【文献】
A.-V.SALSAC,Evolution of the wall shear stresses during the progressive enlargement of symmetric abdominal aortic aneurysms,J.Fluid Mech.,2006年,vol.560,p.19-51
【文献】
A.Mantha,Hemodynamics in a Cerebral Artery before and after the Formation of an Aneurysm.,American Journal of Neuroradiology,2006年,vol. 27,p.1113-1118
【文献】
八木高伸,脳動脈瘤の破裂を予測する医工学技術の確立に向けて,人工臓器,2010年,vol.39, no.3,p.227-231
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づき具体的に説明する。なお、以下の説明では、診断・治療効果判定対象となる循環器系疾患として、脳動脈瘤の場合を例にとって説明する。
【0033】
(悪性・良性血流パターンに基づく血流性状診断装置)
前述したように、本発明の第1の側面は、瘤の性状を診断するための診断装置である。この発明では、血流によって脳動脈瘤内の血管壁面に作用するせん断応力ベクトル群の形態を、瘤の内腔形状・病理情報・血管厚み情報に関連付けることで、将来的に血管組織の病変の発症や進展にもたらす一要因となり得る「悪性(良性でない)の血流パターン」と、当該要因になりにくい「良性の血流パターン」とに分類した。そして、シミュレーションの結果生成したせん断応力ベクトル群の形態が、前記悪性血流パターン若しくは良性血流パターンに該当するかを判定する。悪性血流パターンと判定されれば、将来的に血管組織の病変の発症や進展にもたらす一要因となり得るので手術の検討をする必要があることになるし、良性血流パターンと判定されればそのような要因になりづらいと判断し無用な手術によるリスクを回避することができることになる。
【0034】
(血管治療後の治療効果予測装置)
また、この発明の第2の側面は、例えば悪性血流パターンを有すると判断された脳動脈瘤を外科的に治療した後の治療効果を判定するための装置を提供することである。
【0035】
すなわち、前記悪性・良性血流パターンに基づく血流性状の判定手法は、治療前の脳動脈瘤のみならず、当該脳動脈瘤を治療した後の治療効果を予測することに利用できる。
【0036】
脳動脈瘤の外科的治療法には、例えば、1)クリップ術、2)コイル塞栓術、3)ステント留置術(flow-diverting stent)がある。
【0037】
前記クリップ術はクリップにより瘤ネック面を閉塞することで瘤内の流れを遮断する、言い換えれば、脳動脈瘤のない新たな血管形状を構築するものである。前記コイル塞栓術は瘤内に複数のコイルを留置することで瘤内部を血栓化し瘤を閉塞するものである。前記ステント留置術は瘤ネック面に金属等から成るメッシュを留置し瘤内の流速を低下させることで瘤内部を血栓化し瘤を閉塞するものである。
【0038】
これら治療法は瘤内の流れを遮断するという共通性を有しており、血管の内腔形状を人為的に修正することで新たな瘤ネック面、すなわち、新たな血管形状を再構築するものである。前記治療法に関する合併症は、再構築した血管形状が経時的に修正されてしまうことによる。例えば、コイル塞栓術を行った症例では、流体力により瘤ネック面が瘤内腔方向に圧縮されてしまい瘤内腔と親血管が再開通するために再度の治療を行う場合が少なくない。
このような場合、まず、コンピュータにより3次元モデル化された血管形状を修正し、新たな瘤ネック面をコンピュータ上で人為的に作成することで、実際に手術を行った場合と同様の血管形状を術前にコンピュータ上に構築する。そして、その新たな血管形状の血管壁面に作用する壁面せん断応力ベクトル群の形態を、シミュレーションにより可視化し、それに対して前記悪性・良性血流パターンの判別法を同様に適用することで、手術による治療効果を評価することができる。すなわち、前記悪性・良性血流パターンの判別法を適用することで、術後,当該部位に内皮細胞等の血管を構成する細胞が生着することで血管組織が適切に再生し十分な力学的強度を有するか否かの進展の方向を予測することができ、術後の合併症や死亡の可能性という観点から治療効果の予測に寄与することができる。
(本実施形態に係る血流性状診断・治療効果予測システムの構成)
図1は、本実施形態に係る血流性状判定・治療効果予測システムを示す概略ブロック構成図である。この血流性状判定・治療効果予測システムは、上記第1、第2の側面に対応し、以下の2つの機能を有する。
【0039】
(1)当該脳動脈瘤が、将来的に血管組織の病変の発症や進展に至る可能性があるかの観点から、被験者の対象血管部位の血流の性状が、将来的に脳動脈瘤の破裂に進展する可能性の少ない良性血流か、当該破裂に進展する可能性のある悪性血流(良性でない血流)の何れに該当するかを自動的に判別する。
【0040】
(2)当該脳動脈瘤を外科的に治療する際、術前に治療シミュレーションを行い治療後の血流を把握することで、将来的に合併症や死亡のリスクの可能性の少ない良性血流か、それらに進展する可能性のある悪性血流の何れかに該当するかを自動的に判別する。
【0041】
このような機能を奏するため、この血流性状診断・治療効果予測システムは、
図1に示すように、医師等のユーザのサイト(病院内)に設けられ、被験者の脳動脈瘤及びその周囲の対象血管部位の画像を撮像する撮像装置1と、医師等のユーザ自身がこのシステムを操作するためのユーザ端末2と、これら撮像装置1及びユーザ端末2が通信ネットワーク(院内LAN、院外WAN若しくは専用回線)を介して接続された血流性状診断・治療効果予測サーバ3とを有する。
【0042】
ここで、前記撮像装置1としては、CT装置(コンピュータ断層撮影装置)、MRI装置(磁気共鳴画像診断装置)、DSA装置(デジタル差引血管造影法)等、対象血管部位の断層画像を取得可能な装置の他、超音波ドップラーや近赤外イメージングによって撮像された画像等、対象血管部位における画像データを取得可能な装置であれば良い。
【0043】
上記ユーザ端末2は、上記血流性状診断・治療効果予測サーバ3との通信を行うためのグラフィカルインターフェースを表示できるブラウザ等の表示ソフトウエアを実行できる通常のパーソナルコンピュータからなるワークステーションであればよい。
【0044】
一方、前記血流性状診断・治療効果予測サーバ3は、前記通信ネットワークと通信するための入出力インターフェース4、メモリ5及びCPU6が接続されたバス7に、プログラム格納部8が接続されてなる。プログラム格納部8は、前記撮像装置1で取得した画像データから対象血管部位の内腔の三次元形状データを生成する血管形状抽出部(i−Vessel)10と、三次元形状データの加工による手術シミュレーションを行う手術シミュレーション部(i−Surgery)11と、対象血管部位の血流の状態量を演算によって求める流体解析部(i−CFD)12と、この流体解析部12での演算結果を用い対象血管部位の血流が良性流れか悪性流れかを判別する血流性状判別部(i−Flow)13と、このシステムにより生成されるユーザグラフィカルインターフェース及びそこに表示する画像・解析結果・判別結果の表示画面を生成する表示部14とを備えている。また、上記バス7には、シミュレーションに必要な各種設定情報を格納するシミュレーション設定DB15と、このシステムによるシミュレーション及び解析結果を格納するシミュレーション結果DB16とが接続されている。
【0045】
