特許第6097968号(P6097968)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6097968-繊維構造体およびその用途 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6097968
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】繊維構造体およびその用途
(51)【国際特許分類】
   D02G 3/04 20060101AFI20170313BHJP
【FI】
   D02G3/04
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-250964(P2012-250964)
(22)【出願日】2012年11月15日
(65)【公開番号】特開2014-98220(P2014-98220A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219288
【氏名又は名称】東レ・モノフィラメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182785
【弁理士】
【氏名又は名称】一條 力
(72)【発明者】
【氏名】岡野 信
【審査官】 斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−140455(JP,A)
【文献】 特開2006−325717(JP,A)
【文献】 特開2005−237229(JP,A)
【文献】 特開2009−130999(JP,A)
【文献】 特開2004−337116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/12
A01M 1/00 − 99/00
A63B 51/02 − 51/04
D02G 1/00 − 3/48
D02J 1/00 − 13/00
H02G 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の合成樹脂製モノフィラメントからなる繊維集合体を撚り合せて熱固定してなる繊維構造体であって、前記繊維集合体は、少なくとも1条の異形断面モノフィラメントと丸断面モノフィラメントとからなり、前記異形断面モノフィラメントは、下撚りされて表面に螺旋状の凹凸が形成されてなり、前記異形断面モノフィラメントの単糸繊度が、前記丸断面モノフィラメントの単糸繊度の1.1〜3.0倍であることを特徴とする繊維構造体。
【請求項2】
前記繊維構造体の撚り数が25〜65回/mであることを特徴とする請求項に記載の繊維構造体。
【請求項3】
前記合成樹脂製モノフィラメントがポリエステル樹脂からなることをと特徴とする請求項1または2に記載の繊維構造体。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載の繊維構造体からなるラケット用ガット。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の繊維構造体からなる防鳥線。
【請求項6】
請求項1〜のいずれか1項に記載の繊維構造体からなる通線用リード線。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の繊維構造体からなる農業用張り線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本の合成樹脂製モノフィラメントからなる繊維集合体を撚り合わせてなる繊維構造体に関するものであり、詳しくは、同一直径のモノフィラメントよりもフレキシブル性に優れると共に、表面の凹凸が大きく、ラケット用ガット、通線用リード線、防鳥線、農業用張り線など幅広い用途に好適な合成繊維構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モノフィラメントを製紐した繊維構造体は、その構造から同一直径のモノフィラメントを使用した場合に比べてフレキシブル性に優れ、また繊維構造体に形成される表面が凹凸であることから、従来よりラケット用ガット、通線用リード線、防鳥線、農業用張り線など幅広い用途で使用されている。
【0003】
しかしながら、従来の繊維構造体は同一直径のモノフィラメント複数本を製紐したものがほとんどであり、繊維構造体の表面の凹凸が小さいことから、それらに対する改善要求が高まっている。
【0004】
