(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。なお眼底撮影装置として、眼底観察及び撮影と、眼底の視野検査を一台で行うことができる眼底撮影装置を例に挙げて説明する。
図1は眼底撮影装置の外観構成図である。
図2は眼底撮影装置の光学系及び制御系の説明図である。
【0010】
図1において、眼底撮影装置1は、基台1aと、基台1aに対して左右方向(X方向)及び前後(作動距離)方向(Z方向)に移動可能に設けられた移動台2、移動台2に設けられた駆動部6によって患者眼(眼)Eに対して左右方向(X方向)、上下方向(Y方向)及び前後方向(X方向)に移動可能に設けられた撮影部(装置本体)3、被検者の顔を支持するために基台1aに固設された顔支持ユニット5を備える。なお、撮影部3の内部には後述する光学系及び制御系が収納される。
【0011】
撮影部3の検者側には、ジョイスティック4、コントロール部7a、モニタ8が設けられている。ジョイスティック4は眼Eに対して撮影部3を相対移動させるために用いられる。ジョイスティック4が傾倒されると摺動機構によって移動台2が基台1a上をXZ方向に摺動する。ジョイスティック4の側面には回転ノブ4a、頂部にはスイッチ4bがあり、回転ノブ4aの回転操作で駆動部6が駆動して撮影部3がY方向に移動される。またスイッチ4bからの入力信号で眼底像の撮影動作などが行われる。コントロール部7aは、各種撮影・検査条件等を設定するための入力手段であり、マウス、キーボード、タッチパネル(モニタ8に取り付けられる)等が用いられる。モニタ8には眼Eの観察・撮影画像の他、各種検査結果が表示される。例えば、眼底観察画面、前眼部観察画面、視野検査画面、リハビリテーション画面等がモニタ8に表示される。撮影部3の被検者側には、被検者が装置内部を覗き込むための撮影窓9、眼(網膜)の視機能検査時などに患者が応答信号を入力するための応答ボタン7bが設けられている。
【0012】
図2において、光学系は、照明光学系10、被検者眼の眼底や前眼部等の観察・撮影をする観察・撮影光学系30、眼底にフォーカス指標(フォーカス指標)を投影するフォーカス指標投影光学系40、前眼部にアライメント用指標光束を投影するアライメント指標投影光学系、被検者(眼E)の視線を誘導する視標呈示光学系70から構成されている。
【0013】
<照明光学系> 照明光学系10は、撮影照明光学系と観察照明光学系を有する。撮影照明光学系は、可視光束を照射する撮影光源14、コンデンサレンズ15、リング状の開口を有するリングスリット17、リレーレンズ18、ミラー19、中心部に黒点を有する黒点板20、リレーレンズ21、孔あきミラー22、対物レンズ25を有する。
観察照明光学系は、近赤外光の光束を照射する照明光源11、近赤外光を透過する赤外フィルター12、コンデンサレンズ13、コンデンサレンズ13とリングスリット17との間に配置されたダイクロイックミラー16、リングスリット17から孔あきミラー22までの光学系と、対物レンズ25を有する。
【0014】
<観察・撮影光学系> 観察・撮影光学系30は、眼底観察光学系、眼底撮影光学系、前眼部観察光学系を有する。眼底観察光学系は、対物レンズ25、孔あきミラー22の開口近傍に位置する撮影絞り31、光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズ32、結像レンズ33、跳ね上げミラー34を備える。跳ね上げミラー34の反射方向の光路には、赤外光反射・可視光透過の特性を有するダイクロイックミラー37、リレーレンズ36、赤外域に感度を有する観察用の二次元撮像素子38が配置され、赤外光源で照明された眼底像が撮影される。なお、跳ね上げミラー34は眼底の観察時に光路に挿入され、眼底の撮影時に挿脱機構39により光路から退避される。
【0015】
眼底撮影光学系は、対物レンズ25,撮影絞り31から結像レンズ33までの光学系を眼底観察光学系と共用する。また眼底撮影光学系は、可視域に感度を有する撮影用の二次元撮像素子35を備え、可視光源14で照明された眼底像が撮影される。なお、撮影絞り31は対物レンズ25に関して眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置され、フォーカシングレンズ32は、モータを備える移動機構49で光軸方向に移動される。
【0016】
以上の構成により眼底の観察時には、照明光源11を発した光束が対物レンズ25によって眼Eの瞳孔付近で一旦収束した後、拡散して眼底を照明する。眼底からの反射光は、対物レンズ25、孔あきミラー22の開口部、撮影絞り31、フォーカシングレンズ32、結像レンズ33、跳ね上げミラー34、ダイクロイックミラー37、リレーレンズ36を介して撮像素子38に結像する。眼底の撮影時には、撮影光源14で照明された眼底からの反射光が、対物レンズ25、孔あきミラー22の開口部、撮影絞り31、フォーカシングレンズ32、結像レンズ33を経て二次元撮像素子35に結像する。
【0017】
