す発酵装置100と相違し、その他の構成は発酵装置100と同じである。また、発酵装置200において、
図2に示す製造装置10における発酵槽11と同様に、ガス分析計14及び糖濃度分析計15を備えていてもよい。
【0082】
配管13は、
図5と同様に、糖化装置において得られた糖化液を発酵槽11へ送液するための配管であって、特別な限定はない。
図6において、配管13は発酵槽11の底面に配設されているが、発酵開始時の糖化液の液面より下の側面に配設されていてもよい。
図6に示す発酵装置200は、糖化液の添加が発酵槽11の底面から送液される以外は、
図5に示す発酵装置100と同様の方法により、リグノセルロース系バイオマス由来の糖化液を発酵することができる。
【実施例】
【0083】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0084】
[参考例1]
2本の500mL容量の三角フラスコに、出芽酵母(キシロース資化の遺伝子操作済み)を6.0×10
7CFU/mL含む酵母液を10mLずつ添加した。続いて、YPDX培地(3%グルコース及び2%キシロースが含有)190mLを培養開始0時間の時点で全量添加し培養を行ったもの(以下、「回分培養」と呼ぶことがある。)と、前記YPDX培地190mLを48時間かけて定速で添加しながら培養したもの(以下、「流加培養」と呼ぶことがある。)と、を準備した。流加培養では、送液ポンプとして、KNF Lab社製のSIMDOS02 FEM1.02KT.18Sを用いた。また、培養装置としては、Bioshaker BR−43FL(TAITEC社製)を用いた。撹拌条件としては、撹拌数60rpm、32℃の条件で、48時間培養を行った。培養開始から12時間毎に、回分培養及び流加培養それぞれから少量のサンプルを採取し、HPLC(島津製作所製、検出器:RID−10A、カラムオーブン:CTO−20A)を用いて、培養液中に含まれるエタノールを検出した。結果を
図7に示す。
【0085】
図7から、発酵阻害物質の存在しない環境下では、回分培養のほうが流加培養よりも発酵速度が速いことが明らかとなった。
【0086】
[参考例2]
YPDX培地の代わりに、希硫酸前処理を行ったリグノセルロース系バイオマスの酵素糖化液(3%グルコース、2%キシロース及び0.06%フルフラール含有)を180mLずつ用い、6.0×10
7CFU/mL含む酵母液を20mLずつ用いた以外、参考例1と同様の方法を用いて、回分培養及び流加培養を行った。結果を
図8に示す。
【0087】
図8から、発酵阻害物質の存在する環境下では、流加培養のほうが回分培養よりも発酵速度が速いことが明らかとなった。これは、回分培養では著しく発酵阻害が生じるためであると推察できた。
【0088】
[実施例1]
2本の500mL容量の三角フラスコに、出芽酵母(キシロース資化の遺伝子操作済み)を6.0×10
7CFU/mL含む酵母液を10mLずつ添加した。続いて、希硫酸前処理を行ったリグノセルロース系バイオマスの酵素糖化液(3%グルコース、2%キシロース及び0.06%フルフラール含有)190mLを48時間かけて定速で添加し培養を行ったもの(以下、「流加培養」と呼ぶことがある。)と、前記酵素糖化液190mLを12時間かけて定速で添加し(前記流加培養の4倍の流加速度で前記酵素糖化液を添加し)、残りの36時間は前記酵素糖化液の添加を行わずに培養を行ったもの(以下、「流加培養+回分培養」と呼ぶことがある。)と、を準備した。流加培養では、送液ポンプとして、KNF Lab社製のSIMDOS02 FEM1.02KT.18Sを用いた。流加培養+回分培養における流加培養では、送液ポンプとして、Cole−Parmer社製のCole−Parmer(登録商標) Masterflex 77521−50を用いた。撹拌条件としては、撹拌数60rpm、32℃の条件で、48時間培養を行った。培養開始から12時間毎に、流加培養及び流加培養+回分培養それぞれから少量のサンプルを採取し、HPLC(島津製作所製、検出器:RID−10A、カラムオーブン:CTO−20A)を用いて、培養液中に含まれるエタノールを検出した。結果を
図9に示す。
【0089】
図9から、発酵阻害物質の存在する環境下では、流加培養+回分培養のほうが流加培養よりも発酵速度が速いことが明らかとなった。これは、流加培養+回分培養では流加培養のみよりも基質濃度が高くなるためであると推察できた。
【0090】
以上のことから、流加培養及び回分培養を組み合わせることで、高速でエタノールが得られることが確かめられた。
【解決手段】本発明のリグノセルロース系バイオマス由来化合物の製造方法は、酵母に対し、リグノセルロース系バイオマス由来の糖化液を添加しながら培養を行う流加培養により発酵を行う第1の発酵工程と、添加された前記糖化液が一定量に達したとき、前記糖化液の添加を停止し、回分培養により発酵を行う第2の発酵工程と、を備え、前記第1の発酵工程における前記酵母に対する前記糖化液の流加速度を、酵母の糖消費速度により調節し、前記酵母の糖消費速度が、前記酵母の糖消費速度が、残糖が発生しない最大の糖消費速度以上、酵母の最大糖消費速度以下であることを特徴とする。