特許第6098112号(P6098112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6098112
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】エピスルフィド系樹脂硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20170313BHJP
   C08G 75/08 20060101ALI20170313BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   C08J5/00CEZ
   C08G75/08
   G02B1/04
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-236323(P2012-236323)
(22)【出願日】2012年10月26日
(65)【公開番号】特開2014-84440(P2014-84440A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月1日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】並木 康佑
(72)【発明者】
【氏名】輿石 英二
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 仁
【審査官】 中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−220444(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/001341(WO,A1)
【文献】 特開2005−008710(JP,A)
【文献】 特開2002−178343(JP,A)
【文献】 実開昭52−144260(JP,U)
【文献】 特開2007−051301(JP,A)
【文献】 特開昭57−028117(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0238660(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00
C08G 75/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)化合物、下記(b)化合物および重合触媒を混合して樹脂用組成物を得る工程と、
樹脂用組成物を厚さ30mm以上の樹脂硬化物を形成する鋳型に注入する工程と、
10〜95℃の水浴または水シャワーの中で樹脂用組成物を重合させる重合工程と
を順次有するエピスルフィド系樹脂硬化物の製造方法。
(a)下記(1)式で表される分子内に2個のエピスルフィド基を有する化合物
【化1】
(b)チオール基を1分子中に1個以上有する化合物
【請求項2】
前記樹脂用組成物中の化合物(a)がビス(β−エピチオプロピル)スルフィドまたはビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィドである、請求項1に記載のエピスルフィド系樹脂硬化物の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂用組成物中の化合物(a)の割合が25質量%以上、化合物(b)の割合が0.5質量%以上であり、(a)化合物と(b)化合物の合計割合が50質量%以上である請求項1または2に記載のエピスルフィド系樹脂硬化物の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂用組成物中の重合触媒が、アミン類、ホスフィン類、第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩類からなる群より選択される1種以上であり、重合触媒の添加量が(a)および(b)化合物の合計100質量%に対して0.001から5質量%である請求項1から3のいずれかに記載のエピスルフィド系樹脂硬化物の製造方法。
【請求項5】
鋳型の一部に外部との圧力を均圧にするための開口部を設ける、または、圧力調整用の気体を満たした形状変形可能な容器またはボンベを鋳型に装着することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のエピスルフィド系樹脂硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピスルフィド系樹脂硬化物の製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
プラスチック材料は軽量かつ靭性に富み、また染色が容易であることから、各種光学材料、特に眼鏡レンズに近年多用されている。光学材料に要求される性能は、低比重、高透明性および低黄色度、光学性能として高屈折率と高アッベ数であり、高耐熱性、高強度などである。高屈折率は光学材料の小型化を可能とし、高アッベ数は光学材料の色収差を低減する。高強度は二次加工を容易にするとともに、安全性等の観点からも重要である。光学性能の高屈折率および高アッベ数、高耐熱性を同時に実現する手法として、エピスルフィド化合物の使用があげられるが、該化合物からなる樹脂用組成物はエピスルフィド基の開環重合発熱量が極めて大きく、例えばレンズ形状の光学材料でレンズが厚い場合では重合時の発熱による対流痕によって脈理が生じ易く、脈理を光学材料として使用可能な水準まで低減することが困難であった。また、重合する鋳型が直方体形状などの場合、最も短い辺の長さが約2センチメートルを超える場合、熱風炉での重合では重合発熱が除熱しきれず組成物温度が急上昇し、得られる光学材料が黄変したり、場合によっては急速重合に至って組成物の分解反応が起こることがあった。(特許文献1〜3参照) 。
