【課題を解決するための手段】
【0016】
すなわち、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成されたアルミ基材の表面に、この表面を鏡面状態又は鏡面に近い状態の被加工面に加工する鏡面加工を施し、次いで前記鏡面加工後のアルミ基材の被加工面に球状微粒子を分散させて調製した加工液を噴射する噴射ノズル走査により、前記被加工面を微細な凹凸を有する微細粗面に加工する微細粗面加工を施し、アルミ基材の表面に微細粗面を形成するアルミ基材の表面加工方法であって、
前記微細粗面加工の噴射ノズル走査において処理継ぎ目が発生しない
ものであって、この微細粗面加工の際に用いられる加工液中の球状微粒子の目標粒径が3〜100μmであり、また、前記微細粗面加工の際における加工液の噴射圧力が0.15〜0.4MPaであると共に、この微細粗面加工時に微細粗面が形成されるまでの間にアルミ基材の被加工面に噴射する球状微粒子の粒子総数(目標粒径換算)が1×10
7〜5×10
8個/mm
2であり、前記微細粗面加工後の微細粗面において、鏡面加工後で微細粗面加工前のアルミ基材の被加工面における平坦度及び/又は真円度が実質的に維持されることを特徴とするアルミ基材の表面加工方法である。
【0017】
また、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成されたアルミ基材の表面に、この表面を鏡面状態又は鏡面に近い状態の被加工面に加工する鏡面加工を施し、次いで前記鏡面加工後のアルミ基材の被加工面に、球状微粒子を分散させて調製した加工液を噴射する噴射ノズル走査により、前記被加工面を微細な凹凸を有する微細粗面に加工する微細粗面加工を施し、アルミ基材の表面に微細粗面を形成するアルミ基材の表面加工方法であって、
この微細粗面加工の際に用いられる加工液中の球状微粒子の目標粒径が3〜100μmの中にある特定の数値であり、また、前記微細粗面加工の際における加工液の噴射圧力が0.1〜0.4MPaであると共に、この微細粗面加工時に微細粗面が形成されるまでの間にアルミ基材の被加工面に噴射する球状微粒子の粒子総数(目標粒径換算)が1×10
4〜5×10
8個/mm
2であり、
前記微細粗面加工の噴射ノズル走査において処理継ぎ目が発生する
ものであって、鏡面加工後のアルミ基材の被加工面に噴射する球状微粒子の粒子総数を複数のN画(Nは2以上の自然数)に分割し、この分画された各画の粒子数の球状微粒子を含むN画の分割加工液を調製し、微細粗面加工時には前記アルミ基材の被加工面の全面に亘って各分割加工液を噴射する加工液噴射操作をN回繰り返して実施することを特徴とするアルミ基材の表面加工方法。
【0018】
本発明において、上記アルミ基材の材質や形状については、それがアルミニウム又はアルミニウム合金で形成されており、また、全体的にあるいは部分的に所望の平坦度や真円度を付与するために鏡面加工を適用することができる形状であれば、特に制限されるものではなく、本発明で提供されるアルミ基材の用途に応じて要求される強度、耐食性、加工性等の種々の物性や形状に基づいて、適宜選択して使用することができる。
【0019】
また、アルミ基材に所定の平坦度や真円度を付与する鏡面加工についても、機械的な又は化学的な種々の加工を適用することができ、例えばNC旋盤やマシニングセンタ等を用いた切削加工、超硬ツール等を用いたバニッシング加工等の機械的な加工や、ダイヤモンドペースト、酸化マグネシウム等を用いた化学研磨や電解研磨等の化学的な加工や、機械的な加工の後に化学的な加工を行う併用方法等を例示できる。特に、低コストで広い面積の表面を鏡面状態又は鏡面に近い状態に加工するためには、切削加工やバニッシング加工あるいはこれら切削加工とバニッシング加工の組合せにより鏡面加工を行うのがよい。この鏡面加工により、鏡面であって引き続いて実施される微細粗面加工の被加工面となる高い平坦度又は真円度の表面を有するアルミ基材が得られる。
