(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6098248
(24)【登録日】2017年3月3日
(45)【発行日】2017年3月22日
(54)【発明の名称】3レベルT型NPC電力変換装置の制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/483 20070101AFI20170313BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20170313BHJP
H02M 7/12 20060101ALI20170313BHJP
【FI】
H02M7/483
H02M7/48 L
H02M7/48 E
H02M7/12 G
H02M7/12 A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-50278(P2013-50278)
(22)【出願日】2013年3月13日
(65)【公開番号】特開2014-176281(P2014-176281A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2015年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】齋木 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】大井 一伸
【審査官】
北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−257361(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/098709(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/483
H02M 7/12
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のコンデンサおよび第2のコンデンサを直列接続した1つの直流電圧源を備え、
前記直流電圧源の正極端と負極端の間に順次直列接続された正極側スイッチング素子および負極側スイッチング素子と、前記第1のコンデンサおよび第2のコンデンサの共通接続点である中性点と、前記正極側スイッチング素子および負極側スイッチング素子の共通接続点との間に順次直列接続され、互いに逆の耐圧方向に制御できる第1の中性点側スイッチング素子および第2の中性点側スイッチング素子と、によって構成された電力変換部を、単相交流分備えるか、又は三相交流分備え、
前記電力変換部の前記各スイッチング素子を、ゲート信号によってオン、オフ制御することによって前記正極側スイッチング素子および負極側スイッチング素子の共通接続点と前記中性点との間に3レベルの電圧を出力させる制御手段を備えた単相又は三相の3レベルT型NPC電力変換装置の制御装置であって、
前記制御手段は、
前記各相の電力変換部の前記各スイッチング素子のゲート信号状態を遷移させるときは、1つのスイッチング素子のみ異なるゲート信号状態への遷移を許可し、
前記各相の電力変換部の前記各スイッチング素子のスイッチングパターンとして、零電圧レベルを出力させる第1のゲート信号状態と、−Eの電圧レベルを出力させる第2のゲート信号状態と、+Eの電圧レベルを出力させる第3のゲート信号状態と、前記第1のゲート信号状態と第3のゲート信号状態の間で遷移させるときにデッドタイムを設けるための第4のゲート信号状態と、前記第1のゲート信号状態と第2のゲート信号状態の間で遷移させるときにデッドタイムを設けるための第5のゲート信号状態と、前記各スイッチング素子をすべてオフとする第6のゲート信号状態と、を有したスイッチングパターンを備え、
起動時、停止時を含む過渡運転時は、前記第3のゲート信号状態と第6のゲート信号状態の間に第4のゲート信号状態を挟み、前記第2のゲート信号状態と第6のゲート信号状態の間に第5のゲート信号状態を挟んで制御を行うことを特徴とする3レベルT型NPC電力変換装置の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、定常運転時は、前記第1のゲート信号状態と第3のゲート信号状態の間に第4のゲート信号状態を挟み、前記第1のゲート信号状態と第2のゲート信号状態の間に第5のゲート信号状態を挟んで制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の3レベルT型NPC電力変換装置の制御装置。
