特許第6098245号(P6098245)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン精機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6098245-クラッチ操作装置 図000002
  • 特許6098245-クラッチ操作装置 図000003
  • 特許6098245-クラッチ操作装置 図000004
  • 特許6098245-クラッチ操作装置 図000005
  • 特許6098245-クラッチ操作装置 図000006
  • 特許6098245-クラッチ操作装置 図000007
  • 特許6098245-クラッチ操作装置 図000008
  • 特許6098245-クラッチ操作装置 図000009
  • 特許6098245-クラッチ操作装置 図000010
  • 特許6098245-クラッチ操作装置 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6098245
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】クラッチ操作装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 23/02 20060101AFI20170313BHJP
【FI】
   B60K23/02 N
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-49329(P2013-49329)
(22)【出願日】2013年3月12日
(65)【公開番号】特開2014-172576(P2014-172576A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年2月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(72)【発明者】
【氏名】田丸 大輔
【審査官】 岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−241244(JP,A)
【文献】 特開昭54−020525(JP,A)
【文献】 特開2003−034161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動軸にエンジントルクを出力して駆動輪を駆動するエンジンと、
前記駆動軸と前記駆動輪との間に設けられ、前記エンジンからの駆動力が入力される入力軸と、前記駆動輪に回転連結された出力軸とを有し、前記入力軸の回転速度を前記出力軸の回転速度で除した変速比がそれぞれ異なる複数の変速段を有するマニュアルトランスミッションと、
前記駆動軸と前記入力軸との間に設けられ、前記駆動軸と前記入力軸との間におけるクラッチトルクを可変とするクラッチと、を有する車両に搭載され、
前記クラッチトルクを可変とするクラッチ操作装置であって、
前記車両に回動可能に設けられ、前記クラッチを操作するクラッチ操作部と、
前記クラッチ操作部を復帰させる方向に付勢する復帰部と、
前記クラッチ操作部に回動方向のトルクを付与するモータと、
前記モータを制御するモータ制御部と
前記エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出部と、
前記入力軸の回転速度を検出する入力軸回転速度検出部と、を有し、
前記モータ制御部は、前記エンジン回転速度検出部によって検出された前記エンジンの回転速度と、前記入力軸回転速度検出部によって検出された前記入力軸の回転速度との差回転速度が規定差回転速度以下となったと判断した場合には、前記モータを制御して、前記クラッチ操作部に付与されるトルクを可変させるクラッチ操作装置。
【請求項2】
駆動軸にエンジントルクを出力して駆動輪を駆動するエンジンと、
前記駆動軸と前記駆動輪との間に設けられ、前記エンジンからの駆動力が入力される入力軸と、前記駆動輪に回転連結された出力軸とを有し、前記入力軸の回転速度を前記出力軸の回転速度で除した変速比がそれぞれ異なる複数の変速段を有するマニュアルトランスミッションと、
前記駆動軸と前記入力軸との間に設けられ、前記駆動軸と前記入力軸との間におけるクラッチトルクを可変とするクラッチと、を有する車両に搭載され、
前記クラッチトルクを可変とするクラッチ操作装置であって、
前記車両に回動可能に設けられ、前記クラッチを操作するクラッチ操作部と、
前記クラッチ操作部を復帰させる方向に付勢する復帰部と、
前記クラッチ操作部に回動方向のトルクを付与するモータと、
前記モータを制御するモータ制御部と
前記クラッチの急係合を検出するクラッチ急係合検出部と、を有し、
前記モータ制御部は、前記クラッチ急係合検出部が前記クラッチの急係合を検出した場合に、前記モータを制御して、前記クラッチ操作部が復帰する方向と反対の方向へのトルクを前記クラッチ操作部に付与するクラッチ操作装置。
【請求項3】
前記クラッチの係合開始を検出するクラッチ係合開始検出部を有し、
前記モータ制御部は、前記クラッチ係合開始検出部が前記クラッチの係合開始を検出した場合には、前記モータを制御して、前記クラッチ操作部に付与されるトルクを可変させる請求項1又は請求項に記載のクラッチ操作装置。
【請求項4】
前記モータが負トルクを出力する際に、前記モータが発電した電流を蓄電する蓄電部を有する請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のクラッチ操作装置。
【請求項5】
