(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好適な一実施形態の複合基板について、図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態の複合基板20の斜視図である。
【0012】
複合基板20は、圧電基板12と支持基板14とを接合してなる直径2インチ以上のものである。圧電基板12は、光を透過するものであり、その材質としては、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体単結晶、硼酸リチウム、ランガサイト、水晶などが挙げられる。圧電基板12の大きさは、直径2インチ以上、好ましくは4インチ以上、より好ましくは4〜8インチであり、厚みが20μm以下、好ましくは0.2〜15μmであるものとしてもよい。圧電基板12は、厚みの最大値と最小値の差が全平面で100nm以下であることが好ましく、60nm以下がより好ましい。支持基板14の材質としては、シリコン、サファイア、窒化アルミニウム、アルミナ、無アルカリガラス、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体単結晶、ホウ酸リチウム、ランガサイト、水晶などが挙げられる。支持基板14の大きさは、直径が圧電基板12以上であり、厚さが100〜1000μm、好ましくは150〜500μmであるものとしてもよい。なお、複合基板20は、
図1に示すようにオリエンテーションフラット(OF)を有してもよいが、OFを有さなくてもよい。
【0013】
複合基板20は、圧電基板12と支持基板14とを直接接合により一体化したものであるか、有機接着層を介して貼り合わせたものとしてもよい。有機接着層の材質としては、例えばエポキシ樹脂やアクリル樹脂などが挙げられる。直接接合は、圧電基板と支持基板のそれぞれの接合面を活性化した後、両接合面を向かい合わせにした状態で両基板を押圧することにより行ってもよい。接合面を活性化する方法は、例えば、接合面への不活性ガス(アルゴンなど)のイオンビームの照射のほか、プラズマや中性原子ビームの照射などが挙げられる。複合基板20は、圧電基板12と支持基板14とを直接接合により一体化したものとするのが好ましい。直接接合により一体化したものでは、圧電基板12と支持基板14との間に、有機接着剤層がないし、隙間が生じにくいため、圧電基板12以外に光路差を生じさせる層がほとんどない。このため、干渉縞が乱れにくく、干渉縞の交差部分の形状を推定しやすい。
【0014】
圧電基板12は、縞状の厚み分布を有し、この縞に直交する線に沿って複合基板20を切断した断面における、圧電基板12の厚み分布に、厚み方向の振幅がAで幅方向のピッチがPの波形Wが現れる。この波形WにおけるピッチPは、縞状の厚み分布の縞の幅と相関がある。表1に、縞状の厚み分布の例を示す。表1では、厚みが薄く波形Wの谷側に対応する部分をグレーで示し、厚みが厚く波形Wの山側に対応する部分を白色で示した。縞状の厚み分布における縞は、例えば、縦縞、横縞、斜めの縞などといった平行な縞としてもよいし、渦巻き状の縞としてもよいし、同心円状の縞としてもよい。
【0016】
振幅Aは、波形Wの谷(凹部の頂点)との山(凸部の頂点)との厚みの差であり、一定の値でもよいし、所定の範囲内で変動する値でもよい。振幅Aは、5nm以上100nm以下の範囲内であればよいが、5nm以上50nm以下が好ましく、5nm以上30nm以下がより好ましい。振幅Aが5nm以上であれば、後述する圧電基板の厚み傾向推定方法に示すように、圧電基板12の厚み傾向を干渉縞から推定でき、100nm以下であれば圧電基板の厚みのバラツキが大きすぎず、圧電基板の用途(例えば弾性波デバイスなど)に好適に用いることができる。ピッチPは、波形Wにおいて、隣合う谷(凹部の頂点)と谷又は隣合う山(凸部の頂点)と山の間隔であり、一定の値でもよいし、所定の範囲内で変動する値でもよい。ピッチPは、0.5mm以上20mm以下の範囲内であればよいが、1mm以上10mm以下が好ましく、1mm以上5mm以下がより好ましい。ピッチPが0.5mm以上20mm以下では圧電基板12の厚み傾向を干渉縞から推定できる。ピッチPは、圧電基板12の外径の0.5%以上20%以下の範囲内が好ましく、1%以上5%以下がより好ましい。0.5%以上20%以上であれば、干渉縞の交差部分の形状を推定しやすい。振幅AやピッチPは、一定でもよいし、波ごとに異なっていてもよい。また、上述した波形Wには、高周波成分が重畳していてもよい。この場合、高周波成分(例えばピッチが0.5mm未満の成分)を除去したときの振幅AやピッチPを波形Wの振幅AやピッチPとしてもよい。
