特許第6098052号(P6098052)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ニデックの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6098052
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】手術器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 9/007 20060101AFI20170313BHJP
【FI】
   A61F9/007
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-151924(P2012-151924)
(22)【出願日】2012年7月5日
(65)【公開番号】特開2014-14398(P2014-14398A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】三田 修
【審査官】 白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/096821(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0281341(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0208422(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 9/007
A61F 2/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
術者が保持するハンドピースと、
前記ハンドピースの先端に配置され、前記ハンドピースと別部材であるノズルユニットと、を備え、
前記ノズルユニットは、
前記ハンドピースに固定されたシリンジの先端部に固定され、移植片を側面に付着させるための棒状のロッド部と、
前記ロッド部を保護するために,前記ロッド部を覆う中空のパイプ部であって,前記ロッド部との間で所定の間隙を有する内径を持つパイプ部と、
前記ロッド部の軸方向に沿って前記パイプ部を前記ロッド部に対して移動させる移動ユニットと、を備えることを特徴とする手術器具。
【請求項2】
前記ロッド部は、流体を排出するための開口を有し、
前記ハンドピースは、前記開口から流体を排出するために術者に操作される操作部を有する請求項1記載の手術器具。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
近年、眼科分野の再生医療において、網膜色素上皮細胞をシート状に培養し、患者眼眼底の網膜下に移植する治療方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。作製されたシート状の移植片を患者眼の眼底の網膜下に移植(埋植)する手術は容易ではない。このような移植手術を行い易くするために、特許文献2に示すような手術器具が提案されている。移植片は、手術器具のノズル先端(管状の部材)から治療部位である眼底の網膜下へと押出され、網膜下に移植される。このような場合、患者眼の眼球には器具の先端を挿通させるための貫通孔(切開創)が設けられることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特表平9−501303号公報
【特許文献2】米国特許6159218号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献2の器具は、移植片を所定の部材を用いて後方から押すことによって器具外へ送出させる構成となっている。しかしながら、このような器具では、移植片を押し出す際に機械的な接触が生じ、これによって移植片が損傷する可能性が高い。また、移植片の押し出し動作を好適に行うことが難しい。
【0004】
また、患者眼に形成する貫通孔は、できるだけ小さいことが望まれる。しかしながら、大きな移植片を眼に移植しようとする場合、移殖片の大きさに伴って移殖片を排出するためのノズル径を大きくする必要がある。このようにノズル径が大きくなってしまうと眼に形成される貫通孔も大きくさせる必要があり患者に負担がかかることとなる。
【0005】