繊維構造体の凹凸を形成する方法としては、多角形断面のモノフィラメントに撚りを掛けて外面に螺旋状の稜線を形成する方法、(例えば、特許文献1参照)、同形あるいは双方が異なる形状の両端部を、これら両端部の最小値よりも厚みが小さい連結部で連結させた断面形状を有する特殊異形断面モノフィラメントの長手方向に撚りを掛ける方法(例えば、特許文献2参照)などが提案されているが、これらの方法では異形断面モノフィラメントの断面形状を工夫することにより、繊維構造体表面の凹凸をある程度大きくすることはできるが、モノフィラメントに撚りを掛けただけであるため、糸のフレキシブル性については不十分であり、この点についての更なる改善が求められている。
【0005】
一方、繊維構造体のフレキシブル性を維持しつつ表面の凹凸を改善する方法としては、複数本のモノフィラメントを撚り合せてなる撚り線を構成するモノフィラメントの少なくとも一本の直径を、他のモノフィラメントの直径と相違させる方法(例えば、特許文献3参照)が提案されているが、この方法ではある程度の改善はできるものの、丸断面の組み合わせのため改善の効果が小さく、更なる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−217217号公報
【特許文献2】特開2005−348851号公報
【特許文献3】実開昭63−24911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の従来技術における問題点の解消を課題として検討した結果達成されたものである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、同一直径のモノフィラメントよりもフレキシブル性に優れると共に、表面の凹凸が大きな繊維構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明によれば、複数本の合成樹脂製モノフィラメントからなる繊維集合体を撚り合せて熱固定してなる繊維構造体であって、前記繊維集合体は、少なくとも1条の異形断面モノフィラメントと丸断面モノフィラメントとからなり、前記異形断面モノフィラメントの単糸繊度が、前記丸断面モノフィラメントの単糸繊度の1.1〜3.0倍であることを特徴とする繊維構造体が提供される。
【0010】
なお、本発明合成繊維構造体においては、
前記異形断面モノフィラメントは、下撚りされて表面に螺旋状の凹凸が形成されていること、
前記繊維構造体の撚り数が25〜65回/mであること、および
前記合成樹脂製モノフィラメントがポリエステル系樹脂からなること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
また、本発明の繊維構造体は、ラケット用ガット、通線用リード線、防鳥線、農業用張り線などの用途に好ましく使用することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、以下に説明するとおり、同一直径のモノフィラメントよりもフレキシブル性に優れると共に、表面の凹凸が大きな繊維構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例において通線性評価に使用した模擬配管の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の繊維構造体について説明する。
【0014】
本発明の繊維構造体は、複数本の合成樹脂製モノフィラメントからなる繊維集合体を撚り合せて熱固定してなる繊維構造体であって、前記繊維集合体は、少なくとも1条の異形断面モノフィラメントと丸断面モノフィラメントとからなり、前記異形断面モノフィラメントの単糸繊度が前記丸断面モノフィラメントの単糸繊度の1.1〜3.0倍であることが重要である。
【0015】
ここで、繊維構造体を異形断面モノフィラメントに撚りをかけた場合は、表面の凹凸については異形断面モノフィラメントの断面形状の調整によりある程度改善できるが、フレキシブル性に欠けるものになってしまうため好ましくなく、繊維構造体を丸断面モノフィラメントばかりで構成した場合は、フレキシブル性は得られるが、表面の凹凸が小さくなってしまうため好ましくない。さらに、本発明の繊維構造体は、合成樹脂モノフィラメントを複数本撚り合わせて熱固定してなることが重要であり、組紐のように編んでいく場合、単糸繊度の違いから均一な合成繊維構造体が得られなくなることから好ましくない。
【0016】