このサーバ3の前記構成要件(血管形状抽出部10、前記手術シミュレーション部11、前記流体解析部12、及び前記血流性状判別部13)は、実際にはハードディスクの記憶領域に格納されたコンピュータソフトウエアによって構成され、前記CPU6によって呼び出されメモリ5上に展開されて実行されることによって、この発明の各構成要素として構成され機能するようになっている。なお、このサーバ3は1台のコンピュータから構成されていても良いし、各構成要素が分散されて複数台のコンピュータで構成されても良い。
【0046】
また、この例では、上記血流性状診断・治療効果予測サーバ3は、病院内に設けられたユーザ端末1と通信ネットワークを介して接続されているが、病院内に設けられていても良いし病院外の高速演算処理センター9等に設けられていても良い。後者の場合、複数の病院に設けられた多数のユーザ端末2及び撮像装置1からデータや指示を受け取り、高速演算処理器を用いて高精度な流体解析を短時間で実行し解析結果を各病院内のユーザ端末にフィードバックし、医師等のユーザが患者などに対してその場で解析結果を表示できるように構成されていることが好ましい。
【0047】
以下、この血流性状診断・治療効果予測システムの機能を実際の動作を参照して説明する。
(ユーザグラフィカルインターフェース)
図2は、前記サーバ3の表示部14によって生成され前記ユーザ端末装置2上に表示されるグラフィカルユーザインターフェース(GUI)17を示すものである。このインターフェース17を通して、前記血管形状抽出部(i−Vessel)10、前記手術シミュレーション部(i−Surgery)11、前記流体解析部(i−CFD)12、前記血流性状判別部(i−Flow)13を一つのインターフェースを通して一括に操作できるように構成されている。
【0048】
例えば、この
図2は、この画面の上部にあるメニューから、次に機能を説明する血管形状抽出部「i−Vessel」10を選択した場合の例である。同様に、i−Surgery11、i−CFD12、i−Flow13を選択することで、各機能に応じたインターフェース(後述)に切り替えることが可能になる。
【0049】
なお、従来は、このような統合されたシステムはなく、各要素を個々のインターフェースからなる個別のシステムで構成するしかなかった。その場合、1)複数のシステムを跨がざるを得ず、一症例を解析するに当たり、ユーザが作業現場を少なくとも数時間に渡り離れられない、2)各々の個別のシステムは工学全般の流れを対象としており、高い自由度および汎用性を有するが、逆に、医療用途としては、解析条件として必要となるパラメータの数量や種類が多岐にわたり、その選択が使用者の知識・技量に依存してしまうことで、結果として実臨床への導入や解析条件の標準化を達成できない問題が発生することが予想される。
【0050】
この実施形態の前記血流性状診断・治療効果予測システムは繁忙極まる臨床環境で医療行為の一部として使用されるものである。従って、医療従事者への時間的拘束や使用者間、施設間での解析条件の不一致は解決すべき課題である。また、使用者である臨床医や放射線技師は、流体力学に習熟していない非工学者であることを十二分に考慮する必要がある。この実施形態のシステムによれば、前記装置群が統合され、単一のインターフェース17で一括して自動制御処理することができるので、上記のような懸念が解消される。
【0051】
また、このシステムによれば、使用の用途ごとに演算条件群の最適値をデフォルトで「モジュール」として保持し、ユーザが前記演算条件群をいちいち設定しなくても、ユーザのニーズに応じた血流解析を一括して自動制御処理することができる。
(血管形状抽出装置)
図3は、前記血管形状抽出装置の処理工程を示すブロック図であり、
図4〜
図9はその説明図である。
【0052】
ステップS1−1で、撮像装置で撮像されたDICOM形式等からなる対象血管部位の撮像画像データを入力する。ついで、ステップS1−2で、画像の向き(画像の上・下・左・右の各方向)を自動認識、もしくは,手動で指定する。
図2は、前述したように、この血管形状抽出部(i−Vessel)のユーザインターフェースを示したものである。画像の向きを確認するためのインターフェースは、
図2で4分割されて表示された表示部41〜44のうち、左上の表示部41に相当するものである。表示部42~43に示すように,血管の三次元形状を公知のボリュームレンダリング法により可視化する際,血管の表示方向に関する指定は,例えば、「前(A)」「後(P)」、「左(L)」、「右(R)]のボタン18を押し、画面を回転させることで、画像の方向を「前(A)」「後(P)」、「左(L)」、「右(R)]の各方向に整列させることで行うようになっている。
【0053】
次に、同じ画面(
図2)で、解剖部位の指定を例えばラジオボタン24から選択する方式で行う(ステップS1−3)。ここで指定した解剖部位は、後の工程で血管を自動的にラベリングする際に用いる。例えば、脳動脈瘤が右中大脳動脈(MCA)にあった場合、「右前方循環(Anterior Circulation)」を選択する。同様に、「左前方循環」、「前方循環」、「後方循環」を選択できる。この解剖部位は
図3に符号19で示すように前記シミュレーション設定DB15に格納されている。
【0054】
ステップS1−4以降では、閾値法や勾配法ならびに領域拡張法等(
図2の画面中に示す「Selection(閾値法(もしくは勾配法)により抽出した三次元構造物に対して,ユーザが画面上で関心領域を指定することで対象血管を含んだ領域を決定する)」、「Connectivity(関心領域内でユーザが対象血管を指定し,そこから連続したボクセルのみを取捨選択することで対象血管を抽出する)」、「Extension(閾値法(または勾配法)とボクセル連続性の二つを含めた領域拡張法であり,血管抽出の過程で必要にも関わらず削除された血管を追加する)」、「Removal(ユーザがマニュアルで不要血管を削除する)」)の各々の演算を組み合わせることによって、三次元血管形状(3次元形状データ)を構築する。このために、まず、ステップS1−4で対象血管領域を抽出する。この抽出においては、例えば、閾値法若しくは勾配法を用いて行う。
【0055】
図4は、閾値法を用いた場合の抽出例を示すものである。
【0056】
閾値法では、例えば、輝度値の絶対値または規格化された相対値を用いる。この実施形態では、
図2の画面中の閾値設定部45で、スライダー方式によるヒストグラム閾値を選定することで、右上の表示部42の画像を見ながら閾値を変化させ、血管壁特有の特徴を抽出する。一方、勾配法では、例えば、輝度値分布から演算処理により輝度値の勾配を抽出し、そこから血管壁特有の特徴を抽出して用いる。この後、
図2の画面中「Fix」ボタン46を押すことで、この血管形状抽出部10による血管表面のノイズの除去が、画像タイプに応じた最適な閾値を用いて行われ(ステップS1−5)、その後、ポリゴン分割により3次元形状データ化することで対象血管領域の抽出が完了する(ステップS1−6)。
図4は、この工程による血管形状の抽出を示した模式図である。これらの閾値は設定条件として前記シミュレーション設定DB15に格納されている(符号29で示す)。
【0057】
次に、
図2の画面でユーザが「Lesion」ボタン47を押すことで、ユーザがディスプレイ上でマウスなどを使用してマニュアルで病変部を指定する(ステップS1−7)。この後に、ステップS1−8で血管の細線化が実行され、血管の中心線を導出する。この細線化の工程は、
図2の画面でユーザが「Label」ボタン48を押すことで自動的に実行される。この細線化のためのアルゴリズムは種々の公知手法を用いることができる。
図5は、この細線化を示した図である。中心線を取得した後は、ステップS1−9で中心線を血管ごとに要素分割する。この要素分割は、
図5に示すように血管の分岐点A、B、C、D・・・で各血管の中心線を分割することで行う。