本発明は、移植片の損傷や患者への負担を抑制しつつ大きな移植片を好適に移植できる手術器具を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る手術器具は、上記課題を解決するために、例えば、以下の構成を有する。即ち、術者が保持するハンドピースと、前記ハンドピースの先端に配置され、前記ハンドピースと別部材であるノズルユニットと、を備え、前記ノズルユニットは、前記ハンドピースに固定されたシリンジの先端部に固定され、移植片を側面に付着させるための棒状のロッド部と、前記ロッド部を保護するために,前記ロッド部を覆う中空のパイプ部であって,前記ロッド部との間で所定の間隙を有する内径を持つパイプ部と、前記ロッド部の軸方向に沿って前記パイプ部を前記ロッド部に対して移動させる移動ユニットと、を備える。

【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、移植片の損傷や患者への負担を抑制しつつ大きな移植片を好適に移植できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本発明の手術器具の一実施形態として、移植片を患者眼の網膜下に移植(埋植)する移植手術に用いる眼科用手術器具を例に挙げ、以下に説明する。なお、本実施形態の眼科用手術器具は、移植片を器具が備える部材に付着させ、移植片を流体を用いて網膜下に置く器具である。
【0009】
図1は、本実施形態である眼科用手術器具の外観斜視図である。図2は、眼科用手術器具の側面図である。
【0010】
眼科用手術器具100(以下、単に手術器具と略す)は、繰り返し利用可能な(リユースタイプの)ハンドピース10と、使い捨てのシリンジ70及びノズルユニット80とに大別される。ハンドピース10は、オートクレーブ可能で、複数回利用可能な耐久性を有する素材で作製される。ハンドピース10の各部品は、ステンレス鋼、チタン等の耐腐食性を備える金属により作製される。シリンジ70は、医療用に流通しているディスポーザブル(ワンユーズ)タイプの注射器が好適に用いられる。ノズル(ノズルユニット)80は、シリンジ70に着脱可能とされる。なお、図2Aは側面図、図2B図2Aの中心軸で切断した側面断面図、図2Cは、図2Bの状態から、プランジャ75が前方に移動された場合の側面断面図、を示している。
【0011】
本実施形態のシリンジ70は、医療用の注射器とする。シリンジ70は、外筒71と、プランジャ(押出棒)75と、を備えている。外筒71は、ノズルユニット80を取り付けるための先端部72を含む。外筒71の後端部にはプランジャ75を嵌合する開口が形成されている。外筒71は、ハンドピース10に着脱可能とされている。外筒71の後端の外周には、対となるフランジ(鍔部)74が設けられている。
【0012】
プランジャ75の先端には、ゴム、樹脂等の弾性部材76が設けられ、後端には術者が指等で押圧する押圧部77が設けられている。プランジャ75が外筒71に嵌合されると、外筒71の開放部は、弾性部材76によって密閉される。これにより、外筒71(シリンジ70)の空間は、流体を収納するためのタンクとして機能する。プランジャ75は、外筒71の長手方向(軸方向)に沿って移動可能とされる。本実施形態では、長手方向において、先端部72を前側とする。従って、プランジャ75は前後方向に移動する構成となる。
【0013】
プランジャ75が、前方に移動されると、タンク部T内の容積は減少する。一方、プランジャ75が後方に移動されると、タンク部T内の容積は増大する。タンク部T内の容積の変更に伴って、シリンジ70は、正圧と負圧が発生する。プランジャ75は、タンク部Tの内の流体を吸引、排出する吸引排出ユニットの役割を果たす。プランジャ75の前後方向の移動(タンク部Tの容積の変化)に伴って先端部72から、タンク部T内に流体を吸引したり、タンク部T内の流体が排出される。ノズルユニット80を介して流体が吸引、排出される。本実施形態では、タンク部Tには、流体としては例えば、眼科用の灌流液(生理食塩水)が入れられる。なお、流体として、粘弾性物質や眼科用に用いられる薬剤等を用いてもよい。
【0014】
ハンドピース10は、外筒であり術者が指で保持するためのグリップ部(持ち手部)11と、移動ユニット30の移動をガイドするためのガイドパイプ12、シリンジ70を固定(保持)するための固定部13、シリンジ70を収納するための内筒部14と、プランジャ75を移動させるための移動ユニット30と、移動ユニット30を術者が操作するための操作部材(操作ユニット)である回転ノブ40と、を備えている。なお、本実施形態では、回転ノブ40は、移動ユニット30の一部を構成している。