【0017】
本実施形態の複合基板は、以下に示す工程(a)〜(c)を含む製造方法で製造されたものとしてもよい。
図2は、本実施形態の複合基板20の製造方法の説明図である。
図3は、例えば工程(a)で用いる一般的なCMP研磨機30の研磨部の斜視図である。
図4は、例えば工程(c)で用いる小径工具CMP研磨機50の研磨部の斜視図であり、
図5は小径工具CMP研磨機50の説明図である。
【0018】
1.工程(a)
まず、圧電基板12と支持基板14とを接合してなる直径2インチ以上の貼り合わせ基板10を用意する(
図2(A))。貼り合わせ基板10において、圧電基板12は、厚さが100〜1000μm、好ましくは150〜500μmであるものとしてもよい。
【0019】
次に、圧電基板12と支持基板14とを接合してなる直径2インチ以上の貼り合わせ基板10の圧電基板12側を、圧電基板12の厚みが20μm以下、好ましくは1〜15μmになるまで鏡面研磨する(
図2(B))。例えば、貼り合わせ基板10の圧電基板12側を、まずグラインダー加工機で研磨し、次いでラップ加工機で研磨し、更にCMP研磨機で圧電基板12の厚みが20μm以下になるまで鏡面研磨してもよい。こうすれば、圧電基板12の厚みを効率よく20μm以下にすることができる。なお、CMPは、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing)の略である。
【0020】
CMP研磨機として、例えば、
図3に示すような一般的なCMP研磨機30を用いてもよい。CMP研磨機30は、研磨パッド34を備えた円盤状で径の大きな研磨定盤32と、円盤状で径の小さな基板キャリア36と、研磨砥粒を含むスラリーを研磨パッド34へ供給するパイプ38と、研磨パッド34のコンディショニングを行うコンディショナー40とを備えている。研磨定盤32は、下面中央に図示しないシャフト及び駆動モータを備えており、駆動モータでシャフトが回転駆動されることにより軸回転(自転)する。基板キャリア36やコンディショナー40は、それぞれ上面中央にシャフトを備えており、図示しない駆動モータでシャフトが回転駆動されることにより軸回転(自転)する。基板キャリア36は、研磨定盤32の中心からずれた位置に配置されている。この研磨機30で貼り合わせ基板10を研磨するには、基板キャリア36の下面に圧電基板12側を下向きにして貼り合わせ基板10を装着し、研磨定盤32の研磨パッド34と基板キャリア36との間に貼り合わせ基板10を挟み込む。そして、パイプ38から研磨パッド34に研磨砥粒を含むスラリーを供給する。すると、貼り合わせ基板10と研磨定盤32の研磨パッド24との間にスラリーが供給される。この状態で、基板キャリア36により貼り合わせ基板10を研磨パッド34に押し付けながら、研磨定盤32及び基板キャリア36を自転運動させてCMP研磨を行う。
【0021】
2.工程(b)
圧電基板12の厚みの最大値と最小値の差が全平面で100nm以下となるように圧電基板12の表面をイオンビーム加工する(
図2(C))。
【0022】
イオンビーム加工に先立って鏡面研磨した圧電基板12の厚み分布のデータを作成し、該鏡面研磨した圧電基板12の厚み分布のデータに基づいてイオンビーム加工を行ってもよい。鏡面研磨した圧電基板12の厚み分布のデータは、鏡面研磨した圧電基板12の厚みをレーザーの干渉を用いて光学式膜厚測定器で測定して作成してもよい。こうすれば、厚み分布のデータを精度よく作成することができる。その後、鏡面研磨した圧電基板12の厚み分布のデータをイオンビーム加工を行う装置に入力して圧電基板12の表面の各点におけるビーム照射時間を決定し、該ビーム照射時間を用いて加工を行ってもよい。こうすれば、加工を精度よく行うことができる。この場合、ビームの出力値は一定とし、上述した厚みが大きいところほどビーム照射時間を長くすればよい。あるいは、鏡面研磨した圧電基板12の厚み分布のデータをイオンビーム加工を行う装置に入力して圧電基板12の表面の各点におけるビームの出力値を決定し、該ビームの出力値を用いて加工を行ってもよい。こうしても、加工を精度よく行うことができる。この場合、ビーム照射時間は一定とし、上述した厚みが大きいところほどビームの出力値を大きくすればよい。