前記モータ制御部は、前記エンジンが始動中である場合に、前記モータを制御して、前記クラッチ操作部が復帰する方向と反対の方向へのトルクを前記クラッチ操作部に付与する請求項1〜請求項のいずれか1項に記載のクラッチ操作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチを操作するためのクラッチ操作装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、マスタシリンダとスレーブシリンダとの間にクラッチフルードの流量を制限する制御バルブを設け、エンジンストールの防止等のクラッチ操作のアシストを行うクラッチ操作装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−193143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に示されるようなクラッチ操作装置では、運転者が急にクラッチペダルを離した場合に、エンジンストールを防ぐことはできるが、運転者がエンジンストールを防ぐアシスト制御に気付くことが困難であり、車両に運転者の意図に沿わない挙動が生じてしまう虞がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、クラッチ操作のアシストが実行されるクラッチ操作装置において、運転者がクラッチ操作のアシストを知覚することができるクラッチ操作装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するためになされた、請求項1に係る発明によると、駆動軸にエンジントルクを出力して駆動輪を駆動するエンジンと、前記駆動軸と前記駆動輪との間に設けられ、前記エンジンからの駆動力が入力される入力軸と、前記駆動輪に回転連結された出力軸とを有し、前記入力軸の回転速度を前記出力軸の回転速度で除した変速比がそれぞれ異なる複数の変速段を有するマニュアルトランスミッションと、前記駆動軸と前記入力軸との間に設けられ、前記駆動軸と前記入力軸間におけるクラッチトルクを可変とするクラッチと、を有する車両に搭載され、前記クラッチトルクを可変とするクラッチ操作装置であって、前記車両に回動可能に設けられ、前記クラッチを操作するクラッチ操作部と、前記クラッチ操作部を復帰させる方向に付勢する復帰部と、前記クラッチ操作部に回動方向のトルクを付与するモータと、前記モータを制御するモータ制御部と、前記エンジンの回転速度を検出するエンジン回転速度検出部と、前記入力軸の回転速度を検出する入力軸回転速度検出部と、を有し、前記モータ制御部は、前記エンジン回転速度検出部によって検出された前記エンジンの回転速度と、前記入力軸回転速度検出部によって検出された前記入力軸の回転速度との差回転速度が規定差回転速度以下となったと判断した場合には、前記モータを制御して、前記クラッチ操作部に付与されるトルクを可変させる
【0008】
請求項に係る発明は、駆動軸にエンジントルクを出力して駆動輪を駆動するエンジンと、前記駆動軸と前記駆動輪との間に設けられ、前記エンジンからの駆動力が入力される入力軸と、前記駆動輪に回転連結された出力軸とを有し、前記入力軸の回転速度を前記出力軸の回転速度で除した変速比がそれぞれ異なる複数の変速段を有するマニュアルトランスミッションと、前記駆動軸と前記入力軸との間に設けられ、前記駆動軸と前記入力軸間におけるクラッチトルクを可変とするクラッチと、を有する車両に搭載され、前記クラッチトルクを可変とするクラッチ操作装置であって、前記車両に回動可能に設けられ、前記クラッチを操作するクラッチ操作部と、前記クラッチ操作部を復帰させる方向に付勢する復帰部と、前記クラッチ操作部に回動方向のトルクを付与するモータと、前記モータを制御するモータ制御部と、前記クラッチの急係合を検出するクラッチ急係合検出部と、を有し、前記モータ制御部は、前記クラッチ急係合検出部が前記クラッチの急係合を検出した場合に、前記モータを制御して、前記クラッチ操作部が復帰する方向と反対の方向へのトルクを前記クラッチ操作部に付与する。
【0009】
請求項に係る発明は、請求項1又は請求項に記載の発明において、前記クラッチの係合開始を検出するクラッチ係合開始検出部を有し、前記モータ制御部は、前記クラッチ係合開始検出部が前記クラッチの係合開始を検出した場合には、前記モータを制御して、前記クラッチ操作部に付与されるトルクを可変させる。
【0010】
請求項に係る発明は、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の発明において、前記モータが負トルクを出力する際に、前記モータが発電した電流を蓄電する蓄電部を有する。
【0011】
請求項に係る発明は、請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の発明において、モータ制御部は、前記エンジンが始動中である場合に、前記モータを制御して、前記クラッチ操作部が復帰する方向と反対の方向へのトルクを前記クラッチ操作部に付与する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、モータ制御部は、モータにクラッチ操作部に回動方向のトルクを付与させる。これにより、クラッチ操作のアシストが実行される際には、クラッチ操作部にモータによるトルクが付与される。このため、運転者は、クラッチ操作部を介して、クラッチ操作のアシストを知覚することができる。
【0013】
また、モータ制御部は、エンジンの回転速度と入力軸の回転速度との差回転速度が規定差回転速度以下となったと判断した場合には、モータを制御して、クラッチ操作部に付与されるトルクを可変させる。これにより、運転者は、クラッチ操作部を介して、エンジンの回転速度と入力軸の回転速度が殆ど同期し、クラッチ操作部を完全に離すタイミングを知覚することができる。
【0014】
請求項に係る発明によれば、モータ制御部は、クラッチ急係合検出部がクラッチの急係合を検出した場合に、モータを制御して、クラッチ操作部が復帰する方向と反対の方向へのトルクをクラッチ操作部に付与する。これにより、クラッチ操作部の原位置への復帰が阻害され、クラッチトルクの急激な上昇が抑制される。このため、ショックの発生やエンジンストール、車両の急な増速が抑制される。
【0015】
請求項に係る発明によれば、モータ制御部は、クラッチの係合開始を検出した場合には、モータを制御して、クラッチ操作部に付与されるトルクを可変させる。これにより、運転者は、クラッチ操作部を介して、クラッチが係合を開始したタイミングを知覚することができる。
【0016】
請求項に係る発明によれば、モータが負トルクを出力する際に、モータが発電した電流を蓄電する蓄電部を有する。これにより、クラッチが復帰する際に復帰部の蓄えられた弾性エネルギーを電力として回収し、当該電力を利用することができる。
【0017】
請求項に係る発明によれば、モータ制御部は、エンジンが始動中である場合に、モータを制御して、クラッチ操作部が復帰する方向と反対の方向へのトルクをクラッチ操作部に付与する。これにより、クラッチ操作部の原位置への復帰が阻害され、クラッチトルクの急激な上昇が抑制される。このため、エンジンストールが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の車両用駆動装置の構成を示す構成図である。
図2】クラッチストロークとクラッチトルクとの関係を表した「クラッチトルクマッピングデータ」である。
図3】マニュアルトランスミッションのスケルトン図である。