【0015】
ガイドパイプ12の内部には、後述する移動ユニット30のリング31がスライド可能に取り付けられる。また、ガイドパイプ12は、軸方向に沿ってスリットが2箇所設けられており、このスリットを通してリング31と後述するバー32及びスライドバー35が接続されている。
【0016】
固定部13は、ハンドピースの後端に設けられており、フランジ74をくわえ込むガイド孔が形成されている。シリンジ70が回転されると、フランジ74がガイド孔にくわえ込まれる。これにより、フランジ74は、ガイドによって前後方向への移動が固定される。固定部13は、タンク部であるシリンジ70をハンドピース10に着脱自在に固定する着脱部材となる。
【0017】
内筒部14は、外筒71を収める内形状となっている。内筒部14の先端には、シリンジ70の先端部72を挿通する(露出させるための)開口が設けられている。開口は、シリンジ70の抜け止めとなるサイズとなっている。固定部13の後端には、開口が形成されている。外筒71は、開口から出し入れされる。
【0018】
移動ユニット30は、大別して、プランジャ75の押圧部77を保持するホルダ30Aと、術者が操作を行うための回転部材である回転ノブ40と、回転ノブ40によってホルダ30Aを移動させるスライダ30B、を備えている。ホルダ30Aとスライダ30Bは、リング31を共用する。移動ユニット30は、ガイドパイプ12内に移動可能に置かれるリング31を基部として、後方にホルダ30Aが設けられ、前方にスライダ30Bが設けられる。ホルダ30Aは、リング31に取り付けられたピン31aによって軸回転可能に保持されたバー32と、バー32の後端に設けられたプレート33と、押圧部77を固定保持するための回転ピン34と、を備えている。
【0019】
バー32は、図2に示されるように、プランジャ75と平行な方向(軸方向)に位置する状態から、ピン31a部分を回転中心としてハンドピースの上下方向に回動する。プレート33には雌ネジが形成されており、回転ピン34には雄ネジが形成されている。回転ピン34は、プレート33に螺合される。回転ピン34の軸回転によって、回転ピン34全体が前後方向に移動する。プレート33と回転ピン34の間に、押圧部77が置かれた状態で、回転ピン34が回転されて前方に進むと、押圧部77は、プレート33と回転ピン34によって挟まれる。これにより、プランジャ75がホルダ30Aに固定保持される。プランジャ75を取り外す場合には、回転ピン34を回転させて後方に移動させた後、プレート33とバー32を下方向に回転させる。また、フランジ74の固定を解除させた上で内筒部14から引き抜く。
【0020】
スライダ30Bは、リング31を含み、リング31にネジ31bによってネジ止めされた直線形状のスライドバー35と、スライドバー35の先端に設けられ、回転ノブ40を回転可能に保持するフック36と、を備えている。また、グリップ部11の上部には、回転ノブ40(スライドバー35)の移動をガイドするためのガイドレール15と、回転ノブ40の両側面を支える対向した壁部(側壁)16、が形成されている。ガイドレール15及び壁部16は、前後方向(軸方向)に直線状に形成される。
【0021】
フック36は、スライドバー35の先端に設けられており、後述する回転ノブ40のシャフト41に引っ掛けられ回転ノブ40を回転可能としつつ、回転ノブ40の回転によってスライドバーを軸方向に移動させる役目を果たす。
【0022】
図3は、回転ノブの構成を説明する図である。回転ノブ40は、シャフト41と、シャフト41の両側に設けられたシャフト41よりも大きな径を持つ円盤部42と、シャフト41から円盤部42の外周に向かって形成された傾斜部43、を備えている。なお、回転ノブ40は一体の部材とされる。傾斜部43は、シャフト41から円盤部42の外周方向に向かって円盤部42の厚みが減少する形状(テーパ形状)となるように形成される。傾斜部43が、ガイドレール15の角部に接触し、シャフト41がガイドレール15の上面に接触しないように、シャフト41の幅(シャフト41の軸方向の長さ)が設計されている。このため、回転ノブ40は、ガイドレール15に対して傾斜部43にて接触することとなる。
【0023】