【0020】
本発明においては、前記鏡面加工後のアルミ基材の被加工面に、球状微粒子を分散させて調製した加工液を噴射する微細粗面加工を施し、前記被加工面を微細な凹凸を有する微細粗面に加工する。
【0021】
ここで、鏡面加工後のアルミ基材の被加工面に微細粗面加工を施すための加工液については、球状微粒子を分散させて調製した球状微粒子分散液が用いられるが、この加工液を調製するための球状微粒子としては、例えば、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、アルミナ、ジルコニア、酸化クロム等のセラミック系ビーズ、スチール製等の金属系ビーズ、ホウケイ酸ガラス等のガラス系ビーズ等を挙げることができるが、好ましくは比較的低比重で容易に入手し得るホウケイ酸ガラスビーズの使用が好ましく、また、加工液を調製するための溶剤としては、低粘度で前記球状微粒子と反応せず、加工液中で球状微粒子の凝集を防止し得るものであるのがよく、加工液噴射装置で使用できるものであれば特に限定されないが、好ましくは安価で入手し易い水道水、蒸留水、脱イオン水等を例示することができる。
【0022】
本発明において、加工液の調製に使用する球状微粒子については、目標粒径(形状を付けるための粒径の狙い値)が、3μm以上100μm以下の範囲中の特定の数値であり、狙い値は適宜選択される。また、目標粒径を最頻粒子径とした粒子を使用するのが好ましい。更に、噴射される粒子が粒度分布の分布幅が狭い粒子である程、小粒子の基材への埋め込みを低減することができる。すなわち、その目標粒径を中心に分布が±30%以内、好ましくは20%以内であるのがよい。粒子径分布が目標粒径の±30%を超えて広がると、加工液噴射操作の際に、アルミ基材の被加工面に対して先に衝突した比較的小粒径の小粒子に比較的大粒径の大粒子が追突し、小粒子が被加工面に埋め込まれ、形成された微細粗面に埋没粒子が残存し、例えばその後に陽極酸化処理や脱脂処理等を行うとその処理条件によっては皮膜欠陥等の問題が生じる虞がある。
【0023】
なお、本発明において、「球状」とは粒子の電子顕微鏡写真から短径と長径とを測定し、短径/長径比を真球度としたとき、測定された粒子の真球度が0.7以上、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.9以上であることを意味する。また、「目標粒径」とは微細粗面を形成する微細な凹凸について目標とする大きさの凹みを形成するのに必要な球状微粒子の粒径であり、目標とする粒径の狙い値である。更に、微細粗面加工の加工液噴射操作の際に、アルミ基材の被加工面に埋め込まれ、微細粗面に残存した埋没粒子は、走査型電子顕微鏡による表面観察、GD-OES(グロー放電発光分析法)等の方法でアルミ基材表面の元素を分析し、例えば球状微粒子がホウケイ酸ガラスビーズであれば、SiやBの元素を調べることにより、容易に判定できる。
【0024】
また、前記鏡面加工後のアルミ基材の被加工面に微細粗面加工を施すための加工液については、噴射されてアルミ基材の被加工面に衝突させる際の噴射圧力が0.1MPa以上0.4MPa以下、好ましくは0.15以上0.25MPa以下であって、微細粗面加工を開始して終了するまでに被加工面に噴射する微細粒子の粒子総数が目標粒径に換算して1mm
2当り1×10
4個以上5×10
8個以下、好ましくは1×10
5個以上1×10