図4】選択機構の軸方向断面図である。
図5図1のA視図であり、クラッチ操作装置の説明図である。
図6】クラッチストロークとクラッチペダル復帰力及びクラッチ伝達トルクとの関係を表したグラフである。
図7】経過時間と、回転速度、クラッチストローク、クラッチトルク、及びクラッチペダル復帰力との関係を表したタイムチャートである。
図8】「第一実施形態のクラッチペダル復帰力制御」のフローチャートである。
図9】経過時間と、回転速度、クラッチストローク、クラッチトルク、及びクラッチペダル復帰力との関係を表したタイムチャートである。
図10】「第二実施形態のクラッチペダル復帰力制御」のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(車両の説明)
図1に基づき、車両用駆動装置1について説明する。図1は、エンジン2を備えた車両100の車両用駆動装置1の概略を示している。図1において、太線は各装置間の機械的な接続を示し、破線による矢印は制御用の信号線を示している。
【0020】
図1に示すように、車両100には、エンジン2、クラッチ3、マニュアルトランスミッション4、デファレンシャル装置17が、この順番に、直列に配設されている。また、デファレンシャル装置17には、車両100の駆動輪18R、18Lが接続されている。なお、駆動輪18R、18Lは、車両の前輪又は後輪、或いは、前後輪である。
【0021】
車両100は、アクセルペダル51、クラッチペダル61、及びブレーキペダル56を有している。アクセルペダル51は、エンジン2が出力するエンジントルクTeを可変に操作するものである。アクセルペダル51には、アクセルペダル51の操作量であるアクセル開度Acを検出するアクセルセンサ52が設けられている。
【0022】
クラッチペダル61(クラッチ操作部)は、後述するクラッチトルクTcを可変として、クラッチ3を操作するためのものである。車両100は、クラッチペダル61の操作量に応じた液圧を発生させるマスタシリンダ63を有している。マスタシリンダ63には、マスタシリンダ63のストローク、つまり、クラッチペダル61の操作量(以下、適宜クラッチストロークClと表す)を検出するクラッチセンサ62が設けられている。
【0023】
ブレーキペダル56には、ブレーキペダル56の操作量を検出するブレーキセンサ57が設けられている。車両100は、ブレーキペダル56の操作量に応じた液圧を発生させるブレーキマスタシリンダ(不図示)、ブレーキマスタシリンダが発生したマスタ圧に応じて車輪に制動力を発生するブレーキ装置19を有している。
【0024】
エンジン2は、ガソリンや軽油等の炭化水素系燃料を使用するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等である。エンジン2は、駆動軸21、スロットルバルブ22、エンジン回転速度センサ23、燃料噴射装置28を有している。駆動軸21は、ピストンにより回転駆動されるクランクシャフトと一体的に回転する。このように、エンジン2は、駆動軸21にエンジントルクTeを出力し、駆動輪18R、18Lを駆動する。なお、エンジン2がガソリンエンジンである場合には、エンジン2のシリンダヘッドには、シリンダ内の混合気を点火するための点火装置(不図示)が設けられている。
【0025】
スロットルバルブ22は、エンジン2のシリンダに空気を取り込む経路の途中に設けられている。スロットルバルブ22は、エンジン2のシリンダに取り込まれる空気量(混合気量)を調整するものである。燃料噴射装置28は、エンジン2の内部に空気を取り込む経路の途中やエンジン2のシリンダヘッドに設けられている。燃料噴射装置28は、ガソリンや軽油等の燃料を噴射する装置である。
【0026】
エンジン回転速度センサ23は、駆動軸21の近傍に配設されている。エンジン回転速度センサ23は、駆動軸21の回転速度であるエンジン回転速度Neを検出して、その検出信号を制御部10に出力する。なお、本実施形態では、エンジン2の駆動軸21は、後述するクラッチ3の入力部材であるフライホイール31に連結している。
【0027】
クラッチ3は、エンジン2の駆動軸21と後述のマニュアルトランスミッション4の入力軸41との間に設けられている。クラッチ3は、運転者によるクラッチペダル61の操作により、駆動軸21と入力軸41とを接続又は切断するとともに、駆動軸21と入力軸41間におけるクラッチトルクTc(図2示)を可変とするマニュアル式のクラッチである。クラッチ3は、フライホイール31、クラッチディスク32、クラッチカバー33、ダイヤフラムスプリング34、プレッシャプレート35、クラッチシャフト36、レリーズベアリング37、スレーブシリンダ38を有している。
【0028】
フライホイール31は、円板状であり、駆動軸21に連結している。クラッチシャフト36は、入力軸41に連結している。クラッチディスク32は、円板状であり、その外周部の両面に摩擦材32aが設けられている。クラッチディスク32は、フライホイール31と対向して、クラッチシャフト36の先端に軸線方向移動可能且つ回転不能にスプライン嵌合している。
【0029】
クラッチカバー33は、扁平な円筒状の円筒部33aと、この円筒部33aの一端から回転中心方向に延在する板部33bとから構成されている。円筒部33aの他端は、フライホイール31に連結している。このため、クラッチカバー33は、フライホイール31と一体に回転する。プレッシャプレート35は、中心に穴が開いた円板状である。プレッシャプレート35は、フライホイール31の反対側において、クラッチディスク32と対向して軸線方向移動可能に配設されている。プレッシャプレート35の中心には、クラッチシャフト36が挿通している。
【0030】
ダイヤフラムスプリング34は、リング状のリング部34aと、このリング部34aの内周縁から、内側に向かって延出する複数の板バネ部34bとから構成されている。板バネ部34bは、内側方向に向かって徐々に、板部33b側に位置するように傾斜している。板バネ部34bは、軸線方向に弾性変形可能となっている。ダイヤフラムスプリング34は、板バネ部34bが軸線方向に圧縮された状態で、プレッシャプレート35とクラッチカバー33の板部33bとの間に配設されている。リング部34aは、プレッシャプレート35と当接している。板バネ部34bの中間部分は、板部33bの内周縁と接続している。ダイヤフラムスプリング34の中心には、クラッチシャフト36が挿通している。
【0031】