本発明で言う丸断面モノフィラメントとはモノフィラメントの断面が、略丸断面であるモノフィラメントを指すものとする。ここで略丸断面とは断面の真円度(短径の長径に対する比率を100分率表示した値)が80%以上の丸断面形状を有することを言う。
【0017】
次に、本発明の繊維構造体の撚り数については特に制限するものではないが、25〜65回/m、好ましくは30〜50回/mの範囲であることが好ましい。合成繊維構造体の撚り数が25回/m以下の場合は糸がバラケ易くなり好ましくなく、65回/m以上の場合は強撚になることからフレキシブル性が損なわれ易いことから好ましくない。
【0018】
本発明の繊維構造体のもう一つの特徴は、異形断面モノフィラメントの単糸繊度が、他の丸断面モノフィラメントの単糸繊度の1.1倍〜3.0倍、好ましくは1.2倍〜2.5倍であることが重要である。
【0019】
異形断面モノフィラメントの単糸繊度が丸断面モノフィラメントの単糸繊度の1.1倍より小さい場合は合成繊維構造体の表面の凹凸が小さくなってしまい好ましくなく、逆に異形断面モノフィラメントの単糸繊度が丸断面モノフィラメントの単糸繊度の3.0倍より大きい場合は、モノフィラメントの剛性が違いすぎるため、撚りを掛けると異形断面モノフィラメントに丸断面モノフィラメントが巻きつくような形状になってしまい、繊維構造体のフレキシブル性に欠けると共に表面の凹凸が小さくなってしまうため好ましくない。
【0020】
ここで、異形断面モノフィラメントの断面形状については特に制限がなく、三角形、四角形、五角形などの多角形、クローバー形、花びら形、星形、ギヤ形などの異形断面、トラック形、長方形や異形断面を繋ぎ合わせた扁平形状など、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜選択することができる。また、前記異形断面モノフィラメントは、そのまま丸断面モノフィラメントと撚り合せて使用することができるが、より均一な撚りを掛けるためには下撚りを掛けて表面に螺旋状の凹凸が形成されてなることが好ましい。
【0021】
本発明の合成繊維構造体を構成するモノフィラメントは、ポリエステル樹脂からなることが好ましい。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリメチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートまたはその2種類以上の共重合体またはブレンドしたものなどが好ましく、なかでもポリエチレンテレフタレートが好ましく使用される。
【0022】
なお、本発明の合成繊維構造体に使用するモノフィラメントには、必要に応じて、例えば顔料、染料、耐候剤、耐光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱剤、蛍光増白剤、結晶化抑制剤、可塑剤、末端基封鎖剤、などの各種添加剤、ワックス類、シリコーンオイル、フッ素系樹脂などの各種改質剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で、その原料の重合工程や重合後、あるいは紡糸直前に添加することができる。
【0023】
本発明の繊維構造体の用途としては特に限定しないが、ラケット用ガット、通線用リード線、防鳥線、農業用張り線などの用途に好ましく使用することができる。
【0024】
本発明の繊維構造体をラケット用ガットとして使用した場合は、複数本のモノフィラメントに撚りを掛けた繊維構造体であることから、従来のポリエステルモノフィラメントをガットとして使用したときよりも衝撃吸収性、スピン性に優れている。
【0025】
本発明の繊維構造体を通線用リード線として使用した場合、繊維構造体のフレキシブル性が向上するとともに凹凸が大きくなることにより配管との接点が少なくなることにより通線性が改善されたものとなる。
【0026】
本発明の繊維構造体を防鳥線として使用した場合は、繊維構造体の表面の凹凸によるキラつきが大きくなることにより鳥よけ効果が向上する。
【0027】
本発明の繊維構造体を農業用張り線として使用した場合は、表面の凹凸に蔓が絡みやすくなり、植物が生長していくことによる自重によって蔓が下がってしまうことを抑制できることから、途中で蔓を縛る必要が無くなり手間を省くことができる。
【0028】
次に、本発明の合成繊維構造体の製造方法の一例について説明する。
【0029】
本発明の合成繊維構造体の製造方法は、何ら特殊な製造装置を使用する必要はなく、公知の方法で製造することができる。
【0030】
