特許第6098168号(P6098168)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIの特許一覧

特許6098168鋳型及びその製造方法並びに鋳造品の鋳造方法
<>
  • 特許6098168-鋳型及びその製造方法並びに鋳造品の鋳造方法 図000002
  • 特許6098168-鋳型及びその製造方法並びに鋳造品の鋳造方法 図000003
  • 特許6098168-鋳型及びその製造方法並びに鋳造品の鋳造方法 図000004
  • 特許6098168-鋳型及びその製造方法並びに鋳造品の鋳造方法 図000005
  • 特許6098168-鋳型及びその製造方法並びに鋳造品の鋳造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6098168
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】鋳型及びその製造方法並びに鋳造品の鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/04 20060101AFI20170313BHJP
   B22C 7/02 20060101ALI20170313BHJP
   B22D 27/04 20060101ALI20170313BHJP
   B22C 3/00 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
   B22C9/04 D
   B22C7/02 103
   B22D27/04 C
   B22C3/00 D
   B22C3/00 G
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-1607(P2013-1607)
(22)【出願日】2013年1月9日
(65)【公開番号】特開2014-133240(P2014-133240A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年11月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 茂征
(72)【発明者】
【氏名】筑後 一義
【審査官】 川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−318020(JP,A)
【文献】 特開2002−285267(JP,A)
【文献】 特開2007−069246(JP,A)
【文献】 特開平05−115496(JP,A)
【文献】 特表2009−538990(JP,A)
【文献】 特開2004−050198(JP,A)
【文献】 特開平06−292940(JP,A)
【文献】 特開平03−155431(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0068647(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 3/00, 7/02
B22D 27/04
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンアルミナイド合金またはチタン合金を精密鋳造するための鋳型であって、
チタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯が注入されるキャビティを有する鋳型本体を備え、
前記鋳型本体は、前記キャビティ側に設けられ、耐火材と、結晶粒を微細化させるための酸化チタンとを含む結晶粒微細化層を有し
前記酸化チタンは、粒径が10μm以下であり、平均粒径が0.2μm以上5.0μm以下であることを特徴とする鋳型。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳型であって、
前記結晶粒微細化層の耐火材は、酸化セリウム、酸化イットリウムまたは酸化ジルコニウムであることを特徴とする鋳型。
【請求項3】
チタンアルミナイド合金またはチタン合金を精密鋳造するための鋳型の製造方法であって、
チタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯が注入されるキャビティを有する鋳型本体を形成するためのロウ型を成形するロウ型成形工程と、