凸レンズなどの厚いレンズ、切削加工に供する光学材料用の樹脂塊など、大きなサイズの光学材料の有用性は大きく、高屈折率なエピスルフィド系樹脂によるその製造方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−298287号公報
【特許文献2】特開2001−220444号公報
【特許文献3】国際公開第2012/66744号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、分子内に2個のエピスルフィド基を有する化合物、チオール基を1分子中に1個以上有する化合物および重合触媒を含む樹脂用組成物を重合硬化させてエピスルフィド系樹脂からなる光学材料を得るに際し、凸レンズなどの厚いレンズ、切削加工に供する光学材料用の樹脂塊などの大きなサイズの光学材料を好適に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、分子内に2個のエピスルフィド基を有する化合物、チオール基を1分子中に1個以上有する化合物および重合触媒を混合して樹脂用組成物を得る工程と、樹脂用組成物を鋳型に注入する工程と、10〜95℃の水浴または水シャワーの中で樹脂用組成物を重合させる重合工程を順次有する製造方法により、エピスルフィド系樹脂硬化物を黄変、急速重合させることなく製造できることを見出し、解決に至った。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、凸レンズなどの厚いレンズ、切削加工に供する光学材料用の樹脂塊など、大きなサイズの高屈折率なエピスルフィド系樹脂硬化物を製造することができる。具体的には、1cm、2cmあるいは3cm以上の厚いレンズを製造することができる。また、短辺の長さが1cm、2cmあるいは5cm以上の厚い樹脂塊を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
すなわち、本発明は、以下のようである。
下記(a)化合物、下記(b)化合物および重合触媒を混合して樹脂用組成物を得る工程と、樹脂用組成物を鋳型に注入する工程と、10〜95℃の水浴または水シャワーの中で樹脂用組成物を重合させる重合工程とを順次有するエピスルフィド系樹脂硬化物の製造方法。
(a)下記(1)式で表される分子内に2個のエピスルフィド基を有する化合物
【化1】

(1)
(mは0〜4の整数、nは0〜2の整数)

(b)チオール基を1分子中に1個以上有する化合物
【0008】
本発明の(a)化合物である上記(1)式で表される分子内に2個のエピスルフィド基を有する化合物は、具体的にはビス(β−エピチオプロピル)スルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド、ビス(β−エピチオプロピル)トリスルフィド、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、およびビス(β−エピチオプロピルチオエチル)スルフィドからなる群から選択される1種以上のエピスルフィド化合物などが挙げられる。
【0009】
中でも好ましい具体例は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド(式(3))および/またはビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド(式(4))であり、最も好ましい具体例は、ビス(β−エピチオプロピル)スルフィドである。
【化2】
ビス(β−エピチオプロピル)スルフィド
【0010】
【化3】
ビス(β−エピチオプロピル)ジスルフィド
【0011】
本発明で使用する(b)化合物は、チオール基を1 分子中に1 個以上有する化合物をすべて包括するが、その具体例としては、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、n−プロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、アリルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−デシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−オクタデシルメルカプタン、シクロヘキシルメルカプタン、i−プロピルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、t−ノニルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、フェニルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、3−メチルフェニルメルカプタン、4−メチルフェニルメルカプタン、4−クロロベンジルメルカプタン、4−ビニルベンジルメルカプタン、3−ビニルベンジルメルカプタン、メチルメルカプトプロピオネート、2−メルカプトエタノール、3−メルカプト−1,2−プロパンジオール、2−メルカプト−1,3−プロパンジオール、メルカプト酢酸、メルカプトグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、メタンジチオール、1,2−ジメルカプトエタン、1,2−ジメルカプトプロパン、1,3−ジメルカプトプロパン、2,2−ジメルカプトプロパン、1,4−ジメルカプトブタン、1,6−ジメルカプトヘキサン、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、1,2−ビス(2−メルカプトエチルオキシ)エタン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)エタン、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