例えば、ポリエステルペレットを公知の溶融紡糸機に供給し、溶融紡糸機から任意の形状の口金を通して押し出した未延伸糸を冷却水浴で冷却固化した後、合成樹脂のガラス転移以上の熱媒温度で3.0〜6.5倍に1段または2段に延伸し、次いで0.85倍〜1.0倍に弛緩ないし定長熱処理することにより、まず合成樹脂モノフィラメントを得る。
【0031】
こうして得られた合成樹脂モノフィラメントを、本発明の範囲の組み合わせで引きそろえ、緊張状態で合成樹脂のガラス転移点以上の温度で加熱しながらS撚り、またはZ撚りすることで撚りを付与し、次いで急冷することにより本発明の繊維構造体が得られる。
【0032】
かくして得られた本発明の繊維構造体は、ラケット用ガット、通線用リード線、防鳥線、農業用張り線などの幅広い用途に使用することができる。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明の合成繊維構造体について実施例に基づいてさらに詳しく説明する。なお、実施例における合成繊維構造体の評価は以下の方法で行った。なお、実施例1〜3および5〜8は参考例である。
【0034】
[繊度]
JIS L1013:2010の定義によった。すなわち、綛状に取った試料を20℃、65%RHの温湿度調整室に24時間放置した後、長さ90cmの試料20本をとりそのときの質量を測定し、次式により算出した。
【0035】
繊度=試料の質量/試料の長さ×1000。
【0036】
[モノフィラメントの長径と短径]
株式会社ミツトヨ社製クーラントプルーフ型マイクロメーター(測定範囲0〜25mm)を用い、モノフィラメントを回転させながら、フィラメントの長手方向における同一点にでの最大径と最小径をそれぞれ5本のサンプルについて測定し、最大径の平均値を長径、最小径の平均値を短径とした。
【0037】
[真円度]
上記のモノフィラメントの長径と短径から、次式により真円度を算出した。
【0038】
真円度=短径/長径×100。
【0039】
[ラケット用ガットとして使用時の評価]
ラケット用ガットを想定して作成した繊維構造体を50Lbの張力でテニス用ラケットに張設し、上級レベルのテニスプレーヤーにテニスボールを試打してもらい、従来のポリエステルモノフィラメントを使用したガットを使用した場合と比較しての反発性、ボールコントロール性、耐衝撃性、環境による特性変化の起こし難くさについて評価した。
【0040】
[防鳥線として使用時の評価]
防鳥線を想定して作成した繊維構造体を金魚の養殖池に半年間張ってもらいその間の鳥の飛来状態を従来の丸断面モノフィラメントを使用した防鳥線を使用した場合と比較し評価した。
【0041】
[通線用リード線として使用時の評価]
リード線を想定して作成した繊維構造体を、内径14mmの配管(市販品)を図1に示すように形設した模擬配管の開口部AからBへとリード線を通線作業した場合のリード線の通線性について評価した。
【0042】
なお、各コーナーにおける配管は、電気配線用エルボ(市販品)を使用し、a〜fの長さは次の通りとした
a:1.0m
b:1.2m
c:2.4m
d:1.2m
e:2.6m
f:1.4m
g:2.6m
[農業用張り線として使用時の評価]
農業用張り線を想定して作成した繊維構造体をホップ栽培の農園でホップの蔓をまきつかせる張り線として使用してもらい、従来の丸断面モノフィラメントを複数本撚り合わせた張り線と比較して評価した。
[実施例1]
合成樹脂としてポリエステル樹脂である三井化学製ポリエチレンテレフタレート樹脂(J055:極限粘度1.37)を用い、これをエクストルーダー型紡糸機へ供給し、紡糸温度300℃で溶融混練した後、ギヤポンプを経て、紡糸パック内の濾過層を通過して断面がクローバー形の異形断面糸製造用紡糸ノズルから紡出し、ただちに75℃の温水浴中で冷却固化させたポリエステル樹脂製の未延伸糸を得た。引き続き、得られた未延伸糸を90℃の温水浴で3.0倍に一次延伸し、次いで260℃の乾熱雰囲気下で1.8倍に二次延伸を行ってトータル延伸倍率5.4倍、繊度4635dtexの断面がクローバー形のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントを作成した。
【0043】
前記ポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントの製造方法で吐出量と、紡糸ノズルの断面形状を丸断面糸製造用に変更した以外は、同様の方法により繊度1758dtexのポリエステル樹脂製の丸断面モノフィラメントを作成した。
【0044】