前記ロウ型のロウ型面に、耐火材粒子と、結晶粒を微細化させるための酸化チタン粒子とを含む骨材と、バインダとを混合した結晶粒微細化スラリをコーティングして、結晶粒微細化スラリ層を形成すると共に、前記結晶粒微細化スラリ層に、耐火材粒子とバインダとを混合した耐火材スラリをコーティングして耐火材スラリ層を形成するスラリ層形成工程と、
前記結晶粒微細化スラリ層と前記耐火材スラリ層とが形成されたロウ型を加熱して脱ロウし、鋳型成形体を形成する脱ロウ工程と、
前記鋳型成形体を焼成する焼成工程と、
を備え
前記骨材における酸化チタン粒子は、粒径が10μm以下であり、平均粒径が0.2μm以上5.0μm以下であることを特徴とする鋳型の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の鋳型の製造方法であって、
前記骨材における酸化チタン粒子の含有率は、3質量%以上10質量%以下であることを特徴とする鋳型の製造方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の鋳型の製造方法であって、
前記結晶粒微細化スラリにおける骨材の耐火材粒子は、酸化セリウム、酸化イットリウムまたは酸化ジルコニウムであることを特徴とする鋳型の製造方法。
【請求項6】
請求項3からのいずれか1つに記載の鋳型の製造方法であって、
前記バインダは、シリカゾルまたはフェノール樹脂であることを特徴とする鋳型の製造方法。
【請求項7】
チタンアルミナイド合金またはチタン合金からなる鋳造品の鋳造方法であって、
チタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯が注入されるキャビティを有する鋳型本体を備え、前記鋳型本体が、前記キャビティ側に設けられ、耐火材と、結晶粒を微細化させるための酸化チタンとを含む結晶粒微細化層を有している鋳型の前記キャビティに前記溶湯を注入し、前記キャビティに注入された前記溶湯を冷却することにより凝固させて精密鋳造され
前記酸化チタンは、粒径が10μm以下であり、平均粒径が0.2μm以上5.0μm以下であることを特徴とする鋳造品の鋳造方法
【請求項8】
請求項に記載の鋳造品の鋳造方法であって、
鋳型温度が1100℃から1300℃のときに、前記鋳造品の表面の結晶粒径が60μmから100μmであることを特徴とする鋳造品の鋳造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型及びその製造方法並びに鋳造品に係り、特に、チタンアルミナイド合金またはチタン合金を精密鋳造するための鋳型及びその製造方法並びに鋳造品に関する。
【背景技術】
【0002】
チタンとアルミニウムとの金属間化合物であるチタンアルミナイド合金(TiAl合金)や、チタン合金は、耐食性や高温域での比強度等に優れていることから、ジェットエンジンのタービン部品等への適用が行われている。特許文献1には、ジェットエンジンのタービンブレード等に適用されるチタンアルミニウム合金の鋳造方法及び鋳型が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5823243号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、チタンアルミナイド合金またはチタン合金を精密鋳造する場合には、チタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯の湯廻り不良等を防止するために、鋳込み温度や鋳型温度をより高温にすることが行われている。このように鋳込み温度や鋳型温度を高温にすると、鋳造品の表面側の結晶粒が粗大化して、表面シュリンケージ(巣等)が発生しやすくなる。そして、鋳造品の表面側の結晶粒粗大化にともなう表面シュリンケージは、鋳造品の機械的特性を劣化させる可能性がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、チタンアルミナイド合金またはチタン合金で精密鋳造された鋳造品の表面側における結晶粒の粗大化を抑えることが可能な鋳型及びその製造方法並びに鋳造品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る鋳型は、チタンアルミナイド合金またはチタン合金を精密鋳造するための鋳型であって、チタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯が注入されるキャビティを有する鋳型本体を備え、前記鋳型本体は、前記キャビティ側に設けられ、耐火材と、結晶粒を微細化させるための酸化チタンとを含む結晶粒微細化層を有していることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