回転ノブ40は、円盤部42の回転によってガイドレール15及び壁部16に沿って前後方向に移動する。回転ノブ40の前後方向の移動に伴って、スライダ30B(フック36、スライドバー35、リング31)とホルダ30A(リング31、バー32、プレート33、回転ピン34)が一体的に移動する。これにより、プランジャ75が前後方向に移動される。このとき、外筒71は、固定部13により固定保持されているため、プランジャ75は、外筒71に対して相対的に前後方向に移動されることとなる。
【0024】
回転ノブ40の移動量は、回転ノブ40(円盤部42)の回転に比例する。本実施形態では回転ノブ40の最外径となる円盤部42の径よりも小さな径となる回転ノブ40の所定部分(傾斜部43)にガイドレール15を接触させる構成としているため、回転ノブ40の回転と、回転ノブ40の前後方向の移動との関係において、円盤部42の回転に対して実際の回転ノブ40の移動量が縮小する構成となっている。図3において、シャフト41の回転軸Aを基準として、円盤部42の周縁までの距離をR1(回転ノブ40の最外径の半径に相当する)とし、回転軸Aとガイドレール15までの距離をR2とする。このときの円盤部42の回転による回転ノブ40の前後方向の移動量は、円盤部42が所定の平面上を回転する際の移動量に比べて、距離R1と距離R2の比だけ減少する(R2/R1となる)。
【0025】
このようにして、回転ノブ40(円盤部42)の回転に対する直線的な移動量(回転ノブ40の転がり量)は、縮小されてスライダ30B、ホルダ30A、プランジャ75へと伝達される。このような機構により、タンク部T内の流体の操作の微調整が行い易くなり、ノズルユニット80を介した流体の吸引、排出の操作性が向上する。
【0026】
図2B図2Cに示されるように、回転ノブ40は高さ位置を変えることなく、回転によって前方に移動する。このとき、フック36、スライドバー35等と一体となった部材が、回転ノブ40のシャフト41の移動に伴って前方へと移動する。プランジャ75は前方へ移動し、タンク部Tの容積を減少させる。このとき、タンク部T内の流体は、外側へと排出されることとなる。なお、回転ノブ40の回転方向が後方であれば、前述の動作と逆になり、タンク部T内には流体が吸引(流入)される。
【0027】
次に、シリンジ70に取り付けられるノズルユニット80について説明する。図4は、ノズルユニット80の上面断面図(ノズルユニット80の軸に沿った水平面での断面図)である。図5は、ノズルユニット80の先端部の正面図である。図5では、移植片Iを点線で示している。
【0028】
ノズルユニット80は、ロッド部81、パイプ部91、を備える。ロッド部81は、移植片Iを付着させ(巻きつけ)、ロッド部81から移植片Iを離す(?がす)ことにより、移植片Iの移植(患者眼眼底への埋植)を行うための部材である。ロッド部81は、棒状の部材となっている。パイプ部91は、ロッド部81に付着した移植片Iを覆って保護するカバーの役割を持つ。パイプ部91は、ロッド部81との間で所定の間隙を有する内径を持っている。回転部95は、ノズルユニット80の基端(後端)に配置される。パイプ部91の基端部と、ロッド部81の基端部とは螺合することによって回転部95が構成される。回転部95は、ロッド部81の軸方向に沿ってパイプ部91を移動させる移動ユニットとなる。図4Aではパイプ部91が前方まで移動された状態(ロッド部81の全てを覆う様態)を示し、図4Bではパイプ部91が後方まで移動(退避)された状態を示す。
【0029】
ロッド部81は、先端部82と、支持部83と、基部84を備える。先端部82は、移植片を付着させるための部材である。支持部83は、先端部82の後端に接続され、先端部82を支持して基部84に固定する部材である。先端部82、支持部83も断面(軸方向に直交する断面)が円形状となっている。ここでは、先端部82、支持部83とも中空(先端は閉じている)の円柱状となっている。先端部82は、側面に移植片Iを付着させる径(外径)で、できるだけ小さい径とされる。本実施形態では、先端部82の外径は、移植片Iの両端が重ならず、かつ、両端が近接するように先端部82の側面に巻き付く(C字状となる)サイズとする。言い換えると、ロッド部81の先端(ここでは、先端部82)は、移殖片の一辺の長さよりも長い周長を有している。支持部83は、ロッド部81全体が過剰に撓らない程度の剛性を保ち、できるだけ小さい径とされる。