前記異形断面モノフィラメント1本と、前記丸断面モノフィラメント7本とを引きそろえて繊維集合体とした後、240℃の乾熱浴中で45回/mの撚り数でS方向の撚りを掛けた後、20℃の冷却水中にて急冷させることで前記繊維集合体の形態を熱固定させることにより繊維構造体を得た。
【0045】
得られた繊維構造体をラケット用ガットとして使用した場合は、従来のポリエステルガットを使用した時よりもスピン性に優れ、打球感がソフトでボールコントロールがしやすかった。
[実施例2]
実施例1のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントの製造方法において、吐出量と、紡糸ノズルの断面形状を三角形に変更した以外は同様の方法で繊度8884dtexの断面が三角形のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントを作成した。
【0046】
次に、前記ポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントの製造方法において、紡糸ノズルの断面形状を丸断面に変更した以外は、同様の方法で繊度6161dtexのポリエステル樹脂製の丸断面モノフィラメントを作成した。
【0047】
前記異形断面モノフィラメント1本と前記丸断面モノフィラメント1本を使用して撚り数を35回/mに変更した以外は実施例1と同様の方法で繊維構造体を得た。
【0048】
得られた繊維構造体をラケット用ガットとして使用した場合は、実施例1同様に、従来のポリエステルガットを使用した時よりもスピン性に優れ、打球感がソフトでボールコントロールがしやすかった。
[実施例3]
実施例1のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントの製造方法において、吐出量と、紡糸ノズルの断面形状を四角形に変更した以外は、同様の方法で繊度3915dtexの断面が四角形のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントを作成した。
【0049】
次に、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂製の異形断面モノフィラメントの製造方法において、吐出量と、紡糸ノズルの断面形状を丸断面に変更した以外は、同様の方法で繊度1357dtexのポリエステル樹脂製の丸断面モノフィラメントを作成した。
【0050】
前記異形断面モノフィラメント2本と前記丸断面モノフィラメント7本を使用して撚り数を50回/mに変更した以外は、実施例1と同様の方法で繊維構造体を得た。
【0051】
得られた繊維構造体を防鳥線として評価した場合は、従来の防鳥線より光の乱反射が多く、鳥の飛来も少なかった。
[実施例4]
実施例3のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントの製造方法において、吐出量を変更した以外は、同様の方法で繊度5856dtexの断面が四角形のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントを作成した。作成したモノフィラメントを単線にて240℃の乾熱浴中で25回/mの撚り数でZ方向の撚りを掛けた後、20℃の冷却水中にて急冷させることで前記単繊維の形態を熱固定させることにより、下撚りされた異形断面モノフィラメントを作成した。
【0052】
次に、合成樹脂として東レ製ポリアミド樹脂(M1041:相対粘度4.4)を用い、これをエクストルーダー型紡糸機へ供給し、紡糸温度290℃で溶融混練した後、ギヤポンプを経て、紡糸パック内の濾過層を通過して丸断面糸製造用紡糸ノズルから紡出し、ただちに20℃の冷却浴中で冷却固化させたポリアミド樹脂製の未延伸糸を得た。引き続き、得られた未延伸糸を100℃の蒸気雰囲気中で3.8倍に一次延伸し、次いで220℃の乾熱雰囲気下で1.42倍に二次延伸を行ってトータル延伸倍率5.4倍、繊度3900dtexの丸断面モノフィラメントを作成した。
【0053】
前記異形断面モノフィラメント1本と、前記丸断面モノフィラメント2本を使用して、撚り数を45回/mに変更した以外は、実施例1と同様の方法で繊維構造体を得た。
【0054】
得られた繊維構造体を防鳥線として評価した場合は、実施例3同様に、従来の防鳥線より光の乱反射が多く、鳥の飛来も少なかった。
[実施例5]
実施例1のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントの製造方法において、吐出量と、紡糸ノズルの断面形状を三角形に変更した以外は、同様の方法で繊度96044dtexの断面が三角形のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントを作成した。