前眼部観察光学系は、赤外光を発する光源35a、35b、対物レンズ25、前眼部観察補助レンズ26(以下、補助レンズと記す)を有し、穴あきミラー22から撮像素子38までの光学系を眼底観察光学系と共用する。赤外光源35a,35bは撮影光軸L1を挟んで対称的配置された一対の矩形状のLEDであり、眼Eの角膜に向けて所定の投影角度で発散光束による有限遠の指標(患者眼に対して垂直方向に延びる矩形状の指標)を投影する。これにより、眼Eと撮影部3の三次元方向のアライメント状態が示されると共に前眼部全体が照明される。
【0018】
なお、補助レンズ26は駆動手段26aの駆動によって光路から挿脱され、補助レンズ20が光軸L1上に置かれたときに前眼部と撮像素子38が略共役関係になる。つまり前眼部の観察時には、補助レンズ26が光軸L1上に置かれて撮像素子38で撮像された前眼部がモニタ8に表示される。一方、眼底観察時には、補助レンズ26が駆動手段26aの駆動で光路から退避され、撮像素子38と眼底が略共役関係となり、撮影された眼底像がモニタ8に表示される。
【0019】
<フォーカス指標投影光学系> フォーカス指標投影光学系40は、赤外光源41、スリット指標板42、スリット指標板42に取り付けられた2つの偏角プリズム43、照明光学系10の光路に斜設されたレバー45、レバー45に取り付けられ眼底の共役位置に置かれるスポットミラー44、ロータリーソレノイド46、投影レンズ47とを備える。レバー45は光軸上に置かれ、スポットミラー44は光軸上を避けた位置に置かれるようにレバー45の先端に取り付けられる。これにより眼底の観察時に、スポットミラー44からの反射光が眼底上の光軸L1上を避けた位置に投影される。
スリット指標板42の光束は、偏角プリズム43で分離された後、投影レンズ47を介してスポットミラー44で反射され、リレーレンズ21、孔あきミラー22、ダイクロイックミラー24、対物レンズ25を経て眼底に投影される。眼底のフォーカスが合っていないとき、スリット指標板42の指標像(フォーカス指標S1,S2)は眼底と共役関係ではないため眼底に分離して投影される。この場合、フォーカス視標S1,S2の分離状態の検出結果に基づき、駆動機構49の駆動によってフォーカシングレンズ32及びフォーカス視標投影光学系40が連動して光軸方向に移動される。一方、眼底のフォーカスが合ったとき、フォーカス指標S1,S2は眼底と共役位置にあり合致する。なお、フォーカスが合った状態で眼底撮影が行われるとき、ロータリーソレノイド46の軸の回転によってレバー45が光路から退避される。
【0020】
<視標呈示光学系> 視標呈示光学系70は、観察・撮影光学系20の対物レンズ25から跳ね上げミラー34までを共用し、更に2次元スキャン方式のプロジェクター71、スクリーン72、レンズ73を備える。ここでの図示は省略するが、プロジェクター71は、所定の色のレーザ光(例えば、赤色、緑色、青色)を照射する複数のレーザ光源と、各レーザ光を平行光とするためのコリメータレンズと、コリメータレンズで平行光とされた各レーザ光を同軸にするためのダイクロイックミラーと、同軸にされたレーザ光の照射径を変更するために光軸上で移動されるレンズと、レンズを通過したレーザ光をスクリーン72上で走査するための走査部とを備え、後述する制御部80によって各光源の点灯状態の制御、走査部の駆動が制御される。
視標呈示光学系70にレーザ光源を用いることで、眼底に投影される視標の大きさ、形状等が任意に変えられる。またレーザ光源から照射されるレーザ光の組み合わせによって、モノクロだけでなくカラーの視標も呈示できるようになる。例えば、石原式色覚異常検査表や特定波長の色(例えば赤、青、緑)を用いた視機能検査視標が呈示可能となり、患者の色覚異常の有無や、異常のある錐体(特定の色に対する色覚異常)等を特定できるようになる。また1台の検査装置を用いて様々な種類の視機能検査を行えるようになる。
なお、本実施形態では眼底と略共役位置に置かれたスクリーン72に投影された映像(視標)を途中の光学系を介して眼底に結像させているが、プロジェクター71から照射されるレーザ光を直接眼底に投影して各種視標を形成しても良い。
【0021】
<制御系> 制御部80は、上述の光学系及び制御系に接続されて各種動作制御を行う。また制御部80には記憶部としてのメモリ83が接続されており、メモリ83には各種プログラムや、環境設定ファイルなどの情報が予め記憶される。また撮影画像に含まれるフレア領域の検出結果に基づくアライメントをするため、フレア領域を構成する画素を抽出するための輝度の閾値情報が予め記憶されている。
例えば、制御部80は撮像素子38で撮像された前眼部画像からアライメント指標を検出する。また制御部80は、撮像素子35で撮像された眼底画像をモニタ8に表示させると共に、フォーカス指標の分離状態に基づき眼底のフォーカス合わせを行う。更に本実施形態では眼底視野検査を行う際に、撮像素子38で撮影された眼底画像からフレア領域を抽出して、フレアが取り除かれる方向に撮影部3を移動させるアライメントを行う。これにより視野検査中に生じる眼の移動又は回旋によるフレアの発生の影響を抑えて、眼Eと撮影部3のアライメントが好適に維持されるようになる。
【0022】