8個以下である必要がある。噴射圧力が0.1MPaより低いと、アルミ基材の被加工面における塑性変形が不十分になって、目標粒径に応じて設定される目標の大きさの凹みを有する凹凸の形成が難しくなり、反対に、0.4MPaを超えて高くすると、この微細粗面加工で形成された微細粗面に球状微粒子が埋め込まれる粒子埋没現象が発生し、連続的で均一な微細粗面の形成が難しくなるほか、その後に陽極酸化や脱脂処理を行う場合にその条件によっては皮膜欠陥等の問題を引き起こす虞がある。また、被加工面に噴射する微細粒子の粒子総数(目標粒径換算)が1×10
4個/mm
2より少ないと、被加工面に微細粗面が形成されない領域が残る虞があり、反対に5×10
8個/mm
2より多くなると、被加工面に必要以上の多数の球状微粒子が衝突することになり、初めにできた連続的で均一な微細粗面の凹凸形状が次に衝突する球状微粒子によって潰され、結果として連続的で均一な微細粗面の形成が困難になる。
【0025】
ところで、鏡面加工後のアルミ基材の被加工面に加工液を吹き付けて微細粗面を形成する微細粗面加工の加工液噴射操作においては、
図1に示すように、アルミ基材が板材1aでその被加工面2が広くて1回の噴射ノズル3による走査では被加工面2の全面をカバーしきれない場合、複数回の噴射ノズル走査を実施することになるが、この際には各噴射ノズル走査において噴射された加工液4中の球状微粒子が板材1aの被加工面2に噴射して形成され、噴射ノズル3の幅寸法に応じて生じる走査処理後の走査処理面5の走査方向両端(最初の噴射ノズル走査と最後の噴射ノズル走査では片端)において、加工液4が重複して噴射され、この噴射された加工液が被加工面2に到達する間に僅かに拡がり、この広がった部分で重複して加工処理される処理継ぎ目6の領域が不可避的に生じる。また同様に、
図2に示すように、アルミ基材がロール材1bの場合には、少なくとも加工液4の噴射ノズル走査の開始部分と終了部分において重複して噴射される処理継ぎ目6の領域が不可避的に生じる。そして、このような処理継ぎ目6は、アルミ基材の表面に形成された微細粗面において薄い帯状に観察され、加工後に得られたエンボスロール等の金型を始めとする製品の美観を損ねるだけでなく、エンボスロール等の金型を用いて製造される防眩フィルムにも転写され、特に高画質が求められる画像表示装置で用いられるとその視認性を低下させる原因にもなる。また、このような問題は、アルミ基材が板材の場合でもまたロール材の場合でも、その被加工面が広ければ広いほど発生し易くなる。これは、微細粗面加工の際に、処理継ぎ目の領域において衝突する球状微粒子の粒子数が他の領域よりも多くなることに起因する。
【0026】
そこで、本発明においては、この問題を解決するために、前記微細粗面加工において、鏡面加工後のアルミ基材の被加工面に噴射する球状微粒子の粒子総数をN画に分割し、この分画された各画の粒子数の球状微粒子を含むN画の分割加工液を調製し、微細粗面加工時には複数回の噴射ノズル走査により被加工面全面に各分割加工液を噴射する加工液噴射操作をN回繰り返して実施する。すなわち、微細粗面加工時に鏡面加工後のアルミ基材の被加工面に向けて噴射する加工液中の球状微粒子の粒子総数については微細粗面加工を1回の加工液噴射操作で行う場合の粒子総数と実質的に同じに設計するが、この球状微粒子の粒子総数をN画に分割し、この分画された各画の粒子数の球状微粒子を含むN画の分割加工液を調製し、微細粗面加工時には調製した各分割加工液を用いて複数回の噴射ノズル走査で被加工面全面に各分割加工液を噴射する加工液噴射操作をN回繰り返すものであり、好ましくは、各分割加工液の粒子濃度を、1回の加工液噴射操作で微細粗面加工を行う場合に使用する加工液の粒子濃度よりも、低い濃度に調整するのがよい。
【0027】