【0055】
次に、前記エステル樹脂製の異形断面モノフィラメントの製造方法において、吐出量と、紡糸ノズルの断面形状を丸断面に変更した以外は、同様の方法で繊度62674dtexのポリエステル樹脂製の丸断面モノフィラメントを作成した。
【0056】
異形断面モノフィラメント1本と、前記丸断面モノフィラメント2本を使用して、撚り数を48回/mに変更した以外は、実施例1と同様の方法で繊維構造体を得た。
【0057】
得られた繊維構造体を通線用リード線として図1の模擬配管を通したところ、開口部AからBまでスムーズに通線することができた。
【0058】
[実施例6]
実施例5のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントの製造方法において、吐出量を変更した以外は、同様の方法で繊度148898dtexの断面が三角形のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントを作成した。
【0059】
次に、前記ポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントの製造方法において、吐出量と、紡糸ノズルの断面形状を丸断面に変更した以外は、同様の方法で繊度53339dtexのポリエステル樹脂製の丸断面モノフィラメントを作成した。
【0060】
前記異形断面モノフィラメント1本と、前記丸断面モノフィラメント1本を使用して、撚り数を27回/mに変更した以外は実施例1と同様の方法で繊維構造体を得た。
【0061】
得られた繊維構造体を通線用リード線として図1の模擬配管を通したところ、実施例5同様開口部AからBまでスムーズに通線することができた。
【0062】
[実施例7]
実施例1のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントの製造方法において、吐出量と、紡糸ノズルの断面形状を丸断面に変更した以外は、同様の方法で繊度3915dtexのポリエステル樹脂製の丸断面モノフィラメントを作成した。
【0063】
実施例2で作成した繊度8884dtexの断面が三角形のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメント3本と、前記繊度3915dtexの丸断面モノフィラメント2本を使用して、撚り数を45回/mに変更した以外は、実施例1と同様の方法で繊維構造体を得た。
【0064】
得られた繊維構造体を農業用張り線として使用した場合は、従来の張り線より蔓の絡みが良く途中で蔓を縛ることなく栽培ができた。
【0065】
[実施例8]
実施例2で作成した繊度8884dtexの断面が三角形のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメント2本と、実施例7で作成した繊度3915dtexのポリエステル樹脂製の丸断面モノフィラメント5本を使用して、撚り数を45回/mに変更した以外は、実施例1と同様の方法で繊維構造体を得た。
【0066】
得られた繊維構造体を農業用張り線として使用した場合は、実施例7同様従来の張り線より蔓の絡みが良く途中で蔓を縛ることなく栽培ができた。
【0067】
[比較例1]
実施例1のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントの製造方法において、吐出量を変更した以外は、同様の方法で繊度15983dtexの断面がクローバー形のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントを作成した。
【0068】
前記異形断面モノフィラメントを単線にて240℃の乾熱浴中で45回/mの撚り数でS方向の撚りを掛けた後、20℃の冷却水中にて急冷させることで前記異形断面モノフィラメントの形態を熱固定させることにより、繊維軸方向に稜線を形成した異形断面モノフィラメントを得た。
【0069】
得られたモノフィラメントを、ラケット用ガットとして使用した場合は、断面がクローバー形の異形断面モノフィラメント単糸に撚りを掛けて表面に螺旋状の稜線を形成しただけであり、従来のポリエステルガットと比較して、スピンのかけやすさについてはある程度改善するものの、フレキシブル効果が得られないことから、打球感の改善が無くボールコントロールがしにくいものであった。