以上のような構成を備える眼底撮影装置の動作を説明する。ここでは、眼の視野検査を行った後、眼底を撮影する動作を説明する。コントロール部7aの操作で視野検査モードが設定されるとモニタ8に視野検査画面が表示される。また、制御部80は駆動手段26aの駆動で光軸L2上に補助レンズ26を位置させ、光源35a、35bを点灯させる。この状態で被検者が撮影窓9から装置内部を覗き込むと、前眼部が照明されて角膜に矩形状のアライメント指標が投影される。
【0023】
一方、制御部80はプロジェクター71の駆動制御でスクリーン72に固視標を形成する。つまり走査部の走査角度に応じてレーザ光の出力を調整し、低い輝度の背景に高い輝度の固視標を形成させる。具体的には、光軸L1に対応する固視標の呈示位置では各光源によるレーザ光の出力(輝度)を上げ、それ以外の背景部分ではレーザ光の出力(輝度)を低くする。これによりスクリーン72に、暗い背景(低い輝度)に明るい(高い輝度)の固視標が形成される。スクリーン72に形成された映像(固視標)は、レンズ73、跳ね上げミラー34、リレーレンズ33から対物レンズ25を経て、スクリーン72と略共役位置にある患者の眼底に投影される。
【0024】
固視標で眼Eが誘導された状態で、前眼部像を用いた位置合わせ(アライメント)が行われる。
図3にモニタ8に表示される前眼部像の例を示す。前眼部像F1上に矩形状のアライメント視標M1,M2が現れると、制御部80はアライメント視標M1,M2の受光結果に基づき撮影部3と眼Eの位置合わせ(アライメント)を行う。
【0025】
制御部80はアライメント視標M1、M2から求められる中間位置と、前眼部像から求められる瞳孔中心が一致するように撮影部3を上下左右(XY)方向に移動させる。またアライメント視標M1、M2の間隔が所定距離となるように、撮影部3を眼Eに対して前後(Z)方向に移動させて作動距離方向の位置合わせを行う。なお、アライメント動作の詳細な説明は国際公開2008/062527号公報を参照されたい。
制御部80によって、三次元方向のアライメントがアライメント許容範囲にあることが判断されると、制御部80は光源35a,35bを消灯し、補助レンズ26を光路から退避させて光源11を点灯する。そしてモニタ8の表示を撮像素子38で撮像される眼底像に切り換えて、フォーカス指標投影光学系40を用いた眼底のフォーカス合わせを行う。
【0026】
図4にモニタ8に表示される眼底像F2の例を示す。
図4(a)は眼底のフォーカスが合っていない状態、
図4(b)は眼底のフォーカスが合っている状態の眼底像F2の例である。制御部80は、撮像素子38の撮像範囲の輝度分布に基づき、フォーカス指標S1,S2の位置を特定する。そして検出されたフォーカス指標S1,S2間の距離(分離状態)を求め、検出結果に基づくフォーカス合わせを行う。
図4(a)に示されるようにフォーカスが合っていないとき、制御部80はフォーカス視標S1,S2が合致するように、フォーカシングレンズ32を光軸L1上で移動させる。そして制御部80によってフォーカスが適切であると判断されるとフォーカス調節が完了する。
【0027】
モニタ8に眼底像F2が鮮明に映る状態となると、視野計測中に生じる眼Eの移動及び回旋により生じる眼Eと撮影部3(光軸L1)の位置ずれを補正するアライメント、呈示視標の位置ずれを補正するためのトラッキングが制御部80により行われるようにする。
視野検査では眼底の異なる部位に検査視標を繰り返し呈示することで視機能を検査するため、一定の時間を要し、眼の微動等の影響によって検査視標の呈示位置にずれが生じやすい。そこで制御部80による眼底のトラッキングが行われると眼の微動等の影響が相殺されて、眼底の所期の位置に検査視標が投影される。しかし検査中の眼Eの回旋によって眼底画像にフレアが含まれる場合があり、フレアの影響で特徴部位が鮮明に検出し難くなると、トラッキングによる検査視標の呈示位置の補正が困難になってしまう。一方、補助レンズ26の挿脱で前眼部と眼底観察を切り換える場合には、眼底像の観察状態で前眼部像を用いたアライメント検出を行うことはできない。そこで、本実施形態では眼底画像の画像処理でフレア領域を抽出して、眼底画像にフレアが含まれなくなる方向に撮影部3を移動させるアライメントを行う。これにより特徴部位の検出によるトラッキングの動作が好適に行われるようにする。
【0028】
図5に本発明に係るフレア領域を用いたアライメントの動作原理を示すフローチャート、
図6にアライメントの説明図を示す。
フォーカス合わせが完了すると、ステップS101で、制御部80は所定のステップ(時間間隔)で撮像素子38から眼底画像(画像データ)を取得する。この時、眼Eの移動又は回旋などによって、角膜からの反射光が眼(網膜)に入射されると、眼底画像の周囲に白色がかったフレアが発生してしまう。
【0029】
次にステップS102で、制御部80はフレア領域抽出手段として、メモリ83に予め記憶されている輝度の閾値情報に基づき、取得された眼底画像(画像データ)を構成する各画素を二値化する。これにより閾値よりも高い輝度値の画素の集合がフレア領域R1として抽出され、閾値よりも低い輝度値の画素の集合がその他の領域R2として区分けされる。ここでは、