【0023】
イオンビーム加工は、DC励起型Arビーム源を備えたイオンビーム加工機を用いて行うことが好ましい。イオンビーム加工機としては、プラズマ励起型Arビーム源を備えたイオンビーム加工機を用いてもよいが、DC励起型Arビーム源を備えたイオンビーム加工機を用いた方が圧電基板12の表面に生じる変質層18が一層少なくなるため好ましい。
【0024】
イオンビーム加工後の貼り合わせ基板10は、例えば、圧電基板12の厚みが20μm以下、その厚みの最大値と最小値の差が全平面で100nm以下、X線回折により得られるロッキングカーブの半値幅が100arcsec以下の結晶性を示すものとしてもよい。こうした貼り合わせ基板10は、結晶性が高く、任意の結晶軸を持つ、均一な厚みの圧電単結晶薄膜(圧電基板12)を備えており、工程(c)を経た後に、弾性波デバイスなどに好適に利用できる。
【0025】
3.工程(c)
直径5mm以上30mm以下の研磨パッドを用い、研磨パッドによる押圧力を一定に保ちながら研磨パッドを回転させるとともに研磨対象である圧電基板12に対して相対的に移動させてCMP研磨を行う(以下、小径工具CMP研磨とも称する)。こうした小径工具CMP研磨では、研磨パッドの直径が圧電基板12に対して十分に小さいため、研磨パッドを回転させながら圧電基板12に対して相対的に移動させると、圧電基板12に縞状の厚み分布ができる。また、直径5mm以上30mm以下の研磨パッドを用いるため、縞に直交する線に沿って複合基板20を切断した断面における、圧電基板12の厚み分布に、幅方向のピッチPが0.5mm以上20mm以下の波形Wが現れるような研磨を効率良く行える。また、研磨パッドによる押圧力を一定に保ちながらCMP研磨を行うため、高い精度で厚みを制御することができ、波形Wにおける厚み方向の振幅Aを5nm以上100nm以下に制御するのが容易である。
【0026】
小径工具CMP研磨では、例えば、押圧力、研磨パッド回転数、研磨パッド移動速度、スラリー濃度及びスラリーpHのうちの1以上を調整することにより、振幅Aを所望の値に調整することができる。押圧力は、例えば5kPa以上200kPa以下の範囲内が好ましく、20kPa以上100kPa以下がより好ましい。研磨パッド回転数は、例えば50rpm以上20000rpm以下の範囲内が好ましく、2000rpm以上6000rpm以下の範囲内がより好ましい。また、小径工具CMP研磨では、例えば、研磨パッドのサイズを調整することや、研磨パッドの圧電基板12上での経路を調整することにより、ピッチPを所望の値に調整することができる。研磨パッドのサイズは、直径5mm以上30mm以下の範囲内であればよいが、5mm以上25mm以下が好ましく、10mm以上20mm以下がより好ましい。あるいは、研磨パッドのサイズは、圧電基板12の外径の5%以上30%以下の範囲内が好ましく、10%以上20%以下がより好ましい。研磨パッドの圧電基板12上での経路は、例えば、ジグザグ状や、渦巻き状などとすることができる。ジグザグ状の経路で研磨を行えば、縞状の厚み分布における縞を平行な縞とすることができる。渦巻き状の経路で研磨を行えば、縞状の厚み分布における縞を渦巻き状の縞とすることができる。研磨パッドの圧電基板12上での経路において、隣り合う経路(研磨パッドの中心の軌跡)の間隔は、研磨パッドの外径の5%以上50%以下の範囲内が好ましく、10%以上30%以下がより好ましい。また、隣り合う経路の間隔は、0.5mm以上20m以下の範囲内が好ましく、1mm以上10mm以下がより好ましい。
【0027】