図6はこの分割部を拡大して示すものである。上記分岐点A、B、C、、、の間の部分(V1、V2、、、)を血管要素と呼ぶ。その後、ステップS1−10で各要素内の中心線に直交する断面(
図6に示す)を複数もとめ、該当断面の等価直径を算出し、各要素の形状25を計測する。
【0058】
ついで、ステップS1−11で、各要素に血管の名称を自動ラベリングする。まず。複数の血管要素V1、V2、V3、、、のうち、複数の断面25で算出された複数の等価直径の中央値(平均値では当該血管に動脈瘤があって突然直径が大きくなった場合に正確性を担保するため)が最大となる血管を主要血管であると決定し、ラベリングする。このラベリングは、この実施形態では、上記解剖部位の指定に応じて自動で行われる。すなわち、左前方循環が選択された際には前記主要血管(等価直径の中央値が最も大きい血管要素)は「左内頸動脈」とラベリングされ、後方循環を選択した際には「脳底動脈」とラベリングされる。これら主要血管は該当する解剖部位のなかで最大の等価直径を持つものであることに基づいて特定されるようになっている。なお、等価直径の他の形状パラメータおよびそれらの複数の組み合わせを利用しても構わない。
図3に示すように、上記シミュレーション設定DB9には、解剖部位の情報19、主要血管の名称20、及びこの主要血管から分岐する血管の名称21が、互いに関連付けられて格納されており、この血管形状抽出部10のラベリング部35がこれらの情報を「血管ラベリングテンプレート」として参照することにより自動的にラベリングを行っていくことができる。
【0059】
すなわち、このステップS1−11は、主要血管をラベリングしたことに引き続き、深部にわたってこの主要血管V2、V3、、、のトラッキングを行い、分岐ごとに現れる血管名称を上記DB9に格納された情報に基づいて自動判別し、順次ラベリングする。このラベリングは、この実施形態では、例えば、上記主要血管から数えて5〜10個まで下層の血管要素までを限度として行う。このように分岐血管のラベリングは、上記のようにして各解剖部位の情報19に基づいて主要血管の名称20が定まると、その主要血管から分岐する他の血管については、データベース9に格納されたいわばテンプレートとしての主要血管の名称20と分岐血管の名称21の関係(解剖部位19毎)に基づき自動的にされていくようになっている。
【0060】
次に、ステップS1−12、13で、予めステップS1−2で指定した画像の方向(上下左右の方向)と、対象として指定した上記解剖部位に基づき、ラベリングの終了後に血管の入口・出口面を各々の中心線に対して直交化させることで血管端面を構築する。
図7は、この端面構築を示した図である。最後に、ステップS1−14で、このようにして構築した三次元形状がポリゴンデータとして自動で出力される。同時に、ラベリング(ラベリング情報23)された各血管の形状データ22が自動算出され前記シミュレーション結果DB16に書き込まれる(
図3)。この際、適切な処理を行えたか否かをユーザはディスプレイに表示されたインターフェース17上で確認することができる。なお、上記の自動処理の工程では適切にラベリングされない場合がある。例えば、先天的に血管奇形を有する患者は、該当箇所に該当血管が存在しない場合がある。このような場合、誤ラベリングされた血管をクリック選択することでその名称を変更することができるように構成されている。また、設定DB21の名称20,21の修正もその都度行えるようになっている。なお、このようなマニュアル処理をした場合には、<End>ボタンを押すことで結果が自動出力され、各DB15,16に上書き更新される。なお、ファイル出力の際のファイル名は、DICOMヘッダー情報から抽出できる患者IDをベースとしてファイル形式が判別できるように構成されており、ユーザがマニュアルで入力する必要はない。この規則は、後述する手術シミュレーション部11、流体解析部12、血流性状判別部13、でも同様である。
【0061】
なお、
図8は、脳血管名称の概略を示すものである。この
図8では、前方・後方循環を網羅する。例えば、前交通動脈は脳動脈瘤の頻発部位として知られるが、左右の前方循環にまたがっているため、解析には前方循環全体を対象範囲とする必要がある。
(手術シミュレーション装置)
図9は、手術シミュレーション部11によるユーザグラフィカルインターフェース17を示す模式図、
図10は、前記手術シミュレーション部11の動作を示すフローチャート、
図11、12、
図13はその説明図である。また
図14は、この手術シミュレーションのために血管の三次元形状データを修正する形状修正部35の概略構成図である。
【0062】
この例では、
図9に示すインターフェース17から、ユーザが3つの手術シミュレーションモード、すなわち、第1の手術モードとしての「Clipping/Coiling」50、第2の手術モードとしての「Stenting」51、第3の手術モードとしての「Flow−diverting Stent」52のいずれかを選択する。このことにより、この手術シミュレーション部11が手術後の血流状態を再現するのに最適な血管形状を生成する。
【0063】
前記3つのモードのうち、第1の手術シミュレーションモードは病変部の削除と表面の再構築であり(Clipping/Coiling)、第2の手術シミュレーションモードは病変部の凹凸修正による表面の再構築であり(Stenting)、第3の手術シミュレーションモードは任意断面への格子状物体の配置である(Flow-diverting Stent)。
【0064】
第1の手術シミュレーションモードに対応する血管形状修正方法(
図15に37で示す)は、クリッピング術やコイル塞栓術のように瘤内腔を完全閉鎖させた場合をシミュレーションするためのプログラム群50(<Positioning>、<Removal>、<Recon。>、<Shaping>,<Label>)であり、治療後に形成される瘤ネック面に作用する流体力を術前にシミュレーションしようとするものである。第2のシミュレーションモードに対応する血管形状修正方法は、動脈硬化により狭窄した血管をステント等の治療機器により拡張させるステント留置術をシミュレーションするためのプログラム群51(<Positioning>、<Fitting>、<Shaping>、<Label>)であり、治療後に形成される病変部に作用する流体力を術前にシミュレーションしようとするものである。第3の手術シミュレーションモードに対応する血管形状修正方法は、Flow-diverting stentによる脳動脈瘤の治療をシミュレーションするためのプログラム群52(<Positioning>、<Porosity>、<Shaping>、 <Label>)であり、瘤内流れの低減効果をシミュレーションしようとするものである。
【0065】
このシミュレーションは、実際には血管の三次元形状データを修正することで行われるもので、手術シミュレーション部は、
図15に示すように、治療方法受付部73と形状修正部35とを有する。す図である。以下、これらの構成を処理動作と共に説明する。なお、選択できる手術モード(この例では第1〜第3の手術シミュレーションモード)とこれに関して定義された具体的な血管形状修正方法は
図15に符号36及び37で示すように前記シミュレーション設定部DB15に格納されている。
【0066】
まず、ユーザは前記グラフィックインターフェース17上で<Surgery>ボタン11を選択し、前記ユーザ端末2のブラウザ画面を通して、前記血管形状抽出装置で作成した血管形状を表示させる(ステップS2−0:
図9に示す画面の左上の表示部54)。ユーザが前記インターフェース17上で第1の手術シミュレーションモード(
図9の50)をアクティブにすると、前記治療方法受付部73は、前記設定DB15から血管形状修正方法37(プログラム群50(<Positioning>、<Removal>、<Recon。>、<Shaping>,<Label>))をロードし、まず、使用者が<Positioning>により病変部を選択する(ステップS2−1)。<Positioning>を選択すると、