レリーズベアリング37は、図示しないクラッチ3のハウジングに取り付けられている。レリーズベアリング37に中心には、クラッチシャフト36が挿通し、軸線方向移動可能に配設されている。レリーズベアリングは、互いに対向し、相対回転可能な第一部材37aと第二部材37bとから構成されている。第一部材37aは、板部33bの先端と当接している。
【0032】
スレーブシリンダ38には、液圧により進退するプッシュロッド38aを有している。プッシュロッド38aの先端は、レリーズベアリング37の第二部材37bと当接している。スレーブシリンダ38とマスタシリンダ63とは、液圧配管58により接続されている。
【0033】
クラッチペダル61が踏まれていない状態では、マスタシリンダ63及びスレーブシリンダ38のいずれにも液圧は発生していない。この状態では、クラッチディスク32は、プレッシャプレート35を介して、ダイヤフラムスプリング34によって、フライホイール31に付勢されて押し付けられている。このため、摩擦材32aとフライホイール31との摩擦力、及び摩擦材32aとプレッシャプレート35との摩擦力により、フライホイール31、クラッチディスク32、及びプレッシャプレート35が一体回転し、駆動軸21と入力軸41とが一体回転する接続状態となっている。
【0034】
一方で、クラッチペダル61が踏まれると、マスタシリンダ63に液圧が発生し、スレーブシリンダ38にも液圧が発生する。すると、スレーブシリンダ38のプッシュロッド38aがレリーズベアリング37をダイヤフラムスプリング34側に押圧する。すると、板バネ部34bが板部33bの内周縁との接続部分を支点として変形し、クラッチディスク32をフライホイール31に付勢する付勢力が小さくなり、遂には0となる。
【0035】
図2に示すように、マスタシリンダ63のストロークであるクラッチストロークClが増大するにつれて、クラッチ3が駆動軸21から入力軸41に伝達するクラッチトルクTcは小さくなり、上記付勢力が0となると、クラッチトルクTcは0となり、クラッチ3は完全切断状態となる。このように、本実施形態のクラッチ3は、クラッチペダル61が踏まれていない状態では、クラッチ3が接続状態となる、ノーマルクローズドクラッチである。
【0036】
なお、以下の説明において、摩擦材32aがフライホイール31やプレッシャプレート35と接触を開始する状態を、クラッチ3の係合開始と称する。また、クラッチトルクTcが急激に上昇することを、クラッチ3の急係合と称する。
【0037】
マニュアルトランスミッション4は、駆動軸21と駆動輪18R、18Lの間に設けられている。マニュアルトランスミッション4は、入力軸41及び出力軸42を有している。入力軸41は、クラッチ3の出力部材であるクラッチシャフト36と連結し、エンジン2からの駆動力が入力される。出力軸42は、駆動輪18R、18Lに回転連結されている。マニュアルトランスミッション4は、入力軸41と出力軸42との間において、入力軸回転速度Niを出力軸回転速度Noで除した変速比がそれぞれ異なる複数の変速段を選択的に切り替える有段変速機である。
【0038】
マニュアルトランスミッション4は、運転者のシフトレバー45の操作を、選択機構を作動させる力に変換するシフト操作機構47を備えている。このマニュアルトランスミッション4の構成については、後で詳細に説明する。
【0039】
入力軸41の近傍には、入力軸41の回転速度(入力軸回転速度Ni)を検出する入力軸回転速度センサ43が設けられている。入力軸回転速度センサ43によって検出された入力軸回転速度Ni(クラッチ回転速度Nc)は、制御部10に出力される。
【0040】
出力軸42の近傍には、出力軸42の回転速度(出力軸回転速度No)を検出する出力軸回転速度センサ46が設けられている。出力軸回転速度センサ46によって検出された出力軸回転速度Noは、制御部10に出力される。
【0041】
制御部10は、車両100を統括制御するものである。制御部10は、CPU、RAM、ROMや不揮発性メモリー等で構成された記憶部(いずれも不図示)を有している。CPUは、図8図10に示すフローチャート対応したプログラムを実行する。RAMは同プログラムの実行に必要な変数を一時的に記憶するものである。記憶部は上記プログラムや図2に示すマッピングデータを記憶している。
【0042】
制御部10は、ドライバのアクセルペダル51の操作に基づくアクセルセンサ52のアクセル開度Acに基づいて、運転者が要求しているエンジン2のトルクである要求エンジントルクTerを演算する。そして、制御部10は、要求エンジントルクTerに基づいて、スロットルバルブ22の開度Sを調整し、吸気量を調整するとともに、燃料噴射装置28の燃料噴射量を調整し、点火装置を制御する。
【0043】
これにより、燃料を含んだ混合気の供給量が調整され、エンジン2が出力するエンジントルクTeが要求エンジントルクTerに調整されるとともに、エンジン回転速度Neが調整される。
【0044】
(マニュアルトランスミッション4)
以下に、図3及び図4を用いて、マニュアルトランスミッション4について説明する。マニュアルトランスミッション4は、入力軸41、出力軸42、第一ドライブギヤ141、第二ドライブギヤ142、第三ドライブギヤ143、第四ドライブギヤ144、第五ドライブギヤ145、リバースドライブギヤ146、第一ドリブンギヤ151、第二ドリブンギヤ152、第三ドリブンギヤ153、第四ドリブンギヤ154、第五ドリブンギヤ155、リバースドリブンギヤ156、出力ギヤ157、リバースアイドラギヤ161、第一選択機構110、第二選択機構120、第三選択機構130を有する。
【0045】
入力軸41と出力軸42は、マニュアルトランスミッション4のハウジング(不図示)に回転可能に平行に軸支されている。
【0046】
第一ドライブギヤ141、第二ドライブギヤ142、第三ドライブギヤ143、第四ドライブギヤ144、第五ドライブギヤ145、リバースドライブギヤ146は、入力軸41に相対回転不能に設けられた固定ギヤである。
【0047】
第一ドリブンギヤ151、第二ドリブンギヤ152、第三ドリブンギヤ153、第四ドリブンギヤ154、第五ドリブンギヤ155、リバースドリブンギヤ156、出力ギヤ157は、出力軸42に遊転可能(相対回転可能)又は嵌合可能に設けられた遊転ギヤである。
【0048】
第一ドライブギヤ141と第一ドリブンギヤ151は、互いに噛合し、1速段を構成するギヤである。第二ドライブギヤ142と第二ドリブンギヤ152は、互いに噛合し、2速段を構成するギヤである。第三ドライブギヤ143と第三ドリブンギヤ153は、互いに噛合し、3速段を構成するギヤである。第四ドライブギヤ144と第四ドリブンギヤ154は、互いに噛合し、4速段を構成するギヤである。第五ドライブギヤ145と第五ドリブンギヤ155は、互いに噛合し、5速段を構成するギヤである。