小径工具CMP研磨では、研磨パッドを、外周部での(外周部に研磨パッドの中心があるときの)滞留時間が内周部よりも短くなる傾向で圧電基板12に対して相対的に移動させてもよい。外周部では、研磨パッドとの接触時に応力が集中しやすく、単位時間当たりの研磨量が内周部よりも多くなるため研磨によるダレが生じやすいが、外周部での研磨パッドの滞留時間が内周部よりも短くすれば、研磨によるダレなどが生じにくい。また、研磨パッドを、圧電基板12が薄いほど滞留時間が短くなる傾向で圧電基板12に対して相対的に移動させてもよい。こうすれば、圧電基板12の厚みをより均一にできる。また、研磨パッドを、外周部での滞留時間が内周部よりも短くなりかつ圧電基板12が薄いほど滞留時間が短くなる傾向で圧電基板12に対して相対的に移動させてもよい。こうすれば、ダレを抑制すると共に圧電基板12の厚みをより均一にできる。なお、圧電基板12の外径の60〜100%(好ましくは80〜100%)の範囲を外周部、それよりも内側の範囲を内周部としてもよい。また、圧電基板12の最外周から20mm(好ましくは最外周から10mm)の範囲を外周部、それよりも内側の範囲を内周部としてもよい。外周部での滞留時間は、例えば内周部の20〜95%が好ましく、40〜95%がより好ましい。
【0028】
小径工具CMP研磨に用いる装置として、例えば、
図4、5に示すような小径工具CMP研磨機50を用いてもよい。小径工具CMP研磨機50は、研磨パッド54を備えた円盤状で径の小さなヘッド56と、円盤状で径の大きなステージ52と、研磨砥粒を含むスラリーを研磨パッド54へ供給するパイプ58とを備えている。ステージ52は、図示しない駆動部を備えており、水平面内(X軸、Y軸方向)で移動する。ヘッド56は、上面中央にシャフトを備えており、図示しない駆動モータでシャフトが回転駆動されることにより軸回転(自転)する。ヘッド56のシャフトは、鉛直方向に移動する駆動部62に図示しない固定部を介して固定された支持体60に取り付けられており、鉛直方向(Z軸方向)に移動する。駆動部62や、ステージ52の駆動部、ヘッド56の駆動部などは、図示しない制御部に接続されており、研磨パッド54による押圧力を一定に保ちながら研磨パッド54を回転させるとともに研磨対象である圧電基板12に対して相対的に移動させるように制御される。
【0029】
小径工具CMP研磨機50で貼り合わせ基板10を研磨するには、ステージ52の上面に圧電基板12側を上向きにして貼り合わせ基板10を装着し、ステージ52と研磨パッド54との間に貼り合わせ基板10を挟み込む。そして、パイプ58から研磨パッド54に研磨砥粒を含むスラリーを供給する。すると貼り合わせ基板10と研磨パッド54との間にスラリーが供給される。この状態で、ステージ52を水平方向に移動させることにより研磨パッド54を圧電基板12に対して相対的に移動させるとともに、駆動部62の上下動を制御することにより研磨パッド54による押圧力を一定に保ち、研磨パッド54を自転運動させて、貼り合わせ基板10のCMP研磨を行う。このとき、例えば、研磨パッド54の中心が圧電基板12上をジグザグ状に移動するように(
図4の経路R参照)研磨パッド54と圧電基板12とを相対的に移動させてもよいし、渦巻き状に移動するようにしてもよい。
【0030】
小径工具CMP研磨機50では、研磨時には、支持体60と駆動部62との間に配設された荷重測定部70(ロードセルや動力計など)により研磨パッド54に加わった押圧力を測定し、測定値を上述した制御部へ入力する。制御部は入力された測定値に基づいて駆動部62の上下動を制御する。こうして、研磨パッド54による押圧力を一定に保つことができる。なお、小径工具CMP研磨機50では、圧電基板12の移動によって研磨パッド54が圧電基板12に対して相対的に移動するものとしたが、研磨パッド54の移動によって研磨パッド54が圧電基板12に対して相対的に移動するものとしてもよい。また、研磨パッド54が鉛直方向に移動するものとしたが、圧電基板12が鉛直方向に移動するものとしてもよい。
【0031】
小径工具CMP研磨では、圧電基板12の厚みが20μm以下、好ましくは0.1μm以上10μm以下、その厚みの最大値と最小値の差が全平面で100nm以下、好ましくは50nm以下となるようにCMP研磨を行ってもよい。
【0032】
本発明の複合基板は、例えば、圧電基板の表面に電極パターンを形成して弾性波デバイスとして利用可能である。
【0033】