図15に示す修正部位指定部38が、前記で指定した領域をユーザインターフェース17上に表示する(
図9の右上の表示部)。前記三次元形状データは血管表面・端部を微小三角形要素の集積から構成するポリゴンデータであるため、手術シミュレーションの目的に応じて指示領域を拡大・縮小できる。次に、ユーザが、<Removal>を選択すると、
図15に示すポリゴン移動部39が選択した三角形要素を切除する(ステップS2−2)。ついで、<Recon>を前記ポリゴン移動部39が切除部にポリゴンで表面を再構築する。また、<Shaping>のボタンを押すことにより、前記修正部位指定部38及びポリゴン移動部39を作動させることができ、ユーザがマウス操作で再構築面の凹凸修正を行うことができ(ステップS2−3)、その後、<Label>により新たな面としてラベリング定義する(ラベリング部35)(ステップS2−4)。なお、表面の再構築は、切除領域の重心を算出し、それを起点として切除部端面の三角形の頂点とを連結させることで行う。凹凸修正は、当該重心の位置を起点として,切除面法線外周(または内周)方向にユーザがマウスホイールボタンにより自由に移動させる,すなわち,移動前の三角形要素に共通する頂点である当該重心を移動させ,三角形形状を人為的に歪ませることで実行する.なお,移動後に現れうる鋭角形状は平滑化処理を同時に作用させることで対応するようになっている(上記構成要件38〜39)。
【0067】
図9に示すユーザインターフェース上では、左下及び右下の表示部55、56<<Post-surgery>>でユーザは作業し,術後画像が表示され、ユーザが前記プログラム群で手術シミュレーションを行っていく。ラベリングまで行ったのちに<End>により形状が確定され、前記血管形状抽出装置と同様に修正されたポリゴンデータが自動保存され、シミュレーション結果DB16が更新される(ステップS2−13:ラベリング情報23及び三次元形状データ22の更新)。なお、前記工程を繰り返すことで複数の手術シミュレーションの結果を比較することができるように、前記<<Post-surgery>>の表示部は、右下55と左下56にそれぞれ設けられている<<Post-surgery #1、 #2>>。
【0068】
図11は、この第1の手術シミュレーションモードにおける血管形状修正の例を示す模式図であり、
図14A、Bはシミュレーション前と後(クリッピング治療前・後)の三次元形状を示す図である。このように、脳動脈瘤の形状を構成するポリゴンを削除することにより、クリッピング治療を施した後の血流性状を再現できる三次元形状データを生成することができる。したがって、これにより、クリッピング術やコイル塞栓術で構築される瘤ネック面の形状を使用者が任意に調整したうえで術後の血流をシミュレーションし解析することができる。
【0069】
第2の手術シミュレーションモード51では、<Positioning>により前記同様に病変部を選択および拡大・縮小する(ステップS2−5、表示部55)。次に<Fitting>により病変部の重心を算出し、そこを起点としてポリゴンを血管壁面の法線方向に沿って移動させた後、カーブフィッティングで病変形状を多項式近似により補間する(ステップS2−6)。次に、<Shaping>によりユーザがマウス操作で病変部の凹凸修正を行い(ステップS2−7)、最後に前記第1の手術シミュレーションモードと同様の方法により再構築面のラベリングを行う(ステップS2−8)。
図12は、この第2の手術シミュレーションモードによる形状修正例を示した模式図である。
【0070】
第3の手術シミュレーションモード52では、<Positioning>によりユーザが三次元血管形状内部に新たに面を形成する(ステップS2−9)。次に、指定された面に対して、<Porosity>により格子状物体を定義し(ステップS2−10)、前記同様の方法でその凹凸を修正し(ステップS2−11)、ラベリングする(ステップS2−12)。この場合の血管形状修正方法37(
図15)として用いる格子状物体はflow-diverting stentをシミュレーションしようとするものである。格子状物体は等方多孔質媒体としてユーザがプルダウンメニューからその開口率を設定することで定義するようになっている。なお、ユーザが多孔質媒体の形状・開口率を調整して異方性媒体として与えても良い。
図13は、この第3の手術シミュレーションモードによる形状修正例を示した模式図である。なお、図中、符号25で示すのが、格子状物体である。また、この多孔質媒体を用いた血流シミュレーションを応用すると、コイル塞栓術を行った際の手術直後の血流をシミュレーションすることができる。前記コイル塞栓術シミュレーションでは瘤内を完全閉塞させた場合を想定していた。現実的には、これは術後十分に時間が経過し瘤内腔が十分に血栓化された状態に相当する。一方、完全閉塞に至るまでコイル内には血液の流動が存在する。この血液の流動をシミュレーションできるか否かは,コイル充填率(瘤体積に対するコイル体積の割合)を決定するうえで重要である。前記Flow-diverting stentでは,多孔質媒体を二次元構造物として利用したが、当該技術を三次元構造物とすることでコイル塞栓直後の状態をシミュレーションすることができる。すなわち,前記<Porosity>により瘤内腔に対して多孔質媒体を留置し、その開口率でコイル充填率をシミュレーションする機能を付与することも可能である。
(流体解析部)
次に、流体解析部12で、上記血管形状抽出部10(及び手術シミュレーション部11)で生成された対象血管部位の三次元形状にデータに基づき、有限要素法による公知の演算によって、対象血管部位における各単位領域での血流の流速及び圧力(状態量33)を求める。
【0071】
図16は、この流体解析部12による処理を示すフローチャートであり、
図17はユーザがグラフィカルインターフェース17のメニューから「CFD」12を選択した場合の表示例である。
【0072】
この流体解析部12は、まずステップS3−1で、上記血管形状抽出部10(及び手術シミュレーション部11)で生成された対象血管部位の三次元形状にデータのうち、今回の計算対象とする血管形状のデータを選択して読み込む。表示されたデータは、
図17のインターフェース17の左上の表示部58、59、60に表示される。この例では、表示部58にPre-Sergeryの形状データが、表示部59にPost-Sergery#1の形状データが、表示部60にPost-Sergery#2の形状データが、それぞれ表示される。
【0073】
次に、ステップS3−2でユーザが「モジュール」を選択する。この「モジュール」の選択においては、
図17に示すように、前記グラフィックインターフェース17に、「On-site(即時)」26、「Quick(迅速)」27、「Precision(高精度)」28の3つのボタンをユーザ選択可能に表示する。
【0074】
このシステムでは、3つのモジュールの中からをユーザが一つを選択することであらかじめデフォルト設定した演算条件値のセット40(
図1、
図16)を用い適切な計算条件・精度で計算を実行できるように構成されている。これは,臨床現場の時間的拘束、および、流体解析に対するユーザの非専門性を考慮したなかで,現場ニーズに合致し、かつ、解析方法の条件を統一的に取り扱うことで再現性や標準化を達成させるためである。On-site(即時)に対応する演算条件では、計算条件として定常解析を採用している。血液の流れは心臓の拍出による拍動流と呼ばれる非定常流れである.非定常流れを計算するには,時々刻々と変化する流れを設定したタイムステップごとに解を収束させながら計算を逐次実行していく必要があり、演算器の負荷が極めて高くなる。一方、定常流は拍動流と流れの様相が全く異なるというわけではない。特に、脳血管のように比較的にレイノルズ数が低い領域では,流れは拍動周期内のいずれにおいても層流であり、高レイノルズ数の乱流流れに見られる過渡渦のような流れの遷移性は乏しい。言い換えれば、拍動周期内で流れは流量の変化に対して相似性が強い。従って,時間平均流に相当する流れさえ再現することができれば,拍動流としての流れの様相を把握することが可能であえる.On-site(即時)はそのような実験・解析データにより裏付けられた解析手法である。