【請求項3】
第1のコンデンサおよび第2のコンデンサを直列接続した1つの直流電圧源を備え、
前記直流電圧源の正極端と負極端の間に順次直列接続された正極側スイッチング素子および負極側スイッチング素子と、前記第1のコンデンサおよび第2のコンデンサの共通接続点である中性点と、前記正極側スイッチング素子および負極側スイッチング素子の共通接続点との間に順次直列接続され、互いに逆の耐圧方向に制御できる第1の中性点側スイッチング素子および第2の中性点側スイッチング素子と、によって構成された電力変換部を、単相交流分備えるか、又は三相交流分備え、
前記電力変換部の前記各スイッチング素子を、ゲート信号によってオン、オフ制御することによって前記正極側スイッチング素子および負極側スイッチング素子の共通接続点と前記中性点との間に3レベルの電圧を出力させる制御手段を備えた単相又は三相の3レベルT型NPC電力変換装置の制御方法であって、
前記制御手段は、
前記各相の電力変換部の前記各スイッチング素子のゲート信号状態を遷移させるときは、1つのスイッチング素子のみ異なるゲート信号状態への遷移を許可し、
前記各相の電力変換部の前記各スイッチング素子のスイッチングパターンとして、零電圧レベルを出力させる第1のゲート信号状態と、−Eの電圧レベルを出力させる第2のゲート信号状態と、+Eの電圧レベルを出力させる第3のゲート信号状態と、前記第1のゲート信号状態と第3のゲート信号状態の間で遷移させるときにデッドタイムを設けるための第4のゲート信号状態と、前記第1のゲート信号状態と第2のゲート信号状態の間で遷移させるときにデッドタイムを設けるための第5のゲート信号状態と、前記各スイッチング素子をすべてオフとする第6のゲート信号状態と、を有したスイッチングパターンを備え、
起動時、停止時を含む過渡運転時は、前記第3のゲート信号状態と第6のゲート信号状態の間に第4のゲート信号状態を挟み、前記第2のゲート信号状態と第6のゲート信号状態の間に第5のゲート信号状態を挟んで制御を行うことを特徴とする3レベルT型NPC電力変換装置の制御方法。
【請求項4】
前記制御手段は、定常運転時は、前記第1のゲート信号状態と第3のゲート信号状態の間に第4のゲート信号状態を挟み、前記第1のゲート信号状態と第2のゲート信号状態の間に第5のゲート信号状態を挟んで制御を行うことを特徴とする請求項3に記載の3レベルT型NPC電力変換装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3レベルT型NPC(Neutral Point Clamped)電力変換装置のゲート信号制御に関する。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置には、(1)直流電圧を交流電圧に変換するインバータ、(2)交流電圧を直流電圧に変換するコンバータなどがある。
図5、
図6に、直流電圧を3レベルの交流相電圧に変換する3レベルT型NPCインバータの代表回路構成を、
図7、
図8に、交流電圧を直流電圧に変換する3レベルT型NPCコンバータの代表回路構成を各々示す。
【0003】
図5〜
図8において、C1,C2は直流電圧源として直列接続されたコンデンサ(直流電圧平滑用コンデンサ)である。コンデンサC1の一端を正極端V
DCPとし、コンデンサC2の一端を負極端V
DCNとし、コンデンサC1、C2の他端どうしの共通接続点を中性点Nとしている。
【0004】
前記正極端V
DCPと負極端V
DCNの間には、正極側スイッチング素子S
1Uおよび負極側スイッチング素子S
4Uが順次直列に接続されている。
【0005】
前記中性点Nと前記スイッチング素子S
1UおよびS
4Uの共通接続点との間には、第1の中性点側スイッチング素子S
2Uおよび第2の中性点側スイッチング素子S
3Uが、互いに逆の耐圧方向に制御できる方向に直列接続されている。
【0006】
前記スイッチング素子S
1U〜S
4Uによって1つの電力変換部(100)が構成され、直流電圧源である前記コンデンサC1,C2の直列回路に対して、
図5、