次に、本発明の好適な一実施形態の圧電基板の厚み傾向推定方法について説明する。この推定方法では、まず、上述した複合基板20に単色光を照射する。複合基板20に照射する単色光は、可視光であればよく、例えば600〜650nmの範囲内の波長を有するものとしてもよいし、380〜750nmの範囲内の波長を有するものとしてもよい。単色光は、圧電基板20の表面全面に垂直に照射することが好ましい。なお、単色光は、干渉縞の交差部分の形状を不明瞭としない程度であれば、異なる波長の光を含んでいてもよい。
【0034】
次に、縞状の厚み分布による第1の干渉縞とは異なる第2の干渉縞が現れているか否かを判定する。例えば、第1の干渉縞と交差するような干渉縞が現れているか否を判定してもよい。このとき、圧電基板12のOFを基準とし、OFに対する位置や角度から、第1の干渉縞と第2の干渉縞とを区別してもよい。判定にあたり、圧電基板表面を直接又はレンズを通して目視してもよいし、圧電基板表面を撮影し撮影した画像を用いてもよいが、目視の方が簡便であるし、干渉縞が鮮明に見える。撮影した画像を用いる場合、画像のコントラストを上げたり、2値化したりして明線と暗線とを区別してもよい。なお、明線と暗線とは、互いの相対的な明るさの違いにより区別すればよい。
【0035】
第2の干渉縞が現れていると判定した場合には、第1の干渉縞の明線と第2の干渉縞の暗線とが交わる交差部分の形状から、交差部分での第1の干渉縞の明線が凹となっているならばへこんだ方向に向かって厚みが厚く、交差部分での第1の干渉縞の明線が凸となっているならば張り出した方向に向かって厚みが厚い、との基準に基づいて圧電基板の厚み傾向を判定する。判定にあたり、圧電基板表面を直接又はレンズを通して目視してもよいし、圧電基板表面を撮影し撮影した画像を用いてもよいし、撮影した画像を用いる場合、画像を2値化して明線と暗線とを区別してもよい。このとき、全ての干渉縞の交差部分の形状について判定を行ってもよいが、第2の干渉縞の各暗線について、両側面の各々で少なくとも1箇所の交差部分の形状について判定を行い、それ以外は省略してもよい。一本の暗線の中ではその線に沿う方向での厚みがほぼ同じであることから、全ての交差部分の形状について判定を行わなくても、圧電基板の厚み傾向を推定することができる。
【0036】
前記第2の干渉縞が現れていないと判定した場合には、圧電基板の厚みに傾向は見られないと判定する。
【0037】
こうすることにより、前記圧電基板の厚み傾向を推定する。なお、縞状の厚み分布における縞が平行な縞である複合基板20では、圧電基板12の厚み傾向が、同心円状の等高線を描く傾向にある場合や、縞状の厚み分布の縞と所定の角度(例えば30〜90°、好ましくは60〜90°)で交わるような水平な等高線を描く傾向にある場合などに、交差部分の形状を確認しやすい。また、縞状の厚み分布における縞が渦巻き状の縞や同心円状の縞である複合基板20では、圧電基板12の厚み傾向が水平な等高線を描く傾向にある場合などに、交差部分の形状を確認しやすい。
【0038】
以下には、具体例を用いて本実施形態の基板の厚み傾向推定方法について説明する。表2に、複合基板が、縞状の厚み分布として横縞状の厚み分布を有する圧電基板を備えている場合に観察される干渉縞の例と、それに対応するX−X断面を示す。(A)〜(C)の複合基板では、横縞状の厚み分布による第1の干渉縞の他に同心円状の第2の干渉縞が現れている。第2の干渉縞が現れているため、第1の干渉縞(横縞状)の明線と第2の干渉縞(同心円状)の暗線との交差部分の形状を確認し、この交差部分での横縞状の明線が凹となっているならば凹んだ方向に向かって厚みが厚く、この交差部分での横縞状の明線が凸となっているならば張り出した方向に向かって厚みが厚い、と判定する。表2の干渉縞の図には、厚みが厚いと判定した方向に向かう矢印を示す。こうして、X−X断面での厚み傾向が各々図示する傾向であると推定できる。なお、(A)〜(C)の複合基板では、第2の干渉縞として基板の中心を中心とする同心円状の干渉縞が現れていることから、基板の中心を通る断面であればX−X断面以外の断面でもX−X断面と同様の厚み傾向であると推定できる。一方、(D)では、横縞状の厚み分布による第1の干渉縞のみが現れていることから、第2の干渉縞が現れていないと判定する。(D)では、第2の干渉縞が現れていないと判定したため、圧電基板の厚みに傾向は見られない、との基準に基づいて判定を行う。こうして、X−X断面での厚み傾向が図示する傾向であると推定できる。