ここで、球状微粒子の粒子総数を分画して形成される分割加工液のN画については、その数が増加すればするほど、アルミ基材の表面に形成された微細粗面において処理継ぎ目が帯状に観察されるのを防止することができるが、特に視認性の向上が求められる高画質ディスプレイの如き画像表示装置の防眩フィルムを製造するエンボスロール等の金型を製造するためには、好ましくは球状微粒子の粒子総数を3画以上20画以下、より好ましくは5画以上15画以下の画数に分割し、画数に応じて調製された分割加工液を用いて加工液噴射操作を繰り返すのがよい。なお、各分割加工液の粒子濃度については、使用する加工液噴射装置の噴射条件等を考慮して設定され、各分割加工液において同じ濃度であっても、また、必要により互いに異なる濃度であってもよい。
【0028】
また、本発明において、アルミ基材の被加工面に対して加工液を噴射する加工液噴射操作の噴射方法については、液体ホーニングやウエットブラスト処理等の方法等で採用されている通常の高圧ポンプや圧縮空気による方法等を採用することができる。そして、加工液噴射装置の噴射ノズルの幅寸法と被加工面の幅寸法との関係で、噴射ノズルの幅寸法が被加工面の幅寸法より大きい場合には、加工液噴射操作を1回の噴射ノズル走査で実施してもよいほか、必要により複数回の噴射ノズル走査で実施してもよく、また、噴射ノズルの幅寸法が被加工面の幅寸法より小さい場合(アルミ基材の被加工面が広い面積を有する場合)には、必然的に加工液噴射操作を複数回の噴射ノズル走査で実施することになるが、この際には、加工液をN画に分割し、N画の分割加工液を調製してN回の加工液噴射操作を実施するのがよい。
【0029】
更に、本発明の加工液噴射操作において、微細粗面が形成されるまでの間にアルミ基材の被加工面に噴射する球状微粒子の粒子総数(目標粒径換算)を調整する方法についても、例えば、アルミ基材がロール材であって、ロール材を回転させながら、かつ、噴射ノズルをロール材の軸方向に移動させながら噴射ノズル走査を行う場合には、ロール材の回転速度や噴射ノズルの走査速度を調整することにより、被加工面に噴射する球状微粒子の粒子総数(目標粒径換算)を目標とする範囲内に調整することができる。
【0030】
ところで、微細粗面加工の加工液噴射操作によりアルミ基材が塑性変形を起こし、微細粗面の凹みが隣接する箇所でエッジ部が盛り上がり、一般面に比べて著しく高い隆起箇所が生じることがある。そこで、微細粗面加工の際に形成された微細粗面に隆起箇所が生じている場合には、化学的溶解法や電解研磨法で隆起箇所を除去し、実質的に隆起箇所の無い微細粗面を形成するようにしてもよい。
【0031】
ここで、隆起箇所が存在するか否かの確認や隆起箇所が除去されたか否かの確認は、微細粗面の表面粗さをレーザー顕微鏡等で測定し、表面粗さのパラメーターである十点平均粗さ(Rzjis:JIS B0601-2001)と算術平均粗さ(Ra:JIS B0601-2001)を求め、その比(Rzjis/Ra)がRzjis/Ra<5であるか否かで判断するのがよく、このRzjis/Raが5以上であると微細粗面に局所的に凸な箇所(隆起箇所)が存在すると判定する。
【0032】
また、微細粗面の隆起箇所を除去するための化学的溶解法や電解研磨法は、アルミニウム又はアルミニウム合金で一般的に採用されている方法でよく、例えば、化学的溶解法についてはリン酸やアルカリによる化学的研磨が、また、電解研磨法については過塩素酸−エタノール溶液やリン酸−硫酸浴中での短時間の電解研磨がある。この微細粗面の隆起箇所を除去するための処理は、微細粗面の視認性や平坦度又は真円度を損なうことなく隆起箇所を除去する必要があり、処理条件については、例えば、採用する化学的溶解法や電解研磨法に応じて予め実験的に求めることができる。