【0049】
第一ドライブギヤ141、第二ドライブギヤ142、第三ドライブギヤ143、第四ドライブギヤ144、第五ドライブギヤ145の順にギヤ径が大きくなっている。第一ドリブンギヤ151、第二ドリブンギヤ152、第三ドリブンギヤ153、第四ドリブンギヤ154、第五ドリブンギヤ155の順にギヤ径が小さくなっている。
【0050】
リバースアイドラギヤ161は、リバースドライブギヤ146とリバースドリブンギヤ156の間に配設され、リバースドライブギヤ146及びリバースドリブンギヤ156と噛合している。リバースアイドラギヤ161、リバースドライブギヤ146及びリバースドリブンギヤ156は、リバース用のギヤである。
【0051】
(選択機構)
[第一選択機構]
第一選択機構110は、第一ドリブンギヤ151又は第二ドリブンギヤ152を選択して、出力軸42に相対回転不能に連結するものである。第一選択機構110は、図3図4に示すように、第一クラッチハブH1と、第一速係合部材E1と、第二速係合部材E2と、第一シンクロナイザリングR1、第二シンクロナイザリングR2と、第一スリーブS1とから構成されている。
【0052】
第一クラッチハブH1は、第一ドリブンギヤ151と第二ドリブンギヤ152との軸方向間となる出力軸42にスプライン嵌合されている。このため、第一クラッチハブH1は、出力軸42に相対回転不能且つ前記軸の軸線方向に移動可能となっている。第一速係合部材E1及び第二速係合部材E2は、第一ドリブンギヤ151及び第二ドリブンギヤ152のそれぞれに、例えば圧入などにより固定される部材である。
【0053】
第一シンクロナイザリングR1は、第一クラッチハブH1と第一速係合部材E1の間に設けられている。第一シンクロナイザリングR1は、第一スリーブS1の軸線方向の移動により、第一スリーブS1とスプライン噛合又は第一スリーブS1から離脱するようになっている。第一シンクロナイザリングR1と第一速係合部材E1には、それぞれ、互いに当接する円錐面のコーン面c1、C1が形成されている。第一スリーブS1は、第一クラッチハブH1の外周に軸方向移動自在にスプライン係合される。
【0054】
第二シンクロナイザリングR2は、第一クラッチハブH1と第二速係合部材E2の間に設けられている。第二速係合部材E2と第二シンクロナイザリングR2には、それぞれ、互いに当接する円錐面のコーン面c2、C2が形成されている。第二スリーブS2は、第二クラッチハブH2の外周に軸方向移動自在にスプライン係合される。
【0055】
この第一選択機構110は、第一ドリブンギヤ151及び第二ドリブンギヤ152の一方を出力軸42に同期しつつ、第一ドリブンギヤ151及び第二ドリブンギヤ152の一方を出力軸42に係合し、かつ、第一ドリブンギヤ151及び第二ドリブンギヤ152の両者を出力軸42に対して離脱する状態にすることができる周知のシンクロメッシュ機構を構成している。
【0056】
第一選択機構110の第一スリーブS1は、図3に示す「中立位置」では第一速係合部材E1及び第二速係合部材E2のいずれにも係合されていない。第一スリーブS1の外周には、環状の第一係合溝S1−1が形成されている。第一係合溝S1−1には、第一シフトフォークF1が係合している。
【0057】
第一シフトフォークF1により第一スリーブS1が第一ドリブンギヤ151側にシフトされれば、第一スリーブS1が第一シンクロナイザリングR1にスプライン係合するともに、第一スリーブS1によって第一シンクロナイザリングR1が第一速係合部材E1側に移動される。すると、第一シンクロナイザリングR1のコーン面c1が第一速係合部材E1のコーン面C1に当接し、これらコーン面c1、C1同士の摩擦力により、出力軸42と第一ドリブンギヤ151の回転速度が徐々に同期される。
【0058】
出力軸42と第一ドリブンギヤ151の回転速度が同期すると、第一スリーブS1は、更に第一速係合部材E1側に移動し、第一速係合部材E1の外周の外歯スプラインと係合し、第一ドリブンギヤ151を出力軸42に相対回転不能に連結して1速段を形成する。
【0059】
また、第一シフトフォークF1により第一スリーブS1が第二ドリブンギヤ152側にシフトされれば、第二シンクロナイザリングR2は同様にして出力軸42と第二ドリブンギヤ152の回転を同期させた後に、この両者を相対回転不能に連結して2速段を形成する。
【0060】
[第二選択機構]
第二選択機構120は、第三ドライブギヤ143又は第四ドライブギヤ144を選択して、出力軸42に相対回転不能に連結するものである。第二選択機構120は、第二クラッチハブH2と、第三速係合部材E3と、第四速係合部材E4と、第三シンクロナイザリングR3、第四シンクロナイザリングR4と、第二スリーブS2とから構成されている。
【0061】
第二選択機構120は、第一選択機構110と同様のシンクロメッシュ機構であり、第二クラッチハブH2が、第三ドライブギヤ143と第四ドライブギヤ144の間の出力軸42に固定され、第三速係合部材E3と第四速係合部材E4が、それぞれ第三ドライブギヤ143と第四ドライブギヤ144に固定されている点が異なっているだけである。第二選択機構120は、「中立位置」ではいずれの係合部材E3、E4とも係合されていない。第二スリーブS2の外周には、環状の第二係合溝S2−1が形成されている。第二係合溝S2−1には、第二シフトフォークF2が係合している。
【0062】
第二シフトフォークF2により第二スリーブS2が第三ドライブギヤ143にシフトされれば、出力軸42と第三ドライブギヤ143の回転が同期された後に、この両者が一体的に連結されて3速段が形成される。また、第二シフトフォークF2により第二スリーブS2が第四ドライブギヤ144側にシフトされれば、出力軸42と第四ドライブギヤ144の回転が同期された後に、この両者が直結されて4速段が形成される。
【0063】
[第三選択機構]
第三選択機構130は、第五ドライブギヤ145又はリバースドライブギヤ146を選択して、出力軸42に相対回転不能に連結するものである。第三選択機構130は、第三クラッチハブH3と、第五速係合部材E5と、リバース係合部材ERと、第五シンクロナイザリングR5、リバースシンクロナイザリングRRと、第三スリーブS3とから構成されている。
【0064】