図6(a)に示されるように、眼底画像の紙面右側にフレアが発生しており、二値化によって眼底画像の紙面右側にフレア領域R1が設定(抽出)される。なお、閾値はフレア領域R1と他の画像領域とが分けられる閾値として予め設定されている。より具体的には、輝度の閾値はフレアが抽出される輝度値を実験などで求めることで予め決定される。
【0030】
次にステップS103で、制御部80は重心演算手段として、抽出されたフレア領域R1の画像モーメントの重心(位置)O1(x、y)を画像処理で求める。ここで示される重心O1(x、y)は画像の輝度情報に基づく重心であり、周知の画像処理モーメント演算で求められる。例えば式(1)で算出される。
【0031】
【数1】
式(1)において、f(x、y)は座標(x、y)に対応する画素の輝度値である。つまり式(1)において、x方向の重心位置と、y方向の重心位置と個別に求めることで、フレア領域R1の重心O1(x、y)を決定している。
【0032】
次にステップS104で、制御部80はステップS103で求められたフレア領域R1の重心O1の座標と、アライメント基準位置である撮像素子38の重心O2(光軸L1)の座標の差分を求め、撮影部3の移動方向(ベクトル)を求める。そして、ステップS105でフレア領域R1の重心O1と撮像素子38の重心O2(光軸L1)とが近づくように駆動部6の駆動で撮影部3を移動させる。なおフレア領域R1の重心O1と撮像素子38の重心O2は必ずしも一致していなくても良く、眼底像にフレア領域が含まれないように撮影部3の移動量が決定されれば良い。
【0033】
また撮影部3の移動速度を、重心O1と重心O2の差分(ベクトルVの長さ)に応じて変化させても良い。つまり差分が大きく、ベクトルVが長くなるほど撮影部3の移動速度を上げる。一方、差分が小さくベクトルVが短くなるほど撮影部3の移動速度を遅くする。このようにすると眼Eの移動又は回旋角度の度合いに応じて、眼Eと撮影部3の位置ずれがより抑えられ易くなる。なお、本実施形態ではアライメント基準位置として撮像素子の重心を例に挙げて説明したが、これに限るものではない。撮影部と患者眼とを所定の位置関係に合わせるために設定される受光素子上の所定位置をアライメント基準位置として設定されていればよい。
【0034】
そしてステップS106で視野検査の完了の有無が判断される。ステップS106で視野検査が完了していないと判断されると、ステップS101に戻り撮像素子38による画像データの取得が繰り返し行なわれる。一方、ステップS106で視野検査の完了が判断されるとアライメント処理が完了する。
【0035】
ところで、患者が瞬きをする途中で眼底撮影が行われると、
図6(b)に示すように、眼底像の周囲全体を囲むようなフレアが発生してしまう場合がある。このようなフレアは眼Eの移動及び回旋とは直接関係しておらず、ステップS101でこのような撮影画像が取得されてしまうと、眼Eと撮像素子38とのアライメント制御が正しく行われなくなるおそれがある。
【0036】
そこで眼Eの移動又は回旋以外で生じたフレアの検出結果は、上述のようなアライメント処理に反映されないことが好ましい。眼底像の周囲を囲むように発生したフレアに基づき設定されるフレア領域R1の重心O1は、アライメント基準位置である眼底の中心(重心O2)付近となる。そこでアライメント基準位置(重心O2)を中心とした所定範囲に重心O1がある場合に、そのフレア領域R1に基づくアライメント処理を行わないようにする。つまりアライメント基準位置を中心とした所定範囲を不活性領域Dとして定義しておき、ステップ104で求められたフレア領域R1の重心O1の座標が不活性領域Dに含まれる場合には、制御部80はアライメント処理を行わずに、ステップS101に戻り新しい画像データを取得する処理を行う。このように不活性領域Dを設けることで不要なアライメント処理を抑えることができる。なお不活性領域Dの範囲(座標領域)は予め実験などで瞬き時に発生するフレアの重心を求めることで設定される。
【0037】
次に、眼球の移動又は回旋に追従して、視標呈示光学系70で呈示される検査視標の位置補正を行うトラッキングの動作原理を説明する。
図7はトラッキングの動作原理の説明図であり、眼底像F2と固視標の呈示位置Tとが表示されている。
まず検者はモニタ8に表示された眼底像F2を確認しながら、コントロール部7aの操作で、眼底像F2上で乳頭部や血管等の特徴点(領域)を指定する。なお、特徴部分は画像処理で自動的に抽出されても良い。そして制御部80はコントロール部7aからの入力信号に基づき、特徴点の座標と、特徴点を中心とした所定範囲を参照エリアSとしてメモリ83に記憶させ、モニタ8上に参照エリアSを示す枠を表示させる。そして、制御部80は参照エリアS内の画像処理によって、特徴部分の形状、輝度分布等の情報(画像処理により特徴部分を決定するための特徴情報)を得てメモリ83に記憶させる。
【0038】
制御部80がモニタ8上の特徴点(参照エリアS)の移動量を検出すると、眼Eの動き(移動)に追従して、眼底に投影される視標(検査視標)の呈示位置をモニタ8の選択位置に一致させる補正が行われる。これにより、検査中に生じる眼Eの回旋等による影響が抑えられて、眼底の所期の位置に正しく検査視標が投影され、視機能検査を精度良く行えるようになる。
【0039】