また、前記繊維構造体を防鳥線として使用した場合には、表面に螺旋状の凹凸はできるが、凹凸が小さいことから光の乱反射を起こす効果が小さく、従来の丸断面モノフィラメントを使用した防鳥線と比較して、鳥の飛来を防止する効果の改善が見られなかった。
【0070】
[比較例2]
実施例1のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントの製造方法において、吐出量と、紡糸ノズルの断面形状を三角形に変更した以外は、同様の方法で繊度190612dtexの断面が三角形のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントを作成した。
【0071】
前記異形断面モノフィラメントを、比較例1同様に単線にて45回/mの撚り数でS方向の撚りを掛けた繊維軸方向に稜線を形成した異形断面モノフィラメントを得た。
【0072】
得られた異形断面モノフィラメントを、通線用リード線として模擬配管を通したところ、断面が三角形の異形断面モノフィラメント単糸によりを掛けて表面に螺旋状の稜線を形成しただけであり、フレキシブル性に欠けるとともに稜線の凹凸が小さいことから通線抵抗が大きくなり、開口部AからBまでの途中でリード線を押し込むことができなくなり通線用リード線として使用できないものであった。また、得られた繊維構造体を、農業用張り線として使用した場合は、表面の凹凸が小さく、蔓の絡みが悪くホップが実をつけたとき自重に耐え切れなくなり、蔓が下がってしまうため途中で蔓を張り線に縛る必要があった。
【0073】
[比較例3]
実施例1で作成した繊度4635dtexの断面がクローバー形のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメント1本と、実施例1で作成した繊度1758dtexのポリエステル樹脂製の丸断面モノフィラメント7本を使い、組紐に製紐して合成繊維構造体の作成を試みたが、組紐中1本だけ繊度が太いモノフィラメントを使用したことにより、歪な繊維構造体となってしまい実用性に欠けるものとなった。
【0074】
[比較例4]
実施例1のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントの製造方法において、吐出量と、紡糸ノズルの断面形状を丸断面に変更した以外は、同様の方法で繊度4700dtexのポリエステル樹脂製の丸断面モノフィラメントを作成した。
【0075】
前記丸断面モノフィラメント1本と、実施例1で作成した繊度1758dtexのポリエステル樹脂製の丸断面モノフィラメント7本を使用して、撚り数を45回/mに変更した以外は、実施例1と同様の方法で繊維構造体を得た。
【0076】
得られた繊維構造体をラケット用ガットとして使用した場合は、繊度の違う丸断面モノフィラメントのみで構成されていることから、従来のポリエステルガットと比較してソフトな打球感は得られたが、表面の凹凸が小さくなってしまうことから、スピンのかけやすさについては不十分なものであった。また、前記繊維構造体を防鳥線として使用した場合は、表面の凹凸が小さくなってしまうことから、表面のキラつきが少なく従来の防鳥線同様鳥の飛来が多かった。
【0077】
[比較例5]
実施例1のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントの製造方法において、吐出量を変更した以外は、同様の方法で繊度62674dtexのクローバー形ポリモノフィラメントを作成した。次いで、実施例1のポリモノフィラメントの製造方法において、吐出量と、紡糸ノズルの断面形状を丸断面に変更した以外は、同様の方法で繊度69362dtexのポリエステル樹脂製の丸断面モノフィラメントを作成した。
【0078】
前記繊度62674dtexのクローバー形ポリモノフィラメント2本と、繊度69362dtexの丸断面ポリモノフィラメント1本を使用して、撚り数を45回/mに変更した以外は、実施例1と同様の方法で繊維構造体を得た。
【0079】
得られた繊維構造体を通線用リード線として模擬配管を通したところ、複数のモノフィラメントに撚りを掛けて繊維構造体を形成していることから、フレキシブル性は得られるが、繊維構造体を構成するモノフィラメントの繊度の比が小さいことから、稜線の凹凸が小さく、通線抵抗が大きくなり、開口部AからBまでの途中でリード線を押し込むことができなくなり、通線用リード線として使用できないものであった。
【0080】
[比較例6]