また、支持部83は、後述するパイプ部91が、軸ぶれして、先端部82に付着した移植片Iに接触させないようにする役割を持つ。このため、先端部82の軸方向の長さは短い方が好ましい。先端部82と支持部83の径の差(段差)は、所定の範囲で定められる。この所定の範囲とは、先端部82に付着された移植片が、パイプ部91の内壁に接触しないようにするための長さで、支持部83の径をできるだけ小さくする長さである。基部84は、支持部83の基端に配置される部材である。基部84の後端には、ノズルユニット80をシリンジ70に固定するための嵌合部(開口)が設けられている。基部84は、ノズルユニット80を支える役割を持つ。基部84の外周には、パイプ部91の基部94と螺合するためのネジ山が形成されている。
【0030】
パイプ部91は、筒部(パイプ部)92と、基部94と、を備える。筒部92は、中空の筒(パイプ)状部材である。基部94は、筒部92の基端と接続され、筒部92を支える役割を持つ。基部94の内側には、基部84と螺合するネジ山が形成されている。パイプ部91は、ロッド部81の外径よりも大きい内径の中空部材である。筒部92は、支持部83と同様に断面が円形状となっている。筒部92の内径は、パイプ部91がロッド部81に対して移動しやすいように、支持部83の外径と同じか、若干大きい径となっている。筒部92は患者眼の眼球内に挿入されるため、筒部92の外径はできるだけ小さくしている。なお、ロッド部81(先端部82、支持部83)、パイプ部91(筒部92)の断面形状は、必ずしも円形状でなくてよい。移植片の付着、パイプ部91の移動ができる構成であればよい。例えば、断面形状は、多角形、星型等であってもよい。
【0031】
回転部95は、基部84に基部94が螺合して構成される。基部94が回転されることにより、基部94(パイプ部91)全体が回転し、ロッド部81の軸方向に沿って進退移動(スライド移動)する。パイプ部91(筒部92)は、少なくとも先端部82が露出した状態(図4Bの状態)と、先端部82がパイプ部91に覆われた状態(図4Aの状態)の2つを含む距離だけ移動する。言い換えると、パイプ部91は、少なくともパイプ部91の先端が、先端部82と支持部83の境に位置する状態から、先端部82の最先端に位置する状態まで移動する。
【0032】
本実施形態では、移植片Iを先端部82に付着させる場合、回転部95を回転してパイプ部91を後退(退避)させ、先端部82を露出させる(図4Bの状態)。移植片Iを先端部82に付着させた後に、回転部95を逆回転させて、パイプ部91を前方へと移動させる(図4Aの状態)。このようにして、回転部95の回転操作(正回転/逆回転)により、パイプ部91が進退移動し、パイプ部91の状態が図4A及び図4Bに示す2つの状態の間で切り替えられることとなる。これにより、移植片Iが筒部92により保護される(図4の状態)。この状態で、移植片Iの移植作業が行われる。
【0033】
ここで、移植片Iを3mm×3mm角で、厚みが数十μmのシート状とすると、本実施形態では、先端部82の直径は、1mm程度(円周として3mm強)、軸方向の長さは、少なくとも3mm強で、4mm〜10mm、支持部83の外径は、1.4mm(先端部82と支持部83の段差は、200μm)とする。筒部92の内径は、1.4mm、外径は、1.7mmとする。従って、眼内に挿入されるノズルユニット80の径は、1.7mmとなる。
【0034】
図4図4A図4B)、図5に示すように、ロッド部81は、本実施形態では、一体的に形成された中空の棒状部材である。ロッド部81の内部には液体の流路81aが形成されている。流路81aは、ロッド部81の基部84から先端部82に向かって形成されている。ロッド部81の先端部の側面には、流路81aと繋がった排出孔82aが形成されている。また、支持部83の前面(先端部82側)には、流路81aと繋がった排出孔83aが形成されている。各排出孔を介してロッド部81から流体が排出されることとなる。
【0035】
排出孔82aは、本実施形態では、先端部82の鉛直方向(使用時の上下方向)の上側を基準とすると、鉛直方向の下側に2つ、鉛直方向に直交する左右方向のそれぞれ2つずつ、形成される。排出孔82aは、軸方向に沿って2つずつ配置されている。排出孔82aは、先端部82に移植片Iが付着されたときに、排出孔82aから排出される液体が移植片Iを押して、先端部82から離れるような位置であればよい。排出孔82aは、移植片Iの下(移植片Iに覆われる)位置に置かれることが好ましい。ここでは、移植片が先端部82から離れるのを阻害しにくいように、移植片の両端(の境)の位置(鉛直方向の上)に排出孔82aを設けていない。