る鋳型において、前記結晶粒微細化層の耐火材は、酸化セリウム、酸化イットリウムまたは酸化ジルコニウムであることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る鋳型の製造方法は、チタンアルミナイド合金またはチタン合金を精密鋳造するための鋳型の製造方法であって、チタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯が注入されるキャビティを有する鋳型本体を形成するためのロウ型を成形するロウ型成形工程と、前記ロウ型のロウ型面に、耐火材粒子と、結晶粒を微細化させるための酸化チタン粒子とを含む骨材と、バインダとを混合した結晶粒微細化スラリをコーティングして、結晶粒微細化スラリ層を形成すると共に、前記結晶粒微細化スラリ層に、耐火材粒子とバインダとを混合した耐火材スラリをコーティングして耐火材スラリ層を形成するスラリ層形成工程と、前記結晶粒微細化スラリ層と前記耐火材スラリ層とが形成されたロウ型を加熱して脱ロウし、鋳型成形体を形成する脱ロウ工程と、前記鋳型成形体を焼成する焼成工程と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る鋳型の製造方法において、前記骨材における酸化チタン粒子の含有率は、3質量%以上10質量%以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明に係る鋳型の製造方法において、前記骨材における酸化チタン粒子は、粒径が10μm以下であり、平均粒径が0.2μm以上5.0μm以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る鋳型の製造方法において、前記結晶粒微細化スラリにおける骨材の耐火材粒子は、酸化セリウム、酸化イットリウムまたは酸化ジルコニウムであることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る鋳型の製造方法において、前記バインダは、シリカゾルまたはフェノール樹脂であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る鋳造品は、チタンアルミナイド合金またはチタン合金からなる鋳造品であって、チタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯が注入されるキャビティを有する鋳型本体を備え、前記鋳型本体が、前記キャビティ側に設けられ、耐火材と、結晶粒を微細化させるための酸化チタンとを含む結晶粒微細化層を有している鋳型の前記キャビティに前記溶湯を注入し、前記キャビティに注入された前記溶湯を冷却することにより凝固させて精密鋳造されることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る鋳造品において、鋳型温度が1100℃から1300℃のときに、前記鋳造品の表面側の結晶粒径が60μmから100μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記構成によれば、鋳型本体は、キャビティ側に、結晶粒を微細化させるための酸化チタンを含む結晶粒微細化層を有しているので、チタンアルミナイド合金またはチタン合金で精密鋳造された鋳造品の表面側における結晶粒の粗大化を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態において、チタンアルミナイド合金またはチタン合金を精密鋳造するための鋳型の構成を示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態において、チタンアルミナイド合金またはチタン合金を精密鋳造するための鋳型の製造方法を示すフローチャートである。
図3】本発明の実施の形態において、鋳造品の表面側の結晶粒径と、鋳型温度との関係を示すグラフである。
図4】本発明の実施の形態において、鋳造品の光学顕微鏡による表面観察結果を示す写真である。
図5】本発明の実施の形態において、実施例Aの鋳型で精密鋳造した鋳造品の断面観察結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は、チタンアルミナイド合金またはチタン合金を精密鋳造するための鋳型10の構成を示す断面図である。
【0018】