【0075】
一方,Quick(迅速)やPrecision(高精度)は拍動流を取り扱うように前記演算条件値のセット40が設定されている。Quick(迅速)に対して,Precision(高精度)は拍動周期内で流れが層流から乱流へと遷移する場合においても対応できる条件設定としている。そして、この際に用いるメッシュ詳細度、血液物性値、壁境界条件、入口境界条件、出口境界条件、離散化条件があらかじめ定められて演算条件値のセット40として設定DB15に格納されているのである。また、Precision(高精度)を単一の高速演算器で解析しても、計算結果を得るまでに時に数日間かかる場合も少なくない。したがって、この実施形態では、上記流体解析部12用に設けられた第1のプロセッサ41で負荷の小さい上記on-siteの処理を行うと共に、負荷の大きいPrecision(高精度)については遠隔地に設けられた高速演算処理センター9に設けられた第2のプロセッサ42で処理するようになっている。すなわち、Precision(高精度)の場合のみ、通信ネットワークを介してデータを院外の処理センターに自動転送し、高速演算器を複数使用した並列解析により計算を実行した後に、ネットワークを介して院内に解析結果をフィードバックするシステムから構成されている。
【0076】
ステップS3−3以下は、ユーザが
図17のインターフェース17でRunボタン62を押すことで、上記モジュールの選択に応じてシステムが前記演算条件値のセット40を取り出して自動で演算を実行する。まずステップS3−3で、三次元形状データに基づき、対象血管部位を有限要素法上の複数の要素(以下、「メッシュ」と称する)に分割する。この際、この実施形態では、前記血管形状抽出部10で行った血管のラベリングに基づき、各血管の大きさに応じたメッシュ分割詳細度でメッシュを生成する。すなわち、この例では、血管の名称にこのメッシュ分割に用いるメッシュ詳細度が関連付けられて保存されてるか、あるいは、血管の断面の大きさに応じてメッシュ詳細度を動的に決めることができるように前記演算条件値40が設定されている。したがって、この装置は、上記ラベリングに応じて前記設定DB15からメッシュ詳細度を取り出して使用する。すなわち、各血管のメッシュ詳細度は、モジュールの選択及び血管の種類に応じて定まるようになっている。
【0077】
図18A、
図18Bは、血管毎にメッシュ詳細度を変動させる例を示した図である。この例では、直径1mmの眼動脈の詳細度は、直径5mmの内径動脈の詳細度よりも細かくなるように設定されている。
【0078】
この実施形態におけるメッシュ分割詳細度D
meshは、以下のように定義される。
【0079】
D
mesh =D
base×K
scale×K
module
ここで:D
mesh:メッシュ分割詳細度(この例では算出したいメッシュの代表直径D
meshを詳細度として用いる)、D
base:ベースメッシュの大きさ(スケールファクターに依存しない定数)、K
scale:血管の大きさに応じて変動するスケールファクター、K
module:モジュールの選択に応じて変動するスケールファクターである。
【0080】
通常の有限要素法解析におけるメッシュ生成では上記で定義したようなスケールファクターは考慮せず、ベースメッシュ単体でメッシュの大きさを決めるようになっている。このため、従来の方法では各血管径の変動に対応できないということがあった。しかしながら、この実施形態における方法では、上記のようなスケールファクターを導入することで、従来の方法による課題を解決することができる。
【0081】
下記に一例を示す。なお、この例では、前記流体解析部12は対象とする血管の体積および当該血管の中心線長さおよび形状の円柱近似により血管の等価直径Dを算出し、血管の大きさを定量化して用いるように構成されている。
【0082】
1)On-site, Quickモジュールを使用する場合
D
base=0.1 mm
K
scale=0.2 (D<1.5mmの場合)
K
scale=1.0(D>=1.5mmの場合)
K
module=1
(すなわちこのモジュールでは、等価直径Dが1.5mm未満のの細動脈にのみメッシュの大きさをベースメッシュの大きさから1/5に詳細化する)。
【0083】
2)Precisionモジュールを使用する場合
D
base=0.1 mm
K
scale=0.2 (D<1.5mm)
K
scale=1.0(D>=1.5mm)
K
module=0.5
(すなわち、この例ではK
module=0.5として全域的にメッシュを詳細化する)
なお、上記の方法では,血管の分岐部でメッシュの大きさが不連続的に変化してしまうということがある。メッシュの不連続変化は、そこでのメッシュの形状歪みを増加させることで計算の収束性を悪化させる要因となる。この問題の対処法として、この実施形態では、まずメッシュを前記手法で作成したのちに、メッシュ形状歪みに上限値を与えておき、最大形状歪みが閾値内に収まるように平滑化処理を繰り返し行うように構成されている。
【0084】
従来の解析法では、メッシュの大きさをこのように血管の大きさに応じて動的に変動させることはできず、大血管でも小血管でも同じ詳細度で分割するしかなかった。この結果、大血管を解析するに十分なメッシュ形状では、小血管ではメッシュが不足することで解析精度が悪化し、小血管の解析精度を担保すると、大血管に必要以上のメッシュが生成されることで、解析時間が膨大にかかるという課題があったが、この発明では、この課題を解決できる。
【0085】
ついで、ステップS3−4〜S3−8で、血液物性値、境界条件、解析条件等の予め記憶された各演算条件40を順次前記設定DB15から取り出し、ステップS3−8で、これらの条件に基づいてさらに計算を実行する。具体的には、前記流体解析部12は、ナビエ・ストークス方程式((Navier-Stokes equations)流体の運動を記述する2階非線型偏微分方程式)を有限要素法で解き、各メッシュにおける血流の流速及び圧力を求める。このとき、有限要素法の解(流速U及び圧力P)は、グローバル座標系のX-global、Y-global、Z-globalの3方向についてそれぞれ求められる。
【0086】
なお、ここで、前記演算条件40のうち、前記血液物性値としては、血液の粘度や密度である。また、前記境界条件としては、解析対象部位の入口側における流れ条件である入口境界条件と、同出口側における流れ条件である出口境界条件であるが、これら流れ条件は、統計学的に平均された対象血管部位の流速及び圧力が適用される。
【0087】
上述したように、これらの設定条件は選択したモジュールに基づいてデフォルト値が自動的に選択されて用いられるようになっているが、この実施形態では、被験者の個人データ等に応じて、演算前に流体解析部12にマニュアル入力することも可能になっていることが好ましい。
【0088】
計算が自動的に開始された後、ステップS3−10で計算の残差(residual)が表示され、収束基準を満たすまで計算が繰り返し行われる。最大繰り返し数に至るまで計算の残差が収束基準を満たさない場合、収束不能と判断される(ステップS3−11)。収束不能と判断された場合、メッシュ歪みの最適化が行われ(ステップS3−12)、再度、計算が実行される。残差が収束基準内に到達した段階で、計算終了が表示される(ステップS3−13)。なお、計算結果(状態量33(U,P))は前記と同様に結果DB16に自動保存される。