【0036】
排出孔82aの孔形状は、移植片I(の一部)を先端部82の内部に入れてしまったり、排出孔82aのエッジで傷つけにくい形状としている。ここでは、排出孔82aは、径は数十〜数百μmの円形状とする。排出孔82aの外側のエッジは面取り(又は丸め処理)される。
【0037】
排出孔83aは、付着した移植片を先端部82から離すと共に、前方に向に押し出す流れ(流路)を作る役割を持つ。排出孔83aは、鉛直方向を基準として、上下左右方向に一つずつ配置される。排出孔83aの孔形状は、排出孔82aと同様となっている。排出孔83aは、軸に直交する方向に沿って孔あけされて形成されている。
【0038】
先端部82の最先端部分(軸方向の先端)には流路81aと繋がる排出孔は形成されていない。このため、流路81aを流れる流体は、排出孔82aを介して先端部82の側面から外部に流出し、排出孔83aを介して支持部83の前面から外部に流出する。
【0039】
なお、排出孔82a、83aは、移植片Iへの悪影響を低減した形状であれば、どのような孔形状であってもよい。例えば、四角孔、スリット孔であってもよい。また、排出孔の配置位置、配置数は、移植片Iが先端部82から離れ、ノズルユニット80から排出される構成でれば、どのような構成であってもよい。排出孔は、先端部、支持部の少なくともどちらかに形成されていればよく、少なくとも1つあればよい。
【0040】
ロッド部81及びパイプ部91は、生体適合性を有する素材で作製されている。また、筒部92の少なくとも先端箇所(先端部82に掛かる領域)は、透光性を有する素材で作製されることが好ましい。これにより、先端部82を筒部92で覆っても、先端部82に付着した移植片の状態を視認しやすくなる。ロッド部81は、ステンレス、チタン、プラチナ等の金属、ポリプロピレン等の樹脂で作製される。パイプ部91は、フッ素樹脂、ポリプロピレン、シリコーン等の樹脂で作製される。
【0041】
以上のような構成を備える手術器具100の動作を説明する。図6は、移植片Iを先端部82に付着させる動作を説明する図である。図7は、移植作業を説明する図である。本実施形態の移植片は、予め患者から採取した組織を網膜色素上皮細胞へと分化させ、網膜色素上皮細胞を培養したシート状の細胞シートを移植片Iとする。移植片Iは、小片(例えば、3×3mm)にカットされ、手術器具100を用いて患者眼眼底の網膜下に移植(埋植)される。
【0042】
術者(又は補助者)は、シリンジ70、ハンドピース10、ノズルユニット80を組み合わせる。ハンドピース10にシリンジ70が挿入、固定され、回転ノブ40とプランジャ75が連動するようにされる。そして、シリンジ70にノズルユニット80が固定される。このとき、先端部82は露出した状態となっている(図4Bの状態)。術者は、回転ノブ40を操作して、タンク部Tに灌流液を貯める。このとき、灌流液は、先端部82を介してタンク部T内に取り込まれる。これにより、手術器具100は、使用可能な状態となる。
【0043】
術者は、予め小片に加工された移植片を、先端部82に付着させる。図6Aに示すように、シャーレには、小片とされた移植片Iが培養液に浮いている。この移植片Iは、培養シートから切り出され、基底膜が上面となるように液面に置かれる。術者は手術、器具100を上下反転させて持ち替える。術者は、先端部82を移植片Iの下に入れ、図6Bに示すように、移植片Iを先端部82で掬い上げる。このとき、先端部82の側面の頂部に、移植片Iの中心が来るように位置合わせすることが好ましい。術者が、図6Bの状態から、さらに先端部82を上方に移動させると、移植片Iは、灌流液の表面張力によって、先端部82の側面に巻き付くように振舞う。このようにして、図5に示すように(ここでは、上下逆)、移植片Iが先端部82に付着される。このとき、移植片Iの基底膜側が外側(外周側)となっている。
【0044】
なお、術者が、手術器具100を軸回転させて、先端部82に移植片Iを付着させてもよい。また、回転ノブ40の操作により、移植片Iを先端部82の側面に吸い付けてもよい。また、先端部82に付着した移植片I(又はその周辺)の水分を吸水紙で吸い取ることにより、先端部82に移植片Iを密着させてもよい。
【0045】
回転部95(基部94)が回転されると、筒部92が前方に移動され、移植片Iは覆われる。これにより、移植片を眼内に挿入しても、移植片Iが傷つきにくい。