鋳型10は、チタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯が注入されるキャビティ12を有する鋳型本体14を備えている。鋳型本体14は、例えば、有底で形成されている。
【0019】
鋳型本体14は、キャビティ12側に設けられており、結晶粒を微細化させる結晶粒微細化層16を有している。結晶粒微細化層16は、耐火材と、結晶粒を微細化させるための酸化チタンと、を含んで構成されている。結晶粒微細化層16の厚みについては、例えば、0.1mmから0.5mmである。
【0020】
結晶粒微細化層16の耐火材には、チタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯との反応を抑えるために、チタンアルミナイド合金またはチタン合金との反応性が低い酸化セリウム、酸化イットリウムまたは酸化ジルコニウムが用いられる。結晶粒微細化層16の耐火材には、これらの酸化物を単体で用いてもよいし、複数の酸化物を組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0021】
結晶粒微細化層16の耐火材には、チタンアルミナイド合金またはチタン合金との反応性が酸化ジルコニウム等より低く、安価である酸化セリウムを主成分として用いることが好ましい。酸化セリウムを主成分として用いることで、チタンアルミナイド合金またはチタン合金からなる鋳造品と鋳型10との焼付きを抑えることが可能となり、鋳造品の表面平滑性を向上させることができる。
【0022】
結晶粒微細化層16には、結晶粒を微細化させるための酸化チタンが含まれている。チタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯が結晶粒微細化層16と接触して凝固するときに、酸化チタンが核発生物質として作用すると考えられるため、鋳造品の表面側の結晶粒を微細化することができる。
【0023】
鋳型本体14は、結晶粒微細化層16に積層されており、鋳型強度を確保するために、耐火材で形成された耐火材層18を有している。耐火材層18の耐火材には、機械的強度が大きい酸化セリウム(セリア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化イットリウム(イットリア)、ムライト、二酸化珪素(シリカ)または珪酸ジルコニウム(ジルコン)等を用いることが好ましい。また、鋳型本体14には、チタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯をキャビティ12に注入するための注入口(図示せず)が設けられている。
【0024】
次に、鋳型10の製造方法について説明する。図2は、鋳型10の製造方法を示すフローチャートである。鋳型10の製造方法は、ロウ型成形工程(S10)と、スラリ層形成工程(S12)と、脱ロウ工程(S14)と、焼成工程(S16)と、を備えている。
【0025】
ロウ型成形工程(S10)は、チタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯が注入されるキャビティ12を有する鋳型本体14を形成するためのロウ型を成形する工程である。ロウ型は、金型内にロウ材を射出成形等により注入し、ロウ材を硬化させた後、金型から取り出して成形される。
【0026】
スラリ層形成工程(S12)は、ロウ型のロウ型面に、耐火材粒子と、結晶粒を微細化させるための酸化チタン粒子とを含む骨材と、バインダとを混合した結晶粒微細化スラリをコーティングして、結晶粒微細化スラリ層を形成すると共に、結晶粒微細化スラリ層に、耐火材粒子とバインダとを混合した耐火材スラリをコーティングして耐火材スラリ層を形成する工程である。
【0027】
まず、ロウ型面に結晶粒微細化スラリをコーティングする。結晶粒微細化スラリは、耐火材粒子と、結晶粒を微細化させるための酸化チタン粒子とを含む骨材と、バインダとを含んで構成されている。耐火材粒子には、酸化セリウム、酸化イットリウムまたは酸化ジルコニウムからなる酸化物粒子が用いられる。骨材の耐火材粒子は、例えば、酸化セリウムのみ、酸化イットリウムのみまたは酸化ジルコニウム粒子から構成されていてもよいし、これらの酸化物粒子を組み合わせて構成されていてもよい。
【0028】
結晶粒微細化スラリの骨材における酸化チタン粒子の含有率は、3質量%以上10質量%以下であることが好ましく、5質量%であることがより好ましい。その理由は、酸化チタン粒子の含有率が3質量%より少ないと結晶粒の微細化効果が小さくなるからであり、酸化チタン粒子の含有率が10質量%より多くても、微細化効果が飽和して、結晶粒の微細化効果がそれ以上に向上しないからである。また、酸化チタン粒子の含有率が10質量%より多い場合には、鋳型10の造形性が低下するからである。