、1,3−ジメルカプト−2−プロパノール、1,2,3−トリメルカプトプロパン、2−メルカプトメチル−1,3−ジメルカプトプロパン、2−メルカプトメチル−1,4−ジメルカプトブタン、2−(2−メルカプトエチルチオ)−1,3−ジメルカプトプロパン、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、2,4−ジメルカプトメチル−1,5−ジメルカプト−3−チアペンタン、4,8−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、4,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、5,7−ジメルカプトメチル−1,11−ジメルカプト−3,6,9−トリチアウンデカン、1,1,1−トリス(メルカプトメチル)プロパン、テトラキス(メルカプトメチル)メタン、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジエチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,4−ブタンジオールビス(2−メルカプトアセテート)、1,4−ブタンジオールビス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、1,2−ジメルカプトシクロヘキサン、1,3−ジメルカプトシクロヘキサン、1,4−ジメルカプトシクロヘキサン、1,3−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(2−メルカプトエチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(2−メルカプトエチルチオメチル)−1,4−ジチアン、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1−チアン、2,5−ビス(2−メルカプトエチル)−1−チアン、2,5−ビス(メルカプトメチル)チオフェン、1,2−エピチオメルカプトエタン、1,2−エピチオ−1,2−ジメルカプトエタン、1,2−エピチオ−1,2,3,4−テトラメルカプトエタン、1,2−エピチオ−3−メルカプトプロパン、1,2−エピチオ−3,3−ジメルカプトプロパン、1,2−エピチオ−3,3,3−トリメルカプトプロパン、2,3−エピチオ−1,4−ジメルカプトブタン、2,3−エピチオ−1,1,4,4−テトラメルカプトブタン、1,2−エピチオ−5−メルカプト−4−チアペンタン、1,2−エピチオ−5,5−ジメルカプト−4−チアペンタン、1,2−エピチオ−5,5,5−トリメルカプト−4−チアペンタン、1,2:6,7−ジエピチオ−1,7−ジメルカプト−5−チアヘプタン、1,2:6,7−ジエピチオ−3,5−ジメルカプト−5−チアヘプタン等の脂肪族メルカプタン類、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,3−ジメルカプトベンゼン、1,4−ジメルカプトベンゼン、o−キシリレンジチオール、m−キシリレンジチオール、p−キシリレンジチオール、2,2’−ジメルカプトビフェニル、4、4’−ジメルカプトビフェニル、ビス(4−メルカプトフェニル)メタン、2,2−ビス(4−メルカプトフェニル)プロパン、ビス(4−メルカプトフェニル)エーテル、ビス(4−メルカプトフェニル)スルフィド、ビス(4−メルカプトフェニル)スルホン、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−メルカプトメチルフェニル)プロパン、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)エーテル、ビス(4−メルカプトメチルフェニル)スルフィド、4−ヒドロキシチオフェノール、メルカプト安息香酸等の芳香族環状メルカプタン類があげられる。さらに、これらチオール化合物の2量体〜20量体といったスルフィドオリゴマーやジスルフィドオリゴマーなどのチオール類をあげることができる。
【0012】
本発明の対象となる(b)化合物に関してはこれらに限定されるわけではなく、また、これらは単独でも、2種類以上を混合して使用してもかまわない。この中でも、好ましくは、メルカプト基を1分子あたり2個以上有する化合物である。さらに好ましくは、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5一ビス(メルカプトメチル)一1,4一ジチアン、m−キシリレンジチオール、4−メルカプトメチル−1,8−ジメルカプト−3,6−ジチアオクタン、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)である。
【0013】
本発明の樹脂組成物における(a)化合物の割合は通常25質量%以上であり、好ましくは30質量%以上、より好ましくは32.5質量%以上である。また、本発明の樹脂組成物における(b)化合物の割合は通常0.5質量%以上であり、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上である。さらに本発明の樹脂組成物における(a)化合物と(b)化合物の合計割合は通常50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上である。
本発明の樹脂組成物における、(a)化合物と(b)化合物との割合は、各化合物の種類によって得られる光学材料の光学特性、強度、耐熱性など各種物性等により一概には決められないが、通常は(a)化合物50〜99重量部に対して(b)化合物50〜1重量部、好ましくは(a)化合物60〜98重量部に対して(b)化合物40〜2重量部、さらに好ましくは(a)化合物65〜95重量部に対して(b)化合物35〜5重量部である。(a)化合物が50重量部を下回ると耐熱性が低下する場合があり、99重量部を上回ると光学材料の耐光性が著しく低下する場合がある。