【0046】
移植手術では、患者眼の前眼部の強膜に貫通孔を形成し、この孔から鑷子等が眼内に挿入され、手術が行われる。図7Aに示すように、患者眼の眼底の網膜下、すなわち、網膜(感覚網膜)Reと、網膜以外の眼底組織Fとの間には、ドーム状の空間Dが形成される。空間Dは、網膜Reの一部を切開して形成した切開創C1から灌流液等が注入されることで形成される。なお、切開創C1とは異なる切開創C2が形成される。切開創C1と切開創C2は対向するように形成される。灌流液等が、切開創C1から空間D内に注入されても、一部が切開創C2から流出される。これにより、網膜Re等に灌流液に加わる圧力等の負担を減少させることができる。次に術者は、ドーム内の不要な新生血管、色素上皮細胞等を抜去する。
【0047】
術者は、図7Bに示すように、空間Dにノズルユニット80の先端を挿入する。術者は、図7Cに示すように、移植片Iを排出する。術者は、回転ノブ40を前方に回転させて、灌流液をノズルユニット80の先端へと送る。移植片Iは、排出孔82aから排出される灌流液によって押され、先端部82から離される。また、移植片Iは、排出孔83aから排出される灌流液によって押され、前方へと移動する。これにより、先端部82に付着し、丸まった様態の移植片は、広げられてノズルユニット80の先端から外側へと排出される。
【0048】
術者は、移植片Iを移植位置に置き、ノズルユニット80を眼内から引き抜き、空間D内の灌流液を吸引除去し、網膜Reを元の状態に戻す。このようにして、移植片Iが患者眼に移植される。なお、移植片Iを排出する際に、空間D内でパイプ部91を後退させてもよい。
【0049】
以上のようにして、移植片の損傷や患者への負担を抑制しつつ大きな移植片を好適に移植できる。移植片Iを流体を利用して移動させることにより、移植片の損傷を抑制できる。移植片の付着時には、移植片を先端部82の側面に巻き付ける(丸める)ことにより、移植片を収めるユニットのサイズを小さくでき、切開創を小さくできる。また、移植片Iを先端部82に付着させることにより、移植作業中に移植片Iが動きにくく、作業がしやすくなる。
【0050】
なお、以上の説明では、パイプ部91は、ロッド部81に対して移動する構成としたが、これに限るものではない。ロッド部81に対してパイプ部91が相対的に移動し、先端部82に付着した移植片Iを保護できる構成であればよい。回転操作によりロッド部81が移動する構成としてもよい。また、移動ユニットは、回転操作に限らず、パイプ部91又はロッド部81を移動できる構成であればよい。例えば、スライダ機構を用いてもよい。また、ロッド部81の先端箇所を覆うことができる構成であれば、パイプ部91をキャップとして、前方からロッド部81に被せる構成としてもよい。この場合
キャップが、パイプ部と移動ユニットを兼ねることとなる。キャップは着脱可能であり、移植片をキャップで覆った後にロッド部から取り外すこともできる。
【0051】
なお、以上の説明では、ノズルユニット80は、直線状の部材としたが、これに限るものではない。先端部82に移植片Iを付着し、移植片Iをパイプ部91で覆うことができる構成であればよい。例えば、ロッド部81を途中で折り曲げる構成としてもよい。例えば、支持部83の先端部付近で支持部83を屈曲させる。この場合、パイプ部91(筒部92)を、柔軟性のある素材、例えば、シリコーン、ゴム等で形成する。
【0052】
なお、以上の説明では、吸引排出ユニットとして、シリンジ70とハンドピース10を用いる構成としたが、これに限るものではない。ノズルユニット80を介して移植片を排出できる構成であればよい。例えば、吸引ポンプ、排出ポンプ等を用いた吸引排出ユニットを用いてもよい。
【0053】
なお、以上の説明では、流体の排出孔として、支持部83の前面に設ける構成としたが、これに限るものではない。移植片Iをノズルユニット80の外部に排出できればよい。例えば、排出孔を支持部83の後方に設け、支持部83と筒部92の間に隙間又は溝を設け、この隙間又は溝を介して流体を排出する構成としてもよい。
【0054】
なお、以上の説明では、ロッド部81は、先端部82と支持部83を備える構成としたが、これに限るものではない。支持部83は必ずしも必要ない。移植片Iを付着できればよく、先端部82の径のまま基部84に保持される構成であってもよい。
【0055】