【0029】
酸化チタン粒子は、粒径が10μm以下であり、平均粒径(d50)が0.2μm以上5.0μm以下であることが好ましい。鋳型10のキャビティ12側表面に露出する各酸化チタン粒子の表面積の合計がより大きくなるほど結晶粒の微細化効果がより大きくなるので、粒径が10μm以下の小さい粒径の酸化チタン粒子を用いることにより、結晶粒の微細化効果をより大きくすることが可能となる。例えば、結晶粒微細化スラリ中に含まれる酸化チタン粒子の含有率が同じである場合において、粒径が大きい酸化チタン粒子よりも、粒径が小さい酸化チタン粒子のほうが、鋳型10のキャビティ12側表面に露出する各酸化チタン粒子の表面積の合計が大きくなるので、結晶粒の微細化効果をより大きくすることができる。また、酸化チタン粒子の平均粒径(d50)が0.2μm以上であるのは、平均粒径(d50)が0.2μmより小さくなると、結晶粒微細化スラリの粘度が上がることにより結晶粒微細化スラリの取り扱いが難しくなり、鋳型10の造形性が低下するからである。酸化チタン粒子の平均粒径(d50)が5.0μm以下であるのは、平均粒径(d50)が5.0μmより大きくなると結晶粒の微細化効果が低下するからである。なお、酸化チタン粒子の粒径及び粒度分布については、例えば、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)等で測定可能である。
【0030】
バインダには、シリカゾル、ジルコニアゾル、イットリアゾル、フェノール樹脂等の有機バインダが用いられる。バインダには、これらの材料を単体として用いてもよいし、複数の材料を組み合わせて用いるようにしてもよい。また、バインダとしてシリカゾルを用いる場合には、チタンアルミナイド合金またはチタン合金とシリカゾルとの反応を抑制するために、骨材の耐火物粒子には酸化セリウムを用いることが好ましい。
【0031】
結晶粒微細化スラリのコーティング方法としては、浸漬法、吹き付け法、塗布法が適用可能であるが、ロウ型面により均一にコーティングできることから浸漬法が好ましい。
【0032】
次に、結晶粒微細化スラリをコーティングしたロウ型面にスタッコ処理を行い、乾燥させる。スタッコ処理には、例えば、#60から#160メッシュの酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、二酸化珪素(シリカ)、ムライトまたは酸化イットリウム(イットリア)からなる耐火材粒子が用いられる。このようにして、ロウ型面に結晶粒微細化スラリ層を形成する。
【0033】
次に、結晶粒微細化スラリ層に耐火材スラリをコーティングする。耐火材スラリは、耐火材粒子と、バインダとを混合して構成されている。耐火材スラリの耐火材粒子には、機械的強度が大きい珪酸ジルコニウム(ジルコン)、二酸化珪素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、ムライト等を用いることが好ましい。バインダには、例えば、結晶粒微細化スラリと同様のバインダが用いられる。
【0034】
次に、耐火材スラリをコーティングしたスラリ面にスタッコ処理を行い、乾燥させる。スタッコ処理には、結晶粒微細化スラリ層を形成するときのスタッコ処理と同様の耐火材粒子が用いられる。また、耐火材スラリのコーティングと、スタッコ処理と、乾燥とからなる工程は、耐火材スラリ層が所定の厚みになるまで繰り返し行われる。このようにして、結晶粒微細化スラリ層の上に耐火材スラリ層が形成される。
【0035】
脱ロウ工程(S14)は、結晶粒微細化スラリ層と耐火物スラリ層とが形成されたロウ型を加熱して脱ロウし、鋳型成形体を形成する工程である。結晶粒微細化スラリ層と耐火物スラリ層とが形成されたロウ型を加熱して脱ロウし、キャビティ12を有する鋳型成形体が形成される。脱ロウは、結晶粒微細化スラリ層と耐火物スラリ層とが形成されたロウ型をオートクレーブ等に入れて、100℃から180℃、4気圧から8気圧で加熱・加圧処理して行われる。この脱ロウ処理により、ロウ型が溶け出してキャビティ12となり、キャビティ12を有する鋳型成形体が得られる。
【0036】
焼成工程(S16)は、鋳型成形体を焼成する工程である。鋳型成形体を焼成炉等で900℃から1300℃で加熱して焼成することにより、結晶粒微細化スラリ層と耐火材スラリ層とが焼き固められて各々結晶粒微細化層16と耐火材層18となることによって殻体(シェル)となり鋳型10が形成される。
【0037】