【0014】
さらに、(a)化合物のエピスルフィド基と(b)化合物のSH基の割合に関して、好ましくはSH基/エピスルフィド基=0.01〜0.5であり、より好ましくはSH基/エピスルフィド基=0.01〜0.3であり、さらに好ましくはSH基/エピスルフィド基=0.01〜0.2である。同割合が0.01を下回ると硬化物の黄色度、耐光性が悪化する場合があり、0.5を上回ると耐熱性が低下する場合がある。
【0015】
本発明における(a)及び(b)化合物の重合硬化のために、添加する重合触媒としては、重合硬化を発現するものであれば、特に限定されるものではないが、アミン類、ホスフィン類、第4級アンモニウム塩類、第4級ホスホニウム塩類などを挙げることができる。
【0016】
重合触媒は、単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。好ましい具体例は、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、トリエチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、1−n−ドデシルピリジニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド、テトラフェニルホスホニウムブロマイド等の第4級ホスホニウム塩が挙げられる。これらの中で、さらに好ましい具体例は、トリエチルベンジルアンモニウムクロライドおよび/またはテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイドである。
【0017】
重合触媒の添加量は、(a)及び(b)化合物の合計100重量部に対して、0.001〜5重量部であり、好ましくは0.002〜5重量部であり、より好ましくは0.005〜3重量部である。
【0018】
本発明の(a)及び(b)化合物と重合触媒からなる樹脂用組成物には、重合硬化する際に、ポットライフの延長や重合発熱の分散化などを目的として、必要に応じて重合調節剤を添加することができる。重合調節剤はケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンのハロゲン化物である。好ましくはケイ素、ゲルマニウム、スズ、アンチモンの塩化物であり、さらに好ましくはアルキル基を有するゲルマニウム、スズ、アンチモンの塩化物である。最も好ましいものの具体例はジブチルスズジクロライド、ブチルスズトリクロライド、ジオクチルスズジクロライド、オクチルスズトリクロライド、ジブチルジクロロゲルマニウム、ブチルトリクロロゲルマニウム、ジフェニルジクロロゲルマニウム、フェニルトリクロロゲルマニウム、トリフェニルアンチモンジクロライドである。これら重合調節剤は、単独でも2種類以上を混合して使用してもかまわない。
【0019】
重合調節剤の添加量は、(a)及び(b)化合物の合計100重量部に対して、0.001〜5重量部であり、好ましくは0.002〜5重量部であり、より好ましくは0.005〜3重量部である。
【0020】
本発明の(a)及び(b)化合物と重合触媒からなる樹脂用組成物において、任意成分として、公知の酸化防止剤、ブルーイング剤、紫外線吸収剤、消臭剤等の各種添加剤や(a)及び(b)化合物以外の(a)及び/または(b)化合物と反応可能な化合物を必要に応じて加え、得られる材料の実用性をより向上せしめることはもちろん可能である。また、本発明の光学材料が重合中に型から剥がれやすい場合には公知の外部および/または内部密着性改善剤を、または型から剥がれにくい場合には公知の外部および/または内部離型性改善剤を、重合硬化に用いるガラスもしくは金属製の型に塗布するか、光学材料用組成物に添加して、得られる光学材料と型の密着性または離型性を向上せしめることも有効である。
【0021】
本発明の樹脂用組成物を重合硬化する際に注入する鋳型の材質は、形状をある程度保持できれば良く、金属、ガラス、樹脂、紙などが挙げられ、これら2つ以上の材質の型を組み合わせて鋳型にすることも出来る。
【0022】
本発明のエピスルフィド系樹脂硬化物の製造方法を具体的に以下に述べる。
(a)および(b)化合物と重合触媒を混合して樹脂用組成物を得る工程は、少なくとも(a)および(b)化合物と重合触媒、必要に応じて重合調節剤、前記任意成分を通常は0℃〜45℃で、好ましくは5℃〜40℃、より好ましくは10℃〜40℃で撹拌混合することにより、少なくとも(a)および(b)化合物と重合触媒を含む樹脂組成物を得る工程である。この際、全ての成分を同一容器内で同時に撹拌下に混合しても、段階的に添加混合しても、数成分を別々に混合後さらに同一容器内で再混合しても良い。混合は窒素、酸素、水素、硫化水素などの気体の存在下、常圧または加減圧による密閉下または減圧下等の任意の雰囲気下で行ってもよいが、減圧下での混合脱気を実施すると、重合硬化により得られる光学材料の透明性が向上するため好ましい。
樹脂用組成物を鋳型に注入する工程は、前記工程で得られた樹脂用組成物を鋳型に注入するが、樹脂用組成物に気泡を巻き込まない方法であれば特に限定されない。さらに、鋳型への注入前の各工程および/または注入時に樹脂用組成物をフィルターで不純物等をろ過し精製することは本発明の光学材料の品質をさらに高める上から好ましい。ここで用いるフィルターの孔径は0.05〜10μmであり、一般的には0.1〜5.0μmのものが使用され、フィルターの材質としては、PTFEやPETやPPなどが好適に使用される。ろ過を行わなかったり、孔径が10μmを超えるフィルターでろ過を行った場合は、光学材料に異物が混入したり、透明性が低下したりするため、通常光学材料として使用に耐えなくなる。鋳型への注入後、必要があれば減圧下脱泡あるいは遠心脱泡を行うことができる。