【0089】
なお、ここでの演算は、有限要素法に限定されるものではなく、有限体積法、差分法等、微分方程式の数値解析による流れ解析法であれば、適宜採用できる。
(血流性状判別装置)
前記血流性状判別部13には、コンピュータを以下の各手段として機能させるプログラムがインストールされている。すなわち、前記血流性状判別部13は、
図1に示すように、流体解析装置で求めた各メッシュの流速及び圧力から、血流によって血管壁面に作用する流体せん断応力及びそのベクトル(以下、単に、「壁面せん断応力ベクトル」と称する。)を各メッシュにそれぞれについて求める壁面せん断応力ベクトル演算部30と、壁面せん断応力ベクトルから、血流の性状を判別するための数値指標(乱雑度)を求める乱雑度演算部31と、前記乱雑度の大きさに応じて各メッシュにおける血流の性状を判別する判別部32とを備えている。
【0090】
図19、
図20は、壁面せん断応力ベクトル演算部30で、上記で各メッシュについて求めた流速U及び圧力Pに基づいてせん断応力ベクトルτ(x、y、z)を求める方法を示す模式図である。
【0091】
図19に示すように、壁面せん断応力とは血管内腔を形成する微小要素に対して平行方向に作用する流体の粘性力であり、壁面せん断応力ベクトルとは、当該数値をベクトル視したものであり、壁面に作用する力の向きを考慮したものである。壁面せん断応力ベクトルと圧力は直交関係にあり、圧力は微小要素の重心に対して面法線方向に作用する流体力である。
この図を説明する際には、グローバル座標系とローカル座標系への変換を理解する必要がある。すなわち、せん断応力ベクトルを求めるために使用する圧力P及び速度Uは前述したようにグローバル座標系で求められたものであるのに対して、血管壁面のある位置に作用するせん断応力は壁面の接線方向に向いているものでありその大きさを求めるには上記圧力及び速度を血管壁面を基準としたローカル座標系に変換する必要がある。
【0092】
ここで、グローバル座標系とは、
図21に示すように、このシステム内で、血管表面および内部を構成するメッシュの節点の位置を普遍的に示すための単一座標系である。有限要素法や有限体積法では、計算対象を微小要素(三角形、四面体、六面体等)の集合から構成する。各要素は節点と呼ばれる頂点を有し、各要素の位置情報は、グローバル座標系を用いて、(X1
g、 Y1
g、 Z1
g)、(X2
g、 Y2
g、 Z2
g)、(X3
g、 Y3
g、 Z3
g)のように保持する。
【0093】
そして、ローカル座標系とは、
図22に示すように、血管表面を構成する各々の微小三角形要素(ポリゴン)に対して定義される局所座標系であり、通常、上記微小三角形要素の重心を原点とし、面法線ベクトルを一つの軸(Z軸)として構成するものをいう。上記微小要素の各接点の位置をローカル座標系であらわす場合、(X1
l、 Y1
l、 Z1
l)、(X2
l、 Y2
l、 Z2
l)、(X3
l、 Y3
l、 Z3
l)となる。グローバル座標系の位置とローカル座標系の位置は、上記微小三角形要素の重心の位置と、面法線ベクトルの方向がわかれば変換可能である。
【0094】
次に、具体的に壁面せん断応力を求める方法について説明する。
【0095】
まず、上記流体解析部12(i-CFD)の出力から各節点での速度、圧力をグローバル座標系で取得する。次に、壁面せん断応力ベクトルを求めたい三角形要素を指定する。前記三角形要素に対してローカル座標系を設定する。前記ローカル座標系において、壁面せん断応力ベクトルを算出したい位置Gを決める(通常、各三角形要素に対して壁からの距離を一定にする。例えば壁から0。1mm内部に入った点など)。この位置Gでの流速は、
図20に示すように、壁面であるから0である。
【0096】
そして、この壁面の位置Gから法線方向(ローカル座標系のZ方向)に流れの境界層厚みに対して十分に小さい距離t離れた位置での流速をUtとすると、この間の流速Uは、Gからの距離nにほぼ比例し、
Un=n・dUt/dZ
で表わされる。
【0097】
そして、この速度で距離nの点を動かすのに逆らう力と下面を固定するのに必要な力は作用反作用の法則から両者は等しく、いずれも速度Utに比例し、距離Zに反比例する。したがって、流体の接触している点Gにおける単位面積についての力τは次のようになる。
τ=μ・dUt/dZ
すなわち、壁面せん断応力ベクトルとは、微小要素に平行な速度ベクトルの法線方向での変化率を算出し、それに流体の粘性係数を乗じたものである。微小要素に対する平行方向速度ベクトルの法線方向変化率を算出する方法は幾つかの方法が考えられる。例えば、Zl軸上で複数の候補点を設置し、周囲速度ベクトル群から速度ベクトルを補間するという方式で各候補点での速度を得ることができる。なお、この場合、個々の周囲速度ベクトルごとに候補点との距離が異なるため、距離に対して重み関数を設定して補間を行う。周囲速度ベクトルはグローバル座標系で記述されているので、補間後の速度ベクトルをローカル座標系に座標変換することで各候補点での面平行方向の速度成分を算出する。後に、法線方向での変化率を算出する場合は、壁近傍の一つの候補点を用いて一次近似として算出しても良いし、壁近傍の複数の候補点を用いて多項式近似を行い、その後に数学的に微分するという高次の微分処理を行っても良い。
【0098】
これを、上記グローバル座標系の速度U(Xg、Yg、Zg)から求めようとする場合には、距離tの速度Utをローカル座標系(Xl、Yl、Zl)に分解し、それぞれのローカル座標軸のうち壁面に平行軸である(Xl、Yl)(Z軸要素は0となる)についてτ=μ・dUt/dZを解けばよい。
【0099】
すなわち、
τ(Xl)=μ・dUt(Xl)/dZ
τ(Yl)=μ・dUt(Yl)/dZ
を算出することになる.
このローカル座標軸を総合したベクトル値τ(Xl、Yl)が壁面せん断応力ベクトルとなる。したがって、壁面せん断応力ベクトルは血管壁に接する面内でその面に対してx方向成分及びy方向成分を持つベクトルとなる。
【0100】
図23は、このようにして求めた血管壁に沿うせん断応力ベクトルを三次元形状モデルに張り付けて示した図である。
【0101】
なお、血管壁に作用する力は血管壁に沿う方向だけではなく、血管壁に衝突する方向に圧力Pとして働く、この圧力は、上記グローバル座標系で求めた点Gにおける圧力をローカル座標系に変換したときのZl軸方向の圧力値として求めることができる。
図24は、上記
図23に、壁面に作用する上記圧力値を重ねて示したものである。色が薄いところほど高い圧力が作用していることを示している。
【0102】
このようにして各ポリゴンについて求めた壁面せん断応力71及びそのベクトル72は前記シミュレーション結果DB16に格納される。
【0103】
(乱雑度演算部)
次に、前記乱雑度演算部31で、各メッシュにおける壁面せん断応力ベクトル群の形態を数値化した指標としての乱雑度を求める。この乱雑度は、あるメッシュの壁面せん断応力ベクトルが、その周囲の壁面せん断応力ベクトル群と比較して同一方向に整列しているか否かの程度を表す数値指標である。すなわち、乱雑度を求める対象となるメッシュ(以下。「対象メッシュ」と称する。)の壁面せん断応力ベクトルと、対象メッシュの周囲で隣り合う各メッシュの壁面せん断応力ベクトルとの間になすそれぞれの角度θを演算によって求めることで乱雑度となる。
【0104】
図25は、この実施形態のシステムで使用する微小要素G(説明のため点に近似)におけるせん断応力ベクトルと前記要素Gを格子状に囲む周囲の8つの微小要素におけるせん断応力ベクトルの関係を示したものである。この例では,せん断応力の大きさではなく、方向のみを抽出できれば良いので、壁面せん断応力ベクトルを単位ベクトルとして取り扱うように構成されている。また、それぞれの微小要素は厳密には三次元的な立体配置にあるが、隣接する要素群は十分近接であり二次元に取り扱う。すなわち、それぞれの壁面せん断応力ベクトルを二次元平面に投影した形で処理を行う。