次に、チタンアルミナイド合金またはチタン合金の精密鋳造方法について説明する。チタンアルミナイド合金には、例えば、46原子%から50原子%のAlと、残部がTi及び不可避的不純物からなるTiAl合金が用いられる。また、チタン合金には、例えば、Ti−6Al−4V(Alが6質量%、Vが4質量%)、Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo(Alが6質量%、Snが2質量%、Zrが4質量%、Moが2質量%)が用いられる。
【0038】
まず、真空溶解炉の中に鋳型10をセットする。そして、鋳型10のキャビティ12にチタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯を注入すると共に、チタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯が注入された鋳型10を、例えば、鋳型温度が1000℃から1300℃となるように加熱する。
【0039】
次に、チタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯を冷却して凝固させる。チタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯が結晶粒微細化層16と接触している箇所では、結晶粒微細化層16に含まれる酸化チタンが核発生物質として作用して結晶粒が微細化される。このようにして、チタンアルミナイド合金またはチタン合金からなる鋳造品の表面側の結晶粒が微細化される。
【0040】
以上、上記構成によれば、チタンアルミナイド合金またはチタン合金を精密鋳造するための鋳型は、チタンアルミナイド合金またはチタン合金の溶湯が注入されるキャビティを有する鋳型本体を備え、鋳型本体は、キャビティ側に設けられ、耐火材と、結晶粒を微細化させるための酸化チタンとを含む結晶粒微細化層を有しているので、鋳造品の表面側の結晶粒を微細化させて、結晶粒の粗大化を抑制することが可能となる。
【0041】
このようにチタンアルミナイド合金またはチタン合金における鋳造品の表面の結晶粒を微細化して結晶粒の粗大化を抑えることにより、鋳造品の表面シュリンケージが低減し、鋳造品の機械特性(延性や靭性等)が向上する。また、鋳込み温度や鋳型温度をより高温にして精密鋳造を行った場合でも、チタンアルミナイド合金またはチタン合金における鋳造品の表面側の結晶粒を微細化して結晶粒の粗大化を抑えることができるので、チタンアルミナイド合金またはチタン合金の湯廻り不良等を防止することが可能となる。
【実施例】
【0042】
チタンアルミナイド合金について精密鋳造を行った。
【0043】
(鋳型の作製)
まず、チタンアルミナイド合金を精密鋳造するための鋳型の作製方法について説明する。鋳型については、実施例A、比較例A、B、Cの4種類について作製した。これらについては、結晶粒微細化スラリに含まれる骨材が相違しており、その他の構成については同じである。
【0044】
ロウ型を成形した後に、ロウ型面に結晶粒微細化スラリを塗布した。結晶粒微細化スラリには、骨材とコロイダルシリカ(30wt%SiO)とを混合したものを使用した。実施例Aでは、95質量%の酸化セリウム(CeO)粒子と5質量%の酸化チタン(TiO)粒子とを混合した骨材を用いた。酸化セリウム(CeO)粒子には、平均粒径(d50)が5.948μmのものを使用した。酸化チタン(TiO)粒子には、粒径が10μm以下であり、平均粒径(d50)が1.562μmのものを使用した。また、酸化セリウム(CeO)粒子及び酸化チタン(TiO)粒子の粒径と平均粒径(d50)とについては、レーザー回折・散乱法(マイクロトラック法)で測定した。
【0045】
比較例Aでは、100質量%の酸化セリウム(CeO)粒子のみからなる骨材を用いた。比較例Bでは、95質量%の酸化セリウム(CeO)粒子と5質量%の炭化チタン(TiC)粒子とを混合した骨材を用いた。比較例Cでは、95質量%の酸化セリウム(CeO)粒子と5質量%の硼化チタン(TiB)粒子とを混合した骨材を用いた。なお、比較例AからCに用いた酸化セリウム(CeO)粒子には、実施例Aと同じものを使用した。
【0046】