【0040】
表3に、複合基板が、縞状の厚み分布として同心円状の厚み分布を有する圧電基板を備えている場合に観察される干渉縞の例と、それに対応するX−X断面を示す。(A)〜(C)の複合基板では、同心円状の厚み分布による第1の干渉縞の他に縦縞状の第2の干渉縞が現れている。第2の干渉縞が現れているため、第1の干渉縞(同心円状)の明線と第2の干渉縞(縦縞状)の暗線との交差部分の形状を確認し、この交差部分での同心円状の明線が凹となっているならば凹んだ方向に向かって厚みが厚く、この交差部分での同心円状の明線が凸となっているならば張り出した方向に向かって厚みが厚い、と判定する。表3の干渉縞には、厚みが厚いと判定した方向に向かう矢印を示す。こうして、X−X断面での厚み傾向が各々図示する傾向であると推定できる。なお、(A)〜(C)の複合基板では、第2の干渉縞として縦縞状の干渉縞が現れていることから、X−X断面に平行な断面であればX−X断面以外の断面でもX−X断面と同様の厚み傾向であると推定できる。一方、(D)では、同心円状の厚み分布による第1の干渉縞のみが現れていることから、第2の干渉縞が現れていないと判定する。(D)では、第2の干渉縞が現れていないと判定したため、圧電基板の厚みに傾向は見られない、との基準に基づいて判定を行う。こうして、X−X断面での厚み傾向が図示する傾向であると推定できる。
【0042】
以上説明した実施形態の複合基板及び基板の厚み傾向推定方法では、圧電基板の厚み傾向を目視で推定できる。
【0043】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0044】
例えば、上述した複合基板の製造方法では、工程(a)〜(c)を含むものとしたが、工程(a)や工程(b)を省略してもよい。なお、工程(b)では精度良く加工できるため、工程(b)を行った後に工程(c)を行うことで圧電基板の厚み変化をより所望のものに近づけることができ、好ましい。また、工程(a)では高速で加工できる(圧電基板の厚みを薄くできる)ため、工程(a)により圧電基板の厚みを所定値以下としてから工程(b)や工程(c)を行えば、加工効率がよく、好ましい。
【0045】
例えば、上述した複合基板の製造方法では、工程(b)は、圧電基板12の厚みの最大値と最小値の差が全平面で100nm以下となるようにイオンビーム加工する工程としたが、これを超えて外周部が厚くなるようにしてもよい。例えば、工程(b)に代えて、圧電基板12の外周部の厚みが内周部より厚くかつ圧電基板12の内周部の厚みの最大値と最小値の差が全平面で100nm以下となるようにイオンビーム加工する工程を行ってもよい。こうすれば、工程(c)において研磨によるダレが生じにくい。この場合、外周部16の厚みは、その平均値(又は中央値)が内周部の厚みの平均値(又は中央値)に比べて10〜50nm厚いことが好ましい。
【0046】
工程(b)では、鏡面研磨した圧電基板12の厚み分布のデータと、イオンビーム加工後に望まれる圧電基板12の厚み分布のデータと、を用いて厚み差分布のデータを作成し、該厚み差分布のデータに基づいてイオンビーム加工を行ってもよい。
【実施例】
【0047】
以下には、本発明の複合基板を具体的に製造した例について、実施例として説明する。なお、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
両面研磨された厚みが230μm、直径が4インチのシリコン基板(支持基板)、LiNbO
3基板(圧電基板)をそれぞれ用意した。これら基板を10
-6Pa台の真空度を保つ真空チャンバーに導入し、接合面を対向させ保持した。両基板の接合面にArビームを80sec間照射し、表面の不活性層を除去し活性化した。ついで互いの基板を接触させ、1200kgfの荷重をかけて接合した。このようにして得られた貼り合わせ基板を取り出した後、グラインダー加工機により圧電基板側をその厚みが10μmになるまで研削した。ついで、その貼り合わせ基板をラップ加工機にセットし、ダイヤモンドスラリーを用いて圧電基板の厚みが3μmになるまで研磨した。更に、その圧電基板の表面をCMP研磨機で厚みが0.8μmになるまで鏡面研磨した。この時、研磨剤としてコロイダルシリカを用いた。(工程(a))