図25は、微小要素G及びその周囲の微小要素を、二次元の直交座標系に写像した状態を示している。
【0105】
この実施形態では、ベクトル解析による「発散(divergence、以下div)」と「回転(rotation、以下rot)」を対象メッシュに対して算出することで壁面せん断応力ベクトル群の形態を数値化する
すなわち、空間のあるメッシュの囲のベクトル場τ(せん断応力ベクトル)を前記二次元直交座標系(x、 y)に写像した点G(x、 y)における成分表示を、次の式で表すとする。
【0106】
τ(G)=(τx(x、y)、 τy(x、y))
であらわされる。
【0107】
このとき、「ベクトル場τの発散」と呼ばれる「スカラー場divτ」は、次の式で定義される。
【0108】
divτ=∂τx /∂x+∂τy /∂y
同様に、「ベクトル場τの回転」と呼ばれる「スカラー場rotτ」は、次の式で定義される。
【0109】
rotτ=∂τy /∂x−∂τx /∂y
図24は、壁面せん断応力ベクトル群の形態と、上記「発散(div)」及び「回転(rot)」の値の関係を示したものである。壁面せん断応力ベクトル群の形態とは、大きく、1)平行型、2)合流型、3)回転型、4)発散型、に分類される。
【0110】
平行型では、(div、rot)=(0、0)、合流型では、(div、rot)=(負値、 0)、 回転型では、(div、rot)=(0、 正または負値)、発散型では(div、rot)=(正値、0)となる。合流型と発散型ではdivの値の増減に応じてその程度を数値化することができる。すなわち合流型とされた場合、その負値が負方向に増大すれば合流の程度が高まることになり、発散型とされた場合、その正値が正方向に増大すれば、発散の程度が高まることとなる。回転型では、回転方向により正負の値が現れるが、回転の程度をその絶対値の大きさにより数値化することができる。乱雑度をベクトル量D=(div、 rot)として定義すれば、その大きさが乱雑度として使用でき、乱雑度が小さくなるほど、前記対象メッシュの壁面せん断応力ベクトルは、その周囲の各メッシュの壁面せん断応力ベクトルに対して向きが揃うようになることを意味する(平行型)。
【0111】
そして、乱雑度が存在する場合、その大きさ(閾値との比較)から悪性・良性の判別を行うことができ、また、divとrotの数値の比較することで、合流型、回転型、発散型と更に分類することができ,瘤壁の硬化または菲薄化の別を判別することができる。
【0112】
divとrotの数値をマップ化して示したのが
図27である。すなわち、この図は、せん断応力ベクトルの典型例に対して乱雑度(div, rot)を求めたものである。ここで典型例とは数学的に記述しうる理想的なパターンであり、実験データではない。前述の通り,せん断応力ベクトルを大きさ1の単位ベクトルとして発散・回転を算出しているので、乱雑度はすでに規格化されておりこれにより患者間での比較が可能となる。すなわち、この実施例によれば、前記乱雑度は絶対値として評価できる指標として得ることができる。
【0113】
また、この実施形態では、乱雑度として、対象メッシュの圧力を重み係数として組み合わせることで血流が血管壁に衝突する際に与える血管へのダメージ判定をより高精度に行うようになっている。この実施形態では、圧力を使用する場合でも規格化された圧力、すなわち、圧力指標を用いる。この実施形態では、この圧力指標として瘤内平均圧力で各圧力を除した値を演算(この例では乗算)して用いる。
【0114】
このことにより、例えば、血液の流れが衝突することで発散型のせん断応力ベクトル群が形成された場合、主流の流れが衝突する場合では、局所的な壁圧の上昇を確認することができるが、主流から剥離した二次流れが衝突する場合、壁圧の上昇は見られない。このような場合、せん断応力ベクトル群の形態と圧力を組み合わせることで高精度化、特に、脳動脈瘤の菲薄部位を予測することに有効となる。すなわち、圧力の指標化には複数のやり方があり、この圧力をせん断応力ベクトルから算出される乱雑度に重ねる方法も、乗算、または、べき乗則としても良いし,複数あり得る。
(判別部)
前記判別部32では、前記乱雑度演算部31で求めた各メッシュの乱雑度の値から、各メッシュそれぞれについて、良性流れか悪性流れかを判別する。ここでの壁面せん断応力ベクトルの状態としては、周囲の壁面せん断応力ベクトルに対してパラレルとなる平行状態と、周囲の壁面せん断応力ベクトルに近づく方向に伸びる合流状態と、周囲の壁面せん断応力ベクトルとともに回転する回転状態と、周囲の壁面せん断応力ベクトルに対して向きが放射状になる発散状態とがある。そして、壁面せん断応力ベクトルが平行状態に該当すれば、そのメッシュでの血流性状は良性流れと判定される一方、壁面せん断応力ベクトルが合流状態、回転状態、発散状態の何れかに該当すれば、そのメッシュでの血流性状は悪性流れ(良性でない流れ)と判定される。
【0115】
さらに、悪性流れにおける乱雑度の値から、リスクを判別するように構成されている。この実施形態では、上述したように乱雑度値がプラス方向若しくはマイナス方向に増大するにつれてリスクが大きいと判別する。ここで、閾値として用いる指標は、本発明者が、脳動脈瘤患者の脳動脈瘤内の壁面せん断応力ベクトルを経時的に追跡し、当該壁面せん断応力ベクトルと、その患者から採取した実際の脳動脈瘤の血管組織との相関によって経験的に設定された値であるが、場合応じて変動させても良い。ここで、前記閾値を更に段階的に設定し、前記壁面せん断応力ベクトルの状態を更に多段階とし、良性流れ及び/又は悪性流れの程度を段階的に判別する。
【0116】
上記より、この実施形態では、前記壁面せん断応力ベクトルの状態から、血管壁の厚さとなる壁厚の程度(病変傾向)をタイプ分けすることができる。すなわち、壁面せん断応力ベクトルが平行状態に該当すれば、壁厚が通常レベルのタイプとされる。また、壁面せん断応力ベクトルが合流状態と、回転状態に該当すると、血球細胞や血漿中のタンパク質が沈着し易い土壌が形成され、血管が肥厚して壁厚が増加するタイプとされる。更に、壁面せん断応力ベクトルが発散状態に該当すると,内皮細胞の破壊及び再生障害が発生することで、血球が血管内に浸潤、増殖、遊走する土壌が形成され、血管壁の力学的強度が低下し、結果として、当該部位を中心に血管壁が菲薄化して壁厚が減少するタイプとされる。
図28は、硬化部と菲薄部の概念を示す模式図である。
【0117】
図29に血流性状判別部13(ベクトル演算部30、指標演算部31、判別部32)による判別結果を表示するためのユーザインターフェース17を示す。このインターフェース17においては、前記と同様に、<Load>ボタンを押すことにより解析データの入力の読み込みを行う。その後、ユーザが表示したい項目<streamline>61〜<Flow disturbance index>70を選択することで、このインターフェースの表示部に該当する表示を行うことができる。また、血管の抵抗を示すパラメータとして、<Pressure ratio>、 <Pressure loss coefficient>、 <Energy loss>を選択することもできるように構成されている。この表示の際には、血管の中心線に対して始点と終点をユーザが決めることのみで検査体積を設定し各値を自動計算する。この結果、このユーザインターフェース17には、前記判別結果が表示される。
【0118】
図30A〜Dは、判別結果の一例を拡大して示すものである。以下、この図を用い乱雑度<Flow disturbance index>による判別の有効性及び優位性を説明する。
【0119】