第三選択機構130は、第一選択機構110と同様のシンクロメッシュ機構であり、第三クラッチハブH3が、第五ドライブギヤ145とリバースドライブギヤ146の間の出力軸42に固定され、第五速係合部材E5とリバース係合部材ERが、それぞれ第四ドライブギヤ144とリバースドライブギヤ146に固定されている点が異なっているだけである。第三選択機構130は、「中立位置」ではいずれの係合部材E5、ERとも係合されていない。第三スリーブS3の外周には、環状の第三係合溝S3−1が形成されている。第三係合溝S3−1には、第三シフトフォークF3が係合している。
【0065】
第三シフトフォークF3により第三スリーブS3が第五ドライブギヤ145にシフトされれば、出力軸42と第五ドライブギヤ145の回転が同期された後に、この両者が一体的に連結されて5速段が形成される。また、第三シフトフォークF3により第三スリーブS3がリバースドライブギヤ146側にシフトされれば、出力軸42とリバースドライブギヤ146の回転が同期された後に、この両者が直結されてリバース段が形成される。
【0066】
なお、シフト操作機構47によって、シフトフォークF1〜F3が移動されて、マニュアルトランスミッション4において各変速段が形成され、マニュアルトランスミッション4が「ニュートラル」となる。
【0067】
(クラッチ操作装置)
以下に、図5を用いて、本実施形態のクラッチ操作装置60について説明する。クラッチ操作装置60は、クラッチ3を操作するものである。図5に示すように、クラッチ操作装置60は、クラッチペダル61、クラッチセンサ62(図1示)、マスタシリンダ63、シャフト64、ドリブンギヤ65、ドライブギヤ66、モータ67、クラッチドライバ68、ターンオーバースプリング69、蓄電部71を有している。
【0068】
シャフト64は、車両100に回動可能に取り付けられている。シャフト64には、クラッチペダル61が取り付けられている。このような構造により、クラッチペダル61は、車両100に回動可能に取り付けられている。シャフト64には、ドリブンギヤ65が取り付けられている。ドライブギヤ66は、ドリブンギヤ65と噛合する。なお、ドリブンギヤ65のほうが、ドライブギヤ66よりも歯数が多く、またギヤ径も大きい。
【0069】
モータ67は、クラッチペダル61にクラッチペダル61の回動方向のトルクを付与するものである。なお、回動方向には、クラッチペダル61が原位置に復帰する方向及びこれと逆方向の両方が含まれる。モータ67には、直流モータ及び交流モータの両方が含まれる。モータ67は、発電を行うことにより、負トルクを出力することもできる。モータ67の回転軸67aにドライブギヤ66が設けられている。
【0070】
ターンオーバースプリング69(復帰部)は、クラッチペダル61を踏み込み方向と反対側に付勢し、クラッチペダル61を踏み込み前の原位置に復帰させるものである。図5に示す実施形態では、ターンオーバースプリング69は、シャフト64に巻回され、一端がシャフト64に固定され、他端が車両100に固定された、巻回スプリングである。ターンオーバースプリング69は、コイルスプリングであっても差し支え無い。ターンオーバースプリング69による付勢力、及び、ダイヤフラムスプリング34(復帰部)による付勢力の合計が、クラッチペダル61に作用する復帰力(反力)(以下、適宜「クラッチペダル復帰力」と略す)である。
【0071】
蓄電部71は、電気を蓄電するものであり、バッテリ及びキャパシタの両方が含まれる。蓄電部71は、車両100に元々搭載されているバッテリであっても差し支え無い。クラッチドライバ68は、モータ67及び蓄電部71と電気的に接続している。クラッチドライバ68は、制御部10と通信可能に接続している。クラッチドライバ68は、制御部10からの指令に基づいて、蓄電部71から供給された電流からモータ67に供給する駆動電流に変換し、モータ67を駆動する。或いは、クラッチドライバ68は、制御部10からの指令に基づいて、モータ67に発電させて、モータ67において負トルクを発生させ、発電された電流を蓄電部71に充電する。
【0072】
(第一実施形態のクラッチペダル復帰力制御)
以下に、図6に示すグラフ、図7及び図9に示すタイムフロー、図8に示すフローチャートを用いて、「第一実施形態のクラッチペダル復帰力制御」について説明する。図6に示すように、クラッチストロークClが0場合には、「クラッチペダル復帰力」が0である。そして、クラッチストロークClの増大に伴って、「クラッチペダル復元力」は増大する。そして、クラッチストロークClが一定以上になると、「クラッチペダル復元力」は減少する。これは、ダイヤフラムスプリング34の特性に起因する。イグニッションがONとされ、車両100が走行可能な状態となると、図8のS13に進む。
【0073】
S13において、制御部10が、クラッチセンサ62によって検出されたクラッチストロークClに基づいて、切断しているクラッチ3の係合が開始したと判断した場合には(S13:YES、図6図7図9のT1)、プログラムをS14に進め、クラッチ3の係合が開始していないと判断した場合には(S13:NO)、S13の処理を繰り返す。
【0074】
S14において、制御部10は、クラッチドライバ68に制御信号を出力することにより、モータ67がクラッチペダル61に付与するトルクを可変させて、「クラッチペダル復元力」を可変させることにより、クラッチペダル61を介して、運転者にクラッチ3の係合開始を報知する。本実施形態では、制御部10は、モータ67に発電させ又モータ67にトルク出力させて、「クラッチペダル復帰力」を減少させる(図6図7図9の(1))。運転者は、クラッチペダル61を介して、「クラッチ復帰力」の減少を知覚して、クラッチ3の係合開始を知ることができる。S14が終了すると、プログラムは、S15に進む。
【0075】
S15において、制御部10は、クラッチ3の急係合を検出した場合には(S15:YES、図9のT2)、プログラムをS16に進め、クラッチ3の急係合を検出しない場合には(S15:NO)、プログラムをS17に進める。なお、制御部10は、クラッチセンサ62によって検出されたクラッチストロークClに基づいて、クラッチストロークClの単位時間当たりの減少度の絶対値が規定より大きいと判断した場合には、クラッチ3の急係合を検出する。或いは、制御部10は、エンジン回転速度Neの単位時間当たりの減少度の絶対値が規定よりも大きいと判断した場合や、入力軸回転速度Niの単位時間当たりの増加量が規定よりも大きいと判断した場合には、クラッチ3の急係合を検出する。このように、クラッチセンサ62、入力軸回転速度センサ43、及び出力軸回転速度センサ46の少なくとも1が、クラッチ3の急係合を検出する「クラッチ急係合検出部」である。
【0076】