以上のようなアライメント及びトラッキングが行われている状態で、制御部80はメモリ83に予め記憶されている視野計測プログラムに従い眼底の各測定点に所定の検査視標を呈示させる。制御部80はプロジェクター71の駆動制御によって、検査視標の呈示位置をランダムに切り換えると共に、プロジェクター71の光源の出力を調節して視標の輝度を変化させる。一方、患者は固視を維持しながら検査視標を認識できたら応答ボタン7bを押す。制御部80は入力信号に基づき、検査視標の輝度をその計測点で患者が認識可能な感度の応答情報としてメモリ83に記憶させる。なお、患者の応答が無い場合は、制御部80は検査視標の輝度を計測点で患者が認識できない感度の応答情報としてメモリ83に記憶させる。
【0040】
全ての計測点での感度計測が終了すると、
図8の眼の視機能感度の分布図の例に示されるように、制御部80は眼の視機能の検査結果をモニタ8に表示させる。制御部80は全計測点に対する感度の分布状態を模式図としてモニタ8に表示させる。なお、
図8では、呈示視標の輝度の減衰値が感度分布の表示に用いられており、最も高い輝度との差分によって感度分布が表示されるようになっている。つまり、モニタ8に表示された数値が大きいほどその部位での感度が高いと判断される。
視野計側が完了すると、制御部80は、赤外光源11を消灯して可視光源14を点灯させる。そして挿脱機構39の駆動で跳ね上げミラー34を光路から退避させる。可視で照明された眼底からの反射光は上記の眼底撮影光学系を経て撮像素子35で受光される。
【0041】
なお視野検査を行った結果、感度の高い黄斑付近などに疾患があることが確認された場合には、患者が物を見難い状態である可能性が高い。そこで、このような場合には、視野検査結果に基づき、疾患のある黄斑などに変えて、視機能が残されている眼底部位を黄斑の代替部位(偏心領域:PRL:Preferred Retinal Locus)として物を見るためのリハビリテーションを行うことができる。
【0042】
モニタ8にリハビリテーション画面が表示された状態で、上述と同様の手順で眼Eと撮影部3との位置合わせを行い、眼底像の特徴部分に参照エリアSを設定する。検者はコントロール部7aの操作でモニタ8に表示された眼底像上で偏心視域を設定する。制御部80は指定された偏心視域の座標(モニタ上での座標)と、参照エリアSとの位置関係を対応づけるための情報をメモリ83に記憶させ、選択された偏心視域を検者に示すマーク(図示を略す)をモニタ8に表示させる。なお、偏心視域は、患者眼の固視の安定性、文字等の読解測度、その他の視機能検査結果、カラー眼底像の目視による疾患の有無(発生の可能性)などを考慮して決定されることが好ましい。
【0043】
以上ような設定が完了したら、検者はモニタ8の中央に表示される固視標Tに対してマークが近づくように被検者の視線を誘導する。視線方向が変わると固視標Tの投影位置にある黄班部が徐々に移動される。この時、制御部80は、特徴点として設定した参照エリアSを常時トラッキングすることで、初期位置からの視線の移動量を、画像処理で求められる参照エリアSの移動量を用いて求める。そして、検出結果(移動量)に基づき、マークのモニタ8上の表示位置が逐次変更されることで、偏心視域と固視標Tの接近状態が確認される。一方、制御部80は参照エリアSの移動量から固視標Tと設定されたマークの位置の接近状態を検出する。
【0044】
マークが固視標Tの所定範囲内に接近したことが検出されると、制御部80は図示を略すスピーカ等から報知音を一定間隔で発生させる。なお、報知音を発生させるための固視標Tからの基準距離は予めメモリ83に記憶されている。またマークと固視標Tの距離が接近するに従い報知音の状態を変化させる。これにより接近の度合いを被検者に分かり易く示せるようになる。
【0045】
マークが固視標Tに略一致されると、制御部80は報知音を所定時間継続して鳴らすと共に、プロジェクター71の駆動制御で固視標Tの形状を切り換える。ここでは十字型に呈示されていた固視標Tが、
図9(a)に示されるような白色と黒色のエリアが交互に並べられたチェッカーフラグ模様の指標T2に切り換えられる。このように固視標Tの状態が変化することで、被検者は偏心視域(マーク)と固視標Tの一致状態を視覚に認識できるようになる。なお、指標T2の白色と黒色とを交互に点滅(フリッカー刺激)させると、偏心視域と固視標との一致状態をより明確に示すことができる。また、患者の網膜に視標の点滅による刺激が与えられることで、網膜感度が向上することが期待される。以上のようなリハビリテーションが繰り返し行われることで、患者は偏心視域を用いた新しい見方を体得していく。
【0046】
なお、上記では指標T2にフリッカー刺激を用いる例を示した。これ以外にも、検者は指標T2として様々な静的指標(単純な形状の指標、点滅しない)、動的指標(例えばフリッカー刺激)を用いることができる。また指標T2の形状や面積、動的指標の場合の点滅周波数等を任意に決定できる。更に本実施形態のように視標呈示装置71にプロジェクターを用いる場合、複数色のレーザ光の出力が調節されることで、様々な形状、色、大きさの指標T2を任意に形成できる(例えば、水平方向に伸びる複数のバーが交互に点滅される形状の指標など)。このような様々な色、形状、大きさの各種条件を組み合わせて、刺激視標が形成できるため、患者の疾患などに応じてより効果的な刺激指標を選択できるようになる。