【0049】
レーザーの干渉を用いた光学式膜厚測定器で圧電基板の厚みを測定したところ、その厚みは0.8μmを中心として圧電基板の外周部を含む全平面で±0.1μmの範囲に収まっていた。測定点は、圧電基板の面取りがされた端部を除く全平面で合計80点とした。
【0050】
このようにして得られた貼り合わせ基板を、プラズマ励起型Arビーム源を備えたイオンビーム加工機にセットした。次いで、前述した光学式膜厚測定器で測定した鏡面研磨した圧電基板の厚み分布のデータ及びイオンビーム加工後に望まれる厚み分布のデータ(外周部の厚みが内周部よりも厚くなる)をイオンビーム加工機にインポートして厚み差分布のデータを作成し、この厚み差分布のデータを用いて圧電基板の各測定点における加工量、ここではArビームの照射時間を決定した。ビームの照射時間は、貼り合わせ基板の送り速度によって調整した。そして、貼り合わせ基板の送り速度を変化させながら、圧電基板の全面に出力一定のArビームを照射した。ビームスポットは直径6mmとした。また、イオン加速電圧を1300eV、イオン電流を30mA一定の条件とし、RFプラズマを励起した。実加工時間はおおよそ5分であった。(工程(b))
【0051】
加工後の貼り合わせ基板の圧電基板の厚みを再度測定したところ、中心膜厚が450nmで厚みの最大値と最小値の差は外周部を含む全平面で65nmであった。X線回折装置によりロッキングカーブを測定したところ、その半値幅(FWHM)は80arcsecとバルクの単結晶と同等の値が得られた。
【0052】
このようにして得られた貼り合わせ基板を、
図4,5に示す小径工具CMP研磨機50にセットした。次いで、前述した光学式膜厚測定器で測定したイオンビーム加工した圧電基板の厚み分布のデータを小径工具CMP研磨機50にインポートして、研磨パッド54の滞留時間を決定した。そして、この滞留時間を用いて小径工具CMP研磨機50を稼働させて小径工具CMP研磨を行った。なお、小径工具CMP研磨において、研磨パッドのパッド径は30mmとし、研磨パッドの経路は間隔3〜5mmのジグザグ状とし、研磨パッドの回転数は4000rpmとした。(工程(c))
【0053】
実施例1の複合基板の厚み(縞状の厚み分布)を測定した。その結果を
図6に示す。
図6には、複合基板の中心を通りOFに垂直な長さ40mmの線(X=0)および、その線に平行で左側と右側にそれぞれ20mm離れた長さ40mmの線(X=−20,20)、における断面での厚み分布の波形を示した。
図6に示すように、実施例1の複合基板において、圧電基板の厚み分布には、厚み方向の振幅が5〜20nmで、幅方向のピッチが3〜5mmの波形が現れた。
【0054】
実施例1の複合基板の圧電基板に波長632.8nmの単色光を照射したところ、横縞状の厚み分布による第1の干渉縞と、同心円状の第2の干渉縞が確認された。
図7(A)は干渉縞を撮影した画像であり、
図7(B)はこの画像のコントラストを上げた画像である。
図7(B)の右上部分では、干渉縞の交差部分での第1の干渉縞(横縞)の明線(白い部分)が左右に向けて凸となっている。このことから、明線が張り出した方向すなわち黒い部分の厚みが厚く、白い部分の厚みが薄くなっていることがわかる。ここで、
図7(B)では、白い部分が一部でしか確認できないが、
図7(A)に示すように同心円状の第2の干渉縞が確認されていることから、
図7(B)の白い部分との同心円にあたる部分では、他の部分よりも厚みが薄くなっていることがわかる。以上より、実施例1の圧電基板の厚み傾向は、同心円状の等高線を描き、基板の中心を通る断面において3つの凸部を有するものであると推察された。なお、目視では第1,2の干渉縞が
図7よりも鮮明に確認された。
【0055】
工程(c)の前後において、貼り合わせ基板の
図8の測定線上の圧電基板の厚みを測定した。
図9に、実施例1の工程(c)前後での圧電基板の厚み傾向を示す。
図9(A)は工程(c)前、
図9(B)は工程(c)後の厚み傾向である。工程(c)後において、実施例1の圧電基板の厚み傾向は、