図7では三相分の電力変換部100U,100V,100Wが、
図6、
図8では単相分の電力変換部100U,100Vが各々設けられている。
【0007】
したがって、U相の電力変換部100Uはスイッチング素子S
1U〜S
4Uにより構成され、前記スイッチング素子S
1UおよびS
4Uの共通接続点がU相端子V
ACUに接続され、V相の電力変換部100Vはスイッチング素子S
1V〜S
4Vにより構成され、前記スイッチング素子S
1VおよびS
4Vの共通接続点がV相端子V
ACVに接続され、W相の電力変換部100Wはスイッチング素子S
1W〜S
4wにより構成され、前記スイッチング素子S
1WおよびS
4Wの共通接続点がW相端子V
ACWに接続されている。
【0008】
また
図5、
図6の3レベルT型NPCインバータでは、前記正極端V
DCPおよび負極端V
DCNの間に電圧2Eの直流電源(図示省略)が接続され、各相端子V
ACU,V
ACV,V
ACW間又はV
ACU,V
ACV間にモータなどの交流負荷(図示省略)が接続される。
【0009】
図7の3相3レベルT型NPCコンバータでは、三相交流電源200aがリアクトルLFとコンデンサCFから成るフィルタ回路300aを介して各相端子V
ACU,V
ACV,V
ACWに接続され、正極端V
DCPおよび負極端V
DCNの間には直流負荷400が接続されている。
【0010】
図8の単相3レベルT型NPCコンバータでは、単相交流電源200bがリアクトルLFとコンデンサCFから成るフィルタ回路300bを介して各相端子V
ACU,V
ACVに接続され、正極端V
DCPおよび負極端V
DCNの間には直流負荷400が接続されている。
【0011】
図5〜
図8の前記各スイッチング素子S
1U〜S
4U,S
1v〜S
4v,S
1w〜S
4wを図示省略の制御部によってオン、オフ制御することにより、中性点Nと各相端子V
ACU,V
ACV,V
ACWの間に3レベルの電圧が出力されるものである。
【0012】
図5〜
図8において、V
DCP,V
DCNは正極端V
DCP、負極端V
DCNの端子電圧、V
ACU,V
ACV,V
ACWは各相端子および交流相電圧を表している。前記各スイッチング素子S
1U〜S
4U,S
1v〜S
4v,S
1w〜S
4wは、ゲート信号によってオン、オフ可能なIGBTなどの自己消弧形半導体素子および逆並列接続ダイオードによって構成されるスイッチングデバイスである。
【0013】
尚、従来の3レベルインバータの制御方式として、例えば特許文献1、2に記載のものが提案されていた。
【0014】
ここで、以下の説明では、前記各スイッチング素子S
1U,S
1V,S
1Wをスイッチング素子S
1*、スイッチング素子S
2U,S
2V,S
2Wをスイッチング素子S
2*、スイッチング素子S
3U,S
3V,S
3Wをスイッチング素子S
3*、スイッチング素子S
4U,S
4V,S
4Wをスイッチング素子S
4*と表記し、各相端子および交流相電圧V
ACU,V
ACV,V
ACWをV
AC*と表記し、交流相電流I
ACU,I
ACV,I
ACWをI
AC*と表記し、前記各*に、相を表すU,V,Wが代入されるものとする。
【0015】
一般的な2レベル電力変換装置と同様に3レベルT型NPC電力変換装置においても、スイッチング素子のオンもしくはオフの状態の遷移時に、直流電圧源の短絡防止のためゲート信号にデッドタイム期間を設ける必要がある。従来の2レベル電力変換装置では、デッドタイム期間の生成をキャリア比較後のゲート信号の立ち上がり時の遅延処理により行っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第3084645号公報
【特許文献2】特開2009−27818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
図5〜
図8に示す3レベルT型NPC電力変換装置に、前記デッドタイム期間を生成する処理を拡張する場合、指令値、キャリアと各スイッチング素子のゲート信号の関係を示す
図9のように、スイッチング素子S
1*とS
3*、S
2*とS
4*を排他的にオンさせることで、直流電圧源に相当するコンデンサC1およびC2の上下短絡を防止できる。
【0018】
したがって、スイッチング素子S
1*とS