樹脂用組成物を重合させる重合工程は、10〜95℃の水浴または水シャワーの中で樹脂用組成物を重合させる。使用温度領域で液体状態であれば、水の代わりに他の液状物質を用いてもかまわない。水浴の温度が10℃より低いと重合速度が著しく遅くなる場合がある。一方、水浴の温度が95℃より高いと水浴の温度管理が困難であり、さらに重合発熱が除熱しきれず組成物温度が急上昇し、得られる光学材料が黄変したり、場合によっては急速重合に至って組成物の分解反応が起こることがある。
【0023】
重合工程において、樹脂用組成物の重合収縮による鋳型内体積の減少により鋳型の転写性が悪化することがあるため、鋳型内が密閉系にならないように開放系にすることが好ましく、鋳型の一部に外部との圧力を均圧にするための開口部を設けたり、圧力調整用の気体を満たした形状変形可能な容器またはボンベなどを鋳型に装着することが好ましい。形状変形可能な容器としては、ゴム風船、ポリエチレンフィルム製袋、ポリビニールフルオライド(沸化ビニール)フィルム製袋、PETフィルム製袋などの樹脂フィルム製袋があげられる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
実施例1
(a)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド225g、(b)化合物としてビス(2−メルカプトエチル)スルフィド25g、重合触媒としてテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド0.25gを20℃で混合撹拌して均一液とした。ついでこれを0.5μmのPTFEフィルターで濾過し、83mmφの平板レンズ用ガラスモールド2枚と30mm厚の樹脂製ガスケットからなる鋳型に注入し、水浴中で20℃から72時間かけて80℃に昇温し重合硬化させ、硬化物を製造した。得られた硬化物は無色透明であり、脈理も見られなかった。
【0026】
実施例2
30mm厚の樹脂製ガスケットを用いるかわりに83mmφの平板レンズ用ガラスモールド2枚を粘着テープを用いてモールド間を10mm厚に組んだ鋳型を使用する以外は実施例1と同様の方法で重合硬化を行い、硬化物を製造した。得られた硬化物は無色透明であり、脈理も見られなかった。
【0027】
比較例1
水浴を用いるかわりに熱風炉を使用する以外は実施例1と同様の方法で重合硬化を試みた。樹脂用組成物は急速重合により赤変し、正常な硬化物は得られなかった
【0028】
比較例2
水浴を用いるかわりに熱風炉を使用する以外は実施例2と同様の方法で重合硬化を行い、硬化物を製造した。得られた硬化物は無色透明であったが、脈理が多く見られた。
【0029】
実施例3
(a)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド225g、(b)化合物としてビス(2−メルカプトエチル)スルフィド25g、重合触媒としてテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド0.25gを20℃で混合撹拌して均一液とした。ついでこれを0.5μmのPTFEフィルターで濾過し、内径5cm、高さ10cmのポリプロピレン製容器に注入し、ポリプロピレン製スクリューキャップで密栓した。水浴中で20℃から72時間かけて80℃に昇温し重合硬化させ、硬化物を製造した。得られた硬化物は無色透明であり、脈理も見られなかった。硬化物はポリプロピレン製容器からわずかなハガレが見られた。
【0030】
実施例4
ポリプロピレン製容器の上部にφ1mmの穴を空け、容器内部の空隙部分と外部の圧力を均圧に保った以外は実施例3と同様の方法で重合硬化を行い、硬化物を製造した。得られた硬化物は無色透明であり、脈理も見られずさらに、ポリプロピレン製容器形状の転写性に優れていた。
【0031】
比較例3
水浴を用いるかわりに熱風炉を使用する以外は実施例2と同様の方法で重合硬化を試みた。樹脂用組成物は急速重合により赤変し、正常な硬化物は得られなかった
【0032】
実施例5
(a)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド225g、(b)化合物としてビス(2−メルカプトエチル)スルフィド25g、重合触媒としてテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド0.25g重合調整剤としてジ−n−ブチルスズジクロライド0.1gを20℃で混合撹拌して均一液とした。ついでこれを0.5μmのPTFEフィルターで濾過し、内径5cm、高さ10cmのポリプロピレン製容器に注入し、ポリプロピレン製スクリューキャップで密栓した。水浴中で40℃から72時間かけて80℃に昇温し重合硬化させ、硬化物を製造した。得られた硬化物は無色透明であり、脈理も見られなかった。硬化物はポリプロピレン製容器からわずかなハガレが見られた。
【0033】
比較例4
水浴を用いるかわりに熱風炉を使用する以外は実施例5と同様の方法で重合硬化を試みた。樹脂用組成物は急速重合により赤変し、正常な硬化物は得られなかった。
【0034】
実施例6
(a)化合物としてビス(β−エピチオプロピル)スルフィド225g、(b)化合物としてm−キシリレンジチオール25g、重合触媒としてテトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド0.25gを20℃で混合撹拌して均一液とした。ついでこれを0.5μmのPTFEフィルターで濾過し、内径5cm、高さ10cmのポリプロピレン製容器に注入し、ポリプロピレン製スクリューキャップで密栓した。恒温循環装置を用い、樹脂用組成物の入った容器に連続的に水シャワーをかけ流しながら、恒温循環装置の制御水温を20℃から72時間かけて80℃に昇温し、硬化物を製造した。得られた硬化物は無色透明であり、脈理も見られなかった。硬化物はポリプロピレン製容器からわずかなハガレが見られた。