図7の干渉縞から推察した通り、基板の中心を通る断面において3つの凸部を有するものであった。
【0056】
[実施例2]
工程(b)において、外周部の厚みと内周部の厚みとが同程度となるようにイオンビーム加工を行った。また、工程(c)において、外周部での研磨パッドの滞留時間が内周部よりも短くなるようにした。それ以外は、実施例1と同様に実施例2の複合基板を作製し、実施例1と同様の実験を行った。
【0057】
工程(b)後の貼り合わせ基板の圧電基板の厚みを測定したところ、中心膜厚が450nmで厚みの最大値と最小値の差は外周部を含む全平面で100nmであった。X線回折装置によりロッキングカーブを測定したところ、その半値幅(FWHM)は80arcsecとバルクの単結晶と同等の値が得られた。
【0058】
実施例2の複合基板も、実施例1の複合基板と同様、圧電基板の厚み分布には、厚み方向の振幅が5〜20nmで、幅方向のピッチが3〜5mmの波形が現れた。また、工程(c)後の圧電基板の厚み傾向(
図10参照)は、干渉縞の交差部分の形状から推定された通りのものであった。
【0059】
[実施例3]
工程(c)において、外周部での滞留時間を内周部での滞留時間と同程度とした。それ以外は、実施例2と同様に実施例3の複合基板を作製し、実施例2と同様の実験を行った。
【0060】
実施例3の複合基板も、実施例2の複合基板と同様、圧電基板の厚み分布には、厚み方向の振幅5〜20nmで、幅方向のピッチが3〜5mmの波形が現れた。また、工程(c)後の圧電基板の厚み傾向(
図11(B)参照。なお、
図11(A)は工程(c)前の圧電基板の厚み傾向)は、干渉縞の交差部分の形状から推定された通りのものであった。
【0061】
なお、実施例3では、
図11(B)に示すように、外周部にダレが生じ、最外周の厚みは100nm以上薄くなっていた。一方、実施例1や実施例2では、こうした大きなだれは生じていなかった。このことから、実施例1のように工程(b)で外周部が内周部よりも厚くなるように加工を行うことや、実施例2のように工程(c)で外周部での研磨パッドの滞留時間を内周部よりも短くすることなどにより、工程(c)でのダレの発生を抑制できることがわかった。
【0062】
[実施例4]
工程(b)をなくした。また、工程(c)において、外周部での研磨パッドの滞留時間が内周部よりも短くなるようにした。それ以外は、実施例1と同様に実施例4の複合基板を作製し、実施例1と同様の実験を行った。
【0063】
工程(a)後の貼り合わせ基板の圧電基板の厚みを測定したところ、中心膜厚が1800nmで厚みの最大値と最小値の差は外周部を含む全平面で80nmであった。
【0064】
実施例4の複合基板も、実施例1の複合基板と同様、圧電基板の厚み分布には、厚み方向の振幅が5〜20nmで、幅方向のピッチが3〜5mmの波形が現れた。また、工程(c)後の圧電基板の厚み傾向(
図12参照)は、干渉縞の交差部分の形状から推定された通りのものであった。
【0065】
[比較例1]
工程(c)を省略した(縞状の厚み分布がないものとした)以外は、実施例1と同様に比較例1の複合基板を作製し、実施例1と同様の実験を行った。
【0066】
比較例1の複合基板では、
図13に示すような干渉縞が確認された。この干渉縞では、干渉縞の交差部分が存在しないため、干渉縞の交差部分の形状から圧電基板の厚み傾向を推定することができなかった。
【0067】
本出願は、2015年9月15日に出願された日本国特許出願第2015−181763号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
本発明の複合基板は、直径2インチ以上の支持基板と、前記支持基板に接合されてなり、厚みが20μm以下で光を透過する圧電基板と、を備えた複合基板であって、前記圧電基板は、縞状の厚み分布を有し、前記縞に直交する線に沿って前記複合基板を切断した断面における、前記圧電基板の厚み分布に、厚み方向の振幅が5nm以上100nm以下で幅方向のピッチが0.5mm以上20mm以下の波形が現れ、該波形のピッチは前記縞の幅と相関がある。圧電基板において、前記縞は、平行な縞でもよいし、渦巻き状又は同心円状の縞でもよい。