3*(あるいはS
2*とS
4*)を同時にオフさせる期間を設けることで、デッドタイム期間を生成する。
図9の(2)がデッドタイム期間に相当する。
【0019】
このデッドタイム期間の生成方式では、
図9に示すような指令値の急変によりゲート信号が変化した場合に交流相電圧V
AC*(端子V
AC*〜中性点N間の電圧)の変動が発生する。その動作について以下に説明する。
【0020】
図9中の上側キャリアでは、指令値がキャリア以上の場合はS
1*がオンでS
3*がオフするように制御し、指令値がキャリア未満の場合はS
1*がオフでS
3*がオンするように制御する。同様に、下側キャリアでは、指令値がキャリア以上の場合はS
2*がオンでS
4*がオフするように制御し、指令値がキャリア未満の場合はS
2*がオフでS
4*がオンするように制御する。
【0021】
図9に示すように、指令値が上側キャリア以上の状態から下側キャリア未満に急変した場合、S
1*とS
2*がオンの状態である(1)から、デッドタイム期間としての全てのゲート信号がオフの状態である(2)を介して、S
3*とS
4*がオンの状態である(3)へと遷移する。(2)の期間は、ゲート信号の立ち上がりに対して遅延を挿入することで発生している期間である。
【0022】
ゲート信号制御による電流経路の変化を示す
図10では、
図9の(1)、(2)、(3)における電流の向きによる交流相電圧V
AC*を表し、1つの相の電力変換部のスイッチング素子について示している。図中の点線矢印は電流を示しており、中性点Nから各相端子V
AC*へ流れる向きを+、各相端子V
AC*から中性点Nへ流れる向きを−とする。
(1)の状態では、電流の向きによらず交流相端子V
AC*はEを出力する。
(2)の状態では、電流の向きが+の場合は−Eを、電流の向きが−の場合は+Eを出力する。
(3)の状態では、電流の向きによらず交流相端子V
AC*は−Eを出力する。
【0023】
電流の向きが+場合では(1)から(2)へ切り替わる際に交流相電圧V
AC*がEから−Eへ変化する。
【0024】
このように、従来のゲート出力の遅延処理によるデッドタイム作成方式では、指令値の急変時に交流相電圧V
AC*の変動が直流電圧2E分変化することがある。
【0025】
電力変換装置がインバータの場合、交流相電圧V
AC*の変動分が大きいほど、モータなどの交流負荷に印加される電圧サージが高くなる。この電圧サージによって、負荷の絶縁寿命を短縮させるという問題点があった。
【0026】
電力変換装置がコンバータの場合、交流相電圧V
AC*の変動分が大きいほど、電源とコンバータ間に挿入されているフィルタ回路のリアクトルLFとコンデンサCFに印加される電圧サージが高くなる。この電圧サージによって、フィルタ回路の絶縁寿命を短縮させるという問題点があった。
【0027】
本発明は上記課題を解決するものであり、その目的は、起動、停止時などの過渡運転時や定常運転時に、交流相電圧の変動を抑制することができる3レベルT型NPC電力変換装置の制御装置および制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上記課題を解決するための請求項1に記載の3レベルT型NPC電力変換装置の制御装置は、1のコンデンサおよび第2のコンデンサを直列接続した1つの直流電圧源を備え、前記直流電圧源の正極端と負極端の間に順次直列接続された正極側スイッチング素子および負極側スイッチング素子と、前記第1のコンデンサおよび第2のコンデンサの共通接続点である中性点と、前記正極側スイッチング素子および負極側スイッチング素子の共通接続点との間に順次直列接続され、互いに逆の耐圧方向に制御できる第1の中性点側スイッチング素子および第2の中性点側スイッチング素子と、によって構成された電力変換部を、単相交流分備えるか、又は三相交流分備え、前記電力変換部の前記各スイッチング素子を、ゲート信号によってオン、オフ制御することによって前記正極側スイッチング素子および負極側スイッチング素子の共通接続点と前記中性点との間に3レベルの電圧を出力させる制御手段を備えた単相又は三相の3レベルT型NPC電力変換装置の制御装置であって、
前記制御手段は、
前記各相の電力変換部の前記各スイッチング素子のゲート信号状態を遷移させるときは、1つのスイッチング素子のみ異なるゲート信号状態への遷移を
許可し、