そして、結晶粒微細化スラリを塗布した面に、酸化イットリウム(Y)粒子でスタッコ処理して乾燥し、結晶粒微細化スラリ層を形成した。次に、結晶粒微細化スラリ層の上に、耐火材粒子とバインダとを混合した耐火材スラリのコーティングと、スタッコ処理とを繰り返して複数層からなる耐火材スラリ層を形成した。具体的には、結晶粒微細化スラリ層の上に、酸化セリウム(CeO)粒子とコロイダルシリカとを混合した耐火材スラリをコーティングした後に、酸化アルミニウム(Al)粒子をスタッコ処理して耐火材スラリ層の第1層を形成した。次に、耐火材スラリ層の第1層の上に、二酸化珪素(SiO)粒子と酸化ジルコニウム(ZrO)粒子との混合物と、コロイダルシリカとを混合した耐火材スラリのコーティングと、ムライト(3Al・2SiO)粒子によるスタッコ処理とを繰り返して耐火材スラリ層の第2層から第5層を形成した。そして、耐火材スラリ層の第5層の上に、二酸化珪素(SiO)粒子と酸化ジルコニウム(ZrO)粒子との混合物と、コロイダルシリカとを混合した耐火材スラリをコーティングして耐火材スラリ層の第6層を形成した。なお、耐火材スラリ層の形成については、実施例A、比較例A、B、Cについていずれも同様に行った。
【0047】
結晶粒微細化スラリ層と耐火物スラリ層とを形成したロウ型を十分に乾燥させた後、オートクレーブに入れて加熱し、ロウ型を溶かして脱ロウし、鋳型成形体を形成した。脱ロウについては、加熱温度が約150℃、圧力0.7MPaで行った。
【0048】
次に、鋳型成形体を焼成炉に入れて焼成した。焼成条件は、焼成温度1100℃、保持時間2時間とした。以上によりチタンアルミナイド合金を精密鋳造するための鋳型を作製した。
【0049】
(精密鋳造)
作製した実施例A、比較例A、B、Cの鋳型を用いてチタンアルミナイド合金の精密鋳造を行った。チタンアルミナイド合金には、Ti−48Al−2Nb−2Cr(Alが48質量%、Nbが2質量%、Crが2質量%)を用いた。鋳造品の形状については、長さ約80mmの矩形状とした。鋳型温度については、1100℃、1300℃の2条件とし、冷却については炉冷とした。そして、鋳造品の表面側の結晶粒径と、鋳型温度との関係について評価するために、鋳造品の表面側の結晶粒径を光学顕微鏡で測定した。
【0050】
図3は、鋳造品の表面側の結晶粒径と、鋳型温度との関係を示すグラフである。図3のグラフでは、横軸に鋳型温度を取り、縦軸に鋳造品の表面側の結晶粒径を取り、実施例Aの鋳型で精密鋳造した鋳造品の表面側の結晶粒径を黒丸で示し、比較例Aの鋳型で精密鋳造した鋳造品の表面側の結晶粒径を白丸で示し、比較例Bの鋳型で精密鋳造した鋳造品の表面側の結晶粒径を白菱形で示し、比較例Cの鋳型で精密鋳造した鋳造品の表面側の結晶粒径を白四角形で示している。
【0051】
鋳型温度1100℃及び1300℃で精密鋳造した結果では、各鋳型温度において実施例Aの鋳型で精密鋳造した鋳造品の表面側の結晶粒径が最も小さく、比較例Cの鋳型で精密鋳造した鋳造品の表面側の結晶粒径が最も大きかった。また、実施例Aの鋳型で精密鋳造した鋳造品では、鋳型温度1100℃から1300℃のとき、鋳造品の表面側の結晶粒径が60μmから100μmとなり、鋳型温度が低いほど鋳造品の表面側の結晶粒径がより小さくなって微細化した。このように、酸化セリウム(CeO)粒子と酸化チタン(TiO)粒子とを混合した骨材を用いた実施例Aの鋳型で精密鋳造した鋳造品は、酸化セリウム(CeO)粒子のみからなる骨材を用いた比較例Aの鋳型で精密鋳造した鋳造品、酸化セリウム(CeO)粒子と炭化チタン(TiC)粒子とを混合した骨材を用いた比較例Bの鋳型で精密鋳造した鋳造品及び酸化セリウム(CeO)粒子と硼化チタン(TiB)粒子とを混合した骨材を用いた比較例Cの鋳型で精密鋳造した鋳造品よりも、鋳造品の表面側の結晶粒がより微細化した。
【0052】
図4は、鋳造品の光学顕微鏡による表面観察結果を示す写真であり、図4(a)は、実施例Aの鋳型で精密鋳造した鋳造品の表面観察結果を示す写真であり、図4(b)は、比較例Aの鋳型で精密鋳造した鋳造品の表面観察結果を示す写真であり、図4(c)は、比較例Bの鋳型で精密鋳造した鋳造品の表面観察結果を示す写真である。これらの金属組織写真からも明らかなように、実施例Aの鋳型で精密鋳造することにより鋳造品表面の結晶粒をより微細化できることがわかった。
【0053】
図5は、実施例Aの鋳型で精密鋳造した鋳造品の断面観察結果を示す写真である。この金属組織写真から明らかなように、鋳造品の内部よりも表面側のほうの結晶粒が小さく、鋳造品の表面側の結晶粒が微細化されていることを確認した。
【0054】
これらの評価試験結果から、鋳型のキャビティ側に、結晶粒を微細化させるための酸化チタンを含む結晶粒微細化層を設けることにより、鋳造品の表面側の結晶粒を微細化できることがわかった。
【符号の説明】
【0055】
10 鋳型、12 キャビティ、14 鋳型本体、16 結晶粒微細化層、18 耐火材層。
図1
図2
図3
図4
図5