S16において、制御部10は、クラッチドライバ68に制御信号を出力することにより、モータ67において発電させ又はモータ67を駆動させて、クラッチペダル61が復帰する方向と反対方向へのトルクをクラッチペダル61に付与する。この結果、「クラッチペダル復帰力」が減少する(図9の(2))。これにより、クラッチ3の急係合に伴う、ショックの発生や、エンジンストール、車両100の急な増速が防止される。S16が終了すると、プログラムは、S17に進む。
【0077】
S17において、制御部10が、エンジン回転速度センサ23及び入力軸回転速度センサ43からの検出信号に基づいて、エンジン回転速度Neと入力軸回転速度Niが同期したと判断した場合には(S17:YES)、プログラムをS18に進め、エンジン回転速度Neと入力軸回転速度Niが同期していないと判断した場合には(S17:NO)、プログラムをS15に戻す。なお、エンジン回転速度Neと入力軸回転速度Niが同期している状態には、エンジン回転速度Neと入力軸回転速度Niの差回転速度が規定差回転速度(例えば200r.p.m.)以下である場合と、上記差回転速度が0である場合の両方を含む。
【0078】
S18において、制御部10は、クラッチドライバ68に制御信号を出力することにより、モータ67がクラッチペダル61に付与するトルクを可変させて、「クラッチペダル復元力」を可変させることにより、クラッチペダル61を介して運転者にクラッチ3の同期を報知する。本実施形態では、制御部10は、モータ67における発電やモータ67の駆動を停止して、「クラッチペダル復帰力」を減少させる制御を停止する。すると、図6図7図9の(3)に示すように、「クラッチペダル復帰力」が増大する。運転者は、「クラッチペダル復帰力」の増大を知覚して、クラッチ3の同期を知ることができ、クラッチペダル61を離すことができる。S18が終了すると、プログラムは、S13に戻る。
【0079】
(第二実施形態のクラッチペダル復帰力制御)
以下に、図10のフローチャートを用いて、「第二実施形態のクラッチペダル復帰力制限制御」について説明する。イグニッションがONとされ、車両100が発進可能な状態となると、S51に進む。
【0080】
S51において、制御部10が、エンジン2の始動中であると判断した場合には(S51:YES)、プログラムをS52に進め、エンジン2の始動中でないと判断した場合には(S51:NO)、S51の処理を繰り返す。
【0081】
S52において、制御部10が、クラッチセンサ62からの検出信号に基づいて、運転者によるクラッチ3の係合操作が開始されたと判断した場合には(S52:YES)、プログラムをS53に進め、運転者によるクラッチ3の係合操作が開始していないと判断した場合には(S53:NO)、プログラムをS51に戻す。なお、制御部10は、完全に踏まれている状態のクラッチペダル61が、クラッチ3の係合側に復帰する方向への回動を検知した場合に、運転者によるクラッチ3の係合操作が開始したと判断する。
【0082】
S53において、制御部10は、クラッチドライバ68に制御信号を出力することにより、モータ67において発電させ又はモータ67を駆動させて、クラッチペダル61が復帰する方向と反対方向へのトルクをクラッチペダル61に付与させ、「クラッチペダル復帰力」を減少させる。これにより、クラッチ3の急係合に伴う、ショックの発生や、エンジンストールが防止される。S53が終了すると、プログラムは、S54に進む。
【0083】
S54において、制御部10が、エンジン2の始動が完了したと判断した場合には(S54:YES)、プログラムをS55に進め、エンジン2の始動が完了していないと判断した場合には(S54:NO)、プログラムをS53に戻す。
【0084】
S55において、制御部10は、上述の「クラッチペダル復元力」を減少させる制御を終了させる。S55が終了するとプログラムは、S51に進む。
【0085】
この「第二実施形態のクラッチペダル復帰力制限制御」は、アイドリングストップ機構を有し、頻繁にエンジンが始動する車両100において特に有意義である。
【0086】
(本実施形態の効果)
以上の説明から明らかなように、モータ67は、クラッチペダル61(クラッチ操作部)に回動方向のトルクを付与することにより、クラッチ操作のアシストを行う(図8のS16、図10のS53の制御)。これにより、クラッチ操作のアシストが実行される際には、クラッチペダル61にモータ67によるトルクが付与される。このため、運転者は、クラッチペダル61を介して、クラッチ操作のアシストを知覚することができる。
【0087】
また、制御部10は、エンジン回転速度Neと入力軸回転速度Niが同期したと判断した場合には(図8のS17でYESと判断)、S18において、モータ67を制御して、モータ67がクラッチペダル61に付与するトルクを可変させて、「クラッチペダル復元力」を可変させる(図7図9の(3))。これにより、運転者は、クラッチペダル61を介して、エンジン回転速度Neと入力軸回転速度Niが殆ど同期し、クラッチペダル61を完全に離すタイミングを知覚することができる。このため、運転者は、クラッチ3の同期後に、直ぐにクラッチペダル61を離すことができ、足が疲れない。
【0088】
また、制御部10は、クラッチ3の急係合を検出した場合に(図8のS15でYESと判断)、S16において、モータ67を制御して、クラッチペダル61が復帰する方向と反対の方向へのトルクをクラッチペダル61に付与し、「クラッチペダル復元」を減少させる(図9の(2))。これにより、クラッチペダル61の原位置への復帰が阻害され、クラッチトルクTcの急激な上昇が抑制される。このため、ショックの発生やエンジンストールが抑制される。
【0089】
また、制御部10は、クラッチ3の係合開始を検出した場合には(図8のS13でYESと判断)、S14において、モータ67を制御して、モータ67がクラッチペダル61に付与するトルクを可変させて、「クラッチペダル復元力」を可変させる(図7図9の(1))。これにより、運転者は、クラッチペダル61を介して、クラッチ3が係合を開始したタイミングを知覚することができる。
【0090】
また、図5に示すように、モータ67が負トルクを出力する際に、モータ67が発電した電流を蓄電する蓄電部71を有する。これにより、クラッチ3が復帰する際に復帰部の蓄えられた弾性エネルギーを電力として回収し、当該電力をモータ67の駆動等に利用することができる。このため、発電のために、余分な燃料を消費しないので、車両100の燃費が向上する。
【0091】