このシステムは、壁面せん断応力、圧力、乱雑度を、瘤壁上の最大値で規格化して表示する。表示方法は、色が薄いほど値が大きく、色が濃いほど値が小さいことを意味するものとする。壁面せん断応力の表示(
図30A)には、説明のために、瘤壁の術中観察・壁厚分析から同定された3か所の菲薄部(P1、2、3)を示す。P1では壁面せん断応力は低い値を示すが、P2の分布はこれと異なり高い値を示していることから3か所の菲薄部に特異的な分布を示すことはできていないと言える。 一方、壁面せん断応力ベクトルを示す表示(
図30B)からわかるように、当該3か所では、壁面せん断応力ベクトル群の形態が「発散」傾向であることが目視でわかる。加えて、これらの箇所では、
図30Cの表示から圧力が高いことも観察できる。このことは血液の流れが瘤壁に衝突していることを示している。そこで、前記乱雑度(発散)を算出すると、
図30Dの表示にみられるように、前記3か所の菲薄部のそれぞれに対して特異的に乱雑度(発散)の値が高いことを観察することができる。この例では、黒の箇所が乱雑度0(平行:良性流れ)、グレーの箇所が乱雑度1(発散:悪性流れ)、白の箇所が乱雑度2(発散:悪性流れ)と判別されている。
【0120】
言い換えれば、菲薄部と乱雑度(発散)が相関しており、乱雑度(発散)による判別を用いて当該患者の瘤壁の菲薄部位を術前に予測できることになる。
【0121】
以上により、このシステムでは、前記乱雑度に基づき前記判別部で各メッシュの血流性状が、良性流れであるか悪性流れであるかを判別でき、その結果を前記ユーザインターフェースに視覚的に表示することができる。またその判別結果の他、流体解析装置で求めた各メッシュの血流状態(流線、流速値、圧力値)が視覚的に表示する。表示されるデータの種類および表示の態様としては、特に限定されるものではないが、例えば、血管形状抽出装置で生成された脳動脈瘤の三次元画像データから、脳動脈瘤の三次元画像を表示し。当該三次元画像の表面に、メッシュ毎に求めた良性流れ及び悪性流れの状態を色彩で表示することにより。被験者の脳動脈瘤において、悪性流れの密度の高い瘤の領域とそうでない領域とを視覚的に認識可能になる。
【0122】
このようして求めた乱雑度及び血流性状判定結果は、
図1に74,75で示すように前記シミュレーション結果DB16に格納される。なお、判定結果は、悪性流れと判定された位置(及び値)が乱雑度の値と関連付けて格納されるようになっていることが好ましい。
【0123】
なお、前記乱雑度演算部13では、前記各メッシュについて、乱雑度の経時的な変化度を表す時間変化度を前記乱雑度指標として求めても良い。すなわち、ここでは、乱雑度が求められた後、当該乱雑度の時間平均、その変動、又は、時系列データや微分やフーリエ変換等の周波数評価により時間変化度が算出される。この場合、前記判別手段では、時間変化度について、予め記憶された閾値との対比によって、良性流れか悪性流れかが判別される。すなわち、時間変化度が予め記憶された閾値よりも小さい場合は、そのメッシュでの血流は良性流れと判定される一方、時間変化度が予め記憶された閾値よりも大きい場合は、そのメッシュでの血流は悪性流れと判定される。ここでの閾値は、心臓の拍動に対応する周波数に基づいた経験的な数値に設定される。これは、脳動脈瘤の壁面に経時的に作用するせん断応力が、何等かの原因で心臓の拍動数を超える振動数で作用していると、血管の内皮細胞を破壊するとの研究結果に基づくものである。
【0124】
また、前記実施形態では、脳動脈瘤の破裂可能性の有無について判別するためのシステムについて説明したが、本発明はこれに限定されず、その他の対象血管部位における病変の発症や進展の可能性の有無を判別するシステムにも適用可能である。
【0125】
更に、前記ベクトル演算部について、その機能を有する単独の演算装置として構成することもできる。この演算装置では、対象血管部位の画像データに基づき、対象血管部位における単位領域毎の血流および圧力を求めた上で、当該単位領域毎に血管壁面の壁面せん断応力ベクトルが演算され、当該壁面せん断応力ベクトルのデータを外部の装置に出力可能となっており、当該データの前記インターフェース17での表示等が可能になる。
(手術手技評価システムへの応用例)
前記一実施形態で説明した手術シミュレーションは、例えば以下のような手術手技評価システムに適用することも可能である。
【0126】
例えば、血管疑似モデルを使用して血管吻合の手技を行ったユーザー等が吻合済み血管疑義モデルのDICOM形式データをこのシステムのサーバ3にアップロードすることで処理可能である。なお、このアップロードは、メールで送信する等の手段により行っても良い。
【0127】
この場合、吻合モデルの血流解析を実行するのだが、同時に、吻合部の形状をユーザー自身が編集することによって、どのように吻合を行えば、どの程度エネルギー損失が下がるのかといった、手術テクニックの検証、シミュレーションを行うことができることが好ましい。したがって、この場合、上記一実施形態の構成に加えて、エネルギー損失演算部を有するシステムとする必要がある。
【0128】
この場合、
図31に示すように、このシステムのプログラム格納部は前記流体解析部12に加えて、エネルギー損失演算部77と、血管形状修正部36と、手術手技評価部78とを有する。
【0129】
前記エネルギー損失演算部は、前記流体解析部で演算された状態量に基づき、評価モデルの入口と出口での血流のエネルギーを算出し、その損失を計算する。この損失は、血管の断面積及び長さを規格化して換算することで吻合部の狭窄率(狭窄度)として変換する。前記血管形状修正部36は、どの領域の吻合部内部形状を変化させることが、血流のスコアに効果的であるかを確認するために、上記一実施例で説明した形状修正部36の構成を利用する。前記手技評価部78は、上記エネルギー損失(吻合部の狭窄率(狭窄度))に基づいて、以下のような評価を行う。
【0130】
すなわち、血管モデルを用いた吻合手技訓練において、その手技結果を評価する上で重要なのはスムーズな血流の再開である。スムーズとは吻合部内腔において、形態上、狭窄部位が存在しないことである。狭窄部位の存在は、血流にとって流れのエネルギー損失を招く。よって吻合手技の訓練においては吻合部内腔を狭窄しないように吻合することが理想的な手技となる。
吻合のトレーニングにおいて狭窄部は、上記クレームの病変に相当すると考えられる。すなわち未熟な手技により、血管吻合において狭窄部が生じ、結果として再開した血流のエネルギー損失が高値となる状況を招く。
【0131】
手術シミュレーションにおいては、この狭窄部を前記一実施形態における病変部と解釈することで、どのように改良すればよいかの評価が可能になる。例えば、ユーザーは、病変部、すなわち狭窄部の形状を任意に編集(拡大、縮小、削除、等血管形状編集機能に準ずる)可能となることで、血流と手技の関係を解釈することができる。したがって、この例では、上記評価部が、上記一実施形態と類似のインターフェースを用いて、手技と内腔形状、内腔形状と血流の関係を迅速かつ直感的にコンピュータディスプレイ上に示すように構成されている。
【0132】
なお、自動吻合器と従来の縫合糸による吻合では、当然に吻合内部形状が異なる。例えば、自動吻合器による吻合部合流部形状はT字型となり、吻合部断面形状は円形状に近似する。例えば、吻合断面における円直径を拡大、縮小することによって、異なる径の血管を用いた場合の吻合結果をシミュレーションすることが可能となる。
【0133】
吻合部内腔形状を編集することで、例えば再開した血流には大きく影響を及ぼさない部位をあえて削除するといったシミュレーションを行う事で、臨床において有用な新たな理想的吻合手技のデザイン、発見に至ることも期待できる。
【0134】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。