前記各相の電力変換部の前記各スイッチング素子のスイッチングパターンとして、零電圧レベルを出力させる第1のゲート信号状態と、−Eの電圧レベルを出力させる第2のゲート信号状態と、+Eの電圧レベルを出力させる第3のゲート信号状態と、前記第1のゲート信号状態と第3のゲート信号状態の間で遷移させるときにデッドタイムを設けるための第4のゲート信号状態と、前記第1のゲート信号状態と第2のゲート信号状態の間で遷移させるときにデッドタイムを設けるための第5のゲート信号状態と、前記各スイッチング素子をすべてオフとする第6のゲート信号状態と、を有したスイッチングパターンを備え、
起動時、停止時を含む過渡運転時は、前記第3のゲート信号状態と第6のゲート信号状態の間に第4のゲート信号状態を挟み、前記第2のゲート信号状態と第6のゲート信号状態の間に第5のゲート信号状態を挟んで制御を行うことを特徴としている。
【0029】
また、
請求項3に記載の3レベルT型NPC電力変換装置の制御方法は、第1のコンデンサおよび第2のコンデンサを直列接続した1つの直流電圧源を備え、前記直流電圧源の正極端と負極端の間に順次直列接続された正極側スイッチング素子および負極側スイッチング素子と、前記第1のコンデンサおよび第2のコンデンサの共通接続点である中性点と、前記正極側スイッチング素子および負極側スイッチング素子の共通接続点との間に順次直列接続され、互いに逆の耐圧方向に制御できる第1の中性点側スイッチング素子および第2の中性点側スイッチング素子と、によって構成された電力変換部を、単相交流分備えるか、又は三相交流分備え、前記電力変換部の前記各スイッチング素子を、ゲート信号によってオン、オフ制御することによって前記正極側スイッチング素子および負極側スイッチング素子の共通接続点と前記中性点との間に3レベルの電圧を出力させる制御手段を備えた単相又は三相の3レベルT型NPC電力変換装置の制御方法であって、
前記制御手段は、
前記各相の電力変換部の前記各スイッチング素子のゲート信号状態を遷移させるときは、1つのスイッチング素子のみ異なるゲート信号状態への遷移を
許可し、
前記各相の電力変換部の前記各スイッチング素子のスイッチングパターンとして、零電圧レベルを出力させる第1のゲート信号状態と、−Eの電圧レベルを出力させる第2のゲート信号状態と、+Eの電圧レベルを出力させる第3のゲート信号状態と、前記第1のゲート信号状態と第3のゲート信号状態の間で遷移させるときにデッドタイムを設けるための第4のゲート信号状態と、前記第1のゲート信号状態と第2のゲート信号状態の間で遷移させるときにデッドタイムを設けるための第5のゲート信号状態と、前記各スイッチング素子をすべてオフとする第6のゲート信号状態と、を有したスイッチングパターンを備え、
起動時、停止時を含む過渡運転時は、前記第3のゲート信号状態と第6のゲート信号状態の間に第4のゲート信号状態を挟み、前記第2のゲート信号状態と第6のゲート信号状態の間に第5のゲート信号状態を挟んで制御を行うことを特徴としている。
【0030】
上記構成によれば、ゲート信号状態遷移時は、1つのスイッチング素子のみ異なるゲート信号状態へ遷移するので、交流相電圧の変動を抑制することができる。
また、起動、停止時などの過渡運転時に交流相電圧が急変することが抑制される。
【0031】
また、請求項2に記載の3レベルT型NPC電力変換装置の制御装置は、請求項1において、前記制御手段
は、定常運転時は、前記第1のゲート信号状態と第3のゲート信号状態の間に第4のゲート信号状態を挟み、前記第1のゲート信号状態と第2のゲート信号状態の間に第5のゲート信号状態を挟んで制御を行うことを特徴としている。
【0032】
また、
請求項4に記載の3レベルT型NPC電力変換装置の制御方法は、
請求項3において、前記制御手段
は、定常運転時は、前記第1のゲート信号状態と第3のゲート信号状態の間に第4のゲート信号状態を挟み、前記第1のゲート信号状態と第2のゲート信号状態の間に第5のゲート信号状態を挟んで制御を行うことを特徴としている。
【0033】
上記構成によれば、定常運転時に交流相電圧が急変することが抑制される。
【発明の効果】
【0037】
(1)請求項