また、制御部10は、エンジン2が始動中である場合に(図10のS51でYESと判断)、S53において、モータ67を制御して、クラッチペダル61が復帰する方向と反対の方向へのトルクをクラッチペダル61に付与し、「クラッチペダル復元」を減少させる(図9の(2))。これにより、クラッチペダル61の原位置への復帰が阻害され、クラッチトルクTcの急激な上昇が抑制される。このため、エンジンストールが抑制される。
【0092】
(別の実施形態)
以下に、以上説明した実施形態と異なる実施形態について説明する。
以上説明した実施形態では、モータ67の回転軸67aは、ドライブギヤ66及びドリブンギヤ65を介して、シャフト64に回転連結している。しかし、モータ67の回転軸67aが直接、シャフト64に連結している実施形態であっても差し支え無い。本実施形態では、モータ67の回転軸67aは、ドライブギヤ66及びドリブンギヤ65によって、モータ67が出力するトルクが増大されてシャフト64に伝達されるので、小型なモータ67を用いることができる。或いは、モータ67が出力するトルクが、直接クラッチペダル61に付与される実施形態であっても差し支え無い。
【0093】
以上説明した実施形態では、クラッチ操作装置60は、ターンオーバースプリング69を有している。しかし、ターンオーバースプリング69を有さないクラッチ操作装置60であっても差し支え無い。この実施形態の場合には、クラッチペダル61を復帰させる方向に付勢する「復帰部」は、ダイヤフラムスプリング34のみである。
【0094】
以上説明した実施形態では、車両100の発進時について「第一実施形態のクラッチペダル復帰力制限制御」を説明している。しかし、運転者が、マニュアルトランスミッション4において変速を実行し、切断状態にあるクラッチ3を接続させる際に「第一実施形態のクラッチペダル復帰力制限制御」が実行される実施形態であっても差し支え無い。
【0095】
また、「第一実施形態のクラッチペダル復帰力制限制御」及び「第一実施形態のクラッチペダル復帰力制限制御」の両方が実行される実施形態であっても、「第一実施形態のクラッチペダル復帰力制限制御」及び「第一実施形態のクラッチペダル復帰力制限制御」の一方のみが実行される実施形態であっても差し支え無い。
【0096】
また、以上説明した実施形態では、図8のS14において、制御部10は、モータ67を制御して、「クラッチペダル復帰力」を減少させている。しかし、制御部10が、モータ67を制御して、「クラッチペダル復帰力」を増大させる実施形態であっても差し支え無い。或いは、制御部10が、モータ67を制御して、クラッチペダル61に振動を付与する実施形態であっても差し支え無い。このような実施形態であっても、運転者は、クラッチペダル61を介して、クラッチ3の係合開始を知ることができる。
【0097】
また、以上説明した実施形態では、図8のS18において、制御部10は、モータ67を制御して、「クラッチペダル復帰力」を減少させる制御を停止させる。しかし、制御部10が、モータ67を制御して、「クラッチペダル復帰力」を減少又は増大させる実施形態であっても差し支え無い。或いは、制御部10が、モータ67を制御して、クラッチペダル61に振動を付与する実施形態であっても差し支え無い。このような実施形態であっても、運転者は、クラッチペダル61を介して、クラッチ3の同期を知ることができる。
【0098】
以上説明した実施形態では、制御部10は、図8のS13において、制御部10が、クラッチセンサ62(クラッチ係合開始検出部)によって検出されたクラッチストロークClに基づいて、クラッチ3の係合が開始したか否かを判断している。しかし、制御部10が、クラッチストロークCl、エンジン回転速度Ne、入力軸回転速度Ni、及び出力軸回転速度Noの少なくとも1に基づいて、クラッチ3の係合が開始したか否かを判断する実施形態であっても差し支え無い。
【0099】
また、車両100の工場出荷時や所定期間が経過する度に、制御部10が、車両100の発進時に入力軸41の回転を検知した際のクラッチストロークClを記憶し、当該クラッチストロークClをS13の処理に利用する実施形態であっても差し支え無い。この実施形態によれば、制御部10は、クラッチ3の係合開始を正確に検知することができる。
【0100】
以上説明した実施形態では、クラッチペダル61の操作力は、マスタシリンダ63、液圧配管58及びスレーブシリンダ38を介して、レリーズベアリング37に伝達させる。しかし、クラッチペダル61の操作力が、ワイヤ、ロッド、ギヤ等の機械的要素を介して、レリーズベアリング37に伝達される実施形態であっても差し支え無い。
【0101】
以上説明した実施形態では、クラッチセンサ62は、マスタシリンダ63のストローク量を検出している。しかし、クラッチセンサ62は、クラッチペダル61の操作量やマスタシリンダ63のマスタ圧、スレーブシリンダ38のストロークや液圧、レリーズベアリング37のストローク量を検出するセンサであっても差し支え無い。
【0102】
以上説明した実施形態では、クラッチ3に運転者の操作力を伝達するクラッチ操作部材は、クラッチペダル61である。しかし、クラッチ操作部材は、クラッチペダル61に限定されず、例えば、クラッチレバーであっても差し支え無い。同様に、アクセル開度Acを調整するアクセルペダル51の代わりに、例えば、アクセル開度Acを調整するアクセルグリップであっても差し支え無い。そして、本実施形態の車両用駆動装置を、自動二輪車やその他車両に適用しても、本発明の技術的思想が適用可能なことは言うまでもない。
【0103】
以上説明した実施形態では、単一の制御部10が、エンジン2を制御するとともに、図8図10に示す「クラッチペダル復帰力制御」を実行する。しかし、エンジン制御部が、エンジン2を制御し、エンジン制御部とCAN(Controller Area Network)等の通信手段で接続された制御部10が「クラッチペダル復帰力制御」を実行する実施形態であっても差し支え無い。
【符号の説明】
【0104】
2…エンジン、3…クラッチ、4…マニュアルトランスミッション、10…制御部(モータ制御部)、23…エンジン回転速度センサ(エンジン回転速度検出部、クラッチ急係合検出部)、34…ダイヤフラムスプリング(復帰部)、41…入力軸、42…出力軸、43…入力軸回転速度センサ(入力軸回転速度検出部、クラッチ急係合検出部)、61…クラッチペダル(クラッチ操作部)、62…クラッチセンサ(クラッチ操作量検出部、クラッチ急係合検出部)、60…クラッチ操作装置、69…ターンオーバースプリング(復帰部)、71…蓄電部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10