【0047】
例えば、カラー視標による視野検査を行った結果、網膜感度の優れている波長の色を用いて、
図9(a)に示されるフリッカー指標の色の組み合わせを異なるカラーに設定しても良い。これにより偏心視域がより好適に刺激されて眼の視機能が好適に向上することが期待される。また
図9(b)に示されるように、刺激視標の形状を同心円状にして、中心付近の円と外周付近の円のそれぞれで少なくとも2色が繰り返し点滅されるようにする。この時、中心付近の円の点滅周波数と外周付近の円の点滅周波数を変えて(中心付近の円の周波数を高くして)、中心付近の円によって網膜がより強く刺激されるようにしても良い。更に
図9(c)に示されるように、同心円状の視標を、様々な形状の視標の組み合わせで形成しても良い。ここでは同心円状の指標にチェッカーフラグ形状が組み込まれている例が示されている。このように複雑な形状の刺激指標が点滅されると、網膜の偏心視域により多くの刺激が与えられることが期待される。また幾何学形状の視標以外にも、患者の好みに応じて各種の視標を検者が予め用意しておき、メモリ83に記憶させておいても良い。
【0048】
なお検者によって検査視標を作成する場合には、モニタ8に検査視標の登録画面を表示させる(図示は省略する)。なお登録画面には視標の形状、色、点滅状態等を決定するための各種コマンドが用意されている。検者はコントロール部7aの操作によってモニタ8上に所期の形状の検査視標を描くと共に、色や点滅状態等の各種条件を関連付ける操作をする。以上のようにして検査視標の設定が完了したら、コントロール部7aからの入力信号によってメモリ83に新たに作成した検査視標を記憶させる。以上のようにすることで、患者の病状に応じたリハビリテーションがより効果的に行われるようになる。更には、リハビリテーションによって患者の網膜機能が回復傾向にある場合には、使用する指標の形状及び状態を変えて、患者の疾患の状態に応じた治療が行えるようになる。
【0049】
なお、以上の偏心視域を用いたリハビリテーションの各種情報(例えば、参照エリアSの情報(座標)、指標Aの相対座標など)は被検者のID情報に関連付けて全てメモリ83の環境設定ファイルに記憶される。これにより被検者が後日に再検査(フィードバック検査)を行うときに、環境設定ファイルの各種情報と被検者情報を共に呼び出すことで、前回と同じ条件でのリハビリテーションが繰り返し行えるようになる。これにより、前回のリハビリテーションからの変化を確認でき、必要に応じて同じ条件での治療を行えるようになる。又は再検査の結果に応じて新しいリハビリテーションでの治療が行えるようになる。
【0050】
なお、本発明は眼底撮影装置を用いてリハビリテーションを行う場合を例に挙げて示したが、これに限られるものではない。リハビリテーションの各種条件(患者の氏名、固視標の座標情報、固視標の座標位置に対するリハビリテーションの偏心視域TRLの範囲の座標、刺激視標T2の点滅パターン、視標T2の点滅周波数等の情報など)が記憶されたメモリ83の環境ファイルを、患者が自宅のパソコンPCにインストールすることで、病院に通院することなく、自宅で容易にリハビリテーションを定期的に行えるようにしても良い。ここで、患者が自宅でリハビリテーションを行う例を説明する。なお以下の説明では患者の自宅にパソコンやLAN等の通信環境が整えられていることを前提としている。
【0051】
従来、低視力者は物を良く見えるようにするため、眼鏡等のレンズを用いて対象物を拡大させたり、パソコンPCを使って対象物を拡大表示させたりしていた。又は、対象が文章などの場合には、音などの視機能以外の情報に変換して認識させる方法も知られている。しかしながら、これらは低視力の患者の視力(視機能)を向上させる機会を与えるものではなかった。一方、上述したような偏心視域を用いたリハビリテーション訓練によって、低視力者の患者に残された視機能を向上させることが期待されている。
【0052】
リハビリテーションが必要な低視力の患者の視機能(見え方)を向上させるためには、偏心視域TRLを用いた訓練が繰り返し行われることが求められる。しかし、低視力の患者が通院するためには第三者の介助が必要となり、通院は患者と第三者の両者にとって負担となる。一方、汎用のパソコンPCは世の中に広く普及されているため低視力者が自宅でリハビリテーションを行うための環境が整えられていると言える。
そこで、本発明は低視力者が自宅のパソコンPCを使ってリハビリテーションを実行できる専用のソフトウェア(プログラム)を提供する。これにより偏心視域TRLを用いた視機能訓練を自宅で簡単に行えるようになる。
【0053】
ソフトウェアSWは、患者のフィードバック検査(リハビリテーション)の条件が記憶されると共に眼底撮影装置1の本体に内蔵されるメモリ83に用意されている環境設定ファイルSWAと、眼底撮影装置1から転送された環境設定ファイルSWAの情報が記憶される外部記憶ファイルSWBを備える。なおソフトウェアSW,ファイルSWA及びファイルSWBの図示は省略する。
【0054】