実施例3で作成した繊度3915dtexの四角断面ポリモノフィラメント4本を使用して、撚り数を45回/mに変更した以外は、実施例1と同様の方法で繊維構造体を得た。
【0081】
得られた繊維構造体をラケット用ガットとして使用した場合は、全て同一繊度の異形断面モノフィラメントのみで構成されていることから、従来のポリエステルガットと比較してソフトな打球感は得られたが、表面の凹凸が小さくなってしまうことから、スピンのかけやすさについては不十分なものであった。また、前記繊維構造体を防鳥線として使用した場合は、表面の凹凸が小さくなってしまうことから、表面のキラつきが少なく従来の防鳥線同様鳥の飛来が多かった。
【0082】
[比較例7]
実施例1のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメントの製造方法において、吐出量と、紡糸ノズルの断面形状を丸断面に変更した以外は、同様の方法で、繊度96044dtexのポリエステル樹脂製の丸断面モノフィラメントを作成した。
前記繊度96044dtexの丸断面ポリモノフィラメント1本と、実施例5で作成した繊度96044dtexの断面が三角形のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメント1本を使用して、撚り数を45回/mに変更した以外は、実施例1と同様の方法で繊維構造体を得た。
【0083】
得られた繊維構造体を通線用リード線として模擬配管を通したところ、複数のモノフィラメントによりを掛けて繊維構造体を形成していることから、フレキシブル性は得られるが、モノフィラメントの繊度比率が低く稜線の凹凸が小さいことから、通線抵抗が大きくなり、開口部AからBまでの途中でリード線を押し込むことができなくなり、通線用リード線として使用できないものであった。
【0084】
[比較例8]
実施例2で作成した繊度8884dtexの断面が三角形のポリエステル樹脂製の異形断面モノフィラメント1本と、実施例3で作成した繊度1357dtexのポリエステル樹脂製の丸断面モノフィラメント5本を使用して、撚り数を45回/mに変更した以外は、実施例1と同様の方法で繊維構造体を得た。
【0085】
得られた繊維構造体をラケット用ガットとして使用した場合は、異形断面モノフィラメントの単糸繊度と、丸断面モノフィラメントの繊度比が大きくなりすぎて、モノフィラメントの剛性が違いすぎるため撚りを掛けた場合異形断面モノフィラメントに丸断面モノフィラメントがまきつくような形状になってしまい、従来のポリエステルガットと比較してフレキシブル効果が得られないことから、打球感の改善が無く、ボールコントロールがしにくいものでああると共に、表面の凹凸が小さくなってしまうことから、スピンのかけやすさについては不十分なものであった。また、前記繊維構造体を防鳥線として使用した場合は、表面の凹凸が小さくなってしまうことから、表面のキラつきが少なく従来の防鳥線同様鳥の飛来が多かった。
【0086】
以上、実施例・比較例で作成したモノフィラメントと、そのモノフィラメントを使用して得られた繊維構造体の構造を表1にまとめた。
【0087】
【表1】
【0088】
表1および実施例1〜8の結果から明らかなように、本発明の条件を満たした合成繊維構造体は、いずれも繊維構造体のフレキシブル性、表面の凹凸の大きさを生かして、ラケット用ガット、防鳥線、通線用リード線、農業用張り線などの用途に、幅広く有効に使用できる。
【0089】
一方、本発明の条件を満たさない繊維構造体(比較例1〜8)は、繊維構造体のフレキシブル性に欠けるものであったり、表面の凹凸が小さかったりすることから、ラケット用ガットとして使用した場合には、衝撃吸収性に劣り打球性が悪くなったり、スピン性が劣るものになってしまう。また、防鳥線として使用した場合は、表面のキラつきが小さくて防鳥効果が小さく、通線用リード線として使用した場合は、模擬配管の途中で引っかかってしまい通線不能となり、農業用張り線として使用した場合蔓のまきつきが弱く自重で下がってしまうなど問題があり、実用性に欠けるものばかりであった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
以上、説明したとおり、本発明の繊維構造体は、複数本の合成樹脂製モノフィラメントを撚り合わせることによりフレキシブル性を向上させ、異形断面モノフィラメントを入れることにより繊維構造体表面の凹凸が大きくなることから、ラケット用ガット、通線用リード線、防鳥線、農業用張り線などの用途に幅広く使用することができる。
【符号の説明】
【0091】
A:模擬配管入り口の開口部
B:模擬配管出口の開口部
図1