なお、以上の説明では、支持部83はロッド部81に設けられる構成としたが、これに限るものではない。ノズルユニット80に、支持部を備える構成であればよい。筒部92の内側(内壁)を支持部とする構成とする。例えば、ロッド部は、径が一定の棒状部材とし、この先端部に移植片を付着させる構成とする。パイプ部には、内径の差を設ける。パイプ部において、ロッド部の先端部を覆う箇所には、ロッド部の先端部の径よりも大きく、空間を確保できる内径とする。また、ロッド部の先端部に対応しない箇所の内径は、ロッド部の径と同じか若干大きい程度とする。これにより、ロッド部の先端部の空間は確保され、パイプ部ががたつきにくくなる。にして、支持部がパイプ部に設けられることとなる。このとき、パイプ部の支持部は、ロッド部に接触してパイプ部を支えることとなる。
【0056】
なお、以上の説明では、移植片Iを排出するために吸引排出ユニットを用いる構成としたが、これに限るものではない。先端部82に移植片Iを付着し、眼内で移植片Iを離すことができる構成であればよい。流体を吸引、排出する構成は必ずしも必要ない。このような場合、移植片Iを先端部82から離す際、パイプ部91は後方に移動させることが好ましい。また、このような場合、液体の流路、排出孔は不要となる。
【0057】
なお、以上の説明では、ノズルユニット80を一つのユニットとし、ノズルユニット80に移動ユニット(回転部95)を設ける構成としたが、これに限るものではない。移動ユニットとなる機構を、ハンドピース10に設ける構成としてもよい。従って、ロッド部、パイプ部は個別の部材としてハンドピース10に取り付ける構成となる。この場合、ロッド部、パイプ部は、手術器具用のアタッチメント(手術器具の部品)となる。
【0058】
なお、以上の説明では、移植片Iを3×3mmのものとしたが、このサイズに限るものではない。移植片Iのサイズに合わせて、ノズルユニット80の構成を変えればよい。先端部82に移植片Iを付着させる際に、移植片Iが重なる構成としてもよい。例えば、先端部82の径を小さくし、移植片Iを二重に重ねて(2周させて)先端部82に付着させてもよい。二重以上に重ねてもよい。
【0059】
なお、以上の説明では、移植片として、網膜色素細胞の細胞シートを用いたが、これに限るものではなない。眼底の組織であればよい。例えば、網膜細胞をシート状にしたものであってもよい。
【0060】
なお、以上の説明では、移植片は、患者から採取した組織を分化させたものとしたが、これに限るものではない。移植片として生体組織が用いられればよく、別の生体から得た細胞、組織等を移植片としてもよい。また、移植片としては、治療効果のある物質を放出するシート、眼球組織を刺激するデバイス、眼球お組織の状態を測定するデバイス等を移植片としてもよい。
【0061】
なお、以上の説明では、手術器具を眼科手術に用いる構成としたが、これに限るものではない。移植片を生体の体内に移植(埋植)する構成であればよい。本器具を、眼球ではない組織への移植手術等に用いてもよい。
【0062】
以上のように本発明は実施形態に限られず、種々の変容が可能であり、本発明はこのような変容も技術思想を同一にする範囲において含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
図1】本実施形態の眼科用手術器具の外観斜視図である。
図2A】眼科用手術器具の側面図である。
図2B】眼科用手術器具の側面断面図である。
図2C図2Bの状態からプランジャが移動した移動眼科用手術器具の側面断面図である。
図3】眼科用手術器具の回転ノブ付近の断面図である。
図4A】パイプ部の移動前のノズルユニットの上面断面図である。
図4B】パイプ部の移動後のノズルユニットの上面断面図である。
図5】ノズルユニットの先端部の正面図である。
図6A】移植片に先端部に近付ける状態を示す図である。
図6B】移植片を先端部に載せた状態を示す図である。
図7A】網膜下に空間を形成した状態を示す図である。
図7B】網膜下にノズルユニットを挿入した状態を示す図である。
図7C】網膜下に移植片を排出した状態を示す図である。
【符号の説明】
【0064】
10 ハンドピース
30 移動ユニット
40 回転ノブ
70 シリンジ
80 ノズルユニット
81 ロッド部
82 先端部
83 支持部
91 パイプ部
95 回転部
100 手術器具
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C