環境設定ファイルSWAには、上述の患者の氏名、固視標の座標、固視標に対する偏心視域の座標、刺激視標の形状や点滅周波数など、眼底撮影装置で行われたリハビリテーションの各種条件が記憶される他、検者によって設定されたリハビリテーションの期間、リハビリテーションの各セクションを実施するインターバル、実施回数などの情報が記憶される。なおこれらの情報は、眼底撮影装置1の制御部80によって患者のリハビリテーションが行われる際に環境設定ファイルSWAに自動的に転送されるか、検者の手動による操作に基づき環境設定ファイルSWAに転送される。外部記憶ファイルSWBは、ウェブサイトからダウンロード可能又はインストール可能な周知のデバイスに記憶される。例えば、デバイスには、CD,DVD、Dongleなど汎用のコンピュータで実行可能なデバイスが用いられる。
【0055】
次にリハビリテーションプログラムを自宅で実行する手順を説明する。
図10に自宅でリハビリテーションプログラムの実行する際の手順のフローチャートを示す。
図11に患者の自宅パソコンPCのモニタMの表示例を示す。
【0056】
はじめに患者は病院(検者)へ通院し、眼底撮影装置1を用いたリハビリテーションを行い、偏心視域、刺激視標の座標などの各種条件が定められる。設定された各種条件は、制御部80によって環境設定ファイルSWAに記憶される。また、コントロール部7aの操作によって、制御部80は環境設定ファイルSWAの情報を外部記憶ファイルSWBが記憶された記憶媒体に転送して記憶させる(患者固有のリハビリテーションの条件:Eye Fitness Software)。
【0057】
ステップS201で、患者の所有する自宅のパソコンPCが起動された状態で、認証機能のある医院のウェブサイトからダウンロードがされるか、パソコンPCにCD、DVD等による記憶媒体が挿入されることにより、パソコンPCの制御部(図示を略す)によって外部記憶ファイルSWBがインストールされたことが検出されると、ステップS202で、制御部はモニタMの画面サイズの入力を促す画面を表示させる。これによりモニタM上の固視表と偏心視域との位置関係が正しく設定される。検者による入力手段(マウス又はキーボード等)の操作でモニタMのサイズの情報が入力されると、パソコンPCの制御部は外部記憶ファイルSWBに記憶されている環境設定ファイルSWAの読み込みを開始し、自宅でリハビリテーションを行うためのソフトウェア(Eye Fitness Software)の実行を開始する。
【0058】
ステップS203で、制御部はモニタMに,患者とモニタMとの距離を示すメッセージを表示させる。これにより患者はモニタMと自身との距離を調節する。なおメッセージは音声等のより低視力の患者に分かりやすい手段で伝えられても良い。次にステップS204で、制御部はパソコンPCのモニタMに固視標とフリッカー刺激視標を表示させる。この時、ステップS202で入力された画面サイズに応じて、固視表とフリッカー刺激視標の表示位置の座標が設定される。制御部は演算結果に基づきモニタMに固視表とフリッカー刺激視標を表示させる。また、モニタMの画面表示又は音声などで患者に治療時間が伝えられる。モニタMに表示されたフリッカー刺激視標は、予めソフトウェアSWに記憶されている周波数で点滅される。患者によって固視表が固視された状態で、フリッカー刺激視標の点滅による刺激が網膜上の予め定められた偏心視域の位置に与えられるようになる。なおここではパソコンPCに固視標と刺激視標の両方が表示されるとしたが、固視標を呈示せずに、患者にモニタMの中央部を固視するように促す音声等を出力して、刺激視標のみを呈示しても良い。
【0059】
ステップS205で、制御部によって予め設定されている患者の治療時間が経過したかが判断される。治療の完了が判断されると、制御部は患者に治療時間が完了したことをモニタMの表示又は音声で伝え、患者の治療の実施状況を、外部記憶ファイルSWBに保存された環境設定ファイルSWAに記憶させる。一方、予め設定された治療時間が経過していないと判断されると、ステップS204に戻りフリッカー刺激による網膜刺激が継続して行なわれる。
【0060】
以上のように検者によって設定された一連のリハビリテーションが完了したら、患者は再び病院(検者)に通院する。なお自宅で行うリハビリテーションプログラムは、例えば週に1回10分間程度の治療を3ヶ月以上繰返すように設定される。
一方、ステップS204で外部記憶ファイルSWBに記憶された情報は、(認証機能のある)ウェブサイトのネットワークや、CD,DVDなどの周知の記憶媒体を介して、再び眼底撮影装置1本体又は検者のパソコンに入力される。これにより、眼底撮影装置1又は術者のパソコンの制御部によって、外部記憶ファイルSWBに記憶された患者のリハビリテーションの実施状況が読み込まれ、モニタ8等にその実施状況が表示されるようになる。これにより、検者は患者が一連のリハビリテーションの訓練を計画に基づき実施したかを容易に確認できるようになる。
【0061】