1〜4に記載の発明によれば、交流相電圧の変動を抑制することができる。これによって、電力変換装置がインバータの場合、モータなどの負荷に印加される電圧サージが抑制されて、負荷の絶縁寿命が延長される。また、電力変換装置がコンバータの場合、入力電源とコンバータ間に接続されるフィルタ回路(リアクトル、コンデンサ)に印加される電圧サージが抑制されて、フィルタ回路の絶縁寿命が延長される。
また、起動、停止時などの過渡運転時に交流相電圧が急変することが抑制される。
(2)請求項
2、4に記載の発明によれば、定常運転時に交流相電圧が急変することが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の実施形態におけるゲート制御による電流経路の変化を示す説明図。
【
図2】本発明の実施形態におけるゲート信号の状態遷移図。
【
図3】本発明の実施形態による遷移制限を適用しない場合の動作を示す説明図。
【
図4】本発明の実施形態による遷移制限を適用する場合の動作を示す説明図。
【
図5】本発明が適用される3相3レベルT型NPCインバータの代表回路図。
【
図6】本発明が適用される単相3レベルT型NPCインバータの代表回路図。
【
図7】本発明が適用される3相3レベルT型NPCコンバータの代表回路図。
【
図8】本発明が適用される単相3レベルT型NPCコンバータの代表回路図。
【
図9】従来方式による3レベルT型NPC電力変換装置のデッドタイム生成のようすを示す説明図。
【
図10】従来方式におけるゲート制御による電流経路の変化を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。本発明では、3レベルの相電圧を生成可能な3レベルT型NPC電力変換装置において、起動、停止時などの過渡運転時や定常運転時にゲート信号のデッドタイム・最小オン時間の生成を行い、交流相電圧の急変を抑制する制御方式を構築した。
【0040】
以下の実施形態例では、本発明を
図5〜
図8の3レベルT型NPC電力変換装置に適用した例を示す。
図5〜
図8に示す3レベルT型NPC電力変換装置は、各スイッチング素子の状態により交流相電圧V
AC*がE,0,−Eの3状態をとる。この3つの状態を遷移することで交流の交流相電圧を得る。また、遷移の際に通過する状態がデッドタイム状態である。本実施形態例において、デッドタイム状態では、遷移前と遷移後の両方の状態においてオンしている共通の1個のスイッチング素子のみがオンしている。
【0041】
表1に、状態Nにおける交流相電圧V
AC*および各スイッチング素子のオンオフ状態(本発明の制御手段としての制御部が制御するスイッチングパターン)を示す。
【0043】
表1において、スイッチ状態の「1」がオン、「0」がオフである。N=01、12の2つの状態がデッドタイム状態にあたり、N=0、1を遷移する際に通過するのがN=01であり、N=1、2を遷移する際に通過するのがN=12である。また表1中の交流相電圧V
AC*は電流が+の場合と−の場合を各々示している。
【0044】
したがって、状態N=1は零電圧レベルを出力させる第1のゲート信号状態、状態N=2は−Eの電圧レベルを出力させる第2のゲート信号状態、状態N=0は+Eの電圧レベルを出力させる第3のゲート信号状態を各々示している。
【0045】
また、状態N=01は前記第1のゲート信号状態と第3のゲート信号状態の間で遷移させるときにデッドタイムを設けるための第4のゲート信号状態を示し、状態N=12は前記第1のゲート信号状態と第2のゲート信号状態の間で遷移させるときにデッドタイムを設けるための第5のゲート信号状態を示し、状態N=GBは各スイッチング素子S
1*、S
2*、S
3*、S
4*をすべてオフとする第6のゲート信号状態を示している。
【0046】
尚、状態N=GBはゲートブロックを意味し、後述する起動、停止時において、交流相電圧V
AC*の急変を抑制するため状態遷移制限を行うために挿入されるゲート信号状態を示している。
【0047】
上記のように状態N=01、12のデッドタイム状態を通過することで、状態遷移毎の交流相電圧の変動を直流電源の電圧2Eの1/2であるEに抑制することができる。
【0048】
表1の状態遷移に基づいて、
図9のように指令値が急変した場合の回路の動作を
図1に示す。尚、以下の
図1、
図3、
図4では、3レベルT型NPC電力変換装置の第1および第2のコンデンサと、1つの相の正極側スイッチング素子S
1*、負極側スイッチング素子S