そして、検者は病院にて再び眼底撮影装置1や他の装置を用いた患者の視機能検査を行う。なお視機能検査としては上記の視野検査による網膜感度測定の他、固視の安定度、文字等の読解速度などが行われても良い。そして検者は患者の自宅でのリハビリテーション結果を評価すると共に、評価結果に基づきリハビリテーションプログラムの内容などを更新する。この時、患者の網膜視機能向上の度合いに応じて刺激視標の形状、大きさ、色などが検者によって任意に変更される。これにより、患者の見え方の状態に応じて、自宅での治療(リハビリテーション)がより好適に行われるようになる。
【0062】
なお、加齢に伴う網膜色素変成(症)や、黄斑変成症などを含む網膜の病気による視機能の低下が発生する際に、網膜の暗順応に寄与する桿体視細胞(以下、視細胞と記す)の方が、網膜の明順応に寄与する錐体よりもその感度が急激に低下することが研究により明らかになってきている。そこで、本発明に係る実施形態では、上述の眼底撮影装置(眼底撮影装置)を用いて、患者の暗順応の検査が行えるようにして、網膜機能の低下を早期に発見出来るようにする。これにより、上述したようなリハビリテーションが網膜機能低下の初期状態から開始されるようになり、患者の網膜機能の低下を好適に抑制できることが期待される。
【0063】
ここで第2実施形態の眼底撮影装置(眼底撮影装置)について説明する。
図12に第2実施形態の眼底撮影装置の光学系及び制御系の説明図を示す。なお以下の説明において、上述の眼底撮影装置1と同じ構成には同じ図番号を付し、ここでの詳細な説明は省略する。
本実施形態では、視標呈示装置71(スクリーン72)とレンズ73との間に、ディスプレイの輝度を減光させるための減光フィルター91と、視標呈示装置71から出力される視標の光束を所定の波長に制限するためのショートパスフィルター92とを挿脱可能に設ける。減光フィルター91によって視標呈示装置71からの光束が減衰されて、視野検査時の背景輝度が黒色にセットされる。一方、ショートパスフィルター92には500nmを含むものが使用され、減光フィルター91とシートパスフィルター92を通過した光束の青色成分が制限される。
【0064】
各フィルター91、92はそれぞれレバー(図示を省略する)に取り付けられており、装置本体1の視標呈示装置71の取り付け位置付近にレバーを挿脱させるための開口(図示を略す)が設けられている。このようにすると検者は装置本体の外観カバーを開く事無く、本体に設けられた開口を介して各フィルター91、92を光軸L2上に挿脱させることができるようになる。なお各フィルター91、92の挿脱を検知するセンサーを装置本体1に設けても良い。また各フィルター91,92に駆動機構を接続して自動的に光軸L2上に挿脱されるようにしても良い。
【0065】
以上のような構成により、光軸L2に各フィルター91,92が挿入されると、視標呈示装置71からの光束が所定の波長帯域に制限されて暗順応の視野検査が行われるようになる。一方、光軸L2から各フィルター91、92が取外されると明順応での視野検査が行われるようになる。このように1台の装置で複数種類の視野検査が行えることで、検者は患者の網膜の視機能状態を様々な観点から評価できるようになる。
【0066】
以上のような構成を備える眼底撮影装置を用いて、眼の暗順応による視野検査を行う例を説明する。先ず検者は、患者眼にトロピカミド等の点眼剤を点眼して開眼させた状態で、被検者を暗室などの外乱光の少ない部屋に移動させ、暗室で十分に暗順応させる(例えば、30分間暗順応させる)。一方検者は、各フィルター91、92を装置本体1の開口から差しこみ光軸L2上に配置させる。制御部80は各フィルター91,92の取り付けを検知すると、自動的に暗視野測定の刺激条件に切り換える。なお、暗順応での視野検査機能を備える眼底撮影装置の装置本体1の外観はできるだけ黒色に近い色であることが好ましい。
【0067】
測定準備が完了したら、装置本体1に被検者を位置させて、上述の明視野による視野検査の場合と同様に、患者眼と撮影部3との位置合わせが行われる。この時、上述と同様な制御によって眼と撮影部3とのトラッキングが行われ、眼の視線移動又は回旋による固視ずれの影響が抑制されて、眼底の所期の位置に正しく検査視標が投影されるようになる。
そして、上記と同様の手順で網膜に対して検査視標が切り換え呈示されて、被検者の応答に基づく視野感度マップが作成される。
【0068】
このように暗順応での視野検査が行われると網膜疾患の初期段階を早期に発見できるようになることが期待される。そして被検者の網膜機能の疾患が進行して視機能が失われる前に、上記のようなリハビリテーションが早期に開始されることで、網膜機能の回復及び疾患の進行の抑制を図ることができるようになる。
【0069】
また、1台で明順応と暗順応の両方の視野検査が行えるようになることで、検者は術者の疾患の状態に応じた使い分けを行うことができるようになる。これにより検者は複数の装置を所有せずに患者眼の診断を効率よく行えるようになる。
【0070】
更に、上記のような各種視野検査等を行う際に患者の視覚誘発電位(Visual Evoked Potential)の測定が行われると良い。視覚誘発電位とは患者眼に視覚刺激を与えた時に大脳皮質視覚野に生じる電位である。各種視野検査と視野誘発電位の両方の測定をすることで、患者の病状等を総合的に判断できるようになる他、反応が好適に得られるリハビリテーション条件設定などにも役立てられることが期待される。