4*、第1および第2の中性点側スイッチング素子S
2*、素子S
3*のみを図示する。
【0049】
図1において、状態Nは、N=0からN=01、N=1、N=12を介してN=2へ遷移する。N=0からN=01に遷移する際は、電流の向きが+の場合に交流相電圧V
AC*がEから0に変化する。N=01からN=1に遷移する際は、電流の向きが−の場合に交流相電圧V
AC*がEから0に変化する。N=1からN=12に遷移する際は、電流の向きが+の場合に交流相電圧V
AC*が0から−Eに変化する。N=12からN=2に遷移する際は、電流の向きが−の場合に交流相電圧V
AC*が0から−Eに変化する。
【0050】
このように、N=0、1、2状態の遷移にN=01、12であるデッドタイム状態を介することで、遷移毎の交流相電圧V
AC*の変動はEとなり、従来方式による交流相電圧V
AC*の変動(2E)の半分となる。これにより、交流相電圧V
AC*の急変を抑制した3レベルT型NPC電力変換装置のデッドタイム処理が実現できる。
【0051】
この処理を装置の起動や停止時に拡張するため、スイッチングパターンとして、表1に全てのスイッチング素子がオフ状態であるN=GBの状態を設けている。各状態間の遷移において、ゲート信号の変化はスイッチング素子1個のみで行うと定義すると、
図2に示すように状態間の遷移を制限する。
図2のようにゲート信号の状態を変化させることで、起動、停止時においても交流相電圧V
AC*の急変を抑制する。
【0052】
ここで、
図2の状態遷移制限を適用せずに装置を停止する場合の動作を
図3により説明する。
図3では、N=0から全てのスイッチング素子のゲート信号がオフとなるN=GBに遷移する場合を例としている。
【0053】
N=0の状態では、電流の向きによらずV
AC*=Eになる。N=GBの状態では、電流の向きが+の場合V
AC*=−Eに、電流の向きが−の場合V
AC*=Eになる。N=0からN=GBに直接遷移した場合、電流の向きが−の場合は、スイッチング素子S
1*の逆並列接続ダイオードを電流が通過しているために状態が遷移しても交流相電圧V
AC*はEを保持する。
【0054】
しかし、電流の向きが+の場合は、状態の遷移によりスイッチング素子S
1*のIGBTに流れていた電流が遮断され、その電流がスイッチング素子S
4*の逆並列接続ダイオードを通過するため、V
AC*=−Eとなる。したがって、装置停止時の交流相電圧V
AC*の変動が2Eとなる。
【0055】
一方、本発明の
図2の状態遷移制限を適用して装置を停止する場合の動作を
図4により説明する。
図4に示すようにN=0からN=GBへ遷移する際にN=01を経由するので、電流の向きが+の場合では状態の遷移によりスイッチング素子S
1*のIGBTに流れていた電流が遮断され、その電流が一旦スイッチング素子S
2*のIGBTとスイッチング素子S
3*の逆並列接続ダイオードを流れ、次の状態遷移時にスイッチング素子S
4*の逆並列接続ダイオードを流れるようになる。これにより、状態遷移毎の交流相電圧V
AC*の変動はEとなる。
【0056】
このように、遷移制限を適用しない場合と比較して電圧の変動を半分にすることができる。この動作はN=GBからの装置の起動時でも有効であり、誘導性の負荷で残留電流が残っている場合の起動時に、交流相電圧V
AC*の変化をEに制限できる。これは、特に3レベルインバータにモータなどの負荷が直接接続された際に有効であり、負荷に印加される電圧の変動を抑制する効果がある。
【0057】
このように
図2に示すゲート信号の状態遷移制限は、N=0(第3のゲート信号状態)とN=GB(第6のゲート信号状態)の間にN=01(第4のゲート信号状態)を挟み、N=2(第2のゲート信号状態)とN=GB(第6のゲート信号状態)の間にN=12(第5のゲート信号状態)を挟んでゲート信号状態を遷移させるものである。
【0058】
この制御方式は、交流相電圧V
AC*の変動を抑制しつつ、定常運転時のデッドタイム処理と起動、停止時のゲートブロック処理を共通にできる特徴を持つ。
【符号の説明】
【0059】
100U,100V,100W…電力変換部
200a…三相交流電源
200b…単相交流電源
300a,300b…フィルタ回路
400…直流負荷
C1,C2…コンデンサ
S
1U〜S
4U,S
1v〜S
4v,S
1w〜S
4w…スイッチング素子